厚生労働省は、統計法(平成19年法律第53号)等に基づき、基幹統計調査である賃金構造基本統計調査(以下「賃金センサス」という。)を実施している。賃金センサスは、総務大臣の承認を受けた調査計画によれば、厚生労働本省、都道府県労働局(以下「労働局」という。)等が実施し、その実施方法は、労働局等の職員及び統計調査員が調査対象事業所を訪問して調査票を配布し、記入済みの調査票を回収する調査員調査によることとされている。また、厚生労働本省は、労働局における賃金センサスの実施に要する経費を支払うための予算として、47労働局に対して、一般会計(組織)都道府県労働局(項)都道府県労働局共通費の(目)統計調査員手当、(目)職員旅費、(目)委員等旅費及び(目)厚生労働統計調査費により歳出予算を示達している。しかし、厚生労働本省において、予算が不足するとして申出があった労働局に対して、上記四つの(目)の示達に加えて、賃金センサスの実施に要する経費とは別の経費として内閣から厚生労働省に配賦されていた労働保険特別会計の歳出予算の一部を賃金センサスの実施に要する経費に充てることができる予算として示達していた。また、労働局において、賃金センサスを調査員調査ではなく郵送調査により行うなどしていて、賃金センサスの実施に要する経費を、厚生労働本省から示達されるなどした一般会計の歳出科目ではなく、一般会計と区分経理されている労働保険特別会計の歳出科目から支出したり、賃金センサス以外の他の業務を実施するために示達された一般会計の歳出科目から支出したりなどしている事態が見受けられた。
したがって、厚生労働大臣に対して令和元年10月に、次のとおり是正改善の処置を求め及び改善の処置を要求した。
ア 厚生労働本省及び労働局において、統計調査の実施に係る予算の示達や会計経理が会計法令等に従うなどして適正に行われるよう、研修等により関係職員に対して会計法令等の遵守を周知徹底すること(会計検査院法第34条の規定により是正改善の処置を求めたもの)
イ 厚生労働本省において、労働局における統計調査の実施に係る予算の執行実績を把握して当該予算の積算との間にかい離が生じていないかなどについて検証し、かい離が生じている場合はその原因を分析し、その結果に応じて統計調査の適切な実施を確保するための措置について検討するなどした上で、統計調査の実施に必要と認められる経費を予算に適切に見積もる態勢を整えること(同法第36条の規定により改善の処置を要求したもの)
本院は、厚生労働本省から関係書類の提出を受けるなどして、その後の処置状況について検査した。
検査の結果、厚生労働省は、本院指摘の趣旨に沿い、次のような処置を講じていた。
ア 厚生労働本省及び労働局において、2年7月までに、統計調査の実施に係る予算の示達や会計経理が会計法令等に従うなどして適正に行われるよう、研修等により関係職員に対して会計法令等の遵守について周知徹底した。
イ 厚生労働本省において、労働局における統計調査について、次のとおり、統計調査の実施に必要と認められる経費を予算に適切に見積もることができる態勢を整えるなどしていた。
(ア) 賃金センサスについては、郵送調査を基本とした調査方法とするなどの調査計画の変更を行うとともに、2年度の予算において変更後の調査計画の調査方法に基づいて必要な経費を積算するなどした。また、2年6月に労働局に対して事務連絡を発出して、各年度の賃金センサス終了後に賃金センサスに係る予算の執行実績について労働局から報告させることなどにより、各労働局の予算の執行実績を把握することができるようにして、賃金センサスの実施に必要と認められる経費を予算に適切に見積もることができる態勢を整えた。
(イ) 賃金センサス以外の統計調査が2件あり、これらの実施に係る予算の執行実績を把握した結果、調査計画で定められた調査員調査ではなく郵送調査等の調査方法により実施されていたり、非常勤職員を雇用することとして予算の積算が行われていたのに、実際には一部の労働局を除いて非常勤職員が雇用されていなかったりしていたため、これらの執行実績と予算の積算との間にかい離が生じていた。このため、調査計画と異なる調査方法により実施されていた統計調査については、適切な調査方法に基づき次回調査時までに調査計画の変更を行うこととした上で、次回調査の際の予算において変更後の調査計画の調査方法に基づいて必要な経費を積算することとした。また、2年12月及び3年2月に労働局に対して通知を発出して、2件の統計調査のそれぞれについて、各労働局の予算の執行実績を把握することができるようにして、当該統計調査の実施に必要と認められる経費を予算に適切に見積もることができる態勢を整えた。