会計検査院は、平成29年6月5日、参議院から、国会法第105条の規定に基づき下記事項について会計検査を行いその結果を報告することを求める要請を受けた。これに対し同月6日検査官会議において、会計検査院法第30条の3の規定により検査を実施してその検査の結果を報告することを決定した。
一、会計検査及びその結果の報告を求める事項
(一)検査の対象
内閣、内閣府、復興庁、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省、独立行政法人日本スポーツ振興センター等
(二)検査の内容
東京オリンピック・パラリンピック競技大会に関する次の各事項
国際オリンピック委員会(以下「IOC」という。)は、25年9月に、アルゼンチン共和国ブエノスアイレスで開かれたIOC総会において、令和2年夏に開催予定の第32回オリンピック競技大会及び第16回パラリンピック競技大会の開催都市を東京とすることを決定した。
IOC、東京都及び公益財団法人日本オリンピック委員会(以下「JOC」という。)の3者は、平成25年9月に開催都市契約を締結して、IOCから東京都及びJOCに東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下「大会」という。)の計画、組織、資金調達及び運営が委任された。そして、開催都市契約に基づき、26年1月に東京都及びJOCの拠出により一般財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(27年1月1日以降は公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会。令和4年6月30日解散。以下「大会組織委員会」という。)が設立され、平成26年8月に開催都市契約の当事者に追加された。
国においては、大会が大規模かつ国家的に特に重要なスポーツの競技会であることに鑑み、大会の円滑な準備及び運営を支援するために、25年9月に東京オリンピック・パラリンピック担当大臣(27年6月以降は東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会担当大臣。以下「オリパラ担当大臣」という。)が任命された。27年5月には平成三十二年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会特別措置法(平成27年法律第33号。令和2年12月以降は令和三年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会特別措置法。以下「オリパラ特措法」という。)が成立して、平成27年6月に施行された。そして、オリパラ特措法に基づき、内閣に、東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会推進本部(以下「オリパラ推進本部」という。)が設置され、また、大会の円滑な準備及び運営に関する施策の総合的かつ集中的な推進を図るための基本方針として、同年11月に「2020年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会の準備及び運営に関する施策の推進を図るための基本方針」(以下「オリパラ基本方針」という。)が閣議決定された。
オリパラ推進本部は、オリパラ基本方針の作成に関すること、オリパラ基本方針の実施を推進することのほか、大会の円滑な準備及び運営に関する施策で重要なものの企画及び立案並びに総合調整に関することを所掌しており、その事務については内閣官房東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会推進本部事務局(以下「オリパラ事務局」という。)が処理することとされた。
また、オリパラ基本方針によれば、政府は、各府省等に分掌されている大会に関連して政府が講ずべき施策(以下、大会に関連して講ずべき施策を「大会の関連施策」という。)を一体として確実に遂行して、大会組織委員会、東京都等との密接な連携を図ることなどの基本的な考え方に基づき、大会の関連施策の立案と実行に取り組むこととされた。
以上の内容を踏まえて、大会の開催に向けた主な取組体制の概要を示すと図表0-1のとおりとなっており、大会組織委員会が主体となって大会の準備及び運営を行い、東京都は開催都市としての大会の関連施策の立案及び実行により、JOCは国内オリンピック委員会(注1)としての取組の実施により、それぞれ大会組織委員会の取組を様々な形で支援することになった。そして、国は、オリパラ推進本部が行う総合調整の下、各府省等による大会の関連施策の立案及び実行により、大会組織委員会を主体とする開催都市契約の国内当事者の取組を様々な形で支援することになった。また、公益財団法人日本障がい者スポーツ協会日本パラリンピック委員会(令和3年10月1日以降は公益財団法人日本パラスポーツ協会日本パラリンピック委員会。以下「JPC」という。)は国内パラリンピック委員会(注2)としての取組の実施により、東京都以外の地方公共団体、民間団体等は各種取組の実施により、それぞれ開催都市契約の国内当事者の取組を様々な形で支援することになった。
図表0-1 大会の開催に向けた主な取組体制の概要
大会に向けた取組は幅広い分野に関わることから、関係する各機関は、大会の円滑な準備及び運営に関する取組を行うために、大会組織委員会を中心として相互に連携して、実施すべき内容等について調整を図りながら、それぞれの機関の取組内容を決定して、実施する必要がある。
IOCは、オリンピック憲章等に基づき、大会組織委員会による開催準備の進展について、関係機関との協力関係を含めて、監視して指導するために、IOCの代表等で構成する調整委員会を設置して、大会の計画、組織、資金調達及び運営に関する決定、活動及び進捗状況の確認を行うこととした。調整委員会は、平成26年6月から令和3年5月までに計11回開催された。
大会組織委員会、東京都、国、JOC及びJPCは、平成26年1月に「東京オリンピック・パラリンピック調整会議」(以下「調整会議」という。)を設置して、大会組織委員会会長、東京都知事、文部科学大臣、オリパラ担当大臣、JOC会長及びJPC会長の6者により、大会の準備及び運営における特に重要な事項について調整を図ることとした。調整会議は、定期的に開催することとはされておらず、25年度から令和元年度までに計18回開催されて、大会組織委員会の組織体制、大会開催基本計画、大会に向けた進捗状況等を議題とした。
国は、大会の円滑な準備に資するよう、関係府省庁の所管する事務を調整するために、オリパラ推進本部の下に全府省庁の事務次官等を構成員とする「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会関係府省庁連絡会議」を設置した。また、同会議の下には、2年9月に、大会の開催における新型コロナウイルス感染症対策について総合的に検討、調整することを目的として、大会組織委員会、東京都、国、JOC、JPC、感染症の専門家等を構成員とする「東京オリンピック・パラリンピック競技大会における新型コロナウイルス感染症対策調整会議」(以下「コロナ調整会議」という。)が設置された。
大会の開催に向けた関係機関の連携体制を示すと図表0-2のとおりである。
図表0-2 大会の開催に向けた関係機関の連携体制の概念図
東京都及び特定非営利活動法人東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会(平成26年3月解散。以下「招致委員会」という。)は、関係機関と調整の上、25年1月に、詳細な大会計画である立候補ファイルをIOCへ提出した。立候補ファイルは、ビジョン、財政等の14のテーマについて、IOCからの質問状に回答する形で作成された。
立候補ファイルによれば、万が一、大会組織委員会が資金不足に陥った場合には、東京都がこれを補塡することを保証するとともに、東京都が補塡しきれなかった場合には、最終的に政府が国内の関係法令に従い補塡するなどとされていた。また、立候補ファイルの提出に当たっては、IOCの要請として、大会組織委員会が資金不足に陥った場合に、それを補塡する旨の「管轄当局における財政保証書」を提出することが求められていた。政府は、東京都の依頼に基づき、内閣総理大臣名の財政に関する政府保証書を発行しており、当該政府保証書は、東京都及び招致委員会によりIOCへ提出された。そして、当該政府保証書には、政府は、大会組織委員会に財政赤字が生じた場合、関係国内法令に従って、最終的に赤字を補塡するなどと記載されていた。
なお、東京都は、28年にブラジル連邦共和国リオデジャネイロで開催された第31回オリンピック競技大会の開催都市にも立候補していたが、この際にも、上記と同じ内容の財政に関する政府保証書が内閣総理大臣名で発行されており、当該政府保証書は、21年2月に、同大会の立候補ファイルと共にIOCへ提出された。政府は、当該政府保証書の性格等について問う質問主意書への答弁として、政府としての政治的な意思の表明として発出されたものであるなどと説明している。
大会組織委員会、東京都及び国は、29年5月に、大会の役割及び経費の分担について協議した。そして、大会に関する経費のうち、国立競技場を始めとする新規恒久施設の整備費用及び大会運営等の経費を「大会経費」(注3)とし、施設改修、セキュリティ、ドーピング対策、大会の気運醸成等の行政的経費については「大会経費」に含まれないものとして整理された。
そして、同月に、大会組織委員会、東京都、国及び11都外自治体(注4)(東京都外の競技会場が所在する地方公共団体をいう。以下同じ。)は、大会におけるそれぞれの役割分担及び経費分担に関する基本的な方向性について、「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の役割(経費)分担に関する基本的な方向について」のとおり合意した(以下、この合意を「大枠の合意」という。)。
これによれば、国は、次のとおり大会の役割及び経費を分担することとされた。
① オリパラ基本方針等に基づき大会の関連施策を実施すること
② 大会経費のうち、パラリンピック競技大会の競技会場の整備及び運営に必要な経費等(以下「パラリンピック経費」という。)の4分の1相当額を負担すること
③ 国立競技場の整備を実施すること
④ 大会経費以外に、国として担うべきセキュリティ対策やドーピング対策等を実施すること
⑤ その他、オールジャパンでの取組を推進するために必要な協力・支援を行うこと
また、大枠の合意に基づき、大会組織委員会、東京都及び国等の関係者が役割分担及び経費分担に応じて資金を負担するパラリンピック経費等に係る事業については、大会組織委員会が、共同実施事業として実施することとされた。
そして、同年9月に、大会組織委員会、東京都及び国は、コスト管理・執行統制等の観点から、共同実施事業の適切な遂行に資する管理を行うことを目的として、大会組織委員会による各種取組等について確認の上、必要に応じて指摘等を行う協議の場として共同実施事業管理委員会を設立した。
大会組織委員会、東京都、国等は、大会に関する経費をそれぞれ公表しており、大会前に公表された経費の詳細は次のとおりとなっていた。
立候補ファイルによれば、大会経費の試算額(立候補ファイルを作成した24年時点での予算の見積額)は計7340億余円(うち大会組織委員会3013億余円、非大会組織委員会4327億余円)とされていた。立候補ファイルにおける試算額は、他の立候補都市と比較可能となるようIOCの基準により計上対象となる経費が指定されており、東京都及び招致委員会がこれに基づきIOCや専門家等にヒアリングを行った上で算出したものとなっていた。このため、施設整備については施設本体の工事費のみが計上されていて設計費用が計上されていなかったり、仮設施設及びオーバーレイ(注5)に係る原状復旧費用が計上されていなかったり、輸送やセキュリティ等の大会の運営に要する経費が一部しか計上されていなかったりなどしていて、大会経費の全体を試算したものとはなっていない。
大会組織委員会は、28年12月以降、毎年12月に、大会組織委員会の収支に加えて、東京都及び国に係る大会終了までの間に必要な大会経費を見込んだV予算を公表してきた。
28年12月に公表されたV1予算における大会経費の総額は、予備費を除き計1兆5000億円となっていた。大会組織委員会は、V1予算について、大会組織委員会とその他(大会組織委員会以外)の経費を整合的に取りまとめるために一定の仮定を置き、大会開催に必要な支出項目を分野ごと(仮設等、輸送、セキュリティ等)に区分し、立候補ファイルにおける試算額に計上されていなかった経費を含めて算出して、初めて大会経費の全体像を明らかにしたものとしている。ただし、このうち、大会組織委員会以外が担うこととされた1兆円の負担者については明示されておらず、これについて、大会組織委員会は、V1予算は公表時点での大会組織委員会の考えを明らかにしたものであり、これを基に、東京都、国及び関係自治体と協議するとしていた。
29年12月に、同年5月の大枠の合意等に基づきV1予算を精査したV2予算が公表された。V2予算は、大会組織委員会自らの予算に加えて、初めて東京都と国のそれぞれの負担額を具体的に示したものとなっていて、これらを合わせたV2予算における大会経費の総額は1兆3500億円となっていた。
V予算の公表は令和2年12月のV5予算が最終となっており、これによれば、東京都及び国の負担分を加えたV5予算における大会経費の総額は1兆6440億円となっていた。
(ア)の立候補ファイルにおける試算額とV1予算からV5予算までにおける大会経費の総額の変遷は図表0-3のとおりである。
図表0-3 立候補ファイルにおける試算額及びV予算における大会経費の総額の変遷
大会組織委員会 | 非大会組織委員会 | 計 | |
---|---|---|---|
立候補ファイル における試算額 <平成25年1月提出> |
3013 | 4327 | 7340 |
大会組織委員会 | 東京都 | 国 | 計 | |
---|---|---|---|---|
V1予算 <平成28年12月公表> |
5000 | 1兆0000 | 1兆5000 | |
V2予算 <29年12月公表> |
6000 (600) |
6000 (300) |
1500 (300) |
1兆3500 (1200) |
V3予算 <30年12月公表> |
6000 (600) |
6000 (300) |
1500 (300) |
1兆3500 (1200) |
V4予算 <令和元年12月公表> |
6030 (600) |
5970 (300) |
1500 (300) |
1兆3500 (1200) |
V5予算 <2年12月公表> |
7210 (900) |
7020 (450) |
2210 (450) |
1兆6440 (1800) |
図表0-4 東京都が公表した大会経費及び大会関連経費の変遷(平成30年度~令和3年度)
区分予算年度 | 大会経費 | 大会関連経費 |
---|---|---|
平成30年度(30年1月公表) | 6000 | 8100 |
令和元年度(平成31年1月公表) | 6000 | 8100 |
令和2年度(2年1月公表) | 5975 | 7766 |
3年度(3年1月公表) | 7170 | 7349 |
2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会関係予算(以下「オリパラ関係予算」という。)は、各府省等がオリパラ基本方針に基づき実施する大会の関連施策の実効性を担保して、その進行管理に資するようオリパラ事務局が取りまとめて公表したものである。
オリパラ事務局は、オリパラ関係予算の公表に先立ち、その要件を各府省等に対して示した上で該当するものの事業名及び予算額を登録させた(以下、オリパラ事務局が各府省等に登録させて整理した予算額を「登録額」という。)。
上記の登録に当たっては、次の要件の両方に該当するものをオリパラ関係予算として整理することとされた。
① 大会の運営又は大会の開催機運の醸成や成功に直接資すること
② 大会招致を前提に、新たに又は追加的に講ずる施策であること(実質的な施策の変更・追加を伴うものであり、単なる看板の掛け替えは認めない。)
そして、オリパラ事務局は、平成28年1月から令和3年1月までの間に計8回、原則として翌年度当初予算案の閣議決定後に、オリパラ関係予算の登録額と、それまでに公表した過年度のオリパラ関係予算の登録額との合計額を公表(注7)していた。
オリパラ関係予算の公表は3年1月が最終となっており、これによれば、平成25年度当初予算から令和3年度当初予算までのオリパラ関係予算の登録額の合計額は、図表0-5のとおり約3959億円となっていた。
図表0-5 オリパラ事務局が公表したオリパラ関係予算の年度別の登録額(平成25年度~令和3年度)
年度 | 平成 25年度 |
26年度 | 27年度 | 28年度 | 29年度 | 30年度 | 令和 元年度 |
2年度 | 注(3) 2年度 減額 補正 |
3年度 | 計 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
登録額 | 283 | 264 | 138 | 330 | 524 | 351 | 350 | 1515 | △ 248 | 452 | 3959 |
オリパラ推進本部は、オリパラ特措法に基づき、各府省等が実施する大会の関連施策等の状況について、「2020年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会の準備及び運営の推進に関する政府の取組の状況に関する報告」(以下「政府の取組状況報告」という。)を、平成29年5月、30年5月、令和元年6月、2年6月及び3年6月の計5回、国会へ提出して公表した。政府の取組状況報告には、各府省等が実施する大会の関連施策の取組状況について、前年度まで、当該年度、今後のそれぞれの主な取組内容等が記載されている。オリパラ事務局は、政府の取組状況報告の作成に当たり、大会の関連施策の具体的な定義を策定することは困難であるとして、各府省等がオリパラ基本方針に基づき自ら実施する施策のうち大会に関連すると判断したものについて、各府省等と共にオリパラ基本方針の方向性と合致するかを確認の上、大会の関連施策として取りまとめたとしている。
前記参議院からの要請により実施した会計検査の結果については、平成30年10月4日及び令和元年12月4日に、会計検査院長から参議院議長に対してそれぞれ報告している(以下、元年12月の報告を「元年報告」という。)。
元年報告における検査結果に対する所見は次のとおりである。
国は、平成25年9月に大会の開催都市を東京都とすることが決定されて以降、大会の準備及び運営の主体である大会組織委員会、開催都市である東京都等が実施する取組の支援を行っているところである。
大枠の合意においては、国は、東京都、大会組織委員会、関係自治体と共に、大会の準備及び運営に関する具体的な業務について、会場の状況等に即して内容を精査の上、実施に当たっては進行管理に万全を期していくとしており、これまで、関係者間の連携を図るために様々な連絡会議等が実施され、大会の準備に関する進行管理等を行ってきているところであるが、大会の開催も間近に迫り、準備も大詰めを迎えようとしている。そのうち、大会施設については、JSC(注8)及びJRA(注9)が整備等を行っている新国立競技場を始めとした競技会場のように既に整備がほぼ完了しているものもあるが、大会を支障なく実施するためには、さらに、大会組織委員会がその一部の経費にパラリンピック交付金を充てて実施する仮設整備及びオーバーレイ整備を適切に実施する必要がある。また、大会施設の維持管理や運営、レガシーの創出等の大会終了後も見据えた準備等も着実に実施していく必要がある。
ついては、オリパラ事務局、各府省等、JSC及びJRAは、大会の成功に向けて、引き続き次の点に留意するなどして、大会組織委員会、東京都、都外自治体等の関係機関と相互に緊密な連携を図って大会の準備、運営等に係る取組を適時適切に実施していく必要がある。
ア オリパラ事務局は、国が担う必要がある業務について国民に周知して理解を求めるために、各府省等から情報を集約して、業務の内容、経費の規模等の全体像を把握して公表することについて充実を図っていくこと
イ 国は、共同実施事業管理委員会の一員として、共同実施事業負担金のうちパラリンピック交付金を財源の一部とするパラリンピック経費について、大会組織委員会の会計処理規程、契約書等に基づく適切な会計経理が行われたものであるか、また、パラリンピック経費の基本的な考え方に沿ったものとなっているかなどの確認がより的確に行われるように働きかけていくこと
ウ JSC及びJRAは、引き続き、大会の開催に支障のないよう、所有する大会施設の仮設整備及びオーバーレイ整備を実施する大会組織委員会と十分な調整を行っていくこと
エ JSCは、引き続き文部科学省、関係機関等と協議するなどして速やかに大会終了後の新国立競技場の改修に関する内容の検討を行ったり、民間の投資意向等と国及びJSCの財政負担等を総合的に勘案しつつ財務シミュレーション等を行ったりすること、文部科学省は、その内容を基に民間事業化に向けた事業スキームの検討を基本的考え方に沿って遅滞なく進めること
オ 大会の関連施策を実施する各府省等は、大会組織委員会、東京都等と緊密に連携するなどして、その実施内容が大会の円滑な準備及び運営並びに大会終了後のレガシーの創出に資するよう努めること、特に大会の開催に向けて更なる取組が必要と認められた事業については、個々の施策の目的に沿って課題等の解消に向けて取り組むこと、オリパラ事務局は、引き続き大会の関連施策の実施状況について政府の取組状況報告等の取りまとめにより把握するとともに、各府省等と情報共有を図るなどしてオリパラ基本方針の実施を推進すること
オリパラ事務局は、上記の所見アを受けて、元年6月に公表された政府の取組状況報告に記載された14府省等(注10)が実施する計340事業(元年報告において、同事業に対する平成25年度から30年度までの支出額として報告した経費計1兆0600億余円)について、各府省等に改めてそれぞれの所管する事業と政府の取組状況報告及びオリパラ関係予算との関係等を記入する事業シートの提出を求めるなどの調査を行い、令和2年1月に「会計検査報告(第2弾)の指摘を踏まえた調査結果について」(以下「第2弾調査結果」という。)を公表した。第2弾調査結果では、図表0-6のとおり、元年報告で報告した340事業、1兆0600億余円について、大会との関連性に着目して、A分類、B分類、C分類の三つに分類している。
図表0-6 元年報告で報告した大会の関連施策についてのオリパラ事務局による分類
また、オリパラ事務局は、第2弾調査結果において、「大会施設の整備・改修等への国庫補助等」が5施設、総額64億円であったこと、JSCがスポーツ振興くじ助成金を活用して実施する「東京オリンピック・パラリンピック競技大会等開催助成」(以下「オリパラ開催助成」という。)の総額が74億円であったことについても、併せて公表した。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、大会の開催時期が約1年延期されたり、原則として無観客により開催(注11)されたりするなど、大会の実施に多大な影響が生じた。新型コロナウイルス感染症の感染拡大に対する大会組織委員会等の対応等について、時系列で示すと図表0-7のとおりである。
図表0-7 新型コロナウイルス感染症の感染拡大に対する大会組織委員会等の対応等
時期 | 事柄 |
---|---|
令和 元年12月 |
中華人民共和国湖北省武漢市において新型コロナウイルス感染症の発生を確認 |
2年3月 | 大会の開催時期を約1年延期することに合意(IOC、大会組織委員会、東京都及び国) |
IOC臨時理事会が延期後の大会の開催日程を承認 オリンピック競技大会:3年7月23日~8月8日 パラリンピック競技大会:同年8月24日~9月5日 |
|
4月 | 大会準備の枠組みについて合意(IOC及び大会組織委員会) |
6月 | 参議院決算委員会、平成30年度決算審査措置要求決議(「大会の延期に係る対応等について」) |
9月 | 大会の延期を踏まえた52の簡素化項目・内容に合意(調整委員会) |
第1回コロナ調整会議の開催(計7回開催) | |
10月 | 大会組織委員会がIOC理事会に対して大会の簡素化に伴う経費の削減効果が約300億円であることを報告 |
開催都市契約に大会の開催延期に伴う必要な修正を行うことに合意(IOC、大会組織委員会、東京都及びJOC) | |
11月 | 平成三十二年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会特別措置法等の一部を改正する法律(令和2年法律第68号)が成立 |
衆議院文部科学委員会及び参議院文教科学委員会において、上記法律の施行に当たり、政府、東京都及び大会組織委員会に対して、可能な限り大会の開催経費の抑制を図ること、追加的経費を含めた総経費の内訳や分担に係る情報公開、説明に努めることなどについて配慮を求める附帯決議 | |
12月 | コロナ調整会議が大会における新型コロナウイルス感染症対策についての中間整理を取りまとめ |
追加経費の負担の合意(大会組織委員会、東京都及び国) | |
大会組織委員会がV5予算(総額1兆6440億円)を公表 | |
3年1月 | 令和2年度第3次補正予算の成立 |
2月 | 第20回共同実施事業管理委員会の開催(「新型コロナウイルス感染症対策関連の経費の公費負担スキームについて」等) |
3月 | 海外からの観客の受入れを断念することに合意(IOC、IPC、大会組織委員会、東京都及び国) |
4月 | 政府が、参議院決算委員会において、平成30年度決算審査措置要求決議について講じた措置を報告 |
7月 | オリンピック競技大会を原則として無観客で開催することを決定(IOC、IPC、大会組織委員会、東京都、国及び地方公共団体) |
大会の開会 | |
8月 | パラリンピック競技大会を原則として無観客で開催することを決定(IPC、大会組織委員会、東京都、国及び地方公共団体) |
9月 | 大会の閉会 |
12月 | 無観客開催に伴う負担の合意(大会組織委員会、東京都及び国) |
図表0-7に掲げた事柄のうち、主なものに関する詳細は次のとおりである。
2年3月に、IOC、大会組織委員会、東京都及び国は、4者による協議において、大会の開催時期を約1年延期することに合意した。
同年6月に、参議院決算委員会は「平成30年度決算審査措置要求決議」を行い大会の延期に関する事項について次のとおり決議した。
1 東京オリンピック・パラリンピック競技大会の延期に係る対応について
東京オリンピック・パラリンピック競技大会については、新型コロナウイルス感染症の世界的拡大を受けて、開催が1年延期されることとなった。しかしながら、開催延期に伴う追加費用の総額や費用分担は明らかにされておらず、また、アスリートへの支援、競技会場やスタッフの確保、ホストタウンへの対応、感染症対策の徹底など、延期に伴う諸課題が指摘されている。
政府は、人類が新型コロナウイルス感染症に打ちかって大会を開催できるよう、国際オリンピック委員会(IOC)や大会組織委員会、東京都及び各競技団体等との緊密な連携の下、追加費用の精査や費用分担の明確化を進めるとともに、世界各地から日本を訪れる選手や観客が安心して滞在できる受入れ体制を整備するなど、大会の開催・成功に向けた対応に全力で取り組むべきである。
同年11月に、大会の延期を踏まえて、平成三十二年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会特別措置法等の一部を改正する法律(令和2年法律第68号)が成立した。これに際して、衆議院文部科学委員会及び参議院文教科学委員会は附帯決議を行い、同法の施行に当たり、政府及び関係者に対して特段の配慮を求めている。このうち、大会に関する経費に係る事項については次のとおりとなっている。
本大会の延期及び新型コロナウイルス感染症対策に伴い追加的な経費が必要になることが見込まれることから、政府、東京都及び大会組織委員会は、可能な限り本大会の開催に要する経費の抑制を図るとともに、追加的経費を含めた総経費の内訳や分担について適切に情報を公開し、丁寧な説明に努めること。
同年12月に、コロナ調整会議は、大会における新型コロナウイルス感染症対策について中間整理を取りまとめた。そして、大会組織委員会、東京都及び国は、中間整理を踏まえた必要な対策を着実に実施して、その際に、それぞれの役割に基づいて責任を果たすこととして、必要となる追加経費の負担について、「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の追加経費の負担について」のとおり合意した(以下、この合意を「追加経費の負担の合意」という。)。
追加経費の負担の合意において総額2670億円程度とされた追加経費は、新型コロナウイルス感染症対策関連の追加経費(以下「コロナ対策に伴う追加経費」という。)960億円程度と、大会延期に伴う追加経費1710億円程度に区分されていた。そして、コロナ対策に伴う追加経費のうち、アスリート等に係る検査体制の整備や大会組織委員会が設置する感染症対策センター等に要する経費160億円程度については、国が全額を負担すること、その他の経費800億円程度については、東京都及び国がそれぞれ2分の1ずつ負担することとされていた。また、大会延期に伴う追加経費のうちパラリンピック経費に係る追加経費相当分600億円程度については、大枠の合意に基づき国が4分の1相当額を負担することとされていた(図表0-8参照)。
図表0-8 追加経費の負担の合意の内容
追加経費
負担者
|
大会組織 委員会 |
東京都 | 国 | 3者計 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
コロナ対策に伴う追加経費 | - | 400億円程度 | 560億円程度 | 960億円程度 | |||||
アスリート等に係る検査体制等の整備 | - | - | 160億円程度 | 160億円程度 | |||||
上記以外 | - | 400億円程度 | 400億円程度 | 800億円程度 | |||||
大会延期に伴う追加経費 | 760億円程度 | 800億円程度 | 150億円程度 | 1710億円程度 | |||||
パラリンピック経費相当分 | 300億円程度 | 150億円程度 | 150億円程度 | 600億円程度 | |||||
上記以外 | 460億円程度 | 650億円程度 | - | 1110億円程度 | |||||
追加経費 計
|
760億円程度 | 1200億円程度 | 710億円程度 | 2670億円程度 |
2年12月に大会組織委員会が公表した総額1兆6440億円のV5予算は、前年に公表したV4予算における大会経費の総額1兆3500億円に2940億円(上記の追加経費2670億円及びV4予算に計上された予備費270億円の計)を加えたものとなっていた。
国は、追加経費の負担の合意を受けて、コロナ対策に伴う追加経費960億円程度のうち国が負担する560億円程度及び大会延期に伴う追加経費1710億円程度のうち国が負担する150億円程度を賄うために、3年1月に、令和2年度第3次補正予算において東京オリンピック・パラリンピック競技大会新型コロナウイルス感染症対策交付金(以下「コロナ対策交付金」という。)560億円及び東京パラリンピック競技大会開催準備交付金(以下「パラリンピック交付金」という。)の追加交付額150億円を計上した。そして、同年2月に開催された共同実施事業管理委員会において、新型コロナウイルス感染症対策に要する経費(以下「コロナ対策経費」という。)については、コロナ対策交付金を財源の一部とするとともに、共同実施事業として共同実施事業管理委員会がその内容等を確認することとされた。
前記の「平成30年度決算審査措置要求決議」に対して、政府は、3年4月の参議院決算委員会において、「平成30年度決算審査措置要求決議について講じた措置」として、大会の追加経費について、大会組織委員会、東京都及び国で協議を行い、費用分担について合意して、令和2年度第3次補正予算及び令和3年度当初予算において、国が負担する追加経費等の大会の延期に伴う感染症対策等の事業等について所要の措置を講ずることとしたことなどを報告した。
3年3月に、IOC、IPC、大会組織委員会、東京都及び国による協議において、海外からの観客の受入れを断念することとされた。そして、同年7月にIOC、IPC、大会組織委員会、東京都、国及び地方公共団体による協議等においてオリンピック競技大会を原則として無観客で開催することが、同年8月にIPC、大会組織委員会、東京都、国及び地方公共団体による協議等においてパラリンピック競技大会を原則として無観客で開催することが、それぞれ決定された。このため、V5予算において大会組織委員会の収入7210億円の12.4%を占めていた900億円のチケット売上げのほとんどが見込めなくなった(後掲第2の1(2)イ参照)。
大会終了後の3年12月に、大会組織委員会、東京都及び国の3者は、大枠の合意と追加経費の負担の合意に基づき予算を計上してきた経緯と、V5予算決定以降における新型コロナウイルス感染症に係る新たな変異株の出現等による状況の変化を踏まえて、3者における役割分担及び経費分担について、「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の大会経費の取扱いについて」のとおり合意した(以下、この合意を「無観客開催に伴う負担の合意」という。)。無観客開催に伴う負担の合意においては、大会の無観客開催を含むV5予算決定以降の後発的事象について、大枠の合意で定められた大会経費の負担割合の考え方に基づき、国は、共同実施事業のパラリンピック経費とコロナ対策経費に係る支出を行うこと、東京都は、開催都市として安全・安心な大会の円滑な実施の観点から、V5予算の範囲内で共同実施事業負担金(安全対策)を支出することなどが確認された。
オリパラ推進本部は、4年3月31日にオリパラ特措法上の設置期限が到来して解散した。これに伴い、オリパラ事務局が廃止されて、オリパラ事務局が処理することとされていた事務は、内閣官房オリンピック・パラリンピックレガシー推進室(以下「レガシー推進室」という。)に移管された。その後、同年7月1日にレガシー推進室も廃止されて、レガシー推進室がオリパラ事務局から移管を受けた事務は、スポーツ庁に移管された。また、大会組織委員会は、同年6月27日に開催した評議員会において、同月30日をもって法人の存続期間を満了する定款変更を決議した。これに伴い、同日に大会組織委員会は存続期間を満了して解散し、清算法人へ移行した。
大会組織委員会が大会の準備・運営に当たって作成した文書のうち、アーカイブ資産(注12)については、IOC、IPC、大会組織委員会、東京都、JOC及びJPCの6者で「アーカイブ資産協定」を締結している。同協定によれば、JOCが引渡しを受けて、資産管理・活用等機関(東京都(江戸東京博物館、中央図書館等)等)と資産管理活用契約を締結し、同機関が保存・管理・利活用を行うこととされている。
一方、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(平成18年法律第48号)に基づき、清算人によって保存される帳簿並びにその事業及び清算に関する重要な資料については、清算人が清算結了後10年間保存することとなっており、大会組織委員会は、裁判所の許可があれば閲覧可能であるとしている。また、このうち財務諸表、事業計画書、理事会資料等については、アーカイブ資産として大会組織委員会からJOCにも引き渡すとしている。
会計検査院は、元年報告において、2年(当時の予定)には大会の開催を迎えて、国も大会組織委員会、東京都等と共に、大会の準備や運営に注力していくことになることから、引き続き、大会の開催に向けた取組等の状況及び各府省等が実施する大会の関連施策等の状況について総括的な検査を実施して、その結果については、大会の終了後に取りまとめが出来次第報告することとした。
元年報告以降、4(1)のとおり、新型コロナウイルス感染症の感染拡大による大会延期の決定を受けて、大会組織委員会は、国立競技場等の大会施設の仮設整備(注13)、オーバーレイ整備等の見直しを行う一方で、国は、パラリンピック経費やコロナ対策経費について大会組織委員会に追加の交付金を交付するなどして、延期後の大会開催に向けた準備を行ってきた。そして、3年夏に、大会は原則として無観客で開催された。
そこで、会計検査院は、前記参議院からの要請に係る大会に関する各事項について、合規性、経済性、効率性、有効性、透明性の確保(注14)及び国民への説明責任の向上(注14)等の観点から、次の点に着眼して検査した。
(ア) 大会のために国が負担した経費は最終的にどのようになっているか。また、JSCによる大会の支援額はどのようになっているか。
(イ) 大会組織委員会、東京都、国及びJSCが大会のために負担した経費の総額はどのようになっているか。
(ウ) オリパラ事務局、オリパラ事務局から事務の移管を受けたレガシー推進室及びスポーツ庁は、大会終了後、大会のために国が負担した経費の総額やオリパラ関係予算の支出額等について、元年報告の所見を踏まえて、国民に対して十分な情報提供を行っているか。
(エ) コロナ対策に伴う追加経費や大会延期に伴う追加経費はどのようになっているか。
(オ) JSC、JRA、東京都、大会組織委員会、都外自治体である6県3市町(注15)等における大会施設の整備、大会のために取得した財産の活用状況等はどのようになっているか。大会終了後の国立競技場の運営管理、活用方法等の検討等について、元年報告以降の進捗状況はどのようになっているか。
(カ) 国が東京都を通じて大会組織委員会に交付するパラリンピック交付金及びコロナ対策交付金を財源の一部として実施される共同実施事業について、大会組織委員会による執行、共同実施事業管理委員会による確認及び東京都による負担金の額の確定は適切に行われているか。また、パラリンピック交付金及びコロナ対策交付金により東京都に造成された基金の残余額に係る国庫納付の状況はどのようになっているか。
(ア) 各府省等が実施する大会の関連施策について、元年報告以降の実施状況はどのようになっているか。
(イ) 30年報告及び元年報告において課題等が見受けられた大会の関連施策の実施状況は改善されているか(以下、元年報告の検査結果に対して執られた処置の状況について確認する検査を「フォローアップ検査」という。)。
大会の開催に向けた取組等の状況については、平成25年度から令和3年度までのオリパラ関係予算の執行状況、パラリンピック交付金及びコロナ対策交付金を財源の一部とする共同実施事業、平成25年度から令和3年度までにJSC及びJRAが実施した大会施設の整備並びに東京都、大会組織委員会及び都外自治体が国庫補助金等を活用するなどして実施した大会施設の整備状況等を対象として検査した。また、各府省等が実施する大会の関連施策等の状況については、平成25年度から令和3年度までに15府省等(注16)が実施した事業を対象として検査した。
検査に当たっては、13府省等(注17)の本省及び外局、2独立行政法人(注18)、JRA、16地方公共団体(4都県(注19)及び4都県の12市町村)、大会組織委員会並びに国庫補助金等交付先又は国の役務の請負人若しくは事務等の受託者である10法人において、大会施設の整備状況、大会の関連施策の実施状況等について、646人日を要して会計実地検査を行うとともに、15府省等の本省及び外局、8独立行政法人(注20)、JRA、443地方公共団体(35都道県(注21)及び47都道府県の408市区町村)、大会組織委員会並びに国庫補助金等交付先又は国の役務の請負人若しくは事務等の受託者である上記の10法人から調書、関係資料等の提出を受けて、その内容を確認するなどして検査した。また、公表されている資料等を基に調査分析を行った。
なお、大会組織委員会、JOC、地方公共団体等が国庫補助金等の交付を受けずに実施した大会のための取組については、会計検査院の検査権限が及ばないことから、協力が得られた範囲で説明を受けるなどして調査を行った。