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  • 平成30年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第8 厚生労働省|
  • 平成29年度決算検査報告掲記の意見を表示し又は処置を要求した事項の結果

(1) 第三者行為事故に係る年金の支給と損害賠償との調整に関する事務について


(平成29年度決算検査報告2か所参照 リンク10233 20591

1 本院が要求した適宜の処置及び求めた是正改善の処置並びに表示した意見及び要求した改善の処置

厚生労働省は、各種年金を給付しており、これらに係る事務の一部を日本年金機構(以下「機構」という。)に委任又は委託している。このうち、年金給付の原因である被保険者の障害又は死亡が第三者の行為によって生じたものであって、当該損害を被った被保険者等に対して第三者が損害賠償の義務を負う場合(以下「第三者行為事故」という。)については、厚生年金保険法(昭和29年法律第115号)等に基づき、被保険者等が第三者から損害賠償を受けたときには、国はその損害賠償額を限度として年金の支給停止ができることとされている。また、年金の支給停止期間を定めるためには、損害賠償金の総額及びその内訳(慰謝料等)並びに医療費、葬祭料等の実支出額(以下「医療費等実支出額」という。)を把握する必要がある。そして、機構は、「第三者行為事故に係る損害賠償と年金との調整に関する事務処理要領」(以下「事務処理要領」という。)に基づき、受給権者に対して、年金の申請時に、第三者行為事故状況届の提出を求めた上で、第三者行為事故の可能性があると判断したものについては、損害賠償金の総額及びその内訳が確認できる資料並びに医療費等実支出額の領収証書(以下、これらを合わせて「確認書類」という。)の提出を求めることとされている。また、機構は、受給権者に対して確認書類の提出を勧奨するために、照会、再照会及び督促を行うこととされ、督促からおおむね1か月を経過しても受給権者から回答がない場合には、厚生年金保険法等に基づき、厚生労働大臣の認可を得た上で、確認書類の提出を受給権者に命じ(以下「最終督促」という。)、これに応じなかった場合には年金の支給停止(以下「職権による支給停止」という。)を行うことができることとされている。さらに、事務処理要領によれば、機構は、受給権者に代わり損害保険会社等から確認書類の提供を受けることに同意する文書(以下「同意書」という。)を受給権者から得た上で、損害保険会社等に対して確認書類の提出を依頼することができることとされている。しかし、機構において、督促等の手続に長期間を要しており、損害賠償金の受領状況等を把握できていないため、年金の支給と損害賠償との調整が行われていない事態及び受給権者から同意書を取得できていないため、損害保険会社等に確認書類の提出を求めることができず、損害賠償金の総額やその内訳を把握できていなかったり、損害賠償金の受領状況は把握できているものの、医療費等実支出額を把握できていなかったりしているため、年金の支給と損害賠償との調整が行われていない事態が見受けられた。

したがって、厚生労働大臣及び日本年金機構理事長に対して平成30年10月に、次のとおり是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求め並びに意見を表示し及び改善の処置を要求した。

  • ア 機構において、督促等の手続に長期間を要している事案について、速やかに次の段階の手続をとること(会計検査院法第34条の規定により是正の処置を要求したもの)
  • イ 機構において、再照会、督促、最終督促及び職権による支給停止について具体的な手続を事務処理要領に定めるとともに、当該事務処理要領に基づき、再照会等を適切に行うよう担当部局に周知徹底すること(同法第34条の規定により是正改善の処置を求めたもの)
  • ウ 機構において、受給権者から同意書を第三者行為事故状況届と併せて提出させるなど、年金の支給開始前に同意書を取得する手続を整備することなどについて検討すること(同法第36条の規定により意見を表示したもの)
  • エ 機構において、損害賠償金の受領が明らかになっているにもかかわらず、医療費等実支出額について受給権者が回答しない場合には、一旦医療費等実支出額がないものとして支給停止期間を設定して、年金の支給と第三者からの損害賠償との調整を行うなどの手続を整備することについて検討すること(同法第36条の規定により意見を表示したもの)
  • オ 厚生労働省において、機構における第三者行為事故に係る年金の支給停止等の事務が適切に実施されるよう、イからエまでについて、機構に対して必要な指導監督を行うこと(同法第36条の規定により改善の処置を要求したもの)

2 当局が講じた処置

本院は、厚生労働本省及び機構本部において、その後の処置状況について会計実地検査を行った。

検査の結果、厚生労働省及び機構は、本院指摘の趣旨に沿い、次のような処置を講じていた。

ア 機構は、督促等の手続に長期間を要している事案について、確認書類等の提出を勧奨するために、令和元年7月までに、再照会及び督促を実施したことに加え、電話及び訪問による確認書類等の提出勧奨を実施し、これらの取組によっても確認書類等の提出がなかった事案について、最終督促を実施するなどした。

イ 機構は、平成31年2月に事務処理要領を改正して、年金の支給と損害賠償との調整について、一部の手続の見直しを行うとともに、督促、最終督促及び職権による支給停止についての具体的な手続を定めた。また、担当部局に指示文書を発出して、事務処理要領に基づき、適切に事務を実施するよう周知徹底した。

ウ 機構は、31年2月に事務処理要領を改正して、第三者行為事故に係る年金の申請時に第三者行為事故状況届の添付書類として損害保険会社等への照会の際に必要となる同意書の提出を求めることとした。

エ 機構は、31年2月に事務処理要領を改正して、医療費等実支出額の照会を行う場合、「回答期限までに回答がない場合、医療費等実支出額はないものとして審査を進める」旨を照会文書に明記するとともに、回答がない場合には、一旦医療費等実支出額がないものとして支給停止期間を設定して、年金の支給と第三者からの損害賠償との調整を行い、受給権者から回答を得られ次第再調整することとした。

オ 厚生労働省は、機構における第三者行為事故に係る年金の支給停止等の事務が適切に実施されるよう、1のイからエまでに対する処置について、30年11月に機構に対して指示文書を発出するとともに、機構と事務処理要領の改正に係る協議を行うなどして、機構に対して必要な指導監督を行った。