本院は、令和6年9月12日に、内閣総理大臣、文部科学大臣、農林水産大臣及び国土交通大臣に対して、「福島再生加速化交付金により設置造成等が行われた基金の規模について」として、会計検査院法第36条の規定により処置を要求した。
なお、このほか、こども家庭庁における福島再生加速化交付金により設置造成等が行われた基金の規模について、本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項がある(本院の指摘及びこども家庭庁が講じた処置の内容については、前掲「福島再生加速化交付金を原資として地方公共団体が設置造成するなどした基金について、使用見込みのない基金残額を国庫に返還させることにより、基金の規模が適切なものとなるよう改善させたもの」参照)。
処置要求の内容は、復興庁、文部科学省、農林水産省及び国土交通省のそれぞれの検査結果に応じたものとなっているが、これらを総括的に示すと以下のとおりである。
福島再生加速化交付金(以下「加速化交付金」という。)は、福島再生加速化交付金制度要綱(平成26年府政防第217号等。以下「制度要綱」という。)に規定する交付対象項目ごとの対象事業から地方公共団体が選択して実施する事業(以下「加速化事業」という。)に要する費用に対して、地域の実情に即した事業の的確かつ効率的な実施を図ることを目的として、国が交付するものである。制度要綱によれば、交付対象項目として8項目が定められており、交付対象項目ごとに実施要綱を定めることとされている。
復興庁設置法(平成23年法律第125号)によれば、復興庁の長は内閣総理大臣とされている。また、復興庁は、関係地方公共団体が行う復興事業への国の支援その他関係行政機関が講ずる東日本大震災からの復興のための施策の実施の推進及びこれに関する総合調整に関することなどの事務をつかさどることとされている。
加速化事業を実施する福島県及び管内市町村等(以下「福島県等」という。)は、交付対象項目ごとに定められた実施要綱に基づき、計画期間、事業費等を記載した事業計画を内閣総理大臣に提出することとされている。
これを受けて、内閣総理大臣は、これらの事業に要する経費について、関係する交付担当大臣と協議し、交付担当大臣が交付の事務を行うこととなる事業ごとの交付金の額を明らかにして、予算の範囲内で配分計画を作成しており、これに基づき、加速化交付金の予算を交付の事務を行う各府省庁に移し替えている。
加速化事業には、福島県等が単年度で実施する事業と、事業計画の計画期間が複数年にわたる基金型事業がある。基金型事業は、各年度の所要額をあらかじめ見込み難いことなどから、福島県等が加速化交付金を原資として設置造成又は積み増し(以下「設置造成等」という。)をした基金(以下「加速化交付金基金」という。)を、計画期間内に取り崩して実施するものである。そして、8項目の交付対象項目のうち、帰還・移住等環境整備、長期避難者生活拠点形成及び福島定住等緊急支援(福島健康不安対策事業)により実施される事業は、これらの3項目の実施要綱(注1)(以下、これらを合わせて「基金型事業実施要綱」という。)において、基金型事業により事業を実施することができるとされている。
基金型事業実施要綱によれば、事業計画に記載する計画期間は、原則として、7年度までの間で福島県等が設定することなどとされている。また、福島県等は、加速化交付金の交付を受けた翌年度から毎年度、事業計画の進捗状況を把握し、内閣総理大臣に対して報告することなどとされており、復興庁は、毎年度、福島県等から報告書(以下「進捗状況報告」という。)の提出を受けている。進捗状況報告の内容は、個々の基金型事業の執行状況、個々の基金型事業が完了した後の残額(以下「基金残額」という。)等を把握可能なものとなっている。そして、加速化交付金基金の設置及び管理については、前記の3項目において、交付対象項目ごとに定める基金管理運営要領(注2)によることとされている。
福島県等は、基金管理運営要領に基づき、交付対象項目ごとに設置造成等した加速化交付金基金をそれぞれ交付担当大臣ごとに区分経理している。基金型事業は、交付対象事業ごとに、それぞれこども家庭庁、復興庁、総務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省及び国土交通省が所管している。また、基金型事業実施要綱によれば、同一の交付担当大臣が加速化交付金を交付する基金型事業間であれば、個々の基金型事業間で流用することができることなどとされている。そして、復興庁は、進捗状況報告によって、福島県等の加速化交付金基金の保有額のほか、個々の基金型事業間の流用及び執行の状況、基金残額等を把握している。
補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律施行令(昭和30年政令第255号。以下「適正化令」という。)によれば、基金に充てる資金として交付する補助金等については、各省各庁の長は、その交付の条件として、「基金を廃止するまでの間、毎年度、当該基金の額及び基金事業等の実施状況を各省各庁の長に報告すべきこと」「基金の額が基金事業等の実施状況その他の事情に照らして過大であると各省各庁の長が認めた場合又は各省各庁の長が定めた基金の廃止の時期が到来したことその他の事情により基金を廃止した場合は、速やかに、交付を受けた基金造成費補助金等の全部又は一部に相当する金額を国に納付すべきこと」などを定めることとされている。
そして、基金型事業の所管省庁は、適正化令の趣旨を踏まえて、それぞれ定めた交付要綱において、福島県等は毎年度終了後に加速化交付金基金の保有額等を記載した状況報告書等を提出することを規定している。また、基金管理運営要領において、福島県等は加速化交付金基金の保有額が基金型事業の実施状況その他の事情に照らして過大であると交付担当大臣が認めた場合はその額を交付担当大臣の指示に従い国庫に返還しなければならないことを規定している。
財務大臣が平成26年10月に各省各庁の長宛てに発出した「基金造成費補助金等の活用に関する指針について」(平成26年財計第2534号。以下「指針」という。)によれば、各省各庁の長にあっては、基金の設置後においても、適正化令を適切に運用して基金の執行管理に努めること、あらかじめ基金の廃止時期を設定するとともに、当該廃止時期が到来する前の時点においても、基金の額が過大であるか否かを不断に確認することなどとされている。基金型事業の所管省庁は、指針を踏まえて、福島県等から提出された状況報告書等により、加速化交付金基金の保有額等を確認している。
本院は、令和元年12月に国会及び内閣に対して報告した「福島再生加速化交付金事業等の実施状況について」の所見において、国は「事業実施主体が既に事業を完了して事業費の取崩しが終了した後の残額を保有している基金型事業において、当該残額を流用できる事業がないなどの場合には事業計画期間の期限の到来等による基金廃止等を待たずに国庫への返還を促すことに留意すること」と記述している。これを受けて、復興庁は、福島県等に対して3年12月に事務連絡を発出し、基金残額が生じ、当該基金残額を流用できる継続中の基金型事業(以下「継続事業」という。)がないなどの場合には、基金型事業の所管省庁との間で国庫への返還手続を進めることなどを周知している。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
加速化交付金については、平成26年2月に制度が創設されてから令和4年度末までに9年以上が経過している。基金型事業は、4年度末までに、福島県及び20市町村等(注3)において、復興庁、文部科学省、厚生労働省(注4)、農林水産省、経済産業省及び国土交通省の所管する478事業が実施されている。そして、これらの基金型事業に係る加速化交付金の交付額は計4603億9386万余円、4年度末現在の加速化交付金基金の保有額は、福島県及び14市町村等(注5)の262事業に係る計806億9633万余円となっている。
また、事業計画の計画期間は原則として7年度までとなっている。そのため、既に完了している基金型事業も多数あり、基金残額が生じていることが見込まれる。そして、指針によれば、各省各庁の長は、基金の廃止時期が到来する前の時点においても、基金の額が過大であるか否かを不断に確認することなどとされている。
そこで、本院は、有効性等の観点から、加速化交付金基金について、基金型事業の実施状況等に照らして加速化交付金基金の保有額が過大となっていないかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、前記の262事業に係る基金の保有額806億9633万余円を対象として、こども家庭庁、復興庁本庁、文部科学本省、厚生労働本省、農林水産本省、経済産業本省、国土交通本省、福島県及び11市町村(注6)において、基金型事業の執行状況や加速化交付金基金の使用見込み等について事業計画等の関係書類を徴するなどして会計実地検査を行うとともに、3町村等(注7)については、こども家庭庁、復興庁本庁、厚生労働本省、農林水産本省及び国土交通本省から関係書類を徴するなどして検査した。
(検査の結果)
検査したところ、262事業のうち126事業(4年度末時点の基金残額計66億4267万余円)は平成27年度から令和4年度末までに完了しており、事業費に係る加速化交付金基金の取崩しが終了していた。そして、これらの126事業のうち116事業(基金残額計51億9113万余円)については、4年度末時点で事業の完了から1年以上が経過していた(表1参照)。
表1 完了し加速化交付金基金の取崩しが終了していた事業に係る基金残額(令和4年度末時点)
完了後経過期間 | 所管省 | 事業数 | 基金残額 注(1) |
事業実施主体 | 事業数 | 基金残額 注(1) |
---|---|---|---|---|---|---|
1年未満 | 農林水産省 | 8 | 303,065 | 福島県及び2町村 | 8 | 303,065 |
国土交通省 | 2 | 1,148,469 | 2町村 | 2 | 1,148,469 | |
計 | 10 | 1,451,534 | 10 | 1,451,534 | ||
1年以上 | 文部科学省 | 26 | 81,520 | 浪江町 | 5 | 12,617 |
飯舘村 | 21 | 68,903 | ||||
厚生労働省 注(2) | 11 | 279,429 | 福島県 | 4 | 16,916 | |
広野町 | 2 | 15,023 | ||||
川内村 | 1 | 0 | ||||
浪江町 | 2 | 3,664 | ||||
飯舘村 | 2 | 243,825 | ||||
農林水産省 | 49 | 1,324,934 | 福島県 | 35 | 602,762 | |
南相馬市 | 6 | 169,227 | ||||
楢葉町 | 2 | 117,837 | ||||
浪江町 | 3 | 401,773 | ||||
飯舘村 | 3 | 33,334 | ||||
経済産業省 | 5 | 1,599,336 | 田村市 | 1 | 149,526 | |
南相馬市 | 1 | 117,942 | ||||
浪江町 | 3 | 1,331,868 | ||||
国土交通省 | 25 | 1,905,916 | 福島県 | 2 | 345,694 | |
富岡町 | 3 | 231,921 | ||||
大熊町 | 6 | 145,905 | ||||
浪江町 | 6 | 763,944 | ||||
葛尾村 | 1 | 270,089 | ||||
飯舘村 | 7 | 148,363 | ||||
計 | 116 | 5,191,137 | 116 | 5,191,137 | ||
合計 | 126 | 6,642,671 | 126 | 6,642,671 |
また、これら116事業に係る基金残額51億9113万余円の使用見込み等についてみたところ、53事業については、他の基金型事業への流用を予定し、又は、国庫への返還手続に着手するなどしていた。
一方で、5市町村(注8)の60事業に係る基金残額計21億0145万余円(文部科学省所管26事業計8152万円、厚生労働省所管1事業計2億3955万余円、農林水産省所管14事業計7億2217万余円、国土交通省所管19事業計10億5821万余円)については、流用できる継続事業がないなど使用する見込みがないのに、国庫への返還が検討されておらず、事務連絡に基づいた取扱いが行われていなかった(表2参照)。
また、当該基金型事業の所管省は、基金の執行管理に当たって、福島県等から毎年度提出を受ける状況報告書等により加速化交付金基金の保有額等を把握していたものの、復興庁から進捗状況報告の提供を受けるなど適宜の方法により福島県等における基金の保有額が過大となっていないか十分に確認しておらず、5市町村に対して使用する見込みがない基金残額を国庫へ返還するように指示していなかった。
これらのため、5市町村は、使用する見込みのない基金残額を保有していて、加速化交付金基金の保有額が過大となっていた。
なお、浪江町及び飯舘村の3事業に係る使用見込みのない基金残額計793万余円(厚生労働省所管)については、当該事業を移管されたこども家庭庁において、本院の指摘に基づき、6年3月から4月までの間に浪江町及び飯舘村から国庫に返還させる処置が講じられた。
表2 完了から1年以上が経過していた事業のうち使用見込みのない基金残額
所管省 | 事業数 | 基金残額 (令和4年度末時点) |
事業実施主体 | 事業 | 基金残額 (令和4年度末時点) |
---|---|---|---|---|---|
文部科学省 | 26 | 81,520 | 浪江町 | 浪江町共同調理場整備事業(基金型)等5事業 | 12,617 |
飯舘村 | 飯舘中学校太陽光発電設備整備事業等21事業 | 68,903 | |||
厚生労働省 (注) | 1 | 239,554 | 飯舘村 | 飯舘村簡易水道監視設備等整備事業 | 239,554 |
農林水産省 | 14 | 722,171 | 南相馬市 | 鹿島北部地区農業集落排水事業(基金型)等6事業 | 169,227 |
楢葉町 | 農山村地域復興基盤総合整備事業(農業水利施設等保全再生事業)楢葉地区(基金型)等2事業 | 117,837 | |||
浪江町 | 乾燥調製貯蔵施設敷地造成事業(基金型)等3事業 | 401,773 | |||
飯舘村 | いいたてまでいな農業敷地造成整備事業(飯舘ライスセンター)等3事業 | 33,334 | |||
国土交通省 | 19 | 1,058,212 | 大熊町 | 大熊町災害公営住宅整備事業等6事業 | 145,905 |
浪江町 | 浪江町道路整備事業(一里檀大町線)(基金型)等6事業 | 763,944 | |||
飯舘村 | 建設型応急仮設大師堂団地整備事業等7事業 | 148,363 | |||
計 | 60 | 2,101,457 | 2,101,457 |
(改善を必要とする事態)
基金型事業の所管省において、加速化交付金基金の保有額が過大となっていないか十分に確認しておらず、5市町村において使用する見込みのない基金残額を保有していて、加速化交付金基金の保有額が過大となっている事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
ア 使用見込みのない基金残額に係る基金型事業の所管省において、復興庁から進捗状況報告の提供を受けるなど適宜の方法により個々の基金型事業の執行状況や基金残額を適時適切に把握するなどして基金の執行管理を行い、基金の保有額が過大となっていないか確認することの必要性についての理解が十分でないこと
イ 5市町村において、基金残額を流用できる継続事業がないなど使用する見込みがない場合には、基金型事業の所管省との間で使用見込みのない基金残額の国庫への返還手続を進めるなどすることについての理解が十分でないこと
各省各庁の長は、適正化令を適切に運用して基金の執行管理に努めること、基金の廃止時期が到来する前の時点においても、基金の額が過大であるか否かを不断に確認することなどとされている。また、福島県等は加速化交付金基金の保有額が基金型事業の実施状況その他の事情に照らして過大であると交付担当大臣が認めた場合はその額を交付担当大臣の指示に従い国庫に返還しなければならないこととされている。
ついては、加速化交付金基金の規模が適切なものとなるよう、次のとおり改善の処置を要求する。
ア 復興庁において、基金型事業の所管省庁に対して、基金の執行管理が十分に行われるよう、進捗状況報告を提供することなどにより個々の基金型事業の執行状況や基金残額の把握に資する情報を共有するなどした上で、加速化交付金基金の保有額が過大となっていないか確認することなどの必要性について周知するとともに、福島県等に対して、基金残額を流用できる継続事業がないなど使用する見込みがない場合には、基金型事業の所管省庁との間で使用見込みのない基金残額の国庫への返還手続を進めることについて改めて周知すること
イ 使用見込みのない基金残額に係る基金型事業の所管省において、5市町村に対して、使用見込みのない基金残額を国庫へ返還するように指示するなどすること