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  • 昭和29年度|
  • 第2章 国の会計|
  • 第5節 各所管別の不当事項および是正事項|
  • 第8 農林省|
  • (一般会計)|
  • 不当事項|
  • 補助金

昭和28、29年発生災害復旧事業の査定額を減額させたもの


(1653)−(1663) 昭和28、29年発生災害復旧事業の査定額を減額させたもの

 地方公共団体、農業協同組合、土地改良区等が施行した農業施設、林道、漁港災害復旧の工事の検査の結果によれば、従来、検査報告に掲記したとおり、設計が過大なもの、災害復旧とは認められない改良工事を施行しているものまたは同一の被害箇所を重複して査定し国庫補助金が二重交付となっているものなどが多数あり、これらの不当事項については、工事完成後にこれを指摘しても実際上その是正が困難な場合が多く、むしろ工事完成前に査定の内容を検査し、早期に注意して是正を促すことが効果的であると認め、昭和28年度決算検査報告(参照) に掲記したとおり、昭和28年発生災害の査定に対する検査を早期に実施したが、本年においても29年発生災害について早期検査を実施するとともに、28年発生災害復旧工事未着手の地区で前年に検査を行わなかったものについてもあわせてこれを実施した。

 右検査は、29年発生災害に対する復旧費査定額がとくに多額な静岡ほか10県を選び、30年1月から4月までの間に、農業施設8,898工事43億4千6百万余円、林道426工事2億3千8百余万円および漁港694工事12億8千9百余万円について実施した。その結果は、前年と同様に河川の堤とう、護岸等の復旧工事について、同一箇所の工事を農林省と建設省の双方においてまたは農林省において重複して査定しているもの、堤とう工事と水路工事の護岸が重複しているもの、災害を受けていなかったり被害が軽微であるのに災害復旧の査定を受けて改良工事を施行しようとしているもの、経済効果の著しく少ない施設に多額の経費を投入しようとしているもの、水路、護岸、井ぜき等の工事において著しく原形をこえ、かつ、不必要に過大な設計により実施しようとしているもの、石垣およびコンクリート工事の材料を現場付近で採取することができるのに遠方から運搬することとしているもの、農地復旧において排土、客土を地区内で相互に流用することができるのに地区外に搬出もしくは地区外から搬入することとしているもの、または土砂のたい積量、運搬距離を過大に見込んでいるものなど二重査定、改良工事その他災害復旧の対象としてはならないもの、設計過大の結果となっているものが多数発見され、査定工事費を適正なものに修正する必要があると認められたので当局に注意したところ、農業施設で6,131工事14億8千9百余万円、林道で284工事5千9百余万円、漁港で248工事1億2千3百余万円計6,663工事16億7千1百余万円(国庫補助金相当額13億1百余万円)を減額是正した旨の回答があった。なお、県別の内容は次表のとおりである。

種別 農林省査定額 同上のうち本院において実地検査したもの 減額された工事費
二重査定 改良工事その他 設計過大
県名 年災 工事数 金額 工事数 金額 工事数 金額 工事数 金額 工事数 金額 工事数 金額

静岡県

28

991
千円
686,306

85
千円
53,029

2
千円
10,331

33
千円
10,471

38
千円
6,432

73
千円
27,234
29 1,149 506,589 495 290,452 3 3,788 86 38,891 194 22,164 283 64,843
2,140 1,192,895 580 343,481 5 14,119 119 49,362 232 28,596 356 92,077
三重〃 28 3,774 4,110,109 160 117,343 2 535 62 27,382 62 15,639 126 43,556
29 806 362,868 508 249,354 1 320 65 14,429 207 23,123 273 37,872
4,580 4,472,977 668 366,697 3 855 127 41,811 269 38,762 399 81,428
和歌山〃 28 9,141 9,348,330 887 1,110,636 13 8,139 486 298,585 239 184,617 738 491,341
29 2,903 1,195,685 712 333,801 5 1,764 294 80,989 242 39,209 541 121,962
12,044 10,544,015 1,599 1,444,437 18 9,903 780 379,574 481 223,826 1,279 613,303
島根〃 28 938 361,069 311 135,903 3 821 84 23,347 138 18,876 225 43,044
29 1,320 410,289 599 194,457 4 1,776 143 29,143 203 17,103 350 48,022
2,258 771,358 910 330,360 7 2,597 227 52,490 341 35,979 575 91,066
広島〃 28 1,287 601,959 501 252,586 11 3,447 184 78,679 187 27,513 382 109,639
29 1,648 854,799 633 312,527 8 3,256 191 51,766 162 15,896 361 70,918
2,935 1,456,758 1,134 565,113 19 6,703 375 130,445 349 43,409 743 180,557
山口〃 29 3,292 1,451,729 1,407 561,583 11 3,123 249 50,155 671 66,912 931 120,190
愛媛〃 28 1,016 325,169 372 118,823     203 51,219 117 11,272 320 62,491
29 2,204 1,300,753 665 564,460 2 619 150 45,302 207 32,186 359 78,107
3,220 1,625,922 1,037 683,283 2 619 353 96,521 324 43,458 679 140,598
高知〃 28 788 524,122 238 178,940 1 403 138 39,157 53 7,631 192 47,191
29 1,241 844,967 525 453,257 3 909 143 40,313 158 23,972 304 65,194
2,029 1,369,089 763 632,197 4 1,312 281 79,470 211 31,603 496 112,385
熊本〃 28 2,881 3,166,002 34 11,277     23 6,910 8 881 31 7,791
29 1,027 438,720 609 226,471 3 539 148 35,280 245 28,453 396 64,272
3,908 3,604,722 643 237,748 3 539 171 42,190 253 29,334 427 72,063
宮崎〃 29 1,647 1,093,297 713 459,366 5 1,868 116 34,254 263 36,081 384 72,203
鹿児島〃 28 851 407,892 135 77,393 1 220 64 24,521 38 10,240 103 34,981
29 869 372,737 429 172,578 2 1,354 138 42,470 151 17,102 291 60,926
1,720 780,629 564 249,971 3 1,574 202 66,991 189 27,342 394 95,907
合計 28 21,667 19,530,958 2,723 2,055,930 33 23,896 1,277 560,271 880 283,101 2,190 867,268
29 18,106 8,832,433 7,295 3,818,306 47 19,316 1,723 462,992 2,703 322,201 4,473 804,509
39,773 28,363,391 10,018 5,874,236 80 43,212 3,000 1,023,263 3,583 605,302 6,663 1,671,777

 しかして、28年発生災害については2,723工事20億5千5百余万円を検査したのに対し、是正を要するものが2,190工事8億6千7百余万円の多額に上ったのは、査定が現地の実査を伴わないいわゆる机上査定によって行われたものが多かったことによるもので、前年における検査の結果、当局に対し机上査定地区に対してはつとめて実地につき再調査を行うよう注意を促したのであるが、いまだに机上査定のままとなっているものが多く、今回の検査の結果多額の減額修正をするにいたったのはまことに遺憾である。結局、前年および本年における早期検査の結果、28年発生災害について是正させたものは、前年において指摘したものを合わせると、1万8千9百余工事95億6千8百余万円の多数、多額に上っている。

 また、29年発生災害については、28年発生災害に比べ現地の実査は著しく増加し査定箇所の70%に上っているが、なお、検査を実施した7,295工事38億1千8百余万円に対し是正を要したものが4,473工事8億4百余万円に上っており、前年と同様に机上査定地区に是正を要するものが多かったばかりでなく、実地査定地区4,582工事26億8千5百余万円のうちにも2,617工事において二重査定、災害便乗、設計過大等の結果となっているものがあり、是正を要したものが4億4千3百余万円の多額に上っている。このように、現地実査の比率が向上したにかかわらず、なお是正を要するものが多数発見されたのは主として現地実情の調査が不十分であったことによるものと認められる。

 しかして、前記の是正されたものを態様別にあげると次のとおりである。

(1) 重複して査定されていたもの

(1653)−(1655)  同一箇所の工事を農林省と建設省の双方においてまたは農林省において重複して査定しており、農林省において査定を取り消したものは、昭和28年発生災害33工事23,896,000円、29年発生災害47工事19,316,000円計80工事43,212,000円に上っているが、そのおもなものをあげると次のとおりであって、そのうち山口県大津郡油谷町(旧向津具村、旧宇津賀村、旧菱海村)については、昭和28年度決算検査報告(参照) に掲記したとおり、渡船沈没の事実がないのに災害により沈没したこととして国庫負担金の交付を受け新船を建造したものなど、国庫補助金の経理が著しく当を得ないと認められる事例を指摘したのであるが、本年度においても重ねて不当な事例が見受けられたことはきわめて遺憾である。

(1653)  静岡県小笠郡北小笠村各和橋29年災害復旧は、査定額3,552,000円(国庫補助金2,060,250円)で延長72メートルの橋りょうを復旧することとしていたが、右は、別途建設省所管の村道東山金井線各和橋29年災害復旧2,025,000円(国庫負担金1,350,000円)と重複して査定されていた。

(1654)  島根県鹿足郡六日市町高津川堤塘29年災害復旧は、査定額1,292,000円(国庫補助金839,800円)で護岸延長101メートルを復旧することとしていたが、右は、別途建設省所管の高津川筋堤防29年災害復旧1,730,000円(国庫負担金1,152,000円)と重複して査定されていた。

(1655)  山口県大津郡油谷町重国水路29年災害復旧は、査定額412,000円(国庫補助金267,800円)で水路延長35メートルを復旧することとしていたが、右は、さきに水路延長31メートルを241,000円(国庫補助金156,650円)で復旧する実地査定を受けていたものに対し重複して査定されていた。
 右のほか、同町で29年災害として道路延長34メートルおよび水路延長60メートルの復旧につき301,000円(国庫補助金195,650円)の査定を受けていたものがあるが、現地を調査したところ、いずれも図面と符合する被災箇所はない。

(2) 改良工事その他国庫補助の対象としてはならないもの

(1656)−(1660)  災害を受けていないのに災害復旧の査定を受けて改良工事を施行しようとしたり、または著しく原形をこえ、かつ、不必要に過大な設計により工事を施行しようとした改良その他の工事は、昭和28年発生災害1,277工事560,271,000円、29年発生災害1,723工事462,992,000円計3,000工事1,023,263,000円に上っているが、そのおもなものをあげると次のとおりである。

(1656)  和歌山県那賀郡池田村北中海神溜池29年災害復旧は、査定額7,920,000円(国庫補助金5,148,000円)でため池に流入した土砂24,284立米を排土することとしていたが、実際は災害による流入土砂ではなく、ため池のしゅんせつをしようとしていた。

(1657)  島根県穏地郡都万村一般林道油井線28年災害復旧は、査定額1,141,000円(国庫補助金1,026,900円)で道路延長153メートルの路側練積石垣を復旧することとしていたが、右のうち99メートル工事費765,000円(国庫補助金688,500円)は被災の事実が認められなかったもので、災害の復旧に名をかり幅員を拡張しようとしていた。
 また、同村都万漁港28年災害復旧は、査定額2,031,000円(国庫負担金1,868,520円)で舟ひき場延長50メートルを復旧することとしていたが、実際は被災の事実が認められなかったもので、災害の復旧に名をかりから石張を練石張およびコンクリートブロック造りのものに改良しようとしていた。

(1658)  広島県安芸郡倉橋町倉橋漁港28年災害復旧は、査定額5,951,000円(国庫負担金3,969,300円)で防波堤延長60メートルを復旧することとしていたが、実際は被災の事実がなく、従来なかった防波堤を新たに築造しようとしていた。

(1659)  山口県阿武郡旭村佐々連頭首工29年災害復旧は、査定額1、007,000円(国庫補助金654、550円)で井ぜき1箇所および付帯水路を復旧することとしていたが、同井ぜきの利用面積はわずか1反余であり、経済効果の著しく少ない施設に多額の経費を投入しようとしていたものである。

(1660)  鹿児島県曽於郡大崎町上別府堤塘28年災害復旧は、査定額4,640,000円(国庫補助金4,176,000円)で堤とう延長560メートルを復旧することとしていたが、右のうち467メートル工事費4,140,000円(国庫補助金3,726,000円)は被害が軽微で復旧の要はなかったもので、土羽の堤とうを石積に改良しようとしていた。

(3) 設計が過大と認められたもの

(1661)−(1663)  排土、客土の土量または運搬距離を過大に見込むなど設計が現地の実情に沿わないと認められたものは昭和28年発生災害880工事283,101,000円、29年発生災害2,703工事322,201,000円計3,583工事605,302,000円に上っているが、そのおもなものをあげると次のとおりである。

(1661)  静岡県安倍郡中藁科村富沢西川水路29年災害復旧は、査定額4,960,000円(国庫補助金3,224,000円)で水路延長390メートルの練石積を法長2.7メートルで2,106平米を施行し、築石は12キロメートルの地点から搬入することとしていたが、現地を調査したところ、法長は2.25メートルで足り、築石は現場付近で採取することができるもので、復旧費は3,900,000円となり1,060,000円(国庫補助金689,000円)が過大となっていた。

(1662)  三重県南牟婁郡神志山村志原農地29年災害復旧は、査定額1,820,000円(国庫補助金910,000円)で農地4町2反の客土2,268立米を950メートルの地点から搬入することとしていたが、右のうち1,688立米は150メートルの地点から良質の耕土を採取することができるものでこれを運搬すれば足り、復旧費は635,000円となり1,185,000円(国庫補助金592,5000円)が過大となっていた。

(1663)  高知県土佐清水市窪津漁港29年災害復旧は、査定額2,127,000円(国庫負担金1,714,362円)で防潮堤延長85メートルの捨石973立米を施行することとしていたが、現地を調査したところ延長54メートル、513立米を施行すれば足りるもので、復旧費は1,132,000円となり995,000円(国庫負担金801,970円)が過大となっていた。