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  • 平成17年度|
  • 第4章 国会及び内閣に対する報告並びに国会からの検査要請事項に関する報告等

国会及び内閣に対する報告


<参考:報告書はこちら>

第1 高速道路の建設事業に係る入札・契約制度の見直しの状況等について

検査対象
(1)
東日本高速道路株式会社、中日本高速道路株式会社及び西日本高速道路株式会社(これら3会社は平成17年9月30日以前は日本道路公団)
(2)
首都高速道路株式会社(平成17年9月30日以前は首都高速道路公団)
(3)
阪神高速道路株式会社(平成17年9月30日以前は阪神高速道路公団)
(4)
独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構
東日本高速道路株式会社、中日本高速道路株式会社、西日本高速道路株式会社、首都高速道路株式会社及び阪神高速道路株式会社の概要
高速道路の新設、改築、維持、修繕その他の管理を効率的に行うことなどにより、道路交通の円滑化を図り、もって国民経済の健全な発展と国民生活の向上に寄与することを目的とする株式会社
独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構の概要
高速道路に係る道路資産の保有並びに各高速道路株式会社に対する貸付け、各公団から承継した債務その他の高速道路の新設、改築等に係る債務の早期の確実な返済等の業務を行うことにより、高速道路に係る国民負担の軽減を図るとともに、各高速道路株式会社による高速道路に関する事業の円滑な実施を支援することを目的とする独立行政法人
検査の対象とした契約年度
平成14年度〜17年度
上記の各検査対象に係る高速道路の建設事業の契約件数
(1)
1,858件
 
(2)
296件
 
(3)
81件
 
2,235件
 
上記の各契約件数に係る契約金額
(1)
1兆9734億円
 
(2)
3622億円
 
(3)
612億円
 
2兆3969億円
 

1 検査の背景

(1)高速道路の建設事業の概要

 高速道路の建設事業は、道路整備特別措置法(昭和31年法律第7号)等に基づき、日本道路公団(以下「道路公団」という。)、首都高速道路公団(以下「首都公団」という。)、阪神高速道路公団(以下「阪神公団」という。)、本州四国連絡橋公団等が実施してきたが、平成17年10月1日の日本道路公団等民営化関係法施行法(平成16年法律第102号)等の施行により、同日以降は、高速道路の新規建設事業は新たに設立された東日本高速道路株式会社、中日本高速道路株式会社、西日本高速道路株式会社、首都高速道路株式会社、阪神高速道路株式会社、本州四国連絡高速道路株式会社等が実施していくこととされた。
 そして、現在、主な新規建設事業は、東日本高速道路株式会社ほか4会社(注1) (以下「各会社」という。)により実施されている。
 そして、高速道路の建設事業については、国の重要な施策の一部であることから、各公団の民営化後も公共工事として位置付けられて「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」平成12年法律第127号)等の対象とされていて、その1件当たりの請負金額が大きく、入札・契約における競争性を高めることなどによりコスト縮減が見込まれるため、民営化を契機としてより経済的かつ効率的な工事の発注等による事業費の削減が期待されている。

 東日本高速道路株式会社ほか4会社 東日本、中日本、西日本、首都及び阪神各高速道路株式会社


(2)談合事件の概要等

 公正正取引委員会は、17年6月及び8月、道路公団が発注した鋼橋上部工工事の入札において、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」昭和22年法律第54号)第3条の不当な取引制限の禁止規定に違反した行為(以下「談合」という。)が行われたとして、鋼橋業者、道路公団副総裁等を検事総長に告発した。さらに、同委員会は、同年9月、鋼橋業者45社に対して違反行為の排除措置の勧告を行うと同時に、道路公団総裁に対し、鋼橋上部工工事の発注に関して道路公団の役員等が入札談合等関与行為を行っていた事実が認められたとして、「入札談合等関与行為の排除及び防止に関する法律」平成14年法律第101号)第3条第2項の規定に基づき、入札談合等関与行為が排除されたことを確保するための改善措置を講ずるよう改善措置要求を行った。

(3)入札・契約制度の見直し

 このような状況において、道路公団、首都公団及び阪神公団(以下「各公団」という。)では、談合等不正行為の再発を防止するなどのため、組織内における法令遵守や情報管理の徹底等と併せて、入札・契約制度の競争性、透明性、公正性をより高いものとすることを目的として、17年8月に以下のような入札・契約制度についての見直し策を策定した。
〔1〕 従来、予定価格が「政府調達に関する協定」(平成7年条約第23号)等に基づき定められた基準額である1500万SDR(注2) 以上の工事に適用されていた一般競争入札(以下「一般競争入札(政府調達協定適用)」という。)に加えて、これまで指名競争入札を適用していた予定価格が1500万SDR未満の工事に適用する一般競争入札(以下、この一般競争入札を「一般競争入札」という。)を導入する。
〔2〕 試行的に実施している総合評価落札方式(注3) の適用の対象を拡大する。
〔3〕 入札者が適正な見積りを行っているかどうかを確認するなどのため、入札価格の内訳を記載した工事費内訳書等の提出を求めてその内容を確認する対象を拡大する。
 さらに、道路公団では、工事の発注単位について、決定基準や決定方法等を明確化するとともに、その運用において透明性を確保するため、全工事を入札監視統一事務局等による事前審査の対象とすることとした。

(注2)
 1500万SDR SDRはIMF(国際通貨基金)の特別引出権(Special Drawing Rights)であり、米ドル、ユーロ、日本円、英ポンドの加重平均方式により決定されている。邦貨換算額は2年ごとに見直されており、平成14年度及び15年度は22.2億円、16年度及び17年度は24.3億円となっている。
(注3)
 総合評価落札方式 競争契約における落札者の決定方法の1つであり、価格だけでなく、性能、機能等も併せて総合的に評価する方式

2 検査の観点、着眼点、対象及び方法

(1)検査の観点及び着眼点

 合規性、経済性・効率性等の観点から、道路公団(17年10月以降は東日本、中日本及び西日本各高速道路株式会社。以下、これらを総称する場合「道路公団等」という。)、首都公団(17年10月以降は首都高速道路株式会社。以下、総称する場合「首都公団等」という。)及び阪神公団(17年10月以降は阪神高速道路株式会社。以下、総称する場合「阪神公団等」という。)が策定した入札・契約制度の見直し策が適正に実施されているか、入札・契約の競争性・透明性の確保や事業費のコスト縮減に寄与するなどの効果が上がっているかなどに着眼して、見直し策の適用前後(以下、見直し策の適用前を「見直し前」、見直し策の適用後を「見直し後」という。)の制度内容及び入札・契約状況の変化等を対比するなど国して検査することとした。

(2)検査の対象

 検査に当たっては、道路公団等、首都公団等及び阪神公団等(以下、これらを総称する場合「各公団等」という。)が14年度から17年度までの4年間に入札・契約を実施した建設に係る工事のうち、契約金額が1億円以上のもの計2,235件(当初契約金額計2兆3969億5806万余円)を対象とした(表1参照 。なお、17年度については、17年9月1日以降に入札公告等を行った工事を見直し後、それ以前の工事を見直し前として整理した。以下の図において同様。)。

3 検査の方法

 検査は、計算証明規則(昭和27年会計検査院規則第3号)に基づき本院に提出された証拠書類のほか、契約状況等に関する調書を徴し、これらの調査、分析を行うとともに、各公団等の本社、支社等の実地検査において予定価格の算定状況や工事の発注状況を調査するなどの方法により実施した。

表1 検査対象とした工事
(単位:件、百万円)
発注者
14年度
15年度
16年度
17年度
件数
契約金額
件数
契約金額
件数
契約金額
件数
契約金額
件数
契約金額
道路公団等
517
412,007
499
485,652
389
525,895
453
549,903
1,858
1,973,459
 
見直し前
517
412,007
499
485,652
389
525,895
193
282,133
1,598
1,705,688
見直し後
260
267,770
260
267,770
首都公団等
76
112,434
64
81,250
82
116,776
74
51,824
296
362,285
 
見直し前
76
112,434
64
81,250
82
116,776
46
39,178
268
349,639
見直し後
28
12,645
28
12,645
阪神公団等
32
20,568
26
26,671
17
9,271
6
4,702
81
61,213
 
見直し前
32
20,568
26
26,671
17
9,271
4
2,159
79
58,670
見直し後
2
2,542
2
2,542
合計
625
545,009
589
593,574
488
651,943
533
606,430
2,235
2,396,958
 
見直し前
625
545,009
589
593,574
488
651,943
243
323,470
1,945
2,113,998
見直し後
290
282,959
290
282,959

3 検査の状況

(1)入札・契約方式の推移

 各公団等が、工事の発注に当たって適用している入札・契約方式は、表2に示したとおり、道路公団及び首都公団では公募型指名競争入札及び従来型指名競争入札のすべてが一般競争入札へ見直され、また、阪神公団では予定価格が2億円以上の工事は公募型指名競争入札から一般競争入札に見直されるなどしている。

表2 入札・契約方式の推移

表2入札・契約方式の推移

 土木工事における入札・契約制度を記載した。なお、工事種別によって、予定価格の金額区分が異なる場合がある。


(2)見直し前後の入札・契約方式の適用状況

 各公団等において14年度から17年度の間に入札・契約を実施した工事の件数及び金額を、適用した入札・契約方式ごと、年度ごとに示すと、表3のとおりとなる。

表3 入札・契約方式の適用状況
(単位:件、百万円)
発注者
入札・契約方式
14年度
15年度
16年度
17年度
 
見直し前
見直し後
件数
契約金額
件数
契約金額
件数
契約金額
件数
契約金額
件数
契約金額
件数
契約金額
件数
契約金額
道路公団等
517
412,007
499
485,652
389
525,895
453
549,903
193
282,133
260
267,770
1,858
1,973,459
 
一般競争(政府調達協定)
28
96,358
41
162,570
61
241,255
54
207,322
28
114,710
26
92,612
184
707,506
一般競争
224
161,445
224
161,445
224
161,445
公募型指名競争
157
162,409
222
201,932
163
186,564
92
98,852
92
98,852
634
649,758
従来型指名競争
308
79,168
202
49,486
144
42,009
64
19,073
62
18,527
2
546
718
189,738
随意契約
24
74,070
34
71,662
21
56,066
19
63,209
11
50,042
8
13,167
98
265,009
首都公団等
76
112,434
64
81,250
82
116,776
74
51,824
46
39,178
28
12,645
296
362,285
 
一般競争(政府調達協定)
11
49,245
4
14,133
11
43,926
2
2,357
2
2,357
28
109,662
一般競争
6
3,066
6
3,066
6
3,066
公募型指名競争
29
37,869
14
11,565
32
24,217
14
9,115
13
7,991
1
1,123
89
82,767
従来型指名競争
14
3,402
15
3,413
5
1,009
3
760
1
125
2
635
37
8,585
随意契約
22
21,917
31
52,139
34
47,622
49
36,524
30
28,703
19
7,820
136
158,204
阪神公団等
32
20,568
26
26,671
17
9,271
6
4,702
4
2,159
2
2,542
81
61,213
 
一般競争(政府調達協定)
2
3,874
1
1,039
1
1,039
3
4,914
一般競争
1
736
1
736
1
736
公募型指名競争
27
14,402
13
10,164
13
7,276
2
468
2
468
55
32,312
随意契約
5
6,165
11
12,632
4
1,995
2
2,457
1
651
1
1,806
22
23,250
合計
625
545,009
589
593,574
488
651,943
533
606,430
243
323,470
290
282,959
2,235
2,396,958
 
一般競争(政府調達協定)
39
145,603
47
180,577
72
285,182
57
210,719
31
118,107
26
92,612
215
822,082
一般競争
231
165,248
231
165,248
231
165,248
公募型指名競争
213
214,681
249
223,662
208
218,058
108
108,436
107
107,312
1
1,123
778
764,838
従来型指名競争
322
82,570
217
52,899
149
43,018
67
19,834
63
18,653
4
1,181
755
198,323
随意契約
51
102,154
76
136,434
59
105,684
70
102,191
42
79,397
28
22,793
256
446,464

 契約金額が1億円以上の契約を対象としているため、阪神公団等において従来型指名競争入札が適用された契約は対象外となることから、各表で記載欄を省略している。


 各公団等が見直し後に入札を行った工事については、見直し策の内容に沿った入札・契約方式が適用されており、表3のとおり、ほとんどが一般競争入札とされている。
 随意契約については、14年度以降、各公団等で年間数件から50件程度の契約が締結さているが、これらの大部分は、トンネル工事のように工事目的物の完成に要する期間が収入支出予算の予算総則に定められた当該事業年度に債務を負担することができる年限(以下「債務負担行為の年限」という。)である4箇年度を超過し、1つの契約で工事が完了しないため、残工事等を随意契約で追加発注したものとなっている。

(3)入札と落札の状況

ア 各入札・契約方式における入札者数の実績

 各公団等では、競争入札への参加を希望する者について、経営の規模、経営の状況、工事経験、工事成績等を基にした評価点数に応じて定めた等級別に予定価格の範囲を定め、それぞれの等級に該当する者が入札に参加できることとしている。また、これに加えて、個々の工事を発注する際に、当該工事の規模又は必要な技術力の難易に応じて、各業者の施工実績、配置予定の技術者の工事経験等について、入札参加希望者を公募するに当たっての入札参加資格を定めたりしている。この技術的な要件の設定は適切な施工能力を有する者を選定して施工の確保を図ることに寄与する一方、入札に参加可能な者の数が減少するため、要件の設定を厳しくした場合には競争性を低下させることとなる。各公団等においては、この要件の設定方法を、入札・契約制度の見直し前後で変更していない。
 上記の等級及び技術的な要件による入札参加資格等を定めて入札を実施した際の道路公団等における入札者数は、表4のとおりである。

表4 道路公団等における入札者数等の実績
工事種別
入札・契約方式
見直し前
入札・契約方式
見直し後
件数
入札者数の平均値(社)(初回)
件数
入札者数の平均値(社)(初回)
土木
一般競争(政府調達協定適用)
51
4.8
一般競争(政府調達協定適用)
7
3.9
公募型指名競争
177
6.9
一般競争
81
6.4
従来型指名競争
191
9.6
従来型指名競争
1
8.0
トンネル
一般競争(政府調達協定適用)
57
5.3
一般競争(政府調達協定適用)
15
3.9
公募型指名競争
32
5.6
一般競争
14
6.4
従来型指名競争
1
10.0
鋼橋
一般競争(政府調達協定適用)
25
7.1
一般競争(政府調達協定適用)
公募型指名競争
95
7.6
一般競争
37
3.1
従来型指名競争
35
9.7
PC橋
一般競争(政府調達協定適用)
25
4.7
一般競争(政府調達協定適用)
3
3.7
公募型指名競争
105
6.4
一般競争
32
5.6
従来型指名競争
33
9.7
従来型指名競争
1
7.0
その他の工事種別
一般競争(政府調達協定適用)
一般競争(政府調達協定適用)
1
8.0
公募型指名競争
225
5.4
一般競争
60
8.5
従来型指名競争
456
9.7
一般競争(政府調達協定適用)
158
5.3
一般競争(政府調達協定適用)
26
4.0
公募型指名競争
634
6.3
一般競争
224
6.3
従来型指名競争
716
9.6
従来型指名競争
2
7.5

 入札者数は、従来型指名競争入札から一般競争入札へ移行した工事の入札において顕著に減少しているが、このように、発注者の指名による入札者数の制限を撤廃し、入札者を公募することにより入札参加希望者に門戸を広げた入札・契約方式となったと認められるにもかかわらず入札者数が減少しているのは、従来型指名競争入札では指名された業者のほぼすべてが参加していたのに対し、見直し後の一般競争入札においては、受注意欲のある入札者が自発的に参加するという状況が生じていることなどによるものと思料される。
 首都公団等及び阪神公団等においては、見直し後の契約件数が少ないため、入札者数の状況がどのように変化しているかについて、現時点において判断できる段階でない。

イ 見直し前後の落札率の状況

 入札・契約制度の見直し前後における落札率(注4) の状況について調査したところ、道路公団等では、表5のとおり、17年度の見直し前から低下してきており、見直し後は特に、トンネル、鋼橋、PC橋の各工事種別において更に低下傾向にある。
 また、首都公団等及び阪神公団等では、17年度に落札率の状況が変化しているか否かは契約件数が少ないこともあり、現時点において判断できる段階でない。

 落札率 落札価格の予定価格に対する割合


表5 道路公団等における見直し前後の落札率の状況
工事種別
入札・契約方式
14年度
15年度
16年度
17年度
17年度
見直し前
見直し後
件数
(件)
平均落札率
(%)
件数
(件)
平均落札率
(%)
件数
(件)
平均落札率
(%)
件数
(件)
平均落札率
(%)
件数
(件)
平均落札率
(%)
土木
一般競争(政府調達協定適用)
8
98.3
13
98.2
20
97.9
10
96.5
7
94.8
一般競争
81
90.2
公募型指名競争
45
96.6
50
97.7
52
97.3
30
96.4
従来型指名競争
52
97.2
49
96.6
63
96.1
27
93.2
1
72.7
トンネル
一般競争(政府調達協定適用)
10
97.4
14
97.9
21
97.7
12
95.7
15
90.5
一般競争
14
87.2
公募型指名競争
3
97.7
5
97.8
12
97.7
12
95.0
従来型指名競争
1
94.7
鋼橋
一般競争(政府調達協定適用)
7
92.1
5
97.3
13
96.6
一般競争
37
82.9
公募型指名競争
23
96.9
31
97.5
35
95.9
6
91.2
従来型指名競争
20
96.5
4
97.0
8
96.8
3
78.3
PC橋
一般競争(政府調達協定適用)
3
98.1
9
97.8
7
97.5
6
97.0
3
92.5
一般競争
32
91.5
公募型指名競争
21
97.5
24
96.5
40
97.2
20
96.1
従来型指名競争
17
97.2
5
97.6
10
97.1
1
88.9
1
95.6
その他の工事種別
一般競争(政府調達協定適用)
1
97.8
一般競争
60
83.3
公募型指名競争
65
96.5
112
94.5
24
95.4
24
93.5
従来型指名競争
219
96.5
144
96.4
63
96.7
30
94.6
一般競争(政府調達協定適用)
28
96.4
41
97.9
61
97.5
28
96.3
26
92.2
一般競争
224
87.1
公募型指名競争
157
96.8
222
95.9
163
96.7
92
95.0
従来型指名競争
308
96.6
202
96.5
144
96.4
62
93.1
2
84.2

ウ 落札率と入札者数の関係

 一般に、入札者が多いほど競争性が高く、その結果落札率も低下するのではないかと想定されたので、道路公団等における落札率と入札者数の関係について調査したところ、図1のとおり、見直し前においては特に一定の傾向は見受けられないが、見直し後においては入札者数が多いほど落札率が低下する傾向が見受けられ、特に落札率が80%未満の工事について、その傾向が見受けられる。
 この傾向は、見直し前における主な入札・契約方式である従来型指名競争が、見直し後は原則として廃止され、一般競争となり、受注意欲のある入札者が自発的に参加するようになったことなどによると思料される。

図1 道路公団等における落札率と入札者数との関係

<見直し前>

国会及び内閣に対する報告の図1

<見直し後>

国会及び内閣に対する報告の図2

 図1の表中の各契約件数の下に記載した割合は、入札者数の区分ごとの合計件数に占める各契約件数の割合を示したものである。


エ 落札率と入札率の状況

 道路公団等における落札率については、図2のとおり、見直し前は95%を超える工事がほとんどであったが、見直し後は70%程度まで見受けられるようになり、また入札率(注5) については、見直し後には100%以下が多くなり、さらに、見直し前にほとんど見受けられなかった70%程度のものまで幅広く見受けられるようになった。すなわち、見直し後においては、入札者数が減少しているものの、低額で入札する者が増加した結果、落札率が低下しているものと認められる。

 入札率 入札価格の予定価格に対する割合


図2 道路公団等における落札率・入札率の区分ごとの落札者数・入札者数の状況

<見直し前>

国会及び内閣に対する報告の図3

<見直し後>

国会及び内閣に対する報告の図4

オ 低入札価格調査の対象となった契約の状況

 見直し後に落札率が低下している状況において、当該入札価格によって契約の適切な履行が確保されるかどうかを調査する低入札価格調査の対象となった契約(以下「低入札契約」という。)は、道路公団等では17年度の見直し前から、首都公団等では16年度から、それぞれ増加している。
 なお、今回の検査の対象とした契約において、低入札価格調査の結果、適正な履行が確保されないとして落札者が変更された事例はない。

カ 予定価格に対する落札価格の内訳の状況

 低入札契約が増加している状況において、落札者が低額で入札している事情の一因を調査するため、道路公団等における個々の契約金額の内訳について、予定価格上の内訳との比率(以下「予定価格に対する比率」という。)を算出し、この比率と落札率との関係について分析を行った。
 その結果、図3のとおり、直接工事費(注6) の予定価格に対する比率は落札率とおおむね同様の率で推移していたが、諸経費(注7) の予定価格に対する比率は落札率が90%程度を下回ると急激に低下していて、低入札契約の工事等においては、施工に直接必要な材料費や労務費等を確保し、間接的に必要となる経費や企業の附加利益等を圧縮した形で入札が行われている。

(注6)
 直接工事費 工事を施工するために直接投入される材料費、労務費等と仮設工事費の合計額
(注7)
 諸経費 工事を施工するために間接的に必要となる工事共通の経費である共通仮設費と現場従業員の給与手当や法定福利費等の現場で必要とする経費である現場管理費と施工に当たる企業の継続運営に必要な本支店経費及び附加利益等の費用である一般管理費等の合計額

図3 道路公団等における落札率と予定価格に対する比率との関係

図3道路公団等における落札率と予定価格に対する比率との関係

(4)総合評価落札方式

 総合評価落札方式については、企業が技術力競争を行うことにより優れた技術力と経営力を有した健全な建設業が育成されるとして、品質等の価格以外の多様な要素が考慮された競争が行われることで、談合等の不正行為が行われにくい環境の整備も期待されるとしている。そして、「公共工事の品質確保の促進に関する法律」(平成17年法律第18号。以下「品確法」という。)において、公共工事の品質は、同方式を適用することなどにより価格及び品質が総合的に優れた内容の契約がなされることによって確保されなければならないとされている。
 このような背景のもと、総合評価落札方式については、道路公団等では15年度から、首都公団等及び阪神公団等では16年度から試行的に実施してきており、各公団等では今回の見直し策において、その実績の拡大を図ることとしている。
 各公団等の実績についてみると、道路公団等では、見直し前は3件59億余万円だったものが、見直し後は41件712億余万円と増加しているが、契約金額全体に占める割合は26.6%に止まっており、阪神公団等では見直し前1件5億余万円、見直し後1件7億余万円に止まっている。また、首都公団等では見直し前は3件85億余万円であり、見直し後の実績はなかった。
 総合評価落札方式については、導入間もなく実質的には試行段階にあることなどから、各会社は実績の拡大を図るとともに、適用に当たっては、導入目的に沿った効果が得られるよう、実施方法等にも十分な配慮が必要である。

(5)工事費内訳書等

 各公団等では、工事費内訳書等の内容等について開札前に確認することにしており、道路公団等では、見直しの前後で主な確認の方法が目視によるものから電算等によるものへと移行し、見直し後に実施した4件の入札において、工事費内訳書等の内容を確認した結果、複数の会社間で単価項目の金額がほぼ一致しているなどの事態が見受けられたことなどから、公正な入札を確保できないおそれがあると判断して見直し後にこれらの入札を取りやめるなどしている。
 工事費内訳書等の内容の確認は、限られた時間の中で膨大な量の単価等について確認を行うなど、発注者に係る負担も大きいものとなっているが、各会社においては、特定の単価について電子データで提出を求めるなど、確認作業の効率化に努め、効果的にこれを活用することが必要である。

(6)工事発注単位について

 各公団等では、トンネル工事のように一連の長大な構造物を連続して施工する必要があり、その結果、一連の工事の完成に要する期間が債務負担行為の年限である4箇年度を超える場合には、当初から計画的に工事を分割していて、年限内で終了できる工事については、競争入札によって先行工事として発注し、年限を超える工事についても同一の業者に随意契約により発注することとしている。そして、道路公団等及び首都公団等が16、17両年度に発注したトンネル工事等のうち、この事例に該当する工事は、それぞれ8件及び17件あり、契約金額で5.5%及び40.3%となっている状況である。
 また、阪神公団等が発注した15件の工事については、一連の工事の完成に要する期間はすべて4箇年度以内として計画され、工事発注単位を分割して発注しているものはなかったが、今後の発注においては、長期間にわたる工事も想定される。
 現在、各公団は民営化され、債務負担行為の年限等に関する制約がなくなり、より柔軟な発注工期の設定が可能となっている。したがって、今後、完成に長期間を要する工事を発注する場合には、競争性・透明性・客観性等に留意して、より経済的な発注が可能となっている。

(7)鋼橋業者に対する違約金又は損害賠償の請求

 道路公団が発注した各鋼橋上部工工事で被った損害についての賠償請求の権利は、同公団から東日本、中日本及び西日本各高速道路株式会社(以下「3会社」という。)並びに独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構(以下「機構」という。)に承継されている。
 3会社及び機構は、既に課徴金納付命令が確定している契約のうち、工事が完了し最終契約金額等が確定した31契約分については18年9月に違約金の請求を行ったが、まだ工事が完了していないなどにより違約金等の請求を行っていない90件の契約について、違約金等の請求が可能となった時点で速やかに当該契約に係る鋼橋業者に対して違約金等の請求を行うとともに、勧告に応じていないなどの鋼橋業者が行った工事についても、事態の判明を待って適時に適正な違約金等の請求を行う要があると認められる。

4 本院の所見

 高速道路の新規建設事業については、18年3月31日に各会社と機構との間で締結された協定において、民営化後も各会社により引き続き行われることとされた。そして、今後の建設事業における入札・契約制度については、建設費を抑制し、債務を確実に償還するなどのためにも、競争性、透明性を確保し、談合の防止とともに、事業費のコスト削減にも寄与することが求められている。
 今回、各公団等における入札・契約制度の見直し策の実施状況について検査したところ、一般競争入札の導入や不落随契の廃止等の入札・契約方式の見直しについては、見直し策の内容に沿って実施されている。
 そして、各公団等の見直し策の実施に当たっては、見直し後の期間が短く契約実績が少ないものの、次のような状況が見受けられた。
〔1〕 落札率については、17年度前半から低下している状況が見受けられる。また、見直し後においては、受注意欲のある入札者が自発的に参加したと思料されることなどにより入札者数が多いほど落札率が低下する傾向もある。
〔2〕 入札者数については、見直し後に減少している状況が見受けられるが、入札参加資格の要件については、変更されていない。
〔3〕 総合評価落札方式については、見直し後において実績の拡大を図ることとしているが、導入後間もなく、実質的には試行段階にある。
〔4〕 工事費内訳書等の確認については、内容の確認により入札を取りやめた事態もあり、公正な入札の確保に効果があると認められるが、膨大な量の単価等について限られた時間中で行わなければならないことから、発注者に係る負担も大きいため、比較的簡易な確認に止まっている状況も見受けられる。
〔5〕 工事発注単位の設定については、各公団は民営化され、債務負担行為に関する年限等の制約がなくなり、より柔軟な発注工期の設定が可能となっている。
 したがって、各会社においては、今回取りまとめられた入札・契約制度の見直し策の内容等を確実に実施するとともに、更に有効なものとするため、以下のような対応を図っていくことが望まれる。
ア 入札参加資格の要件については、適切な施工能力を有する者を選定して施工の確保を図ることに十分配慮しつつ、多くの入札者の参加により更に競争性の高い入札となることを指向して、その見直しについて検討すること
イ 品確法等で求められている総合評価落札方式の実施に当たっては、実績の増加を図っていくとともに、導入目的に沿った効果が得られるよう、実施方法等にも十分に配慮して適用していくこと
ウ 工事費内訳書等については発注者である各会社の事務負担も考慮した上で、より効果的な活用方法を検討すること
エ 工事発注単位の設定に当たっては、工事の実態を考慮しつつ、民営化の利点を生かしたより弾力的かつ経済的な方法を検討すること
 さらに、3会社及び機構においては、談合事件により被ったと認められる損害について、まだ違約金等の請求を行っていない契約については適時に適正な違約金等の請求を行い、その速やかな回復に努める要があると認められる。
 本院としては、今後とも入札・契約制度の見直し策の効果の発現状況や談合事件により被ったと認められる損害の回復状況等について検査していくこととする。

 

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