新型コロナウイルス感染症は、令和元年12月に発生が確認されて以降、国内外で感染が拡大し、パンデミック(世界的な大流行)の状況となった。我が国においては、2年1月15日に国内初の感染者が確認されて、「新型コロナウイルス感染症を指定感染症として定める等の政令」(令和2年政令第11号)が同月28日に公布され、2月1日に施行されて、新型コロナウイルス感染症が「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(平成10年法律第114号)第6条第8項の指定感染症として定められるとともに、1月30日には、新型コロナウイルス感染症対策本部(以下「政府対策本部」という。)の設置が閣議決定された。
その後、新型インフルエンザ等対策特別措置法の一部を改正する法律(令和2年法律第4号)が同年3月13日に公布され、同月14日に施行されて、新型コロナウイルス感染症が暫定的に新型インフルエンザ等対策特別措置法(平成24年法律第31号。以下「特別措置法」という。)における新型インフルエンザ等とみなされることとなり、同月26日に政府対策本部を特別措置法第15条第1項の規定に基づくものとするよう上記の閣議決定が一部改正された。そして、同年4月以降に感染者数が増加してきたことなどから、政府対策本部は特別措置法第32条の規定に基づき、4月7日に、緊急事態措置を実施すべき期間を同日から5月6日までの間、緊急事態措置を実施すべき区域を東京都、大阪府、埼玉、千葉、神奈川、兵庫、福岡各県とする緊急事態宣言を発出し、4月16日には同宣言の対象区域を全都道府県に拡大したが、期間の延長や対象区域の変更を経て、5月25日に緊急事態解除宣言が発出された。その後、再び感染者数が増加するなどして、3年1月以降、緊急事態宣言が数次にわたり発出されるなどしたが、9月30日をもって緊急事態措置を実施すべき期間が終了している。
また、3年2月13日に特別措置法が改正され、まん延防止等重点措置(注1)(以下「重点措置」という。)が創設された。政府対策本部は、特別措置法第31条の4第1項の規定に基づき、同年4月1日に、重点措置を集中的に実施する必要がある事態が発生した旨を公示し、9月30日をもって重点措置を実施すべき期間を終了したが、その後、再び感染者数が増加するなどして、4年1月7日に、重点措置を集中的に実施する必要がある事態が発生した旨を公示した(同年2月末までの緊急事態宣言の発出等の状況については別図表1参照)。
特別措置法によれば、地方公共団体は、新型コロナウイルス感染症等対策を総合的に推進することとされており、事業者及び国民は、新型コロナウイルス感染症等の予防及び感染の拡大の防止に努めるとともに、新型コロナウイルス感染症等対策に協力するよう努めなければならないこととされている。
また、地方公共団体は、政府対策本部が定める新型コロナウイルス感染症等への基本的な対処の方針に基づき、多数の者が利用する施設を管理する者又は当該施設を使用して催物を開催する者に対し、施設の使用の制限、催物の開催の制限等の措置を講ずるよう要請することなどができることとされている。そして、事業者は、新型コロナウイルス感染症等のまん延により生ずる影響を考慮し、その事業の実施に関し、適切な措置を講ずるよう努めなければならないこととされている。
政府対策本部は、2年3月に、特別措置法に基づき、新型コロナウイルス感染症への基本的な対処の方針として「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針(注2)」(以下「基本的対処方針」という。)を決定しており、2年度末時点の基本的対処方針においては、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防止するために、「まん延防止」に係る対策として次のような内容が示されている。
このほか、基本的対処方針によれば、水際対策について、政府は、国内への感染者の流入及び国内での感染拡大を防止する観点から、入国制限、渡航中止勧告、帰国者の検査・健康観察等の検疫の強化、査証の制限等の措置等を実施することとされている。
また、医療について、都道府県は、病床がひっ迫する場合に、軽症患者等に宿泊施設等での療養を要請することで医療提供体制の確保を図ること、医療機関は、必要に応じ、医師の判断により延期が可能と考えられる予定手術や予定入院の延期を検討し、空床確保に努めることとされている。
さらに、経済・雇用対策について、政府は、官民の金融機関による実質無利子・無担保融資等により雇用・事業・生活をしっかり守っていくこととされている。
国は、公共上の見地から確実に実施されることが必要な事業であって国が自ら主体となって直接に実施する必要のないものなどについて、国が設立するなどした法人に実施させており、これらの法人の組織形態は、独立行政法人、国立大学法人、大学共同利用機関法人、特殊法人、認可法人等様々なものがある。
このうち、独立行政法人は、国民生活及び社会経済の安定等の公共上の見地から確実に実施されることが必要な事務及び事業であって、国が自ら主体となって直接に実施する必要のないもののうち、民間の主体に委ねた場合には必ずしも実施されないおそれがあるもの又は一の主体に独占して行わせることが必要であるものを効果的かつ効率的に行わせるために設立された法人である。そして、独立行政法人の制度の基本となる共通の事項は、独立行政法人通則法(平成11年法律第103号。以下「通則法」という。)において定められており、各独立行政法人の目的、業務の範囲等は、各法人の名称、目的、業務の範囲等に関する事項を定める法律(以下「個別法」という。)において定められている。
国立大学法人及び大学共同利用機関法人(以下「国立大学法人等」という。)は、公共上の見地から確実に実施する必要がある事業として、大学の教育研究に対する国民の要請に応えるとともに我が国の高等教育及び学術研究の水準の向上と均衡ある発展を図ることを目的として設立された法人である。そして、国立大学法人等の目的、業務の範囲等は、国立大学法人法(平成15年法律第112号)において定められている。
特殊法人は、法律により直接に設立される法人又は特別の法律により特別の設立行為をもって設立すべきものとされる法人であり、認可法人は、特別の法律により設立され、かつ、その設立に関し行政官庁の認可を要する法人である(以下、特殊法人及び認可法人の設立の根拠となる法律を「特殊法人等設置根拠法」といい、個別法及び国立大学法人法と合わせて「設置根拠法」という。)。そして、特殊法人及び認可法人の各法人の目的、業務の範囲等は、特殊法人等設置根拠法において定められており、各法人は、特殊法人等設置根拠法に基づき、公共上の見地から確実に実施される必要はあるが、一定の採算性があって企業的経営による方がより効率的に継続して実施できる事業等を実施している。
そして、国は、これらの法人が行う事業の公共性・公益性に着目して、的確な事業の遂行及び経営基盤の安定を図るために必要な場合には、法人に対して出資を行っている。国が出資を行っている法人のうち、3年3月末現在で、国が資本金の2分の1以上を出資していて、その会計が会計検査院法(昭和22年法律第73号)第22条の規定により、会計検査院の検査を必要とするものとされている法人(以下「政府出資法人」という。)は、独立行政法人が83法人(注7)、国立大学法人等が89法人(注8)、特殊法人、認可法人等が32法人(注9)(以下、これらの特殊法人、認可法人等を合わせて「特殊法人等」という。)の計204法人となっている(別図表2参照)。
上記のとおり、国は、政府出資法人が行う事業の公共性・公益性に着目して、的確な事業の遂行及び経営基盤の安定を図るために必要な場合には、法人に対して出資を行っているほか、補助金、補給金、交付金等を交付するなどの多様な財政支援を行っている。
また、独立行政法人、国立大学法人等は、通則法及び国立大学法人法によれば、その業務を確実に実施するために必要な資本金その他の財産的基礎を有しなければならないこととされている。そして、国は、予算の範囲内において、独立行政法人、国立大学法人等に対し、その業務の財源に充てるために必要な金額の全部又は一部に相当する金額を交付することができることとされており、業務運営の財源に充てるために必要な資金として運営費交付金又は国立大学運営費交付金(以下、これらを合わせて「運営費交付金」といい、補助金、補給金、交付金等のうち運営費交付金以外のものを「補助金等」という。)を交付している。
通則法及び国立大学法人法によれば、独立行政法人、国立大学法人等は、独立行政法人を所管する主務大臣又は文部科学大臣が定めた中期目標等を達成するための中期計画等を作成し、主務大臣又は文部科学大臣の認可を受けなければならないこととされている。そして、通則法、国立大学法人法等によれば、独立行政法人、国立大学法人等は、毎年度、損益計算において利益を生じたときは、前年度から繰り越した損失を埋め、なお残余があるときは、その残余の額は、原則として積立金として整理しなければならないこととされており、中期目標等の期間(以下「中期目標等期間」という。)の最後の年度に、上記の利益又は損失の処理を行った後、積立金があるときは、主務大臣又は文部科学大臣の承認を受けた金額を控除した残余の額を国庫に納付しなければならないことなどとされている。
通則法、国立大学法人法等によれば、独立行政法人、国立大学法人等の会計には、原則として「「独立行政法人会計基準」及び「独立行政法人会計基準注解」」(平成12年2月独立行政法人会計基準研究会策定)、国立大学法人会計基準(平成16年文部科学省告示第37号)等(以下、これらを合わせて「独法会計基準等」という。)を適用することとされている。また、独立行政法人、国立大学法人等は、毎年度、貸借対照表、損益計算書等の財務諸表を作成し、当該年度の終了後3月以内に主務大臣又は文部科学大臣に提出して、その承認を受けなければならないこととされている。そして、財務諸表を提出する際には、事業報告書等を添付しなければならないこととされている。
特殊法人等のうち株式会社については、原則として、会社法(平成17年法律第86号)に基づき、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従って、会社計算規則(平成18年法務省令第13号)に準拠した貸借対照表、損益計算書等の計算書類を作成することとなっている。また、特殊法人等のうち株式会社以外の法人については、特殊法人等設置根拠法に基づくなどして、独法会計基準等、特殊法人等会計処理基準(昭和62年10月財政制度審議会公企業会計小委員会報告)等により、貸借対照表、損益計算書等を作成している(以下、独立行政法人、国立大学法人等が作成する財務諸表、特殊法人等が作成する計算書類その他の政府出資法人が作成している貸借対照表、損益計算書等を合わせて「財務諸表等」という。)。そして、特殊法人等は、特殊法人等設置根拠法等に基づき、毎年度、事業報告書等を添付した財務諸表等を所管大臣に提出して承認を受けるなどしている。
独法会計基準等によれば、運営費交付金は、独立行政法人、国立大学法人等に対して国から負託された業務の財源であり、運営費交付金の交付をもって直ちに収益と認識することは適当でないとされている。そのため、独立行政法人、国立大学法人等は、国から運営費交付金を受領したときは、その相当額を運営費交付金債務として負債に計上することとされていて、その後、業務の進行に応ずるなどして運営費交付金債務を運営費交付金収益等に振り替えることとされている。そして、中期目標等期間の最後の年度においては、業務の進行に応ずるなどして運営費交付金債務を運営費交付金収益等に振り替えて、なお運営費交付金債務が残る場合は、運営費交付金の精算のために当該残額を収益に振り替えることとされている。
運営費交付金債務を運営費交付金収益に振り替える際の基準(以下「収益化基準」という。)には、業務達成基準(業務の進行に応じて振り替える方法)、期間進行基準(一定の期間の経過を業務の進行とみなして振り替える方法)等がある。独法会計基準等によれば、独立行政法人については、原則として業務達成基準を採用することとされているが、国立大学法人等における教育研究という業務の実施に関しては、一般に進行度の客観的な測定が困難であるため、国立大学法人等については、原則として、期間進行基準を採用することとされている。
また、独法会計基準等によれば、独立行政法人、国立大学法人等は、国等から補助金等を受領したときは、その相当額を預り補助金等として負債に計上することとされていて、その後、補助金等の交付の目的に従って実施する業務に係る経費の支出に応ずるなどして預り補助金等を補助金等収益等に振り替えることとされている(以下、運営費交付金債務、預り補助金等を運営費交付金収益、補助金等収益等にそれぞれ振り替えることを「収益化」という。)。
このほか、特殊法人等のうち株式会社については、「収益認識に関する会計基準」(平成30年3月企業会計基準委員会)によれば、履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識することとされており、履行義務には、一時点で充足されるものと一定の期間にわたり充足されるものがあるが、一定の期間にわたり充足される履行義務については、履行義務の充足に係る進捗度を見積もり、当該進捗度に基づき収益を一定の期間にわたり認識することとされている。
独法会計基準等によれば、固定資産の減損とは、固定資産に現在期待されるサービス提供能力が当該財産の取得時に想定されたサービス提供能力に比べ著しく減少し将来にわたりその回復が見込めない状態等とされている。そして、固定資産が使用されている業務の実績が、中期計画等における想定のおおむね50%以下となっていて著しく低下していると判断されるなど、固定資産に減損が生じている可能性を示す事象(以下「減損の兆候」という。)がある場合には、減損の認識をするかどうかの判定を行わなければならないこととされている。そして、減損を認識するかどうかの判定の結果、減損を認識する場合には、当該固定資産の帳簿価額を固定資産の時価から処分費用見込額を控除して算定される額等まで減額する会計処理を行わなければならないこととされている。また、減損の認識をするかどうかの判定の結果、減損を認識しなかった場合であっても、法人の評価に資するなどの観点から、減損の兆候が認められた固定資産の用途、帳簿価額等の概要等を財務諸表に注記することとされている。このほか、国立大学法人等については、研究の遅延や中断が生じた場合であっても、当該研究について実施又は再開がなされ、研究の実績が相当程度回復することを客観的に説明できる場合には、直ちに減損の兆候として判定する必要はないとされている。
一方、会社計算規則等によれば、固定資産の減損とは、資産の収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった状態とされている。また、営業活動から生ずる損益又はキャッシュ・フローが継続してマイナスとなっているなどの減損の兆候がある場合に、減損を認識するかどうかの判定を行い、減損を認識すべき資産については、相当の減額をした額を資産の価格として付すこととされている。そして、会社計算規則等では、独法会計基準等と異なり、減損の兆候があって減損を認識しなかった場合に財務諸表に注記することにはなっていない。
国立大学法人会計基準等によれば、国立大学法人等は、多数の法人が同種の業務を行うため、国立大学法人等の間における会計情報の比較可能性の確保を強く要請されることから、その会計処理の原則及び手続に関する選択性は原則として排除されるとされている。そして、具体的には、教育・研究の基礎を形成する事項を含めた国立大学法人等の「基本構造に関する原則」については選択適用は認められないとされており、「基本構造に関する原則」とは、資産、負債、純資産、費用、収益等の定義や分類等を意味するとされている。