資源エネルギー庁は、平成26年度以降、石油を精製して供給する事業者等(以下「石油会社」という。)が石油供給インフラ強じん化事業を実施する場合に、補助事業者を通じて国庫補助金を交付している。本件補助事業の交付要綱(以下「交付要綱」という。)等によれば、石油供給インフラ強じん化事業とは、平時や災害時を問わず石油を持続的に安定供給し得る体制の整備を図ることを目的として、石油会社が、今後発生が想定される南海トラフ地震、首都直下地震等の大規模地震又はこれに伴う津波等(以下「大規模地震等」という。)のリスクに備えて、各地域の製油所等における入出荷関係設備の耐震、液状化・津波対策等や他の製油所等とのバックアップ供給(注1)に必要な入出荷設備の増強対策等(以下、これらを合わせて「耐震化対策等」という。)及び設備の安全停止対策を通じた石油供給設備の強じん化を図るための事業とされている。そして、交付要綱等によれば、石油を持続的に安定供給し得る体制とは、各石油会社が策定している巨大地震等に備えた系列供給網の業務継続計画(以下「系列BCP」という。)において規定する最低限の入出荷機能を維持している体制とされている。また、石油供給インフラ強じん化事業の実施に当たり、製油所の既存の設備等に係る耐震性能及び耐津波性能(以下、これらを合わせて「耐震性能等」という。)を評価する際等には、中央防災会議が公表している大規模地震等に係る震度分布等について、内閣府から各製油所の所在場所の工学的基盤(注2)における地震動の加速度等のデータ(以下「地震データ」といい、地震動の加速度を「加速度」という。)を入手し、地表面の加速度等を推定することとなっている。しかし、耐震性能等の評価を行う際の大規模地震等の想定について、製油所によって検討方法が区々となっており、大規模地震等の想定が十分なものとなっていない事態が見受けられた。
したがって、資源エネルギー庁長官に対して令和2年10月に、会計検査院法第36条の規定により次のとおり意見を表示した。
ア 石油会社に対して、今後、設備等の耐震性能等の評価を行う際は、最新の地震データを用いるとともに、内閣府から地震データを入手することができるケースが複数ある場合には、各製油所の所在場所の地表面の加速度等を推定して比較するなどした上で、最も条件の厳しいケースを採用することとし、最も条件の厳しいケースを採用して耐震性能等を確保することが困難な場合には、被災した製油所が早期に出荷機能を回復して被災後出荷量を出荷することが困難となった際のバックアップ供給等に係る体制を整備して系列BCPにその内容を盛り込むなど、大規模地震等に備えて石油を持続的に安定供給し得る体制の整備を図るための他の方策についても合わせて検討するよう補助事業者を通じるなどして指導すること
イ 石油会社に対して、大規模地震等の想定が十分なものとなっていない12製油所について、アと同様に耐震性能等の評価を行い、過去に耐震化対策等を実施したのに耐震性能等が確保されていないと認められる設備等については、改めて耐震化対策等を実施することにより耐震性能等の確保に取り組むこととし、最も条件の厳しいケースを採用して耐震性能等を確保することが困難な場合には、アと同様に、大規模地震等に備えて石油を持続的に安定供給し得る体制の整備を図るための他の方策について検討するよう補助事業者を通じるなどして指導すること
本院は、資源エネルギー庁から関係資料の提出を受けるなどして、その後の処置状況について検査した。
検査の結果、資源エネルギー庁は、本院指摘の趣旨に沿い、2年12月に補助事業者に対して事務連絡を発するなどして、次のような処置を講じていた。
ア 石油会社に対して、今後、設備等の耐震性能等の評価を行う際は、最新の地震データを用いるとともに、内閣府から地震データを入手することができるケースが複数ある場合には、各製油所の所在場所の地表面の加速度等を推定して比較するなどした上で、最も条件の厳しいケースを採用することとし、最も条件の厳しいケースを採用して耐震性能等を確保することが困難な場合には、被災した製油所が早期に出荷機能を回復して被災後出荷量を出荷することが困難となった際のバックアップ供給等に係る体制を整備して系列BCPにその内容を盛り込むなど、大規模地震等に備えて石油を持続的に安定供給し得る体制の整備を図るための他の方策についても合わせて検討するよう補助事業者を通じるなどして指導した。また、今後新たに事業を実施する石油会社についても、補助事業者が上記の事務連絡に基づいて指導することとした。
イ 石油会社に対して、大規模地震等の想定が十分なものとなっていない12製油所について、アと同様に耐震性能等の評価を行い、過去に耐震化対策等を実施したのに耐震性能等が確保されていないと認められる設備等については、改めて耐震化対策等を実施することにより耐震性能等の確保に取り組むこととし、最も条件の厳しいケースを採用して耐震性能等を確保することが困難な場合には、アと同様に、大規模地震等に備えて石油を持続的に安定供給し得る体制の整備を図るための他の方策について検討するよう補助事業者を通じるなどして指導した。
その結果、3年7月末現在で、操業を停止することになった1製油所を除く11製油所を運営する5石油会社は、当該11製油所について耐震性能等の評価に向けた調査を行うなどしており、こうした調査の実施によるなどして大規模地震等に備えた石油を持続的に安定供給し得る体制の整備が図られているかについて、資源エネルギー庁はフォローアップを行うとしている。