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  • 令和5年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第7 農林水産省|
  • 令和4年度決算検査報告掲記の意見を表示し又は処置を要求した事項の結果

(3) 非常用発電設備が設置された農業水利施設の浸水対策等について


(令和4年度決算検査報告参照)

1 本院が要求した改善の処置

農林水産省は、ダム、頭首工、ポンプ場等の農業水利施設の整備を自ら事業主体となって実施するほか、都道府県、市町村等が事業主体となって実施する場合に事業の実施に要する経費の一部を補助している。そして、各事業主体は、これらの農業水利施設のうち、商用電源が停電した場合でも機能を維持する必要がある施設には、非常用発電設備を設置している。同省は、平成30年5月に「土地改良事業計画設計基準及び運用・解説 設計「ポンプ場」」(以下「ポンプ場設計基準」という。)を改定して、ポンプ場の建屋における浸水対策を追加している。これによれば、建屋の設計に当たっては、ハザードマップ等を基に検討を行い、浸水対策を講ずる必要があるとされている。そして、浸水対策の選定に当たっては、想定される浸水の高さ(以下「想定浸水深」という。)等を考慮して、建屋の止水化・耐水化と機器等の高所化・耐水化を適切に組み合わせることとされている。この浸水対策の内容等は、令和元年9月に同省が改定した「電気設備計画設計技術指針(高低圧編)」(以下「電気設備指針」という。)においても同様のものとなっている。そして、非常用発電設備及び非常用発電設備に接続する負荷機器(以下「非常用発電設備等」という。)は、ポンプ場設計基準及び電気設備指針のいずれにおいても、浸水対策の対象となっている。そして、同省は、ポンプ場設計基準及び電気設備指針のそれぞれの改定後に行う農業水利施設の新設又は更新に係る設計については、浸水対策を反映させることにしている。しかし、これらの改定前に設計を行っている農業水利施設(以下「旧基準施設」という。)について、更新等を行うまでの間の浸水対策は明確になっていない。また、電気設備指針によれば、ダムに設置する非常用発電設備の燃料タンク容量については、燃料の輸送経路等を考慮して決定する必要があるが、一般に72時間以上運転可能な燃料タンク容量を採用している場合が多いとされている。そして、同省は、給油取扱所からの燃料の供給を前提とした所要の運転可能時間を確保する燃料タンク容量とする必要があるとしている。しかし、非常用発電設備等が想定浸水深より低い位置に設置されている農業水利施設において浸水対策が実施されていない事態及びダムにおいて非常用発電設備の燃料タンク容量が所要の運転可能時間を確保するものとなっているか明らかでない事態が見受けられた。

したがって、農林水産大臣に対して5年10月に、会計検査院法第36条の規定により次のとおり改善の処置を要求した。

ア 事業主体が旧基準施設について更新等を行うまでの間の施設の重要度等に応じた浸水対策を実施するための方針を検討すること

イ ダムに設置されている非常用発電設備の燃料タンク容量について、現状において所要の運転可能時間を確保するものとなっているか把握した上で、所要の運転可能時間を確保するものとなっていない場合には、ダムの機能を維持することが可能となる燃料タンク容量に見直すなどするよう農政局等に対して指導するとともに、農政局等を通じるなどして都道府県等に対して助言を行うこと

2 当局の処置状況

本院は、農林水産本省において、その後の処置状況について会計実地検査を行った。

検査の結果、農林水産省は、本院指摘の趣旨に沿い、次のような処置を講じていた。

ア 旧基準施設について更新等を行うまでの間の施設の重要度等に応じた浸水対策を実施するための方針を検討するために、施設の立地条件等について6年6月に調査を開始した。

イ 6年5月及び6月に農政局等に対して通知等を発出して、ダムに設置されている非常用発電設備の燃料タンク容量が電気設備指針に基づく所要の運転可能時間を確保するものとなっているか把握し、所要の運転可能時間を確保するものとなっていない場合には、燃料タンク容量を見直すなどするよう、農政局等に対して指導した。さらに、同年6月及び7月に農政局等の担当者に対して説明会を開催して、これらについて周知するとともに、適切に対応するよう指導した。また、同年5月及び6月に都道府県等に対して農政局等から通知を発出するなどして、これらについて助言した。

一方、農林水産省は、アの調査の結果が取りまとまり次第、旧基準施設について更新等を行うまでの間の施設の重要度等に応じた浸水対策を実施するための方針を検討することとしている。