国税庁は、法令解釈通達により確定申告書等の様式を定めている。また、税務署は納税者から提出された確定申告書等に基づき書面審査を行っている。しかし、独立行政法人中小企業基盤整備機構(以下「機構」という。)が中小企業倒産防止共済法(昭和52年法律第84号)等に基づき実施する中小企業倒産防止共済事業に係る基金に充てるための同法第2条第2項に規定する共済契約に係る掛金を支出した場合の特例について、その適用が適切なものとなっていないと認められるのに、個人の納税者の適切な申告を担保するための措置を執っていない事態及び解約手当金(以下「返戻金」という。)の額を総収入金額に算入すること(以下「収入計上」という。)が必要であることを納税者等に対して具体的に周知していなかったり、返戻金額の収入計上に係る審査体制を整備しておらず税務署において審査を適切に行うことができない状況となっていたりする事態が見受けられた。そして、国税庁は、本院の指摘を受けて、個人の納税者の適切な申告を担保するために必要な措置として令和3年6月に法令解釈通達を改正し、納税者の意思表示に必要な記載項目を示した明細書の様式を定めるとともに、定めた様式及び記載要領を国税庁のウェブサイトに掲載して納税者等に周知した。
したがって、上記法令解釈通達の改正等に加えて、今後、返戻金額の収入計上が適切に行われていない申告の発生を可能な限り防止するとともに、税務署の書面審査において納税者が共済契約の解約者であるかどうかなどを確認した上で、返戻金額が適切に収入計上されているかなどの審査を行うことができるよう、国税庁長官に対して同年10月に、会計検査院法第36条の規定により次のとおり改善の処置を要求した。
本院は、国税庁において、その後の処置状況について会計実地検査を行った。
検査の結果、国税庁は、本院指摘の趣旨に沿い、次のような処置を講じていた。
ア 3年12月に、返戻金額の収入計上を行う必要があることについて明記した「令和3年分青色申告の決算の手引き(一般用)」等を国税庁のウェブサイトに掲載するなどして納税者等に周知した。
イ 資料情報制度を活用して、3年11月に機構に対して文書を発して、毎年1月1日から12月31日までの1年間の返戻金の支払を受けた者の情報について、翌年1月末までに情報提供するよう依頼し、機構から提供を受けた当該情報を各国税局等に送付することとした。そして、4年2月に返戻金に関する情報の活用について各国税局等に指示文書を発して、各税務署等において、返戻金に関する情報と返戻金を受け取った者の申告書等との照合を行って返戻金額の収入計上の有無を確認することなどとした。これらにより、返戻金額の収入計上に係る審査体制を整備した。