検査対象 | 独立行政法人国際協力機構 |
政府開発援助の内容 | 技術協力プロジェクト |
平成16年度実績 | 444億9245万円 |
1 技術協力プロジェクトの制度の概要
独立行政法人国際協力機構(以下「機構」という。)は、相手国が抱える開発課題に対して定められた目標を達成するために、技術協力の中核をなすものとして、「技術研修員受入」、「専門家派遣」、「機材供与」を組み合わせた技術協力プロジェクト(平成13年度以前は「プロジェクト方式技術協力」)を実施している。
技術協力プロジェクトの終了後は、相手国政府が移転された技術を自力で継続的に活用し、事業を実施し、その事業により当該技術協力プロジェクトが目指す効果が持続的に発現することで開発課題に対して定められた目標が達成されていくことが求められている。そのためには、効果が発現するための前提となる、例えば、相手国の経済状況などの外部条件が満たされる必要があり、機構では、この外部条件が満たされて、効果が発現しているかについて注視している。
2 検査の着眼点及び対象
技術協力プロジェクトに関する毎年度の検査では、「政府開発援助の状況について」における検査の着眼点
で記述したとおり、我が国援助実施機関は、事前の調査、審査等において、事業が相手国の実情に適応したものであることを十分検討しているかなどの多角的な観点から実施しているが、今年次の調査においては、特に、次の点などに着眼して検査を実施した。
〔1〕 プロジェクトの効果が発現するための前提となる外部条件が満たされていない場合、その原因は何か。
〔2〕 機構が技術協力プロジェクトを実施する際に、プロジェクトの効果の発現を確保するために留意すべき点はないか。
上記の着眼点から検査を行うために、プロジェクトの効果が発現するための前提となる外部条件が満たされない場合、機構がどのような措置を執っているかについても併せて確認するために、事業終了後相当期間が経過している案件を検査することにした。このうち、本院において事業の状況について情報の蓄積がある現地調査済案件について再度現地調査を行うことにした。そして、直近に現地調査を実施したプロジェクトを除き、4年(検査報告年度は3年度)から12年(検査報告年度は11年度)までに現地調査を行った153事業を対象として、機構本部において現地調査後の状況について検査を行い、前記の着眼点から対象事業数を絞り込み、6事業(事業の効果が発現していないなどとして決算検査報告に掲記した2事業を含む。)について再度現地調査を行うこととした。
3 検査の状況
再度現地調査した6事業のうち、2事業については、調査時点ではプロジェクトの効果は発現していると認められたが、次の4事業については、プロジェクトの効果の発現の前提となる外部条件が満たされておらずプロジェクトの効果が十分発現していないと認められた。
(1)プロジェクトの効果が十分発現していない事業に係る調査の概要
ア 稲作研究開発技術協力事業[フィジー諸島共和国]
(ア)事業の概要
a 要請の背景
フィジー諸島共和国(以下「フィジー」という。)では、国内での米の生産量が消費量の約半分程度で、不足する米は輸入に頼っていた。フィジー政府では、第9次国家開発計画において自給率の向上を重点目標に掲げ、この目標を達成させるため、我が国に稲作研究開発に関する技術協力を要請してきた。
b 事業の概要
機構では、上記の要請を検討し、同国における稲作研究の中心的機関であるコロニビア農業試験場のカウンターパート(注)
に対する栽培、普及等に関する技術の移転及び4モデル農場におけるほ場の整備等を行った。その上で、カウンターパートがモデル農場で移転された技術を基礎として地域の自然条件等に適合するような稲作技術を開発し、この技術を用いてモデル農場の農民に稲作をさせ、その状況を展示して周辺の一般農民に栽培技術を普及し、同国における米の単位面積当たりの収穫量を増やし、国内の米の増産、自給率の向上を目指すことにした。
このために、機構は、昭和60年4月から平成5年8月までの8年4箇月間にわたり、技術研修員計23人を我が国へ受け入れ、現地での指導のために我が国から専門家計48人を派遣(7億5016万余円)するとともに、モデル農場におけるほ場の整備、トラクター等の所要機材(5億0351万余円)の供与を行うなどした(経費累計額13億3567万余円)。
(イ)検査の状況
a 前回の調査の結果
本件事業については、平成10年度決算検査報告において、フィジー政府の農業政策の変更により稲作に対する補助金が打ち切られ、また、外国米に対する関税率が引き下げられるなどしたため、モデル農場では稲作が全く行われていなかったり、従来からの栽培方法が中心となっていたりしており、移転された稲作栽培技術が十分に活用されていない状況となっていたことを掲記した。
b 今回の調査の状況
(a)事業の効果の発現の状況
今回の調査においても、改良種米の栽培に不可欠な農業機械の政府からの貸与や肥料等に対する政府補助が廃止されたままで、外国米に対する関税率が引き下げられた状況は継続していた。
そして、肥料、農薬の投入をあまり必要としない在来種米と比べて、多収量ではあるが、農業機械の使用、肥料、農薬の投入を前提とする改良種米を生産することについてモデル農場の農民の意欲が失われていた。このため、4箇所のモデル農場では、17年3月の本院の調査時において、前回の調査と同様、移転された技術を用いた改良種米の栽培はほとんど行われておらず、モデル農場の役割を果たしていない状況が継続していた。
(b)フィジーにおける米の生産及び自給率の状況
今回の調査の結果、11年から15年の5箇年の米の年平均生産量は、14,666tで自給率は27.2%となっていて、年平均生産量、自給率ともに事業実施前と比べて低下している。この年平均生産量、自給率は、11年の前回の本院の調査時点の数値と比較すると状況に改善は見られていない。
このように、移転された技術を用いて国内の米の増産を図り、米の自給率を向上させるという本件事業開始当初に掲げた目的は達成されていなかった。
(c)フィジー政府の米生産に係る現在の取組
現在、フィジー政府は米生産の再活性化の取組を開始している。これは、稲作に対する政府補助がないなどの状況の下でも米の増産を図ろうとするもので、肥料は自家製造を基本としたたい肥を用い、農業機械も小規模なものの導入にとどめるなど投入コストの増加を抑える一方、在来種米よりは収量面で優位な品種の導入を図り、農民への普及を図ろうとするものである。そのため、インドネシアから技術援助を仰いでいた。
(d)決算検査報告掲記後、機構が本件事業に関して執った措置
決算検査報告掲記後の機構の対応状況を検査したところ、機構は、同国政府に対して3度にわたり、供与した施設及び機材の使用を促すなどの申入れを行っていた。しかし、移転された技術が十分に活用されていなかった主たる原因は、前記のとおりフィジー政府の農業政策の変更によるものであり、事態が改善されることは困難な状況となっていた。
c 機構が本件事業実施前に行った調査について
本件事業は、米の自給率向上を目指す国家政策に沿って行われた外国米に対する関税賦課、生産資材購入などに対する政府補助などの施策がフィジー政府により維持され、改良種米の栽培方法が一般農民の支持を得て普及し、生産が広まることが、プロジェクトの目指す効果発現の前提となる外部条件となっている。そこで、機構が、
〔1〕 同政府のこれらの関税賦課や政府補助などの施策が合理的なもので、ある程度維持される見込みがあるか
〔2〕 改良種米の栽培は、在来種米と比べ多収量である一方で、大規模生産を前提とし、肥料、農薬の投入を要するという特徴があるが、この改良種米が農民の支持を得て生産が広まる可能性が大きいか
などについて、保存されている書類等から本件事業実施前にどのような調査等を行っていたかを検査した。
しかし、機構から派遣された事前調査団の報告書やその他各種の報告書においては、上記施策の合理性に関する具体的分析はなく、また、改良種米が農民の支持を受けて栽培が広まる可能性に係る具体的分析もなく、調査が行われたかどうかについては確認することができなかった。
イ 未利用硫化鉱開発技術協力事業[メキシコ合衆国]
(ア)事業の概要
a 要請の背景
メキシコ合衆国(以下「メキシコ」という。)政府は、開発の遅れたメキシコ東南部の開発に当たり、多量に存在しているが未利用のまま放置されている硫化鉄鉱資源を活用するため、我が国に必要な選鉱・製錬等の技術協力を要請してきた。
b 事業の概要
機構では、上記の要請を検討し、エネルギー鉱山国営企業省鉱業振興局南東試験センター(以下「センター」という。)に対して、硫化鉄鉱から鉄、非鉄金属、硫黄(硫酸)を分離するための選鉱技術、ばい焼・塩化揮発製錬技術などを移転することにした。そして、センターは、選鉱・製錬試験を行い、鉱山会社はこの成果を活用し、硫化鉄鉱から鉄、非鉄金属、硫黄(硫酸)を分離、売却することによりメキシコ東南部の鉱業振興を目指すものである。
このために、機構は、昭和61年2月から平成2年2月までの4年間にわたり、技術研修員計12人を我が国へ受け入れ、現地での指導のために我が国から専門家計21人を派遣(3億2463万余円)するとともに、選鉱及び製錬技術を移転するなどのための所要機材(4億7881万余円)の供与を行うなどした(経費累計額8億2610万余円)。
(イ)検査の状況
a 前回の調査の結果
本件事業については、平成6年度決算検査報告において、技術移転の中核となる製錬技術について、メキシコ側が自国予算で建設するパイロットプラント建屋の完成の遅延、運営予算の不足等のため、同プラントの運転がほとんど行われず、技術の移転が十分行われていなかったことを掲記した。
b 今回の調査の状況
(a)選鉱・製錬技術の移転状況
今回、その後の選鉱・製錬技術の移転状況について調査したところ、機構は、前回の本院の調査以降、メキシコ側と連絡を取り合い、適宜助言等を行っていた。そして、その結果、センターにおいては、企業等からの委託を受けた選鉱・製錬試験やセンターの独自試験を行っていた。このことから、本件事業の対象となった技術は移転され、定着していると認められた。
(b)移転された技術の活用状況及び事業効果の発現状況
メキシコにおいては、調査時点では硫化鉄鉱の採掘は一部の鉱山で行われているのみで、硫化鉄鉱の採掘が進んでいないことから、選鉱・製錬試験を行う需要が少なくなり、上記の企業等からの受託試験は、7年から16年までの10年間で合計5回行われただけであった。
このため、本件事業においては、移転された技術の利用を通してメキシコ東南部の鉱業振興を図るというプロジェクトが目指した効果は発現していなかった。
(c)プロジェクトが目指した効果が発現していない原因
このように、プロジェクトが目指した効果が発現していないのは、本件事業終了後に、精製プロセスがより簡便で、高品位の製鉄原料となる赤鉄鉱や磁鉄鉱が新たに発見・採掘されたため、これらを採掘できる間は硫化鉄鉱を採掘する必要がなくなったことによるものである。
(d)決算検査報告掲記後、機構が本件事業に関して執った措置
決算検査報告掲記後の機構の対応状況を調査したところ、上記のとおり、適宜メキシコ側に助言等を行っており、また、機構は13年に選鉱試験設備に係るスペアパーツ等機材供与を実施するなどしていた。しかし、硫化鉄鉱の採掘がほとんど行われていないことから、機構は、プロジェクトが目指した効果を十分発現させるための機構で執り得る抜本的な方策はないため特段の方策は執っていなかった。
c 機構が本件事業実施前に行った調査について
本件事業は、赤鉄鉱や磁鉄鉱の終掘により硫化鉄鉱の採掘が進むことが効果発現の前提となる外部条件となっている。そこで、機構が、硫化鉄鉱の採掘の動向について、本件事業実施前にどのような調査等を行っていたのかを保存されている書類等から検査した。
しかし、赤鉄鉱や磁鉄鉱の探鉱の可能性の記述は見当たらない状況で、硫化鉄鉱の採掘の可能性に関する調査結果については、機構から派遣された事前調査団の報告書やその他各種の報告書に具体的な記載がなく、機構でどのような調査等が行われたかを確認することができなかった。
ウ 電車訓練センター技術協力事業[エジプト・アラブ共和国]
(ア)事業の概要
a 要請の背景
エジプト・アラブ共和国では、急激な人口増加のため、都市交通輸送力の増強を図ることが緊急に解決すべき課題となっていた。しかし、カイロ市交通局の路面電車部門では、車輌の保守・運用等が著しく悪く、運行の用に供することができる車輌が少なくなっていた。
一方、同局は、21系統営業キロ79kmの路面電車網に加え、2路線約30kmの延伸を計画しており、また、輸送サービスを改善、拡充するために必要となる車輌数を確保することを目指して、車輌の保守・修理に従事する技術者の技術水準の向上を図るため、技術協力を我が国に要請してきた。
b 事業の概要
機構では、上記の要請を検討し、カイロ市交通局電車訓練センター(以下「センター」という。)において、車輌機械、車輌電気、その他電車技術の主として保守・修理分野における技能工を養成するため、路面電車の保守・修理等の技術を移転することにした。
このために、機構は、昭和57年6月から61年6月までの4年間にわたり、技術研修員計13人を我が国へ受け入れ、現地での指導のために我が国から専門家計10人を派遣(2億9051万余円)するとともに、所要機材(3億3517万余円)の供与を行うなどした(経費累計額6億5009万余円)。
(イ)検査の状況
a 調査の状況
本件事業終了後、センターでは、保守・修理に係る訓練を実施している。そして、訓練を受けた技術者は、車輌の保守・修理の業務に従事しており、移転された技術そのものは定着していると認められた。
しかし、自動車の普及等に伴い、本件事業終了後、市中心部では路線の廃止が進んでおり、また、計画されていた路線の延伸は実現していない。また、路面電車の1日当たりの乗客数についてみると、技術協力期間中である58年には373,000人であったが、平成13年には175,000人と半減していた。このようなことから、運行に必要となる車輌数も漸次減少してきており、昭和60年には268両であったが、平成15年には96両になっている状況である。
路面電車の路線延伸及び輸送サービスの拡充のために車輌の稼動状況を改善させるということが本件事業を実施した背景にあることからみると、運行車輌数そのものが減少してきているために、移転された技術を活用できる範囲は限定されたものとなっている。
b 本件事業終了後、機構が本件事業に関して執った措置
機構は11年4月に専門家2人を派遣し、センターで訓練が継続して行われるようアフターケア協力を行っていた。一方、運行車輌数そのものが減少してきているために移転された技術を活用できる範囲が限定されたものになっている点に関しては、機構としては、事業の目的はセンターで訓練が継続して行われ電車の安全な運行がなされることと考えていたこともあり、特段の方策は執っていなかった。
c 機構が本件事業実施前に行った調査について
本件事業は、カイロ市交通局が路面電車の路線を延伸したり、輸送サービスを改善、拡充したりするという方針が現実のものとなることによって、移転された技術が十分に活用されるものである。
そこで、機構が本件事業実施前に行った調査について保存されている書類等から検査したところ、機構から派遣された事前調査団の報告書やその他各種の報告書において、カイロ首都圏の交通網における路面電車の位置付けに係る評価と将来の見通し等の記述がなく、また、路線の延伸については触れられているが、開業年度の目途など具体的内容や財政面からみた実現可能性等についての記述がないなど、本件事業実施前に上記方針の実現可能性が検討されていたのかどうかを確認することができなかった。
エ キリマンジャロ州中小工業開発協力事業[タンザニア連合共和国]
(ア)事業の概要
a 要請の背景
タンザニア連合共和国(以下「タンザニア」という。)政府は、キリマンジャロ州の総合開発のため、14案件について我が国に協力要請を行い、この中で中小工業開発について技術協力を実施することを、昭和53年8月に両国政府が合意した。
b 事業の概要
機構では、キリマンジャロ州地域開発庁キリマンジャロ工業開発センター(KIDC、平成15年8月以降は独立行政法人KIDT)において、〔1〕鋳造、〔2〕鍛造、〔3〕機械加工、〔4〕窯業及び〔5〕ブリケット(おが炭)製造に関する最適技術の開発及び普及、人材養成などに係る基礎的技術及び工場経営を含む応用技術を移転することにした。そして、KIDCは移転された技術を研修を通して中小工業事業者に伝播、普及することにより、同州の中小工業開発に寄与することを目指したものである。
このために、機構は、昭和53年9月から平成5年3月までの14年6箇月間にわたり、技術研修員延べ36人を我が国へ受け入れ、現地での指導のために我が国から専門家延べ58人を派遣(14億0369万余円)するととともに、所要機材(5億1739万余円)の供与を行うなどした(経費累計額20億1891万余円)。
(イ)検査の状況
a 調査の状況
KIDTにおいては、製造の基礎的技術は、一部の分野を除き、定着していると認められた。
しかし、KIDCにおいて中小工業事業者に技術を普及する目的で行うこととしていた移転された技術分野に係る研修活動は、ほとんど実施されていない状況となっていた。したがって、本件事業は、移転された技術が広くキリマンジャロ州に普及し、前記の5分野に係る中小工業事業者数が増加することに結びついていない。
これは、キリマンジャロ州では、前記の5分野に係る既存の中小工業事業者が少なく、また、主要企業を国有化するという政府の方針の下で中小企業振興策も策定されておらず、研修活動に対する需要がなかったことなどによると認められる。
一方、中小工業事業者数の動向に関しては、タンザニア政府の統計調査によって確認することができず、どのような状況かは不明で、機構においてもその状況を把握していない。
b 本件事業終了後、機構が本件事業に関して執った措置
16年3月には、フォローアップ協力として鋳造部門における供与機材である高周波誘導溶解炉について修理が行われていた。しかし、研修活動に対する需要がない中でプロジェクトが目指した効果を十分発現するため機構で執り得る抜本的方策はないために、機構は特段の方策を執っていなかった。
c 機構が本件事業実施前に行った調査について
本件事業では、移転された技術を活用して生産を行う者が潜在的又は現実に多数存在することがプロジェクトの効果の発現の前提となる外部条件となる。そこで、本件事業実施前において、中小工業事業者に対する研修の需要予測、また、それらに対して研修を行うことによりキリマンジャロ州の中小工業の振興を図ることの実現可能性等に関し、機構はどのような調査を行ったかについて保存されている書類等から検査した。
この点に関し、機構から派遣された事前調査団の報告書やその他各種の報告書において、これらの点に関する調査結果を確認することはできなかった。
このように、上記の各事業は、技術協力プロジェクトの対象となった事業に対する需要が生まれる外部環境とならなかったり、相手国の政策等が変更されたりしたため、プロジェクトの効果発現の前提となる外部条件が満たされず、プロジェクトの効果が十分発現していないものである。
そして、機構において、上記の各事業について、事前調査は行われてはいるが、事業の効果発現のための前提となる外部条件が将来満たされるかなどについて、十分な調査が行われていたかについては確認できない状況であった。
(2)近年実施されている技術協力プロジェクトの実施前におけるプロジェクト実施の妥当性に係る調査
上記の各事業は、昭和61年から平成5年にかけて終了したものである。その後、機構において、事前の調査に関し、次のとおり改善が図られている。
ア 事前評価制度の導入
機構は、以前から、プロジェクトの実施前に、プロジェクト実施の妥当性の検討及び事業計画の策定を行っていたが、この事前の調査を体系的に行うため、13年度から「事前評価制度」を導入した。
イ 事業評価ガイドラインの作成
機構では、16年2月に「プロジェクト評価の手引き−改訂版JICA事業評価ガイドライン」(以下「改訂版ガイドライン」という。)を作成した。改訂版ガイドラインでは、評価の目的、手法等が明示され、事前評価においては、評価のチェックリストが示されるなど、個々の事前評価が体系的に行われるよう配慮されている。
また、改訂版ガイドラインにおいては、以前はプロジェクトに関し、相手国の開発政策や我が国の援助政策との整合性だけで判断していたものが、成果重視の観点から、ひ益者のニーズとの合致や効果を上げる戦略として適切かという視点が重要視されている。
そして、機構では、事前調査段階において、個々のプロジェクトの分析を的確に行うために国別、課題別アプローチ等により、案件の背景等を総合的に調査するようになっている。
このように、機構の事前の評価において、事業効果発現の前提となる外部条件が満たされる可能性が高いか否かという点について、調査検討することが明確に求められるようになるなど、以前より成果がより一層強調されるようになってきている。
4 本院の所見
前記の各事業は、効果発現の前提となる外部条件が満たされなかったため、プロジェクトの効果が十分発現していなかったものである。プロジェクトの実施後には、機構において効果を発現させるよう対策を講じたとしても限界があるため、事前の評価が重要であると認められる。
事前の評価において、効果発現の前提となる外部条件の状況を正確に予測するのは困難な面もあるが、事前の評価にかかるコストと時間という制約も踏まえつつ、適切な事前の評価に基づきプロジェクトの計画を策定すれば、十分に効果が発現するプロジェクトを増やすことができるものと考えられる。しかし、上記の各事業については、効果発現の前提となる外部条件についてどのような事前の評価が行われたのかについては確認することができなかった。
この点に関しては、機構においては近年、前記のとおり、事前の評価において、成果重視のアプローチを重視し、具体的な評価マニュアルを作成し、評価項目についてチェックリストを示すなど、改善が図られている。これらのことから、改善された点の確実な実行が十分に効果が発現するプロジェクトを増やすために重要である。
そこで、技術協力プロジェクトは多額の国費を投入して行われる事業であることにかんがみ、以下の点に留意し、事前の調査を今後とも適切に行っていくことが必要である。
ア 効果発現の前提となる外部条件が、将来満たされるかどうかなどについて、適切な検討を行い、プロジェクトの事業計画等に反映させること
イ 事業の効果の発現は長期にわたることから、上記の検討の結果を記録に留め、これを踏まえ、効果発現の前提となる外部条件のプロジェクト実施開始後の状況に対応して、終了時評価、事後評価等を行うこと
本院としても、技術協力プロジェクトの事業の執行状況につき、今後とも注視していくことにする。