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  • 国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)|
  • 会計検査院法第30条の3の規定に基づく報告書|
  • 平成20年10月

文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省及び国土交通省所管の政府開発援助に関する会計検査の結果について


3 5省所管の技術協力に係る援助の効果

(1) 被援助国側の需要の把握

 技術協力等の援助が効果を上げるためには、被援助国側の需要を的確に把握し、その需要に適合した事業を実施することが必要である。
 前記のとおり、JICAの実施する技術協力については、一般に我が国政府と相手国政府との国家間の公文書による国際約束に基づいて実施されていることから、相手国の需要については、そこで一定の確認がされていることになる。また、JICAが技術協力に関する附帯業務として行う調査については、国際約束に基づいて実施されるものではないが、JICAの在外事務所において相手国の需要を収集し、その中からJICA内で検討の上、選定がなされている。
 これに対して、5省所管の技術協力は、JICAに委託するなどして実施する場合を除き、国家間の公文書による国際約束に基づくのではなく、当該府省庁やその受託者・補助事業者等となる団体と相手国側における関係機関等との間での覚書や募集書・申請書に基づいて実施されたり、特段の書面等の交換なしに実施されたりしている。覚書等が取り交わされている場合には、相手国側の需要について、ある程度正式な確認が行われていると考えられるが、何らの文書も取り交わすことなく事業を実施しているものも見受けられた。
 需要の把握方法について、5省は、相手国側において各省や各団体のカウンターパート(注5) となる省庁等の公的機関、団体等との日頃の接触を通じて相手国側の需要を把握したり、毎年実施する事業等の場合には参加者に意見・要望を聴取したりして、需要の把握に努めているとしている。また、前記のとおり、5省は、各種連絡会等に加えて、事業の各段階において、随時に外務省、JICAや現地の在外公館、JICA事務所等と連絡を取っており、その中で相手国側の需要についても情報や意見を求めているとしている。

 カウンターパート  技術協力のために派遣された専門家等と行動を共にし、技術協力を受ける相手国側の技術者等

(2) 技術協力の事業の種別ごとの援助の効果

 前記の表2のとおり、5省所管の技術協力には、国費留学生や研修生の受入れ、専門家の派遣、資機材の供与、調査研究等様々な内容・形態のものがある。これらについて、事業種別ごとにその状況を示すとともに、それらについての援助の効果を示すと、次のとおりである。

ア 留学生の受入事業等

(ア) 留学生の受入事業等の概要

 留学生の受入事業等は5省等のうち文部科学省及び学生支援機構並びに厚生労働省において実施されており、その大部分は文部科学省において実施されている。
 文部科学省が実施する留学生の受入事業等は、我が国と諸外国相互の教育、研究水準を高めること、国際理解、国際協調の精神の醸成、推進に寄与すること、開発途上国の場合にはその人材育成に協力することを目的としている(「21世紀への留学生政策に関する提言」(昭和58年8月31日「21世紀への留学生政策懇談会」(文部大臣の懇談会))及び「臨時教育審議会の第2次答申に関する対処方針について」(昭和61年5月1日閣議決定))。また、「新たな留学生政策の展開について(答申)」(平成15年12月16日中央教育審議会)では、留学生の受入れの意義(理念)は、諸外国との相互理解の増進と人的ネットワークの形成、我が国の大学等の国際化、国際競争力の強化、国際社会に対する知的国際貢献等とされている。
 そして、昭和58年に策定された「留学生受入れ10万人計画」に基づき、その当時1万人程度であった留学生の数を大幅に増やす施策が採られ、平成15年には留学生数が約11万人となるなど同目標が達成されている。19年5月1日時点の留学生数は118,498人となっており、政府においては、留学生数の更なる増加を図るとの方向性が示されているところである。一方、留学生については、量の目標は達成されたものの、質の面で問題が生じているのではないかといった問題提起が国会等においてなされている。
 留学生受入れに関する文部科学省関係の施策としては、国費留学生の受入れ、私費外国人留学生(以下「私費留学生」という。)に対する各種支援、留学生を受け入れる学校法人に対する支援等がある。
 このうち国費留学生の受入事業等については、主として文部科学省が、学生支援機構、留学生の所属先となる各学校等と連携を図りながら実施している。各学校等は国費留学生から授業料等を徴収しないほか、文部科学省は、各国費留学生に対し、渡航費に加え、留学生給与として、原則として毎月、所定の額を学生支援機構を通じ支給するなどしている。なお、国費留学生の募集・選考事務の一部や帰国後のフォローアップ等は、外務省の在外公館において実施されている。
 また、文部科学省は、留学生(国費及び私費の両方を含む。)が在籍する大学等を設置する学校法人等に対する支援として、留学生数等に応じ私学事業団を通じ補助金(私立大学等経常費補助金)を交付するなどしている。
 さらに、学生支援機構は、私費留学生の一部に対して学習奨励費を給付したり、医療費の一部を補助したりするほか、留学生宿舎を自ら設置して提供したり、学校法人等が留学生宿舎を設置する際に補助金を交付したりするなどの支援を行っている。
 留学生本人に対する支援の主なものは、表7のとおりである。なお、これらの支援の対象となる留学生は、出入国管理及び難民認定法(昭和26年政令第319号。以下「入管法」という。)に規定する「留学」の在留資格を有する者とされている。

表7
 留学生に対する主な支援の種類と金額(平成19年度)

国費留学生
 給与 ヤング・リーダーズ・プログラム(YLP)留学生
 月額258,000円
研究留学生等
 月額170,000円(渡日後13月目以降の者は160,000円)
上記以外(学部留学生等)
 月額134,000円(渡日後25月目以降の者は126,000円)
 旅費 往復航空券
 一時金 渡日一時金として25,000円
 授業料 国立大学法人等は不徴収、
公立私立大学は文部科学省負担(留学生からは不徴収)
私費留学生 (私費外国人留学生学習奨励費給付制度による留学生に対してのみ給付)
 学習奨励費  月額70,000円(大学院レベル)、月額50,000円(学部レベル)
短期留学生 (短期留学推進制度による留学生に対してのみ支給)
 奨学金  月額80,000円
 留学準備金  150,000円

注(1)  ヤング・リーダーズ・プログラム(YLP)留学生とは、アジア諸国等の将来の指導的立場になる者の養成を目的とする大学院の修士課程に在学する留学生である。
注(2)  研究留学生等とは、大学院の修士課程、博士課程若しくは専門職学位課程等に在学する留学生及びこれに先立ち日本語予備教育を受ける留学生などである。
注(3)  短期留学生とは、大学間交流協定等に基づき、母国の大学に在籍したまま短期間、我が国に留学する者である。

(イ) 文部科学省所管の国費留学生の受入状況等

a 国費留学生の受入状況

 上記の各施策のうち国費留学生は最も手厚い支援を受けている。留学生について、主な種類別の受入数は表8のとおりである。

表8
 留学生の種類別受入数
平成19年5月1日現在(単位:人)

留学生数 118,498 国費留学生 10,020
(8.4%)
YLP留学生 65
研究留学生 7,715
学部留学生 923
その他 1,317
私費留学生 106,297
(89.7%)
私費留学生のうち学習奨励費の受給者 13,833
私費留学生のうち短期留学推進制度(受入れ)奨学金の受給者 2,723
外国政府派遣留学生 2,181
(1.8%)
外国政府の経費負担により派遣される留学生 2,181

注(1)  本表は学生支援機構が行った平成19年度外国人留学生在籍状況調査結果等を基に会計検査院で作成したものである。
注(2)  学習奨励費の受給者及び短期留学推進制度(受入れ)奨学金の受給者は、これらを平成19年度中に受給した人数であり、19年5月1日現在には在籍していない者も含まれている。

b 国別の配分

 国費留学生のうち大きな部分を占めている研究留学生について、その出身国・地域別の内訳を示すと表9のとおりである。研究留学生のうち相当部分については国ごとの採用枠が設定されている。そして、国ごとの採用枠、応募者数、採用者数の関係を調査したところ、国費留学生の採用者数が採用枠を下回っている国がある一方、応募者数が採用枠を上回っていて、国費留学生を採用枠一杯に採用している国もある状況であった。それにもかかわらず、国別の採用枠は固定化していて、留学生の動向や外交上の要請に必ずしも機動的に対応できていない状況であった。
 これについて、文部科学省は、採用枠の急激な削減は相手国から我が国の外交姿勢の変化と捉えられる可能性もあり、慎重に対応すべきであるとしつつ、戦略的・機動的に運用する特別枠を順次設定していくとしている。
 なお、国ごとの採用枠のうち3割程度は開発途上国以外の国に配分されている状況であった。

表9
 研究留学生の国・地域別内訳(上位20か国・地域)
平成19年5月1日現在

国・地域名
留学生数
構成比

1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
13
15
16
17
18
19
20
中国
韓国
インドネシア
タイ
バングラデシュ
ベトナム
フィリピン
マレーシア
ブラジル
インド
ミャンマー
ロシア
アメリカ
ネパール
イラン
モンゴル
スリランカ
トルコ
カンボジア
エジプト
その他(131か国・地域)
(人)
1,507
632
506
502
459
330
230
181
175
170
144
129
110
110
105
99
96
86
82
79
1,983
(%)
19.6
8.2
6.6
6.5
5.9
4.3
3.0
2.3
2.3
2.2
1.9
1.7
1.4
1.4
1.4
1.3
1.2
1.1
1.1
1.0
25.7
 
7,715
100.0

(注)
 国別採用枠とは別に採用されている研究留学生を含む。

c 類似事業との関係

 国費留学生受入れに類似する事業として、外務省の無償資金協力事業である人材育成支援無償やJICAの技術協力事業である長期研修等があり、これらの間の連携強化を図ることが必要であるとの指摘がなされている。また、国際協力銀行(20年10月1日以降、同銀行の海外経済協力業務部門はJICAに統合)は有償資金協力によりアジア地域の国に奨学資金の貸与(留学生借款)を実施している。
 文部科学省は、人材育成支援無償やJICAの長期研修等は開発途上国政府の要請を受け、開発途上国の社会・経済開発に関わる行政官を中心とする人材育成を図るものであって、個人を対象とする国費留学生受入れとは性格が異なるとしつつ、これらの仕組みを全体として戦略的に活用していくよう留意したいとしている。

(ウ) 文部科学省所管の留学生の受入事業等に係る援助の効果

a 学位の取得状況

 留学生受入れの目的である被援助国の教育、研究水準の向上や、人材育成がなされたことを具体的に示すものとして、留学生の学位の取得状況が一つの指標と考えられる。
 学位の取得状況について調査したところ、大学院レベルでの留学生全体(文部科学省による支援対象となっていない者を含む。)の標準修業年限での学位取得率は、博士課程で49.8%、修士課程で84.1%、専門職学位課程で79.1%となっていた。これを国費留学生に限ってみると、博士課程で69.1%、修士課程で95.5%、専門職学位課程で87.5%となっており、いずれも留学生全体の取得率を上回っていた(18年度。学生支援機構が実施している外国人留学生学位授与状況調査による。)。
 なお、学部レベルである学士課程については調査が行われておらず、把握・分析することはできなかった。

b 途中退学等の状況

 国費留学生について、休学、退学等の状況について調査したところ、休学11件、停学0件、退学116件、転学21件となっていた(18年度。国費留学生給与支給対象期間中の者に限る。)。

c 開発途上国以外の国からの留学生

 国費留学生制度は、我が国のODAが開始されたのと同じ昭和29年に創設されたという長い歴史をもつものであり、前記の事例2のとおり、開発途上国以外の先進国等からの留学生も対象にしている。そして、このような開発途上国以外の国からの国費留学生は、19年5月1日現在で2,381名と国費留学生全体10,020名の23.7%を占めている。また、私費留学生に対する学習奨励費についても、開発途上国以外の国からの留学生も対象にしており、そのうち学習奨励費の受給者の数は、19年度で2,885名と学習奨励費給付対象者全体13,833名の20.8%を占めている。そして、この開発途上国以外の国からの留学生に対する留学生給与等の支給額は、表10のとおり、18年度65億8525万余円、19年度66億4435万余円、計132億2960万余円である。
 開発途上国以外の国からの留学生に対する支援については、開発途上国からの留学生が我が国において開発途上国以外の国からの留学生と交流を図ることができるという意義・効果は認められるものの、ODAの技術協力という点からは、直接ODAとしての効果が認められるかは疑義があると考えられる。

表10
 開発途上国以外の国からの留学生に支給されている留学生給与、学習奨励費等の額
(単位:千円、%)

年度 留学生の種類 留学生給与等 旅費 渡日一時金 合計 比率
平成18 国費留学生 4,743,374
(20,163,272)
313,729
(1,085,296)
20,300
(72,175)
5,077,403
(21,320,743)
23.8
私費留学生 1,507,850
(7,843,130)

(-)

(-)
1,507,850
(7,843,130)
19.2
小計 6,251,224
(28,006,402)
313,729
(1,085,296)
20,300
(72,175)
6,585,253
(29,163,873)
22.5
19 国費留学生 4,613,368
(19,668,714)
391,796
(1,057,247)
18,550
(67,175)
5,023,714
(20,793,136)
24.1
私費留学生 1,620,640
(8,009,670)

(-)

(-)
1,620,640
(8,009,670)
20.2
小計 6,234,008
(27,678,384)
391,796
(1,057,247)
18,550
(67,175)
6,644,354
(28,802,806)
23.0
  合計 12,485,232
(55,684,786)
705,525
(2,142,543)
38,850
(139,350)
13,229,607
(57,966,679)
22.8

注(1)  留学生給与等とは、国費留学生については留学生給与、私費留学生については学習奨励費を指す。
注(2)  下段の括弧書きの金額は、開発途上国からの留学生に支給された額を含む全体額である。
注(3)  比率は、合計欄の開発途上国からの留学生に支給された額を含む全体額(下段)に対する開発途上国以外の国からの留学生に支給された額(上段)の比率である。

d 留学後の留学生の状況、フォローアップ等

(a) 留学生の感想等

 留学生は、留学を終え、帰国するなどした後、我が国と出身国の架け橋としての役割を果たすことが期待される。そのためには、留学期間中、我が国のことをよく理解し、親日家となることが期待されるが、留学生が留学を終えるに当たって、我が国に対してどのような認識や印象を抱くことになったかなどにつき統一的なアンケート調査等は実施されておらず、把握・分析することはできなかった。

(b) フォローアップ

 留学終了後のフォローアップの重要性は国会等でしばしば指摘されているところである。
 学生支援機構は、18年度から、留学期間を終了し又は期間途中で帰国する各国費留学生について、その後の住所、進路等を調査票に記載し提出してもらい、フォローアップのための資料としている。また、学生支援機構は、留学生等を対象としたメールマガジンも開設しているが、その登録者数はまだ一部にとどまっている(20年3月現在の登録者数5,057人。日本人等留学生以外の者も含む。)。
 このほか、各留学生が在籍した大学や研究室単位で、同窓会組織等によるフォローアップがなされている場合もあるが、その状況は様々であり、また、文部科学省、学生支援機構との連携が図られているものは特段見受けられなかった。

(c) 在外公館との連携

 国費留学生の帰国後のフォローアップは各在外公館で実施することとされており、在外公館は、そのほか、国費留学生(大使館推薦分)の募集、面接を含む採用試験の一部、オリエンテーション等も実施している。
 そこで、在外公館におけるこれらの業務の実施状況等について、本年、会計検査院が会計実地検査を実施した在外公館のうちマレーシア等11か国に所在する11公館に対しアンケートを行うなどして調査した。その結果、フォローアップについて、留学生全員について行うことは困難であるものの、留学生本人や家族に直接確認したり、学生支援機構から文部科学省及び外務省を通じて送付を受けた前記の調査票を利用したりなどして留学終了後の進路を把握するようにしており、7公館は留学終了者名簿を作成していた。そして、5か国においては帰国留学生の同窓会が結成されており、正式な同窓会組織でないものも含め9か国において同窓会会合が開催されており、在外公館はこれら同窓会を支援するなどしていた。
 なお、私費留学生については、一部の在外公館を除き、その帰国後の状況を把握していなかった。
 また、国費留学生の募集・選考については、9公館において、現地のマスメディアに公告を掲載したり、在外公館のホームページに掲載したりするなど広く募集を行っており、採用試験については、いずれの在外公館も、文部科学省の作成した統一試験を使用するなどしていた。留学前のオリエンテーションについては、在外公館により実施しているところと実施していないところとがあった。

e 支援の実施が適切でないなどのもの

 留学生本人に支給される留学生給与、学習奨励費等が適切に給付等されているか、私立大学等経常費補助金のうち留学生の受入れに係る補助の額は適切に算定されているかなどについて検査したところ、次のとおり、在留期限が切れ、不法在留状態になっている者等に留学生給与を支給していたり、誤った留学生数に基づいて補助金の額を算定していたりする事態が見受けられた。

<事例21>

 文部科学省は、国費留学生に対する給与の支給については、国費留学生が在籍する大学等の長からの在籍確認報告に基づいて支給することとしている。そして、国費留学生は、自己の在籍を報告するため、大学の長が作成した在籍簿に、毎月、自ら押印(又はサイン。以下同じ。)を行い、大学等の長は、この在籍簿の確認に基づき、独立行政法人日本学生支援機構に在籍確認報告を行うこととしている。また、国費留学生が研究目的等のために大学等を離れ、やむを得ず在籍簿に押印ができない場合で、あらかじめ文部科学省との協議で認められた者については、大学等の長が在籍簿に代理に押印することができるとしている。そして、在籍確認ができない場合には、当該月の給与は支給しないこととしている。
ア 国立大学法人東京大学は、国費留学生Aが入管法で定める在留期間更新手続を怠ったため在留期限が平成19年4月中に切れて不法在留状態になっているにもかかわらず、そのことを十分把握しないまま翌5月以降も在籍確認報告を行っていた。このため、同年10月に同大学がAの在留期限が切れている事実を発見するまでの間、給与が支給され続けていた。
イ 学校法人明海大学は、国費留学生Bが講義の終了した20年2月から同年3月までの2か月間、私的な事由で母国に帰国していたにもかかわらず、ファックスをもって在籍確認をしたとして在籍確認報告を行っており、これに基づき給与が支給されていた。
ウ 学校法人早稲田大学は、国費留学生Cから、所属する研究室が別キャンパスにあり、事務室に赴いて在籍確認簿に押印することが不便であるとの申し出を受け、電話等をもって在籍確認をしたとして在籍確認報告を行っており、これに基づき給与が支給されていた。

<事例22>

 日本私立学校振興・共済事業団は、国の補助金を財源として、私立大学等を設置する学校法人に私立大学等経常費補助金を交付しており、私立大学等が留学生を受け入れている場合には、その留学生数に応じて所定の額を特別補助として増額して交付している。
 学校法人早稲田大学は、同事業団に提出した資料において、留学生の数に、正規の課程等に在籍していない科目等履修生等であるため、同特別補助の算定対象とはならない者を含めていた。

(エ) 厚生労働省所管の留学生受入事業

 厚生労働省が実施している留学生受入事業は、開発途上国における職業訓練指導員の養成確保への協力として、国が設置し、独立行政法人雇用・能力開発機構が運営している職業能力開発総合大学校の専門課程及び研究課程に開発途上国からの留学生を受け入れるものである。その専門課程の応募資格は、卒業後、募集対象国において、職業訓練指導員又は職業能力開発に携わる者として勤務する者として同国政府により推薦を受けた者とされている。そして、この留学生は毎年16名程度が受け入れられている。
 このように、この留学制度においては、卒業後、職業訓練指導員等特定の業務に就くことが採用時の条件とされている。そこで、卒業後1年間における進路の状況を厚生労働省が把握している範囲で調査したところ、職業訓練指導員等となっていた者は、15年度卒業者で16人中10人(62.5%)、16年度卒業者で15人中9人(60.0%)、17年度卒業者で15人中12人(80.0%)、18年度卒業者で16人中10人(62.5%)、計62人中41人(66.1%)であり、職業訓練指導員等となっていない者も見受けられた。なお、厚生労働省は、20年2月に、職業訓練指導員等への就職割合が低い国の政府に対して、本制度の趣旨を再度説明し、改善を求めていた。

イ 研修生の受入事業

(ア) 研修生受入事業の概要

a 研修生受入事業等の実施状況

 5省及びジェトロは、自ら又は他の団体に委託、補助するなどして技術協力として研修事業を実施している。この研修事業には、外国人の研修生を我が国に受け入れて研修を実施する研修生受入事業、我が国から講師を派遣するなどして開発途上国等において研修を実施する海外研修事業及び日本人であって外国に専門家等として派遣される者等を対象に研修を実施する派遣専門家研修事業があり、研修生受入事業がその大半を占めている。
 5省及びジェトロの研修生受入事業の18、19両年度の実施状況は、表11及び別表6のとおりであり、主に研修生受入れを実施しているものは計45事業、80研修、研修生11,640人、事業費150億7726万余円であり、このうち経済産業省が研修生数及び事業費の8割程度を占めている。

表11
 5省等における研修生受入事業の実施状況(平成18、19両年度)

省等 事業数 研修の数 研修生数
(人)
事業費
(千円)
 
構成比
(%)
文部科学省 4 8 93 129,610 0.8
厚生労働省 16 16 1,008 1,993,203 13.2
農林水産省 8 29 434 561,135 3.7
経済産業省 6 9 9,849 11,944,299 79.2
国土交通省 8 10 198 278,400 1.8
小計 42 72 11,582 14,906,647 98.8
ジェトロ 3 8 58 170,618 1.1
45 80 11,640 15,077,266 100

(注)
 同一人が複数の研修を受講している場合、それぞれの研修生数に含めており、研修生数の計も総計としている。

 このほか、研修生受入事業以外の事業と一体として実施されている場合を含めた全体としての研修生受入事業の実施状況は、58事業、100研修、研修生12,396人となっている(外国人研修・技能実習制度については、一般に、5省及びジェトロが直接研修の実施主体となっているものではないことから、原則として、これには含めていない(後記(ウ) 参照)。)。
 研修生数で比較すると、5省及びジェトロのうち経済産業省(18年度5,416人(85.1%)、19年度5,189人(85.9%))が最も多くなっている。
 5省所管の研修生受入事業は、5省及びジェトロがそれぞれ所掌する専門分野に関し、その有する知見や国際機関等との関係を活用して、各省等の専門分野に係る人材の育成等を行うものであって、相手国の当該分野の所管省庁等と調整を図り開発途上国からの研修生の推薦・募集を受けて事業を進めるなどしている点に特徴がある。
 そして、専門分野の特徴に応じて、公益法人、試験研究機関、企業等において研修を実施するなどしており、研修方法、研修期間、研修後のフォローアップ等は様々となっている。
 これらの研修は、その内容により、実務研修と非実務研修とに大別される。このうち実務研修は、入管法等により、商品を生産し若しくは販売する業務又は対価を得て役務の提供を行う業務に従事することにより技術、技能又は知識を修得する研修であるとされており、OJT(On the Job Training。職場で働きながらの研修。)によって、生産現場で技術、技能又は知識の習得を図ることを目的としているものである。一方、非実務研修はOFF-JT(Off the Job Training。講義、見学等。)、「座学」、「集合研修」などと呼ばれ、教室、実習室等で行われる日本語教育、専門技術教育等の研修である。
 このように5省所管の研修は、実務研修を含む研修があることが大きな特徴である。これに対して、JICAの行う技術研修員受入事業には、このような意味での実務研修を含むものはない。
 なお、研修生受入事業以外の研修は、厚生労働省及び経済産業省が海外研修事業を、厚生労働省及びジェトロが派遣専門家研修事業をそれぞれ行っている。また、学生支援機構は、研修生受入事業その他の研修事業を行っていない。

b 研修生受入事業の実施手順

 5省所管の研修生受入事業は、期間等の違いにより多少の差異はあるが、おおむね図4の手順により実施されている。

図4 研修生受入事業の実施手順

図4研修生受入事業の実施手順

c 研修期間

 5省所管の研修生受入事業の研修期間の状況は別表7のとおりであり、研修期間が91日以上の比較的長期の研修を受けた研修生が18年度で3,182人(50.0%、研修数11)、19年度で3,148人(52.1%、研修数16)と半数強を占めている。
 省等の別にみると、国土交通省では91日以上の期間の研修を受けた研修生の割合が高くなっており(18年度78.4%、19年度81.2%)、文部科学省では1日から15日までの比較的期間の短い研修を受けた研修生の割合が高くなっている(18年度59.5%、19年度58.6%)。

d 研修生受入事業の実施体制

 5省所管の研修生受入事業について、直轄事業、委託・補助等の実施体制により区分すると、別表8のとおりであり、補助事業に係る研修生が18年度で5,667人(89.1%、研修数28)、19年度で5,415人(89.6%、研修数28)と全体の約9割を占めている。ただし、厚生労働省では、委託事業によるものが多くなっている(18年度研修生289人(54.7%)、19年度研修生271人(56.4%))。厚生労働省を除く4省では直轄事業が全くなく、厚生労働省もわずか(研修生数比で18年度1.5%、19年度2.5%)であり、研修生受入事業のほとんどは外部の公益法人等において実施されている。なお、ジェトロは、5省とは異なり、研修生受入事業のほとんど(同18年度100%、19年度88.2%)を直轄事業として実施している。

e 実務研修を含む研修生受入事業

 実務研修を含む研修は、別表9のとおり、文部科学省以外の4省が実施している。その数は、18年度で研修数10、研修生数3,398人(5省等所管の研修生受入事業全体の53.4%)、19年度で研修数11、研修生数3,100人(同51.3%)と、実務研修を含まない研修とほぼ同程度となっている。

(イ) 研修生受入事業に係る援助の効果

 技術協力としての研修生受入事業は、当該研修生自身の技能、知識の向上をもって終わりとするのではなく、技能、知識等が同人を通じて母国の政府や事業者に伝播され活用されることを目的としている。
 このような研修の効果が十分発揮されることを確保するためには、各段階に応じて次のようなことなどが重要となる。
〔1〕  研修実施前においては、研修生の選定
〔2〕  研修期間中においては、当該研修生への技能、知識等の移転状況を確認するための効果測定
〔3〕  研修終了後においては、フォローアップ
 また、研修の効果の発現の前提として、研修生が計画された研修カリキュラムを完了することが必要である。
 そこで、研修生の選定が適切に行われているか、研修中において効果測定が適切に行われているか、研修後のフォローアップが適切に行われているか、研修生の中に途中帰国した者や失そうした者がいないかなどについて検査したところ、それぞれ次のような状況となっていた。(なお、外国人研修・技能実習制度については、主に、別途後記(ウ)において取り扱う。)

a 研修の需要の把握

 研修生受入事業の実施に当たっては、当該研修について実際に開発途上国等からどの程度需要があるかを確認することが必要である。そして、各省等は、国際会議等の場で相手国の所管省庁や関係機関等から要請があったことや覚書等の文書により需要を確認して事業を行っているとしている。
 5省所管の研修生受入事業に係る需要の把握の方法、事業の端緒の状況は表12のとおりであり、研修生を派遣する国の省庁等の国・地方の機関からの要請によるものが最も多く、これとその他の関係団体からの要請を合わせると、全体の過半が派遣元機関等からの要請に基づいて研修生を受け入れているものであった(複数回答のため、他の需要の把握方法、事業の端緒も伴うものも含む。)。また、委託・補助等を受けて研修を実施している団体が需要の把握のために調査を行っているものもあるなど、何らかの方法で需要の把握が図られていた。

表12
 研修生受入事業に係る需要の把握方法、事業の端緒

省等 年度 研修の数 需要の把握方法、事業の端緒
派遣国の省庁等の国・地方の機関からの要請
(A)
左以外の関係団体からの要請
(B)
国際機関から要請 国際条約、国際会議での決定等 委託・補助等を受けて研修を実施している団体が行った調査に基づくもの その他 (A+B)
文部科学省 平成18年度 4 4 0 0 0 0 0 4
19年度 4 4 0 0 0 0 0 4
厚生労働省 18年度 8 3 4 0 0 2 0 6
19年度 8 3 4 0 0 2 0 6
農林水産省 18年度 15 5 0 3 1 6 0 5
19年度 14 7 0 2 0 5 0 7
経済産業省 18年度 14 5 2 3 5 1 6 5
19年度 15 4 2 3 7 1 6 4
国土交通省 18年度 5 2 2 0 0 1 0 4
19年度 5 2 2 0 0 1 0 4
小計 18年度 46 19 8 6 6 10 6 24
19年度 46 20 8 5 7 9 6 25
ジェトロ 18年度 5 0 3 0 1 0 1 3
19年度 3 1 1 0 0 0 1 2
18年度 51 19 11 6 7 10 7 27
19年度 49 21 9 5 7 9 7 27
  100 40 20 11 14 19 14 54

(注)
 複数回答のため、各項目の数値を合計しても研修の数と一致しない場合がある。なお、A+Bの数は純計である。

b 研修生の選定

 研修生の選定については、相手国側の関係機関から推薦された候補者等を基に、候補者の担当業務、能力等を考慮して選定を行っているものが多い。
 5省所管の研修生受入事業における研修生の選定方法の状況は別表10のとおりであり、研修生派遣国の省庁等の国・地方の機関に所属している者から選定を行う研修が全研修数の4割強を占めていた(複数回答のため他の選定方法も伴うものも含む。以下同じ。)。そして、これと、委託先又は補助先の関連団体又はそれ以外の民間会社に所属している者から選定を行う研修を合わせると、何らかの組織に属している者を対象として研修生を選定している研修が7割強を占めていた。
 ただし、経済産業省においては、公募により研修生の選定を行う研修が多く、国土交通省においては、試験により研修生の選定を行う研修が多かった。
 また、実務研修を含む研修については、受入企業等における研修を含んでいることから、民間会社に所属している者から選定を行う研修が全体の半数程度を占めていた。
 一方、選定に当たっての要件とは別に、選定し受け入れられた研修生が結果的にどのような組織等(派遣元)に所属している者となっているかについてみると、別表11のとおりであり、民間会社を派遣元としている研修生(18、19両年度計10,946人)が全研修生数の88.3%を占めており、派遣国の国・地方の機関を派遣元としている研修生(同938人)は7.5%にとどまっていた。これは、前記のように、研修の数の比では、派遣国の国・地方の機関に所属している者を選定対象としている研修の数が多いものの、そのような研修の1研修当たりの研修生数は相対的に少ない一方、民間会社に所属している者等を対象としている研修の1研修当たりの研修生数は相対的に多いことなどによると思料される。
 なお、農林水産省は、各地域から選定された農業青年等、必ずしも国・地方の機関、民間会社等の組織を派遣元としていない研修生も相対的に多くなっていた。
 これらの中には、研修生及び受入企業の選定が偏っているため、研修の効果及び範囲が限定的となっている事態が、次のとおり見受けられた。

<事例23>

 財団法人日本ILO協会は、平成15年度から19年度までの毎年度、厚生労働省から政府開発援助アジア労働技術協力費等補助金計7億9199万余円の交付を受け、国際技能開発計画事業を実施している。
 この事業に基づく研修は、開発途上国の工業化及び経済的自立に必要な技能・技術を移転するために、その育成が必要で将来自国の生産現場等において指導的役割を果たし得る技能労働者を研修生として受け入れ、同協会において日本語研修等のオリエンテーションを行った後、協力企業等で職場実習訓練(実務研修を含む。)を行うものである。
 本事業の研修生は、関係諸国の現地の協力機関(業界団体、地方公共団体、教育機関等)等が募集及び推薦を行い、これに基づいて同協会において選定することとなっているが、実態としては、現地の企業が現地協力機関を通して自らの従業員を推薦する場合が多く見られた(以下、このような場合の現地企業を「派遣元企業」という。)。
 そして、派遣元企業と協力企業等との関係については、図5のとおり、派遣元企業は協力企業の合弁企業、海外子会社、海外支店など協力企業等と何らかの関係がある場合がほとんどであった。このうち、自社の合弁企業等からの研修生を受け入れている数の多い協力企業の上位4社の状況は図6のとおりとなっており、これら4社だけで本件事業の研修生全体の約半数を占めていた。
 このため、結果として、本件研修事業は特定の企業グループの研修を支援しているに等しい状況となっており、当該事業の効果は、主として特定の企業グループ内にとどまり、他への波及効果は小さいものとなっていると認められる。

図5 派遣元企業と協力企業との関係

図5派遣元企業と協力企業との関係

図6 合弁企業等からの研修生受入数の多い協力企業上位4社の研修生数

図6合弁企業等からの研修生受入数の多い協力企業上位4社の研修生数

c 開発途上国以外の国からの研修生の受入れ

 5省所管の研修生受入事業は、原則として、開発途上国から研修生を受け入れるものであり、開発途上国以外の国の者からも参加希望がある場合には、渡航費、滞在費等は相手国側の負担とするなど、ODA事業予算を開発途上国以外の国の者に使用しないよう配慮している例が多く見受けられた。しかし、一部には、開発途上国以外の国の者を研修生として選定し、その経費をODA事業予算により負担しているものが見受けられた。その状況は別表12のとおりであり、18年度21人、19年度12人、計33人の開発途上国以外の国からの研修生をODA事業予算により受け入れており(これらの者に係るODA事業予算の支出額18年度386万余円、19年度390万余円、計776万余円)、これらについては、直接ODAとしての効果が認められるかは疑義があると考えられる。

d 研修の効果測定

 研修中に技能、知識等の移転が図られたかどうかについて確認するためには、効果測定等を行うことが必要であり、特に、研修期間が長期になるほど、研修において移転される情報の量が多くなるため、効果測定を実施することが重要となる。
 効果測定の実施状況は別表13のとおりであり、18、19両年度計で97.0%とほとんどの研修生受入事業において効果測定が行われていた。効果測定の方法としては、研修生に対する調査票(アンケート等)により効果測定を行っている研修が最も多く、また、複数の効果測定の方法を組み合わせて実施している研修が全体の半数程度あった。
 省等別にみると、農林水産省及び経済産業省は調査票による効果測定が多く、厚生労働省はレポートの提出や発表・討論による効果測定が多かった。試験により効果測定を行っている研修(18、19年度各3)は、いずれも期間が100日を超える長期の研修であり、このうち2研修は実務研修を含む研修であった。この2研修については、実務研修における使用言語が日本語であり、実務研修に入る前に日本語の研修が行われて日本語研修の効果測定のために試験を行っているものであり、実務研修の効果測定は、試験でなく指導員による評価等により行われていた。
 効果測定については、研修生自身に対するアンケート等の調査票による把握のみでは客観的な測定に限界があり、研修内容に合わせた効果測定を実施することにより、研修生への技術移転の状況をより客観的かつ的確に確認することが必要である。

e 研修途中での帰国、失そう

 5省所管の研修生受入事業における研修生の途中帰国者及び失そう者の状況は、表13のとおり、18年度35人、19年度23人、計58人(途中帰国者等が発生した事業の研修生の0.5%。これらの者に係るODA事業予算の支出額18年度2358万余円、19年度2260万余円、計4619万余円)となっており、結果として、これらの者については技術協力の効果が十分生じていないと認められる。

表13
 途中帰国者及び失そう者の状況

省等 年度 母数となる研修生数
(A)
(人)
途中帰国者
(B)
(人)
  失そう者数
(C)
(人)
 
(D=B+C)
(人)
  (D)に対するODA事業費の支出額
(千円)
(A)に対する左の割合
(B/A)
(%)
(A)に対する左の割合
(C/A)
(%)
(A)に対する左の割合
(D/A)
(%)
文部科学省 平成18年度 0 0 0 0 0
19年度 0 0 0 0 0
厚生労働省 18年度 214 2 0.9 0 2 0.9 307
19年度 98 2 2.0 0 2 2 1,738
農林水産省 18年度 58 3 5.1 2 3.4 5 8.6 3,185
19年度 61 2 3.2 0 2 3.2 3,986
経済産業省 18年度 4,948 21 0.4 7 0.1 28 0.5 20,095
19年度 4,774 15 0.3 4 0 19 0.3 16,878
国土交通省 18年度 0 0 0 0 0
19年度 0 0 0 0 0
小計 18年度 5,220 26 0.4 9 0.1 35 0.6 23,588
19年度 4,933 19 0.3 4 0 23 0.4 22,603
ジェトロ 18年度 0 0 0 0 0
19年度 0 0 0 0 0
18年度 5,220 26 0.4 9 0.1 35 0.6 23,588
19年度 4,933 19 0.3 4 0 23 0.4 22,603
  10,153 45 0.4 13 0.1 58 0.5 46,191

注(1)  途中帰国者等に対するODA事業予算の支出額は、途中帰国者等に係る直接経費(渡航費、滞在費等)である。
注(2)  母数となる研修生数は、途中帰国者又は失そう者が発生した研修に係る研修生数としており、途中帰国者等が全く発生していない研修は除いている。

 なお、5省所管の研修生受入事業については、前記のとおり、研修生の多くは民間会社等の組織に所属している者であることから、途中帰国者や失そう者が発生した場合には、各省等は、派遣元の機関と連絡を取るなどして調整したり、場合によっては当該機関からの研修生の受入れを一定期間停止する措置を執ったりなどして再発防止に努めているとしている。そして、19年度は、途中帰国者数、失そう者数及びそれぞれの発生割合のいずれも18年度に比べ低くなっている。
 失そう者が発生している事例を示すと次のとおりである。

<事例24>

 厚生労働省は、平成15年度から19年度までの毎年度、財団法人国際労働財団に委託して、国際労働関係交流事業(19年度以降は「国際労働関係事業」に名称変更)(労働組合関係分)を計14億7332万余円で実施している。
 国際労働関係交流事業は、アジア太平洋諸国等の使用者団体、労働組合等を対象に、労働関係者の招へい、現地セミナーの開催等を行うものである。
 17年度の招へい事業においては、223名を招へいし、221名は所定の研修を終了し帰国している。しかし、ネパール王国(20年7月24日以降はネパール連邦民主共和国)から招へいした2名については、離日日に失そうし、うち1名は現在も所在不明の状況となっており(他の1名は帰国したことが確認されている。)、これら2名については、技術協力としての効果が十分発現されない状態となっていた。
 なお、このことに対して同財団は、当該失そう者の所属組織を招へい対象組織から2年間除外する措置を講じている。

f 研修終了後の研修生の状況の把握

 前記のとおり、研修生受入事業は、単に当該研修生個人に対する技術移転にとどまらず、同人を通して開発途上国に対する技術移転が行われることが期待されており、研修終了後において研修効果が十分に発現し、研修生本人以外の者にも効果が及ぶようにするためには、研修生が帰国等の後、研修内容に関連した業務に従事していることが望ましい。
 研修終了後の研修生の状況の把握状況及び把握されている研修生の研修関連業務への従事状況は別表14及び別表15のとおりである。
 研修終了後の状況の把握は、18、19両年度に行われた100研修のうち、約半数の48研修で行われていたものの、これらは1研修当たりの研修生の人数が少ないものが多く、研修生数でみると、研修終了後の状況を把握していた研修に係る研修生数の比率は9.8%にとどまっていた。これは、特に研修生数の多い経済産業省において、研修終了後の状況を把握しているものが少ない(把握している研修生数の比率18年度0.3%、19年度0.4%)ことなどによると認められる。
 なお、このように研修終了後の状況が把握されている研修数は限られているが、それらの者についてみると、そのうち8割から9割の者は研修に関連した業務に従事していた。
 このように、状況が把握できた者のうち研修関連業務に従事している者の割合はかなり高く、これは、研修内容と研修生の所属及び職務の内容との関係が明確な者を研修生として受け入れていることなどによると思料される。
 個々の事業についてみると、次のとおり、研修終了後の研修生の状況の把握が十分でなく、研修の効果が発現しているかどうかの確認が十分でない事態が見受けられた。

<事例25>

 財団法人日本船員福利雇用促進センターは、平成15年度から19年度までの毎年度、国土交通省から補助金計2億1750万余円の交付を受け、開発途上国船員養成事業を実施している。
 この事業は、開発途上国の船員候補生の知識、技能の向上を促進し、もって開発途上国の船員養成に協力・貢献することを目的とするものである。同センターは、開発途上国からの船員候補生を研修生として受け入れ、独立行政法人航海訓練所、民間商船会社等の協力を得て、2か月間の基礎研修及び1年間の乗船研修を実施している。研修生は、この乗船研修によって海技試験(船員免許)の受験に必要な海上実歴を得ることができ、研修終了後、母国等において海技試験を受験することによって、海技資格を取得し船員となることができる。
 しかし、同センターは、研修生個人の知識、技能の向上については訓練記録簿等により把握しているものの、研修生の帰国後の海技資格の取得状況については把握しておらず、本事業により研修生に付与した海上実歴が船員養成にどのように寄与しているのか不明となっていて、開発途上国の船員養成に協力・貢献するという本件事業の援助の効果が十分把握できていない状況となっている。

g 研修終了後のフォローアップ

 研修の効果を十分に発現させるためには研修終了後に更なる援助・指導を実施したり、研修生を通じて技能、知識等を伝えることを支援したりするなどのために研修を終了した研修生に対してフォローアップを実施することが重要であると考えられる。
 フォローアップについては、主として委託・補助等を受けて研修を実施した公益法人等により、〔1〕 一定期間経過後に調査団等を相手国に派遣して、実地に研修成果を確認する、〔2〕 研修生に研修関係資料等を送付するなど様々な方法で実施されている。
 フォローアップの実施の有無、方法等の状況は別表16及び別図1のとおりであり、研修終了後の研修生の状況の把握を行っている研修の数(18、19両年度計48)よりも、多くの研修(同55)においてフォローアップが行われていた。これは、研修終了後の研修生の状況の把握を行わないまま、研修関係資料等の送付を行っているものがあることなどによると考えられ、その場合、研修関連業務に従事していない者にも送付されるなど、フォローアップの効果が十分に発現しないおそれがある。したがって、研修終了後の研修生の状況を確認した上で研修内容に応じたより的確なフォローアップを行うことが必要である。

(ウ) 外国人研修・技能実習制度

a 外国人研修・技能実習制度の概要

 外国人研修・技能実習制度は、我が国が先進国としての役割を果たしつつ国際社会との調和のある発展を図っていくため、より実践的な技術、技能等の開発途上国等への移転を図り、開発途上国等の経済発展を担う「人づくり」に協力することを目的として、外国から青壮年労働者等を我が国産業界に受け入れ、産業上の技術・技能、知識を修得させるものである。
 外国人研修・技能実習制度については、事業の規模が大きく、一方で、実質的に低賃金労働力の確保の手段として利用されているのではないかといった批判や、賃金の支払等をめぐる争いなど社会的問題となる場合も発生していることから、他と区別して本項において取り上げることとする。
 外国人研修・技能実習制度は、まず研修生として一定期間の研修を実施(以下、この期間を「研修期間」という。)した後、研修成果等の評価を行い、一定の水準に達したことなどの要件を満たした場合、引き続き我が国にとどまり、技能実習生として雇用関係の下で技術、技能等を修得する(以下、この期間を「技能実習期間」という。)ことができる制度である。その期間は、研修期間と技能実習期間とを合わせて最長3年間とされている。
 外国人研修制度による研修生は、入管法等に定める「研修」の在留資格をもって我が国に入国・在留することとなる。入管法等によると、「研修」は、我が国の公私の機関により受け入れられて行う技術、技能又は知識の修得をする活動とされ、研修以外の就労等の資格外活動は認められていない。
 研修期間においては、研修生は、受入企業等において非実務研修及びOJTによる実務研修を受けるが、この実務研修は飽くまで研修として実施されるものであって、「労働」ではないと位置付けられており、労働関係法令は適用されない。研修生には賃金ではなく研修手当が支給され、また、所定時間外にわたる研修の実施は認められない。
 研修期間が終了し技能実習制度に移行するに当たっては、当該研修生について、研修成果が一定水準(国の技能検定試験の基礎2級に相当)以上に達し、在留状況が良好と認められるなど、研修成果、在留状況及び技能実習計画の評価について所定の要件を満たすとともに、在留資格について「研修」から「特定活動」への変更許可を受けることが必要とされている。
 技能実習は研修を受けたのと同一の企業において実施され、技能実習期間においては、技能実習生は、雇用関係の下で研修により修得した技能、知識等をより実践的かつ実務的に習熟することを目的として実習に従事する。技能実習生は受入企業と雇用関係に立つことから、労働関係法令の適用を受け、例えば最低賃金等の規定が適用されることになる。
 外国人研修・技能実習制度をはじめとする実務研修を伴う企業における研修生の受入れには次の二つの形態がある。
〔1〕 「企業単独型」による研修生の受入れ
 我が国の企業により設立された外国の現地法人や合弁企業又は取引関係のある企業等の常勤職員を研修生として受け入れ、当該日本企業において非実務研修及び実務研修を行うものであり、その概要は別図2のとおりである。
〔2〕 「団体監理型」による研修生の受入れ
 商工会議所、事業協同組合等の団体(第一次受入機関、第一次受入団体)が自己の事業として責任をもって研修生を受け入れ、その監理下で会員、組合員である企業等(第二次受入機関、第二次受入企業等)とともに研修を行うものであり、その概要は別図3のとおりである。
 外国人研修・技能実習制度における研修生の受入人数には制限があり、企業単独型の場合には、各受入企業の常勤職員総数の5%以内とされている。一方、団体監理型の場合の研修生の受入れの人数枠は別図4のとおりであり、企業単独型の場合より緩和されている。なお、常勤職員総数の算定に当たっては、研修生を受け入れる際に既に技能実習に従事している技能実習生を常勤職員の数に算入してよいこととされている。ただし、団体監理型の場合も、研修生の人数は常勤職員の数を超えてはならないこととされている。
 外国人研修・技能実習制度における「研修」と「技能実習」との主な相違を示すと別表17のとおりである。

b 外国人研修・技能実習制度に係る国の支援

 厚生労働省は、外国人研修・技能実習制度に関し、研修生・技能実習生や受入企業及び受入団体(以下「受入企業等」という。)等に対する直接の助成は行っていないが、技能実習制度を適正かつ円滑に推進することにより、研修生・技能実習生の技能修得をより強力に進めることが必要であるとして、技能実習制度推進事業を実施している。
 技能実習制度推進事業は、受入企業等に対する巡回指導、研修指導員の養成、修得技能の認定の促進等技能実習制度の適正かつ円滑な推進に向けて必要な措置を行うことを内容とするもので、毎年度、財団法人国際研修協力機構(Japan International Training Cooperation Organization。以下「JITCO」という。)に委託して実施している(15年度から19年度までの委託費計19億4469万余円)。
 また、国土交通省は、建設分野における外国人研修・技能実習に関し、一部の受入機関に補助金を交付している。
 技能実習制度推進事業においてJITCOが実施する業務の流れは図7のとおりである。

図7 JITCOの行っている技能実習制度推進事業の概要(平成18、19両年度)

図7JITCOの行っている技能実習制度推進事業の概要(平成18、19両年度)

注(1)    が、JITCOで行っている技能実習制度推進事業である。
注(2)  研修期間1年、技能実習期間2年の場合の例である。

c 研修生・技能実習生、受入企業等の概要

 JITCOは、技能実習制度に移行することを希望する研修生のうち、入国申請に際して支援を行った研修生(ただし、そのすべてが技能実習制度への移行を希望する者ではない。)については把握しているものの、それ以外の者については、受入企業等から技能実習移行希望申請書(以下、これを「移行申請書」といい、これに係る研修生を「移行申請者」という。)が提出されるまで、正確な情報を把握できない。また、技能実習生については、移行申請者数は、移行申請書によりその全体を把握しているものの、実際に移行した技能実習生数は、移行申請を取り下げる場合に提出される技能実習移行希望取下げ書(以下、これを「移行取下げ書」といい、これに係る研修生を「移行取下げ者」という。)や移行時に提出される技能実習移行報告書(以下、これを「移行報告書」といい、これに係る技能実習生を「移行報告者」という。)が必ずしも速やかに提出されるとは限らないことなどから、ある時点での技能実習生の実数等の把握は困難であるとしている。
 このため、JITCOが把握している範囲において、研修生・技能実習生、受入企業等の全体的な状況を示すと図8、別表18、別表19及び別表20のとおりであり、19年度の移行申請者は60,177人となっている。移行申請者のうち95.7%は団体監理型による受入れに係る者であり、受入企業等の規模別にみると、従業員50人未満の企業等の受入れが53.2%を占めている。受入企業等の業種は「機械・金属」と「繊維・衣服」に集中しており、この2業種で51.1%を占めている。

図8 外国人研修・技能実習制度の実施状況(平成19年度)

図8外国人研修・技能実習制度の実施状況(平成19年度)

注(1)  移行申請者数、移行取下げ者数、評価試験合格者数、移行報告者数等は、それぞれ平成19年度における数値であり、相互に母数、内訳等の関係にあるものではない。
注(2)  平成20年7月17日現在の技能実習生の数は、今回、会計検査院の求めにより、JITCOが特に算出したもので、参考のために記載したものである。

d 技能実習制度推進事業に係る援助の効果

(a) 技能等の修得状況

〔1〕  技能実習移行の際の技能等の修得状況の評価

 前記のとおり、研修から技能実習に移行する際には、一定水準以上の技能等を修得していることが必要とされることから、技能等の修得状況の評価が行われている。
 この評価は、国の技能検定試験又はJITCOが認定した評価システムに基づく評価試験により、研修生が一定水準以上の技術・技能を修得していることを確認することが中心となっている。
 このうち、技能検定は、労働者の有する技能の程度を一定の基準によって検定し、これを公的に証明する制度であって、職業能力開発促進法(昭和44年法律第64号)に基づいて中央職業能力開発協会が試験問題を作成し、都道府県及び都道府県職業能力開発協会により実施されている。そして、技能実習移行のための研修成果の評価に利用される技能検定試験は、技能検定基礎2級とされている。
 また、JITCO認定による技能評価制度は、国の技能検定が実施されていない職種等について公益法人等が行う技能評価試験であって、JITCOが認定したものを研修成果の評価に利用するものである。これは全国農業会議所等8団体により実施されている。
 技能実習に移行する際の研修生に対する評価試験の受験、合否等の状況は別表21のとおりであり、合格率は18年度95.8%、19年度95.3%となっている。なお、前記のとおり、研修生の総数は把握されていないので受験率は算出できなかった。

〔2〕  技能実習移行後の技能等の修得状況の評価

 技能実習に移行した後の技能実習生の技能の修得状況の評価について、厚生労働省は、技能実習1年目の修了予定者については技能検定試験の技能検定基礎1級が、技能実習2年目の修了予定者については技能検定3級がそれぞれ適当であるとされており、また、JITCO認定の評価試験においてもそれぞれに相当する水準の評価試験を用意している。
 技能実習移行時の評価試験とは異なり、これらを受験することは義務付けられているものではないが、JITCOは、技能実習制度推進事業において、受験を促進するよう指導するなどとしており、受入企業等に対する巡回指導(後記(b) 参照)においても確認・指導の対象としている。
 しかし、その受験率は、別表22のとおり、移行申請者(移行取下げ者を除く。)に対する割合(注6) で0.7%から1.0%(18、19両年度)と低調なものにとどまっていた。また、別表23のとおり、巡回指導において、「技能検定等の受験予定なし」という事態に当たるとしてJITCOが指導した割合は、巡回指導企業等数比で40%台となっており、巡回指導の際は受験予定があるとしながら、実際には受験していない場合も少なからずあると考えられる。このように、技能検定等の受験については、技能実習制度推進事業に基づく巡回指導の効果が発現しているとは認め難い状況であった。なお、このように限られた者であるが、受験した者の合格率は90%以上となっていた。
 このように受験が低調である理由としては、これらの資格を取得しても帰国後直接役立つとは限らないこと、受験等をしなくても、一定期間以上技能実習に従事すればJITCOから技能実習修了認定証が授与されることなどが考えられる。
 また、都道府県別にみると、別表24のとおり、移行申請者数が少なくても技能検定試験の合格者が多い県がある一方、移行申請者数が多くても合格者が全く存在しない府県も見受けられるなど、地域による取組の違いの存在が見受けられた。

 前記のとおり、技能実習生の実数は把握されていないことから、移行申請者数に対する割合で算出した。

(b)  巡回指導の実施結果

 JITCOは、技能実習制度推進事業に基づき、受入企業等に対し巡回指導を実施している。この巡回指導は、あらかじめ受入企業等に対し巡回指導の目的及び実施希望日を通知して日程の調整を図った上で、受入企業等を実地に訪問して行われている。巡回指導においては、技能実習の体制、技能実習計画の進ちょく状況、技能修得の状況、技能実習生に対する雇用条件の管理、労働安全衛生対策、労働保険・社会保険の加入、生活環境等について、書類により確認したり、技能実習生と面談を行って確認したりなどしている。
 JITCOが18、19両年度に実施した巡回指導の実施結果は別表25のとおりであり、文書指導に係る指摘率は18年度1.9%、19年度2.8%にとどまっているものの、口頭指導に係る指摘率は18年度85.3%、19年度89.5%と高くなっている。なお、口頭指導に係る事態には、労働保険・社会保険の未加入等の法令違反の疑いのあるものも含まれていた(別表23 参照)。
 また、巡回指導の結果の活用について、賃金の不払い、深刻な人権侵害等の重大な問題があると認められた場合、JITCO自身には是正指示等を行う法的な権限はないことから、JITCOは関係行政機関に対し指導の要請を行うこととされている。
 しかし、19年度までは、厚生労働省もJITCOもこの要請の手続等に関する要領等を定めておらず、要請を実施した場合の記録も残されていなかったため、巡回指導の結果の活用状況について確認することはできなかった。
 なお、20年度からはJITCOは「厚生労働省・法務省への巡回指導結果(重大悪質事案)通報要領」を定めている。

(c) 巡回指導の対象

 巡回指導は第一次受入機関及び技能実習生の所属する第二次受入機関を調査対象としており、研修生のみしかいない第二次受入機関については対象としていない。  また、技能実習生の所属する第二次受入機関が受け入れている研修生については、パスポートの強制管理など明らかに指導すべき点が認められる場合には事実上指導しているものの、原則として、指導の対象とはしていない。
 しかし、別図5のとおり、受入企業等の多くは研修生と技能実習生との両方を受け入れており、せっかく企業等を実地訪問して調査確認を行うのであるから、関係行政機関間での調整・連携を強化するなどして事業の効率的な遂行を図ることが望まれる。

(d) 途中帰国者、失そう者の状況

 他の研修と同様、外国人研修・技能実習制度についても、研修生に技能、知識等の移転が十分かつ確実になされるためには、研修生・技能実習生が研修計画及び技能実習計画で計画された研修・実習カリキュラムを完了することが必要である。
 そこで、研修生・技能実習生について、途中帰国・失そうの状況について調査したところ、次のような状況となっていた。

〔1〕  研修期間中の途中帰国等

 受入企業等は、研修生が途中帰国等をした場合、厚生労働省やJITCOに必ずしも報告することとはなっていない。このため、技能実習への移行のために移行申請書を提出しながら、その後、申請を取り下げる場合に提出される移行取下げ書の提出状況を調査した。なお、移行取下げ書では、途中帰国、失そう等を区別して記載することとされているが、実際は区分して記載していないものが多く、内訳は把握できなかった。
 18、19両年度における移行取下げ書の提出状況は別表26、別表27及び別表28のとおりであり、技能実習への移行申請を取り下げた研修生は、18、19両年度とも1,250人前後であり、移行申請者全体の2.1%から2.4%となっていた。これらの多くは団体監理型の受入れで発生しており、従業員50人未満の企業等が過半を占めていた。

〔2〕  技能実習期間中の途中帰国等

 技能実習生について、18、19両年度における途中帰国者、失そう者等の状況は別表29、別表30及び別表31のとおりであり、途中帰国者は18年度3,296人(17、18両年度の移行申請者数に対する割合3.5%)、19年度5,704人(18、19両年度の移行申請者に対する割合5.1%)、失そう者は18年度1,668人(同1.8%)、19年度2,125人(同1.9%)となっていた(なお、失そう者のうち、その後所在が判明し帰国したことが確認できた者は、失そう者と途中帰国者の双方に計上されているが、その数は把握されていない。以下同じ。)。
 これらの多くは団体監理型の受入れで発生しており、受入企業等の従業員が50人未満の企業等が64.9%を占めていた。

〔3〕  他の研修の状況との対比

 研修生の途中帰国及び失そうは、外国人研修・技能実習制度だけでなく、我が国に研修生を受け入れている他の研修事業においても前記(イ)eのとおり見受けられる。
 外国人研修・技能実習制度における途中帰国者及び失そう者の状況と他の実務研修を含む研修における状況を対比して示すと表14のとおりであり、母数となる研修生等数の違いはあるものの、技能実習生の途中帰国者及び失そう者の発生割合は、他の研修事業に比べ高くなっていた。
 外国人研修・技能実習制度は、国等が直接研修等の実施主体となるものではなく、民間主導で研修等が実施されているものであり、他の研修生受入事業とは、国の関与の度合い、仕組みなどが異なり、必ずしも単純には比較できないものの、外国人研修・技能実習制度においては、他の研修の場合よりも、途中帰国・失そうの発生率が高くなっていて他の研修の場合よりも研修等の効果が発現していない事態が多く生じていた。

表14
 各種研修事業の途中帰国者及び失そう者の状況

研修事業名 主な研修等期間 平成18年度 19年度
母数となる研修生等数(a)
(人)
途中帰国者数
(人)
  失そう者数
(人)
  母数となる研修生等数(b)
(人)
途中帰国者数
(人)
  失そう者数
(人)
 
(a)に対する左の割合
(%)
(a)に対する左の割合
(%)
(b)に対する左の割合
(%)
(b)に対する左の割合
(%)
外国人研修・技能実習制度 企業単独型 研修
1年間
2,195 40 1.82 2,562 37 1.44
技能実習
2年間
4,086 155 3.79 33 0.80 4,757 186 3.91 32 0.67
団体監理型 研修
1年間
48,821 1,197 2.45 57,615 1,242 2.15
技能実習
2年間
87,923 3,141 3.57 1,635 1.85 106,436 5,518 5.18 2,093 1.96
研修
1年間
51,016 1,237 2.42 60,177 1,279 2.12
技能実習
2年間
92,009 3,296 3.58 1,668 1.81 111,193 5,704 5.12 2,125 1.91
産業技術者育成支援研修事業 1年間 2,761 17 0.61 3 0.10 2,686 13 0.48 3 0.11
国際技能開発計画事業 6か月以上1年以内 214 2 0.93 0 0.00 183 0 0 0 0.00
参考(非実務研修)
JICA技術研修員受入事業
9,288 59 0.63 2 0.02 9,218 55 0.59 1 0.01
注(1)  外国人研修・技能実習制度の研修生についての母数は、外国人研修生のうちの各年度の移行申請者数としており、途中帰国者数は、移行申請者のうち移行取下げ者の数(途中帰国、失そう等の内訳は不明。)としている。
注(2)  外国人研修・技能実習制度の技能実習生についての母数は、平成18年度は17年度及び18年度の移行申請者数、19年度は18年度及び19年度の移行申請者数としている。
注(3)  産業技術者育成支援研修事業は、経済産業省の補助事業として財団法人海外技術者研修協会が、国際技能開発計画事業は、厚生労働省の補助事業として財団法人日本ILO協会がそれぞれ実施しているものである(事例23 参照)。

(e) 技能実習制度推進事業の実施上の問題点に関する背景

 外国人研修・技能実習制度については、上記のように効果に疑問がある事態が見受けられるが、その背景には次のような事情があることなどが考えられる。
〔1〕  他の同種の研修の場合には派遣元企業の常勤職員など所属の定まった者が研修生として派遣される場合が多いのに対し、外国人研修・技能実習制度(特に団体監理型の受入れ)においては、研修生は派遣元企業の所属者等に法令上限定されていないこと
〔2〕  受入企業等のうち、特に従業員が10人未満の零細企業等においては、外国人研修生・技能実習生が当該企業等の従業員等の半数近くを占めるものもあり、そのような場合、研修生・技能実習生に対する指導等が行き届かないおそれがあること(別図6 及び別表32 )参照)
〔3〕  前記のとおり、技能実習においては、技能実習の中間時や終了時における効果測定が十分に行われていないこと

e 海外建設交流事業

 前記bのとおり、厚生労働省は、外国人研修・技能実習制度に関し、研修生・技能実習生や受入企業等に対する直接の助成は行っていないが、国土交通省は、同制度における建設分野の研修生(以下「建設研修生」という。)の受入れについて受入団体に補助金を交付している。
 この補助事業について検査したところ、次のとおり、国が財政援助を実施する意義、必要性等は低下してきていると認められた。

<事例26>

 財団法人建設業振興基金は、平成16年度から19年度までの毎年度、国土交通省から補助金の交付を受け、海外建設交流事業(研修生受入事業)を実施している。この事業は、〔1〕 建設研修生及び〔2〕 職長級研修生の受入れなどを実施するものである(補助金交付額〔1〕 1億4968万余円、〔2〕 1418万余円、計1億6386万余円)。なお、15年度までは、同年度末に解散した別の財団法人が補助金の交付を受け、同様の事業を実施していた。
 このうち〔1〕 の建設研修生の受入事業は、外国人研修・技能実習制度に基づき開発途上国から受け入れる建設研修生に対して建設技術・技能の研修、訓練等を行うものである。同基金は、海外の建設研修生送出機関と協定を締結して、その第一次受入団体となり、自ら建設研修生に対して座学等の一般研修を行うとともに、一般研修の終了後、民間企業等の第二次受入団体が建設研修生を業務現場に受け入れ、実地に建設技術・技能の研修、訓練等を行うのに要する費用の一部を当該第二次受入団体に補助している。
 国土交通省は、本件事業の創設当時、建設研修生が少数にとどまっていたことから、その受入れの促進を図ること、及び模範的な研修制度を実施することを狙いとして、建設研修生の受入れに対して補助を行うこととし、補助金の交付要綱において、同基金(15年度以前は上記の財団法人)を補助事業者と規定し、同基金に対して補助金を交付している。
 しかし、近年では建設研修生の第一次受入機関は同基金以外にも多数(18年度315団体)存在しており、多数の建設研修生が入国(18年の建設分野での新規入国者4,914名。同基金の受入れは18年度195名)している。また、同基金は、16年度から19年度まで毎年度181名から195名の建設研修生を受け入れているが、このうち補助対象とされる建設研修生は毎年度40名程度と一部に限られている。
 このように、建設研修生の受入事業は、同様の事業を行っている多数の第一次受入団体のうち特定の第一次受入団体に対して、また、同団体に係る研修生や第二次受入団体のうちの一部のものについてのみ助成するものとなっており、多くの第一次受入団体及び第二次受入団体は国からの財政援助を受けずに、外国人研修・技能実習制度を運営していることを考慮すると、今日においては、本件事業を実施する意義、必要性等は事業創設時に比べて低下していると認められる。

ウ 専門家派遣事業

(ア) 専門家派遣事業の概要

a 専門家派遣事業の実施状況

 5省並びに学生支援機構及びジェトロは、自ら又は他の団体に委託、補助するなどして専門家派遣事業を実施している。5省所管の技術協力における専門家派遣事業は、派遣相手国における技術者、労働者等に対して技術指導等を行うために長期又は短期に専門家を派遣するなどのものであり、これには専門家派遣を事業の主たる内容として実施しているもののほか、研修等ほかの事業に合わせて実施しているものが多くある。
 5省所管の専門家派遣事業の18、19両年度の実施状況は表15及び別表33のとおりであり、主に専門家派遣を実施しているものは計41事業、事業費計81億7534万余円であって、そのうち経済産業省が全体の7割近くを占めていた。

表15
 5省等における専門家派遣事業の実施状況(平成18、19両年度)
(単位:件、千円、%)

省等 事業数 事業費 構成比
農林水産省 13 1,886,648 23.0
経済産業省 9 5,565,086 68.0
小計 22 7,451,734 91.1
ジェトロ 19 723,611 8.8
41 8,175,346 100

(注)
 主に専門家派遣を実施しているものに限る。

 このほか、他の事業に合わせて実施しているものを含めた全体としての専門家派遣の実施状況は、派遣回数1,320回、派遣総人日数146,209人日となっている。省等別にみると、人日数比で経済産業省が最も多く、全体の7割程度を占めていた。

b 派遣人日数

 1事業当たりの専門家の平均派遣人日数をみると、別表34のとおり、15人日以内の事業が37.8%、15人日を超え30人日以内が19.6%、30人日を超え60人日以内が9.0%、60人日を超えるものが33.3%となっていた。これを省等別にみると、文部科学省及び農林水産省では、60%以上が60人日超となっており、厚生労働省及び学生支援機構ではすべて15人日以内となっていた。
 また、主に専門家派遣を実施している事業に限ってみると、別表35のとおり、農林水産省は92.3%、経済産業省は66.6%が60人日超となっており、一方、ジェトロは15人日以内が57.8%となっていた。

c 派遣する専門家の選定方法

 派遣する専門家の選定方法は、別表36のとおりであり、関連業界団体の推薦によるものが最も多くなっている。省等別にみると、公募により選定している事業の数が最も多かったのはジェトロで、5省では、公募によるものは経済産業省の1事業のみであった。また、専門家の選定基準の有無についてみると、選定基準がないものが19.6%となっており、文部科学省、厚生労働省及び国土交通省はすべて選定基準が無く、一方、学生支援機構及びジェトロはすべて選定基準を定めていた。

(イ) 専門家の派遣に係る援助の効果

a 派遣の需要の把握

 専門家派遣事業の実施に当たっては、派遣相手国等の需要を確認することが必要である。
 派遣相手国の選定理由は表16のとおりであり、相手国の本省庁等や地方の機関からの要請によるものが最も多く、次いで事業を実施する各省等の独自の判断によるものとなっていた。また、各省等の独自の判断のみで実施したものは、5省並びに学生支援機構及びジェトロ全体で15事業、全体の2割程度となっており、省等別にみるとジェトロが最も多くなっていた。

表16
 派遣相手国の選定理由の状況(平成18、19両年度)

省等 相手国の選定理由別の事業数
各省等独自の判断   派遣相手国の省庁等の国・地方の機関からの要請 関係機関との協定又は覚書 外部有識者の意見 その他
左のうち当該理由のみの事業数
文部科学省 0 0 2 3 0 0 3
厚生労働省 1 0 0 2 0 0 2
農林水産省 17 2 15 0 0 6 19
経済産業省 3 3 9 2 2 6 14
国土交通省 2 2 0 0 0 0 2
小計 23 7 26 7 2 12 40
学生支援機構 0 0 0 0 2 0 2
ジェトロ 14 8 15 2 0 0 24
小計 14 8 15 2 2 0 26
37 15 41 9 4 12 66

(注)
 複数回答のため、各項目の数値を合計しても計と一致しない場合がある。

b 開発途上国以外の国への専門家の派遣

 5省が実施している専門家派遣はすべて開発途上国に対して派遣しているものであった。一方、ジェトロにおいては、開発途上国以外の国に対して派遣しているものもあったが、これは、派遣場所が開発途上国以外の国であるものの、東南アジア諸国連合(ASEAN)地域を対象に物流の現状確認、問題点の抽出を行い、開発途上国に対し改善提案を行うものであり、ODAとして実施されているものであった。

c 派遣された専門家による報告書の作成

 専門家派遣を行った場合、実際に指導等を行った専門家自身により指導の実施状況、成果等について報告書が作成され、支障がない限り公開することによってその成果を広く利用できるようにすることが望ましい。
 専門家派遣事業における専門家による報告書の作成状況は別表37のとおりであり、多くの事業で報告書が作成されていたが、全体の6.0%の事業については作成されていなかった。
 また、報告書を作成している事業のうち、これを公開していたものは24.1%にとどまっており、公開している場合でも、公開方法は、報告書を国立国会図書館等に納本することによっているものが60.0%と最も多くなっていて、報告書の全文を各省等のホームページで公開しているものは13.3%となっていた。
 さらに、報告書の作成状況及び公開状況を事業の実施体制別にみると、別表38のとおり、委託、請負又は補助により実施された事業については、すべて報告書が作成されていた。直轄事業で実施されたものについても多くは報告書が作成されていたが、一部で作成されていないものがあった。
 作成された報告書の公開状況については、委託又は請負により実施した事業については多くが公開されていたが、補助事業については27.5%、直轄事業については6.6%にとどまっていた。

d 派遣された専門家に対する評価の実施

 派遣された専門家に対する評価を実施することも、当該派遣の効果を確認するとともに、その後の専門家派遣事業を実施する際の専門家の選定等に役立てる上で有用であると考えられる。
 しかし、専門家の指導を受けた者にアンケート調査するなどして派遣された専門家に対する評価を実施していたのは、別表39のとおり、全体の40.9%にとどまっていた。これを省等別にみると、農林水産省及び経済産業省は評価を実施していたものが60%以上であったが、他省等は0%から33.3%にとどまっていた。
 また、専門家に対する評価の実施状況を事業の実施体制別にみると、別表40のとおり、委託又は補助事業については評価基準に基づき評価を実施していたものの割合が60%以上であったのに対し、直轄事業については6.6%にとどまっていた。

e 個々の事業の効果

 個々の専門家派遣事業に係る援助の効果について、今回、会計検査院は、マレーシア、ミクロネシア、マーシャル及びキリバスの4か国に職員を派遣して、我が国の事業実施主体の職員の立会いの下に相手国の協力が得られた範囲内で、相手国側の事業実施責任者等から説明を受けたり、事業現場の状況の確認を行ったりなどした。また、事前に事態を把握するために我が国の事業実施主体を通じて相手国側の事業実施主体に質問票を送付するなどして、協力が得られた範囲内で回答を得たり、相手国側の事業実施主体等の保有している資料で調査上必要なものがある場合に我が国の事業実施主体を通じて入手したりして実態を把握した。その結果、次のとおり、相手国側の事情による部分が大きいものの、計画どおりに事業が進ちょくしていなかったり、事業終了後、事業の一部が自立的に発展していなかったりしている事態が見受けられた。

<事例27>

 経済産業省は、貿易投資円滑化支援事業を独立行政法人日本貿易振興機構に委託して実施している。同機構は、このうち、日本・マレーシア間の経済連携協定(Economic Partnership Agreement(EPA)。平成18年7月発効。)上の自動車分野での産業協力事業の一つとして、平成18年度から22年度までの5年間の予定で、現地指導員の教育制度の構築支援を行っている。この事業は、現地の自動車関連の製造技能者等を指導する現地指導員を育成するために、日本人専門家を現地の職業訓練校に派遣して技術指導等を行うものである(18年度派遣専門家7名、派遣事業費2295万余円、19年度派遣専門家13名、派遣事業費7982万余円)。
 同機構は、マレーシア側の人選を基に現地の職業訓練校の教官15名を現地指導員として、段階的に基礎的・共通的な事項から順次技術指導を実施することにしており、第1期(19年1月から2月、約5週間)、第2期(同年5月から9月、約19週間)、第3期(同年11月から20年2月、約12週間)と進行することにしていた。
 しかし、第1期で指導対象とされた現地指導員15名は、自ら教官として講座を持っており多忙なため、技術指導を必ずしも十分に受けることができなかった。
 このため、翌年度の第2期では、近隣の職業訓練機関の教官を含め42名を現地指導員とすることにした。しかし、新たに対象とした現地指導員も各機関の教官を兼務していたため、第1期と同様な状況になった。
 このような状況を打開するため、第2期の後半の19年8月にマレーシア及び我が国のプロジェクト関係者が検討会を立ち上げて、第3期までに、教官の身分を保持したまま、指導期間中は講座を持たないで技術指導を受けることに専任する者(以下「専任指導員」という。)を15名確保することにした。
 しかし、その条件を満たす者を第2期の現地指導員から十分確保することは難しく、第2期の終盤の8月後半以降に着任し一部の技術指導のみを受けた5名と新規に受講する7名の計12名が第3期の専任指導員となった。このため、第1期及び第2期で実施された技術指導のうちの主要な技術指導を第3期において改めて実施することになり、これらを専任指導員に指導せざるを得ない状況になっていた。
 以上のように、技術指導の対象者が各期において大きく変動したため、第1期から第3期まで継続して受講している現地指導員はおらず、各期ごとに段階的に技術指導が進む計画になっていたのに、計画どおりに進ちょくし十分に効果が上がっているとは認められない状況となっていた。

<事例28>

 財団法人海外漁業協力財団は、水産庁から補助金計137億8089万余円の交付を受け、平成10年度から19年度までの毎年度、国際漁業振興協力事業を実施している。
 この事業は、海外漁場の確保と海外漁業協力事業(海外の水域における水産業の開発、振興等及び国際的な資源管理等に資する経済協力又は技術協力の事業)の一体的推進を図ることによって、我が国漁業の安定的発展に資することを目的とするものである。そして、同財団は、上記の期間中、我が国と入漁協定を締結している33か国のうち28か国に対して事業を実施しており、我が国の漁業者がこれらの国の経済水域内において操業している。
 同財団が実施した個々の技術協力について、同財団の支援実施後の状況等を調査したところ、事業の一部において次のような事態が見受けられた。
ア ミクロネシア連邦環礁内資源管理支援事業
 同財団は、ミクロネシアにおける環礁内の資源管理に資するため、13年度から16年度までの各年度において、ミクロネシアの連邦政府が実施するシャコガイの資源管理を支援する目的で、ミクロネシア連邦環礁内資源管理支援事業を実施している(補助金交付額計7075万余円)。そして、同財団は、ミクロネシア側の関係者に指導・助言を行う長期専門家1名(派遣期間3年1か月)を派遣したり、事業に必要な資機材を供与したりしている。
 この事業は、連邦政府の機関である水産養殖センター(以下「養殖センター」という。)等がシャコガイの種苗を生産し、それを州政府が漁業者に配布して養殖を支援する一方、漁業者が養殖したシャコガイのうち10%を保護区へ放流することにより、シャコガイ資源の保護を図ることを支援するものである。なお、残りの90%については、漁業者が自由に販売又は自家消費に供することができるようになっている。
 そして、派遣された専門家は、養殖センターの生産計画の策定、各州におけるグローアウトファーム(小規模シャコガイ養殖事業。以下「ファーム」という。)の普及等について指導・助言を行っている。
 しかし、ミクロネシア側の事業実施機関等によれば、養殖センターは、17年度以降、財政難により、漁業者へのシャコガイの種苗の配布を中止し、同センターの経営の維持のため、種苗を輸出業者に販売している。また、開始されたファームについては、飼育管理の不十分による貝の死滅、盗難、種苗の新規配布の中止等のため、一部のファームが閉鎖されるなどしていた。また、一部地域では州政府の予算不足により十分な電力の供給が得られなかったことから、同財団と州政府との協議の結果、当該地域における活動を取り止めることとされたため、ファームの運営が実施されていなかった。
イ キリバス共和国沿岸漁業開発支援事業
 同財団は、キリバスにおける離島振興を図るために、11年度から14年度までの各年度において、キリバス共和国沿岸漁業開発支援事業を実施している(補助金交付額計2億6650万余円)。
 そして、同財団は、長期専門家2名(派遣期間各3年5か月)を派遣したり、これらの事業に必要な資機材を供与したりしている。
 この事業は、離島の漁業者から漁獲物を買い付けることにより離島の漁業者に現金収入を得る機会を与えるとともに、漁業経営の改善を指導し、また、漁獲物を首都の消費者に安定的に供給することを通じて離島の振興を図ることを目的とするものである。
 派遣された専門家は、同財団が以前に同国の漁業公社に供与した船等を使って、同国内の離島等から首都に漁獲物を安定的に供給する事業の運営等について指導・助言を行っている。
 しかし、会計検査院の現地調査及びキリバス側の事業実施機関等によれば、首都への漁獲物搬入量は、同財団による支援の最終年である15年には年間約185tであったが、燃料代の高騰、上記の船の経年による故障の発生、外国漁船から廃棄魚として上記の公社に無償供与される魚の増加のために本事業により搬入される魚の需要が影響を被っていることなどのため、16年は約63t、17年は約65t、18年は約32tとなっており、19年には約21tと15年と比べて約1/9に減少している。また、離島4島のうち2島からの漁獲物の輸送は20年6月の現地調査時点では停止している状態となっている。

エ 施設、資機材等の建設・調達、供与等

(ア) 施設、資機材等の建設・調達、供与等の概要

a 施設、資機材等の建設・調達

 5省並びに学生支援機構及びジェトロは、技術協力において必要となる施設の建設、資機材等の調達を実施している。これらは、国内又は国外で使用するため、国の施設等機関、学生支援機構及びジェトロ等が研修、調査研究、海外事務所の運営等に必要となる施設の建設、資機材等の調達を行ったり、委託・補助等の相手方である団体等が研修、調査研究、専門家派遣、相手国側への資機材の供与等のために必要となる施設を建設したり、資機材を調達したりなどするものである。
 5省所管の施設の建設及び資機材等の調達について、その全体的な実施状況をみると、表17及び別表41のとおりであり、金額比でみると、農林水産省(34.3%)、学生支援機構(25.3%)及び経済産業省(24.5%)が多くなっている(建設・調達金額には、ODA事業予算以外の財源を含む場合がある。)。このうち、農林水産省(水産庁)は財団法人海外漁業協力財団(以下「漁業財団」という。)に補助金を交付して相手国側に供与する施設、資機材等を建設・調達するなどしており、学生支援機構は各地にある国際交流会館の施設の改修工事を実施するなどしている。また、経済産業省は、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(New Energy and Industrial Technology Development Organization。以下「NEDO」という。)に補助金を交付して開発途上国の研究機関との共同研究等に必要な施設、資機材等を建設・調達するなどしている。
 なお、事業の実施体制別にみると、補助事業で行われているものが、金額比で全体の64.2%を占めていた。

表17
 施設、資機材等の建設・調達状況(平成18、19両年度)

省等 事業数 件数 建設・調達金額(千円) 金額比(%)
文部科学省 2 2 145,284 5.5
厚生労働省 7 12 67,132 2.5
農林水産省 7 26 894,788 34.3
経済産業省 4 14 639,620 24.5
国土交通省 1 1 4,000 0.1
小計 21 55 1,750,825 67.3
学生支援機構 4 34 658,815 25.3
ジェトロ 4 29 192,726 7.4
小計 8 63 851,541 32.7
29 118 2,602,367 100
注(1)  建設・調達金額が150万円以上(海外で使用するものは200万円以上)の施設、資機材等を対象とした。
注(2)  事業等別に、対象とした施設、資機材等を施設の建設、実証プラント設備、調査・研究用機器等、車両、その他に分類したものをそれぞれ1件とした。
注(3)  建設・調達金額には、ODA事業予算以外の予算を財源としている部分、補助の相手方である団体等の自己負担部分等を含む。

 調達した施設、資機材等の種類は表18及び別表41のとおりである。このうち、調査・研究用機器等は、文部科学省以外の4省において施設等機関や委託・補助等の相手方である団体等が測定・分析機器、施設の修繕用の器具、漁具等を調達しているもので、全体金額の43.1%を占めている。また、実証プラント設備は、主に経済産業省がNEDOに補助金を交付してデータの取得、確認等のために、実際のプラント設備より小規模な実証試験用のプラントを建設等しているもので、全体の15.3%を占めている。なお、その他は、学生支援機構が国際交流会館の改修工事を実施しているものなどである。

表18
 施設、資機材等の種類別の状況(平成18、19両年度)

種類 件数 建設・調達金額(千円) 金額比(%)
施設の建設 4 29,153 1.1
実証プラント設備 5 399,419 15.3
調査・研究用機器等 31 1,124,046 43.1
車両 22 166,292 6.3
その他 56 883,455 33.9
118 2,602,367 100.0

 調達した施設、資機材等の使用場所をみると、海外で使用するものは、農林水産省、経済産業省、国土交通省及びジェトロで計59件、15億6877万余円であり、全体金額の60.2%を占めている。一方、国内で使用するものは、文部科学省、厚生労働省、経済産業省、学生支援機構及びジェトロで計59件、10億3359万余円であり、全体の39.7%となっている。海外で使用するものには、例えば、前記のとおり、農林水産省が漁業財団に補助して行う海外向けの施設、資機材等の建設・調達、経済産業省がNEDOに補助して行う海外での実証プラントの建設等のほか、国土交通省が南太平洋地域に地殻変動を監視するための機器を設置しているものや、ジェトロが開発途上国等に所在する海外センター・海外事務所で使用する車両を調達したり、事務所等の改修を行ったりしているものなどがある。一方、国内で使用するものには、例えば、厚生労働省の施設等機関が研究用の機器、物品等を調達しているものや、学生支援機構が国際交流会館の改修工事を行っているものなどがある。

b 相手国に対する施設、資機材等の供与等

 上記の海外で使用する施設、資機材等には、我が国の関係者が単独で又は相手国側と共同で使用しているもののほか、事業実施中又は事業終了後に相手国側に供与等したものが18、19両年度で農林水産省及び経済産業省において計21件、8億9794万余円ある(別表41 参照)。このうち、当初から相手国側に譲渡することを目的として施設、資機材等を建設・調達したもの(以下、このような場合の譲渡を「供与」という。)が、19件、8億7240万余円あり、これは、農林水産省(水産庁)が漁業財団に補助しているものである。同様に、相手国側に貸与することを目的として資機材を調達して、貸与しているものが1件、653万円あり、これは、同省(同庁)が社団法人海外水産コンサルタンツ協会に委託することにより、海外に太陽光発電システムを設置して、これを相手国側に貸与しているものである。
 また、当初から譲渡又は貸与することを目的として建設・調達したのではなく、我が国関係者が単独で又は相手国側と共同で調査研究等に使用した後に、相手国側からの要請を受けて、事後的に譲渡したものが1件、1901万余円あり、これは、経済産業省のNEDOに対する補助事業で生じているものである。なお、供与及び貸与も、調査研究、専門家派遣等と合わせて実施されており、供与又は貸与した施設、資機材等の使用方法等について技術指導等が行われている。
 これらのほか、経済産業省(資源エネルギー庁)は、15年度に、JICAに委託して実施していた資源開発協力基礎調査事業で、X線解析装置等の機材を相手国に供与していた。なお、現在、同省の事業では資機材等の供与は実施されていない。

(イ) 施設、資機材等の建設・調達、供与等に係る援助の効果

 施設、資機材等の建設・調達、供与等に係る援助の効果について検査したところ、前記の事例6のとおり、ODAの目的に使用されるものではない研究用機器をODA事業予算で調達していたものがあったほか、前記ウ(イ)eのとおり、ミクロネシア等に職員を派遣するなどして調査したところ、次のとおり、相手国側の事情による部分が大きいものの、供与した資機材が、供与後に十分利用されていなかったり、故障していたりなどしている事態が見受けられた。

<事例29>

 財団法人海外漁業協力財団が水産庁の補助金を受けて実施している国際漁業振興協力事業(事例28 )において供与した資機材の一部について、次のような事態が見受けられた。
ア ミクロネシアにおける巡回普及指導整備事業
 同財団は、平成19年度にミクロネシアにおける巡回普及指導整備事業の一部として、製氷機の修理・修復を実施している(補助金相当額356万余円)。そして、同財団は、修理・修復に必要な資機材を供与したり、短期専門家3名(派遣日数延べ27人日)を派遣して技術指導を行ったりしている。
 同財団は、本件事業の実施に先立って、19年5月に事前調査を実施しており、その結果、製氷機のコンプレッサー等の故障に加え、地元地区が電気代の支払いを滞らせたことにより、19年3月から電力供給が停止されたため、製氷機が稼働していないことが判明した。このため、同財団は、州政府が電気代の問題を解決することを同州政府との間で文書により確認した上で事業を実施することとし、確認の上、20年2月に資機材供与、専門家の派遣等を実施したものである。
 しかし、結果的に電気代の問題は解決されなかったことから、製氷機は修理された後、供与された資機材とともに梱包された状態で同州政府の修理場に保管されている状況となっていた。
 なお、ミクロネシア側は、当該地区では新漁港の建設計画があり、それが実現した際に、この製氷機を移設して利用する予定であるとしている。
イ マーシャル沿岸漁業開発事業
 同財団は、マーシャルにおける沿岸漁業開発に資するため、10年度から13年度までの各年度において、マーシャル沿岸漁業開発事業を実施している(補助金交付額計2億9159万余円)。そして、同財団は、漁獲物を同国内の離島から首都に運搬するための船、製氷機、コンテナフリーザー、発電機等の事業に必要な資機材を供与したり、長期専門家3名(1名は派遣期間2年9か月、2名は同各3年)を派遣したりしている。
 しかし、上記の船については、燃料代の高騰、保守費用の増大、故障等のため、定期的に運航することができない状況となっていた。
 また、マーシャル側の事業実施機関等によれば、供与した資機材のうちコンテナフリーザー2機及び発電機3機は現地調査時点で故障のため稼働しておらず、このため、製氷機2機も稼働させることができない状況となっている。

オ 調査研究事業

 5省並びに学生支援機構及びジェトロは、自ら又は他の団体に委託、補助するなどして調査研究事業を実施している。
 5省所管の技術協力における調査研究事業は、開発途上国等において調査や研究を実施し、調査の結果を開発途上国等に提示したり、調査等の成果物である報告書やマニュアル等を国内等で活用したりなどするものである。
 調査研究事業には、我が国の無償資金協力等に結び付く案件を発掘・形成するための案件発掘・形成調査が含まれている。これは、開発途上国は多様な援助の要望を有しているが、それを具体的な案件に取りまとめて、我が国政府に対し正式な援助要請書をもって要請することが必ずしも容易ではないので、案件の発掘や要請書の作成の企画立案段階から専門的技術的な支援を行うことにより、事業の効率化が図られ、質の高いODAプロジェクトを推進できるとして実施されているものであり、他の援助に結び付くことを直接の目的としている点に特徴がある。
 以下、案件発掘・形成調査以外の調査研究と案件発掘・形成調査とに分けて分析する。

(ア) 調査研究事業(案件発掘・形成調査を除く。)

a 調査研究事業の概要

(a) 事業費及び平均調査日数等

 5省所管の調査研究事業の18、19両年度の実施状況は表19及び別表42のとおりであり、主に調査研究を実施しているものは計208事業、事業費計154億4798万余円となっており、これを省等別にみると、事業費比で、経済産業省が最も多く(全体の71.5%)、次いで農林水産省、厚生労働省の順となっていた。なお、経済産業省の事業費が多いのは、同省が海外開発計画調査事業をJICAに委託して実施している調査研究事業が多く含まれているなどのためである。

(b) 事業内容による区分

 調査研究事業を事業内容により区分すると、〔1〕 開発調査、〔2〕 調査研究、〔3〕 海外でのモデル事業・パイロット事業等の実証調査、〔4〕 過去に実施した事業の評価を行うための評価調査、〔5〕 その他に大別できる。
 これにより5省所管の調査研究事業を区分すると、表19のとおり、調査研究はほとんどの省等が実施している一方、開発調査を実施しているのは農林水産省及び経済産業省となっており、海外での実証調査を実施しているのは農林水産省、経済産業省及び国土交通省となっていた。

表19
 調査研究事業の事業内容による区分(平成18、19両年度)
(単位:件、%)

省等 内容による区分別の事業数
〔1〕 開発調査   〔2〕 調査研究   〔3〕 海外での実証調査   〔4〕 評価調査   〔5〕 その他    
構成比 構成比 構成比 構成比 構成比 構成比
文部科学省 0 0 6 75.0 0 0 0 0 2 25.0 8 100
厚生労働省 0 0 6 66.6 0 0 0 0 3 33.3 9 100
農林水産省 4 8.3 26 54.1 18 37.5 0 0 0 0 48 100
経済産業省 4 6.2 53 82.8 2 3.1 2 3.1 3 4.6 64 100
国土交通省 0 0 30 73.1 2 4.8 3 7.3 6 14.6 41 100
小計 8 4.7 121 71.1 22 12.9 5 2.9 14 8.2 170 100
学生支援機構 0 0 0 0 0 0 0 0 2 100 2 100
ジェトロ 0 0 36 100 0 0 0 0 0 0 36 100
小計 0 0 36 94.7 0 0 0 0 2 5.2 38 100
8 3.8 157 75.4 22 10.5 5 2.4 16 7.6 208 100

(c) 現地調査の人日数

 調査研究事業は、調査員を調査対象国に派遣して現地調査を行うなどして実施されている。海外での現地調査を実施している事業について1事業当たりの調査員の平均派遣人日数をみると、別表43のとおり、15人日以内の事業が29.2%、15人日を超え30人日以内が16.0%、30人日を超え60人日以内が25.4%、60人日を超えるものが29.2%となっており、農林水産省及び経済産業省では60人日超の事業の割合が最も高く、他方、他の3省及び学生支援機構では15人日以内の事業の割合が最も高くなっていた。

(d) 調査研究の成果の相手国側への移転方法

 調査研究事業には、その成果を我が国において活用することを目的としていて、調査対象国に技術移転をしていないとする事業も別表44のとおり、全体の45.6%存在しているが、全体の54.3%の事業においては、調査研究の成果を何らかの形で相手国側等に移転しているとしている。移転を行っている事業について、その移転方法をみると、次のとおりとなっていた(複数の方法に該当するものがある。)。
〔1〕  調査結果を調査報告書、マニュアル等の成果物に取りまとめ、相手国側に提供しているもの82.3%
〔2〕  調査結果についてセミナー、ワークショップ等を開催して技術移転しているもの47.7%
〔3〕  調査結果について専門家を派遣して技術移転しているもの11.5%
〔4〕  調査結果を取りまとめるとともに相手国側から研修員を受け入れて技術を移転しているもの7.9%
 このように、調査報告書やマニュアル等の成果物により相手国側に技術移転を図っているものが多くなっている。

b 調査研究事業に係る援助の効果

(a) 調査研究の要望の把握

 海外現地調査を実施している調査研究事業について、事業を実施するに当たって調査対象国等の要望をどのように把握しているかという点から、調査研究の対象事業の選定をみると、表20のとおり、各省等の独自の判断のみによるものが182件のうち102件(56.0%)と多くなっている。これらの事業の中には、調査研究の成果を調査対象国に提供することよりも、我が国として活用することのみを目的としているものも含まれるが、相手国の関係機関等からの要請又は協定等ではなく、各省等の独自の判断により事業を実施しているものの割合が高くなっている。

表20
 調査研究の対象事業の選定理由(平成18、19両年度)
(単位:件、%)

省等 対象事業の選定理由別の事業数
各省等独自の判断     相手国の省庁等の国・地方の機関からの要請   関係機関との協定又は覚書   外部有識者の意見   その他    
左のうち当該理由のみの事業数  
構成比 構成比 構成比 構成比 構成比 構成比 構成比
文部科学省 4 100 2 50.0 0 0 0 0 0 0 2 50.0 4 100
厚生労働省 5 62.5 3 37.5 3 37.5 0 0 0 0 4 50.0 8 100
農林水産省 27 56.2 19 39.5 2 4.1 17 35.4 19 39.5 3 6.2 48 100
経済産業省 36 75.0 33 68.7 7 14.5 0 0 3 6.2 6 12.5 48 100
国土交通省 20 54.0 13 35.1 13 35.1 6 16.2 0 0 6 16.2 37 100
小計 92 63.4 70 48.2 25 17.2 23 15.8 22 15.1 21 14.4 145 100
学生支援機構 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 2 100 2 100
ジェトロ 34 97.1 32 91.4 1 2.8 2 5.7 0 0 0 0 35 100
小計 34 91.8 32 86.4 1 2.7 2 5.4 0 0 2 5.4 37 100
126 69.2 102 56.0 26 14.2 25 13.7 22 12.0 23 12.6 182 100
注(1)  海外現地調査を実施していない事業は除いている。
注(2)  複数回答のため、各項目の数値を合計しても計と一致しない場合がある。

(b) 調査報告書等の相手国側等への提供及び公開

 調査報告書等の調査研究の成果品については、相手国側等に提供するほか、支障のない限り公開することによってその成果を広く利用できるようにすることが望ましい。
 調査報告書等の配布の状況は別表45のとおりであり、相手国側の関係機関に提供しているものは34.1%、国際機関に提供しているものは9.6%となっていた(ただし、この母数には、国内のみで調査を実施しており、調査内容も特定の国に係るものではない事業も含んでいる。)。調査報告書等の提供先で最も多いのは事業を所管する各省の省内の関係課等であり、次いで、JICA等我が国の援助実施機関となっていた。
 調査報告書等の公開の状況は別表46のとおりであり、何らかの形で公開しているものは71.6%、公開していないものは28.3%となっていた。
 公開している場合の公開方法については、国会図書館等に納本することにより公開しているとするものが67.7%と最も多かった。
 ホームページでの公開については、調査報告書等の全文をホームページで公開しているものは22.8%、要約を公開しているものは6.0%となっていた。
 ホームページで全く公開していない場合、その理由としてホームページの容量の問題によるとしているものが見受けられた。しかし、一般国民にとっては、特定のテーマについての調査研究が実施された後に、その報告書が存在することを知ることも容易ではないので、特段の支障がない限り、少なくとも調査研究のテーマ及び請求があれば報告書を提供する旨はホームページで公開することが望まれる。

(c) 情報システム及びデータベースの相手国側への提供、公開等

 文部科学省、農林水産省及び国土交通省は、調査研究事業において、情報システム及びデータベース(以下、これらを「システム等」という。)を作成しており、システム等を作成した各省等は、そのシステム等を当該省等又は事業を実施した団体等のホームページに公開して広く一般に利用できるようにしたり、関係者等に対してシステム等を格納した電子媒体を配布したりするなどして事業の成果の普及を図っている。
 15年度から19年度までの間に作成されたシステム等は、個人情報を含むなどの理由により公開に適さないとしているものを除くと、文部科学省1件、農林水産省8件、国土交通省1件、計10件であった。
 上記の10件について、その作成後の状況は別表47のとおりであり、相手国側へ提供しているものは3件である。
 システム等の公開状況をみると、7件は省又は事業を実施した団体のホームページにより公開されており、電子媒体の配布によって公開されているものは4件、ホームページによっても電子媒体の配布によっても公開されていないものは1件となっている。
 ホームページにより公開されている7件のシステム等について、公開までに要した期間をみると、そのうち6件は事業終了後1年以内に公開されているのに対し、残る1件は公開までに2年を超える期間を要していた(後記事例36 参照)。
 そして、上記10件のシステム等の20年3月末時点における運用状況をみると、運用中のものが8件、運用を停止しているものが2件であった。運用を停止している2件のうち、1件が委託事業、1件が補助事業により作成されたものであり、前者は委託事業において調査報告書の作成に利用され、その後は委託者である国において管理されており、試験研究機関等から配布要望がある場合には活用目的を精査し、媒体に格納されたものを配布することとしている。また、後者は補助を受けた団体が作成後数年間運用していたものであり、運用に対する補助が廃止されたことに伴い運用を継続する資金の確保が困難となったため、運用が停止されていた。補助事業の成果物は事業終了後も補助事業者に権利が帰属するものであるが、国等からの補助金を受けて実施した事業である以上、その成果物であるシステム等については、事業終了後も補助事業の目的に沿って継続的に利用されることが望まれる。

(d) 個々の事業の効果

 個々の調査研究事業に係る援助の効果について検査したところ、次のとおり、〔1〕 作成した調査報告書や技術指針の記述・内容が十分とはいえないもの、〔2〕 事業の実施に当たって相手国側の協力が十分に得られていないもの、〔3〕 相手国側に技術移転が十分になされているかなどを十分に検証できない状況となっているもの、〔4〕 システム等の開発内容の一部断念や作成後の公開までに時間を要していたもの、〔5〕 事業を適切かつ効率的に実施していないものなど、援助の効果が必ずしも十分に発現していないと認められる事態が見受けられた。

〔1〕  作成した調査報告書や技術指針の記述・内容が十分とはいえないもの

<事例30>

 国土交通省は、平成17、18両年度に建設産業技能等移転促進事業を財団法人国際研修協力機構に計2632万余円で委託して実施している。
 この事業は、外国人研修・技能実習制度の円滑かつ適正な推進を図るために、それぞれの年度に、〔1〕 研修生受入機関等に対する訪問説明等を実施すること、〔2〕 建設産業団体に対するヒアリング等により同制度の円滑な運用の在り方を検討すること、〔3〕 帰国した研修生等の技能等の習得状況等により建設技能の円滑かつ効果的な移転の在り方を検討することなどを実施し、その報告書(各50部)を提出させるものである。そして、このうち〔2〕 については、17、18両年度ともヒアリング等を実施し検討するほか、18年度においては、17年度に検討した方策について具体的な取組と効果を検証することとされている。
 同機構は、それぞれの年度に受入企業等にアンケート調査やヒアリング調査を実施した上で、〔2〕 に係る報告書として「海外建設研修実習推進調査報告」(以下「実習報告書」という。)、〔3〕 に係る報告書として「建設産業技能等移転促進調査報告」(以下「移転報告書」という。)を提出している。
 しかし、両年度の実習報告書のうち18年度の「受入れ機関ヒアリング調査」は、17年度の「受入れ機関ヒアリング調査の結果」と同様の記述となっていた。さらに、18年度の「建設業の特殊性に基づく建設分野における外国人研修生・技能実習生受入れの問題点と受入れの円滑化の提言」は、17年度の「建設分野の産業特性を踏まえた研修制度活用の可能性」に数行程度を加筆したものとなっており、具体的な取組と効果の検証は十分に記述されていないものとなっていた。
 また、17年度の実習報告書と移転報告書は、それぞれの表紙とその内容が食い違っており、誤って表紙を入れ違えたまま製本され、納品、検収されていた。

<事例31>

 社団法人海外林業コンサルタンツ協会は、林野庁から計1億0446万余円の補助金の交付を受けて、平成13年度から17年度までに地域住民森林管理実証調査事業を実施している。
 この事業は、開発途上国における地域住民参加による森林造成後の管理・経営への取組を推進するために、経済的誘因を用いて地域住民による自主的・継続的な森林の管理・経営活動を呼び起こす手法を確立するための調査を行うものである。
 そして、本事業においては、〔1〕 開発途上国現地において、地域住民とともに実施されている森林の保護・造成への取組に関する資料の分析を行い、〔2〕 住民による自主的・継続的な森林管理・経営行動に向けての総合的手法のモデル案を検討の上、検証のための実証調査を行い、〔3〕 システムのモデル案を検証して成果を取りまとめ、技術指針を作成するなどとされている。
 同協会は、技術指針を独立した冊子としては作成しておらず、事業報告書の一部の部分が技術指針になっているとしている。
 しかし、その内容は、事業を実施する際の各参加者の役割分担の重要性についての一般的な記載や既往文献の引用等にとどまっており、システムのモデル案を検証して成果を取りまとめるという技術指針の趣旨に十分適っているとは認められないものであった。

〔2〕  事業の実施に当たって相手国側の協力が十分に得られていないもの

<事例32>

 財団法人国際緑化推進センターは、平成16年度から20年度までの予定で、林野庁から補助金の交付を受けて、黄砂対策植生回復実証調査事業を実施している(16年度から19年度までの補助金交付額計5786万余円)。
 この事業は、中華人民共和国(以下「中国」という。)とモンゴル国(以下「モンゴル」という)で。植林の実証試験を実施して、そこで得られた各種調査結果を分析することなどにより、黄砂発生地域に適用し得る植生回復技術マニュアルを作成するなどするものである。
 ア 中国での事業実施状況について
 同センターは、16年9月に、事業着手に際して、中国側の事業実施機関と合意書を締結し、その別紙で調査測定計画等について規定している。
 しかし、中国側は17年度に実証調査地に植栽を行ったものの、その直後に中国側のカウンターパートが転勤になるなどし、事業最終年度である会計実地検査時点(20年5月)においても、新たなカウンターパートは配置されないままとなっていた。このため、調査測定計画等で設定されている調査項目のうち、カウンターパートから報告されるとしていた項目のほとんどについて当初計画どおり報告されておらず、同センターは、日本から毎年派遣していた調査団により調査項目を限定して自ら調査を実施せざるを得ない状況になっていた。
イ モンゴルでの事業実施状況について
 同センターは、16年6月に、モンゴル側の事業実施機関と覚書を締結している。その際には、別途、植栽計画と調査測定計画を作成する予定であったが、当初からモンゴル側のカウンターパートが見つからなかったため、調査測定計画は作成されていなかった。また、植栽については、一部についてモンゴル側により行われたものの、調査結果の報告は受けていなかった。このため、同センターでは、18、19両年度に日本から派遣していた調査団が自ら調査を実施せざるを得ない状況になっていた。
 このように、相手国側からは予定していた調査の実施や調査結果の報告が得られず、両国における調査は日本から派遣した専門家調査団が一部項目について実施している。

〔3〕  相手国側に技術移転が十分になされているかなどを十分に検証できない状況となっているもの

<事例33>

 社団法人日本森林技術協会は、林野庁から計6億5308万余円の補助金の交付を受けて、平成13年度から17年度までにアジア東部地域森林動態把握システム整備事業を実施している。
 この事業は、衛星写真データの解析により森林劣化の進行状況の効率的把握及び将来予測を行い、開発途上国の国土全体の森林劣化の進行状況を反映した森林政策の立案を支援するものである。
 同協会は、開発した衛星写真データの解析技術等を相手国側のカウンターパートに対し移転するために、事業成果報告会を4か国で開催した。報告会には9か国の政府関係者等が参加し、同協会が衛星写真データやその解析結果に基づいて作成した森林劣化図等を参加者に提供していた。
 しかし、同協会は、報告会において、開発した解析技術等の機能や解析結果等をスライド、資料等を用いて説明をしていたが、実際に衛星写真データからどのように解析作業等を行うかを開発したプログラムを操作して実演指導するなどしておらず、報告会の時間も各箇所ごとに1.5日間から2日間にとどまっていた。
 また、林野庁や同協会は、事業終了後に相手国側のカウンターパートを再訪するなどして、相手国側に技術が移転されたか、移転された技術が相手国の政策に反映されているかなどの検証・評価等を行うこととはしていなかったことから、事業の効果が発現しているか検証できない状況となっていた。

<事例34>

 資源エネルギー庁は、共同資源開発基礎調査事業を独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構に委託して実施している。
 この事業は開発途上国への技術協力・経済発展を図るとともに、我が国の鉱物資源の安定供給の確保に資するために、相手国側の資源探査実施組織と共同で資源開発調査等を行うものである。同事業は、平成19年度以降は、人材育成を主要目的としており、単に資源探査調査を行うだけではなく、相手国側のカウンターパートと資源探査現場等において共同して調査作業をすることにより、地質調査等の資源探査技術の技術移転を図るものである。また、相手国側カウンターパートを対象とした現地における講習会や我が国に研修員を受け入れる人材育成事業も同年度以降新たに実施されている。
 しかし、同事業の委託契約書、仕様書等には、調査の内容及び方法についての記載はあるものの、具体的な人材育成のための技術移転の項目、内容等が明記されていないなど、相手国側に対する技術移転の内容が特定されておらず、技術移転としての事業の意義・内容が明確になっていない。このため、事業報告書で技術者派遣日数等の実績が報告されてはいるものの、人材育成面からの事業効果の検証及び測定をすることは困難な状況となっている。

〔4〕  システム等の開発内容の一部断念や作成後の公開までに時間を要しているもの

<事例35>

 財団法人日本水土総合研究所は、農林水産省から計1億7967万余円の補助金の交付を受けて、平成14年度から17年度までに海外技術情報提供事業を実施している。
 この事業は、海外派遣専門家等への情報の提供、農業・農村開発に関する環境保全、農地水資源に係る技術情報の収集及び我が国の農業土木の計画・設計基準を開発途上国の実情に即して検討し、適正化されたマニュアルを作成することなどを内容とするものである。このうち技術情報収集において、地理情報システム等を海外の農業・農村開発に活用するため、世界の農地と農業水利施設等の状況に地域情報を加えた総合データベースの整備・提供、地域の動的な変化を捉えるモニタリング機能、環境等の問題に関する将来予測機能等を有した世界水土システムを構築するための検討等を行っていた。
 しかし、同研究所は、この検討等を開始してから3年以上が経過した17年12月に至り、世界水土システムを構築するためにはデータが不足していること、データ収集範囲が地球規模となってその収集手段も煩雑を極めることなどの課題があることが判明したとして、同システムの構築を断念している。そして、同月以降は、システム構想の一部である基礎的な情報の提供機能に事業内容を限定することとし、システム構築を実施している。

<事例36>

 財団法人国際緑化推進センターは、林野庁から計5億0134万余円の補助金の交付を受けて、平成12年度から16年度まで民間植林協力推進事業を実施している。
 この事業は、NGO等の民間による植林協力を推進し、地球温暖化防止を図るため、NGO等への支援、普及啓発、海外植林情報の構築・提供等を行うものである。
ア 個別のNGO等に対する提供について
 同センターは、16年度に海外植林等の活動を行っている複数のNGOに対し、希望があればCD-ROMによりデータを提供するとの打診を行ったが、当時、希望するNGOはなく、提供は行われなかった。
イ 公開について
 インターネット上でのデータベースの公開についてみると、事業最終年度である16年度にデータベースを構築する際に使用したソフトウェアがインターネット上での公開に適さないものであったことが判明したために、公開することができず、18年度に別のソフトウェアによりデータベースを再構築せざるを得なくなった。また、インターネット上の公開に際してデータ提供国の了解を得るまでに時間を要したこと、データの欠落部分があり、同センターから相手国カウンターパートに照会をし、データ追加作業等を実施したことなどのため、インターネット上で公開できたのは、事業終了から約3年後の19年2月となっていた。

〔5〕  事業を適切かつ効率的に実施していないもの

<事例37>

 文部科学省は、地域医療を推進するための国際教育協力の在り方に関する調査研究を行うため、平成18年度に国立大学法人東京大学に「拠点システム構築事業国際教育協力イニシアティブ」に係る調査研究を100万円で委託している。
 同大学は、委託費により19年3月30日に書籍等を購入していた。しかし、これらの書籍等は、調査報告書の作成が完了し事業実施期間が終了した後に購入されたものであり、本件委託事業の実施に必要なものとは認められないものであった。

<事例38>

 社団法人海外農業開発コンサルタンツ協会は、農林水産省から計1億2813万余円の補助金の交付を受けて、平成15年度から19年度までにプロジェクト事前調査事業を実施している。
 この事業の中で、同協会は、過去の同種事業で調査団が作成した報告書(昭和52年から平成19年までの30年間分)を電子ファイル化する作業を外注により計959万余円で実施している。これは、同協会が18年度まで、調査団から報告書の提出を受けるに当たり、紙媒体での提出のみを受けていたため、それを読み取って電子ファイル化するものである。
 しかし、パソコンが広く普及し、報告書をワープロソフト等により作成したり、電子ファイルによりデータベースを作成、保存したりすることが一般化した時点から、報告書の提出の際にファイルでも提出するよう求めていれば、上記のように改めて電子ファイル化する作業は大幅に軽減されるものであった。

(イ) 案件発掘・形成調査

a 実施状況

 外務省が実施する無償資金協力、JICAが実施する技術協力プロジェクト及び国際協力銀行が実施する有償資金協力は、いずれも、開発途上国から正式な援助要請を受けて、その要請書の内容を審査するなどした上で案件の採否が決定される。
 5省のうち文部科学省以外の4省は、これら無償資金協力等に結び付く案件を発掘・形成することを目的として案件発掘・形成調査を実施している。
 案件発掘・形成調査が案件に具体化されるまでには一定の期間を要することから、10年度から19年度までの案件発掘・形成調査の実施状況をみると別表48のとおりであり、厚生労働省2事業、農林水産省9事業、経済産業省4事業、国土交通省2事業、計17事業となっていた。これらの事業は、それぞれ複数の国に係る複数の案件についての調査を含むものである。

b 実施体制、調査団の構成

 案件発掘・形成調査は、すべて委託・補助等により実施されており、公益性があり中立的であるなどとして、所管の公益法人を実施主体としているものが多くなっていた。なお、経済産業省の4事業のうち2事業はそれぞれJICA及びジェトロ等に委託されているが、ジェトロは、現地調査の実施等をすべて公募によりコンサルタント会社等に再委託していた。また、JICAも、一部の事業については、コンサルタント会社等に再委託していた。
 委託・補助等を受けて事業を実施する各団体等は、調査の実施に当たり、自らの職員のほか、実施団体である公益法人の会員となっているなどのコンサルタント会社等の職員、大学の研究者等の専門家を臨時的に嘱託職員として委嘱するなどし調査を行っている。調査団の構成は、別表48のとおり、事業を実施する団体の職員(調査等を実施するための臨時的嘱託職員等を除く。)は9.4%にとどまるのに対し、コンサルタント会社等の職員が83.5%とその大宗を占めていた。また、このうちコンサルタント会社の職員については、1案件に複数のコンサルタント会社から参加していることは少なく、各案件ごとに特定のコンサルタント会社から参加している場合が多かった。

c 案件への具体化

 10年度から19年度までの10年間に実施された案件発掘・形成調査に係る案件が無償資金協力等の我が国の援助として具体化されているかについて、〔1〕 相手国からの正式な援助要請があった案件と、〔2〕 そのうち、更に交換公文の締結等がなされ正式な援助に結び付いた案件に分類して調査したところ別表49のとおりであり、正式な援助要請があったものは27.3%、そのうち正式な援助に結び付いたものは21.9%となっていた。
 これらのうち正式な援助に結び付いたものについて、どのような形態の援助に結び付いているかをみると別表50のとおりであり、無償資金協力、技術協力、有償資金協力と様々になっており、事業の目的によって特定の形態の援助に結び付いている事業もあれば、同じ事業の結果が多様な形態の援助に結び付いている事業もあった。
 正式な援助に結び付いたものの率が最も高いのは、経済産業省がJICAに委託し主に開発調査の案件の発掘を行っている海外開発計画調査事業であり、その率は97.2%となっていた。一方、正式な援助に結び付いたものがまだなかったり、低い率にとどまったりしている事業も見受けられた。
 ただし、案件発掘・形成調査を実施した後、当該案件について相手国から正式な援助要請がなされたり、正式な援助として具体化されたりするまでには、ある程度の期間を要し、また、無償資金協力、有償資金協力等事業の種類によってそれに要する期間も異なるため、各事業の結果の違いを単純に比較することはできない。また、これらのほかにも、調査結果の一部を取り込んで別の形での案件が形成されたり、我が国以外の援助実施機関による案件の形成に活かされたりしていることもあり得るので、それらの場合も相手国の開発に資するという意味で一定の効果は認め得るところである。
 案件発掘・形成調査は必ずしも案件に具体化することのみを目的とするわけではなく、また、調査結果を踏まえ、相手国が我が国に援助の要請を行うかどうかは相手国側の事情によるところも大きいが、各省においては、案件発掘・形成調査を実施する場合は、案件に具体化する割合の向上に引き続き努めることが望まれる。

カ その他の事業

 5省における技術協力事業としては、前記のアからオ以外にも、国際会議の開催、海外からの要人や視察団等の受入れ、国際機関への拠出等の事業も実施されている。また、技術協力に係るODA事業予算は各種事務経費にも使用されている。
 これらの中には、厚生労働省において、日本人が立候補した18年の世界保健機関(WHO)の事務局長選挙や国際保健分野の開発援助等に関する意見交換のための費用(422万余円)を政府開発援助庁費から支出しているものもあった。

(3) 援助の効果についての評価の状況

ア ODA事業の評価に関する規定等

 ODA大綱では、ODAの効果的実施のために必要な事項として、評価の充実が掲げられている。この中では、事前から中間、事後と一貫した評価及び政策、プログラム、プロジェクトを対象とした評価を実施すること、ODAの成果を測定・分析して、客観的に判断すべく、専門的知識を有する第三者による評価を充実させるとともに政府自身による政策評価を実施すること、また、評価結果をその後のODA政策の立案及び効率的・効果的な実施に反映させることがうたわれている。
 5省、独立行政法人等におけるODA事業の評価には、次のように様々なものがある。

(ア) 行政機関が行う政策の評価に関する法律に基づく評価

 「行政機関が行う政策の評価に関する法律」(平成13年法律第86号。以下「政策評価法」という。)においては、行政機関は、その所掌に係る政策について、適時にその政策効果を把握し、これを基礎として、必要性、効率性又は有効性の観点その他当該政策の特性に応じて必要な観点から自ら評価するとともに、その評価の結果を当該政策に適切に反映させなければならないとされている。そして、各行政機関の長は、3年以上5年以下の期間ごとに政策評価に関する基本計画(以下「政策評価基本計画」という。)を定め、その中で、事前評価の実施に関する事項や、計画期間内において事後評価の対象としようとする政策その他事後評価の実施に関する事項等を定めることとされている。そして、この事後評価の対象とする政策としては、当該行政機関がその任務を達成するために社会経済情勢等に応じて実現すべき主要な行政目的に係る政策とされており、行政機関の長は、1年ごとに、事後評価の実施に関する計画を定め、その中で、計画期間内において事後評価の対象としようとする政策等を定めることとされている。
 そして、政策評価法を受けて定められた「政策評価に関する標準的ガイドライン」(平成13年1月15日政策評価各府省連絡会議了承。以下「ガイドライン」という。)では、事業評価の実施に当たっては、既に評価に関する一定の取組がなされているODA事業については、既存の評価の取組を踏まえつつ、評価内容の充実、評価の透明性の向上など評価の取組の一層の改善・充実を図ることとされている。

(イ) 独立行政法人通則法に基づく評価

 独立行政法人等は、独立行政法人通則法(平成11年法律第103号。以下「通則法」という。国立大学法人法(平成15年法律第112号)又は日本私立学校振興・共済事業団法(平成9年法律第48号)により準用される場合を含む。以下同じ。)に基づき、3年以上5年以下の期間を対象として主務大臣から当該独立行政法人等に示される中期目標及び中期目標を達成するため当該独立行政法人等が作成し主務大臣の許可を受けた中期計画により業務を実施している。
 そして、独立行政法人等は、中期計画に基づいて実施する事業について、外部評価として、各省に置かれた独立行政法人評価委員会(以下「評価委員会」という。)による評価を受けている。
 さらに、その評価結果は総務省に置かれた政策評価・独立行政法人評価委員会による評価を受けることとなっている。

(ウ) ODA事業の評価

 上記のように5省については政策評価法、独立行政法人等については通則法に評価についての定めがあり、これらがODA事業についても適用されることになる。このように、原則として、ODA事業について法令上の特別な規定が設けられているわけではなく、ODA事業についても政策又は業務一般に係る規定に基づき評価が実施されることになる。
 なお、政策評価法では、一定の要件に該当するODAを実施することを目的とする政策を決定しようとするときは、事前評価を行わなければならないとされているが、この要件としては一定金額以上の無償資金協力又は有償資金協力であることなどとされているので、技術協力についてはこの規定は適用されない。
 さらに、各省、独立行政法人等においては、これらの法律に基づく評価以外にも、ODA事業について評価を実施している場合がある。

(エ) 公益法人等の団体における評価

 国、独立行政法人等から委託・補助等を受けて技術協力を実施している公益法人等の団体については、評価の実施について法令上の定めは設けられていない。

イ 評価の実施状況

 5省所管の技術協力に係る援助の効果について、各省等における17、18両年度の評価の実施状況等は別表51のとおりであり、各省、独立行政法人等及び受託者・補助団体等である団体がそれぞれどのような評価を実施しているかについてみると、次のような状況となっていた。

(ア) 5省

a 政策評価法に基づく評価の実施状況

(a) 評価の実施の有無

 国土交通省以外の4省は、技術協力事業全般を政策評価法に基づく評価の対象として選定し、評価を実施していた。
 国土交通省は、従来、一部を除き、技術協力事業を政策評価の対象として選定していなかったが、19年8月に改正した政策評価基本計画において、政策評価体系の見直しを行って、同省の主要な政策を網羅的に政策評価の対象とすることとし、新たに「国際協力、連携等を推進する」という事項により技術協力全般を政策評価の対象とすることになった。

(b) 評価の単位

 ガイドラインによれば、政策評価の対象としての政策は、一般的に次のように区分されている。
〔1〕  「政策(狭義)」:特定の行政課題に対応するための基本的な方針の実現を目的とする行政活動の大きなまとまり
〔2〕  「施策」:〔1〕 の「基本的な方針」に基づく具体的な方針の実現を目的とする行政活動のまとまりであり、〔1〕 を実現するための具体的な方策や対策ととらえられるもの
〔3〕  「事務事業」:〔2〕 の「具体的な方策や対策」を具体化するための個々の行政手段としての事務及び事業であり、行政活動の基礎的な単位となるもの
 そして、これらは、一般的に、相互に目的と手段の関係を保ちながら、全体として一つの政策体系を形成しているものととらえることができるとされている。
 そこで、5省が実施している技術協力についての政策評価について、評価の対象とされた政策を上記の「政策(狭義)」、「施策」、「事務事業」、「事務事業」の一部となる「個別事業」及びこれらのいずれにも該当しない「その他」の5区分に分類すると、別表52のとおりであり、「施策」を評価の対象としているものが最も多く、次いで、「個別事業」となっていた。
 このように、技術協力事業以外の事業等も含めた包括的な施策を単位として評価を行っており、その施策の一部として技術協力事業も含まれているという場合が最も多くなっている。
 これに対して、「事務事業」又は「個別事業」を対象として評価を実施しているものとしては、次のようなものが見受けられた。
〔1〕  文部科学省は、留学生に係る事業について、事業の規模が大きく、更に拡充が図られていることもあり、当該事業単独で、毎年、評価の対象としていた。
〔2〕  厚生労働省は、施策の目標について指標を設定し、定期的、継続的に測定するモニタリングを行っており、個別の技術協力事業もそのモニタリングの対象としていた。
〔3〕  農林水産省は、技術協力の事業ごとに評価を実施し、それを統合して政策分野全体としての評価としていた。
〔4〕  経済産業省は、技術協力事業が予算上の新規事項として実施される場合(一定金額以上のものに限る。)、当該技術協力事業を取り出して評価を実施していた。

(c) 評価の時期・段階

 評価の時期・段階としては、政策の実施前に行う「事前の評価」(以下「事前評価」という。)、政策の実施途上において行う「途中(中間)の評価」(以下「中間評価」という。)及び政策の一定期間実施後や実施終了後に行う「事後の評価」(以下「事後評価」という。)があり、それぞれ次のような意義があるとされている。
〔1〕  事前評価は、政策の採択や実施の可否を検討したり、複数の政策代替案の中から適切な政策を選択したりする上で有用な情報を提供できる。
〔2〕  中間評価は、政策の進ちょく状況や達成状況を把握することによって政策の的確・着実な実施の推進のための情報や社会経済情勢の変化を踏まえた改善・見直しのための判断情報を提供できる。
〔3〕  事後評価は、政策の効果に関し、実際の情報・データ等を用いて実証的に評価を行うことができ、政策の改善・見直しや新たな政策の企画立案及びそれに基づく実施に反映させるための情報を提供できる。
 また、このうち事後評価は、政策の実施の終了後に行う終了時評価と終了後ある程度の期間を経過した後に行う事後評価(狭義)とに更に区分することができ、政策の効果の発現等に一定の期間を要する場合は事後評価(狭義)が有用であると考えられる。
 5省における技術協力事業に係る政策評価の実施時期は、表21のとおりである。

表21
 5省における技術協力事業に係る政策評価の実施時期

  事前評価 中間評価 終了時評価 事後評価
(狭義)
文部科学省    
厚生労働省  
農林水産本省    
水産庁      
林野庁    
経済産業省    
国土交通省
(海上保安庁)
     

 事前評価については、文部科学省と経済産業省が実施している。文部科学省は、翌年度における新規・拡充事業のうち、社会的影響が大きいもの又は予算規模の大きいものを対象として事前評価を実施していて、技術協力としては、留学生に係る事業等を事前評価の対象としている。
 また、経済産業省は、一般会計又は特別会計予算をはじめ財政資金を使う施策全般について事前評価を行うとしており、技術協力を含めた施策の評価を実施している。そして、前記(b)のとおり、新規事項については、技術協力の事業ごとに事前評価を実施している。
 なお、厚生労働省、農林水産省及び国土交通省は、各省の政策評価基本計画の中で技術協力を事前評価の実施対象に含めていないとして、事前評価は実施していなかった。
 中間評価及び終了時評価については、厚生労働省、農林水産本省、林野庁及び国土交通省が実施していた。
 事後評価(狭義)については、文部科学省、厚生労働省、水産庁及び経済産業省が実施していた。このうち、例えば文部科学省は、前年度に取り組んだ政策を対象として事後評価を実施していた。また、経済産業省は、事前評価を実施した各施策につき3年から5年後に事後評価を実施していた。
 さらに、各段階での評価が行われた事業数でみると別表53のとおりであり、事前評価22事業、中間評価9事業、終了時評価48事業、事後評価(狭義)33事業となっており、終了時評価又は事後評価(狭義)の対象とされた事業が多く、中間評価の対象とされた事業は比較的少なくなっていた。

(d) 評価の観点等

 政策評価法では、評価の観点として、必要性、効率性及び有効性が例示されており、ガイドラインでは、このほか、公平性及び優先性が挙げられている。また、DACは、ODA事業に関する評価の原則として、「評価5項目」(妥当性、有効性、効率性、インパクト及び自立発展性)を示している。
 5省が実施している技術協力についての評価における評価の観点は別表54のとおりであり、多くの評価において、有効性、効率性、妥当性及びインパクトが評価の観点とされていた。一方、必要性や自立発展性を評価の観点としている割合は他の項目に比べて低く、特に自立発展性の観点からの評価を実施しているのは農林水産省のみであった。

(e) 評価の手法

 技術協力は、無償資金協力、有償資金協力等で大規模な産業基盤を整備するものなどとは異なり、人材育成等のいわゆるソフト面に関わるものが多いことから、効果を目に見える形で表わしにくいといった事情があり、評価の測定には困難な面がある。
 各省は、技術協力の効果を評価するため、研修生等の人数等客観的に把握できる指標のほか、技術指導の対象者等の事業関係者に対してアンケート調査を実施して評価を行うなどしている。特に、農林水産省(農林水産本省及び林野庁)は、アンケート調査を広く利用しており、各事業について技術指導の対象者等にアンケートを行うなどしている。また、一部の省は、評価手法の検討自体を外部に委託して実施するなどしている。
 前記のように政策評価は行政機関自らが行うものであり、評価の客観性、透明性を担保するためには、客観的な指標を設定して評価を行うことが有用であると考えられる。
 5省において客観性のある数値目標を設定して評価を行っていたのは、別表55のとおり、評価を実施した91事業のうち37事業となっていた。これを省別にみると、経済産業省では16事業、農林水産省では11事業、厚生労働省では9事業、文部科学省では1事業となっており、国土交通省では該当例はなかった。
 このうち、経済産業省は、事前評価で具体的な数値目標を設定した上、事後評価においてその達成度を具体的な数値によって判定するなど事前評価と事後評価とを連携させて客観的な目標により評価を実施するなどしていた。
 農林水産省(水産庁)は、技術協力事業そのものの評価ではないが、技術協力の実施により我が国漁業の安定的発展に資することを目的としていることから、事業から得られた結果として、上位目標である漁業協定締結数、管理対象魚種数等数値化された目標について、それがどの程度達成されたかを数値により評価するなどしていた。
 厚生労働省は、研修事業における研修生の数等を数値により評価するなどしていた。
 また、事業関係者にアンケート調査を行う場合に、5段階評価等の数値による評価の項目を設けているものが多く見受けられた。これは、回答者の主観的評価を定量化したものであるが、数値化することにより一定の客観性を持たせようとしているものとみることもできる。
 このような主観的評価を定量化した数値目標により評価を行っていたのは、別表55のとおりであり、評価を実施した91事業のうち56事業となっていた。これを省別にみると、農林水産省では46事業、経済産業省では7事業、厚生労働省では2事業、文部科学省では1事業となっており、国土交通省では該当例はなかった。
 農林水産省においてこのような目標により評価を行っている事業が多いのは、前記のとおり、農林水産本省及び林野庁がアンケート調査を広く活用しており、その中でこのような数値化した評価項目を設けているためである。

b 政策評価法に基づく評価以外の評価の実施状況

(a) 評価の実施の有無

 5省のうち、文部科学省及び厚生労働省は政策評価法に基づく評価以外の評価を実施していたが、他の3省は実施していなかった。
 文部科学省は、国際教育交流の推進等の事業について、事業の質を高めるためには、実施案件ごとの事業評価を行うことが適当であるとの外部有識者の意見を受けて、政策評価以外の評価を実施していた。厚生労働省は、国立高度専門医療センター特別会計及び労働保険特別会計の予算を財源の全部又は一部として実施している技術協力事業について、事業の見直しなどのため、政策評価以外の評価を実施していた。

(b) 評価の単位及び内部・外部評価等

 文部科学省、厚生労働省ともに、個別事業ごとに評価を実施していた。そして、文部科学省は、外部有識者、教育協力に関係する機関の代表等を委員とする評価委員会を構成し、外部評価として評価を実施しており、厚生労働省は内部評価を実施するとともに、外部有識者を委員とする外部評価委員会を開催して外部評価も実施していた。また、文部科学省は評価の基準を有していたが、厚生労働省は評価の基準を有していなかった。

(イ) 独立行政法人等(通則法に基づく評価)

 ODA運営費交付金を財源として技術協力を実施している学生支援機構及びジェトロは、通則法に基づき、評価委員会等による外部評価を受けている。
 評価の単位については、いずれも通則法に基づき、当該事業年度における業務の実績の全体について総合的に評定をして行われている。評価の観点についてみると、学生支援機構は必要性、妥当性、有効性、効率性の観点からの評価を受けており、ジェトロは中期計画・年度計画で定められた指標及び年度内業績目標の達成度からの観点から評価を受けていた。
 評価の手法については、学生支援機構は一部について数値目標を設定して評価を受けており、ジェトロはほとんどの事業について数値目標を設定して評価を受けていた。
 また、前記のとおり、独立行政法人等においては、技術協力を実施するに当たり、ODA運営費交付金を財源として実施する場合のほか、国又は他の独立行政法人から委託・補助等を受けて実施する場合があり、これらについても、それが当該法人の中期計画に取り込まれている場合には、通則法に基づく評価の対象とされることとなる。
 独立行政法人が実施する評価のうち、通則法に基づく評価以外のものについては、次の(ウ)において、他の団体とともに取り上げる。

(ウ) 独立行政法人(通則法に基づく評価以外の評価)及び公益法人等の団体

a 評価の実施状況

 国又は独立行政法人から委託・補助等を受けて技術協力を実施している独立行政法人及び公益法人等の団体では、独立行政法人において通則法の適用がある場合の評価委員会等による評価を除き、評価の実施を義務付ける法令がないことなどから、団体独自の評価を実施していないものも多いが、別表56のとおり、13団体において独自の評価が実施されていた。これを独立行政法人と公益法人等の団体別にみると、次のとおりである。
(a) 独立行政法人
 17、18両年度に5省から委託・補助等を受けている独立行政法人等のうち、国立大学法人及び私学事業団を除く11独立行政法人についてみると、独立行政法人緑資源機構(以下「緑資源機構」という。20年4月に廃止)、NEDO、ジェトロ、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(Japan Oil,Gas and Metals National Corporation。以下「JOGMEC」という。)及びJICAの5法人が独自に評価を実施していた。
(b) 公益法人等
 公益法人等は、民間団体であり、評価の実施を義務付ける法令等は全く無い。このため、評価を実施していない団体が多いが、17、18両年度に5省から委託・補助等を受けている公益法人等の団体のうち財団法人ユネスコ・アジア文化センター、財団法人日本体育協会、中央職業能力開発協会、漁業財団、社団法人国際農業者交流協会、財団法人海外技術者研修協会、財団法人海外貿易開発協会及び社団法人海外運輸協力協会の8団体は、自主的に事業別の評価を実施していた。

b 評価の時期・段階

 評価を実施している場合の評価の時期・段階は、別表57のとおりであり、終了時評価、事後評価(狭義)又は事前評価を実施している団体が多く、中間評価を実施している団体は比較的少なかった。
 なお、事後評価(狭義)を実施している事業についてその実施時期をみると、事業終了後平均11.0か月後となっていた。

c 外部評価の活用

 団体独自の評価を実施している13団体のうち、外部評価を活用しているものは、別表58のとおりであり、団体数で76.9%となっていた。
 また、外部評価を活用している団体については、終了時評価で外部評価を実施している団体が多く、次いで事後評価(狭義)となっていた。

d 評価の観点等

 評価の観点等については、別表59のとおり、DACの評価5項目等を準用して評価を実施しているものが多くなっており、団体間で特段の差異は見受けられなかった。

e 評価の手法

 客観性のある数値目標を設定して評価を実施していたのは、13団体のうち社団法人海外運輸協力協会のみであった。アンケート調査等において数値化した評価を実施していたのも緑資源機構及び財団法人海外技術者研修協会の2団体にとどまっていた。

ウ 評価結果の公開状況

 各省が政策評価法に基づいて実施した評価及び独立行政法人が通則法に基づいて受けた評価委員会等による評価の結果については、それぞれの法律に基づき公開されていた。
 また、これらの一部についてはODA白書等でも紹介されているほか、外務省がとりまとめている経済協力評価報告書においても、14年度以降掲載されている。
 一方、文部科学省及び厚生労働省が実施している政策評価法に基づく評価以外の評価については、厚生労働省は、内部評価の結果については公開していたが、外部評価の結果については公開していなかった。また、文部科学省は、評価(外部評価)の結果を公開していなかった。
 また、委託・補助等を受けて技術協力を実施している独立行政法人及び公益法人等の団体が実施した評価(通則法に基づく評価以外の評価)のうち内部評価については、別表60のとおり、団体数でみると公開していないものが69.2%となっていた。公開されていないものの中には、例えば、JOGMECが、資源開発に関する一部の調査について、調査した事実が明らかになるだけで資源が存在する可能性がある地域が明らかになるので公開しないとしているように、公開することにより支障を来すおそれがあるとしているもののほか、内部での活用を目的としたものであるとしているものなどが見受けられた。
 なお、漁業財団は、外部評価については以前から公開していたが、内部評価については我が国と相手国との漁業協力関係等を評価項目の一部としており、評価書の中で我が国と相手国政府との漁業交渉等に関する詳細が記述されているため公開すると支障を来すおそれがあるとして、従来、評価結果を公開していなかった。しかし、情報公開を促進するため、記述を工夫するなどして、19年度以降に実施した内部評価について20年7月から公開することとした。

エ JICAにおける評価

 JICAは、政策評価法や通則法の制定前からODA事業の評価について取り組んできている。そこで、JICAにおける評価の概況を参考に示すと次のとおりである。

a 評価の実施状況

 JICAは、JICAにおける事業評価の実施方針と実施方法とを取りまとめたものとして「JICA事業評価ガイドライン」を策定しており、これに基づいて評価を実施している。そして、「プログラム・レベル」の評価として、特定の開発課題や共通の目標に関連した複数のプロジェクトを総合的に評価したり、特定の協力形態の事業を横断的に取り上げて評価対象としたりしている。また、「プロジェクト・レベル」の評価として、個別のプロジェクトごとに、事前評価、中間評価(協力期間が3年以上の案件に限る。)、終了時評価、事後評価と継続的に評価を実施している。
 ただし、案件の規模が一定金額(17年6月以前は1億円、17年7月以降は2億円)未満のもの(以下「小規模案件」という。)については、簡易型の評価によることとしており、事後評価(狭義)は基本的に実施しないほか、事前評価、中間評価及び終了時評価は簡易な手法を適用するなどしている。
 また、JICAは、各省、他の独立行政法人等から受託して実施している事業についても、自らの事業と同様に評価を実施している。
 なお、「政策(狭義)」レベルの評価は外務省によって実施されている。

b 評価の観点等

 JICAは、JICA事業評価ガイドラインに基づき、DACの評価5項目を評価の基準としている。ただし、小規模案件の評価について、事前評価においては、妥当性の観点からの評価のみを行うこととしており、また中間評価及び終了時評価においては、DACの評価5項目のうち妥当性、有効性及び効率性の観点から最低限の評価を行うものとし、自立発展性及びインパクトは必要に応じて評価するとしている。

c 評価結果の公開

 JICAは、評価結果を原則としてホームページで公開しているが、小規模案件については公開していない。

d 5省の場合との対比

 これらに対し、5省においては、JICAのようなプロジェクト単位での評価や継続的な評価を実施しているものは必ずしも多くない。このことについて、5省は、〔1〕 各省の実施する技術協力の事業は、JICAが実施するものに比べて金額の面でも事業期間の面でも規模が小さいものが多いこと、〔2〕 各省においては評価の実施に充てることのできる人的・財政的な資源に限りがあることなどによるとしている。
 実際、JICAも、前記のとおり、小規模案件については簡易型の評価によるとしていたり、協力期間が3年未満の案件については中間評価は実施しないとしたりしているところである。
 このように、5省の場合とJICAの場合とで事情が異なるところはあるが、JICAはODA事業の評価について以前からの取組実績を有していることから、各省等が技術協力の評価を実施するに当たっては、JICAの知見等も活用して充実したものとなるよう努めることが望まれる。

オ 実施した個々の評価の内容

(ア) 評価結果について誤解を生じさせるおそれがあるもの

 5省、独立行政法人等が実施した個々の評価の内容について検査したところ、次のとおり、評価指標としたアンケート調査における選択肢等が前年度と変更されているのに、そのことを明確に説明しておらず、評価結果について誤解を生じさせるおそれがあると認められる事態が見受けられた。

<事例39>

 厚生労働省は、平成19年に行われた雇用保険制度の見直しによる雇用保険法(昭和49年法律第116号)の改正の前に、雇用保険三事業(雇用安定事業、能力開発事業及び雇用福祉事業。19年度以降は雇用福祉事業が廃止され二事業。)について、目標管理のためのPDCAサイクル(注7) を構築するとして、16年度以降、評価を実施している。そして、設定した目標が未達成となった場合には、評価は原則としてA、A’、B、C、Dの5段階のうちのC又はDとなり、事業の見直し又は廃止が必要とされる。
 17、18両年度に実施した雇用保険三事業の評価における技能実習制度推進事業費の評価について、同省のホームページ上で公開されている評価書では、目標に関する指標はそれぞれ次のように記載されていた(18年度については他の指標も併用)。
〔1〕 17年度
 「技能実習生から実習終了時に、技能実習目標を十分達成できた旨の評価を受ける割合80%以上」
〔2〕 18年度
 「技能実習生から、実習終了時に技能実習目標を「十分に達成できた」との評価を受ける割合80%以上」(他に技能実習修了認定を受けた技能実習生の割合も指標として追加した。)
 そして、これらの目標に対する目標達成度として17年度は65%で「未達成」としていたが、18年度は96.5%で「達成」としていた。そして、18年度の総合評価は上位2番目の「A’」とされている。
 このように両年度における目標に関する指標の記述は全く同一ではないが、その達成度について18年度は17年度から大きな改善が見られたように思われる記載になっている。
 しかし、これらの目標達成度の実績の基礎とされた技能実習生に対するアンケートの設問、選択肢、回答結果及びそれと評価書における記載との関係について調査したところ、表22のとおりとなっていた。

表22
 技能実習生アンケートの内容、結果等

年度 設問 選択肢 回答(%) 評価実績に記載された割合(%)
平成17 技能実習の目標達成について 十分達成できた 64.6 65 (四捨五入)
ある程度達成できた 32.0
達成できなかった 0.4
(無回答) 3.0
18 技能実習での技能習得に関する目標達成について 目標は最初の予定以上に達成できた 55.1 96.5
目標は十分に達成できた 41.4
目標は達成することが出来なかった 2.0
(無回答) 1.5

 このように、両年度とも回答の選択肢として三つの選択肢を提示しているが、そのうち17年度の「十分達成できた」は最上位の回答であるのに対し、18年度の「目標は十分に達成できた」は中位の回答とされていた。また、17年度の中位の回答である「ある程度達成できた」に相当する選択肢は、18年度には存在しなかった。そして、17年度の評価における目標達成度合は最上位の評価を得た率であるのに対し、18年度の評価における目標の達成度合は最上位の評価を得た割合と中位の評価を得た割合を加算したものであった。
 このように、評価書における両年度の目標は微妙に異なっているが、国民一般からみてその違いの趣旨を読み取るのは困難であり、また、アンケートにおける選択肢の変更は知り得ないと考えられる。それにもかかわらず、評価書においては、その点の説明や両年度間での比較はできないことなどについての記載はなく、国民一般の誤解を生じさせるおそれのあるものとなっていると認められる。

 PDCAサイクル  計画(Plan)を実行(Do)し、評価(Check)して改善(Act)に結び付け、その結果を次の計画に活かすプロセスのこと

(イ) 特別会計で実施される技術協力についての評価

 前記のとおり、5省所管の技術協力のうち、文部科学省(15年度のみ)及び厚生労働省には、特別会計の予算を財源として事業を行っているものがある(別表61参照)
 このように、特別会計予算を財源として事業を実施する場合、その事業は当該特別会計の設置目的に合致したものであることが必要である。
 例えば、厚生労働省は、労働保険特別会計雇用勘定により雇用保険二事業(18年度以前は三事業)を行っており、これらは事業主の納付した保険料を財源にしている。これは、雇用上の諸問題を解決することが事業主にも一定の利益をもたらすと考えられることなどによるとされている。
 このことから、同勘定により実施される技術協力も雇用保険二事業の一つと位置付けられており、事業主の納付した保険料を財源として実施されることから、事業実施に当たっては、財源を負担する事業主へのひ益についても留意することが必要であり、したがって、当該事業の評価を行うに当たっても、開発途上国の経済・社会の発展等のODAとして達成するべき目標に加えて、事業主へのひ益など特別会計設置の趣旨・目的への適合性についても評価することが必要となる。
 同勘定により実施されている技術協力の評価について、次のとおり、特別会計の設置目的の面からの評価についてより分かりやすい評価指標とすることが必要であると認められる事態が見受けられた。

<事例40>

 厚生労働省は、平成15年度から19年度までの毎年度、国際労働関係交流事業(19年度からは「国際労働関係事業」に名称変更)として、財団法人国際労働財団及び財団法人日本経団連国際協力センターに計25億5702万余円で委託して、各国の労働組合関係者等及び使用者団体関係者等の我が国への招へい、現地セミナーの開催等を実施している。
 この事業は労働保険特別会計雇用勘定の予算を財源として実施されており、「各国の国内労働関係を安定させることにより、各国企業の事業の安定による我が国事業者との取引の安定や我が国事業者との経済連携のための人的基礎の構築を図り、ひいては我が国の雇用の安定に資するもの」(同省による「平成18年度の雇用保険三事業による事業の評価について」から抜粋)として雇用安定事業と位置付けられている(なお、18年度以前は雇用福祉事業と位置付けられていた。)。
 厚生労働省は、雇用保険二事業に関する評価を実施しており、事業主団体の参画する「雇用保険二事業に関する懇談会」において当該評価指標や事業の精査、見直しなどが行われるとしている。そして、同省は、本事業については、直接的に評価・検証するための評価指標を設定することは困難な面もあるとして、19年度に「本事業により学んだ日本の労働法制及び労働慣行等の雇用安定政策について、本事業の参加者が所属する労働組合及び企業において実際に活用する割合が80%以上」という評価指標を設定し、この評価結果をもって特別会計の雇用安定事業の目的である我が国雇用の安定という達成度の評価としている。
 しかし、本件指標は、ODAとして達成するべき目標についての評価としての意義はあると考えられるが、我が国の雇用の安定のためにどのように寄与しているかについてはより分かりやすい評価指標とすることが必要であると認められる。