1 本院が要求した改善の処置
生活保護事業において、被保護者の資産の保有状況及びこれらの者に対する保護の実施状況について調査した。
その結果、〔1〕 遊休不動産を保有しているのに、これを活用することなく保護費を受給していたもの、〔2〕 土地家屋等の不動産を新たに取得し、このため生活に困窮したとして保護を受けるに至ったもの、〔3〕 保護費の受給中に、住宅購入の債務を長期にわたり支払って資産形成を行っていたものなどの不適切な事態が見受けられた。
このような事態が生じているのは、事業を実施する各福祉事務所において、資産保有者に対する保護の実施に関し適切な対応がなされなかったことにもよるが、厚生省において、被保護者の資産の活用に関する取扱基準を明確に示していないことなどによると認められた。
資産保有者に対する生活保護の適正を期するため、次のような処置を講ずるとともにその周知徹底を図るよう、厚生大臣に対し昭和60年12月に、会計検査院法第36条の規定により改善の処置を要求した。
(ア) 遊休不動産の保有状況等について適切な把握を行うようにする。
(イ) 保有を認めた資産が売却された場合には適切な処置を執るようにする。
(ウ) 新たに不動産を取得した場合の取扱いの基準や住宅ローンに対する処理等についての基準を明確にする。
(エ) 土地の保有を認める範囲について一般の世帯との公平を欠かないよう、その限度を明確にする。
2 当局が講じた改善の処置
厚生省では、本院指摘の趣旨に沿い、上記の(ア)、(イ)、(ウ)については、61年3月以降63年3月までの間に、順次都道府県等に対し通達を発するなどしてそれぞれ所要の処置を講じてきたところである。そして、今回、(エ)の土地の保有を認める範囲について、平成2年2月に都道府県等に対し、次のとおり取扱方針を明示するなどして、不動産の保有者に対する生活保護の適正化に必要な処置を講じた。
〔1〕 福祉事務所において、被保護者の不動産の保有状況、その見込実勢評価額等を把握するための資産調査票を整備させる。
〔2〕 福祉事務所に「処遇検討会」を設置し、上記の資産調査票等に基づき実勢処分価値が一定額を上回ると見込まれる不動産の保有者について、総合的多面的な処遇方針を検討させる。
〔3〕 厚生省において、〔2〕 の個別事例を集積、検討し、取扱いマニュアルを作成するなどして、土地の保有を認める範囲の明確化を図ることとする。