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  • 昭和31年度|
  • 第2章 国の会計|
  • 第5節 各所管別の不当事項および是正事項|
  • 第6 農林省|
  • (農業共済再保険特別会計)|
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  • 保険

農業共済保険事業の運営が適切でないもの


(860)−(898) 農業共済保険事業の運営が適切でないもの

 農業共済再保険特別会計農業勘定の昭和31年度決算額は、歳入93億4千3百余万円、歳出82億5千余万円で、10億9千2百余万円が歳入超過となっているが、事業損益についてみると8億4千余万円の損失となっている。これは主として、31年産水稲では、再保険料収入54億9千2百余万円に対し再保険金の支払が50億4百余万円(うち北海道38億6千3百余万円)にとどまったため差引4億8千7百余万円の利益となっているのに、蚕繭では、春蚕繭の被害がじん大で、再保険料収入2億4千6百余万円に対し再保険金支払が15億6百余万円の多額に上ったため差引12億6千余万円の損失を生じ、また、陸稲において1億1千余万円の損失を生じていることによるものである。

 本特別会計開設以来31年度までの損益をみると、一般会計および食糧管理特別会計から累計493億7百余万円(うち30年度84億9千1百余万円、31年度81億2千1百余万円)の共済掛金国庫負担金を繰り入れているにもかかわらず、累計199億9千4百余万円の損失となっており、この損失補てんのため一般会計から190億1千2百余万円の多額を本会計に繰り入れている。このほか、一般会計から毎年多額の農業共済事業事務費負担金を支出しており、31年度までの総額は149億4千2百余万円(うち30年度23億1千余万円、31年度22億9百余万円)に達している。

 このように多額の国費が支出されている事情にかんがみ、本院においては29年以降事業の主体をなしている主要農作物共済に関し、掛金の徴収が適期、適切に行われているか、共済金はその全額が組合員に正当に支払われているか、保険金請求に際し被害の評価および府県農業共済組合連合会への報告は事実に即して行われているかなどについて調査を実施した。その結果は、28年度以降毎年度の検査報告に掲記したとおりであるが、本年においても引続き北海道ほか33府県の314農業共済組合の経理につき調査を行なったところ、従来と同様、共済金の経理当を得ないと認められるものが、161組合で248,449,778円(国庫負担推定額1億1900万円)の多額に上っており、これを不当の態様別に示すと次表(折込)のとおりである。

道府県名 調査済共済組合数 調査済共済金額 共済金を組合員に全く支払わないもの 共済金の一部を組合員に支払わないもの(うち目的外に使用した額) 共済金を補償対象外の被害三割未満の耕地をも含めて配分しているもの
組合数 共済金額 組合数 共済金額 組合数 共済金額 組合数 共済金額
北海道 19 545,030



5 59,542 5 59,542
青森県 4 2,274

3 1,704
(607)
1 569 4 2,274
岩手〃 6 22,767

3 5,740
(341)
1 286 4 6,026
宮城〃 4 16,472

1 701
(582)


1 701
秋田〃 12 12,332

10 10,760
(2,697)
1 1,218 11 11,978
山形〃 2 4,472

1 1,456
(71)
1 1,534 2 2,990
福島〃 6 11,544

3 2,919
(756)
3 1,094 6 4,013
茨城〃 4 2,215



3 2,142 3 2,142
群馬〃 14 23,516

1 1,514
(17)
3 4,174 4 5,689
千葉〃 4 5,692

2 2,504
(212)
1 867 3 3,372
富山〃 8 31,778

2 5,540
(3,729)
3 5,873 5 11,413
石川〃 7 11,229

3 4,630
(2,892)
2 3,074 5 7,704
福井〃 20 22,438

6 5,793
(1,656)
11 6,727 17 12,520
山梨〃 7 7,490

3 3,374
(78)
1 115 4 3,490
岐阜〃 11 22,777

9 18,095
(4,987)
1 1,084 10 19,180
静岡〃 23 54,928

11 19,585
(4,185)
4 7,813 15 27,398
滋賀〃 5 7,321

1 2,265
(1,179)


1 2,265
大阪府 4 15,137 1 1,046 2 9,653
(9,624)


3 10,700
兵庫県 43 12,859

4 1,057
(711)
9 1,747 13 2,805
奈良〃 6 11,775

1 496
(216)


1 496
和歌山〃 9 7,997

3 947
(862)


3 947
鳥取〃 10 3,045 1 79



1 79
島根〃 7 14,291

3 3,784
(1,202)


3 3,784
岡山〃 27 13,952



3 849 3 849
広島〃 1 305

1 128
(128)


1 128
山口〃 1 62

1 62
(62)


1 62
徳島〃 12 20,943

1 1,993
(59)
2 2,476 3 4,469
香川〃 3 10,689

1 3,359
(190)
2 3,912 3 7,272
愛媛〃 24 30,636

11 20,289
(5,009)
13 10,347 24 30,636
鹿児島〃 3 6,440

1 2,132
(822)
1 1,376 2 3,508
合計 306 952,419 2 1,126 88 130,492
(42,887)
71 116,830 161 248,449

 右は、いずれも組合において共済金の全部または一部を支払わないもの、もしくはこれを正規の基準によることなく被害3割未満の耕地をも含めて耕地面積に応じ均等割等で支払ったもので、これら不当に経理された共済金等のうち組合員に実際に支払われたものは179,116,170円にすぎず、残額70,844,282円は26,830,657円を組合の未収掛金、組合経費賦課金等と相殺し、44,013,625円を目的外に使用していた。また、組合が共済金を連合会の決定どおり支払っている場合においても、なお、部落においてこれを組合員から回収して、独自の基準で再配分していたり、個人に全く支払うことなく後年度掛金の準備金として積み立てていたり、または共通経費に使用しているなど、共済金が部落において不当に経理されているのが多数見受けられている。

 なお、30年度までの検査報告に掲記した事項のうち、当局において変則払等の不当経理を是正し正規の支払を行なった旨回答のあった組合について宮城ほか17県の41組合を調査したところ、実際に是正しているものはほとんどなく、その後においても共済金を連合会に請求するにあたり損害を過大に報告し実際の評価を上回る保険金を受領していたり、共済金の全部もしくは一部を組合員に支払わないで目的外に使用していたり、またはその後の事業を全く休止しているものがあり、とくに改善されているとは認められない状況である。

 以上の結果から考察すると、本制度は法の期待する正規の運営が実施されているとは認められない実情であるが、これは、損害率のは握が困難な農作物を対象とし、しかも、引受単位も個々の農家の一筆ごとの耕地であって、常襲被害地と無被害地があるにもかかわらず、これを同一条件のもとに一律に掛金を決定するほかなく、無被害地の所有者等はその掛金が掛捨となることから掛金納入に非協力であり、また、その他の農家も掛金、賦課金等が高額であるにもかかわらず災害発生時の補償額が少ないため制度に対する関心が薄く、結局、掛金の納入をきらう傾向をきたしており、末端の市町村組合は未収掛金の補てんに苦慮し、なかには過大な被害報告により取得した付増保険金をこれに充てるなどして収支を合わせるような経理を行なっているものもある。

 いま、検査の結果判明した不当経理のうち、とくに不当と認められる共済金目的外使用が1組合当り20万円をこえるものをあげると別表第6のとおり39組合で目的外使用額40,544,251円になっているが、その代表的な事例をあげると次のとおりである(各項末尾の( )内の数字は別表第6に掲記した番号を示す。)。

(共済金の全部を組合員に支払わず、また、掛金も徴収していないため制度が農民から遊離しているもの)

(1) 大阪府富田林市農業共済組合で、30年産水稲共済金960,587円、31年産麦共済金86,086円計1,046,673円を被害3割以上の耕地に対し損害評価書どおり支払ったこととしているが、実際は全く支払っていないばかりでなく、掛金も全く徴収せず、共済金を別途に経理し、31年産水稲共済掛金、賦課金に803,690円、建物保険料に200,000円を充て、残額42,983円は組合の雑費に使用していた。(886)

(組合が損害評価額を上回る申請をして実評価額以上の過大な保険金を受領し、これを組合員に配分しないで組合の経費等に使用しているもの)

(1) 石川県珠洲市三崎(旧珠洲郡三崎村)農業共済組合で、29年産水稲保険金を県農業共済組合連合会に対し請求するにあたり、実際の組合評価は被害3割以上の耕地74町6反共済金1,138,422円であるのに、これを92町8反1,493,654円と金額において355,232円を付増しして報告し、同連合会から70町1,275,000円と決定を受けて実際の評価額以上の保険金1,147,500円を受領しているばかりでなく、共済金1,254,600円を損害評価書どおりの被害面積70町に対し支払ったこととしているが、実際はうち1,013,499円を組合独自の評価により59町1反に支払っただけで、残額241,101円は別途に経理し組合の雑費、慰労費等に充てていた。(868)

(2) 静岡県小笠郡大須賀町(旧大渕村)農業共済組合で、29年産水稲保険金を県農業共済組合連合会に対し請求するにあたり、実際の組合評価は被害3割以上の耕地55町3反共済金1,041,054円であるのに、これを79町3反2,005,184円と金額において約2倍に付増しして報告し、同連合会から請求どおり実被害額を上回る決定を受けているばかりでなく、共済金1,884,873円を損害評価書どおり被害面積79町3反に対し支払ったこととしているが、実際は前記55町3反に1,041,053円を支払っただけで、406,420円は引受面積173町2反に対し均等割で配分し、残額437,400円はうち45,400円を生命共済掛金に充て、392,000円は共済掛金の財源としていた。(881)

(共済金の一部を組合員に支払わないで帳簿外に保有し、これを目的外の経費に使用しているもの)

(1) 秋田県由利郡仁賀保町(旧小出村)農業共済組合で、30年産水稲共済金2,432,648円を損害評価書どおりの被害面積59町9反に対し支払ったこととしているが、実際は19町に対し組合独自の評価により1,100,750円を支払っただけで、残額1,331,898円は職員名義の貯金として帳簿外に経理し、うち395,200円を見舞金として7部落に、136,354円を部落運営費として16部落に面積割で配分し、60,000円を役員の記念品代に使用し、740,344円を保険料、諸経費等の財源に充てていた。(865)

(2) 岐阜県不破郡垂井町(旧宮代村)農業共済組合で、29年産水稲共済金2,520,942円、30年産水稲および麦共済金371,096円計2,892,038円を被害3割以上の耕地に対し損害評価書どおり支払ったこととしているが、実際は組合独自の評価により927,737円、引受面積に対し均等割で1,530,695円計2,458,432円を支払っただけで、残額433,606円は帳簿外に経理していた。
 しかして、同組合は29年9月以降このような経理を行い、帳簿外に経理した資金を建物共済掛金、賦課金、農業協同組合指導部事業運営費、動力散粉機購入費等に使用し、52,821円を保有していた。(876)

(3) 愛媛県今治市河南(旧越智郡桜井町)農業共済組合で、29年産水稲および麦共済金2,701,621円、30年産水稲および麦共済金345,050円、31年産麦共済金283,794円計3,330,465円を被害3割以上の耕地に対し損害評価書どおり支払ったこととしているが、実際は組合独自の評価により187,585円、作付面積割で798,845円計986,430円を支払っただけで、残額2,344,035円は別途に経理していた。
 しかして、同組合は22年設立当初から掛金、賦課金を全く徴収せず、井済金の全額を別途に経理し、その額は15,849,156円に上っているが、うち共済金として支払ったものは5,504,646円にすぎず、その他は共済掛金、賦課金に6,853,188円、誘が燈購入費等に1,057,970円、農業協同組合賦課金に383,000円、組合の経費に1,589,216円を使用し、461,135円を保有していた。(894)

(検査報告掲記事項の事後処理が適切でなく、その後も改善されていないもの)

(1) 福島県安積郡喜久田村農業共済組合で、昭和28年度決算検査報告(参照) に掲記したとおり、28年産水稲共済金13,918,493円を被害3割以上の耕地404町7反に対し損害評価書どおり支払わず、うち6,851,482円を組合独自の評価により、6,815,355円を引受面積に対し均等割で配分し、これから寄付金その他328,670円、未収掛金、賦課金1,092,280円を差し引いた12,245,887円を支払っただけで、配分しなかった共済金251,656円は組合で保留していたので、29年8月本院が注意したのに対し、保留額および寄付金580,326円のうち567,726円を共済金として追加支払した旨回答があったが、32年6月再調査したところ、実際は上記の処置を全くとっていないばかりでなく、29年産水稲保険金を県農業共済組合連合会に請求するにあたっても、実際の組合評価は被害3割以上の耕地6町8反57,959円であるのに、これを84町8反715,360円と金額において12倍以上に付増しして報告し、同連合会から72町3反647,700円と決定を受けて実際の評価額以上の保険金582,930円を受領し、共済金647,700円の配分にあたっては、うち57,959円を被害割で支払っただけで、残額589,741円は引受面積639町1反に対し均等割で配分し、これから未収掛金、賦課金405,195円を差し引き、242,505円を支払っていた。(866)

(2) 愛媛県越智郡清水村農業共済組合(現在今治市河南農業共済組合)では、昭和30年度決算検査報告(参照) に掲記したとおり、28年産水稲共済金および麦保険金2,698,768円を別途に経理し、うち360,731円を支払っただけで、その他目的外に使用したものを差し引いた残額は、24年度以降同様な経理をしたものの残額と合わせて2,455,626円に上っていたので、29年6月本院が注意したのに対し、別途貯金全額を共済金として支払い、24年度からの変則払を是正し損害評価書どおり共済金の再配分を行なった旨回答があったが、31年8月再調査したところ、実際は全く再配分を行なっていないばかりでなく、29年産水稲および麦共済金807,681円、30年産麦共済金249,546円計1,057,227円についても180,645円を支払っただけで、残額876,582円は従来と同様別途に経理していた。
 このように前回注意したにもかかわらず、その後も改善の跡がみられないので重ねて注意を促したところ、24年以降30年産麦までの前回精算しなかった分を含めた是正再精算支払額2,444,507円を算出し、この財源として前記違法経理の使用残額742,363円に、農業協同組合の出資金に充当した497,631円および前回未処理の目的外使用額等1,204,513円を合わせ計1,702,144円を農業協同組合および農家から返納させ、または徴収して再精算を行なった旨の回答があったので、さらに32年6月再調査したところ、今回も再精算を全く行わなかったばかりでなく、30年産水稲共済金115,459円および31年産麦共済金270,486円計385,945円も正規の支払をすることなく、71,961円を組合独自の評価により支払い、残額313,984円は従来と同様別途に経理していた。(895)