9件 不当と認める国庫補助金 111,140,000円
介護保険(前掲「介護給付費負担金が過大に交付されていたもの」参照)については各種の国庫助成が行われており、その一つとして、財政調整交付金が交付されている。財政調整交付金は、市町村(注1)(特別区を含む。以下同じ。)が行う介護保険財政が安定的に運営され、もって介護保険制度の円滑な施行に資することを目的として、各市町村における介護給付等に要する費用の総額の5%に相当する額を国が負担して、これを各市町村に交付するもので、普通調整交付金と特別調整交付金とがある。
普通調整交付金は、市町村間で、市町村の区域内に住所を有する65歳以上の者(以下「第1号被保険者」という。)の総数に占める75歳以上の者(以下「後期高齢者」という。)の割合(以下「後期高齢者加入割合」という。)及び標準的な所得段階の区分(第1段階から第9段階まで)ごとの第1号被保険者の分布状況(以下「所得段階別加入割合」という。)に格差があることによって生ずる介護保険財政の不均衡を是正するために交付するものである。また、特別調整交付金は、災害その他特別の事情がある市町村に交付するものであり、被災するなどした被保険者に係る保険料の減免額等を交付の対象とするものである。
財政調整交付金の交付額は、普通調整交付金の額と特別調整交付金の額とを合算した額となっており、このうち普通調整交付金の額は、「介護保険の調整交付金等の交付額の算定に関する省令」(平成12年厚生省令第26号)等に基づき、次により算定することとなっている。
上記のうち、調整基準標準給付費額及び普通調整交付金交付割合については、次のとおりとなっている。
ア 調整基準標準給付費額は、当該市町村において給付に要した費用の額等に基づき、次のとおり算出することとなっている。
イ 普通調整交付金交付割合は、後期高齢者加入割合補正係数と所得段階別加入割合補正係数を用いるなどして算出した割合である。このうち、後期高齢者加入割合補正係数は、当該市町村において、介護保険事業状況報告(月報)により報告することとなっている後期高齢者の人数(注6)の累計を基に算出される第1号被保険者の総数に占める85歳以上の後期高齢者の割合(以下「85歳以上後期高齢者加入割合」という。)及び75歳以上85歳未満の後期高齢者の割合(以下「85歳未満後期高齢者加入割合」という。)を、国から示される全ての市町村における85歳以上後期高齢者加入割合及び85歳未満後期高齢者加入割合とそれぞれ比較するなどして算出した係数である(注7)。また、所得段階別加入割合補正係数は、当該市町村において、毎年4月1日(保険料の賦課期日)における標準的な所得段階の区分ごとの第1号被保険者の人数を基に算出される所得段階別加入割合を、国から示される全ての市町村における所得段階別加入割合と比較するなどして算出した係数である。
そして、財政調整交付金の交付を受けようとする市町村は、都道府県に交付申請書及び事業実績報告書を提出して、これを受理した都道府県は、その内容を添付書類により、また、必要に応じて現地調査を行うことにより審査した上でこれを厚生労働省に提出して、同省は、これに基づき交付決定及び交付額の確定を行うこととなっている。
本院は、平成29年度から令和5年度までの間に交付された財政調整交付金について、25都道府県の92市区町村、3一部事務組合及び4広域連合において会計実地検査を行うとともに、1県の3市については、事業実績報告書等の関係資料の提出を受けるなどして検査した。その結果、6都県の8市区町村及び1広域連合において、後期高齢者加入割合補正係数又は所得段階別加入割合補正係数の算出や、調整基準標準給付費額の算出を誤って、普通調整交付金の額を過大に算定していた。このため、財政調整交付金交付額計11,542,722,000円のうち計111,140,000円が過大に交付されていて、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、8市区町村及び雲南広域連合において財政調整交付金の交付額の算定に当たり、制度の理解や確認が十分でなかったこと、6都県において事業実績報告書の審査が十分でなかったことなどによると認められる。
前記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例1>
広島市は、令和3年度の普通調整交付金の額の算定に当たり、普通調整交付金交付割合の算出に用いる後期高齢者加入割合補正係数について、前年度の1月報告分(12月末の人数)から当該年度の9月報告分(8月末の人数)までの後期高齢者の人数の累計を基にすべきところ、累計すべき期間を誤認して、前年度の2月報告分(1月末の人数)から当該年度の10月報告分(9月末の人数)までの後期高齢者の人数の累計を基にした結果、実際より多い人数を集計しており、これに基づき85歳以上後期高齢者加入割合及び85歳未満後期高齢者加入割合を算出するなどしていた。
そこで、適正な後期高齢者加入割合補正係数により算出した普通調整交付金交付割合等に基づき普通調整交付金の額を算定したところ、35,112,000円が過大に交付されていた。
<事例2>
東京都江東区は、令和2年度の普通調整交付金の額の算定に当たり、2年11月分の特定入所者介護サービス費等の額68,461,826円を、誤って684,461,826円とするなどして調整基準標準給付費額を算出していた。
そこで、適正な調整基準標準給付費額に基づき普通調整交付金の額を算定したところ、22,617,000円が過大に交付されていた。
以上を部局等別・事業主体別に示すと、次のとおりである。
部局等
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補助事業者
(事業主体) |
年度
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交付金交付額
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左のうち不当と認める額
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摘要
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千円 | 千円 | |||||
(175) |
福島県
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相馬郡飯舘村
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平成29、令和元~3 | 685,524 | 16,324 |
調整基準標準給付費額の算出を誤っていたものなど
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(176) |
千葉県
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安房郡鋸南町
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元、3 | 228,821 | 2,106 |
所得段階別加入割合補正係数の算出を誤っていたものなど
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(177) |
東京都
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江東区
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2 | 1,166,790 | 22,617 |
調整基準標準給付費額の算出を誤っていたもの
|
(178) | 同 |
北区
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3 | 1,739,736 | 19,086 |
後期高齢者加入割合補正係数の算出を誤っていたものなど
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(179) |
三重県
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伊勢市
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元、2 | 1,639,134 | 3,235 |
調整基準標準給付費額の算出を誤っていたもの
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(180) | 同 |
松阪市
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3 | 1,190,932 | 2,909 | 同 |
(181) | 同 |
多気郡多気町
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3 | 129,428 | 7,003 | 同 |
(182) |
島根県
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雲南広域連合
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3、4 | 1,403,710 | 2,748 | 同 |
(183) |
広島県
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広島市
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3 | 3,358,647 | 35,112 |
後期高齢者加入割合補正係数の算出を誤っていたものなど
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(175)―(183)の計 |
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11,542,722 | 111,140 |