ページトップ
  • 昭和52年度|
  • 第3章 所管別又は団体別の検査結果|
  • 第1節 所管別の検査結果|
  • 第5 農林省(昭和53年7月5日以降は「農林水産省」)|
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

水田買入事業の実施及び一時貸付水田に係る水田総合利用奨励補助金の交付について改善の処置を要求したもの


(3) 水田買入事業の実施及び一時貸付水田に係る水田総合利用奨励補助金の交付について改善の処置を要求したもの

(昭和53年11月29日付け53検第427号 農林水産大臣あて)

 農林水産省では、米の生産調整及び稲作転換対策の推進に資するとともに農地保有の合理化及び農業構造の改善を図ることを目的として、昭和48年度に、農地法施行令(昭和27年政令第445号)第1条の2の規定に基づき指定を受けた法人(注1) (以下「農地保有合理化法人」という。)に、当該年度に水稲の作付けが可能な水田を農業者から買い入れさせ、これを畑に転換し又は水稲以外の作物を栽培することが確実と認められる農業者等に売渡しさせることとして水田買入事業(買入計画面積60,000千m2 )を実施させ、この事業に対する助成として、農地保有合理化法人が水田の買入れに要する資金を借入金により調達した場合、その水田を農業者等に売り渡すまでの間、道府県が当該借入金の利子相当額を補助するのに要した額の全額を補助することとし、52年度末までの国の利子助成補助金(以下「補助金相当額」という。)は27億2064万余円に上っている。なお、水田の買入れについては48年度限りでこれを取りやめている(48年度買入実績12,017千余m2 、買入価額102億3386万余円)。
 そして、買入れ後保有中の水田については、農業者等に売り渡すまでの間は水稲以外の作物を栽培することが確実な農業者に原則として無償で一時貸付けすることができることになっており、残余は休耕地として管理することにしている。

 一方、国は農業者が米の生産調整に協力して水田で転作等を実施した場合に水田総合利用奨励補助金(50年度までは稲作転換奨励補助金。以下同じ。以下「奨励補助金」という。)を交付しているが、上記一時貸付中の水田で転作を実施した場合であってもこれを交付の対象として奨励補助金を交付することとしている。
 しかして、本院において、53年中、北海道ほか8県(注2) における農地保有合理化法人の買入水田8,788千余m2 、買入価額(以下「価額」という。)62億7360万余円(補助金相当額19億3865万余円)について検査したところ、次のような事態が見受けられた。

1 水田買入事業による買入水田の売渡し及び管理について

 上記の買入水田8,788千余m2 (価額62億7360万余円)のうち52年度末までの間に売り渡したのは2,073千余m2 (価額14億6956万余円)にすぎず、同年度末現在、買入水田の約77%に当たる6,728千余m2 (価額48億0403万余円)の水田を保有しているばかりでなく、これら保有中の水田のなかには、

(ア) 休耕地として管理中の水田で農業者により無断で水稲が栽培されているものがあったり(71,581m2 、価額2億5492万余円、補助金相当額8873万余円)、

(イ) 休耕地として管理中の水田で雑草及び幼木が繁茂しているなど荒地と化しているものがあったり(151,200m2 、価額7613万余円、補助金相当額2635万余円)、

(ウ) 水稲以外の作物の栽培を条件としている一時貸付中の水田で水稲が栽培されているものがあったり(20,763m2 、価額1145万余円、補助金相当額390万余円)、 
 また、
 売渡し後の水田で農業者により水稲が栽培されているものがあったり(192,687m2 、価額3億1202万余円、補助金相当額5503万余円)

していて、買入事業の目的が十分達成されていないばかりでなく、買入れ後の管理等も適切でないと認められた。
 このような事態を生じたのは、次のようなことによると認められる。

(1) 買入水田の売渡しが進ちょくせず多くの水田を保有しているのは、買入水田のうちに湿田等土地条件が良好でないものが含まれていることや、売渡しに当たり水稲以外の作物を栽培することとする条件を付けながら売渡価格は買入価格を下回らない価格としていることなどにもよるが、同省において、農地保有合理化法人が無償で一時貸付中の水田に対しても水稲以外の一般奨励作物等(注3) を栽培していれば奨励補助金の交付の対象としていたため、借受者が当該水田の買受けを希望しないこともあって売渡しが促進されなかったこと

(2) 買入れ後の管理等が適切でないのは、農地保有合理化法人において、売渡し又は一時貸付けに当たり、買受者又は借受者の営農状況等についての審査が十分でなかったこと、売渡し又は使用貸借契約の締結に当たり、水田に水稲を作付けしないことなどの用途制限又は用途指定についての確約及びこれに違反した場合の処置に関する条項を欠いていること、一時貸付中及び休耕地として管理中の水田について、作付け状況等の現況は握及びその管理が十分に行われていなかったこと

(3) 買入水田の売渡し及び管理について、道県の農地保有合理化法人に対する指導監督が適切を欠いていたこと

 ついては、本件買入水田の52年度末現在の全国における保有量は8,350千余m2 に及んでおり、これに係る利子助成は、農地保有合理化法人がその水田を農業者等に売り渡すことによりその買入れに係る借入資金を返済するまでの間継続することになっていることからみて、同省においては、農地保有合理化法人が保有している水田について速やかにその実態を調査のうえ、土地条件等の実情に応じた売渡し促進の措置を講ずるとともに、道県に農地保有合理化法人をして売渡し又は一時貸付けに当たり用途指定の条件を付けさせるなど契約条項の整備、事後の履行状況の確認に努めさせるなどして管理の適正化を図らせるよう指導し、もって、本事業の効果をあげる要があると認められる。

2 農地保有合理化法人保有の一時貸付中の水田に係る水田総合利用奨励補助金の交付について

 前項の水田買入事業により買い入れて保有している水田のうち、水稲以外の作物の栽培を条件として農業者に無償で一時貸付けをした水田において49年度から52年度までの間に延べ17,028千余m2 について転作が実施されていて、この水田の買入資金に係る国の補助金相当額は6億0702万余円に上っているが、一方、この一時貸付けをした水田を交付対象として52年度末までに奨励補助金7億0435万余円を交付している。これは水田総合利用対策実施要綱(昭和51年5月農林事務次官依命通達)等により、権原に基づいて使用及び収益できる水田において転作等を実施した農業者を交付対象者とすると規定しているにすぎないため、本件一時貸付水田の借受者もこれに該当するとして交付しているものである。

 しかしながら、水田買入事業により農地保有合理化法人に買い入れさせた水田は、当該水田の買入資金に係る借入金利子の全額を国が補助しているものであり、この水田を売り渡すまでの間、農業者に貸し付けている場合は、水稲以外の作物を栽培することを条件とし無償としているのであるから、この一時貸付中の水田についてまで奨励補助金を交付しているのは、米の生産調整のため、その交付額が米の収益性との格差を補てんすることを基本として定められている奨励補助金制度創設の趣旨を没却しているといわざるを得ず適切とは認められない。なお、このように本件奨励補助金については、水田に水稲以外の一般奨励作物等を栽培しさえすればすべてこれを交付の対象とする不合理な取扱いとしているため、上記の奨励補助金の交付対象者のうちには、48年度に本人の申し出により農地保有合理化法人が水田を買い入れ、その後同一人が当該水田を同法人から無償で借り受けている者さえ見受けられている状況であった。

 このような事態を生じたのは、同省において、46年度以降、米の生産調整等を目的とする施策に基づいて実施されてきた水田総合利用対策及び水田買入事業において、同一水田を奨励補助金及び利子助成補助金の交付対象としていることについて、両補助金主管の部局が異なっていてその間の連絡調整が十分でなかったため、その不合理であることに気付かなかったことによると認められる。

 ついては、買入水田のうち52年度末現在の全国における一時貸付中のものは5,909千余m2 に及んでおり、一方、53年度以降における水田利用再編対策により、今後とも引き続き多額の水稲転作についての奨励補助金が交付されることが見込まれるのであるから、同省においては、速やかに奨励補助金の交付の対象となる水田について、本件一時貸付中の水田に係る分を除外する措置を講じ、もって、奨励補助金の交付の合理化と適正化を図る要があると認められる。

(注1)  農地法施行令第1条の2の規定に基づき指定を受けた法人  農業経営の規模の拡大、農地の集団化その他農地保有の合理化を促進するため農地等を買い入れるなどしてこれらの土地を売り渡し又は貸し付けるなどの事業を行う公益法人で、その法人が主として農業振興地域内で農業構造の改善に資するための事業を行うと認められ、かつ、その事業が適正かつ円滑に行われると認められるとして、都道府県知事が農林大臣に協議して指定した法人

(注2)  北海道ほか8県  北海道及び青森、秋田、山形、埼玉、石川、岐阜、山口、福岡各県

(注3)  一般奨励作物等  (参照)