国土交通省は、災害発生時における迅速な被災情報の把握等を実現することを目的として、光ファイバ通信回線と多重無線回線とを組み合わせた統合通信網を全国的に構築している。同省本省、地方整備局等及び河川国道事務所等(以下、これらのうち地方整備局等及び河川国道事務所等を合わせて「事務所等」という。)は、建物の屋上や地上に鉄塔を設置し、当該鉄塔等に、空中線、多重無線装置等の通信設備を設置している(以下、これらの鉄塔を「通信鉄塔」といい、通信鉄塔が屋上に設置されている建物を「局舎」という。)。また、同省は、平成8年8月に「通信鉄塔・局舎耐震診断基準(案)」等(以下「診断基準」という。)を制定するなどして、既存の通信鉄塔及び局舎の耐震診断を行うこととしている。診断基準等によれば、耐震診断の結果、診断基準において定められている通信鉄塔の健全性又は局舎として必要な耐震性(以下、これらを合わせて「耐震性等」という。)が不足することが確認された通信鉄塔及び局舎については、耐震補強工事を実施するなどの耐震性等を確保するための対策(以下「耐震対策」という。)を立案して、適切な措置を実施しなければならないこととされている。しかし、通信鉄塔及び局舎について、耐震診断が実施されていないなどしていて、耐震性等が確保されているか不明な状態のままとなっていたり、耐震診断の結果、耐震性等が確保されていないと確認されたのに耐震対策が実施されていなかったりなどしていて、大規模地震が発生した際等に多重無線回線の機能が維持できないおそれがある事態が見受けられた。
したがって、国土交通大臣に対して令和5年9月に、会計検査院法第36条の規定により次のとおり改善の処置を要求した。
ア 事務所等に対して、通信鉄塔及び局舎に係る耐震診断及び耐震対策を実施することの重要性や、耐震診断及び耐震対策の実施状況等について関係資料を保存するなどして確認できるようにしておくことの重要性について周知すること
イ 通信鉄塔及び局舎の耐震性等が確保されているかについて、事務所等から定期的に報告させて把握すること
ウ 事務所等に対して、通信鉄塔及び局舎に係る耐震診断及び耐震対策を順次実施していくための実施方針を定めさせ、その内容及びイの内容を踏まえて、多重無線回線の全国的なネットワークの機能を維持する観点等から必要な指導を行うこと
本院は、国土交通本省において、その後の処置状況について会計実地検査を行った。
検査の結果、国土交通省は、本院指摘の趣旨に沿い、次のような処置を講じていた。
ア 6年2月までに、事務連絡を発するなどして、通信鉄塔及び局舎に係る耐震診断及び耐震対策を実施することの重要性や、耐震診断及び耐震対策の実施状況等について関係資料を保存するなどして確認できるようにしておくことの重要性について、地方整備局等に対して周知するとともに、地方整備局等を通じて河川国道事務所等に対しても周知した。
イ アの事務連絡等により、通信鉄塔及び局舎の耐震性等が確保されているかについて、5年10月及び6年4月に事務所等から報告させて把握するとともに、7年以降も毎年4月に事務所等から報告させて把握することとした。
ウ アの事務連絡等により、通信鉄塔及び局舎に係る耐震診断及び耐震対策を順次実施していくための実施方針を6年5月までに事務所等に定めさせた。また、実施方針の内容及びイの内容を踏まえて、多重無線回線の全国的なネットワークの機能を維持する観点等から必要な指導を行うこととした。