会計検査院は、平成24年8月27日、参議院から、国会法第105条の規定に基づき下記事項について会計検査を行いその結果を報告することを求める要請を受けた。これに対し同月28日検査官会議において、会計検査院法第30条の3の規定により検査を実施してその検査の結果を報告することを決定した。
一、会計検査及びその結果の報告を求める事項
(一) 検査の対象
国会、裁判所、内閣、内閣府、復興庁、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省
(二)検査の内容
東日本大震災からの復興等に対する事業に関する次の各事項
参議院決算委員会は、24年8月27日に検査を要請する旨の上記の決議を行っているが、同日に「平成22年度決算審査措置要求決議」を行っている。
このうち、上記検査の要請に関する項目の内容は、次のとおりである。
1 東日本大震災復旧・復興関係経費の迅速かつ円滑な執行の確保について
平成23年度の東日本大震災復旧・復興関係経費の執行状況については、全体予算14兆9243億円のうち、翌年度繰越額が4兆7694億円、不用額が1兆1034億円と多額に上っており、予算の執行率は約6割にとどまった。特に、復興庁所管の経費1兆3141億円のうち1兆3101億円は執行されずに繰り越され、23年度における執行率は0.02%となっており、また、国土交通省所管の経費では、災害公営住宅等整備事業費1115億円のうち、執行額等はわずか3億円であり、残り1112億円が不用額として処理されるなど、復旧・復興関係予算の執行が当初の予定どおり進んでいない事態が明らかとなっている。
政府は、これらの事態が被災地における早期の復旧・復興や住民の生活再建の支障となることを認識し、事業の着手に必要な復興計画との調整等を速やかに実施した上で、迅速かつ円滑な予算執行に努めるべきである。また、予算の執行率が極端に低かった事業については、事業費の見積りが適切であったか検証するなどして必要な見直しを行い、多額の国民負担によって賄われている復旧・復興予算が適正、有効かつ効率的に活用されるよう、最善を尽くすべきである。
参議院は、25年5月20日に決算委員会において、平成22年度決算に関して内閣に対し警告すべきものと議決し、同月22日に本会議において内閣に対し警告することに決している。
この警告決議は、前記の検査を要請する旨の決議の翌年に行われたものであり、この警告決議のうち、前記検査の要請に関する項目の内容は、次のとおりである。
1 東日本大震災からの復旧・復興に向けた迅速かつ効果的な取組が求められている中、復旧・復興関係経費の一部が、震災前から一般会計により継続的に実施されていた事務・事業等に支出されたり、被災地域における社会経済の再生や生活の再建等に直接結びつくとは考え難い使途に充てられたりなどしていたことは、看過できない。
政府は、同経費の財源が増税による国民負担で賄われていることを強く認識して、その使途が被災地域それぞれの需要や期待に応えるものとなるよう的確に予算を措置し、これまでの支出の精査による見直し作業を更に進めるとともに、今後とも、住まいとなりわい再建を最優先に、予算の査定、事業実施箇所の選定等を厳格に行うべきである。
前記の要請により、会計検査院は、東日本大震災からの復興等に対する事業に関して、効率性、有効性等の観点から、東日本大震災復旧・復興関係経費(以下「東日本大震災関係経費」という。)に係る予算(以下「復旧・復興予算」という。)が23年度に措置されている16府省庁等(注1)を対象として、①東日本大震災に伴う被災等の状況、②復興等の各種施策及び支援事業の実施状況等について検査を実施し、24年10月25日に、会計検査院長から参議院議長に対して報告した(以下、この報告を「24年報告」という。)。
24年報告における検査の結果の概要は、次のとおりである。
① 人的被害、建物への被害、社会基盤施設や農林水産業等の被害はいずれも甚大であり、内閣府によればその被害額は、約16兆9000億円(ただし、東京電力株式会社福島第一原子力発電所(以下「福島第一原発」という。)の事故に伴う放射能汚染被害は含まれていない。)と推計されている。そして、国は、被災者の救援、救助等の被害応急対応を実施するとともに、東日本大震災復興基本法(平成23年法律第76号。以下「復興基本法」という。)、東日本大震災復興特別区域法(平成23年法律第122号。以下「特区法」という。)等の制定、「東日本大震災からの復興の基本方針」(以下「復興基本方針」という。)の策定、復興庁の設置等を実施し、国の総力を挙げて復旧・復興に取り組んでいる。
国は、これらの施策に必要な財源を確保するための特別措置として、「東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法」(平成23年法律第117号。以下「復興財源確保法」という。)を施行するとともに、平成23年度一般会計補正予算(第1次から第3次まで)(以下「23年度補正予算」という。)により計14兆9354億余円を東日本大震災関係経費(以下、23年度補正予算に計上された東日本大震災関係経費に係る予算を「23年度復旧・復興予算」という。)として財政措置した。
② 復旧・復興事業の実施状況について、予算措置年度別の歳出予算現額(歳出予算額(当初予算額、補正予算額及び予算移替額の合計)に、予備費使用額及び流用等増減額を加減したもの。以下「予算現額」という。)、支出済歳出額(以下「支出済額」という。)等から執行状況をみると、23年度の予備費及び23年度補正予算(以下、これらを「23年度予算」という。)の同年度における支出済額の予算現額に対する割合(以下「執行率」という。)は60.6%となっていて、これらを経費項目別にみると、全てが執行されている経費項目が多くある一方、年度内に執行されないままその大半が翌年度に繰り越されている経費や執行率が20%程度と低くなっている経費項目も見受けられ、経費項目別の執行率が区々となっていた。また、特別会計における執行状況を反映した支出済額の予算現額に対する割合は54.2%であり、一般会計における執行率よりも低くなっていた。そして、このような執行状況の結果、全体の38.3%が翌年度に繰り越され、7.4%が不用となっていた。
③ 特区法に基づく復興特別区域制度による各種計画の実施状況をみると、復興推進計画については、24年8月3日現在、20の復興推進計画における28分類の特例が認定され、復興整備計画については、同年8月10日現在、復興整備協議会を組織した28市町村のうち21市町村が公表していた。また、復興交付金事業計画については、同年7月までに復興庁は市町村から計3回の提出を受け、このうち第2回までの交付対象事業費6220億余円に対して5122億余円を交付可能額として82市町村に通知していた。そして、交付対象事業費6220億余円のうち、防災集団移転促進事業、災害公営住宅整備事業等の5事業が4528億余円を占めていた。
④ 58市町村の復旧・復興事業等の実施状況を検査した結果、各市町村の事業執行率は市町村によって大きな差が見受けられた。また、これらの市町村では、復旧・復興事業の実施に当たる職員に大きな事務負担が生じており、アンケートにおいて、復興事業の増加に伴う各種業務に対応するための人的支援やそのための体制整備を要望していた。
そして、24年報告の検査の結果に対する所見は、次のとおりである。
国は、復旧・復興に当たり、被災地の地方公共団体に対して、既存の制度にとらわれない行政手続の簡素化や財政面及び人材面からの支援を実施し、被災地の地方公共団体が行う復興の取組を総力を挙げて支援することとしている。そして、この復旧・復興は、被災地の単なる災害復旧にとどまらない活力ある日本の再生を視野に入れた抜本的な対策及び一人一人の人間が災害を乗り越えて豊かな人生を送ることができるようにすることを旨として行われる施策の推進により実施されるべきとされていることから、復興の成果は、国民全体が感じ取れるものとするとともに、将来の世代にわたって誇ることができるものにする必要がある。
会計検査院は、今回、東日本大震災からの復旧・復興に対する事業について検査を実施した。国及び地方公共団体は、現在全力を挙げて復旧・復興に取り組んでいるところであるが、復旧・復興のための施策は、総合的かつ中長期的な視点を有し、被災地に暮らす国民の声やその迅速性にも配慮して実施することが不可欠であり、復興庁及び関係府省等は連携して、国及び地方公共団体が行う施策が基本理念に即したものとなるよう、今後、以下の点に留意して、復興施策の推進及び支援に適切に取り組む必要がある。
会計検査院は、24年次の会計検査に引き続き、各種事業が円滑かつ迅速に実施されているか、復興基本方針や復興計画に掲げられた施策に沿ったものとなっているかなどに着眼するとともに、原子力災害からの復興再生についても着眼して検査を実施した。そして、その結果を25年10月31日に、会計検査院長から参議院議長に対して報告した(以下、この報告を「25年報告」という。)。
25年報告における検査の結果の概要は、次のとおりである。
① 24年度において、国は、復興事業に関する経理を明確にすることを目的として、東日本大震災復興特別会計(以下「復興特会」という。)を設置し、当初予算3兆7753億余円、補正予算1兆1952億余円をそれぞれ措置するとともに、財源については、それまでに確保されていた19兆円程度に加えて、日本郵政株式会社(以下「日本郵政」という。)の株式の売却収入として見込まれる4兆円程度等を確保することにより、計25兆円程度を確保することとした。
また、除染は直ちに取り組む必要のある喫緊の課題であることから、国は、23年8月26日に除染に関する緊急実施基本方針を策定するとともに、同年8月30日に「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」(平成23年法律第110号。以下「放射性物質汚染対処特措法」という。)を公布し、計画的かつ抜本的に除染等を推進することとした。さらに、復興庁は、25年2月1日に、福島対応体制の抜本的な強化策として、福島復興再生総局を福島現地に設置するとともに、関係省庁の諸施策を総括し総合的かつ強力に推進する福島復興再生総括本部を設置した。
② 復旧・復興事業の実施状況は、24年度末の執行率が77.2%、翌年度繰越額の予算現額に対する割合(以下「繰越率」という。)が11.0%、不用額の予算現額に対する割合(以下「不用率」という。)が11.6%となっていた。
地方公共団体等が国庫補助金等を既存の基金に積み増したり、新規に基金を設置造成したりして実施している復旧・復興事業(以下「復興関連基金事業」という。)90事業に対する国庫補助金等交付額は計2兆8674億余円、24年度末における取崩額は計8244億余円であり、国庫補助金等交付額に対する取崩額の割合(以下「基金事業執行率」という。)は平均で28.7%となっていた。また、90事業のうち基金事業執行率が10%未満となっているものが40事業あった。そして、3基金の10事業に係る564億余円を基金団体から返還させて、これを国庫に返還していた。
23、24両年度の復興事業1,401件について、「今後の復興関連予算に関する基本的な考え方」(平成24年復興推進会議決定)に基づき被災地域の復旧・復興及び被災者の暮らしの再生のための施策に関する事業等(以下「復興直結事業」という。)に分類するなどしたところ、復興直結事業912件、その他事業326件等となっていた。
③ 特区法に基づく各種計画の実施状況等をみると、復興推進計画66件に記載されている特例は、特区法等において規定されている21の特例のうち14の特例であり、特定被災自治体が作成して認定を受けた復興推進計画に記載された特例数は延べ75件、これらの特例の対象区域とされた市町村数は延べ817市町村となっていた。また、復興庁が計6回にわたって通知した東日本大震災復興交付金(以下「復興交付金」という。)の交付可能額は、23年度2510億余円、24年度計1兆3191億余円、25年度527億余円、合計1兆6228億余円と多額に上っていた。
④ 復興事業の実施状況については、8道県及び100市町村に交付決定された23、24両年度の国庫補助金等は計7540億余円となっている。8道県に対する復興関連基金事業に係る国庫補助金等交付額は、14基金で計1270億余円となっており、24年度末の基金事業執行率は平均で42.4%となっていた。
復興交付金基金による基幹事業の進捗状況については、4県及び26市町村における復興交付金基金による基幹事業の件数は146件となっており、このうち、23、24両年度分の復興交付金に係る事業は102件となっていた。これらの進捗状況をみると、おおむね工程表どおりに進捗している事業がある一方、完了時期を7か月以上延長している事業や、完了時期が未定となっている事業も見受けられた。
また、8道県及び100市町村に対する23年度補正予算により措置された補助事業等に係る国庫補助金等交付決定額は計2202億余円となっており、24年度末までの国庫補助金等交付決定額から事業完了後に生じた過不足額等を控除した最終の交付決定額に対する国庫補助金等交付額の割合(以下「補助事業執行率」という。)は92.4%となっていた。また、平成24年度東日本大震災復興特別会計予算(当初及び補正)(以下「24年度復興特会予算」という。)により措置された補助事業等に係る国庫補助金等交付決定額518億余円のうち252億余円が25年度に繰り越されていた。
⑤ 原子力災害関係の経費項目別の予算現額は、23、24両年度計1兆5128億余円であり、23年度補正予算の24年度末までの累計の執行率は79.8%、24年度復興特会予算の24年度末における執行率は38.7%となっていた。また、放射性物質に汚染された廃棄物の処理、除染等の事業の執行状況をみると、23年度補正予算では、23年度末における執行率が59.9%、24年度までの累計の執行率が67.5%となっており、24年度復興特会予算では、24年度末における執行率が37.0%となっていた。 そして、25年報告の検査の結果に対する所見は、次のとおりである。
会計検査院は、24年次に引き続き、東日本大震災からの復旧・復興に対する事業について検査を行った。国及び地方公共団体は、現在全力を挙げて復旧・復興に取り組んでいるところであるが、東日本大震災から2年半以上を経過した今もなお、多くの住民は仮設住宅での不自由で困難な生活を余儀なくされており、地方公共団体は膨大な復旧・復興事業に取り組んでいる。特に、原子力災害からの復興再生については長期にわたることが予想されていて、地方公共団体は除染や健康管理等の事業を執行する一方、風評被害に苦しめられているなど、被災地の社会経済の再生や生活の再建に向けた課題は数多く、これらを解決するには多くの困難がある。
このため、復旧・復興のための施策は、被災地に暮らす国民の声に配慮して迅速に実施することが不可欠であり、復興庁及び関係府省等は連携して、国及び地方公共団体が行う施策が、基本理念に即して、更なる復旧・復興の進展につながるよう、今後、次の点に留意して、復興施策の推進及び支援に適切に取り組む必要がある。
会計検査院は、25年報告において、東日本大震災関係経費により実施される復旧・復興事業は、各府省庁等において長期にわたり継続して実施されていること、復興事業の実施に係る諸制度の見直しなどが想定されることなどから、岩手県、宮城県及び福島県(以下、これらの県を合わせて「東北3県」という。)を含めた被災の状況、復興事業の実施状況等について引き続き検査を実施して、その結果については取りまとめが出来次第報告することとした。
国は、東日本大震災からの復旧・復興を最重要課題と位置付け、これまで約25兆円の多額の予算を確保するとともに、各種事業の実施、人的支援等を各府省庁等一丸となって取り組んでいる。また、被災した地方公共団体等においても、甚大な被害と膨大な復興事業を抱えて、人員不足、住民合意の形成等、困難な状況の中、先頭に立って復旧・復興に取り組んでいる。
被災地では、東日本大震災の発生以来、復興に向けた確実な歩みがなされている一方、住宅、産業等のまちづくりについては、事業の遅れなど、課題も見受けられている。特に、応急仮設住宅に住んでいる被災者や原子力災害により長期の避難を余儀なくされている被災者にとっては、住宅の確保、生活の再建の問題とともに、帰還時期等に関して先の展望の見えない状況は切実な問題となっている。
そこで、今回の検査においては、復旧・復興事業に関する各事項について、合規性、効率性、有効性等の観点から、次の着眼点により検査を実施した。
被災及び被災に対する復旧・復興の状況、避難者等に対する支援等はどのようになっているか。特に、東日本大震災発生後に実施された被害額の推計は、どのような状況の下、どのような方法により実施され、また、活用されたのか。
会計検査院は、23年度から25年度までの東日本大震災関係経費に係る予算が措置されている16府省庁等を25年報告に引き続き対象として検査するとともに、東日本大震災による被害を受けた地方公共団体については、「東日本大震災に対処するための特別の財政援助及び助成に関する法律」(平成23年法律第40号)等の規定に基づき青森県、岩手県、宮城県、福島県、茨城県、栃木県、千葉県、新潟県及び長野県の計9県並びに東日本大震災による被害を受けた市町村で政令で定めるもの(以下「特定被災地方公共団体」という。)又は東日本大震災に際し災害救助法(昭和22年法律第118号)が適用された市町村のうち政令で定めるものなどの区域(以下「特定被災区域」という。別図1、リンク参照)として指定された227市町村に、特定被災地方公共団体として指定された市町が所在しているが特定被災地方公共団体として指定されていない北海道及び埼玉県を加えた11道県及び227市町村(以下「特定被災自治体」という。)における被災状況、復旧・復興事業等の実施状況等について検査することとした。
本報告における特定被災自治体の検査に当たっては、特に甚大な被害を受けた東北3県を対象として会計実地検査を行うとともに、特定被災自治体以外の地方公共団体の検査に当たっては、全国向けの復興関連基金事業に必要な資金として国庫補助金等の交付を受けた地方公共団体を対象として会計実地検査を行った。
検査に当たっては、16府省庁等の内部部局等と東北3県を含む20都県(注2)に対して321人日を要して会計実地検査を行い、調書及び関係資料を徴したり担当者等から説明を聴取したりするとともに、公表されている資料等を基に調査分析を行った。