日本住宅公団(以下「公団」という。)では、集団住宅及び宅地の大規模な供給を行うために、毎年大量の用地取得、住宅建設を行っており、公団が昭和30年に設立されて以来、55年度までに、住宅建設用地として取得した土地は6922万余m2
(注1)
、宅地造成用地として取得した土地は1億3147万余m2
(注2)
、また、建設した住宅は111万余戸に上っている。
これらのうち、用地については、関連する公共施設の整備が遅延しているなどのため長期間利用できないと見込まれる土地(以下「長期保有土地」という。)が50年度末において22地区で1586万余m2
見受けられたので、昭和50年度決算検査報告において特に掲記を要すると認めた事項として掲記し、また、住宅については、立地、規模等において質的充足を求めるようになった近年の住宅需要に合致しないなどのため、募集せずに保守管理されているなどの住宅が51年度末において32,055戸見受けられたので、昭和51年度決算検査報告において特に掲記を要すると認めた事項として掲記したところであり、これらの事態に対処するため、52年2月、建設省に公団住宅問題対策委員会が設置され、用地については同年8月、住宅については、同年5月及び8月にそれぞれ対策をまとめ、これを受けて公団においても逐次各種の措置を実施してきている。
しかして、55年度末において、次年度以降に住宅の建設等の事業に着手することとして保有している土地は187地区で3446万余m2
あるが、これらのうち、1団地の用地面積が1万m2
以上のものについて今後の利用の見通しを調査し、また、55年度末までに建設した住宅で供給が遅れているものなどについて、その実態を調査したところ、なお次のような事態が見受けられた。
1 取得した用地が長期保有土地となっていて、その投資効果が発現していないと認められるもの
(1) 都市計画法(昭和43年法律第100号)等による開発規制を受け、しかもその解除の見込みが立っていないもの
8地区(注3) | 1026万余m2 (支出額728億3184万余円) |
この8地区は、都市計画法により市街化を抑制すべき市街化調整区域に指定されていて、開発するには市街化区域へ編入する必要があるが、地方公共団体では人口抑制のため市街化区域を拡大しない方針を立てているなどのため、開発の目途がついていない地区である。
(2) 開発に伴う雨水等の排水対策の実施が著しく困難となっているなどのもの
5地区(注4) | 169万余m2 (支出額412億6792万余円) |
この5地区は、宅地を造成した場合、土地の保水機能が減少し、降雨時の雨水流出等が増大することになるため、開発に着手するに当たっては、既存の雨水排水路の流下能力を増大させるための改修工事を行う必要があるが、その改修箇所が住宅密集地にあって改修工事の施行が困難となっているなどの地区である。
(3) 関係地方公共団体等から関連公共施設等の整備に多額の負担を要請されているなどのため住宅建設に必要な協議が整っていないもの
6地区(注5) | 74万余m2 (支出額139億7409万余円) |
この6地区は、公団が開発に着手する場合、地元地方公共団体等と学校、輸送手段など関連公共公益施設整備について協議することになっているが、公団の負担額に関して協議が整っていないため住宅建設の見込みが立っていない地区である。
(4) 地元住民が住宅建設に反対しているなどのもの
2地区(注6) | 59万余m2 (支出額114億7945万余円) |
この2地区は、住宅の建設に当たって既存道路を建設資材の搬入などに使用することについて地元住民が騒音等の不安から、団地建設に反対しているなどのため住宅建設の見込みが立っていない地区である。
これら長期保有土地は計21地区1328万余m2
(支出額1395億5332万余円)に上っているが、その内訳についてみると、50年度末における長期保有土地として昭和50年度決算検査報告に掲記したもの22地区のうち、その後も著しい進展が見られず、未利用のまま保有しているもの11地区、50年度末当時では近く開発に着手できると見込まれていたのにその後の状況の変化などのため長期保有土地となっているもの10地区となっている。
このような事態を生じているのは、主として47年頃から土地の取得難と異常な値上がり傾向が顕著となったことから、将来の事業の推進を図るためにあらかじめ用地を取得しておくことが必要であるとして、関係地方公共団体等との協議が十分行われないまま地区の選定を行ったなどの事情もあるが、大規模の団地等を建設する場合、これに関連する下水道等の公共公益施設の拡充整備が要請されるなど、近年関係地方公共団体等における土地利用規制等の施策が強化されてきたこと、公害に対する国民的関心の高まりもあって、開発に関する地元住民との調整が難航して開発に着手できないことなどによると認められる。
しかして、上記21地区のなかには、用地の一部を売却したり、関連する公共施設の整備に部分的に着手したりするなど努力の跡が見受けられる地区もあるが、既に用地取得後十数年を経過しているものもあり、総じて当該用地の利用にはなお相当の期間を要する状況となっている。
2 建設した住宅が空き家となっているなどのため、その投資効果が発現していないもの
(1) 新築の賃貸住宅又は分譲住宅で既に入居者の募集を行い、入居開始日が到来しているのに入居者が確定していないもの(以下「新築空き家」という。52年3月末日において14,523戸あったことについては昭和51年度決算検査報告 に掲記済み。)
6,801戸(建設費1123億3101万余円)
(2) 住宅の用に供することができないまま保守管理されている未募集の新築住宅(以下「保守管理住宅」という。52年3月末日において17,532戸あったことについては昭和51年度決算検査報告 に掲記済み。)
18,444戸(建設費2359億6130万余円)
(3) 既存の賃貸住宅で、入居者の募集を行っているにもかかわらず、従前の入居者が退居した後、1年以上空き家となっているもの(以下「長期空き家」という。)
9,034戸(建設費681億1155万余円)
(4) 新築の賃貸住宅又は分譲住宅で既に入居者の募集を行ったが、応募状況が極めて低調であるため入居計画を取り止め、再び保守管理している住宅
570戸(建設費64億0924万余円)
これらの空き家は、計34,849戸(建設費4228億1311万余円)であり、51年度末における新築空き家等として昭和51年度決算検査報告に掲記した戸数32,055戸を上回るものとなっている。そして、長期空き家となっているものの中には、昭和51年度決算検査報告に掲記した新築空き家又は保守管理住宅となっていた団地において発生しているものが6,257戸ある。
このような事態を生じているのは、近年における住宅需要が大型等良質のものを欲求するといった量から質への変化が見られ、空き家の多くを占めている小型住宅は敬遠される傾向にあること、住宅に必要な関連公共公益施設の整備が予定より大幅に遅延したことなどによるものである。
しかして、公団においては、上記事態の解決を図るべく、既存の小型住宅についてはこれを大型化する改造工事に着手しているが、住宅として供給しているものには入居住宅が一部混在していることもあってその改造が極めて困難であり、また、関連公共公益施設についても、関係当事者の努力により整備の促進が図られて近々入居募集が可能となるものが一部に見受けられるが、依然として整備が遅延しているものもあり、いずれもその事態の打開になお相当の期間を要する状況となっている。
また、公団が前記のように新築空き家や保守管理住宅等を保有していることによって、これらの管理経費として55年度中に合計11億3000万余円を負担しているほか、新築空き家(賃貸)及び長期空き家についての55年度分の収入減相当額は59億3000万余円に達し、一方、保守管理住宅及び再保守管理住宅の建設費に係る完成後55年度末までの金利相当額は198億9000万余円に及んでいる。
上記1、2のような事態は、投下した多額の事業費が長期間にわたって休眠し、事業効果の発現が著しく遅延するばかりでなく、このまま推移すると、これらの投資額に係る金利等の経費負担を年々累増させることになる。
(注1) 6922万余m2 宅地開発部門からの所管替を除いた面積
(注2) 1億3147万余m2 研究学園都市建設用地を除いた面積
(注3) 8地区 川口(東京都)、松伏(まつぶし)(埼玉県)、伊香立(いかだち)(滋賀県)、千葉東南部第4(千葉県)、長津田(神奈川県)、東条(兵庫県)、祝園(ほおぞの)(京都府)、木津(京都府)各地区
(注4) 5地区 仏向町第2(神奈川県)、久喜本町(埼玉県)、大宮東(埼玉県)、阿武山(大阪府)、京都西部(京都府)各地区
(注5) 6地区 杉田町(神奈川県)、白根(神奈川県)、武庫川(兵庫県)、鳴滝第2(和歌山県)、美原(大阪府)、豊田乙部(愛知県)各地区
(注6) 2地区 丸山台(神奈川県)、北雲雀ケ丘(兵庫県)両地区