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  • 国会及び内閣に対する報告(随時報告)|
  • 会計検査院法第30条の2の規定に基づく報告書|
  • 令和2年12月

独立行政法人における繰越欠損金の状況等について


4 検査の状況に対する所見

(1) 検査の状況の概要

会計検査院は、独立行政法人における繰越欠損金の状況等について、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、繰越欠損金の計上状況等はどのようになっているか、繰越欠損金はどのような原因で計上されたか、勘定ごとの繰越欠損金の増減等の原因等はどのようになっているか、廃止された勘定及び廃止が見込まれるなどしている勘定における政府出資金の状況等はどのようになっているか、繰越欠損金の計画的解消等に係る目標の設定及び目標に対する評価の状況はどのようになっているかに着眼して検査した。

ア 繰越欠損金を計上した原因等

(ア) 検査対象30法人43勘定の繰越欠損金の推移

検査対象30法人43勘定の繰越欠損金の合計額は、23事業年度末に18法人28勘定の計1兆4170億余円であったものが、令和元事業年度末には13法人18勘定の計6384億余円と減少している。

これを勘定別にみると、平成23事業年度末において繰越欠損金を計上していた18法人28勘定のうち9法人11勘定は、令和元事業年度末までに繰越欠損金を解消していた。4法人4勘定は、平成23事業年度末から令和元事業年度末までの間に繰越欠損金が2割以上減少しており、3法人5勘定は、この間の減少率がいずれも1%未満であり微減となっていた。一方、5法人6勘定は、この間に繰越欠損金が増加しており、残る2法人2勘定は、繰越欠損金が解消されないまま元事業年度末までに勘定が廃止されていた(NUM1-aリンク参照)。

(イ) 繰越欠損金を計上した原因の態様

検査対象30法人43勘定について、繰越欠損金を計上した原因をみると、「態様①」主として業務遂行により発生する費用を賄うだけの十分な収益が得られていないことによるもの(15法人26勘定)、「態様②」主として業務遂行により発生する費用に見合う収益がない仕組みとなっていることによるもの(4法人4勘定)、「態様③」主として費用と収益が計上される事業年度にずれが生じていることによるもの(12法人13勘定)の三つの態様に区分することができる(NUM1-iリンク参照)。

イ 平成23事業年度末に繰越欠損金を計上していた勘定における繰越欠損金の増減等の状況

(ア) 繰越欠損金が減少等しているもの

繰越欠損金が減少等した11法人15勘定については、繰越欠損金を計上した原因が態様①の主として業務遂行により発生する費用を賄うだけの十分な収益が得られていないことによるものが7法人11勘定あり、これに係る繰越欠損金の減少等額は多額に上っている。当該7法人11勘定について、繰越欠損金の減少等の原因等をみると、2法人2勘定では、補償金免除繰上償還(補償金免除相当額計2兆2127億余円)により財政融資資金からの借入金に係る金利負担が大幅に軽減されるなど国による実質的な財政支援を受けるなどして繰越欠損金が減少等していた。また、4法人4勘定では、各勘定に係る事業に関して、国が制度の見直しをしたり、事業を取り巻く環境が変化したりしたことなどに伴って利益が増加したことにより繰越欠損金が減少等していた。そして、2法人4勘定では、中期目標等の指示に基づき、各勘定に計上された繰越欠損金の具体的な削減方法や削減目標額等を定めた計画を策定するなど、法人が繰越欠損金の計画的解消に向けた対応を行うなどして繰越欠損金が減少等していた(NUM2-aリンク参照)。

(イ) 繰越欠損金が増加している又は微減にとどまっているもの

23事業年度末に繰越欠損金を計上していた18法人28勘定のうち繰越欠損金が増加している又は微減にとどまっている7法人11勘定については、繰越欠損金を計上した原因が態様①の主として業務遂行により発生する費用を賄うだけの十分な収益が得られていないことによるものが6法人10勘定となっていた。当該6法人10勘定について、繰越欠損金が増加している又は微減にとどまっている原因をみると、1法人2勘定では、事業の実施に伴いほぼ毎事業年度損失を計上していて繰越欠損金が増加している。一方、事業を継続して行っている1法人1勘定及び新規の事業採択等を行っていない4法人7勘定では、過去に発生した繰越欠損金に比べて毎事業年度の利益が小さく繰越欠損金が増加している又は微減にとどまっている。そして、これらの5法人8勘定については、委託先の多くで事業化が進んでいないなどしていて、いずれの法人においても、毎事業年度の利益の額は繰越欠損金の額に比べて小さいものとなっているなどしていて、繰越欠損金を解消する見通しが立っていないと認められる(NUM2-iリンク参照)。

ウ 廃止された勘定及び廃止が見込まれるなどしている勘定における政府出資金の状況等

(ア) 廃止された勘定における政府出資金の状況等

検査対象30法人43勘定のうち、令和元事業年度末までに勘定を廃止した2法人2勘定は、共に勘定廃止の際の最終事業年度の貸借対照表において繰越欠損金を計上しており、勘定の廃止に際し、当該2法人2勘定に係る政府出資金計312億余円に対して、計47億余円が国庫に納付されたが、残りの計265億余円は繰越欠損金の処理に充てられたため回収されなかった(NUM3-aリンク参照)。

(イ) 廃止が見込まれるなどしている勘定における政府出資金の状況等

検査対象30法人43勘定のうち、元事業年度末に繰越欠損金を計上していて、現在は新規の事業採択等を行っていない7法人10勘定のうち4法人7勘定は、繰越欠損金を計上した原因が態様①の主として業務遂行により発生する費用を賄うだけの十分な収益が得られていないことによるもので、平成23事業年度末から令和元事業年度末までの間に繰越欠損金が増加したり、微減にとどまっていたりしていて、繰越欠損金を解消する見通しが立っていないと認められるものである。そして、当該7勘定にはいずれも政府出資が行われており、元事業年度末の繰越欠損金の額は計1575億余円となっていて、政府出資金計1755億余円に迫る水準となっていた(NUM3-iリンク参照)。

エ 繰越欠損金の計画的解消等に係る目標の設定及び目標に対する評価の状況

(ア) 中期目標等における繰越欠損金の計画的解消等に係る目標の設定状況

現行の中期目標等期間の開始事業年度の期首に繰越欠損金を計上していた14法人19勘定のうち2法人2勘定については、次のとおり、主務大臣は繰越欠損金の計画的解消等に係る目標を中期目標に設定していなかった。都市再生機構(宅地造成等経過勘定)については、収益性のある業務を遂行する独立行政法人のうち、原則、区分経理する勘定の一つ以上に繰越欠損金が計上されている法人の主務大臣は、繰越欠損金の計画的解消等について中期目標等に定めることとされているのに、同機構の主務省である国土交通省は、同機構全体でみると繰越欠損金は解消されているため繰越欠損金の計画的解消等に係る目標を設定していなかった。

なお、情報処理推進機構(事業化勘定)については、同機構の主務省である経済産業省は実質的に事業を実施していないため目標として設定していなかった。

一方、繰越欠損金の計画的解消等に係る目標が財務内容の改善に関する事項として設定されていた9法人12勘定について、当該中期目標等の記載内容をみると、繰越欠損金の計画的解消等について、いつまでにどのように改善するのかを具体的かつ明確に目標に定めていたものもあれば、具体的かつ明確に目標に定めているかが必ずしも判然としないものも見受けられた(NUM4-aリンク参照)。

(イ) 元事業年度における目標に対する評価の状況

繰越欠損金の計画的解消に係る目標が財務内容の改善に関する事項として設定されていて、毎事業年度の利益が小さく繰越欠損金が増加又は微減にとどまっている5法人7勘定について、繰越欠損金の計画的解消等に係る目標に対する元事業年度の自己評価及び年度評価の状況をみると、各法人は、自己評価において否定的な評価をしていなかった。また、年度評価については、おおむね法人と同様の評価をしていた。このような状況は、繰越欠損金の計上額の規模を鑑みれば、必ずしも国民にとって分かりやすいものであるとはいえないと考えられる(NUM4-iリンク参照)。

(2) 所見

独立行政法人は、国民生活及び社会経済の安定等の公共上の見地から確実に実施されることが必要な事務及び事業であって、国が自ら主体となって直接に実施する必要のないもののうち、民間の主体に委ねた場合には必ずしも実施されないおそれがあるもの又は一の主体に独占して行わせることが必要であるものを効果的かつ効率的に行うことを目的として設立される法人である。そして、通則法によれば、独立行政法人は、その業務を確実に実施するために必要な資本金その他の財産的基礎を有しなければならないこととされており、国は、元年度末現在、15兆4193億余円を出資している。

繰越欠損金の解消は、独立行政法人の中長期の財務リスクを低減することになるが、検査対象30法人43勘定のうち、13法人18勘定は、元事業年度末において繰越欠損金を計上しており、その合計額は6384億余円と多額に上っている。また、独立行政法人は、政府出資等に係る不要財産については、通則法に基づき、遅滞なく、主務大臣の認可を受けて国庫に納付することとなっているが、繰越欠損金を計上している勘定が廃止された場合等には、政府出資金の一部又は全部が回収されないことがある。

したがって、主務省及び検査対象法人においては、次の点に留意して対応を検討することが必要である。

ア 繰越欠損金を計上した原因が主として業務遂行により発生する費用を賄うだけの十分な収益が得られていないことによるものとなっているもののうち、元事業年度末において繰越欠損金が解消されていない11法人15勘定については、繰越欠損金の解消について、法人において効率的な業務運営を図るとともに、法人が行う業務の公共的な性格を踏まえた政策的な見地から幅広い検討を行うことも重要であること

イ 新規の事業採択等を行っておらず、平成23事業年度末から令和元事業年度末までの間に繰越欠損金が増加したり、微減にとどまっていたりしている4法人7勘定は、いずれも繰越欠損金を解消する見通しが立っていないと認められるものであり、当該勘定に係る政府出資金の一部又は全部が回収されないおそれがあり、中長期の財務リスク(将来的に国民に予期せざる財務上の負担が生ずる可能性)が高まっていると認められることから、当該勘定を有する法人及びこれらの主務省においては、繰越欠損金が解消されず、当該勘定に係る政府出資金の一部又は全部が回収されないおそれのある状況を国民に丁寧に説明すること

ウ 国土交通省は、目標指針を踏まえて、都市再生機構(宅地造成等経過勘定)が達成すべき業務運営に関する目標として、同勘定の繰越欠損金の計画的解消等に関する目標を中期目標に設定するとともに、同機構は、当該中期目標の達成に向けた取組を行うこと。また、中期目標等に繰越欠損金の計画的解消等に係る目標が財務内容の改善に関する事項として設定されていた9法人の主務省は、評価の客観性の向上に資するためにも、中期目標等に、繰越欠損金の計画的解消等について、いつまでにどのように改善するのかを具体的かつ明確に定めているかを改めて検証した上で具体的かつ明確でないと思料される場合には、業務の内容に応じて、改めて具体的かつ明確な目標を設定するなどすること

会計検査院としては、独立行政法人における繰越欠損金の状況等について、今後とも多角的な観点から引き続き注視していくこととする。