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  • 国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)|
  • 会計検査院法第30条の3の規定に基づく報告書|
  • 平成28年4月|

東日本大震災からの復興等に対する事業の実施状況等に関する会計検査の結果について


第2 検査の結果

1 東日本大震災に伴う被災等の状況

(1)被害等の状況

23年3月に発生した東北地方太平洋沖地震は、東北3県を中心に広い範囲で甚大な被害をもたらした。全国の被害等の状況は、次のとおりである。

ア 人的被害及び建物被害の状況

人的被害及び建物被害の状況については、図表1-1のとおり、死者、行方不明者等の人的被害は死者15,894人、行方不明者2,562人等となっており、また、建物被害は全壊121,803戸、半壊278,440戸、一部破損726,131戸等となっている。

図表1-1 人的被害及び建物被害の状況

都道県 人的被害 建物被害
死者(人) 行方不明者(人) 負傷者(人) 全壊(戸) 半壊(戸) 一部破損(戸) 非住家被害(戸)
北海道 1 0 3 0 4 7 469
東北 青森県 3 1 112 308 701 1,006 1,402
岩手県 4,673 1,124 213 19,597 6,571 18,939 4,698
宮城県 9,541 1,237 4,145 82,999 155,129 224,195 26,796
秋田県 0 0 11 0 0 5 3
山形県 2 0 29 0 0 21 96
福島県 1,613 197 183 15,169 78,953 141,445 965
東京都 7 0 117 15 198 4,847 1,101
関東 茨城県 24 1 712 2,629 24,369 187,103 20,064
栃木県 4 0 133 261 2,118 73,552 295
群馬県 1 0 42 0 7 17,679 0
埼玉県 0 0 45 24 199 1,800 33
千葉県 21 2 258 801 10,150 55,039 660
神奈川県 4 0 138 0 41 459 13
新潟県 0 0 3 0 0 17 9
山梨県 0 0 2 0 0 4 0
長野県 0 0 1 0 0 0 0
静岡県 0 0 3 0 0 13 0
中部 三重県 0 0 1 0 0 0 9
四国 高知県 0 0 1 0 0 0 0
15,894 2,562 6,152 121,803 278,440 726,131 56,613
(注)
宮城県沖を震源とする地震(平成23年4月7日、24年6月18日及び8月30日)、福島県浜通りを震源とする地震(23年4月11日)、福島県中通りを震源とする地震(23年4月12日)、千葉県北東部を震源とする地震(23年5月22日)、福島県沖を震源とする地震(23年7月25日、同月31日、8月12日、同月19日、10月10日及び25年10月26日)、茨城県北部を震源とする地震(23年3月19日、9月10日、11月20日、24年2月19日及び25年1月31日)、茨城県沖を震源とする地震(24年3月1日)、千葉県東方沖を震源とする地震(24年3月14日)及び三陸沖を震源とする地震(24年12月7日)による被害を含む。

出典:警察庁「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震の被害状況と警察措置」(平成28年2月10日公表)

イ 公共施設等の被災の状況

各府省庁が所管する公共施設等に関する被災の状況については、図表1-2のとおり、基盤整備関係では被災地区海岸数677海岸、交通関係では高速道路の通行止め路線数15路線、直轄国道等の通行止め区間数711区間、農林水産業関係では津波により被災した農地面積21,480ha等となっている。

また、全壊等の被害を受けた施設は、医療・福祉関係では医療施設4,158施設、福祉施設1,626施設、文教関係では学校施設等12,150施設等となっている。

図表1-2 公共施設等の被災の状況

項目 注(1) 被災規模
基盤整備関係 海岸対策 被災地区海岸 677海岸
海岸防災林 被災延長 約140km
河川対策 被災河川管理施設 2,115か所
下水道 災害査定実施処理場 73施設
水道施設 注(2) 災害査定実施事業数 184施設
交通関係 道路 高速道路通行止め路線 15路線
通行止め区間 711区間
鉄道 注(3) 被災路線延長 2,330km
港湾 被災港湾施設 131か所
農林水産業関係 農地 注(4) 津波被災農地面積 21,480ha
排水機場 復旧が必要な主要排水機場 98か所
漁港 被災漁港 319港
医療・福祉関係 医療施設 全壊、一部損壊等施設 4,158施設
福祉施設 全壊、一部損壊等施設 1,626施設
文教関係 学校施設等 全壊、一部損壊等施設等 12,150施設等
注(1)
基盤整備関係、交通関係(道路を除く。)及び農林水産業関係は復興庁が公表している「公共インフラの本格復旧・復興の進捗状況」(平成28年1月)を、交通関係の道路は国土交通省が公表している「国土交通白書2011」(平成23年9月)を、医療・福祉関係は厚生労働省が公表している「東日本大震災における被害状況(医療機関・社会福祉施設)」(平成23年12月)を、文教関係は文部科学省が公表している「東日本大震災による被害情報について」(平成24年9月)等を基にそれぞれ作成した。
注(2)
復興計画が定まらず復旧方法を確定することができないために特例査定を受けた地区を除く。
注(3)
東北3県の旅客鉄道分を計上している。
注(4)
沿岸6県における面積(避難指示区域を含む。)
ウ 避難の状況

復興庁等によれば、東日本大震災発生直後の避難者数は全国で約47万人とされており、東日本大震災の発生から1週間を経過した時点では約38万人が2,182か所の避難所に避難していたとされている。その後、避難者は帰宅したり、県が建設した応急仮設住宅(以下「建設型応急仮設住宅」という。)や市町村等が民間住宅を借り上げて避難者に供与する応急仮設住宅(以下「借上型応急仮設住宅」という。)等へ移ったりするなどしたため、避難所は26年3月末までに全て解消されたが、27年12月10日現在の避難者数は、図表1-3のとおり、全国でなお182,000人に上っている。このうち東北3県の各県内の避難者数は、岩手県23,525人、宮城県50,206人、福島県57,775人、計131,506人であり、全体の72%を占めている。また、東北3県各県から県外への避難者数は、27年12月10日現在、岩手県から1,496人、宮城県から6,533人、福島県から43,497人、計51,526人となっており、特に福島県に在住していた多くの被災者は、原子力災害により県外での避難生活を強いられている状況にある。

そして、内閣府によれば、応急仮設住宅に居住している避難者数は、27年11月末現在で、建設型応急仮設住宅には東北3県で64,988人(31,295戸)、借上型応急仮設住宅には全国で74,972人(32,579戸)とされており、震災から4年以上経過しているにもかかわらず、多くの被災者が不自由な生活を余儀なくされている。

図表1-3 東日本大震災による全国及び東北3県における各県内の避難者数の推移

図表1-3 東日本大震災による全国及び東北3県における各県内の避難者数の推移 画像

(2)国の復旧・復興への取組

国は、東日本大震災からの復旧・復興を推進するために、国の支援体制及び法令・制度の整備を図りつつ各種施策を実施している。また、復旧・復興の事業規模とその財源を見込むとともに、その見直しを行っている。東日本大震災以降、国が実施してきた復旧・復興に向けて進められた主な取組、また、原子力災害に対する国の復旧・復興の主な取組及び復興財源フレームについて示すと次のとおりである。

ア 復旧・復興に向けて進められた主な取組
(ア)集中復興期間に進められた主な取組

23年3月の東日本大震災の発生後、図表1-4に示すとおり、同年6月に東日本大震災復興基本法(平成23年法律第76号)が施行され、同年7月には同法に基づき復興基本方針が定められて、国による復興のための取組の全体像が明らかにされた。復興基本方針では、復興期間は10年間とされ、当初の5年間が集中復興期間と位置付けられて、復興支援の体制、復興施策、事業規模、財源等に関する基本方針が定められた。

このうち復興支援の体制については、国は、被災後、災害対策基本法(昭和36年法律第223号)に基づき、直ちに緊急災害対策本部を設置して対応を行ってきたが、24年2月に復興庁を設置し、同本部の機能を同庁に引き継ぐとともに、同庁内に内閣総理大臣を議長とする関係閣僚級の組織として復興推進会議を設置した。また、国は、25年2月には復旧・復興の加速化に向けた対応等を具体的に検討し、速やかに対策を実現する体制として、復興大臣の下に関係省庁の局長級で構成する「住宅再建・復興まちづくりの加速化のためのタスクフォース」を設置するなどした。

復興施策については、23年12月に特区法が施行され、国は、被災地域の地方公共団体の申出により、区域を限って、地域における創意工夫をいかして行われる規制の特例措置その他の特別措置を適用する制度を創設するとともに、地方公共団体が、自ら策定する復興プランの下、復興に必要な各種施策が展開できる、使い勝手の良い自由度の高い交付金として復興交付金を創設した。また、国は、住宅再建・復興まちづくりの加速化のためのタスクフォースの検討の下に、27年8月までに、用地取得手続の迅速化、技術者・技能者の確保、資材の円滑な確保等の加速化措置等を実施した。

財政面では、23年12月に、集中復興期間中に実施する施策に必要な財源を確保するための特別措置について定めた「東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法」(平成23年法律第117号。以下「復興財源確保法」という。)が施行され、また、国は、道府県及び市町村の負担額等に対処するための財政措置として震災復興特別交付税等を創設した。そして、24年4月に、特別会計に関する法律(平成19年法律第23号。以下「特会法」という。)が改正され、国は、東日本大震災からの復興に係る国の資金の流れの透明化を図るとともに復興債の償還を適切に管理するために、復興事業に関する経理を明確にすることを目的として復興特会を設置した。また、国は、25年1月に復興基本方針において19兆円と見込んでいた集中復興期間中の事業規模を25兆円に見直して新たな財源の確保を図った(集中復興期間の復興財源フレームについては2011_2_1_2_3リンク参照)。

図表1-4 東日本大震災からの復旧・復興に対する主な取組

年月 災害復旧・復興関連 原子力災害関連
平成23年 3月 東日本大震災発生、緊急災害対策本部の設置 原子力災害対策本部の設置
4月   原子力損害賠償紛争審査会の設置
5月 東日本大震災に対処するための特別の財政援助及び助成に関する法律(平成23年法律第40号)施行  
23年度第1次補正予算成立(東日本大震災関係経費4兆0153億円)  
6月 東日本大震災復興基本法(平成23年法律第76号)施行  
7月 23年度第2次補正予算成立(東日本大震災関係経費1兆8106億円)  
「東日本大震災からの復興の基本方針」決定  
8月   平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法(平成23年法律第110号)施行
11月 23年度第3次補正予算成立(東日本大震災関係経費9兆2438億円)  
12月 東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法(平成23年法律第117号)施行  
東日本大震災復興特別区域法(平成23年法律第122号)施行 「ステップ2の完了を受けた警戒区域及び避難指示区域の見直しに関する基本的考え方及び今後の検討課題について」決定
24年 2月 復興庁設置  
3月   福島復興再生特別措置法(平成24年法律第25号)施行
4月 24年度当初予算成立(復興特会3兆7754億円)  
特別会計に関する法律の改正、東日本大震災復興特別会計の設置  
7月   福島復興再生基本方針決定
25年 1月 集中復興期間における事業規模と財源の見直し(19兆円→25兆円)  
2月 24年度補正予算成立(東日本大震災関係経費3177億円)  
住宅再建・復興まちづくりの加速化のためのタスクフォースの設置  
5月 25年度当初予算成立(復興特会4兆3840億円) 福島復興再生特別措置法の改正
8月   避難指示区域見直し完了
26年 2月 25年度補正予算成立(東日本大震災関係経費5638億円)  
3月 26年度当初予算成立(復興特会3兆6464億円)  
5月 東日本大震災復興特別区域法の改正  
8月   原子力損害賠償・廃炉等支援機構法の改正
27年 2月 26年度補正予算成立(東日本大震災関係経費2597億円)  
4月 27年度当初予算成立(復興特会3兆9087億円)  
5月   福島復興再生特別措置法の改正
6月 第13回復興推進会議
(集中復興期間終了後の復旧・復興事業の基本的枠組み決定)
 
「平成28年度以降5年間を含む復興期間の復旧・復興事業の規模と財源について」閣議決定  
(イ)集中復興期間終了後の復旧・復興事業の基本的枠組み

27年6月に開かれた第13回復興推進会議において、「平成28年度以降の復旧・復興事業について」(以下「第13回復興推進会議決定」という。)が決定され、集中復興期間終了後の復旧・復興事業に関する基本的な考え方として、復興期間10年以内での一刻も早い復旧・復興事業の完了を目指し、現在の取組を着実に進めて、必要な支援を確実に実施することとされた。また、原子力事故災害被災地域においては、避難指示の影響等により長期の事業が予想されるため10年以内の復興完了は難しい状況にあるとされ、復旧から本格復興・再生の段階に向けて、国が前面に立って引き続き取り組むものとされた。

そして、国は、地震・津波被災地を中心に事業完了に向けた見通しが立ちつつあることを踏まえて、28年度以降の復興支援については、被災地の自立につながるものとしていく必要があるとし、28年度からの5年間を被災地の自立につながり、地方創生のモデルとなるような復興を実現していく観点から「復興・創生期間」と位置付けた。

復興・創生期間に実施する復旧・復興事業については、被災地の復興のために真に必要な事業に重点化する観点から、①復興特会で実施する事業、②一般会計等で対応する事業、③27年度限りで終了する事業に整理し、復興特会で実施する事業は、被災者支援、災害復旧事業等、原子力事故災害特有の課題に対応する事業、復興交付金事業(基幹事業)等とされた。

そして、復興の基幹的事業や原子力災害に由来する復興事業等については、これまでと同様、震災復興特別交付税により被災自治体の実質的な負担をゼロとする一方、地域振興策や将来の災害への備えといった全国に共通する課題への対応という性質を併せ持つ事業については、被災自治体においても一定の負担を行うとされた。また、自治体負担の水準等については、事業費のうち国庫補助金等を除いた地方負担の95%を震災復興特別交付税により措置し、県及び市町村の実質的な負担は地方負担の5%とするとされた。

イ 原子力災害に対する国の復旧・復興の主な取組

23年3月の東日本大震災に伴う東京電力の福島第一原発の事故発生後、国は、前記の図表1-4のとおり、原子力災害対策特別措置法(平成11年法律第156号)に基づき直ちに原子力災害対策本部を設置した。そして、福島県内においては、同本部の決定に基づき避難指示区域が設定されるなどして、同区域内の住民は避難を余儀なくされた。このような状況を踏まえて、24年3月に福島復興再生特別措置法(平成24年法律第25号)が施行され、国は、同年7月に同法に基づき福島復興再生基本方針(以下「福島基本方針」という。)を閣議決定して、原子力災害からの福島の復興及び再生に関する施策の総合的な推進を図るために、福島全域での復興及び再生と避難解除等区域等の復興及び再生という二つの観点から、各々に必要な取組の基本的な方針を定めた。このうち避難解除等区域等における復興及び再生の進め方においては、住民の安全安心のための除染等による放射性物質汚染対策を始めとして、産業振興、インフラ整備、生活環境の整備等の各種対策について、計画的に講ずるものとしている。

除染等による放射性物質汚染対策については、23年8月に施行された放射性物質汚染対処特措法に基づき、環境省等は、関係原子力事業者である東京電力の負担の下に、汚染土壌等の除染等、放射性汚染廃棄物処理事業(以下「汚染廃棄物処理事業」という。)及び中間貯蔵施設検討・整備事業(以下「中間貯蔵施設事業」といい、これらの3事業を合わせて「特措法3事業」という。)を実施している(特措法3事業の実施状況については2011_2_2_4_2リンク参照)。

福島第一原発の事故による損害については、原子力損害の賠償に関する法律(昭和36年法律第147号。以下「原賠法」という。)等に基づき東京電力が賠償責任を負うこととなっており、23年4月に原賠法に基づき文部科学省に設置された原子力損害賠償紛争審査会が、損害賠償に関する円滑な合意形成のために、同年8月に「東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針」を策定して賠償すべき損害として類型化が可能なものを示すなどした(原子力災害関係経費の求償の状況については2011_2_2_4_4リンク参照)。

また、23年12月に福島第一原発において冷温停止状態が達成されたことを受けて、同月に原子力災害対策本部が「ステップ2の完了を受けた警戒区域及び避難指示区域の見直しに関する基本的考え方及び今後の検討課題について」を決定し、国は、25年8月までに福島県内の全ての避難指示対象市町村(田村、南相馬両市、伊達郡川俣、双葉郡楢葉、富岡、大熊、双葉、浪江各町、双葉郡川内、葛尾、相馬郡飯舘各村)において、避難指示区域の見直しを完了し、26年4月に田村市、同年10月に川内村の一部、27年9月に楢葉町において避難指示を解除するなどしている(避難指示区域等の見直しの状況については2011_2_2_4_3リンク参照)。

これらの避難指示が解除された区域への帰還支援等の取組について、国は、図表1-5のとおり、24年度補正予算において福島原子力災害避難区域等帰還・再生加速事業(以下「帰還・再生事業」という。)を、25年度当初予算において生活拠点形成事業及び福島県の子育て世帯が安心して定住できる環境を整え地域の復興再生を促進する福島定住等緊急支援事業(以下「福島定住事業」という。)をそれぞれ創設した。さらに、25年8月の避難指示区域の見直しの完了を受けて、25年度補正予算において、生活拠点形成事業及び福島定住事業に福島の再生・復興のための新たな施策である再生加速化事業を加え、長期避難者支援から早期帰還までの対応策を一括して支援する福島再生加速化交付金(以下「福島交付金」という。)を創設し、福島交付金による3事業と帰還・再生事業を合わせた4事業(以下、4事業を合わせて「福島復興事業」という。)を福島の復興再生の柱として実施することとなった(生活拠点形成事業の実施状況については2011_2_2_4_3_1リンク参照)。

また、27年5月に、福島復興再生特別措置法が改正され、国は、27年度当初予算において、避難者の早期帰還の促進を図るために、再生加速化事業を拡充して帰還環境整備事業とし、より使い勝手の良いものとなるようにするなどの取組を行っている。

図表1-5 福島復興事業の内訳

図表1-5 福島復興事業の内訳 画像

ウ 東日本大震災の復旧・復興に係る復興財源フレーム
(ア)集中復興期間の復興財源フレーム

23年7月の復興基本方針において、集中復興期間に実施すると見込まれる施策・事業の事業規模については少なくとも19兆円程度が見込まれるとされ、復興財源の確保については、時限的な税制措置である復興特別税(復興特別所得税、復興特別法人税等)により10.5兆円程度、歳出の削減、税外収入等により8.5兆円程度を確保する計19兆円程度の復興財源フレームが示された。

その後、国は、24年度補正予算及び25年度当初予算の編成過程において、「今後の復旧・復興事業の規模と財源について」(平成25年1月復興推進会議決定)により復興財源フレームを見直し、25兆円フレームを示した。25兆円フレームの事業規模及び財源のそれぞれの内訳は、図表1-6のとおりである。

25兆円フレームでは、事業規模については、23、24両年度の事業費が計17.5兆円、25年度の事業費が3.3兆円程度、26、27両年度に確実に実施が見込まれる事業の規模が計2.7兆円程度であることから、集中復興期間に係る事業費を計23.5兆円程度とした。

また、財源については、既に確保されている19兆円程度に加えて、日本郵政株式会社(以下「日本郵政」という。)株式の売却による収入見込額の4兆円程度及び23年度の決算剰余金等の2兆円程度を確保し、集中復興期間に係る財源の全体額として25兆円程度を確保することとした。

(イ)復興・創生期間を加えた復興期間10年間の復興財源フレーム

国は、第13回復興推進会議決定により、集中復興期間の25兆円フレームに復興・創生期間に係る事業規模と財源の見込みを加えて復興期間10年間に係る見込みを32兆円程度の規模とする新たな復興財源フレーム(以下「32兆円フレーム」という。)を示した。32兆円フレームの事業規模及び財源のそれぞれの内訳は、図表1-6のとおりである。

32兆円フレームでは、事業規模について、27年度までの集中復興期間に係る事業費を25.5兆円程度、28年度からの復興・創生期間に係る事業費を6.5兆円程度と見込み、復興期間10年間に係る事業費を計32兆円程度としている。

また、財源については、25兆円フレームで計上されている25兆円に、26年度補正予算及び27年度当初予算において措置された1.3兆円(25年度決算剰余金約0.8兆円及び財政投融資特別会計財政融資資金勘定積立金約0.6兆円の合計額)及び計上済みの財源の精査による2.5兆円を加えて28.8兆円程度が計上済みであり、さらに、新規の財源を、国の保有する資産の有効活用等による税外収入の0.8兆円及び決算剰余金の活用等による一般会計からの繰入れ2.4兆円、計3.2兆円程度とし、復興期間の財源の全体額として32兆円程度を確保するとしている。

図表1-6 25兆円フレーム及び32兆円フレームの事業規模と財源の内訳

図表1-6 25兆円フレーム及び32兆円フレームの事業規模と財源の内訳 事業規模 画像

図表1-6 25兆円フレーム及び32兆円フレームの事業規模と財源の内訳 財源 画像

2 復興等の各種施策及び支援事業の実施状況

(1)復旧・復興予算の執行等の状況

ア 23年度から26年度までの復旧・復興事業に係る歳出予算とその執行状況
(ア)経費項目別の復旧・復興予算の歳出予算

23年度から26年度までの4か年度の復旧・復興予算における歳出予算額を予算の経費の内容から区分した項目(以下「経費項目」という。)ごとに示すと、図表2-1のとおりである。23年度補正予算は計14兆8354億余円、24年度予算は計4兆9706億余円、25年度予算は計5兆3023億余円、26年度予算は計4兆1200億余円であり、4か年度の合計は一般会計及び復興特会を合わせた29兆2285億余円となっている。

図表2-1 平成23年度から26年度までの復旧・復興予算における歳出予算額

(単位:億円)
経費項目 一般会計 復興特会
23年度補正予算 24年度予算 25年度予算 26年度予算
災害救助等関係経費 5770 762 836 738 8107
災害廃棄物処理事業費 7378 3442 1265 236 1兆2323
災害対応公共事業関係費 1兆2019 1兆2019
施設費災害復旧費等 4160 4160
公共事業等の追加 1兆4734 5091 1兆9825
復興関係公共事業等 8793 9163 1兆7956
災害関連融資関係経費 1兆3122 1209 963 221 1兆5516
地方交付税交付金 2兆1408 5490 6053 5723 3兆8675
東日本大震災復興交付金 1兆5611 2867 5917 3637 2兆8035
全国防災対策費 5751 4826 1兆0578
その他の東日本大震災関係経費 3兆2649 3998 6255 3298 4兆6202
被災者支援関係経費 3773 3773
東日本大震災復興対策本部運営経費 5 5
原子力損害賠償法等関係経費 2754 2754
原子力災害復興関係経費 3557 4811 7093 6523 2兆1986
国債整理基金特別会計への繰入(復興債の償還財源等) 1兆1148 9107 8167 2兆8424
予備費(平成23年度は東日本大震災復旧・復興予備費、25年度以降は復興加速化・福島再生予備費) 8000 4000 6000 6000 2兆4000
社会インフラ整備・住民の定着促進等対策費※ 1964 1964
産業の復興と雇用機会の創出※ 512 512
原子力災害等対策費※ 700 700
福島の再生関係経費※ 1718 1718
復興まちづくり関係経費※ 2282 2282
産業の復興関係経費※ 1329 1329
被災者支援関係経費※ 306 306
東日本大震災の被災地の復旧・復興事業費※ 97 97
原子力事故対応の加速化関係経費※ 2500 2500
(既定経費の減額) △2343 △1119 △4899 △5108 △1兆3470
14兆8354 4兆9706 5兆3023 4兆1200 29兆2285
注(1)
計は補正後の金額である。
注(2)
※を付した経費項目は各年度の補正予算において措置されたものである。
(イ)復旧・復興予算の執行状況

復旧・復興予算の執行状況の検査に当たっては、予算措置年度別の予算現額、支出済額、繰越額、繰越額のうち避け難い事故により年度内に支出が終わらなかったため、翌年度へ繰り越した額(以下「事故繰越額」という。)及び不用額を調査し、復旧・復興事業に係る累計支出済額の予算現額に対する割合(以下「累計執行率」という。)、繰越率及び不用率について、経費項目別及び事業類型別に集計するとともに、不用が生じた主な事由(以下「不用事由」という。)を整理するなどして分析した。

なお、各年度に生ずる繰越額及び不用額は、翌年度以降に支出され、又は剰余金として改めて翌年度以降の復興財源に計上されるが、予算現額は、各予算措置年度の歳出予算額を基に算出されるため、繰越額、不用額等についても、これらを生じた予算現額ごとに分析した。したがって、本報告における繰越率、不用率は、予算措置年度ごとに整理された予算現額が26年度末現在でどの程度繰り越され、又は、不用とされているかを示すものであり、各年度において見込まれる支出額又はこれに対応して実際に必要とされる財源に対する率を表すものではない。

23年度から26年度までの予算措置年度ごとに整理された予算現額の合計額29兆3946億余円の26年度末現在における執行状況は、図表2-2のとおり、支出済額23兆9132億余円、繰越額1兆5352億余円、不用額3兆9461億余円であり、累計執行率81.3%、繰越率5.2%、不用率13.4%となっている。このうち26年度予算の執行状況をみると、執行率は57.2%にとどまり、繰越率は28.6%、不用率は14.1%となっている。

図表2-2 平成23年度から26年度までの復旧・復興予算の執行状況

(単位:億円、%)
区分 23年度予算 24年度予算 25年度予算 26年度予算
予算現額 A 14兆8243 5兆0018 5兆4484 4兆1200 29兆3946
支出済額 B 12兆5622 4兆5251 4兆4679 2兆3579 23兆9132
繰越額 C - - 3541 1兆1810 1兆5352
  うち事故繰越額 - - 3541 61 3603
不用額 D=A-B-C 2兆2621 4766 6263 5810 3兆9461
累計執行率 B/A 84.7 90.4 82.0 57.2 81.3
繰越率 C/A - - 6.5 28.6 5.2
不用率 D/A 15.2 9.5 11.4 14.1 13.4
注(1)
「23年度予算」は、平成23年度一般会計予算分(予備費、23年度補正予算)の合計額である。
注(2)
「24年度予算」の予算現額5兆0018億余円は、歳出予算額4兆9706億余円に、法令等に基づき国有林野事業特別会計(24年度末廃止)から復興特会に繰り越された東日本大震災関係経費35億余円及び社会資本整備事業特別会計(25年度末廃止)から復興特会に繰り越された東日本大震災関係経費275億余円、計311億余円を加算したものである。
注(3)
「25年度予算」の予算現額5兆4484億余円は、歳出予算額5兆3023億余円に社会資本整備事業特別会計(25年度末廃止)から復興特会に繰り越された東日本大震災関係経費1461億余円を加算したものである。
(ウ)経費項目別の執行状況

23年度から26年度までの4か年度の復旧・復興予算の経費項目別の支出済額をみると、図表2-3のとおり、公共土木施設、文教施設、医療施設等の災害復旧事業の実施に係る経費項目については、「災害対応公共事業関係費」6675億余円、「施設費災害復旧費等」2126億余円、「公共事業等の追加」1兆1705億余円及び「復興関係公共事業等」1兆0853億余円の4経費項目で計3兆1361億余円となっており、また、特措法3事業の実施に係る経費項目については、「原子力災害復興関係経費」1兆7220億余円となっている。そして、これらの経費項目の累計執行率は、「災害対応公共事業関係費」55.5%、「施設費災害復旧費等」54.7%、「公共事業等の追加」57.8%、「復興関係公共事業等」54.2%、「原子力災害復興関係経費」65.9%と他の経費項目と比べておおむね低くなっている。

一方、「地方交付税交付金」は復興特会から交付税特会に繰り入れられた段階で、また、「東日本大震災復興交付金」は特定被災自治体における基金の設置造成等のために特定被災自治体に復興交付金が交付された段階で、それぞれ国の復旧・復興予算としては執行され支出済みとなることから、これらの経費項目の累計執行率はそれぞれ95.2%、89.5%と高くなっている。特定被災自治体は、交付税特会から交付された地方交付税交付金を財源として事業を実施したり、復興交付金により設置造成等した基金を取り崩して事業を実施したりすることとなる。このため、これらの経費項目の累計執行率が高いことは、必ずしも復旧・復興事業の進捗が進んでいることを示すものではない(復興交付金事業の実施状況については2011_2_2_2_2リンク参照、地方交付税交付金の状況については2011_2_2_2_4リンク参照)。

図表2-3 平成23年度から26年度までの復旧・復興予算の経費項目別の執行状況

(単位:億円、%)
経費項目 予算現額 支出済額 繰越額 累計不用額 累計執行率
A 23年度予算 24年度予算 25年度予算 26年度予算
B
B/A
災害救助等関係経費 9231 6045 1256 648 535 8486 - 745 91.9
災害廃棄物処理事業費 1兆2323 6755 3162 940 67 1兆0925 212 1184 88.6
災害対応公共事業関係費 1兆2019 6675 - - - 6675 - 5343 55.5
施設費災害復旧費等 3884 2126 - - - 2126 - 1758 54.7
公共事業等の追加 2兆0228 7595 4110 - - 1兆1705 - 8522 57.8
復興関係公共事業等 2兆0016 - - 7337 3515 1兆0853 7341 1821 54.2
災害関連融資関係経費 1兆5946 1兆2992 1322 1252 99 1兆5667 - 278 98.2
地方交付税交付金 3兆9889 2兆1408 6704 5771 4116 3兆8000 - 1888 95.2
東日本大震災復興交付金 2兆8645 1兆5611 2867 6521 642 2兆5642 3001 1 89.5
全国防災対策費 1兆1705 5186 5426 - - 1兆0612 - 1092 90.6
その他の東日本大震災関係経費 5兆0116 2兆9775 4835 7240 2155 4兆4006 1503 4606 87.8
被災者支援関係経費 3773 2318 - - - 2318 - 1455 61.4
東日本大震災復興対策本部運営経費 5 3 - - - 3 - 1 67.7
原子力損害賠償法等関係経費 2754 2595 - - - 2595 - 158 94.2
原子力災害復興関係経費 2兆6119 1840 4055 6313 5010 1兆7220 3293 5605 65.9
国債整理基金特別会計への繰入(復興債の債務償還費等の財源) 2兆6775 - 1兆0259 8650 7437 2兆6347 - 428 98.4
予備費(平成23年度は東日本大震災復旧・復興予備費、25年度以降は復興加速化・福島再生予備費) 1兆0512 4691 1251 - - 5943 - 4568 56.5
29兆3946 12兆5622 4兆5251 4兆4679 2兆3579 23兆9132 1兆5352 3兆9461 81.3
(うち災害対応公共事業関係費等4経費項目の計) (5兆6149) (1兆6397) (4110) (7337) (3515) (3兆1361) (7341) (1兆7446) (55.8)
注(1)
本表の各計数は、歳出予算の経費項目の区分により集計したものであり、決算の経費項目の区分による集計とは一致しない。
注(2)
「23年度予算」は、平成23年度一般会計予算分(予備費、23年度補正予算)の合計額である。
注(3)
予備費の支出済額は、東日本大震災に係る復旧及び復興に関連する経費の予見し難い予算の不足に充てた額である。
注(4)
平成24年度から26年度までの各年度の補正予算で実施している事業については、各年度の当初予算の経費項目の区分により整理している。

23年度から26年度までの各年度の復旧・復興事業の執行において不用額を生じたものは各年度の累計で2,212事業あり、不用額の計は3兆9461億余円となっていて、不用事由別では、図表2-4のとおり、「①予定より実績が下回ったもの」が、736事業(33.2%)、不用額計1兆6227億余円(41.1%)と最も多く、その経費項目別の内訳をみると、公共事業等の追加(不用額4646億余円)、災害対応公共事業関係費(同2936億余円)等が多額となっている。これは、これらの経費項目で実施した事業において、住民の合意形成、復興計画の策定等に当たっての調整に時間を要したことなどのため事業に着手できなかったこと、早期の復旧や被災者支援の確実な実施の観点から予算が不足することがないよう積算していたことなどによるものである。

このほか、「②事業計画の変更により減額したもの」が、375事業(16.9%)、不用額計8846億余円(22.4%)と多額であり、経費項目別の内訳をみると、原子力災害復興関係経費(不用額2622億余円)が多額となっている。これは、特措法3事業実施前の測定で放射線量が低かったことなどにより事業規模を縮小したことによるものである。

図表2-4 平成23年度から26年度までの不用事由別の事業数及び不用額

(単位:事業、億円)
不用事由
経費項目
①予定より実績が下回ったもの ②事業計画の変更により減額したもの ③事業執行に伴い節減したもの ④契約価格が予定を下回ったもの ⑤執行停止 ⑥その他
事業数 不用額 事業数 不用額 事業数 不用額 事業数 不用額 事業数 不用額 事業数 不用額 事業数 累計不用額
災害救助等関係経費 65 529 25 3 17 0 37 3 - - 7 208 151 745
災害廃棄物処理事業費 9 514 9 657 1 0 4 12 - - - - 23 1184
災害対応公共事業関係費 22 2936 18 822 3 22 17 84 - - 12 1477 72 5343
施設費災害復旧費等 19 715 15 65 9 239 46 59 - - 4 679 93 1758
公共事業等の追加 74 4646 60 2299 13 13 124 180 2 57 32 1323 305 8522
復興関係公共事業等 45 184 45 1052 9 14 53 51 - - 23 517 175 1821
災害関連融資関係経費 33 274 1 1 1 0 - - - - 3 2 38 278
地方交付税交付金 - - - - - - - - - - 2 1888 2 1888
東日本大震災復興交付金 2 0 - - - - 7 1 - - 1 0 10 1
全国防災対策費 46 181 30 115 11 6 160 706 7 50 13 32 267 1092
その他の東日本大震災関係経費 317 2471 114 1204 56 84 254 678 2 79 37 87 780 4606
被災者支援関係経費 5 1434 - - 3 20 1 0 - - - - 9 1455
東日本大震災復興対策本部運営経費 1 1 - - - - 1 0 - - - - 2 1
原子力損害賠償法等関係経費 8 109 2 0 2 1 10 30 - - 2 16 24 158
原子力災害復興関係経費 79 1872 56 2622 8 14 84 81 2 4 11 1009 240 5605
国債整理基金特別会計への繰入(復興債の債務償還費等の財源) 2 336 - - - - - - - - 1 92 3 428
予備費(平成23年度は東日本大震災復旧・復興予備費、25年度以降は復興加速化・福島再生予備費) 9 17 - - 2 177 - - - - 7 4372 18 4568
736 1兆6227 375 8846 135 596 798 1890 13 192 155 1兆1708 2,212 3兆9461
(33.2%) (41.1%) (16.9%) (22.4%) (6.1%) (1.5%) (36.0%) (4.7%) (0.5%) (0.4%) (7.0%) (29.6%) (100%) (100%)
注(1)
本表の各計数は、歳出予算の経費項目の区分により集計したものであり、決算の経費項目の区分による集計とは一致しない。
注(2)
平成24年度から26年度までの各年度の補正予算で実施している事業については、各年度の当初予算の経費項目の区分により整理している。
(エ)事業類型別の執行状況

復興基本方針においては、「あらゆる力を合わせた復興支援」として、平時とは異なる復興の局面に際して、既存の行政制度等の弊害を取り除き、被災した地方公共団体による取組を、総力を挙げて支援するとともに、被災しなかった地方公共団体、民間の力も十分に活用し、活力ある日本の再生を目指した抜本的な対策を講じていくこととするとされている。

上記のような方針の下、復旧・復興予算は、事業実施主体別には、国が自ら復旧・復興事業として執行するもの、独立行政法人に運営費交付金を交付するなどして執行するもの、地方公共団体等の各種団体に様々な方法で財政支援を行うために執行するものに大別され、さらに、財政支援について、その方法や経費の性質からみると、各種団体の復旧・復興事業に要する経費や事業を実施するための基金や拠出金に対する補助によるもの、各種団体に対する出資によるもの、地方公共団体への地方交付税交付金の交付によるものなどの態様に分類される。

そこで、23年度から26年度までの4か年度の復旧・復興予算の執行状況について、上記のような事業の実施主体や財政支援の方法等に着目して、図表2-5の事業類型別の区分により復旧・復興事業を整理して分析した。

図表2-5 復旧・復興事業の事業類型の区分

事業類型 内容
① 直轄
各府省庁等が、請負契約や委託契約を締結する場合を含め、直接事業を実施するもの
② 補助
国以外の者が行う事業等に助成等を行う補助事業の事業類型のうち、基金、運営費交付金及び拠出金による補助事業を除いたもの。単年度で実施する復興交付金事業を含む。
③ 直轄、補助等
①又は②を含めて複数の方法で行うもの
④ 補助(基金)
国が地方公共団体、公益法人その他団体等に国庫補助金等を交付して、復旧・復興事業を実施するための基金を設置造成等させるもの。復興関連基金事業や基金を設置造成等して複数年度で実施する復興交付金事業を含む。
⑤ 補助(運営費交付金)
国が独立行政法人等に対して業務に必要な金額の一部又は全部を交付等しているもの
⑥ 補助(拠出金)
国が団体等に対して拠出金を交付しているもの
⑦ 出資
国が団体等に対して出資しているもの
⑧ 地方交付税交付金
国が東日本大震災からの復旧・復興事業に係る地方負担等について震災復興特別交付税を措置しているものなど
⑨ その他
①~⑧以外のもの

図表2-6及び図表2-7のとおり、支出済額は「④補助(基金)」が6兆1291億余円、「②補助」が4兆9831億余円、「⑧地方交付税交付金」3兆8000億余円等となっていて、特定被災自治体が実施する事業等への財政支援を行う方法において多額となっている。また、累計執行率は「②補助」が64.5%、「③直轄、補助等」が62.5%と他の事業類型に比べて低くなっている。これは、事業計画の策定や、関係者及び関係機関との協議等が整わず、事業実施までに相当の日数を要したことなどによるものである。一方、「④補助(基金)」から「⑧地方交付税交付金」までは、基金の設置造成等に係る資金、交付金、出資金等の支出に係るものであり、予算措置年度に特定被災自治体や独立行政法人、政策金融機関等に対して支出される場合が多いことなどから、累計執行率はいずれも90%以上と高くなっている(「④補助(基金)」のうち、復興関連基金事業の実施状況については、"2011_2_2_2_3"リンク参照)。

図表2-6 復旧・復興事業の事業類型別の執行状況

(単位:億円、%)
事業類型 支出済額 執行率
23年度予算 24年度予算 25年度予算 26年度予算 23年度予算 24年度予算 25年度予算 26年度予算 累計執行率
①直轄 1兆1269 2434 5245 1359 2兆0309 80.6 80.4 82.5 70.3 80.2
②補助 3兆0620 1兆0613 6080 2515 4兆9831 67.2 84.4 65.7 25.3 64.5
③直轄、補助等 6456 7069 8160 4073 2兆5760 60.7 82.4 69.8 39.5 62.5
④補助(基金) 4兆2298 5925 9306 3761 6兆1291 99.9 99.7 99.5 99.7 99.8
⑤補助(運営費交付金) 1068 262 157 146 1634 100 100 100 100 100
⑥補助(拠出金) 83 5 - 1 89 99.9 99.9 - 99.9 99.9
⑦出資 1兆1722 1461 1204 59 1兆4448 100 100 100 36.9 99.3
⑧地方交付税交付金 2兆1408 6704 5771 4116 3兆8000 100 100 95.3 71.9 95.2
⑨その他 694 1兆0774 8751 7544 2兆7765 44.9 93.8 83.8 81.5 84.9
12兆5622 4兆5251 4兆4679 2兆3579 23兆9132 84.7 90.4 82.0 57.2 81.3
(注)
支出済額欄の「23年度予算」は、平成23年度一般会計予算分(予備費、23年度補正予算)の合計額である。

図表2-7 復旧・復興事業の事業類型別の支出済額(平成23年度~26年度)

図表2-7 復旧・復興事業の事業類型別の支出済額(平成23年度~26年度)画像

イ 23年度から26年度までの復旧・復興事業に係る歳入の予算及び実績の状況
(ア)財源項目別の歳入の予算・決算

集中復興期間の復旧・復興事業の財源は、前記のとおり、復興財源フレームに基づき復興特別税、歳出削減、税外収入等により確保することとなっている。また、復旧・復興に係る事業費の財源が短期的に不足すると見込まれる場合、これを賄う一時的なつなぎとして復興債が発行されている。

23年度から26年度までの各年度の予算に基づく復旧・復興事業の財源等を予算の財源等の内容から区分した項目(以下「財源項目」という。)ごとに示すと、図表2-8のとおりである。なお、23年度については、数次にわたる補正予算の編成において、一時的な財源とするために、年金臨時財源等の既定経費の減額により捻出した3兆8754億余円を計上した後、復旧・復興事業以外の事業に係る経費の財源となった2兆9125億余円を控除している。

また、各年度に計上されている財源項目をみると、復興特別法人税については、当初24年度から26年度までの3年間の予定であったものが25年度までとされたが、26年度についても課税対象となる法人の申告時期等を勘案して算出した4446億円が計上されている。一般会計からの受入れは、復興施策及び復興債の償還に要する費用に充てるために一般会計の前年度の決算剰余金等を財源として受け入れているものであるが、当該受入額はそのときの財政状況等により変動が大きい。

23年度から26年度までの各年度の決算額と予算額とを比較すると、復興特別所得税は24年度以降の3年間、復興特別法人税は24、25両年度に、いずれも決算額が予算額を上回っている。また、前年度剰余金受入は、25年度以降は決算額が予算額を大幅に上回っているが、これは、24年度以降に復興特会で予算措置された財源等が当年度のうちに支出されずに、繰越し又は不用として翌年度以降の財源となっていることによるものである。一方、復興公債金は、23年度から26年度までの4か年度の累計で、予算額の15兆4072億円に対して、決算額は13兆6732億余円となっていて、予算額を下回っている。

図表2-8 平成23年度から26年度までの復旧・復興事業の財源等

(単位:億円)
財源項目 予算ベース 決算ベース
一般会計 復興特会 一般会計 復興特会
平成23年度 24年度 25年度 26年度 23年度 24年度 25年度 26年度
復興特別所得税 495 3195 3299 6989 511 3338 3491 7341
復興特別法人税 5062 1兆0935 4446 2兆0443 6493 1兆2043 4327 2兆2864
一般会計より受入 1兆9999 3兆1769 1兆6874 6兆8643 1兆9999 3兆1769 1兆6874 6兆8643
特別会計より受入 1 1 1 1
公共事業費負担金収入 101 61 625 788 61 42 605 709
災害等廃棄物処理事業費負担金収入 12 32 3 48 0 2 2
附帯工事費負担金収入 3 3 0 0
政府資産整理収入 17 17
雑収入 3237 2 1087 946 5273 2689 123 1808 3433 8055
前年度剰余金受入 1兆9987 2373 4031 2兆6392 1兆9987 1兆8700 2兆3635 6兆2324
復興公債金 11兆5500 2兆4033 3569 1兆0970 15兆4072 11兆2499 2兆3032 1199 13兆6732
歳出予算の既定経費の減額 3兆8754 3兆8754 3兆8643 3兆8643
(復旧・復興事業以外の経費の財源) △2兆9125 △2兆9125 △2兆9104 △2兆9104
14兆8354 4兆9706 5兆3023 4兆1200 29兆2285 14兆4733 5兆0222 6兆7703 5兆3573 31兆6232
(復興公債金を除く計) (3兆2854) (2兆5673) (4兆9454) (3兆0230) (13兆8213) (3兆2233) (2兆7189) (6兆7703) (5兆2373) (17兆9499)
注(1)
平成23年度の予算ベースでは、表中の予算額のほかに、当初予算の予備費503億余円が東日本大震災関係経費として使用されている。また、23年度の決算ベースでは、財源等の実績を示すために、当初予算の予備費使用額503億余円を含め、歳出予算の既定経費の減額に係る重複額を控除している。
注(2)
年金臨時財源、子ども手当等の歳出予算の補正減により、復旧・復興事業の財源を確保したものである。
注(3)
独立行政法人の運営費、年金臨時財源、台風12号対策等に充てられたため、復旧・復興事業以外の経費の財源として控除している。
(イ)復興債の発行及び償還の状況

復旧・復興事業の財源には、復興特別所得税のように49年12月までの長期にわたって確保されるものや資産の売却収入のようにその収納時期が流動的なものもある。復旧・復興事業の実施に当たっては、多額の費用が限られた期間に生ずることから事業の実施に当たり不足する資金を確保するために復興債が発行されることになるが、復興債の発行には発行額以外にも利子、割引料等の支出が必要となり、多額の発行は復旧・復興事業の経費負担を増加させることとなる。そこで、前記復興公債金の歳入の予算・決算の状況に加えて、復興債の発行及び償還の状況について検査した。

a 復興債の発行状況

復興財源確保法によれば、復興債は23年度第3次補正予算から27年度予算までの各年度予算をもって国会の議決を経た金額の範囲内で発行できるとされている。そして、財務省は、予算に基づいて、国債発行計画を作成し発行計画額を決定し、短期的に確保された財源が復旧・復興事業の費用に充てられた後、なお不足する資金を確保するために復興債を発行している。

補正後の予算における発行計画額と発行実績額により、23年度から26年度までの4か年度の復興債の発行状況をみると、図表2-9のとおり、発行計画額計15兆4072億円に対して発行実績額計13兆6732億余円となっている。また、年度別の推移をみると、復旧・復興事業の初年度の23年度には11兆5500億円の予算が計上され、実績額も11兆2499億余円と発行計画額にほぼ等しい額となっているが、24年度以降は発行計画額、発行実績額ともに大幅に減少している。そして、前記のとおり、復興特別所得税及び復興特別法人税の税収が予算額を上回ったり、繰越し及び不用の発生による決算剰余金が計上されたりしたことにより、25年度においては復興債は発行されず、26年度においても発行計画額の1兆0970億円に対して発行実績額は1199億余円と大幅に下回っている。

図表2-9 平成23年度から26年度までの復興債の発行計画額及び発行実績額

(単位:億円)
年度 平成23年度 24年度 25年度 26年度
発行計画額 11兆5500 2兆4033 3569 1兆0970 15兆4072
発行実績額 11兆2499 2兆3032 1199 13兆6732
(注)
発行計画額は、各年度の補正後の予算(平成23年度は23年度第3次補正予算)に基づく国債発行計画額であり、発行実績額は、復興公債金収納済歳入額である。

b 復興債の償還状況

復興債の償還は、24年度以降、国債等の償還を一元的に行う国債整理基金特別会計(以下「国債整理特会」という。)において行われている。復興債の償還に係る国債整理特会の資金の流れは、図表2-10のとおり、国債整理特会の歳出において、復興債の債務償還費と復興債の発行に伴う手数料、利子及割引料等(以下、これらを「償還費等」という。)を計上している。そして、国債整理特会の歳入において、復興債の償還費等に充てる財源(以下「償還財源」という。)として、復興特会からは復興特別税の税収等を、財政投融資特別会計(以下「財投特会」という。)財政融資資金勘定からは同勘定の積立金を、それぞれ受け入れているほか、国債整理特会において保有する株式の売払収入、配当金収入等を計上している。また、上記の償還財源が償還費等の額に不足する場合は、復興借換債の発行による復興借換公債金を歳入に計上している。

図表2-10 復興債の償還に係る資金の流れ

図表2-10 復興債の償還に係る資金の流れ 画像

26年度の国債整理特会の歳入歳出決算をみると、図表2-11のとおり、歳入では、償還財源として復興特会からの繰入額7437億余円、国が保有する株式の配当金収入68億余円が計上されたほか、26年度は償還財源による資金が償還費等の額に満たず、復興借換債が発行されたため復興借換公債金8421億余円が計上され、歳入の合計は1兆5926億余円となっている。これに対して、歳出では、債務償還費が1兆5736億余円となり、このうち復興債の借換え分が8421億余円であるため、これを除く7315億余円の復興債が償還されている。

なお、特会法により国債の償還に充てるべき資金の充実に資するために国債整理特会において保有する株式のうち、日本たばこ産業株式会社の株式は24年度に9774億余円で既に売却済みで、売払収入が復興債の償還財源に充てられている。また、日本郵政の株式は、27年11月及び12月に一部売却され、その売払収入はそれぞれ6930億余円、7301億余円となり(後者は、日本郵政が株式会社ゆうちょ銀行及び株式会社かんぽ生命保険の株式を売却し、その売却手取金を活用して自己株式を取得したことにより発生したもの)、これらの売払収入計1兆4231億余円も27年度の国債整理特会の歳入として、復興債の償還財源に充てられる見込みである。一方、東京地下鉄株式会社の株式の売払収入も、復興財源確保法に基づいて復興債の償還財源として位置付けられているが、売却に向けての動きが進捗していない状況となっている。

図表2-11 平成24年度から26年度までの復興債の償還に係る状況(国債整理特会決算ベース)

(単位:億円)
年度 平成24年度 25年度 26年度
歳入 5兆5477 4兆5450 1兆5926
  他会計より受入 2兆0226 1兆5617 7437
  復興特会 1兆0259 8650 7437
財投特会 9967 6967
前年度剰余金受入 7 4824 0
株式売払収入 9774
配当金収入 255 62 68
運用収入等 82 14 0
復興借換公債金 2兆5130 2兆4930 8421
歳出 5兆0653 4兆5450 1兆5926
  債務償還費 5兆0293 4兆5226 1兆5736
  借換え分 2兆5130 2兆4930 8421
借換えを除く償還実績 2兆5162 2兆0295 7315
手数料等 224 16 3
利子及割引料 135 208 187
剰余金 4824 0 0

23年度から26年度までの復興債の年度末現在額をみると、図表2-12のとおり、23年度末の11兆2574億余円から26年度末の8兆3996億余円に減少している。

図表2-12 平成23年度から26年度までの復興債の現在額

(単位:億円)
区分 平成23年度 24年度 25年度 26年度
年度首現在額 A 11兆2574 11兆0437 9兆0135
新規発行による増加 B 11兆2574 2兆3023 1201
償還による減少 C 5兆0294 4兆5231 1兆5742
Cのうち復興借換債の発行による償還 D 2兆5133 2兆4929 8402
借換えを除く償還による純減 E=C-D 2兆5160 2兆0301 7340
年度末現在額 F=A+B-E 11兆2574 11兆0437 9兆0135 8兆3996
注(1)
表中の数値は復興債の額面金額であるため、復興公債金収納済歳入額や復興債償還費支出済額等の歳入歳出決算額とは異なっている。
注(2)
復興債は、復興財源確保法により、各年度において翌年度の4月1日から6月30日までの期間も発行できるため、「新規発行による増加 B」は、当該期間内に発行されたものを含めた額面金額を示している。
ウ まとめ

復旧・復興事業に係る23年度から26年度までの4か年度の予算現額計29兆3946億余円の26年度末における執行状況は、累計執行率81.3%、繰越率5.2%、不用率13.4%となっている。このうち26年度予算の執行状況は、執行率57.2%にとどまり、繰越率28.6%、不用率14.1%となっている。

また、復旧・復興事業の歳入について23年度から26年度までの各年度の決算額と予算額とを比較すると、復興特別所得税は決算額が予算額を上回って推移しており、また、復興特会において24年度以降に多額の繰越額や不用額が計上されるなどしたことに伴い、前年度剰余金受入についても、25年度以降は決算額が予算額を上回っている。復興債の発行及び償還の状況について、復興債の発行実績額は発行計画額を下回っており、その年度末現在額は23年度末の11兆2574億余円から26年度末の8兆3996億余円に減少している。

復興庁及び関係府省等は、今後更に3.2兆円の新規財源を要することとされたところであり、各種事業が有効かつ効率的に実施されるように努める必要がある。

(2)国から財政支援等を受けて地方公共団体等が実施する復旧・復興事業の状況

復興基本方針において、国は、被災地域における社会経済の再生及び生活の再建と活力ある日本の再生のために、国の総力を挙げて、東日本大震災からの復旧、そして将来を見据えた復興へと取組を進めていかなければならないとされ、東日本大震災からの復興を担う行政主体は、住民に最も身近で、地域の特性を理解している市町村が基本となるものとされている。そして、国は、復興の基本方針を示しつつ、市町村が能力を最大限発揮できるよう、現場の意向を踏まえて、財政、人材、ノウハウ等の面から必要な制度設計や支援を責任を持って実施するものとされ、県は、被災地域の復興に当たって、広域的な施策を実施するとともに、市町村の実態を踏まえて、市町村に関する連絡調整や市町村の行政機能の補完等の役割を担うものとされている。

上記の復興基本方針等を踏まえて、国は、地方公共団体等が実施する補助事業等、復興交付金事業及び復興関連基金事業に対して国庫補助金等を交付したり、補助事業等の地方公共団体の負担額等に対処するために地方交付税の総額に係る特例措置を講じた震災復興特別交付税を交付したり、住民の生活の安定、コミュニティの再生等のために設置造成等された復興基金に対して地方交付税等を交付したりするなどの多様な方法により財政支援を行っている。

そこで、国から財政支援等を受けて地方公共団体等が実施する事業の状況について検査した。

ア 国からの地方公共団体等に対する財政支援の状況

23年度から26年度までの4か年度に東日本大震災関係経費として国から交付された国庫補助金等及び地方交付税のうち、沿岸6県及び管内200市町村に交付されたものは、図表3-1のとおり、計11兆2586億余円となっている。

主な財政支援に係る類型の概要は次のとおりである。復興交付金事業は、復興庁から特定被災自治体に通知された復興交付金に係る交付申請の限度額(以下「交付可能額」という。)の範囲内で、国から特定被災自治体が復興交付金の交付を受けて単年度で実施する事業(以下「単年度型事業」という。)と基金を設置造成等して復興交付金事業計画の計画期間内にこれを取り崩して実施する事業(以下「基金型事業」という。)のいずれかを選択して実施するものである。復興関連基金事業は、各年度の所要額をあらかじめ見込み難く、弾力的な支出が必要であることや、あらかじめ当該複数年度にわたる財源を確保しておくことがその安定的かつ効率的な実施に必要であると認められるものについて、国から国庫補助金等を交付して、交付を受けた地方公共団体、公益法人及びその他の団体(以下「基金団体」という。)が基金を設置造成等して、基金団体において事業を実施するものである。震災復興特別交付税は、復旧・復興事業を実施する地方公共団体の財源の裏付けとなるものであり、一般会計及び復興特会から交付税特会に対して繰入れを行った後に地方公共団体の事業実施状況等に応じて交付額が決定され交付されるものである。

これらの財政支援に係る類型ごとに、国庫補助金等及び地方交付税の交付額又は交付可能額(以下、これらを合わせて「交付額等」という。)の交付額等の合計に占める割合をみると、補助事業等が31.6%と最も高く、次いで復興交付金事業22.7%、震災復興特別交付税21.8%、復興関連基金事業19.9%の順となっている。事業主体別にみると、県実施分が56.1%、市町村実施分が43.8%であり、県実施分では復興関連基金事業が34.1%、補助事業等が30.9%となっていて、2事業で県全体の約3分の2を占めている。市町村分では、復興交付金事業が43.6%と全体の半分近くを占めている。

なお、福島の復興再生に資するために福島県に交付されている生活拠点形成交付金、福島定住交付金及び福島交付金についてみると、復興庁から特定被災自治体に通知された交付可能額の3交付金合計額の同県における交付額等全体に占める割合は3.9%となっている。

図表3-1 沿岸6県及び管内200市町村に対する国庫補助金等及び地方交付税の交付額等の状況(平成23年度~26年度)

(単位:百万円、%)
特定被災自治体 国庫補助金等 地方交付税 特定被災自治体に対する交付額等の合計 各交付額又は交付可能額の交付額等の合計に占める割合
補助事業等 復興交付金事業 復興関連基金事業 福島の復興に関する事業(他事業に計上している分を除く。) 震災復興特別交付税 復興基金事業
交付額 復興交付金交付額 国庫補助金等交付額 生活拠点形成交付金、福島定住交付金及び福島交付金の交付可能額 交付額 特別交付税交付額   補助事業等 復興交付金事業 復興関連基金事業 福島の復興に関する事業 震災復興特別交付税 復興基金事業
a b c d e f G=(a+b+c+d+e+f) (a/G) (b/G) (c/G) (d/G) (e/G) (f/G)
青森県 27,799 544 20,997 - 41,120 8,478 98,939 28.0 0.5 21.2 - 41.5 8.5
4市町 8,843 4,963 - - 10,915 - 24,721 35.7 20.0 - - 44.1 -
岩手県 417,785 126,576 161,904 - 293,414 63,460 1,063,142 39.2 11.9 15.2 - 27.5 5.9
33市町村 367,597 532,137 - - 185,142 - 1,084,877 33.8 49.0 - - 17.0 -
宮城県 882,149 194,594 295,885 - 590,436 136,855 2,099,922 42.0 9.2 14.0 - 28.1 6.5
35市町村 862,840 1,308,200 6,497 - 475,656 - 2,653,194 32.5 49.3 0.2 - 17.9 -
福島県 530,487 78,710 1,630,674 107,345 318,611 67,306 2,733,134 19.4 2.8 59.6 3.9 11.6 2.4
59市町村 246,081 238,285 85,000 30,020 226,038 - 825,425 29.8 28.8 10.2 3.6 27.3 -
茨城県 75,205 3,429 37,581 - 119,369 14,455 250,041 30.0 1.3 15.0 - 47.7 5.7
40市町村 68,897 41,955 - - 99,990 - 210,843 32.6 19.8 - - 47.4 -
千葉県 22,479 251 9,757 - 36,114 4,145 72,749 30.8 0.3 13.4 - 49.6 5.6
29市町 51,929 28,807 - - 60,913 - 141,650 36.6 20.3 - - 43.0 -
合計 3,562,095 2,558,456 2,248,298 137,365 2,457,725 294,701 11,258,642
(100%)
31.6 22.7 19.9 1.2 21.8 2.6
  沿岸6県計 1,955,906 404,106 2,156,801 107,345 1,399,067 294,701 6,317,929
(56.1%)
30.9 6.3 34.1 1.6 22.1 4.6
200市町村計 1,606,188 2,154,350 91,497 30,020 1,058,657 - 4,940,713
(43.8%)
32.5 43.6 1.8 0.6 21.4 -
(東北3県及び127市町村計) 3,306,941 2,478,504 2,179,962 137,365 2,089,300 267,622 10,459,696 31.6 23.6 20.8 1.3 19.9 2.5
注(1)
震災復興特別交付税の交付額は、交付決定額と同額となっている。
注(2)
震災復興特別交付税は、地方税法(昭和25年法律第226号)等の特例措置による減収額に対する措置等を含んでいることから、震災復興特別交付税の交付額等全体に占める割合(表のe/G)が、復旧・復興事業に係る地方負担割合を示すものではない。

このように、国は、東日本大震災からの復旧・復興を進めるために事業の実施主体である地方公共団体等に対して多様な財政支援を行っており、特に、補助事業等、復興交付金事業、復興関連基金事業及び震災復興特別交付税については、いずれもこれまでの交付額が2兆円から3兆円の規模に上っている。これらの財政支援については、国の予算の執行としては、国庫補助金等の交付や復興特会から繰入れの段階で支出済額となるため、国の予算執行のみでは復旧・復興事業の実質的な実施状況を把握できない。

そこで、国庫補助金等の交付先の地方公共団体等が、国庫補助金等により設置造成等した基金を取り崩して実施している復興交付金事業及び復興関連基金事業の実施状況並びに交付税特会における一般会計及び復興特会から受け入れた繰入金の執行状況により地方公共団体への震災復興特別交付税の交付状況について検査したところ、次のイからエまでのとおりとなっていた。

イ 復興交付金事業の実施状況

復興交付金は、特区法に基づき、東日本大震災により相当数の住宅、公共施設その他の施設の滅失又は損壊等の著しい被害を受けた地域を対象として、円滑かつ迅速な復興のための復興交付金事業の実施に要する経費に充てるために、東日本大震災復興特別区域法施行規則(平成23年内閣府令第69号)で定めるところにより、予算の範囲内で交付されるものである。当該事業を実施する特定被災自治体は、復興交付金事業計画を作成して、復興庁に提出し、同庁から通知された交付可能額の範囲内で復興交付金事業を所管する文部科学、厚生労働、農林水産、国土交通、環境各省にそれぞれ交付申請を行い、交付決定を受けて事業を実施している。復興交付金事業のうち基金型事業は、復興交付金事業計画に基づき、事業年度ごとにあらかじめ計画された事業の実施に要する経費(以下、事業年度ごとにあらかじめ計画された経費を「○○年度の実施計画分」という。)を基金から取り崩すものであるが、計画された事業年度中に事業を実施できなかった場合でも、次年度以降に基金を取り崩して事業を実施することが可能となっている。

また、復興交付金事業には、被災した地域の復興地域づくりに不可欠な基盤を整備することを目的とする40の基幹事業(別図表2参照)と、基幹事業と一体となってその効果を増大させるために必要な事業で、著しい被害を受けた地域の復興のために基幹事業と関連して地域の特性に則して自主的かつ主体的に実施される効果促進事業がある。このうち効果促進事業は、各基幹事業の効果を増大させるために計画された個別の効果促進事業の実施に伴い必要となる額で交付申請を行い復興交付金の交付を受けるもの(以下「効果促進事業(個別配分)」という。)と、各基幹事業に係る事業費に一定割合を乗じて算出した額で交付申請を行い、所管省庁から一括して先渡しで復興交付金の交付を受ける漁業集落復興効果促進事業及び市街地復興効果促進事業(被災地の要望を踏まえて24年度に創設。以下、両事業を合わせて「効果促進事業(一括配分)」という。別図表3参照)がある。

効果促進事業(一括配分)については、他の基金型事業と異なり復興交付金事業計画にはあらかじめその事業内容を定めることとなっていない。特定被災自治体は、事業に係る復興交付金の交付を受けた後に事業内容を定めて、24年1月に農林水産、国土交通両省が定めた東日本大震災復興交付金交付要綱等に基づき当該事業で実施する旨を記載した使途内訳提出書を作成し、漁業集落復興効果促進事業では復興庁を経由して農林水産省に、市街地復興効果促進事業では同庁を経由して国土交通省に、それぞれ提出して事業を開始し、これにより基金の取崩しが行われることとなっている。そして、復興まちづくりの根幹を成す基幹事業には幅広い関連事業が存在することから、上記のとおりあらかじめ事業に要する復興交付金の一定割合を一括して先渡しして、個別事業の交付申請及び交付決定を経ずに事業を機動的に実施できるようにすることを目的として、交付手続が簡素化されており、特定被災自治体は、復興交付金事業計画における計画期間内であれば必要な事業を自由な期間設定で迅速に開始することが可能となっている。

26年度末現在の交付額等をみると、図表3-2のとおり、交付可能額が通知された8道県及び96市町村のうち約9割に当たる7県及び88市町村が基金型事業を選択していて、交付可能額は2兆5631億余円、交付額は2兆5600億余円、このうち27年度の実施計画分を除いた23年度から26年度までの4か年度の実施計画分に係る交付額は計2兆0412億余円となっている。

図表3-2 復興交付金事業の実施区分別の交付額等(平成26年度末現在)

(単位:百万円)
実施区分 道県及び市町村数 交付可能額
(第1回~第11回)
交付額 左のうち平成23年度から26年度までの実施計画分に係る交付額
単年度型事業 3道県及び13市町 1,618 1,509 927
基金型事業 7県及び88市町村 2,563,125 2,560,057 2,041,203
8道県及び96市町村 2,564,743 2,561,567 2,042,130
注(1)
道県及び市町村数は、交付を受けた道県及び市町村の数である。
注(2)
道県及び市町村は、①単年度型、②基金型、③単年度型及び基金型のいずれかの類型で事業を実施しており、③の類型(2県及び5市町)は重複計上されている。
注(3)
交付可能額及び交付額は、復興交付金事業計画に基づく平成23年度から27年度までの実施計画分に係る額である。
注(4)
事業が完了しているものについては、交付額ではなく精算額で計上している。

そこで、基金型事業について、26年度末の基金の取崩しの状況をみると、図表3-3のとおり、27年度の実施計画分を除いた23年度から26年度までの4か年度の実施計画分に係る交付額計2兆0412億余円のうち26年度末までに9902億余円が取り崩されていて、基金事業執行率は48.5%であり、取崩しが行われずに基金に保有されている額(以下「取崩未済額」という。)は1兆0509億余円となっている。これを、あらかじめ事業内容を定めて復興交付金の交付を受ける基幹事業及び効果促進事業(個別配分)(以下、基幹事業と効果促進事業(個別配分)を合わせて「基幹事業等」という。)と、あらかじめ事業内容を定めていなくても復興交付金の交付を受ける効果促進事業(一括配分)に区分してみると、基幹事業等の基金事業執行率は、40事業のうち事業化されなかった5事業を除いて50.3%であり、取崩未済額は9418億余円となっている。

上記のうち、復興基本方針に基づき、被災者の居住の安定確保を図るために、被災者に住宅又は宅地を供給している住まいの復興に係る4事業についてみると、災害公営住宅及び宅地の整備を行っている漁業集落防災機能強化事業(事業番号C-5)、災害公営住宅整備事業等(同D-4)、都市再生区画整理事業(同D-17)及び防災集団移転促進事業(同D-23)の4事業の23年度から26年度までの4か年度の実施計画分に係る交付額は計1兆1534億余円と基幹事業等全体の60.8%を占めていて、26年度末までの取崩額は6305億余円、基金事業執行率は54.6%となっている。

基幹事業等において取崩しが進んでいない原因として、国土交通省等は、特定被災自治体が作成する復興交付金事業計画は、復興交付金事業の執行に係る事務の円滑化や事務負担の軽減を図るためにその時点で想定される標準的な事業スケジュールや概算事業費を基に作成されていることから、同計画と実際の事業の進捗や事業費とで差が生じていることを挙げている。特定被災自治体は、事業に係る住民との合意形成、住民の意向の変化による事業内容の変更に係る調整及び事業用地の取得に時間を要していること、関連して進められている他の基幹事業等や災害復旧事業の進捗が遅延していることなどを挙げている。また、取崩未済額が多い原因として、24年1月に東日本大震災復興対策本部が定めた東日本大震災復興交付金基金管理運営要領(以下「運営要領」という。)において、特定被災自治体は、復興交付金事業が全て終了したときに、基金の取崩未済額(以下、事業が終了したときの取崩未済額を「残余額」という。)を国庫に返還することとなっていて、復興交付金事業のうち一部の事業が終了して残余額が生じたとしても引き続き基金での保有を続けていることなどが挙げられる。

一方、効果促進事業(一括配分)をみると、いずれの事業も基金の取崩しが進んでおらず、基金事業執行率は24.6%であり、基幹事業等の基金事業執行率50.3%に比べて低くなっている。

図表3-3 基金型事業の事業別交付額等(平成26年度末現在)

(単位:百万円、%)
所管省庁 区分 事業番号 事業名 交付可能額
(第1回~第11回)
交付額 左のうち平成23年度から26年度までの実施計画分に係る交付額 26年度末取崩額 基金事業執行率 取崩未済額
A B B/A A-B
文部科学省 基幹事業等 A-1 公立学校施設整備費国庫負担事業(公立小中学校等の新増築・統合) 4,237 4,237 3,706 2,134 57.5 1,571
A-2 学校施設環境改善事業(公立学校の耐震化等) 4,533 4,533 3,449 2,568 74.4 880
A-3 幼稚園等の複合化・多機能化推進事業 358 358 283 162 57.1 121
A-4 埋蔵文化財発掘調査事業 3,108 3,108 3,016 1,503 49.8 1,512
厚生労働省 基幹事業等 B-1 医療施設耐震化事業
B-2 介護基盤復興まちづくり整備事業(「定期巡回・随時対応サービス」や「訪問看護ステーション」の整備等) 30 30 30 30
B-3 保育所等の複合化・多機能化推進事業 877 877 712 615 86.3 97
農林水産省 基幹事業等 C-1 農山漁村地域復興基盤総合整備事業(集落排水等の集落基盤、農地等の生産基盤整備等) 80,595 80,595 73,306 26,822 36.5 46,484
C-2 農山漁村活性化プロジェクト支援(復興対策)事業(被災した生産施設、生活環境施設、地域間交流拠点整備等) 4,128 4,128 3,696 2,902 78.5 794
C-3 震災対策・戦略作物生産基盤整備事業(麦・大豆等の生産に必要となる水利施設整備等) 433 433 433 357 82.5 75
C-4 被災地域農業復興総合支援事業(農業用施設整備等) 40,647 40,647 38,667 30,408 78.6 8,259
C-5 漁業集落防災機能強化事業(漁業集落地盤かさ上げ、生活基盤整備等) 48,639 48,639 38,933 12,639 32.4 26,293
C-6 漁港施設機能強化事業(漁港施設用地かさ上げ、排水対策等) 7,309 7,309 6,853 2,812 41.0 4,040
C-7 水産業共同利用施設復興整備事業(水産業共同利用施設、漁港施設、放流用種苗生産施設整備等) 116,260 116,260 108,577 46,810 43.1 61,766
C-8 農林水産関係試験研究機関緊急整備事業 7,309 7,309 6,980 5,230 74.9 1,749
C-9 木質バイオマス施設等緊急整備事業 3,649 613 613 572 93.3 40
効果促進事業
(一括配分)
F-1 漁業集落復興効果促進事業 10,147 10,147 7,997 1,244 15.5 6,752
F-3 漁業集落復興効果促進事業(県分) 722 722 523 159 30.4 363
国土交通省 基幹事業等 D-1 道路事業(市街地相互の接続道路等) 274,464 274,464 210,291 59,400 28.2 150,890
D-2 道路事業(高台移転等に伴う道路整備(区画整理)) 35,580 35,580 25,514 18,227 71.4 7,287
D-3 道路事業(道路の防災・震災対策等) 1,241 1,241 1,224 856 69.9 368
D-4 災害公営住宅整備事業等(災害公営住宅の整備、災害公営住宅に係る用地取得造成等) 602,323 602,323 494,738 264,568 53.4 230,169
D-5 災害公営住宅家賃低廉化事業 7,410 7,410 3,649 1,907 52.2 1,742
D-6 東日本大震災特別家賃低減事業 1,072 1,072 582 283 48.6 299
D-7 公営住宅等ストック総合改善事業(耐震改修、エレベーター改修)
D-8 住宅地区改良事業(不良住宅除却、改良住宅の建設等)
D-9 小規模住宅地区改良事業(不良住宅除却、小規模改良住宅の建設等) 1,173 1,173 1,173 612 52.1 561
D-10 住宅市街地総合整備事業(住宅市街地の再生・整備)
D-11 優良建築物等整備事業 2,063 2,063 1,522 1,049 68.9 473
D-12 住宅・建築物安全ストック形成事業(住宅・建築物耐震改修事業) 56 56 56 45 80.5 11
D-13 住宅・建築物安全ストック形成事業(がけ地近接等危険住宅移転事業) 21,559 21,559 21,559 5,409 25.0 16,149
D-14 造成宅地滑動崩落緊急対策事業 30,932 30,901 30,897 19,919 64.4 10,977
D-15 津波復興拠点整備事業 75,550 75,550 62,878 34,045 54.1 28,833
D-16 市街地再開発事業 8,231 8,231 5,379 3,408 63.3 1,970
D-17 都市再生区画整理事業(被災市街地復興土地区画整理事業等) 223,522 223,522 162,342 85,980 52.9 76,362
D-18 都市再生区画整理事業(市街地液状化対策事業)
D-19 都市防災推進事業(市街地液状化対策事業) 35,284 35,284 14,579 6,984 47.9 7,595
D-20 都市防災推進事業(都市防災総合推進事業) 21,717 21,717 20,055 12,243 61.0 7,812
D-21 下水道事業 120,528 120,528 63,828 25,154 39.4 38,673
D-22 都市公園事業 39,693 39,693 27,300 10,293 37.7 17,007
D-23 防災集団移転促進事業 496,462 496,462 457,422 267,360 58.4 190,062
効果促進事業
(一括配分)
F-2 市街地復興効果促進事業 219,339 219,339 126,765 33,808 26.6 92,956
F-4 市街地復興効果促進事業(県分) 9,539 9,539 9,539 519 5.4 9,020
環境省 基幹事業等 E-1 低炭素社会対応型浄化槽等集中導入事業 2,386 2,386 2,116 1,201 56.7 915
基幹事業等の計 2,323,375 2,320,308 1,896,378 954,495 50.3 941,882
効果促進事業(一括配分)の計 239,749 239,749 144,825 35,732 24.6 109,093
合計 2,563,125 2,560,057 2,041,203 990,228 48.5 1,050,975
住まいの復興に係る4事業(太枠の事業)の計 1,370,948 1,370,948 1,153,437 630,549 54.6 522,888
注(1)
基幹事業等は、基幹事業と効果促進事業(個別配分)を合わせたものである。
注(2)
事業が完了しているものについては、交付額及び取崩額ではなく精算額で計上している。
注(3)
効果促進事業(一括配分)のうち漁業集落復興効果促進事業(事業番号F-1及びF-3)の対象となる基幹事業は、漁業集落防災機能強化事業(事業番号C-5)であり、市街地復興効果促進事業(事業番号F-2及びF-4)の対象となる基幹事業は、災害公営住宅整備事業等(事業番号D-4)、津波復興拠点整備事業(事業番号D-15)、市街地再開発事業(事業番号D-16)、都市再生区画整理事業(事業番号D-17)及び防災集団移転促進事業(事業番号D-23)である。

そこで、24年度から26年度までの3か年度に効果促進事業(一括配分)に係る復興交付金が交付された特定被災自治体延べ5県及び50市町村への交付額のうち27年度の実施計画分を除いた計1448億余円の交付額について、使途内訳提出書の提出状況等により各特定被災自治体の事業内容の決定の有無や決定された事業内容を把握するなどして、効果促進事業(一括配分)の基金事業執行率が低くなっている原因について分析した。

その結果、図表3-4のとおり、26年度末までに事業内容が決定されていない交付額は、漁業集落復興効果促進事業に係る交付額計85億余円のうち2県及び18市町村に交付された55億余円(65.3%)並びに市街地復興効果促進事業に係る交付額計1363億余円のうち3県及び27市町村に交付された494億余円(36.3%)となっていて、24年度から26年度までの3か年度の実施計画分に係る交付額計1448億余円のうち549億余円(37.9%)の復興交付金が、事業内容が未定のまま基金で保有されていた。

図表3-4 効果促進事業(一括配分)に係る交付額の事業内容の決定状況(平成26年度末現在)

(単位:百万円、%)
所管省庁 区分 事業番号 事業名 交付を受けた県及び市町村延べ数 平成24年度から26年度までの実施計画分に係る交付額 事業内容の一部又は全部が決定している県及び市町村延べ数 事業内容が決定している交付額 事業内容の一部又は全部が未定の県及び市町村延べ数 事業内容が未定の交付額 事業内容が未定の交付額の割合
A   B   C=A-B C/A
農林水産省 効果促進事業
(一括配分)
F-1 漁業集落復興効果促進事業 20市町村 7,997 18市町村 2,774 18市町村 5,223 65.3
F-3 漁業集落復興効果促進事業(県分) 2県 523 2県 178 2県 344 65.8
2県及び20市町村 8,520 2県及び18市町村 2,953 2県及び18市町村 5,567 65.3
国土交通省 効果促進事業
(一括配分)
F-2 市街地復興効果促進事業 30市町村 126,765 28市町村 84,903 27市町村 41,861 33.0
F-4 市街地復興効果促進事業(県分) 3県 9,539 3県 1,974 3県 7,565 79.3
3県及び30市町村 136,304 3県及び28市町村 86,877 3県及び27市町村 49,427 36.3
合計 5県及び50市町村 144,825 5県及び46市町村 89,830 5県及び45市町村 54,995 37.9
(注)
県及び市町村は、①漁業集落復興効果促進事業、②市街地復興効果促進事業、③漁業集落復興効果促進事業及び市街地復興効果促進事業のいずれかの類型で事業を実施しており、③の類型の県及び市町村数は重複計上されている。

そして、基金の造成時期別に、上記の事業内容が未定の交付額計549億余円の内訳をみると、図表3-5のとおり、24年度は378億余円、25年度は140億余円、26年度は30億余円となっていて、549億余円のうち約7割に相当する24年度の実施計画分に係る交付額378億余円については、交付された後2年以上にわたり、事業内容が未定のままとなっている。

図表3-5 事業内容が未定の効果促進事業(一括配分)に係る基金の造成時期及び交付額(平成26年度末現在)

(単位:百万円)
所管省庁 区分 事業番号 事業名 平成24年度に設置造成された基金のうち事業内容が未定の交付額 25年度に設置造成された基金のうち事業内容が未定の交付額 26年度に設置造成された基金のうち事業内容が未定の交付額
農林水産省 効果促進事業
(一括配分)
F-1 漁業集落復興効果促進事業 3,213 1,675 334 5,223
F-3 漁業集落復興効果促進事業(県分) 333 10 344
3,547 1,685 334 5,567
国土交通省 効果促進事業
(一括配分)
F-2 市街地復興効果促進事業 26,725 12,398 2,738 41,861
F-4 市街地復興効果促進事業(県分) 7,565 7,565
34,290 12,398 2,738 49,427
合計 37,838 14,084 3,072 54,995

一方、事業内容が決定している交付額計898億余円について事業内容別に分類すると、漁業集落復興効果促進事業については、46の事業内容に分類され、交付額は29.5億余円となっていて、市街地復興効果促進事業については、43の事業内容に分類され、交付額は868億余円となっていた(分類の状況については別図表4参照)。

上記のうち市街地復興効果促進事業の43の事業内容をみると、例えば「市街地整備事業の効率的促進」において市街地整備事業に係る飲用水供給施設や排水施設を整備する「飲用水供給施設・排水施設整備事業」のように、ある程度基幹事業が完成しないと実施できなかったり、基幹事業の進捗に併せて実施したりするようなものがある一方、「まちの立ち上げ促進」においてコミュニティバスの購入や借上げなどを行う「被災者へのコミュニティバス運行支援事業」のように、必ずしも基幹事業が進捗していなくても基幹事業の効果を促進するために実施可能なものもある。

そこで、会計検査院において、漁業集落復興効果促進事業の46事業及び市街地復興効果促進事業の43事業から、基幹事業に伴って実施する事業に該当すると考えられる事業を抽出したところ、図表3-6のとおり、事業内容が決定している額のうち、漁業集落復興効果促進事業については23.5億余円(29.5億余円の79.9%)、市街地復興効果促進事業については829億余円(868億余円の95.5%)が該当していて、基幹事業の実施状況によらず実施可能な事業は少ない状況となっていた。

図表3-6 基幹事業に伴って実施する事業の交付額(平成26年度末現在)

図表3-6 基幹事業に伴って実施する事業の交付額(平成26年度末現在) 画像

したがって、効果促進事業(一括配分)は、特定被災自治体が行う復旧・復興事業の機動的な実施を目的として創設された制度であるが、その実施状況をみると、24年度から26年度までの3か年度の実施計画分に係る交付額計1448億余円のうち549億余円(37.9%)の復興交付金の事業内容が未定であり、そのうち約7割に相当する378億余円は交付された後2年以上にわたり事業内容が未定のままとなっており、一方、事業内容が決定しているものはそのほとんどが基幹事業に伴って実施するものとなっていた。

なお、復興交付金の基金の残余額の返還等については前記のとおり、運営要領に規定されているが、27年6月に開催された第13回復興推進会議において、復興交付金事業計画の終了前でも必要のなくなった金額の返還を進めることが必要との決定がなされた。

この決定を受けて、復興庁は、関係省庁とともに残余額の返還に係る取扱方針を検討し、27年10月に特定被災自治体に対して取扱方針を示したところである。この取扱方針によれば、一部の基幹事業等を除き、各省単位で所管の事業が全て終了したときに当該事業に係る残余額から国庫に返還することなどが示されたが、効果促進事業(一括配分)については、将来、新たな事業の実施が想定されるとの理由から、返還の対象から除外されている。

ウ 復興関連基金事業の実施状況
(ア)復興関連基金事業の実施状況

国から国庫補助金等の交付を受けた基金団体は、当該国庫補助金等を既存の基金に積み増したり、新規に基金を設置造成したりして復興関連基金事業を実施している。23年度から26年度までの4か年度の復興関連基金事業122事業に係る26年度末までの国庫補助金等の交付額は、図表3-7のとおり、計4兆0864億余円となっている。このうち、既存の基金事業等と復興関連基金事業とを区分して経理していない8事業及び27年8月末までに基金団体から国庫補助金等交付額の全額が国庫に返納された2事業の計10事業を除いた112事業に係る国庫補助金等交付額は計3兆8167億余円、26年度末までの基金の取崩額は1兆9674億余円、基金事業執行率は51.5%となっている。復興関連基金事業122事業に係る国庫補助金等交付額を予算措置年度別にみると、23年度の交付額が計2兆7623億余円と最も多額となっており、所管府省庁別にみると、交付している8府省庁のうち経済産業省が1兆1700億余円と最も多額となっている。

また、復興庁及び財務省は、25年7月に、復興関連基金事業の所管府省に対して、「復興関連予算で造成された全国向け事業に係る基金への対応について」(平成25年復本第957号・財計第1690号。以下「基金使途通知」という。)を発出していて、被災地又は被災者に対する事業に使途を限定し、それ以外の事業のうち、執行済みの事業及び契約済みのものなど執行済みと認められる事業を除いた基金残額について国庫に返納することを要請している。

図表3-7 復興関連基金事業の実施状況(平成23年度~26年度)

[凡例●:基金事業執行率10%未満、○:基金事業執行率80%以上、※:基金使途通知対象事業]

(単位:百万円、%)
事業番号 復旧・復興予算 基金事業名 所管府省庁 基金団体名 国庫補助金等交付額 平成26年度末までの取崩額(国庫返納額分を除く。) 基金事業執行率 26年度末までの国庫返納額(国庫補助金等相当額) 26年度末に保有している国庫補助金等相当額 当初の終了年度 26年度末時点の終了年度等
A B B/A C A-B-C
● 1 25年度
補正予算
住まいの復興給付金による被災者住宅再建支援対策事業 復興庁 一般財団法人住宅金融普及協会 25,000 1,777 7.1 - 23,223 27年度(事業開始最終年度) 31年6月末までに事業開始(住宅取得等)とし、支払が終了するまで
● 2 26年度
補正予算
福島原子力災害復興交付金 復興庁 福島県 100,000 - - - 100,000 56年度
3 23年度
第2次補正予算
福島県特別緊急除染事業 内閣府(内閣府本府) 福島県 17,981 13,793 76.7 - 4,188 定めていない。 27年度
〇 4 23年度
第2次補正予算
(予備費)
東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質の除染事業等に必要な経費 内閣府(内閣府本府) 福島県 199,999 194,369 97.1 - 5,629 定めていない。 27年度
〇 5 23年度
第2次補正予算
(予備費)
東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故による被害に係る応急の対策に関する事業に必要な経費 内閣府(内閣府本府) 福島県 40,385 37,259 92.2 - 3,126 定めていない。 28年度
※ 6 23年度
第3次補正予算
被災者への心のケア対策等の推進事業(自殺対策) 内閣府(内閣府本府) 47都道府県 3,700 395 24年度 26年度
〇 7 23年度
第3次補正予算
復興支援型地域社会雇用創造事業 内閣府(内閣府本府) 一般財団法人ニューメディア開発協会 3,200 2,867 89.6 332 - 24年度
8 23年度
第3次補正予算
新しい公共支援事業 内閣府(内閣府本府) 岩手県、宮城県、福島県 879 59 24年度
〇 9 24年度
当初予算
消費者行政活性化事業 内閣府(消費者庁) 岩手県、宮城県、福島県、茨城県 364 364 100.0 - - 27年度 29年度
〇 10 25年度
当初予算
消費者行政活性化事業 内閣府(消費者庁) 岩手県、宮城県、福島県、茨城県 729 729 100.0 - - 27年度 29年度
11 26年度
当初予算
消費者行政活性化事業 内閣府(消費者庁) 岩手県、宮城県、福島県、茨城県 698 326 46.6 - 372 27年度 29年度
〇 12 23年度
第1次補正予算
初等中等教育等就学支援 文部科学省 47都道府県 11,313 35,267 81.0 - 8,244 26年度
〇 13 23年度
第3次補正予算
初等中等教育における就学支援
(幼稚園から高校)
文部科学省 47都道府県 29,744 26年度
〇 14 26年度
当初予算
初等中等教育における就学支援
(幼稚園から高校)
文部科学省 宮城県、京都府、熊本県 2,454 26年度
15 23年度
第3次補正予算
幼稚園等の認定こども園としての再開支援(安心こども基金) 文部科学省 岩手県、宮城県、福島県、茨城県、千葉県 1,810 1,256 69.4 - 553 24年度 26年度(26年度中に施設整備に着手し、27年度に完了が見込まれる場合は、27年度まで)
〇 16 23年度
第3次補正予算
低線量域における被ばく線量モニターの開発 文部科学省 福島県 625 548 87.6 - 77 定めていない。
17 23年度
第3次補正予算
放射性薬剤の研究開発・製造拠点の整備 文部科学省 福島県 11,362 5,657 49.7 - 5,704 定めていない。
18 23年度
第3次補正予算
放射性核種の生態系における環境動態調査等 文部科学省 福島県 2,245 408 18.1 - 1,837 定めていない。
19 23年度
第3次補正予算
福島県環境創造センター整備事業 文部科学省 福島県 8,042 2,150 26.7 - 5,892 定めていない。
※ 20 23年度
第3次補正予算
奨学金事業(高校生) 文部科学省 34都府県 18,946 1,915 26年度
21 23年度
第3次補正予算
教育研究環境整備に向けた取組支援(高等学校等) 文部科学省 岩手県、宮城県、福島県 4,487 2,625 58.5 - 1,861 26年度 27年度
22 23年度
第3次補正予算
教育研究環境整備に向けた取組支援(専修学校等) 文部科学省 岩手県、宮城県、福島県 1,934 372 19.2 - 1,562 26年度 27年度
〇 23 23年度
第1次補正予算
地域支え合い体制づくり事業の積増し 厚生労働省 9県 7,020 6,493 92.4 383 144 23年度 27年度(岩手県、宮城県、福島県、新潟県)
24 23年度
第1次補正予算
安心こども基金(地域子育て創生事業)の活用による被災児童の生活復旧支援 厚生労働省 20都県 2,719 - 23年度 25年度
〇 25 23年度
第1次補正予算
重点分野雇用創造事業の拡充 厚生労働省 18都道県 50,000 48,922 97.8 87 989 24年度 26年度(26年度までに開始した事業は27年度末まで)
注(3)被災5県のみ
※ 26 23年度
第3次補正予算
生活福祉資金貸付 厚生労働省 32都道府県 15,190 9,904 65.2 360 4,925 24年度 26年度
27 23年度
第3次補正予算
被災地における保育所等の複合化・多機能化による子どもを地域で支える基盤の構築
(安心こども基金の追加)
厚生労働省 青森県、岩手県、福島県、茨城県、千葉県 1,553 858 55.2 - 694 24年度(24年度中に施設整備に着手し、25年度に完了が見込まれる場合は、25年度まで) 26年度(26年度中に施設整備に着手し、27年度に完了が見込まれる場合は、27年度まで)
※ 28 23年度
第3次補正予算
医療施設等の防災対策の強化 厚生労働省 15都県 15,633 9,488 60.6 802 5,342 24年度 25年度(25年度着工事業の終了まで)
※〇 29 23年度
第3次補正予算
社会福祉施設等耐震化等臨時特例基金 厚生労働省 茨城県、長野県、和歌山県、広島県、福岡県、熊本県、沖縄県 2,664 2,662 99.9 - 2 24年度 26年度(26年度着手事業の終了まで)
30 23年度
第3次補正予算
被災地における医療提供体制の再構築(既存の地域医療再生基金に積増し) 厚生労働省 岩手県、宮城県、福島県 72,000 18,569 25.7 - 53,430 27年度
※〇 31 23年度
第3次補正予算
社会的包摂・「絆」再生事業 厚生労働省 24都府県 17,549 17,645 100.5 365 △462 24年度 26年度
※〇 32 23年度
第3次補正予算
パーソナル・サポート・サービスモデル・プロジェクト 厚生労働省 19都道府県 2,215 1,984 89.5 92 138 24年度
※● 33 23年度
第3次補正予算
被災生活保護受給者に対する生活再建サポート事業 厚生労働省 38都道府県 1,771 80 4.5 27 1,663 24年度 25年度
34 23年度
第3次補正予算
介護等のサポート拠点の設置・運営等
(介護基盤整備基金(支え合い事業)に積増し)
厚生労働省 10道県 9,035 5,273 58.3 243 3,519 24年度 27年度(岩手県、宮城県、福島県、新潟県)
35 23年度
第3次補正予算
介護基盤復興まちづくり整備事業(介護基盤整備基金(ハード)への追加) 厚生労働省 岩手県、宮城県、福島県 2,850 1,482 52.0 - 1,367 24年度 26年度
36 23年度
第3次補正予算
被災3県の革新的医療機器創出・開発促進事業(既存の地域医療再生基金に追加) 厚生労働省 岩手県、宮城県、福島県 4,320 2,384 55.1 - 1,935 27年度
〇 37 23年度
第3次補正予算
被災地における保健師巡回相談等の健康支援(介護基盤整備基金への追加) 厚生労働省 岩手県、宮城県、福島県、茨城県、千葉県、長野県 2,893 2,545 87.9 6 341 24年度 27年度
※東北3県のみ
38 23年度
第3次補正予算
被災者の心のケア事業(障害者自立支援対策臨時特例基金の追加、災害時等心のケア支援体制整備事業費の一部) 厚生労働省 岩手県、宮城県、福島県 2,791 1,414 50.6 1,377 - 24年度
39 23年度
第3次補正予算
被災地障害福祉サービス基盤整備事業
(障害者自立支援対策臨時特例基金の追加)
厚生労働省 岩手県、宮城県、福島県 1,521 844 55.4 677 - 24年度
※〇 40 23年度
第3次補正予算
重点分野雇用創造事業の拡充(震災対応事業の延長) 厚生労働省 47都道府県 200,000 184,605 92.3 9,072 6,321 24年度
(24年度までに開始した事業は25年度まで)
26年度(26年度までに開始した事業は27年度末まで)
注(3)被災5県のみ
41 23年度
第3次補正予算
重点分野雇用創造事業の拡充(雇用復興推進事業の創設) 厚生労働省 9県 151,000 98,270 65.0 - 52,729 27年度 28年度
注(3)被災5県のみ
※ 42 23年度
第3次補正予算
新卒者就職実現プロジェクト事業の被災地に係る特例措置の延長等 厚生労働省 中央職業能力開発協会 23,520 10,886 46.2 12,631 1 23年度 24年度(震災特例措置以外は24年6月末まで、震災特例措置は24年度末まで)
43 24年度
当初予算
(予備費)
地域医療提供体制の再構築 厚生労働省 岩手県、宮城県、福島県、茨城県 38,000 12,554 33.0 - 25,445 27年度
44 24年度
補正予算
震災等緊急雇用対応事業 厚生労働省 9県 50,000 35,583 71.1 - 14,416 25年度
(25年度までに開始した事業は26年度まで)
26年度(26年度までに開始した事業は27年度末まで)
注(3)被災5県のみ
45 25年度
当初予算
仮設住宅のサポート拠点運営費等 厚生労働省 宮城県、福島県 2,303 1,602 69.5 - 701 25年度 26年度
● 46 25年度
補正予算
産業政策と一体となった被災地の雇用支援等 厚生労働省 岩手県、宮城県、福島県、茨城県 44,800 - - - 44,800 28年度 29年度
● 47 26年度
当初予算
被災地健康支援事業 厚生労働省 岩手県、宮城県、福島県 1,000 - - - 1,000 26年度 27年度
● 48 26年度
当初予算
地域支え合い体制づくり事業 厚生労働省 宮城県 1,548 48 3.1 - 1,499 26年度 27年度
49 23年度
第3次補正予算
農地土壌等の浄化の研究拠点施設整備調査事業(福島基金分) 農林水産省 福島県 100 11 11.6 - 88 32年度
※ 50 23年度
第3次補正予算
配合飼料価格安定対策事業 農林水産省 公益社団法人配合飼料供給安定機構 9,700 - 定めていない。
51 23年度
第3次補正予算
被災者向け農の雇用事業 農林水産省 全国農業会議所 700 220 31.5 479 - 24年度
※ 52 23年度
第3次補正予算
森林整備加速化・林業再生事業 農林水産省 45道府県(東京都及び神奈川県を除く。) 139,945 87,842 62.7 39,580 12,522 26年度 定めていない。
注(3)被災9県のみ
53 23年度
第3次補正予算
漁業・養殖業復興支援事業 農林水産省 特定非営利活動法人水産業・漁村活性化推進機構 81,753 40,872 44.2 - 51,486 28年度 31年度
54 24年度
当初予算
漁業・養殖業復興支援事業 農林水産省 特定非営利活動法人水産業・漁村活性化推進機構 10,605 28年度 31年度
※〇 55 23年度
第3次補正予算
漁業経営セーフティーネット構築事業 農林水産省 一般社団法人漁業経営安定化推進協会 3,980 3,921 98.5 - 59 定めていない。
56 24年度
当初予算
被災者向け農の雇用事業 農林水産省 全国農業会議所 422 269 63.6 153 - 25年度
〇 57 24年度
補正予算
福島発農産物等戦略的情報発信事業 農林水産省 福島県 1,299 1,299 100.0 - - 25年度 26年度
58 24年度
補正予算
福島県営農再開支援事業 農林水産省 福島県 23,185 5,955 25.6 - 17,229 27年度
59 25年度
当初予算
被災者向け農の雇用事業 農林水産省 全国農業会議所 187 107 57.0 - 80 26年度
〇 60 25年度
補正予算
福島発農産物等戦略的情報発信事業 農林水産省 福島県 1,604 1,604 100.0 - - 26年度
● 61 26年度
当初予算
被災者向け農の雇用事業 農林水産省 全国農業会議所 112 3 3.1 - 109 27年度
62 23年度
第1次補正予算
中小企業災害復旧資金利子補給事業 経済産業省 独立行政法人中小企業基盤整備機構 10,000 1,372 13.7 - 8,627 定めていない。
● 63 23年度
第1次補正予算
中小企業の資金繰り支援
(保証)
経済産業省 一般社団法人全国信用保証協会連合会 39,600 2,473 3.5 - 67,226 定めていない。
● 64 23年度
第3次補正予算
経営安定関連保証等対策費補助事業 経済産業省 一般社団法人全国信用保証協会連合会 30,100 定めていない。
● 65 23年度
第1次補正予算
石油製品販売業災害特別保証事業 経済産業省 一般社団法人全国石油協会 5,079 210 4.1 3,199 1,669 25年度 27年度
66 23年度
第1次補正予算
特定被災地域石油製品供給支援事業 経済産業省 一般社団法人全国石油協会 910 910 定めていない。 全額国庫返納
〇 67 23年度
第1次補正予算
旧鉱物採掘区域災害復旧費補助金 経済産業省 宮城県(公益社団法人みやぎ農業振興公社) 248 248 100.0 - - 27年度
68 23年度
第2次補正予算
中小企業再生支援利子補給事業 経済産業省 独立行政法人中小企業基盤整備機構 18,400 2,335 12.6 - 16,064 定めていない。
69 23年度
第3次補正予算
医療福祉機器・創薬産業拠点整備事業 経済産業省 福島県 39,493 17,885 45.2 - 21,607 定めていない。
※〇 70 23年度
第3次補正予算
被災地域等地下タンク環境保全対策促進事業(全国防災) 経済産業省 一般社団法人全国石油協会 6,986 7,087 81.1 1,646 1 24年度(未完了の一部事業は26年度まで)
※〇 71 23年度
第3次補正予算
被災地域等地下タンク環境保全対策促進事業(被災地向け) 経済産業省 一般社団法人全国石油協会 1,749 24年度(未完了の一部事業は26年度まで)
72 23年度
第3次補正予算
被災中小企業復興支援リース補助事業 経済産業省 日本商工会議所 10,049 3,004 29.8 - 7,045 30年度
※ 73 23年度
第3次補正予算
中小企業人材対策事業 経済産業省 全国中小企業団体中央会 2,487 1,080 43.4 1,406 - 26年度
※ 74 23年度
第3次補正予算
国内立地推進事業費補助金 経済産業省 一般社団法人環境パートナーシップ会議 295,000 114,629 38.8 32,914 147,455 26年度
75 23年度
第3次補正予算
がんばろうふくしま産業復興企業立地支援事業 経済産業省 福島県 170,000 96,074 45.7 - 114,150 28年度
76 24年度
当初予算
(予備費)
地域経済産業復興立地推進事業 経済産業省 福島県 40,224 28年度
※ 77 23年度
第3次補正予算
産業技術研究開発拠点立地推進事業費補助金(希少金属使用量削減・代替技術開発設備整備費等補助金) 経済産業省 一般社団法人環境パートナーシップ会議 8,499 5,132 60.3 836 2,530 26年度(事業費支払まで完了)
※ 78 23年度
第3次補正予算
産業技術研究開発拠点立地推進事業費補助金(先端技術実証・評価設備整備費等補助金) 経済産業省 一般社団法人環境パートナーシップ会議 26,500 11,717 44.2 5,987 8,795 28年度(事業費支払まで完了)
※〇 79 23年度
第3次補正予算
住宅用太陽光発電導入支援復興対策基金造成事業費補助金 経済産業省 一般社団法人太陽光発電協会 86,992 73,945 85.0 11,236 1,810 26年度
※〇 80 23年度
第3次補正予算
住宅用太陽光発電高度普及促進復興対策基金造成事業費補助金 経済産業省 一般社団法人太陽光発電協会 32,394 31,811 98.2 282 300 26年度
※ 81 23年度
第3次補正予算
エネルギー管理システム導入促進事業費補助金 経済産業省 一般社団法人環境パートナーシップ会議 30,000 16,496 54.9 13,503 - 25年度 26年度
※ 82 23年度
第3次補正予算
電力需要ピークカット蓄電池導入支援事業 経済産業省 一般社団法人環境パートナーシップ会議 20,999 11,840 56.3 9,159 - 25年度 26年度
※ 83 23年度
第3次補正予算
建築物節電改修支援事業費補助金 経済産業省 一般社団法人環境パートナーシップ会議 15,000 10,200 68.0 4,799 - 25年度 26年度
※〇 84 23年度
第3次補正予算
再生可能エネルギー固定価格買取制度施行事業費補助金 経済産業省 一般社団法人低炭素投資促進機構 7,000 7,000 100.0 - - 定めていない。 24年度
85 23年度
第3次補正予算
再生可能エネルギー発電設備等導入促進支援復興対策事業費補助金 経済産業省 一般社団法人太陽光発電協会 32,599 8,657 26.5 - 23,941 27年度
86 23年度
第3次補正予算
スマートコミュニティ導入促進事業費補助金 経済産業省 一般社団法人新エネルギー導入促進協議会 8,059 1,004 12.4 - 7,054 27年度 32年度
● 87 23年度
第3次補正予算
スマートエネルギーシステム導入促進事業費補助金 経済産業省 一般社団法人新エネルギー導入促進協議会 4,346 311 7.1 - 4,034 27年度
※ 88 23年度
第3次補正予算
火力発電運転円滑化対策費補助金 経済産業省 一般社団法人環境パートナーシップ会議 9,000 2,836 31.5 6,163 - 定めていない。 25年度
※ 89 23年度
第3次補正予算
温排水利用施設整備等対策交付金 経済産業省 静岡県 995 430 43.2 564 - 定めていない。
90 23年度
第3次補正予算
被災地域石油製品販売業再建等支援事業 経済産業省 一般社団法人全国石油協会 2,349 584 24.8 - 1,765 定めていない。
91 23年度
第3次補正予算
旧鉱物採掘区域災害復旧費補助金 経済産業省 岩手県(一般社団法人岩手県土木技術センター)、宮城県(公益社団法人みやぎ農業振興公社)、福島県(公益財団法人福島県農業振興公社) 495 412 65.6 - 215 27年度
92 24年度
補正予算
旧鉱物採掘区域災害復旧費補助金 経済産業省 宮城県(公益社団法人みやぎ農業振興公社) 132 27年度
※ 93 24年度
当初予算
産業技術研究開発拠点立地推進事業費補助金(産学連携イノベーション促進事業費補助金) 経済産業省 一般社団法人環境パートナーシップ会議 4,000 465 11.6 43 3,491 27年度(事業費支払まで完了)
※ 94 24年度
当初予算
産業技術研究開発拠点立地推進事業費補助金(先端技術実証・評価設備整備費等補助金) 経済産業省 一般社団法人環境パートナーシップ会議 10,000 10,000 25年度 全額国庫返納
95 24年度
当初予算
国内立地推進事業費補助金(原子力災害周辺地域産業復興企業立地補助事業) 経済産業省 一般社団法人環境パートナーシップ会議 14,000 1,979 14.1 - 12,020 28年度
96 24年度
当初予算
(予備費)
福島県医療機器開発・安全性評価センター整備事業 経済産業省 福島県 13,390 4,141 30.9 - 9,249 31年度
● 97 25年度
当初予算
津波・原子力災害被災地域雇用創出企業立地補助金 経済産業省 一般社団法人地域デザインオフィス 110,000 609 0.3 - 172,390 29年度
● 98 25年度
補正予算
津波・原子力災害被災地域雇用創出企業立地補助金 経済産業省 一般社団法人地域デザインオフィス 33,000 29年度
● 99 26年度
当初予算
津波・原子力災害被災地域雇用創出企業立地補助金 経済産業省 一般社団法人地域デザインオフィス 30,000 29年度
● 100 23年度
第1次補正予算
災害復興住宅融資等事業 国土交通省 独立行政法人住宅金融支援機構 52,600 9,446 3.8 - 232,853 27年度(申込受付終了年度) 29年度(申込受付終了年度)
● 101 23年度
第3次補正予算
災害復興住宅融資等事業 国土交通省 独立行政法人住宅金融支援機構 135,800 27年度(申込受付終了年度) 29年度(申込受付終了年度)
● 102 24年度
当初予算
災害復興住宅融資等事業 国土交通省 独立行政法人住宅金融支援機構 53,900 27年度(申込受付終了年度) 29年度(申込受付終了年度)
103 23年度
第1次補正予算
既往貸付者に係る返済方法の変更事業 国土交通省 独立行政法人住宅金融支援機構 3,400 4,512 24.6 - 13,787 定めていない。
104 23年度
第3次補正予算
既往貸付者に係る返済方法の変更事業 国土交通省 独立行政法人住宅金融支援機構 14,900 定めていない。
※ 105 23年度
第3次補正予算
住宅エコポイント 国土交通省 一般社団法人環境パートナーシップ会議 72,300 12,230 26年度(ポイント交換終了年度)
106 23年度
第3次補正予算
優良住宅取得支援制度の拡充による復興の推進 国土交通省 独立行政法人住宅金融支援機構 15,900 6,010 37.8 - 9,889 24年度(申込受付終了年度)
● 107 25年度
当初予算
造船業等復興支援基金 国土交通省 公益財団法人日本財団 16,024 16 0.1 - 16,007 26年度(申込受付終了年度)
108 23年度
第2次補正予算
原子力被災者健康確保・管理関連交付金 環境省 福島県 78,182 - 定めていない。
〇 109 23年度
第3次補正予算
地域グリーンニューディール基金の拡充(災害廃棄物処理事業の地方支援) 環境省 10道県 67,963 67,963 100.0 - - 25年度
〇 110 23年度
第3次補正予算
放射性物質により汚染された土壌等の除染の実施 環境省 福島県 70,644 456,044 80.7 - 108,858 定めていない。
〇 111 24年度
当初予算
放射性物質により汚染された土壌等の除染の実施 環境省 福島県 96,119 定めていない。
〇 112 25年度
当初予算
放射性物質により汚染された土壌等の除染の実施 環境省 福島県 189,839 定めていない。
〇 113 25年度
補正予算
放射性物質により汚染された土壌等の除染の実施 環境省 福島県 80,000 定めていない。
〇 114 26年度
当初予算
放射性物質により汚染された土壌等の除染の実施 環境省 福島県 128,300 定めていない。
※ 115 23年度
第3次補正予算
住宅エコポイント 環境省 一般社団法人環境パートナーシップ会議 72,300 12,230 26年度(ポイント交換終了年度)
116 23年度
第3次補正予算
グリーンニューディール基金の拡充(自立・分散型エネルギー供給等によるエコタウン化事業) 環境省 青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県、茨城県、仙台市 83,977 44,199 52.6 - 39,777 27年度
117 24年度
当初予算
震災がれき処理促進地方公共団体緊急支援基金事業(グリーンニューディール基金) 環境省 9県 30,797 20,186 65.5 3,859 6,752 25年度 29年度
118 24年度
当初予算
(予備費)
福島健康管理拠点の緊急整備 環境省 福島県 5,980 3,074 51.4 - 2,905 定めていない。 27年度
119 24年度
補正予算
福島県環境創造センター(仮称)整備事業 環境省 福島県 11,337 2,762 24.3 - 8,574 定めていない。
● 120 26年度
補正予算
中間貯蔵施設整備等影響緩和交付金 環境省 福島県、大熊町、双葉町 150,000 - - - 150,000 56年度
121 25年度
当初予算
原子力被災者環境放射線モニタリング対策関連交付金 環境省(原子力規制庁) 福島県 1,306 1,293 48.8 - 1,356 定めていない。
122 26年度
当初予算
原子力被災者環境放射線モニタリング対策関連交付金 環境省(原子力規制庁) 福島県 1,343 定めていない。
計(122事業) 4,086,407 200,018
  予算措置年度別 23年度 2,762,395
24年度 403,759
25年度 504,794
26年度 415,457
所管府省庁別 復興庁 125,000 1,777 1.4 - 123,223
内閣府(内閣府本府・消費者庁) 267,938 787
文部科学省 92,967 1,915
厚生労働省 723,904 26,128
農林水産省 273,596 40,213
経済産業省 1,170,085 102,655
国土交通省 364,824 12,230
環境省(環境本省・原子力規制庁) 1,068,091 16,089
うち区分経理していない事業等を除く112事業 3,816,768 1,967,481 51.5 162,277 1,687,009
うち※の小計(31事業) 1,157,025 188,249
  うち区分経理していない事業等を除く25事業 970,078 623,699 64.2 151,477 194,901
注(1)
復興関連基金事業のうち、既存の基金事業等と復興関連基金事業とを区分して経理していないもの及び国庫補助金等交付額が国庫に全額返納されたものは、「平成26年度末までの取崩額(国庫返納額分を除く。)」「基金事業執行率」及び「26年度末に保有している国庫補助金等相当額」の欄を「/」としている。
注(2)
「当初の終了年度」の欄は、復旧・復興予算が措置された際に設定された事業の終了期限の年度を記載している。
注(3)
「26年度末時点の終了年度等」の欄の「-」は当初の終了年度から変更がないことを示している。また、被災5県は、青森、岩手、宮城、福島、茨城各県、被災9県は、青森、岩手、宮城、福島、茨城、栃木、千葉、新潟、長野各県である。
注(4)
復興関連基金事業数は、予算別、復興関連基金事業別に集計している。また、国土交通省及び環境省から国庫補助金等が交付されている「住宅エコポイント」は、省別に区分して国庫補助金等額を集計している。
注(5)
事業番号31の社会的包摂・「絆」再生事業において、「基金事業執行率」の欄が100%を超え、「26年度末に保有している国庫補助金等相当額」の欄がマイナス(△)表示となっているのは、事業番号26、31、32及び33においては4事業間で配分変更して使用できるとされていることから、他事業から配分変更して使用した額を当該事業の取崩額として集計したことによる。

112事業の基金事業執行率別の事業数をみると、基金事業執行率が80%以上の事業は31事業となっていて、消費者行政活性化事業(事業番号9)等8事業において100%となっている。逆に、基金事業執行率が10%未満のものが19事業あるが、この中には、基金が26年度中に設置造成等されていて事業の実施後間もないもの6事業及び事業実績が確定後に基金から支払うこととなっていたり、住宅資金の融資の金利を長期間にわたり引き下げるために基金を分割して取り崩したりしているなど事業の仕組み上、進捗に比して取崩しが少ないもの10事業、計16事業が含まれている。16事業以外の3事業をみると、基金事業執行率が10%未満であるものの、いずれも保有している基金残額の使用見込みを検討の結果、余剰金を国庫に返納したり、返納することとしていたりしていた。

上記3事業のうち26年度末に保有している国庫補助金等相当額が最も多額となっていた事業の状況は、次のとおりである。

経済産業省は、23年度に、一般社団法人新エネルギー導入促進協議会に対して、地域の防災拠点となり得る民間施設等において災害時に自立的なエネルギー供給を得るために再生可能エネルギー発電設備、蓄電池等の設備の導入を支援する事業を実施するための基金の設置造成に必要な経費として、23年度第3次補正予算によりスマートエネルギーシステム導入促進事業費補助金43億4610万余円を交付している(事業番号87)。

この補助金に係る基金事業執行率は7.1%であり、これは、復興の遅れに伴い地域の防災拠点となり得る施設の整備が遅延したり、事業の中止を余儀なくされたりしたことなどによるものである。

なお、経済産業省は、前記補助金の交付額43億余円と、26年度までの基金からの取崩額3億余円及び27年度の使用見込額等16億余円、計19億余円との差額である23億余円を27年度中に国庫に返納させることにしている。

(イ)復興関連基金事業に係る国庫補助金等の国庫への返納状況等

基金団体は、復興関連基金事業が終了して残余額があったり、使用見込みがない余剰金があったりなどする場合には、所管府省庁が定めたそれぞれの事業の交付要綱等により、これらに係る国庫補助金等を国庫に返納することとなっている。また、前記のとおり、復興庁及び財務省が復興関連基金事業の所管府省に発出した基金使途通知において、基金からの執行を見合わせて、国庫に返納することを要請された事業がある。

そこで、上記精算時の残余額や使用見込みがない余剰金等が適切に国庫に返納されているかをみると、図表3-8のとおり、復興関連基金事業122事業のうち48事業において、各基金団体は26年度末までに2016億余円、27年度(27年8月末現在)に714億余円、計2731億余円の基金残額を国庫に返納している。基金団体が国庫補助金等を国庫に返納した事由は、①使途厳格化によるもの1252億余円(19事業)、②使用見込みがないことによるもの1245億余円(26事業)、③事業の終了によるもの233億余円(27事業)などとなっている。

図表3-8 復興関連基金事業に係る国庫補助金等の返納の状況(平成27年8月末現在)

(単位:百万円)
事業番号 復旧・復興予算 基金事業名 所管府省庁 国庫補助金等交付額 平成26年度末までの国庫返納額(運用益を含む。) 26年度末に保有している国庫補助金等相当額 27年度の国庫返納額(運用益を含む。)(27年8月末現在) 27年8月末までの国庫返納額(運用益を含む。)
  ①使途厳格化によるもの ②使用見込みがないことによるもの ③事業の終了によるもの ④事業実施後返納事由が生じたもの
A   B A+B        
※ 6 23年度
第3次補正予算
被災者への心のケア対策等の推進事業(自殺対策) 内閣府(内閣府本府) 3,700 395 - 395 395 - - -
7 23年度
第3次補正予算
復興支援型地域社会雇用創造事業 内閣府(内閣府本府) 3,200 332 - - 332 - - 332 -
8 23年度
第3次補正予算
新しい公共支援事業 内閣府(内閣府本府) 879 61 - 61 - - 61 -
12 23年度
第1次補正予算
初等中等教育等就学支援 文部科学省 11,313 - 8,244 8,333 8,333 - - 8,333 -
13 23年度
第3次補正予算
初等中等教育における就学支援(幼稚園から高校) 文部科学省 29,744
14 26年度
当初予算
初等中等教育における就学支援
(幼稚園から高校)
文部科学省 2,454
※ 20 23年度
第3次補正予算
奨学金事業(高校生) 文部科学省 18,946 1,928 322 2,251 1,928 - 322 -
23 23年度
第1次補正予算
地域支え合い体制づくり事業の積増し 厚生労働省 7,020 383 144 - 383 - 383 - -
25 23年度
第1次補正予算
重点分野雇用創造事業の拡充 厚生労働省 50,000 90 989 - 90 - - 90 -
※ 26 23年度
第3次補正予算
生活福祉資金貸付 厚生労働省 15,190 360 4,925 532 893 - 893 - -
※ 28 23年度
第3次補正予算
医療施設等の防災対策の強化 厚生労働省 15,633 802 5,342 183 986 - 948 38 -
※ 31 23年度
第3次補正予算
社会的包摂・「絆」再生事業 厚生労働省 17,549 365 △462 370 736 365 370 - -
※ 32 23年度
第3次補正予算
パーソナル・サポート・サービスモデル・プロジェクト 厚生労働省 2,215 92 138 37 130 - 130 - -
※ 33 23年度
第3次補正予算
被災生活保護受給者に対する生活再建サポート事業 厚生労働省 1,771 27 1,663 267 294 - 294 - -
34 23年度
第3次補正予算
介護等のサポート拠点の設置・運営等
(介護基盤整備基金(支え合い事業)に積増し)
厚生労働省 9,035 243 3,519 - 243 - 243 - -
37 23年度
第3次補正予算
被災地における保健師巡回相談等の健康支援(介護基盤整備基金への追加) 厚生労働省 2,893 6 341 - 6 - - 6 -
38 23年度
第3次補正予算
被災者の心のケア事業(障害者自立支援対策臨時特例基金の追加、災害時等心のケア支援体制整備事業費の一部) 厚生労働省 2,791 1,384 - - 1,384 - - 1,384 -
39 23年度
第3次補正予算
被災地障害福祉サービス基盤整備事業
(障害者自立支援対策臨時特例基金の追加)
厚生労働省 1,521 682 - - 682 - - 682 -
※ 40 23年度
第3次補正予算
重点分野雇用創造事業の拡充(震災対応事業の延長) 厚生労働省 200,000 9,418 6,321 - 9,418 7,486 - 1,932 -
※ 42 23年度
第3次補正予算
新卒者就職実現プロジェクト事業の被災地に係る特例措置の延長等 厚生労働省 23,520 12,660 1 5 12,665 7,978 - 4,686 -
49 23年度
第3次補正予算
農地土壌等の浄化の研究拠点施設整備調査事業(福島基金分) 農林水産省 100 - 88 88 88 - - 88 -
51 23年度
第3次補正予算
被災者向け農の雇用事業 農林水産省 700 479 - - 479 - - 479 -
※ 52 23年度
第3次補正予算
森林整備加速化・林業再生事業 農林水産省 139,945 39,779 12,522 690 40,470 39,432 347 690 -
56 24年度
当初予算
被災者向け農の雇用事業 農林水産省 422 153 - - 153 - - 153 -
65 23年度
第1次補正予算
石油製品販売業災害特別保証事業 経済産業省 5,079 3,199 1,669 - 3,199 - 3,199 - -
66 23年度
第1次補正予算
特定被災地域石油製品供給支援事業 経済産業省 910 910 - 910 - - 910 -
※ 70 23年度
第3次補正予算
被災地域等地下タンク環境保全対策促進事業(全国防災) 経済産業省 6,986 1,646 1 44 1,691 1,443 202 44 -
※ 71 23年度
第3次補正予算
被災地域等地下タンク環境保全対策促進事業(被災地向け) 経済産業省 1,749
※ 73 23年度
第3次補正予算
中小企業人材対策事業 経済産業省 2,487 1,407 - - 1,407 1,407 - 0 -
※ 74 23年度
第3次補正予算
国内立地推進事業費補助金 経済産業省 295,000 33,756 147,455 39,640 73,396 21,691 51,705 - -
※ 77 23年度
第3次補正予算
産業技術研究開発拠点立地推進事業費補助金(希少金属使用量削減・代替技術開発設備整備費等補助金) 経済産業省 8,499 836 2,530 - 836 146 690 - -
※ 78 23年度
第3次補正予算
産業技術研究開発拠点立地推進事業費補助金(先端技術実証・評価設備整備費等補助金) 経済産業省 26,500 5,989 8,795 843 6,832 5,642 1,189 - -
※ 79 23年度
第3次補正予算
住宅用太陽光発電導入支援復興対策基金造成事業費補助金 経済産業省 86,992 11,330 1,810 1,810 13,141 - 11,330 1,810 -
※ 80 23年度
第3次補正予算
住宅用太陽光発電高度普及促進復興対策基金造成事業費補助金 経済産業省 32,394 307 300 300 608 - 307 300 -
※ 81 23年度
第3次補正予算
エネルギー管理システム導入促進事業費補助金 経済産業省 30,000 13,545 - - 13,545 12,851 658 34 1
※ 82 23年度
第3次補正予算
電力需要ピークカット蓄電池導入支援事業 経済産業省 20,999 9,188 - - 9,188 8,324 - 862 0
※ 83 23年度
第3次補正予算
建築物節電改修支援事業費補助金 経済産業省 15,000 4,814 - - 4,814 4,734 15 56 7
85 23年度
第3次補正予算
再生可能エネルギー発電設備等導入促進支援復興対策事業費補助金 経済産業省 32,599 - 23,941 11,396 11,396 - 11,396 - -
※ 88 23年度
第3次補正予算
火力発電運転円滑化対策費補助金 経済産業省 9,000 6,175 - - 6,175 790 5,385 - -
※ 89 23年度
第3次補正予算
温排水利用施設整備等対策交付金 経済産業省 995 567 - - 567 567 - - -
※ 93 24年度
当初予算
産業技術研究開発拠点立地推進事業費補助金(産学連携イノベーション促進事業費補助金) 経済産業省 4,000 43 3,491 241 285 32 252 - -
※ 94 24年度
当初予算
産業技術研究開発拠点立地推進事業費補助金(先端技術実証・評価設備整備費等補助金) 経済産業省 10,000 10,000 - 10,000 10,000 - - -
95 24年度
当初予算
国内立地推進事業費補助金(原子力災害周辺地域産業復興企業立地補助事業) 経済産業省 14,000 - 12,020 1,196 1,196 - 1,196 - -
※ 105 23年度
第3次補正予算
住宅エコポイント 国土交通省 72,300 12,230 1,125 13,355 - 13,355 - -
107 25年度
当初予算
造船業等復興支援基金 国土交通省 16,024 - 16,007 2,860 2,860 - 2,860 - -
109 23年度
第3次補正予算
地域グリーンニューディール基金の拡充(災害廃棄物処理事業の地方支援) 環境省 67,963 0 - - 0 - - 0 -
※ 115 23年度
第3次補正予算
住宅エコポイント 環境省 72,300 12,230 1,125 13,355 - 13,355 - -
117 24年度
当初予算
震災がれき処理促進地方公共団体緊急支援基金事業(グリーンニューディール基金) 環境省 30,797 3,861 6,752 - 3,861 - 3,861 - -
計(48事業) 1,423,132 201,691 71,418 273,109 125,220 124,574 23,304 9
(19事業) (26事業) (27事業) (3事業)
うち※の小計(27事業) 1,133,680 189,900 47,543 237,443 125,220 101,432 10,780 9
注(1)
※印は基金使途通知の対象とされた復興関連基金事業である。
注(2)
「26年度末に保有している国庫補助金等相当額」の欄において、「/」表示になっているのは、既存の基金事業と復興関連基金事業とを区分して経理していないもの及び国庫補助金等交付額が国庫に全額返納されたものである。

前記のように残余額等は国庫に返納されているところであるが、23年度第1次補正予算の復旧・復興予算により積増しが行われた基金により実施されている復興関連基金事業のうち、基金団体が事業の終了後に残余額を復旧・復興事業以外の区分に配分変更しているものが、次のとおり見受けられた。

厚生労働省は、23年度に、20都県に対して、既存の安心こども基金の積増しに必要な経費として、23年度第1次補正予算により平成23年度子育て支援対策臨時特例交付金(すべての子ども・家庭への支援)計27億1980万円を交付している(安心こども基金(地域子育て創生事業)の活用による被災児童の生活復旧支援。事業番号24)。既存の安心こども基金は、「保育サービス等の充実」「すべての子ども・家庭への支援」「ひとり親家庭等への支援の拡充」等の区分ごとに経理することとなっていて、上記27億余円の積増しは、復旧・復興事業として、「すべての子ども・家庭への支援」の区分において、被災した児童が避難している20都県において新たに実施する相談・援助事業等の経費に充てるために行われたものである。

本交付金の積増し分の活用による事業の実施状況をみたところ、図表3-9のとおり、23年度から当該区分に係る事業の終了年度である25年度までに計25億1241万余円が本基金から取り崩され、11都県においては積増し分が全て取り崩されるなどしていたが、9県において計2億0738万余円の残余額が生じていた。

厚生労働省は、「すべての子ども・家庭への支援」の区分の25年度での終了に当たり、26年3月に、全都道府県に対して事務連絡を発して、子育て支援施策に有効に活用する観点から、当該区分の全ての残余額について、他の区分への配分変更を認めることとした。

この結果、上記の9県において、23年度第1次補正予算による積増し分に係る前記の残余額も含めて、「保育サービス等の充実」等の他の区分に配分変更したため、当該残余額は、今後、復旧・復興事業以外に充てられるものとなっていた。

しかし、9県に対する本交付金の積増し分は、被災した児童に対する相談、援助等を実施する目的で交付されたことを踏まえると、前記の残余額についてもその交付の趣旨に沿って使用されることが望まれる。

なお、厚生労働省は、会計検査院の検査を踏まえるなどして、28年1月末現在において、積増し分に係る前記の残余額について国庫に返納するよう求める措置を執ることとしている。

図表3-9 安心こども基金(地域子育て創生事業)の活用による被災児童の生活復旧支援の実施状況

(単位:千円)
県名 交付金交付額 平成23年度から25年度までの取崩額 25年度末残余額
A B A-B
山形県 327,917 155,341 172,575
石川県 1,000 721 279
静岡県 5,466 2,463 3,003
島根県 1,501 529 971
徳島県 15,085 1,817 13,268
高知県 2,857 587 2,270
福岡県 4,544 2,384 2,159
長崎県 30,000 25,969 4,031
大分県 10,052 1,224 8,828
上記以外の11都県計 2,321,378 2,321,378 -
2,719,800 2,512,414 207,385
エ 震災復興特別交付税に係る経費の状況

震災復興特別交付税は、前記のとおり、一般会計及び復興特会から交付税特会に繰り入れられた後、地方公共団体等での事業実施状況等に応じて交付額が決定され交付されている。

23年度の一般会計及び24、25、26各年度の復興特会における震災復興特別交付税に係る経費の執行状況をみると、図表3-10のとおり、23年度の一般会計及び24年度の復興特会から予算現額の全額が繰り入れられている。また、25、26両年度は、それぞれ復興特会から予算現額のうちの95.3%、71.9%が交付税特会に繰り入れられており、4か年度の合計に係る執行率は94.6%と高くなっている。

図表3-10 震災復興特別交付税に係る経費の平成23年度の一般会計及び24、25、26各年度の復興特会における執行状況

(単位:百万円、%)
年度 事業名 予算現額
A
支出済額
B
不用額 執行率
B/A
平成23 地方交付税の加算
(震災復興特別交付税)
1,663,525 1,663,525 - 100
24 震災復興特別交付税の追加 670,413 670,413 - 100
25 震災復興特別交付税の追加 605,302 577,189 28,113 95.3
26 震災復興特別交付税 572,332 411,631 160,701 71.9
3,511,573 3,322,758 188,814 94.6
(注)
各年度において、翌年度繰越額は生じていない。

これに対して、繰入先の交付税特会における震災復興特別交付税に係る経費の執行状況をみると、図表3-11のとおり、23年度から26年度までの4か年度の繰入額計3兆3227億余円に対する交付税特会での支出済額は計2兆5995億余円(4か年度の執行率78.2%)となっている。

図表3-11 震災復興特別交付税に係る経費の交付税特会における執行状況

図表3-11 震災復興特別交付税に係る経費の交付税特会における執行状況 画像

交付税特会においては、特会法第231条の規定により、復興特会から交付税特会に繰り入れられた金額が、復興費用の支出に必要な金額として繰り入れるべき金額を超過した場合には、翌年度の繰入額を減額して調整することとなっており、また、特会法第27条の規定により、交付税特会の支出残額は、翌々年度への繰越しが認められていない。

26年度の復興特会からの繰入額についてみると、26年度に繰り入れるべき額5749億余円から前年度の不用額に相当する額1633億余円が繰越額の超過分として減額され、4116億余円となっている。

また、上記26年度の交付税特会の歳出予算現額1兆2377億余円に対する交付税特会での支出済額は5144億余円であり、26年度の支出残額7232億余円のうち、同年度に復興特会から繰り入れられた上記の4116億余円に相当する額と25年度の不用額と同額の1633億余円の合計額5749億余円が27年度に繰り越され、残余の1482億余円が不用とされている。

なお、27年6月の第13回復興推進会議において、復興の基幹的事業や原子力災害に由来する復興事業等については、これまでと同様に、震災復興特別交付税により被災自治体の実質的な負担をゼロとすることが決定されている。

オ 沿岸6県における復旧・復興事業の実施状況

被災地のうち津波等により甚大な被害を受けた沿岸6県における復旧・復興事業の中でも、国の財政支援の額が大きい類型である補助事業等、復興交付金事業及び復興関連基金事業について、どのような内容となっているか、当該事業に係る予算の執行が円滑かつ適切なものとなっているか検査した。特に、原則として単年度内に実施する補助事業等及び復興交付金事業(単年度型事業)と異なり、事業の機動的な実施に対応するなどのために基金を設置造成等して複数年度にわたって事業を実施する復興交付金事業(基金型事業)及び復興関連基金事業については、計画に照らして適時に実施されているかをみることとして、事業の完了時期等の設定状況、事業の進捗状況等も併せて検査した。

(ア)補助事業等の実施状況

東日本大震災からの復旧・復興事業では、復興交付金事業や復興関連基金事業のほか、復興基本方針等に基づき多様な補助事業等が実施されている。沿岸6県及び管内200市町村が東日本大震災関係経費により各府省庁から国庫補助金等の交付を受けて実施している補助事業等は、被災直後の被災者に対する緊急援助やその後の避難生活等における各種支援、災害廃棄物の処理の実施、各種産業の復興支援、文教施設、社会福祉施設等の公共施設や河川、道路、港湾等の社会基盤の災害復旧等のためのもので極めて多岐にわたっている。

国は、これらの補助事業等に係る国庫補助金等の交付額を、事業主体である地方公共団体等が東日本大震災に伴う被害等の状況から各年度に実施する見込みの事業の規模や概算事業費を算出した申請額に基づきあらかじめ決定し、当該補助事業等の実施状況や実績額に基づき確定している。このため、事業の規模が見込みより縮小したり、実施する見込みの事業が実施されなかったりするなどした場合に当該国庫補助金等の交付決定額と実際の交付額との間にかい離が生ずる。また、各年度の実施対象の事業が計画より遅延するなどして、年度内に完了しない場合には、未完了分の事業費に相当する予算額は、一定の条件の下、最大翌々年度まで繰り越すことができる。

そこで、沿岸6県及び管内200市町村が実施している補助事業等について、23年度から26年度までの4か年度の国庫補助金等の交付決定額計に対する実際の交付額計の割合(以下「交付率」という。)により各事業が計画どおり実施されているかを把握するとともに、国庫補助金等の交付決定額計から累計差引過不足額を控除した額に対する実際の交付額計の割合(以下「補助事業執行率」という。)により各事業が4か年度内に執行され、完了しているかを把握した。また、沿岸6県及び各府省庁から調書等を徴して、県及び広域連合等が複数の市町村において実施する広域的な事業等(以下「県事業・その他」という。)と、各市町村が実施する「市町村事業」とに区分するなどして事業の実施状況を分析した。

なお、沿岸6県管内の200市町村は東日本大震災により甚大な被害を受けていることなどから、各市町村等における補助事業等の実施状況については、各府省庁又は沿岸6県から徴した調書により把握した市町村等に通知された交付決定額や交付額等を集計するなどして検査している。

a 沿岸6県の補助事業等の実施状況

23年度から26年度までの4か年度の沿岸6県及び管内200市町村に対する国庫補助金等の交付決定額は、図表3-12のとおり、計4兆7279億余円となっており、このうち東北3県の分は計4兆4323億余円で、交付決定額全体の9割以上を占めている。また、「県事業・その他」及び「市町村事業」の区分ごとの交付決定額は、「県事業・その他」2兆7562億余円、「市町村事業」1兆9717億余円となっている。

そして、交付決定額4兆7279億余円に対して、23年度から26年度までの4か年度の交付額は計3兆5620億余円、23年度から26年度までの4か年度の累計差引過不足額は5895億余円で、補助事業執行率は86.0%となっていて、5762億余円が27年度へ繰り越されている。

県別の実施状況をみると、交付率は70.7%から90.1%、補助事業執行率は82.9%から93.0%となっていて、岩手、宮城両県については、災害復旧等の事業に伴う繰越額や不用額が生じたことにより、交付率が70.7%、73.1%、補助事業執行率が82.9%、85.1%と他県と比較して低くなっている。

図表3-12 補助事業等の県別・区分別実施状況(平成23年度から26年度までの累計)

(単位:百万円、%)
県名 区分 交付決定額計 交付額計 交付率 平成27年度への繰越額計 累計差引過不足額
(不用額等)
26年度末の補助事業執行率
A B B/A C D=A-B-C B/(A-D)
青森県 県事業・その他 30,839 27,799 90.1 2,421 618 91.9
市町村事業 9,820 8,843 90.0 613 364 93.5
40,659 36,642 90.1 3,034 982 92.3
岩手県 県事業・その他 644,112 417,785 64.8 108,975 117,351 79.3
市町村事業 466,358 367,597 78.8 51,918 46,842 87.6
1,110,471 785,383 70.7 160,893 164,194 82.9
宮城県 県事業・その他 1,311,107 882,149 67.2 200,473 228,484 81.4
市町村事業 1,073,633 862,840 80.3 104,233 106,560 89.2
2,384,741 1,744,989 73.1 304,706 335,045 85.1
福島県 県事業・その他 655,570 530,487 80.9 79,800 45,282 86.9
市町村事業 281,576 246,081 87.3 11,575 23,919 95.5
937,146 776,568 82.8 91,376 69,201 89.4
茨城県 県事業・その他 88,450 75,205 85.0 8,771 4,472 89.5
市町村事業 76,121 68,897 90.5 1,936 5,287 97.2
164,571 144,102 87.5 10,708 9,760 93.0
千葉県 県事業・その他 26,160 22,479 85.9 2,594 1,086 89.6
市町村事業 64,198 51,929 80.8 2,983 9,285 94.5
90,359 74,408 82.3 5,578 10,372 93.0
合計 県事業・その他 2,756,240 1,955,906 70.9 403,037 397,296 82.9
市町村事業 1,971,708 1,606,188 81.4 173,260 192,259 90.2
4,727,949 3,562,095 75.3 576,297 589,556 86.0
(上記のうち東北3県計) 4,432,359 3,306,941 74.6 556,976 568,440 85.5

b 事業区分別の実施状況

所管別に補助事業等の実施状況をみると、図表3-13のとおり、9府省庁の173事業が実施されている。

図表3-13 所管別の補助事業等の実施状況(平成23年度から26年度までの累計)

所管 事業数 交付決定額計 交付額計 平成26年度末の交付率 27年度への繰越額計 累計差引過不足額
(不用額等)
26年度末の補助事業執行率
A B B/A C D=A-B-C B/(A-D)
内閣府 11 699,317 628,287 89.8 2,132 68,896 99.6
復興庁 4 15,057 12,358 82.0 - 2,699 100
総務省 15 60,804 50,572 83.1 3,583 6,648 93.3
文部科学省 24 201,842 170,514 84.4 20,306 11,021 89.3
厚生労働省 29 147,500 119,107 80.7 9,933 18,459 92.3
農林水産省 54 1,194,990 654,954 54.8 264,486 275,549 71.2
経済産業省 5 279,356 239,274 85.6 27,745 12,336 89.6
国土交通省 22 1,031,379 665,104 64.4 243,648 122,626 73.1
環境省 9 1,097,700 1,021,920 93.0 4,460 71,318 99.5
173 4,727,949 3,562,095 75.3 576,297 589,556 86.0

上記の各所管府省庁により行われている補助事業等について、23年度から26年度までの4か年度の交付決定額計の9割程度を占める1事業当たり100億円以上の事業を抽出してその事業内容により区分して(以下、事業内容による区分を「事業区分」という。)、その交付決定額の合計が1000億円以上となる事業区分を示すと、図表3-14のとおり、①「公共施設等の復旧等に関する事業」(4事業区分で交付決定額計1兆1126億余円)、②「被災者の支援に関する事業」(1事業区分で同7615億余円)、③「各種産業の再生に関する事業」(3事業区分で同計1兆2858億余円)、④「災害廃棄物の処理等に関する事業」(1事業区分で同1兆0640億余円)に大別される(9事業区分で同計4兆2241億余円)。

このうち、②「被災者支援に関する事業」及び④「災害廃棄物の処理等に関する事業」については、交付率がそれぞれ89.5%、93.7%、補助事業執行率がそれぞれ100%、99.5%となっている。一方、①「公共施設等の復旧等に関する事業」及び③「各種産業の再生に関する事業」については、他事業、地元等との調整等による遅延、事業計画の変更等により、①「公共施設等の復旧等に関する4事業区分計」及び③「各種産業の再生に関する3事業区分計」の交付率がそれぞれ65.3%、60.9%、補助事業執行率がそれぞれ73.7%、76.3%となっている。

図表3-14 事業区分別・県別の補助事業等の実施状況(平成23年度から26年度までの累計)

(単位:百万円、%)
事業区分 ①公共施設等の復旧等に関する事業
河川等 社会資本整備 文教施設
県名\区分 交付決定額計 交付額計 交付率 平成26年度末の補助事業執行率 交付決定額計 交付額計 交付率 平成26年度末の補助事業執行率 交付決定額計 交付額計 交付率 平成26年度末の補助事業執行率
A B B/A   A B B/A   A B B/A  
青森県 548 490 89.5 100 5,621 3,994 71.0 71.0 111 109 98.1 100
岩手県 88,436 74,966 84.7 86.0 42,653 22,033 51.6 58.0 29,990 17,677 58.9 60.1
宮城県 429,571 238,703 55.5 68.4 47,525 26,451 55.6 56.0 41,408 37,943 91.6 93.9
福島県 94,516 61,631 65.2 73.8 40,607 25,947 63.8 68.2 49,225 43,642 88.6 92.8
茨城県 25,134 24,133 96.0 98.7 25,702 18,321 71.2 71.2 24,037 21,735 90.4 97.3
千葉県 11,103 9,374 84.4 88.0 7,376 4,721 64.0 65.9 21,624 16,896 78.1 91.6
649,310 409,301 63.0 73.7 169,486 101,470 59.8 62.7 166,397 138,004 82.9 87.5
(単位:百万円、%)
事業区分 ①公共施設等の復旧等に関する事業 ②被災者の支援に関する事業
港湾 ①公共施設等の復旧等に関する4事業区分計 被災者支援
県名\区分 交付決定額計 交付額計 交付率 平成26年度末の補助事業執行率 交付決定額計 交付額計 交付率 平成26年度末の補助事業執行率 交付決定額計 交付額計 交付率 平成26年度末の補助事業執行率
A B B/A   A B B/A   A B B/A  
青森県 1,914 1,914 100 100 8,195 6,508 79.4 79.9 152 118 77.3 100
岩手県 31,200 17,390 55.7 57.5 192,280 132,068 68.6 71.5 125,440 105,109 83.7 100
宮城県 65,585 35,269 53.7 65.0 584,091 338,368 57.9 69.0 329,830 288,958 87.6 100
福島県 20,635 16,022 77.6 87.8 204,985 147,244 71.8 78.8 303,497 285,012 93.9 100
茨城県 6,564 6,299 95.9 100 81,438 70,489 86.5 89.4 867 853 98.3 100
千葉県 1,597 1,597 99.9 100 41,701 32,590 78.1 86.1 1,781 1,775 99.6 100
127,498 78,493 61.5 69.8 1,112,693 727,270 65.3 73.7 761,570 681,828 89.5 100
(単位:百万円、%)
事業区分 ③各種産業の再生に関する事業
中小企業 農業 漁業
県名\区分 交付決定額計 交付額計 交付率 平成26年度末の補助事業執行率 交付決定額計 交付額計 交付率 平成26年度末の補助事業執行率 交付決定額計 交付額計 交付率 平成26年度末の補助事業執行率
A B B/A   A B B/A   A B B/A  
青森県 5,276 5,274 99.9 100 397 393 99.0 100 13,736 11,817 86.0 90.2
岩手県 45,417 43,153 95.0 96.1 17,563 12,954 73.7 86.1 372,887 166,079 44.5 63.8
宮城県 136,338 119,218 87.4 89.9 104,861 61,286 58.4 72.4 371,278 192,448 51.8 71.7
福島県 65,590 51,240 78.1 80.1 61,292 46,463 75.8 83.4 46,150 33,154 71.8 80.4
茨城県 13,032 12,006 92.1 100 9,669 9,047 93.5 99.0 12,105 8,907 73.5 85.5
千葉県 1,865 1,721 92.2 100 4,588 4,584 99.8 100 3,781 3,616 95.6 97.4
267,521 232,615 86.9 89.3 198,374 134,728 67.9 79.5 819,940 416,023 50.7 69.7
(単位:百万円、%)
事業区分 ③各種産業の再生に関する事業 ④災害廃棄物の処理等に関する事業 9事業区分合計
③各種産業の再生に関する3事業区分計 災害廃棄物処理
県名\区分 交付決定額計 交付額計 交付率 平成26年度末の補助事業執行率 交付決定額計 交付額計 交付率 平成26年度末の補助事業執行率 交付決定額計 交付額計 交付率 平成26年度末の補助事業執行率
A B B/A   A B B/A   A B B/A  
青森県 19,410 17,485 90.0 93.2 5,608 5,571 99.3 100 33,367 29,684 88.9 91.1
岩手県 435,868 222,187 50.9 69.4 260,555 253,324 97.2 99.7 1,014,145 712,690 70.2 82.4
宮城県 612,479 372,953 60.8 76.8 677,827 627,970 92.6 99.8 2,204,227 1,628,250 73.8 85.9
福島県 173,033 130,858 75.6 81.3 109,459 101,211 92.4 98.0 790,975 664,327 83.9 90.2
茨城県 34,808 29,960 86.0 94.9 6,786 6,126 90.2 91.2 123,901 107,430 86.7 91.1
千葉県 10,236 9,921 96.9 99.0 3,848 3,785 98.3 98.9 57,567 48,073 83.5 89.9
1,285,836 783,367 60.9 76.3 1,064,085 997,989 93.7 99.5 4,224,185 3,190,456 75.5 86.2
(注)
9事業区分ごとの対象となる補助事業等については別図表7参照

9事業区分について交付決定額の多額な順に整理すると、図表3-15のとおり、最も多額なものは、沿岸に漂着するなどした災害廃棄物等の処理や廃棄物処理施設の復旧等を行う「災害廃棄物処理」であり、交付決定額は1兆0640億余円となっていて、このうち93.7%に当たる9979億余円が交付され、補助事業執行率は99.5%となっている。

また、③「各種産業の再生に関する事業」の区分に大別され、多額の交付決定がなされている「漁業」「中小企業」及び「農業」をみると、これらの事業内容は、「漁業」が漁港施設や水産業共同利用施設の復旧等を行うもの、「中小企業」が地域経済の核となる中小企業等グループが復興事業計画に基づき、その計画に不可欠な施設等の復旧・整備等を行うもの、「農業」が農業用施設や農地の復旧等を行うものであり、交付決定額は「漁業」8199億余円、「中小企業」2675億余円、「農業」1983億余円となっていて、「漁業」が他の倍以上となっている。一方、「漁業」の交付率は50.7%、補助事業執行率は69.7%と、「中小企業」の交付率86.9%、補助事業執行率89.3%と比べて低くなっている。これは、地元や他事業との調整等の影響により事業が遅延したり、調整した結果、事業規模が縮小したりしたことによるものである。

「被災者支援」は、災害救助法(昭和22年法律第118号)に基づき避難所の設置、応急仮設住宅の供与等の応急救助を実施する事業や市町村が被災により死亡した者の遺族に対して災害弔慰金を支給するなどの事業、市町村が減免した介護保険や国民健康保険の被保険者の利用者負担額や保険料等に相当する額を補助するもので、交付決定額は7615億余円となっていて、このうち89.5%に当たる6818億余円が交付され、補助事業執行率は100%となっている。

①「公共施設等の復旧等に関する事業」の区分に大別される「河川等」「社会資本整備」「文教施設」及び「港湾」をみると、「河川等」については、河川のほか海岸、下水道等の多様な施設の復旧が実施されていて、交付決定額は6493億余円と他の事業区分の3倍以上の額となっている。また、河川、道路、港湾等の様々な施設の整備を総合的に実施できる「社会資本整備」の交付決定額は1694億余円、「文教施設」の交付決定額は1663億余円となっている。「文教施設」については、交付決定額の82.9%に当たる1380億余円が交付され、補助事業執行率が87.5%と比較的堅調に執行されているが、「河川等」「社会資本整備」及び「港湾」については、設計変更や施工方法の見直しによる事業計画の変更等の要因により、交付率は59.8%から63.0%、補助事業執行率は62.7%から73.7%となっている。

図表3-15 交付決定額の合計が1000億円以上の事業区分に係る実施状況(平成23年度から26年度までの累計)

(単位:百万円、%)
事業区分 交付決定額計 交付額計 交付率 平成27年度への繰越額計 累計差引過不足額計
(不用額等)
26年度末の補助事業執行率
A B B/A C D=(A-B-C) B/(A-D)
災害廃棄物処理 1,064,085 997,989 93.7 4,431 61,664 99.5
漁業 819,940 416,023 50.7 180,730 223,186 69.7
被災者支援 761,570 681,828 89.5 - 79,741 100
河川等 649,310 409,301 63.0 145,384 94,624 73.7
中小企業 267,521 232,615 86.9 27,745 7,160 89.3
農業 198,374 134,728 67.9 34,682 28,962 79.5
社会資本整備 169,486 101,470 59.8 60,175 7,841 62.7
文教施設 166,397 138,004 82.9 19,645 8,747 87.5
港湾 127,498 78,493 61.5 33,955 15,048 69.8

各県別に交付額の多額な5事業区分をみると、図表3-16のとおり、がれきなどの災害廃棄物等の量並びに人的被害数及び避難者数の多い東北3県は、他の3県と比較して「災害廃棄物処理」及び「被災者支援」が突出して多い状況であり、「災害廃棄物処理」については、岩手(災害廃棄物推計量429万t)、福島(同273万t)両県を大きく上回る災害廃棄物の量があった宮城県(同1171万t)が6279億余円、「被災者支援」については死傷者及び避難者数が多い宮城、福島両県がそれぞれ2889億余円、2850億余円と特に多額となっている。

津波被害の影響が大きい青森、岩手、宮城各県においては「漁業」が主要な事業区分となっていて、宮城県は1924億余円、岩手県は1660億余円と特に多額となっている。

また、青森県以外の5県においては「河川等」も主要な事業区分となっていて、特に公共施設等の被害が大きかった宮城県においては2387億余円と多額となっている。

図表3-16 各県別の交付額が多額な5事業区分に係る交付額(平成23年度から26年度までの累計)

青森県 事業区分 漁業 災害廃棄物処理 中小企業 社会資本整備 港湾
交付額(百万円) 11,817 5,571 5,274 3,994 1,914
岩手県 事業区分 災害廃棄物処理 漁業 漁業被災者支援 河川等 中小企業
交付額(百万円) 253,324 166,079 105,109 74,966 43,153
宮城県 事業区分 災害廃棄物処理 被災者支援 河川等 漁業 中小企業
交付額(百万円) 627,970 288,958 238,703 192,448 119,218
福島県 事業区分 被災者支援 災害廃棄物処理 河川等 中小企業 農業
交付額(百万円) 285,012 101,211 61,631 51,240 46,463
茨城県 事業区分 河川等 文教施設 社会資本整備 中小企業 農業
交付額(百万円) 24,133 21,735 18,321 12,006 9,047
千葉県 事業区分 文教施設 河川等 社会資本整備 農業 災害廃棄物処理
交付額(百万円) 16,896 9,374 4,721 4,584 3,785
(イ)復興交付金事業の実施状況

復興交付金の交付を受けた特定被災自治体は、復興まちづくりや農林水産業の生産基盤整備等のために、基金を設置造成等するなどして多数の復興交付金事業を実施している。

沿岸6県の管内市町村が単独又は県と共同して作成する復興交付金事業計画に記載されている復興交付金事業のうち、会計実地検査を行った沿岸6県管内の42市町(注6)の管内において実施されている県事業及び市町事業(以下、両者を合わせて「県・市町事業」という。)について、基幹事業と効果促進事業の別にその執行状況をみると、図表3-17のとおり、23年度から26年度までの4か年度の実施計画分に係る交付額は、基幹事業1兆3016億余円、効果促進事業1411億余円、計1兆4427億余円となっており、そのうち基幹事業6110億余円、効果促進事業498億余円、計6609億余円が執行されていて、執行率は基幹事業46.9%、効果促進事業35.3%、両事業全体で45.8%となっている。

(注6)
沿岸6県管内の42市町  青森県の八戸、三沢両市、上北郡おいらせ、三戸郡階上両町、岩手県の宮古、大船渡、一関、釜石各市、上閉伊郡大槌、下閉伊郡山田両町、宮城県の仙台、石巻、塩竈、気仙沼、白石各市、宮城郡松島、七ヶ浜、利府、牡鹿郡女川、本吉郡南三陸各町、福島県の福島、郡山、いわき、須賀川、相馬、二本松各市、双葉郡広野、相馬郡新地両町、茨城県の高萩、北茨城、鹿嶋、潮来、神栖各市、東茨城郡大洗町、千葉県の千葉、旭、習志野、我孫子、浦安、匝瑳、香取、山武各市

また、沿岸6県を東北3県と東北3県以外の3県に区分して交付額等をみると、東北3県管内の24市町(注7)に係る県・市町事業に対する交付額は1兆3950億余円と全体の96.6%を占めており、その執行率は45.4%となっている。一方、東北3県以外の3県管内の18市町(注8)に係る県・市町事業の執行率は55.1%となっていて差が生じている。さらに、会計実地検査を行った各県の市町管内における県・市町事業の執行率をみると、82.0%から37.0%となっていて、青森、千葉両県の県・市町事業の執行率が他の4県と比べて高いことから、東北3県以外の3県の県・市町事業の執行率が東北3県の県・市町事業の執行率に比べて高くなっている。

(注7)
東北3県管内の24市町  岩手県の宮古、大船渡、一関、釜石各市、上閉伊郡大槌、下閉伊郡山田両町、宮城県の仙台、石巻、塩竈、気仙沼、白石各市、宮城郡松島、七ヶ浜、利府、牡鹿郡女川、本吉郡南三陸各町、福島県の福島、郡山、いわき、須賀川、相馬、二本松各市、双葉郡広野、相馬郡新地両町
(注8)
東北3県以外の3県管内の18市町  青森県の八戸、三沢両市、上北郡おいらせ、三戸郡階上両町、茨城県の高萩、北茨城、鹿嶋、潮来、神栖各市、東茨城郡大洗町、千葉県の千葉、旭、習志野、我孫子、浦安、匝瑳、香取、山武各市

復興交付金事業はその事業内容により区分すると13事業区分に分類することができる。事業区分別にみると、基幹事業では、交付額及び執行額はいずれも「住宅等」が最も多額で、それぞれ7243億余円、3825億余円となっている。執行率をみると、「文教施設等」等2事業区分が最も高く、76.7%となっている一方、「道路」等5事業区分で30.2%から37.0%にとどまっている。

効果促進事業では、交付額及び執行額はいずれも「市街地整備等」が最も多額で、それぞれ1124億余円、346億余円となっていて、主なものは、効果促進事業(一括配分)のうち市街地復興効果促進事業である。執行率をみると、前記のとおり、市街地復興効果促進事業については交付決定の時点で使途が決定していないこともあり、「市街地整備等」の執行率は30.8%と最も低くなっている。

このように復興交付金事業の執行率等をみると、各県や事業区分により大きな差が見受けられる。

図表3-17 沿岸6県における復興交付金事業の県別・事業区分別交付額、執行額、執行率の 状況(平成23年度から26年度までの実施計画分に係る交付額)

(単位:百万円、%)
事業区分 文教施設等 埋蔵文化財発掘調査
事業番号 A-1~3 A-4
県名\区分 基幹事業 効果促進事業 基幹事業 効果促進事業
交付額
A
執行額
B
執行率
B/A
交付額
C
執行額
D
執行率
D/C
交付額
A
執行額
B
執行率
B/A
交付額
C
執行額
D
執行率
D/C
青森県 - - - - - - - - - - - -
岩手県 440 168 38.1 1,568 951 60.7 483 256 53.1 6 3 62.2
宮城県 480 283 59.0 317 167 52.7 347 132 38.2 116 96 83.4
福島県 398 338 84.8 19 19 100.0 227 111 49.2 197 29 14.9
茨城県 378 275 72.7 - - - - - - - - -
千葉県 1,040 1,036 99.5 124 83 67.2 - - - - - -
2,739 2,101 76.7 2,028 1,222 60.2 1,057 501 47.4 319 130 40.7
  うち東北3県 1,319 789 59.8 1,904 1,138 59.7 1,057 501 47.4 319 130 40.7
(単位:百万円、%)
事業区分 医療・介護・子育て支援施設等 農業用施設等
事業番号 B-1~3 C-1~4
県名\区分 基幹事業 効果促進事業 基幹事業 効果促進事業
交付額
A
執行額
B
執行率
B/A
交付額
C
執行額
D
執行率
D/C
交付額
A
執行額
B
執行率
B/A
交付額
C
執行額
D
執行率
D/C
青森県 - - - - - - 67 62 92.8 - - -
岩手県 - - - - - - 6,140 3,662 59.6 294 235 79.8
宮城県 77 59 76.7 471 451 95.8 18,420 11,495 62.4 103 75 73.2
福島県 - - - - - - 6,258 4,006 64.0 293 256 87.3
茨城県 - - - - - - 21 18 85.1 - - -
千葉県 - - - - - - 228 183 80.5 - - -
77 59 76.7 471 451 95.8 31,136 19,429 62.3 691 567 82.0
  うち東北3県 77 59 76.7 471 451 95.8 30,818 19,163 62.1 691 567 82.0
(単位:百万円、%)
事業区分 漁業用施設等 試験研究施設等
事業番号 C-5~7 C-8、9
県名\区分 基幹事業 効果促進事業(F-1、3を含む。) 基幹事業 効果促進事業
交付額
A
執行額
B
執行率
B/A
交付額
C
執行額
D
執行率
D/C
交付額
A
執行額
B
執行率
B/A
交付額
C
執行額
D
執行率
D/C
青森県 247 211 85.5 71 57 80.8 - - - - - -
岩手県 40,449 14,583 36.0 4,980 1,293 25.9 1,039 819 78.8 25 25 98.4
宮城県 74,098 25,423 34.3 3,470 975 28.1 4,372 1,999 45.7 - - -
福島県 8,584 4,775 55.6 855 852 99.6 1,546 1,350 87.3 2 1 99.9
茨城県 2,634 504 19.1 - - - - - - - - -
千葉県 - - - - - - - - - - - -
126,015 45,500 36.1 9,377 3,179 33.9 6,958 4,169 59.9 27 27 98.5
  うち東北3県 123,133 44,783 36.3 9,306 3,121 33.5 6,958 4,169 59.9 27 27 98.5
(単位:百万円、%)
事業区分 道路 住宅等
事業番号 D-1~3 D-4、7~10、14、23
県名\区分 基幹事業 効果促進事業 基幹事業 効果促進事業
交付額
A
執行額
B
執行率
B/A
交付額
C
執行額
D
執行率
D/C
交付額
A
執行額
B
執行率
B/A
交付額
C
執行額
D
執行率
D/C
青森県 1,490 777 52.1 - - - 1,385 1,072 77.4 20 8 41.4
岩手県 29,532 8,308 28.1 583 201 34.5 198,743 75,125 37.8 1,345 542 40.3
宮城県 96,912 21,841 22.5 219 50 23.1 431,654 237,893 55.1 7,460 4,589 61.5
福島県 20,722 11,751 56.7 122 41 34.2 86,792 63,656 73.3 1,033 597 57.7
茨城県 10,216 3,099 30.3 269 261 97.1 4,477 3,681 82.2 477 332 69.5
千葉県 4,097 3,485 85.0 1,176 1,136 96.6 1,287 1,107 86.0 41 40 95.9
162,971 49,263 30.2 2,370 1,692 71.3 724,340 382,538 52.8 10,379 6,109 58.8
  うち東北3県 147,167 41,901 28.4 924 294 31.8 717,190 376,676 52.5 9,840 5,728 58.2
(単位:百万円、%)
事業区分 市街地整備等 液状化対策
事業番号 D-11、12、15~17、20 D-18、19
県名\区分 基幹事業 効果促進事業(F-2、4を含む。)( 基幹事業 効果促進事業
交付額
A
執行額
B
執行率
B/A
交付額
C
執行額
D
執行率
D/C
交付額
A
執行額
B
執行率
B/A
交付額
C
執行額
D
執行率
D/C
青森県 317 282 89.0 648 475 73.3 - - - - - -
岩手県 54,396 24,104 44.3 38,673 11,902 30.7 - - - - - -
宮城県 71,071 37,011 52.0 58,608 15,382 26.2 - - - - - -
福島県 29,568 13,275 44.8 13,682 6,384 46.6 - - - - - -
茨城県 918 458 49.9 815 488 59.9 12,372 5,409 43.7 28 28 99.7
千葉県 347 304 87.3 8 6 79.1 1,623 1,174 72.2 32 30 95.5
156,618 75,436 48.1 112,436 34,641 30.8 13,996 6,583 47.0 60 59 97.5
  うち東北3県 155,035 74,391 47.9 110,964 33,669 30.3 - - - - - -
(注)
効果促進事業のうち一括配分に係る分(F-2、4)については、「住宅等」に分類される基幹事業も対象にまとめて交付額を算定し交付決定されることから事業ごとに区分することができないため、対象基幹事業の種類の多い「市街地整備等」にまとめて計上している。
(単位:百万円、%)
事業区分 下水道等 公園
事業番号 D-21、E-1 D-22
県名\区分 基幹事業 効果促進事業 基幹事業 効果促進事業
交付額
A
執行額
B
執行率
B/A
交付額
C
執行額
D
執行率
D/C
交付額
A
執行額
B
執行率
B/A
交付額
C
執行額
D
執行率
D/C
青森県 - - - - - - - - - - - -
岩手県 6,505 2,182 33.5 122 - - 564 51 9.1 34 24 71.5
宮城県 24,955 5,575 22.3 1,287 807 62.6 2,082 131 6.3 113 79 69.7
福島県 4,175 3,785 90.6 1,168 618 52.9 19,488 8,022 41.1 250 230 92.0
茨城県 - - - - - - - - - - - -
千葉県 552 74 13.5 - - - - - - - - -
36,189 11,619 32.1 2,579 1,425 55.2 22,134 8,205 37.0 398 334 83.8
  うち東北3県 35,637 11,544 32.3 2,579 1,425 55.2 22,134 8,205 37.0 398 334 83.8
(単位:百万円、%)
事業区分 住宅入居支援等
事業番号 D-5、6、13
県名\区分 基幹事業 効果促進事業
交付額
A
執行額
B
執行率
B/A
交付額
C
執行額
D
執行率
D/C
青森県 90 90 99.8 - - -
岩手県 4,987 448 8.9 - - -
宮城県 9,924 4,044 40.7 10 7 78.3
福島県 2,125 991 46.6 - - -
茨城県 232 62 26.8 - - -
千葉県 31 28 92.3 - - -
17,390 5,665 32.5 10 7 78.3
  うち東北3県 17,037 5,484 32.1 10 7 78.3
(単位:百万円、%)
県名\区分 合計
基幹事業 効果促進事業
交付額
A
執行額
B
執行率
B/A
交付額
C
執行額
D
執行率
D/C
交付額
E=A+C
執行額
F=B+D
執行率
F/E
青森県 3,598 2,497 69.4 740 542 73.2 4,338 3,039 70.0
岩手県 343,284 129,712 37.7 47,633 15,180 31.8 390,918 144,892 37.0
宮城県 734,395 345,892 47.0 72,178 22,684 31.4 806,574 368,576 45.6
福島県 179,887 112,066 62.2 17,624 9,031 51.2 197,511 121,097 61.3
茨城県 31,251 13,511 43.2 1,590 1,111 69.8 32,841 14,622 44.5
千葉県 9,208 7,395 80.3 1,382 1,297 93.8 10,591 8,692 82.0
1,301,626 611,074 46.9 141,150 49,847 35.3 1,442,777 660,922 45.8
  うち東北3県 1,257,567 587,670 46.7 137,436 46,896 34.1 1,395,004 634,567 45.4
(96.6)
うち東北3県以外の県 44,058 23,403 53.1 3,713 2,951 79.4 47,772 26,354 55.1
(3.3)
(注)
表中の()書きは、沿岸6県の合計に対する割合である。

上記の沿岸6県の県・市町事業を事業数でみると、26年度末現在における基幹事業及び効果促進事業は、図表3-18のとおり、基幹事業1,920事業、効果促進事業535事業、計2,455事業となっていて、このうち全て完了した事業は、それぞれ441事業、246事業、計687事業であり、復興交付金事業計画に記載されている事業数に対する全て完了した事業数の割合(以下「事業完了率」という。)はそれぞれ22.9%、45.9%、27.9%と、いずれも50%を下回っていて、特に基幹事業の事業完了率が低くなっている。

事業区分別に完了状況をみると、基幹事業と効果促進事業を合わせた事業数は、「住宅等」が240事業と最も多くなっていて、次いで「市街地整備等」が195事業、「農業用施設等」が55事業となっている。また、事業完了率でみると、「試験研究施設等」が最も高い77.2%となっている一方、「住宅入居支援等」等4事業区分が10%程度又はそれ以下となっていて、事業区分により差が見受けられる。

基幹事業、効果促進事業別の事業完了率をみると、基幹事業のうち「住宅入居支援等」は完了事業がないが、これは災害公営住宅の家賃を低廉化する事業のように長期にわたり継続して実施する事業が含まれていることなどによるものである。また、前記のとおり効果促進事業は基幹事業と比較して事業完了率が高く、事業区分別にみても基幹事業の事業完了率を上回って50%以上となっているものが多数を占めている。これは、効果促進事業は災害公営住宅駐車場整備事業のように基幹事業と比べて小規模かつ短期で完了する事業が多いことによると考えられる。一方、「漁業用施設等」「市街地整備等」及び「下水道等」については、それぞれの効果促進事業の事業完了率は35.5%から25.0%と他の事業区分と比較すると低くなっている。これは、「漁業用施設等」及び「市街地整備等」には一括配分に係る分が含まれていて、一括配分に係る事業は、基幹事業の進捗に伴い必要の都度使途を決めて実施していることから、全ての基幹事業が完了し計画期間が終了するまでは事業完了とならないなどのためと考えられる。

沿岸6県の県・市町事業の中には、26年度末までに事業実施を中止し又は廃止した事業及び26年度末までに事業に着手していない事業が、基幹事業と効果促進事業を合わせて148事業ある。事業区分別にみると、「住宅等」が51事業と最も多く、次いで「市街地整備等」が29事業となっていて、両事業で全体の過半を占めている。

事業実施を中止し又は廃止した理由について、事業主体は、「住宅等」に係る災害公営住宅整備事業等において、早急に住宅を整備すべく復興交付金事業計画に記載し整備予定地の用地取得に向けて地権者と交渉を行ったが、結果的に用地取得契約に至らなかったことで他の地区で整備することを新たに計画したこと、「市街地整備等」に係る都市再生区画整理事業(被災市街地復興土地区画整理事業等)において、当該地区における土地利用計画が定まらなかったことなどによるとしている。

図表3-18 沿岸6県における復興交付金事業の事業区分別完了等の状況(平成26年度末現在)

(単位:事業、%)
事業区分 事業番号 基幹事業 効果促進事業 合計
完了 実施中 中止、廃止又は未着手 事業完了率 完了 実施中 中止、廃止又は未着手 事業完了率 完了 実施中 中止、廃止又は未着手 事業完了率
A     B A/B C     D C/D E     F E/F
文教施設等 A-1~3 24 24 1 49 48.9 11 6 4 21 52.3 35 30 5 70 50.0
埋蔵文化財発掘調査 A-4 9 33 3 45 20.0 7 2 - 9 77.7 16 35 3 54 29.6
医療・介護・子育て支援施設等 B-1~3 2 5 - 7 28.5 1 1 - 2 50.0 3 6 - 9 33.3
農業用施設等 C-1~4 39 54 6 99 39.3 16 8 5 29 55.1 55 62 11 128 42.9
漁業用施設等 C-5~7 30 191 10 231 12.9 13 32 5 50 26.0 43 223 15 281 15.3
試験研究施設等 C-8、9 15 5 - 20 75.0 2 - - 2 100.0 17 5 - 22 77.2
道路 D-1~3 25 285 12 322 7.7 15 8 6 29 51.7 40 293 18 351 11.3
住宅等 D-4、7~10、14、23 137 458 29 624 21.9 103 69 22 194 53.0 240 527 51 818 29.3
市街地整備等 D-11、12、15~17、20 137 136 15 288 47.5 58 91 14 163 35.5 195 227 29 451 43.2
液状化対策 D-18、19 7 8 - 15 46.6 5 1 - 6 83.3 12 9 - 21 57.1
下水道等 D-21、E-1 11 79 6 96 11.4 4 10 2 16 25.0 15 89 8 112 13.3
公園 D-22 5 40 3 48 10.4 10 2 1 13 76.9 15 42 4 61 24.5
住宅入居支援等 D-5、6、13 - 72 4 76 - 1 - - 1 100.0 1 72 4 77 1.2
441 1,390 89 1,920 22.9 246 230 59 535 45.9 687 1,620 148 2,455 27.9

26年度末において実施中である基幹事業及び効果促進事業計1,620事業には、当初から復興交付金事業計画に27年度以降に完了予定としている事業もあるが、当初計画どおりに完了せずに事業期間が26年度末を超えて延長されたものもある。

そこで、復興交付金事業の事業期間の延長の状況を分析するに当たり、被災した地域の復興地域づくりに不可欠な施設等を整備する事業であり、復興交付金事業の進捗状況を最も反映すると考えられる基幹事業について、26年度末現在実施中の基幹事業1,390事業のうち当初の復興交付金事業計画において事業完了時期を26年度末以前としていた511事業を対象に事業の完了予定時期の状況をみると、図表3-19のとおり、30年度までに全ての事業が完了予定とされていて、集中復興期間の終期である27年度末までに完了予定の基幹事業は371事業となっている。また、復興・創生期間となる28年度以降に完了予定の基幹事業は140事業と27.3%を占めていて、事業区分別にみると、「住宅等」が78事業と最も多く、次いで「道路」が30事業、「漁業用施設等」が24事業となっていて、各事業区分の事業数に対する割合は、「道路」が35.7%、「住宅等」が31.9%と3割程度を占め、「漁港用施設等」が27.5%となっている。

図表3-19 沿岸6県における復興交付金事業の事業区分別完了予定時期の状況(平成26年度末現在)

(単位:事業、%)
事業区分 事業番号 当初の事業完了時期を平成26年度末以前としていた事業の完了予定時期
基幹事業
27年度 28年度 29年度 30年度  
うち28年度以降の計 28年度以降の占める割合
        A B B/A
文教施設等 A-1~3 5 - - - 5 - -
埋蔵文化財発掘調査 A-4 3 - - - 3 - -
医療・介護・子育て支援施設等 B-1~3 3 - - - 3 - -
農業用施設等 C-1~4 16 - - - 16 - -
漁業用施設等 C-5~7 63 11 13 - 87 24 27.5
試験研究施設等 C-8、9 3 - - - 3 - -
道路 D-1~3 54 19 11 - 84 30 35.7
住宅等 D-4、7~10、14、23 166 60 15 3 244 78 31.9
市街地整備等 D-11、12、15~17、20 36 3 1 - 40 4 10.0
液状化対策 D-18、19 1 - - - 1 - -
下水道等 D-21、E-1 4 1 - - 5 1 20.0
公園 D-22 13 - - - 13 - -
住宅入居支援等 D-5、6、13 4 2 1 - 7 3 42.8
371 96 41 3 511 140 27.3

また、上記の基幹事業511事業における事業期間の延長の程度をみると、図表3-20のとおり、1年以上延長されている事業は371事業と72.6%を占めていて、最も長く延長されている事業の延長期間は5年となっている。

事業区分別にみると、13事業区分のうち「住宅等」等11事業区分では、それぞれにおいて1年以上延長されている事業数が各事業数の半数を超えていて、そのうち「住宅等」「漁業用施設等」「道路」及び「市街地整備等」について特に延長されている事業数が多くなっている。

このように、特に「住宅等」等4事業区分で当初の復興交付金事業計画における事業期間が延長されている理由について、事業主体は、「住宅等」については、防集事業において、事業実施に当たり工事計画を複数回見直して住民との合意形成に至るなどしたことにより時間を要したこと、「漁業用施設等」については、漁港施設機能強化事業において、水門、護岸等の整備事業や漁港施設の災害復旧事業等のように当該事業と関連する事業の進捗に遅延が生じたこと、「道路」については、道路事業において、必要な用地を取得するための地権者の所在把握や交渉等に時間を要したこと、「市街地整備等」については、工事費の高騰による計画の見直しに時間を要したことなどによるとしている。

図表3-20 沿岸6県における復興交付金事業の事業区分別事業期間の延長の状況(平成26年度末現在)

(単位:事業、%)
事業区分 事業番号 事業期間の延長の程度
1年未満 1年以上
2年未満
2年以上
3年未満
3年以上
4年未満
4年以上
5年未満
5年
A
 
うち1年以上の期間
B
1年以上の期間の占める割合
B/A
文教施設等 A-1~3 2 3 - - - - 5 3 60.0
埋蔵文化財発掘調査 A-4 - - 1 2 - - 3 3 100.0
医療・介護・子育て支援施設等 B-1~3 3 - - - - - 3 - -
農業用施設等 C-1~4 5 4 6 1 - - 16 11 68.7
漁業用施設等 C-5~7 22 28 21 15 - 1 87 65 74.7
試験研究施設等 C-8、9 2 1 - - - - 3 1 33.3
道路 D-1~3 22 32 15 8 2 5 84 62 73.8
住宅等 D-4、7~10、14、23 74 76 55 28 10 1 244 170 69.6
市街地整備等 D-11、12、15~17、20 9 20 7 3 - 1 40 31 77.5
液状化対策 D-18、19 - 1 - - - - 1 1 100.0
下水道等 D-21、E-1 1 3 1 - - - 5 4 80.0
公園 D-22 - 12 1 - - - 13 13 100.0
住宅入居支援等 D-5、6、13 - 1 3 2 1 - 7 7 100.0
140 181 110 59 13 8 511 371 72.6

これらの状況に対して、事業主体では、住民との意見交換の頻度を高めて合意形成を図ったり、工事の進捗に関する協議会を設立して情報共有を図ったりするなどの措置を講じている。また、国は復興まちづくりの加速化のために、用地取得に際して①民法(明治29年法律第89号)第25条等の規定に基づき、財産を有している者が所在不明となっている場合に利害関係人等の請求により、家庭裁判所が管理人の選任やその財産の管理について必要な処分を命ずることができる制度である財産管理制度の活用、②補償コンサルタント等への外注促進を行い、発注や施工に際して③公共工事設計労務単価の引上げ等による建築技術者の確保、④資材供給体制の強化を行うなどの措置を講じている。

(ウ)復興関連基金事業の実施状況

a 県別、事業区分別の実施状況

沿岸6県及び管内市町村における基金団体は6県及び3市町(注9)であり、これらが実施する復興関連基金事業に係る23年度から26年度までの4か年度の国庫補助金等交付額は、23基金74事業に対して計2兆2482億余円となっていて、このうち、既存の基金事業等と復興関連基金事業とを区分して経理していないため基金事業執行率を把握できない4基金4事業を除く20基金70事業の国庫補助金等交付額等の状況は、国庫補助金等交付額が計2兆1664億余円、26年度末までの取崩額が1兆3348億余円、基金事業執行率が61.6%となっている(別図表6参照)。

県別(以下、3市町分もそれぞれの県に含めて分析している。)に示すと、図表3-21のとおり、福島県が1兆7156億余円と76.3%を占めている。原子力災害に関連した福島県民健康管理基金等5基金は、福島県及び管内2町のみに設置造成等されており、これらの基金による27事業に係る国庫補助金等交付額は計1兆4829億余円と、上記福島県への交付額の86.4%を占めている。

(注9)
3市町  仙台市、双葉郡大熊、双葉両町

図表3-21 74事業の県別の国庫補助金等交付額(平成23年度~26年度)

図表3-21 74事業の県別の国庫補助金等交付額(平成23年度~26年度) 画像

また、沿岸6県における70事業の県別の国庫補助金等交付額、取崩額及び基金事業執行率は、図表3-22のとおり、国庫補助金等交付額は県によって大幅な差が生じているが、基金事業執行率の各県の差は最大でも16ポイント程度と比較的小さくなっている。

図表3-22 70事業の県別の国庫補助金等交付額、取崩額及び基金事業執行率(平成26年度末現在)

(単位:百万円、%)
県名 国庫補助金等交付額 取崩額 基金事業執行率
A B B/A
青森県 20,916 15,363 73.4
岩手県 161,316 97,240 60.2
宮城県 301,779 206,917 68.5
福島県 1,636,736 980,701 59.9
茨城県 37,389 28,531 76.3
千葉県 8,330 6,104 73.2
2,166,469 1,334,858 61.6

沿岸6県において実施している復興関連基金事業はその事業内容から区分すると、「被災者の生活環境の確保」「保健・医療・福祉」「雇用の維持・確保」「教育」「企業立地」「農林水産業」「防災・復旧事業等」「災害廃棄物の処理」「原子力災害等への対応」の9事業区分に分類することができる。

そこで、沿岸6県における復興関連基金事業について事業区分別にみると、図表3-23のとおり、「原子力災害等への対応」が24事業、国庫補助金等交付額計1兆1702億余円となっていて、復興関連基金事業全体のそれぞれ34.2%、54.0%を占めている。また、24年度から26年度までの年度別・事業区分別に取崩額の状況をみると、各年度とも「原子力災害等への対応」が最も多額となっている。そして、「原子力災害等への対応」は26年度末現在で終了した事業はなく、終了年度が定められていない事業も24事業中13事業を占めている。

図表3-23-1 沿岸6県における復興関連基金事業の事業区分別の実施状況(平成26年度末現在)

(単位:事業、百万円、%)
事業区分 復興関連基金事業数 国庫補助金等交付額 平成26年度末までの取崩額 基金事業執行率
  全体に占める割合 A 全体に占める割合 B B/A
被災者の生活環境の確保 1 1.4 2,152 0.0 2,152 100.0
保健・医療・福祉 16 22.8 157,134 7.2 64,132 40.8
雇用の維持・確保 5 7.1 369,900 17.0 252,639 68.2
教育 8 11.4 43,942 2.0 35,220 80.1
企業立地 2 2.8 210,224 9.7 96,074 45.7
農林水産業 4 5.7 39,753 1.8 18,939 47.6
防災・復旧事業等 8 11.4 75,153 3.4 37,572 49.9
災害廃棄物の処理 2 2.8 97,918 4.5 87,307 89.1
原子力災害等への対応 24 34.2 1,170,289 54.0 740,821 63.3
70 100.0 2,166,469 100.0 1,334,858 61.6

図表3-23-2 沿岸6県における復興関連基金事業の年度別・事業区分別の取崩額の状況

図表3-23-2 沿岸6県における復興関連基金事業の年度別・事業区分別の取崩額の状況 画像

事業区分別に県別の状況を示すと、図表3-24のとおりである。

 「保健・医療・福祉」は、基金事業執行率が40.8%にとどまっているが、これは、「保健・医療・福祉」の国庫補助金等交付額計1571億余円のうち72.7%を占めている地域医療再生基金(厚生労働省、国庫補助金等交付額計1143億余円、基金事業執行率29.3%)の事業において、土地の造成工事の遅れやまちづくりの進捗との関係等により医療機関の再建等の施設整備事業の実施に時間を要していることなどによる。また、青森県は、介護基盤緊急整備等臨時特例基金(厚生労働省)等を設置造成等したものの需要がなかったことから事業を実施しなかったため、基金の取崩しを行っておらず、全額返納するなどしている。

 「雇用の維持・確保」は、24年度から26年度までほぼ同規模の取崩しとなっていて26年度末の基金事業執行率は68.2%であるが、土地のかさ上げに時間を要するなど、企業の施設整備等を含め、本格的な雇用の復興にはなお時間を要することなどから、27年度に岩手、宮城、福島各県において新たに計229億円の基金への積増しを行うとともに、事業の実施期間を延長している。

 「教育」は、幼稚園・小・中・高校等の児童生徒等に対する学用品費等の援助や、奨学金、授業料減免等の支援を行ったり、幼稚園、小・中・高校、専修学校・各種学校等において安心して学ぶことができる教育環境の整備等を図る取組を支援したりするもので、県別の取崩額は、被災した児童生徒等の人数や、県、市町村、学校等の事業内容、支援の状況等により差がみられ、基金事業執行率は、震災被害の大きな宮城県で92.9%と高く、逆に、千葉県で39.8%と低くなっている。

 「企業立地」は、地元住民を新規に雇用して、福島県内に工場等を新設し又は増設する場合に補助するふくしま産業復興企業立地支援事業(経済産業省)及び地域経済産業復興立地推進事業(経済産業省)である。事業は29年度まで実施できることとされ、順次公募が行われている状況であるため、取崩額は25年度以降大幅に増加して基金事業執行率は26年度末現在で45.7%の進捗となっているが、工場等の設置は複数年掛かることから、29年度まで取崩しが続く予定である。

 「農林水産業」は、6県に設置造成等されている森林整備加速化・林業再生事業(農林水産省)、福島県のみに設置造成等されている福島県営農再開支援事業(農林水産省)等3事業の計4事業であり、基金事業執行率は47.6%となっている。これは福島県営農再開支援事業(基金事業執行率25.6%)において、環境省の除染実施計画の終了時期が、当初計画の25年度から3年間延長されるなど農地の除染が遅れていて、営農再開が進んでいない状況にあることなどによる。基金事業執行率が他県より低い千葉県においては、森林整備加速化・林業再生事業で、施業地の集約化が難航し事業を取りやめたことなどから、基金事業執行率は26年度末現在で19.8%にとどまっている。

 「防災・復旧事業等」は、防災拠点に再生可能エネルギー等を導入する事業(環境省)や医療施設等の耐震化を実施する事業(厚生労働省)等であり、基金事業執行率は49.9%となっている。当該事業には、復興交付金事業等により実施する造成工事等の進捗等に伴い、事業が実施されるものも含まれており、造成工事等の遅れ、人件費や資材単価の高騰等による入札不調、人員不足等により、計画より遅れている事業が多く見受けられるが、図表3-23-2で示すように、徐々に取崩額が増加傾向にある。各県の基金事業執行率は、国庫補助金等交付額計751億余円のうちの89.7%を占めている再生可能エネルギー等導入推進事業(環境省、同交付額計674億余円)の実施状況によるところが大きい。

 「災害廃棄物の処理」は、災害等廃棄物処理基金事業(環境省)であり、事業の対象となった127市町村のうち、25年度末までに119市町村が、26年度末までに更に6市町村が処理を完了し、これにより基金事業執行率は89.1%と高くなっていて、図表3-23-2で示すように、26年度の取崩額は少なくなっている。福島県では2市町が事業を継続中のため同県の基金事業執行率は63.8%となっているが、他の5県では25年度までに事業が完了していて、残余額は既に国庫に返納済みである。

 「原子力災害等への対応」は、岩手、宮城、福島、茨城各県で実施されている放射性物質の測定に必要な体制整備等を行う消費者行政活性化事業(内閣府(消費者庁))のほかは、福島県のみに設置造成等されている福島県民健康管理基金等4基金による21事業(国庫補助金等交付額計1兆1684億余円)であり、福島県における実施がほとんどである。そして、福島県の基金事業執行率は63.2%となっている。

図表3-24 9事業区分・県別の国庫補助金等交付額、取崩額及び基金事業執行率(平成26年度末現在)

(単位:百万円、%)
県名 被災者の生活環境の確保 保健・医療・福祉 雇用の維持・確保
国庫補助金等交付額 取崩額 基金事業執行率 国庫補助金等交付額 取崩額 基金事業執行率 国庫補助金等交付額 取崩額 基金事業執行率
A B B/A A B B/A A B B/A
青森県 - - - 272 - - 8,510 7,818 91.8
岩手県 480 480 100.0 37,316 12,910 34.5 77,950 52,238 67.0
宮城県 1,295 1,295 100.0 69,417 28,390 40.8 124,200 88,795 71.4
福島県 340 340 100.0 46,457 20,648 44.4 131,840 83,413 63.2
茨城県 - - - 2,792 1,669 59.7 21,870 15,969 73.0
千葉県 36 36 100.0 877 512 58.4 5,530 4,403 79.6
2,152 2,152 100.0 157,134 64,132 40.8 369,900 252,639 68.2
(単位:百万円、%)
県名 教育 企業立地 農林水産業
国庫補助金等交付額 取崩額 基金事業執行率 国庫補助金等交付額 取崩額 基金事業執行率 国庫補助金等交付額 取崩額 基金事業執行率
A B B/A A B B/A A B B/A
青森県 160 101 63.3 - - - 2,300 2,296 99.8
岩手県 6,119 2,671 43.6 - - - 4,300 3,775 87.7
宮城県 24,445 22,716 92.9 - - - 2,050 1,482 72.3
福島県 12,412 9,397 75.7 210,224 96,074 45.7 29,688 10,358 34.8
茨城県 246 111 45.1 - - - 950 933 98.2
千葉県 557 222 39.8 - - - 465 92 19.8
43,942 35,220 80.1 210,224 96,074 45.7 39,753 18,939 47.6
(単位:百万円、%)
県名 防災・復旧事業等 災害廃棄物の処理 原子力災害等への対応
国庫補助金等交付額 取崩額 基金事業執行率 国庫補助金等交付額 取崩額 基金事業執行率 国庫補助金等交付額 取崩額 基金事業執行率
A B B/A A B B/A A B B/A
青森県 8,712 4,185 48.0 961 961 100.0 - - -
岩手県 15,008 5,310 35.3 20,004 19,744 98.7 137 109 79.1
宮城県 22,255 10,573 47.5 57,958 53,514 92.3 158 147 93.4
福島県 19,636 9,648 49.1 16,280 10,387 63.8 1,169,856 740,431 63.2
茨城県 9,135 7,474 81.8 2,256 2,241 99.3 137 132 96.4
千葉県 407 380 93.3 457 457 100.0 - - -
75,153 37,572 49.9 97,918 87,307 89.1 1,170,289 740,821 63.3

b 終了年度別及び延長期間別の実施状況

復興関連基金事業は、終了年度を定めて実施しているものが大半となっていて、事業の中には進捗等に応じて、対象地域を限定して終了年度を延長しているものもある。

そこで、前記の70事業について、終了年度別の国庫補助金等交付額等をみると、図表3-25のとおり、27年度を終了年度とする事業に対する国庫補助金等交付額が最も多く、その額は18事業に係る4570億余円となっている。また、24年度から26年度までを事業の申込みの終了年度とするものをみると、事業の申込みの受付は終了しているが既に採択された事業に対して将来的に支払う予定の額及び27年度に国庫に返納する額を、26年度末の基金残額として保有している。このうち、24年度を終了年度とする事業は、被災者の心のケア事業(厚生労働省、基金事業執行率50.6%)、被災地障害福祉サービス基盤整備事業(厚生労働省、基金事業執行率55.4%)等3事業であり、人件費や事業実績が見込みを下回ったことなどから基金事業執行率が53.9%となっているが、余剰金は既に国庫に返納されており保有している国庫補助金等相当額は少ない状況である。

そして、終了年度が28年度以降とされている13事業のうちの8事業及び終了年度未定の14事業のうちの13事業、計21事業は「原子力災害等への対応」である。また、終了年度が56年度の事業は、福島原子力災害復興交付金(復興庁)及び中間貯蔵施設整備等影響緩和交付金(環境省)であり、中間貯蔵開始後30年以内において大臣が定める日までの期間において事業を実施するものとされている。

図表3-25 沿岸6県における復興関連基金事業の終了年度別の実施状況(平成26年度末現在)

(単位:事業、百万円、%)
終了年度
(平成27年度以降は予定)
復興関連基金事業数 国庫補助金等交付額 26年度末までの取崩額(国庫返納額分を除く。) 基金事業執行率 26年度末までの国庫返納額(国庫補助金等相当額) 26年度末に保有している国庫補助金等相当額
    A B B/A C A-B-C
24年度
3 4,488 2,419 53.9 2,054 14
25年度
4 73,914 71,224 96.3 337 2,352
26年度
18 236,434 207,378 87.7 107 28,948
27年度以降
31 1,197,307 557,005 46.5 4,044 636,258
  27年度 18 457,018 301,456 65.9 185 155,376
28年度 4 399,609 229,990 57.5 - 169,619
29年度 5 77,188 21,404 27.7 3,859 51,925
31年度 1 13,390 4,141 30.9 - 9,249
32年度 1 100 11 11.6 - 88
56年度 2 250,000 - - - 250,000
終了年度未定 14 654,324 496,831 75.9 - 157,493
70 2,166,469 1,334,858 61.6 6,543 825,066
(注)
県ごとに終了年度が異なっている事業があり、「26年度末までの国庫返納額(国庫補助金等相当額)」欄について、終了年度が平成27年度の185百万円及び29年度の3,859百万円は、既に事業が終了した県における国庫返納額である。

復興関連基金事業については、一般に、資金需要を把握し難いことから基金を設置造成等して必要に応じて取り崩すことにより事業を実施しており、資金需要が高く基金残額が不足する場合には基金の積増しを行い、必要に応じて終了年度を延長している。図表3-26のとおり、前記の70事業の中には終了年度を延長したものが28事業あり、そのうち延長の際に基金に積増しを行っているものが10事業ある。そして、積増しを行っていない18事業の基金事業執行率は50.4%であり、積増しを行った10事業の78.8%よりも約30ポイント低い状況となっている。

上記28事業の終了年度の延長状況をみると、延長期間が2年までのものが事業数及び国庫補助金等交付額のいずれにおいても大半を占めており、そのうち積増しを行っているものは計7事業で、これらに係る国庫補助金等交付額は計2812億余円である。

一方、積増しを行わないまま4年以上終了年度を延長しているものは、森林整備加速化・林業再生事業(農林水産省)及び災害等廃棄物処理基金事業(環境省)の2事業で、これらに係る国庫補助金等交付額は計442億余円である。森林整備加速化・林業再生事業は、復興住宅等への木材需要に対応するために、間伐、路網整備、高性能林業機械の導入、製材・合板工場の整備等を行うもので、当初の終了年度は26年度であったが、27年度以降は終了年度の定めがなくなっている。この理由について、農林水産省は、被災県においては民間住宅等用の宅地や災害公営住宅の整備が途上段階であり、27年度以降も引き続き復興に必要な木材の需要が見込まれることなどが挙げられるとしている。また、災害等廃棄物処理基金事業は、東日本大震災により発生した災害廃棄物を処理するもので、当初の終了年度は25年度であったが、29年度まで延長されている。この理由について、環境省は、一部の地域において処理が完了していないことが挙げられるとしている。

図表3-26 沿岸6県における復興関連基金事業の終了年度延長期間別の実施状況

(単位:事業、百万円、%)
終了年度の延長期間(平成26年度末現在) 復興関連基金事業数 国庫補助金等交付額 26年度末までの取崩額(国庫返納額分を除く。) 基金事業執行率 26年度末までの国庫返納額(国庫補助金等相当額) 26年度末に保有している国庫補助金等相当額
  積増しの有無   A B B/A C A-B-C
1年 11 259,382 138,930 53.5 337 120,114
  3 152,603 99,558 65.2 - 53,044
8 106,779 39,372 36.8 337 67,070
2年 12 149,081 139,647 93.6 107 9,326
  4 128,623 122,500 95.2 - 6,123
8 20,457 17,147 83.8 107 3,203
3年 2 11,682 7,763 66.4 67 3,851
  2 11,682 7,763 66.4 67 3,851
- - - - - -
4年以上 3 50,801 36,347 71.5 3,976 10,477
  1 6,540 6,282 96.0 117 140
2 44,261 30,065 67.9 3,859 10,336
28 470,948 322,689 68.5 4,488 143,770
  10 299,449 236,104 78.8 185 63,159
18 171,499 86,584 50.4 4,303 80,610
(注)
当初の終了年度は平成26年度であったが、終了年度の定めをなくした森林整備加速化・林業再生事業は、「4年以上」に分類している。
カ まとめ

国は、復興基本方針等を踏まえて、特定被災自治体が実施する復興への取組に対して、多様な方法により多額の財政支援を行っている。

国からの国庫補助金等の交付により事業を実施しているものの中で、復興交付金の基金型事業については、23年度から26年度までの4か年度の実施計画分に係る交付額は計2兆0412億余円、基金事業執行率は48.5%、取崩未済額は1兆0509億余円となっている。取崩未済額が多い原因として、運営要領において、復興交付金事業が全て終了したときに、基金の残余額を国庫に返還することとなっていて、復興交付金事業のうち一部の事業が終了して残余額が生じたとしても引き続き基金での保有を続けていることなどが挙げられる。基金型事業のうち、効果促進事業(一括配分)については、24年度から26年度までの3か年度の実施計画分に係る交付額計1448億余円のうち549億余円(37.9%)の復興交付金の事業内容が未定であり、そのうち約7割については交付された後2年以上にわたり、事業内容が未定のままとなっており、一方、事業内容が決定しているものはそのほとんどが基幹事業に伴って実施するものとなっていた。復興交付金の基金の取崩未済額については第13回復興推進会議において復興交付金事業計画の終了前でも必要のなくなった金額の返還を進めることが必要との決定がなされており、復興庁においても使用見込みのない復興交付金の返還が従来よりも促進されるような対応を図ったところであるが、効果促進事業(一括配分)については、将来新たな事業の実施が想定されるとの理由から除外されているところである。国は、各特定被災自治体に対して効果促進事業(一括配分)の効果的な活用に向けた支援を行っていくとともに、今後の効果促進事業(一括配分)の機動的な事業の実施についても十分に配慮しつつ、各特定被災自治体における事業内容の決定状況等を踏まえた復興交付金の交付時期や規模等について検討を行っていく必要がある。

復興関連基金事業については、112事業に係る26年度末までの国庫補助金等交付額は計3兆8167億余円、基金事業執行率は51.5%となっている。復興関連基金事業の終了後の残余額の返納状況についてみると、27年度(27年8月末現在)までに計2731億余円の基金残額が国庫に返納されていた。復興関連基金事業の基金残額については、その規模が適切か検証し、復旧・復興事業への使用が見込めなくなった場合、残余額等については速やかに国庫へ返納することが求められる。

また、沿岸6県における国の財政支援の額が大きい類型は、補助事業等、復興交付金事業及び復興関連基金事業となっている。

上記のうち補助事業等については、漁業施設や水産業共同利用施設の復旧等を行う「漁業」は交付額が多額なものの地元や他事業との調整等の影響により事業が遅延するなどして交付率は50.7%、補助事業執行率は69.7%となっていて、公共施設等の復旧等に関する事業のうち、「河川等」「社会資本整備」及び「港湾」は、設計変更等の要因により、交付率は59.8%から63.0%、補助事業執行率は62.7%から73.7%となっている。

復興交付金事業については、当初計画において26年度末以前に完了する予定であった基幹事業511事業のうち集中復興期間終了後の28年度以降に完了予定の事業は27.3%を占めている。事業期間が1年以上延長されている事業は72.6%を占めていて、事業区分別にみると「住宅等」「漁業用施設等」「道路」及び「市街地整備等」について特に延長されている事業数が多くなっている。事業期間が延長されている理由について、事業主体は「住宅等」については住民との合意形成に、「道路」については用地取得に伴う地権者の所在把握や交渉等にそれぞれ時間を要したこと、また、「漁業用施設等」については関連する事業の進捗に遅滞が生じたこと、「市街地整備等」については工事費の高騰による計画の見直しに時間を要したことなどによるとしている。

復興関連基金事業については、「保健・医療・福祉」「農林水産業」及び「防災・復旧事業等」は復興交付金事業等により実施する造成工事、除染等の他事業の進捗等により影響を受けている事業区分であり、基金事業執行率は40.8%から49.9%となっている。また、国庫補助金等交付額が復興関連基金事業全体の54.0%を占めている「原子力災害等への対応」は、福島県における実施がほとんどであり、終了年度が28年度以降とされている13事業のうちの8事業及び終了年度未定の14事業のうちの13事業を占めている。

上記の状況を踏まえて、沿岸6県における補助事業等、復興交付金事業及び復興関連基金事業の実施に当たり、特に被災地の復興に欠かせない公共施設等の整備については、他事業との調整や地元調整等の解決しなければならない問題は多いが、国は、引き続きその着実な執行に向けた支援を行っていく必要がある。このうち、復興交付金事業で実施した「住宅等」「漁業用施設等」「道路」等においては、住民等との合意形成や関連する他事業との調整、用地交渉等に時間を要するなどして、多くの事業で事業期間を延長するなどしているところである。今後、特に関係者が多く、複数の事業を同時期に発注する場合には、事業期間の設定等に当たり地元住民等の生活再建の見通しなどに与える影響にも十分配慮し、これまでの実績を十分に反映した的確なものとなるようにする必要がある。

また、復興関連基金事業については、特に福島県内における「原子力災害等への対応」は終了年度を未定としている事業が多く、事業の今後の見通しが立てにくい中で今後更に執行が継続していくことが見込まれるが、国は、事業の進捗状況や基金残額の状況等について適切に把握するなどして、各都道府県等と十分連携して、適切な基金の執行管理を行うよう努める必要がある。

(3)復旧・復興事業の成果の状況

 「(2)国から財政支援等を受けて地方公共団体等が実施する復旧・復興事業の状況」においては、復興交付金事業等で実施している公共施設等の復旧等の事業完了時期が延長されている状況等について分析した。これらは、補助事業等、復興交付金事業等について、全ての施設等の整備が完了する事業の完了時期を基にそれぞれの事業区分ごとの傾向を分析したものであるが、それぞれの事業区分においては、さまざまな施設等を整備しており、例えば復興交付金事業で整備された住宅等が実際にどの程度完成し、供給等されているかを表しているものではない。

そこで、主に沿岸6県及び管内33市町(注10)において実施された事業を対象として、補助事業等、復興交付金事業等により整備された公共施設等はどの程度完成しているかなど、成果の状況を検査した。検査に当たっては、防潮堤等の公共施設等の整備状況について、「津波防災等の社会基盤」「交通網等の社会基盤」「復興まちづくり」及び「農水産業」の4分類と23の施策項目(注11)に区分して分析した。区分した施策項目については、公共土木施設災害復旧事業費国庫負担法(昭和26年法律第97号)等に基づく災害復旧事業に係る計画や復興交付金事業計画等における整備計画施設等数(以下「計画施設数」という。)、26年度末現在、完成している施設等数(以下「完成施設数」という。)、計画施設数に係る事業費(以下「計画事業費」という。)、同年度末までに投じられた事業費(以下「支出済事業費」という。)及び完成施設数に係る事業費(以下「完成分事業費」という。)を把握した。そして、計画施設数に対する完成施設数の割合(以下「完成率」という。)、計画事業費に対する支出済事業費の割合(以下「事業費進捗率」という。)等の指標を用いて計画に対する達成状況等を分析した。

また、各公共施設等の整備等は、復興基本方針に基づき、災害に強い地域づくり、地域における暮らしの再生、地域経済活動の再生等の復興施策の下に実施されているものであることから、それぞれの施策項目の目的に応じて選択した指標等に基づき、施策の達成に関する概括的な状況分析を行った。この状況分析については、公共施設等の復旧・復興に伴う施策以外で、復興基本方針において地域経済活動の再生として多額の復旧・復興予算が措置されている産業復興に関する企業立地や事業者等への資金繰り支援等についても実施した。

特に東日本大震災では、津波による人的被害、建物被害等が甚大であり、復興基本方針においても津波防災に関する施策として、人命が失われないことを最重視し、ハード・ソフトの施策を組み合わせた「多重防御」による「津波防災まちづくり」を推進するとされていることを踏まえて、海岸法(昭和31年法律第101号)等に基づき、津波、高潮、波浪その他海水又は地盤の変動による被害から海岸を防護するなどのために整備される堤防、突堤、護岸、胸壁等の施設(以下、これらを合わせて「海岸保全施設」という。)のうち、特に津波等の災害を防止するために設置される堤体、水門、護岸等の施設(以下「防潮堤」という。)はどのように計画され、どの程度完成しているか、防潮堤の高さなどはどのようにして決められているかを検査した。また、防潮堤等整備のハード施策とともに「多重防御」の視点から重要な柱である避難計画やハザードマップの作成、津波災害時に住民の避難先になるとともに、被災者が応急仮設住宅等に移転できるまでの間等に滞在する避難所、津波災害時に緊急に避難する津波避難ビル等の指定等のソフト施策の実施状況等についても検査した。

(注10)
管内33市町  青森県の八戸、三沢両市、上北郡おいらせ、三戸郡階上両町、岩手県の宮古、大船渡、釜石各市、上閉伊郡大槌、下閉伊郡山田両町、宮城県の仙台、石巻、塩竃、気仙沼各市、宮城郡松島、七ヶ浜、利府、牡鹿郡女川、本吉郡南三陸各町、福島県のいわき、相馬両市、双葉郡広野、相馬郡新地両町、茨城県の高萩、北茨城、鹿嶋、神栖各市、東茨城郡大洗町、千葉県の千葉、旭、習志野、浦安、匝瑳、山武各市
(注11)
23の施策項目  海岸(防潮堤とその他の2項目)、河川、海岸防災林、液状化対策及び地盤沈下対策、交通網(道路、港湾、鉄道、空港の4項目)、上水道、下水道、住まいの再建(漁業集落防災機能強化事業、災害公営住宅、都市再生区画整理事業、防災集団移転促進事業、公営住宅等、造成宅地の滑動崩落防止の6項目)、医療・福祉施設、文教施設、農地、農業用施設、漁港施設及び水産業共同利用施設、養殖施設
ア 復旧・復興事業の成果の概況

沿岸6県及び管内33市町における23の施策項目の計画事業費は、図表4-1のとおり、26年度末現在、計6兆6259億余円であり、これに対する完成分事業費は計1兆6743億余円(うち国庫補助金等計1兆1460億余円)となっている。

完成率をみると、100%は「鉄道」及び「空港」の2区分であり、80%以上が「河川」「公営住宅等」「医療・福祉施設」「文教施設」「農業用施設」及び「養殖施設」の6区分、20%以下が「海岸(防潮堤)」(防潮堤の新設、改修等を計画し又は実施している海岸。以下同じ。)「海岸防災林」「液状化対策及び地盤沈下対策」「上水道」「漁業集落防災機能強化事業」及び「都市再生区画整理事業」の6区分である。また、計画事業費をみると、1兆円を超える規模が「海岸(防潮堤)」及び「道路」の2区分、5000億円以上1兆円未満の規模が「漁港施設及び水産業共同利用施設」「河川」及び「災害公営住宅」の3区分である。

完成率と事業費進捗率からみると、「河川」「医療・福祉施設」及び「文教施設」については、完成率はそれぞれ83.2%、95.3%、93.8%、事業費進捗率はそれぞれ22.4%、42.0%、45.3%となっていて、いずれも完成率が高いにもかかわらず、事業費進捗率が低くなっている。これらは、比較的軽微な被害の施設等の完成施設数は多いものの、改修、新設、移転等に複数年を要して多額の事業費を必要とする施設等が完成していないことによるものである。

海岸については、「海岸(防潮堤)」と「海岸(その他)」を合わせて、計画施設数652海岸のうち完成施設数が73海岸、完成率は11.1%となっており、「海岸(防潮堤)」と「海岸(その他)」の別に完成施設数、完成率及び事業費進捗率をみると、「海岸(防潮堤)」では整備が計画されている634海岸のうち完成施設数が60海岸、完成率9.4%、事業費進捗率17.8%、「海岸(その他)」では整備が計画されている18海岸のうち完成施設数が13海岸、完成率72.2%、事業費進捗率54.4%となっている。

また、交通網については、道路、港湾等が住民の生活と地域の産業経済を支えており、東日本大震災においては、道路が人的支援や物資輸送の緊急輸送道路として機能したほか、盛土構造や過去の津波被害を反映して高台に整備されたものは、津波からの避難場所や津波浸水の拡大防止として機能し、副次的に防災機能を発揮した。一方でこれらの機能の長期にわたる停滞は、被災者の暮らし、産業の再建等に大きな影響を与えることになる。そこで、「道路」「港湾」の完成施設数及び完成率をみると、「道路」については、計画施設数1,873kmのうち完成施設数が901km、完成率は48.1%、「港湾」については、計画施設数744施設のうち完成施設数が582施設、完成率は78.2%となっている。

図表4-1 23の施策項目別の復旧・復興事業の成果(平成26年度末現在)

(単位:施策項目ごとの単位、億円、%)
施策項目 施設等数 事業費
単位 計画施設数 完成施設数 完成率 計画事業費 支出済事業費 事業費進捗率 完成分事業費
国庫補助金等 その他
  A B B/A C D D/C      
津波防災等の社会基盤 海岸 海岸(防潮堤) 海岸 634 60 9.4 1兆3034 2325 17.8 87 7 95
海岸(その他) 海岸 18 13 72.2 47 25 54.4 11 0 11
  海岸 652 73 11.1 1兆3082 2351 17.9 98 7 106
河川 箇所 1,129 940 83.2 7090 1589 22.4 742 302 1045
海岸防災林 地区 61 8 13.1 1717 187 10.9 35 24 60
液状化対策及び地盤沈下対策 ha 1,846 17 0.9 655 65 9.9 25 5 31
交通網等の社会基盤 交通網 道路 km 1,873 901 48.1 1兆0414 2779 26.6 1232 665 1897
港湾 施設 744 582 78.2 1730 1056 61.0 873 123 997
鉄道 km 333 333 100.0 205 205 100.0 84 120 205
空港 空港 1 1 100.0 90 90 100.0 8 81 90
上水道 km 1,466 123 8.3 1303 312 23.9 225 84 310
下水道 km 677 218 32.2 3957 1607 40.6 909 637 1547
復興まちづくり 住まいの再建 漁業集落防災機能強化事業 338 34 10.0 114 50 44.4 6 2 8
災害公営住宅 18,580 6,363 34.2 5589 2113 37.8 1802 305 2107
都市再生区画整理事業 8,324 206 2.4 2519 607 24.1 254 99 353
防災集団移転促進事業 7,327 2,192 29.9 4249 2222 52.3 1010 454 1464
公営住宅等 16,483 16,434 99.7 82 76 92.1 55 20 76
造成宅地の滑動崩落防止 地区 160 114 71.2 338 228 67.5 171 57 228
医療・福祉施設 施設 1,612 1,537 95.3 650 273 42.0 147 125 272
文教施設 施設 2,073 1,946 93.8 2146 973 45.3 584 389 973
農水産業 農地 ha 23,061 12,405 53.7 2149 616 28.6 454 162 616
農業用施設 施設 6,987 6,453 92.3 902 640 71.0 469 137 606
漁港施設及び水産業共同利用施設 施設 3,458 1,970 56.9 7103 4246 59.7 2160 1430 3590
養殖施設 施設 35,949 35,439 98.5 167 153 91.4 108 44 153
6兆6259 2兆2450 33.8 1兆1460 5282 1兆6743
注(1)
上表は全ての復旧・復興事業を記載したものではない。
注(2)
各施策項目とも県、市町村が把握している事業分に限定しており、国の機関による事業(直轄事業)は計上していない。
注(3)
「海岸」については、会計実地検査を実施した33市町のほか28市町村に所在する海岸を対象として計上している。
注(4)
「海岸」以外の施策項目については、市町村が把握している事業分としては会計実地検査を実施した33市町分を計上している。
注(5)
「海岸(防潮堤)」については、防潮堤以外の海岸保全施設を防潮堤と合わせて整備しているものを含んでいる。
注(6)
「漁業集落防災機能強化事業」「都市再生区画整理事業」及び「防災集団移転促進事業」については、効果促進事業に係る事業費も含んでいる。
注(7)
「完成施設数」及び「完成分事業費」は、当該施設等について復旧事業から復興事業までの一連の事業が完了したものを計上している。
注(8)
施設等数の「単位」は、各施策項目に係る主なものとしている。
注(9)
各施策項目の表記単位以外のものに係る額についても計画事業費、支出済事業費及び完成分事業費に含めて計上している。
イ 津波対策に関する復旧・復興事業の成果
(ア)国の津波対策の取組の概要

a 東日本大震災前の津波対策に関する取組

国の災害対策は、災害対策基本法に基づき、内閣総理大臣を会長にして内閣府に設置された中央防災会議が作成する防災基本計画(昭和38年6月策定)を基礎としており、同計画に基づき、国の指定行政機関及び指定公共機関は防災業務計画を作成し、都道府県及び市町村は、それぞれ都道府県地域防災計画及び市町村地域防災計画(以下、これらを合わせて「地域防災計画」という。)を作成している。東日本大震災前の防災基本計画では、自然災害に関して震災、風水害、火山災害及び雪害の四つの災害に対する予防、応急、復旧、復興の各段階における対策が記述されている。

また、東日本大震災前からの津波対策としては、海岸法等に基づく海岸保全施設の整備等が行われてきている。さらに、5年7月の北海道南西沖地震による津波において200名を超える犠牲者が生じたことなどを受けて、国は、随時、津波対策の見直しを行っており、図表4-2のとおり、地方公共団体が地域防災計画における津波対策の強化を図るために必要となる基本的な考え方を示すとともに、津波発生時の避難計画の作成及び津波により浸水する範囲等に関する情報や地震発生時の円滑な避難を確保するために必要な事項を記載した印刷物(以下「津波ハザードマップ」という。)の作成に関するマニュアル、避難困難となる地域住民等の緊急避難先となる施設の指定等に関するマニュアル等を策定するなどの取組を行っている。

一方、東日本大震災前は、津波ハザードマップの配布等の住民に対する周知のための措置は、地震防災対策特別措置法(平成7年法律第111号)において都道府県及び市町村の努力義務として規定されており、また、防災基本計画において、津波対策は震災対策の特記事項の位置付けにとどまっていた。

図表4-2 東日本大震災前の国の津波対策に関する主な取組

策定年月 府省庁 手引等の名称 内容
平成10年3月 国土庁(13年1月6日以降は国土交通省、防災行政は内閣府)、農林水産省、運輸省(13年1月6日以降は国土交通省)、気象庁、建設省(13年1月6日以降は国土交通省)、消防庁 地域防災計画における津波対策強化の手引き
地方公共団体が地域防災計画における津波対策の強化を図るために必要となる基本的な考え方、基本方針及び策定手順(基礎調査、対象津波の設定、被害想定の評価、計画の策定)等を示した手引き
津波災害予測マニュアル
都道府県等が津波浸水予測図を作成する際の方法を示したマニュアル
14年3月 消防庁 市町村における津波避難計画策定指針
市町村が津波発生時の避難計画を作成する際の避難対象地域、避難場所の指定、情報伝達の手順等を定めた指針
16年3月 内閣府、農林水産省、国土交通省 津波・高潮ハザードマップマニュアル
市町村が、津波・高潮ハザードマップを作成する際の国、都道府県、市町村の役割分担、作成方法等を示したマニュアル
17年6月 内閣府 津波避難ビル等に係るガイドライン
市町村の指定する避難困難となる地域住民等の緊急避難先(津波避難ビル等)について、指定、利用、運営手法等を示したガイドライン
22年12月 内閣府 津波防災に関するワーキンググループ
津波避難対策等における課題を整理、検討し、より強化すべき対策や支援方策について取りまとめることを目的に中央防災会議の「災害時の避難に関する専門調査会」の下に設置

b 東日本大震災後の津波対策に関する取組

復興基本方針では、津波防災に関する施策として、たとえ被災したとしても人命が失われないことを最重視し、災害時の被害を最小化する「減災」の考え方に基づき「逃げる」ことを前提とした地域づくりを基本に、地域ごとの特性を踏まえて、ハード・ソフトの施策を組み合わせた「多重防御」による「津波防災まちづくり」を推進するとしている。そして、ハード・ソフトの施策として、海岸・河川堤防等の復旧・整備、津波ハザードマップの作成、避難計画の策定、避難場所の確保等が掲げられており、これらの施策を柔軟に組み合わせて実施することとなっている。

東日本大震災後の津波対策については、図表4-3のとおり、復興基本方針の策定に先立ち、発生直後の23年4月に「東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会」(以下「専門調査会」という。)が中央防災会議に設置され、東北地方太平洋沖地震による地震・津波の発生状況、被害の状況等についての分析及び今後の対策について検討が行われた。

専門調査会が中間取りまとめに伴う提言として示した「今後の津波防災対策の基本的考え方について」(平成23年6月中央防災会議。以下「津波対策の基本的考え方」という。)では、今後の津波防災対策は、切迫性が低くても東北地方太平洋沖地震や最大クラスの津波を想定し、様々な施策を講じるよう検討していく必要があるとし、海岸保全施設等の整備の対象とする津波高さを大幅に高くすることは、施設整備に必要な費用、海岸の環境や利用に及ぼす影響等を考慮すると現実的ではないため、住民の避難を軸に、土地利用、避難施設の整備等のハード・ソフトの取り得る手段を尽くした総合的な津波対策の確立が急務であるとしている。この提言を受けて、23年6月に成立した「津波対策の推進に関する法律」(平成23年法律第77号。以下「津波対策推進法」という。)においては、多数の人命を奪った東日本大震災の惨禍を二度と繰り返すことのないよう、これまでの津波対策が必ずしも十分でなかったことを国として率直に反省するなどの津波に関する基本的認識が示されるとともに、津波対策を総合的かつ効果的に推進しなければならないこととされた。

また、専門調査会が取りまとめとして示した「東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会報告」(平成23年9月中央防災会議)では、今回の津波は従前の想定をはるかに超える規模の津波であったとしている。特に、巨大な津波高と広範囲の浸水域、内陸の奥域まで浸水域が拡大したこと、河川を遡上した津波が氾濫したこと、広範囲にわたり地盤沈下が発生したことなどが従前の想定を超えていたとし、このような津波の発生により、膨大な死者・行方不明者の発生、住宅の流出、産業の停滞や経済的損失となり、地域全体が壊滅的な被害を被ったところも発生したとしている。

国土交通大臣が策定した「津波防災地域づくりの推進に関する基本的な指針」(平成24年国土交通省告示第51号。以下「津波防災基本指針」という。)では、津波による災害の防止・軽減の効果が高く、将来にわたって安心して暮らすことのできる安全な地域づくり(以下「津波防災地域づくり」という。)のために、最大クラスの津波が発生した場合でも「なんとしても人命を守る」という考え方で、地域ごとの特性を踏まえて、「多重防御」の発想により、津波防災を効率的かつ効果的に推進することが基本理念とされ、津波防災地域づくりの推進に関する基本的な事項等が定められた。

そして、23年12月に成立した津波防災地域づくりに関する法律(平成23年法律第123号。以下「津波防災地域づくり法」という。)において、地震防災対策特別措置法では都道府県及び市町村の努力義務として規定されていた津波ハザードマップの配布等の住民に対する周知のための措置は、市町村の義務として規定された。また、中央防災会議は、津波対策について、震災対策の特記事項という位置付けを改めて、他の災害と同様に予防から復興までの各段階における対策を講ずることができるよう防災基本計画の見直しを行った。

図表4-3 東日本大震災後の国の津波対策に関する取組

年月 津波対策に係る法令等 府省庁等
平成23年4月 「東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会」の設置 内閣府中央防災会議
6月 「今後の津波防災対策の基本的考え方について」の策定 内閣府中央防災会議
津波対策の推進に関する法律(平成23年法律第77号)成立  
7月 「設計津波の水位の設定方法等について」を通知 農林水産省、国土交通省
9月 「東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会報告」の取りまとめ 内閣府中央防災会議
12月 津波防災地域づくりに関する法律(平成23年法律第123号)成立  
「津波防災地域づくりの推進に関する基本的な指針」の策定 国土交通省
24年7月 「津波避難対策検討ワーキンググループ報告」の取りまとめ 内閣府中央防災会議
25年3月 「市町村における津波避難計画策定指針」の改訂 消防庁
(イ)ハード施策としての津波対策に係る復旧・復興事業の状況

a ハード施策としての津波対策の概要

津波対策の基本的考え方では、海岸保全施設等について、比較的頻度の高い一定程度の津波高に対して、引き続き整備を進めていくことを基本とすべきであるとし、設計対象の津波高を超えても、施設の効果が粘り強く発揮できるような構造物の技術開発を進め、整備していく必要があるとしている。

海岸保全施設が整備される海岸は、海岸の存する地域及びその背後地の利用状況等に応じて、土地改良事業として管理している施設で防潮堤等の海岸保全施設に該当するものの存する地域等に係る海岸保全区域(以下「農地海岸」という。)、漁港区域に係る海岸保全区域(以下「漁港海岸」という。)、港湾区域及び港湾隣接地域に係る海岸保全区域(以下「港湾海岸」という。)並びにこれら以外の海岸保全区域(以下「建設海岸」という。)に区分され、農地海岸及び漁港海岸は農林水産大臣が、港湾海岸及び建設海岸は国土交通大臣が、それぞれの主務大臣となっている。主務大臣は、海岸法等に基づき、津波等による災害の発生の防止等を総合的に考慮して、「海岸保全区域等に係る海岸の保全に関する基本的な方針」を定めている。そして、都道府県知事は、同方針に基づき海岸保全区域等に係る「海岸の保全に関する基本計画」(以下「海岸保全基本計画」という。)を策定し、これに基づき、海岸保全施設の整備等を計画的に行うこととしている。

また、農林水産省及び国土交通省は、津波対策の基本的考え方に基づき、海岸堤防の設計等に関する基準として「設計津波の水位の設定方法等について」(平成23年7月農林水産省農村振興局、水産庁漁港漁場整備部、国土交通省水管理・国土保全局及び港湾局通知。以下「水位設定基準」という。)を県、市町村等の海岸管理部局に通知している。

水位設定基準によれば、海岸保全施設の設計を行うために、当該海岸保全施設に到達するおそれが多い津波として、海岸管理者が「海岸保全施設の技術上の基準を定める省令」(平成16年農林水産省、国土交通省令第1号)に基づいて定める設計津波の高さ(以下「設計津波水位」という。)を設定することとされている。設計津波水位の設定に当たっては、海岸保全基本計画を作成すべき一体の海岸の区分を、湾の形状等の自然条件、過去に発生した津波の実績津波高さ及びシミュレーションの津波高さから同一の津波外力を設定し得ると判断される一連の海岸線に分割し(以下、分割した海岸を「地域海岸」という。図表4-4参照)、地域海岸ごとに、過去の津波の痕跡高の記録を整理したり、津波高さのシミュレーション(以下「津波シミュレーション」という。)により津波高さを算定したりすることとされている。そして、算定した津波高さを基に、一定の頻度(数十年から百数十年に一度程度)で到達すると想定される津波(以下「頻度の高い津波」という。)の集合を対象津波群として設定し、対象津波群の地域海岸への侵入防止を条件として行う津波シミュレーションの結果等により設計津波水位を設定することとされている。この設計津波水位を前提に、地域海岸内の海岸の機能の多様性への配慮、環境保全、周辺景観との調和、経済性、維持管理の容易性等を総合的に考慮して、防潮堤等の海岸堤防の高さを設定することとされている。

なお、水位設定基準では、一の地域海岸に対しては、一の設計津波水位を設定することを基本とするが、設計津波水位が当該地域海岸内の海岸線に沿って著しく異なることとなると判断される場合は、理由を明らかにした上で、地域海岸を分割して複数の設計津波水位を定めることができるものとされている。

沿岸6県の太平洋沿岸には、95の地域海岸(青森県6地域海岸、岩手県22地域海岸、宮城県24地域海岸、福島県14地域海岸、茨城県16地域海岸、千葉県13地域海岸)が設定され、それぞれの地域海岸では、海岸保全基本計画に基づき農地海岸、漁港海岸、港湾海岸及び建設海岸ごとに防潮堤等海岸保全施設の整備が実施されている。

図表4-4 地域海岸の概念図

図表4-4 地域海岸の概念図 画像

b ハード施策としての津波対策に係る復旧・復興事業の計画及び実施状況

(a)海岸保全施設に係る復旧・復興事業の成果

海岸保全施設に係る復旧・復興事業の状況については、図表4-5のとおり、33市町のうち28市町の512海岸において事業が計画されており、このうち460海岸で実施されていて、26年度末までの完成施設数は52海岸(完成率10.1%)となっている。計画事業費9398億余円のうち支出済事業費は1427億余円、完成分事業費は85億余円(うち国庫補助金等77億余円)であり、事業費進捗率は15.1%となっている。

県別の状況をみると、完成率は、青森県(3市町)が60%を、宮城(8市町)、福島(4市町)両県が10%を超えているものの、茨城県(5市町)は3.3%、岩手県(5市町)は2.7%にとどまっており、千葉県(3市)では完成した海岸はない。事業費進捗率は、青森県が48.0%、福島県が45.9%となっているものの、整備に複数年を要する防潮堤が多いことなどにより岩手県、宮城県はそれぞれ14.1%、9.7%と低い状況にある。また、計画事業費は、宮城県が5301億余円、岩手県が2772億余円、福島県が957億余円と、東北3県で計9030億余円となり、計画事業費全体の9割以上を占めている。

海岸区分別にみると、完成率は、農地海岸が28.5%となっているが、他の海岸区分ではいずれも10%未満となっている。計画事業費は、建設海岸が3936億余円と最も多くなっており、次いで漁港海岸が3251億余円等となっている。

図表4-5 防潮堤等の整備に係る復旧・復興事業の実施状況(平成26年度末現在)

(単位:海岸、億円、%)
県名
(事業を実施している市町数)
海岸区分 計画施設数   事業費
平成26年度末までに復旧・復興事業が実施されていない海岸数 26年度末までに復旧・復興事業が実施されている海岸数  
完成施設数 完成率 計画事業費 支出済事業費 事業費進捗率 完成分事業費
国庫補助金等 その他
    A     B B/A C D D/C      
青森県
(3市町)
漁港海岸 1 1 1 100.0 3 3 100.0 0 3 3
港湾海岸 2 2 29 3 11.9
建設海岸 6 6 5 83.3 17 17 100.0 3 2 5
9 9 6 66.6 49 23 48.0 3 5 9
岩手県
(5市町)
農地海岸 8 8 1 12.5 144 34 24.1 0 0 0
漁港海岸 39 39 1 2.5 1254 69 5.5 0 0
港湾海岸 11 11 640 118 18.4
建設海岸 15 15 732 168 23.0
73 73 2 2.7 2772 391 14.1 0 0 0
宮城県
(8市町)
農地海岸 93 24 69 27 29.0 234 85 36.6 41 1 42
漁港海岸 121 3 118 1749 40 2.2
港湾海岸 37 18 19 924
建設海岸 82 1 81 8 9.7 2392 392 16.4 16 16
333 46 287 35 10.5 5301 518 9.7 57 1 59
福島県
(4市町)
農地海岸 4 4 2 50.0 34 29 86.8 7 7
漁港海岸 20 20 2 10.0 234 120 51.5 1 0 2
港湾海岸 17 2 15 4 23.5 100 29 29.5 5 1 6
建設海岸 20 20 587 259 44.1
61 2 59 8 13.1 957 439 45.9 14 1 16
茨城県
(5市町)
漁港海岸 3 2 1 9 1 12.6
港湾海岸 4 2 2 101 7 7.3
建設海岸 23 23 1 4.3 147 24 16.3 0 0 0
30 4 26 1 3.3 258 32 12.6 0 0 0
千葉県
(3市)
建設海岸 6 6 59 20 34.9
沿岸6県
(28市町)
農地海岸 105 24 81 30 28.5 413 150 36.4 49 1 51
漁港海岸 184 5 179 4 2.1 3251 234 7.2 1 3 5
港湾海岸 71 22 49 4 5.6 1796 158 8.8 5 1 6
建設海岸 152 1 151 14 9.2 3936 882 22.4 19 2 21
合計 512 52 460 52 10.1 9398 1427 15.1 77 8 85
注(1)
「完成施設数」及び「完成分事業費」は、当該施設等について復旧事業から復興事業までの一連の事業が完了したものを計上している。
注(2)
県、市町村分の事業に限定しており、国の機関による事業(直轄事業)は計上していない。
注(3)
33市町のうち5市町は、会計実地検査を実施した時点において海岸保全施設等に係る復旧・復興事業を実施していない。

(b)事業を実施している460海岸における防潮堤等の整備状況

復旧・復興事業を実施している460海岸の防潮堤等について、新設、既設堤防の改修(以下「既設改修」という。)等の別にみると、26年度末現在、図表4-6のとおり、460海岸のうち「新設」が81海岸、「既設改修」が358海岸、「新設及び既設改修」(同一の海岸で両者が行われているもの)が11海岸、「防潮堤以外の施設のみを整備」が10海岸となっている。このうち26年度末現在で完成しているものは、新設が2海岸、既設改修が41海岸、防潮堤以外の施設のみを整備が9海岸となっている。また、計画事業費は、新設が1482億余円、既設改修が6581億余円であり、事業費進捗率は、それぞれ9.2%、17.8%となっている。

図表4-6 事業を実施している460海岸の防潮堤の新設、既設改修等別の状況(平成26年度末現在)

(単位:海岸、億円、%)
県名
(事業を実施している市町数)
区分 海岸数 事業費
計画施設数 完成施設数 完成率 計画事業費 支出済事業費 事業費進捗率 完成分事業費
国庫補助金等 その他
A B B/A C D D/C      
青森県
(3市町)
新設 2 12 11 92.6
既設改修 2 1 50.0 31 6 20.5 0 3 3
防潮堤以外の施設のみを整備 5 5 100.0 5 5 100.0 3 2 5
9 6 66.6 49 23 48.0 3 5 9
岩手県
(5市町)
新設 6 287 82 28.6
既設改修 56 2 3.5 1575 213 13.5 0 0 0
新設及び既設改修 11 909 94 10.4
73 2 2.7 2772 391 14.1 0 0 0
宮城県
(8市町)
新設 70 2 2.8 1138 25 2.2 3 3
既設改修 214 31 14.4 3813 487 12.7 53 1 54
防潮堤以外の施設のみを整備 3 2 66.6 8 5 64.2 1 1
287 35 12.1 4959 518 10.4 57 1 59
福島県
(4市町)
新設 2 35 14 39.9
既設改修 55 6 10.9 909 418 45.9 7 1 9
防潮堤以外の施設のみを整備 2 2 100.0 7 7 100.0 7 7
59 8 13.5 952 439 46.1 14 1 16
茨城県
(5市町)
新設 1 8 3 34.1
既設改修 25 1 4.0 192 29 15.4 0 0 0
26 1 3.8 201 32 16.2 0 0 0
千葉県
(3市)
既設改修 6 59 20 34.9
沿岸6県
(28市町)
新設 81 2 2.4 1482 137 9.2 3 3
既設改修 358 41 11.4 6581 1176 17.8 61 6 67
新設及び既設改修 11 909 94 10.4
防潮堤以外の施設のみを整備 10 9 90.0 21 18 85.8 12 2 14
合計 460 52 11.3 8995 1427 15.8 77 8 85
注(1)
「完成施設数」及び「完成分事業費」は、当該施設等について復旧事業から復興事業までの一連の事業が完了したものを計上している。
注(2)
県、市町村分の事業に限定しており、国の機関による事業(直轄事業)は計上していない。
注(3)
33市町のうち5市町は、会計実地検査を実施した時点において海岸保全施設等に係る復旧・復興事業を実施していない。

460海岸の防潮堤の高さについて、東日本大震災前の防潮堤の高さ(以下「現況堤防高」という。)と復旧・復興事業により整備する防潮堤の高さ(以下「復旧後堤防高」という。)とを比較すると、図表4-7のとおり、復旧後堤防高が現況堤防高より高くなっているものが359海岸、復旧後堤防高と現況堤防高が同じものが96海岸となっている。また、上記359海岸のうち、5m以下の範囲で高くなっているものが266海岸と最も多くなっているが、10m超高くなっているものも13海岸ある状況となっている。

図表4-7 事業を実施している460海岸の復旧後堤防高と現況堤防高の比較(平成26年度末現在)

(単位:海岸、%)
県名
(事業を実施している市町数)
復旧・復興事業が実施されている海岸数 復旧後堤防高が現況堤防高より高くなっている海岸数 復旧後堤防高が現況堤防高と同じ海岸数
注(1)
  復旧後堤防高が現況堤防高より低くなっている海岸数  
10m超高い   5m超10m以下の範囲で高い   0m超5m以下の範囲で高い    
事業が実施されている海岸数に対する割合 事業が実施されている海岸数に対する割合 事業が実施されている海岸数に対する割合 事業が実施されている海岸数に対する割合 事業が実施されている海岸数に対する割合 事業が実施されている海岸数に対する割合
  A B B/A C C/A D D/A E=B+C+D E/A F F/A G G/A
青森県(3市町) 9 1 11.1 3 33.3 4 44.4 5 55.5
岩手県(5市町) 73 4 5.4 13 17.8 45 61.6 62 84.9 11 15.0
宮城県(8市町) 287 9 3.1 63 21.9 145 50.5 217 75.6 65 22.6 5 1.7
福島県(4市町) 59 3 5.0 44 74.5 47 79.6 12 20.3
茨城県(5市町) 26 23 88.4 23 88.4 3 11.5
千葉県(3市) 6 6 100.0 6 100.0
計(28市町) 460 13 2.8 80 17.3 266 57.8 359 78.0 96 20.8 5 1.0
注(1)
防潮堤以外の施設のみが整備される10海岸を含む。
注(2)
33市町のうち5市町は、会計実地検査を実施した時点において海岸保全施設等に係る復旧・復興事業を実施していない。

460海岸の防潮堤の高さを「T.P.(注12)10m超」「T.P.5m超からT.P.10m以下」及び「T.P.5m以下」に区分して、防潮堤の設置海岸数の変化について、東日本大震災前の現況と復旧・復興事業による復旧後の状況とを比較してみると、図表4-8のとおり、T.P.10m超の防潮堤が設置される海岸が現況7海岸から復旧後62海岸へ、T.P.5m超からT.P.10m以下の防潮堤が設置される海岸が現況123海岸から復旧後256海岸へとそれぞれ増加しており、これに伴ってT.P.5m以下の防潮堤が設置される海岸が現況239海岸から復旧後132海岸へ、防潮堤が整備されないなどの海岸が現況91海岸から復旧後10海岸へとそれぞれ減少している。また、海岸保全区域延長は、現況計232.9kmから復旧後計317.1kmに延長されている。

県別にみると、岩手県ではT.P.10m超の防潮堤が設置される海岸が現況7海岸から復旧後45海岸へと増加し、その他の高さの防潮堤が設置される海岸の数はいずれも減少している。このように岩手県ではリアス式海岸の地形的な制約により海岸線付近の平野部が少なく、急峻な地形により津波高さが高くなることから、主に防潮堤の高さを上げることにより海岸対策を進めている。また、宮城県では、現況ではT.P.10m超の防潮堤は整備されていなかったが、計画では17海岸において整備されることとなり、T.P.5m超からT.P.10m以下の防潮堤も現況31海岸から復旧後151海岸へと120海岸が増加するとともに、海岸保全区域延長も現況82.3kmから復旧後139.5kmへと約57km増加している。このように宮城県では沿岸平野部における津波被害が甚大であったことから防潮堤の高さとともに海岸保全区域延長も拡大し、保全する範囲を面的に広げることにより津波対策を進めている。

(注12)
T.P.  Tokyo Peilの略。東京湾平均海面であり、全国の標高の基準となる海水面の高さである。

図表4-8 事業を実施している460海岸における防潮堤の現況及び復旧後の状況(平成26年度末現在)

(単位:海岸、km)
県名
(事業を実施している市町数)
復旧・復興事業が実施されている海岸数 防潮堤が整備された(現況)又は整備される(復旧後)海岸数   防潮堤が整備されなかった(現況)又は整備されない(復旧後)海岸数 海岸保全区域延長
堤防高(T.P.)別海岸数
10m超 5m超~10m以下 5m以下
現況 復旧後 現況 復旧後 現況 復旧後 現況 復旧後 現況 復旧後 現況 復旧後
青森県(3市町) 9 2 4 1 3 1 1 7 5 7.1 14.4
岩手県(5市町) 73 67 73 7 45 45 26 15 2 6 45.0 57.5
宮城県(8市町) 287 215 284 17 31 151 184 116 72 3 82.3 139.5
福島県(4市町) 59 55 57 40 48 15 9 4 2 49.8 58.1
茨城県(5市町) 26 24 26 6 22 18 4 2 23.6 34.9
千葉県(3市) 6 6 6 6 6 24.9 12.5
計(28市町) 460 369 450 7 62 123 256 239 132 91 10 232.9 317.1
注(1)
33市町のうち5市町は、会計実地検査を実施した時点において海岸保全施設等に係る復旧・復興事業を実施していない。
注(2)
千葉県の海岸保全区域延長は、治山事業の海岸保安林により対応する区域等があることにより、復旧後が現況を下回っている。
注(3)
T.P.(Tokyo Peil)は、東京湾平均海面であり、全国の標高の基準となる海水面の高さである。

地域海岸の防潮堤の高さ(以下「地域海岸内堤防高」という。)は、前記のとおり、水位設定基準によれば、設計津波水位を前提に設定される。そこで、東北3県の60地域海岸(岩手県22地域海岸、宮城県24地域海岸、福島県14地域海岸)のうち防潮堤を整備している17市町の46地域海岸の地域海岸内堤防高を設定した根拠について確認したところ、設計津波水位によっているとしている地域海岸は、図表4-9のとおり、32地域海岸となっている。これら32地域海岸の対象津波群は、明治三陸地震(明治29年)及び昭和三陸地震(昭和8年)により発生した津波等で設定されていて、東北地方太平洋沖地震により発生した津波は、いずれの地域海岸においても対象津波群を構成するものとされていない。また、32地域海岸以外の地域海岸についてみると、高潮による波高が津波よりも高い石巻海岸等の10地域海岸では、高潮の波高により設定され、頻度の高い津波により設定される水位よりも東日本大震災前に計画されていた防潮堤の高さの方が高い両石湾等の4地域海岸では、東日本大震災前の計画高により設定されている。また、地域海岸内堤防高は、岩手県の岩泉海岸及び田老海岸のT.P.14.7mが最も高く、この2地域海岸を含む15地域海岸がT.P.10m以上となっている。

上記46地域海岸の地域海岸内堤防高について、東北地方太平洋沖地震により発生した津波の痕跡高と比較してみると、46地域海岸のうち宮城県の万石浦等の3地域海岸を除く43地域海岸で、東北地方太平洋沖地震による津波の痕跡高が地域海岸内堤防高を15.9mから0.2m上回っており、復旧・復興事業で整備する防潮堤は、東北地方太平洋沖地震による津波と同等の津波に対して海岸背後地の市街地、居住地等を防御する設計とはなっていない。このようなことから、東北地方太平洋沖地震による津波のような最大クラスの津波に対しては、ソフト施策としての避難行動により人命を守る施策が極めて重要となっている。

46地域海岸で復旧・復興事業が実施されているのは419海岸となっている。これらの海岸で整備される防潮堤の高さは、水位設定基準により、海岸管理者が地域海岸内堤防高を基に、海岸の機能の多様性への配慮、環境保全、周辺景観との調和、経済性、維持管理の容易性等を総合的に考慮して、防潮堤の高さを設定することとなっており、この結果、復旧後堤防高と地域海岸内堤防高に差が生ずる場合がある。そこで、419海岸の復旧後堤防高と地域海岸内堤防高とを比較してみると、図表4-9のとおり、復旧後堤防高が地域海岸内堤防高より高いものが419海岸のうち1地域海岸の2海岸、低いものが28地域海岸の130海岸となっている。130海岸を所在県別にみると宮城県(110海岸)が大半を占め、海岸区分別にみると農地海岸(61海岸)及び漁港海岸(38海岸)が多くなっている。

図表4-9 地域海岸内堤防高と復旧後堤防高の状況(平成26年度末現在)

(単位:m(T.P.)、海岸)
NO 地域海岸 設計津波(注(2) 地域海岸内堤防高の根拠 東北地方太平洋沖地震による津波の痕跡高 設計津波水位による堤防高 地域海岸内堤防高 東北地方太平洋沖地震による津波が地域海岸内堤防高を上回る高さ 事業実施海岸数 復旧後堤防高
地域海岸内堤防高より高い 地域海岸内堤防高より低い
農地海岸 漁港海岸 港湾海岸 建設海岸 農地海岸 漁港海岸 港湾海岸 建設海岸
        A   B A-B                      
1 岩泉海岸 昭和三陸地震津波 設計津波水位 20.2 14.7 14.7 5.5 1
2 田老海岸 昭和三陸地震津波 設計津波水位 16.3 14.7 14.7 1.6 4 1 1
3 宮古湾 明治三陸地震津波 設計津波水位 11.6 10.4 10.4 1.2 10
4 重茂海岸 明治三陸地震津波 設計津波水位 21.8 14.1 14.1 7.7 1
5 山田湾 明治三陸地震津波 設計津波水位 10.9 9.7 9.7 1.2 5
6 船越湾 明治三陸地震津波 設計津波水位 19.0 12.8 12.8 6.2 4
7 大槌湾 明治三陸地震津波 設計津波水位 15.1 14.5 14.5 0.6 7 2 2
8 両石湾 昭和三陸地震津波 被災前計画高 22.6 12.0 10.6 4
9 釜石湾 明治三陸地震津波 被災前計画高 10.1 6.1 4.0 6
10 唐丹湾 昭和三陸地震津波 設計津波水位 21.0 14.5 14.5 6.5 5
11 吉浜湾 想定宮城県沖地震津波 被災前計画高 17.2 14.3 2.9 3 2 1 3
12 越喜来湾 昭和三陸地震津波 設計津波水位 16.9 11.5 11.5 5.4 7 1 1
13 綾里湾 想定宮城県沖地震津波 被災前計画高 23.8 7.9 15.9 1
14 大船渡湾外洋 昭和三陸地震津波 設計津波水位 17.4 14.1 14.1 3.3 3 2 2
15 大船渡湾 明治三陸地震津波 設計津波水位 10.4 7.5 7.5 2.9 9
16 大野湾 昭和三陸地震津波 設計津波水位 16.6 12.8 12.8 3.8 3 1 1
岩手県計 73 2 7 1 10
17 唐桑半島東部 明治三陸地震津波 設計津波水位 14.4 11.3 11.3 3.1 13 2 3 5
18 唐桑半島西部① 明治三陸地震津波 設計津波水位 24.0 11.2 11.2 12.8 16 3 7 10
19 唐桑半島西部② 明治三陸地震津波 設計津波水位 13.8 9.9 9.9 3.9 7 1 4 5
20 気仙沼湾 明治三陸地震津波 設計津波水位 14.6 7.2 7.2 7.4 12 1 1
21 気仙沼湾奥部 明治三陸地震津波 設計津波水位 8.9 5.0 5.0 3.9 4
22 大島東部 明治三陸地震津波 設計津波水位 12.1 11.8 11.8 0.3 3 2 2
23 大島西部 明治三陸地震津波 設計津波水位 12.1 7.0 7.0 5.1 12 1 1
24 小泉湾 明治三陸地震津波 設計津波水位 18.8 9.8 9.8 9.0 21 1 1
25 志津川湾 想定宮城県沖地震津波 設計津波水位 20.5 8.7 8.7 11.8 54 14 1 2 17
26 追波湾 明治三陸地震津波 設計津波水位 14.9 8.4 8.4 6.5 10 3 3
27 雄勝湾 明治三陸地震津波 設計津波水位 16.3 6.4 6.4 9.9 11 2 1 3
28 雄勝湾奥部 明治三陸地震津波 設計津波水位 16.3 9.7 9.7 6.6 3
29 女川湾 明治三陸地震津波 設計津波水位 18.0 6.6 6.6 11.4 7 6 6
30 牡鹿半島東部 明治三陸地震津波 設計津波水位 20.9 6.9 6.9 14.0 4
31 牡鹿半島西部 チリ地震津波 設計津波水位 10.5 6.0 6.0 4.5 26 1 1
32 万石浦 チリ地震津波 設計津波水位 2.4 2.5 2.6 -0.2 12
33 石巻海岸 明治三陸地震津波 高潮 11.4 7.2 4.2 4 1 1 2
34 松島湾 チリ地震津波 設計津波水位 4.8 4.3 4.3 0.5 58 2 2 34 7 4 6 51
35 七ヶ浜海岸① 明治三陸地震津波 設計津波水位 8.9 5.4 5.4 3.5 1
36 七ヶ浜海岸② 明治三陸地震津波 設計津波水位 11.6 6.8 6.8 4.8 5
37 仙台湾南部海岸① 明治三陸地震津波 高潮 12.9 7.2 5.7 4 2 2
宮城県計 287 2 2 59 27 9 15 110
38 新地海岸・相馬海岸① 明治三陸地震津波 高潮 8.7 7.2 1.5 6 1 1
39 相馬海岸② 明治三陸地震津波 高潮 14.5 7.2 7.3 10 1 1
40 鹿島海岸(注(5) 想定宮城県沖地震津波 高潮 20.8 7.2 1
41 広野海岸 明治三陸地震津波 設計津波水位 8.9 8.7 8.7 0.2 7 1 1
42 久之浜海岸 明治三陸地震津波 高潮 7.9 7.2 0.7 3 1 1
43 四倉海岸・平海岸① 明治三陸地震津波 高潮 7.6 7.2 0.4 9 1 1
44 平海岸②・磐城海岸① 明治三陸地震津波 高潮 9.2 7.2 2.0 17 1 3 4
45 磐城海岸②(注(5) 明治三陸地震津波 高潮 9.4 7.2 2
46 勿来海岸 明治三陸地震津波 高潮 7.7 7.2 0.5 4 1 1
福島県計 59 4 5 1 10
合計 419 2 2 61 38 14 17 130
注(1)
「地域海岸」から「地域海岸内堤防高」までの項目は、東北3県が公表している海岸堤防高の設定に関する資料を基に作成した。
東日本大震災による津波の痕跡高は、公益社団法人土木学会「東北地方太平洋沖地震津波合同調査グループ」の調査データであり、極力海岸線付近の記録を用いることを基本としている。
注(2)
設計津波は、記載している地震津波のほか十勝沖地震(昭和43年)等複数の地震による津波があり、これらにより対象津波群が構成されている。
注(3)
一の地域海岸に対しては、一の設計津波水位が設定されるが、山田湾、大島西部、気仙沼湾奥部、松島湾等の地域海岸では、設計津波水位が当該地域海岸内の海岸線に沿って著しく異なるため、地域海岸を分割して複数の設計津波水位が定められている。
注(4)
地域海岸内堤防高は、環境保全、周辺景観との調和、経済性、維持管理の容易性、施工性、公衆の利用等を総合的に考慮して、海岸保全基本計画に定めるものである。
注(5)
福島県の鹿島海岸及び磐城海岸②の東日本大震災の津波による痕跡高は、海岸線付近の痕跡高がない又は不足するため遡上高(海岸線から内陸へ津波がかけ上がった高さ)を記載している。このため、両地域海岸について、「東北地方太平洋沖地震による津波が地域海岸内堤防高を上回る高さ」を算出していない。
注(6)
T.P.(Tokyo Peil)は、東京湾平均海面であり、全国の標高の基準となる海水面の高さである。

復旧後堤防高が地域海岸内堤防高と異なる理由について、海岸管理者によれば、図表4-10のとおり、復旧後堤防高が地域海岸内堤防高より高い2海岸については、防潮堤への被害が少なく、現況堤防高のまま補修した結果によるものとしている。

また、復旧後堤防高が地域海岸内堤防高より低い130海岸については、湾の形状を考慮した津波シミュレーション等の結果によるとしているものが49海岸、海岸背後地に道路等の基盤施設、居住地等の重要な保全対象がないことによるとしているものが29海岸、農地海岸の防潮堤で背後地にある農地等の浸食防止を主な目的としていることによるとしているものが23海岸、復旧後堤防高を低くしてほしい旨の住民等からの要望を受けた県及び市町と当該住民等との協議及び調整の結果によるとしているものが15海岸となっている。

図表4-10 地域海岸内堤防高と復旧後堤防高に差が生じている理由

(単位:海岸)
県名 海岸区分 復旧後堤防高が地域海岸内堤防高より低い又は高い 津波シミュレーション等の結果による 住民等の要望による 重要な保全対象がないことによる 主に浸食防止のために整備していることによる 被害が少なかったため現況のままとしたことによる その他
岩手県 農地海岸 低い 1 1 2
漁港海岸 低い 6 1 7
建設海岸 低い 1 1
低い 7 1 1 1 10
宮城県 農地海岸 高い 2 2
低い 13 25 21 59
漁港海岸 低い 14 8 1 4 27
港湾海岸 低い 9 9
建設海岸 低い 13 2 15
高い 2 2
低い 49 8 28 21 4 110
福島県 漁港海岸 低い 1 3 4
港湾海岸 低い 5 5
建設海岸 低い 1 1
低い 1 9 10
合計 高い 2 2
低い 49 15 29 23 13 1 130
  49 15 29 23 15 1 132
(注)
複数の理由のうち主な理由により集計している。

住民等との協議及び調整の結果を踏まえて、復旧後堤防高を地域海岸内堤防高より低くした海岸について、事例を示すと次のとおりである。

<参考事例> 住民等との協議及び調整の結果を踏まえて、復旧後堤防高の設定を低くしたもの

県・市町村名及び海岸名 地域海岸名 地域海岸内堤防高 整備する防潮堤の高さ
岩手県上閉伊郡大槌町
大槌漁港海岸(赤浜・白石地区)
大槌湾 14.5m 6.4m

大槌町は、東日本大震災により死者・行方不明者計1,234人に及び、町役場は津波に流されて全壊し、町長及び町幹部職員が犠牲となったことにより役場機能が麻痺状態に陥るなど、甚大な被害を受けた。同町赤浜地区では、住民960人中、死者45人、行方不明者48人、計93人と全住民の1割が犠牲となった。

岩手県は、同町の大槌湾における地域海岸内堤防高を設定するに当たり、明治三陸地震、昭和三陸地震等計7回の地震による津波を設計津波の対象津波群として津波シミュレーションを行い、その結果、設計津波水位を13.5m、地域海岸内堤防高を14.5mとした。そして、平成23年10月に大槌漁港海岸(赤浜・白石地区)に高さ14.5mの防潮堤を整備する計画を提案した。

この提案に対して赤浜地区の住民等は、犠牲者の多くは防潮堤の近くに住んでいて防潮
堤に視界を遮られて海面の変動に気づかず逃げ遅れたこと、同町の象徴である蓬莱(ほうらい)島の眺望等が阻害され景観への影響が大きいことなどから、再建する防潮堤の高さを海が見える程度とするよう要望した。そして、同年11月に、赤浜地区の地域復興協議会は、防潮堤の高さを被災前と同じ6.4mとする一方、住民の防災意識を向上し、避難を徹底させることで災害に備える地域復興計画案を策定した。

その後、岩手県、大槌町及び赤浜地区の地域復興協議会等は協議及び調整を重ねて、防潮堤の近くに住んでいた世帯が集団で高台に移転して安全性を確保することとし、24年4月に、岩手県は、赤浜地区に設置される防潮堤の高さを6.4mのままとすることを認めて、防潮堤の整備計画は変更された。

(c)460海岸の防潮堤の完成年度の状況

復旧・復興事業が実施されている460海岸の防潮堤の完成(予定)年度の状況をみると、図表4-11のとおり、26年度末現在、集中復興期間の最終年度である27年度が完成年度となっているものが116海岸、28年度以降に完成する予定となっているものが292海岸となっている。この292海岸の防潮堤の高さをみると、T.P.10m超となっている海岸が47海岸、T.P.5m超T.P.10m以下となっている海岸が186海岸、計233海岸となっていて、292海岸の約8割を占めている。また、292海岸を県別にみると、宮城県が195海岸、岩手県が51海岸、福島県が20海岸等となっている。防潮堤の整備の進捗に伴い、津波に対する防御能力は高くなっていくが、沿岸6県において頻度の高い津波に対する十分な防御能力が発現するには今なお時間を要する状況となっている。

図表4-11 事業を実施している460海岸の防潮堤の完成(予定)年度及び事業費の状況(平成26年度末現在)

(単位:海岸、億円)
県名
(事業を実施している市町数)
完成年度 防潮堤の高さ(T.P.) 防潮堤以外の施設のみが整備される海岸
10m超 5m超10m以下 5m以下
海岸数 計画事業費 海岸数 計画事業費 海岸数 計画事業費 海岸数 計画事業費 海岸数 計画事業費
青森県
(3市町)
平成26年度以前 1 3 5 5 6 9
27年度 1 11 1 11
28年度以降 1 28 1 1 2 29
3 42 1 1 5 5 9 49
岩手県
(5市町)
平成26年度以前 2 0 2 0
27年度 13 521 7 109 20 630
28年度以降 32 1013 19 1126 51 2140
45 1535 26 1236 2 0 73 2772
宮城県
(8市町)
平成26年度以前 5 3 28 53 2 1 35 59
27年度 2 19 22 197 32 119 1 7 57 343
28年度以降 15 540 124 2940 56 1076 195 4557
17 559 151 3142 116 1249 3 8 287 4959
福島県
(4市町)
平成26年度以前 6 9 2 7 8 16
27年度 28 379 3 3 31 382
28年度以降 20 553 20 553
48 932 9 12 2 7 59 952
茨城県
(5市町)
平成26年度以前 1 0 1 0
27年度 5 29 2 8 7 38
28年度以降 16 117 2 45 18 163
22 147 4 54 26 201
千葉県
(3市)
28年度以降 6 59 6 59
沿岸6県
(28市町)
平成26年度以前 7 7 36 63 9 14 52 85
27年度 15 540 63 727 37 131 1 7 116 1406
28年度以降 47 1553 186 4825 59 1123 292 7502
合計 62 2094 256 5560 132 1318 10 21 460 8995
注(1)
33市町のうち5市町は、会計実地検査を実施した時点において海岸保全施設等に係る復旧・復興事業を実施していない。
注(2)
T.P.(Tokyo Peil)は、東京湾平均海面であり、全国の標高の基準となる海水面の高さである。

c 海岸背後地の土地の利用状況

復旧・復興事業が実施されている460海岸のうち福島県の59海岸を除く401海岸についてみると防潮堤が未完成となっている海岸は357海岸となっている。これらの背後地の土地の利用状況をみると、図表4-12のとおり、人口集中地区となっているものが21海岸、住まいの復興に係る4事業を計画中のもの、実施済み又は実施中のものがそれぞれ55海岸、104海岸、延べ159海岸となっている。また、緊急輸送道路が存在しているものが122海岸あり、防災拠点等災害発生時に危機管理を担う市役所又は役場が存在しているものが7海岸、地域住民の暮らしに関する施設である病院等医療施設、社会福祉施設及び文教施設が存在しているものがそれぞれ5海岸、7海岸、12海岸、延べ24海岸となっている。

図表4-12 海岸背後地の土地の利用状況(平成26年度末現在)

(単位:海岸)
県名 復旧・復興事業による防潮堤の完成・未完成の区分 復旧・復興事業が実施されている海岸数 海岸背後地の土地の利用状況
人口集中地区注(2) 復興交付金事業の住まいの復興に係る4事業 緊急輸送道路 鉄道 市役所又は役場 病院等医療施設 社会福祉施設 文教施設
計画中 実施済み又は実施中
青森県
(3市町)
完成分 6 4 3 1 3
未完成分 3 2 3 1
9 2 7 3 1 4
岩手県
(5市町)
完成分 2
未完成分 71 8 10 29 25 15 3 1 2
73 8 10 29 25 15 3 1 2
宮城県
(8市町)
完成分 35 1 1
未完成分 252 6 45 74 78 35 4 2 3 5
287 6 45 74 79 36 4 2 3 5
茨城県
(5市町)
完成分 1
未完成分 25 5 1 10 4 3 3 4
26 5 1 10 4 3 3 4
千葉県
(3市)
完成分
未完成分 6 6
6 6
沿岸5県
(24市町)
完成分 44 5 4 1 3
未完成分 357 21 55 104 122 54 7 5 7 12
合計 401 21 55 104 127 58 8 5 7 15
注(1)
福島県は、避難指示区域に指定されている地域があり、海岸背後地の土地の利用状況を十分把握していないため、集計から除いている。
注(2)
「人口集中地区」は、Densely Inhabited District(DID)であり、市町村の境域内で人口密度が原則として4,000人/km2以上の国勢調査の基本単位区が隣接してその人口が5,000人以上となる地域をいう。
(ウ)ソフト施策としての津波対策に係る復旧・復興事業の状況

a ソフト施策としての津波対策の概要

津波対策の基本的考え方では、総合的な津波対策を更に具体的に進めるためには、今般の津波における住民等の避難行動や情報伝達等について、十分調査分析を行う必要があるとされている。

住民等の避難行動については、中央防災会議に設置された津波避難対策検討ワーキンググループの「津波避難対策検討ワーキンググループ報告」(平成24年7月)において、津波による人的被害を軽減するためには、住民等一人ひとりの迅速かつ主体的な避難行動が基本となること、避難の実行性を高めるために、避難しやすい環境をまちづくりと一体となって整備し、最大クラスの津波への対応を目指す必要があること、津波による浸水が想定される市町村においては、地域の実情を考慮した具体的な避難計画を速やかに策定する必要があることなどが指摘されており、津波対策推進法においても避難計画の作成及び公表に努めることとなっている。また、津波が発生してから終息するまでのおおむね数時間から十数時間の間、住民等の生命及び身体の安全を確保するための避難対策について定めた計画(以下「津波避難計画」という。)を市町村が策定する際に参考となる指針として、国から「市町村における津波避難計画策定指針」(平成14年消防庁。25年改訂。以下「策定指針」という。)が示されている。

また、津波防災基本指針では、津波防災地域づくりを推進するに当たり、国が、広域的な見地からの基礎調査の結果や津波シミュレーションに用いる津波断層モデルを始めとする情報提供、技術的助言等を都道府県に行い、都道府県知事は、これらの情報提供等を踏まえて津波防災地域づくり法に基づく津波により想定される浸水の区域及び水深(以下「津波浸水想定」という。)の設定を行うこととなっている。

沿岸6県の津波浸水想定の設定は、日本海溝・千島海溝や南海トラフを震源とする海溝型巨大地震により発生する最大クラスの津波を想定して行うが、中央防災会議等により津波断層モデルが公表されていない海域については、過去に発生した津波の痕跡調査等から最大クラスの津波高さを推定して行うなどとされている。

そして、津波防災地域づくり法において、都道府県知事は、津波浸水想定を踏まえて、津波が発生した場合には住民等の生命又は身体に危害が生ずるおそれがあると認められる土地の区域で、当該区域における津波による人的災害を防止するために警戒避難体制を特に整備すべき土地の区域を津波災害警戒区域として指定することができるとされている。津波災害警戒区域をその区域に含む市町村の長は、人的災害を生ずるおそれがある津波に関する情報の伝達方法、避難施設その他の避難場所及び避難路その他の避難経路に関する事項等、津波災害警戒区域における円滑な警戒避難を確保する上で必要な事項を住民等に周知させるために、津波ハザードマップの配布等の措置を講じなければならないとされている。

沿岸6県における津波浸水想定の設定及び津波災害警戒区域の指定の状況について、国土交通省の公表によれば、27年8月末現在で、津波浸水想定は青森、茨城両県で設定されており、津波災害警戒区域は沿岸6県では指定されていない状況となっている。なお、東北3県及び千葉県は、津波の痕跡調査を実施中であること、海溝型巨大地震による最大クラスの津波についての国の検討結果を注視していることなどから津波浸水想定を設定していないとしている。

b ソフト施策としての津波対策に係る復旧・復興事業の計画及び実施状況

沿岸6県においては、青森、茨城両県で津波浸水想定が設定されているものの、津波災害警戒区域が指定されていないことから、沿岸6県管内の33市町には津波防災地域づくり法に基づく津波ハザードマップの住民への配布等の義務は課されていない。しかし、前記のとおり、海岸の背後地には、人口集中地区や住民の暮らしに関する施設等が存在しており、防潮堤を超える最大クラスの津波に備えて当該地域の人的被害を防止するためには津波ハザードマップの作成や配布等のソフト施策が非常に重要となる。東日本大震災時の津波避難等に関する住民の意識、津波避難計画の策定状況、津波ハザードマップの作成状況等のソフト施策としての津波対策の状況は次のとおりである。

(a)東日本大震災時の津波避難等に関する住民の意識

内閣府は、24年12月に東日本大震災時の津波避難等について、東北3県管内の27市町の居住者に対して、アンケート調査を実施している。その結果を「避難意識」「情報伝達」及び「避難場所」の3項目に大別して整理すると、図表4-13のとおりとなる。

避難意識についてみると、地震発生直後に「津波が必ず来る」が28.2%、「津波が来るかもしれない」が27.3%と津波の到達を意識した人が計55.5%となっている。避難のきっかけとしては、東北地方太平洋沖地震による津波により実際に浸水した地域等において「大津波警報を見聞きした」が36.5%、「揺れ具合から津波が来ると思った」が27.4%となっている。避難開始までの時間は「5分以内」から「30分以内」までを合わせて62.4%であり、避難できなかった理由としては「気付いたときは既に津波が迫っていた」が最多で61.7%となっている。避難しなかった理由としては、「そのとき標高の高い場所や海・川から離れた場所等にいた」を除くと、「過去の地震でも大きな津波が来なかった」が21.5%、「大津波警報が発表されたのを知らなかった」が17.0%などとなっていて、経験に基づく判断や情報伝達の不足によるものが多くなっている。

情報伝達についてみると、大津波警報を「市町村の防災行政無線」で認知した人が53.6%となっており、大津波警報を見聞きした人の83.8%が避難したとしている。

また、避難場所についてみると、最初に避難しようとした場所としては、「市町村が指定した避難場所」が36.5%、「高台」が35.9%となっているが、避難場所の安全性については23.0%の人が「津波が迫ってきたので再避難した」としており、津波に巻き込まれた人の32.7%は「避難しようと移動している途中」に被災したとしている。

このようにアンケート調査からは、地震及び津波の発生後の避難時において、津波浸水想定、大津波警報の内容等に関する的確な情報の提供や、避難するための移動時間の短縮、再避難を要しない避難場所の設定等が重要であることがうかがえる。

図表4-13 東日本大震災時の地震・津波避難に関する住民アンケート調査結果

(単位:%)
避難意識
地震発生直後の津波到達に対する意識 津波が必ず来る 津波が来るかもしれない 津波は来ないだろう 津波のことはほとんど考えなかった
28.2 27.3 14.5 28.9
避難のきっかけ※   大津波警報を見聞きした 揺れ具合から津波が来ると思った 周囲にいた人から避難するよう呼びかけられた 家族が避難しようと言った
実浸水域等 36.5 27.4 18.7 16.4
それ以外の地域 33.3 22.5 15.6 19.7
避難開始までの時間 5分以内 10分以内 20分以内 30分以内
15.6 16.9 18.0 11.9
避難できなかった理由※ 気付いたときは既に津波が迫っていた 自分自身若しくは一緒にいた人が自力で歩くのが困難だった 迷っているうちに避難し損ねた 後片付けなどをして避難し損ねた
61.7 19.5 16.5 11.8
避難しなかった理由※ そのとき標高の高い場所や海・川から離れた場所等にいた 過去の地震でも大きな津波が来なかった 大津波警報が発表されたのを知らなかった 市町村からの避難の呼びかけを聞かなかった
45.7 21.5 17.0 14.3
情報伝達
大津波警報の認知状況※ 市町村の防災行政無線
(屋外拡声器や戸別受信機)
市町村・警察・消防の人や広報車 カーテレビ、カーラジオ ラジオ(カーラジオを除く。)
53.6 22.4 18.5 18.3
大津波警報で見聞きした内容※ 予想される津波の高さ 津波到達予想時刻 観測された津波の高さ 観測された津波の到達時刻
50.9 31.3 21.8 11.6
大津波警報と避難行動の
関係
  避難した 避難しようと思ったが、できなかった 避難しなかった 覚えていない・分からない
見聞きした人 83.8 4.7 11.1 0.4
見聞きしなかった人 71.7 6.6 20.6 1.1
避難場所
最初に避難しようとした場所 市町村が指定した避難場所 高台 親戚・友人・知人の家 自宅の2階以上
36.5 35.9 8.9 3.1
避難場所の安全性 津波が迫ってこなかった 津波が迫ってきたので再避難した 津波が迫ってきたが再避難できなかった 覚えていない・分からない
60.9 23.0 12.5 3.6
  津波に巻き込まれた人 避難しようと移動している途中 地震が起きた時にいた場所 避難先 その他
32.7 29.0 14.2 22.7
注(1)
内閣府が公表している「東日本大震災時の地震・津波避難に関する住民アンケート調査」に基づき作成した。
注(2)
※については調査項目に対する回答が複数可とされたもの

(b)津波避難計画の策定状況

津波避難計画は、住民の円滑かつ迅速な避難の確保のために必要な計画であり、津波対策推進法においても都道府県及び市町村が当該計画を定めることに努めることとなっている。33市町の津波避難計画の策定状況をみると、図表4-14のとおり、26年度末現在、33市町のうち津波避難計画を策定しているのは19市町で、このうち、東日本大震災前に津波避難計画を策定していたのは3市町となっており、多くの市町は東日本大震災後に策定している。

また、津波避難計画を策定していない14市町における、頻度の高い津波を防御するための防潮堤や市街地の復興を推進するための都市再生区画整理事業の完了予定年度をみると、防潮堤については11市町が、都市再生区画整理事業については8市町が28年度以降としている。

甚大な津波被害を受けた市町では、各地域において策定された復興計画に基づく住民の居住地域及び道路等基盤施設の整備等のまちづくりが現在も進捗中であり、津波避難計画は新しく整備される居住地域等に対応したものとしなければならないなどの事情により、頻度の高い津波に対する防御が十分ではない市町においても今なお津波避難計画が策定されていない状況となっている。

図表4-14 津波避難計画等の策定等に係る事業費及び津波避難計画の策定等の状況(平成26年度末現在)

(単位:百万円、市町)
県名 津波避難計画、津波ハザードマップの策定等に要した事業費 会計実地検査実施市町数 津波避難計画を策定した市町数   津波避難計画を策定していない市町数  
策定時期 防潮堤の完成予定年度 都市再生区画整理事業の完了予定年度
平成22年度以前 23年度以
  うち国費 27年度 28年度以降 事業なし 27年度 28年度以降 事業なし
青森県 61 43 4 4 4
岩手県 101 63 5 3 2 1 2 2 2
宮城県 166 124 9 5 5 4 4 4
福島県 2 2 4 1 1 3 3 2 1
茨城県 73 50 5 3 3 2 2 2
千葉県 41 2 6 3 3 3 3 3
446 287 33 19 3 16 14 11 3 8 6
(注)
事業費については、市町村地域防災計画、津波避難計画及び津波ハザードマップをまとめて策定している市町があるため、これらの策定等に要した事業費を一括して記載している。

前記のとおり、津波避難計画の策定は国が示した策定指針を参考として行われる。策定指針では、津波避難計画において定める必要がある事項として、図表4-15のとおり、津波浸水想定に定める浸水の区域(以下「津波浸水想定区域」という。)等を示した図(以下「津波浸水想定区域図」という。)、津波が発生した場合に避難が必要であるとして、津波浸水想定区域に基づき市町村が指定する地域(以下「避難対象地域」という。)、津波の到達時間までに避難対象地域の外に避難することが困難な地域(以下「避難困難地域」という。)、津波の危険から緊急に避難するための高台や施設等(以下「緊急避難場所」という。)、津波情報の収集・伝達等の11事項が定められている。

図表4-15 津波避難計画において定める必要がある事項

事項 内容
1 津波浸水想定区域図 ① 最大クラスの津波の設定
② 計算条件の設定(断層モデルの設定等)
③ 津波シミュレーションの実施
④ 津波浸水想定の設定
⑤ 津波到達予想時間の想定
2 避難対象地域 津波浸水想定区域図に基づき避難対象地域を指定
3 避難困難地域 予想される津波の到達時間までに避難が困難な地域の抽出
4 緊急避難場所、避難路等 緊急避難場所等、避難路・避難経路の指定・設定
5 初動体制 職員の参集基準、参集連絡手段等の明確化
6 避難誘導等に従事する者の安全確保 退避ルールの確立、情報伝達手段の整備
7 津波情報の収集・伝達 大津波警報・津波警報、津波注意報、津波情報の収集伝達手段・体制等
8 避難指示、勧告の発令 避難指示、勧告の発令の基準、手順、手段等
9 津波対策の教育・啓発 津波避難計画、津波ハザードマップ等の周知、津波の知識の教育・啓発の方法、手段等
10 避難訓練 避難訓練の実施体制、内容等
11 その他の留意点 観光客、海水浴客、釣り客等の避難対策、災害時要援護者の避難対策
(注)
消防庁が公表している「市町村における津波避難計画策定指針」を基に作成した。

また、津波避難対策推進マニュアル検討会報告書(平成25年3月消防庁)においては、津波避難計画の概念図が示されている(図表4-16参照)。この概念図を基に一般的な津波避難計画における地震発生時以降の避難方法を示すと、次のとおりである。

① 地震発生時、強い揺れや長い揺れを感じた場合は直ちに避難を開始する。津波浸水想定区域内の避難者は、あらかじめ津波ハザードマップや防災訓練で把握した避難目標地点を目指して指定された避難路を使用して、できるだけ渋滞を避けるために車は使用しないで緊急避難場所へ避難する。なお、避難目標地点は、津波浸水想定区域外に設定し、避難路は、海岸や河口を避けて津波の進行方向と同方向に向かっていく道路に設定する。

② 地震発生時から数分以内に大津波警報等により津波の到達予想時刻、津波高さが発表される。避難困難地域の避難者及び到達予想時刻を基に避難目標地点にたどり着けないと判断した避難者は、避難困難地域の避難者等が津波避難ビル等に緊急避難する。

図表4-16 津波避難計画の概念図

図表4-16 津波避難計画の概念図 画像

そして、津波避難計画を策定している19市町の津波避難計画における策定指針に定められた11事項の対応の状況を整理すると、おおむね図表4-17のとおりとなる。

津波浸水想定区域図については、津波防災地域づくり法に基づく津波浸水想定が設定されている市町では、この津波浸水想定に基づいて作成されているが、津波浸水想定が設定されていない市町では、東日本大震災により実際に浸水した実績を反映して作成されている。

避難対象地域については、津波浸水想定又は過去の津波高さの実績に応じて避難可能範囲及び避難困難地域を設定し、避難困難地域については、緊急避難場所、津波避難ビル等に避難できるよう具体的に名称、所在を示している市町が多い。また、避難路等については、既存の道路網を活用して迂(う)回路を確保し、津波の進行方向と同方向へ避難する道路を選定するなどの内容となっていた。

一方、津波情報の収集・伝達については、既に整備されている情報網の活用によるものが多く見受けられ、また、津波避難計画に定める事項であるその他の留意点をみると、災害時要援護者の避難対策については記載されているものの、観光客等の避難対策については記載されていないものが見受けられた。

図表4-17 市町が策定した津波避難計画の内容

項目 津波避難計画の内容
1 津波浸水想定区域図 津波浸水想定が設定されていない市町では、東日本大震災の津波の浸水実績図等が作成されている。
2 避難対象地域 津波浸水想定又は過去の津波の実績に応じて、避難可能範囲及び避難困難地域が設定され、図示されている。
3 避難困難地域 緊急避難場所、津波避難ビル等に避難できるよう具体的な名称、所在が明示されている。
4 緊急避難場所等 計画策定時点で利用可能な津波避難場所、避難所、緊急避難場所及び避難目標地点が選定されている。
避難路等 既存の道路網において、できるだけ広く迂(う)回路が確保されており、海岸沿い、河口沿いをできるだけ避け、津波の進行方向と同方向へ避難する道路が選定されている。
5 初動体制 ・避難指示、注意報等が発令された場合の配備基準が定められており、配備基準に応じた人員の配備、本部・支部体制等が定められている。
・職員の動員、参集について、構成、場所等が定められている。
6 避難誘導等に従事する者の安全確保 消防団員の避難誘導等の活動について、あらかじめ定められた活動計画、退避ルールの遵守等が定められている。
7 津波情報の収集・伝達 全国瞬時警報システム(J-ALERT)、緊急速報メール等避難者に迅速に伝達する体制が整えられている。
8 避難指示、勧告の発令 避難指示は、大津波警報及び津波警報の発表時には自動的に発令し、震度4以上の強い地震等の時は可能な限り速やかに発令するなどとしている。
9 津波対策の教育・啓発 ・ハザードマップの作成、活用
・防災に関するテキスト、マニュアル、広報誌の配布、メディアの活用等
・講演会、シンポジウム等の実施
・過去の災害教訓の伝承
・住民参加型ワークショップ
などが記載されている。
10 避難訓練 市町、関係機関、学校、事業所等に区分して避難訓練の実施に努めるとされている。
11 その他の留意点 ・高齢者等災害時要援護者の避難誘導支援に関する行動が定められている。
・住民参加型ワークショップを通じて防災意識等の地域への展開を図るものとされている。
(注)
「八戸市津波避難計画」「石巻市津波避難計画」「大槌町津波避難計画」等を基に作成した。

(c)津波ハザードマップの作成状況

津波ハザードマップの作成については、記載事項、表現方法、利活用方法等の標準的な事項を取りまとめた「津波・高潮ハザードマップマニュアル」(平成16年内閣府、農林水産省、国土交通省監修)が国から地方公共団体等に通知されている。同マニュアルによれば、津波ハザードマップには住民の円滑な避難に必要な情報として、津波浸水深、津波到達時間、避難路等の避難に不可欠な情報のほか、土砂災害の危険がある急傾斜地等の関連情報等を記載する必要があるとされている。

また、国から地方公共団体等に通知された「津波防災地域づくりに関する法律等の施行について」(平成24年3月内閣府、国土交通省通知)によれば、津波ハザードマップに記載される情報を住民等に対して周知させるために、印刷物の配布その他の適切な方法により各世帯に提供すること、インターネットの利用その他の適切な方法により住民等がその提供を受けることができる状態に置くこととされている。

会計実地検査を行った33市町は、前記のとおり、津波防災地域づくり法による津波ハザードマップの作成義務を負うものではないが、図表4-18のとおり、26年度末現在、33市町のうち26市町が津波ハザードマップを作成し、これを公表しており、住民等はインターネットの利用等によりその提供を受けることができる状況となっている。一方、7市町が津波ハザードマップを作成していないが、これは、浸水した地域が少なかったこと、まちづくりに関する事業を実施中であるため市街地等が形成される範囲と津波により浸水する範囲(以下「浸水域」という。)を合わせて図示することが現状では困難であることなどによるものである。

県別にみると、津波浸水想定が設定されている青森、茨城両県では、計9市町全てが津波ハザードマップを作成している。津波浸水想定が設定されていない東北3県及び千葉県の計17市町は、23年12月以降に各県が実施した主な地区における津波シミュレーションの結果や東北地方太平洋沖地震による津波の浸水実績を参考にするなどして、津波ハザードマップを作成している。

26市町の津波ハザードマップの内容をみると、津波防災地域づくり法に定める避難施設等の必要な事項が記載されている。そして、その形式をみると、18市町は風水害、火山災害等津波以外の災害に関する情報や各世帯における防災対策等を記載して冊子形式としているが、8市町は津波ハザードマップのみの単体形式としている。また、作成単位をみると、18市町は浸水域を住民の居住地区等ごとに拡大して作成していて、8市町は当該市町の浸水域を1枚から2枚程度にまとめて作成している。

また、前記の津波ハザードマップに記載すべきとされた事項以外の情報をみると、4市町は明治三陸地震による津波等、過去に被害をもたらした津波、高潮等の情報を記載していて、10市町は避難経路を矢印を用いて強調するなど独自の工夫をしている。

図表4-18 津波ハザードマップの作成状況(平成26年度末現在)

(単位:市町)
県名 会計実地検査実施市町数 作成した市町数
(全て公表している)
作成時期 津波ハザードマップの形式 津波ハザードマップの作成単位 津波ハザードマップに記載すべき事項以外の情報
平成22年度以前 23年度以降 冊子形式 マップのみの形式 地区ごとに作成 1~2枚程度にまとめて作成 東北地方太平洋沖地震以外の地震による津波等の情報を記載 避難経路
道路とは別に強調して表示 道路のみ表示
青森県 4 4 4 2 2 4 1 2 2
岩手県 5 4 2 2 4 3 1 3 1 3
宮城県 9 7 7 5 2 4 3 2 5
福島県 4 2 1 1 1 1 2 1 1
茨城県 5 5 5 5 4 1 4 1
千葉県 6 4 4 1 3 1 3 4
33 26 3 23 18 8 18 8 4 10 16

(d)避難所、津波避難ビル等の指定等の状況

策定指針によれば、避難所、津波避難ビル等の指定は市町村が行うこととされている。避難所は、津波災害時に住民の避難先になるとともに、被災者が応急仮設住宅等に移転できるまでの間等に滞在する施設であり、市町村は、避難所として避難可能な広場と建物を備えた文教施設等を指定し、津波災害時に緊急に避難する津波避難ビルとしてマンション、ホテル等を指定している。また、避難所、津波避難ビル等の一部は、復興交付金事業の都市防災推進事業(都市防災総合推進事業)、復興基金事業等により整備されている。

33市町における避難所、津波避難ビル等の整備の状況をみると、図表4-19のとおり、15市町が避難所又は津波避難ビル等を整備しているほか、避難のための施設として、11市町が避難路を、23市町が避難標識等をそれぞれ整備している。

津波対策に係る避難所、津波避難ビル等の指定の状況を22年度末と26年度末で比較してみると、全体では、避難所が1,289施設から1,477施設へ、津波避難ビル等が50施設から188施設へとそれぞれ増加しているが、県別にみると、岩手県で津波避難ビル等が大幅に減少している。これは、東日本大震災前に指定されていた施設が津波により流失したり損壊したりして、現在もまちづくりと一体的に整備されていることや、津波浸水想定の設定を踏まえて避難所、津波避難ビル等の指定を検討する必要があることなどによるものである。

図表4-19 避難所、津波避難ビル等の指定等の状況(平成26年度末現在)

(単位:市町、施設、百万円)
県名 会計実地検査実施市町数 避難所、津波避難ビル等を整備している市町数、事業費等 津波対策に係る避難所を指定している市町数及び指定数注(2) 津波避難ビル等を指定している市町数及び指定数注(2) 避難路を整備している市町数、事業費等 避難標識等を整備している市町数、事業費等
市町数
注(1)
事業費   市町数 平成22年度末現在 26年度末現在 市町数 22年度末現在 26年度末現在 市町数 事業費
注(3)
  延長km 市町数
注(1)
事業費  
うち国費 うち国費 うち国費
青森県 4 2 177 134 4 153 131 2 2 29 2 1,748 1,355 4.7 4 198 144
岩手県 5 1 14 11 5 258 250 20 2 3,826 2,372 1.5 4 96 74
宮城県 9 4 2,447 1,785 9 343 357 4 27 29 4 8,284 2,891 29.2 6 2,952 2,262
福島県 4 2 527 70 4 86 300 1 14 3 6,924 5,360 28.5 1 85 68
茨城県 5 3 140 110 5 110 107 3 34 5 665 510
千葉県 6 3 463 324 4 339 332 4 1 82 3 86 55
33 15 3,771 2,437 31 1,289 1,477 14 50 188 11 20,784 11,979 64.0 23 4,085 3,117
注(1)
いずれかの施設等を整備した市町数である。
注(2)
避難所は津波災害に対応したものを計上している。また、避難所、津波避難ビル等の指定数は、既存の施設を指定したものを含んでいる。
注(3)
避難路の事業費は、延長km単位で把握していないものを含む。

このように沿岸6県の市町では、避難所、津波避難ビル等が指定されているが、復旧・復興事業により整備された避難所の中に、津波避難計画における避難所として指定できなくなったものが見受けられた。事例を示すと次のとおりである。

<事例1> 津波防災のために整備した避難所が津波避難計画における避難所として指定できなくなったもの

県・市町村名 事業費 事業概要
青森県
三戸郡階上町
1億4338万余円 都市防災推進事業による避難施設の整備

階上町は、東日本大震災により大規模な津波が発生し、災害時の避難所として指定していた集会所等が全壊したことなどから、復興交付金事業により避難施設の整備を進める都市防災推進事業(都市防災総合推進事業)を平成23年度から実施しており、24年度までの事業費は計1億4338万余円(復興交付金の支出済額計1億0753万余円)となっている。津波により大きな被害を受けた同町大蛇地区においては、津波災害にも対応できる避難所を確保するために、24年3月から集会所を高台に移転して新築する都市防災推進事業を事業費1億2860万余円(復興交付金の支出済額9645万余円)で実施していて、25年3月に集会所の移転新築工事が完成した。

移転新築後の集会所の設置位置について確認したところ、東日本大震災時には浸水しなかったものの、24年10月に青森県が設定した津波浸水想定区域内(浸水深2m~5m)に位置していて、最大クラスの津波が悪条件下において発生した場合には浸水するおそれがあることが判明し、階上町の津波避難計画における避難所としては指定できない状況となっていた。

なお、階上町は、同町地域防災計画において同集会所を地震、風水害時の避難所として指定し地域防災拠点として活用するとし、また、津波避難計画における大蛇地区の避難所としては、津波浸水想定区域外に位置する町民体育館等を指定した。

(e)津波情報の収集・伝達に係る事業の状況

沿岸6県管内の21市町において、特別交付税により設置造成等された復興基金の活用により、災害時に必要な防災資機材の整備、防災情報の伝達円滑化を図るラジオ、無線通信機器等の電子機器の購入等を内容とする防災・安全対策事業が実施されている。このうち、電子機器の購入等の状況をみると、図表4-20のとおり、23年度から26年度までの4か年度の購入数量は計43,219台となっているが、住民等に対する未配布数量は27年9月末現在で26,316台に上っている。

図表4-20 復興基金を活用した事業による電子機器の購入、配布等の状況(平成27年9月末現在)

(単位:市町、台、百万円)
県名 購入年度 事業実施市町数 購入数量 購入額 配布数量 未配布数量 未配布数量に係る額
A   C A-C
青森県 平成24 1 156 2 156
25 1 88 0 88
1 244 2 244
岩手県 23 2 63 2 62 1 0
25 1 2,150 39 296 1,854 33
26 1 21 0 21
3 2,234 42 379 1,855 34
宮城県 24 1 20 0 20
25 2 1,009 7 1,009
26 2 30,001 154 9,060 20,941 107
3 31,030 162 10,089 20,941 107
福島県 24 2 42 20 42
25 1 227 38 227
3 269 58 269
茨城県 25 1 2 0 2
千葉県 24 5 728 16 718 10 0
25 4 8,583 46 5,083 3,500 14
26 3 129 3 119 10 0
10 9,440 66 5,920 3,520 14
23 2 63 2 62 1 0
24 9 946 40 936 10 0
25 10 12,059 132 6,705 5,354 48
26 6 30,151 157 9,200 20,951 107
合計 21 43,219 333 16,903 26,316 156
(注)
複数年度に事業を実施している市町があるため、事業実施市町数の計は一致しない。

上記の未配布となっている電子機器には、災害時に備えて備蓄されているものなどもあるが、地域住民に配布するために購入した電子機器の配布が進まず、事業の効果が十分に発現していないものが見受けられた。事例を示すと次のとおりである。

<事例2> 防災情報の伝達手段が十分に行き渡っていないもの

県・市町村名 事業費 事業概要
宮城県石巻市 1億5454万余円 復興基金による防災ラジオの購入

石巻市は、市内地域の防災情報の伝達体制の強化を図ることを目的として、復興基金を活用した事業により、防災行政無線放送が受信可能な防災ラジオ30,000台を平成27年3月に1億5001万余円で購入している。

同市は、購入台数の算定に当たり、任意に抽出した1,332世帯を対象に実施したアンケート調査の結果等に基づき、市内全世帯数の約5割に相当する30,000台を購入台数とした。そして、経済性等を考慮して30,000台を一括で購入する契約を締結し、27年3月から7月までの間に全ての台数が納品された。また、その配布に当たっては、防災ラジオの配布希望者に1台当たり1,000円の負担を求めるなどしている。

27年3月の納入以降の配布状況についてみたところ、市報で公告を行って同年3月28日に配布希望者への配布を開始してから同年10月末までの配布台数は9,525台であり、残りの20,475台(購入費1億0238万余円)は、配布希望者がなかったことから同市が保有しており、市内地域の防災情報の伝達体制の強化を図る目的が十分に達せられていない状況となっていた。

なお、受信不良地域の対策が済んでいないことにより防災ラジオの配布が進んでいない地区も一部見受けられ、これについては別途対応が必要であるが、同市は、市報や市のホームページ等により市民への周知を図りながら配布を進めるとしている。

ウ 住宅の供給等に関する復旧・復興事業の成果

1(1)ウの「避難の状況」のとおり、27年12月10日現在の避難者数は、復興庁によれば、全国で182,000人、また、応急仮設住宅に居住している同年11月末現在の避難者数は、内閣府によれば、139,960人となっていて、なお多くの被災者が不自由な生活を余儀なくされている。被災者に対する生活支援、応急仮設住宅の供与及び災害公営住宅、防集事業等による被災者への恒久住宅の供給に関する復旧・復興事業の成果の状況については、次のとおりである。

(ア)被災者に対する生活支援

東日本大震災の被災者には、被災者生活再建支援法(平成10年法律第66号)に基づく被災者生活再建支援制度が適用された。同制度は、自然災害によりその生活基盤に著しい被害を受けた者に対して、生活の安定等を目的として支援金を支給するものである。そして、支援金には、住宅の被害程度等に応じて最大100万円が支給される基礎支援金と住宅の再建方法等に応じて最大200万円が支給される加算支援金がある。

沿岸6県の支援金の支給世帯数及び支給額をみると、図表4-21のとおり、27年6月末現在、基礎支援金が200,009世帯、1539億余円、加算支援金が122,911世帯、1550億余円となっている。基礎支援金の支給世帯数に対する加算支援金の支給世帯数の割合は61.4%となっていて、基礎支援金の支給を受けたものの住宅の再建に至っていない世帯が相当数ある状況となっている。

図表4-21 被災者生活再建支援金の支給世帯数及び支給額(平成27年6月末現在)

(単位:世帯、百万円、%)
県名 基礎支援金 加算支援金 基礎支援金支給世帯に対する加算支援金支給世帯の割合
支給世帯数 支給額 支給世帯数 支給額
全壊 その他 全壊 その他 購入等 その他 購入等 その他
    A           B       B/A
青森県 300 227 527 281 141 422 115 285 400 210 253 464 75.9
岩手県 19,331 3,894 23,225 18,028 2,474 20,503 6,200 3,633 9,833 12,045 3,139 15,184 42.3
宮城県 68,665 60,874 129,539 63,010 34,434 97,445 26,973 53,597 80,570 51,216 44,444 95,660 62.1
福島県 14,326 16,607 30,933 13,512 10,410 23,922 9,057 10,348 19,405 17,705 9,024 26,729 62.7
茨城県 2,171 7,366 9,537 2,040 5,371 7,411 3,693 3,685 7,378 7,201 3,048 10,250 77.3
千葉県 828 5,420 6,248 769 3,494 4,263 2,043 3,282 5,325 3,954 2,762 6,716 85.2
105,621 94,388 200,009 97,641 56,326 153,968 48,081 74,830 122,911 92,332 62,673 155,005 61.4

このほかに市町村は、災害弔慰金の支給等に関する法律(昭和48年法律第82号)に基づき、自然災害により死亡した住民の遺族に対して災害弔慰金を、精神又は身体に同法で定める重度の障害を受けた住民に対して災害障害見舞金をそれぞれ支給するとともに、被災世帯の世帯主に対して生活の立て直しに資するための災害援護資金を貸し付けている。

それぞれの支給等の実績をみると、図表4-22のとおり、27年6月末現在の災害弔慰金の支給件数及び支給額は19,986件、595億余円、災害障害見舞金の支給件数及び支給額は92件、1億余円、災害援護資金の貸付件数及び貸付額は28,814件、504億余円となっている。

また、27年6月末現在、申請されたもののうち支給又は貸付けに至っていないものは災害弔慰金、災害障害見舞金では少ないものの、災害援護資金が25億余円あり、今後も災害援護資金の貸付けが見込まれる状況となっている。

図表4-22 災害弔慰金等の支給額等の状況(平成27年6月末現在)

(単位:市町村、件、百万円)
県名 災害弔慰金 災害障害見舞金 災害援護資金
市町村数 支給件数 支給額 未処理分支給額 市町村数 支給件数 支給額 未処理分支給額 市町村数 貸付件数 貸付額 未処理分貸付額
青森県 6 14 50 4 44 104
岩手県 25 5,608 16,963 82 9 20 33 17 959 2,420 1,187
宮城県 33 10,703 31,802 40 11 30 53 2 32 23,507 39,821 1,187
福島県 27 3,589 10,365 300 8 39 61 21 28 3,087 5,726 221
茨城県 19 41 217 2 2 2 35 828 1,603
千葉県 15 31 102 102 1 1 1 1 18 389 774 0
125 19,986 59,501 525 31 92 152 25 134 28,814 50,450 2,597
(イ)避難者に対する応急仮設住宅の供与

東日本大震災により、多くの人が住居を失い、避難生活を余儀なくされることとなったため、国は、災害救助法に基づく救助として応急仮設住宅の供与を推進した。また、応急仮設住宅の供与期間は原則として2年以内とされているが、国は、24年4月に、災害公営住宅の整備になお時間を要する状況にあることなどを踏まえて供与期間を1年間延長することとし、25年4月に、地域の実情を踏まえて必要がある場合は、更に延長できることとした。

沿岸6県の27年6月末現在における応急仮設住宅の供与の状況をみると、図表4-23のとおり、建設型応急仮設住宅は、沿岸6県の58市町村に計53,119戸が設置されており、建設費が3112億余円、維持管理費が551億余円となっている。完成戸数53,119戸のうち52,879戸が東北3県管内の55市町村で設置されており、建設費、維持管理費とも東北3県の分が大部分を占めている。完成戸数53,119戸のうち、居住者が退去したことなどにより27年6月末までに撤去したものは1,105戸あり、その撤去費は9億余円となっている。また、借上型応急仮設住宅は、沿岸6県で計35,346戸、借上げに要した費用は1526億余円となっている。

図表4-23 応急仮設住宅の建設費、維持管理費等の状況(平成27年6月末現在)

(単位:市町村、戸、百万円)
県名 建設型応急仮設住宅 借上型応急仮設住宅
設置市町村数 完成戸数 建設費 維持管理費 撤去戸数 撤去費 戸数 借上げに要した費用
平成23年度 24年度 25年度 26年度
青森県 118 204
岩手県 13 13,984 87,326 232 925 573 702 2,433 264 232 1,965 7,050
宮城県 15 22,095 129,314 22,040 2,232 1,235 1,233 26,743 354 201 15,460 69,841
福島県 27 16,800 93,546 12,175 11,385 1,506 938 26,005 247 335 16,528 70,375
茨城県 1 10 25 0 0 0 0 0 10 1 690 3,080
千葉県 2 230 1,066 3 6 6 0 16 230 196 585 2,114
58 53,119 311,278 34,452 14,550 3,321 2,874 55,198 1,105 967 35,346 152,667
(注)
借上げに要した費用は、県が物件を契約して避難者に提供するみなし仮設及び避難者が契約していた物件を県との契約に切り替えるなどの特例措置に係る額を計上している。

東北3県の応急仮設住宅の入居等の状況をみると、図表4-24のとおり、27年6月末現在で建設型応急仮設住宅の入居戸数が34,407戸、空き戸数が18,472戸、入居人数が71,900人であり、借上型応急仮設住宅の入居戸数が33,953戸、入居人数が77,906人となっている。26年から27年の入居戸数の増減率をみると、建設型応急仮設住宅が18.6%、借上型応急仮設住宅が10.9%それぞれ減少しており、住まいの復興に係る4事業の進捗に伴い、仮住まいから安定した生活に向けて踏み出した者も多数いる。しかし、建設型応急仮設住宅及び借上型応急仮設住宅には、依然として約14万人が入居している状況であり、その解消にはなお時間を要することが見込まれる。

建設型応急仮設住宅の空き戸数をみると、26年6月末に10,615戸であったのが27年6月末には18,472戸に増加している一方、東北3県の建設型応急仮設住宅の撤去戸数は、図表4-23のとおり、27年6月末現在で865戸となっている。建設型応急仮設住宅が建設された地域では避難者同士のコミュニティの形成もあり、空き戸数を再配置するなどして逐次速やかに撤去することが難しいこと、撤去費として多額の経費を要することなどが撤去が進まないことの要因として挙げられるが、老朽化等に伴う維持管理費の増加を招くおそれもあることから、各自治体は地域の実情に応じた対応が求められる。

図表4-24 東北3県における応急仮設住宅の入居等の状況(平成27年6月末現在)

(単位:戸、人、%)
県名 建設型応急仮設住宅 借上型応急仮設住宅
完成戸数 入居戸数 空き戸数 入居人数 入居戸数 入居人数
平成26年6月末 27年6月末 増減率 26年6月末 27年6月末 増減率 26年6月末 27年6月末 26年6月末 27年6月末 増減率 26年6月末 27年6月末
A B C D=C/B-1 E=A-B F=A-C F/E-1     G H H/G-1    
岩手県 13,984 11,311 9,417 △16.7 2,673 4,567 70.9 24,987 20,277 2,586 1,965 △24.0 6,597 4,804
宮城県 22,095 17,769 13,962 △21.4 4,326 8,133 88.0 40,033 30,265 14,976 15,460 3.2 36,595 36,704
福島県 16,800 13,184 11,028 △16.4 3,616 5,772 59.6 26,903 21,358 20,553 16,528 △19.6 46,669 36,398
52,879 42,264 34,407 △18.6 10,615 18,472 74.0 91,923 71,900 38,115 33,953 △10.9 89,861 77,906
(ウ)恒久住宅等の整備に係る復旧・復興事業

沿岸6県における復興交付金により住宅等を整備する事業の成果の状況をみると、完了した事業数の割合は低いものの、特定被災自治体は、応急仮設住宅等で暮らしている被災者が早急に恒久住宅に移転できるように、災害公営住宅及び宅地の整備が完了したものから供給を行っている。復興庁が公表している「住まいの復興工程表」に記載されている地区等における住まいの復興に係る4事業により整備された住宅等の供給状況については、次のとおりである。

a 災害公営住宅整備事業等により整備した住宅の状況

災害公営住宅整備事業等は東日本大震災による被災者の居住の安定確保を図るために、災害公営住宅の整備等に係る費用を支援するもので、沿岸6県のうち3県及び沿岸6県管内の市町村が事業主体となって実施している。事業主体は、災害公営住宅の整備に当たり、被災者に意向調査を行い、その結果を踏まえて整備する戸数を決定し、また、被災者の災害公営住宅への入居に当たり、整備が完了する住宅ごとに被災者のうち入居を希望する者の中から入居者を決定するなどしている。このように災害公営住宅の整備及び入居には、いずれも被災者の意向が反映されているが、計画から整備までの間に被災者の意向や被災世帯の事情が変化していくことなどにより、実際の入居戸数が意向調査により決定した整備戸数を下回る可能性がある。そこで、沿岸6県及び管内33市町のうち、災害公営住宅整備事業等を実施している1県及び沿岸6県管内の24市町において、26年度末までに整備された災害公営住宅の入居希望及び入居の状況をみると次のとおりとなっていた。

上記の1県及び24市町においては、図表4-25のとおり、26年度末までに計458地区、18,580戸の災害公営住宅の整備が計画されていて、同年度末までに153地区において6,363戸(完成率34.2%)の住宅の整備が完了している。

上記153地区のうち当該地区に整備された全ての戸数が入居可能となった119地区について、入居可能戸数に対する入居希望戸数の割合(以下「入居希望率」という。)をみると、63地区では入居希望率が100%以上となっている一方、56地区では100%を下回る状況となっている。

また、26年度末までに整備が完了した6,363戸のうち、4,254戸が入居可能となっていて、入居可能戸数に対する入居戸数の割合(以下「入居率」という。)をみると、26年度末現在の被災者の入居戸数は3,651戸であり、入居率は85.8%となっている。

県別の入居率をみると、千葉県では1地区のみで100%となっているが、青森県で76.1%、福島県で83.1%などとなっている。このうち青森県では、災害公営住宅の整備を完了している5地区のうち3地区で全ての戸数が入居済みとなっているが、他の2地区における入居率が53.8%、66.6%となっていた(後掲事例3参照)。

そして、入居希望率が100%以上となっている63地区のうち、25年度末までに整備が完了した地区は25地区あり、この25地区の整備後1年以上が経過した26年度末現在の入居率についてみると、100%の地区は18地区となっていて、7地区については入居希望の募集以降に100%を下回る状況となっている。

事業主体によれば、災害公営住宅の整備に当たっては、被災者の意向調査の結果を踏まえて整備戸数を決定しているが、入居希望者が意向の変化により自力再建するなどして入居の申込みを辞退したこと、今後の災害公営住宅の整備状況を踏まえてより希望に沿った選択を行うために入居の応募を見合わせていることなどのため相対的に入居率が低い地区が生じているとしている。そして、各事業主体は、入居者のない住宅については被災者に対して入居の再募集を行って被災者の入居の促進を図り、被災者等の実情に応じた緩和措置を講じて引き続き被災者の居住の安定確保を図っている。

図表4-25 災害公営住宅の整備・入居及び入居希望等の状況(平成26年度末現在)

(単位:地区、戸、%)
県名(事業を実施している県及び市町数) 整備の状況 入居の状況 入居希望等の状況
計画地区数及び計画戸数  
住宅を整備した地区数及び整備が完了した戸数  
うち平成26年度末までに入居可能となっている地区数及び戸数   全ての戸数が入居可能となった地区数  
うち入居済地区数及び戸数 うち入居希望率が100%以上となっている地区数  
うち25年度末までに整備した地区数  
地区数 戸数 地区数 戸数 地区数 戸数 地区数 戸数 入居率 うち26年度末現在の入居率が100%の地区数
          A   B B/A        
青森県
(2市町)
5 67 5 67 5 67 5 51 76.1 5 2 2 2
岩手県
(1県及び5市町)
145 4,665 34 1,132 26 830 26 752 90.6 26 16 9 8
宮城県
(9市町)
263 11,523 79 3,591 55 1,891 55 1,621 85.7 55 33 7 4
福島県
(4市町)
38 2,106 29 1,388 27 1,281 27 1,065 83.1 27 8 4 2
茨城県
(3市)
6 186 5 152 5 152 5 129 84.8 5 3 2 1
千葉県
(1市)
1 33 1 33 1 33 1 33 100.0 1 1 1 1

(1県及び24市町)
458 18,580 153 6,363 119 4,254 119 3,651 85.8 119 63 25 18
(注)
入居戸数は、平成26年度末現在入居している戸数のみを計上している。

恒久住宅の入居率が低くなっているものの事例を示すと次のとおりである。

<事例3> 恒久住宅の入居率が低くなっているもの

県・市町村名 事業費 事業概要
青森県八戸市 11億8708万余円 復興交付金事業による災害公営住宅の整備

八戸市は、平成23年度から25年度までの間に、復興交付金事業により多賀台地区等4地区において事業費計11億8708万余円(うち復興交付金計10億3749万余円)で計62戸の災害公営住宅を建設し、入居の開始はいずれの地区においても25年4月から5月までの間となっている。

上記62戸の入居状況について確認したところ、多賀台地区の26戸のうち14戸は入居済みであるが、残りの12戸は、入居が可能となった25年4月から会計実地検査時点(27年6月)までの間、被災者が入居することなく空き家となっており(入居率53.8%)、白山台地区の12戸のうち8戸は入居済みであるが、残りの4戸は、被災者が入居してから1年間で退去するなどしていて会計実地検査時点で空き家となっていた(入居率66.6%)。

八戸市では空き家が生じている原因について、入居者の収入によっては民間賃貸住宅と同等な家賃となる場合があることなどから、意向調査では入居するとしていた者が民間賃貸住宅を選択したことなどが挙げられるとしている。また、同市は被災者に入居の再募集を行うとともに、入居要件を緩和する措置を講じて被災者の居住の安定確保に努めている。

b 防集事業により整備した宅地の状況

防集事業は、東日本大震災等により被災した地域において住民の居住に適当でないと認められる区域内にある住居の高台等への集団移転を支援するものである。主な事業内容は、移転先の土地に宅地を造成し、移転者に宅地を分譲し又は貸与するものであり、一部の地区では、この造成した土地に市町村等が災害公営住宅を建設している。

防集事業を実施している4県管内の16市町のうち、移転者が他地区の災害公営住宅に入居するため宅地造成を実施していない1県1市を除く3県管内の15市町における宅地の分譲等の状況をみると図表4-26のとおり、26年度末までに247地区7,327区画の宅地の整備が計画されていて、同年度末までに118地区において2,192区画(完成率29.9%)の宅地の整備が完了している。このうち、26年度末までに分譲等が可能となっている103地区1,901区画について、26年度末の宅地の分譲等の状況をみると、移転者に分譲等済みの区画数は1,624区画となっていて、分譲等が可能な区画数に対する分譲等済みの区画数の割合(以下「分譲等率」という。)は85.4%となっている。また、県別の分譲等率をみると、岩手県が83.0%、宮城県が85.4%、福島県が86.8%となっている。

前記103地区のうち地区内の宅地の整備が全て完了して全ての区画が分譲等可能となった89地区の分譲等率をみると、分譲等率が100%を下回っている地区は46地区あり、このうち福島県では、分譲等率が100%を下回っている地区数の割合が82.3%と他県に比べて高くなっている。

事業主体によれば、分譲等率が100%を下回っているのは、移転者との契約に向けて交渉中のもので分譲等の契約に至っていない区画があること、用地の取得から宅地造成までに時間を要したため、防集事業に参加しないで自らが宅地を確保する自力再建に変更するなど移転対象者の意向が変化したことなどのためであるとしている。

図表4-26 防集事業による宅地の整備等の状況(平成26年度末現在)

(単位:地区、区画、%)
県名(事業を実施している市町数) 計画地区数及び区画数
  宅地を整備した地区数及び整備が完了した区画数  
うち平成26年度末までに分譲等が可能となっている地区数及び区画数  
うち分譲等を行った地区数及び区画数 全ての区画が分譲等可能となった地区数  
地区数 区画数 地区数 区画数 地区数 区画数 地区数 区画数 分譲等率 うち分譲等率が100%を下回っている地区数 割合
          A   B B/A D E E/D
岩手県
(5市町)
62 1,783 28 302 24 224 24 186 83.0 16 6 37.5
宮城県
(7市町)
168 5,217 73 1,563 62 1,350 62 1,154 85.4 56 26 46.4
福島県
(3市町)
17 327 17 327 17 327 17 284 86.8 17 14 82.3

(15市町)
247 7,327 118 2,192 103 1,901 103 1,624 85.4 89 46 51.6
(注)
分譲等区画数は、平成26年度末現在、被災者に分譲等している区画のみを計上している。

c 漁業集落防災機能強化事業により整備した宅地の状況

漁業集落防災機能強化事業は、被災地の漁業集落において、安心安全な居住環境を確保するための地盤のかさ上げ、生活基盤や防災安全施設の整備等を実施し、災害に強い漁業地域づくりを推進するものである。また、一部の地区では整備した区画に災害公営住宅を建設している。

災害公営住宅の区画を除いた同事業による宅地の整備状況をみると、図表4-27のとおり、沿岸6県のうち岩手、宮城両県の管内8市町は、26地区338区画の宅地の整備を計画しているが、26年度末現在、整備済みの区画数は、8地区において34区画(完成率10.0%)にとどまっていて、整備済みの区画数の供給状況については今後の推移を把握する必要がある。

なお、26年度末現在の整備済みの区画の状況をみると、26年度末までに供給可能となっている7地区17区画のうち、7地区12区画(26年度末までに供給可能となっている区画数に対する割合70.5%)において被災者が住宅を建設している。

図表4-27 漁業集落防災機能強化事業による宅地の整備等の状況(平成26年度末現在)

(単位:地区、区画、%)
県名
(事業を実施している市町数)
計画地区数及び区画数  
宅地を整備した地区数及び整備が完了した区画数  
平成26年度末までに供給可能となっている地区数及び区画数  
うち被災者が住宅を建設した地区数及び区画数
地区数 区画数 地区数 区画数 地区数 区画数 地区数 区画数 割合
          A   B B/A
岩手県
(5市町)
22 309 7 32 6 15 6 10 66.6
宮城県
(3市町)
4 29 1 2 1 2 1 2 100.0

(8市町)
26 338 8 34 7 17 7 12 70.5

d 都市再生区画整理事業により整備した宅地の状況

都市再生区画整理事業は、広範かつ甚大な被災を受けた市街地の復興に対応するために、それぞれの地域の復興ニーズに的確に対応し、被災市街地復興土地区画整理事業等(緊急防災空地整備事業、都市再生事業計画案作成事業、被災市街地復興土地区画整理事業)により緊急かつ健全な市街地の復興を推進するものである。この事業は、一般的に完了までに時間を要する事業とされている。また、一部の地区では、整備した区画に災害公営住宅を建設している。

災害公営住宅の区画等を除いた同事業による宅地の整備状況をみると、図表4-28のとおり、沿岸6県のうち3県の管内12市町は、37地区8,324区画の宅地の整備を計画しているが、26年度末現在、整備済みの区画数は8地区において206区画(完成率2.4%)にとどまっていて、整備済みの区画数の供給状況については今後の推移を把握する必要がある。

なお、26年度末現在の整備済みの区画の状況をみると、8地区206区画のうち、8地区131区画(整備した宅地の区画数に対する割合63.5%)において被災者が住宅を建設している。

図表4-28 都市再生区画整理事業による宅地の整備等の状況(平成26年度末現在)

(単位:地区、区画、%)
県名
(事業を実施している市町数)
計画地区数及び区画数  
宅地を整備した地区数及び整備が完了した区画数  
うち被災者が住宅を建設した地区数及び区画数
地区数 区画数 地区数 区画数 地区数 区画数 割合
      A   B B/A
岩手県
(5市町)
14 3,631 6 174 6 102 58.6
宮城県
(5市町)
17 3,486 1 4 1 1 25.0
福島県
(2市町)
6 1,207 1 28 1 28 100.0

(12市町)
37 8,324 8 206 8 131 63.5
(注)
計画地区数及び区画数は、災害公営住宅整備及び防災集団移転促進事業を併せて実施している地区における災害公営住宅に係る戸数等を除いていることから、住まいの復興工程表の計画戸数等とは異なる。

e 市街地液状化対策事業の状況

前記のとおり、沿岸6県及び管内市町村が実施している復興交付金事業は、津波による被害を受けた地区の復興まちづくりや住宅の整備等の基盤整備に係る事業が中心となっているが、東日本大震災の被害は多様であることから特定被災自治体は、津波以外の被害に対する対策等も数多く実施している。

市街地の液状化現象に係る対策事業である都市防災推進事業(市街地液状化対策事業)は、東日本大震災による地盤の液状化により被害を受けた地域において、再度災害の発生を抑制するため、道路、下水道等の公共施設と隣接宅地等との一体的な液状化対策を推進する事業で、液状化対策事業計画案の作成等を実施する液状化対策事業計画案作成事業と、地盤の液状化による公共施設と隣接宅地等の被害を抑制するための事業等を実施する市街地液状化対策推進事業で構成されている。そして、市街地液状化対策推進事業の実施に当たって、事業主体は、液状化対策事業計画を作成すること、事業対象区域内の宅地の所有権者等から3分の2以上の同意を得ることなどとされている。

沿岸6県及び管内33市町における都市防災推進事業(市街地液状化対策事業)の実施状況をみると、茨城、千葉両県の管内6市が同事業を実施していて、このうち液状化対策事業計画案作成事業については、図表4-29のとおり、56地区で実施されていて、26年度末までに全ての地区で液状化対策事業計画案作成に必要な調査等が完了しているが、液状化対策事業計画案が作成された地区は25地区にとどまっている。

液状化対策事業計画案の作成まで至っていない理由について、事業主体によれば、液状化対策事業計画案を作成する際に実施した地質調査結果を踏まえて検討した対策工法では所要の効果が期待できないこと、選択した液状化対策の工法による住民負担に関する同意が得られなかったことなどによるとしている。

なお、液状化対策事業計画が作成された25地区を有する事業主体は、26年度末現在、2地区において市街地液状化対策推進事業を実施中であり、他の地区においても27年度以降に市街地液状化対策推進事業を実施するとしている。また、液状化対策事業計画の作成に至っていない地区を有する事業主体は、住民の住宅敷地内で実施する個別の液状化対策工事の例を示すなどして、住民自らが個別の液状化対策工事を実施することを推奨している。

図表4-29 都市防災推進事業(市街地液状化対策事業)の実施状況(平成26年度末現在)

(単位:地区)
県名
(事業を実施し
ている市数)
事業対象地区  
うち調査等を完了した地区  
うち液状化対策事業計画案を作成した地区  
うち市街地液状化対策推進事業を実施中の地区
茨城県
(2市)
24 24 4 2
千葉県
(4市)
32 32 21

(6市)
56 56 25 2
エ 産業再生に関する復旧・復興事業の成果

東日本大震災により、多くの農林漁業者、中小企業者等は、事業所、施設、設備等の損壊、流失等の著しい被害を受けて、地域によっては事業の存続が危ぶまれる状況となった。国は、これまでに復旧・復興事業として、事業者等が施設、設備等を復旧する際の補助金等の交付、貸付けなどによる資金繰りの支援等を行ってきた。産業再生に関する復旧・復興事業の成果の状況については次のとおりである。

(ア)各種産業の施設、設備等の復旧・復興の状況

a 農業に関する復旧・復興事業の状況

沿岸6県における農地及び農業用施設に係る復旧・復興の状況をみると、図表4-30のとおり、農地については、計画施設数23,061haのうち26年度末までに12,405haが完成(完成率53.7%)し、農業用施設については、計画施設数6,987施設のうち同年度末までに6,453施設が完成(同92.3%)している。農地及び農業用施設の計画事業費等については、計画事業費が3051億余円、支出済事業費が1257億余円、完成分事業費が1223億余円(うち国庫補助金等923億余円)であり、事業費進捗率が41.2%となっている。

県別にみると、農地の完成率は、青森、茨城、千葉各県が100%となっていて整備が完了している一方、岩手県が75.5%、宮城県が54.7%、福島県が39.7%となっている。また、農業用施設の完成率は、宮城、福島両県を除きいずれの県も90%を超えている。

図表4-30 農地及び農業用施設の整備状況(平成26年度末現在)

(単位:百万円、%)
県名・項目 単位 施設数等 事業費
計画施設数 完成施設数 完成率 計画事業費 支出済事業費 事業費進捗率 完成分事業費
国庫補助金等 その他
A B B/A C D D/C      
青森県 農地 ha 85 85 100.0 63 63 100.0 57 6 63
農業用施設 施設 115 109 94.7 1,810 621 34.2 310 71 382
岩手県 農地 ha 806 609 75.5 20,451 12,297 60.1 12,139 157 12,297
農業用施設 施設 475 441 92.8 13,400 12,266 91.5 7,416 4,849 12,266
宮城県 農地 ha 16,034 8,773 54.7 122,428 39,825 32.5 24,008 15,817 39,825
農業用施設 施設 196 170 86.7 18,138 15,433 85.0 10,099 5,064 15,163
福島県 農地 ha 5,312 2,113 39.7 71,219 8,684 12.1 8,582 102 8,684
農業用施設 施設 1,680 1,213 72.2 35,230 17,018 48.3 16,907 111 17,018
茨城県 農地 ha 230 230 100.0 567 567 100.0 458 108 567
農業用施設 施設 4,146 4,145 99.9 17,861 14,985 83.8 8,740 3,327 12,067
千葉県 農地 ha 590 590 100.0 214 214 100.0 195 19 214
農業用施設 施設 375 375 100.0 3,760 3,760 100.0 3,425 334 3,760
農地 ha 23,061 12,405 53.7 214,945 61,653 28.6 45,441 16,212 61,653
農業用施設 施設 6,987 6,453 92.3 90,202 64,084 71.0 46,900 13,757 60,658
  305,147 125,738 41.2 92,341 29,970 122,311
注(1)
農地の完成施設数及び完成率は、営農再開可能面積に係るものではない。農林水産省によれば、農地の営農再開可能面積率は平成26年度末現在で70.0%とされている。
注(2)
各項目とも県、市町村が把握している事業分に限定しており、国の機関による事業(直轄事業)は計上していない。
注(3)
「完成施設数」及び「完成分事業費」は、当該施設等について復旧事業から復興事業までの一連の事業が完了したものを計上している。
注(4)
「単位」は、各項目に係る主なものとしている。
注(5)
各項目の表記単位以外のものに係る額についても計画事業費、支出済事業費及び完成分事業費に含めて計上している。

なお、農林水産省が公表している生産農業所得統計に基づき東日本大震災前後の農業産出額の状況をみると、図表4-31のとおり、25年は沿岸6県計で震災前(20年から22年までの3か年の平均。以下同じ。)の99.2%となっていて、宮城、福島両県を除く4県が震災前の水準以上に回復している。一方、福島県は原子力災害の影響等により震災前の84.3%にとどまっている。

図表4-31 沿岸6県における農業産出額の状況

(単位:億円、%)
県名 震災前(平成20年~22年平均) 23年   24年   25年  
対震災前比 対震災前比 対震災前比
A B B/A C C/A D D/A
青森県 2747 2804 102.0 2759 100.4 2835 103.2
岩手県 2375 2387 100.5 2476 104.2 2433 102.4
宮城県 1792 1641 91.5 1810 101.0 1767 98.6
福島県 2428 1851 76.2 2021 83.2 2049 84.3
茨城県 4253 4097 96.3 4281 100.6 4356 102.4
千葉県 4110 4009 97.5 4153 101.0 4141 100.7
沿岸6県計 1兆7707 1兆6789 94.8 1兆7500 98.8 1兆7581 99.2
沿岸6県を除く全国計 6兆6357 6兆6666 100.4 6兆8606 103.3 6兆8167 102.7
(注)
農林水産省が公表している「生産農業所得統計」を基に作成した。

b 水産業に関する復旧・復興事業の状況

沿岸6県における水産業共同利用施設(荷さばき所、製氷、冷凍、冷蔵、貯氷、給油各施設等)及び養殖施設に係る復旧・復興の状況をみると、図表4-32のとおり、水産業共同利用施設については、計画施設数943施設のうち26年度末までに805施設が完成(完成率85.3%)し、養殖施設については、計画施設数35,949施設のうち同年度末までに35,439施設が完成(同98.5%)している。水産業共同利用施設及び養殖施設の計画事業費等については、計画事業費が3662億余円、支出済事業費が2053億余円、完成分事業費が1756億余円(うち国庫補助金等1187億余円)であり、事業費進捗率が56.0%となっている。

県別にみると、水産業共同利用施設の完成率は、岩手県が86.9%、宮城県が83.5%、福島県が52.1%となっている。また、養殖施設の完成率は、青森、福島、千葉各県が100%となっていて整備が完了しているほか、岩手、宮城両県も90%以上となっていて、各県とも復興が進んでいる。

図表4-32 水産業共同利用施設及び養殖施設の整備状況(平成26年度末現在)

(単位:施設、百万円、%)
県名・項目 施設数等 事業費
計画施設数 完成施設数 完成率 計画事業費 支出済事業費 事業費進捗率 完成分事業費
国庫補助金等 その他
A B B/A C D D/C      
青森県 水産業共同利用施設 50 50 100.0 4,526 4,526 100.0 2,834 1,691 4,526
養殖施設 10 10 100.0 16 16 100.0 10 5 16
岩手県 水産業共同利用施設 245 213 86.9 114,848 98,264 85.5 66,646 31,617 98,264
養殖施設 28,577 28,480 99.6 11,586 11,455 98.8 7,998 3,457 11,455
宮城県 水産業共同利用施設 413 345 83.5 207,848 75,831 36.4 31,234 15,996 47,230
養殖施設 7,002 6,589 94.1 4,865 3,557 73.1 2,631 926 3,557
福島県 水産業共同利用施設 69 36 52.1 16,519 8,948 54.1 5,794 2,437 8,231
養殖施設 注(4) 1 注(4) 1 100.0 36 36 100.0 36 36
茨城県 水産業共同利用施設 110 105 95.4 5,394 2,136 39.6 1,148 614 1,762
養殖施設
千葉県 水産業共同利用施設 56 56 100.0 357 357 100.0 179 177 357
養殖施設 360 360 100.0 238 238 100.0 214 23 238
水産業共同利用施設 943 805 85.3 349,494 190,065 54.3 107,838 52,535 160,373
養殖施設 35,949 35,439 98.5 16,742 15,303 91.4 10,890 4,413 15,303
  366,236 205,369 56.0 118,729 56,948 175,677
注(1)
各項目とも県、市町村が把握している事業分に限定しており、国の機関による事業(直轄事業)は計上していない。
注(2)
「完成施設数」及び「完成分事業費」は、当該施設等について復旧事業から復興事業までの一連の事業が完了したものを計上している。
注(3)
施設を単位とするもの以外のものに係る額についても計画事業費、支出済事業費及び完成分事業費に含めて計上している。
注(4)
福島県の養殖施設は、地区を単位としているため、計欄には計上していない。

なお、農林水産省が公表している海面漁業・養殖業生産額に基づき東日本大震災前後の漁業生産額の状況をみると、図表4-33のとおり、25年は沿岸6県計で震災前の78.7%となっていて、茨城県は震災前の水準以上に回復しているが、他の5県は依然として震災前の水準に至っておらず、福島県は震災前の43.6%となっている。一方、岩手、宮城両県においては、漁業生産額が水産業共同利用施設等の復興に伴い23年から25年までの3か年の間に大幅に増加している。

図表4-33 沿岸6県における漁業生産額の状況

(単位:億円、%)
県名 震災前(平成20年~22年平均) 23年   24年   25年  
対震災前比 対震災前比 対震災前比
A B B/A C C/A D D/A
青森県 522 447 85.6 431 82.5 461 88.3
岩手県 412 228 55.3 288 69.9 313 75.9
宮城県 798 438 54.8 499 62.5 570 71.4
福島県 181 86 47.5 64 35.3 79 43.6
茨城県 172 124 72.0 149 86.6 188 109.3
千葉県 299 260 86.9 247 82.6 266 88.9
沿岸6県計 2387 1585 66.4 1680 70.3 1879 78.7
沿岸6県を除く全国計 1兆2023 1兆1685 97.1 1兆1606 96.5 1兆1662 96.9
(注)
農林水産省が公表している「海面漁業・養殖業生産額」を基に作成した。

c 中小企業者等に関する復旧・復興事業の状況

東日本大震災により被災した中小企業者等の復旧・復興について、国は、中小企業組合等共同施設等災害復旧費補助金(以下「グループ補助金」という。)を創設して支援している。グループ補助金は、復興を牽(けん)引する役割を担い得る地域経済の中核を形成する中小企業等グループが復興事業計画を作成し、県の認定を受けた場合に施設及び設備の復旧等を支援するものである。その要件は、当該中小企業等グループ外の企業や他地域の産業にとって重要な役割を果たしていること、事業規模や雇用規模が大きく、地域の経済・雇用への貢献度が高いこと、当該中小企業等グループの構成員の施設が甚大な被害を受けるなどして事業の継続が困難になっていることなどとなっている。

国は、グループ補助金による事業のために23年度から26年度までの4か年度に計3479億余円の予算を措置し、同期間に13次の公募を実施しており、沿岸6県では、26年度末までに9次公募分までの事業実績が確定している。その実績をみると、図表4-34のとおり、延べ9,458事業者のうち8,216事業者が事業を完了しているが、180事業者が事業を廃止し又は取り消しているほか、1,062事業者が事業を延期するなどしている。また、グループ補助金による事業に要する総事業費は、4842億余円であり、その負担の内訳は国庫補助金2203億余円、県補助金1101億余円、事業者負担額1536億余円となっている。

図表4-34 グループ補助金による事業の実績(平成26年度末現在)

(単位:事業者、百万円)
県名 交付決定事業者数   総事業費  
事業完了 事業の廃止・取消 事業延期等 国庫補助金 県補助金 事業者負担額
青森県 202 202 11,664 5,257 2,628 3,778
岩手県 1,193 932 22 239 92,988 41,852 20,926 30,209
宮城県 3,569 2,841 70 658 235,326 111,435 55,717 68,173
福島県 2,909 2,710 34 165 111,228 48,120 24,060 39,047
茨城県 1,431 1,380 51 29,174 11,986 5,993 11,193
千葉県 154 151 3 3,819 1,718 859 1,242
9,458 8,216 180 1,062 484,201 220,370 110,185 153,644

経済産業省は、グループ補助金の交付先事業者に対して、売上、雇用、資金繰りなどの状況に関する「グループ補助金交付先アンケート調査」を実施しており、その結果を24年4月から27年10月までの間に計5回公表している。この調査結果に基づき、23年度から27年度まで継続して上記の調査が行われた青森県及び東北3県において交付されたグループ補助金の交付先事業者のうち、雇用及び売上が東日本大震災前の水準以上に回復した事業者の割合について、第1回調査(23年度)の結果と第5回調査(27年度)の結果とを比較すると、図表4-35のとおり、4県全体で、雇用が回復した事業者の割合は46.9%から55.2%へ、売上が回復した事業者の割合は29.9%から44.8%へとそれぞれ上昇している。県別にみると、雇用が回復した事業者の割合は、岩手県が33.5%から65.2%へ、宮城県が42.5%から55.3%へと大幅に上昇し、売上が回復した事業者の割合は、いずれの県も10ポイント以上増加している。

図表4-35 グループ補助金の交付先事業者のうち東日本大震災前の水準以上に雇用、売上が回復した事業者の状況

(単位:%)
県名 雇用が回復した事業者の割合 雇用が回復した事業者の割合売上が回復した事業者の割合
第1回調査
(平成24年2月)
第2回調査
(24年9月)
第3回調査
(25年6月)
第4回調査
(26年6月)
第5回調査
(27年6月)
第1回調査
(24年2月)
第2回調査
(24年9月)
第3回調査
(25年6月)
第4回調査
(26年6月)
第5回調査
(27年6月)
青森県 66.8 72.1 70.9 63.7 61.4 47.9 46.4 51.3 56.6 58.8
岩手県 33.5 56.0 62.1 64.6 65.2 24.8 30.5 42.2 44.9 49.1
宮城県 42.5 52.2 59.3 59.2 55.3 27.7 30.6 36.9 40.2 44.9
福島県 56.6 63.4 61.9 61.0 49.9 31.7 33.5 32.9 36.9 42.2
46.9 58.1 60.8 60.9 55.2 29.9 32.5 36.6 40.2 44.8
注(1)
経済産業省東北経済産業局が実施した「グループ補助金交付先アンケート」を基に作成した。
注(2)
年月は、調査を実施した年月を示す。
注(3)
各調査の回答者数及び回答率は、次のとおりである。
第1回調査1,828者(80.4%)、第2回調査3,764者(83.5%)、第3回調査5,445者(71.9%)、第4回調査5,809者(73.3%)、第5回調査6,097者(71.2%)
(イ)農林漁業者、中小企業者等に対する資金繰り支援

a 資金繰り支援の概要

被災した農林漁業者、中小企業者等に対しては、既存の借入金の返済を猶予したり、事業の維持、再開のための設備・運転資金を確保したりするなどの支援が必要となる。このため、農林漁業者等向けの融資制度では既存融資制度の特例(以下「農林漁業者等震災特例貸付」という。)が設けられたり、中小企業者等向けの融資制度では東日本大震災復興特別貸付(以下「復興特別貸付」という。)が創設されたりなどしている。

上記のうち、農林漁業者等震災特例貸付は、被災した農林漁業者、食品製造業者等を対象として、既存の農業経営基盤強化資金、経営体育成強化資金、農林漁業経営の維持安定に必要な長期運転資金(以下「農林漁業セーフティネット資金」という。)等の貸付けについて、実質無利子、実質無担保・無保証人による貸付けを行う特例を設けることなどにより円滑な資金供給を行うものである。また、復興特別貸付は、中小企業者等に対する事業資金の貸付けの一環として実施されていて、東日本大震災による事業所又は主要な事業資産の全壊、流失等の直接の被害を受けるなどした中小企業者等に対する貸付け(以下「直接被害貸付」という。)、直接の被害を受けた者の事業活動に依存し、間接的に被害を受けた者に対する貸付け(以下「間接被害貸付」という。)及び東日本大震災に起因する社会的要因による一時的な業況悪化により資金繰りに著しい支障を来しているなどの者に対する貸付け(以下「風評被害等貸付」という。)がある。

b 農林漁業者等震災特例貸付及び復興特別貸付の実績

日本公庫は、農林漁業者等震災特例貸付及び復興特別貸付に係る業務等を実施している。両貸付けの22年度(23年3月)から26年度までの5か年度の実績をみると、図表4-36のとおり、農林漁業者等震災特例貸付が2819億余円、復興特別貸付が3兆7401億余円、計4兆0221億余円となっていて、復興特別貸付の規模が大きいものとなっている。

全国計の年度ごとの推移をみると、東日本大震災直後の23年度が2兆7608億余円と多額となっているが、間接被害貸付や風評被害等貸付に係る資金需要が震災から1年後にはおおむね一巡したことなどにより、24年度には復興特別貸付が前年度の2兆6628億余円が7672億余円となって全国計は8421億余円と大幅に減少しており、以後、25年度が2209億余円、26年度が1899億余円となっている。

沿岸6県における貸付実績は、全国計4兆0221億余円のうち1兆1075億余円であり、23年度が4342億余円、24年度が2913億余円となっている。また、県別の計をみると、宮城県が4118億余円、福島県が2058億余円と多額になっていて、岩手、茨城、千葉各県では1283億余円から1393億余円と大きな差はみられない。

図表4-36 農林漁業者等震災特例貸付及び復興特別貸付の実績

(単位:件、億円)
県名 対象 平成22年度(23年3月) 23年度 24年度 25年度 26年度
件数 貸付額 件数 貸付額 件数 貸付額 件数 貸付額 件数 貸付額 件数 貸付額
青森県 農林漁業者等震災特例貸付 5 5 81 62 42 68 25 42 10 33 163 211
復興特別貸付 19 1 2,552 404 929 169 101 55 33 20 3,634 651
24 7 2,633 466 971 238 126 97 43 54 3,797 863
岩手県 農林漁業者等震災特例貸付 5 4 227 72 207 80 183 79 162 92 784 330
復興特別貸付 47 3 2,737 401 1,593 252 1,311 185 1,218 183 6,906 1027
52 8 2,964 474 1,800 333 1,494 265 1,380 276 7,690 1357
宮城県 農林漁業者等震災特例貸付 3 2 1,618 203 629 153 487 132 328 99 3,065 591
復興特別貸付 158 17 10,510 1318 6,506 863 5,851 666 5,456 660 28,481 3526
161 20 12,128 1522 7,135 1017 6,338 798 5,784 759 31,546 4118
福島県 農林漁業者等震災特例貸付 2 1 139 41 142 37 198 42 162 25 643 148
復興特別貸付 62 5 5,510 588 4,573 509 4,391 406 4,371 399 18,907 1910
64 6 5,649 629 4,715 547 4,589 449 4,533 425 19,550 2058
茨城県 農林漁業者等震災特例貸付 2 8 392 156 212 60 107 53 75 59 788 337
復興特別貸付 16 2 3,688 459 2,529 329 1,215 177 733 85 8,181 1055
18 11 4,080 615 2,741 390 1,322 231 808 144 8,969 1393
千葉県 農林漁業者等震災特例貸付 3 6 602 70 233 106 134 109 148 98 1,120 390
復興特別貸付 8 0 4,706 564 2,546 281 214 34 64 12 7,538 892
11 6 5,308 634 2,779 387 348 143 212 111 8,658 1283
沿岸6県 農林漁業者等震災特例貸付 20 29 3,059 605 1,465 506 1,134 459 885 408 6,563 2010
復興特別貸付 310 31 29,703 3736 18,676 2407 13,083 1526 11,875 1362 73,647 9064
330 61 32,762 4342 20,141 2913 14,217 1986 12,760 1771 80,210 1兆1075
沿岸6県以外の都道府県 農林漁業者等震災特例貸付 9 9 976 374 327 242 48 91 27 92 1,387 809
復興特別貸付 96 12 133,486 2兆2891 32,938 5264 343 132 86 35 166,949 2兆8336
105 21 134,462 2兆3265 33,265 5507 391 223 113 127 168,336 2兆9146
全国計 農林漁業者等震災特例貸付 29 38 4,035 979 1,792 748 1,182 550 912 501 7,950 2819
復興特別貸付 406 44 163,189 2兆6628 51,614 7672 13,426 1658 11,961 1398 240,596 3兆7401
合計 435 82 167,224 2兆7608 53,406 8421 14,608 2209 12,873 1899 248,546 4兆0221
(注)
件数及び貸付額は、日本公庫の支店の貸付実績を県単位で集計したものである。

沿岸6県における農林漁業者等震災特例貸付の実績について、設備資金及び運転資金の資金使途別にみると、図表4-37のとおり、貸付額計2010億余円のうち設備資金が1215億余円、運転資金が794億余円となっている。日本公庫は、農林漁業者の共同利用施設等の施設及び設備の復旧・復興については、別途補助事業として実施されるものが多いこと、また、運転資金についても農業協同組合、漁業協同組合等からの支援が見込まれることから、資金需要は中小企業者等を対象とする復興特別貸付と比較して小規模なものであるとしている。

図表4-37 農林漁業者等震災特例貸付における資金使途(設備資金・運転資金)別の状況(平成26年度末現在)

(単位:件、億円)
県名 設備資金 運転資金
件数 貸付額 件数 貸付額 うち農林漁業セーフティネット資金 件数 貸付額
件数 貸付額
A B C D     A+C B+D
青森県 62 154 101 57 65 21 163 211
岩手県 392 236 392 93 331 51 784 330
宮城県 1,003 311 2,062 279 1,909 214 3,065 591
福島県 410 95 233 52 172 34 643 148
茨城県 377 214 411 123 243 59 788 337
千葉県 193 202 927 187 811 128 1,120 390
沿岸6県計 2,437 1215 4,126 794 3,531 508 6,563 2010
沿岸6県以外の都道府県計 272 473 1,115 335 940 256 1,387 809
全国計 2,709 1689 5,241 1130 4,471 764 7,950 2819
注(1)
農林漁業セーフティネット資金は、全て運転資金である。
注(2)
件数及び貸付額は、日本公庫の支店の貸付実績を県単位で集計したものである。

沿岸6県における復興特別貸付の実績について、設備資金及び運転資金の資金使途別にみると、図表4-38のとおり、貸付額計9064億余円のうち設備資金が1920億余円、運転資金が7144億余円となっていて、沿岸6県のいずれも7割以上が運転資金となっている。また、直接被害等の被害別にみると、直接被害貸付が6776億余円となっていて、東日本大震災の直接的な被害による急激な資金繰りの悪化に対処するための運転資金の需要に対応したものとなっている。

日本公庫は、施設及び設備の復旧等については各種補助事業等による支援が実施されているが、農林漁業者、中小企業者等の経営を維持するための資金供給については沿岸6県の復旧・復興の進展による産業再生の過程において、相応の需要が見込まれるとしている。

図表4-38 復興特別貸付における資金使途(設備資金・運転資金)別の状況

(単位:件、億円、%)
県名 種別 直接被害貸付 間接被害貸付 風評被害等貸付 設備資金、運転資金の割合
件数 貸付額 件数 貸付額 件数 貸付額 件数 貸付額
A B C D E F A+C+E B+D+F
青森県 設備資金 93 11 9 0 333 20 435 33 5.1
運転資金 428 155 106 16 2,665 447 3,199 618 94.8
521 166 115 16 2,998 468 3,634 651 100.0
岩手県 設備資金 1,770 172 71 5 52 3 1,893 181 17.6
運転資金 3,839 638 574 61 600 147 5,013 846 82.3
5,609 810 645 66 652 150 6,906 1027 100.0
宮城県 設備資金 8,403 820 32 1 107 77 8,542 898 25.4
運転資金 18,568 2285 792 56 579 286 19,939 2628 74.5
26,971 3105 824 57 686 363 28,481 3526 100.0
福島県 設備資金 5,778 442 13 0 96 6 5,887 449 23.5
運転資金 11,519 1216 283 15 1,218 228 13,020 1460 76.4
17,297 1658 296 16 1,314 234 18,907 1910 100.0
茨城県 設備資金 2,062 203 64 4 133 5 2,259 213 20.2
運転資金 4,489 632 396 47 1,037 161 5,922 841 79.7
6,551 836 460 51 1,170 167 8,181 1055 100.0
千葉県 設備資金 705 75 42 5 823 62 1,570 143 16.0
運転資金 810 123 398 83 4,760 542 5,968 749 83.9
1,515 199 440 88 5,583 605 7,538 892 100.0
沿岸6県計 設備資金 18,811 1726 231 17 1,544 176 20,586 1920 21.1
運転資金 39,653 5050 2,549 279 10,859 1814 53,061 7144 78.8
58,464 6776 2,780 297 12,403 1990 73,647 9064 100.0
沿岸6県以外の都道府県計 設備資金 1,037 158 48 7 14,505 1112 15,590 1278 4.5
運転資金 3,448 702 1,839 444 146,072 2兆5910 151,359 2兆7058 95.4
4,485 861 1,887 452 160,577 2兆7023 166,949 2兆8336 100.0
全国計 設備資金 19,848 1884 279 25 16,049 1288 36,176 3198 8.5
運転資金 43,101 5753 4,388 724 156,931 2兆7724 204,420 3兆4203 91.4
合計 62,949 7637 4,667 749 172,980 2兆9013 240,596 3兆7401 100.0
(注)
件数及び貸付額は、日本公庫の支店の貸付実績を県単位で集計したものである。
(ウ)被災地における企業立地の状況

東日本大震災を契機として、生産拠点の海外移転等による産業の空洞化が加速するおそれがあることなどから、企業の立地環境を改善するために、前記のとおり、復興関連基金事業において国内立地推進事業費、津波・原子力災害被災地域雇用創出企業立地補助金(製造業等立地支援事業)(以下「津波・原子力災害立地補助金」という。)等による事業が実施されている。

このうち、津波・原子力災害立地補助金による事業は、基金団体が同補助金の交付を受けて設置造成等した基金を活用して、東日本大震災で特に大きな被害を受けた青森、岩手、宮城、福島、茨城各県の津波浸水地域等の産業復興を加速するために、これらの地域に該当する100市町村(以下「対象市町村」という。)において工場、物流施設等を新設し又は増設する企業に対して、新たに地元からの雇用を確保することなどを要件としてその経費の一部を補助するものである。また、同事業の実施に当たり、基金団体は、公募、審査、採択、補助金の交付等の業務を第三者に委託して行っている。

25、26両年度においては、津波・原子力災害立地補助金計1730億円が基金団体に交付された。26年度末までの基金の取崩額は6億余円であり、対象市町村における工場等の新設又は増設の実績は5件となっている。26年度末までの採択、交付決定等の状況をみると、図表4-39のとおり、採択件数が374件、採択額が1494億余円、交付決定が107件、交付決定額が528億余円となっていて、対象市町村100市町村のうち67市町村において、採択された事業に係る企業(以下「採択事業者」という。)の立地が見込まれている。また、交付決定の状況を26年度末現在と25年度末現在とで比較すると、件数が78件、交付決定額が408億余円、それぞれ増加していて、県別では福島、宮城両県の増加額が大きくなっている。

図表4-39 津波・原子力災害立地補助金による企業立地の採択等の状況(平成26年度末現在)

(単位:市町村、件、百万円、%)
県名 対象市町村数 採択事業者立地予定市町村数 採択件数 採択額 交付決定の状況
件数 交付決定額
平成25年度末現在 26年度末現在 25年度末現在 26年度末現在 採択額に対する割合
      A       B C=B/A
青森県 4 3 12 2,040 1 4 94 989 48.5
岩手県 12 7 28 7,066 2 7 332 3,385 47.9
宮城県 15 14 121 51,368 11 36 5,355 16,098 31.3
福島県 59 35 183 80,932 11 49 5,848 30,465 37.6
茨城県 10 8 30 7,994 4 11 360 1,884 23.5
100 67 374 149,401 29 107 11,990 52,824 35.3

採択事業者の企業の規模及びその業種の状況をみると、図表4-40のとおり、企業規模については大企業が71件、中小企業が303件、企業の業種については食料品製造業が72件と最も多く、次いで道路貨物運送業が35件、金属製品製造業が30件等となっている。採択時の計画において見込まれている新規地元雇用者数は、26年度末現在、計4,713人となっている。

図表4-40 津波・原子力災害立地補助金の採択事業者の状況

(単位:件、人、%)
県名 採択件数 企業の規模 企業の業種 新規地元雇用者数(見込み)
大企業 中小企業 食料品製造業 道路貨物運送業 金属製品製造業 その他 平成25年度 26年度 26年度対
25年度比
            A B B/A
青森県 12 4 8 3 1 8 70 142 202.8
岩手県 28 5 23 11 4 13 129 319 247.2
宮城県 121 29 92 35 18 7 61 720 1,574 218.6
福島県 183 25 158 17 10 20 136 1,021 2,147 210.2
茨城県 30 8 22 6 3 2 19 420 531 126.4
374 71 303 72 35 30 237 2,360 4,713 199.7
オ まとめ

復旧・復興事業の成果として、住宅・宅地、医療・福祉施設、文教施設、鉄道等の施設、農水産業、中小企業等の産業に関する施設の整備が進捗してきており、また、施設の整備以外においても被災者への生活支援や各種産業への多額の資金繰り支援等が行われている。

これらの事業の実施等により、各県ごとにその程度は異なるものの、被災者が仮住まいから恒久住宅への安定した生活に踏み出すことができたり、各種統計やアンケート調査等の結果による産業再生の状況が東日本大震災前と同等又は上回っていたりする状況も見受けられた。

また、国は、復興基本方針において災害に強い地域づくりを掲げて、津波防災に関する施策として、たとえ被災したとしても人命が失われないことを最重視し、ハード・ソフトの施策を組み合わせた「多重防御」による「津波防災まちづくり」を推進するとしている。そして、津波対策の基本的考え方や津波防災地域づくり法等に基づき、ハード施策としては海岸保全施設等を頻度の高い津波を基に整備して、ソフト施策としては避難しやすい環境をまちづくりと一体となって整備することで最大クラスの津波への対応を行うこととしている。しかし、完成した施設等や再生しつつある産業を津波災害から守るためのハード施策の要である防潮堤は、その大部分が完成しておらず、完成までにはなお相当の時間を要する状況となっており、また、復旧後堤防高が地域海岸内堤防高より低くなっている海岸もある。このような状況において津波から人命等を守るためにはソフト施策による住民等の避難の確保が特に重要なものとなっているが、ソフト施策としての津波対策の実施状況については、まちづくりが進捗中であることから津波避難計画の策定や津波ハザードマップの作成がなされていない市町があったり、津波防災のために整備した避難所が津波避難計画における避難所として指定できなくなったり、防災情報の伝達手段が十分に行き渡っていなかったりなどしている状況が見受けられた。

したがって、防集事業等により住宅等が高台に移転するなどして災害から保全されたとしても、住民の暮らしの基盤となる地域全体としては津波から施設や人命を十分に防御することが可能であるとは言い難いことから、防潮堤等の海岸保全施設を早期に完成させるよう努めるとともに、津波避難計画の策定等のソフト施策も早期に実施する必要がある。

また、住まいの復興に係る4事業による災害公営住宅や宅地の供給は着実な進捗が見受けられるが、現状でも東北3県の応急仮設住宅に入居している避難者は約14万人おり、入居期間は長期化している。一方、整備した恒久住宅において空き家が見受けられることから、引き続きこれらの空き家への入居等の促進を図るとともに、今後の恒久住宅等の整備に当たり、避難者の需要について的確な把握等に努める必要がある。

国及び各被災自治体は、可能な限り未完了となっている事業の進捗を図るとともに、復興等に必要な支援等を的確に実施し、復興・創生期間において新たな東北の自立と再建に向けた復旧・復興事業の成果を発現させていくことが重要である。

(4)原子力災害からの復興再生

国は、復興基本方針において、原子力災害からの復興については、責任を持って再生及び復興に取り組むこととして、福島基本方針により、原子力災害からの福島の復興再生を国政の最重要課題と位置付けて、放射性物質の除去、安全対策・健康管理対策等の施策を継続的に講じてきた。

また、国は、25年12月に「原子力災害からの福島復興の加速に向けて」(原子力災害対策本部決定。以下「福島復興の加速指針」という。)を閣議決定して、早期帰還支援と新生活支援の両面で福島を支え、原子力災害からの復興再生に向けて全力を挙げて取り組むこととしている。

放射性物質による汚染に対する復興事業の実施に当たっては、放射性物質汚染対処特措法に基づき、環境大臣は、福島県内の11市町村(注13)を除染特別地域に指定するとともに、99市町村(27年9月現在)の地域で汚染状況重点調査地域(注14)を指定している。そして、除染等の措置については、除染特別地域においては国が自ら主体的に実施し、汚染状況重点調査地域においては国、県、市町村等がそれぞれ管理する土地等について実施することとなっている。

また、環境大臣は、放射性物質汚染対処特措法に基づき、11市町村の除染特別地域を汚染廃棄物対策地域(以下「対策地域」という。)に指定している。そして、対策地域内においては、国が自ら地震、津波等により発生した廃棄物(以下「災害廃棄物」という。)、被災家屋等解体ごみ及び片付けごみ(以下、災害廃棄物と合わせて「災害廃棄物等」という。)や除染等の措置に伴い発生した廃棄物(以下「除染廃棄物」といい、災害廃棄物等と合わせて「対策地域内廃棄物」という。)の収集、運搬、保管及び処分を行うこととなっている。

このほか、国は、市町村等の協力を得ながら、対策地域内廃棄物等の処理のために必要な仮置場、仮設焼却施設、中間貯蔵施設等の整備やその安全性の確保について、責任を持って行うこととなっている。

(注13)
11市町村  田村、南相馬両市、伊達郡川俣、双葉郡楢葉、富岡、大熊、双葉、浪江各町、双葉郡川内、葛尾、相馬郡飯舘各村
(注14)
汚染状況重点調査地域  福島第一原発から放出された放射性物質による環境の汚染状態が1時間当たり0.23μSv以上の区域が存在するため重点的に調査測定をすることが必要な地域であるとして環境大臣が指定した地域
ア 原子力災害関係の事業の執行状況

23年度から26年度までの4か年度の原子力災害関係の事業の執行状況について、事業類型別及び事業別に分析を行った。なお、原子力災害関係の事業に係る経費項目(注15)(以下「原子力災害関係経費」という。)は、2の「(1)復旧・復興予算の執行等の状況」及び「(2)国から財政支援等を受けて地方公共団体等が実施する復旧・復興事業の状況」において分析対象としている経費に含まれている。

23年度から26年度までの4か年度の原子力災害関係経費における支出済額を事業類型別にみると、図表5-1のとおり、帰還・再生事業等の「①直轄」が2303億余円、福島定住事業等の「②補助」が1164億余円、汚染土壌等の除染等に係る事業等の「③直轄、補助等」が1兆2239億余円、中間貯蔵施設整備等影響緩和交付金基金事業等の「④補助(基金)」が7443億余円等となっており、「③直轄、補助等」が全体の52.1%、「④補助(基金)」が全体の31.7%を占めている。

(注15)
原子力災害関係の事業に係る経費項目  23年度第1次補正予算の経費項目である「その他の東日本大震災関係経費」のうち「原子力災害対策費」、23年度第2次補正予算の経費項目である「原子力損害賠償法等関係経費」及び「東日本大震災復旧・復興予備費(原子力災害関係)」並びに23年度第3次補正予算の経費項目である「原子力災害復興関係経費」並びに24年度予算の経費項目である「原子力災害復興関係経費」及び「東日本大震災復旧・復興予備費(原子力災害関係)」、25年度予算の経費項目である「原子力災害復興関係経費」並びに26年度予算の経費項目である「原子力災害復興関係経費」をいう。

図表5-1 平成23年度から26年度までの原子力災害関係経費の事業類型別の支出済額の状況

図表5-1 平成23年度から26年度までの原子力災害関係経費の事業類型別の支出済額の状況 画像

23年度から26年度までの4か年度の原子力災害関係経費の支出済額計2兆3467億余円の事業別の内訳をみると、図表5-2のとおり、特措法3事業に係る支出済額が1兆1844億余円と全体の50.4%を占めていて、その大部分は汚染土壌等の除染等の費用の1兆1007億余円となっている。また、放射性物質汚染対処特措法が施行される前から緊急的に実施されていた除染等(以下「緊急除染等」という。)があり、内閣府、文部科学省及び厚生労働省において計2360億余円が支出(一部除染等以外の費用を含む。)されており、これを含めた除染等全体の支出は、1兆3368億余円に上り、原子力災害関係経費の56.9%を占めている。このほか、避難解除区域への帰還支援、再生加速化等を行う福島復興事業に係る支出済額は1332億余円と全体の5.6%を占めている。

図表5-2 平成23年度から26年度までの原子力災害関係経費の支出済額の事業別内訳の状況

図表5-2 平成23年度から26年度までの原子力災害関係経費の支出済額の事業別内訳の状況 画像

26年度の原子力災害関係経費に係る執行率、繰越率及び不用率をみると、図表5-3のとおり、執行率は、「汚染土壌等の除染等」が66.5%、「汚染廃棄物処理事業」が18.7%、「中間貯蔵施設事業」が5.5%、「福島復興事業」が47.3%となっており、特措法3事業のうち汚染土壌等の除染等以外の汚染廃棄物処理事業及び中間貯蔵施設事業で繰越率及び不用率が高くなっているのは、汚染廃棄物処理事業については地元自治体等との調整に時間を要したこと、中間貯蔵施設事業については中間貯蔵施設の安全性の確保に必要な事項等を検討するための各種調査業務等の実施に際して、地元自治体等の調整に時間を要したことや事業発注規模の見直しを行ったことなどのためである。また、福島復興事業の不用率が高くなっているのは、地元との調整が難航したことにより地方公共団体からの交付申請額が予定を下回ったこと、事業規模の縮小による事業計画の変更があったことなどのためである。

図表5-3 平成26年度の原子力災害関係経費の執行の状況

(単位:百万円、%)
事業名 歳出予算現額 支出済額 繰越額 不用額 執行率 繰越率 不用率
A B C D=A-B-C B/A C/A D/A
汚染土壌等の除染等 577,419 384,160 182,345 10,913 66.5 31.5 1.8
汚染廃棄物処理事業 213,325 40,070 72,412 100,842 18.7 33.9 47.2
中間貯蔵施設事業 115,138 6,379 52,627 56,132 5.5 45.7 48.7
福島復興事業 195,807 92,726 12,102 90,979 47.3 6.1 46.4

福島復興の加速指針では、国と東京電力の役割分担を明確化することとし、その基本的枠組みにおいて、「被災者・被災企業への賠償は、引き続き、東京電力の責任において適切に行う。また、実施済み又は現在計画されている除染・中間貯蔵施設事業の費用は、放射性物質汚染対処特措法に基づき、復興予算として計上した上で、事業実施後に、環境省等から東京電力に求償する」とされている。

除染・中間貯蔵施設事業の費用について、福島復興の加速指針によれば、当時の環境省の試算により、福島復興の加速指針の閣議決定時(25年12月)に実施済み又は計画されている除染(汚染廃棄物処理を含む。)の費用は約2.5兆円程度、中間貯蔵施設(建設・管理運営等)の費用は約1.1兆円程度と見込まれるとされ、この費用見込みは、「交付国債発行限度額の算定のためのものであり、今後速やかに計数を精査するとともに、除染・中間貯蔵施設事業の進捗等に応じて、適時に見直す」こととされている。しかし、27年10月末までに、上記費用の見直しは行われていない。そこで、除染・中間貯蔵施設事業の費用の見通しに関して、28年度までの費用について試算した。

その結果、図表5-4のとおり、26年度までの支出済額は特措法3事業の費用1兆1844億余円と、内閣府の「東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質の除染事業等」(以下「緊急実施除染事業」という。)の費用2151億余円を合わせた1兆3995億余円であり、これに27年度の歳出予算現額1兆0124億余円を加算し、さらに、28年度の復興特会の予算における概算決定額8685億円を考慮すると3兆2804億余円となる。

図表5-4 除染・中間貯蔵施設事業の費用の見通しの状況

図表5-4 除染・中間貯蔵施設事業の費用の見通しの状況 画像

イ 特措法3事業の実施状況

福島県内の除染特別地域及び汚染状況重点調査地域並びに福島県以外の7県内の汚染状況重点調査地域において、特措法3事業は計画に照らして適時に実施されているか把握するために、除染等の措置並びに除染等の措置により生じた除去土壌及び除染廃棄物(以下「除去土壌等」という。)の仮置場の設置、管理等を実施する汚染土壌等の除染等の実施状況や汚染廃棄物処理事業における廃棄物の処理状況について検査した。また、汚染土壌等の除染等や汚染廃棄物処理事業の実施に伴って大量に発生が見込まれる除去土壌等及び廃棄物を処理する上で欠くことのできない中間貯蔵施設事業の実施状況についても検査した。

(ア)汚染土壌等の除染等の実施状況

a 除染特別地域における汚染土壌等の除染等の実施状況

国は、放射性物質汚染対処特措法に基づき、除染特別地域について汚染土壌等の除染等を総合的かつ計画的に講ずるための特別地域内除染実施計画(以下「特別地域内計画」という。)を策定するに当たり、23年11月に「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法に基づく基本方針」を閣議決定して、放射線量が特に高い地域を除き一律に25年度末までに除染等の措置を行い、発生した除去土壌等を仮置場へ搬入するなどとした。

その後、環境省は、25年9月に公表した「除染の進捗状況についての総点検」において、一律に25年度末までに除染等の措置を行い、発生する除去土壌等を仮置場へ搬入するとしていた従前の目標を改め、個々の市町村の状況に応じて、復興の動きと連動した除染等の措置を推進することとした。そして、環境大臣は、同年12月に富岡町等6市町村の特別地域内計画を改定し、26年7月には、双葉町の特別地域内計画を策定して、市町村の状況に応じた除染等の措置の終了時期を定めた。

27年9月末現在の除染等の措置の終了時期をみると、図表5-5のとおり、楢葉、大熊両町、田村市及び川内村については26年3月までに終了し、富岡町等7市町村については、それぞれ28年3月又は29年3月までに終了するよう事業を実施している。

事業実施中の7市町村のうち、葛尾村では「宅地」の除染等の措置が完了しているほか、特別地域内計画で計画している除染対象のうち「農地」「森林(生活圏)」「道路」に係る除染等の措置の進捗率がそれぞれ94%、99%、68%となっているのに対して、浪江町や南相馬市のように、ほとんど又は全ての除染対象の除染等の措置の進捗率が50%に満たない市町村もある。また、除染等の措置の進捗率を除染対象別にみると、農地については11市町村中6市町村で50%を下回っており、他の除染対象に比べて進捗が遅れているが、これは、市町村の意向により、農地よりも宅地を優先して除染等の措置を進めてきたことなどによるものである。

図表5-5 除染特別地域における除染等の措置の実施状況(平成27年9月末現在)

市町村名 楢葉町 富岡町 大熊町 双葉町 浪江町 葛尾村 飯舘村 田村市 南相馬市 川俣町 川内村
宅地 平成26年9月末 進捗率(%) 100 5 100 5 100 25 100 4 100 100
対象数 (宅地の件数) 2,500 6,000 180 調整中 1,100 1,800 5,200 360 160
(関係人の数) 5,900
(世帯数) 120
27年年9月末 進捗率(%) 100 64 100 14 21 100 100 100 35 100 100
対象数 (宅地の件数) 2,489 6,295 176 91 455 1,991 143 4,910 357 161
(関係人の数) 5,940
(世帯数)
農地 26年9月末 進捗率(%) 100 0.9 100 5 17 12 100 1 15 100
対象数(千m2 8,100 7,700 1,700 調整中 19,000 4,300 22,000 1,400 31,000 7,300 1,300
27年9月末 進捗率(%) 100 21 100 7 30 94 43 100 17 37 100
対象数(千m2 8,107 6,685 1,664 1,186 18,503 4,515 16,607 1,431 30,588 7,320 1,331
森林
(生活圏)
26年9月末 進捗率(%) 100 4 100 8 99 17 100 15 36 100
対象数(千m2 4,500 6,600 1,600 調整中 3,800 6,000 14,000 1,900 12,000 5,100 2,000
27年9月末 進捗率(%) 100 99 100 3 33 99 70 100 47 84 100
対象数(千m2 4,506 4,630 1,647 157 3,780 6,342 12,392 1,921 11,510 5,083 2,009
道路 26年9月末 進捗率(%) 100 52 100 9 1 6 100 0.3 0.8 100
対象数(千m2 1,700 1,500 310 調整中 2,100 1,100 3,300 290 3,200 1,100 380
27年9月末 進捗率(%) 100 83 100 0 52 68 29 100 6 14 100
対象数(千m2 1,675 1,547 306 153 2,116 1,167 2,353 294 3,190 1,096 380
特別地域内計画における終了時期 26年3月終了 29年3月(宅地は28年3月) 26年3月終了 28年3月 29年3月(宅地は28年3月) 28年3月(宅地は終了) 29年3月(宅地は終了) 25年6月終了 29年3月(宅地は28年3月) 28年3月(宅地は終了) 26年3月終了
注(1)
進捗率は、小数点第1位(1%未満の場合は第2位)を四捨五入している。
注(2)
対象数は、有効数字2桁で四捨五入した概数であり、進捗率算出の基とした実績数とともに今後の精査によって変わり得る。
注(3)
網掛けは、特別地域内計画に基づく除染等の措置が終了した市町村を示す。
注(4)
双葉町は、特別地域内計画を平成26年7月に策定し、同年9月末現在では対象数は調整中である。
注(5)
楢葉町、大熊町、葛尾村(宅地)、飯舘村(宅地)、田村市、川俣町(宅地)及び川内村の対象数は、未同意等を除いている。

27年9月末現在の除染特別地域における仮置場等の箇所数及び保管量は図表5-6のとおり、247か所、約459万m3となっており、楢葉、富岡両町、葛尾、飯舘両村の4町村で計約303万m3と全体の65.9%を占めている。これは、除染対象となる区域の面積が広く、かつ、除染作業が一定程度進捗していることなどによる。

仮置場等に保管されている除去土壌等について、環境省は、27年1月に、福島県内の各市町村の仮置場から中間貯蔵施設へ試験的に輸送するパイロット輸送に関する「中間貯蔵施設への除去土壌等の輸送に係るH26~H27年度実施計画(パイロット輸送)」(以下「輸送実施計画(パイロット輸送)」という。)を策定した。輸送実施計画(パイロット輸送)によれば、パイロット輸送の実施期間は輸送開始から1年程度を見込み、搬出元は福島県管内43市町村の仮置場等で、輸送対象物は除染等の措置による除去土壌等、各市町村からの搬出量は1,000m3程度とされている。そして、27年3月に、中間貯蔵施設のストックヤードへのパイロット輸送が開始されており、同年9月末現在の除染特別地域から中間貯蔵施設への搬出量は、図表5-6のとおり8,476m3であり、楢葉町等8市町村からそれぞれ搬出されている(パイロット輸送の状況については2011_2_2_4_2_1リンク参照)。上記の中間貯蔵施設へパイロット輸送により運搬したり、仮設の焼却施設へ運搬したりして仮置場等から搬出した保管量は148,448m3であり、仮置場等の保管量の3.2%となっている。

図表5-6 除染特別地域における仮置場等の箇所数、保管量及び搬出済保管量の状況(平成27年9月末現在)

市町村名 楢葉町 富岡町 大熊町 双葉町 浪江町 葛尾村 飯舘村 田村市 南相馬市 川俣町 川内村 合計
仮置場等の箇所数 23 15 15 8 25 31 74 6 12 36 2 247
保管量(m3 577,127 814,745 225,335 22,605 309,577 474,852 1,165,162 36,895 443,916 436,276 92,505 4,598,995
搬出済保管量(m3 1,008 72,976 1,002 806 16,454 53,985 617 1,600 148,448
  うち仮設焼却施設へ 71,973 15,014 52,985 139,972
うち中間貯蔵施設へ 1,008 1,003 1,002 806 1,440 1,000 617 1,600 8,476
区域面積(ha) 2,100 2,800 400 200 3,300 1,700 5,600 500 6,100 1,600 500 24,800
注(1)
仮置場等には、一時保管所、仮仮置場等を含む。
注(2)
保管量及び搬出済保管量は、保管袋数を体積に換算している。なお、1袋当たりの体積は、おおむね1m3である。
注(3)
仮置場等からの搬出時に減容化した保管物等については複数個を1袋に集約して搬出することがあるため、中間貯蔵施設等が受け入れる保管量とは必ずしも一致しない。

b 汚染状況重点調査地域(福島県管内)における汚染土壌等の除染等の実施状況

27年9月末現在、福島県管内で汚染状況重点調査地域に指定された39市町村のうち36市町村が、放射性物質汚染対処特措法に基づき除染実施計画を策定して、同計画に基づき汚染土壌等の除染等を実施している。

汚染土壌等の除染等のうち、除染等の措置の実施状況を住宅、公共施設等、道路、農地・牧草地、森林(生活圏)の除染対象別にみると、図表5-7のとおり、進捗率は、公共施設等が86.6%と最も高く、また、直近1年間(26年9月~27年9月)の進捗率の伸びは、住宅が29.4ポイントと最大となっている。これは、住宅及び公共施設等の住民の生活に密着した施設等を優先して除染等の措置が実施されたことによるものである。一方、道路が38.0%と最も低くなっているが、これは、仮置場の確保等が課題となっていることによるものである。また、地域別にみると、会津地域は計画に対する進捗率が100%となり、県北地域は森林(生活圏)を除く除染対象で70%以上進捗しているのに対して、県中、県南、相双、いわきの各地域では進捗率が50%以下の除染対象も見受けられる。

図表5-7 汚染状況重点調査地域(福島県管内36市町村)の直近1年間における除染等の措置の実施状況(平成27年9月末現在)

地域名 年月 住宅(戸数) 公共施設等(施設数) 道路(km)
予定数 実績数 進捗率(%) 予定数 実績数 進捗率(%) 予定数 実績数 進捗率(%)
A B B/A A B B/A A B B/A
県北 平成26年9月 162,555 85,176 52.3 4,106 2,788 67.9 4,015 1,357 33.8
27年9月 163,460 125,336 76.6 5,188 4,249 81.9 3,741 2,641 70.6
県中 26年9月 140,855 51,688 36.6 2,759 2,029 73.5 4,887 426 8.7
27年9月 142,078 96,187 67.7 2,771 2,524 91.0 4,874 1,705 34.9
県南 26年9月 25,129 7,603 30.2 754 445 59.0 1,546 297 19.2
27年9月 30,934 23,324 75.3 845 755 89.3 1,878 440 23.4
会津 26年9月 6,688 2,645 39.5 144 137 95.1 183 45 24.5
27年9月 6,688 6,688 100.0 144 144 100.0 272 272 100.0
相双 26年9月 34,662 7,640 22.0 232 230 99.1 1,415 548 38.7
27年9月 36,674 14,076 38.3 267 261 97.7 1,401 802 57.2
いわき 26年9月 62,861 10,457 16.6 530 464 87.5 調整中
27年9月 54,565 27,909 51.1 408 408 100.0 3,480 92 2.6
26年9月 432,750 165,209 38.1 8,525 6,093 71.4 12,047 2,674 22.2
27年9月 434,399 293,520 67.5 9,623 8,341 86.6 15,647 5,954 38.0
地域名 年月 農地・牧草地(ha) 森林(生活圏)(ha)      
予定数 実績数 進捗率(%) 予定数 実績数 進捗率(%)
A B B/A A B B/A
県北 26年9月   16,108 14,628 90.8 1,548 404 26.1
27年9月 16,028 14,686 91.6 2,018 1,105 54.7
県中 26年9月 9,375 4,762 50.8 598 64 10.7
27年9月 9,361 6,654 71.0 144 61 42.3
県南 26年9月 550 472 85.8 811 54 6.6
27年9月 514 512 99.6 780 172 22.0
会津 26年9月
27年9月
相双 26年9月 8,120 1,185 14.6 697 432 62.0
27年9月 7,739 4,189 54.1 729 459 62.9
いわき 26年9月 287 0 0.0 591 7 1.3
27年9月 調整中 152 調整中 7
26年9月 34,441 21,049 61.1 4,247 963 22.6
27年9月 33,644 26,194 77.4 3,673 1,805 48.9
注(1)
住宅、公共施設等及び道路の実績数には、調査にて終了したものが含まれる。
注(2)
予定数は、市町村により概数又は平成27年度末までの計画数を計上しているところがあるため今後変更されることがある。また、「―」は予定及び実績がないこと、「調整中」は実施計画を調整中であることを示す。
注(3)
「農地・牧草地」及び「森林(生活圏)」の計欄の27年9月の「進捗率」の算定に当たっては、「いわき」の実績数を含めていない。

27年9月末現在の除去土壌等の保管の状況をみると、図表5-8のとおり、保管箇所は114,536か所あり、このうち住宅等の敷地内において保管袋等に入れるなどして地上又は地下で保管している箇所が110,337か所(96.3%)と大半を占めている。

また、同月末現在の福島県管内の汚染状況重点調査地域における除去土壌等の保管量は合計で約455万m3であり、このうち仮置場に約276万m3(60.5%)が保管されていて、仮置場の箇所数は909か所と少ないものの保管場所として大きな役割を果たしている。一方、住宅、学校等の施設においても約135万m3(29.8%)が保管されており、地元住民の生活にも少なからず負担を与えている。

図表5-8 汚染状況重点調査地域(福島県管内36市町村)における除去土壌等の保管箇所及び保管量の状況(平成27年9月末現在)

図表5-8 汚染状況重点調査地域(福島県管内36市町村)における除去土壌等の保管箇所及び保管量の状況(平成27年9月末現在) 画像

前記のとおり、仮置場等で保管されている除去土壌等の一部は中間貯蔵施設へパイロット輸送することとなっているが、福島県管内の汚染状況重点調査地域における除染実施計画策定済みの36市町村からの輸送状況は、27年9月末現在、8市町村において計6,556m3が搬入中又は搬入終了となっている(パイロット輸送の状況については2011_2_2_4_2_1リンク参照)。

上記のように除去土壌等の仮置場等からの輸送量は現状ではまだ僅かであり、除去土壌等の中間貯蔵施設への輸送が進まない場合、除染等の措置の進捗による除去土壌等の仮置場及び住宅、学校等の施設における保管量が増大して地元住民の生活への更なる負担が懸念される。

c 福島県以外の7県管内60市町村の汚染状況重点調査地域における汚染土壌等の除染等の実施状況

27年9月末現在、福島県以外の7県(注16)管内で汚染状況重点調査地域に指定された60市町村のうち、58市町村が放射性物質汚染対処特措法に基づき除染実施計画を策定して、同計画に基づき汚染土壌等の除染等を実施している。

汚染土壌等の除染等のうち除染等の措置の実施状況をみると、図表5-9のとおり、27年9月末現在で、岩手、宮城両県以外の5県については栃木県を除きほぼ完了している。栃木県については、公共施設等の進捗率が61.0%と比較的進捗が遅れている。また、岩手、宮城両県についてはおおむね80%以上の進捗率となっているが、宮城県については道路の進捗率が15.7%にとどまっている。これは、除去土壌等を保管する仮置場について地元住民等の同意が得られないなどの理由により、用地確保が難航していることなどによるものである。

(注16)
7県  岩手、宮城、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉各県

図表5-9 汚染状況重点調査地域(7県管内)における除染等の措置の実施状況(平成27年9月末現在)

  住宅(戸数、棟数) 公共施設等(施設数) 道路(m)
県名 平成27年9月末 平成27年9月末 平成27年9月末
予定数 実績数 進捗率(%) 予定数 実績数 進捗率(%) 予定数 実績数 進捗率(%)
A B B/A A B B/A A B B/A
岩手県 18,621 15,712 84.3 3,675 3,202 87.1 2,162,600 2,162,600 100
宮城県 10,247 8,522 83.1 681 681 100 486,229 76,402 15.7
茨城県 47,276 47,276 100 1,850 1,850 100 2,134,405 2,134,405 100
栃木県 41,519 39,637 95.4 2,431 1,485 61.0 81,402 81,402 100
群馬県 6,192 6,192 100 188 188 100 203,378 203,378 100
埼玉県 - - 150 150 100 3,409 3,409 100
千葉県 19,160 19,160 100 2,491 2,491 100 232,874 232,874 100
143,015 136,499 95.4 11,466 10,047 87.6 5,304,297 4,894,470 92.2
  農地・牧草地(m2 森林(生活圏)(m2  
県名 平成27年9月末 平成27年9月末
予定数 実績数 進捗率(%) 予定数 実績数 進捗率(%)      
A B B/A A B B/A
岩手県 - - - -  
宮城県 808,186 808,186 100 2,104,107 2,104,107 100  
茨城県 - - 7,186 7,186 100  
栃木県 12,278,300 12,278,300 100 831,760 831,760 100  
群馬県 1,043,597 1,043,597 100 60,155 60,155 100  
埼玉県 - - - -  
千葉県 - - - -  
14,130,083 14,130,083 100 3,003,208 3,003,208 100  
注(1)
予定数は、平成27年9月末現在で具体的に予定があるものであり、今後市町村における除染の計画が具体化するのに伴って増減する可能性がある。
注(2)
予定数及び実績数には、モニタリングを実施して、その結果を基に除染作業を実施しなかったものを含めている。また、「-」は予定及び実績がないことを示す。

一方、26年度末現在の除去土壌等の保管の状況をみると、図表5-10のとおり、22,741か所において340,622m3の除去土壌等が保管されている。また、これらの除去土壌等の保管場所をみると、全体の95.5%に当たる21,735か所は、除染等の措置を実施した現場の地下となっており、地下での保管量は全体の83.3%に当たる283,864m3となっている。

環境省は、除染等の措置の実施により発生した除去土壌等のうち、除染廃棄物については処分基準が定められており一部処分がなされているが、除去土壌については、今後策定予定の基準に従って処分を実施することとなるとしている。除去土壌等の大部分は現場の地下で保管されたままとなっており、地元住民の生活への更なる影響が懸念されるため、今後早急に除去土壌についても処分の基準を策定して、処分を実施することが望まれる。

図表5-10 汚染状況重点調査地域(7県管内58市町村)における除去土壌等の保管の状況(平成26年度末現在)

県名 現場保管 仮置場
箇所数 保管量(m3 箇所数 保管量(m3
  地下保管 地上保管   地下保管 地上保管   地下保管 地上保管   地下保管 地上保管
岩手県 311 310 1 24,912 24,912 - - - - - - -
宮城県 578 572 6 18,259 17,807 452 15 - 15 19,784 - 19,784
茨城県 1,048 1,011 37 55,488 49,766 5,723 2 - 2 2,657 - 2,657
栃木県 18,288 17,407 881 103,330 88,286 15,043 2 2 - 6,044 6,044 -
群馬県 781 774 7 3,468 3,426 42 6 2 4 1,811 1,081 730
埼玉県 44 19 25 6,562 2,634 3,928 2 1 1 656 205 451
千葉県 1,662 1,642 20 97,581 97,033 548 2 - 2 70 - 70
22,712 21,735 977 309,600 283,864 25,736 29 5 24 31,022 7,330 23,692
県名 現場保管
箇所数 保管量(m3
  地下保管 地上保管   地下保管 地上保管
岩手県 311 310 1 24,912 24,912 -
宮城県 593 572 21 38,043 17,807 20,236
茨城県 1,050 1,011 39 58,145 49,766 8,380
栃木県 18,290 17,409 881 109,374 94,330 15,043
群馬県 787 776 11 5,279 4,507 772
埼玉県 46 20 26 7,218 2,839 4,379
千葉県 1,664 1,642 22 97,651 97,033 618
22,741 21,740 1,001 340,622 291,194 49,428
(注)
保管量は小数点以下を四捨五入しているため、集計しても計欄と一致しない場合がある。
(イ)汚染廃棄物処理事業の実施状況

放射性物質に汚染された廃棄物には、①対策地域内廃棄物、②放射能濃度が8,000Bq(注17)/kgを超え、特別な管理が必要な程度に汚染されたものとして環境大臣が指定した廃棄物(以下「指定廃棄物」という。)、③①及び②以外の廃棄物で、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号)が適用され、市町村等が処理を行うこととなっている廃棄物がある。

これらの廃棄物処理の主な流れは、図表5-11のとおり、福島県内においては、放射能濃度が10万Bq/kgを超える対策地域内廃棄物及び指定廃棄物は中間貯蔵施設へ搬入して一定の期間安全かつ集中的に管理及び保管を行い、10万Bq/kg以下の対策地域内廃棄物及び指定廃棄物は既存の管理型処分場で処分することとなっている。

(注17)
Bq(ベクレル)  1秒間に崩壊する原子核の数。放射性物質の量を表す場合に用いられる単位

図表5-11 対策地域内廃棄物、指定廃棄物等の主な処理の流れ

図表5-11 対策地域内廃棄物、指定廃棄物等の主な処理の流れ 画像

注(1)
図表中の対策地域内廃棄物は、除染廃棄物を除く災害廃棄物等のことである。
注(2)
対策地域内廃棄物及び指定廃棄物以外の放射能濃度8,000Bq/kg以下のその他の廃棄物のうち、一定の範囲については、放射性物質汚染対処特措法に基づく基準が適用される。
注(3)
管理型処分場は、埋立地から出る浸出水による地下水や公共水域の汚染を防止するために、埋立地の側面や底面を遮水シート等で覆う遮水工、浸出水処理施設等を備えた処理施設のことである。

汚染廃棄物処理事業は、対策地域内廃棄物、指定廃棄物等の迅速な処理等を実施するものであり、23年度から26年度までの4か年度の支出済額は計743億余円となっている。

a 対策地域内廃棄物の処理の進捗状況

環境大臣は、24年6月に、放射性物質汚染対処特措法に基づき、福島県の双葉町を除く10市町村の対策地域内における災害廃棄物及び除染廃棄物の処理方針を定める対策地域内廃棄物処理計画(以下「処理計画」という。)を策定した。処理計画によれば、国は、沿岸部の市町については、帰還困難区域を除き、24年度内を目途に災害廃棄物を仮置場へ搬入し、25年度末までに処理施設等への搬入を目指すこととし、内陸部の市町村については、帰還困難区域を除き、要解体建物等の状況を把握した上で当該市町村と調整しつつ、25年度末までに処理施設等への搬入を目指すこととされていた。このほか、国は、除染廃棄物について、今後、除染の内容等が具体化された段階で除染廃棄物の種類及び発生量等の予測を行い、処理体制の整備状況等を踏まえて、処理目標を検討することとされていた。

その後、環境省は、災害廃棄物等の処理に係る調整等に時間を要して25年度末までの完了が困難な状況であるとして、25年9月に「福島県の災害廃棄物等の処理進捗状況についての総点検」を公表して、避難者の円滑な帰還を積極的に推進する観点から、避難指示解除準備区域(注18)及び居住制限区域(注19)の災害廃棄物等の処理に当たっては、帰還の妨げとなる廃棄物の処理を優先することとした。そして、環境大臣は、同年12月に処理計画を改定して、帰還の妨げとなる廃棄物の撤去と仮置場への搬入の完了時期を双葉町を含む市町村ごとに定めて処理を実施している。そのうち仮置場への搬入状況をみると、図表5-12のとおり、大熊、楢葉両町及び川内村は26年3月に、南相馬市、双葉町及び飯舘村は27年3月までにそれぞれ搬入を完了している。川俣町及び葛尾村は同月までに一部の片付けごみを除き搬入を完了していて、浪江、富岡両町は28年3月を完了予定として搬入中である。これらの作業はおおむね改定された計画どおりに行われている。

(注18)
避難指示解除準備区域  避難指示区域のうち、平成24年3月時点での空間線量率から推定された年間積算線量が20mSv以下となることが確実であることが確認された地域
(注19)
居住制限区域  避難指示区域のうち平成24年3月時点での空間線量率から推定された年間積算線量が20mSvを超えるおそれがあると確認されていて、住民の被ばく線量を低減する観点から、引き続き避難の継続を求める地域

図表5-12 処理計画及び帰還の妨げとなる廃棄物の仮置場への搬入の状況

図表5-12 処理計画及び帰還の妨げとなる廃棄物の仮置場への搬入の状況 画像

b 指定廃棄物の処理の進捗状況

福島県を含む12都県(注20)に保管されている指定廃棄物の数量は、図表5-13のとおり、26年9月末に15.2万tであったものが27年9月末には16.6万tに増加している。環境省は、24年3月に、地方公共団体や地方公共団体から委託を受けた民間事業者等の施設による指定廃棄物の保管容量がひっ迫している宮城、茨城、栃木、群馬、千葉各県において、同省が自ら指定廃棄物の処分に必要な長期管理施設等を確保することとした。

27年9月末現在、環境省が同施設の候補地を選定している段階であり、指定廃棄物はその全量が地方公共団体や地方公共団体から委託を受けた民間事業者等が管理する焼却施設等に保管されている。

(注20)
12都県  東京都、岩手、宮城、山形、福島、茨城、栃木、群馬、千葉、神奈川、新潟、静岡各県

図5-13 岩手県等12都県の指定廃棄物の数量の状況(平成27年9月末現在)

(単位:t)
都県名 岩手県 宮城県 山形県 福島県 茨城県 栃木県 群馬県
平成26年9月末 475 3,317 2 127,512 3,532 10,510 1,186
27年9月末 475 3,405 2 138,490 3,532 13,533 1,186
都県名 千葉県 東京都 神奈川県 新潟県 静岡県
26年9月末 3,687 981 2 1,017 8 152,236
27年9月末 3,690 981 2 1,017 8 166,328
(ウ)中間貯蔵施設事業の実施状況

中間貯蔵施設事業は、福島県内における汚染土壌等の除染等及び汚染廃棄物処理事業の実施に伴って大量に発生が見込まれる除去土壌、放射能濃度が10万Bq/kgを超える廃棄物等(以下「除去土壌・廃棄物」という。)を一定の期間、安全かつ集中的に管理及び保管を行うための中間貯蔵施設に係る調査検討及びその整備等を行う事業である。国は、23年度から26年度までの4か年度に、各種調査業務、施設予定地内に除去土壌・廃棄物を一時的に保管するためのストックヤードの整備等のために計92億余円を支出している。

a 中間貯蔵施設の建設の受入れ容認までの経緯等

環境省は、23年10月に公表した「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う放射性物質による環境汚染の対処において必要な中間貯蔵施設等の基本的考え方について」で、中間貯蔵施設の確保及び維持管理は国が行うこと、貯蔵対象は福島県内の除去土壌・廃棄物のみとすること、中間貯蔵開始後30年以内に福島県外で最終処分を完了することなどとした。そして、除去土壌・廃棄物の仮置場への本格搬入開始から3年程度を供用の目途とする中間貯蔵施設の整備に係る工程表を策定した。

また、環境省は、25年4月に双葉郡内において開始した現地調査、住民説明会、それらと並行して開催した中間貯蔵施設安全対策検討会等を経て、福島県及び楢葉、富岡、大熊、双葉各町に対して、同年12月に中間貯蔵施設の設置及び管理型処分場の活用の受入れに係る要請を行った。その後、中間貯蔵施設を大熊、双葉両町へ集約して建設することについて、26年9月に福島県、同年12月に大熊町、27年1月に双葉町からそれぞれ容認された。これを受けて、環境省は、27年2月に、中間貯蔵施設の本格工事が始まるまでの間、施設予定地内に除去土壌・廃棄物を一時的に保管するためのストックヤードの整備を開始して、同年9月末現在、大熊、双葉両町においてそれぞれ約2万m3の保管分の整備を完了して、更に28年3月末までにそれぞれ約0.6万m3の保管分の整備を追加して行うこととしている。

なお、中間貯蔵施設に係る用地取得の状況をみると、環境省は、当該用地の登記簿上の約2,400人の地権者のうち連絡先を把握している約1,290人に連絡を取り、27年9月末までに約1,020人に個別訪問等による説明を行っているが、土地の売買契約等の成立件数は9件にとどまっている。

これまで環境省は、できるだけ早期の搬入に向けて、用地取得やパイロット輸送等の取組を実施してきているところではあるが、上記のとおり、用地取得が進んでおらず、施設整備や輸送等の全体計画を示すことは困難な状況となっている。

b パイロット輸送の状況

環境省は、25年12月から、「中間貯蔵施設への除去土壌等の輸送に係る検討会」を開催していて、26年11月に、仮置場等から中間貯蔵施設までの除去土壌・廃棄物の輸送に当たってのルールや考慮すべき項目に関する基本的事項をとりまとめた「中間貯蔵施設への除去土壌等の輸送に係る基本計画」(以下「輸送基本計画」という。)を策定した。

輸送基本計画によれば、中間貯蔵施設事業の実施者である国が中心となり、除染等実施者等と連携して、大量の除去土壌・廃棄物の本格輸送を安全かつ効率的に実施するために、広く県内全域からの輸送を行い、輸送手段等の効率性の確認等を行うパイロット輸送をおおむね1年程度実施することとされている。そして、環境省は、輸送基本計画を前提として、搬出元、輸送のルート等を定めた輸送実施計画(パイロット輸送)を策定して、実施期間については26、27両年度のうちの1年程度として、搬出元については福島県内の除染特別地域又は汚染状況重点調査地域である福島県管内43市町村の仮置場等で、各市町村からの搬出量については1,000m3程度としている。そして、27年3月に、中間貯蔵施設のストックヤードへのパイロット輸送が開始され、図表5-14のとおり、同年9月末現在の搬入量(搬入中のものを含む。)は、10市町村から大熊町へ計9,158m3、5市町村から双葉町へ計5,777m3となっている。

図表5-14 中間貯蔵施設のストックヤードへのパイロット輸送の状況(平成27年9月末現在)

搬出元市町村名 搬出先(保管場) 搬入量(m3 搬入状況
大熊町 大熊町 1,002 搬入終了
田村市 1,004 搬入終了
富岡町 1,003 搬入終了
川内村 1,590 搬入終了
広野町 900 搬入終了
棚倉町 1,516 搬入終了
浅川町 286 搬入終了
会津美里町 1,000 搬入終了
平田村 267 搬入中
いわき市 590 搬入中
10市町村 大熊町計 9,158
双葉町 双葉町 806 搬入終了
浪江町 1,353 搬入終了
葛尾村 1,000 搬入終了
郡山市 1,610 搬入終了
楢葉町 1,008 搬入終了
5市町村 双葉町計 5,777
15市町村 合計 14,935
(注)
輸送したフレキシブルコンテナ等1袋の体積を1m3として換算した。
ウ 帰還支援等の取組等の実施状況
(ア)避難指示区域等の見直しの状況

国は、25年8月までに福島県内の全ての避難指示対象市町村(田村、南相馬両市、伊達郡川俣、双葉郡楢葉、富岡、大熊、双葉、浪江各町、双葉郡川内、葛尾、相馬郡飯舘各村)において、避難指示区域の見直しを完了した。そして、図表5-15[25年8月8日現在の状況]のとおり、2市6町3村の一部を避難指示解除準備区域に、1市4町3村の一部を居住制限区域に、1市4町2村の一部を帰還困難区域にそれぞれ再編した。

その後、国は、図表5-15[27年9月5日現在の状況]のとおり、26年4月1日に田村市の一部に設定していた避難指示解除準備区域を解除し、続いて、同年10月1日に川内村の一部に設定していた避難指示解除準備区域を解除するとともに、居住制限区域を避難指示解除準備区域とする見直しを行った。さらに、27年9月5日には楢葉町の一部に設定していた避難指示解除準備区域を解除して、その結果、同日現在、避難指示区域は9市町村に設定されている。

また、国は、福島復興の加速指針を27年6月に改訂して、避難指示解除準備区域及び居住制限区域について、遅くとも福島第一原発の事故から6年後(29年3月)までに避難指示を解除できるよう、環境整備を加速することなどとした。

図表5-15 避難指示区域等の設定の状況(概念図)

図表5-15 避難指示区域等の設定の状況(概念図) 画像

27年9月5日現在、避難指示区域の市町村別の人口、世帯数及び面積は、図表5-16のとおり、70,485人、25,262世帯、約952km2となっており、9市町村全体のそれぞれ50.8%、49.0%、65.2%を占めている。このうち、富岡、大熊、双葉、浪江各町、葛尾、飯舘両村は全域が避難指示区域に設定されている。

図表5-16 避難指示区域の人口、世帯数及び面積の状況(平成27年9月5日現在)

市町村名 区分 全体 避難指示区域  
  帰還困難区域 居住制限区域 避難指示解除 区域対象外
  割合(%)   割合(%)   割合(%) 準備区域 割合(%)   割合(%)
富岡町 人口(人) 13,919 13,919 100.0 4,103 29.4 8,470 60.8 1,346 9.6 - -
世帯数(世帯) 5,549 5,549 100.0 1,663 29.9 3,396 61.2 490 8.8 - -
面積(km2 68 68 100.0 8 11.7 35 51.4 25 36.7 - -
大熊町 人口(人) 10,782 10,782 100.0 10,392 96.3 368 3.4 22 0.2 - -
世帯数(世帯) 3,927 3,927 100.0 3,786 96.4 130 3.3 11 0.2 - -
面積(km2 79 79 100.0 49 62.0 12 15.1 18 22.7 - -
双葉町 人口(人) 6,275 6,275 100.0 6,032 96.1 - - 243 3.8 - -
世帯数(世帯) 2,354 2,354 100.0 2,278 96.7 - - 76 3.2 - -
面積(km2 51 51 100.0 49 96.0 - - 2 3.9 - -
浪江町 人口(人) 18,866 18,866 100.0 3,211 17.0 8,020 42.5 7,635 40.4 - -
世帯数(世帯) 7,082 7,082 100.0 1,146 16.1 2,998 42.3 2,938 41.4 - -
面積(km2 224 224 100.0 180 80.3 23 10.2 21 9.3 - -
葛尾村 人口(人) 1,478 1,478 100.0 118 7.9 62 4.1 1,298 87.8 - -
世帯数(世帯) 452 452 100.0 33 7.3 21 4.6 398 88.0 - -
面積(km2 85 85 100.0 16 18.8 5 5.8 64 75.2 - -
飯舘村 人口(人) 6,275 6,275 100.0 269 4.2 5,224 83.2 782 12.4 - -
世帯数(世帯) 1,864 1,864 100.0 76 4.0 1,582 84.8 206 11.0 - -
面積(km2 230 230 100.0 11 4.7 157 68.2 62 26.9 - -
南相馬市 人口(人) 64,102 11,665 18.1 2 0.0 477 0.7 11,186 17.4 52,437 81.8
世帯数(世帯) 23,641 3,663 15.4 1 0.0 126 0.5 3,536 14.9 19,978 84.5
面積(km2 399 171 42.8 24 6.0 56 14.0 91 22.8 228 57.1
川俣町 人口(人) 14,523 1,171 8.0 - - 122 0.8 1,049 7.2 13,352 91.9
世帯数(世帯) 5,554 352 6.3 - - 41 0.7 311 5.5 5,202 93.6
面積(km2 127 32 25.1 - - 3 2.3 29 22.8 95 74.8
川内村 人口(人) 2,469 54 2.1 - - - - 54 2.1 2,415 97.8
世帯数(世帯) 1,051 19 1.8 - - - - 19 1.8 1,032 98.1
面積(km2 197 12 6.0 - - - - 12 6.0 185 93.9
人口(人) 138,689 70,485 50.8 24,127 17.3 22,743 16.3 23,615 17.0 68,204 49.1
世帯数(世帯) 51,474 25,262 49.0 8,983 17.4 8,294 16.1 7,985 15.5 26,212 50.9
面積(km2 1,460 952 65.2 337 23.0 291 19.9 324 22.1 508 34.7
注(1)
人口及び世帯数は、市町村から聞き取った情報(平成27年9月5日現在の住民登録数)を基に内閣府原子力被災者生活支援チームが集計したものである。
注(2)
割合は、全体に対する割合を示す。
注(3)
平成27年9月5日現在の避難指示区域は、双葉郡富岡、大熊、双葉、浪江各町、双葉郡葛尾、相馬郡飯舘両村の全域並びに南相馬市、伊達郡川俣町及び双葉郡川内村の一部地域である。
(イ)生活拠点形成事業の実施状況

福島県、避難先市町村又は避難元市町村等(以下、これらを合わせて「福島県等」という。)は、避難指示区域に存する住宅に23年3月11日において居住していた者(特定帰還者(注21)である者を除く。以下「居住制限者」という。)の生活の拠点を形成することを目的として、生活拠点形成事業を実施し、災害公営住宅の整備等を行っている(以下、居住制限者のための災害公営住宅を「復興公営住宅」という。)。

(注21)
特定帰還者  避難指示区域又は避難解除区域に存する住宅に平成23年3月11日において居住していた者であって当該住宅の存した市町村に帰還する者

福島県は、復興公営住宅の整備等を実施するに当たり、住民意向調査の結果等を踏まえて、復興公営住宅の整備戸数、整備箇所等を定めた福島県復興公営住宅整備計画(以下「整備計画」という。)を策定している。そして、同県は、25年6月の第1次の整備計画では、27年度までの入居を目指しておおむね3,700戸を整備することとし、25年12月の第2次の整備計画では、新たに27年度以降早期の入居を目指して1,190戸を追加して、全体で計4,890戸を整備することとした。

その後、福島県は、26年8月には用地の確保が難航していることなどにより、27年1月には宅地造成に時間を要することなどにより遅れが生ずるとして、それぞれ整備見通しの見直しを行うなどしており、同年9月の整備見通しの公表では、図表5-17のとおり、総整備計画戸数4,890戸のうち2,211戸の完成時期は28年度中、1,484戸の完成時期は29年度中としている。

図表5-17 受入市町村別の復興公営住宅の整備計画戸数の見通しの状況(平成27年9月7日現在)

(単位:戸)
受入市町村名 完成予定年度
平成26年度 27年度 28年度 29年度
福島市 71 58 216 130 475
会津若松市 28 61 45 - 134
郡山市 160 330 80 - 570
いわき市 250 67 231 1,220 1,768
白河市 - - 40 - 40
二本松市 - - 270 76 346
田村市 - - 18 - 18
南相馬市 - - 927 - 927
本宮市 - 61 - - 61
桑折町 - 25 39 - 64
川俣町 - - 120 - 120
大玉村 - 59 8 - 67
三春町 - - 217 - 217
広野町 - - - 58 58
川内村 - 25 - - 25
509 686 2,211 1,484 4,890

総整備計画戸数4,890戸のうち、27年9月末現在の建築工事着手済戸数及び建物完成戸数をみると、図表5-18のとおり、福島県全体の70地区、4,890戸のうち、建築工事に着手済みとなっているのは37地区、1,856戸(建築工事着手率37.9%)、建物の完成に至っているのは17地区、687戸(建物完成率14.0%)となっている。

図表5-18 受入市町村別の復興公営住宅の整備の進捗の状況(平成27年9月末現在)

(単位:地区、戸、%)
受入市町村名 計画数 建築工事着手済数 建築工事着手率 建物完成数 建物完成率
地区数 戸数 地区数 戸数 地区数 戸数
  A   B B/A   C C/A
福島市 7 475 5 193 40.6 3 71 14.9
会津若松市 5 134 3 100 74.6 2 70 52.2
郡山市 17 570 16 490 85.9 7 234 41.0
いわき市 17 1,768 6 415 23.4 3 262 14.8
白河市 2 40 - - 0.0 - - 0.0
二本松市 4 346 - - 0.0 - - 0.0
田村市 1 18 - - 0.0 - - 0.0
南相馬市 5 927 2 519 55.9 - - 0.0
本宮市 3 61 2 30 49.1 - - 0.0
桑折町 2 64 1 25 39.0 1 25 39.0
川俣町 2 120 - - 0.0 - - 0.0
大玉村 1 67 1 59 88.0 - - 0.0
三春町 2 217 - - 0.0 - - 0.0
広野町 1 58 - - 0.0 - - 0.0
川内村 1 25 1 25 100.0 1 25 100.0
70 4,890 37 1,856 37.9 17 687 14.0
エ 原子力災害関係経費の求償の状況

国は、復興基本方針に基づき、原子力災害の応急対策、復旧対策及び復興について、原子力災害関係経費により、自ら又は独立行政法人を通じて事業を実施したり、地方公共団体が実施する事業に対して国庫補助金等を交付したりするなどして対応を図ってきている。

一方、原子力事業者は、原賠法等によれば、原子力損害を賠償する責めに任ずるとされていて、東京電力は、国及び地方公共団体が実施した福島第一原発の事故に対処するための事業に要した費用のうち、事故との相当因果関係があると認められる損害に係る費用については、国及び地方公共団体からの求償に基づき、その内容等を確認した上で支払っている。

そこで、国は東京電力に対して求償を適切に行っているかを把握するために、関係各府省庁等、沿岸6県及び管内市町村において、国が支出した原子力災害関係経費についての東京電力に対する求償の実施状況について検査した。

(ア)特措法3事業及び緊急除染等に係る求償の状況

a 特措法3事業に係る8省の求償の状況

放射性物質汚染対処特措法においては、福島第一原発から放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関して、国、地方公共団体等が行う特措法3事業は、原賠法等により関係原子力事業者が賠償する責めに任ずべき損害に係るものとして当該関係原子力事業者の負担の下に実施されるものとすることが明記された。そして、福島復興の加速指針において事業実施後に環境省等から東京電力に求償するとされた、実施済み又は現在計画されている除染・中間貯蔵施設事業の費用(詳細についてはリンク参照)の賠償に対して東京電力において必要となる資金繰りは、原子力損害賠償・廃炉等支援機構法(平成23年法律第94号)に基づき、原子力損害賠償・廃炉等支援機構(以下「機構」という。)への交付国債の交付・償還により国が支援することなどとされている(図表5-19参照)。

図表5-19 国による東京電力の資金繰り支援等の流れ

図表5-19 国による東京電力の資金繰り支援等の流れ 画像

放射性物質汚染対処特措法が施行された24年1月以降に8省(注22)が直轄により、又は国庫補助金等を交付して実施した特措法3事業について、23年度から26年度までの4か年度の事業実施済額(26年度末までに特措法3事業に係る費用として確定した額)、27年10月末現在の8省が東京電力に行った年度別の求償額及び同額の事業実施済額に対する割合(以下「求償率」という。)、さらに、求償額に対する東京電力の支払額及び同額の割合(以下「支払率」という。)を示すと図表5-20のとおりであり、特措法3事業の23年度から26年度までの4か年度の事業実施済額の合計は7857億余円、求償額の合計は4605億余円(求償率58.6%)、東京電力の支払額の合計は3653億余円(支払率79.3%)となっている。

(注22)
8省  法務、財務、文部科学、厚生労働、農林水産、国土交通、環境、防衛各省

図表5-20 特措法3事業(平成23年度から26年度まで)に係る8省の求償及び東京電力の支払の状況(27年10月末現在)

(単位:百万円、%)
省名 事業名 事業実施済額 求償を行った年度 求償額 求償率 支払額 支払率
A B B/A C C/B
環境省 汚染土壌等の除染等 701,259 平成24 14,784 13,164 89.0
25 44,502 43,124 96.9
26 119,619 116,137 97.0
27 202,164 178,073 88.0
小計 381,071 54.3 350,499 91.9
  国直轄除染 336,161 24 12,425 10,871 87.4
25 32,903 31,993 97.2
26 57,443 55,980 97.4
27 192,256 170,019 88.4
小計 295,028 87.7 268,865 91.1
市町村除染 365,098 24 2,359 2,292 97.1
25 11,599 11,130 95.9
26 62,176 60,156 96.7
27 9,907 8,054 81.2
小計 86,042 23.5 81,633 94.8
汚染廃棄物処理事業 74,176 24 - - -
25 6,409 4,388 68.4
26 27,813 8,796 31.6
27 39,672 - 0.0
小計 73,895 99.6 13,185 17.8
中間貯蔵施設事業 8,937 24 103 71 68.3
25 362 360 99.4
26 1,945 1,128 58.0
27 3,152 65 2.0
小計 5,563 62.2 1,625 29.2
784,373 460,529 58.7 365,310 79.3
法務省 汚染土壌等の除染等
(直轄)
33 27 8 24.1 8 100.0
8 24.1 8 100.0
財務省 汚染土壌等の除染等
(直轄)
9 - - 0.0 - -
文部科学省 汚染土壌等の除染等
(直轄)
20 - - 0.0 - -
厚生労働省 汚染土壌等の除染等
(直轄)
69 - - 0.0 - -
国土交通省 汚染土壌等の除染等
(直轄)
498 - - 0.0 - -
防衛省 汚染土壌等の除染等
(直轄)
460 - - 0.0 - -
農林水産省 除染等の技術実証において実施された汚染土壌等の除染等(直轄) 243 - - 0.0 - -
24 14,888 13,235 88.8
25 51,274 47,873 93.3
26 149,378 126,062 84.3
27 244,996 178,147 72.7
785,709 460,538 58.6 365,318 79.3
注(1)
福島県に設置造成等された基金により実施されている事業の事業実施済額は、当該基金から取り崩されて執行された額を計上している。
注(2)
事業実施済額は平成27年3月末現在としている。また、事業実施年度は環境省が23年度から26年度まで、農林水産省が24年度から26年度まで、環境、農林水産両省以外の各省は26年度である。

各省庁等における汚染土壌等の除染等のうち、除染特別地域に係る汚染土壌等の除染等については、環境省が実施して自ら東京電力に対して費用の求償を行っている。そして、汚染状況重点調査地域内の各省庁等が管理する土地及びこれに存する工作物、立木その他土地に定着する物件に係る汚染土壌等の除染等については、23年度から25年度までの3か年度においては、復興庁から環境省に一括して予算の移替えを行うなどして、環境省から支出委任を受けた土地等を管理する省庁等が実施している。なお、農林水産省は、24、25両年度の汚染土壌等の除染等を自らの所管する予算を執行して実施している。このように農林水産省を除いて、25年度までは環境省所管予算として執行されていたことから、他省庁等の実施分に係る費用を含めて、環境省が東京電力に対して求償を行っていたが、26年度以降は、土地等を管理する省庁等所管予算として執行されることとなり、当該省庁等が東京電力に対して費用の求償を行うこととなっている。国以外の者が管理する土地等に係る汚染土壌等の除染等については、環境省が県、市町村等が実施する事業に必要な費用を国庫補助金として交付しており、いずれも環境省が東京電力に対して事業に要した費用の求償を行っている。

そして、26年度以降は、農林水産省及び環境省を除く新たに自ら求償を行うこととなった6省のうち法務省は既に求償を行い、他の5省は環境省から求償に関する手順等の説明を受けるなどして求償に向けた準備等を進めているところであるとしている。

一方、農林水産省は、24年度から26年度までの3か年度に、6森林管理署において、放射性物質の影響を受けている集落周辺等の森林の放射性物質拡散防止・低減及び除染等技術の早期確立・改善に必要なデータの蓄積を図るとともに、地域の除染等に向けた取組を推進するための森林における除染等実証事業を委託事業として実施している。当該事業には、放射性物質の拡散防止や除染等の技術実証も含まれており、これにより実施された除染等は、除染実施計画に定められた除染実施予定区域に所在する国有林において、住宅等に近接する林縁から20mの範囲で、落葉等の堆積有機物の除去等の方法で実施する放射性物質汚染対処特措法に基づく除染等の措置に該当し、その事業費は、24年度7267万余円、25年度1億5877万余円、26年度1200万余円、計2億4345万余円となっている。しかし、農林水産省は、求償の担当部署、求償に必要な手続、準備する書類等の求償を行うための体制や具体的な手続等を定めておらず、東京電力に対して求償を行っていなかった。

そして、汚染土壌等の除染等に係る費用のうち、環境省が求償を行っている費用については、前記の図表5-20のとおり支払率が90%を超えており、東京電力による支払が進んでいる。国が東京電力から支払を受けるまでには、各省において市町村等が実施した事業実績の確認や東京電力に対する求償の手続を行った後、東京電力において事業の証拠書類の確認等や支払手続を行うことが必要である。

環境省及び東京電力においては、求償に対する支払を促進するために、26年12月以降、各市町村で実施された汚染土壌等の除染等の一部を抽出し、実際に事業が行われて適切な費用が掛かったか否かを証憑書類を基に確認を行い、確認が完了した市町村において抽出されなかった事業については、提出する証憑書類を簡素化するいわゆる「サンプルチェック」を実施しているところである。

一方、汚染廃棄物処理事業及び中間貯蔵施設事業に係る費用については、支払率がそれぞれ17.8%、29.2%と低調であるが、環境省は、その原因について、同省の求償額のうち、27年度分が全体の半分以上を占めており、東京電力による審査の時間が十分に取れていないことなどのためとしている。

b 緊急除染等(うち緊急実施除染事業)に係る求償の状況

緊急除染等のうち、内閣府所管の緊急実施除染事業は、放射性物質汚染対処特措法が施行される前から緊急的に実施されている除染等(一部除染等以外の事業を含む。)であり、内閣府が自ら事業を行ったり、福島県に補助金を交付して基金を設置造成等したりなどして行うものである。

そして、「「除染に関する緊急実施基本方針」の迅速な実施について」(平成23年8月閣議決定)により、求償については国が支出を行う範囲において当該原子力事業者に行うこととなっており、事業実施済額とともに、これに基づき27年10月末までに内閣府が東京電力に対して行った求償について、23年度から26年度までの4か年度の事業実施済額(26年度末までに緊急実施除染事業に係る費用として確定した額)、内閣府が東京電力に行った年度別の求償額及び求償率並びに求償額に対する東京電力の支払額及び支払率を示すと、図表5-21のとおりで、事業実施済額の合計2095億余円に対して、求償額の合計は536億余円(求償率25.6%)、支払額の合計は244億余円(支払率45.5%)となっている。

図表5-21 緊急実施除染事業(平成23年度から26年度まで)に係る内閣府の求償及び東京電力の支払の状況(27年10月末現在)

(単位:百万円、%)
府名 事業名 事業実施済額 求償を
行った年度
求償額 求償率 支払額 支払率
A B B/A C C/B
内閣府 緊急実施除染事業 209,500 平成25 1,573 221 14.0
26 11,993 10,132 84.4
27 40,131 14,107 35.1
53,698 25.6 24,461 45.5
  除染、帰還支援、農業系汚染廃棄物処理
(福島県)
194,398 25 1,573 221 14.0
26 - - -
27 40,131 14,107 35.1
41,704 21.4 14,329 34.3
除染モデル事業、入域・被ばく管理等 13,446 25 - - -
26 11,993 10,132 84.4
27 - - -
11,993 89.1 10,132 84.4
農業系汚染廃棄物処理 1,498 25 - - -
26 - - -
27 - - -
- 0 - -
高濃度汚染稲わらの隔離、一時保管、警戒区域内の家畜遺体処理、生活圏近隣森林等の除染 157 25 - - -
26 - - -
27 - - -
- 0 - -
注(1)
「除染、帰還支援、農業系汚染廃棄物処理(福島県)」に係る事業実施済額は、福島県に設置造成等された基金から取り崩されて執行された額を計上している。
注(2)
事業実施済額には、帰還支援、入域・被ばく管理等、農業系汚染廃棄物処理等の除染等以外の事業に係る費用を含んでいる。

このように、求償額が事業実施済額と比べて少ないことについて、内閣府は、「事業実施済額の大きい除染から優先的に求償を実施しているが、東京電力に提出する証憑類の確認等、求償の準備に時間を要しているため」とする一方で、「27年度からは提出する証憑類の簡素化が進んだため、今後、求償が加速していく」としている。

c 緊急除染等(緊急実施除染事業を除く。)に係る求償の状況

緊急除染等(緊急実施除染事業を除く。)には、内閣府所管の福島県特別緊急除染事業、文部科学省所管の「福島県外も含めた校庭等の放射線低減事業(公立学校)」及び「福島県外も含めた校庭等の放射線低減事業(私立学校)」、厚生労働省所管の「福島県外も含めた校庭等の放射線低減事業」があり、緊急実施除染事業と同じく放射性物質汚染対処特措法が施行される前から緊急的に実施されている。その事業内容は、主に学校、公園、保育所等の子どもが生活する場における除染等のほか、学校施設等における空調設備等の設置であり、合計の支出済額は167億余円(福島県特別緊急除染事業については、除染等以外の費用を含んだ額)となっており、これについては、放射性物質汚染対処特措法の施行される前から緊急的に実施されていることなどから、求償は行われていない。

図表5-22 緊急除染等(緊急実施除染事業を除く。)の事業の概要及び支出済額の状況

(単位:百万円)
府省名 予算年度 事業名 事業の概要 支出済額
内閣府 23年度
第2次補正予算
福島県特別緊急除染事業 基金を県に設置造成して、学校・公園等の公共施設や通学路等の線量低減事業、学校施設等における空調設備等の設置等を支援 13,793
文部科学省 23年度
第2次補正予算
福島県外も含めた校庭等の放射線低減事業
(公立学校)
毎時1μSv以上の空間線量率を測定した福島県内外の公立学校の校庭・園庭の土壌処理事業等に対して支援 2,722
文部科学省 23年度
第2次補正予算
福島県外も含めた校庭等の放射線低減事業
(私立学校)
毎時1μSv以上の空間線量率を測定した福島県内外の私立学校の校庭・園庭の土壌処理事業等に対して支援 99
厚生労働省 23年度
第2次補正予算
福島県外も含めた校庭等の放射線低減事業 毎時1μSv以上の放射線量を観測した福島県内外の保育所等の園庭の表土除去処理事業等に対して支援 179
16,795
注(1)
福島県特別緊急除染事業に係る支出済額は、福島県に設置造成された基金から取り崩されて執行された額を計上している。
注(2)
福島県特別緊急除染事業の支出済額には、空調設備等の設置支援関係費用及び放射性物質汚染対処特措法の対象とされていない空間線量が毎時0.23μSv未満の区域に対する除染等に関する費用を含んでいる。
オ まとめ

国は、原子力災害からの復興再生を国政の最重要課題と位置付けて、特措法3事業のほか、長期避難者支援等の福島復興事業等の各種施策を実施していて、原子力災害関係の事業に係る23年度から26年度までの4か年度の支出済額は、2兆3467億余円と多額に上っている。そのうち除染等の措置の実施状況については、除染特別地域及び福島県内の汚染状況重点調査地域における一部の市町村においてその進捗率が相対的に低くなっている。福島県においては、除染等の措置に伴う除去土壌等が仮置場に相当量保管されており、今後除染等の措置の進捗に伴い更に仮置場における保管量が増大することが想定される。除染等の措置をより進捗させ、かつ、除去土壌等を住宅等の生活施設に保管している地域住民への負担を解消するなどのためにも、除染等の措置に伴い発生する除去土壌等の保管場所となる中間貯蔵施設の整備の促進に一層努めることが望まれる。

また、居住制限者の避難先での生活環境を改善するためには、避難先市町村における生活拠点を形成することが重要であり、復興公営住宅の整備等は、居住制限者の生活再建に直結する重要な事業となっているが、復興公営住宅の整備の遅れにより、仮設住宅等での不安定な生活が更に長期化することになるおそれがあることから、福島県等において、復興公営住宅の整備を更に加速することが望まれる。

前記のとおり、福島復興の加速指針を27年6月に改訂し、29年3月までに避難指示を解除することを目指して環境整備を加速することなどとしており、今後も住民の意向等を調査するなどして、原子力災害からの復興再生に向けて円滑かつ迅速に事業を実施する必要がある。

また、原子力災害関係経費による特措法3事業及び緊急実施除染事業に係る経費において、求償を行うための体制や具体的な手続等が定められていないため求償されていないものについては早急に体制等を整備して東京電力に対して求償を行い、東京電力に対する求償の準備中としているものについては速やかに求償を行うように努める必要がある。