居宅介護支援は、介護保険法(平成9年法律第123号)等に基づき、居宅の要介護状態となった者の依頼を受けて、その心身の状況、置かれている環境、当人及び家族の希望等を勘案し、利用する居宅サービス等の種類、内容等を定めた計画(以下「居宅サービス計画」という。)を作成するとともに、居宅サービス計画に基づく訪問介護、通所介護、福祉用具貸与等を提供する居宅サービス事業者等との連絡調整等を行うものである。居宅介護支援を行う事業者は、運営する事業所ごとに市町村長等の指定を受けることとなっている(以下、市町村長等の指定を受けた事業所を「支援事業所」という。)。居宅介護支援の提供に当たっては、利用者の意思及び人格を尊重し、常に利用者の立場に立って、利用者に提供される居宅サービス等が特定の種類又は特定の居宅サービス事業者等に不当に偏することがないよう、公正中立に行わなければならないこととなっている。
そして、市町村(注1)(特別区を含む。以下同じ。)は、介護保険の被保険者が居宅介護支援の提供を受けたときは、居宅介護支援を提供した支援事業所を運営する事業者に介護報酬の全額を支払うこととなっている(以下、市町村が支払う介護報酬の額を「介護給付費」という。)。
居宅介護支援を提供した支援事業所を運営する事業者は、「指定居宅介護支援に要する費用の額の算定に関する基準」(平成12年厚生省告示第20号)(以下「算定基準」という。)等に基づき、所定の単位数に単価を乗ずるなどして介護報酬を算定することとなっている。なお、国及び市町村は、介護保険法等に基づき、保険給付の適正化を図るために、支援事業所を運営する事業者に対して、介護報酬の請求等に関する指導を行っている。
(介護給付の概要については、前掲「介護給付費に係る国の負担が不当と認められるもの」参照)
居宅介護支援に係る介護報酬については、公正中立性の確保のために、特定の居宅サービス事業者にサービスが偏った場合に所定単位数を減算する特定事業所集中減算の制度が設けられている。
特定事業所集中減算は、算定基準等に基づき、居宅介護支援に係る介護報酬の算定に当たり、支援事業所において判定期間(注2)に作成された居宅サービス計画のうち、訪問介護、通所介護、福祉用具貸与等が位置付けられた居宅サービス計画の数(分母)をそれぞれ算出し、訪問介護、通所介護、福祉用具貸与等それぞれについて、当該判定期間に同一の居宅サービス事業者を位置付けたいずれかの居宅サービス計画の数(分子)の割合(以下「集中割合」という。下記計算式参照。)が80%を超えている場合(小規模な支援事業所であるため作成した居宅サービス計画の件数が少ないなどの正当な理由がある場合を除く。)に、当該判定期間に対応する減算適用期間(注3)の1月当たりの所定単位数から200単位を減算するものである。
集中割合の計算式
支援事業所は、集中割合が80%を超える場合には、前期の判定期間については9月15日まで、後期の判定期間については3月15日までに、訪問介護、通所介護、福祉用具貸与等がそれぞれ位置付けられた居宅サービス計画の数、集中割合の算出方法等が確認できる届出書(以下「届出書」という。)を支援事業所が所在する市町村に提出しなければならないこととなっている。なお、集中割合が80%を超えていることについて、正当な理由がある場合には、届出書にその理由を記載することとなっている。そして、届出書の提出を受けた市町村は、特定事業所集中減算の適用の可否についての確認を行うこととなっている。
一方、80%を超えていない場合は、届出書を提出することとはなっていない。
国民健康保険団体連合会(以下「国保連合会」という。)は、都道府県ごとに設立されており、所掌する管内の市町村から介護給付費に係る審査及び支払に関する事務の委託を受けて介護給付費の審査及び支払を行っている。また、国保連合会は、これらの業務を通して得られる給付実績情報を活用した居宅介護支援請求状況一覧表(以下「一覧表」という。)等を作成し、支援事業所が居宅介護支援を提供した月(以下「サービス提供月」という。)の数か月後に、支援事業所が所在する市町村に対して、情報提供を行っている。
一覧表は、支援事業所ごとの加算・減算の算定要件の適合状況について不適正と考えられる項目のある支援事業所を抽出することを狙いとして作成されている。一覧表においては、支援事業所ごとに、サービス提供月における特定事業所集中減算の請求状況及びサービス提供月の判定期間における訪問介護、通所介護、福祉用具貸与、地域密着型通所介護、通所介護等の五つの区分ごとの計画件数、同一法人件数、判定期間の給付実績で判定した同一法人割合等が表示される様式となっている。ただし、一覧表で同一法人割合が80%を超えている区分がある支援事業所の中には、市町村が定める正当な理由に該当するとして届出書を提出していて、特定事業所集中減算が適用されない支援事業所が含まれている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、集中割合が80%を超えていて、正当な理由がある場合にも該当しないのに、特定事業所集中減算を適用していないために介護給付費が過大に支払われていた事態について、令和3年度決算検査報告及び令和4年度決算検査報告において不当事項として掲記している。
そこで、本院は、合規性等の観点から、居宅介護支援に係る介護報酬の算定が適正に行われているか、市町村における特定事業所集中減算の適用誤りに係る再発防止策は十分なものとなっているかなどに着眼して、平成28年度から令和4年度までの介護給付費の支払について検査した。検査に当たっては、厚生労働本省において、再発防止策の内容について確認するとともに、8都府県(注4)の10市及び3区(注5)において、一覧表で同一法人割合が80%を超えている区分がある支援事業所から抽出した192支援事業所に対する介護給付費の支払について、関係資料の内容や市町村における特定事業所集中減算の適用の可否の確認方法を確認するなどして会計実地検査を行った。また、3県(注6)の5市及び1広域連合(注7)については、同様に抽出した35支援事業所に対する介護給付費の支払について、関係資料の提出を受けるなどして検査した。
(検査の結果)
検査したところ、検査の対象とした19市区等に所在する26支援事業所を運営する24事業者では、居宅介護支援に係る介護報酬の算定に当たり、集中割合が80%を超えていて、正当な理由がある場合にも該当しないのに、特定事業所集中減算として1月当たりの所定単位数から200単位を減算するなどしていなかった。このため、40,510件の請求に対する介護給付費が計1億1933万余円過大に支払われていて、これに対する国の負担額3340万余円は負担の必要がなかった。
そして、支援事業所が集中割合の算出を誤り届出書を市町村に提出していなかった主な原因について、19市区等を通じて確認したところ、次のようなものであった。
ア 集中割合の計算に用いる居宅サービス計画の数(分母)について、1件の居宅サービス計画において訪問介護を提供する事業所(以下「訪問介護事業所」という。)が複数ある場合に居宅サービス計画ごとに1件として数えるべきところ、集計方法を誤認して、訪問介護事業所ごとに1件として数えたことにより、集中割合が80%を超えていないとして届出書を市町村に提出していなかった。
イ 集中割合の計算に用いる同一の居宅サービス事業者を位置付けた居宅サービス計画の数(分子)について、訪問介護事業所を運営する居宅サービス事業者ごとに計画数を数えるべきところ、集計方法を誤認して、訪問介護事業所ごとに計画数を数えたことにより、集中割合が80%を超えていないとして届出書を市町村に提出していなかった。
また、19市区等において、特定事業所集中減算の適用の可否についての確認方法を聴取したところ、届出書の提出があった支援事業所については、集中割合が80%を超えている理由が市町村が定める正当な理由に該当するかを確認していた。一方、届出書の提出がなかった支援事業所については、届出書を提出する必要があるかなど、一覧表を活用した確認を行っていなかった。しかし、市町村において、国保連合会から一覧表の提供があった時期に確認を行っていれば、支援事業所が特定事業所集中減算を適用していなかった事態を把握し、支援事業所に対して適切な指導等を行うことが可能であったと認められた。
さらに、厚生労働本省において、特定事業所集中減算の適用誤りに係る再発防止策の内容について聴取したところ、厚生労働本省は、市町村を通じて支援事業所に誤りの原因を示すなどの注意喚起を図っておらず、また、市町村に対して一覧表を活用した事後的な確認方法を周知していなかった。
このように、支援事業所において特定事業所集中減算が適用されておらず介護給付費が過大に支払われていた事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、支援事業所において、算定基準等を十分に理解していなかったことや、市町村において、支援事業所に対する指導等が十分でなかったことにもよるが、厚生労働本省において、市町村を通じて注意喚起を図るなどの取組が十分でなかったことなどによると認められた。
本院の指摘に基づき、厚生労働本省は、居宅介護支援における特定事業所集中減算の適用の可否の確認を適切に行うよう、6年8月に、市町村に対して事務連絡を発して、次のような処置を講じた。
ア 市町村から支援事業所に対して、特定事業所集中減算が適用されておらず介護給付費が過大に支払われていた事態についての誤りの原因等を周知して注意喚起を図るよう助言した。
イ 国保連合会が提供している一覧表を参照し、同一法人割合が80%を超えている支援事業所について、当該事業所から届出書が提出されていない場合は、当該事業所に集中割合が適正に計算されているかを確認するよう周知した。
なお、19市区等において、26支援事業所に対して返還手続を行う措置が講じられていた。