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  • 平成23年度|
  • 第4章 国会及び内閣に対する報告並びに国会からの検査要請事項に関する報告等|
  • 第1節 国会及び内閣に対する報告

<参考:報告書はこちら>

郵便事業株式会社の経営状況について


第6 郵便事業株式会社の経営状況について

検査対象 郵便事業株式会社(平成24年10月1日以降は日本郵便株式会社)
郵便事業株式会社の概要 郵政民営化法(平成17年法律第97号)等に基づき、日本郵政公社から郵便法(昭和22年法律第165号)の規定により行う郵便の業務等に係る機能等を引き継いで、平成19年10月1日に設立された会社
貸借対照表計上額(平成24年3月31日現在) 資産合計 1兆8519億円
負債合計 1兆6649億円
株主資本 1870億円
 うち資本金 1000億円
 うち資本剰余金 1000億円
 うち利益剰余金 △ 129億円
損益計算書計上額(平成23年4月1日から24年3月31日まで) 営業収益 1兆7648億円
営業費用 1兆7872億円
営業損失 223億円
当期純損失 45億円

1 検査の背景

(1) 郵便事業株式会社の設立経緯等

 郵便事業株式会社(以下「事業会社」という。)は、郵政民営化法(平成17年法律第97号)等に基づき、日本郵政公社(以下「郵政公社」という。)から郵便法(昭和22年法律第165号)の規定により行う郵便の業務等に係る機能等を引き継いで、平成19年10月1日に設立された。そして、事業会社は、24年10月に日本郵便株式会社(以下「日本郵便」という。)に商号を変更した郵便局株式会社(以下「局会社」という。)に吸収合併された。
 事業会社は、局会社とともに、政府がその株式の全てを保有する日本郵政株式会社(以下「日本郵政」という。)の100%子会社であり、郵便事業株式会社法(平成17年法律第99号)により郵便の業務及び印紙の売りさばきの業務を営むことなどを目的とすることとされ、これらの目的を達成するために営む業務(以下「目的内業務」という。)に加えて、当該業務の遂行に支障のない範囲内で、総務大臣の認可(以下「大臣認可」という。)を受けて他の業務も営むことができるとされていた(以下、この認可を受けて行う他の業務を「目的外業務」という。)。
 そして、事業会社は、郵便事業株式会社法等に基づき、毎事業年度の開始前にその事業年度の事業計画を定めて、大臣認可を受けなければならないこととされていて、当該計画を変更しようとするときも同様とされていた。
 事業会社は、目的内業務として、前記のとおり、郵便法の規定により行う郵便の業務のほか、国の委託を受けて行う印紙の売りさばき等の業務(以下、これらを合わせて「郵便事業」という。)を行っていた。また、目的外業務として、民営分社化以前に「ゆうパック」の名称で郵便物として取扱いを行っていた郵便小包が郵便法の改正により郵便物から除外されたことから宅配便事業における貨物(以下「宅配荷物」という。)として、同様の「ゆうパック」の名称で「ゆうメール」などとともに取り扱っていた(以下、宅配荷物や「ゆうメール」等の名称で取り扱っていた貨物を配達する事業会社の事業を「宅配便事業等」という。)。
 事業会社は、目的外業務である宅配便事業を実施する理由について、民営分社化時点の郵便小包等の取扱いが年間20億個あったことから、これらを利用する顧客の利便性を維持する必要があるとするとともに、宅配便市場が年3%程度成長しており、事業会社の収益源として成長が見込まれるためとしていた。

(2) 事業会社等の組織及び役割

 事業会社は、24年3月時点で、全国に13支社を設置しており、これらの支社は郵便物等の引受け、配達、集荷等の作業を行う1,090支店、2,524集配センターを所管していた。そして、1,090支店のうち70支店(以下「統括支店」という。)は、引受け、配達及び集荷を行うほか、都道府県外への運送経路を集約する拠点として郵便物等をそれぞれの宛先への配達を担当する支店ごとに仕分ける作業を実施していた。一方、これ以外の1,020支店及び2,524集配センター(以下「集配支店」という。)は、専ら引受け、配達及び集荷作業を実施していた。
 事業会社は、郵便事業、宅配便事業等の実施に当たって、24年9月30日までは、郵便窓口業務の委託等に関する法律(昭和24年法律第213号)等に基づき、窓口における郵便物の引受けなどの業務(以下「郵便窓口業務」という。)に係る委託契約を局会社と締結して、郵便窓口業務の実施を局会社に行わせて、郵便窓口業務に係る手数料を支払うこととなっていた。
 局会社が設置していた郵便局は、郵便窓口業務を実施しており、事業会社のほとんどの支店は郵便局と併設されていた。そして、事業会社は、これら郵便局と併設された支店にも、配達時に不在であった郵便物等の受取人への引渡しを行ったり、郵便局の郵便窓口の営業時間外に郵便窓口と同様の業務を行ったりする窓口(以下「ゆうゆう窓口」という。)を設置していた。

(3) 宅配便事業の統合

 日本郵政は、19年10月に、我が国において最高のサービスと品質を誇る宅配便事業を構築することを目的として、日本通運株式会社(以下「日通」という。)との協議の結果、日本郵政又は事業会社と日通の間で設立する合弁会社に、事業会社及び日通の両社の宅配便事業をそれぞれ自社の事業から分割して承継させる基本合意を締結した。
 事業会社は、上記の基本合意に基づき、日通との間で新会社を設立し、21年4月1日に両社の宅配便事業を統合することとした統合基本合意書を20年4月に締結して、同年6月に、事業会社及び日通がそれぞれ3億円を出資してJPエクスプレス株式会社(以下「JPEX」という。)を設立した。
 そして、事業会社及び日通の宅配便事業をJPEXに承継させるため、事業会社は20年8月に日通と契約を締結し、21年4月1日付けで第三者割当増資を実施することとしてJPEXの資本金及び資本剰余金を合わせて500億円とし、出資比率を事業会社が66%、日通が34%として、JPEXに同事業に係る業務を実施させることとした。
 その後、事業会社は、21年1月に、コンピュータシステムの準備不足等のため、日通との間で合意書を締結して、宅配便事業のJPEXへの承継を21年10月までに段階的に行うこととした。
 上記の契約及び合意においては、JPEXが宅配便事業を実施するに当たり、都市部はJPEX自らが配達、集荷業務を実施することとしていたが、宅配荷物だけでは十分な業務量が確保できない地方部において、郵便物と宅配荷物等を同時に取り扱うことで生産性を向上させるため、事業会社がJPEXと受託契約を締結して、JPEXで取り扱う宅配荷物について配達、集荷等を実施することにより、JPEXから受託手数料を受け取ることとなっていた。
 そして、事業会社は、この受託手数料により、宅配便事業をJPEXに承継させた後も年間470億円以上の収益を得る見通しを立て、その収益は事業会社が目的内業務を安定的に実施するために欠くことができないものであるとしていた。
 上記の契約等に基づき、JPEXは、まず日通から宅配便事業を承継させて21年4月から宅配便事業を開始したが、事業会社が、総務大臣に対して、事業会社の宅配便事業を21年10月にJPEXに承継させることとした21年度事業計画の認可申請を21年2月に行ったところ、目的内業務の収支に与える影響が明確でないことなどが理由とされて、宅配便事業を承継させることについて大臣認可を得ることができなかった。事業会社は、その後も、宅配便事業を承継させるために21年度事業計画の変更認可申請を行ったが、統合の日程に無理があるなどとして、21年9月の時点でも大臣認可が得られなかったことから、21年10月に事業会社の宅配便事業をJPEXに承継させることを断念した。
 このように事業会社からの宅配便事業の承継が受けられない期間が21年10月を超えたことから、JPEXは計画どおりの事業運営ができなくなり、その結果、計画を上回る累積損失を発生させた。
 事業会社は、その後の事業会社の宅配便事業やJPEXの取扱いについて検討を行った結果、JPEXから同事業を承継することが目的内業務への影響が最も少なくなると判断し、JPEXの宅配便事業を事業会社に承継することとした21年度事業計画の変更認可申請を21年12月に行った。
 この申請を受けた総務大臣は、同計画が適当であると判断したとして22年2月に上記の認可を行った。そして、JPEXは、22年7月に事業会社に宅配便事業を承継させて、同年8月に解散した。

(4) 日本郵便による事業会社の吸収合併

 事業会社は、24年4月に成立した郵政民営化法等の一部を改正する等の法律(平成24年法律第30号)に基づき、日本郵便に商号を変更した局会社に、24年10月1日に吸収合併された。そのため局会社は、日本郵便としての24年度事業計画を合併までの間に作成して大臣認可を受けた。

2 検査の観点、着眼点、対象及び方法

(1) 検査の観点及び着眼点

 郵便事業は、郵便法において、事業会社のみが実施することとされており、その役務をなるべく安い料金であまねく公平に提供することが求められていることなどから、事業会社は、安定的な経営基盤を確立するとともに効率的な業務運営に努めることが重要であるとされてきた。
 一方、事業会社は、前記のとおり、22、23両年度決算において営業損益で赤字を発生させたことなどから収支の改善が喫緊の課題となっていた。
 さらに、事業会社は、24年10月に局会社に吸収合併されて、その業務は局会社の商号変更により設立された日本郵便に承継されたことから、新たな組織の下で郵便事業が円滑に運営されるよう、これまでの業務運営において見いだされた改善すべき点については、この機に改めて総括することが肝要である。
 そこで、本院は、経済性、効率性、有効性等の観点から、事業会社の経営状況を分析して、収支を悪化させている要因を確認するとともに、上記の収支悪化要因に対する収支改善策に係る計画が合理的で実現可能性があるものとなっていたか、上記の計画が適切に実施されてきたか、局会社が実施してきた郵便窓口業務が新組織においても効率的に運営されるようになっているかなどに着眼して検査を行った。

(2) 検査の対象及び方法

 本院は、事業会社から提出を受けた財務関係書類、業務の実施状況に係る記録等により検査を行うとともに、事業会社の本社、支社及び支店並びに局会社の本社、支社及び郵便局において、事業会社の収支を改善するために実施された施策に関する書類等により会計実地検査を行った。

3 検査の状況

(1) 民営分社化以前の収支状況

 郵政省及び総務省郵政事業庁は、郵政事業特別会計(以下「特別会計」という。)において、現在の郵便事業、宅配便事業等に当たる郵便業務を実施していたほか、郵便貯金や簡易生命保険の取扱いに関する業務等を実施していたが、特別会計に属していた権利及び義務は、他の会計に属したものを除き郵政公社が承継して、特別会計は15年4月1日に廃止された。
 そして、この間の郵便物の引受物数は、郵便料金を値上げした昭和51、56、平成6各年度に一時的に減少しているものの、13年度までは増加傾向にあったこともあり、特別会計の収支は郵便料金の値上げに伴って改善されていた。
 しかし、10年度以降の特別会計、15年4月1日から19年9月30日までの郵政公社のそれぞれの郵便業務の収支状況を年度ごとにみると、10、11、12、14、19各年度で収支が赤字となっていたが、郵政省、総務省郵政事業庁及び郵政公社は郵便料金の値上げは行っていなかった。

(2) 民営分社化後の収支状況

ア 事業会社の損益計算書等

 事業会社の損益計算書についてみると、21年度に特別損失を819億円計上したことから特別損益が803億円の赤字となっており、22、23両年度には営業損益でそれぞれ1034億円、223億円の赤字を生じていて、3か年度にわたって当期純損失を計上していた。これは、後述のとおり、郵便物の引受物数が減少したことにより目的内業務に係る収益が減少したことに加えて、JPEXの設立や宅配便事業の経営不振によるものであると考えられる。

イ 株主資本の推移

 事業会社は、 のとおり、事業会社の株主である日本郵政に、一部上場企業の一般的な配当性向に準じた配当をするとして、19、20両年度においては当期純利益のおおむね25%に相当する金額をそれぞれ翌年度に配当していた。

表 株主資本等変動計算書の推移
(単位:億円)

年度 株主資本
  資本金 資本余剰金 利益剰余金
資本準備金   繰越利益剰余金(△繰越欠損金)
期首残高 剰余金の配当 当期純利益(△当期純損失)
平成19年度 2,694 1,000 1,000 694 694
20年度 2,819 1,000 1,000 819 694 △173 298
21年度 2,269 1,000 1,000 269 819 △74 △474
22年度 1,915 1,000 1,000 △84 269 △354
23年度 1,870 1,000 1,000 △129 △84 △45

 しかし、21年度から23年度にかけては、当期純損失を計上していたことから、日本郵政への配当を行わなかった。
 事業会社は、21年度に特別損失を計上した後、22、23両年度に営業損失を計上したことにより、株主資本の減少が続いており、20、21両年度に日本郵政に対してそれぞれ173億円、74億円、計247億円の配当を行っているものの、23年度末時点においては、129億円の繰越欠損金を計上していた。
 上記の繰越欠損金を早期に解消することは、商号変更後に事業会社を吸収合併して設立した日本郵便にとって、ユニバーサルサービスである郵便事業を実施するための安定的な経営基盤の確立のためにも必要である。

(3) 21年度以降の収支悪化要因について

 事業会社は、前記のとおり、21年度以降、収支が悪化しており、その要因を分析すると、目的内業務の郵便物の引受物数が減少したことにより目的内業務に係る収益が減少したことに加えて、次のとおり、JPEXの設立及び宅配便事業の統合の経緯が大きな要因になっており、目的外業務の実施について、目的内業務の遂行に支障のない範囲内で営むことができるとされていた郵便事業株式会社法の趣旨を損ないかねない状態となっていた。

ア 特別損失の発生状況

 JPEXは、事業会社と日通の1年当たり平均引受物数の合計個数を処理することを前提として設立されており、21年度には3億6000万個を引き受けることとして、営業収益(売上高)を2007億円、当期純損失を207億円とする事業計画を策定していた。
 しかし、JPEXは21年4月に日通から宅配便事業を承継して業務を開始したが、前記のとおり、21年10月に予定していた事業会社からJPEXへの宅配便事業の承継は実施できなかった。
 上記のため、21年度のJPEXの実際の引受物数は1億9218万個で、売上高は1075億円にとどまり、売上原価に1537億円を要したため、営業損失は587億円、当期純損失は599億円と事業計画の当期純損失の額を大幅に上回るものとなった。JPEXの経営状況は22年度も同様の状況が継続したため、解散した同年8月時点での当期純損失は235億円となっていた。
 そして、事業会社は、21年11月にJPEXの資金繰りに問題が生じ、JPEXから運転資金の借入れの申込みがあったことを受けて、21年11月から22年8月までの間に延べ1458億円の融資を行っており、JPEXの解散時点でそのうち354億円が回収不能となった。
 また、事業会社は、前記のとおり、宅配便事業のJPEXへの承継に係る大臣認可を得られなかったため、事業会社の宅配便事業をJPEXに承継させることができず、20年8月に締結した契約を履行できなかったことから、日通から21年10月に日通が保有するJPEX株式の買取請求を受け、同年12月に、20万株を45億7060万円で買い取った。
 以上のとおり、JPEXの経営状況が悪化しており、JPEXによる債務の返済に重大な問題が生じる可能性が高かったことから、事業会社は、21年度決算において、上記の融資額等のJPEXに対する債権全額である409億円に対して貸倒引当金を計上し、貸倒引当金繰入額として特別損失に計上した。また、事業会社が宅配便事業をJPEXに承継させることができなかったことにより、JPEXの財政状態が悪化して、JPEXの株式の実質価額が著しく低下したため、事業会社が保有しているJPEXの全株式の価額に相当する375億円全額を減損処理して関係会社株式評価損として特別損失に計上した。以上のことなどから、特別損益の合計額は803億円の赤字となり、事業会社の21年度決算は当期純損失474億円を計上していた。

イ 収益について

(ア) 引受物数と収益との関係について

 目的内業務である郵便物の引受物数は、13年度までは増加していたものの、14年度以降、毎年度減少して23年度は191億通となっており、13年度の263億通に比べて27.3%減少していた。
 そして、ここ数年の郵便物の引受物数が減少している主な理由は、事業者等から顧客に送付される各種明細書等をインターネットを活用して閲覧することが普及したことなどの影響を受けていることによるもので、このような状況で郵便料金の値上げを行うことは、インターネットを活用したサービスへの移行を一層促進させ、郵便物をより減少させることになりかねない状況となっている。
 上記のこともあり、22、23両年度の営業収益は、前年度に比べてそれぞれ331億円及び150億円減少していたが、特に22年度の営業収益が減少した要因は、郵便物の収益が事業計画よりも182億円小さく、前年度に比べても618億円減少したことによるものであった。

(イ) 換算業務量による分析

 事業会社が社内における業務管理を推進するための指標として算出していた業務量を示す数値(以下「換算業務量」という。)によれば、21年度以降、宅配荷物の引受物数が増加したことにより、換算業務量は毎年度増加していたが、22年度には、後述のとおり、人件費等の営業原価が増加していたことから、JPEXからの宅配便事業の承継後に、事業会社の収益性が低下し、収支が悪化したと認められる。

(ウ) 宅配荷物の配達遅延について

 事業会社は、22年7月に、JPEXから宅配便事業を承継した際、JPEXから宅配荷物のみを取り扱うこととして承継した統括支店であるターミナル支店の一部において、宅配荷物の仕分に用いる区分機の機能・特性の理解が十分でなく、宅配荷物の仕分作業を迅速に行えなかったことなどから、宅配荷物の配達について大幅な遅延を生じさせていた。
 事業会社は、上記の遅延により、差出人等に対して約8億円の損害賠償金を支払ったとしているほか、それを契機として一部の顧客を失ったことも想定され、その影響額は確定できないものの、事業会社の収益に影響を与えることになったと思料される。

ウ 費用について

 事業会社が22年度に営業損益における巨額な赤字を発生させた大きな要因の一つは、前年度に比べて1079億円増加した営業原価であり、このうちの大半を人件費、集配運送委託費等が占めていた。

(ア) 人件費

 人件費は、次のような要因などから、多数の要員を配置する必要が生じたため、前年度に比べて315億円増加していた。

〔1〕 JPEXから宅配便事業を承継したことで増加した宅配荷物を既存の統括支店のみでは仕分けられなかったことから、JPEXから宅配荷物の取扱いのみを行う21ターミナル支店の運用のために、JPEX時代から当該支店で雇用されていた期間雇用社員の一部を事業会社において雇用したこと

〔2〕 22年7月にJPEXから宅配便事業を承継した際に、前記のとおり、宅配荷物の配達について大幅な遅延が発生したことから、その混乱を収拾するための要員を増員したこと、また、その後、同様の事態を生じさせないために手厚く要員の配置を行ったこと

(イ) 集配運送委託費

 事業会社は、郵便物等運送委託法(昭和24年第248号)に基づき、郵便物等の取集、運送及び配達業務を運送業者等に委託しており、これらの委託に要した集配運送委託費には、郵便物の取集業務及び宅配荷物等の配達業務に係る集配委託業務と、郵便物、宅配荷物等の運送業務に係る運送委託業務があるが、いずれも22年度以降増加していた。

〔1〕 集配委託業務集配委託業務のうち、宅配荷物等の配達業務は、統括支店から集配支店に運送された宅配荷物の配達及び差出しを希望する顧客の指定場所での引受けを行うものなどで、各支店が運送業者と締結して実施していた。
 そして、事業会社は、JPEXからの宅配便事業の承継に当たって、自らの社員及び既存の委託先だけでは増加した宅配荷物の配達、集荷が行えなかったことから、新たな委託先との契約を締結したため、前年度に比べてこれらの委託費用が156億円増加した。

〔2〕 運送委託業務運送委託業務に要する費用は、JPEXからの宅配便事業の承継により、郵便物と宅配荷物とで異なる送達日数をそれぞれ確保するため、郵便物と宅配荷物等を同一運送便に積載できない場合が多く発生したこと、宅配荷物の引受物数が22年度は前年度に比べて47.3%増加したことに伴って運送便数が増加したことにより、前年度に比べて391億円増加していた。

(4) 収支改善策の実施状況

 事業会社は、前記のとおり、22年度に営業損失を生じたため、総務大臣からその要因分析、収支改善策等に関する報告徴求が出されたことに対して、23年1月に報告書を作成して総務大臣に提出したが、当該報告書において行うとしていた収支改善策の実施状況は次のとおりであった。

ア 人件費について

 賞与を1.3か月分削減したことなどにより前年度に比べて348億円、ターミナル支店の大半を廃止したことに伴い、増員が必要となった要員の配置を改めたことなどによって、非正規社員に要する人件費を前年度に比べて137億円節減した。

イ 集配運送委託費について

 統括支店相互間で宅配荷物等を運送する運送便において、23年8月以降、JPEXから宅配便事業を承継する以前と同様に、郵便物と宅配荷物を同一運送便に積載できるようにしたことなどにより、前年度に比べて28億円節減した。
 そして、本院は、事業会社に対して24年6月に、会計検査院法第36条に基づき「宅配便事業等に係る運送便の経済的かつ効率的な運用について」において、宅配便事業等の実施に当たって、宅配荷物等の運送を行うため委託契約により統括支店と集配支店間を運行する運送便の積載率を常時把握するなどして、運送委託費の節減を図るとともに、その余積を活用して運送便を効率的に運用するよう意見を表示した(前掲意見を表示し又は処置を要求した事項参照 )。そして、事業会社は、これに対する処置を講ずる取組を進めていた。

ウ 取引条件等の見直し

 JPEXから移行した顧客の一部の取引条件が採算性の面で問題があったことなどを受けて、順次これらの取引条件を見直したことにより、宅配荷物については計画を上回る収益を計上していた。

(5) 平成24年度の収支見通し

 事業会社は、前記23年1月の総務大臣に対する報告において、24年度の営業損益の黒字化、27年度の宅配便事業の営業損益の黒字化を目指すこととして、上記のとおり、様々な施策を実施していた。そして、24年度事業計画において、24年度の収支見通しについて、収益については前年度実績に比べて411億円の減少を見込み、費用のうち、人件費については前年度実績に対して433億円の節減、集配運送委託費については150億円の節減を図るとしていた。

(6) 局会社と事業会社の合併の影響

ア 局会社の郵便局窓口の営業時間

 24年6月現在、ゆうゆう窓口が設置されている事業会社の支店に併設された郵便局(以下「併設郵便局」という。)における郵便窓口のうち、平日に時間延長を行っている併設郵便局は945局、土曜、休日に郵便窓口の営業を行っている併設郵便局はそれぞれ375局、113局となっていた。
 日本郵便の業務においては、これらの分担を整理して、同一時間帯に双方の窓口が営業を行っている時間を削減することで、郵便事業等の収支の改善に寄与することが可能になることが見込まれる。

イ 郵便事業の今後の収支

(ア) 目的内業務の収益

 目的内業務である郵便物の引受物数は、20年度から23年度まで年平均3.4%減少しているが、これは、前記のとおり、インターネットを活用した各種請求書等の閲覧などが普及しつつあることなどによると思料され、現時点において、目的内業務である郵便物の引受物数が下げ止まる傾向はまだ見込めない状況である。

(イ) 目的外業務の収益

 目的外業務である宅配荷物の引受物数は22年度に前年度比47.3%、1億1030万個、23年度も11.4%、3927万個増加しており、「ゆうメール」についても22年度に前年度比3.1%、8094万通、23年度も9.5%、2億5057万通増加しているが、いずれも顧客ごとの差出条件や個数に応じて設定する個別相対運賃を適用した契約の件数が23年度に前年度の契約件数を上回って、順調に新規の顧客を獲得しており、事業会社は、宅配便事業等を引き続き成長が見込める事業と見込んでおり、局会社とも協力して積極的な営業を展開していた。

 事業会社は、25年度以降も、目的内業務に係る収益は減少が見込まれることから、顧客のニーズに対応した新規のサービスの開発による収益の増加に加えて、生産性の向上による更なる費用の節減を図る必要があるとしていた。

4 所見

 事業会社は、郵便事業を担う我が国唯一の事業主体であり、安定的な経営基盤の確立及び効率的な業務運営が求められていたが、22、23両年度決算において営業損益で赤字を発生させたことから、収支の改善が喫緊の課題となっていた。そして、この課題の解決は日本郵便においても重要なものになると思料される。
 今回、本院は、事業会社の収支状況を分析して、収支を悪化させていた要因を確認するとともに、事業会社の宅配便事業のJPEXへの承継及びJPEXの宅配便事業の事業会社への承継に係る計画並びに今後の収支改善に係る計画が適切に実施されてきたかなどについて検査したところ、前記のような状況が見受けられた。
 そして、事業会社の収支の悪化要因は、主に、目的外業務である宅配便事業において、日通との共同出資でJPEXを設立し、その後、JPEXから宅配便事業を承継したことにより、宅配便事業の収支が悪化したことが、主な要因となっていた。したがって、目的外業務である宅配便事業で赤字を計上する状況が継続することは、目的内業務でありユニバーサルサービスを義務付けられている郵便事業を維持していく上で支障を来すおそれがあり、日本郵便が今後とも宅配便事業を実施するに当たっては、事業会社の計画を着実に遂行するなどして収益を向上させるとともに、費用の節減を図ることで、できる限り早く収支を改善する必要があると認められる。
 また、郵便物の引受物数が長期的に減少している現状を鑑みると、郵便事業については、一層の引受物数の減少を招く可能性があることなどから、郵便料金を値上げすることにより、以前のように収支の改善を図ることは難しい状況である。
 事業会社は、上記の状況を踏まえ、23年度決算において、目的内業務の営業収益が引き続き減少している中で、目的外業務も含めて営業原価と販売費及び一般管理費のうち6割を占めている人件費及び経費の削減努力等により営業損失を前年度の1034億円から223億円へと811億円減少させた。そして、そのうち348億円は、前記のとおり、賞与の削減によるものであったが、残りの463億円は翌年度以降も削減効果が継続する費用であったことから、24年度の事業計画において、営業収支の黒字化の見通しを立てていた。そして、宅配便事業については、郵便のユニバーサルサービスを支える収益源となるよう収支改善に取り組み、27年度に営業損益の黒字化を目指すとしていた。
 しかし、宅配便事業については、短期間に収支を黒字化することは困難な状況であることに加えて、目的内業務に係る毎年500億円程度の収益の減少傾向には歯止めがかかっていないことから、局会社との合併という収支の改善要因があるものの、賞与の削減による収支改善策を取りやめた場合には、継続的に収支を健全に保つことができるかについては予断を許さない状況である。
 本院は、事業会社から郵便事業等を承継する日本郵便の今後の経営に当たって、事業会社と局会社の合併による間接部門の共通化による経費節減、情報の共有化等の営業力強化による収益の向上、郵便窓口業務の分担整理による経費節減等、事業会社が掲げた収支改善策の実施状況や局会社との合併の効果について検査していくこととする。
 そして、事業会社から郵便事業等を承継する日本郵便においては、郵便事業株式会社法と同じ事業目的の規定を置く日本郵便株式会社法(平成17年法律第100号)の趣旨を損なうことなく目的内業務を今後とも維持していくためには、宅配便事業の収支を改善し、その収支を今後とも健全に保つ必要があることから、JPEXから宅配便事業を承継した際などのように送達日数等のサービス内容を変更する際はその収支に与える影響を十分に検討することはもとより、次のような取組を行うなどして、経営状況の改善に向けた一層の努力が必要である。

ア 収益面では、自ら定めた配達日数や条件などのサービス内容を適切に維持して顧客の信頼を得るとともに、目的内業務及び目的外業務のいずれにおいても顧客の需要に対応したサービスを開発すること、また、局会社と合併する効果を生かして一層の営業努力を行って、収益の拡大を図ること

イ 費用面では、目的内業務の郵便物の引受物数の減少に応じた要員の適切な配置を常に検討して生産性の向上を図るほか、多額に上る集配運送委託費の節減に努めること、また、局会社との合併によって業務の重複を解消することで費用の節減を図ること

 本院としては、事業会社における郵便事業等の運営に対して行ってきた検査と同様の視点から、日本郵便に国が投じた出資金が毀損していないか、また、ユニバーサルサービスとしての郵便事業が適切に実施できるように郵便事業等が健全に経営されているかなどについて、引き続き注視していくこととする。