要請を受諾した年月日 | 平成21年6月30日 |
検査の対象 | 外務省 |
検査の内容 | 在外公館に係る会計経理についての検査要請事項 |
報告を行った年月日 | 平成22年10月6日 |
会計検査院は、平成21年6月29日、参議院から、国会法第105条の規定に基づき下記事項について会計検査を行いその結果を報告することを求める要請を受けた。これに対し同月30日検査官会議において、会計検査院法第30条の3の規定により検査を実施してその結果を報告することを決定した。
一、 会計検査及びその結果の報告を求める事項 | |
(一) 検査の対象 | |
外務省 | |
(二) 検査の内容 | |
在外公館に係る会計経理に関する次の各事項 | |
〔1〕 会計事務の体制の状況 〔2〕 資金の受入、保管等の状況 〔3〕 収入及び支出に係る会計処理の状況 〔4〕 施設及び物品の管理等の状況 〔5〕 監査の実施状況 |
ア 在外公館の所掌事務及び設置数
外務省は、外務省設置法(平成11年法律第94号)に基づき、外国において同省の所掌事務を行うため、在外公館を設置している。在外公館には、〔1〕 大使館(140公館)、〔2〕 総領事館(64公館)及び〔3〕 政府代表部(7公館)計211公館がある(21年度末現在)。
イ 在外公館の組織及び職員等
(ア) 在外公館の組織
在外公館の組織は、通常、政務班、経済班、領事・査証班、広報文化班、官房班等に分かれている。これらの班のうち、官房班は、会計(庶務を含む。)及び通信を担当することとしており、会計担当者及び通信担当者が互いに正副の担当者になってそれぞれの事務を兼務することにしている。この官房班による事務の体制は、比較的規模の小さな在外公館で採用されている。一方、比較的規模の大きな在外公館の多くでは、会計班及び通信班としてそれぞれの班が独立して事務を行っている。
(イ) 在外公館の職員等
在外公館には、外務省に所属する国家公務員である「外務公務員」のほか、赴任する国の政治、経済、文化等に関する調査等に従事する「専門調査員」、公務出張者、要人訪問等に関する便宜供与等を行うために派遣された「派遣員」(以下、「外務公務員」、「専門調査員」及び「派遣員」を合わせて「職員」という。)、在外公館が採用した「現地職員」、在外公館の長(以下「館長」という。)が雇用するなどした「公邸料理人」がいる。
ア 検査の観点及び着眼点
本院は、在外公館に係る会計経理に関する各事項について、正確性、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、次の着眼点により検査を実施した。
(ア) 会計事務の体制の状況
会計事務の体制は適正かつ適切なものとなっていて有効に機能しているか、特に、平成15年度決算検査報告に掲記した「在外公館における出納事務について、内部統制等を十分機能させることなどにより、その適切及び適正な執行を図るよう是正改善の処置を要求したもの」 に対して執られた是正改善の処置は徹底されているか。
(イ) 資金の受入、保管等の状況
前渡資金等の資金の受入れや保管等は適正かつ経済的に行われているか、特に、資金の外国送金は適時適切に行われているか、会計法令に定められた帳簿や金庫の検査は適正に行われているか。
(ウ) 収入及び支出に係る会計処理の状況
収入に係る会計処理は適正に行われているか、特に、旅券、査証及び証明書(以下、これらを合わせて「旅券等」という。)の発給等に係る手数料(以下「領事手数料」という。)の収納事務は適正に行われているか、支出に係る会計処理は適正かつ経済的に行われているか。
(エ) 施設及び物品の管理等の状況
施設は適正かつ経済的に管理されているか、物品の利用、保管等は適切か、特に、利用していない施設の処分及び物品の管理は適切に行われているか。
(オ) 監査の実施状況
在外公館の監査は計画的かつ効率的に行われて実質的な効果を上げているか、特に、外務公務員法(昭和27年法律第41号)で定められた査察として実施されている監査は適切に機能しているか。
イ 検査の対象及び方法
本院は、外務本省並びに在インド日本国大使館等29大使館、在チェンナイ日本国総領事館等15総領事館及び国際連合日本政府代表部等7代表部の計51公館を対象として検査を実施した。検査の実施に当たっては、在庁して外務省から提出された書類による書面検査を行うとともに、外務本省において、各在外公館の会計事務の状況について資料を基に説明を受け、また、上記の各在外公館において、調書を徴するとともに個別の会計事務について説明を受けるなどして、合計530人日を要して、会計実地検査を行った。
なお、「在〇〇日本国大使館」については、以下「〇〇大使館」という。
ア 会計機関の事務分掌
国の会計事務は、財政法(昭和22年法律第34号)、会計法(昭和22年法律第35号)等の会計法令により、適正な執行が担保される仕組みとなっている。会計法令は、歳入徴収官、契約担当官等の会計機関を設けることを定め、これにより国の会計に係る事務・事業を遂行する際の責任の明確化を図ったり、職務の分担による相互牽(けん)制の機能を持たせたり、各種帳簿の作成を義務付けたりしており、一連の会計事務の最終段階では、計算証明規則(昭和27年会計検査院規則第3号)に基づき、計算書、証拠書類等(以下、これらを合わせて「計算証明書類」という。)を本院に提出することとしている。
在外公館の会計事務は、我が国とは言語、通貨、法制度、慣習等が異なる環境の中で、会計法令に基づき適正かつ適切に行うことが求められている。そして、館長が歳入徴収の職務と現金出納の職務を特例的に兼ねることができるとされていることのほか、前渡資金による支払が行われていることなどの特色がある。
館長は、在外公館の事務を統括する責任者として、会計経理に対する指導・監督を行うこととされている一方で、現状では、官職で指定された歳入徴収官、契約担当官等の会計機関等の事務が集中している状況である。
イ 会計担当者の事務分掌等
館長等の会計機関等の事務を補助する会計担当者は、広範囲の会計事務を行っているほか、職員等の福利厚生・人事に関する事務、現地職員の労務管理に関する事務等の事務も行っている。
そして、今回検査した51公館では、33公館で官房班による事務の体制が、18公館で会計班による事務の体制がとられ、1公館を除きいずれも2人から4人でこれらの事務を行っていた。
ウ 会計機関に指定された職員等の研修受講実績
館長等に対する会計に係る正規の研修は1時間から3時間程度しか行われておらず、その受講率も高いものではなかった。他方、会計担当者が在外公館に赴任する際に必要な研修については、赴任した会計担当者の全員が受講していた。
そして、研修の受講実績が十分かどうかを判断するためには、個人ごとの受講履歴が一元的に管理されている必要があるが、そのような管理は行われていなかった。
エ 計算証明書類の提出の遅滞について
在外公館の計算証明書類の提出については、在外公館と外務本省との連絡調整、書類のやり取りなどに一定の日数を要することなどから、提出期限を延長する特例が認められているが、21年度分については、提出期限経過後3か月以上遅滞したものがある在外公館が、歳入徴収額計算書で1公館、前渡資金出納計算書で10公館あった。
オ 会計事務の実施に係る支援体制の状況
外務省は、在外公館の会計事務を支援するため、特定の拠点となる在外公館に会計担当者として豊富な知識と経験を有する者を配置して、一定数の他の在外公館(6公館から14公館)の会計担当者に指導、助言等を行う会計広域担当官制度を設けている。会計広域担当官等が出張して指導、助言等を行うことは、当該在外公館における会計経理の過誤や不正行為の防止等に効果があると考えられるが、検査した在外公館で、出張による指導、助言等の対象となる33公館中20、21両年度で18公館(54.5%)がこれを受けていなかった。
また、21年8月に運用を開始した新しい物品管理システムは、重要物品及び美術品を除き、物品のデータ入力作業が30公館で完了していなかった。
ア 在外公館の収入及び支出の概要等
(ア) 在外公館の収入
在外公館の収入には、領事手数料、返納金、不用物品売払収入等がある。このうち最も多いものは、領事手数料である。
(イ) 在外公館の支出
在外公館の支出には、在外公館の事務運営等に必要な経費等がある。これらの経費には前渡資金や報償費として在外公館に交付されるものがある。前渡資金は、在外公館が所在国において各種経費の支払を行うための資金であり、報償費は、情報収集及び諸外国との外交交渉ないし外交関係を有利に展開するために使用する資金である。
(ウ) 資金の交付、受入れ及び保管
外務省は、収入金のうちの領事手数料については、収入官吏が、収納した領事手数料をいったん手許の金庫に保管しておき、一定額に達したときなどに、在外公館が開設した収入金を取り扱う銀行口座へ入金することとしている。
前渡資金については、在外公館が開設した前渡資金を取り扱う銀行口座(以下「前渡資金口座」という。)に日本銀行が外国送金することにより交付され、在外公館は、交付された前渡資金を前渡資金口座で保管するとともに、必要に応じて手許に現金で保管することとしている。
報償費については、外務本省の官署支出官から取扱責任者(館長)に対して交付することとしている。報償費は、報償費を取り扱う銀行口座へ外国送金され、取扱責任者がこの口座で保管している。
イ 資金の受入れ等の状況
外国送金に係る送金手数料は、送金手続を行う日本銀行が負担しており、その額はおおむね送金額の多寡にかかわらず1件当たり約2,400円である。
前渡資金等の外国送金には、四半期に一度行う定期配賦のほか、在外公館からの申請(以下「りん請」という。)を受けて行う臨時配賦がある。臨時配賦の中には1件当たりの送金額が1万円以下の少額のものが、20年度539件、21年度647件あった。
ウ 資金の保管等の状況
(ア) 公金と私金について
出納官吏及び出納員は、出納官吏事務規程(昭和22年大蔵省令第95号)により、その取扱いに係る現金を私金と混同してはならないとされている。これは、公金と私金が混同すると、公金として管理すべき現金の範囲が明確にならず帳簿金庫検査の際に現金の残高確認が行えなくなるなど、公金の適正な管理に支障を来すおそれがあるためである。
しかし、領事手数料に係る釣銭を私金で用意して、一時的ではあるものの私金と公金を混同している在外公館が4公館あった。また、携帯電話料金の私費負担分について、公金負担分と合わせて支払う必要があるとして、料金が決済されるまでの間、前渡資金口座に私金が混同している在外公館が22公館あった。
(イ) 帳簿金庫検査について
予算決算及び会計令(昭和22年勅令第165号。以下「予決令」という。)により、検査員は、毎年3月31日及び出納官吏の交替時に帳簿金庫検査を実施することとされている。この帳簿金庫検査は、出納官吏の保管現金の状況を実地に確認するとともに、出納保管が適正に行われているか調査することなどを目的とするものである。しかし、帳簿金庫検査において検査員自らが手許保管現金を確認していなかった在外公館が2公館あった。
ア 収入に係る会計処理の状況
在外公館の収入は、領事手数料が多くを占めている。外務省は、在外公館が領事手数料の出納保管事務を行うに当たり、会計担当者を出納員に任命し、領事業務に関する事務処理を行う領事担当者を出納員補助者に指名している。領事担当者は、領事手数料を収納すると、毎日これを取りまとめて出納員である会計担当者に引き渡すこととしている。会計担当者は、当該領事手数料を保管するとともに収入官吏及び歳入徴収官に報告することとしている。また、会計担当者は、領事手数料を収納する際に使用する領収証(以下「収入金領収証」という。)の冊子を管理して、必要の都度、使用済みの冊子と引換えに領事担当者に引き渡すこととしている。そして、冊子を引き渡す際に、収入金領収証の頁ごとに各会計年度の開始日を起点とする一連番号を付することとしている。しかし、会計担当者が、受払簿を作成していなかったり(12公館)、収入金領収証を領事担当者に引き渡す際に一連番号を正しく付するなどしていなかったり(4公館)している在外公館があった。また、パラグアイ大使館において、これらが適正に行われていなかったことなどから、現地職員が旅券等の交付を受けた申請者から受領した領事手数料(164万余円)を領得するという事態が発生した(前掲不当事項 参照)。
イ 支出に係る会計処理の状況
各在外公館は、その業務を遂行するために多くの契約を締結して、外務本省から交付された前渡資金等により支払を行っている。検査した51公館が20年度及び21年4月から12月までに締結した契約は計913件(予定価格が200万円以上のもの)で、支払額は計190億2978万余円(同)となっている。また、契約方式については、検査した51公館は、すべての契約を随意契約により締結していた。
(ア) 随意契約の実施、契約の履行確認、支払等の状況
随意契約の実施に当たり、予定価格を定めていなかったり、契約の履行確認、支払等に当たり検査調書の作成を行っていなかったり、翌年度に納入されているのに現年度予算から支払を行ったりしているなど、会計法令等に則した処理が行われていない事態があった。
(イ) 契約の実施等について
a 複写機のリース契約の期間満了に伴うリース替えのりん請に当たり、購入する場合の見積書の外務本省への提出を失念していたり、外務本省も購入する場合の見書を提出させて購入による調達について検討することを積極的に行わなかったりなどしたため、2公館で割高なリース契約を締結していた(割高になっていると認められる額計81万余円)。
b 駐車場の借上げに当たり、4公館において、職員の中に自動車を所有していない者や自動車を所有していても通勤に利用していない者がいるのに、そのことを考慮せずに不要な駐車場の借上契約を継続していたり、義務付けられている外務本省へのりん請を行わないまま、現地職員に長期間にわたり駐車場を使用させたりしていた(借上げの必要がなかったと認められる駐車場の料金計610万余円)
c 3公館において、年度末に、不要不急と認められる事務用品、酒類等を多量に購入していた(購入費計300万余円)。
d ロシア大使館は、大使公邸の電話契約について、固定電話の使用状況に応じた適切なものとするよう見直していなかったことなどのため、通話実績に比べて著しく高額な料金を支払っていた(19年度から21年度までに節減できた電話料金計1086万余円。前掲本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項 参照)。
ウ 会食の実施状況等
外務省は、在外公館の職員等が、公務を遂行する上で必要不可欠な会食を行う場合は、国費により会食費を負担している。検査した51公館が20年度に行った会食は、計3,603件、3億4701万余円であった。これらの会食について、一部に、会食決裁書に所要見込額の記載がなかったもの及び会食決裁書の所要見込額を超過していたものがあった。
エ 前渡資金の使用残額の処理について
検査した51公館の20年度の前渡資金の使用残額は、6億5448万余円であった。在外公館は、在外公館会計規程(昭和48年外務省訓令第7号)により、前渡資金の残額を不用額として翌年度の第1四半期の歳入とする手続をとることとされている。しかし、51公館はすべて第2四半期以降に歳入とする手続をとっており、翌年度の第3四半期以降に国庫納付するための日本銀行への残額の払込みを行っていた。
ア 施設
(ア) 施設の利用状況等
在外公館の施設のうち、事務所の会議室及び多目的ホール並びに公邸の食堂、ゲストルーム及びプールの利用率が低くなっている在外公館が多く、中にはプールとしての利用が全く見込めないとして防火水槽として利用しているものがあった。
(イ) ドイツ大使館等におけるホテルの借上げについて
ドイツ大使館は、ボンに所在している省庁等との業務を遂行するため、20年10月末まで同市内のホテルの2室を執務室として借り上げていた。また、イスラエル大使館も、職員がエルサレムに用務で出かける際の執務室として、同市内のホテルの1室を同年10月まで借り上げていた。しかし、これらは以前から利用が低調であった。
(ウ) ロシア大使館の旧事務所の借上げについて
ロシア大使館は、ロシア共和国連邦外務省附属外交団世話総局(以下「ロシア当局」という。)から、利用していない旧事務所の建物を2年間にわたって賃借していたが、これはロシア当局との交渉が難航したため賃借を続けざるを得なかったものと認められる。
現在、同大使館は、旧事務所の一部とこれに隣接する大使公邸だけを賃借しているが、契約上賃借している土地の範囲が明確にされておらず、塀等による物理的な区分けもされていない。また、同大使館は、現在ロシア当局が管理している旧事務所の光熱水費を公邸と一体のものとして支払っている。
(エ) 国有財産等の処分について
在外公館の施設に関しては、51公館以外の在外公館も含めてその管理する国有財産等の利用、処分等の状況について検査を行い、22年10月6日に会計検査院法第36条の規定により、「在外公館が管理する国有財産等の処分について」として意見を表示した(前掲意見を表示し又は処置を要求した事項 参照)。
イ 物品
(ア) 一般物品の管理状況
外務本省が購入して在外公館に送った物品や在外公館が購入した物品(計18個、3,060,562円)を物品管理簿に記録していない在外公館が9公館あった。
(イ) 美術品の管理状況
検査した51公館は、21年度末現在、計2,060点(台帳価格計 1,132,106,742円)の美術品を保有しており、外務省が定めた定量基準を241点上回っていた。そして、これらの美術品のうち、公邸等に掲示されず倉庫等に保管されていた美術品が159点(台帳価格計 20,206,000円)あった。
(ウ) 酒類の管理について
検査した51公館は、公邸等で開催する会食等に使用するワイン等の酒類を21年度末現在において年間の払出本数の約2.0倍(計 53,167本)保有しており、中には年間の払出本数の5倍以上の残高を保有している在外公館が3公館(計 16,770本)あった。また、会食用の酒類等をワインカーブで保管していたものの、使用できない状態になっていたとして廃棄処分するなどしていた在外公館が4公館(計 1,044本)あった。
(エ) 贈呈品の管理について
会計実地検査時点で取得から1年以上が経過した贈呈品(計 2,212個、1715万余円)を払い出すことなく保有していた在外公館が39公館あった。これらの贈呈品の中にはフィルム式カメラのように旧式化していて贈呈に適さないものもあった。
(オ) 消耗品等の管理について
消耗品について必要以上の数量を保有していた在外公館が1公館、ガソリン引換券等の金券類について受払の管理等を適切に行っていなかった在外公館が7公館あった。
(カ) 物品の使用等について
外務省は、本省庁舎及び20公館に危機管理用テレビ会議システムを設置しているが、検査した51公館のうち同システムを設置している15公館の20、21両年度の使用は、危機管理目的での使用実績はなく、危機管理目的以外でも低調であった。
また、やむを得ない場合を除き私用が禁止されている公用携帯電話の貸出しを受けた職員等が、私用電話料金を自己負担していたものの、やむを得ない場合ではないのに私用で使用していた割合が携帯電話料金の20%以上を占めている在外公館が4公館あった。
在外公館に係る会計経理に関する内部監査は、査察使による査察の一環として行われている。外務省組織令(平成12年政令第249号)によると、外務省大臣官房会計課が外務省の所掌に係る会計の監査に関する事務を行うこととされているが、実際には、会計課は、外務本省の各部局に対する会計監査を行っているのみで、在外公館に対する会計監査は、査察使が行っている。
ア 査察の目的
査察使による査察は、会計経理を含め在外公館の事務全般について行われている。
イ 実施体制
査察使には、主として、待命(在外公館での大使としての勤務を免ぜられた後、新たに在外公館に勤務することとなるまでの間)の大使(以下、査察使に任命された待命の大使を「査察担当大使」という。)や外務省大臣官房監察査察官が任命されている。
ウ 監査計画
一般に、限られた人員で効率的・効果的に会計監査を実施するためには、監査の日程、勢力配分等を明確にして、監査上の重点事項等を定めた監査計画を策定する必要があるが、外務省は、監査計画に相当するものとして短期的な出張計画を作成しているだけで、年度ごとの監査の重点項目や監査テーマを定めていない。
エ 施行率等
査察の18年度から21年度までの各年度の施行率は平均16.0%であった。全査察対象箇所232か所(21年度末現在)のうち、16年度から21年度までの6年間で一度も査察が実施されていない箇所が38か所あった。
オ 監査マニュアル等
査察の際の会計監査で監査マニュアルに相当するものとしては、前渡資金や領事手数料等の取扱い、物品管理等の様々な会計経理をおおむね網羅する形で作成した共通の監査項目があり、これにより内容の標準化を図っている。
カ 監査結果
(ア) 監査による指摘事項の件数等
検査した51公館のうちの41公館に対して16年4月から21年12月までの間に行われた計52回の査察による会計経理に関する指摘事項の件数は、平均10件であった。これらの指摘事項の中には、収入金領収証の管理に関するものなど各在外公館に共通的に見られるものがあった。
(イ) 監査結果の活用について
会計監査の結果を有用な情報として活用定着させるためには、組織全体に周知することが有効である。
査察の結果は、外務大臣に報告されているほか、査察を受けた在外公館、外務省大臣官房会計課、在外公館課等の外務本省の関係課に通知され、必要と認められた場合には当該関係課において規則等の改正や特に注意すべき点について他の在外公館への周知等の措置が執られている。しかし、査察の結果のうち他の在外公館にも関係する事項を取りまとめてすべての在外公館に周知することは行われていなかった。
(ウ) 監査結果のフォローアップについて
監査の実効性を確保するためには、監査で指摘した事態に対して必要な改善の措置等が確実に執られるように、監査を行う組織がその経過及び結果をフォローアップすることが有効である。
査察で指摘を受けた事項の改善状況を検査したところ、改善するまでフォローアップが継続的に行われていなかったり、指摘内容の事後の調整・検証が十分でなかったりなどしたため、査察実施後長期間が経過しているのに事態が十分に改善されていない在外公館が6公館あった。
また、査察の結果に基づきどのような措置が外務本省の関係課で執られたかについて、監察査察室が関係課から報告を受ける仕組みになっていなかった。
外務省は、在外公館の会計経理に関して、これまでの本院の検査の結果を踏まえるなどして、国有財産、物品の管理、出納事務等について改善を図ってきている。しかし、今回の検査において、在外公館に係る会計経理に関して更に改善すべき事態が見受けられた。これらの事態の多くは、国内とは環境の異なる海外における事務処理の困難さにもよるが、外交事務で多忙な館長等に複数の会計機関の事務が集中していること、会計事務等の広範な事務を会計担当者が行っていることなども、その一因になっていると考えられる。
したがって、外務省は、今回の検査結果を踏まえ、以下の点に留意することなどにより、在外公館に係る会計経理について、内部統制が十分機能するように努めるとともに、その事務処理を一層適切かつ効率的に執行するように努める必要がある。
ア 在外公館の事務を統括する責任者として、会計経理に対する指導・監督を行う館長に会計機関等の事務が集中していて、自ら実務を処理することとされていることから、在外公館の定員、職務内容の現状を踏まえて、次席職員等に会計機関等の実務を処理させることなどを含めた事務処理体制の改善により、内部統制が十分機能するよう図る。
イ 会計担当者は会計事務等の広範な事務を処理しており、会計担当者が正副2人の在外公館では、会計副担当者が会計事務に従事しておらず、相互チェックが十分に機能していない事態も見受けられたことから、定期・不定期の検査等を通じて内部牽(けん)制等が十分機能するようにする。
ウ 会計に係る研修の受講率の向上を図るとともに、個人ごとの受講履歴を一元的に管理して、未受講者に受講を勧めることにする。
エ 計算証明書類の提出の遅滞については、在外公館の事務処理の機械化、電子化等を通じて、外務本省との間の連絡調整、書類のやり取りなどに要する時間を短縮して、提出期限を遵守する。
オ 会計広域担当官等の出張による指導、助言等の機会を増やすとともに、指導がより効果的なものとなるようにする。
カ 会計事務の負担軽減等を図るため、在外経理に関するシステムを整備することは有効である。特に、新しい物品管理システムについては、早期にすべての物品のデータ入力を完了して、十分な活用を図る。
以上のようにして、在外公館における会計事務の体制を整備し、その機能が十分に発揮できるようにする。
ア 在外公館の前渡資金に係る外国送金について、業務に支障が生じない範囲でまとめて行うなど、会計実地検査時の指摘により執ることとした措置を確実に実施する。
イ 領事手数料に係る釣銭の用意の仕方や携帯電話料金の私費負担分の支払方法について、公金と私金が混同することにならないような方策を検討する。
ウ 帳簿金庫検査を予決令等に基づき適切に実施する。
以上のようにして、前渡資金等の受入れ、保管等を適正かつ適切に行うとともに、外国送金をまとめて行うなど経済性に十分配慮する。
ア 未使用の収入金領収証が無断で持ち出されて不正に使用されることがないように、会計担当者は、厳重に保管することに留意するとともに、受払簿を作成するなどしてその管理を徹底する。また、収入金領収証を領事担当者に引き渡す際は、必ず一連番号を付するなど適切な事務処理の実施を徹底する。さらに、使用済みの冊子についても、再度使用されないよう管理を徹底する。
イ 随意契約の実施、契約の履行確認、支払等に当たっては、会計法令等を遵守する。また、随意契約の実施に当たっては、在外公館が所在する国又は地域の事情もあるが、なるべく2人以上の者から見積書を徴取するよう在外公館を指導する。
ウ 契約の実施等に当たっては、以下の点に十分留意する。
(ア) 在外公館が複写機のリース期間の満了に伴いリース替えのりん請を行う際は、予算配賦や経費節約の見地から、購入する場合の見積書を徴するよう在外公館への指導を徹底する。
(イ) 駐車場の借上契約については、在外公館は、自動車を通勤に利用していない職員の人数を把握して必要台数を十分に検討するなど、会計実地検査時の指摘により執ることとした措置を確実に実施する。
(ウ) 在外公館は、物品の調達を計画的に行い、不要不急の事務用品、酒類等を年度末に多量に購入することがないようにする
(エ) ロシア大使館における会計実地検査時の指摘を踏まえ、在外公館の電話契約について、固定電話の使用状況に応じた適切なものとする。
エ 会食については、会計担当者等は、予算管理上、適切な会食単価を設定した上で、会食決裁書に所要見込額を記載させる。また、所要見込額を超過した場合は、その理由等を聴取して、所要額の妥当性等について確認する。
以上のようにして、会計法令等を遵守するなどして、収入については、多額の現金を取り扱う領事手数料の収納事務を適正かつ適切に行い、支出については、支払の要否の判断を適切に行うとともに、経済性にも十分配慮した会計処理を行う。
ア 在外公館の施設で長期にわたって利用していなかったり、利用率が低くなったりしている会議室等の事務所の施設や食堂等の公邸の施設等については、より一層の有効活用を図るとともに、今後も利用の見込みがないものは、維持管理費用等を徹底して抑制し、借り上げているものは早期に借上げを取りやめることを検討する。
イ 長期間利用しておらず今後も利用する見込みのない行政財産について早期に用途廃止することを検討するとともに、用途廃止した土地、建物等の普通財産等についてはより積極的に不動産仲介業者等に処分を委託するなど、これらの国有財産等について早期処分に向けた措置を講ずる。
ウ 在外公館が管理している物品については、物品管理簿等の帳簿に適切に記録し、美術品や贈呈品が過剰となっている場合は他の在外公館へ管理換する。危機管理用テレビ会議システムについては、会計実地検査時の指摘を踏まえて執ることとした利活用のための措置を確実に実施する。また、職員等に貸し出している公用携帯電話については、私用での使用が禁止されていることを在外公館へ周知徹底する。
エ 在庫が過剰となっている酒類については、他の在外公館へ管理換したり、民間業者に売却したり、新規の購入を抑制したりするなど、会計実地検査時の指摘により執ることとした措置を確実に実施する。
以上のようにして、在外公館の施設の借上げに係る費用を経済的なものとするとともに、必要のない国有財産等の処分の促進を図り、また、物品の効率的な使用、適切な管理等を行う。
ア 査察に関する監査計画を充実させる。
イ 査察を実施する箇所の選定に当たっては、長期間にわたって査察が実施されない箇所が生じないよう努める。
ウ 査察における会計監査については、会計実地検査時の指摘により執ることとした監査結果を取りまとめて周知するなどの監査結果を有効に活用するための措置を確実に実施する。
エ 監査結果のフォローアップを適切に行い、査察で指摘した事態を確実に改善させる。以上のようにして、より効率的、効果的な会計監査の実施に努める。
本院としては、今回の検査結果に基づく改善策が確実に実施されているかを確認するなど在外公館に係る会計経理に関し引き続き検査を実施し、取りまとめが出来次第報告することとする。