1件 不当と認める国庫補助金 60,021,000円
後期高齢者医療制度は、高齢者の医療の確保に関する法律(昭和57年法律第80号)に基づき、都道府県の区域ごとに当該区域の全ての市町村(特別区を含む。以下同じ。)が加入して設ける後期高齢者医療広域連合(以下「広域連合」という。)が、当該区域内に住所を有する後期高齢者(75歳以上の者又は65歳以上75歳未満の者で一定の障害の状態にある者をいう。)を被保険者として、その疾病、負傷又は死亡に関して、療養の給付、葬祭費の支給等を行うものである。
後期高齢者医療制度については各種の国庫助成が行われており、その一つとして、同法に基づき、広域連合に対して財政調整交付金が交付されている。財政調整交付金は、後期高齢者医療の財政を調整するために交付されるもので、普通調整交付金と特別調整交付金がある。このうち特別調整交付金は、広域連合について特別の事情がある場合に、その事情を考慮して交付されるもので、結核性疾病及び精神病に係る医療給付費(注1)が多額である場合に交付されるもの(以下「結核・精神病特別交付金」という。)などがある。
結核・精神病特別交付金等の概要は次のとおりである。
結核・精神病特別交付金の額は、「後期高齢者医療の調整交付金の交付額の算定に関する省令」(平成19年厚生労働省令第141号)によれば、次のとおり算定することとされている。
① 広域連合を組織する市町村(以下「構成市町村」という。)ごとに、当該構成市町村の被保険者に係る医療給付費を集計するなどして得た額(以下「調整前調整対象需要額」という。)に対して、結核性疾病又は精神病に係る医療給付費を集計するなどして得た額(以下「結核・精神病に係る額」という。)の占める割合(以下「結核・精神病に係る額の割合」という。)を算出する。
② 結核・精神病に係る額の割合が100分の15を超える構成市町村について、当該構成市町村ごとに、調整前調整対象需要額に、結核・精神病に係る額の割合から100分の15を控除した割合を乗じて得た額の10分の8以内の額を算定し、その合計額を結核・精神病特別交付金の額とする(算定式参照)。
(算定式)
上記のうち結核・精神病に係る額は、結核性疾病又は精神病が主傷病である場合の額であるとされており、具体的には、診療報酬明細書等(以下「レセプト」という。)を表1のとおり分類して、傷病名欄に結核性疾病又は精神病が「主傷病」と記載されているもの(以下「主傷病レセプト」という。)に係る医療給付費を集計したものとされている。
表1 結核・精神病に係る額の算出におけるレセプトの分類
レセプトの傷病名欄 | 分類 | 集計の対象となる医療給付費 |
---|---|---|
結核性疾病又は精神病が「主傷病」と記載 | 主傷病
レセプト |
全額 |
上記以外 | 上記以外 | ― |
一方、国民健康保険の財政調整交付金(後掲「国民健康保険の財政調整交付金が過大に交付されていたもの」参照)のうちの特別調整交付金においても、結核性疾病及び精神病に係る医療給付費等が多額である場合に交付されるもの(以下「国保結核・精神病特別交付金」という。)がある。
国保結核・精神病特別交付金の算定方法は、結核・精神病特別交付金の算定方法とおおむね同様となっている。ただし、結核・精神病に係る額に相当する額(以下「国保結核・精神病に係る額」という。)を算出する際は、レセプトを表2のとおり分類して、①傷病名欄に結核性疾病又は精神病のみが記載されているレセプトや、傷病名欄に結核性疾病又は精神病を含む複数の傷病が記載され、結核性疾病又は精神病が主要疾病と判定されたレセプト(以下、両者を合わせて「主要疾病レセプト」という。)については、その医療給付費を集計することとされており、②傷病名欄に結核性疾病又は精神病を含む複数の傷病が記載され、結核性疾病又は精神病を主要疾病としないレセプト(以下「副疾病レセプト」という。)については、医療給付費のうち入院基本料等に係るもののみを集計することとされている。
上記主要疾病の判定は、診療の対象となった傷病のうち点数が最大であるものを主要疾病とすることなどとされている。他方、主傷病レセプトにおける「主傷病」は、医師の判断により記載されるものであり、主要疾病としての判定とは異なるものである。
表2 国保結核・精神病に係る額の算出におけるレセプトの分類
レセプトの傷病名欄 | 分類 | 集計の対象となる医療給付費 | |
---|---|---|---|
結核性疾病又は精神病のみが記載 | 主要疾病レセプト |
全額 | |
結核性疾病又は精神病を含む複数の傷病が記載 | |||
結核性疾病又は精神病が主要疾病であると判定 | |||
結核性疾病又は精神病が主要疾病でないと判定 | 副疾病
レセプト |
入院基本料等のみ | |
上記以外 | 上記以外 | ― |
このように、結核・精神病に係る額と国保結核・精神病に係る額とでは集計方法が異なっており、結核・精神病に係る額は、その集計対象が主傷病レセプトのみであることから、国保結核・精神病に係る額に比べて集計対象が限定されている。
このため、結核性疾病又は精神病の治療を受けている国民健康保険の被保険者が加齢等により後期高齢者医療制度の被保険者になる場合、それまでは国が国保結核・精神病特別交付金として負担していた額の一部を広域連合が負担することになる可能性がある。そこで、国保結核・精神病に係る額を算出する際の集計方法と同様の集計を行った額を結核・精神病に係る額とみなした上で、この場合の結核・精神病に係る額の割合が100分の15を超えるときは、結核・精神病特別交付金とは別に、経過措置として特別調整交付金が交付されることとなっている(以下、これを「結核・精神病特別交付金(経過措置分)」という。)。そして、平成29年度以降の結核・精神病特別交付金(経過措置分)の算定に当たっては、前年度に交付を受けた結核・精神病特別交付金(経過措置分)の額を上限とすることとなっている。
財政調整交付金の交付手続において、都道府県は、広域連合が提出する交付申請書及び事業実績報告書の内容を審査した上で厚生労働省に提出することとなっている。
本院が、28年度から令和2年度までに交付された財政調整交付金について、8道県(注2)の8広域連合において会計実地検査を行うとともに、2県(注3)の2広域連合から事業実績報告書等の関係書類の提出を受けるなどして検査したところ、1広域連合において、次のとおり適正とは認められない事態が見受けられた。
部局等 |
補助事業者 (事業主体) |
交付金の種類 |
年度 |
交付金交付額 | 左のうち不当と認める額 |
|
---|---|---|---|---|---|---|
千円 | 千円 | |||||
(106) | 福岡県 |
福岡県後期高齢者医療広域連合 |
特別調整交付金(結核・精神病特別交付金(経過措置分)等) |
平成28~令和元 |
259,977,700 | 60,021 |
福岡県後期高齢者医療広域連合(以下「福岡県広域連合」という。)は、平成28年度から令和元年度までの結核・精神病特別交付金の額の算定に当たり、誤って、主傷病レセプトではなく主要疾病レセプトを集計対象としていたため、結核・精神病に係る額の割合が過大となっていた。
また、福岡県広域連合は、平成28年度から令和元年度までの結核・精神病特別交付金(経過措置分)の額の算定に当たり、傷病名欄に結核性疾病又は精神病を含む複数の傷病が記載されているレセプトのうち結核性疾病又は精神病に係る点数が総点数の2割を超えるものを、点数が最大の傷病になると見込んで主要疾病レセプトに分類していた。しかし、実際には点数が最大の傷病とはなっていないものが含まれるなどしており、本来、副疾病レセプトに分類すべきレセプトを主要疾病レセプトに分類するなどしていたことから、結核・精神病に係る額の割合が過大となっていた。
したがって、適正な結核・精神病に係る額の割合を算定し、これに基づくなどして財政調整交付金の額を算定すると、計60,021,000円が過大に交付されていて、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、福岡県広域連合において財政調整交付金の交付額の算定に当たり制度の理解が十分でなかったこと、福岡県において事業実績報告書の審査が十分でなかったことなどによると認められる。