検査対象 | 農林水産省、国土交通省、47都道府県、18政令指定都市 |
検査の対象とした経理処理 | 都道府県及び政令指定都市における農林水産省及び国土交通省所管の国庫補助事業に係る事務費等の支出に係る経理処理 |
事態の概要 | 不適正な経理処理等により国庫補助事業に係る事務費等が支出されていた事態 |
不適正な経理処理等により支出されていた国庫補助事務費等の額 | 52億8898万円(平成13年度〜20年度) |
上記のうち国庫補助金相当額 | 25億9520万円 |
一部の府県において、長年にわたり不適正な経理処理による資金の捻出が行われていた事態が平成18年から19年にかけて明らかとなって、当時、公金を扱う地方公共団体の会計経理に関して社会的な関心が高まり、19年6月に参議院決算委員会が行った「平成17年度決算審査措置要求決議」において、地方自治体の裏金問題について、地方自治体の監査が十分に機能していないことなどが背景にあるとして、政府は、地方自治体の監査に対し、積極的に指導を行うなど適切な措置を講ずるべきであるとされた。
これらの不適正な経理処理による資金の捻出等の事態は、一義的には地方公共団体自身の経理の問題であるが、不適正な経理処理の対象となった公金の中に、国庫補助金(補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(昭和30年法律第179号)第2条第1項に規定する「補助金等」。以下「補助金等」という。)が含まれていれば、本院としてもその状況を確認して、必要に応じて是正させる必要がある。
前記の府県では自ら内部調査を行い不適正な経理処理があったことを明らかにしているが、本院がそれらの府県を対象として19年次に不適正経理と補助金等との関連等について検査したところ、不適正な経理処理等により支払った需用費、賃金、旅費等の中に、主として、公共事業の補助金等に係る事務費が含まれているものなどがあったことから、その検査状況を平成18年度決算検査報告
に掲記した。
本院は、19年次に行った検査の結果等を踏まえて、都道府県(全47都道府県)及び財政規模等が県等に匹敵する政令指定都市(全18政令指定都市(21年度末現在)。以下「政令市」という。)を対象として、これらの都道府県及び政令市(以下、これらを合わせて「都道府県市」という。)における国庫補助事業に係る事務費等の経理の状況について、20年次から22年次までの3か年にわたり会計実地検査を行った。その結果、全ての都道府県市において、不適正な経理処理により需用費が支払われた事態又は補助の対象とならない用途に需用費、賃金若しくは旅費が支払われた事態が見受けられた。
検査の結果、65都道府県市全てにおいて不適正な経理処理等の事態が判明したことから、これらの事態についてその発生原因を分析するとともに、有効性等の観点から、会計事務手続においても問題はなかったかなどに着眼して検査した。
また、本院の検査結果等を踏まえて都道府県市が策定した再発防止策について、有効性等の観点から、これらが有効に機能しているかなどに着眼して検査した。
さらに、不適正な経理処理等の事態を決算検査報告に掲記したことなどを契機として、国会において地方公共団体における監査機能等の問題について議論がなされ、21年6月に参議院決算委員会が行った「平成19年度決算審査措置要求決議」において、監査制度について監査機能の充実強化に向けて検討すべきであるとされたことを踏まえて、65都道府県市における会計監査の実施状況等についても検査した。
65都道府県市に対する会計実地検査は、公共事業関係の補助金等の交付が多額に上っている農林水産省及び国土交通省所管の13年度から20年度までの間の国庫補助事業に係る事務費等のうち、過去に不適正な経理処理等が多く行われた需用費、賃金及び旅費を対象として、65都道府県市の保管する支出命令書等の書類により行った。
そして、65都道府県市において判明した事態の発生原因や会計事務手続上の問題点、再発防止策の内容、会計監査の実施状況等について、65都道府県市から調書を徴するなどして確認した。このうち、初年次の20年次に検査を実施した12道府県については、22年次に改めて会計実地検査を行い、関係職員から聞き取りを行うなどして不適正な経理処理等の再発防止策の実施状況等を確認するとともに、これらが有効に機能しているか検証するために、21年度の需用費の支払を対象として不適正な経理処理が行われていないか検査した。また、20、21両年次に会計実地検査を行った40道府県市の補助金等の返還状況及び65都道府県市における内部調査の状況についても、各都道府県市から報告を受けるなどして確認した。
農林水産省及び国土交通省は、土地改良法(昭和24年法律第195号)、道路法(昭和27年法律第180号)等に基づき、それぞれ土地改良事業や道路整備事業等の公共事業に要する経費の一部について、これらを実施する都道府県市等に対して、補助金等を交付している。これらの公共事業に係る国庫補助対象事業費には、工事費のほか事業を実施するために必要な事務費が含まれており、その内訳はおおむね次のとおりとなっている。すなわち、事務費は、国庫補助事業に直接従事する都道府県市等の職員の人件費(給料、職員手当等)のほか、国庫補助事業の実施のために直接必要な物品の購入等に係る需用費、国庫補助事業の事務補助等に従事した臨時職員に支払う賃金、職員が国庫補助事業に係る用務で出張した場合に支払う旅費等から構成されている。
また、農林水産省所管の国庫補助事業には非公共事業も多く、これらの事業費にも需用費、賃金、旅費等が補助対象経費として含まれている(以下、非公共事業における需用費等の経費と上記の公共事業に係る国庫補助事業の事務費を合わせて「国庫補助事務費等」という。)。
検査の結果、検査した65都道府県市全てにおいて、不適正な経理処理を行って需用費を支払ったり、補助の対象とならない用途に需用費、賃金又は旅費を支払ったりしていたものが13年度から20年度までの間に、20年次11億3713万余円(国庫補助金相当額5億5600万余円)、21年次29億2744万余円(同14億7302万余円)、22年次12億2440万余円(同5億6617万余円)、計52億8898万余円(同25億9520万余円)見受けられた。
ア 需用費の支払
65都道府県市は、国庫補助事業の施行のために必要となる物品の購入等に当たっては、業者から見積書を徴するなどして契約業者、購入価額等を決定し、支出負担行為等を行って、契約した物品が納入されたことを確認(以下「検収」という。)した上で、業者からの請求に基づき購入代金を支払うこととしている。
(ア) 不適正な経理処理等の態様
物品の購入等に係る需用費の支払について検査したところ、65都道府県市において、13年度から20年度までの間に、不適正な経理処理を行って需用費を支払ったり、補助の対象とならない用途に需用費を支払ったりしていたものが、計25億8650万余円(国庫補助金相当額11億8991万余円)見受けられた。
a 不適正な経理処理による需用費の支払
〔1〕 預け金
28府県市
|
支払額
|
9億5830万余円
|
(国庫補助金相当額
|
4億5797万余円)
|
〔2〕 一括払
31都道県市
|
支払額
|
4億2047万余円
|
(国庫補助金相当額
|
1億8555万余円)
|
〔3〕 差替え
53都道府県市
|
支払額
|
3億0308万余円
|
(国庫補助金相当額
|
1億3157万余円)
|
〔4〕 翌年度納入
63都道府県市
|
支払額
|
7億4724万余円
|
(国庫補助金相当額
|
3億4031万余円)
|
〔5〕 前年度納入
60都道府県市
|
支払額
|
8308万余円
|
(国庫補助金相当額
|
3734万余円)
|
b 補助の対象外
24県市
|
支払額
|
7429万余円
|
(国庫補助金相当額
|
3715万余円)
|
(イ) 発生原因
不適正な経理処理等のうち、預け金、一括払及び差替えの事態は、架空取引を指示したり、虚偽の請求書等を提出させたりするなど業者の協力を得て、実際に納入された物品とは異なる品目名を記載した虚偽の内容の関係書類を作成することなどにより需用費を支払っていたものである。この結果、実際に納入された物品については、購入の必要性、価格の妥当性等の検討を行うなどの所定の会計事務手続が行われていなかったことになる。
一方、翌年度納入及び前年度納入の事態は、翌年度以降又は前年度以前に納入された物品が現年度に納入されたこととして、都道府県市において実際の納品日と異なる日付を検収日として関係書類に記載することなどにより現年度の予算から需用費を支払ったものである。
不適正な経理処理について、各都道府県市は、事務手続の省力化を図るために、随時納入された物品について、その都度経理処理を行うことなく、後日一括して支払ったなどというような理由を挙げているが、これらの理由から分かるように、発生原因としては、私的流用ではなく、事務手続の省力化や事務の効率化になるのであれば、多少の手続の瑕疵は許されるとするなど公金取扱いの重要性に対する認識が欠如していたこと、交付を受けた補助金等は返還が生じないように全てを使い切らなければならないという意識が会計法令を遵守しなければならないという意識より優先していたことなどが事態の発生原因になっているものと認められる。
(ウ) 会計事務手続における問題点
前記の事態のうち不適正な経理処理が行われていた事態の発生原因について、都道府県市の会計事務手続における問題点を検証するなどして分析した。
a 65都道府県市における主な会計事務手続
65都道府県市で行われていた主な会計事務手続を大別すると、次の(a)、(b)及び(c)に分類される。
(a) 契約事務を各部局から独立した集中調達機関が行い、検収事務は調達要求課が行っているもの
この会計事務手続においては、物品等の調達要求元である各部署(以下「調達要求課」という。)が属する部局から独立した集中調達機関(注)
が、業者に対する見積書の提出依頼、契約事務等を行い、調達要求課は集中調達機関への購入依頼や検収事務等を行うこととなっている。また、契約事務は集中調達機関が、検収事務は調達要求課が、それぞれ行っているために、職務の分担による相互牽(けん)制が機能しやすい状況となっている。
(b) 契約事務及び検収事務を取りまとめ課が行っているもの
この会計事務手続においては、各部局内において各調達要求課の物品調達を取りまとめる部署(管理課、総務課等。以下「取りまとめ課」という。)が見積書の提出依頼、契約締結、検収事務等を行い、調達要求課は取りまとめ課への購入依頼のみを行うこととなっている。しかし、取りまとめ課が契約及び検収事務の両方を行っているため、契約した物品が納入されていなくても納入されたこととして検収することが可能であり、職務の分担による相互牽制は機能しにくい状況となっている。
(c) 見積書の提出依頼から検収に至るまでの一連の会計事務手続を調達要求課が行っているもの
この会計事務手続においては、調達要求課が見積書の提出依頼、契約締結、検収事務等を行っており、職務の分担による相互牽制が機能しにくい状況となっている。
b 預け金等の不適正な経理処理の金額が多額に上っていた県市における主な会計事務手続
前記(ア)a
の〔1〕 から〔5〕 までの不適正な経理処理の態様のうち、預け金、一括払及び差替えは、実際に納入された物品とは異なる品目名を記載した虚偽の内容の関係書類を作成するなどして行われた経理処理であり、当該物品の購入の必要性、価格の妥当性等の検討を行うなどの所定の会計事務手続を行うことなく需用費を支払っていたものである。
そして、これらの態様の不適正な経理処理を成立させるためには、虚偽の内容の見積書や請求書を提出させるなど業者側の協力が不可欠であり、また、実際には納入されていない物品が納入されたとして検収したように装う必要がある。このため、調達要求課が業者に直接発注できること、また、契約事務と検収事務を行う部署が同一であることなどが必要となる。
このように、契約事務と検収事務を行う部署が同一であるなど会計事務手続において相互牽制が機能していなかったことが不適正な経理処理の事態の要因と考えられる。現に21年次に会計実地検査を実施した28府県市のうち、不適正な経理処理の事態がほとんど見受けられなかった秋田県では職務の分担による相互牽制が機能しやすい(a)の会計事務手続により、また、預け金等の不適正な経理処理が多額に行われていた千葉県では職務の分担による相互牽制が機能しにくい(c)の会計事務手続により行われていた(これらの検査の状況については平成20年度決算検査報告
に記載している。)。
そこで、会計実地検査を行った65都道府県市のうち、預け金、一括払及び差替えによる不適正な経理処理により支出された国庫補助事務費等の金額の合計が1000万円以上となっていた17県市(これらの17県市における預け金、一括払及び差替えの3態様の合計額は、65都道府県市における当該3態様の合計額の約94%を占めている。)において不適正な経理処理を行っていた452か所のうちの80か所について会計事務手続の状況を検証した。
その結果、上記80か所のうち、集中調達機関が契約事務を行い調達要求課が検収事務を行うなど職務の分担による相互牽制が機能しやすい(a)の会計事務手続によるものは皆無となっていた。
そして、80か所の大半の54か所においては、調達要求課が発注から検収までの一連の会計事務手続を行える前記(c)の会計事務手続により物品購入を行っていた。また、(b)の会計事務手続により物品購入等を行っていた残りの26か所においても、個別に確認したところ、取りまとめ課は関係書類の審査等を行っているのみで、実際は調達要求課が業者に対する見積書の提出依頼、検収等を行っていたり、調達要求課の意向に沿った物品購入を行うために業者に架空取引等を指示したりなどしていて、実質的には(c)の会計事務手続に近いものとなっていた。
イ 賃金の支払
臨時職員に対する賃金の支払について検査したところ、53都道府県市において、14年度から20年度までの間に計12億7909万余円(国庫補助金相当額6億5392万余円)を補助の対象とならない用途に使用していた。
(ア) 補助の対象とならない用途に支払われた賃金の態様
a 国庫補助事業を実施していない部署に配属された臨時職員に対する賃金の支払
46都道府県市は、14年度から20年度までの間に、国庫補助事業を実施していない部署に配属された臨時職員に対して、国庫補助事務費等の支出科目から賃金計6億4890万余円(国庫補助金相当額3億4574万余円)を支払っていた。
b 他の国庫補助事業に係る支出科目からの賃金の支払
41都道府県市は、14年度から20年度までの間に、臨時職員が配属された部署が所掌する国庫補助事業とは異なる事業に係る国庫補助事務費等の支出科目から賃金計6億3018万余円(国庫補助金相当額3億0817万余円)を支払っていた。
(イ) 発生原因
発生原因としては、国庫補助事務費等で支払える賃金の範囲を拡大解釈していたこと、補助事業の目的どおりに使用することの認識が十分でなかったこと、臨時職員が配属された課室の所掌する業務内容の把握が十分でなかったことなどが挙げられる。
ウ 旅費の支払
職員の旅費の支払について検査したところ、64都道府県市において、13年度から20年度までの間に計14億2338万余円(国庫補助金相当額7億5136万余円)を補助の対象とならない用途に使用していた。
(ア) 補助の対象とならない用途に支払われた旅費の態様
補助の対象とならない用途に支払われていた旅費について、その用務内容を大別すると、〔1〕 辞令交付、挨拶回り、人事異動に伴う事務引継等、〔2〕 都道府県市の単独事業に係るしゅん工検査、用地交渉等、〔3〕 都道府県市のイベント事業等への参加、〔4〕 起工式、開通式等記念式典への出席、〔5〕 部長等の管内視察及びその随行、〔6〕 各種協議会・期成同盟会等任意団体の総会等への出席、〔7〕 新採用職員研修等国庫補助事業に関係しない研修等への出席、〔8〕 外部団体が主催するセミナー等のうち国庫補助事業の実施に直接関係しない研修等への出席、〔9〕 その他国庫補助事業と直接の関連性が認められない出張となっている。
(イ) 発生原因
発生原因としては、国庫補助事務費等で支払える旅費の範囲を拡大解釈していたこと、補助事業の目的どおりに使用することの認識が十分でなかったこと、出張の用務内容の把握が十分でなかったことなどが挙げられる。
本院が20、21両年次に会計実地検査を行い、平成19年度決算検査報告及び平成20年度決算検査報告において、国庫補助事務費等に係る不適正な経理処理等について不当事項として掲記した40道府県市の22年7月末現在における補助金等の返還状況は、国に返還済みが31道府県市、一部協議中が7県市、協議中が2県となっている。
平成19年度決算検査報告等を踏まえて、20年5月から22年5月末までに事務費等に係る内部調査を終えた53都道府県市によれば、不適正な経理処理等により支払われた金額は計111億1328万余円、国庫補助金相当額は算定中の県を除いて12億5504万余円となっている。
65都道府県市のうち、不適正な経理処理の事態が見受けられなかったさいたま市を除く64都道府県市は、本院の検査結果等を踏まえて不適正な経理処理に関する再発防止策を策定している。このうち、20年次に会計実地検査を行った12道府県(北海道、京都府、青森、岩手、福島、栃木、群馬、長野、岐阜、愛知、和歌山、大分各県)については、21年3月までに再発防止策を策定しており、その後既に1年以上を経過していることから、その再発防止策が有効に機能しているかを検証するために、22年5月及び6月に、再度12道府県に対して会計実地検査を行った。
検査の結果、12道府県における農林水産省及び国土交通省所管の国庫補助事務費等のうち、21年度の需用費の支払については、検査した範囲において、不適正な経理処理の事態は見受けられなかった。また、再発防止策の実施状況を検証したところ、次のような状況となっていた。
ア 監査機能の強化等
12道府県のうちの8県等は再発防止策に内部監査や監査委員監査の強化等を掲げていたが、4県等の再発防止策には会計監査の強化等は含まれていなかった。
イ 職員の意識改革
12道府県全てにおいて、職員への研修を実施したり、公務員倫理の徹底、会計事務処理の適正化等について関係部署に文書を発出したりなどして、職員の意識改革を図るための取組を実施していたが、研修の実施状況をみると、管理職や経理担当職員のみに研修等を実施している県等があった。
ウ 物品調達体制の見直し
12道府県全てにおいて、契約事務と検収事務を別の部署で行わせたり、集中調達機関を新たに設置したりなどして相互牽制が機能しやすい物品調達体制の整備に取り組んでいたが、集中調達物品以外の物品の購入については、依然として調達要求課が業者に直接発注して自ら検収を行っているなどしており、契約事務と検収事務が完全に分離されていない県等があった。
不適正な経理処理等の事態は、会計機関における物品の購入手続について内部統制が機能していなかったことなどが主な発生原因である。会計機関における内部統制を十分に機能させるためには、相互牽制が十分機能する会計手続が整備されていることや、その状況を継続的に内部監査で監視評価することが重要である。また、各地方公共団体の監査委員監査や外部監査の果たす役割も重要である。そこで、国会においても地方公共団体における監査機能等の問題について議論がなされたことも踏まえて、65都道府県市の15年度から20年度までにおける内部監査、監査委員監査及び外部監査の監査体制等について検証した。
ア 内部監査
65都道府県市のうち51都道府県市が会計事務について監査や検査を内容とした内部監査を行っていたが、残りの14県市は内部監査を行う部局が設置されていなかった。内部監査を実施している部局やその職員の帰属の状況から、51都道府県市の内部監査の独立性についてみたところ、11県市では知事等直属の監察局等に内部監査担当部局が設置され、いずれも専任の職員を配置していた。しかし、40都道府県市では会計事務を取り扱う出納局等に内部監査担当部局が設置されており、専任の職員のみを配置していたもの(16都府県市)や専任及び兼任の職員を配置していたもの(13道県)もあるが、11府県では兼任の職員のみを配置していた。
そして、内部監査実施要領等を定めていたのは44都道府県市で、7県市は定めていなかった。
不適正な経理処理に関しては、6府県が19年度又は20年度に物品の納入業者の協力を得て、聞き取りを行ったり、帳簿を取り寄せて納入物品、納入日付等の突き合わせを行ったりするなどの手法による内部監査を行っていた。
イ 監査委員監査
地方自治法(昭和22年法律第67号)によれば、監査委員の定数は都道府県及び政令市においては4人となっており、65都道府県市における監査委員の定数は、6都府県市は条例により定数を増やして5人以上、59道府県市は同法のとおり4人となっていた。
監査委員事務局の人員数は10人から19人、職員の在籍年数は3年以上4年未満が最も多くなっていた。また、64都道府県市の監査委員事務局において、監査に関する専門的な研修を行っており、国の機関、団体等が実施する外部の研修に職員を参加させていたのは58道府県市となっていた。
そして、65都道府県市全てにおいて監査基準等を定めて監査を実施していた。
15年度から20年度までの監査実施状況をみると、定期監査は65都道府県市で、随時監査は32都道府県市で、行政監査は61都道府県市で、財政援助団体等に対する監査は65都道府県市で、住民の監査請求に基づく監査は65都道府県市で、議会からの請求による監査は2県で、長の要求による監査は13道県市でそれぞれ行われていた。
不適正な経理処理に関しては、15年度から20年度までに12都道府県市の監査委員が監査を行っていた。これらの中には、監査のため必要と認めるときに行うことができる関係人調査を物品納入業者等に対して行い、物品納入業者等の事務所に出向き、売上伝票、納品書等の帳票を調査して契約が適正に行われているか検証している監査委員もあった。また、36道府県市の監査委員監査において、物品の納入業者の協力を得て、関係人調査等の手法による監査を今後行う予定又は検討するとしている。このほかに、知事部局等が策定した再発防止策の実施状況についての検証に取り組んでいる県市が見受けられた。
ウ 外部監査
外部監査制度は、地方分権の推進や一部の地方公共団体で見受けられた予算の不適正な執行等を背景として、地方公共団体の監査機能の専門性・独立性の強化等の観点から、9年の地方自治法の改正により創設されたものである。この外部監査は、地方公共団体の組織に属さない外部の専門的な知識を有する者による外部監査契約に基づく監査であり、包括外部監査と個別外部監査がある。
地方自治法によれば、普通地方公共団体が外部監査契約を締結できる者は、普通地方公共団体の財務管理、事業の経営管理その他行政運営に関し優れた識見を有する者であって、弁護士、公認会計士、国の行政機関において会計検査に関する行政事務に従事した者又は地方公共団体において監査若しくは財務に関する行政事務に従事した者で監査に関する実務に精通しているものとして政令で定めるもののいずれかに該当するものとされている。
(ア) 包括外部監査
都道府県及び政令市は、毎会計年度、当該会計年度に係る包括外部監査契約を締結しなければならないこととなっている。65都道府県市が15年度から20年度までに契約を締結した包括外部監査人の資格をみると、公認会計士が64都道府県市、弁護士が16道府県市、税理士が4県市となっていた。また、包括外部監査人の補助者の資格は公認会計士が、補助者数は5人から9人が最も多くなっていた。
包括外部監査の対象は財務に関する事務の執行及び経営に係る事業の管理のうち、包括外部監査人が必要と認める特定の事件について監査するものとされており、15年度から20年度までの監査内容をみると、施設の管理・運営、事業、外郭団体、補助金等に関するものが多くなっていた。
外部監査制度が創設された背景の一つに、一部の地方公共団体で見受けられた予算の不適正な執行が挙げられているものの、事務費等の不適正な経理処理については、20年度に1県の包括外部監査人が、同県が公表した不適正な経理処理について意見を述べるなどした報告書を知事に提出した事例があるのみである。
(イ) 個別外部監査
個別外部監査は、都道府県市の条例により任意に導入することができ、事務監査請求、議会の請求、都道府県市の長の要求、住民監査請求等の請求又は要求があったときに行われるなどするものであり、15年度から20年度までの実施状況をみると、1府において、19年度に弁護士との個別外部監査契約に基づき実施されていたのみで、残りの64都道府県市では実施されていなかった。
農林水産省及び国土交通省は、20年11月及び21年11月に、決算検査報告等の内容の周知、指導、監督及び検査の徹底、経理処理手続等の適正化等について65都道府県市に対して通知している。また、「予算編成等の在り方の改革について」が21年10月に閣議決定されて、補助事業等の計画的な執行を促進するために、各府省が補助金等の交付手続の迅速化、早期交付に努めることなどの方針が示された。
一方、上記の両省所管の国庫補助事務費等のうち公共事業に係る補助金等の事務費は、21年度を最後に廃止されたため、地方公共団体は公共事業の実施に必要な物品の購入等を一般公共事業債等により資金を調達して行うことになった。
20年次から22年次の3か年にわたり、65都道府県市における農林水産省及び国土交通省所管の国庫補助事務費等の経理について検査した結果、65都道府県市全てにおいて、虚偽の内容の関係書類を作成するなど不適正な経理処理により需用費を支払ったり、補助事業の目的外の用途に需用費、賃金又は旅費を支払ったりしている事態が見受けられた。
不適正な経理処理による需用費の支払の事態は、国庫補助事務費等に係る補助金の交付額が極めて少額となっていた1市を除く64都道府県市において見受けられた。
業者と架空取引を行うなどして支払金を業者に保有させていた事態(預け金)、随時納品させた物品について別の品目を納入させたこととして一括して支払った事態(一括払)、消耗品を購入することとして実際は備品等の別の物品に差し替えて納品させた事態(差替え)は、業者に虚偽の請求書を提出させ、支出命令書等の関係書類には虚偽の内容を記載するなどして、契約した物品が納入されていないのに納入されたこととして経理処理していたものである。
また、実際は翌年度又は前年度に納入された物品の購入代金を現年度に支払っていた事態(翌年度納入又は前年度納入)は、支出命令書等の関係書類に事実と異なる検収日付を記載するなどして、契約した物品が当該年度に納入されていないのに納入されたこととして経理処理していたものである。
上記の不適正な経理処理による需用費の支払の事態のうち、預け金、一括払及び差替えの事態は、架空取引を指示したり、虚偽の請求書等を提出させたりするなど業者の協力を得て、実際に納入された物品とは異なる品目名を記載した虚偽の内容の関係書類を作成することなどにより需用費を支払っていたものである。この結果、実際に納入された物品については、購入の必要性、価格の妥当性等の検討を行うなど所定の会計事務手続が行われていなかったことになる。
そして、これらの中には、千葉県のように、預け金の手法により業者に預けた需用費の一部を現金で返金させるなどして、これを別途に経理して業務の目的外の用途に使用するなど公金を不正に使用していた事態があったほか、一部の政令市では、差替えの手法により物品担当職員が業者に指示して契約した物品とは異なるパーソナルコンピュータを納入させ、これを転売してその代金を領得するなど刑事事件に発展した事態もあった。
上記のように、このような不適正な経理処理の慣行は、公金の不正使用や職員による公金横領等刑事事件につながるおそれがあり、ひいては公金の使用に対する国民の信頼を著しく失墜させる極めて遺憾な事態となっている。
不適正な経理処理が行われていた原因として、会計法令等の遵守よりも予算の年度内消化を優先させたこと、会計経理の業務に携わる者の公金の取扱いの重要性に関する認識が欠如していたことなどが挙げられる。また、預け金等の不適正な経理処理により支出された国庫補助事務費等の額が多額に上っていた県市の主な部署における会計事務手続について検証したところ、その大半において調達要求課が見積書の提出依頼、契約事務、検収事務等の一連の会計事務手続を行っており、職務の分担による相互牽制が機能しにくい状況となっていた。
賃金及び旅費について補助事業の目的外の用途に使用していた事態も多くの都道府県市において見受けられた。発生原因としては、国庫補助事務費等で支払える賃金や旅費の範囲を拡大解釈していたこと、補助事業の目的どおりに使用することについての認識が十分でなかったことなどの国庫補助事務費等の適正執行に関する担当職員の認識の問題が挙げられるが、臨時職員の配置目的・業務内容及び出張用務の内容を正確に把握していなかったことなどの事務処理上における問題点も見受けられた。
近年、多くの都道府県市では、平成19年度決算検査報告等を踏まえて、同様の着眼点により、本院の検査とは別に事務費等の経理に関して内部調査を行い、その結果を公表している。自らが行った経理処理をより広い範囲で点検することにより、会計経理の適正化に関する意識を多くの職員が持つことが期待できるため、まだ内部調査を行っていない県市においても速やかに内部調査を行うことが望まれる。
また、検査の結果、不適正な経理処理の事態の指摘を受けた都道府県市は、監査機能の強化、職員の意識改革、物品調達体制の見直し、契約・検収事務の適正化、予算の計画的な執行等の再発防止策を策定して取り組んでいる。しかし、今回、20年次に検査を実施した12道府県に対して21年度の需用費の支払について検査したところ、不適正な経理処理の事態は見受けられなかったが、再発防止策の内容やその実効性の確認等については、必ずしも十分でない点が見受けられた。
内部監査や監査委員監査の状況を調査したところ、不適正な経理処理の再発を防止するために、物品の納入業者の協力を得て、聞き取りを行ったり、帳簿を取り寄せて納入物品、納入日付等の突き合わせを行ったりするなどの手法により監査を行っている県等がある一方で、このような監査を行う予定がないとしている県が一部にみられた。
地方公共団体における公金の取扱いに関する問題については、過去に、公共事業に係る国庫補助事業の食糧費を懇談会の経費等に使用していた事態、事務費の旅費等を架空の名目で支払っていた事態等が明らかとなっており、これらの地方公共団体では、その都度職員の意識改革を中心とした再発防止策を講じてきた。しかし、10年ほどで再び今回のような国庫補助事務費等において不適正な経理処理の事態が判明したことを踏まえると、これらの事態の再発防止のためには、地方公共団体において今後とも継続的かつ全庁的な取組を行っていくことが必要と思われる。
今回、本院が検査の対象とした農林水産省及び国土交通省所管の国庫補助事務費等のうち公共事業に係る補助金等の事務費は21年度をもって廃止された。このため、地方公共団体では、公共事業の実施に必要な物品の調達等は、22年度から一般公共事業債等別の財源を用いて資金調達することとなった。一方、公共事業以外の国庫補助事業に係る需用費、賃金、旅費等の経費については引き続き補助金等が交付されている。
ついては、65都道府県市において、今回の国庫補助事務費等の不適正な経理処理等の再発を防止するため、職員に対する基本的な会計法令等の遵守に関する研修指導の徹底、契約及び検収事務の厳格化、予算の計画的な執行の励行、会計事務手続における職務の分担による相互牽制機能の強化等を推進するとともにその執行状況を適切に把握することが重要である。
会計監査については、物品の納入業者の協力を得て、聞き取りを行ったり、帳簿を取り寄せて納入物品、納入日付等の突き合わせを行ったりするなどの手法を採り入れた監査の実施を検討することが望まれる。また、内部監査、監査委員監査及び外部監査が連携を図り、会計機関における内部統制が十分機能しているかについて継続的に監視評価を行うとともに、不適正な経理処理に係る再発防止策が有効に機能しているかなどについても検証を行うなどし、もって会計監査の強化・充実を図ることが望まれる。
補助金等を交付している関係省庁においては、不適正な事態の対象となった国庫補助金相当額について速やかに返還の措置等を執るとともに、都道府県市に対して、国庫補助事業に係る事務費等の経理の適正化について引き続き指導の徹底を図ることが必要である。
本院としては、今後とも、地方公共団体における補助金等の会計経理について、引き続き注視していくこととする。