東日本大震災からの復旧・復興事業に関して、効率性、有効性等の観点から、被災及び被災に対する復旧の状況はどのようなものとなっているかなどに着眼して、23、24両年度に東日本大震災復興関係経費の予算が措置されている16府省庁等を24年報告に引き続き対象として検査するとともに、特定被災自治体である8道県及び100市町村を対象として会計実地検査を行った。また、福島県については、実態調査を実施した。
検査結果の概要は、次のとおりである。
死者、行方不明者等の人的被害は、いまだ全容の把握に至っていないが、死者15,883人、行方不明者2,656人(25年8月9日現在)等となっていて、このほか、震災関連死の死者数が2,688人(25年3月31日現在)となっている(6008参照)。
避難所は23年12月末までにほぼ解消されているが、25年6月末現在、親族・知人宅や応急仮設住宅等において生活している避難者は、全国で約29万8000人に上ることが把握されている。このうち、東北3県の避難者数の割合は78.5%とその大多数を占め、特に福島県では、原子力発電所の事故等により、約5万3000人もの住民が他県等における長期の避難を余儀なくされている(6008-1-1-a-i参照)。
建物への被害は、全容の把握には至っていないが、全壊126,483戸、半壊272,287戸等(25年8月9日現在)となっている(6008-1-1-i参照)。
災害廃棄物等の量は、25年6月末現在、岩手県532万t、宮城県1796万t、福島県482万t、東北3県以外の10道県148万t、計2960万tとなっており、その大多数を東北3県が占めている。2960万tの処理・処分状況についてみると、岩手県293万t、宮城県1325万t、福島県212万t、東北3県以外の10道県141万t、計1973万tが処理・処分済みとなっている(6008-1-1-i-u参照)。
応急仮設住宅は、東北3県において53,312戸、その他の4県を合わせて計53,627戸の設置が必要とされており、25年4月1日現在、必要戸数の99.8%が完成したとしている。会計実地検査を行った100市町村においては、必要戸数315戸の全てが完成し、入居戸数は167戸、空き戸数は148戸、空き戸数のうち59戸は閉所となっていた(6008-1-1-u参照)。
災害弔慰金等の支給等の件数及び金額は、25年3月末現在、災害弔慰金19,257件、支給額573億余円、災害障害見舞金72件、支給額1億余円、災害援護資金26,833件、貸付額461億余円となっている。また、被災者生活再建支援金の支給世帯数及び支給額は、基礎支援金186,491世帯、1480億余円(国庫補助金相当額1184億余円)、加算支援金98,319世帯、1163億余円(同930億余円)、延べ284,810世帯、計2643億余円(同2115億余円)となっている(6008-1-1-u-1参照)。
国は、復興事業に関する経理を明確にすることを目的として、24年度に復興特会を設置し、当初予算3兆7753億余円、補正予算1兆1952億余円をそれぞれ措置するとともに、財源については、これまで確保されている19兆円程度に加えて、日本郵政株式会社の株式の売却収入として見込まれる4兆円程度等を確保することにより、計25兆円程度を確保することとしている。
また、福島対応体制の抜本的な強化策として、復興庁は、福島総局を福島現地に設置するとともに、総括本部を復興庁に設置した(6008-1-2-i参照)。
そして、除染は直ちに取り組む必要のある喫緊の課題であることから、国は、23年8月26日に緊急実施基本方針を策定するとともに、同年8月30日に放射性物質汚染対処特措法を公布し、計画的かつ抜本的に除染等を推進することとした。
また、原子力災害の被災者に対する支援として、国は、避難住民に係る事務を避難先の地方公共団体において処理することができる特例を設けるなどの法制度を整備するほか、復興基本方針や福島基本方針を踏まえて、災害公営住宅の入居資格の特例措置による居住の安定確保、健康不安対策等の各種の取組を実施している(60081-2-i-k参照)。
国は、東日本大震災からの復旧・復興に係る経費として、23年度1次補正で4兆0153億余円、23年度2次補正で1兆9106億余円、23年度3次補正で9兆2438億余円を措置し、さらに、24年度当初予算で3兆7753億余円、24年度1次補正で1兆1952億余円を措置した。
上記24年度復興特会予算の財源についてみると、「復興公債金」2兆4033億余円、子ども手当等の歳出削減見合いなどの「一般会計より受入」1兆9999億余円、「復興特別法人税」5062億余円等が充てられている(6031参照)。
23年度一般会計の予備費及び23年度補正予算、24年度復興特会の予算現額合計19兆8949億余円の24年度末時点における執行状況についてみると、支出済額は15兆3644億余円、繰越額は2兆2030億余円、不用額は2兆3274億余円、また、執行率は77.2%、繰越率は11.0%、不用率は11.6%となっている(Y6035-2-2-a参照)。
23年度一般会計の予算現額14兆9243億余円の24年度末時点における執行状況についてみると、支出済額は12兆2122億余円、事故繰越額は5702億余円、不用額は2兆1417億余円、また、累計執行率は81.8%、事故繰越率は3.8%、累計不用率は14.3%となっている(6035-2-2-a-i参照)。
24年度復興特会の予算現額4兆9706億余円の24年度末時点における執行状況についてみると、支出済額は3兆1522億余円、繰越額は1兆6327億余円、不用額は1857億余円、また、執行率は63.4%、繰越率は32.8%、不用率は3.7%となっている(Y6035-2-2-a-u参照)。
23年度繰越分及び24年度復興特会による事業の実施方法別の予算現額、支出済額及び執行率についてみると、直轄は8194億余円、5098億余円及び62.2%、補助は3兆6643億余円、1兆6566億余円及び45.2%、直轄、補助等は1兆6361億余円、6049億余円及び36.9%となっている。また、補助(基金)、補助(運営費交付金)、出資等の執行率は、23年度繰越分及び24年度復興特会は共にほぼ100%となっている(Y6035-2-2-u参照)。
復興関連基金事業100事業に対する国庫補助金等交付額は3兆1370億余円であり、既存の基金と復興関連基金事業とを区分して経理していない8事業及び25年8月末時点において基金団体から国庫補助金等交付額の全額が国庫に返納された2事業の計10事業を除いた90事業についてみると、国庫補助金等交付額は計2兆8674億余円、24年度末時点における取崩額は計8244億余円、基金事業執行率は平均で28.7%となっている。また、90事業の基金事業執行率別の事業数をみると、90%以上となっているものが3事業ある一方、10%未満となっているものが40事業あった(6035-NUM2-2-e参照)。
23年度3次補正繰越分の基金等を除いた復興施策等の執行状況についてみると、「5 復興施策」の予算現額は2兆2490億余円、支出済額は1兆5741億余円、執行率は69.9%となっている。なお、「6 原子力災害からの復興」は基金等の事業はなく、予算現額は1822億余円、支出済額は324億余円、執行率は17.8%となっている。
そして、24年度復興特会の基金等を除いた復興施策等の執行状況についてみると、「5 復興施策」の予算現額は2兆4968億余円、支出済額は9912億余円、執行率は39.6%となっている。「6 原子力災害からの復興」の予算現額は500億余円、支出済額は152億余円、執行率は30.5%となっていた(6035-2-2-o参照)。
24年11月に、復興推進会議において「基本的な考え方」が決定され、23年度3次補正及び24年度当初予算において各府省庁等が計上した事業のうち、35事業(168億余円)の執行を停止することとした(6035-NUM2-2-k参照)。
執行を停止した35事業を年度別、復興施策等の事業別にみると、23年度3次補正14件、24年度当初予算31件となり、23年度3次補正の14件は不用額として計上し、24年度当初予算の31件は、24年度1次補正において、執行停止額を減額補正することにより執行を停止している。なお、これら45件の事業は、従来、一般会計予算により支出されていたものが多く含まれているため、45件のうち39件の事業に係る経費は、各府省において、改めて復興特会以外の一般会計等に計上して、実施されている。また、45件の事業のほかにも3件の事業が執行を停止している(6035-2-2-k-i参照)。
基金使途通知により、基金の使途についても被災地又は被災者に対する事業に限定することとされたことから、25年8月末時点では、経済産業省において3基金の10事業に係る564億余円を基金団体から返還させて、これを国庫に返還している(Y6035-2-2-k-u参照)。
23、24両年度の復興事業計1,411件のうち、特別交付税等を除く1,401件を復興直結事業、関連事業、混在事業に3分類した上で、関連事業については津波対策事業等とその他事業に細分して、集計し、分析した。その結果、復興直結事業は計912件、関連事業は計353件、混在事業は計136件となっている(Y6035-2-2-k-e参照)。
東日本大震災に対する復興予算の執行状況についても検査を行ったところ、復旧・復興予算の透明性の確保や効果の発現が十分とは認められないものなどが見受けられた(6035-2-2-k-o参照)。
23年度一般会計予算及び24年度復興特会の執行状況について、経費項目別、事業別、実施方法別、復興施策別にみると、おおむね復旧・復興事業が進捗していることがうかがえる一方、津波によって甚大な被害を受けた沿岸地域や原子力発電所の事故に伴う除染に係る事業等、進捗していないものも見受けられる。このようなことから、国は、復旧・復興予算の執行に当たり、今後とも、関係行政機関等が実施する事業の進捗状況を的確に把握するとともに、施策の実施の推進及び総合調整を行いつつ、関係行政機関等との連絡調整を速やかに行い、復旧・復興事業が円滑かつ迅速に実施されるよう努める必要がある。
また、復興事業を実施する各府省庁等関係機関は、復興予算の計上や執行に当たり、効率性、有効性及び透明性の確保はもちろんのこと、事業の優先度等を適切に考慮するとともに当該事業に係る説明責任を果たすことが必要である(Y6035-2-2-ki参照)。
復興推進計画66件に記載されている特例は、特区法等において規定されている21の特例のうち14特例であり、特定被災自治体が作成して認定を受けた復興推進計画に記載された特例数は延べ75件、これらの特例の対象区域とされた市町村数は延べ817市町村となっていた(Y6101参照)。
復興整備協議会を設置した29市町村のうち、28市町村において復興整備計画が作成されていた。また、これらの復興整備計画には復興整備事業5事業に係る延べ612地区等が記載されており、これらはいずれも被害が甚大な東北3県に係るものとなっていた。また、事業別に地区等数が多い事業は、集団移転促進事業、都市施設の整備に関する事業、その他施設の整備に関する事業の順となっている(Y6101-2-3-a-u参照)。
復興庁が通知した計6回の交付可能額は、23年度2510億余円、24年度1兆3191億余円、25年度527億余円、合計1兆6228億余円と多額に上っている。また、事業別にみると、基幹事業に係る交付可能額は1兆4731億余円、効果促進事業に係る交付可能額は1497億余円となっている。
上記の交付可能額計1兆6228億余円を道県別にみると、甚大な被害があった東北3県及び東北3県内の68市町村に対する交付可能額計1兆5794億余円は、全体の97.3%を占めている(6101-2-3-u-a参照)。
40基幹事業について交付可能額からみると、国土交通省所管の災害公営住宅整備事業、防災集団移転促進事業及び道路事業が多額となっていて、住宅やまちづくりのための道路を整備する基幹事業が主に実施されている(6101-2-3-u-i参照)。
効果促進事業に係る計6回の復興交付金の交付可能額は1497億余円となっている。この内訳をみると、効果促進事業(個別配分)に係る交付可能額は300億余円(効果促進事業に係る交付可能額全体に占める割合20.1%)、漁業集落復興効果促進事業に係る交付可能額は、市町村分57億余円(同3.8%)、道県分4億余円(同0.3%)、市街地復興効果促進事業に係る交付可能額は、市町村分1038億余円(同69.3%)、道県分95億余円(同6.3%)となっている(6101-2-3-u-u参照)。
会計実地検査を行った8道県及び100市町村に交付決定された23、24両年度の国庫補助金等は、復興関連基金事業に充てられる国庫補助金等交付決定額1270億余円、復興基金事業についての特別交付税交付額310億円、復興交付金交付可能額429億余円、補助事業等に係る国庫補助金等交付決定額2721億余円及び震災復興特別交付税交付額2809億余円の計7540億余円となっている。これらの資金のうち、繰越額等を除いた交付額等は6971億余円と多額に上っており、交付額等が全体に占める割合は、震災復興特別交付税が40.3%、補助事業等が30.8%、復興関連基金事業が18.2%などとなっている。また、交付額等のうち基金事業に係るものについてみると、復興関連基金事業が1270億余円、復興基金事業が310億円、復興交付金事業が429億余円となり、これらの3事業を合わせた交付額等は全体の28.7%を占めている(6129参照)。
8道県に対する復興関連基金事業に係る国庫補助金等交付額は、14基金で計1270億余円となっており、これら14基金により30事業を実施している。このうち、復興に係る基金事業執行率等を区分して把握することが困難な基金を除いた28事業の交付額等の状況についてみると、国庫補助金等交付額は計1249億余円、24年度末時点における取崩額は計531億余円、基金事業執行率は平均で42.4%となっている。
各復興関連基金事業の24年度末時点における基金事業執行率についてみると、4事業が90%を超えている一方、6事業が10%未満となっていて、著しい開差が見受けられた(6129-2-4-i参照)。
復興基金の創設のために措置された特別交付税1960億円についてみると、東北3県が計1650億円、会計実地検査を行ったその他の6県が計310億円となっていて、東北3県に対する措置額が突出している。また、その他の6県に措置された復興基金計310億円についてみると、6県の復興基金から管内計132市町村へ計175億余円が交付されることとなっている(Y6129-2-4-u参照)。
上記6県及び管内の交付対象市町村である132市町村のうち、24年度末までに復興基金事業を実施しているのは、千葉県及び長野県を除く4県並びに112市町村となっており、20市町村(交付済額計12億余円)は事業が実施されていなかった(6129-2-4-u-i参照)。
復興基金事業に措置された計310億円の24年度末時点における取崩しの状況は、4県が実施した64事業による取崩額が19億余円、112市町村が実施した530事業による支出及び取崩額が51億余円、計71億余円となっている(Y6129-2-4-u-u参照)。
基金型を選択した4県及び26市町村における基幹事業に係る復興交付金基金造成額393億余円のうち、23、24両年度分に係る復興交付金基金造成額は119億余円、24年度末時点における取崩額は48億余円となっていて、復興交付金基金事業執行率は40.8%となっていた(6129-2-4-e参照)。
4県及び26市町村における復興交付金基金による基幹事業の件数は146件となっており、このうち、23、24両年度分の復興交付金に係る事業は102件となっていた。これらの進捗状況についてみると、おおむね工程表どおりに進捗している事業がある一方、完了時期を7か月以上延長している事業や、完了時期が未定となっている事業も見受けられた(Y6129-2-4-e-i参照)。
市街地液状化対策事業を実施している12市における液状化対策事業計画案作成事業14件の24年度末時点における進捗状況についてみると、その多くが地質調査や地盤解析の実施段階にあり、液状化対策工法の選定のための調査や検討に時間を要しているなどしている(Y6129-2-4-e-u参照)。
8道県及び100市町村に対する23年度補正予算により措置された補助事業等に係る国庫補助金等交付決定額は計2202億余円となっており、23年度末までの補助事業執行率は43.8%であるが、24年度末までの補助事業執行率は92.4%と高くなっていた。
また、24年度復興特会予算により措置された補助事業等に係る国庫補助金等の交付を受けたものは8道県及び72市町村であり、国庫補助金等交付決定額は計518億余円、24年度末までの補助事業執行率は49.5%となっており、計252億余円が25年度に繰り越されている(6129-2-4-e-e参照)。
原子力災害関係の事業に係る経費項目別の予算現額は、23年度補正予算9808億余円、24年度復興特会予算5319億余円、計1兆5128億余円となり、また、23年度補正予算の累計執行率は79.8%、24年度復興特会予算の24年度末時点における執行率は38.7%となっている。
また、原子力災害関係の事業に係る経費のうち、補助等及び基金で実施している事業に係る支出済額(23年度補正予算5829億余円、24年度復興特会予算1156億余円)についてみると、23年度補正予算では4725億余円(81.0%)が、24年度復興特会予算では1135億余円(98.1%)が、それぞれ福島県及び管内市町村に対する補助金等として交付されている(Y6129-2-4-o参照)。
除染等の事業の執行状況をみると、23年度補正予算では、23年度末時点における執行率が59.9%、累計執行率が67.5%となっている。また、24年度復興特会予算では、24年度末時点における執行率が37.0%となっている(Y6168-2-5-i参照)。
健康管理・調査事業等に係る23年度補正予算の累計執行率は90.8%、24年度復興特会予算の24年度末時点における執行率は47.8%となっている。
健康管理・調査事業等のうち、基金で実施している事業は、23年度補正予算では9事業、24年度復興特会予算では3事業、計12事業となっており、事業費も多額となっている。このうち、最も予算現額が多額となっている基金の分類は「健康管理」の961億余円で、次に多額となっている「施設整備」の805億余円と合わせると全体の80.9%を占めている。
そして、24年度末時点における基金の取崩しの状況等をみると、基金事業執行率は全体で30.3%となっている(Y6168-2-5-u参照)。
国は、原子力災害からの復興再生については、国政の最重要課題と位置付けて、被災者等に対する各種支援や放射性物質汚染対処特措法等に基づく健康管理・調査事業や除染等の様々な取組を実施している。原子力災害関係の事業に係る経費の23、24両年度の予算現額は、計1兆5128億余円と多額に上っており、国は、自ら取り組むとともに、被災した地方公共団体が行う取組を総力を挙げて支援することとしている。一方、福島県を始めとする被災した地方公共団体では、今まで経験したことのない原子力災害に対して膨大な事業及び予算を執行しており、国からの支援、特に、長期的かつ確実な財源の支援や各種制度の支援を望むとともに、人的支援を望んでいる(6168-2-5-e参照)。