24件 不当と認める国庫補助金 428,233,000円
国民健康保険(前掲「国民健康保険の療養給付費負担金が過大に交付されていたもの」参照)については各種の国庫助成が行われており、その一つとして、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)に基づき、都道府県が当該都道府県内の市町村(特別区、一部事務組合及び広域連合を含む。以下同じ。)とともに行う国民健康保険について財政調整交付金が交付されている(注1)。
(注1) 国は、平成29年度まで、国民健康保険の保険者である市町村に対して財政調整交付金を交付していたが、国民健康保険法が改正され、30年4月以降、都道府県は、当該都道府県内の市町村とともに保険者として国民健康保険を行うこととされ、国は、30年度以降、国民健康保険の財政運営の責任主体となった都道府県に対して財政調整交付金を交付している。
財政調整交付金は、都道府県及び当該都道府県内の市町村の財政の状況その他の事情に応じた財政の調整を行うため(平成29年度以前は、市町村間で医療費の水準や住民の所得水準の差異により生じている国民健康保険の財政力の不均衡を調整するため)に交付されるもので、普通調整交付金、特別調整交付金等(29年度以前は普通調整交付金と特別調整交付金)がある。
普通調整交付金は、被保険者の所得等から一定の基準により算定される収入額(以下「調整対象収入額」という。)が、医療費等から一定の基準により算定される支出額(以下「調整対象需要額」という。)に満たない都道府県(29年度以前は市町村)に対して、衡平にその満たない額を埋めることを目途として交付されるもので、医療費等に係るもの(以下「医療分」という。)、後期高齢者支援金(注2)等に係るもの(以下「後期分」という。)及び介護納付金(注3)に係るもの(以下「介護分」という。)の合計額が交付されている。普通調整交付金の額は、「国民健康保険の調整交付金等の交付額の算定に関する省令」(昭和38年厚生省令第10号。平成30年3月31日以前は「国民健康保険の調整交付金の交付額の算定に関する省令」。以下「算定省令」という。)等に基づき、医療分、後期分及び介護分のいずれも、それぞれ当該都道府県(29年度以前は当該市町村)の調整対象需要額から調整対象収入額を控除した額に基づいて算定することとなっている。
そして、市町村が普通調整交付金の額の算定の基礎となる資料を作成して都道府県に提出し、都道府県はこれに基づいて調整対象需要額及び調整対象収入額を算定するなどしている(29年度以前は、市町村が調整対象需要額及び調整対象収入額を算定していた。)。また、都道府県に対して交付されている普通調整交付金は、他の公費等と合わせた上で、当該都道府県内の市町村による療養の給付等に要する費用に充てるための財源として、当該市町村に対して交付されている。
特別調整交付金は、都道府県及び当該都道府県内の市町村(29年度以前は市町村)について特別の事情がある場合に、その事情を考慮して都道府県(29年度以前は当該市町村)に対して交付されるもので、結核・精神病特別交付金(注4)、被扶養者減免特別交付金(注5)、非自発的失業軽減特別交付金(注6)、非自発的失業財政負担増特別交付金(注7)、原子爆弾被爆者特別交付金(注8)、離職者減免特別交付金(注9)、未就学児被保険者財政負担増特別交付金(注10)、財政負担増影響額等特別交付金(注11)等がある。特別調整交付金の額は、算定省令等に基づき、特別調整交付金ごとに算定することとなっている。
そして、市町村が当該市町村における特別調整交付金の額を算定し、これを特別調整交付金の額の算定の基礎となる資料として都道府県に提出し、都道府県はこれに基づくなどして特別調整交付金の額を算定している(29年度以前は、市町村が特別調整交付金の額を算定していた。)。また、都道府県に対して交付されている特別調整交付金は、国から都道府県に補助する都道府県分と都道府県を通じて市町村に補助する市町村分とに区分されており、都道府県は、市町村分として交付された額と同額を当該市町村に対して交付している。
財政調整交付金の交付手続については、①交付を受けようとする都道府県(29年度以前は市町村)は、厚生労働省(29年度以前は都道府県)に交付申請書及び事業実績報告書を提出し、②これを受理した厚生労働省(29年度以前は都道府県)は、その内容を添付書類により、また、必要に応じて現地調査を行うことにより審査した上で、③これに基づき、厚生労働省において交付決定及び交付額の確定を行うこととなっている。
本院は、30、令和元両年度に交付された財政調整交付金について、9都府県(注12)及び5府県の38市町村(注13)において会計実地検査を行うとともに、13道府県(注14)並びに17都道府県の213市区町村及び1広域連合(注15)から事業実績報告書等の関係資料の提出を受けるなどして検査した。また、平成26年度から29年度までの間に交付された財政調整交付金について、15都道府県の57市区町村において会計実地検査を行うとともに、17都道府県の213市区町村及び1広域連合から事業実績報告書等の関係資料の提出を受けるなどして検査した。その結果、14都道府県の23市区町(注16)において、普通調整交付金の調整対象需要額を過大に算定したり、特別調整交付金のうち結核・精神病特別交付金等を過大に算定したりするなどしていたため、財政調整交付金の交付額計11,095,689,000円のうち計428,233,000円が過大に交付されていて、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められる。
ア 30年度の財政調整交付金の交付額の算定等に当たり、2市において制度の理解が十分でなかったり、確認が十分でなかったりしていたこと、2県において確認が十分でなかったこと、厚生労働省において事業実績報告書の審査が十分でなかったこと
イ 26年度から29年度までの間の財政調整交付金の交付額の算定に当たり、22市区町において制度の理解が十分でなかったり、確認が十分でなかったりしていたこと、13都道府県において事業実績報告書の審査が十分でなかったこと
前記の事態について、態様別に示すと次のとおりである。
普通調整交付金の調整対象需要額は、本来保険料で賄うべきとされている額であり、そのうち介護分の調整対象需要額は、介護納付金賦課被保険者に係る介護納付金から介護納付金負担金等(注17)の国庫補助金等を控除した額となっている。
また、医療分の調整対象需要額は、一般被保険者に係る医療給付費、前期高齢者納付金(注18)等の合計額から療養給付費負担金等の国庫補助金等を控除した額となっており、このうち、一般被保険者に係る医療給付費は、療養の給付に要する費用の額から当該給付に係る被保険者の一部負担金に相当する額を控除した額と、入院時食事療養費、高額療養費等の支給に要する費用の額との合計額とすることとなっている。
4府県の7市町は、普通調整交付金の実績報告に当たり、介護納付金賦課被保険者に係る介護納付金、一般被保険者に係る医療給付費等を過大に算定したり、国庫補助金等を過小に算定したりしており、調整対象需要額を過大に算定していた。このため、交付金計153,059,000円が過大に交付されていた。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例1>
新潟県南魚沼市は、平成29年度の普通調整交付金の実績報告に当たり、基礎資料からの転記を誤っていたため、介護納付金賦課被保険者に係る介護納付金を過大に算定しており、介護分の調整対象需要額を過大に算定していた。
その結果、適正な介護納付金賦課被保険者に係る介護納付金により算定した調整対象需要額に基づいて普通調整交付金の額を算定すると、48,411,000円が過大に交付されていた。
特別調整交付金のうち、結核・精神病特別交付金は、市町村における一般被保険者の医療給付費等から療養給付費負担金相当額等を控除した額のうち結核性疾病及び精神病に係る額(以下「結核・精神病に係る実質保険者負担額」という。)の占める割合(以下「結核・精神病負担額割合」という。)が100分の14(29年度以前は100分の15)を超える場合に交付するものである。このうち、結核・精神病に係る実質保険者負担額は、傷病が結核性疾病又は精神病のみである場合の医療給付費及び結核性疾病又は精神病が主要疾病であると判定された場合の医療給付費から、年間平均一般被保険者数のうち結核性疾病又は精神病に係る一般被保険者数の割合により算出した額を控除するなどして算定することとなっている。
そして、29年度以前の結核・精神病特別交付金の額は、一般被保険者の医療給付費等から療養給付費負担金相当額等を控除した額に、結核・精神病負担額割合から100分の15を差し引いて得た割合を乗じ、これにより得た額の10分の8以内の額とすることとなっている。
30年度以降の結核・精神病特別交付金の額は、結核・精神病負担額割合に応じて次の①又は②により算定した額とすることとなっている。
3県の3市町は、結核・精神病特別交付金の実績報告等に当たり、結核・精神病に係る実質保険者負担額を過大に算定していた。このため、交付金計133,172,000円が過大に交付されていた。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例2>
長崎県諫早市は、平成26、27両年度の結核・精神病特別交付金の実績報告に当たり、結核性疾病又は精神病が主要疾病ではない場合の医療給付費を含めて集計したため、結核・精神病に係る実質保険者負担額を過大に算定していた。
その結果、適正な結核性疾病及び精神病に係る医療給付費に基づいて結核・精神病特別交付金の額を算定すると、計129,571,000円が過大に交付されていた。
上記のほか、10都道府県の17市区町は、特別調整交付金の実績報告等に当たり、対象となる保険料の減免額や保険料調定総額を誤るなどしていた。このため、特別調整交付金のうち、被扶養者減免特別交付金51,527,000円、非自発的失業軽減特別交付金1,400,000円、非自発的失業財政負担増特別交付金23,388,000円、原子爆弾被爆者特別交付金7,815,000円、離職者減免特別交付金13,453,000円、未就学児被保険者財政負担増特別交付金2,629,000円、財政負担増影響額等特別交付金1,790,000円、計142,002,000円が過大に算定されていた。
なお、前記23市区町のうち6市町については事態の態様が重複している。
以上を部局等別・事業主体別に示すと、次のとおりである。
部局名
|
補助事業者
|
間接補助事業者
|
交付金の種類
|
年度
|
交付金交付額 |
左のうち不当と認める額 |
摘要
|
|
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
千円 | 千円 | |||||||
(43) |
厚生労働本省
|
茨城県
|
守谷市
(事業主体)
|
特別調整交付金(被扶養者減免特別交付金)
|
30 | 5,166 | 2,622 | 被用者保険の被保険者の被扶養者であった者に係る保険料の減免額を過大に算定していたもの |
(44) | 同 |
石川県
|
小松市
(事業主体)
|
特別調整交付金(結核・精神病特別交付金等)
|
30 | 88,781 | 3,859 | 結核性疾病及び精神病にかかる医療給付費を過大に算定していたものなど |
(45) |
北海道
|
恵庭市
(事業主体)
|
―
|
特別調整交付金(離婚者減免特別交付金等)
|
26~29 | 13,453 | 13,453 | 離職を原因とする保険料減免世帯に係る一般被保険者数等を過大に算定していたもの |
(46) | 同 |
河東郡上士幌町
(事業主体)
|
―
|
特別調整交付金(非自発的失業財政負担増特別交付金等)
|
26~29 | 3,637 | 2,854 | 非自発的失業による保険料軽減世帯に係る一般被保険者数を過大に算定していたものなど |
(47) |
茨城県
|
守谷市
(事業主体)
|
―
|
特別調整交付金(被扶養者減免特別交付金)
|
27~29 | 13,710 | 7,893 | 被用者保険の被保険者の被扶養者であった者に係る保険料の減免額を過大に算定していたもの |
(48) |
東京都
|
中野区
(事業主体)
|
―
|
同 | 28、29 | 31,907 | 11,747 | 同 |
(49) | 同 |
杉並区
(事業主体)
|
―
|
同 | 28、29 | 31,907 | 11,747 | 同 |
(50) |
新潟県
|
南魚沼市
(事業主体)
|
―
|
普通調整交付金
|
29 | 309,039 | 48,4111 | 調整対象需要額を過大に算定していたもの |
(51) |
富山県
|
高岡市
(事業主体)
|
―
|
同 | 28、29 | 1,424,554 | 28,604 | 同 |
(52) | 同 |
砺波市
(事業主体)
|
―
|
同 | 29 | 119,328 | 19,337 | 同 |
(53) |
愛知県
|
春日井市
(事業主体)
|
―
|
特別調整交付金(被扶養者減免特別交付金)
|
26~19 | 61,502 | 9,480 | 被用者保険の被保険者の被扶養者であった者に係る保険料の減免額を過大に算定していたもの |
(54) | 同 |
東海市
(事業主体)
|
―
|
特別調整交付金(非自発的失業財政負担増特別交付金等)
|
28、29 | 6,697 | 3,940 | 非自発的失業による保険料軽減世帯に係る一般被保険者数を過大に算定していたものなど |
(55) |
京都府
|
綴喜郡宇治田原町
(事業主体)
|
―
|
特別調整交付金(未就学児被保険者財政負担増特別交付金)
|
28 | 53,490 | 2,629 | 一般被保険者の未就学児の数を過大に算定していたもの |
(56) |
大阪府
|
吹田市
(事業主体)
|
―
|
普通調整交付金
|
27~29 | 4,418,868 | 3,949 | 調整対象需要額を過大に算定していたもの |
(57) |
兵庫府
|
尼崎市
(事業主体)
|
―
|
特別調整交付金(非自発的失業軽減特別交付金)
|
29 | 27,934 | 27,934 | 非自発的失業による保険料軽減世帯に係る保険料調定総額を過小に算定していたもの |
(58) |
奈良府
|
橿原市
(事業主体)
|
―
|
特別調整交付金(被扶養者減免特別交付金)
|
27~29 | 15,883 | 3,672 | 被用者保険の被保険者の被扶養者であった者に係る保険料の減免額を過大に算定していたもの |
(59) |
広島県
|
尾道市
(事業主体)
|
―
|
普通調整交付金
|
28 | 898,119 | 6,966 | 調整対象需要額を過大に算定していたもの |
(60) | 同 |
安芸郡府中町
(事業主体)
|
―
|
普通調整交付金、特別調整交付金(原子爆弾被爆者特別交付金)
|
27 | 319,517 | 47,647 | 調整対象需要額を過大に算定していたものなど |
(61) | 同 |
山県郡北広島町
(事業主体)
|
―
|
普通調整交付金、特別調整交付金(原子爆弾被爆者特別交付金)
|
27 | 132,985 | 17,492 | 同 |
(62) |
福岡県
|
福岡市
(事業主体)
|
―
|
特別調整交付金(非自発的失業財政負担増特別交付金)
|
27、29 | 80,746 | 15,652 | 非自発的失業による保険料軽減世帯に係る一般被保険者数を過大に算定していたもの |
(63) | 同 |
大野城市
(事業主体)
|
―
|
特別調整交付金(非自発的失業軽減特別交付金)
|
26 | 5,394 | 1,601 | 非自発的失業による保険料軽減世帯に係る保険料調定総額を過小に算定していたもの |
(64) | 同 |
大宰府市
(事業主体)
|
―
|
特別調整交付金(被扶養者減免特別交付金)
|
28、29 | 7,726 | 1,638 | 被用者保険の被保険者の被扶養者であった者に係る保険料の減免額を過大に算定していたもの |
(65) | 同 |
古賀市
(事業主体)
|
―
|
特別調整交付金(非自発的失業財政負担増特別交付金等)
|
26、27 | 6,427 | 2,807 | 非自発的失業による保険料軽減世帯に係る一般被保険者数を過大に算定していたものなど |
(66) |
長崎県
|
諫早市
(事業主体)
|
―
|
特別調整交付金(結核・精神業特別交付金)
|
26、27 | 3,008,101 | 129,571 | 結核性疾病及び精神病に係る医療給付費を過大に算定していたもの |
(43)―(66)の計 | 11,095,689 | 428,233 |