20件 不当と認める国庫補助金 1,095,191,000円
国民健康保険(前掲「国民健康保険の療養給付費負担金が過大に交付されていたもの」参照)については各種の国庫助成が行われており、その一つとして、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)に基づき、都道府県が当該都道府県内の市町村(注1)(特別区を含む。以下同じ。)とともに行う国民健康保険について財政調整交付金が交付されている。
財政調整交付金は、都道府県及び当該都道府県内の市町村の財政の状況その他の事情に応じた財政の調整を行うために交付されるもので、普通調整交付金、特別調整交付金等がある。
普通調整交付金は、被保険者の所得等から一定の基準により算定される収入額(以下「調整対象収入額」という。)が、医療費等から一定の基準により算定される支出額(以下「調整対象需要額」という。)に満たない都道府県に対して、衡平にその満たない額を埋めることを目途として交付されるもので、医療費等に係るもの(以下「医療分」という。)、後期高齢者支援金(注2)等に係るもの(以下「後期分」という。)及び介護納付金(注3)に係るもの(以下「介護分」という。)の合計額が交付されている。そして、都道府県に対して交付された普通調整交付金は、他の公費等と合わせた上で、当該都道府県内の市町村による療養の給付等に要する費用に充てるための財源として、当該市町村に対して交付されている。
普通調整交付金の額は、「国民健康保険の調整交付金等の交付額の算定に関する省令」(昭和38年厚生省令第10号。以下「算定省令」という。)等に基づき、医療分、後期分及び介護分のいずれも、それぞれ当該都道府県の調整対象需要額から調整対象収入額を控除した額に基づいて算定することとなっている。そして、市町村は普通調整交付金の額の算定の基礎となる資料を作成して都道府県に提出し、都道府県はこれに基づいて調整対象需要額及び調整対象収入額を算定している。
特別調整交付金は、都道府県及び当該都道府県内の市町村について特別の事情がある場合に、その事情を考慮して当該都道府県に対して交付されるもので、国から都道府県に補助する都道府県分と都道府県を通じて市町村に補助する市町村分とに区分されている。都道府県分には、20歳未満被保険者財政負担増等特別交付金(注4)等があり、市町村分には、被扶養者減免特別交付金(注5)、非自発的失業軽減特別交付金(注6)、非自発的失業財政負担増特別交付金(注7)等がある。
そして、都道府県は、国から市町村分として交付された額を当該市町村に交付している。
特別調整交付金の額は、算定省令等に基づき、特別の事情ごとに算定することとなっている。そして、市町村は当該市町村分の特別調整交付金の額を算定して都道府県に提出し、都道府県は都道府県分の額を算定した上で市町村から提出される市町村分の額と合算して特別調整交付金の額を算定するなどしている。
財政調整交付金の交付手続について、交付を受けようとする都道府県は、厚生労働省に交付申請書及び事業実績報告書を提出し、これを受理した厚生労働省は、その内容を添付書類により、また、必要に応じて現地調査を行うことにより審査した上で、これに基づき、厚生労働省において交付決定及び交付額の確定を行うこととなっている。
本院は、平成30年度から令和4年度までに交付された財政調整交付金について、27都道府県(注8)並びに23道府県の187市町村及び1広域連合において会計実地検査を行うとともに、3府県(注9)及び1県の9市町から事業実績報告書等の関係資料の提出を受けるなどして検査した。その結果、8都府県及び9府県の12市において、①普通調整交付金の調整対象需要額を過大に算定していた事態、②普通調整交付金の調整対象収入額を過小に算定していた事態、③特別調整交付金のうち被扶養者減免特別交付金等の額を過大に算定していた事態が見受けられた。このため、財政調整交付金の交付額計271,728,250,000円のうち計1,095,191,000円が過大に交付されていて、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められる。
ア 財政調整交付金の交付額の算定に当たり、普通調整交付金及び都道府県分の特別調整交付金について、8都府県において確認が十分でなかったこと、厚生労働省において事業実績報告書の審査が十分でなかったこと
イ 財政調整交付金の交付額の算定に当たり、市町村分の特別調整交付金について、12市において制度の理解や確認が十分でなかったこと、9府県において確認が十分でなかったこと、厚生労働省において事業実績報告書の審査が十分でなかったこと
前記の①から③までの事態について、態様別に示すと次のとおりである。
① 普通調整交付金の調整対象需要額を過大に算定していた事態
普通調整交付金の調整対象需要額は、本来保険料で賄うべきとされている額であり、そのうち医療分の調整対象需要額は、次のとおり算定することとなっている。
このうち、一般被保険者に係る医療給付費は、療養の給付に要する費用の額から当該給付に係る被保険者の一部負担金に相当する額を控除した額と、入院時食事療養費、高額療養費等の支給に要する費用の額との合計額とすることとなっている。
7府県は、普通調整交付金の額の算定に当たり、負担軽減措置(注12)の対象者に係る療養の給付に要する費用の額等を二重に計上するなどしており、調整対象需要額を過大に算定していた。このため、普通調整交付金の額が過大となっていた。
② 普通調整交付金の調整対象収入額を過小に算定していた事態
普通調整交付金の調整対象収入額は、本来徴収すべきとされている保険料の額であり、医療分、後期分及び介護分に係るそれぞれの調整対象収入額は、一般被保険者(医療分及び後期分)又は介護納付金賦課被保険者(介護分)の数を基に算出される応益保険料額と、それらの者の所得を基に算出される応能保険料額とを合計した額となっている。
このうち、医療分、後期分及び介護分に係る応能保険料額は、一般被保険者又は介護納付金賦課被保険者の所得金額(以下「基準総所得金額」という。)に一定の方法により計算された率を乗じて算出することとなっている。そして、基準総所得金額は、保険料の賦課期日(毎年4月1日)現在において一般被保険者又は介護納付金賦課被保険者である者の前年における所得金額の合計額を基に算出することとなっている。
4府県は、普通調整交付金の額の算定に当たり、基準総所得金額を過小に算出しており、調整対象収入額を過小に算定していた。このため、普通調整交付金の額が過大となっていた。
前記①及び②の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
大阪府は、令和元年度から3年度までの普通調整交付金に係る実績報告に当たり、市町村から普通調整交付金の額の算定の基礎となる資料の提出を受け、これに基づき普通調整交付金の額を算定していた。しかし、同府松原市から元年度に提出された資料において、同市は、負担軽減措置の対象者に係る療養の給付に要する費用の額等を誤って二重に計上するなどしており、元年度の一般被保険者に係る医療給付費を2,062,114,000円過大に算出していた。このほか、元年度から3年度において、同府内の17市町から提出された資料にも、一般被保険者に係る医療給付費を過大に算出するなどの誤りがあった。その結果、同府は医療分に係る調整対象需要額を過大に算定していた。
また、同府阪南市から元年度に提出された資料において、同市は、当該資料を作成する電算システムへの入力に当たり、基礎資料からの転記を誤り、後期分の基準総所得金額を199,606,000円過小に算出していた。このほか、2、3両年度において、同府内の2市町から提出された資料にも、医療分の基準総所得金額を過小に算出するなどの誤りがあった。その結果、同府は医療分及び後期分の調整対象収入額を過小に算定していた。
そこで、適正な一般被保険者に係る医療給付費により算定した調整対象需要額及び適正な基準総所得金額により算定した調整対象収入額に基づき算定すると、普通調整交付金の額計492,014,000円が過大となっていた。
③ 特別調整交付金のうち被扶養者減免特別交付金等の額を過大に算定していた事態
特別調整交付金のうち、被扶養者減免特別交付金は、被用者保険の被保険者が後期高齢者になったことに伴い、その被扶養者であった者に係る保険料の減免措置及び減免期間の見直しに要した費用がある場合に交付されるものである。
被扶養者減免特別交付金の額は、保険料賦課の基礎となる所得割額、資産割額、均等割額及び平等割額ごとに、厚生労働省の基準に基づく減免対象者に係る保険料減免額(以下「基準減免額」という。)と市町村の条例による実際の減免対象者に係る保険料減免額(以下「実減免額」という。)を比較して、いずれか金額の小さい方の額を調整基準額とし、これに基づいて算定することとなっている。
5府県の7市は、被扶養者減免特別交付金の額の算定に当たり、基準減免額や実減免額を過大に集計するなどしており、調整基準額を過大に算出していた。このため、被扶養者減免特別交付金の額が過大となっていた。
このほか、東京都及び5県の5市は、対象となる保険料調定総額を誤るなどしていたため、特別調整交付金のうち、非自発的失業軽減特別交付金、非自発的失業財政負担増特別交付金及び20歳未満被保険者財政負担増等特別交付金の額が過大となっていた。
なお、前記の8都府県のうち4府県及び9府県の12市のうち2県の2市については事態の態様が重複している。
以上を事業主体別に示すと、次のとおりである。
部局等
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補助事業者
|
間接補助事業者
|
交付金の種類
|
年度
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交付金交付額
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左のうち不当と認める額
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摘要
|
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---|---|---|---|---|---|---|---|---|
千円 | 千円 | |||||||
(114) |
厚生労働本省
|
茨城県
(事業主体) |
― |
普通調整交付金
|
3 | 14,894,150 | 11,286 |
調整対象需要額を過大に算定していたもの、調整対象収入額を過小に算定していたもの
|
(115) | 同 |
群馬県
(事業主体) |
― | 同 | 2 | 10,404,820 | 9,911 |
調整対象需要額を過大に算定していたもの
|
(116) | 同 |
埼玉県
|
さいたま市
(事業主体) |
特別調整交付金(非自発的失業軽減特別交付金)
|
3 | 107,200 | 42,232 |
非自発的失業による保険料軽減世帯に係る保険料調定総額を過小に集計していたもの
|
(117) | 同 |
千葉県
|
市川市
(事業主体) |
特別調整交付金(被扶養者減免特別交付金)
|
2、3 | 30,241 | 11,609 |
被用者保険の被保険者の被扶養者であった者に係る保険料の減免額を過大に算定していたもの
|
(118) | 同 | 同 |
松戸市
(事業主体) |
同 | 2、3 | 29,860 | 9,648 | 同 |
(119) | 同 |
東京都
(事業主体) |
― |
特別調整交付金(20歳未満被保険者財政負担増等特別交付金)
|
2 | 1,464,496 | 23,244 |
一般被保険者の一人当たりの基準総所得金額を過小に算定していたもの
|
(120) | 同 |
神奈川県
|
相模原市
(事業主体) |
特別調整交付金(被扶養者減免特別交付金)
|
3 | 17,832 | 4,699 |
被用者保険の被保険者の被扶養者であった者に係る保険料の減免額を過大に算定していたもの
|
(121) | 同 |
新潟県
(事業主体) |
― |
普通調整交付金
|
30 | 12,551,793 | 23,721 |
調整対象需要額を過大に算定していたもの、調整対象収入額を過小に算定していたもの
|
(122) | 同 |
岐阜県
|
岐阜市
(事業主体) |
特別調整交付金(被扶養者減免特別交付金)
|
3 | 11,589 | 2,354 |
被用者保険の被保険者の被扶養者であった者に係る保険料の減免額を過大に算定していたもの
|
(123) | 同 | 同 |
多治見市
(事業主体) |
同 | 4 | 6,018 | 1,513 | 同 |
(124) | 同 |
愛知県
|
瀬戸市
(事業主体) |
同 | 4 | 7,903 | 2,402 | 同 |
(125) | 同 | 同 |
碧南市
(事業主体) |
特別調整交付金(非自発的失業軽減特別交付金等)
|
3、4 | 18,990 | 5,877 |
一般被保険者に係る保険料調定総額を過大に集計していたものなど
|
(126) | 同 |
三重県
|
伊賀市
(事業主体) |
同 | 2、3 | 12,790 | 6,423 | 同 |
(127) | 同 |
大阪府
(事業主体) |
― |
普通調整交付金
|
元~3 | 189,430,268 | 492,014 |
調整対象需要額を過大に算定していたもの、調整対象収入額を過小に算定していたもの
|
(128) | 同 |
大阪府
|
八尾市
(事業主体) |
特別調整交付金(被扶養者減免特別交付金)
|
3 | 7,892 | 1,293 |
被用者保険の被保険者の被扶養者であった者に係る保険料の減免額を過大に算定していたもの
|
(129) | 同 |
島根県
|
益田市
(事業主体) |
特別調整交付金(非自発的失業軽減特別交付金)
|
3 | 3,356 | 2,779 |
非自発的失業による保険料軽減世帯に係る保険料調定総額を過小に集計していたもの
|
(130) | 同 |
広島県
(事業主体) |
― |
普通調整交付金
|
3 | 14,353,425 | 5,490 |
調整対象需要額を過大に算定していたもの
|
(131) | 同 |
福岡県
|
行橋市
(事業主体) |
特別調整交付金(非自発的失業軽減特別交付金)
|
4 | 2,444 | 1,105 |
一般被保険者に係る保険料調定総額を過大に集計していたもの
|
(132) | 同 |
大分県
(事業主体) |
― |
普通調整交付金
|
元 | 10,971,014 | 393,687 |
調整対象需要額を過大に算定していたもの、調整対象収入額を過小に算定していたもの
|
(133) | 同 |
沖縄県
(事業主体) |
― | 同 | 2 | 17,402,169 | 43,904 |
調整対象需要額を過大に算定していたもの
|
(114)―(133)の計 | 271,728,250 | 1,095,191 |