会計検査院は、前記要請の政府情報システムに関する各事項について、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、①政府情報システムの整備及び運用に係る予算の執行状況はどのようになっているか、②政府情報システムの整備及び運用に当たって各府省等が締結する契約は競争性及び経済性が確保されているか、③政府情報システムは、有効に活用され、所期の目的に照らして十分な効果を発現しているか、各府省等において、システムの利用状況を把握し、効果の発現状況を検証するための体制が整備され、その体制により適切な把握及び検証が行われているか、④政府情報システムは全体として適切かつ効率的に整備され、及び運用されているか、また、コスト削減に向けた計画は適切に策定され、コスト削減を着実に実現しているかに着眼して検査を実施した。
検査の結果の主な内容は、次のとおりである。
予算現額が多額に上っている政府情報システム別に予算の執行状況をみると、各府省等の政府情報システムに係る予算のうち特に整備経費について、複数の府省等の政府情報システムにおいて、開発工期を見直すなどしたことによって繰越率や不用率が高くなっている状況が見受けられた(h-1-7リンク参照)。
システム数が多くPMOが執行額等の把握を行うのは困難であること、予算科目ごとの執行額等の把握は会計担当部門が行っていることなどを理由として、PMOが一元的に執行額等の把握を行っていない府省等も見受けられた。IT総合戦略室及び総務省は、執行額等を把握するためではないとはいえ、デジタルインフラを含め、政府情報システムに係る予算の執行状況の把握に関することを担う立場にあり、また、執行額等を含めて予算の執行状況の把握を行うことは、翌年度以降の予算作成にいかすなど政府情報システムに関する企画・予算要求、執行、検証及び見直しというPDCAサイクルを適切に機能させる上で有用である(28リンク参照)。
各府省等が平成30年度に締結した整備、運用等に係る契約755件のうち競争契約423件における応札者数の状況をみたところ、1者応札の件数は313件(73.9%)、契約金額は2929億余円(84.9%)となっており、1者応札の件数の割合が高く、ベンダーロックインが生じている可能性がある状況となっていた(NUM2-2リンク参照)。
一部の府省等では、調達仕様書等において競争を阻害しないような内容とするためにパッケージソフトの利用を可能としたり、調達単位を見直したりするなどの工夫を行うことにより、既存業者以外の業者の参入を通じて、競争性及び経済性を向上させている取組が見受けられた(41リンク参照)。
マイナンバー制度関連システムの利活用及び添付書類の省略の促進のためには、情報連携を処理するシステムへのマイナンバーの登録及び情報連携の推進が重要である。しかし、マイナンバーの登録が低調となっているシステムが見受けられたり、情報連携の令和元年中の実績件数が年間想定件数に比較して著しく少なくなっていたりしていた。また、情報連携を支える基盤等のシステム等におけるITリソースについても、CPUの最大使用率が低いシステムが見受けられた(49リンク参照)。
個人情報保護委員会は、29年7月の監視・監督システムの運用開始以降、同年10月から30年5月までの間においては試行的にしきい値を設定していたものの、同年6月以降は警告機能によるリアルタイムでの不正兆候の検知及び保留機能による情報照会の保留を行わないことにしていた(53リンク参照)。
ぴったりサービスの実績件数については増加傾向となっていたものの、年間想定件数に対して30年度の実績件数は著しく少ない状況となっており、公金決済サービスについては実績件数が皆無となっていた(54リンク参照)。
法人設立ワンストップサービスの開始により受付システムが多重化することとなったため、3受付システムの利用状況、事務処理システムとの連携状況等をみたところ、3事務処理システムについて、受付システムとしてe-Govとマイナポータルが併存していて電子申請のデータを受領するための機能が重複しており、このうち、ハローワークシステムにおいては、e-Govで利用することができた機能がマイナポータルでは利用することができないなどの状況となっており、行政側の業務が複雑化していた(69リンク参照)。
各府省等における28年度から30年度までの契約の電子化の状況をみると、契約締結件数に対する電子契約の割合は1%未満にとどまっていた(75リンク参照)。
人給システム及び旅費等システムについて、参加府省における各機能の利用状況をみたところ、令和2年2月末時点において、それぞれに参加している25省庁及び29省庁のうち10省庁以上が利用していない主要な機能があり、該当する業務がないことのほか、各機能を導入するための時間を参加府省において確保することができないことや、他の手段により運用していることなどのため、当該機能が利用されていない状況となっていた(83リンク参照)。
3共通システムと他の政府情報システム等とのシステム連携機能について、2年2月末時点の利用状況をみたところ、人給システムにおける3連携機能について、参加府省のうち連携機能を利用している省庁の割合が50%未満となっていた。
また、人給システムと他の政府情報システム等とのシステム連携については、連携する情報がシステム間で異なる形式であるなどシステム連携に係る仕様における課題が解決されないままとなっているため、システム連携を行うために相当の労力を要するものとなっていてシステム連携を実施できていない事態が見受けられた(90リンク参照)。
IT総合戦略室は、各府省等から報告された削減実績額の妥当性を確認することについては、標準ガイドライン等に規定されていないことなどから、行っていないとしていた。また、IT総合戦略室は、平成29年度分以降の削減実績額については、報告の様式を変更したため、各政府情報システムの制度改正等増分経費の内訳を把握していなかった(112リンク参照)。
運用等経費の削減対象となっている政府情報システムのみについて令和2年度予算額を集計すると、3863億余円となり、削減基準額である4000億円との差は136億余円(削減目標額に対する割合11.3%)となっており、2年度の削減見込額としている1028億余円(同85.7%)と相当の開差が見受けられる状況となっていた。このような開差は、制度改正等増分経費が影響していることによると思料される(113リンク参照)。
政府情報システムの運用等経費の削減状況の公表状況について、ITダッシュボードにおける公表状況をみたところ、平成30年4月から令和3年2月までの間に一度も更新していなかった(114リンク参照)。
情報セキュリティ監査は実施しているが、システム監査計画を策定していなかったり、システム監査を実施していなかったりしていて、ITガバナンス及びITマネジメントの面で適切でない事態が3省庁において見受けられた(117リンク参照)。
総務省は、運用開始から7年を経過したODBの更改を行わずに、2年9月に運用を停止し、同年10月末に廃止している。そして、ODBの廃止後の政府情報システムの情報資産等の管理の在り方については、サブワーキンググループにおいて検討することになっている。このため、具体的な在り方が定まるまでの間は、情報システムIDの管理等については、表計算ソフトウェアを用いた手作業により維持する予定としている。また、ODBの廃止後の統一的な政府情報システムの情報資産等の管理の方向性については、現時点で未定であるとしている(118リンク参照)。
政府は、政府情報システムの整備及び運用について、毎年度、多額の予算を計上している。そして、デジタル・ガバメントを実現するための取組を強化するとともに、政府情報システムを活用して、行政サービスの利便性の向上並びに行政運営の効率性及び透明性の向上を実現するため、デジタル庁の制度設計、体制整備等を進めている。また、政府内では、デジタル庁の設置に向けて、ITガバナンスにおけるIT総合戦略室、総務省、各府省等の従来の役割について、変更が検討されている状況にある。
ついては、政府は、次の点に留意するなどして、より一層、行政サービスを改善しデジタル社会に対応したデジタル・ガバメントの実現を目指すよう取り組むことが重要である。
政府情報システムの契約の締結に当たり、調達仕様書等において競争を阻害しないような内容としたり、業務の内容を分割するなどの調達単位を見直したりするなどの工夫を行うことにより、各府省等において、既存業者以外の業者の参入による競争性及び経済性の向上を図ること
以上のとおり報告する。
会計検査院としては、政府情報システムの整備及び運用に係る予算の執行状況、各府省等が締結する契約の競争性、経済性の状況、政府情報システムの利用状況及び効果の発現状況並びに政府情報システム全体の効率化及びコスト削減に向けた取組状況について、多角的な観点から今後も引き続き検査していくこととする。