本院は、独立行政法人における繰越欠損金の状況等について、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、①繰越欠損金の計上状況等はどのようになっているか、また、繰越欠損金はどのような原因で計上されたか、②勘定ごとの繰越欠損金の増減等の原因等はどのようになっているか、③廃止された勘定及び廃止が見込まれるなどしている勘定における政府からの出資(以下「政府出資金」という。)の状況等はどのようになっているか、④繰越欠損金の計画的解消等に係る目標の設定及び目標に対する評価の状況はどのようになっているかに着眼して検査した。
(以下、各独立行政法人の名称中、「独立行政法人」及び「国立研究開発法人」は記載を省略した。)
平成23事業年度末から令和元事業年度末までに繰越欠損金を計上した事業年度がある43法人60勘定(勘定を設けずに事業を経理している法人についても1勘定と数えている。以下同じ。)のうち、新型コロナウイルス感染症に関する法人の業務の状況等に鑑み、医療の提供や事業者等の資金繰り対策等を実施している13法人17勘定を除いた30法人43勘定(注1)(以下「検査対象30法人43勘定」といい、これに係る30法人を「検査対象法人」という。)の繰越欠損金の合計額は、平成23事業年度末に18法人28勘定の計1兆4170億余円であったものが、令和元事業年度末には13法人18勘定(注2)の計6384億余円となり、平成23事業年度末に比べて7785億余円(54.9%)の減少となっている。
検査対象30法人43勘定について、繰越欠損金を計上した原因を、費用に対応する収益の状況に着目してみると、態様①の主として業務遂行により発生する費用を賄うだけの十分な収益が得られていないことによるもの、態様②の主として業務遂行により発生する費用に見合う収益がない仕組みとなっていることによるもの及び態様③の主として費用と収益が計上される事業年度にずれが生じていることによるものの三つの態様に区分することができる。
このうち、態様①の主として業務遂行により発生する費用を賄うだけの十分な収益が得られていないことによるものは15法人26勘定(注3)あり、令和元事業年度末における繰越欠損金は、計6299億余円(11法人15勘定(注4))となっている。独立行政法人の会計基準については、従来損益均衡の仕組みが維持されているが、独立行政法人の業務の状況によっては、期待した収入を確保できずに独立行政法人が想定した収益を得られなかったり、業務遂行が難航して想定を上回る費用が生じたりすることがある。また、独立行政法人は、公共的な性格を有していることなどから、収入を得るための手法や収入を得るために実施する業務において使用する単価等の水準が国により定められるなどしていて独立行政法人の判断だけでは収入を増やして収益を改善させることができなかったり、一定の水準で業務を実施することが個別法(注5)や中期目標、中長期目標又は年度目標(以下、これらを合わせて「中期目標等(注6)」という。)に定められるなどしていて独立行政法人の判断だけでは業務の見直し等による費用削減が困難だったりするものもある。このため、独立行政法人の業務の遂行状況によっては、発生する費用を賄うだけの十分な収益を得られず、繰越欠損金が計上されることがある。
(注1) 30法人43勘定国立公文書館、情報通信研究機構(基盤技術研究促進勘定、出資勘定及び通信・放送承継勘定)、郵便貯金簡易生命保険管理・郵便局ネットワーク支援機構(郵便局ネットワーク支援勘定)、国際交流基金、国立青少年教育振興機構、国立科学博物館、量子科学技術研究開発機構、科学技術振興機構(文献情報提供勘定)、宇宙航空研究開発機構、日本スポーツ振興センター(災害共済給付勘定)、日本原子力研究開発機構(電源利用勘定)、医薬基盤・健康・栄養研究所(特例業務勘定及び承継勘定)、勤労者退職金共済機構(一般の中小企業退職金共済事業等勘定、林業退職金共済事業等勘定及び財形勘定)、高齢・障害・求職者雇用支援機構(高齢・障害者雇用支援勘定及び障害者職業能力開発勘定)、医薬品医療機器総合機構(受託給付勘定)、農業・食品産業技術総合研究機構(民間研究特例業務勘定及び特例業務勘定)、水産研究・教育機構(海洋水産資源開発勘定)、農畜産業振興機構(砂糖勘定)、農業者年金基金(特例付加年金勘定)、農林漁業信用基金(林業信用保証勘定)、工業所有権情報・研修館、製品評価技術基盤機構、新エネルギー・産業技術総合開発機構(基盤技術研究促進勘定)、情報処理推進機構(試験勘定、事業化勘定及び地域事業出資業務勘定)、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(石油天然ガス等勘定、投融資等・金属鉱産物備蓄勘定及び石炭経過勘定)、海技教育機構、航空大学校、自動車事故対策機構、都市再生機構(都市再生勘定及び宅地造成等経過勘定)、住宅金融支援機構(証券化支援勘定及び既往債権管理勘定)
(注2) 13法人18勘定情報通信研究機構(基盤技術研究促進勘定及び出資勘定)、国立青少年教育振興機構、科学技術振興機構(文献情報提供勘定)、医薬基盤・健康・栄養研究所(特例業務勘定及び承継勘定)、勤労者退職金共済機構(林業退職金共済事業等勘定)、農業・食品産業技術総合研究機構(民間研究特例業務勘定)、水産研究・教育機構(海洋水産資源開発勘定)、農畜産業振興機構(砂糖勘定)、新エネルギー・産業技術総合開発機構(基盤技術研究促進勘定)、情報処理推進機構(事業化勘定及び地域事業出資業務勘定)、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(石油天然ガス等勘定、投融資等・金属鉱産物備蓄勘定及び石炭経過勘定)、航空大学校、都市再生機構(宅地造成等経過勘定)
(注3) 15法人26勘定情報通信研究機構(基盤技術研究促進勘定、出資勘定及び通信・放送承継勘定)、国立青少年教育振興機構、科学技術振興機構(文献情報提供勘定)、日本スポーツ振興センター(災害共済給付勘定)、医薬基盤・健康・栄養研究所(特例業務勘定及び承継勘定)、勤労者退職金共済機構(一般の中小企業退職金共済事業等勘定、林業退職金共済事業等勘定及び財形勘定)、農業・食品産業技術総合研究機構(民間研究特例業務勘定及び特例業務勘定)、農畜産業振興機構(砂糖勘定)、農林漁業信用基金(林業信用保証勘定)、新エネルギー・産業技術総合開発機構(基盤技術研究促進勘定)、情報処理推進機構(試験勘定、事業化勘定及び地域事業出資業務勘定)、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(石油天然ガス等勘定及び投融資等・金属鉱産物備蓄勘定)、海技教育機構、都市再生機構(都市再生勘定及び宅地造成等経過勘定)、住宅金融支援機構(証券化支援勘定及び既往債権管理勘定)
(注4) 11法人15勘定情報通信研究機構(基盤技術研究促進勘定及び出資勘定)、国立青少年教育振興機構、科学技術振興機構(文献情報提供勘定)、医薬基盤・健康・栄養研究所(特例業務勘定及び承継勘定)、勤労者退職金共済機構(林業退職金共済事業等勘定)、農業・食品産業技術総合研究機構(民間研究特例業務勘定)、農畜産業振興機構(砂糖勘定)、新エネルギー・産業技術総合開発機構(基盤技術研究促進勘定)、情報処理推進機構(事業化勘定及び地域事業出資業務勘定)、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(石油天然ガス等勘定及び投融資等・金属鉱産物備蓄勘定)、都市再生機構(宅地造成等経過勘定)
(注5) 個別法各独立行政法人の名称、目的、業務の範囲等に関する事項を定める法律
(注6) 独立行政法人通則法(平成11年法律第103号。以下「通則法」という。)によれば、独立行政法人を所管する主務大臣は、独立行政法人が達成すべき業務運営に関する目標として、中期目標管理法人においては中期目標を、国立研究開発法人においては中長期目標を、行政執行法人においては年度目標をそれぞれ策定することとされている。
23事業年度末に繰越欠損金を計上していた18法人28勘定のうち、同事業年度末から令和元事業年度末までの間に繰越欠損金を解消していた9法人11勘定(注7)及び繰越欠損金が2割以上減少していた4法人4勘定(注8)(以下、上記繰越欠損金の解消及び2割以上減少を合わせて「減少等」という。)については、繰越欠損金を計上した原因が態様①の主として業務遂行により発生する費用を賄うだけの十分な収益が得られていないことによるものが7法人11勘定(注9)あり、これに係る繰越欠損金の減少等額は計1兆0315億余円と多額に上っていた。このうち、補償金の支払が前提とされている財政融資資金への繰上償還について、財政制度等審議会財政投融資分科会(平成16年12月開催)において設定された要件を満たした上で繰上償還に関する規定を個別の法律に定めることにより、補償金の支払を要しない繰上償還(補償金免除相当額計2兆2127億余円)により財政融資資金からの借入金に係る金利負担が大幅に軽減されるなど国による実質的な財政支援を受けるなどして繰越欠損金が減少等していたものが、2法人2勘定(注10)における計6638億余円と64.3%を占めていた。
検査対象30法人43勘定のうち、元事業年度末までに勘定を廃止した2法人2勘定(注11)の状況をみると、2法人2勘定共に勘定廃止の際の最終事業年度の貸借対照表において繰越欠損金を計上していた。そして、勘定の廃止に際し、当該2法人2勘定に係る政府出資金計312億余円に対して、計47億余円が国庫に納付されたが、残りの計265億余円は繰越欠損金の処理に充てられたため回収されなかった。
また、検査対象30法人43勘定における繰越欠損金の状況及び業務の内容についてみると、元事業年度末に繰越欠損金を計上していて、現在は新規の事業採択等を行っておらず、主に過去に行った事業に係る回収等の管理業務等のみを行っているもののうち4法人7勘定(注12)は、繰越欠損金を解消する見通しが立っていないと認められるものである。そして、当該7勘定にはいずれも政府出資が行われており、元事業年度末の繰越欠損金の額は計1575億余円となっていて、政府出資金計1755億余円に迫る水準となっていた。
通則法によれば、主務大臣は、財務内容の改善に関する事項等を中期目標等に定めることとされており、「独立行政法人の目標の策定に関する指針」(平成26年9月総務大臣決定。以下「目標指針」という。)によれば、財務内容の改善に関する事項には、収益性のある業務を遂行する独立行政法人のうち赤字法人については、累積欠損金の計画的解消等について、いつまでにどのように改善するのかを具体的かつ明確に定めることとされている。そして、目標指針における「赤字法人」とは、原則として、法人全体又は区分経理する勘定の一つ以上に繰越欠損金が計上されている法人をいうことになっている。
検査対象30法人43勘定のうち現行の中期目標等の期間に係る開始事業年度の期首に繰越欠損金を計上していた14法人19勘定(注13)のうち7法人7勘定(注14)は、繰越欠損金の計画的解消等に係る目標を財務内容の改善に関する事項として設定していなかった。上記7法人7勘定のうち3法人3勘定(注15)は、繰越欠損金を計上した原因が態様①の主として業務遂行により発生する費用を賄うだけの十分な収益が得られていないことによるものであり、さらに、このうち2法人2勘定(注16)は、元事業年度末においても繰越欠損金を解消しておらず、引き続き繰越欠損金を計上していた。上記2法人2勘定のうち都市再生機構(宅地造成等経過勘定)については、同機構の主務省である国土交通省は、同勘定に繰越欠損金が計上されているものの、同機構全体でみると繰越欠損金は解消されているため目標として設定していないとのことであった。しかし、繰越欠損金は勘定ごとに計上されており、同勘定の繰越欠損金は、元事業年度末においてもなお530億余円と多額に上っている。そして、収益性のある業務を遂行する独立行政法人のうち、原則、区分経理する勘定の一つ以上に繰越欠損金が計上されている法人の主務大臣は、繰越欠損金の計画的解消等について中期目標等に定めることとされている。
繰越欠損金の計画的解消等に係る目標を財務内容の改善に関する事項として設定していた9法人12勘定(注17)について、当該中期目標等の記載内容をみると、「「累積欠損金解消計画」(以下「解消計画」という。)の見直しを財政検証の終了後9ヶ月以内に行い、見直し後の解消計画に沿って着実な累積欠損金の解消を図る」などとしていて、繰越欠損金の計画的解消等について、いつまでにどのように改善するのかを具体的かつ明確に目標に定めていたものもあれば、「更に業務経費の低減化を図るとともに、出資金の最大限の回収に努める」などとしていて、具体的かつ明確に目標に定めているかが必ずしも判然としないものも見受けられた。
独立行政法人は、国民生活及び社会経済の安定等の公共上の見地から確実に実施されることが必要な事務及び事業であって、国が自ら主体となって直接に実施する必要のないもののうち、民間の主体に委ねた場合には必ずしも実施されないおそれがあるもの又は一の主体に独占して行わせることが必要であるものを効果的かつ効率的に行うことを目的として設立される法人である。そして、通則法によれば、独立行政法人は、その業務を確実に実施するために必要な資本金その他の財産的基礎を有しなければならないこととされており、国は、元年度末現在、15兆4193億余円を出資している。
繰越欠損金の解消は、独立行政法人の中長期の財務リスク(将来的に国民に予期せざる財務上の負担が生ずる可能性)を低減することになるが、検査対象30法人43勘定のうち、13法人18勘定は、元事業年度末において繰越欠損金を計上しており、その合計額は6384億余円と多額に上っている。また、独立行政法人は、業務の見直し、社会経済情勢の変化その他の事由により、その保有する重要な財産であって主務省令で定めるものが将来にわたり業務を確実に実施する上で必要がなくなったと認められる場合のその財産であって、「政府からの出資又は支出(金銭の出資に該当するものを除く。)に係るもの」(政府出資等に係る不要財産)については、通則法に基づき、遅滞なく、主務大臣の認可を受けて国庫に納付することとなっているが、繰越欠損金を計上している勘定が廃止された場合等には、政府出資金の一部又は全部が回収されないことがある。
したがって、主務省及び検査対象法人においては、次の点に留意して対応を検討することが必要である。
ア 繰越欠損金を計上した原因が主として業務遂行により発生する費用を賄うだけの十分な収益が得られていないことによるものとなっているもののうち、元事業年度末において繰越欠損金が解消されていない11法人15勘定については、繰越欠損金の解消について、法人において効率的な業務運営を図るとともに、法人が行う業務の公共的な性格を踏まえた政策的な見地から幅広い検討を行うことも重要であること
イ 新規の事業採択等を行っておらず、平成23事業年度末から令和元事業年度末までの間に繰越欠損金が増加したり、微減にとどまっていたりしている4法人7勘定は、いずれも繰越欠損金を解消する見通しが立っていないと認められるものであり、当該勘定に係る政府出資金の一部又は全部が回収されないおそれがあり、中長期の財務リスク(将来的に国民に予期せざる財務上の負担が生ずる可能性)が高まっていると認められることから、当該勘定を有する法人及びこれらの主務省においては、繰越欠損金が解消されず、当該勘定に係る政府出資金の一部又は全部が回収されないおそれのある状況を国民に丁寧に説明すること
ウ 国土交通省は、目標指針を踏まえて、都市再生機構(宅地造成等経過勘定)が達成すべき業務運営に関する目標として、同勘定の繰越欠損金の計画的解消等に関する目標を中期目標に設定するとともに、同機構は、当該中期目標の達成に向けた取組を行うこと。また、中期目標等に繰越欠損金の計画的解消等に係る目標が財務内容の改善に関する事項として設定されていた9法人の主務省は、評価の客観性の向上に資するためにも、中期目標等に、繰越欠損金の計画的解消等について、いつまでにどのように改善するのかを具体的かつ明確に定めているかを改めて検証した上で具体的かつ明確でないと思料される場合には、業務の内容に応じて、改めて具体的かつ明確な目標を設定するなどすること
本院としては、独立行政法人における繰越欠損金の状況等について、今後とも多角的な観点から引き続き注視していくこととする。