我が国は、国際社会の平和と発展に貢献し、これを通じて我が国の安全と繁栄の確保に資することを目的として、政府開発援助(以下「ODA」という。)を実施している。ODAは、経済協力開発機構(以下「OECD」という。)の開発援助に関する事柄を取り扱う開発援助委員会(以下「DAC」という。)が作成する援助受取国・地域のリストに掲載された開発途上国・地域(以下「開発途上国」という。)への贈与及び貸付けのうち次の3つの要件を満たすものである。
平成4年6月に、ODAの理念(目的、方針及び重点)、援助実施の原則等を定めるものとして、政府開発援助大綱(以下「ODA大綱」という。)が閣議決定された。そして、ODA大綱は、その後の国際情勢の変化等を踏まえた見直しが行われ、ODAの戦略性、機動性、透明性、効率性を高めるとともに、幅広い国民参加を促進し、我が国のODAに対する内外の理解を深めるために、15年8月に「政府開発援助大綱の改定について」が閣議決定されている。政府は、ODA政策の枠組みとして、このODA大綱の下、政府開発援助に関する中期政策、国別援助方針、事業展開計画等を策定しており、ODA大綱を頂点としたODA政策の一貫性を確保することとしている。
22年6月に、外務省は、「ODAのあり方に関する検討 最終とりまとめ」(以下「ODAのあり方に関する検討」という。)を取りまとめて発表しており、これからのODAには、より戦略的、効果的な援助の実施、国民の強力な理解と支持等が必要であるとして、ODAを中核とする我が国の開発協力の理念を「開かれた国益の増進―世界の人々とともに生き、平和と繁栄をつくる―」と提示し、この理念の背景にある基本的考え方として、開発途上国への援助は、「決して先進国から途上国への「慈善活動」ではなく、我が国を含む世界の共同利益追求のための「手段」である」などとしている。
また、政府は、25年6月に、「日本再興戦略」を閣議決定している。この中で、ODAについては、開発途上国の開発に貢献すると同時にその成長を取り込むことで日本経済の活性化にもつなげるべく、経済分野での国際展開支援にODAを積極的、戦略的に活用することなどとしている。
そして、現在のODA大綱は、15年8月に改定されたものであるが、改定後に様々な国際情勢の変化が生じていること、「日本再興戦略」等によりODAの更なる積極的、戦略的活用に係る要請がなされていることなどを踏まえて、政府は、26年3月に、ODA大綱の見直しを行うことを決定し、26年中を目途に閣議決定を行う予定としている。
DACは、OECDの委員会の一つであり、開発途上国に対する援助の量的拡大とその効率化を図ること、加盟国の援助の量と質について定期的に相互検討を行うことなどを目的としている。そして、DACは、毎年、各国から報告された援助実績を取りまとめて、開発協力報告書(以下「DAC報告」という。)として発表している。このDAC報告は、暦年による集計となっていて、開発協力の国際的動向と加盟国の活動概要の報告等が公表されており、DAC加盟国の国際貢献の度合いを測る指標の一つとなっている。
我が国においては、DACへの報告に当たり、公的機関により供与されたODAを把握するために、外務省が各府省庁、都道府県等に対して、「我が国の経済協力実績集計にかかる協力依頼について」(以下「集計依頼文書」という。)により、DAC報告の基礎となるODA事業の実績額、事業概要、対象地域、国等の報告を依頼している。そして、同省は、各府省庁等から提出された資料(以下「DAC基礎資料」という。)と同省におけるODA事業の実績額等の資料とを取りまとめて、我が国の援助実績としてDACに報告している。
ODAのうち、二国間援助である技術協力は、開発途上国の経済及び社会の開発の担い手となる人材を育成するために、我が国の有する技術、技能及び知識を開発途上国に移転し、あるいは、その国の実情に合った適切な技術等の開発や改良を支援するとともに、技術水準の向上、制度・組織の確立・整備等に寄与する援助形態である。
我が国政府が主体となって行っている技術協力の態様としては、留学生受入、研修生受入、専門家派遣、機材供与、調査研究、会議開催支援等がある。
この技術協力は、外務省(実施主体は独立行政法人国際協力機構(以下「JICA」という。)等)に、警察庁、金融庁、総務省、法務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省及び環境省の計11省庁を加えた合計12省庁において、それぞれの所掌事務に係る国際協力として実施されている。
政府全体の一般会計のODAに係る当初予算は、11年度から25年度まで、14年連続の減額となっており、また、国際的にみても、DAC加盟国のODA実績で、2007年(平成19年)から2012年(平成24年)までは5位にとどまっている。しかし、25年度の一般会計のODAに係る当初予算は、政府全体で5572億余円が計上されており、依然として多額かつ重要なものとなっている。このような状況を勘案すると、ODAについて、国民の理解を深めつつ、限られた予算の中で更に戦略的、効果的、効率的な実施等を図っていくことが重要となる。
また、技術協力については、前記のとおり、12省庁において実施されているが、その予算の大部分は外務省が所管しており、本院は、外務省、JICA等が技術協力も含めて行っているODA事業全体について、毎年重点を置いて検査を実施している。そのような中で、本院は、20年1月に、参議院から、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省及び国土交通省の計5省(以下「5省」という。)所管の技術協力の実施状況等について会計検査を行い、その結果を報告するよう要請を受けた。そして、同年10月に、検査の結果を参議院に報告しているところであるが、この報告から既に5年以上が経過し、5省には含まれなかった環境省の技術協力の予算規模が拡大するなど、技術協力をめぐる各種状況は大きく変化してきている。
さらに、前記のとおり、「ODAのあり方に関する検討」や「日本再興戦略」により、今後のODAについての方針等が示されており、26年中を目途にODA大綱の見直しが行われる予定となっている。
そこで、今回、検査の対象を5省から11省庁に広げて、11省庁が実施している技術協力について、合規性、経済性、有効性等の観点から、次のような点に着眼して各省庁横断的に検査を実施した。
ア 11省庁の技術協力に係る予算額、決算額は、どのように推移しているか。また、技術協力による事業の実施状況はどのようになっているか。
イ 11省庁が技術協力に係る予算により実施した事業は、適切に前記のDAC報告に計上される対象となっているか。また、11省庁が技術協力に係る予算以外の予算により実施した事業の中に、ODAの要件を満たしていて、DAC報告の対象に計上することができるものはないか。
ウ 11省庁が実施している技術協力は、ODA大綱等に基づき、計画的に実施されているか。また、実施した技術協力の内容、援助の効果等について、適切な情報の発信が行われているか。
エ 技術協力に係る契約その他の会計経理等は適切に行われているか。また、委託、補助等の相手方において当該技術協力に係る会計経理等は適切に行われているか。
11省庁(警察庁、金融庁、総務省、法務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省及び環境省(各省庁には各省庁の外局等を含む。))が21年度から25年度までの間に実施した技術協力に係る事業(以下「技術協力事業」という。)を対象として検査を実施した。
検査に当たっては、11省庁から調書を徴して、これらの調査、分析等を行うとともに、11省庁及び委託、補助等を受けるなどして技術協力事業を実施している21法人に赴くなどして会計実地検査を行った。また、11省庁所管の事業を実施しているものではないが、DACへの報告、事業展開計画の取りまとめなどを行っている外務省においても会計実地検査を行った。
我が国のODAは、一般会計予算のほか、特別会計予算、出資・拠出国債、財政投融資等によって賄われているが、このうち技術協力については、一般会計予算及び特別会計予算を財源として実施されている(以下、技術協力の財源となる一般会計予算及び特別会計予算を合わせて「技術協力事業予算」という。)。また、一般会計予算におけるODAに係る予算の目の名称には「政府開発援助」という冠が付されているが、特別会計予算においてはこのような冠は付されていない。外務省は、技術協力事業予算を含むODAに係る予算を把握するために、各省庁に作業依頼を行い報告を求めており、この際に各省庁がODAに該当するか否かを判断する基準としてDACによるODAの要件を示している。したがって、特別会計予算については、この作業依頼に対して、各省庁がODAに該当するとして外務省に報告したものが、技術協力事業予算となっている。
21年度から25年度までの間の11省庁における技術協力事業予算の推移についてみると、表1のとおり、21年度の942億余円に対して、25年度は722億余円となっており、全体として2割強の減少となっている。会計別にみると、一般会計予算は、21年度の773億余円に対して、25年度は452億余円となっており、4割強の減少となっている。一方で、特別会計予算は、21年度の168億余円に対して、25年度は269億余円となっており、約6割の増加となっている。これは、経済産業省及び環境省所管のエネルギー対策特別会計の技術協力事業予算が増加したことによるものである。また、同期間の決算額は、計3364億余円となっている。
表1 11省庁における技術協力事業予算の推移(平成21年度~25年度)
省庁名 | 会計名 | 区分 | 平成21年度 | 22年度 | 23年度 | 24年度 | 25年度 | 計 | 省庁別予算額の構成比 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
警察庁 | 一般会計 | 予算額 | 29 | 27 | 14 | 12 | 12 | 96 | 0.03% |
金融庁 | 一般会計 | 予算額 | 49 | 21 | 19 | 17 | 16 | 123 | 0.03% |
総務省 | 一般会計 | 予算額 | 207 | 204 | 169 | 161 | 157 | 901 | 0.25% |
法務省 | 一般会計 | 予算額 | 236 | 228 | 134 | 161 | 157 | 917 | 0.25% |
財務省 | 一般会計 | 予算額 | 717 | 614 | 541 | 485 | 482 | 2,841 | 0.78% |
文部科学省 | 一般会計 | 予算額 | 45,339 | 32,784 | 28,461 | 27,447 | 26,998 | 161,022 | 44.37% |
厚生労働省 | 一般会計 | 予算額 | 1,068 | 833 | 774 | 717 | 654 | 4,049 | / |
労働保険特別会計 | 予算額 | 677 | 642 | 566 | 556 | 541 | 2,984 | / | |
計 | 予算額 | 1,746 | 1,476 | 1,341 | 1,274 | 1,196 | 7,034 | 1.94% | |
農林水産省 | 一般会計 | 予算額 | 2,099 | 1,940 | 1,656 | 1,472 | 1,337 | 8,505 | 2.34% |
経済産業省 | 一般会計 | 予算額 | 26,277 | 19,441 | 17,418 | 17,665 | 15,013 | 94,583 | / |
エネルギー対策特別会計 | 予算額 | 14,857 | 15,072 | 21,707 | 23,777 | 22,798 | 69,963 | / | |
計 | 予算額 | 41,135 | 34,513 | 39,126 | 41,443 | 37,812 | 164,546 | 45.34% | |
国土交通省 | 一般会計 | 予算額 | 609 | 347 | 248 | 214 | 195 | 1,615 | 0.45% |
環境省 | 一般会計 | 予算額 | 762 | 683 | 542 | 270 | 225 | 2,474 | / |
エネルギー対策特別会計 | 予算額 | 1,284 | 1,977 | 4,293 | 3,817 | 3,647 | 12,822 | / | |
計 | 予算額 | 2,047 | 2,661 | 4,835 | 4,087 | 3,872 | 15,297 | 4.22% | |
合計 | 一般会計 | 予算額 | 77,398 | 57,128 | 49,980 | 48,626 | 45,251 | 277,131 | / |
特別会計 | 予算額 | 16,819 | 17,692 | 26,567 | 28,150 | 26,987 | 85,770 | / | |
計 | 予算額 | 94,217 | 74,820 | 76,548 | 76,777 | 72,239 | 362,901 | 100% | |
決算額 | 83,629 | 66,428 | 64,192 | 64,883 | 57,356 | 336,491 | / |
そして、同期間の技術協力事業予算の予算額を省庁別にみると、文部科学省(構成比44.3%)及び経済産業省(同45.3%)が全体の約9割を占めている。文部科学省は独立行政法人日本学生支援機構(以下「学生支援機構」という。)に対して、経済産業省は独立行政法人日本貿易振興機構(以下「ジェトロ」という。)に対して、いずれも技術協力として政府開発援助独立行政法人運営費交付金(以下「技術協力運営費交付金」という。)をそれぞれ交付しているが、11省庁のうち、技術協力運営費交付金を交付しているのはこの2省のみとなっている。
また、同期間の技術協力事業予算の推移を省庁別にみると、環境省は、25年度の予算額(38億余円)が21年度の予算額(20億余円)を大きく上回っており、ほぼ倍増している。これは、同省において、地球環境の保全や地球温暖化対策に係る技術協力事業予算が増加したことなどによるものである。一方、環境省以外の10省庁については、おおむね横ばいで推移している経済産業省を除き、いずれも25年度の予算額が21年度の予算額から2割以上減少している。
11省庁はいずれも、DAC報告の基礎となるDAC基礎資料を作成するに当たり、作成の対象とする技術協力については、技術協力事業予算として計上されているものとしていて、技術協力事業予算に係る決算額を外務省に報告しているとしているが、技術協力事業予算に係る決算額とDAC基礎資料における実績額に差額が生じているものが見受けられた。そこで、11省庁の2012年(平成24年)のDAC基礎資料における実績額を、技術協力事業予算に係る決算額と比較したところ、表2のとおり、11省庁のうち9省において両者に差額が生じている。
表2 技術協力事業予算に係る決算額とDAC基礎資料の実績額(2012年(平成24年))
省庁名 | 技術協力事業予算に係る決算額(a) | DAC基礎資料の実績額(b) | 差額 (a―b) |
---|---|---|---|
警察庁 | 10 | 10 | ― |
金融庁 | 12 | 12 | ― |
総務省 | 142 | 13 | 129 |
法務省 | 136 | ― | 136 |
財務省 | 283 | 138 | 145 |
文部科学省 | 26,479 | 23,255 | 3,224 |
厚生労働省 | 1,311 | 1,252 | 58 |
農林水産省 | 1,407 | 1,408 | △1 |
経済産業省 | 33,237 | 12,987 | 20,250 |
国土交通省 | 190 | 88 | 102 |
環境省 | 3,761 | 3,298 | 463 |
計 | 66,974 | 42,465 | 24,508 |
上記の差額が生じた理由について分析したところ、複数の国を対象とした技術協力事業においてDAC報告の対象とならない国に係る決算額を控除するなどの理由により除外しているものもあったが、警察庁及び金融庁を除く9省において、技術協力事業予算により実施した事業の決算額をDAC基礎資料に計上する際に、計上することができる額の一部を計上していなかった事態が見受けられた。9省は、この理由について、担当者が、技術協力事業に要した庁費や旅費等がDAC報告の対象とならないと認識していたり、国を特定して行う事業だけが二国間援助であると認識していたりなどしていたことを挙げていて、合理的ではない理由により除外しており、DAC報告の対象となる額について十分に理解できていなかった状況が見受けられた。
技術協力事業予算のうち、一般会計予算については、予算の目の名称に「政府開発援助」の冠が付されており、ODAを実施するために計上された予算であることから、また、特別会計予算についても、DACによるODAの要件を満たすものを各省庁が外務省に報告しているものであることから、原則として、全ての決算額をDAC基礎資料の対象とすることができる。そして、DAC報告は、DAC加盟国の国際貢献の度合いを測る指標となるものである。これらのことから、DAC基礎資料に記載される実績額の正確性、ひいてはDAC報告の内容の正確性について、その一層の確保を図る必要がある。
以上のように、11省庁においては、技術協力事業予算として計上している技術協力について、DAC基礎資料から除外すべき合理的な理由があるものを除き、DAC基礎資料の対象とすることが必要である。
前記のとおり、11省庁は、DAC基礎資料を作成するに当たり、作成の対象とする技術協力について、技術協力事業予算として計上されているものとしている。しかし、外務省から11省庁等に発出された集計依頼文書によれば、集計の対象となるものは「政府開発援助の一環として貴府省庁所管の予算から実施した実績」とされ、このうち、技術協力についての提出対象は「二国間の技術協力及び所管される非営利団体による協力」とされており、技術協力事業予算により実施されていることが要件とはされていない。このように、DAC基礎資料への記載の対象となるものの範囲について、11省庁の解釈は、集計依頼文書における要件よりも狭いものとなっている状況であった。
そこで、目の名称に「政府開発援助」の冠が付されていない一般会計予算により実施された事業について、開発途上国向けに実施されているものがないかなどについてみると、ODAの要件を満たしていると思料され、DAC基礎資料に記載することを検討すべきものが一部見受けられた。
また、前記のとおり、技術協力運営費交付金の交付を受けている独立行政法人は、11省庁のうち文部科学省及び経済産業省がそれぞれ所管する学生支援機構及びジェトロの2法人となっている。そこで、11省庁のうち独立行政法人を所管している8省所管の独立行政法人の中期目標等についてみると、ODAの要件を満たしていると思料される事業が独立行政法人運営費交付金を財源として実施されている状況が見受けられた。独立行政法人が独立行政法人運営費交付金により実施しているODAの要件を満たすと思料される開発途上国向けの事業は、その財源が所管省庁から技術協力事業予算として独立行政法人に交付されたものではないことから、DAC基礎資料の対象とされていない。
したがって、技術協力事業予算以外の一般会計予算により実施され、ODAの要件を満たしていると思料される事業、及び独立行政法人運営費交付金を財源として実施され、ODAの要件を満たしていると思料される事業について、DAC基礎資料の対象とすることを具体的に検討するなどして、もって我が国のODAの実態をDAC報告により的確に反映するよう努める必要がある。また、これにより、我が国が従来のDAC報告に記載された規模以上のODAを実施しているという実態をより的確に示すことができることとなり、ひいては我が国の安全と繁栄の確保という事業効果の発現に更に資することとなる。
以上のように、11省庁は、技術協力事業予算として計上していない事業についても、事業内容や対象地域、国からみてDAC報告の対象となる事業については、DAC基礎資料の対象とすることや、現在の政府が示している日本の国益にもつながるODAを実施するという我が国のODAの在り方を踏まえて、技術協力事業予算の対象とする事業の精査を行うことが必要である。
ア及びイについては、11省庁に係るものであるが、外務省からの集計依頼文書の内容を11省庁の担当者が十分に理解できていなかった結果として生じているものも見受けられた。各府省庁等に対してDAC基礎資料の作成を依頼している外務省は、DAC報告の対象となる事業、費目の考え方等を示し、11省庁がDAC基礎資料を作成するに当たり、DAC報告の対象を十分理解し、適切なものが作成されるよう支援することが必要である。
前記のとおり、22年6月に、外務省は、「ODAのあり方に関する検討」を取りまとめて発表しており、この中で、国別援助計画の制度見直しが掲げられ、既存の国別援助計画と事業展開計画を統合し、原則として、全てのODA対象国について国別援助方針を策定することとなった。国別援助方針は、5年間を目途に、被援助国ごとの開発ニーズを踏まえて、その国の開発計画、開発課題等を総合的に勘案し、その国に対する我が国の援助重点分野や方向性を示すものである。そして、この附属書類として、実施決定から完了までの段階にあるODA案件を、その国の援助重点分野、開発課題、協力プログラムに分類して一覧にした事業展開計画が策定されることとなる。
国別援助方針の策定の過程をみると、現地ODAタスクフォース(注2)が先方政府等と協議するなどして原案を作成し、これを受け取った外務省が、原案の推こう、関係府省庁のコメントの反映、パブリックコメントの反映等を経て完成した国別援助方針をホームページで公開することとなっている。そして、26年7月末時点において、100か国の国別援助方針が策定・公開済みとなっている。
また、国別援助方針の附属書類である事業展開計画は、各種の援助方法を一体的に活用して、効率的かつ効果的にODAを企画・立案・実施することを目指したもので、被援助国及び我が国の関係者間で共有されている。事業展開計画には、援助の予見可能性を高める役割があり、作成年度から5年間分のプロジェクト名、援助のスキーム、実施期間、支援額等が記載されている。各省庁の技術協力については、実施決定から完了までの段階にある具体的案件が事業展開計画への記載の対象とされており、外務省は、事業展開計画の策定時には各省庁、また、更新時には各省庁のうち関係する省庁に記載するプロジェクトの確認・追加のコメントを求めている。なお、当該案件の実施決定の基準については、先方政府又は当該案件の実施機関等に対する公文書の交換又は書面の送付等をもって、実施が決定したものとしている。そして、事業展開計画は、国別援助方針と同時に策定された後も、毎年度、更新されている。
そこで、11省庁が実施している技術協力について、26年7月末時点で公表されている100か国の事業展開計画(100か国計4,268プロジェクト)をみると、事業展開計画に技術協力のプロジェクトを記載している省庁は、財務省、農林水産省、経済産業省及び国土交通省の4省(18か国に係る57プロジェクト)のみとなっている。このように、11省庁が実施している技術協力の事業展開計画への記載が少ない理由について、11省庁は、特定の国を対象とせず複数国を対象とする事業が多いことから、国別に作成する事業展開計画に記載できる事業が少ないためなどとしている。しかし、11省庁が実施している技術協力の中には、特定の開発途上国を対象としていて、当該省庁において事業展開計画に記載することを検討する必要があると思料されるものも見受けられた。
前記のとおり、外務省は、事業展開計画の策定、更新の際に11省庁に対して、記載するプロジェクトの確認・追加のコメントを求めているが、11省庁において、どのようなプロジェクトを記載すべきであるかについての理解が十分でなかったり、実際に事業を担当している部署に対して連絡を行っていなかったりなどしていた。
また、ある事業が事業展開計画に記載されていない場合、当該事業はODA政策の枠組みの中で明確な位置付けが与えられていない状況となる。そして、技術協力を含めた事業に係る中期的な計画を独自に策定している事業も一部に見受けられたが、多くの事業では中期的な計画が策定されることなく、単独の事業として実施されていた。
ODA政策の枠組みは、ODA大綱を頂点としたODA政策の一貫性を確保するなどして、ODAの戦略的、効果的、効率的な実施を図るものであり、このことにより、個々の事業に投じられた国費もその効果を十分に発現することが期待されることとなる。また、11省庁が実施している技術協力は、ODAの要件を満たすものであり、多額の国費を投じて実施されている。したがって、11省庁が実施する技術協力についても、特定の開発途上国を対象としている事業については、先方政府又は当該案件の実施機関等に対して書面の送付等を行うことも含めて検討し、可能なものは事業展開計画に記載することとし、また、これが困難な事業については、ODA大綱等の趣旨を踏まえて各省庁が中期的な計画を策定し、戦略的、効果的、効率的に当該技術協力を実施していくことが必要である。また、事業展開計画の策定、更新を行う外務省においても、事業展開計画に記載するプロジェクトについて、策定時に11省庁、また、更新時に11省庁のうち関係する省庁に確認・追加のコメントを求めるに当たり、記載すべきプロジェクトの考え方等をより明示的に示し、適切な検討がなされるよう支援をすることが必要である。
15年8月に閣議決定されたODA大綱によれば、ODAの政策、実施、評価に関する情報を、幅広く、迅速に公開し、十分な透明性を確保するとともに積極的に広報することが重要であるとし、様々な手段を活用して、分かりやすい形で情報提供を行うとともに、国民が我が国のODA案件に接する機会を作ることとされている。
また、前記の「ODAのあり方に関する検討」によれば、我が国の経済・財政状況が厳しい中、開発協力の意義について国民の間に十分な共感が得られておらず、ODAを増加していくべきとの積極的な支持が得られていないとし、開発協力の実施に不可欠な国民の理解と支持を得るために、また、その意義と実態を国民に伝えるために、効率的な情報の発信と国民参加の促進に取り組むこととされている。このため、援助案件の評価結果も含めて「ODA見える化」を徹底し、透明性の向上を図るとともに、案件形成、実施、評価、改善というPDCAサイクルにおいて、第三者の関与を得ることで、ODAの説明責任の向上を図ることとされている。
このフォローアップとして、外務省は、23年1月、同年10月及び25年4月に、「戦略的・効果的な援助の実施に向けて」をそれぞれ公表している。これらの中で、「ODA見える化」の徹底、PDCAサイクルの強化等の具体的な取組状況を示している。そして、外務省は、「ODA見える化」の徹底についての具体的な取組として、ODA案件の現状、成果等を公表するために、23年4月、JICAのホームページ上に「ODA見える化サイト」を開設して、JICAが実施する有償資金協力、無償資金協力及び技術協力について掲載していて、このサイトでは国別、課題別及び協力形態別に案件ごとの概要、評価等を見ることができるようになっている。
一方、11省庁が実施している技術協力についての情報公開がどのような状況となっているかみると、一部の省庁において、ホームページ等で公表している各種事業の概要等の中に、技術協力事業に係る情報を一部含めていたり、直近ではない過去の技術協力事業の実施状況等を記載したりしていた。しかし、実施している技術協力事業の現状、成果等を毎年度取りまとめて公表している省庁はなく、「ODA見える化」が立ち遅れている事態が見受けられた。
11省庁が実施する技術協力についても、透明性を高め、説明責任の向上を図ることは重要であることから、11省庁においても、各省庁のホームページを活用したり、各省庁が実施している行政事業レビューと連携を図ったりするなどして、「ODA見える化」のような取組を積極的に行う必要がある。
11省庁が実施した技術協力事業について検査した結果、委託事業及び補助事業において、人件費が過大に算定されていた事態、援助の効果が十分に発現していない事態が見受けられた(前掲不当事項 リンク3章1節第13(366)、意見を表示し又は処置を要求した事項 リンク3章1節第10意(5)参照)。
我が国は、国際社会の平和と発展に貢献し、これを通じて我が国の安全と繁栄の確保に資することを目的として、毎年度、多額のODAに係る予算を計上して、ODAを実施している。
21年度から25年度までの間の11省庁の技術協力事業予算の総額は、21年度の942億余円に対して、25年度は722億余円となっており2割強の減少となっている。省庁別の推移をみると、エネルギー対策特別会計を所管している経済産業省はおおむね横ばいで推移し、同じく環境省は倍増しているが、この2省を除く9省庁は2割以上減少している。
11省庁等において、技術協力事業の実施状況、DAC基礎資料の作成状況、事業展開計画の策定状況、技術協力の成果の公表の状況等について検査したところ、次のような事態等が見受けられた。
DAC報告は、DAC加盟国の開発途上国に対する援助実績を取りまとめたものであり、DAC加盟国の国際貢献の度合いを測る指標の一つとなっている。11省庁は、外務省がDACへの報告を作成する際の基礎となるDAC基礎資料の作成の対象とする技術協力について、技術協力事業予算として計上されているものとしているが、11省庁のうち9省において、技術協力事業予算により実施した事業の決算額をDAC基礎資料に計上する際に、計上することができる額の一部を計上していなかった事態が見受けられた。
外務省は、DAC基礎資料の集計対象について、「政府開発援助の一環として貴府省庁所管の予算から実施した実績」としているが、11省庁はDAC基礎資料を作成するに当たり、技術協力事業予算により実施した事業のみを対象としていた。そして、技術協力事業予算以外の予算により実施された事業の中に、ODAの要件を満たしていると思料される開発途上国向けの事業を省庁や独立行政法人が実施しているものが見受けられた。
我が国は、ODA大綱の下に、ODA中期政策、国別援助方針等を策定しており、ODA政策としてODA大綱を頂点とした一貫性を確保している。国別援助方針の附属資料である事業展開計画には、プロジェクト名、援助のスキーム、実施期間、支援額等が記載されているが、11省庁の技術協力についてみると、事業展開計画に技術協力のプロジェクトを記載しているのは、財務省、農林水産省、経済産業省及び国土交通省の4省のみとなっていた。そして、11省庁が実施している技術協力の中には、特定の開発途上国を対象としていて、事業展開計画に記載することを検討する必要があると思料されるものが見受けられた。また、技術協力に係る中期的な事業計画を策定することなく、単独の事業として当該事業を実施しているものが見受けられた。
ア、イ及びウについては、11省庁に係るものであるが、外務省からのDAC基礎資料の集計依頼文書及び、事業展開計画の確認・追加のコメントの依頼の内容を11省庁の担当者が十分に理解できなかった結果として生じているものも見受けられた。
外務省は、22年6月に発表した「ODAのあり方に関する検討」を受けた取組として、ODA案件の現状、成果等を公表するために、JICAのホームページ上に「ODA見える化サイト」を開設して、JICAが実施する技術協力等について、国別、課題別及び協力形態別に案件の概要、評価等を掲載している。一方、11省庁における情報公開の実施状況についてみると、実施している技術協力事業の現状、成果等を毎年度取りまとめて公表している省庁はなく、「ODA見える化」が立ち遅れている事態が見受けられた。
委託事業及び補助事業において、人件費が過大に算定されていた事態及び援助の効果が十分に発現していない事態が見受けられた。
我が国のODAは、今後も重要な政策分野として実施されていくことが見込まれる。一方で、我が国の財政は引き続き厳しい状況にあることから、ODAの実施に当たっては、ODA大綱を頂点とした一貫性を確保し、戦略的、効果的、効率的な援助の実施に向けて、より一層ODA事業の透明性の向上を図るとともに、実施した援助については我が国の国際貢献として適切な評価が得られることが望まれる。また、ODAの理念や援助実施の原則等を定めるODA大綱について、政府は、ODAの更なる積極的、戦略的活用の要請等を踏まえてODA大綱の見直しを行うことを決定し、26年中を目途に閣議決定を行う予定としている。
以上のような状況を踏まえて、11省庁及び外務省においては、次の点について留意して、技術協力を実施することなどが必要である。
ア 11省庁は、DAC基礎資料の作成に当たり、技術協力事業予算として計上している技術協力については、DAC基礎資料から除外すべき合理的な理由があるものを除き、DAC基礎資料の対象とすること
イ 11省庁は、DAC基礎資料の作成に当たり、技術協力事業予算として計上していない事業についても、事業内容や対象地域、国からみてDAC報告の対象になる事業については、DAC基礎資料の対象とすること。また、現在の政府が示している日本の国益にもつながるODAを実施するという我が国のODAの在り方を踏まえて、技術協力事業予算の対象とする事業の精査を行うこと
ウ 11省庁は、技術協力を戦略的、効果的、効率的に実施していくために、事業展開計画に記載することが可能な技術協力については、事業展開計画に記載すること。また、これが困難な事業については、ODA大綱等の趣旨を踏まえて、各省庁において中期的な計画を策定すること
エ 外務省は、11省庁がDAC基礎資料を作成するに当たり、DAC報告の対象を十分理解し、適切なものが作成されるよう支援すること。また、事業展開計画の策定、更新を行う際に事業展開計画に記載するプロジェクトについて、策定時に11省庁、また、更新時に11省庁のうち関係する省庁に確認・追加のコメントを求めるに当たり、記載すべきプロジェクトの考え方等をより明示的に示し、適切な検討がなされるよう支援すること
オ 11省庁は、外務省が実施している「ODA見える化」のように、11省庁が実施している技術協力について、各省庁のホームページを活用したり、各省庁が実施している行政事業レビューと連携を図ったりするなどして、「ODA見える化」に積極的に取り組み、透明性を高め、説明責任の向上を図ること
カ 11省庁が実施した技術協力事業の中には、人件費が過大に算定されていた事態及び援助の効果が十分に発現していない事態が一部見受けられたことから、11省庁においては、今後の技術協力事業の適正かつ適切な実施が更に確保されることとなるよう、厳正な事業執行体制の整備に引き続き努めること
本院としては、11省庁による開発途上国への技術協力について、今後とも適切に実施され、また、その援助実績が我が国及び世界各国において適切に評価されるよう、引き続き多角的な観点から注視していくこととする。