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  • 令和2年度|
  • 第4章 国会及び内閣に対する報告並びに国会からの検査要請事項に関する報告等|
  • 第1節 国会及び内閣に対する報告

参考:報告書はこちら

第2 国が実施するPFI事業について


検査対象
衆議院、参議院、裁判所、会計検査院、内閣府、法務省、外務省、財務省、文部科学省、国土交通省、防衛省
PFI事業の概要
民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(平成11年法律第117号)に基づき、公共施設等の整備等を実施する事業
平成14年度から30年度までの間に検査対象の11府省等が締結した事業契約に係る事業数及び契約金額
76事業1兆3504億円(平成30年度末現在)
報告を行った年月日
令和3年5月14日

1 検査の状況の主な内容

本院は、国が実施するPFI(Private Finance Initiative)事業について、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、①国が実施しているPFI事業の類型別の事業数及び契約金額はどのような状況となっているか、②PFI事業の選定時及び民間事業者の選定時に適切に評価が実施されているか、③PFI事業を実施するために設立される特別目的会社であるSPC(Special Purpose Company)等から提供されたサービスの水準(以下「サービス水準」という。)が、SPC等が提供すべきサービスの水準(以下「業務要求水準」という。)を満たしていることなどの監視(以下「モニタリング」という。)が適切に実施され、適正なサービスの提供がなされない状況(以下「債務不履行」という。)に対する対応が的確に行われているか、④PFI事業の事業期間終了に伴う評価の実施状況、PFI事業として実施したことによる効果の発現状況等はどのようになっているかに着眼して検査を実施した。

(1)PFI 事業に係る評価の実施状況

サービス購入型(注1)の65事業のうち34事業に係る割引率は、「公共事業評価の費用便益分析に関する技術指針」(平成16年2月国土交通省)等(以下「技術指針」という。)における社会的割引率を主な設定根拠として設定されていた。

サービス購入型の65事業のうち事業者選定時VFM(注2)(Value For Money)の算定結果を確認することができた60事業について、民間事業者の選定時における評価の実施状況をみると、国等が自ら実施する場合(以下「従来方式」という。)の事業期間全体を通じた公的財政負担の見込額の現在価値である「PSC(Public Sector Comparator)」と、PFI事業として実施する場合(以下「PFI方式」という。)の事業期間全体を通じた公的財政負担の見込額の現在価値である「PFI事業のLCC(Life Cycle Cost)」では、競争の効果の反映の有無の点で算定条件が一致していない状況となっていた。そして、このことが多くのPFI事業において、事業者選定時VFMがPFI事業選定時VFM(注3)よりも大きくなった要因の一つであると考えられる。また、「VFM(Value For Money)に関するガイドライン」(以下「VFMガイドライン」という。)において、VFMガイドライン等に示したもの以外の方法等によってPFI事業を実施することを妨げるものではないとなっていることの趣旨が各府省等において十分に理解されていないことなどにより、PSCとPFI事業のLCCについて、競争の効果の有無の点で算定条件が一致していないことは、両者を比較するに当たり適当でないと考えられる。

技術指針における社会的割引率を主な設定根拠として割引率を設定していたPFI事業については、PFI事業の選定時期の金利情勢が割引率に十分に反映されておらず、高めに設定されていた結果として、VFMが大きく算定され、PFI方式の経済的な優位性が高く評価されていた可能性があると考えられる。

独立採算型(注4)の11事業について、PFI事業の選定時における評価の実施状況をみると、公共施設等運営権(注5)制度を活用したPFI事業(以下「公共施設等運営事業」という。)である4事業では、PFI事業の選定時に事業内容の詳細が定まっていないなどのため、定量的評価は困難であるとして、定性的評価のみが実施されていた。また、民間事業者の選定時における評価の実施状況をみると、8事業(公共施設等運営事業を含む。)では、定量的評価及び定性的評価のいずれも実施されていなかった。

(注1)
サービス購入型PFI事業を実施する民間事業者が自ら調達した資金により、施設整備及び維持管理・運営の一体的なサービス又は一部のサービスを公共施設等の管理者等に提供し、公共施設等の管理者等から支払われるサービスの提供に対する対価により、PFI事業に係る事業費を回収する方式
(注2)
事業者選定時VFMPFI事業を実施する民間事業者の選定時等に算定したPSCと、PFI事業を実施する民間事業者の選定時等に算定した割引率を用いて入札価格を現在価値に換算して算定したPFI事業のLCCとの差額の当該PSCに対する率等
(注3)
PFI事業選定時VFMPFI事業の選定時に算定したPSCとPFI事業のLCCとの差額の当該PSCに対する率等
(注4)
独立採算型PFI事業を実施する民間事業者が自ら調達した資金により、施設整備及び維持管理・運営の一体的なサービス又は一部のサービスを公共施設等の管理者等に提供し、公共施設等の利用者から支払われる利用料金のみにより、PFI事業に係る事業費を回収する方式
(注5)
公共施設等運営権公共施設等の管理者等が所有権を有する公共施設等について、PFI事業を実施する民間事業者が維持管理・運営を行い、公共施設等の利用者から支払われる利用料金を自らの収入として収受する事業を実施する権利。コンセッションともいう。

(2)モニタリングの実施状況等

サービス購入型の65事業のうち30年度末時点において維持管理・運営業務が開始されていた57事業について、モニタリングにより確認された債務不履行の発生状況をみると、同種の債務不履行が繰り返し発生していて、債務不履行の年間の発生件数が多くなっているものが見受けられた。

独立採算型の11事業のうち30年度末時点において維持管理・運営業務が開始されていた9事業について、モニタリングの実施状況をみると、1事業において、SPC等の財務状況が悪化しており、公共施設等の管理者等(以下「施設管理者」という。)は、財務状況の監視によりこれを把握し、SPC等に対して経営改善に係る資料を求めるなどして、事業の継続性等について検討を行っていた。また、業務要求水準等において施設管理者が修繕を行うこととされた設備の不具合について、モニタリングの際にSPC等から報告を受けていたものの、施設管理者において不具合を解消するための修繕を十分に行うことができていないなどのため、PFI事業に係る公共施設を十分に利用できない状態が継続していたものが見受けられた。

(3)PFI事業の事業期間終了に伴う評価の実施状況等

30年度末現在で事業期間が終了していたサービス購入型の29事業について、PFI事業の事業期間終了に伴う評価の実施状況をみると、当該事業を従来方式ではなくPFI方式により実施することが実際に有利であったかなどについての検証(以下「事後検証」という。)が行われていたものはなかった。そこで、本院において、可能な範囲でPFI事業に係るコスト面及びサービス面の両面についての事後検証等を試みたところ、上記29事業のうち、事業期間終了後、PFI事業により行われていた業務の一部である維持管理が従来方式による事業により行われていた27事業について、PFI事業により行われていた業務のうちから従来方式により締結された契約に含まれていない業務等を除外した上で算定したPFI事業における維持管理費相当額と、従来方式により行われていた事業における維持管理費相当額とを比較した結果、27事業の全てについて、PFI事業の方が従来方式により行われていた事業よりも維持管理費相当額が高額となっており、前者の後者に対する割合が最も高いもので285.3%、最も低いものでも106.8%となっていた。また、上記27事業のいずれにおいても、PFI事業として実施したことによるサービス面に係る定性的な効果を評価するための指標等が設けられるなどしていなかったことなどから、サービス面に係る事後検証を行うことが困難な状況となっていた。

2 検査の状況に対する所見

11年7月に「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」(平成11年法律第117号。以下「PFI法」という。)が制定されて以降、国は、30年度までに6次にわたりPFI法の改正を行い、施設管理者がPFI事業を実施する民間事業者に公共施設等運営権を設定することができるようにしたり、PFI事業の対象とする公共施設等を追加したりすることなどにより、PFI事業の推進を図ってきたところである。そして、PFI事業は、真に必要な公共施設等の整備等と財政健全化の両立を図る上で重要な役割を果たすものであるとしている。

また、PFI法が制定されて20年余りが経過して、サービス購入型のPFI事業については、事業期間が終了したもの又は終了が近いものが増加してきており、今後のPFI事業の実施に資するために、これまで実施してきたPFI事業に係る事後検証等を行い、PFI事業における課題等を明らかにして、今後の事業の改善にいかすことが重要となってきている。独立採算型のPFI事業については、まだ実績が少ないものの、公共施設等運営事業への導入が促進されてきていることから、事業実績の増加が見込まれ、今後、その効果を見定めていくことが必要であり、SPC等の財務状況がサービスの提供に影響するため、財務状況の監視を含めてモニタリング等を適切に行うことがますます重要となってきている。

さらに、今般の新型コロナウイルス感染症の拡大が、PFI事業の実施状況やSPC等の財務状況等に与える影響についても、モニタリング等を通じて把握に努めて、必要に応じて的確な対応を行うことが望まれる。

ついては、以上の検査の状況を踏まえて、各府省等は、今後、PFI事業を実施する際には、次の点に留意する必要がある。

(1)PFI事業に係る評価の実施

ア 各府省等は、サービス購入型のPFI事業に係るVFM評価に当たり、PFI事業の選定時期等における金利情勢を十分に考慮するなどして割引率を設定するとともに、民間事業者の選定時におけるVFM評価の精度を高めるために、PSCに競争の効果を反映させるなどして、より実情に沿った算定を行った上でPFI事業の実施について判断すること。また、内閣府は、今後実施されるPFI事業について、各府省等における事業者選定時VFMの算定状況を把握の上、より適切にVFM評価が行われるようにするために、VFMガイドライン等に示したもの以外の方法等によってPFI事業を実施することを妨げるものではないとなっていることの趣旨が各府省等において十分に理解されるよう、VFMガイドラインの改定等について検討すること

イ 各府省等は、独立採算型のPFI事業について、公共施設等運営事業以外の独立採算型のPFI事業を含めて、より客観的な評価を行うようにするために、PFI事業の選定時及び民間事業者の選定時のいずれにおいても、公共施設等運営事業ガイドラインで示された評価方法を参考にするなどして定量的評価を行うよう工夫すること

(2)モニタリングの実施等

ア 各府省等は、同種の債務不履行が繰り返し発生している場合には、債務不履行の再発防止に向けて改善すること。特に、法務省は、同種の債務不履行が繰り返し発生しているPFI事業について、債務不履行の再発防止に向けて更に改善すること

イ 独立採算型のPFI事業を行う各府省等は、当該事業が今後も安定的に継続され、公共サービスの提供に支障が生じないようにするために、モニタリングにおいて、サービス水準に加えて、SPC等の財務状況についても引き続き監視していくこと。また、国土交通省は、同省が修繕を行うこととされた設備について、SPC等から不具合の報告を受けた場合、PFI事業に係る公共施設等を十分に利用できるようにするために、不具合を解消するための修繕を十分に行うこと

(3)PFI事業の事業期間終了に伴う評価の実施

各府省等は、今後のPFI事業の実施に当たり、内閣府におけるPFI事業の事業期間終了に伴う評価の実施方法についての検討結果を踏まえるなどして、PFI事業の事業期間終了に伴う評価を客観的に行うよう検討すること

本院としては、今後とも国が実施するPFI事業について、引き続き注視していくこととする。