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  • 平成24年度 |
  • 第3章 個別の検査結果 |
  • 第1節 省庁別の検査結果 |
  • 第6 法務省 |
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

(3) 刑事施設等に勤務する常勤医師が給与の支給を受けて行っている外部研修について、研修が適正に行われ、給与の支給が適正なものであることを確認できるよう、研修期間中の勤務時間の管理、研修内容の把握等を適切に行う方策を検討し、刑事施設等に対して指導を行うよう意見を表示したもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)矯正官署 (項)矯正官署共通費 (平成21年度〜24年度国庫債務負担行為) ((組織)法務本省 (事項)法務省施設整備)
部局等
法務本省、26刑事施設等
常勤医師の外部研修の概要
医療技術の維持向上等を目的として、勤務時間中に、大学医学部、大学病院等の外部医療機関等において行われる研修
外部研修を行っていた常勤医師の延べ人数
135名
上記の常勤医師に対して支給された給与の総額
29億1791万余円(平成22年度〜24年度)
上記のうち勤務時間の管理、研修内容の把握等が適切に行われていない外部研修に係る給与の総額
5億9965万円

(前掲の「刑事施設等の常勤医師が、許可を受けて行うこととされている外部研修を行っておらず、正規の勤務時間中に勤務していなかったのに、勤務しなかった時間に係る給与を減額することなく支給していたもの」参照)

【意見を表示したものの全文】
刑事施設等の常勤医師の外部研修制度の運用について

(平成25年10月31日付け 法務大臣宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。

1 刑事施設等の常勤医師の外部研修制度の概要等

(1) 刑事施設等の常勤医師の概要等

貴省の施設等機関である刑務所、少年刑務所及び拘置所の刑事施設、少年院及び少年鑑別所(以下、これらを合わせて「刑事施設等」という。)は、「刑務所、少年刑務所及び拘置所組織規則」(平成13年法務省令第3号)又は「少年院及び少年鑑別所組織規則」(平成13年法務省令第4号)により、保健、防疫、医療等に関する事務を所掌する医務部門を設置し、同部門に常勤で勤務する医師又は歯科医師(以下、これらを「常勤医師」という。)を配置している。

常勤医師は、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(平成17年法律第50号)の規定等に基づき、刑事施設等において、被収容者が負傷し、又は疾病にかかっているときなどに診療を行うなどの被収容者の健康を保持するための業務を行っている。

そして、常勤医師には国家公務員法(昭和22年法律第120号。以下「公務員法」という。)、一般職の職員の給与に関する法律(昭和25年法律第95号。以下「給与法」という。)、一般職の職員の勤務時間、休暇等に関する法律(平成6年法律第33号。以下「勤務時間法」という。)等が適用され、刑事施設等は常勤医師の勤務時間の管理等を行い、また、所定の給与を支給している。

(2) 外部研修の概要等

常勤医師は、医療技術の維持向上等を目的として、勤務時間中に、大学医学部、大学病院、総合病院等の外部医療機関等における研修(以下「外部研修」という。)を行うことが認められている。

外部研修を行うに当たっての手続等は、「医療職俸給表(一)適用職員の外部医療機関等における研修について(通知)」(平成13年12月17日付け法務省矯総第4293号。以下「旧通知」という。)等において次のように定められていた。

① 刑事施設等の長(以下「施設長」という。)は、常勤医師が外部研修を行うことを希望する場合は、研修目的、研修先、研修指導者名、研修日・時間等を記載した研修計画書(以下「計画書」という。)を事前に提出させる。

② 施設長は、計画書を審査した上で、外部研修を許可することを相当と認めた場合は、勤務命令簿により研修命令を行う。

③ 施設長は、研修命令に基づき外部研修が行われた場合は、当該研修終了後、常勤医師から、研修目的、研修期間、研修先、研修指導者名、研修内容等を記載した研修結果報告書(以下「報告書」という。)を提出させる。

そして、旧通知は、平成23年6月21日に廃止され、同日以降は、「医療職俸給表(一)適用職員の外部医療機関等における研修について(通知)」(平成23年6月21日付け法務省矯総第3649号。以下「新通知」という。)が適用されることになった。

新通知では、外部研修を行うに当たっての手続については従前どおりとしたが、報告書の様式については、記載事項を研修日・時間及び研修内容(研修成果)と変更するとともに、従前は常勤医師本人の記載欄しか設けられていなかった点を改めて、報告書の記載内容について研修先の長その他これに準ずる者(以下「研修先の長等」という。)の署名押印欄を新たに設けて、報告書の記載内容について研修先の長等の証明を受けることとされている。

また、新通知と同時に発した事務連絡によれば、常勤医師は、報告書が当該研修命令を履行したことの証拠となることを踏まえて、明瞭かつ詳細に必要事項を記載することとしている。

そして、勤務時間法、人事院規則15—14(職員の勤務時間、休日及び休暇)等によれば、日常の執務を離れて行う外部研修については、許可を受けた課業時間が当該職員に割り振られた正規の勤務時間とされている。

また、公務員法では、一般職の国家公務員である職員は、勤務時間中職務に専念しなければならないこととされており、給与法等により、休日である場合又は休暇による場合その他その勤務しないことにつき特に承認があった場合等を除いて正規の勤務時間中に勤務しなかった時間は、給与額を減額して支給することなどとされている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、刑事施設等の常勤医師が、許可を受けて行うこととされている外部研修を行っておらず、正規の勤務時間中に勤務していなかったのに、勤務しなかった時間に係る給与を減額することなく支給していた事態を平成22年度決算検査報告及び平成23年度決算検査報告に不当事項として掲記している(平成22年度決算検査報告参照 及び 平成23年度決算検査報告参照 )。また、25年次の検査においても、同種事態が見受けられた。

これらの事態の発生原因は、常勤医師において国家公務員の服務規律を遵守することの認識が欠けていたこと、刑事施設等において外部研修をその目的に沿って適切に行うよう常勤医師に対して十分な指導を行っていなかったこと、外部研修の実施状況を適切に把握していなかったことなどであった。

貴省は、旧通知、新通知等を各刑事施設等に対して発して、外部研修を行うに当たって、計画書、報告書等を適切に提出することを指示するなど、適正な外部研修の実施について指導を行っているところであるが、依然として前記のように、外部研修が適正に行われていないなどの事態が見受けられる。

そこで、合規性、有効性等の観点から、刑事施設等において外部研修の実施状況を適切に把握しているかなどに着眼して、26刑事施設等(注1)において、22年4月から25年3月までの期間に在籍した常勤医師延べ148名のうち外部研修を行っていた延べ135名について、22年4月から25年3月までの間に支給された給与の総額29億1791万余円を対象として検査を行った。

検査に当たっては、刑事施設等から提出された計画書、報告書等を確認したり、関係職員から外部研修の実施状況を聴取したりするなどして会計実地検査を行った。

(注1)
26刑事施設等  栃木、八王子医療、府中、新潟、静岡、金沢、大阪医療、和歌山、広島、高松、長崎各刑務所、奈良少年刑務所、多摩、関東医療、神奈川医療各少年院、新潟少年学院、湖南学院、京都医療、浪速両少年院、和泉学園、丸亀少女の家、横浜、静岡、京都、大阪、高松各少年鑑別所
(検査の結果)

検査したところ、前記の常勤医師延べ135名に対して、22年4月から25年3月までの間の外部研修を行っていた課業時間に係る給与として総額5億9965万余円が支給されていたが、次のとおり当該外部研修の実施状況を適切に把握していないなどの事態が見受けられた。

(1) 外部研修中の勤務時間の管理等について

26刑事施設等は、外部研修を許可された常勤医師延べ135名が、計画書により許可を受けた研修先において、許可された研修日・時間どおりに適正に外部研修を行ったとしていた。

しかし、26刑事施設等は、上記の常勤医師延べ135名について研修先への出欠状況、研修の開始時刻・終了時刻等の日々の研修の実施状況を全く把握していないなど、常勤医師の外部研修中の勤務時間の管理等を行っていなかった。

このように、勤務時間の管理等を適切に行っていなかったため、現に、次のような不適切な事態が生じていたが、刑事施設等では、当該事態を全く把握していなかった。

① 計画書により許可を受けていた研修先で外部研修を行わず、正規の勤務時間中に勤務しなかったもの

3刑事施設等(注2)該当する常勤医師3名

② 計画書により許可を受けていた研修先以外で外部研修を行っていたもの

2刑事施設等(注3)該当する常勤医師2名

また、3刑事施設等(注4)は、常勤医師6名に対して、外部研修中の勤務時間の管理等が著しく困難であり客観的に研修の実施状況を確認できない自宅又は図書館を研修先として外部研修を許可していた。

(注2)
3刑事施設等  府中刑務所、奈良少年刑務所、大阪少年鑑別所
(注3)
2刑事施設等  府中刑務所、関東医療少年院
(注4)
3刑事施設等  八王子医療刑務所、静岡、高松両少年鑑別所

上記について一例を示すと次のとおりである。

<事例1>

X刑事施設等のA常勤医師は、国立大学法人B大学において週2日の終日、外部研修を行うとする計画書を提出し、外部研修の許可を受けていた。しかし、A常勤医師は、外部研修を行うとする週2日のうち1日については、B大学での研修を行わず、A常勤医師から相談を受けた研修指導者の承認の下、A常勤医師の実家である医療機関で外部研修を行っていた。

しかし、X刑事施設等は、このような事態を全く把握していなかった。

(2) 研修内容の把握について

26刑事施設等は、外部研修を許可された常勤医師から提出された報告書により研修内容を把握しているとしていた。

しかし、報告書に記載された研修内容は、報告書が現行の外部研修制度上、研修内容を把握する唯一の手段であるのに、そのほとんどが1行から数行程度、概括的な内容を記載しているのみで、研修期間中の具体的な研修内容、研修成果等を確認できるものとはなっておらず、研修内容の把握が適切に行われているとは認められない状況であった。また、継続して外部研修を行っている常勤医師から、研修終了の都度提出される報告書について、研修内容欄に記載されている文言が、毎回、全く同一であるなどの事態が相当数見受けられた。

また、新通知により、報告書の記載内容について研修先の長等の署名押印による証明を受けることとしたのに、6刑事施設等(注5)の常勤医師17名については、研修先の長等に全研修日について責任をもって証明できないなどの理由により証明を拒否されるなどしたため、外部研修の実施状況を把握していない施設長が署名押印していたり、3刑事施設等(注6)の常勤医師3名については、研修先の長等の署名押印欄がない旧様式を使用していたりしていた。

さらに、12刑事施設等(注7)の常勤医師21名については、研修終了後に報告書を提出していなかったにもかかわらず、刑事施設等において督促を行っていなかったため、会計実地検査時点においても、依然として報告書が提出されていなかった。

(注5)
6刑事施設等  八王子医療、大阪医療、広島各刑務所、関東医療少年院、和泉学園、高松少年鑑別所
(注6)
3刑事施設等  高松、長崎両刑務所、和泉学園
(注7)
12刑事施設等  栃木、八王子医療、府中、新潟、静岡、大阪医療、広島各刑務所、多摩、関東医療両少年院、湖南学院、横浜、静岡両少年鑑別所

上記について一例を示すと次のとおりである。

<事例2>

Y刑事施設等のC、D両常勤医師は、1回の研修期間を1年間とする外部研修を継続して行い、研修終了の都度、報告書を提出していたが、その研修内容欄には、2名それぞれが毎回、全く同一の文言を記載していた。

そして、その記載された文言は、1名については、「産婦人科一般臨床」、他の1名については、「内科臨床一般につき、実践的な知識の獲得及び技量の向上に努めた。」というものであり、研修期間中の具体的な研修内容、研修成果等を確認できるものではなかった。

(改善を必要とする事態)

以上のように、刑事施設等において、外部研修中の勤務時間の管理、研修内容の把握等が適切に行われていないにもかかわらず、外部研修が研修計画どおりに適正に行われたとしていたり、一部の刑事施設等において、報告書の記載内容について研修先の長等の証明を受けることとした新通知による改正の効果が発現しない取扱いが行われていたりしている事態は適切とは認められず、改善の要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、26刑事施設等において、外部研修制度の運用についての理解が十分でなかったことにもよるが、貴省において、研修期間中の勤務時間の管理、研修内容の把握等を適切に行わなければならないとの認識が欠けており、刑事施設等に対して適切な指導を行っていなかったことなどによると認められる。

3 本院が表示する意見

外部研修については、常勤医師の具体的な研修目的が多様であり、研修目的に応じて研修先が多岐にわたること、研修先の好意により当該研修先での研修が認められる場合もあり、研修先に過度の負担とならないよう考慮する必要があることなどの検討すべき点も多いが、外部研修は、給与の支給を受けて行うものであることに鑑み、研修期間中の勤務時間の管理、研修内容の把握等が適切に行われる必要がある。

ついては、貴省において、外部研修が適正に行われ、これに従事する常勤医師に対する給与の支給が適正なものであることを確認できるよう、研修期間中の勤務時間の管理、研修内容の把握等を適切に行う方策を検討し、刑事施設等に対して指導を行うよう意見を表示する。