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独立行政法人日本スポーツ振興センターが実施しているスポーツ振興くじに関する会計検査の結果について


第2 検査の結果

1 スポーツ振興くじに係る制度や運営の見直し状況

(1) 制度の見直し状況

ア 発足時のスポーツ振興投票制度の詳細

(ア) スポーツ振興投票の仕組み

 スポーツ振興くじの券面金額は100円とされ、スポーツ振興くじ2枚分以上を1枚で代表するスポーツ振興くじを発売することができることとなっていた。
 また、スポーツ振興投票の組合せの総数については、射幸心をあおらないようにするなどの配慮から、スポーツ振興投票の実施等に関する法律施行規則(平成10年文部省令第39号。以下「投票法施行規則」という。)において、実施するスポーツ振興投票ごとに、スポーツ振興投票の組合せの総数が100万を下回ることのないようにすると定められていた。
 そして、前記のとおり、当初のスポーツ振興投票は、1等に当せんする確率が約160万分の1(3の13乗分の1)となっていた。

(イ) スポーツ振興くじの販売方法等

 スポーツ振興くじの販売方法については、ガソリンスタンド、たばこ小売店等の販売店において、購入しようとする者が専用のマークシートに予想を記入した上、〔1〕 販売員に直接手渡す方式と、〔2〕 販売店に設置した端末機に読み取らせた上、発券された引換券を販売員に手渡す方式とが採られていた。
 これは、19歳未満の者が購入できないように配慮し、対面販売を義務付けたものである。
 そして、原則として、販売期間は、対象試合が行われる日の1週間前から試合の前日までであり、販売時間は、午前8時から午後10時まで(実際は、この販売時間の範囲内で各販売店がそれぞれの営業時間等に応じて定めていた。)であった。

(ウ) 払戻金の支払方法

 払戻金の支払については、照合端末機を設置した全国約2,200店の信用金庫及び一部の販売店約110店に限定して行うこととしていた。信用金庫では、1口当たりの払戻金額が10万円以下の場合は、その場で現金で払い戻されたが、10万円を超える場合は、現金による払戻しと振込による払戻しのいずれかを選択し、現金による払戻しを選択した場合は、おおむね2週間後に再度来店する必要があった。また、振込による払戻しを選択した場合は、おおむね2週間後に本人が指定した口座に振り込まれた。また、一部の販売店では、少額の払戻金についてはその場で現金で払い戻されたものの、販売店によって払戻金額の上限が異なっており、その上限を超える場合は信用金庫で払い戻すこととなっていた。

(エ) 配分の仕組み及び最高払戻金額

 払戻金については、投票法施行規則の定めるところにより、売上金額の50%(17年3月31日までは暫定措置として47%)を合致の割合ごとに配分している(以下、合致の割合ごとに配分された金額を「配分金」という。)。配分割合は、全試合的中した場合(1等)が50%、1試合外れた場合(2等)が20%、2試合外れた場合(3等)が30%となっており、最高払戻金額は1億円とされていた。
 また、当せん者が出なかった場合や、当せん者が出ても配分金が余った場合に、次回に繰り越される(以下、この繰り越された金額を「キャリーオーバー」という。)こととされていた。

(オ) 実施回数の上限

 スポーツ振興投票の年間の実施回数の上限は、投票法施行規則の定めるところにより50回となっていた。

イ 見直しの状況

 スポーツ振興投票は12年10月から2回の地域限定の試験販売を実施した後、13年3月から全国での発売を開始した。そして、13事業年度には642億円を売り上げたものの、当初想定していた発売総額の2000億円(参照) に遠く及ばず、14事業年度以降は売上金額が減少し続けた。
 センターは、当初、りそな銀行との契約終了を予定していた18年3月以降も、後述する第A期(参照) と同様の公開提案競技において委託金融機関を公募することを予定していた。そのため、スポーツ議員連盟は、センターの委託金融機関の公募に向けて、スポーツ振興投票の基本的な事項について、改善方策を明らかにし、公募に参加する銀行等が、スポーツ振興くじをより魅力あるものとするための様々な提案を行うことを可能にする必要があると考え、16年8月に文部科学大臣に対して、次のようなスポーツ振興投票の改善方策を提言した。


<主な提言及び改善方策の内容>

1 くじの種類の多様化

(1) 当たりやすいくじの発売

 投票の組合せの総数が100万通り以上という規制を撤廃

(2) ランダム方式のくじ

 すべての予想をコンピューターに任せる方式の導入

(3) その他

 最高払戻金額、1枚のスポーツ振興くじで投票できる組合せの数等の見直し

2 販売方法・販売場所の多様化・拡大等

(1) 販売方法の多様化

 インターネット販売の実施

(2) 販売場所の多様化・拡大

 コンビニエンスストアにおける一般販売の実施

(3) 販売期間の延長

 試合当日まで販売が可能

(4) 実施回数の上限の在り方の検討

(5) マークシートの改良

3 販売促進のための工夫

(1) 広報活動の見直し

(2) ポイント制の導入

(3) スポーツ団体等との連携

 そして、上記の提言のうち2(2)については、15年3月の中央教育審議会スポーツ・青少年分科会において、今後はコンビニエンスストアも販売場所の対象とすることが既に了承されていたものであり、2(2)以外については、16年9月に同分科会に諮られ、全員一致で了承された。
 これを受け、文部科学省は、次のように制度を見直した。

(ア) スポーツ振興投票の組合せの総数の見直し

 17年4月に投票法施行規則を改正して、スポーツ振興投票の組合せの総数が100万を下回らないという制限を廃止し、また、最高払戻金額等の見直しを図った。これにより、センターは、多様なくじを発売することができるようになった。
 見直しの主な内容は次のとおりであり、20年4月現在のスポーツ振興投票の種類(「totoGOAL」は除く。)は表3のとおりである。

〔1〕  スポーツ振興投票の組合せの総数が243通りの「mini toto」等を発売し、当たりにくいという否定的なイメージを払しょくすることとした。
〔2〕  すべての予想をコンピューターに任せるオールランダムくじ「BIG」等を発売し、Jリーグの知識の少ない顧客層を取り込むこととした。

表3 スポーツ振興投票の種類
(予想系)
項目\種類
toto
mini toto
totoGOAL3
totoGOAL2
totoGOAL(注)
予想の方法
指定された各試合の90分間での結果について3択で予想
指定された各試合(各チーム)の90分間での得点数について4択で予想
対象試合数
13試合
5試合
3試合(6チーム)
2試合(4チーム)
5試合(10チーム)
1口単価
100円
最高払戻金額
1億円(キャリーオーバー発生時は2億円)
当せんの種類
1等〜3等
1等
1等、2等
1等
1等、2等
組合せの総数
1,594,323通り
243通り
4,096通り
256通り
1,048,576通り
最低成立試合数
9試合
3試合
2試合
2試合
3試合
発売開始時期
平成12年10月
18年2月
17年5月
17年12月
15年3月
 「totoGOAL」は平成17年5月まで販売された。

(非予想系)
項目\種類
BIG
BIG1000
mini BIG
選択の方法
指定された各試合の90分間での結果を3択でコンピューターがランダムに選択
対象試合数
14試合
11試合
9試合
1口単価
300円
200円
最高払戻金額
3億円(キャリーオーバー発生時は6億円)
2億円(キャリーオーバー発生時は4億円)
当せんの種類
1等〜4等
1等〜3等
組合せの総数
4,782,969通り
177,147通り
19,683通り
最低成立試合数
10試合
8試合
6試合
発売開始時期
18年9月
20年2月
19年2月

(イ) 販売方法等の見直し

 スポーツ振興くじを購入しようとする者の利便性を考慮し、前記の販売店等に加え、インターネットにおいても購入することができるようにするとともに、コンビニエンスストアにおける販売の拡充を行うなどの見直しが行われた。
 17年8月にインターネットでの販売を開始した。これにより、販売期間中は24時間購入すること及び18年2月には指定試合の最初の試合が行われる1時間前まで、18年7月には指定試合の最初の試合が行われる10分前まで購入することができるようになった。なお、インターネットで購入できるのは、事前の登録によって年齢制限等の要件を満たしていることを確認できた者のみであり、19歳未満の者は購入できない仕組みが維持されていた。
 また、コンビニエンスストアでの販売については、15年8月から17年12月までは、あらかじめ必要事項を登録した者に限定して販売を行っていたが、販売機会の増大を図るため、18年3月以降は上記の登録をした者に限定せず、広く一般に販売を行うこととした。コンビニエンスストアでの購入方法は、インターネットで予約しておくか、又は、店頭に設置してある端末機に直接予想を打ち込んで発券し、レジで支払を行うこととされ、対面販売の原則を保ちつつ、利便性の向上を図る体制が執られた。

(ウ) 払戻し方法の見直し

 前記のとおり、第A期においては信用金庫約2,200店及び一部の販売店約110店に限定して払戻しを行っていたが、購入者の利便性を考慮して、第B期の開始に合わせて、払戻しを行うことができる販売店を約1,300店に拡充し、18年4月時点で、信用金庫約1,600店と合わせて約2,900店で払戻しが可能となった。

(エ) 最高払戻金額等の見直し

 16年2月にスポーツ振興投票の実施等に関する法律施行令(平成10年政令第363号)を改正し、キャリーオーバーが発生している開催回については、最高払戻金額を2億円とした。
 さらに、17年4月に投票法施行規則を改正して、複数の同じ組合せを1枚のスポーツ振興くじで購入可能とした。これにより、券面金額100円のスポーツ振興くじ3枚分を1枚で代表し、かつ、3枚とも同じ組合せとするスポーツ振興くじである「BIG」(1枚300円)の発売が可能となり、キャリーオーバーが発生している開催回の「BIG」の最高払戻金額は6億円ということになった。

(オ) 実施回数の上限の見直し

 18年9月に投票法施行規則を改正して、スポーツ振興投票の年間実施回数の上限を改正前の50回から100回とした。

(2) 運営の見直し状況

ア 第A期

(ア) 委託先の選定

 投票法においては、スポーツ振興くじの売りさばきなどの業務を銀行等に委託することができるとされているが、これは、宝くじと同様の業務運営を念頭においていたためである。センターは、この規定に基づきスポーツ振興投票の対象試合の指定及び助成に関する業務以外の業務を銀行等に全面委託することとし、委託先の選定に当たっては、受託を希望する銀行等が提出する提案書等により委託先を選定する公開提案競技方式によることとした。
 そのため、センターは、まず、法学系大学教授、サッカージャーナリスト、弁護士、公認会計士等の外部の専門家9人からなるスポーツ振興投票委託金融機関選定基準委員会(以下「基準委員会」という。)を設置した。
 基準委員会は、10年11月から11年1月までの間に4回にわたり委員会を開催して、11年2月にスポーツ振興投票委託金融機関選定基準案を作成し、同案は同年3月に保健体育審議会のスポーツ振興投票特別委員会において了承された(以下、了承されたスポーツ振興投票委託金融機関選定基準を「選定基準」という。)。
 そして、センターは、11年4月、銀行等(都市銀行、信託銀行、地方銀行、第2地方銀行、生損保会社等計66金融機関)に対して説明会を実施するとともに、大学学長、大学院工学研究科教授、体育科学系大学教授、スポーツライター、弁護士、公認会計士等の外部の専門家10人からなるスポーツ振興投票委託金融機関選定委員会(以下「選定委員会」という。)を設置した。
 選定委員会は、11年6月から8月までの間に5回にわたり委員会を開催して、応募があった2金融機関から提出された提案書、同補足文書、文書質問に対する回答及びヒアリング時における説明・回答等を踏まえて、選定基準における評価項目(〔1〕 金融機関として要求される基準、〔2〕 スポーツ振興くじ販売システムについて要求される基準、〔3〕 委託料について要求される基準)ごとに審議を行った。そして、選定委員会は、評価項目〔1〕 においては、いずれかの金融機関に明らかな優位性は認められず、評価項目〔3〕 においても、大きな差異はないと判断したが、評価項目〔2〕 において、テスト販売の時期、19歳未満の者への販売禁止措置に対する取組の姿勢、情報処理システムの柔軟性、技術の方向性等に、りそな銀行の提案の方に評価すべき点が多かったことから、りそな銀行を委託先として選定した。
 センターは、選定委員会の選定結果に基づき、11年8月にりそな銀行を委託金融機関として決定した。

(イ) りそな銀行の体制

 りそな銀行は、センターから受託した業務のうち自ら実施する管理監督等を除く業務を日本スポーツ振興くじ株式会社(Japan Sports Advancement Lottery,Ltd.。以下「JSAL」という。)に再委託していた。
 JSALは、りそな銀行のほか中核7社(株式会社博報堂、株式会社日本交通公社(以下「JTB」という。)、株式会社東芝、日本アイ・ビー・エム株式会社(以下「IBM」という。)、ぴあ株式会社、大日本印刷株式会社、株式会社ベルシステム24)等の出資により11年12月に設立された会社で、役員は、りそな銀行及び中核7社のうちの3社の出身者で、従業員は、大半がりそな銀行及び中核7社からの出向者であった。そして、JSALは、りそな銀行から受託した業務のうち中核7社各社が専門とする業務を、各社に再々委託していた。

イ 第B期

 センターは、第B期の業務運営に当たり、当初、銀行等に委託する方針を採り、委託先を選定するに当たっては、第A期と同様に公開提案競技方式によることとした。そして、16年9月に募集要項等についての説明会を実施した結果、2金融機関から応募があったが、センターが新たに設置した第B期の選定委員会は、審議の結果、同年12月に2金融機関を共に選定しないこととした上で、参考意見として、民間企業の協力を得てセンターが直接運営することも検討すべきであると提言した。
 センターは、上記の提言等を踏まえ、委託金融機関として2金融機関を共に選定しないことと決定し、民間企業のノウハウを得て直接運営することに方針を改めた。そして、この方針に基づき、17年1月にスポーツ振興投票の実施に関する経営管理業務及び情報処理システム開発運用管理業務について委託先を公募することとし、情報システム会社等13社に対して募集要項を配付し、募集要項の説明会を実施(参加民間企業12社)した。
 その結果3社から応募があり、センターは、経営管理業務、情報処理システム開発費及び発売開始時期等について日本ユニシスの優位性を認めたため、日本ユニシスを優先交渉権者として選定し、交渉の結果、17年2月、日本ユニシスと基本契約を締結した。なお、応募した3社の提案について評価するに当たり、センターは外部の専門家3名(大規模システムの専門家、経営コンサルタント会社の代表及び大手法律事務所代表弁護士)の意見を参考にした。
 第A期と第B期の運営体制の違いについて図示すると、図3のとおりである。また、第A期のりそな銀行との契約と第B期の日本ユニシスとの契約を比較すると、表4のとおりである。

図3 第A期と第B期の運営体制の違い

図3第A期と第B期の運営体制の違い

(注)
 第B期においては、センターが民間協力会社として日本ユニシスに経営管理業務及び情報処理システム開発運用管理業務を発注しているため、日本ユニシスは、センターの本部内に常駐してコンサルティング及びバックオフィス業務を実施するとともに、情報処理システムの開発等の業務を受注している。


表4 第A期のりそな銀行との契約と第B期の日本ユニシスとの契約の比較
(単位:百万円)
区分
第A期(対りそな銀行)
第B期(対日本ユニシス)
契約目的
スポーツ振興くじの売りさばきなどの業務を全面委託すること
センターが直接運営するに当たり民間企業から、財務や技術に関するノウハウを得ること
委託業務内容
投票法第18条第1項に規定する業務(スポーツ振興くじの売りさばき、払戻金の支払等の業務及びこれらに附帯する業務(販売システムの管理事務、経理業務、販売関連業務、情報処理業務、消耗品等供給業務、広報宣伝業務等))
〔1〕 経営管理業務
(ア)経営コンサルティング業務
(イ)事務処理支援業務
〔2〕 情報処理システム開発運用管理業務
事業年度\業務の種類
全業務
経営管理業務
情報処理システム開発運用管理業務
委託料
平成13
22,637
14
19,743
15
16,798
16
13,798
17
11,505
844
124
18
664
3,298
19
926
3,158
(注)
 第B期(対日本ユニシス)の情報処理システム開発運用管理業務の委託料には、センターシステム機器及び端末機器のリース料支払額を含む。

2 スポーツ振興くじの売上げ、債務、繰越欠損の推移

(1) 売上げの推移

 スポーツ振興投票が本格的に開始された13事業年度以降の売上金額の推移は、表5のとおりであり、13事業年度に642億円を売り上げたが、当たりにくいこと、販売場所が少ないことなどから14事業年度以降は毎年売上金額が減少していった。そして、前記のとおり、数度にわたる投票法施行規則等の改正等により売上げの向上に努めたものの、売上金額の減少は18事業年度まで続くこととなり、当初想定していた発売総額の2000億円にはるかに及ばない売上げとなった。

表5 スポーツ振興くじの売上金額の推移
(単位:百万円、回)
種類\事業年度
第A期
第B期
平成13
14
15
16
17
17
18
19
toto
64,266
34,636
14,432
13,443
9,488
1,459
6,465
7,442
totoGOAL
1,421
5,444
2,251
174
totoGOAL3
2,957
231
2,245
1,927
totoGOAL2
13
61
50
mini toto
580
2,116
1,718
BIG
2,322
48,140
mini BIG
259
3,167
BIG1000
1,264
売上金額
64,266
36,058
19,877
15,694
12,620
2,284
13,470
63,711
14,905
(実施回数)
(32)
(38)
(37)
(44)
(39)
(9)
(63)
(58)

(2) 債務(りそな銀行に対する未払金)、繰越欠損金の推移等

ア 第A期における債務(りそな銀行に対する未払金)及び繰越欠損金の推移

 第A期においては売上げが低迷する一方、りそな銀行への委託料は発売総額に比例しない多額の定額部分を含んでいたため(参照 )、売上金額から払戻金額を控除した金額では、委託料を支払うことができなくなり、支払不能な委託料は翌事業年度以降へ支払を繰り延べざるを得なくなった。
 これにより、表6のとおり未払金が増加していくことになり、17事業年度末においてりそな銀行に対する未払金は292億円まで膨れ上がった。

表6 対りそな銀行未払金及び繰越欠損金の推移
(単位:百万円)
項目\事業年度
平成
12
13
14
15
16
17
18
19
対りそな銀行未払金
1,510
5,656
9,463
11,209
17,504
29,254
繰越欠損金
433
278
2,474
9,436
15,504
29,270
26,417
9,551
(注)
 平成14、15両事業年度の対りそな銀行未払金及び繰越欠損金について、センターは貸借対照表に計上していなかったが、会計検査院の指摘により16事業年度において是正している。本表は、適正な会計処理を行った場合の金額を記載しているため、センターが開示した財務諸表の金額とは異なっている。
 なお、各事業年度の対りそな銀行未払金には、契約により翌事業年度に精算することとなっていた金額も含んでいる。

 また、10年5月の投票法の成立に伴い、センターは、スポーツ振興投票の実施主体として準備を開始したが、スポーツ振興投票事業に関しては予算措置が執られることなく、スポーツ振興くじの発売開始までは、収入もなく事業に係る費用をすべて借入金で賄っていたために、スポーツ振興くじの発売が開始される前に、既に欠損金が発生していた。
 そして、前記のとおり、収益はすべて助成等に充てることとされていて、損失の発生に備えて準備金等として整理する制度となっておらず、損益計算上の損失が発生した場合には、その全額を欠損金として処理せざるを得なかった。これは、文部科学省が当初の制度設計の段階において、これほどまでに売上金額が低迷することを想定しておらず、制度上、損失及び欠損金の発生を想定していなかったことによると考えられる。
 独立行政法人通則法(平成11年法律第103号。以下「通則法」という。)第44条第1項では、損益計算において生じた利益で繰越欠損金を補てんし、残余の額は積立金として整理しなければならないと規定されているが、センター法第22条第2項では、助成準備金として整理する場合においては、通則法の上記規定が適用されないこととされている。

イ りそな銀行に対する未払金及び繰越欠損金に対する会計検査院の指摘

 会計検査院は、平成16年度決算検査報告において、「スポーツ振興投票に係る財政状態及び運営状況を適切に開示するために財務諸表を正確かつ明瞭な表示に改めるよう改善させたもの」 を掲記している。この中で、会計検査院は、センターの財務諸表の表示に関して指摘しており、これに対しセンターは改善の処置を講じている。
 すなわち、センターは、センター法及び旧センター法で定める運営費の限度額(参照) は費用計上の限度額であるという考えの下に、特殊法人であったセンターの14事業年度及び15事業年度(15年4月1日〜9月30日)の財務諸表においては、14事業年度に発生した委託料のうち翌事業年度以降に繰り延べた23億5000万円を費用及び負債に計上していなかった。
 また、独立行政法人となったセンターの15事業年度(15年10月1日〜16年3月31日)の財務諸表においても、15事業年度に発生した委託料のうち翌事業年度に繰り延べた73億0757万円を費用及び負債に計上していなかった。
 しかし、14、15両事業年度の繰延額は、各事業年度にそれぞれ委託業務の履行を受けて、既に各事業年度の費用として発生しているものであるから、各事業年度に費用及び負債として計上するのが適正であった。
 上記についての会計検査院の指摘に基づき、センターは、16事業年度において、前記の繰延額等を含めて欠損金154億0547万円を貸借対照表に計上した。
 また、センターは、会計検査院の指摘を受けて、スポーツ振興投票制度については、今後の運営体制の見直しに当たり、近年の販売状況を十分考慮し、運営費の大幅な節減を図るとともに、商品の充実等、引き続き売上げの確保に向けた改善方策を講ずることができるよう検討を行うなどとしていた。

ウ 繰越欠損金の発生原因

(ア) 損益分岐点に達しない発売総額

 後述するように、文部科学省は、制度設計の当初、年間の運営費について試算を行っていた(参照)
 これによれば、銀行等に委託するに当たっての初期投資額は365億円、年間の固定費は110億円であった。そこで、初期投資額を5年で償還するとして年間の固定費を試算すると183億円(110億円+365億円/5年)となり、また、発売総額に対する変動費の比率である変動費率は9.55%と算定された。
 したがって、運営費の年間額は次式により求められることとなった。

運営費(年間額)
183億円
(固定費)
発売総額×9.55%
(変動費)

 そして、収入は発売総額の53%(17年3月末まで)となることから、損益分岐点は図4のとおり421億円となっていた。

図4 損益分岐点

図4損益分岐点

 このように、制度設計上の発売総額を2000億円として固定費額及び変動費率を計算すると、損益分岐点は421億円となっていたが、実際には、14事業年度から17事業年度までの4年間、損益分岐点を大幅に下回る売上金額となったことが繰越欠損金が生じた最大の要因である。
 すなわち、発売総額が421億円を下回った事業年度には、運営費の年間額が発売総額から払戻金額を控除した額を上回ることになり、委託費とは別にセンターに発生する経費として20億円(注) を確保すると、委託料の支払もできなくなり、委託料のうち翌事業年度以降に支払を繰り延べた額が繰越欠損金となっていた。

 センターの初期投資額14億円を5年で償還する場合の年割額約3億円、センターの年間固定費10億円及び対象試合開催管理経費4億円の合計額に予備的経費の3億円を加えて20億円としている。

(イ) 実効性を持った改善策を早期に執ることができなかったことによる欠損金の増加

 センターとりそな銀行とが締結した委託契約においては、センターには再委託先について承認を与える権利が規定されてはいたものの、委託先であるりそな銀行をはじめ、再委託先、再々委託先について指揮、監督等を行う権限等は規定されていなかった。このため、JSALへの出資企業、資金負担、役職員の構成、運営等については、りそな銀行に全面的に依存しており、これらについて、センターは全く関与していなかったとしている。
 しかし、センターは、11年9月に、委託業務を適正かつ円滑に遂行することを目的として、りそな銀行及び中核7社とともに、総会及び幹事会からなるスポーツ振興投票委託業務運営協議会(以下「運営協議会」という。)を設置し、スポーツ振興投票業務の運営に必要な事項の協議機関としており、原則として総会は年1回、幹事会は毎週1回開催され、当初は、総会、幹事会ともセンターの役職員が司会を務め、必要に応じて文部科学省がオブザーバーとして参加していた。
 そして、りそな銀行等は、運営協議会の幹事会において、スポーツ振興くじの売上げが低迷していることに対する改善案として、新たなくじの導入等を提案したものの、提案されたくじは法令等の改正を必要とするものもあった。そのため、16年8月にスポーツ議員連盟が改善方策を提言し、それが、中央教育審議会スポーツ・青少年分科会で了承され、政省令が改正されるまでは、「totoGOAL」のように、法令等を改正しなくても発売できる組合せの総数が100万通りを上回るくじしか導入することができなかった。
 前記のとおり、スポーツ議員連盟の改善方策の提言等を受けて行われた政省令の改正等により、それ以前の規制が緩和されたことで、スポーツ振興くじの購入機会や払戻機会が増加し、新たなくじとして導入された「BIG」の売上げが好調となっている。このようなことを考えると、文部科学省ほか関係者間で、政省令の改正等も含めて、売上げを向上させる実効性を持った改善策が早期に執られなかったことも、繰越欠損金を増大させた要因の一つであると考えることができる。

エ りそな銀行に対する未払金の一括支払のための長期借入金の借入れ等

 第A期のりそな銀行との契約は17事業年度で終了したが、終了時点で未払金は292億円に達していた。センターが、これを借入金によって支払うことができるように、文部科学省は、センターの一般勘定に属する財産を投票勘定の借入金の担保に供し、また、一般勘定から投票勘定への資金融通を行うため、独立行政法人日本スポーツ振興センターに関する省令(平成15年文部科学省令第51号。以下「センター省令」という。)を18年9月に改正し、担保提供期間や資金融通限度額等に一定の制限を設けるなど手続を明確に示した。
 これにより、センターは、同月、株式会社みずほ銀行(以下「みずほ銀行」という。)を幹事銀行とするシンジケートローン(借入期間:18年9月〜29年3月)により190億円を借り入れるとともに、一般勘定から投票勘定へ34億円の資金を融通した。
 そして、借入金190億円と一般勘定からの資金融通の合計224億円のうち216億円は、りそな銀行に対する支払(17事業年度末のりそな銀行に対する未払金292億円のうち精算が4月以降のために未払となっていた19億円は、18年8月までに支払われ、さらに交渉によって60億円を減額した結果、未払金の残額は213億円となっていた。また、これに対する支払遅延損害金が3億円となっていた。)に充て、残りの8億円はみずほ銀行等からの長期借入れに伴う手数料等に充てられた。

オ 「BIG」の発売開始による売上げの急増と長期借入金の返済及び繰越欠損金の減少

 第B期になって、センターが直接運営する体制になっても、表5のとおり、18事業年度の売上金額は対前事業年度比で減少した。しかし、18年9月、キャリーオーバー発生時には最高払戻金額6億円という「BIG」の発売が開始され、図5のとおり、キャリーオーバーが10億円を超えた19年5月に「BIG」の1回の売上げが60億円を超えた。そして、キャリーオーバーが継続的に10億円を超えた19年9月頃から「BIG」の売上げが増加したことで、スポーツ振興くじの19事業年度の売上金額は、13事業年度に迫る637億円となった。
 なお、「BIG」を含む20事業年度のスポーツ振興くじの売上金額は、6月までの実施分で360億円と過去最高のペースで推移している。

図5 19事業年度の「BIG」の売上金額とキャリーオーバーの推移

図519事業年度の「BIG」の売上金額とキャリーオーバーの推移

【参考:20事業年度の「BIG」の売上金額とキャリーオーバーの推移(20年6月21日現在)】

【参考:20事業年度の「BIG」の売上金額とキャリーオーバーの推移(20年6月21日現在)】

 これにより、表7のとおり、10年返済を予定していたシンジケートローンによる借入金も、19事業年度だけで返済予定額(4億円)を91億円も上回る95億円の返済が実施された。この借入金の返済及びりそな銀行以外で未払となっていた費用の支払に伴い繰越欠損金も20年3月末には95億円まで減少した。
 さらに、19事業年度の返済額95億円は、同事業年度の売上金額を520億円と予想して20年3月末までに返済する額を算出したものであったが、実際の売上金額は、それを117億円上回ったため、同年5月30日に43億円の繰上返済を実施し、同年6月末日現在のシンジケートローンによる借入金残高は52億円となっている。

表7 第B期における借入金残高、返済額等
(単位:百万円)
項目\事業年度
平成18
19
借入金残高
19,000
9,500
返済額
9,500
資金融通残高
3,400
3,400

(参考)繰越欠損金
26,417
9,551