本院は、国が資本金の2分の1以上を出資していて、その会計が会計検査院法(昭和22年法律第73号)第22条の規定により、会計検査院の検査を必要とするものとされている法人(以下「政府出資法人」という。)を対象として、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防止するための対策等による政府出資法人の財務等への影響について、正確性、経済性、効率性、有効性等の観点から、①新型コロナウイルス感染症の感染拡大の前後で各法人の財務にどのような変化が生じているか、また、これに係る財務情報等は適切に開示されているか、②新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防止するための対策等により、各法人の事業の実施に係る費用及び収益にどの程度の影響があったか、中止した事業に要した費用や休止するなどしている施設の運営に要した費用はどのようになっているか、経費削減の状況はどのようになっているかに着眼して検査した。
(以下、各法人の名称中、「独立行政法人」「国立研究開発法人」及び「国立大学法人」は記載を省略した。)
開催を予定していたものの新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により中止した催物の準備等により生じた費用のうち、役務の提供はなされていないがキャンセル料を支払っているものなどの中には、契約書等において、天災等の不可抗力により催物を中止する場合の費用負担について定められていなかったり、契約当事者の協議によることとする旨のみが定められていたりなどしていて、催物を中止することにした後に契約相手方と協議して支払額を決定していたものが、11法人(注1)において計1億8217万余円見受けられた。
11法人のうちキャンセル料等の支払額が最も大きかったのは、伝統芸能の公開等として、毎事業年度(注2)(以下、年度と事業年度とを合わせて「年度」という。)多数の催物を開催している日本芸術文化振興会であり、同会は、今後も同種の催物を反復して開催することが見込まれ、法人内における取決めとして新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により催物の開催を中止することになった場合の費用負担の方針を決定しているのに、これを契約書等において定めていなかった。
独立行政法人、国立大学法人及び大学共同利用機関法人(以下、国立大学法人と大学共同利用機関法人とを合わせて「国立大学法人等」という。)が設置して運営している施設のうち、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響等により令和2年度の開館日数が平成30年度と比較して100日以上減少するなどした施設等計35施設について、各年度の施設に係る事業の費用のうち運営費交付金又は国立大学運営費交付金(以下、これらを合わせて「運営費交付金」という。)が充てられるなどしている額(施設に係る事業の費用から利用料等の当該事業により生ずる収益を控除した額。以下「交付金等充当額」という。)を利用者数で除した額(以下「利用者1人当たり交付金等充当額」という。)を試算したところ、令和2年度に年間を通じて施設を休止していて利用者がいなかったため利用者1人当たり交付金等充当額が算定できないなどの施設を除く27施設のうち、2年度の利用者1人当たり交付金等充当額が平成30年度と比べて2倍以上に増加した施設が23施設となっていて、このうち5倍以上に増加した施設が17施設となっていた。
このような状況を踏まえて、35施設において、令和2年度に、施設を休止したり、利用者が減少したりしたことにより不必要となった業務を見直すなどして経費削減を実施しているかについて各法人に確認したところ、来館者対応業務、警備業務、設備管理業務等に係る委託業務の中に、契約を変更するなどして経費削減を実施した委託業務があったとしていた施設が27施設あり、経費節減額は概算で計2億6978万余円となっていた。一方、いずれの委託業務についても、業務の見直しなどによる経費削減を実施していないとしていた施設は6施設、委託している業務がないとしていた施設は2施設となっていた。
そこで、委託業務の見直しなどによる経費削減を実施していた施設と、実施していない施設の数について、平成30年度の施設に係る事業の費用に対する交付金等充当額の割合(以下「交付金等充当額の割合」という。)の別にみたところ、交付金等充当額の割合が80%未満の施設においては、全て委託業務の見直しなどによる何らかの経費削減が実施されていたのに対して、交付金等充当額の割合が80%以上の施設については、20施設のうち6施設において、委託業務の見直しなどによる経費削減が実施されていなかった。
そして、会計実地検査において確認することができた2施設のうち、交付金等充当額の割合が100%の1施設において、経費削減のための検討が十分でないと認められる委託業務が見受けられた。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により、固定資産が使用されている業務の実績が著しく低下するなどしており、固定資産が使用されている業務の実績が、中期計画等における想定のおおむね50%以下となっていて著しく低下していると判断されるなど、固定資産に減損が生じている可能性を示す事象(以下「減損の兆候」という。)があるとして財務諸表に注記していた法人が45法人見受けられた。そして、減損の兆候があるとされた固定資産は、計404件、帳簿価額計1304億余円となっていた。
一方、減損の兆候に係る注記をしていない法人のうち国立大学法人等13法人(注3)は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により固定資産が使用されている業務の実績が著しく低下するなどしていることを把握しており、固定資産の種類や用途等についても減損の兆候があるとして財務諸表に注記していた国立大学法人等とおおむね同様となっていた。しかし、13法人のうち金沢大学以外の12法人は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により業務の実績が著しく低下するなどした場合には減損の兆候があると判定する必要はないと考えたり、研究の遅延や中断に係る取扱いが適用できるとして、業務の実績が相当程度回復することを客観的に説明できることから、減損の兆候はないと判定したりしていた。
また、金沢大学は、減損の兆候があると判定していたものの、減損の兆候があって減損の認識をしなかった場合に、財務諸表に注記しなければならないことについての認識が欠けていたため、財務諸表に注記をしていなかった。
政府出資法人は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、新型インフルエンザ等対策特別措置法(平成24年法律第31号)に基づく都道府県からの要請を受けるなどして、各法人が実施している事業の一部を中止したり、設置している施設を休止したり、補助金等(補助金、補給金、交付金等のうち運営費交付金以外のもの)の交付を受けるなどして新型コロナウイルス感染症対策に係る事業を実施したりなどしている。
政府出資法人においては、国から多様な財政支援を受け、公共上の見地から確実に実施されることが必要な事業等を実施していることなどを踏まえて、引き続き新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防止するための対策等を確実に実施しつつ、各独立行政法人の名称、目的、業務の範囲等に関する事項を定める法律、国立大学法人法(平成15年法律第112号)並びに特殊法人及び認可法人の設立の根拠となる法律において定められている法人の目的を的確に達成し、あわせて、将来、新型コロナウイルス感染症の感染拡大と同様の状況が生じた際にも適切に対応することができるよう、次の点に留意する必要がある。また、文部科学省においては、次のウの点に留意する必要がある。
本院としては、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防止するための対策等による政府出資法人の財務等への影響について、今後とも多角的な観点から引き続き注視していくこととする。