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  • 令和5年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第7 農林水産省|
  • 令和4年度決算検査報告掲記の意見を表示し又は処置を要求した事項の結果

(1) 水田活用の直接支払交付金事業の実施について


(令和4年度決算検査報告参照)

1 本院が要求した改善の処置及び表示した意見

農林水産省は、経営所得安定対策等実施要綱(以下「実施要綱」という。)に基づき、水田活用の直接支払交付金(以下「水活交付金」という。)事業を実施している。水活交付金は、主食用米を作付けしない水田において麦、大豆、飼料作物、WCS用稲(実と茎葉を一体的に収穫し、乳酸発酵させた飼料)、飼料用米等の戦略作物等の対象作物を生産する農業者(以下「交付対象農業者」という。)に対して国が直接交付するものである。なお、農林水産省は、飼料作物等の家畜の飼料を自らの畜産経営に供する目的で生産(以下「自家利用」という。)する農業者についても、交付対象農業者とすることとしている。実施要綱によれば、たん水設備(畦(けい)畔等)を有しない農地等に該当する場合には、水稲の作付けを行うことが困難な農地として、交付対象となる農地(以下「交付対象水田」という。)から除くこととされている。また、交付対象農業者は「水田活用の直接支払交付金の対象作物に係る出荷・販売等実績報告書兼誓約書」(以下「実績報告書」という。)を作成し、その確認書類を添付して地域農業再生協議会(以下「協議会」という。)に提出することなどとされている。実施要綱等によれば、対象作物については、十分な収量が得られるように生産することが原則とされている。そして、地方農政局等及び協議会は、適切な作付け、肥培管理、収穫等が行われていない可能性が高いと判断する場合には、その収量が相当程度低いものとなっていないかの確認(以下「収量確認」という。)をし、収量が相当程度低い場合には交付対象としないこととされている。ただし、その場合であっても、収量低下が生じたと思われる要因等を記載した理由書等(以下「収量低下理由書」という。)が地方農政局等に提出され、その要因が自然災害等の交付対象農業者にとって不可抗力の要因(以下「合理的な理由」という。)によるものであることを地方農政局長等が確認できる場合には、交付対象とすることができることとされている。また、合理的な理由であることが確認された場合であっても、翌年産において収量が相当程度低くなるおそれがあるときには、地方農政局長等は、当該交付対象農業者に対して翌年産以降の生産に向けて改善指導を文書により行うこととされている。そして、翌年産において、必要な栽培管理の改善が確認できないなどの場合は交付対象とならないことがあることとされている。しかし、たん水設備等を有するなどしている農地であっても、国庫補助金等により処分制限期間内の園芸施設が設置等されており、実質的に水稲の作付けを行うことが困難な農地に対して水活交付金が交付されている事態、実績報告書の確認書類の内容が収量を把握できないものとなっているなど対象作物に係る実績報告書の確認等が適切に実施されていない事態、飼料作物、WCS用稲等の対象作物について、実際の収量に基づいた定量的な方法による収量確認が行われておらず収量確認が適切に実施されていない事態、及び収量低下理由書の確認や地方農政局長等による改善指導の仕組みが十分に機能していないなど、対象作物の収量増加に向けた改善が図られにくい状況となっている事態が見受けられた。

したがって、農林水産大臣に対して令和5年10月に、次のとおり改善の処置を要求し及び意見を表示した。

ア 交付対象水田の範囲について、水稲の作付けに当たり撤去が困難な処分制限期間内の園芸施設が設置等されているなどの場合に、実質的に水稲の作付けを行うことが困難な農地であるかどうかを判断できるように基準を定めること(会計検査院法第36条の規定により改善の処置を要求したもの)

イ 対象作物に係る収量増加の重要性を踏まえ、実績報告書の確認書類については、収量が記載されている書類等を提出し又は保管させるなどして収量を把握できるようにすること。また、飼料作物を自家利用した場合の確認書類を明確に定めるとともに、自家利用については、第三者を介さないことを踏まえ、飼料作物の生産量や家畜への給餌量が記録された資料等を交付対象農業者に保管させ、必要に応じて、これを交付対象農業者から提出させるなどして確認書類に記載された収量の妥当性を確認できるようにすること(同法第36条の規定により改善の処置を要求したもの)

ウ 飼料作物、WCS用稲等の対象作物について、麦、大豆、飼料用米等の場合には国や都道府県が地域ごとに定めた10a当たりの収量(以下「単収」という。)といった具体的な数値に基づき収量確認を行うこととされている趣旨を踏まえて、協議会等に対して、地域の目安となる基準単収や近傍ほ場の平均単収を定めさせるなどして、協議会において、収量が相当程度低くなっていないかなど、実際の収量に基づいた定量的な収量確認を行うことができるようにすること(同法第36条の規定により改善の処置を要求したもの)

エ 収量低下理由書の確認方法や地方農政局長等による改善指導を実施する場合の基準等を具体的に定めてこれらの仕組みが十分に機能するようにすることや、収量が相当程度低い場合であっても、十分な収量が得られている場合と同様に水活交付金の交付を受けることもある現行制度の運用の見直しを検討することにより、交付対象農業者において対象作物の収量増加に向けた改善が図られやすくなるような方策を講ずること(同法第36条の規定により意見を表示したもの)

2 当局が講じた処置

本院は、農林水産本省において、その後の処置状況について会計実地検査を行った。

検査の結果、農林水産省は、本院指摘の趣旨に沿い、6年4月に実施要綱を改正するなどして、次のような処置を講じていた。

ア 交付対象水田の範囲について、水稲の作付けに当たり撤去が困難な処分制限期間内の園芸施設が設置等されているなどの場合に、実質的に水稲の作付けを行うことが困難な農地であるかどうかを判断できるように基準を定めた。

イ 実績報告書の確認書類については、収量が記載されている書類等を交付対象農業者に保管させ、地方農政局等の求めに応じて、これを交付対象農業者から提出させて収量を把握できるようにした。また、飼料作物を自家利用した場合の確認書類を明確に定めるとともに、自家利用については、飼料作物の生産量や家畜への給餌量が記録された資料等を交付対象農業者に保管させ、地方農政局等の求めに応じて、これを交付対象農業者から提出させて確認書類に記載された収量の妥当性を確認できるようにした。

ウ 飼料作物、WCS用稲等の対象作物について、協議会等が地域の目安となる基準単収や近傍ほ場の平均単収を定めることとするなどして、協議会において、収量が相当程度低くなっていないかなど、実際の収量に基づいた定量的な収量確認を行うことができるようにした。

エ 収量低下理由書の確認方法や地方農政局長等による改善指導を実施する場合の基準等を具体的に定めてこれらの仕組みが十分に機能するようにすることなどにより、交付対象農業者において対象作物の収量増加に向けた改善が図られやすくなるような方策を講じた。