厚生労働省は、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)等に基づき、国民健康保険の保険者である市町村(特別区等を含む。以下同じ。)に対して、低所得者を多く抱える保険者の財政基盤を強化することを目的として保険基盤安定負担金(以下「負担金」という。)を交付している。同法等によれば、市町村は、保険者支援分として、当該年度に納付すべきとして賦課した一般被保険者に係る保険料(保険税を含む。以下同じ。)の総額(以下「保険料算定額」という。)を一般被保険者の数で除して算定した一般被保険者一人当たりの平均保険料算定額に、保険料の軽減割合ごとに区分して集計した世帯に属する一般被保険者の数及び所定の割合をそれぞれ乗じて得た額を合算した額を算定し、この額を一般会計から当該市町村の国民健康保険に関する特別会計に繰り入れなければならない(以下、これにより繰り入れる金額を「繰入金額」という。)こととされており、国は、繰入金額の2分の1に相当する額を負担金として交付することとされている。そして、国民健康保険保険基盤安定負担金交付要綱によれば、負担金の交付決定には、証拠書類を整理し、保管しておかなければならないことなどの条件が付されることとされている。しかし、負担金の交付額を算定する際に用いる保険基盤安定負担金繰入金額算出基礎表(以下「算出基礎表」という。)を確認したところ、保険料算定額のうち、一般被保険者について算定した均等割額の総額(以下「均等割総額」という。)は一般被保険者数に各市町村が条例で定める均等割額を乗じて得られる額と一致し、世帯について算定した平等割額の総額は世帯数に各市町村が条例で定める平等割額を乗じて得られる額と一致するものであるのに、111市町村においては、少なくともいずれかが一致していないため、負担金の交付額が適正に算定されていないと認められた。そして、これらの市町村では、算出基礎表を作成するために必要なデータ(以下「算定用データ」という。)の抽出条件を誤るなどしており、このうち12市町において負担金の交付額が過大となっている事態並びに84市町村において過年度分の算定用データをシステムから抽出することができず適正な繰入金額及び負担金の交付額を算定できない事態が見受けられた。
したがって、厚生労働大臣に対して令和3年10月に、次のとおり是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求めた。
本院は、厚生労働本省において、その後の処置状況について会計実地検査を行った。
検査の結果、厚生労働省は、本院指摘の趣旨に沿い、次のような処置を講じていた。
ア 12市町のうち、返還の必要がないと判明した1市を除いた11市町に対して、4年3月に返還を求めた。また、84市町村に対して、市町村が保有している各種資料に基づき適切に負担金の交付額を算定させ、過大に交付されていたと認められる負担金相当額があった41市町村のうち、34市町村に対しては過大に交付されていたと認められる負担金相当額の全額について、3市町に対してはそのうちの一部の金額について、同月にそれぞれ返還を求めた。
イ 3年12月に、厚生労働省が都道府県及び市町村との間で運用しているポータルサイトに通知を掲載することにより、繰入金額及び負担金の交付額の算定に当たり、これらに用いる算定用データを抽出する時点等の抽出条件について、市町村に対して周知徹底した。
ウ イの通知により、負担金の事業実績報告書の審査並びに繰入金額及び負担金の交付額の算定に当たり、均等割総額が一般被保険者数に均等割額を乗じて得られる額と一致しているかなどの具体的な確認方法を示すことにより、適正な繰入金額に基づき負担金の交付額が算定されているかを確認することについて、都道府県及び市町村に対して周知した。
エ イの通知により、負担金の交付額を再度算定する場合に必要となる世帯数等のデータを交付決定の条件に従って適切に整理し、保管することについて、市町村に対して周知した。
一方、厚生労働省は、アの過大に交付されていたと認められる負担金相当額があった41市町村のうち全額の返還を求めた34市町村を除く7市町について、4市に対しては過大に交付されていたと認められる負担金相当額の全額について、3市町に対しては過大に交付されていたと認められる負担金相当額から既に返還を求めた金額を除いた残りの金額について、今後返還を求めることとしている。