会計検査院は、令和元年6月10日、参議院から、国会法第105条の規定に基づき下記事項について会計検査を行いその結果を報告することを求める要請を受けた。これに対し同月11日検査官会議において、会計検査院法第30条の3の規定により検査を実施してその検査の結果を報告することを決定した。
一、会計検査及びその結果の報告を求める事項
本院は、上記要請の政府情報システムに関する各事項について、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、①政府情報システムの整備及び運用に係る予算の執行状況はどのようになっているか、②政府情報システムの整備及び運用に当たって各府省等が締結する契約は競争性及び経済性が確保されているか、③政府情報システムは、有効に活用され、所期の目的に照らして十分な効果を発現しているか、各府省等において、システムの利用状況を把握し、効果の発現状況を検証するための体制が整備され、その体制により適切な把握及び検証が行われているか、④政府情報システムは全体として適切かつ効率的に整備され、及び運用されているか、また、コスト削減に向けた計画は適切に策定され、コスト削減を着実に実現しているかに着眼して13府省等の本省、外局等(以下「省庁」という。)計30省庁(注1)が平成30年度に整備経費又は運用等経費に係る予算を計上し又は執行した実績がある765システムを対象として検査を実施した。
検査の結果の主な内容は、次のとおりである。
予算現額(注2)が多額に上っている政府情報システム別に予算の執行状況をみると、各府省等の政府情報システムに係る予算のうち特に整備経費について、複数の府省等の政府情報システムにおいて、開発工期を見直すなどしたことによって翌年度繰越額の予算現額に対する割合や不用額の予算現額に対する割合が高くなっている状況が見受けられた。
システム数が多くPMO(注3)が執行額等(支出済歳出額、翌年度繰越額及び不用額をいう。以下同じ。)の把握を行うのは困難であること、予算科目ごとの執行額等の把握は会計担当部門が行っていることなどを理由として、PMOが一元的に執行額等の把握を行っていない府省等も見受けられた。内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室(以下「IT総合戦略室」という。)及び総務省は、執行額等を把握するためではないとはいえ、デジタルインフラ(注4)を含め、政府情報システムに係る予算の執行状況の把握に関することを担う立場にあり、また、執行額等を含めて予算の執行状況の把握を行うことは、翌年度以降の予算作成にいかすなど政府情報システムに関する企画・予算要求、執行、検証及び見直しというPDCAサイクルを適切に機能させる上で有用である。
各府省等が30年度に締結した整備、運用等に係る契約755件のうち競争契約423件(契約金額3448億余円)における応札者数の状況をみたところ、応札者が1者となった契約(以下「1者応札」という。)の件数は313件(73.9%)、契約金額は2929億余円(84.9%)となっており、1者応札の件数の割合が高く、ベンダーロックイン(注5)が生じている可能性がある状況となっていた。
一部の府省等では、調達仕様書等において競争を阻害しないような内容とするためにパッケージソフトの利用を可能としたり、調達単位を見直したりするなどの工夫を行うことにより、既存業者以外の業者の参入を通じて、競争性及び経済性を向上させている取組が見受けられた。
一部の府省等では、調達仕様書等において競争を阻害しないような内容とするためにパッケージソフトの利用を可能としたり、調達単位を見直したりするなどの工夫を行うことにより、既存業者以外の業者の参入を通じて、競争性及び経済性を向上させている取組が見受けられた。
情報提供ネットワークシステム(以下「情報提供NWS」という。)、マイナポータル(注6)及び監視・監督システム並びに既存システム(注7)及び中間サーバー(注8)のうち政府情報システムに該当するもの(注9)などを合わせたシステム(以下「マイナンバー制度関連システム」という。)の利活用及び添付書類の省略の促進のためには、相互に情報をやり取りすること(以下「情報連携」という。)を処理するシステムへのマイナンバー(注10)の登録及び情報連携の推進が重要である。しかし、マイナンバーの登録が低調となっているシステムが見受けられたり、情報連携の31年1月から令和元年12月までの間の実績件数が年間想定件数に比較して著しく少なくなっていたりしていた。また、情報連携を支える基盤等のシステム等におけるITリソース(注11)についても、CPUの最大使用率が低いシステムが見受けられた。
(注6)マイナポータル国民が自宅のパーソナルコンピュータ等から自身に関する情報連携等の記録を確認できる機能を搭載したオンラインサービスである情報提供等記録開示システム及び地方公共団体の子育てなどに関するサービスの検索やオンライン申請を行うサービス検索・電子申請機能等システム
(注7)既存システム行政機関が従来使用しているシステムのうち、社会保障、税等に係る個人情報の正本データを保有するシステム
(注8)中間サーバー既存システムに登録されたマイナンバーの保護を目的に、既存システムと情報提供NWSの間を仲介するシステム
(注9)地方公共団体等が運用するなどしている既存システム及び中間サーバーはマイナンバー制度関連システムに含んでいない。
(注10)マイナンバー特定の個人を識別する12桁の番号
(注11)ITリソースソフトウェアやハードウェアを動作させるのに必要なCPU(Central Processing Unitの略。コンピュータを構成する部品の一つで、各装置の制御やデータの計算・加工を行う装置)、メモリ、ストレージ(データを記録したり保存したりするための機器)等
監視・監督システムの主な機能には、不正兆候の検知条件であるしきい値を情報提供NWSに設定することにより、警告を発出させる機能(以下「警告機能」という。)、情報照会の保留条件であるしきい値を情報提供NWSに設定することにより、自動的に特定の情報照会を保留させる機能(以下「保留機能」という。)等がある。
個人情報保護委員会は、平成29年7月の監視・監督システムの運用開始以降、同年10月から30年5月までの間においては試行的にしきい値を設定していたものの、同年6月以降は警告機能によるリアルタイムでの不正兆候の検知及び保留機能による情報照会の保留を行わないことにしていた。
電子申請等関係システム(注14)について、行政手続別の電子化の状況を確認するなどしたところ、電子完結(電子申請に際して、紙媒体による添付資料の提出及び対面を必要としないことをいう。以下同じ。)不能な63手続のうち、電子申請件数を年間手続件数で除した率(以下「電子申請率」という。)が20%未満の手続は55手続、1%未満の手続は41手続となっていた。また、添付資料(電子データによるものを含む。以下同じ。)がある113手続のうち、電子申請率が20%未満の手続は91手続、1%未満の手続は58手続となっていた。
さらに、外部連携機能(API)(注15)が利用可能な142手続について、外部連携機能を利用した電子申請件数が把握されている手続を確認したところ13手続のみとなっており、外部連携機能の利用状況を確認することができない手続が多く見受けられた。
マイナポータルにおいては、令和2年1月に国の行政機関等の所管する手続も電子申請の対象とした法人設立ワンストップサービスが開始されている。法人設立ワンストップサービスの開始により国民等や民間事業者等の申請者から国の行政機関等(手続の受け手)に対する電子申請について受付を行うシステム(以下「受付システム」という。)が多重化することとなったため、3受付システム(注16)の利用状況、受け付けた電子申請について事務処理を行うシステム(以下「事務処理システム」という。)との連携状況等をみたところ、3事務処理システム(注17)について、受付システムとして電子政府の総合窓口システム(以下「e―Gov」という。)とマイナポータルが併存していて電子申請のデータを受領するための機能が重複しており、このうち、ハローワークシステムにおいては、e―Govで利用することができた機能がマイナポータルでは利用することができないなどの状況となっており、行政側の業務が複雑化していた。
人事院の「人事・給与関係業務情報システム」(以下「人給システム」という。)及び経済産業省の「旅費等内部管理業務共通システム」(以下「旅費等システム」という。)について、参加府省における各機能の利用状況をみたところ、令和2年2月末時点において、それぞれに参加している25省庁及び29省庁のうち10省庁以上が利用していない主要な機能があり、該当する業務がないことのほか、各機能を導入するための時間を参加府省において確保することができないことや、他の手段により運用していることなどのため、当該機能が利用されていない状況となっていた。
人給システム、総務省の「一元的な文書管理システム」(以下「文書管理システム」という。)及び旅費等システムと他の政府情報システム等とのシステム連携機能について、2年2月末時点の利用状況をみたところ、人給システムにおける3連携機能について、参加府省のうち連携機能を利用している省庁の割合が50%未満となっていた。
また、人給システムと他の政府情報システム等とのシステム連携については、連携する情報がシステム間で異なる形式であるなどシステム連携に係る仕様における課題が解決されないままとなっているため、システム連携を行うために相当の労力を要するものとなっていてシステム連携を実施できていない事態が見受けられた。
89システム(注19)について、プロジェクト計画書等(注20)の作成状況をみたところ、プロジェクト計画書及びプロジェクト管理要領の両方を作成していなかったものが、36システム見受けられた。
89システムのうち、プロジェクト計画書において目標及び定量的な指標の設定を行っていて、2年3月末時点において1年以上のプロジェクトの期間のある35システムについて、指標のモニタリングの実施状況を確認したところ、定量的な指標が計129件設定されていたが、このうち9システムの定量的な指標計20件については、モニタリングが行われていなかった。
平成25年3月に運用を開始した政府共通プラットフォーム(以下「第一期政府共通PF」という。)については、整備を行ったセキュアゾーン(注21)や仮想PC機能(注22)について本来の事業効果を発現しておらず、経費の増大を招くなどしていた。また、政府情報システムの統合・集約化によるシステム運用コストの低減が図られているとは判断できない状況となっていたり、政府全体での投資対効果及び経費削減効果の検証等が十分に行われていなかったりしていた。
仮想化により設定されたCPUコア数の中には実際のシステムの運用に利用されていないものが、また、第一期政府共通PFに移行したシステムごとのITリソースや運用管理サーバ等に係るITリソースの中には十分に活用されていないものが見受けられた。
クラウド(注23)サービスを活用した新たな政府共通プラットフォーム(以下「第二期政府共通PF」という。)は、令和2年9月末に設計及び開発の工程を終了し、同年10月に運用開始されている。
IT総合戦略室は、各府省等から報告された削減実績額の妥当性を確認することについては、政府情報システムの整備及び管理に関する標準ガイドライン等に規定されていないことなどから、行っていないとしていた。また、IT総合戦略室は、平成29年度分以降の削減実績額については、報告の様式を変更したため、各政府情報システムの制度改正等増分経費(注24)の内訳を把握していなかった。
運用等経費の削減対象となっている政府情報システムのみについて令和2年度予算額を集計すると、3863億余円となり、削減基準額(注25)である4000億円との差は136億余円(削減目標額に対する割合11.3%)となっており、2年度の削減見込額としている1028億円(同85.7%)と相当の開差が見受けられる状況となっていた。このような開差は、制度改正等増分経費が影響していることによると思料される。
政府情報システムの運用等経費の削減状況の公表状況について、政府が平成26年7月に公開したITダッシュボードというウェブサイトにおける公表状況をみたところ、30年4月から令和3年2月までの間に一度も更新していなかった。
情報セキュリティ監査は実施しているが、システム監査計画を策定していなかったり、システム監査を実施していなかったりしていて、ITガバナンス及びITマネジメントの面で適切でない事態が3省庁において見受けられた。
総務省は、運用開始から7年を経過した政府情報システム管理データベース(以下「ODB」という。)の更改を行わずに、2年9月に運用を停止し、同年10月末に廃止している。そして、ODBの廃止後の政府情報システムの情報資産等の管理の在り方については、今後、デジタル・ガバメント技術検討会議(注26)の下に設置されたサブワーキンググループにおいて検討することになっている。このため、具体的な在り方が定まるまでの間は、情報システムIDの管理等については、表計算ソフトウェアを用いた手作業により維持する予定としている。また、ODBの廃止後の統一的な政府情報システムの情報資産等の管理の方向性については、現時点で未定であるとしている。
政府は、政府情報システムの整備及び運用について、毎年度、多額の予算を計上している。そして、デジタル・ガバメントを実現するための取組を強化するとともに、政府情報システムを活用して、行政サービスの利便性の向上並びに行政運営の効率性及び透明性の向上を実現するため、デジタル庁の制度設計、体制整備等を進めている。また、政府内では、デジタル庁の設置に向けて、ITガバナンスにおけるIT総合戦略室、総務省、各府省等の従来の役割について、変更が検討されている状況にある。
ついては、政府は、次の点に留意するなどして、より一層、行政サービスを改善しデジタル社会に対応したデジタル・ガバメントの実現を目指すよう取り組むことが重要である。
ア 翌年度以降の予算を作成するに当たり、政府情報システムに関して、予算要求の状況だけでなく、執行額等を含めた予算の執行状況についても、各府省等において、把握を行うことを検討すること
イ 政府情報システムの適切な整備・見直しにも資するよう、「政府情報システムの予算要求から執行の各段階における一元的なプロジェクト管理の強化について」(令和元年6月デジタル・ガバメント閣僚会議決定)に基づき一括計上したデジタルインフラの整備に係る予算について、調査の実施方法等を検討した上で各システムの執行額等の情報を各府省等から集約するなどして把握を行い、PDCAサイクルを適切に機能させるために活用していくことを検討すること
政府情報システムの契約の締結に当たり、調達仕様書等において競争を阻害しないような内容としたり、業務の内容を分割するなどの調達単位を見直したりするなどの工夫を行うことにより、各府省等において、既存業者以外の業者の参入による競争性及び経済性の向上を図ること
(ア) マイナンバー制度関連システムにおけるマイナンバーの登録を各府省等において進めるとともに、所管する事務手続における情報連携を各府省等において一層推進すること。また、マイナンバー制度関連システムについて、各府省等においてITリソースの利用状況を注視しつつ、システムの適切な整備を行っていくこと
(イ) 情報連携に係る監視・監督業務の取組について、情報提供NWSの不適切な利用の早期発見という目的に照らして実際に有効な方法となっているか、個人情報保護委員会において、継続的に検証していくこと
(ウ) マイナポータルの情報提供等記録表示機能を今後も引き続き適切に提供するとともに、ぴったりサービス及び公金決済サービスについては、利用状況を踏まえてサービスの在り方について検討した上で、利用の推進等を図ること
(ア) 電子申請の在り方について利用状況を踏まえて検討した上で、電子申請等関係システムの利活用促進及び利便性向上の観点から、行政手続の見直しなどの際に、電子完結が可能となる仕組みの整備、添付資料の見直しなどの検討を行うとともに、外部連携機能を整備した効果を確認できるようにするなどして、電子申請率の向上等を図るための方策を各府省等において検討すること
(イ) 受付システムの多重化によって、関係する事務処理システムにおける業務の複雑化を招かないように、受付システムを整備し運用する府省等において、あらかじめ受付システムと事務処理システムとの連携方法を十分に検討すること
(ウ) 総務省が整備する電子調達システムによる電子契約の利用促進に向けた課題を整理し、各府省等が行う調達について、利便性に配慮した上で可能なものから順次電子契約を利用するよう、各府省等及び民間事業者等に対する周知、啓発等に努めること
(ア) 人給システム及び旅費等システムについて、担当府省において、システムの利便性の向上を図りつつ、参加府省におけるシステムの機能の利用状況について適切に把握し、各機能の利用が低調となっている参加府省に対して、利用が進んでいる省庁の取組事例を紹介するなどして、両システムの利用促進に向けた取組等について適時適切に検討するように助言及び支援を行うこと。また、参加府省において、システムを利用した場合の業務の在り方を見直し、各機能を利用した場合の業務への影響やシステム化の可否について、十分に検討を行い、両システムの利用向上に向けて適切に取り組んでいくこと
(イ) 業務の効率化を図ることができるよう、担当府省において、人給システムについて、必要となるシステム改修等の技術的な対応を行うなどしたり、文書管理システム及び旅費等システムについて、参加府省に対してシステム連携が円滑に行えるように適時適切にシステム連携機能に係る周知等の支援を行ったりすることにより、システム連携を推進していくこと。また、デジタル・ガバメント実行計画(平成30年1月eガバメント閣僚会議決定。令和元年12月改定)において、データの標準化、情報システム間の互換性、円滑な情報連携等について、政府として統一性を確保しつつ効率的に実現することとなっていることを踏まえて、担当府省におけるシステム連携を推進するための取組について適時適切に助言及び支援を行っていくこと。さらに、担当府省によるシステム改修等の技術的な対応やシステム連携機能に係る周知等の支援等を踏まえて、参加府省においてシステム連携機能の利用を検討すること
エ 政府情報システムの利用状況及び効果の発現状況を把握するために、各府省等において、プロジェクト計画書等を作成して適切な目標及び指標を設定し、目標値に対する実績値の取得方法等を十分に検討してプロジェクト管理要領に明記するとともに、適切にモニタリングを行い、目標の達成に向けた継続的な改善に取り組んでいくこと
ア 第一期政府共通PFの運用状況の分析や見直しなどの実績を十分に踏まえて第二期政府共通PFの整備及び運用を行うことなどにより、引き続き政府情報システムの効率化及びコスト削減を推進すること
イ 政府情報システムに係る運用等経費の削減実績額の算定について、削減実績額が大きい政府情報システムの制度改正等増分経費等が適正であるかなどの検証を行うとともに、削減実績額の算定に当たっての方法等を各府省等と共有するなどして適正な削減実績額の算定に努めること
ウ 政府情報システムの運用等経費の削減状況を適時に公表して国民が確認できるようにすること
エ PMOの体制強化を各府省等において検討するなどして、システム監査等を適切に実施すること
オ ODB廃止後の政府情報システムに係る情報資産等のより効率的かつ効果的な管理の在り方について、早急に検討し、結論を得ること
本院としては、政府情報システムの整備及び運用に係る予算の執行状況、各府省等が締結する契約の競争性、経済性の状況、政府情報システムの利用状況及び効果の発現状況並びに政府情報システム全体の効率化及びコスト削減に向けた取組状況について、多角的な観点から今後も引き続き検査していくこととする。