会計検査院は、地方公共団体によるマイナンバー情報照会の実施状況について、効率性、有効性等の観点から、①地方公共団体によるマイナンバー情報照会の実績はどのようになっているか、②情報連携事務の発生状況やこれを踏まえたマイナンバー情報照会の実施状況は事務手続ごとにどのようになっているか、マイナンバー情報照会を実施している地方公共団体において実施の効果をどのように認識しているか、また、マイナンバー情報照会を実施していないなどの地方公共団体においてその要因はどのようなものかなどに着眼して検査した。
検査の状況の主な内容は次のとおりである。
情報照会者とされている地方公共団体の半数以上がマイナンバー情報照会を利用していた32手続のうち、4年度の全期間が情報連携の本格運用期間となっていた30手続について、同年度のマイナンバー情報照会実施率の状況を確認したところ、事務手続が発生していた延べ6,423地方公共団体のうち、延べ5,418地方公共団体(延べ6,423地方公共団体の84.3%)において50%以上となっていた。
一方、28手続に係る延べ1,005地方公共団体(同15.6%)において50%未満となっており、延べ506地方公共団体(同7.8%)はマイナンバー情報照会を全く実施していなかった。
また、30手続のうちの市町村等を情報照会者とする17手続については、事務手続が発生していた延べ6,166地方公共団体のうちの延べ5,260地方公共団体においてマイナンバー情報照会実施率が50%以上となっていた一方、延べ906地方公共団体において50%未満となっていた。そして、検査の対象とした435市町村における各事務手続のマイナンバー情報照会実施率が50%以上の地方公共団体と50%未満の地方公共団体の構成比は、全国の1,741市区町村についてみても、統計的にはおおむね同じになると考えられる(1021_3_2_2_1リンク参照)。
マイナンバー情報照会実施率が50%以上となっていた30手続に係る延べ5,418地方公共団体に対して、マイナンバー情報照会の実施の効果に関する認識を確認したところ、国民の利便性の向上につながったとする地方公共団体が延べ4,702地方公共団体(延べ5,418地方公共団体の86.7%)、行政運営の効率化につながったとする地方公共団体が延べ4,772地方公共団体(同88.0%)となっていた(1021_3_2_2_2リンク参照)。
マイナンバー情報照会実施率が50%未満となっていた地方公共団体が見受けられた28手続に係る情報連携事務の処理方法及び事務手続ごとの主な未実施理由の状況について確認したところ、28手続のうちの都道府県等を情報照会者とする11手続に係るマイナンバー情報照会実施率が50%未満となっていた延べ99地方公共団体において、情報連携事務計244,314件が申請者等からの添付書類の提出や他の機関に対する文書照会等により処理されていた。そして、11手続のうちの10手続について、地方公共団体におけるマイナンバー情報照会の活用方策の検討に関する問題又はマイナンバー情報照会を活用した事務処理の効率面に関する問題の両方又はいずれかが見受けられた。
また、28手続のうちの市町村等を情報照会者とする17手続に係るマイナンバー情報照会実施率が50%未満となっていた延べ906地方公共団体において、情報連携事務計296,847件が申請者等からの添付書類の提出や他の機関に対する文書照会等により処理されていた。そして、17手続全てについて、地方公共団体におけるマイナンバー情報照会の活用方策の検討に関する問題、マイナンバー情報照会を活用した事務処理の効率面に関する問題又は事務の発生件数が少数であった場合のマイナンバー情報照会の活用に係る動機付けに関する問題の複数又はいずれかが見受けられた(1021_3_2_2_3リンク参照)。
県又は市町村等における未実施理由の状況をみたところ、県及び市町村等において「業務フローの見直しやマニュアル作成が未了」という未実施理由は共通して多く選択されていたが、個別事務システムの仕様や窓口での審査業務の運用等を踏まえて、県では「業務システムから情報照会ができない」、市町村等では「添付書類を提出してもらった方が効率的」という未実施理由が多く選択されていた(1021_3_2_2_4リンク参照)。
そして、これらの所管府省庁であるこども家庭庁、総務省、文部科学省及び厚生労働省は、把握の対象が全国に及ぶことから、各地方公共団体に対して照会件数の状況を確認するなどしておらず、前記のような問題が見受けられるなどしたマイナンバー情報照会の実施状況について十分に把握していなかった。
また、デジタル庁は、照会実績データにより、各地方公共団体のマイナンバー情報照会の照会件数の状況を把握していたものの、事務手続の所管府省庁に提供していなかった(ZUHYO2-14リンク参照)。
情報照会者とされている地方公共団体の過半がマイナンバー情報照会を利用していなかった1,225手続から選定した168手続のうち、127手続については4年度の全期間が情報連携の本格運用期間となっており、当該127手続のうちの25手続については、同年度の地方公共団体の人口規模を考慮して算出するなどした事務の発生件数が年間100件以上となっていた一方、残りの102手続については、年間100件未満となっていた(1021_3_2_3_1リンク参照)。
上記の25手続について、4年度のマイナンバー情報照会実施率の状況を確認したところ、事務手続が発生していた延べ2,903地方公共団体のうち、20手続に係る延べ821地方公共団体(延べ2,903地方公共団体の28.2%)において50%以上となっていた。
一方、24手続に係る延べ2,082地方公共団体(同71.7%)において50%未満となっており、23手続に係る延べ1,441地方公共団体(同49.6%)はマイナンバー情報照会を全く実施していなかった。
また、25手続のうちの市町村等を情報照会者とする11手続については、事務手続が発生していた延べ2,688地方公共団体のうちの延べ795地方公共団体においてマイナンバー情報照会実施率が50%以上となっていた一方、延べ1,893地方公共団体において50%未満となっていた。そして、検査の対象とした435市町村における各事務手続のマイナンバー情報照会実施率が50%以上の地方公共団体と50%未満の地方公共団体の構成比は、全国の1,741市区町村についてみても、統計的にはおおむね同じになると考えられる(1021_3_2_3_2_1リンク参照)。
マイナンバー情報照会実施率が50%未満となっていた地方公共団体が見受けられた24手続のうちの2手続については、多くの市町村がマイナンバー情報照会を実施しておらず、マイナンバー情報照会実施率が50%未満となっていた市町村の9割以上において、未実施理由が共通していた。そして、マイナンバー情報照会によって適時に最新情報を取得できない場合が生ずるという、地方公共団体の取組だけでは解消が困難な問題が見受けられた。
また、残りの22手続については、前記のマイナンバー情報照会の活用方策の検討に関する問題、マイナンバー情報照会を活用した事務処理の効率面に関する問題又は事務の発生件数が少数であった場合のマイナンバー情報照会の活用に係る動機付けに関する問題の複数又はいずれかが見受けられた(1021_3_2_3_2_2リンク参照)。
事務の発生件数が年間0件超100件未満となっていた88手続のうち、発行手数料を伴う課税証明書や住民票の写しなどの添付書類の提出の省略により国民の利便性の向上が図られる事務手続に係るマイナンバー情報照会の実施状況を確認したところ、18手続に係るマイナンバー情報照会実施率が50%未満となっていた延べ322地方公共団体が、課税証明書や住民票の写しなどの添付書類を申請者等に提出させていた。
また、情報の利活用の推進を目的とする事務手続に係るマイナンバー情報照会の実施状況を確認したところ、1手続については、事務手続の運用を開始した目的等が地方公共団体において十分に理解されていなかった(1021_3_2_3_3リンク参照)。
県又は市町村等における未実施理由の状況をみたところ、県及び市町村等において「添付書類を提出してもらった方が効率的」という未実施理由が共通して最も多く選択されており、申請者等が保有している添付書類の提出を受けて事務処理を行う方が効率的であると認識されている状況が見受けられた(1021_3_2_3_4リンク参照)。
そして、これらの所管府省庁であるこども家庭庁、総務省、文部科学省、厚生労働省及び国土交通省並びにデジタル庁の状況は、情報照会者とされている地方公共団体の半数以上が利用していた28手続と同様となっていた。すなわち、事務手続の所管府省庁は、各地方公共団体によるマイナンバー情報照会の実施状況について十分に把握しておらず、デジタル庁は、各地方公共団体のマイナンバー情報照会の照会件数の状況を事務手続の所管府省庁に提供していなかった(link70リンク参照)。
「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」において、デジタル社会の形成に当たっては、行政の簡素化、効率化及び透明性の向上を図ること、また、行政のデジタル化に重要な役割を果たすマイナンバー関連制度について、国民にとっての使い勝手の向上及び同制度の活用を図ることなどが示されている。マイナンバー制度は、国民の利便性の向上と行政の効率化を併せて進め、より公平・公正な社会を実現するためのデジタル社会における社会基盤であり、情報連携は、マイナンバー法に基づき、情報提供NWSを利用して、国の行政機関や地方公共団体等の各機関が管理している様々な同一人の情報について、迅速かつ安全に授受を行い共有するものとなっている。そして、マイナンバー情報照会が実施されることにより、従来の行政手続で必要とされていた添付書類の提出の省略により申請者等の負担が軽減され、国民の利便性の向上が図られるとともに、様々な情報の照合、転記、入力等に要していた時間や労力が削減され行政運営の効率化が図られることになっている。
国は、マイナンバー法等に基づき、マイナンバーの利用の促進のための施策を実施しており、マイナンバー制度の導入に合わせて、情報提供NWSを整備して運用するほか、地方公共団体における情報システムの整備等に対して、これまで多額の国庫補助金を交付して、地方公共団体におけるマイナンバー情報照会の実施環境の整備を推進するとともに、平成29年11月の情報連携の本格運用開始以降、マイナンバー情報照会を実施することができる事務手続を増加させるなどの取組を行っている。
また、国は、令和5年6月に公布された改正法に基づき、マイナンバーの利用の促進を図る行政事務の範囲を拡大させるなどの取組を行うこと、及び情報連携の正確性の確保に向けて実施した総点検の結果に基づき、マイナンバーの紐付け誤りに係る再発防止対策を実施することなどの施策を講じていくこととしており、引き続き、地方公共団体によるマイナンバー情報照会の実施についても促進させていくこととしている。このような中、事務手続の所管府省庁において、地方公共団体によるマイナンバー情報照会の実施状況について十分に把握されていないなどの状況が見受けられた。
ついては、マイナンバー制度全般の企画及び立案について主導的な役割を担うデジタル庁並びに事務手続の所管府省庁において、上記総点検の結果に基づく再発防止対策を適切かつ確実に実施するとともに、情報連携の対象となっている事務手続については全て情報連携を活用して事務処理を行うことが基本であり、情報連携を行うことができない事務手続がある場合には速やかに問題を解決するとなっていることなどを踏まえて、地方公共団体によるマイナンバー情報照会の実施について、多額の国費を投じて実施したマイナンバー制度関連システムの整備等の効果が十分に発現されるよう、次の点に留意する必要がある。
会計検査院としては、マイナンバー制度における地方公共団体による情報照会の実施状況について、引き続き注視していくこととする。