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  • 平成10年度|
  • 第4章 特定検査対象に関する検査状況

社会福祉法人が実施した老人福祉施設の整備事業について


第6 社会福祉法人が実施した老人福祉施設の整備事業について

検査対象 厚生省及び社会福祉・医療事業団
補助事業者 18都府県、9政令指定都市等
事業主体 42社会福祉法人
事業の概要 特別養護老人ホーム等の老人福祉施設を建設するもの
上記に対する国庫補助金及び事業団貸付金 国庫補助金
事業団貸付金
132億4411万円(平成9、10両年度)
109億6300万円(平成9〜11事業年度)

1 検査の背景

(老人福祉施設整備事業)

 厚生省では、高齢社会の進展に対応するため、平成6年12月に策定した「新・高齢者保健福祉推進十か年戦略」(新ゴールドプラン)等に基づき、特別養護老人ホーム、老人デイサービスセンター等の老人福祉施設の整備事業などを計画的に推進している。

 このうち、特別養護老人ホーム等の整備事業は、老人福祉法(昭和38年法律第133号)等の定めるところに従い、主として社会福祉法人(以下「法人」という。)により実施されている。

 法人が実施する老人福祉施設の整備事業に対しては、都道府県及び市が補助金を交付し、その補助を行った都道府県及び市に対して国が補助金を交付することとなっている。そして、法人は、都道府県及び市から交付された補助金や共同募金会を通じて交付された指定寄付金等のほか、社会福祉・医療事業団(以下「事業団」という。)から必要な資金の貸付けを受け、これらを財源として事業を実施している。

(平成9年の本院の検査と指摘)

 8年11月に、一部の法人が実施した老人福祉施設等の建築工事等の契約に関し、法人の理事長自らがその経営する会社を介するなどして多額の差益を得ていたのではないかとの疑惑が生じ、老人福祉施設等の整備事業の実施について社会的な関心が高まった。このような状況を踏まえ、本院では、9年にこれら法人が実施した整備事業を中心に重点的に検査した。

 そして、検査の結果、これら法人において、理事長が経営する会社と建築工事の請負契約を締結し、その会社は契約額より低額な金額で他の建設会社と一括下請負契約を締結していて工事の施行に何ら関与していないのに、理事長が経営する会社との契約額に基づいて過大に国庫補助金及び事業団貸付金を受けていた事態などを平成8年度決算検査報告に「不当事項」として掲記し指摘した。また、併せて、それらの検査の状況について「特定検査対象に関する検査状況」として取り上げた。

(厚生省の講じた改善措置)

 厚生省では、このような事態の発生に対処して、老人福祉施設等の整備事業について全国的な実態調査を行い、施設整備事業の適正な実施を図るため、次のとおり通知を発するなどして制度的な改善措置を講じた。

〔1〕  9年3月、「社会福祉法人の認可等の適正化並びに社会福祉法人及び社会福祉施設に対する指導監督の徹底について」(社援企第68号。以下「指導通知」という。)を都道府県及び政令指定都市等(以下「都道府県市」という。)に通知した。

〔2〕  同年11月、「社会福祉施設等施設整備費及び社会福祉施設等設備整備費の国庫負担(補助)について」(平成3年厚生省社第409号。以下「交付要綱」という。)を改正した。
 上記の指導通知及び交付要綱において講じた制度的な改善措置の主なものは、次のとおりである。

ア 国庫補助対象施設の選定の適正化

 都道府県市において、国庫補助の対象とする施設の選定に当たっては、関連する部局等の合議制による審査を実施すること、また、10年度以降は、この審査と事業団における貸付けの審査を並行して実施すること

イ 受注業者による一括下請負契約の禁止

 都道府県市において、法人は事業を行うために建設工事の完成を目的として締結するいかなる契約においても、契約の相手方が当該工事を一括して第三者に請け負わせることを承諾してはならないことを補助金の交付の条件とすること

ウ 入札契約手続の適正化

 都道府県市において、法人が事業を行うために締結する契約については、一般競争入札に付するなど都道府県及び市が行う契約手続の取扱いに準拠しなければならないことを補助金の交付の条件とすること

エ 指導監査の充実

 都道府県市において、施設整備中の法人に対する監査の実施などにより指導監査の充実を図ること

2 検査の着眼点及び対象

 本院では、都道府県市及び事業団が、厚生省が講じた上記改善措置の趣旨に沿って適切に対応しているか、また、法人は都道府県市等の対応措置を受けて適切に事業を実施しているかに着眼して検査を実施することとした。

 この検査は、本院が11年中に検査を実施した老人福祉施設整備事業119件のうち、東京都ほか17府県及び札幌市ほか8市(注) (以下「27都府県市」という。)が、厚生省の改善措置が講じられた9年度以降に補助した42法人の42件の事業を対象として実施した。これら27都府県市に対する42法人に係る国庫補助金の交付額は9、10両年度で計132億4411万円であり、また、事業団の貸付額は9事業年度から11事業年度までで40法人に対する計109億6300万円である。

3 検査の状況

(1) 27都府県市等における制度的な改善措置への対応

 27都府県市及び事業団において厚生省が講じた制度的な改善措置に対応して執った処置の主なもの及びその対応措置を受けた法人の事業実施状況は次のとおりである。

ア 国庫補助対象施設の選定の適正化について

 27都府県市では、国庫補助の対象とする施設の選定に当たり、担当部局のみならず関連部局の責任者が参画する委員会等により、法人からの補助申請の適否を合議する体制が執られていた。
 また、10年度から、法人を創設して施設整備を行う場合については、事業団への貸付けの申込みを早めさせるなどして、補助申請の審査と事業団における貸付けの審査を並行して実施し、相互の連携を図っていた。

イ 受注業者による一括下請負契約の禁止について

 27都府県市では、その補助金の交付要綱等において、補助金交付の条件として、法人は建設工事の受注業者が第三者に一括下請負することを承諾してはならないことを明示するとともに、法人から下請負の状況について報告させることとしていた。また、事業団では、貸付契約の内定通知書において一括下請負契約の禁止を明記していた。
 そして、法人から建築工事等を受注した請負業者が第三者と一括下請負契約を締結しているような事態は見受けられなかった。

ウ 入札契約手続の適正化について

 27都府県市では、その補助金の交付要綱等において、補助金交付の条件として、建築工事等の契約については都府県及び市が行う契約手続の取扱いに準拠することを明記するとともに、工事契約に係る事務処理の手引きを配布して、建築工事等における適正な契約手続や入札結果の報告及び公表を指導していた。また、競争入札の実効を確保するため、指名業者等に対する現場説明会を開催することや入札に地元市町村職員を立ち会わせるとなどの指導も見受けられた。
 そして、42法人においては、都府県又は市が作成、配布した事務処理の手引きに沿って、法人の理事会において契約方式や入札参加者の資格が決定され、制限付き一般競争入札(2契約、参加業者数10社及び18社)又は指名競争入札(40契約、同5社から16社、平均9社)が行われていた。また、都府県又は市に対する入札参加業者の名簿、落札者及び落札額の報告も行われていた。
 さらに、〔1〕 指名業者等に対し現場説明会を開催していたのは36法人、〔2〕 入札に地元市町村の職員を立ち会わせていたのは26法人、〔3〕 入札結果を一般の閲覧に供して公表していたのは31法人となっていた。そして、42法人のうち、〔1〕 、〔2〕 、〔3〕 のすべてを行っていたのは15法人あった。
 なお、42件の入札の結果、予定価格に対する落札価格の比率は平均97.0%(最低80.3%)で、99%以上となっていたものが23件あった。

エ 指導監督の充実について

 27都府県市において、法人に対し、建設工事の契約前に工事内訳書等の関係書類を提出させたり、公共工事担当部局と連携して建設工事の施工等について現地調査を実施したり、施設開設後における施設運営の指導監査時にも事業費の支払状況を確認したりする取組みが見受けられた。

(2) 法人の施設整備事業における不適切な事態
 一部の法人において補助事業等に対する認識が十分でなく、これに対する県や事業団の審査・確認が十分でなかったなどのため、次のような不適切な事態が生じていた。

ア 補助事業における最低制限価格の設定について

 建設工事の制限付き一般競争入札及び指名競争入札に当たり、23法人では最低制限価格を予定価格の66.7%から99.3%(平均88.2%)で設定しているが、このうち6法人の6件の契約において最低制限価格より低い価格で入札した業者を排除していた。
 このうち、予定価格に対して著しく高率な最低制限価格を設定し、契約の内容に適合した履行が確保できると認められる価格で入札した業者を排除して、割高な契約を締結することとなって、国庫補助金が過大に交付される結果となっていた事態が2件あり、これについては「第3章 個別の検査結果」 に不当事項として掲記した。

イ 事業団の貸付けにおける指定寄付金の取扱いについて

 1法人において、事業団の貸付けに係る事業完了報告に当たり、関係団体から共同募金会を通じてこの事業に充てるために交付された指定寄付金について、その全額を財源に算入すべきであったのにこれを贈与金として過小に報告していたため、事業団の貸付金が過大に貸し付けられていた事態があり、これについては「第3章 個別の検査結果」 に不当事項として掲記した。

4 本院の所見

 以上のことから、国の制度的な改善措置は施設整備事業の適正な実施に一定の効果を上げているものと認められる。しかし、一方で新たに、競争入札における最低制限価格の設定が適切とは認められない事態などが見受けられた。したがって、厚生省においては、老人福祉施設の整備事業について広く点検を行うとともに、都道府県、市及び事業団並びに法人に対し、改善措置の趣旨を更に周知徹底し、その実効性の確保に努める要がある。また、都道府県、市及び事業団においても、法人の事業実施について的確な審査・確認になお万全を期す要がある。

(注)  東京都ほか17府県及び札幌市ほか8市 東京都、京都、大阪両府、岩手、山形、福島、茨城、埼玉、神奈川、新潟、長野、静岡、愛知、三重、兵庫、広島、徳島、愛媛各県、札幌、横浜、名古屋、広島、北九州、福岡、新潟、浜松、堺各市