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  • 令和元年12月|

東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた取組状況等に関する会計検査の結果について


第2 検査の結果

1 大会の開催に向けた取組等の状況

(1) 大会の開催に向けた取組体制等の状況

ア 大会の開催に向けた取組体制の概要

平成25年9月に、IOC、東京都及び国内オリンピック委員会(注12)であるJOCの3者により開催都市契約が締結されて、IOCから東京都及びJOCに大会の計画、組織、資金調達及び運営が委任された。そして、開催都市契約に基づき、26年1月に大会組織委員会が東京都及びJOCの拠出により設立され、同年8月に開催都市契約の当事者に追加された。

国においては、大会が大規模かつ国家的に特に重要なスポーツの競技会であることに鑑み、大会の円滑な準備及び運営を支援するために、25年9月に東京オリンピック・パラリンピック担当大臣(27年6月以降は東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会担当大臣。以下「オリパラ担当大臣」という。)が任命された。そして、27年6月には、平成三十二年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会特別措置法(平成27年法律第33号。以下「オリパラ特措法」という。)が成立して施行され、オリパラ特措法に基づき、内閣に、東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会推進本部(以下「オリパラ推進本部」という。)が設置された。また、オリパラ特措法に基づき、大会の円滑な準備及び運営に関する施策の総合的かつ集中的な推進を図るための基本方針として、同年11月にオリパラ基本方針が閣議決定された。

オリパラ推進本部は、オリパラ基本方針の実施を推進すること、大会の円滑な準備及び運営に関する施策で重要なものの企画及び立案並びに総合調整に関することなどを所掌しており、その事務についてはオリパラ事務局が処理することとされた。

各府省等は、大会の関連施策について、オリパラ基本方針に基づき、立案と実行に取り組むこととなっている。

以上の内容を踏まえて、大会の開催に向けた取組体制の概要を示すと図表1-1のとおりであり、大会組織委員会が主体となって大会の準備及び運営を行い、東京都は開催都市としての大会の関連施策の立案及び実行により、JOCは国内オリンピック委員会としての取組の実施により、それぞれ大会組織委員会の取組を様々な形で支援している。国は、オリパラ推進本部が行う総合調整の下、各府省等による大会の関連施策の立案及び実行により、大会組織委員会を主体とする開催都市契約の国内当事者の取組を様々な形で支援している。また、公益財団法人日本障がい者スポーツ協会日本パラリンピック委員会(以下「JPC」という。)は国内パラリンピック委員会(注13)としての取組の実施により、東京都以外の地方公共団体、民間団体等は各種取組の実施により、それぞれ開催都市契約の国内当事者の取組を様々な形で支援している。

(注12)
国内オリンピック委員会  オリンピック憲章によれば、自国においてオリンピック・ムーブメントを発展させ、推進し、保護することを使命として、自国において、特にスポーツと教育の分野でオリンピズムの根本原則とその価値を向上させることなどの役割を有し、オリンピック競技大会等の総合競技大会において、自国を代表する独占的な権限を持つ組織とされている。
(注13)
国内パラリンピック委員会  国際パラリンピック委員会(以下「IPC」という。)が定めるIPCハンドブックによれば、当該国又は領域におけるIPCに対する唯一のパラリンピック・ムーブメントの代表としてIPCが認め、各国の競技評議会又は国内で同様に高い権限を持つ競技機関に認められた国内組織であり、各国又は領域内の調整を行い、IPCとの関係及び連絡に責任を持つとされている。

図表1-1 大会の開催に向けた主な取組体制の概要

図表1-1 大会の開催に向けた主な取組体制の概要 画像

イ 大会の開催に向けた政府等関係機関の連携体制

大会に向けた取組は幅広い分野に関わることから、関係する各機関は、大会の円滑な準備及び運営に関する取組を行うために、大会組織委員会を中心として相互に連携して、実施すべき内容等について調整を図りながら、それぞれの機関の取組内容を決定し、実施する必要がある。

大会の開催に向けた関係機関の連携体制を示すと図表1-2のとおりであり、IOCは、オリンピック憲章等に基づき、大会組織委員会による開催準備の進展について、関係機関との協力関係を含めて、監視して指導するために、IOCの代表等で構成する調整委員会を設置して、大会の計画、組織、資金調達及び運営に関する決定、活動及び進捗状況の確認を行うこととしている。同委員会は、26年度から開催されており、令和元年10月までの間に計9回開催された。

図表1-2 大会開催に向けた関係機関の連携体制の概念図

図表1-2 大会開催に向けた関係機関の連携体制の概念図 画像

大会組織委員会、東京都、国、JOC及びJPCは、平成26年1月に「東京オリンピック・パラリンピック調整会議」(以下「調整会議」という。)を設置して、大会組織委員会会長、東京都知事、文部科学大臣、オリパラ担当大臣、JOC会長及びJPC会長の6者により、大会の準備及び運営における特に重要な事項について調整を図ることとしている。調整会議は、定期的に開催することとはされておらず、必要に応じて開催されており、25年度から30年度までの間に計17回開催され、大会組織委員会の組織体制、大会開催基本計画、大会に向けた進捗状況、V2予算を見直した大会経費V3(バージョン3。以下「V3予算」という。)、ボランティア等が議題として取り上げられている。

また、大会の円滑な準備に資するよう、関係府省庁の所管する事務を調整するために、27年7月、オリパラ推進本部の下に全府省庁の事務次官等が構成員である「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会関係府省庁連絡会議」(25年10月から27年7月までは2020年オリンピック・パラリンピック東京大会関係府省庁連絡会議が設けられており、その決定事項や検討事項が引き継がれている。以下「大会連絡会議」という。)が設置されている。

大会連絡会議の下には、内閣官房を事務局として関係府省等で構成するセキュリティ幹事会が設置されるなどしており、オリパラ推進本部において各府省等が30年度までに実施する大会の関連施策の取組状況について取りまとめを行い、令和元年6月7日に国会に提出された政府の取組状況報告(以下「令和元年取組状況報告」という。2(1)ア参照)によれば、図表1-3のとおり、複数の連絡会議等が設置されている(主な連絡会議の開催状況等は、2(2)参照)。

図表1-3 主な連絡会議等の概要(令和元年7月末現在)

会議名等 設置目的 本部長、議長等 構成員 開催回数
2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会関係府省庁連絡会議 2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の円滑な準備に資するよう、関係府省庁の所管する事務を調整するため 内閣官房副長官 全府省庁事務次官等 10回
東京都との連絡協議会 2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催都市である東京都とのより密接な連携に資するため 内閣官房副長官 オリパラ推進本部事務局長、全府省庁事務次官、東京都副知事等 6回
2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会におけるホストタウン関係府省庁連絡会議 2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会開催に向け、スポーツ立国、グローバル化の推進、地域の活性化、観光振興等に資する観点から、参加国・地域との人的・経済的・文化的な相互交流を図る地方公共団体を「ホストタウン」として全国各地に広げるため オリパラ担当大臣 関係府省庁局長等 9回
東京2020に向けたアスリート・観客の暑さ対策に係る関係府省庁等連絡会議 2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会は7月から9月の暑さが厳しい期間に開催される。特に、世界各国から我が国の夏の暑さに慣れていない多くの外国人や障害者が訪れることが見込まれる。このため、競技会場等関係施設とその周辺のみならず街づくりの一環として暑さ対策を進め、アスリート、観客等が過ごしやすい環境を整備する オリパラ推進本部事務局長 関係府省庁審議官級、東京都部長、大会組織委員会局長等 6回
2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会における木材利用等に関するワーキングチーム 2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会における競技施設、選手村、仮設構造物等における木材利用を推進するため オリパラ推進本部事務局企画・推進統括官 関係省庁審議官等 5回
2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた文化を通じた機運醸成策に関する関係府省庁等連絡・連携会議 2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けて関係府省庁、政府関係機関、地方公共団体等において進められる文化を通じた機運醸成策に関する情報共有及び連携等を目的 オリパラ推進本部事務局長 関係府省庁審議官級等 8回
受動喫煙防止対策強化検討チーム 2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会開催を契機として、健康増進の観点に加え、近年のオリンピック・パラリンピック競技大会開催地における受動喫煙法規制の整備状況を踏まえつつ、幅広い公共の場等における受動喫煙防止対策を強化するため 内閣官房副長官 関係省庁局長等 2回
2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会における日本の食文化の発信に係る関係省庁等連絡会議 ユネスコ無形文化遺産に登録された和食文化を始めとした、日本の文化・魅力を発信するとともに、我が国の優れた農林水産物の輸出促進を後押しするために、選手村等での日本食の提供や提供される食事における国産食材の活用に向けた取組、大会時における日本食・食文化の発信等について、政府と関係機関が緊密に連携を図って進める必要があるため オリパラ担当大臣 関係省庁局長級、東京都局長級、大会組織委員会副事務総長等 5回
2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた出入国に関する関係省庁等連絡会議 2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の成功に向け、政府として、セキュリティの万全と安全安心を確保した上で、アスリート、観客等の円滑な輸送及び外国人の受入れのため円滑な出入国に向けた対策を推進することが必要である。このため、大会に特有の事情を考慮の上、安全安心の確保にも配慮しつつ、出入国に関連する課題への対応やその進捗管理を関係者間で行う オリパラ推進本部事務局企画・推進統括官 関係省庁、大会組織委員会の担当者 2回
ユニバーサルデザイン2020関係閣僚会議 2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会開催に向け、全国展開を見据えつつ、世界に誇れる水準でユニバーサルデザイン化された公共施設・交通インフラを整備するとともに、心のバリアフリーを推進することにより、共生社会を実現する必要がある。このため、東京大会を契機として、ユニバーサルデザイン化・心のバリアフリーを推進し、大会以降のレガシーとして残していくための施策を実行する オリパラ担当大臣 担当大臣 3回
2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に係る交通輸送円滑化推進会議 大会期間中においては関係者や観客の輸送と一般交通が交錯し、市民生活や経済活動が大きな影響を受けるおそれがある。大会輸送と一般交通が適切に共存できるよう、大会期間中の国民や企業等の行動計画を見直す取組を経済界と一体となって全国的な視野で検討する体制を立ち上げることが必要である。このため、円滑な大会輸送の実現に向けて、交通行動を見直す取組を、政府、組織委員会、東京都、関係自治体及び経済界が一体となって検討、調整する場を設ける オリパラ推進本部事務局長 関係省庁局長級、東京都副知事、経済団体等 5回
セキュリティ幹事会 2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に係るセキュリティ対策の円滑な準備に資するよう、関係府省庁の所管する事務を調整するため 内閣危機管理監 関係府省庁局長等 12回

(注) 令和元年取組状況報告等の公表資料等を基に会計検査院が整理した。

(2) 大会経費の試算等の状況

ア 30年報告の検査結果に対する対応等
(ア) 30年報告の検査結果の概要

30年報告において報告した大会経費及び大会の関連施策の経費に係る試算等の状況を経費の負担者別に示すと図表2-1のとおりであり、30年報告においては、大会の関連施策の経費について、大会組織委員会が試算した大会経費であるV2予算のほかにも、行政経費等としてV2予算における試算の対象外となっている業務の経費があり、これらの経費については、東京都及び国においてそれぞれ独自の基準により試算するなどして公表していて、このうち国については、平成29年度末時点で公表しているのはオリパラ関係予算のみであることを報告した。

図表2-1 30年報告において報告した大会経費及び大会の関連施策の経費に係る経費の負担者別の試算等の状況

(単位:億円)
負担者
業務の区分
経費の負担者別の想定される業務内容
大会組織委員会 東京都 国等(関係府省等、JSC)
大会経費 V2予算
会場関係
恒久施設   所有施設の新規整備
新国立競技場の新規整備のうち
東京都負担分
2250 新国立競技場の
新規整備(東京都負担分を除く。)
1200
仮設等(仮設インフラ、オーバーレイ、賃借料等) 国・民間所有施設の仮設整備、オーバーレイ整備、民間施設の賃借料等パラリンピック経費 950 東京都及び都外自治体所有施設の仮設整備、賃借料等
パラリンピック経費
2100 パラリンピック経費 200
エネルギー 国・民間所有施設の電源設備、電気・ガス使用料パラリンピック経費 150 東京都・都外自治体所有施設の電源設備
パラリンピック経費
250
テクノロジー 国・民間所有施設の通信インフラ、IT環境(パソコン等)、競技計測、各種情報システム
パラリンピック経費
700 東京都・都外自治体所有施設の通信インフラ
パラリンピック経費
300
大会運営関係
輸送 バス・自動車の借上げ、大会関係者の公共交通無料化
パラリンピック経費
250 東京都・都外自治体所有施設周辺の会場周辺駐車場、車両基地、オリンピック・ルート・ネットワーク等の整備
パラリンピック経費
250 パラリンピック経費 100
セキュリティ 民間ガードマンによる警備、大会施設内の警備資機材
パラリンピック経費
200 東京都・都外自治体所有施設周辺のスクリーニング・映像監視機器、警備指揮所等
パラリンピック経費
750
オペレーション等 選手村、飲食、医療、宿泊、競技、聖火リレー・開閉会式、管理・広報、マーケティング(ロイヤルティ)
パラリンピック経費
3750 開閉会式
パラリンピック経費
100
6000 6000 1500
合計 1兆3500
V2予算以外の大会の関連施策の経費   東京都公表値
約8100億円
政府公表値
オリパラ関係予算としての政府公表値
(平成30年1月)
28年度329億余円
29年度517億余円
30年度280億余円
1127億余円注(2)
  • 注(1) 図表中に記載の金額は、各負担者の公表分については集計する経費の定義がそれぞれ異なっており、また、集計の対象年度等が同一ではないため、各金額の集計額が大会経費の試算等の全容を示すものではない。
  • 注(2) オリパラ関係予算には、新国立競技場の新規整備に係る経費の予算として125億円及びパラリンピック交付金の予算として300億円が含まれている。また、平成30年1月に公表されたオリパラ関係予算の30年度分は当初予算のみのため図表2-5及び図表2-8と金額が異なっている。
  • 注(3) オーバーレイ整備は、大会の運営上必要となるプレハブ、テント、放送用の照明等であるオーバーレイの設置・撤去である((注15)参照)。

そして、オリパラ関係予算として整理されていないが、大会組織委員会を対象とするなどの大会との関連性が強いと思料される業務に要する経費があることを報告して、国等が負担する大会の関連施策の経費について29年度までの支出額の集計等を行った。その結果は、図表2-2のとおりであり、①各府省等が実施する大会の関連施策全体の状況について、オリパラ基本方針に基づき29年度に公表された政府の取組状況報告に記載された取組内容に該当する事業の25年度から29年度までの間の支出額について各府省等に調書の提出を求めて集計したところ計8011億余円(図表2-2の①)となっていること、②JSCに対する検査の結果、大会施設である国立代々木競技場の整備に対する29年度までの国庫補助金等による支払額が5億1350万余円(図表2-2の②)となっていること、③大会組織委員会に対する支援状況を検査した結果、JSCによる財政支援として26年度から29年度までの間の助成額が20億3168万余円(図表2-2の③)となっていること、④東京都に対する支援状況を検査した結果、大会施設の整備に対する29年度の国庫補助金等交付額が2234万余円(図表2-2の④)となっていること、⑤東京都以外の地方公共団体に対する支援状況を検査した結果、東京都内の大会施設が所在する市及び特別区に対する28、29両年度の国庫補助金等又は独立行政法人の助成金交付額が4億6118万余円(図表2-2の⑤)となっていること、⑥同支援状況を検査した結果、都外自治体に対する28、29両年度の国庫補助金等又は独立行政法人の助成金交付額が64億4949万余円(図表2-2の⑥)となっていること、⑦JRAに対する検査の結果、大会施設である馬事公苑の改修整備に対する29会計年度までの支払額が136億5468万余円(図表2-2の⑦)となっていることなどを報告した。

図表2-2 30年報告における国等が負担する大会の関連施策の経費に係る概念図

表(1) 30年報告の対象
予算種別 オリパラ関係予算 行政経費   JRAの予算
事業種別等 政府の取組状況報告に記載された取組内容に該当する事業 JSCの事業
大会施設に対する支援
国による支援 JSCによる支援 JSC以外の独立行政法人による支援 JRAの事業
上記の事業種別等に対応する表(2)の報告事項(①~⑦)
②④⑥ ⑤⑥ ③⑤⑥
表(2) 30年報告の報告事項等
国等が負担する大会の関連施策の経費に係る30年報告の報告事項(件名・金額・内訳) 左記の報告事項に対応する表(1)の事業種別等
①政府の取組状況報告に記載された取組内容に該当する事業 8011億余円 平成25年度から29年度までの間の支出額 政府の取組状況報告に記載された取組内容に該当する事業
②国立代々木競技場の整備 5億1350万余円 29年度までの支払額 JSCの事業
③大会組織委員会に対する支援状況(JSCによる財政支援の状況) 20億3168万余円 26年度から29年度までの間の助成額 JSCによる支援
④東京都に対する支援状況 2234万余円 29年度の国庫補助金等交付額 大会施設に対する支援
⑤東京都以外の地方公共団体に対する支援状況(東京都内の大会施設が所在する市及び特別区に対する財政支援の状況)
4億6118万余円 28、29両年度の国庫補助金等又は独立行政法人の助成金交付額 国による支援、
JSCによる支援、
JSC以外の独立行政法人による支援
⑥東京都以外の地方公共団体に対する支援状況
(都外自治体に対する支援状況)
64億4949万余円 大会施設に対する支援、
国による支援、
JSCによる支援
⑦JRAが実施する馬事公苑の改修整備 136億5468万余円 29会計年度までの支払額 JRAの事業

(注) 政府の取組状況報告に記載された取組内容に該当する事業の平成25年度から29年度までの間の支出額計8011億余円には、新国立競技場の新規整備に係る経費及びパラリンピック経費の支出額が含まれている。また、同額について、オリパラ事務局は、大会との関連性等により、A、B、Cの三つに分類している((イ)参照)。

(イ) 30年報告の検査結果に対する対応等

会計検査院は30年報告の所見において、「オリパラ事務局は、国が担う必要がある業務について国民に周知し、理解を求めるために、大会組織委員会が公表している大会経費の試算内容において国が負担することとされている業務や、オリパラ事務局がオリパラ関係予算として取りまとめて公表している業務はもとより、その他の行政経費によるものを含めて、大会との関連性に係る区分及びその基準を整理した上で大会の準備、運営等に特に資すると認められる業務については、各府省等から情報を集約して、業務の内容、経費の規模等の全体像を把握して、対外的に示すことを検討すること」としている。

そして、オリパラ事務局は上記の所見を受けて、30年報告において各府省等が実施する大会の関連施策として報告した14府省等の計286事業、25年度から29年度までの支出額計8011億余円(オリパラ関係予算以外のその他の行政経費を含む。)について、各府省等に改めてそれぞれの所管する事業に係る政府の取組状況報告との関係、オリパラ関係予算との関係等について記入する事業シートの提出を求めるなどして、これらにより得られた結果を基に各事業を次のとおりA、B、Cの三つに分類する作業を行っていた(以下、この分類を「ABC分類」という。)。

A:大会の準備、運営等に特に資する事業

事業シートにおいて、「政府の取組の状況に関する報告における記載の有無」欄の回答が「有」となっており、「オリパラ関係予算に該当するか否か」欄の回答が「該当する」又は「政府の取組の状況に関する報告との関係」欄における「大会の準備、運営等に特に資する支出額に区分可能か。できない場合はその理由」欄の回答が「区分可能」となっていて、支出額が記載されているなどのもの

B:本来の行政目的のために実施する事業であり、大会や大会を通じた新しい日本の創造にも資するが、大会に直接資する金額を算出することが困難な事業

事業シートにおいて、「政府の取組の状況に関する報告における記載の有無」欄の回答が「有」となっており、「政府の取組の状況に関する報告との関係」欄における「個別施策に係る政府の取組の進捗状況の記述」欄の回答に個別施策に係る具体的な記述がされているが、支出額が記載されていないもの

C:本来の行政目的のために実施する事業であり、大会との関連性が比較的低い事業

事業シートにおいて「政府の取組の状況に関する報告における記載の有無」欄の回答が「無」又は「政府の取組の状況に関する報告との関係」欄における「個別施策に係る政府の取組の進捗状況の記述」欄に個別施策に係る具体的な記述がされていないなどのもの

そして、上記の調査結果を、30年10月30日に次のように公表している。

A:大会の準備、運営等に特に資する事業(8府省等、53事業、1725億円)

  1. ①新国立競技場の整備に伴う経費及びパラリンピック経費(国負担分)
  2. ②オリパラ関係予算に係る事業(①を除く。)
  3. ③一般の行政事業のうち、執行の結果、支出の段階で大会組織委員会等が対象となったもの

B:本来の行政目的のために実施する事業であり、大会や大会を通じた新しい日本の創造にも資するが、大会に直接資する金額を算出することが困難な事業(14府省等、208事業、5461億円)

C:本来の行政目的のために実施する事業であり、大会との関連性が比較的低い事業(8府省等、29事業、826億円)

また、ABC分類のほか、各種補助金等を活用しており、予算で全体像を把握することは困難だが支出の段階で集計することが可能であり、大会の準備、運営等に特に資すると認められる事業として、大会施設の整備・改修等に対する国庫補助等として5施設、総額34億円についても公表した。

今後の対応として、「政府としては、これまで、新国立競技場の整備に伴う経費やパラリンピック経費に加え、大会の運営、成功等に直接資するものであり、新規・追加的に講ずる施策を、28年度以降オリパラ関係予算として公表してきた。今回の調査においては、これらのほか、一般の行政事業のうち、執行の結果、大会組織委員会等が対象となるものについても公表することとした。オリパラ事務局としては、一層の透明性の確保や国民の理解を求める観点から、今後、オリパラ関係予算の公表に加え、支出の段階でも集計を行い、その結果を、毎年度、公表していくこととする。」とした。

イ 大会経費及び大会の関連施策の経費に係る試算等の状況

オリパラ事務局が実施したABC分類は、前記のとおり、30年報告の所見を受けて特に実施されたものであり、各府省等が25年度から29年度までに実施した大会の関連施策を対象としている。

そして、ABC分類の公表以降、大会組織委員会、オリパラ事務局及び東京都は、更に30年度以降の大会経費及び大会の関連施策の経費の執行等に伴い、過年度に公表済みの大会経費や大会の関連施策の経費の内容を見直して、公表している。

すなわち、大会組織委員会は大会経費について、V3予算を30年12月21日に公表している。そして、国は、大会の関連施策の経費について、新たに30年度補正予算案及び31年度当初予算案におけるオリパラ関係予算を31年1月29日に公表するとともに、(1)イのとおり、令和元年6月7日に平成30年度の取組状況を中心に取りまとめた令和元年取組状況報告を国会に提出して内容を公表した。また、東京都は大会関連の行政経費について見直した結果を31年1月25日に公表している。

上記の公表された試算等の状況は、次のとおりとなっている。

(ア) V3予算の試算等の概要

図表2-3のとおり、V3予算において、大会経費の総額は1兆3500億円と試算されており、大会組織委員会がIOCからの負担金やスポンサーからの協賛金、チケットの売上金等を原資として6000億円を負担し、東京都及び国がそれぞれの役割に応じて計7500億円を負担すると試算している。

上記1兆3500億円の内訳をみると、会場関係の大会施設に係る経費として計8100億円、大会関係の大会の運営に係る経費として計5400億円となっている。このうち、国の負担となっているのは、新国立競技場の整備に係る経費1200億円と、パラリンピック経費1200億円のうち300億円の計1500億円となっている。

図表2-3 大会組織委員会が試算したV3予算の概要

図表2-3 大会組織委員会が試算したV3予算の概要 画像

V2予算と比較すると、図表2-4のとおり、輸送の経費区分におけるフリート(車両)関係費用、オペレーションの経費区分における食品安全対策の費用等の経費が増加したものの、あらかじめ計画的に計上していた調整費を減ずることなどによって対応したため、総額で増減はしていない。

図表2-4 V2予算における試算額とV3予算における試算額の比較

(単位:億円)
経費区分 経費の内容 V2予算 V3予算 増減 主な増 主な減
会場関係 大会施設に係る経費 8100 8100    
恒久施設 新国立競技場等の整備 3450 3450        
仮設等 仮設施設整備(仮設インフラ、オーバーレイ)、賃借料等 3150 3150        
エネルギー エネルギー設備整備費(発電機、電源ケーブル、無停電電源装置(UPS))、エネルギー費用等(電気使用料、ガス使用料) 450 450        
テクノロジー 通信インフラ(放送用映像回線、データ通信、ケーブルテレビ、LAN設備)、音響/映像機器(音響システム、大型映像装置)、IT環境(パソコン、プリンタ、IT セキュリティ、通信機器等)、無線通信、競技計測、各種情報システム(競技計測・得点情報の取得配信、スコアボード、大会管理・事務管理システム)、その他(インターネット、コントラクター採用) 1050 1050        
大会関係 大会の運営に係る経費 5400 5400    
輸送 輸送用バス、輸送用自動車借上げ、公共交通無料化(大会関係者)、会場周辺駐車場、車両基地等整備、オリンピック・ルート・ネットワーク整備、輸送支援スタッフ雇用、輸送オペレーション等 500 600 +100
・フリート(車両)関係費用
68    
・バス関係費用
9
・輸送センター費用
10
セキュリティ 民間ガードマンによる警備、スクリーニング及び統合映像監視等(X線検査機、セキュリティゲートシステム、車両検査システム、セキュリティカメラ機器、高度センサー)、警備指揮所、警備資機材、サイバーセキュリティ対策等(サイバー合同訓練、サイバー攻撃に対する情報収集・分析業務) 1000 1000        
オペレーション 選手村(選手村備品、リネン・ランドリー)、飲食(選手・ボランティア等向け食事、飲料水)、医療、アンチ・ドーピング活動(医師・看護師の配置、医療機器・備品、ドーピング検査の実施)、宿泊(IOC/IPC関係者・IF技術役員等向け宿泊手配)、NOC/NPCサービス(NO C選手団・NPC選手団の旅費補助)、競技(競技運営、競技プレゼンテーション、競技用備品)、セレモニー(聖火リレー、開閉会式、オリンピック・パラリンピックファミリーサービス)、その他(清掃、ロジスティクス(倉庫費用)、アクレディテーション) 1150 1200 +50
・食品安全対策の費用
17 ・選手村の備品の仕様・数量等の見直し 1
・馬等の輸送費用
8
・関係者の入出国対応の費用
7
管理・広報 管理・広報(人材管理、広報) 600 650 +50
・交通費・倉庫等のボランティア関係費用
8    
・ユニフォーム関連費用
8
マーケティング マーケティング(ロイヤルティ)(IOCへの支払(ロイヤルティ)、チケット販売) 1250 1250        
その他 調整費等 900 700 200     ・V2時にどの経費区分の経費か未整理だったものの整理が進み、V3で共通経費 から各「項目」に振り替えたことによるもの 69
・関係者からの要望の具体化、新たな需要等に対応するために計画的に計上していた調整費の減額 150
予備費 1000~
3000
1000~
3000
     
計(予備費を除く。) 1兆3500 1兆3500
  • 注(1) 東京都の公表資料を基に会計検査院が作成した。
  • 注(2) 「主な増」及び「主な減」については、主な内容を記載しているため、差額が増減額と一致しないものがある。
  • 注(3) 恒久施設には、新国立競技場以外に東京都が新規整備を行う施設等を含む。
(イ) 国が負担する大会の関連施策の経費等

a オリパラ関係予算の状況

オリパラ関係予算は、各府省等が実施する大会の関連施策のうち、特に大会の運営及び準備に関係する内容について、オリパラ基本方針が作成された後の28年度当初予算から、事業の効果や費用の管理等について他の施策と区分することで各府省等においてオリパラ基本方針に基づく施策の実効性を担保して、その進行管理に資するよう、オリパラ事務局が取りまとめているものである。30年度補正予算案及び31年度当初予算案におけるオリパラ関係予算は31年1月29日に公表されており、オリパラ関係予算として整理する際の要件は従来と同様に次の2点となっている。

  • ① 大会の運営又は大会の開催機運の醸成や成功に直接資すること
  • ② 大会招致を前提に、新たに又は追加的に講ずる施策であること(実質的な施策の変更・追加を伴うものであり、単なる看板の掛け替えは認めない。)

各府省等はいずれの要件も満たしている大会の関連施策をオリパラ関係予算として整理しており、オリパラ関係予算はABC分類においていずれも大会の準備、運営等に特に資すると認められる業務としてA分類に整理されている。

また、オリパラ事務局は、30年報告の所見等を踏まえて、25年度以降の予算額のうち、上記2点の要件に該当して新たにオリパラ関係予算と位置付けられる事業についても改めて整理して公表している。25年度以降のオリパラ関係予算の合計額は、図表2-5のとおり、9府省等の計56事業に係る計2197億0200万円となっている。このうち、全体の大部分を占めるのは文部科学省所管分であり、パラリンピック交付金(平成29年度一般会計補正予算300億円)、大会に向けて各競技団体が行う日常的・継続的な選手強化活動を支援するなどの競技力向上事業(27年度から令和元年度までの予算計448億9700万円)、JSCが行う新国立競技場の新規整備の財源のうち国の負担分の一部に充てる独立行政法人日本スポーツ振興センター出資金(平成26、28両年度の予算計295億6200万円)等の計1916億6000万円となっている。

図表2-5 平成25年度から令和元年度までのオリパラ関係予算の状況

(単位:百万円)
府省等名 事業数 平成25年度 26年度 27年度 28年度 29年度 30年度 令和元年度
内閣 1 875 576 825 592 2,868 (1.3%)
内閣府(警察庁) 13 8 13 8,346 11,312 19,679 (8.9%)
総務省 5 439 374 2,237 3,050 (1.3%)
外務省 2 105 105 (0.0%)
文部科学省 23 28,270 26,307 13,409 31,708 49,757 24,512 17,697 191,660 (87.2%)
厚生労働省 4 88 75 85 235 207 690 (0.3%)
農林水産省 1 17 15 11 9 52 (0.0%)
国土交通省 1 162 809 971 (0.4%)
環境省 6 385 87 70 42 43 627 (0.2%)
56 28,270 26,395 13,802 32,937 51,751 34,345 32,202 219,702 (100.0%)

(注) 事業数はオリパラ関係予算として整理された事業の数を示す。

b 令和元年取組状況報告

令和元年取組状況報告は、平成29年5月及び30年5月にそれぞれ国会に提出された政府の取組状況報告に引き続いて報告されたもので、過年度から継続して実施してきたこれまでの主な取組の内容に、30年度の主な取組の内容や今後の主な取組を追記するなどして取りまとめられたものである。政府の取組状況報告の内容は、ABC分類における大会の準備、運営等に特に資すると認められる業務であるかの判断基準の一つとされている(令和元年取組状況報告については2(1)ア参照)。

(ウ) 東京都が負担する大会の関連施策の経費の状況

30年報告のとおり、東京都は、30年1月発表の30年度の東京都予算案の概要資料において、大会に関する東京都の負担額について、東京都が所有する大会施設の新規整備及び改修整備等に係る経費でV2予算において試算対象となっている大会経費として6000億円、それ以外で大会への受入環境の充実や都市インフラの整備等の大会に関連する事業の経費として約8100億円が必要との見込みを公表している。

その後、31年1月発表の31年度の東京都予算案の概要資料においては、大会経費及び大会関連経費(30年度の東京都予算案の概要資料における大会に関連する事業の経費。以下同じ。)の額は前年度と同額となっており、新たにその内訳の金額が公表されている。

東京都によると、大会経費は、大会の開催に伴い専ら大会のために行われる大会に直接必要となる業務に係る経費及び大会にも資するが大会後も活用されてレガシーとして残る新規恒久施設の整備等に係る経費であり、V3予算における試算の対象となっている。その内訳は、図表2-6のとおり、会場関係に係る恒久施設の整備が2250億円と最も多額となっており、仮設等についても2100億円と多額になっている。

図表2-6 大会経費の内訳(令和2年度まで)

(単位:億円)
区分 事業費 各年度内訳
~平成
29年度
30年度 令和
元年度
2年度
会場関係 4900 700 570 2370 1260
  恒久施設の整備 2250 653 291 1211 95
東京アクアティクスセンター、有明アリーナの整備等
仮設等 2100 44 228 965 863
都内・都外自治体所有施設における仮設整備等
エネルギー 250 1 26 111 112
テクノロジー 300 2 25 83 190
大会関係 1100 0 40 350 710
  輸送 250 0 10 130 110
セキュリティ 750 0 28 203 519
オペレーション等 100 0 2 17 81
合計 6000 700 610 2720 1970
  • 注(1) 東京都の公表資料を基に会計検査院が作成した。
  • 注(2) 平成29年度までは決算額、30年度及び令和元年度は予算額、2年度は見込額である。

また、東京都によると、大会関連経費には、本来の行政目的のために行われるものであるが、大会に密接に関わる事業や大会の成功を支える関連事業の経費等が計上されている。そして、図表2-7のとおり、大会の成功を支える関連事業として実施されている無電柱化の推進等の都市インフラの整備が2710億円と最も多額となっており、これに続いて同じインフラ整備でも大会に密接に関わる事業として実施されている環状第2号線等骨格幹線道路の整備等の円滑な都市運営に資する輸送インフラ及びセキュリティ対策が1870億円となっている。なお、大会関連経費については、大会後もレガシーとして残るものや引き続き展開される業務等に係る経費の全額が計上されている。

図表2-7 大会関連経費の内訳(平成29年度~令和2年度)

(単位:億円)
区分 事業費 各年度内訳
平成
29年度
30年度 令和
元年度
2年度
大会に密接に関わる事業 4360 820 1150 1490 910
  既存体育施設の改修、晴海地区基盤整備等 860 180 190 410 90
東京体育館等の改修、選手村整備に伴う晴海地区の基盤整備事業等
円滑な都市運営に資する輸送インフラ、セキュリティ対策 1870 370 530 590 380
環状第2号線等骨格幹線道路の整備、競技会場周辺のセキュリティ対策等
都市のバリアフリー対策、多言語対応等 750 140 230 270 110
競技会場周辺駅等のエレベーターの設置、微細ミストの設置等の暑さ対策等
教育・文化プログラム、都市ボランティアの育成・活用等 700 90 130 170 310
Tokyo Tokyo FESTIVALの推進、ライブサイトなど大会の気運醸成等
競技力向上施策の推進、障害者スポーツの振興 190 50 60 50 30
アスリートの発掘、障害者スポーツセンターの改修等
大会の成功を支える関連事業 3240 620 950 1120 550
  都市インフラの整備 2710 520 830 920 430
無電柱化の推進、遮熱性舗装等路面の高機能化等
安全・安心の確保等 140 20 30 60 40
観光振興、東京・日本の魅力発信 330 70 80 100 80
スポーツの振興 70 10 10 40 10
その他の事業 500 - - - 500
合計 8100 1440 2100 2610 1950
  • 注(1) 東京都の公表資料を基に会計検査院が作成した。なお、公表資料は端数処理されているため合計と一致しないものがある。
  • 注(2) 平成29年度は決算額、30年度及び令和元年度は予算額、2年度は見込額である。
ウ 国が負担する大会経費や実施する大会の関連施策の経費等の公表状況

30年報告における検査の結果に基づき大会経費及び大会の関連施策の経費に係る試算等の状況を取りまとめた図表2-1について、イの大会経費や大会の関連施策の経費の情報に基づき再度取りまとめると、図表2-8のとおりであり、国における大会の関連施策の経費については、新たにオリパラ関係予算について25年度から令和元年度までの計2197億余円が公表されている。

図表2-8 30年報告以降の大会経費及び大会の関連施策に係る経費の公表状況

(単位:億円)
負担者
業務の区分
経費の負担者別の想定される業務内容
大会組織委員会 東京都 国等(関係府省等、JSC)
大会経費 V3予算
会場関係
恒久施設   所有施設の新規整備新国立競技場の新規整備のうち東京都負担分 2250 新国立競技場の新規整備(東京都負担分を除く。) 1200
仮設等(仮設インフラ、オーバーレイ、賃借料等) 国・民間所有施設の仮設整備、オーバーレイ整備、民間施設の賃借料等
パラリンピック経費
950 東京都及び都外自治体所有施設の仮設整備、賃借料等
パラリンピック経費
2100 パラリンピック経費 200
エネルギー 国・民間所有施設の電源設備、電気・ガス使用料
パラリンピック経費
150 東京都・都外自治体所有施設の電源設備
パラリンピック経費
250
テクノロジー 国・民間所有施設の通信インフラ、IT環境(パソコン等)、競技計測、各種情報システム
パラリンピック経費
700 東京都・都外自治体所有施設の通信インフラ
パラリンピック経費
300
大会運営関係
輸送 バス・自動車の借上げ、大会関係者の公共交通無料化
パラリンピック経費
350 東京都・都外自治体所有施設周辺の会場周辺駐車場、車両基地、オリンピック・ルート・ネットワーク等の整備
パラリンピック経費
250 パラリンピック経費 100
セキュリティ 民間ガードマンによる警備、大会施設内の警備資機材
パラリンピック経費
200 東京都・都外自治体所有施設周辺のスクリーニング・映像監視機器、警備指揮所等
パラリンピック経費
750
オペレーション等 選手村、飲食、医療、宿泊、競技、聖火リレー・開閉会式、管理・広報マーケティング(ロイヤルティ)
パラリンピック経費
3650 開閉会式
パラリンピック経費
100
6000 6000 1500
合計 1兆3500
V3予算以外の大会の関連施策の経費   東京都公表値
約8100億円
政府公表値
オリパラ関係予算としての政府公表値
(平成31年1月)
平成25年度282億余円
26年度263億余円
27年度138億余円
28年度329億余円
29年度517億余円
30年度343億余円
令和元年度322億余円
2197億余円注(2)
オリパラ事務局によるABC分類等
各府省等が実施する大会の関連施策(30年報告を踏まえたオリパラ事務局による調査結果)
286事業8011億余円(A分類53事業1725億円、B分類208事業5461億円、C分類29事業826億円)(平成30年10月)注(3)
大会施設の整備・改修等に対する国庫補助金等(30年報告を踏まえたオリパラ事務局による調査結果)
5施設34億円(平成30年10月)
 
  • 注(1) 図表中に記載の金額は、各負担者の公表分については集計する経費の定義がそれぞれ異なっており、また、集計の対象年度等が同一ではないため、各金額の集計額が大会経費の試算等の全容を示すものではない。
  • 注(2) オリパラ関係予算には、新国立競技場の新規整備に係る予算として517億余円及びパラリンピック交付金の予算として300億円が含まれている。
  • 注(3) A分類には、新国立競技場の新規整備に係る支出額として744億余円及びパラリンピック交付金の支出額として300億円が含まれている。なお、新国立競技場の新規整備に係る支出額744億余円には、国際的な規模のスポーツの競技会の我が国への招致又はその開催が円滑になされるようにするために行うスポーツ施設の整備等であって緊急に行う必要があるものとして文部科学大臣が財務大臣と協議して定める業務である特定業務に充てる金額である特定金額による支出が含まれている。
  • 注(4) A分類とB分類については、一部重複する事業があるため、ABC分類の事業数の単純合計は全体の事業数(286事業)とは一致しない。

会計検査院は、各府省等が実施する大会の関連施策等の状況について、30年報告に引き続き検査を実施したところであり、令和元年取組状況報告に記載された取組内容に該当する事業及び当該事業に係る平成25年度から30年度までの支出額と共に、令和元年取組状況報告に記載された取組以外の国等による大会の支援状況について、その支援額を取りまとめた検査結果は、2(1)に示したとおりである。

これらの検査の過程において、オリパラ事務局が、30年報告の所見の趣旨を踏まえて、大会の準備、運営等に特に資すると認められる業務を公表しているかについてみたところ、オリパラ関係予算において、国庫債務負担行為により後年度に執行が予定されている経費を公表していないもの((ア)参照)、令和元年取組状況報告に記載されていないもの((イ)参照)及び大会組織委員会に対して国が業務等の支援を行うこととしているもので、その実施内容について公表して、国民に周知し、理解を求めていくことが望まれるもの((ウ)参照)が見受けられた。

(ア) オリパラ関係予算において、国庫債務負担行為により後年度に執行が予定されている経費を公表していないもの

(2)イ(イ)のとおり、オリパラ事務局は、31年1月29日、オリパラ関係予算について、30年度補正予算案及び31年度当初予算案に加えて、25年度以降の予算額についても整理して公表した。これによると、25年度から31年度当初予算案までのオリパラ関係予算の合計額は9府省等の計56事業に係る計2197億余円となっている。

上記のオリパラ関係予算についてみると、国の25年度から31年度当初予算案において、各年度の歳出予算の中からオリパラ関係予算に該当するものを公表したものとなっている。一方、国の予算には、各年度の歳入歳出予算のほかに、複数年度にわたる債務を負担する国庫債務負担行為等がある。そして、各府省等は、歳入歳出予算等と共に国会に提出され、その議決を経た国庫債務負担行為に基づいて、公共工事やリース契約等の複数年度契約を締結して業務を実施している。

国庫債務負担行為は、債務負担権限のみを与えるものであって、実際に契約に基づいた支出を行うには各年度の歳出予算に改めて計上して国会の議決を経る必要があり、支出年度の歳出予算額としてはいずれ公表されることになるものである。このようなことから、オリパラ事務局は、各府省等の国庫債務負担行為による経費のうち歳出予算として計上された額以外の後年度に執行が予定されているものについては、オリパラ関係予算の取りまとめ及び公表の対象としていない。

オリパラ関係予算が公表された28年度以降にオリパラ関係予算に該当するもので国庫債務負担行為として計上されていた予算には、警察庁、総務省、文部科学省及び海上保安庁において計398億1430万余円がある。これらの国庫債務負担行為について、オリパラ事務局は、それぞれの歳出予算額としての支出年度にオリパラ関係予算として公表してきており、上記の計398億1430万余円のうち、警察庁及び総務省において令和2年度の支出予定額とされている国庫債務負担行為計134億0982万余円については、平成30年度補正予算案及び31年度当初予算案においてはオリパラ関係予算として公表していなかった。

この事例を示すと次のとおりである。

<事例1> オリパラ関係予算において、国庫債務負担行為により後年度に執行が予定されている経費を公表していないもの

オリパラ事務局は、各府省等の国庫債務負担行為による経費のうち後年度に執行が予定されているものについては、オリパラ関係予算の取りまとめ及び公表の対象としていない。

そして、警察庁において、大会時に全国から動員予定の警察官のために大会施設周辺に設置する仮設の待機施設等に要する経費として、令和元年度一般会計歳出予算に国庫債務負担行為として総額133億2993万余円(元年度支出予定額4080万余円、2年度支出予定額132億8912万余円)が計上されている。オリパラ事務局は、このうち元年度支出予定額4080万余円については、平成31年度当初予算案におけるオリパラ関係予算として公表しているが、令和2年度支出予定額の132億8912万余円については、オリパラ関係予算として公表していなかった。

(イ) 令和元年取組状況報告に記載されていないもの

各府省等は、大会の関連施策について、オリパラ基本方針に基づき、立案と実行に取り組むこととなっている。政府の取組状況報告は、各府省等が実施する大会の関連施策の取組状況について、前年度までの主な内容、今後の主な内容等が示されており、オリパラ特措法によれば、大会が終了するまでの間、おおむね1年に1回、国会へ報告するとともに公表することとされている。

また、ABC分類に当たっては、30年5月に国会に提出された政府の取組状況報告の報告内容との関連性等がABC分類における大会の準備、運営等に特に資すると認められる業務であるかの判断基準の一つとされている。

令和元年取組状況報告は、東京都、JOC、JPC等の関係団体からの要望事項を踏まえて、平成26年度に内閣官房2020年オリンピック・パラリンピック東京大会推進室が作成したセキュリティ・安全安心、輸送、外国人旅行者の受入れ、バリアフリー、復興・地域活性化、スポーツ、文化・環境等の各分野に係る国の対応が期待される事項を記載した文書を基にして、27年11月及び28年10月にオリパラ事務局がオリパラ基本方針に基づく分野等に合致するように再構成したものを原案としている。そこで、27年11月及び28年10月に原案を作成した際には想定していなかったものの、新たに大会の関連施策として実施された業務がないかみたところ、大会の準備の進捗に伴い、新たに大会組織委員会と協議して実施している業務について、令和元年取組状況報告に記載されていないものが見受けられた。

<事例2> 令和元年取組状況報告に記載されていないもの

オリパラ事務局は、各府省等が大会に関連すると判断した施策を政府の取組状況報告として取りまとめるなどしている。そして、総務省は、平成30年度に請負業者との間で「大規模スポーツイベントのボランティア管理等における公的個人認証サービスの利活用実現に向けた調査研究請負」業務契約を契約金額5097万余円で締結して実施しており、同業務の検討結果を基にして大会時における個人番号カード(注)の活用について、大会組織委員会と協議している。

このように、同業務は、個人番号カードを大会におけるボランティア管理にも使用することを想定した業務であるが、オリパラ事務局の取りまとめた令和元年取組状況報告には記載されていなかった。

(注)
個人番号カード  氏名、住所、生年月日、性別、個人番号その他政令で定める事項が記載され、本人の写真が表示され、かつ、これらの事項その他省令で定める事項(カード記録事項)が電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によって認識することができない方法をいう。)により記録されたカード

また、上記のほか、JSCが大会の開催に係る事業に対して実施する助成について、文部科学省において、スポーツ振興投票において発売するスポーツ振興投票券(以下「スポーツ振興くじ」という。)の売上げによる収益を原資とした事業であることから令和元年取組状況報告に記載していないとしている事業が次のように見受けられた。

a JSCによる大会組織委員会に対する支援状況

JSCは、スポーツ振興くじの売上げによる収益を原資として、地方公共団体又はスポーツ団体が行うスポーツ振興に係る事業に対してスポーツ振興くじ助成を行っており、スポーツ振興くじ助成の一つの事業として、大会の開催に係る事業に対して助成を実施している(以下「オリパラ開催助成」という。)。そして、オリパラ開催助成の一つとして、スポーツ団体に該当する大会組織委員会が大会の円滑な開催を図ることを目的として行うガバナンス・コンプライアンス強化及び国際広報活動に要する経費に対して財政支援を行っており、図表2-9のとおり26年度から30年度までに計23億5863万余円を助成している。

図表2-9 JSCによる大会組織委員会への財政支援の状況(平成26年度~30年度)

(単位:千円)
事業の名称 主な内容 平成26~29年度 30年度
ガバナンス・コンプライアンス強化 専門的知見等を有する人材の配置 892,766 183,701 1,076,468
  うち各府省等からの派遣等職員の配置 508,195 157,064 665,259
税理士法人、法律事務所等による専門的な分野の業務支援等 938,878 143,285 1,082,163
小計 1,831,645 326,987 2,158,632
国際広報活動 リオ大会開催時におけるTokyo2020JAPANHOUSEを通じた東京大会のPR活動(28年度のみ) 200,000 - 200,000
2,031,645 326,987 2,358,632
  • 注(1) ガバナンス・コンプライアンス強化及び国際広報活動については、図表6-8参照
  • 注(2) ガバナンス・コンプライアンス強化に係る「主な内容」別の助成額は、内容ごとに助成額が個別に算定されているものではないため、ガバナンス・コンプライアンス強化に係る事業全体として助成対象となる経費の上限額に対する実際の助成額の割合を基に計算している。

b JSCによる大会組織委員会以外に対する支援状況

JSCが実施するオリパラ開催助成のうち、ドーピング防止活動推進強化事業、大規模競技場機能補完施設整備事業、競技会場整備事業、キャンプ地施設整備事業及び日本武道館整備事業によって27年度から30年度までに東京都、その他の地方公共団体又は民間団体に対して実施された財政支援の状況(26年度は財政支援は行われていない。)は図表2-10のとおり、計49億1627万余円となっている。

図表2-10 オリパラ開催助成による東京都、その他の地方公共団体又は民間団体に対する財政支援状況(平成27年度~30年度)

(単位:千円)
支援の対象 ドーピング防止活動推進強化事業 大規模競技場機能補完施設整備事業 競技会場整備事業 キャンプ地施設整備事業 日本武道館整備事業
団体数 交付金額 団体数 交付金額 団体数 交付金額 団体数 交付金額 団体数 交付金額 団体数 交付金額
東京都         0 0     0
その他の地方公共団体         6 672,142 5 354,174     11 1,026,316
  うち大会施設が所在する地方公共団体         6 672,142 0     6 672,142
上記以外の地方公共団体             5 354,174     5 354,174
民間団体 1 889,959 1 3,000,000         0
注(2)
2 3,889,959
1 889,959 1 3,000,000 6 672,142 5 354,174 0 13 4,916,275
  • 注(1) ドーピング防止活動推進強化事業、大規模競技場機能補完施設整備事業、競技会場整備事業、キャンプ地施設整備事業及び日本武道館整備事業については、図表6-8参照
  • 注(2) 日本武道館整備事業に係る助成金は、平成30年度に3か年計16億2077万余円の交付決定を行っているが、令和元年度以降に交付する予定となっている。
  • 注(3) 競技会場整備事業の大会施設ごとの交付金額の内訳は、宮城スタジアム2154万余円、福島あづま球場2億5029万円、茨城カシマスタジアム1億5197万余円、幕張メッセAホール及びBホール4696万余円、江の島ヨットハーバー6693万円、横浜国際総合競技場1億3443万余円となっている。
(ウ) 大会組織委員会に対して国が業務等の支援を行うこととしているもので、その実施内容について公表して、国民に周知し、理解を求めていくことが望まれるもの

大会の関連施策の中には、次のような方法で大会組織委員会に対して国が業務等の支援を行うこととしているものが見受けられた。

V3予算の試算において大会組織委員会が負担して実施することとされている輸送、セキュリティ、オペレーション等の大会運営関係の一部について、大会組織委員会と防衛省との間で各種協力の調整が行われている。このうち、大会組織委員会の警備局は、一層安全・安心で確実な大会運営を実現するためとして、31年1月に防衛省に対して「会場内外の整理を始めとする大会運営に係る各種協力」を依頼している。同省によると、大会組織委員会と調整している大会運営に係る各種協力について、自衛隊法(昭和29年法律第165号)第100条の3の規定等に基づき、自衛隊の任務遂行に支障を生じない限度において、役務の提供その他必要な協力を行う予定としている。そして、協力に要する費用は、自衛隊法施行令(昭和29年政令第179号)第124条の規定等に基づき、隊員の給与(旅費を除く。)、隊員の糧食費並びに自衛隊の車両、航空機、船舶、機械及び器具の修理費については同省が負担することとして、残りの費用については大会組織委員会が負担することとなっている。この支援について、同省は、式典協力費等として予算要求をする予定としている。上記のような大会組織委員会と調整している各種協力については、その実施に当たって、実施内容を適切に公表して、国民に周知し、理解を求めていくことが望まれる。

以上のように、大会経費及び大会の関連施策に対する経費については、30年報告後に公表されたオリパラ関係予算や令和元年取組状況報告において、オリパラ関係予算において、国庫債務負担行為により後年度に執行が予定されている経費を公表していないものや、令和元年取組状況報告に記載されていないものなどが見受けられたところである。

これらの状況を踏まえて、オリパラ事務局は、国が担う必要がある業務について国民に周知して理解を求めるために、各府省等から情報を集約して、業務の内容、経費の規模等の全体像を把握して公表することについて充実を図っていく必要がある。

エ 大会組織委員会の決算等の状況

大会組織委員会が公表している正味財産増減計算書に基づき、平成25年度から30年度までの収益の実績をみると、図表2-11のとおり、経常収益は計2646億余円であり、このうち収益の中心となるスポンサー料等のマーケティング収益が2417億余円となっている。そして、V3予算における大会組織委員会の収入に係る試算額6000億円に占める上記の経常収益の2646億余円の割合は44.1%となっている。また、経常収益には、オリパラ開催助成により、組織体制の強化等を目的としてJSCから交付された助成金計23億余円(科目「受取補助金等」)が含まれている。

大会組織委員会の25年度から30年度までの費用の実績をみると、図表2-11のとおり、経常費用は計1276億余円であり、このうち事業費は1077億余円、管理費は198億余円となっている。そして、V3予算における大会組織委員会の支出に係る試算額6000億円に占める上記経常費用の計1276億余円の割合は21.2%となっている。

大会開催を間近に控えて、今後、大会組織委員会が大会施設を対象に実施している仮設整備(注14)及びオーバーレイ整備(注15)が本格化するなど、調達業務がピークを迎えて、費用が大幅に増加していくことが見込まれる。

(注14)
仮設整備  大会期間中に一時的にIOCが求める施設水準とするために必要な建物、観客席、電源設備等の仮設施設の設置及び撤去
(注15)
オーバーレイ整備  大会の運営上必要となるプレハブ、テント、放送用の照明等であるオーバーレイの設置及び撤去

図表2-11 大会組織委員会の決算の状況(平成25年度~30年度)

(単位:千円)
年度
科目
一般財団法人
(平成26年12月31日まで)
公益財団法人
(27年1月1日以降)
V3予算における試算額6000億円に占める割合
25年度 26年度 26年度 27年度 28年度 29年度 30年度
経常収益 403,564 278,121 3,409,897 40,700,680 65,124,773 67,986,009 86,740,739 264,643,786 (44.1%)
受取寄付金
400,000 - - - 5,700,000 475,068 6,873,588 13,448,657  
受取受贈益
3,564 - - - - - - 3,564  
基本財産運用益
- 446 175 1,196 47 3 3 1,871  
特定資産運用益
- - - - - - 14,323 14,323  
受取負担金
- - - - - 884,791 6,049,315 6,934,107  
事業収益
- - 3,297,444 40,124,816 58,752,071 66,163,164 73,429,961 241,767,458  
マーケティング収益
- - 3,281,244 40,124,816 58,741,271 66,163,164 73,429,088 241,739,585  
その他収益
- - 16,200 - 10,800 - 873 27,873  
受取補助金等
- 277,675 112,223 570,386 671,400 400,000 326,987 2,358,672  
為替差益
- - - - - - 43,544 43,544  
雑収益
- - 54 4,281 1,254 62,981 3,014 71,586  
経常費用 166,905 931,884 864,665 11,646,339 27,530,042 39,591,758 46,890,984 127,622,580 (21.2%)
事業費
119,139 738,576 777,798 11,279,162 17,948,008 35,505,774 41,356,574 107,725,034  
管理費
47,765 193,307 86,866 367,177 9,582,034 4,085,983 5,534,410 19,897,545  
当期経常増減額 236,659 653,762 2,545,232 29,054,341 37,594,731 28,394,250 39,849,754 137,021,206  
経常外収益 - - - - - - - -  
経常外費用 - 2,585 6,613 93,780 18,855 - 0 121,835 (0.0%)
当期経常外増減額 - 2,585 6,613 93,780 18,855 - 0 121,835  
当期一般正味財産増減額 236,659 656,348 2,538,619 28,960,560 37,575,875 28,394,250 39,849,754 136,899,371  
  • 注(1) 大会組織委員会が公表している正味財産増減計算書を基に会計検査院が作成した。
  • 注(2) 平成28年度の経常収益のうち受取寄付金57億円と、経常費用のうち管理費に含まれる57億円は、東京都から出えんされた基本財産57億円の返還に伴い計上されたものである。
  • 注(3) 受取補助金等は、JSCから交付されたオリパラ開催助成の助成額であるが、額の再確定により返還されている金額があるため、実際の助成額とは一致しない。

(3) パラリンピック経費の執行状況

ア パラリンピック経費の概要

国が資金の一部を負担することとなっているパラリンピック経費は、共同実施事業に係る経費の一部として経理されている。共同実施事業は、大会組織委員会が、東京都及び国等で負担する資金を使用して実施する事業であり、共同実施事業の経費は、大枠の合意に基づき大会組織委員会、東京都及び国が2:1:1の割合で負担することとされているパラリンピック経費と、大会の準備及び運営の主体である大会組織委員会と開催都市である東京都がそれぞれの役割に応じて負担することとされているオリンピック経費で構成されている。

文部科学省は、大枠の合意に基づくパラリンピック経費の4分の1相当額を負担するために、平成29年度一般会計補正予算においてパラリンピック交付金300億円を計上して、30年3月に東京都へ同額を交付している。「東京パラリンピック競技大会開催準備交付金交付要綱」(平成30年3月文部科学大臣決定)によれば、パラリンピック交付金が大会組織委員会へ交付されるまでの流れは図表3-1のとおりであり、文部科学省は、東京都からの交付申請書を審査して、交付決定した上で基金の造成に要する経費を交付することとされ、交付を受けた東京都は、既存の基金に積み立てて区分経理するなどした後、速やかに文部科学省に実績報告書を提出することとされている。また、大会の終了後に当該基金の残余がある場合には、国庫に返納することとされている。

東京都は、東京都補助金等交付規則及び大会組織委員会と締結した共同実施事業の経費負担に係る協定書に基づき、大会組織委員会から共同実施事業に係る負担金の交付申請書の提出を受けて交付決定を行った後、各年度の終了後に大会組織委員会から実績報告書の提出を受けて額の確定を行い、大会組織委員会から請求書の提出を受けて負担金を交付することとなっている。額の確定に当たっては、大会組織委員会から提出された実績報告書の審査等により、報告に係る補助事業等の成果が補助金等の交付決定の内容等に適合するものであるかを調査することとされている。

そして、東京都から大会組織委員会への共同実施事業負担金の交付に当たっては、負担金の対象となる経費のうち、大会組織委員会がパラリンピック経費として当該年度に履行を完了した経費について、あらかじめ文部科学省、オリパラ事務局、東京都及び大会組織委員会の関係者で構成する共同実施事業管理委員会が、原則として当該年度末に確認することとなっている。

東京都は、30年3月に、文部科学省からパラリンピック交付金300億円の交付を受けて、既に設置造成している東京オリンピック・パラリンピック開催準備基金に積み立てて自らの資金と区分して経理している。

図表3-1 パラリンピック交付金が共同実施事業に係る負担金の一部として大会組織委員会へ交付されるまでの流れ(パラリンピック経費に係るもの)

図表3-1 パラリンピック交付金が共同実施事業に係る負担金の一部として大会組織委員会へ交付されるまでの流れ(パラリンピック経費に係るもの) 画像

イ パラリンピック経費の予算及び決算の状況

パラリンピック交付金による国の負担額は、東京都から大会組織委員会へ交付される共同実施事業の負担金に含めて交付されている。東京都は、共同実施事業に係る負担金の交付に先立ち負担金の上限額(予算額)について、毎年度、大会組織委員会と協議して年度協定書を取り交わしている。共同実施事業に係る負担金の上限額と交付額の関係は、図表3-2のとおりとなっていて、東京都は、 29年度に上限額87億3424万余円に対して49億3412万余円(87億3424万余円の56.4%)、30年度に上限額744億1347万余円に対して186億6975万余円(744億1347万余円の25.0%)の負担金を大会組織委員会に交付している。なお、東京都及び大会組織委員会によると、負担金上限額は、当該年度に負担する可能性のある経費の全てを計上しており、29、30両年度については、支払年度の翌年度以降への見直しに伴い執行率が低くなったとしている。

図表3-2 共同実施事業に係る負担金の上限額と交付額の関係

(単位:千円)
区分 負担金上限額 負担金交付額 割合
A B (B/A)
平成29年度 8,734,245 4,934,127 56.4%
  オリンピック経費 - 4,569,065 -
パラリンピック経費 - 365,061 -
30年度 74,413,476 18,669,751 25.0%
  オリンピック経費 64,142,408 16,148,089 25.1%
パラリンピック経費 10,271,068 2,521,662 24.5%

(注) 平成29年度の年度協定書には、オリンピック経費とパラリンピック経費の内訳が定められていない。

パラリンピック経費における東京都と国を合わせた負担額の状況は、図表3-3のとおり、29年度3億6506万余円、30年度25億2166万余円、計28億8672万余円となっており、このうち国の負担額は、29年度1億8253万余円、30年度12億6083万余円と増加傾向にあるものの、30年度までで計14億4336万余円となっていて、国が既に東京都に交付しているパラリンピック交付金300億円に対する執行割合は、4.8%となっている。

大会組織委員会は、30年度末現在の執行割合が低調となっている理由について、特に多額の経費が必要とされる仮設等の大会施設の整備に係る工事の多くにおいて、令和元年度からの整備が予定されている(図表4-11参照)ためであるとしている。

図表3-3 パラリンピック経費における東京都及び国の負担額の状況並びにパラリンピック交付金300億円に対する執行割合

(単位:千円)
区分 パラリンピック経費の負担額 パラリンピック交付金300億円に対する執行割合
 
(所管 文部科学省)
平成29年度 365,061 182,530 182,530 0.6%
30年度 2,521,662 1,260,831 1,260,831 4.2%
2,886,723 1,443,361 1,443,361 4.8%

(注) 「パラリンピック交付金300億円に対する執行割合」とは、パラリンピック交付金300億円に占めるパラリンピック経費の国の負担額の割合をいう。

上記のように、平成30年度までの執行割合は4.8%となっており、今後、令和2年に開催される大会に向けて、パラリンピック経費に係る契約件数や金額等が大幅に増加していくことが見込まれる。

ウ  パラリンピック経費の確認状況

共同実施事業管理委員会設置要綱によれば、共同実施事業管理委員会は、パラリンピック経費を含む共同実施事業に係る経費、コスト管理及び執行統制の強化等について協議して、これらに関する事情等につき確認し、必要に応じて国、東京都及び大会組織委員会に対して指摘、助言等を行うこととされている。

そして、共同実施事業管理委員会は、パラリンピック経費について、大会組織委員会がパラリンピック経費として整理した経費の一覧表、経費ごとの契約内容を整理した表等を確認するとともに、大会組織委員会から経費の内容について聴取することで、東京パラリンピック競技大会開催準備交付金交付要綱等に記載されている次の①から③までのパラリンピック経費の基本的な考え方に沿って適切かどうかを確認している。

  • ① 経費の内容がパラリンピック競技・選手に深く関わるものであること
  • ② オリンピックとパラリンピックの双方の競技・選手に関わる経費については、経費の内容等を踏まえ適切に案分されたものであること
  • ③ 経費の内容等が公費負担の対象として適切なものであること

平成30年度のパラリンピック経費の確認体制は、図表3-4のとおりとなっており、共同実施事業管理委員会には、同委員会の下部組織として、パラリンピック競技大会に係る共同実施事業について協議するパラリンピック作業部会と、東京都の負担が含まれる共同実施事業について協議する東京都作業部会が設置されている。

このうちパラリンピック作業部会におけるパラリンピック経費の確認状況をみると、30年度執行分は31年1月23日及び3月27日に1回(1日)ずつ、計2回(計2日)行われている。文部科学省によると、31年1月は第2四半期までに執行した経費について、同年3月は同年1月に確認したものも含めた30年度に執行した全ての経費について、それぞれ確認したとしている。

図表3-4 パラリンピック経費の確認体制(平成30年度執行分)

図表3-4 パラリンピック経費の確認体制(平成30年度執行分) 画像

大会組織委員会の会計処理規程、契約書、前記パラリンピック経費の基本的な考え方等に基づき、29、30両年度に大会組織委員会がパラリンピック経費として執行した29年度44件(契約金額計7億3044万余円(うちパラリンピック交付金相当額計1億8253万余円))、30年度93件(同計50億4438万余円(同計12億6083万余円))、計137件(同計57億7482万余円(同計14億4336万余円))についてみたところ、次のような事態が見受けられた。

(ア) パラリンピック交付金の交付対象とされた契約について適切な会計経理がなされていない事態

図表3-5のとおり、パラリンピック交付金の交付対象とされた「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会専用アンチ・ドーピングラボラトリー運営業務委託」等5契約に係る29、30両年度のパラリンピック経費計4166万余円(うちパラリンピック交付金相当額計1041万余円)について、委託費の精算に当たり、委託業務に従事した人日数等の確認を十分に行っていなかったり、仕様書において、受託者が実施すべき業務の内容が明確に記載されていなかったりするなど、大会組織委員会の会計処理規程、契約書等に基づく適切な会計経理がなされていない事態が見受けられた。

図表3-5 パラリンピック交付金の交付対象とされた5契約について、適切な会計経理がなされていないものの概要

(単位:千円)
契約名 負担金対象年度 支払額 適切とは認められないパラリンピック経費 業務内容 適切とは認められない事態の概要
  うちパラリンピック交付金相当額
東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会専用アンチ・ドーピングラボラトリー運営業務委託
<事例3>
平成29 192,227 11,261 2,815 東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会専用アンチ・ドーピングラボラトリーの運営業務 契約書等において、委託業務の遂行に要した費用を実費に限り支払うとしているにもかかわらず、委託業務に従事した人日数等を確認できる根拠資料の提出について明示しておらず、委託費の精算に当たり、根拠資料に基づき業務に要した実費を確認できるものとなっていなかった。
30 248,381 11,232 2,808
440,609 22,494 5,623
大会関係者輸送用バスの調達及び運用に係る業務委託 29 24,033 3,769 942 大会関係者輸送用バスの調達及び運用業務 仕様書において、受託者が実施すべき業務の内容が明確に記載されていなかった。
業務用無線及び周波数調整に係るコンサルティング契約 29 6,974 1,565 391 無線端末配備計画やスポーツイベントにおける周波数調整等への助言等業務 最終的な成果品である報告書の確認は行っていたものの、契約金額の分割払いの際に、業務の実施状況を確認するために別途提出することとされている業務報告書の提出は受けていなかった。
有明体操競技場屋内仮設電気設備整備工事 30 69,369 3,930 982 オリンピック・パラリンピック競技大会で使用する有明体操競技場に係る屋内仮設電気設備工事 大会組織委員会が発注して同一の請負者が受注した別工事に関する業務費用を、本件工事契約の対価として支払っていた。
東京2020大会入賞メダル製造等業務委託(銀圧延版加工および金メッキ加工) 30 82,497 9,901 2,475 金メダル、銀メダル製造に使用する銀圧延版や金メッキ液の加工及び納品等 大会組織委員会の会計処理規程等において、契約の相手方を決定したときは、遅滞なく契約書を作成して、当該契約書の定めに従い物品の納入等に関する検査を行うこととされているにもかかわらず、契約書作成前に納品を受けていた。
29、30両年度合計(5契約) 623,485 41,660 10,415  
29年度 計(3契約) 223,236 16,596 4,149
30年度 計(3契約) 400,249 25,064 6,266

(注) 「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会専用アンチ・ドーピングラボラトリー運営業務委託」は、複数年度契約であるため、年度別の契約数の計の合計が両年度の契約数の合計と一致しない。

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例3> 委託費の精算に当たり、委託業務に従事した人日数等の確認をするための根拠資料の提出を求めていなかったもの

大会組織委員会は、平成29年4月に、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会専用アンチ・ドーピングラボラトリー運営業務委託契約を契約金額17億8491万余円で締結している。契約書によれば、大会組織委員会は、受託事業者が委託業務の遂行に要した費用を実費に限り支払うなどとされており、大会組織委員会は、業務の対価として、29年12月から31年3月までの間に、受託事業者に対して計4億4060万余円を支払い、計2541万余円(29年度1109万余円及び30年度1432万余円)のパラリンピック交付金の交付を受けていた。

契約書、仕様書等によれば、受託事業者は、業務の履行後、大会組織委員会の検査に合格したときは、大会組織委員会に対して、当該検査に合格した部分に係る請求書と共に、納品書、領収書等の費用の支出を裏付ける資料を提出することとされている。

しかし、大会組織委員会は、契約書、仕様書等において受託事業者からの委託業務に従事した人日数等を確認できる根拠資料の提出について明示していなかったため、当該契約は、委託費の精算に当たり、根拠資料に基づき業務に要した実費を確認できるものとなっていなかった。

(イ) 大会組織委員会においてオリンピック経費とパラリンピック経費の適切な案分方法について十分に検討すべきであった事態

図表3-6のとおり、パラリンピック交付金の交付対象とされた「伊豆ベロドローム・伊豆マウンテンバイク会場整備工事実施設計業務委託」等2契約に係る29、30両年度のパラリンピック経費計4135万余円(うちパラリンピック交付金相当額計1033万余円)について、前記パラリンピック経費の基本的な考え方における「②オリンピックとパラリンピックの双方の競技・選手に関わる経費については、経費の内容等を踏まえ適切に案分されたものであること」に照らして、オリンピック、パラリンピック両競技で使用される会場(以下「オリパラ共通会場」という。)等に係るオリンピック経費とパラリンピック経費の適切な案分方法について十分に検討すべきであったと認められる事態が見受けられた。

図表3-6 オリンピック経費とパラリンピック経費の適切な案分方法について十分に検討すべきであったと認められる2契約の概要

(単位:千円)
契約名 負担金対象年度 支払額 大会組織委員会精算 会計検査院修正計算 差額
パラリンピック経費を算出する際の案分方法 うちパラリンピック経費 うちパラリンピック交付金相当額 パラリンピック経費を算出する際の案分方法 うちパラリンピック経費 うちパラリンピック交付金相当額 うちパラリンピック経費 うちパラリンピック交付金相当額
競技馬輸送に係る海外輸送業者との業務委託契約 平成
29
11,452 オリンピック・パラリンピックそれぞれの競技馬数の比(オリ:パラ=200:80)で案分 3,272 818 予備馬50頭分を加味した競技馬数の比(オリ:パラ=250:80)で案分 2,776 694 495 123
伊豆ベロドローム・伊豆マウンテンバイク会場整備工事実施設計業務委託
<事例4>
30 137,903 オリンピック専用会場との共用施設分の工事費概算額の全額をオリパラ共通会場分に加えた額の総工事費概算額に占める比率で案分 38,080 9,520 本件業務の対象会場数に占めるオリパラ共通会場数の比率(2分の1)で案分 29,878 7,469 8,201 2,050
29、30両年度 計 149,355   41,352 10,338   32,655 8,163 8,697 2,174

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例4> 大会組織委員会においてオリンピック経費とパラリンピック経費の適切な案分方法について十分に検討すべきであったもの

大会組織委員会は、平成29年9月に、オリパラ共通会場となる伊豆ベロドローム、オリンピック競技専用の会場(以下「オリンピック専用会場」という。)となる伊豆マウンテンバイクコース及び両会場の共用施設に係る実施設計を行う伊豆ベロドローム・伊豆マウンテンバイク会場整備工事実施設計業務を委託して実施している。そして、本件業務に要した経費(以下「実施設計業務費」という。)1億3790万余円のうちパラリンピック経費を3808万余円と算出して、パラリンピック交付金952万余円の交付を受けていた。

大会組織委員会は、実施設計業務費に係るパラリンピック経費を算出するに当たり、パラリンピック経費の対象となるオリパラ共通会場分の実施設計業務費の内訳がなかったことから、両会場及び共用施設それぞれの経費が明らかであった工事費概算額を用いて、オリパラ共通会場に係る工事費概算額の総工事費概算額に占める比率を基に実施設計業務費の案分を行うこととしていた。そして、共用施設の工事費概算額をオリパラ共通会場分とオリンピック専用会場分とに案分することなく、その全額をオリパラ共通会場の工事費概算額に加算してオリパラ共通会場に係る工事費概算額としていた。

しかし、上記のように、実施設計業務費に係るパラリンピック経費を算出するに当たっては、共用施設の工事費概算額について両会場分に案分した上で、両会場それぞれの工事費概算額に加算することが必要である。

そして、前記のようにオリパラ共通会場とオリンピック専用会場を対象とする業務において、会場別に経費の内訳がない場合については、大会組織委員会が作成して共同実施事業管理委員会において確認を受けた「オリンピック・パラリンピック共通経費における按分の考え方」(以下「案分の考え方」という。)が示されており、これによれば、業務の対象となっている全会場数に占めるオリパラ共通会場の数の比率を基に経費の総額を案分することとされていて、上記のような共用施設の経費についてもこの比率により案分されることとなる。そこで、工事費概算額を用いた算出方法ではなく、案分の考え方に基づき、本件業務の対象会場数に占めるオリパラ共通会場数の比率(2分の1)により本件業務の経費を案分するなどしてパラリンピック経費を算出すると2987万余円(パラリンピック交付金相当額746万余円)となり、前記のパラリンピック経費はこれを820万余円(同205万余円)上回っていた。

大会組織委員会は、本件業務のパラリンピック経費を算出するに当たり、適切な案分方法について十分に検討すべきであったと認められる。

イのとおり、パラリンピック交付金300億円のうち30年度までに執行されたのは14億余円となっていて、パラリンピック経費に係る契約件数や金額等は、今後、令和2年に開催される大会に向けて大幅に増加していくことが見込まれることから、大会組織委員会において、これらに係る会計経理が適切になされる必要がある。

国は、共同実施事業管理委員会の一員として、共同実施事業負担金のうちパラリンピック交付金を財源の一部とするパラリンピック経費について、大会組織委員会の会計処理規程、契約書等に基づく適切な会計経理が行われたものであるか、また、パラリンピック経費の基本的な考え方に沿ったものとなっているかなどの確認がより的確に行われるように働きかけていく必要がある。

(4) 大会施設の整備状況

ア 大会施設の概要等

主な大会施設は、図表4-1のとおり、元年7月末現在で9都道県(注16)の26市区町(注17)にわたって45か所となっており、このうち43か所の競技会場が9都道県にわたって所在しているほか、選手村と国際放送センター・メインプレスセンターが東京都内に整備されることになっている。

競技会場を使用する競技大会別にみると、オリパラ共通会場は20か所、オリンピック専用会場は22か所、パラリンピック競技大会のみで使用されるものは1か所となっている。

また、大会施設を整備等の内容別にみると、43か所の競技会場については、図表4-1のとおり、大会を契機に新規に建設するものが8か所あり、残りの35か所については、既存の競技施設をそのまま又は改修して使用したり、競技施設以外の施設等を一時的に使用したりするなどとされている。新規に建設する8か所のうち、JSCが建設する新国立競技場以外の7か所は東京都が建設して所有することとなっている。また、既存の競技施設等を使用するなどの35か所のうち、競技施設の所有者等の行う改修の目的が大会のためだけであるか否かにかかわらず、平成26年度以降に大会に資する内容の整備を行っているものが18か所あり、JSCが国立代々木競技場を改修し、JRAが馬事公苑を改修するほか、東京都が4か所、都外自治体が10か所、民間団体が2か所を改修することとなっている。

上記競技会場の新設又は改修に伴う整備のほか、大会組織委員会は、43か所全ての競技会場において、大会期間中に一時的にIOCが求める施設水準とするために必要な建物、観客席、電源設備等の仮設施設の設置・撤去を内容とする仮設整備や大会の運営上必要となるプレハブ、テント、放送用の照明等の設置・撤去を内容とするオーバーレイ整備を行うこととなっている。

競技会場以外の2か所のうち、選手村の建物の整備については、東京都において施設建築物の建築等を施行者に代わり民間事業者等に実施させることができる特定建築者制度が採用されており、特定建築者に選定された民間事業者の資金により建築工事が施工されている。また、大会組織委員会により、内装工事等の仮設整備及びオーバーレイ整備が行われている。

国際放送センター・メインプレスセンターについては、大会組織委員会により、東京ビッグサイトにおいて仮設整備及びオーバーレイ整備が行われることとなっている。

上記の仮設整備及びオーバーレイ整備に係る経費のうち、パラリンピック競技等に深く関わる大会施設に係る経費であり、パラリンピック経費として執行されるものの一部については、(3)のとおり、国の負担としてパラリンピック交付金が交付されている。

なお、大枠の合意によれば、大会準備における進行管理の強化として、東京都、大会組織委員会、国及び関係自治体の4者は、大会の準備及び運営に関する具体的な業務について、会場の状況等に即して内容を精査の上、実施に当たっては進行管理に万全を期していくこととされている。

(注16)
9都道県  東京都、北海道、宮城、福島、茨城、埼玉、千葉、神奈川、静岡各県
(注17)
26市区町  札幌、福島、鹿嶋、さいたま、川越、狭山、朝霞、新座、千葉、調布、横浜、藤沢、伊豆各市、千代田、中央、港、新宿、墨田、江東、品川、世田谷、渋谷、江戸川各区、宮城郡利府、長生郡一宮、駿東郡小山各町

図表4-1 主な大会施設の整備状況等(令和元年7月末現在)

番号
大会施設の名称
<主な所在地(所有者)>
予定競技等 整備主体の分類 整備主体による整備 大会組織委員会による仮設整備及びオーバーレイ整備
オリンピック競技大会 パラリンピック競技大会 主な整備 しゅん工予定等 令和元年7月末現在の進捗状況 しゅん工予定
1 国立競技場
(オリンピックスタジアム)
<東京都新宿区(JSC)>
開会式/閉会式、陸上競技、サッカー 開会式/閉会式、陸上競技 国が出資した法人 新規 令和元年11月 実施設計 令和2年4月
2 国立代々木競技場
<東京都渋谷区(JSC)>
ハンドボール バドミントン、車いすラグビー 改修 2年6月 実施設計 2年6月
3 馬事公苑
<東京都世田谷区(JRA)>
馬術(馬場馬術、総合馬術(クロスカントリーを除く。)、障害馬術) 馬術 改修 元年12月(大会関係部分のみ) 工事実施中 2年5月
4 東京体育館
<東京都渋谷区(東京都)>
卓球 卓球 東京都 改修 元年11月 実施設計 2年4月
5 東京国際フォーラム
<東京都千代田区(東京都)>
ウエイトリフティング パワーリフティング 工事実施中 2年7月
6 有明アリーナ
<東京都江東区(東京都)>
バレーボール(バレーボール) 車いすバスケットボール 新規 元年12月 実施設計 2年4月
7 有明テニスの森
<東京都江東区(東京都)>
テニス 車いすテニス 改修 2年3月 実施設計 2年4月
8 大井ホッケー競技場
<東京都品川区(東京都)>
ホッケー 新規 しゅん工(元年6月) 実施設計 2年4月
9 海の森水上競技場
<東京都江東区(東京都)>
カヌー(スプリント)、ボート カヌー、ボート 新規 しゅん工(元年5月) 実施設計 2年3月
10 カヌー・スラロームセンター
<東京都江戸川区(東京都)>
カヌー(スラローム) 新規 元年12月 実施設計 2年3月
11 夢の島公園アーチェリー場
<東京都江東区(東京都)>
アーチェリー アーチェリー 新規 しゅん工(平成31年2月) 実施設計 2年4月
12 東京アクアティクスセンター
<東京都江東区(東京都)>
水泳(競泳、飛込、アーティスティックスイミング) パラ水泳 新規 令和2年2月 実施設計 2年6月
13 東京辰巳国際水泳場
<東京都江東区(東京都)>
水泳(水球) 改修 元年10月 実施設計 2年6月
14 武蔵野の森総合スポーツプラザ
<東京都調布市(東京都)>
バドミントン、近代五種(フェンシング ランキングラウンド(エペ)) 車いすバスケットボール 新規 しゅん工(平成29年3月) 実施設計 2年6月
15 東京スタジアム
<東京都調布市(東京都)>
サッカー、ラグビー、近代五種(水泳、フェンシング ボーナスラウンド(エペ)、馬術、レーザーラン) 改修 令和2年3月 実施設計 2年6月
16 選手村
<東京都中央区(民間団体)>
選手村 新規(基盤整備) 元年12月(大会時に必要な部分のみ) 工事実施中 2年5月
17 東京ビッグサイト
<東京都江東区(東京都)>
国際放送センター/メインプレスセンター 工事実施中 2年6月
18 陸上自衛隊朝霞訓練場
<埼玉県朝霞市及び新座市
(防衛省)>
射撃 射撃 大会組織委員会 仮設   実施設計 2年1月
19 釣ヶ崎海岸サーフィンビーチ
<千葉県長生郡一宮町(千葉県、一宮町)>
サーフィン 仮設
注(7)
元年12月 実施設計 2年7月
20 皇居外苑
<東京都千代田区
(環境省)>
陸上競技(競歩) 仮設   実施設計 2年6月
21 有明体操競技場
<東京都江東区(東京都)>
体操 ボッチャ 仮設 工事実施中 2年5月
22 有明アーバンスポーツパーク
<東京都江東区(東京都)>
自転車競技(BMXフリースタイル、BMXレーシング)、スケートボード 仮設 実施設計 2年4月
23 お台場海浜公園
<東京都港区(東京都)>
水泳(マラソンスイミング)、トライアスロン トライアスロン 仮設 実施設計 2年4月
24 潮風公園
<東京都品川区(東京都)>
バレーボール(ビーチバレーボール) 仮設 実施設計 2年4月
25 海の森クロスカントリーコース
<東京都江東区(東京都)>
馬術(総合馬術(クロスカントリー)) 仮設 工事実施中 2年3月
26 青海アーバンスポーツパーク
<東京都江東区(東京都)>
バスケットボール(3× 3)、スポーツクライミング 5人制サッカー 仮設 実施設計 2年4月
27 武蔵野の森公園
<東京都調布市(東京都)>
自転車競技(ロード(ロードレース・スタート)) 仮設 実施設計 2年4月
28 日本武道館
<東京都千代田区
(民間団体)>
柔道、空手 柔道 民間団体 改修 令和2年6月 実施設計 令和2年6月
29 富士スピードウェイ
<静岡県駿東郡小山町
(民間団体)>
自転車競技(ロード(ロードレース・ゴール、個人タイムトライアル)) 自転車競技(ロード(スタート・ゴール)) 契約手続中 2年6月
30 国技館
<東京都墨田区
(民間団体)>
ボクシング 実施設計 2年7月
31 さいたまスーパーアリーナ
<埼玉県さいたま市
(埼玉県)>
バスケットボール(バスケットボール) 都外自治体 改修 2年3月 実施設計 2年6月
32 霞ヶ関カンツリー倶楽部
<埼玉県川越市及び狭山市
(民間団体)>
ゴルフ 実施設計 2年5月
33 幕張メッセ Aホール
<千葉県千葉市(千葉県)>
テコンドー、レスリング シッティングバレーボール 都外自治体 改修 2年3月(大会関係部分のみ) 実施設計 2年7月
34 幕張メッセ Bホール
<千葉県千葉市(千葉県)>
フェンシング テコンドー、車いすフェンシング 都外自治体 改修 実施設計 2年7月
35 幕張メッセ Cホール
<千葉県千葉市(民間団体)>
ゴールボール 実施設計 2年7月
36 横浜スタジアム
<神奈川県横浜市(横浜市)>
野球・ソフトボール 民間団体 改修 2年2月 実施設計 2年6月
37 江の島ヨットハーバー
<神奈川県藤沢市
(神奈川県)>
セーリング 都外自治体 改修 2年6月 実施設計 2年5月
38 伊豆ベロドローム
<静岡県伊豆市(民間団体)>
自転車競技(トラック) 自転車競技(トラック) 工事実施中 2年3月
39 伊豆MTBコース
<静岡県伊豆市(民間団体)>
自転車競技(マウンテンバイク) 工事実施中 2年3月
40 福島あづま球場
<福島県福島市(福島県)>
野球・ソフトボール 都外自治体 改修 2年3月 実施設計 2年6月
41 札幌ドーム
<北海道札幌市(札幌市)>
サッカー 都外自治体 改修 2年3月 実施設計 2年6月
42 宮城スタジアム
<宮城県宮城郡利府町
(宮城県)>
サッカー 都外自治体 改修 2年3月 実施設計 2年6月
43 埼玉スタジアム2○○2
<埼玉県さいたま市
(埼玉県)>
サッカー 都外自治体 改修 2年3月 実施設計 2年6月
44 横浜国際総合競技場
<神奈川県横浜市(横浜市)>
サッカー 都外自治体 改修 元年度末 実施設計 2年6月
45 茨城カシマスタジアム
<茨城県鹿嶋市(茨城県)>
サッカー 都外自治体 改修 元年度末 実施設計 2年6月
9都道県26市区町   国が出資した法人3か所、東京都12か所、大会組織委員会10か所、都外自治体10か所、民間団体2か所 計37か所 新規 9か所、改修 18か所、仮設 10か所 計37か所 実施設計 36か所、工事実施中 8か所、契約手続中 1か所 計45か所
  • 注(1) 東京都の公表資料及び会計実地検査の際に各府省等、都外自治体等から聴取した内容を基に会計検査院が作成した。
  • 注(2) 「国立競技場」は新国立競技場のしゅん工後の名称である。
  • 注(3) 「主な整備」は、当該施設について令和元年7月末現在で予定されている整備工事のうちの主な内容を示している。「-」は整備主体による整備予定がない、又は不明であることを示している。
  • 注(4) 「主な所在地」は、令和元年7月末現在で大会開催時に使用が見込まれるなどの主な所在地を記載している。また、「所有者」は、敷地の主な所有者を示しており、所有者が民間団体である場合は全て「民間団体」と記載している。
  • 注(5) 選手村の宿泊施設等として使用する建物の新規整備は、特定建築者制度により民間事業者が自らの資金で行っているが、東京都が道路等の基盤整備を行っているため、便宜的に「東京都」の欄に記載している。
  • 注(6) 「大会組織委員会による仮設整備及びオーバーレイ整備」の「しゅん工予定」は、令和元年7月末現在におけるしゅん工予定である。大会組織委員会によると、実施設計において工事期間の短縮を図っており、各会場のしゅん工予定は変更となる場合がある。
  • 注(7) 釣ヶ崎海岸サーフィンビーチにおける「整備主体による整備」の「しゅん工予定等」は、競技会場内に千葉県長生郡一宮町が整備するトイレ等の施設に係るしゅん工予定であり、当該施設は大会時に活用される予定となっている。
  • 注(8) 富士スピードウェイにおける「令和元年7月末現在の進捗状況」は、実施設計から施工、維持管理、撤去・復旧までを一括して発注する契約の契約手続中のため、「契約手続中」としている。
  • 注(9) オリンピック競技大会における陸上競技のマラソン及び競歩の競技会場については、令和元年10月16日に、IOCにより開催地を札幌市に変更する計画が公表されている。
イ JSCによる新国立競技場の整備

新国立競技場は、大会の開会式、閉会式及び陸上競技並びにオリンピック競技大会のサッカーが行われるメインスタジアムとして整備が進められており、施設の所有及び管理はJSCが行っている。

27年8月にオリパラ担当大臣を議長とする新国立競技場整備計画再検討のための関係閣僚会議により、図表4-2のとおり、新国立競技場の整備計画(以下「新整備計画」という。)が決定された。

図表4-2 新整備計画の概要

基本理念 アスリート第一、世界最高のユニバーサルデザイン、周辺環境等との調和や日本らしさ
性能 競技施設 陸上競技、サッカー及び開閉会式の実施に必要な機能を整備する。
観客席 大会時6万8000席程度を確保する。大会後トラック上部への増設を可能とし、国際サッカー連盟ワールドカップ規定(8万席)にも対応し得るものとする。
屋根 観客席の上部のみ設置する。
諸施設 メディア施設及び防災警備施設を整備する。ホスピタリティー機能及び管理施設・駐車場機能については、大会に必要な機能を確保する。
面積(フィールド含む。) 約19万4500m2を目途とする。
工期 平成32年4月末を期限とし、同年1月末を工期短縮の目標とする。JSCは整備期間を極力圧縮するために、設計・施工を一貫して行う公募型プロポーザル方式(設計交渉・施工タイプ)による公募を行う。
コストの上限 スタジアム本体及び周辺整備に係る工事費の合計額は1550億円以下とする。なお賃金又は物価等の変動が生じた場合の工事請負代金額の取扱いについては、公共工事標準請負契約約款第25条に準ずるものとする。
当該工事に係る設計・監理等の費用は40億円以下とする。

(注) 公募型プロポーザル方式(設計交渉・施工タイプ)については、(注21)参照

新整備計画においては、スタジアム本体及び周辺整備、設計・監理等を実施することとされていて、JSCは、設計業務(基本設計及び実施設計)及び工事施工等業務(施工技術検討)(以下、これらを「第 I 期業務」という。)と設計業務(設計意図伝達)、工事施工等業務(工事施工)及び工事監理業務(以下、これらを「第 II 期業務」という。)に区分して実施している。また、JSCが行う新国立競技場の主な整備には、上記のスタジアム本体及び周辺整備、設計・監理等に加えて、旧競技場の解体工事があり、その他に埋蔵文化財調査、計画用地内に所在する日本青年館・JSC本部棟移転、通信・セキュリティ関連機器整備、什(じゅう)器等整備、旧整備計画関係がある。

令和元年10月末現在の主な整備の進捗状況は図表4-3のとおりであり、スタジアム本体等に関連する整備についてみると、第I期業務は既に完了しており、第 II 期業務が実施中となっている。また、平成29年から通信・セキュリティ関連機器整備が開始され、令和元年に什器整備も開始されてそれぞれ実施中となっている。

新国立競技場の整備に伴う経費の執行状況についてみると、図表4-4のとおり、平成30年度までの業務に係る契約金額計2073億余円に対して支払額は計1362億余円となっている。このうち、スタジアム本体及び周辺整備、設計・監理等についてみると、第I期業務については、新国立競技場整備事業大成建設・梓設計・隈研吾建築都市設計事務所共同企業体(以下「JV」という。)との間で、28年1月に契約金額24億9127万余円で、また、第 II 期業務については、28年10月に契約金額1504億9449万円でそれぞれ契約を締結している。そして、第I期業務は既に28年度に完了して、契約金額24億余円全額の支払を完了しており、第 II 期業務は30年度までの業務に係る契約金額計1519億余円に対して支払額は944億余円となっている。

図表4-3 JSCにおける新国立競技場の主な整備の進捗状況及び令和元年の整備予定(元年10月末現在)

図表4-3 JSCにおける新国立競技場の主な整備の進捗状況及び令和元年の整備予定(元年10月末現在) 画像

図表4-4 JSCにおける新国立競技場の整備に伴う経費の執行状況(平成30年度まで)

(単位:百万円)
費目 契約金額 30年度までの支払額
平成
24年度以前
25年度 26年度 27年度 28年度 29年度 30年度
① スタジアム本体及び周辺整備費、設計・監理等費用 2,850 150,569 0 1,440 154,861 97,441
  うち第 I 期業務 2,491 2,491 2,491
うち第 II 期業務 150,494 1,417 151,911 94,492
うちその他業務 358 74 0 23 458 457
② 解体工事費 0 4,445 176 956 5,579 5,592
0 4,445 3,026 151,525 0 1,440 160,440 103,033
③ 上下水道工事費 982 2,323 974 15 1,731 6,026 5,738
④ 埋蔵文化財調査費 212 789 153 104 1,259 1,204
⑤ 日本青年館・JSC本部棟移転経費 1,440 10,313 5,456 63 51 30 17,252 17,185
⑥ 通信・セキュリティ関連機器、什器等整備費 101 2,727 1,215 4,044 144
⑦ 旧整備計画関係費 12 1,587 4,194 6,518 12,313 6,859
⑧ その他関係経費 1,335 98 600 1,034 447 236 2,501 6,056 2,036
1,348 3,141 16,879 15,485 1,691 2,926 5,480 46,953 33,168
合計 1,348 3,142 21,325 18,512 153,216 2,927 6,920 207,393 136,201
  • 注(1) 本図表は、JSCが平成25年度から30年度までに特定業務勘定((注19)参照)で行った支払の原因となる契約のうち、新整備計画に基づく各費目に該当する契約の契約金額及び支払額の集計である。「⑧その他関係経費」は、①から⑦までに該当しない契約に係る金額を全て集計している。ただし、本図表の契約金額及び支払額には、工事契約については契約金額50万円未満、その他の契約については契約金額100万円未満の契約に係る金額は含んでいない。また、人件費、通信運搬費等の事務経費は含んでいない。
  • 注(2) 「⑦旧整備計画関係費」及び「⑧その他関係経費」の一部は、平成25年度以降に支払っているが、24年度以前に契約を行っているものがある。
  • 注(3) 「⑦旧整備計画関係費」については、契約金額123億1308万余円のうち、旧整備計画の白紙撤回以前に履行が完了していたものに係る契約金額29億3988万余円以外は契約を解除しており、「30年度までの支払額」は、履行が完了していたものに係る契約金額29億3988万余円に、契約を解除した精算に伴う支払額34億9416万余円、別途契約不成立に伴い発生した契約準備段階の損害に係る支払額4億2526万余円を合わせたものとなっていて、全ての支払を完了している。
  • 注(4) 「⑧その他関係経費」の契約金額には、新国立競技場の整備に係る契約以外を含めてJSCが法人として一括契約した契約金額が含まれている。一方で、「30年度までの支払額」には新国立競技場の整備に伴う経費のみが集計されている。
  • 注(5) 複数年度契約のうち変更契約により契約金額が変更となったものについては、増減した契約金額を変更契約を締結した年度に記載している。このため、契約金額の欄には、マイナス(△)と表記しているものがある。
  • 注(6) 第 I 期業務及び第 II 期業務契約には東京都が負担する道路上空連結デッキ整備の契約が含まれており、平成30年度末現在において区分ができないため、契約金額及び支払額は東京都の負担分を含めて計上している。
  • 注(7) 「①スタジアム本体及び周辺整備費、設計・監理等費用」のうち、「うちその他業務」は、新国立競技場の整備に伴う明治公園橋等取り壊し工事等の周辺整備に係る費用である。
  • 注(8) 「30年度までの支払額」は平成30年度までの予算から支出している額である。

令和元年10月末現在の第 II 期業務の進捗状況を確認したところ、JSCによると、同年11月末の新国立競技場の完成に向けて、支障なく進捗しているとしており、図表4-5のとおり、屋根工事は同年5月に、地上工事、外装仕上工事、内装仕上工事及びフィールド工事は同年10月に完了している。また、歩行者デッキ工事及び各種検査は同年11月に完了する予定としている。

図表4-5 第 II 期業務の進捗状況及び令和元年の整備予定(元年10月末現在)

図表4-5 第 II 期業務の進捗状況及び令和元年の整備予定(元年10月末現在) 画像

通信・セキュリティ関連機器、什器等については、大会に向けた整備に係る予算額として、JSCの第4期中期計画(平成30年4月から令和5年3月まで)において、153億円が計上されている。

それらの整備内容は、Wi-Fi設備、監視カメラ、入場ゲート等の通信・セキュリティ関連機器や什器等の整備を行うものとされていて、平成30年度末現在の状況を確認したところ、図表4-6のとおり、通信・セキュリティ関連機器に係る11の調達区分のうち10の調達区分で既に発注が行われており、契約金額は計38億2642万余円となっている(30年度までの支払実績はない。)。また、什器・備品の調達に係る30年度末現在の契約金額は2241万円となっている(30年度までの支払実績はない。)。

図表4-6 通信・セキュリティ関連機器、什器等の調達状況(平成28年度~30年度)

(単位:千円)
調達の内容 概要 平成30年度末現在の状況及び今後の予定 30年度末現在の契約金額 30年度までの支払額
通信・セキュリティ関連機器
ネットワーク基盤関連設備 競技場ネットワーク、Wi-Fi、システム等保護用機器、システムセキュリティ対応機器 競技場内において快適なネットワーク環境を構築し、利便性向上に資する基幹ネットワーク等 30年3月契約締結
(政府調達)
2,414,880
映像・音響関連設備 デジタルサイネージ 競技映像、フロア案内等の情報提供、広告の配信等に活用するためのディスプレイ等 30年4月契約締結
(政府調達)
540,000
館内共聴機器 撮影した競技映像等を大型映像装置やデジタルサイネージ等に配信する設備 30年4月契約締結
(政府調達)
4,125
諸室用映像・音響機器 ラウンジ等のエリア、会議室等において、映像・音楽を流し空間演出や会議等を行うための機器 30年5月契約締結
(政府調達)
134,352
リボンボード 動画・静止画等のコンテンツを用いて、広告、情報を表示するための帯状のディスプレイ等 30年3月契約締結
(政府調達)
419,624
セキュリティ関連設備 監視カメラ 競技場内外に設置し、イベント時の混雑軽減や事故等が生じた場合の事後検証を行うためのカメラ 30年4月契約締結 41,040
防犯・入退室管理機器 関係者用諸室への入退室をICカード等の認証で制限することにより、入退室の管理を行うための設備 30年5月契約締結
(政府調達)
13,154
入場ゲート 入場口に設置し、入場時間の短縮や混雑緩和、不正侵入防止を行うためのセキュリティゲート 30年3月契約締結
(政府調達)
244,728
駐車場用ゲート 車両の入退場口に設置し、車両の入出庫、駐車、在車台数を管理するためのシステム 30年7月契約締結
(政府調達)
3,132
競技場の安心・安全のために必要なシステム等 雷検知システム 雷雲の接近や雷の発生状況等の気象情報から落雷発生等を予測するためのシステム 令和元年度以降調達予定
案内等表示用コンテンツ 交通情報、気象情報等をデジタルサイネージ、大型映像装置等に表示し、情報を提供するためのコンテンツ 平成30年11月契約締結 11,391
    3,826,428
什器・備品 競技用器具、オフィス什器・備品、厨房機器等 令和元年度以降調達予定
(平成30年度中に一部契約締結済)
22,410
その他発注者支援業務等 設備・機器等について専門知識を有する者から支援を得るための業務等 29年3月等契約締結 195,284 144,254
合計   4,044,122 144,254

(注) 「(政府調達)」は、JSCが「政府調達手続に関する運用指針」(平成26年3月関係省庁申合せ)に基づき、契約手続を行ったものである。

ウ JSCによる国立代々木競技場の整備

JSCが所有して管理する国立代々木競技場は、昭和39年に開催されたオリンピック東京大会の競技会場として建設されたものであり、令和2年の大会では、オリンピック競技大会のハンドボール並びにパラリンピック競技大会の車いすラグビー及びバドミントンが行われることとなっている。JSCによると、国立代々木競技場については、大会に向けた整備に係る予算額として、第4期中期計画において、116億余円が計上されており、その後、バリアフリー化や老朽化対策等が必要となったことから、元年10月末現在で190億余円を見込んでいるとしている。

国立代々木競技場は、第一体育館、第二体育館、付属棟等から成り、図表4-7のとおり、耐震改修工事については、第一体育館及び付属棟等は平成29年12月に、第二体育館は30年7月にそれぞれ着手している。また、機能向上工事及び老朽化対策工事については、第一体育館及び付属棟等は30年11月に、第二体育館は令和元年9月にいずれも第一体育館及び付属棟等の耐震改修工事の契約に追加する契約変更を行って着手している。そして、上記工事のしゅん工予定は、第一体育館及び付属棟等が同年11月、第二体育館が2年6月とされている。

これらの平成30年度までの契約金額は計169億4166万余円、支払額は計31億3926万余円であり、その財源は運営費交付金8424万円、施設整備費補助金4億1061万余円及び特定金額(注18)26億4440万余円となっている。(5)ウのとおり、特定業務に国立代々木競技場の耐震改修等に係る業務が追加されたことから、29年度以降は特定業務勘定(注19)の特定金額を財源として整備が行われている。

(注18)
特定金額  国際的な規模のスポーツの競技会の我が国への招致又はその開催が円滑になされるようにするために行うスポーツ施設の整備等であって緊急に行う必要があるものとして文部科学大臣が財務大臣と協議して定める業務である特定業務に充てる金額
(注19)
特定業務勘定  特定業務に係る経理について整理するために設けられている特別の勘定

図表4-7 国立代々木競技場の整備の進捗状況(令和元年10月末現在)

(単位:千円)
整備内容 主な整備内容 整備状況(令和元年10月末現在) 契約状況(平成30年度まで)
進捗状況 今後の予定 着手年月 しゅん工予定 契約内容 契約年月 契約金額 支払額 財源
耐震改修工事 第一体育館、第二体育館、付属棟等の耐震改修工事 第一体育館、第二体育館、付属棟等の耐震改修工事の実施 第一体育館、第二体育館、付属棟等の耐震改修工事の実施・完了 (第一体育館、付属棟等)
平成29年12月
(第二体育館)
30年7月
(第一体育館、付属棟等)
令和元年11月
(第二体育館)
2年6月
基本計画策定 26年10月 84,240 84,240 運営費交付金
基本設計 27年10月 90,720 90,720 施設整備費補助金
実施設計 28年4月 319,896 319,896 施設整備費補助金
29年10月 6,912 6,912 特定金額
監理 29年9月 113,940 3,311
耐震改修工事(第一体育館、付属棟等) 29年12月 14,023,800 2,569,914
設計意図伝達 31,104
耐震改修工事(第二体育館) 30年7月 2,137,320 24,105
安全安心対策工事(その1)
(機能向上工事)
第一体育館、第二体育館、付属棟等のバリアフリー整備等 第一体育館、第二体育館、付属棟等のバリアフリー整備等の実施 第一体育館、第二体育館、付属棟等のバリアフリー整備等の実施・完了 (第一体育館、付属棟等)
平成30年11月
(第二体育館)
令和元年9月
設計 29年6月 61,592 18,477 特定金額
工事(第一体育館、付属棟等) 30年11月 耐震改修に含む 耐震改修に含む
工事(第二体育館)
設計意図伝達 30年10月 耐震改修に含む
監理 30年9月 耐震改修に含む 耐震改修に含む
安全安心対策工事(その2)
(老朽化対策工事)
第一体育館、第二体育館、付属棟等の老朽化対策等 第一体育館、第二体育館、付属棟等の老朽化対策等の実施 第一体育館、第二体育館、付属棟等の老朽化対策等の実施・完了 設計 30年3月 72,144 21,688 特定金額
工事(第一体育館、付属棟等) 30年11月 耐震改修に含む 耐震改修に含む
工事(第二体育館)
設計意図伝達 30年10月 耐震改修に含む
監理 30年9月 耐震改修に含む 耐震改修に含む
    16,941,668 3,139,264  

(注) 平成30年度までの支払額は30年度までの予算から支出している額である。

エ JRAによる馬事公苑の整備

JRAが所有して管理する馬事公苑は、オリンピック競技大会の馬場馬術、総合馬術(クロスカントリーを除く。)及び障害馬術並びにパラリンピック競技大会の馬術が行われる会場である。JRAは、大会開催時に利用が想定される施設を対象とした第1期工事と、他の施設等を対象として大会終了後に行う第2期工事の二段階で整備することとしている。

令和元年10月末現在の整備の進捗状況について確認したところ、図表4-8のとおり、JRAは、第1期工事(当初契約金額317億6604万円)について平成28年1月に設計施工契約を締結し、メインアリーナ、練習馬場、厩(きゅう)舎等の建替、改修等を行っている。JRAによると、令和元年10月に予定していた全面しゅん工は一部建物の鉄骨工事における作業の遅れにより同年12月に変更される予定であるとしている。そして、特別振興資金(注20)を財源として、平成30会計年度までに計177億6517万余円を支払っている。

(注20)
特別振興資金  JRAが、日本中央競馬会法(昭和29年法律第205号)に基づき、競馬場の周辺地域の住民又は競馬場の入場者の利便に供する施設の整備その他の競馬(馬術競技を含む。)の健全な発展を図るために必要な業務等に関して設ける資金

図表4-8 馬事公苑の整備の進捗状況(令和元年10月末現在)

(単位:千円)
工事の種類 主な整備内容 令和元年10月末現在の進捗状況 今後の予定 しゅん工予定 契約
契約年月 契約金額 30会計年度までの支払額 財源
第1期工事(設計施工) メインアリーナ、練習馬場、厩舎等の建替、改修等 基本設計及び実施設計が終了し、解体工事、土木工事及び建築工事に着手 建築工事 令和元年12月 平成28年1月 31,766,040 17,765,172 特別振興資金

(注) JRAの会計年度は1月から12月までのため、平成30会計年度までの支払額は30年12月末までの支払額である。

オ 東京都による大会施設の整備

開催都市である東京都が所有する大会施設は14か所となっており、このうち東京都が大会に向けた新規整備又は改修整備を行うのは11か所となっている。

上記の大会施設14か所の令和元年7月末現在の整備の進捗状況について確認したところ、バドミントン等の会場となる武蔵野の森総合スポーツプラザは平成29年3月にしゅん工して、同年11月に開業している。海の森水上競技場は、予定していた30年度末から2か月遅れた令和元年5月にしゅん工して、同年6月に供用開始している。夢の島公園アーチェリー場及び大井ホッケー競技場は、それぞれ平成31年2月及び令和元年6月にしゅん工して、平成31年4月及び令和元年7月に供用開始している。このほか、有明アリーナ及び東京アクアティクスセンターは、平成30年10月に国が発表した油圧機器メーカーの検査データ改ざんにより大臣認定等に不適合な製品が出荷されていた免震・制震ダンパーと同型の製品が設置予定となっていたが、東京都によると、令和元年7月末現在において、両施設で使用されるダンパー全てについて、既に設置されていたものは交換又は再設置を行い、今後設置するものは適合した製品であることの確認が完了した製品を使用することとして、それぞれ同年12月及び2年2月に完了させるよう工事を進めて、大会準備への影響は生じない見込みであるとしている。また、カヌー・スラロームセンター及び有明テニスの森については、元年7月末現在において、工事を請け負っていた業者の経営破綻に伴う一部工事の停止により、カヌー・スラロームセンターの管理棟及び有明テニスの森の屋外テニスコート等のしゅん工予定がそれぞれ同年12月及び2年3月に延期されているものの、予定どおり、元年度内にしゅん工する予定となっている(図表4-9参照)。

上記施設の整備費の財源をみると、有明アリーナ及び東京アクアティクスセンターの新規整備に係る費用の財源の一部に国庫補助金等を充てている。有明アリーナについては、平成29年度及び30年度に国土交通省の住宅・建築物環境対策事業費補助金(サステナブル建築物等先導事業(木造先導型))の交付決定を受けて、メインアリーナの壁面及び大屋根の一部と、サブアリーナの床面等の木質化整備を行っており、計9820万余円が交付されている。また、東京アクアティクスセンターについては、28年度及び30年度に文部科学省の学校施設環境改善交付金の交付決定を受けて、一般の利用に供する地域スイミングセンターとしてプール及び附属室の整備を行っており、一部繰り越しているものの計3923万円が交付されている。

図表4-9 東京都による大会施設の整備の進捗状況(令和元年7月末現在)

(単位:百万円)
番号 大会施設名 主な整備 主な整備内容 令和元年7月末現在の進捗状況 今後の予定 しゅん工予定等 整備費
(見込)
財源
1 東京体育館 改修 老朽化対応工事、バリアフリー改修工事等 老朽化対応工事、バリアフリー改修工事等 老朽化対応工事、バリアフリー改修工事等 令和元年11月 5,500 単独
2 東京国際フォーラム
3 有明アリーナ 新規 施設新設工事等 本体工事実施中 本体工事等 元年12月 37,000 単独、国土交通省補助金(9820万余円)
4 有明テニスの森 改修 ショーコート、インドアコート、屋外コート、クラブハウス等の新設、改修 本体工事実施中 本体工事等 2年3月 10,200 単独
5 大井ホッケー競技場 新規 メインスタンド、照明灯等の新築、既存スタンドの改修等 しゅん工 しゅん工
(元年6月)
4,800 単独
6 海の森水上競技場 新規 グランドスタンド棟、艇庫棟、水門、排水施設、消波装置等の新設等 しゅん工 しゅん工
(元年5月)
30,800 単独
7 カヌー・スラロームセンター 新規 競技コース、フィニッシュプール、ポンプ施設等の新設等 本体しゅん工 一部残工事 元年12月 7,300 単独
8 夢の島公園アーチェリー場 新規 盛土工事、施設新設工事等 しゅん工 しゅん工
(平成31年2月)
900 単独
9 東京アクアティクスセンター 新規 施設新設工事等 本体工事実施中 本体工事等 令和2年2月 56,700 単独、文部科学省交付金(3923万円)
10 東京辰巳国際水泳場 改修 トイレ改修、手すり設置改修、外壁等の改修等 トイレ改修、手すり設置改修、昇降機の増設、外壁等の改修等 昇降機の増設等 元年10月 870 単独
11 武蔵野の森総合スポーツプラザ 新規 施設工事、バリアフリー対応工事等 しゅん工 しゅん工
(平成29年3月)
35,100 単独(一部は大会協賛宝くじの配分金を充当)
12 東京スタジアム 改修 バリアフリー対応工事(昇降機の増設、車いす対応トイレの増設等)、競技用照明のLED化、電気設備の更新等 バリアフリー対応工事(昇降機の増設、車いす対応トイレの増設等)、競技用照明のLED化、電気設備の更新等 バリアフリー対応工事(昇降機の増設、車いす対応トイレの増設等)、競技用照明のLED化、電気設備の更新等 令和2年3月 6,200 単独
13 選手村 基盤整備 下水道管敷設、街路築造、照明設置等 道路盛土、下水道管敷設、街路築造、照明設置等 下水道管敷設、街路築造、照明設置等 元年12月(大会時に必要な部分のみ) 単独
14 東京ビッグサイト
  • 注(1) 東京都の公表資料、立候補ファイル等の記載内容及び会計実地検査の際に東京都から聴取した内容等を基に会計検査院が作成した。
  • 注(2) 「主な整備」は、当該施設について令和元年7月末現在で予定されている整備工事のうち主な内容を示しており、「-」は整備主体による整備予定がない、又は不明であることを示している。
  • 注(3) 選手村の宿泊施設等として使用する建物の新規整備は、特定建築者制度により民間事業者が自らの資金で行っており、東京都が行うのは基盤整備のみである。
  • 注(4) 「整備費(見込)」は東京都が令和元年7月末現在で事業完了までに必要であると見込んでいる額である。整備を行う予定があるが見込額を算出していないものや整備を行う予定がないものは「-」としている。
  • 注(5) 大会施設ごとの実施予定の競技等については図表4-1参照
カ 都外自治体又は民間団体による大会施設の整備

都外自治体又は民間団体が所有する大会施設は18か所となっており、このうち大会に資する改修整備を行っているのは、都外自治体によるものが10か所、民間団体によるものが2か所の計12か所となっている。そして、それらのほとんどは大規模修繕の一環として、又は大規模修繕を前倒しするなどして、大会に資する内容の整備を実施している。令和元年7月末現在の整備の進捗状況について確認したところ、図表4-10のとおり、12か所のいずれも整備を実施中となっている。

図表4-10 都外自治体又は民間団体による大会施設の改修整備の進捗状況(令和元年7月末現在)

(単位:百万円)
番号 大会施設名 主な整備 所有者 整備主体 主な整備内容 令和元年7月末現在の進捗状況 今後の予定 しゅん工予定 整備費
(見込)
平成30年度までの財源
1 日本武道館 改修 民間団体 民間団体 練習道場・関連施設の増築、既存棟のバリアフリー改修等 練習道場・関連施設の増築、既存棟のバリアフリー改修のための一部先行工事等 既存棟のバリアフリー改修等 令和2年6月 単独、東京都補助金
2 富士スピードウェイ 民間団体
3 国技館 民間団体
4 さいたまスーパーアリーナ 改修 埼玉県 埼玉県 外壁塗装、大型映像装置更新、ミストの拡張更新、トイレ洋式化等 外壁塗装、大型映像装置更新等 ミストの拡張更新工事、トイレ洋式化等 2年3月 単独
5 霞ヶ関カンツリー倶楽部 民間団体
6 幕張メッセAホール 改修 千葉県 千葉県 特別高圧受変電設備更新、エレベーター増設、トイレ・エントランス更新等 特別高圧受変電設備、エレベーター増設、トイレ・エントランス更新工事等 特別高圧受変電設備、エレベーター増設工事等 2年3月(大会関係部分のみ) 5,500 単独、スポーツ振興くじ助成金(4696万余円)
7 幕張メッセBホール 改修 千葉県 千葉県
8 幕張メッセCホール 民間団体 (共通設備については千葉県が行う整備内容に含む。)
9 横浜スタジアム 改修 横浜市 民間団体 スタンド増築改修 スタンド増築改修 スタンド増築改修 2年2月 単独
10 江の島ヨットハーバー 改修 神奈川県 神奈川県 セーリング関係施設整備、給油施設整備、トイレ改修 基本設計、実施設計、施設整備工事 トイレ改修工事 2年6月 単独、スポーツ振興くじ助成金(6693万円)
11 伊豆ベロドローム 民間団体
12 伊豆MTBコース 民間団体
13 福島あづま球場 改修 福島県 福島県 グラウンド排水設備改修、芝面改修、トイレ改修等 基本設計、実施設計、グラウンド排水設備改修、トイレ改修等 グラウンド排水設備改修、芝面改修等工事 2年3月 1,300 単独、経済産業省交付金(2154万余円)、スポーツ振興くじ助成金(2億5029万円)
14 札幌ドーム 改修 札幌市 札幌市 照明設備、電気設備、バリアフリー改修等 照明設備、電気設備改修、車いす席増設等 エレベーター改修工事等 2年3月 単独
15 宮城スタジアム 改修 宮城県 宮城県 芝面改修、大型映像装置更新、トイレ改修等 芝面改修、大型映像装置更新、トイレ改修等 芝面改修、大型映像装置更新、トイレ改修等 2年3月 716 単独、スポーツ振興くじ助成金(2154万余円)
16 埼玉スタジアム2○○2 改修 埼玉県 埼玉県 外装塗装、防水塗装、観客席更新等 外壁改修、外装塗装、防水塗装、観客席更新等 Wi-Fi整備、ドーピング室改修等 2年3月 単独
17 横浜国際総合競技場 改修 横浜市 横浜市 照明設備更新、観客席更新、天井工事等 照明設備更新、観客席更新、天井工事、フィールド改修等 観客席更新、電気・機械設備更新等 元年度末 単独、文部科学省(19億9400万円)・国土交通省交付金(25億9668万余円)、スポーツ振興くじ助成金(1億3443万余円)
18 茨城カシマスタジアム 改修 茨城県 茨城県 屋根鉄骨修繕工事、大型映像装置改修等 屋根鉄骨修繕工事等 屋根鉄骨修繕工事等 元年度末 単独、スポーツ振興くじ助成金(1億5197万余円)
  • 注(1) 東京都の公表資料、立候補ファイル等の記載内容及び会計実地検査の際に都外自治体等から聴取した内容等を基に会計検査院が作成した。
  • 注(2) 「主な整備」は、当該施設について令和元年7月末現在で予定されている整備工事のうち主な内容を示しており、「-」は整備主体による整備予定がない、又は不明であることを示している。
  • 注(3) 「所有者」及び「整備主体」は、民間団体である場合は全て「民間団体」と記載している。
  • 注(4) 「整備費(見込)」は都外自治体等が令和元年7月末現在で事業完了までに必要であると見込んでいる額として公表している場合のみ記載している。
  • 注(5) 「30年度までの財源」のスポーツ振興くじ助成金の交付額については、令和元年5月29日までに交付した額である。
  • 注(6) 大会施設ごとの実施予定の競技等については図表4-1参照

上記施設の整備費の財源をみると、ほとんどの施設が都外自治体又は民間団体の単独費用で行われているが、野球・ソフトボールの競技会場となる福島あづま球場の改修に向けた設計業務及びサッカーの競技会場となる横浜国際総合競技場の改修等整備に係る費用の財源の一部に国庫補助金等が充てられている。そして、平成30年度からは、福島あづま球場等6か所においてJSCが交付するスポーツ振興くじ助成金が改修等整備に係る費用の財源の一部に充てられている。また、日本武道館は、30年度に東京都から交付されたオリンピック・パラリンピックレガシー再整備補助金7億0620万余円の交付を受けて整備が進められているほか、JSCが交付するスポーツ振興くじ助成金について、30年度に3か年計16億2077万余円の交付決定を受けて、同年度は助成金の交付を受けていないものの令和元年度以降交付を受ける予定となっている。

キ 大会組織委員会による大会施設の整備

大会組織委員会は、仮設整備及びオーバーレイ整備を行うこととなっている。仮設施設及びオーバーレイは、各施設によりその規模は異なるものの、全ての大会施設45か所で整備が必要となるものであり、大会組織委員会は、公園等の敷地等を利用して整備したり、大会施設の新設若しくは改修のしゅん工後又は大会施設と併行して整備したりすることとしている。

大会組織委員会による大会施設の整備のうち元年7月末現在の仮設整備及びオーバーレイ整備の進捗状況について確認したところ、図表4-11のとおり、実施設計中のものが36か所、工事に着手しているものが8か所となっている。そして、大会施設45か所のうち、国から東京都を通じて大会組織委員会に交付されるパラリンピック交付金の交付対象とされる大会施設は22か所となっている。

図表4-11 大会組織委員会による大会施設の整備の進捗状況(令和元年7月末現在)

番号 大会施設の名称 契約日 大会組織委員会による仮設整備及びオーバーレイ整備 契約金額
(億円)
パラリンピック交付金の交付対象
令和元年7月末現在の進捗状況 しゅん工予定
1 国立競技場
(オリンピックスタジアム)(内)
平成30年11月29日 実施設計 令和2年4月 32.0
国立競技場
(オリンピックスタジアム)(外)
30年12月25日 実施設計 2年4月 30.8
2 国立代々木競技場 31年3月29日 実施設計 2年6月 21.8
3 馬事公苑 30年9月3日 工事実施中 2年5月 114.2
4 東京体育館 30年12月25日 実施設計 2年4月 11.7
5 東京国際フォーラム 工事実施中 2年7月
6 有明アリーナ 31年3月28日 実施設計 2年4月 23.7
7 有明テニスの森 31年3月28日 実施設計 2年4月 49.9
8 大井ホッケー競技場 31年3月28日 実施設計 2年4月 44.2  
9 海の森水上競技場 31年3月28日 実施設計 2年3月 42.9
10 カヌー・スラロームセンター 31年3月28日 実施設計 2年3月 25.7  
11 夢の島公園アーチェリー場 31年1月9日 実施設計 2年4月 36.4
12 東京アクアティクスセンター 31年3月25日 実施設計 2年6月 64.5
13 東京辰巳国際水泳場 31年3月25日 実施設計 2年6月 27.5  
14 武蔵野の森総合スポーツプラザ 31年4月25日 実施設計 2年6月 10.4
15 東京スタジアム 31年4月25日 実施設計 2年6月 28.7  
16 選手村 30年3月27日~31年1月24日 工事実施中 2年5月 568.9
17 東京ビッグサイト 30年10月12日 工事実施中 2年6月 283.0  
18 陸上自衛隊朝霞訓練場 31年3月29日 実施設計 2年1月 57.8
19 釣ヶ崎海岸サーフィンビーチ 31年1月23日 実施設計 2年7月 26.7  
20 皇居外苑 30年12月25日 実施設計 2年6月 14.3  
21 有明体操競技場 28年11月21日 工事実施中 2年5月 215.2
22 有明アーバンスポーツパーク 31年3月29日 実施設計 2年4月 37.0  
23 お台場海浜公園 31年3月20日 実施設計 2年4月 23.6
24 潮風公園 31年3月20日 実施設計 2年4月 40.4  
25 海の森クロスカントリーコース 29年8月10日 工事実施中 2年3月 22.6  
26 青海アーバンスポーツパーク 31年3月28日 実施設計 2年4月 26.4
27 武蔵野の森公園 31年4月25日 実施設計 2年4月 3.5  
28 日本武道館(内) 平成30年12月25日 実施設計 令和2年6月 18.3
日本武道館(外) 30年12月25日 実施設計 2年6月
29 富士スピードウェイ 契約手続中 2年6月
30 国技館(館内) 実施設計 2年7月  
国技館(館外) 実施設計 2年7月
31 さいたまスーパーアリーナ 30年12月3日 実施設計 2年6月 11.9  
32 霞ヶ関カンツリー倶楽部 31年3月29日 実施設計 2年5月 29.9  
33 幕張メッセAホール 31年3月29日 実施設計 2年7月 33.0
34 幕張メッセBホール 31年3月29日 実施設計 2年7月 23.7
35 幕張メッセCホール 31年3月29日 実施設計 2年7月 7.5
36 横浜スタジアム 31年3月8日 実施設計 2年6月 21.2  
37 江の島ヨットハーバー 31年3月28日 実施設計 2年5月 19.3  
38 伊豆ベロドローム 令和元年5月31日 工事実施中 2年3月 47.7
39 伊豆MTBコース 平成31年1月31日 工事実施中 2年3月 10.9  
40 福島あづま球場 31年3月18日 実施設計 2年6月 18.5  
41 札幌ドーム 31年3月25日 実施設計 2年6月 13.4  
42 宮城スタジアム 31年3月20日 実施設計 2年6月 12.8  
43 埼玉スタジアム2○○2 30年12月3日 実施設計 2年6月 18.1  
44 横浜国際総合競技場 30年12月3日 実施設計 2年6月 12.5  
45 茨城カシマスタジアム 30年12月3日 実施設計 2年6月 12.9  
    実施設計36か所、工事実施中8か所、契約手続中1か所計45か所   22か所
  • 注(1) 東京都の公表資料及び会計実地検査の際に大会組織委員会から聴取した内容等を基に会計検査院が作成した。
  • 注(2) 「国立競技場」は新国立競技場のしゅん工後の名称である。
  • 注(3) 「契約日」は、実施設計から施工、維持管理、撤去・復旧までを一括して発注しているものは、当初契約の日を、その他のものは、当該大会施設に係る施工契約の契約日を記載している。「-」は、契約締結前又は令和元年7月末現在未公表となっているものを示している。
  • 注(4) 「しゅん工予定」は、令和元年7月末現在におけるしゅん(・・・)工予定である。大会組織委員会によると、実施設計において工事期間の短縮を図っており、各会場のしゅん工予定は変更となる場合がある。
  • 注(5) 「契約金額」は、令和元年7月末現在で公表済みの金額の計であり、当初契約時点における契約金額を示している。「-」は、契約締結前又は元年7月末現在未公表となっているものを示している。
  • 注(6) 富士スピードウェイにおける「令和元年7月末現在の進捗状況」は、実施設計から施工、維持管理及び撤去・復旧までを一括して発注する契約の契約手続中のため、「契約手続中」としている。
  • 注(7) オリンピック競技大会における陸上競技のマラソン及び競歩の競技会場については、令和元年10月16日に、IOCにより開催地を札幌市に変更する計画が公表されている。

イからキまでのとおり、競技施設の中には既に恒久的に使用する部分の建設工事が完了しているものもあるが、これらの完了したものについても大会の開催に向けて大会組織委員会による仮設整備及びオーバーレイ整備が行われているところである。JSCが整備している新国立競技場及び国立代々木競技場並びにJRAが整備している馬事公苑については、それぞれ自らが行う整備はしゅん工間近ではあるが、引き続き大会の開催に支障のないよう残りの整備を行うとともに、施設の所有者として大会組織委員会と十分な調整を行っていく必要がある。

(5) 新国立競技場の整備に係る財源確保等の状況

ア 30年報告の検査結果に対する対応等

会計検査院は、30年報告の所見において、新国立競技場の整備に係る財源スキーム(図表5-2参照)に基づく東京都の負担見込額395億円について、平成29年度末時点ではJSCへの入金時期や入金方法等が未定であったことなどから、「JSCは、新国立競技場の整備等の業務に係る確実な財源の確保等のために、財源スキームに基づく東京都の負担見込額395億円について東京都と協議を進めて、速やかに特定業務勘定への入金時期等を明確にするなどしていくこと」と記述している。

令和元年10月末現在の状況について確認したところ、JSCは、上記の所見も踏まえて東京都と協議を進めて、平成31年1月に、JSCと東京都の費用負担額及び負担の方法に関する基本協定書を締結するなど特定業務勘定への入金時期等を明確にしていた(ウ参照)。

また、会計検査院は、30年報告の所見において、「早期に新国立競技場の大会終了後の活用に係る国及びJSCの財政負担を明らかにするために、JSCは、大会終了後の改修について文部科学省、関係機関等と協議を行うなどして速やかにその内容を検討して、的確な民間意向調査、財務シミュレーション等を行うこと、また、文部科学省は、その内容に基づき民間事業化に向けた事業スキームの検討を基本的考え方に沿って遅滞なく進めること」と記述している。

令和元年10月末現在の状況について確認したところ、JSCは、上記の所見も踏まえて、民間事業化の事業スキーム構築に向けて、民間事業者からのヒアリングを行うなどして民間事業化の導入可能性の評価をしたり、コンセッション事業を行う場合の事業期間、費用負担、事業範囲等を示した実施方針素案等を作成したり、改修整備に関する技術的検証等を行いどのような設計ができるか検証したりなどしている(オ参照)。

イ 事業費の上限額の監理体制と契約変更の状況

新整備計画によれば、整備コストはスタジアム本体及び周辺整備に係る工事費、設計・監理等の費用を合わせて1590億円を上限(ただし、賃金又は物価等の変動や、消費税率(地方消費税分を含む。)10%の適用により、上記の総額に不足が生じた場合を除く。)とすることとされている。

JSCは、新国立競技場の整備について、新整備計画に基づき設計・施工を一貫して行う公募型プロポーザル方式(設計交渉・施工タイプ)(注21)により公募を行い、その結果、JVの技術提案(事業費1529億8578万円(建設費1489億9993万余円、設計・監理等費39億8584万余円)、元年11月末完成・引渡し)を選定してJVを優先交渉権者として決定している。その後、JSCは、新国立競技場整備計画再検討のための関係閣僚会議における点検を経て、平成28年1月に第 I 期業務について契約金額24億9127万余円で契約を締結して、第 I 期業務により実施された設計の内容等を基にJVと第 II 期業務の価格等の交渉を行い、28年10月に契約金額1504億9449万円(建設費1489億9992万余円、設計・監理等費14億9456万余円)で契約を締結している。

第 I 期業務及び第 II 期業務の契約書の一部である業務要求水準書では、事業期間中において、要求水準又は設計図書の変更に伴い事業費の増加のおそれがある場合は、受注者は、コスト縮減の方法を検討して、必要となる要求水準又は設計図書の変更の調整についてJSCと協議することにより、公募の際に技術提案した事業費を遵守することとなっており、受注者であるJVは、建設費1489億9993万余円及び設計・監理等費39億8584万余円を遵守することが求められている。JVは、施工時の検討等に伴い設計内容に変更が生ずる場合には、事業費を遵守するために、変更による金額の増減に合わせて他の変更可能な内容を検討し、JSCは、JVから変更理由、変更概算額等について説明を受けて、要求水準等に影響がないこと及び適切に事業費が遵守されていることを日々事業者と行う定例会議において確認するとともに、必要に応じて外部有識者で構成するアドバイザリー会議に報告して確認を受けることとなっている。また、変更内容を契約に適切に反映するために、定期的に変更契約を締結している。

第 II 期業務については、図表5-1のとおり、30年度末現在において計6回の変更契約が締結されている。それぞれの変更契約においては、施工段階の検討等により設計内容が見直されて、使用者の利便性や施設の安全性等の面から必要と判断された設備等の施工内容が増える一方で、要求水準や安全性等に影響を及ぼさないと判断された塗装や仕上材の見直しによる施工費用の縮減により、29年度まではいずれの変更契約も契約金額の変更がないものとなっている。

(注21)
公募型プロポーザル方式(設計交渉・施工タイプ)  発注者が最適な仕様を設定できない工事又は仕様の前提となる条件の確定が困難な工事において、技術提案に基づき選定された優先交渉権者と設計業務の契約を締結し、設計の過程で価格等の交渉を行い、交渉が成立した場合に施工の契約を締結する方式

図表5-1 平成30年度末現在の新国立競技場の第 II 期業務の変更契約の概要

(単位:千円)
変更契約の回数 変更契約年月日 主な増額事項 主な減額事項 差引 変更後の契約金額
変更前契約金額
(当初契約額)
第1回変更契約 平成
29年3月10日
・外苑西通り沿いエレベーターの設置位置の追加変更(高齢者、障害者団体、子育てグループ等で構成するユニバーサルデザインワークショップを開催し、その意見を踏まえた見直し)
・エキスパンション・ジョイントの形状等の見直し(車椅子使用者等に配慮した見直し)
   
 
・エントランスの天井ルーバーを木製からアルミ製に見直し(避難経路のため、安全性に配慮した見直し)
・階段型駐輪場の形状見直し(利用者の安全性・利便性等に配慮した見直し)
・1階北東・南東壁画ショーケース(建具)追加(壁画へのいたずら防止及び展示・保存等に配慮し、JVより提案)
・軒庇防鳥(のきびさし)ネットの仕様変更
(性能及び耐久性に問題なし)
150,494,490 増額の計
74,055,415
減額の計
74,055,415
- 150,494,490
第2回変更契約
29年9月22日
・断熱材の一部を不燃仕様に変更(断熱性能に影響なし)
・練習室の洗面器を取りやめ(競技団体の意見を踏まえた見直し)
   
 
・VVIPラウンジのミニキッチンを造作カウンターに見直し(詳細な検証による見直し)
・諸室の建具等の見直し(詳細な検証による見直し)
・チーム更衣室等の洗面カウンターを車椅子仕様に見直し(車椅子利用者に配慮した見直し)
・機械室・電気室のグラスウール吸音板範囲の適正化(周囲の音環境に影響なし)
150,494,490 増額の計
25,662,518
減額の計
25,662,518
- 150,494,490
第3回変更契約
30年2月28日
・屋根部メンテナンスゴンドラについて衝突防止装置、非常用昇降装置の設置・追加等(安全性の確保のため見直し)
・地下2階の現し梁(あらわしばり)の塗装仕上の中止(色の問題だけで耐火性に問題なし)
   
 
・案内・誘導等のサインの数量増(高齢者、障害者団体、子育てグループ等で構成するユニバーサルデザインワークショップを開催し、その意見を踏まえた見直し)
・車両進入防止柵の一部を中止(設置予定のシャッターにより機能の代替が可能)
・歩道に存する電力事業者の地上機器の移設(電力事業者との協議を踏まえた見直し)
・各階コンコース等の塗装を不燃仕様かつより安価な塗装に変更(行政の指摘を踏まえた見直し)
150,494,490 増額の計
26,856,981
減額の計
26,856,981
- 150,494,490
第4回変更契約
30年9月21日
・スタンド1層縦通路上部に座席誘導サインを追加(観客の座席誘導改善のため見直し)
・陸上トラック舗装を大会組織委員会により実施することとなったため第 II 期業務から切り離したこと
   
 
・1階から4階のコンコース等の天井仕上の変更(維持管理に配慮した見直し)
・敷地南西部のペデストリアンデッキの形状を見直したことなど
・防災備蓄倉庫等の床仕上げの変更
(維持管理に配慮した見直し)
後述①
150,494,490 増額の計
26,564,960
減額の計
27,166,952
601,992 149,892,498
第5回変更契約
30年12月21日
・急激な労務費等の上昇に対応する措置として、JVから契約に基づく工事請負代金額の増額請求によるもの
後述②
・なし    
149,892,498 増額の計
2,019,319
減額の計
-
2,019,319 151,911,817
第6回変更契約
31年3月11日
・地下2階から5階の散水障害部分にスプリンクラーヘッドを増設(行政の指摘を踏まえた見直し)
・地下2階車路等の床材仕様の変更(防滑性等に影響なし)
   
 
・案内・誘導等のサインの数量増(観客の誘導改善のためJVから提案)
・下水熱利用設備について維持管理費を考慮して設置を見送り(維持管理等に配慮し設置の見送り)
・コンクリートガラなど地中障害物に対する撤去処分等の追加(予期することのできない事象への対応)
・VIPラウンジの壁意匠を見直し(設計コンセプトをより表現させるためのデザインの見直し)
151,911,817 増額の計
23,806,627
減額の計
23,806,627
- 151,911,817

上記のとおり、29年度までは契約金額の変更はなかったものの、30年度においては、次の2件の変更契約において、契約金額が変更されている。これらは、いずれもアドバイザリー会議に報告して確認を受けるなどしており、30年度末現在における契約金額は、急激な労務費等の上昇に対応する措置として、JVからJSCに対し、契約に基づく工事請負代金額の増額請求があったことなどにより、当初契約金額から14億1732万余円増加して1519億1181万余円となっている。

①第4回変更契約(変更契約年月日 30年9月21日)

新国立競技場における陸上トラック舗装については、IOCから大会組織委員会に対して国際陸上競技連盟の指定する仕様により整備するよう要請があり、これを受けて大会組織委員会が実施することとなったため第 II 期業務の契約から切り離したこと、また、敷地南西部のペデストリアンデッキの形状を見直したこと、さらに、ペデストリアンデッキの形状の見直しにより地表公園として整備する予定地において、大会組織委員会からの要請を踏まえて大会開催中はブロードキャストコンパウンド(放送用大型中継車及び仮設諸室等のスペース)として使用して、大会終了後に地表公園として整備する二段階整備の方針が採られたことなどに伴う契約金額6億0199万余円の減(変更後の契約金額1498億9249万余円)

②第5回変更契約(変更契約年月日 30年12月21日)

第 II 期業務の契約書においては、国内における賃金水準又は物価水準の変動により工事請負代金額が不適当になったと認めたときは、請負代金額の変更を請求することができることとされており、30年4月に、急激な労務費等の上昇に対応する措置として、JVからJSCに対して、契約に基づく工事請負代金額の増額請求があったことに伴う契約金額20億1931万余円の増(変更後の契約金額1519億1181万余円)

ウ 整備費用に係る分担決定の状況

財源スキームに基づく国、東京都等の分担内容は、図表5-2のとおり、スタジアム本体・周辺整備に係る工事及び設計・監理等に要する支出見込額計1590億円と旧競技場の解体工事に係る支出額又は支出見込額計55億円の合計1645億円から、JSCが実施して負担する上下水道工事に要する支出見込額27億円及びJSCが実施して東京都に引き渡して東京都が負担する道路上空連結デッキ整備に要する支出見込額37億円を除く1581億円を分担対象経費として、国は2分の1相当額である791億円を負担し、東京都は4分の1相当額である395億円を負担して、残りの395億円については、JSCが実施するスポーツ振興くじの売上金額の一部を財源として充てることとなっている。

図表5-2 財源スキームに基づく国及び東京都の分担内容

図表5-2 財源スキームに基づく国及び東京都の分担内容 画像

財源スキームに基づく東京都の負担見込額395億円については、JSCは、30年報告の所見も踏まえて、東京都と協議を進めて、31年1月に、JSCと東京都の費用負担額及び負担の方法に関する基本協定書を締結しており、基本協定書によれば、東京都は、令和元年度から3年度までに395億円を負担するとされ、別途、JSCと締結する各年度の年度協定書に基づき各年度に負担する費用の額等を決定することとされている。そして、平成31年4月にJSCが東京都と締結した31年度の年度協定書によれば、同年度に東京都が負担する額は、前記第4回変更契約の際に大会終了後に整備するとされた地表公園の整備費用を除いた394億余円を上限とすることとされ、東京都は、同年4月にJSCからの請求に基づき30年度末現在における工事出来高に相当する280億0750万円をJSCに支払い、工事しゅん工後に残額をJSCに支払う予定となっている。

新国立競技場の整備費用にスポーツ振興くじの売上金額の一部を財源として充てる制度は、独立行政法人日本スポーツ振興センター法(平成14年法律第162号。以下「JSC法」という。)等の改正により25年度に設けられたものである。売上金額の一部は特定金額として、国際的な規模のスポーツの競技会の我が国への招致又はその開催が円滑になされるようにするために行うスポーツ施設の整備等であって緊急に行う必要があるものとして文部科学大臣が財務大臣と協議して定める特定業務に必要な費用に充てることとなっている。その金額は、文部科学大臣が財務大臣と協議して定める金額とされ、スポーツ振興くじの売上金額の5%(平成28年度から令和5年度までは10%)となっている(図表5-3参照)。特定業務は、新国立競技場の整備等に必要な業務等となっていて、平成28年度から、特定業務に国立代々木競技場の耐震改修等工事及びナショナルトレーニングセンター(以下「NTC」という。)拡充整備のための用地取得等に必要な業務が追加されている。また、特定業務に係る経理については、特定業務勘定を設けて整理することとなっている。

図表5-3 新国立競技場の整備費用にスポーツ振興くじの売上金額の一部を財源として充てる制度の概要

図表5-3 新国立競技場の整備費用にスポーツ振興くじの売上金額の一部を財源として充てる制度の概要 画像

図表5-4のとおり、財源スキームに基づく国の負担額791億円のうち、文部科学省からJSCへ交付された運営費交付金及び政府出資金の計359億円を除く432億円は、特定金額としてスポーツ振興くじの売上金額の一部を特定業務の財源に充てることに伴い、スポーツ振興投票の収益が減少するため、毎事業年度に収益の一部を国庫に納付することとされている国庫納付金の額が減少することから、国庫納付金の額の減少額の見合いとして国の負担額に含めて整理することとされている。この結果、JSCの特定金額による負担は、827億円(分担対象経費1581億円の52.3%)と財源スキーム上の分担対象経費の半分以上となっている。

図表5-4 分担対象経費に係る財源別の分担内容

図表5-4 分担対象経費に係る財源別の分担内容 画像

30年報告においては、財源スキームにおける支出額又は支出見込額の合計1645億円に対する29年度までの契約金額は計1632億余円、支払額は計473億余円となっており、全体の支払額に対する運営費交付金及び政府出資金の負担額は29年度末時点で331億余円(473億余円の69.9%)となっていること、また、財源スキーム上の分担対象外の経費であり、JSCが整備して東京都へ引き渡すこととなっている道路上空連結デッキの整備に要する見込額37億円について、東京都がJSCと締結した協定書に基づき29年度末時点でその一部である5100万余円をJSCへ支払っていることを報告した。

今回、30年度末現在の状況を確認したところ、図表5-5のとおり、財源スキームにおける経費の見込額計1645億円に対して、契約金額の合計額については上下水道工事等に係る契約の増額により計1664億余円となっており、これに対する支払額は計1087億余円となっている。また、支払額に対する運営費交付金及び政府出資金の負担額は331億余円(1087億余円の30.4%)となっている。

東京都は、分担対象外の経費である道路上空連結デッキの整備に要する見込額37億円については、JSCと締結した協定書に基づきその一部である15億5153万余円をJSCへ支払っている。

図表5-5 財源スキーム、分担対象経費等に対する平成30年度末現在の契約金額、支払額の状況

財源スキーム 財源スキームに対する契約額等
財源スキームにおける経費の内容別 見込額 契約の別 平成30年度末現在の契約金額 30年度までの支払額 支払額の負担内訳
JSCの負担額 東京都の負担額
運営費交付金及び政府出資金を財源 特定金額を財源
(借入金を含む)
(億円) (百万円) (百万円) (百万円) (百万円) (百万円)
工事(スタジアム本体・周辺整備)及び設計・監理等 1590 工事(スタジアム本体・周辺整備)及び設計・監理等 154,861 97,441 28,652 67,237 1,551
上下水道工事 1,695 1,695 - 1,695 -
小計 156,556 99,136 28,652 68,932 1,551
解体工事 55 解体工事 5,579 5,592 4,347 1,244 -
上下水道工事 4,331 4,043 121 3,921 -
小計 9,910 9,635 4,469 5,165 -
1645 166,466 108,771 33,121 74,098 1,551
 
分担対象経費・分担対象外経費の別 分担対象経費・分担対象外経費に対する契約額等
分担対象経費・分担対象外経費における経費の内容別 見込額 契約の別 平成30年度末現在の契約金額 30年度までの支払額 支払額の負担内訳
JSCの負担額 東京都の負担額
運営費交付金及び政府出資金を財源 特定金額を財源
(借入金を含む)
(億円) (百万円) (百万円) (百万円) (百万円) (百万円)
工事(スタジアム本体・周辺整備)、設計・監理等及び解体工事のうち分担対象経費 1581 工事(スタジアム本体・周辺整備)及び設計・監理等 154,861 97,441 28,652 67,237 1,551
(分担対象外) 道路上空連結デッキ整備 37          
解体工事 5,579 5,592 4,347 1,244 -
上下水道工事 27 上下水道工事 6,026 5,738 121 5,616 -
1645 166,466 108,771 33,121 74,098 1,551
  • 注(1) 道路上空連結デッキ整備の実際の契約は第 I 期業務及び第 II 期業務契約の一部であり、平成30年度末現在において分担対象経費との区分ができないため、契約金額及び支払額は東京都の負担分を含めて計上している。なお、支払額の負担内訳のうち東京都の負担額は、30年度末現在における実績額である。
  • 注(2) 本図表の契約金額及び支払額には、工事契約については契約金額50万円未満、その他の契約については契約金額100万円未満の契約に係る金額は含んでいない。
  • 注(3) 「30年度までの支払額」は平成30年度までの予算から支出している額である。
エ 文部科学省及びJSCによる財源確保の状況

30年報告においては、25年度から29年度までのJSCの特定業務勘定の決算において、収入は計1174億余円となっていて、このうち運営費交付金及び政府出資金は計517億余円(全額、文部科学省からの交付)であり、特定金額は計383億余円であることを報告した。また、特定金額については、毎年度、スポーツ振興投票等業務に係る経理を区分して設けられた特別の勘定(以下「投票勘定」という。)から特定業務勘定へ繰り入れており、28年度から令和5年度まではスポーツ振興くじの売上金額の5%から10%に増額されていることから、平成27年度は54億余円であったものが、28年度は111億余円、29年度は108億余円となっていることを報告した。そして、支出は計1174億余円となっていて、このうち新国立競技場の整備に係る支出額は計744億余円、国立代々木競技場の耐震改修等工事に係る支出額は7296万余円、NTCの拡充整備のための用地取得等に係る支出額は46億余円となっていることを報告した。また、国立代々木競技場の耐震改修等工事及びNTCの拡充整備のための用地取得等については、28年度から特定業務に追加されたことを報告した。

そして、JSCは、29年度中に支払のための資金が不足したことから、投票勘定から特定業務勘定へ短期貸付けとして50億1000万円の資金を融通しており、29年度の決算に当たり投票勘定へ返済するために民間金融機関から同額を短期借入金として借り入れていること、当該民間金融機関からの短期借入金については30年4月に、再度、同月に投票勘定から資金を融通して返済していることなどを報告した(以下、投票勘定から特定業務勘定への短期貸付けを「勘定間融通」という。)。

今回、30年度末現在の状況を確認したところ、25年度から30年度までのJSCの特定業務勘定の決算の状況は、図表5-6のとおり、収入は計2074億余円となっていて、このうち運営費交付金の221億余円及び政府出資金の295億余円の計517億余円が文部科学省から交付されたものとなっており、特定金額は計478億余円となっている。そして、支出は計1971億余円となっていて、このうち新国立競技場の整備に係る支出額は計1364億余円(うち運営費交付金209億余円、政府出資金295億余円)、国立代々木競技場の耐震改修等工事に係る支出額は27億余円、NTCの拡充整備のための用地取得等に係る支出額は46億余円となっている。

上記のうち特定金額については、毎年度、投票勘定から特定業務勘定へ繰り入れて、翌事業年度以後の事業年度における特定業務の財源に充てるために、特定業務特別準備金として整理することとされている。特定金額は、前記のとおり、28、29両年度は100億円を上回っていたが、スポーツ振興くじの売上金額が29年度の1080億余円から30年度は948億余円と減少したことから、30年度の特定金額は94億余円と100億円を下回っている。JSCによると、くじ市場全体が縮小傾向にあることの影響等により売上げが減少していることから、今後、効果的・効率的な広告宣伝や、新商品開発等により売上げの回復を目指すとしている。

また、JSCは、29年度に引き続き、30年度も48億5000万円の勘定間融通を行っており、30年度の決算に当たり投票勘定へ返済するために民間金融機関から同額を短期借入金として借り入れている。

JSCによると、勘定間融通を伴う短期借入金については、後述の長期借入金に対する特定金額の充当による返済が終了する令和12年度まで継続して行い、13年度以降に返済する予定としている。

図表5-6 特定業務勘定の決算の状況(平成25年度~30年度)

(単位:百万円)
科目等
年度
平成25年度 26年度 27年度 28年度 29年度 30年度
収入 特定金額 5,402 5,539 5,420 11,179 10,802 9,481 47,827
運営費交付金 22,142 - - - - - 22,142
政府等出資金 - 17,063 - 12,500 - - 29,563
特定業務特別準備金戻入 - 958 3,795 4,541 12,092 16,957 38,345
利息収入 - 30 39 8 4 12 94
長期借入金等 - - - - 5,010 61,630 66,640
都道府県整備費負担金 - - - - 51 1,500 1,551
その他収入 - 0 328 239 273 405 1,246
27,545 23,592 9,584 28,469 28,233 89,987 207,412
支出 政府等出資金施設費 - 1,702 747 4,318 22,795 - 29,563
新国立競技場整備事業費 1,188 6,940 16,551 7,284 12,872 62,012 106,850
(うち運営費交付金) 1,188 5,656 12,091 850 749 404 20,940
小計 1,188 8,643 17,298 11,602 35,668 62,012 136,413
国立代々木競技場耐震改修等工事費 - - - - 72 2,660 2,733
ナショナルトレーニングセンター拡充整備のための用地取得等事業費 - - - - 4,668 0 4,668
特定業務特別準備金繰入 5,402 5,539 5,420 11,179 10,802 9,481 47,827
事業外支出 - - - - 0 5,539 5,539
6,591 14,182 22,719 22,782 51,213 79,694 197,183
各年度末時点の運営費交付金の残高 20,954 15,297 3,205 2,355 1,606 1,201  
各年度末時点の政府出資金の残高 - 15,361 14,613 22,795 - -  
運営費交付金及び政府出資金の残高の計 20,954 30,658 17,819 25,151 1,606 1,201  
各年度末時点の特定業務特別準備金の残高 5,402 9,983 11,609 18,247 16,957 9,481  
  • 注(1) JSCの決算書類を基に会計検査院が作成した。
  • 注(2) 新国立競技場整備事業費は、政府出資金以外を原資としたスタジアム本体・周辺整備費、設計・監理等費用、解体工事費、日本青年館・JSC本部棟移転経費、通信・セキュリティ関連機器、什器等費用、旧整備計画関係経費のうち実施設計関係費以外の経費その他関係経費である。
  • 注(3) 政府等出資金施設費は、政府出資金を原資としたスタジアム本体・周辺整備費、設計・監理等費用及び旧整備計画関係経費のうち実施設計関係費である。

JSCが示した元年10月末現在における特定業務勘定の収支の見通しによると、JSCは、30年報告で報告した長期借入金311億円のほか、新たに文部科学大臣の認可を得て平成31年3月に256億8000万円を民間金融機関から長期借入金として借り入れており、また、令和元年12月に184億8000万円、2年7月に27億4000万円、計212億2000万円を長期借入金として借り入れる予定としている(図表5-7参照)。そして、これらの返済期間は、特定金額が6年度以降はスポーツ振興くじの売上金額の5%に戻ることなどにより、12年度までと長期にわたるものとなっている。さらに、13年度以降には勘定間融通を伴う短期借入金の返済が必要となる。

また、ウのとおり財源スキーム上の分担対象経費の半分以上は特定金額による負担に依存する形となっていて、上記収支の見通しは、3年度以降、特定金額として110億円の収入が回復し、かつ、元年度に東京都から分担対象経費の負担額と道路上空連結デッキの整備費用の計431億余円が支払われると仮定したものである。

図表5-7 令和元年10月末現在における特定業務勘定の収支の見通し

(単位:億円)
年度
科目等
平成
30年度
令和
元年度
2年度 3年度 4年度 5年度 6年度 7年度 8年度 9年度 10年度 11年度 12年度 平成30~令和12年度の計
借入れを見込まない収支
前年度繰越 42.3 42.3
収入 108.4 526.0 100.0 110.0 110.0 110.0 110.0 55.0 55.0 55.0 55.0 55.0 55.0 1504.5
内訳
特定金額 108.0 94.8 100.0 110.0 110.0 110.0 110.0 55.0 55.0 55.0 55.0 55.0 55.0 1072.8
東京都からの入金 分担対象経費 394.7 394.7
道路上空連結デッキの整備費用 36.4 36.4
その他収入 0.4 0.4
支出 629.6 792.2 29.6 6.1 1457.6
内訳
新国立競技場整備(第 II 期業務、通信・セキュリティ関連機器整備等) 603.0 655.9 2.1 6.1 1267.1
国立代々木競技場耐震改修等工事 26.6 136.2 27.5 190.4
収支 478.9 266.1 70.3 103.8 110.0 110.0 110.0 55.0 55.0 55.0 55.0 55.0 55.0  
長期借入金を見込んだ収支
平成30年4月
借入
借入額 311.0 311.0
借入れに伴う支出 借入金の返済 90.0 90.0 90.0 41.0 311.0
借入手数料 1.6 0.0 0.0 0.0 0.0 1.7
支払利息 0.5 0.8 0.7 0.4 0.2 0.0 2.8
2.2 0.8 90.7 90.4 90.2 41.0 315.6
31年3月
借入
借入額 256.8 256.8
借入れに伴う支出 借入金の返済 49.0 90.0 55.0 55.0 7.8 256.8
借入手数料 2.7 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 2.8
支払利息 0.6 0.8 0.8 0.8 0.7 0.5 0.3 0.1 0.0 5.0
2.7 0.6 0.8 0.8 0.8 49.8 90.5 55.3 55.1 7.8 264.7
令和元年12月及び2年7月
借入予定
借入見込額 184.8 27.4 212.2
借入れに伴う支出 借入金の返済見込 47.2 55.0 55.0 55.0 212.2
借入手数料見込 3.5 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 3.6
支払利息見込 1.5 1.6 1.6 1.7 1.7 1.6 1.6 1.5 1.1 0.6 0.2 15.2
3.5 1.5 1.7 1.7 1.7 1.7 1.7 1.7 48.7 56.1 55.6 55.2 231.0
収支 83.8 86.3 4.5 10.8 17.1 17.4 17.7 2.0 1.8 1.5 1.1 0.6 0.2  
  • 注(1) JSCが作成した資金計画を基に会計検査院が整理した。主に令和元年10月末現在の見込みによる計数である。
  • 注(2) 資金計画上の長期借入金を見込んだ収支において、マイナスとなる年度があるが、JSCは、勘定間融通による充当や資金残を繰り越すことにより資金不足は発生しない見込みであるとしている。
  • 注(3) 短期借入金は決算に当たり投票勘定へ返済するために一時的に民間金融機関から借り入れるものであることから収支の見通しには含まれていない。
  • 注(4) 特定金額に係る収入の減少が令和7年度からとなっているのは、投票勘定から特定業務勘定への資金の入金が翌事業年度に実施されるためである。
オ 大会終了後の運営管理、活用方法等の検討状況

文部科学省に設置されたワーキングチームが策定した基本的考え方(第1の2参照)によれば、新国立競技場は、大会終了後に国際サッカー連盟ワールドカップ規定(8万席)及びワールドラグビー競技規則に対応し得る臨場感ある球技専用スタジアムに改修すること、民間事業者のノウハウと創意工夫を活用してボックス席の設置等のホスピタリティ機能を充実する改修を行うことなどを運営管理の方向性として、元年年央を目途に民間事業化の事業スキームを構築して、公募を経て2年秋頃を目途に優先交渉権者を選定すること、大会終了後に改修を行い、4年後半以降の供用開始を目指すことなどとされている(図表5-8参照)。

図表5-8 基本的考え方の主な内容

主な項目 主な内容
利用方法
・サッカー(日本代表戦、国内最高クラスの大会の会場、Jリーグ・リーグ戦等)
・ラグビー(日本代表戦、国内最高クラスの大会の会場、トップリーグ・大学リーグ等)
・アメリカンフットボール等・イベント、コンサート、子供向けスポーツ教室、市民スポーツ大会等
大会後の改修
・国際サッカー連盟ワールドカップ規定(8万席)及びワールドラグビー競技規則に対応し得る臨場感ある球技専用スタジアムに改修する。
・民間事業者のノウハウと創意工夫を活用してボックス席の設置等のホスピタリティ機能を充実する改修を行う。
民間事業化
・JSCにおいて専門家の指導・助言を得つつ、民間のノウハウと創意工夫が最大限活用できるコンセッション事業の導入可能性調査・マーケットサウンディング等を行い、これを基にワーキングチームとして、令和元年年央を目途に民間事業化の事業スキーム(事業の方式、業務の範囲・期間、運営権等の対価等)を構築する。
・公募を経て2年秋頃を目途に優先交渉権者を選定する。契約期間は10~30年の長期を想定している。
・4年後半以降の供用開始を目指す。

(注) 文部科学省の公表資料を基に会計検査院が整理した。

会計検査院は、30年報告の所見において、「早期に新国立競技場の大会終了後の活用に係る国及びJSCの財政負担を明らかにするために、JSCは、大会終了後の改修について文部科学省、関係機関等と協議を行うなどして速やかにその内容を検討して、的確な民間意向調査、財務シミュレーション等を行うこと、また、文部科学省は、その内容に基づき民間事業化に向けた事業スキームの検討を基本的考え方に沿って遅滞なく進めること」と記述している。

基本的考え方に沿った新国立競技場の民間事業化等に向けた検討について、JSCは、図表5-9のとおり、平成29年度以降、各種検討業務を委託により実施しており、30年報告の所見も踏まえて、民間事業化の事業スキーム構築に向けて、民間事業者からのヒアリングを行うなどして民間事業化の導入可能性の評価をしたり、コンセッション事業を行う場合の事業期間、費用負担、事業範囲等を示した実施方針素案等を作成したりするアドバイザリー業務を30年度末までに実施するとともに、大会後の新国立競技場について、どのような改修整備ができるかを技術的及び法令的に検証する業務(令和元年10月末現在において業務期間は同月末までとされている。)を実施している。

図表5-9 新国立競技場の民間事業化等に向けて実施している業務

番号 事業名 事業内容 契約年月日 契約金額
(千円)
財源
1 新国立競技場の運営管理に係る民間事業化に向けた検討業務の委託 大会後、運営・管理事業に民間活力を導入する方針が示されており、民間事業化に向けた事業スキーム(事業期間、事業範囲、リスク分担等)案の整理・検討、民間意向調査、財務シミュレーション等を行う。 平成29年9月 13,500 運営費交付金
2 新国立競技場の運営管理に係る民間事業化に向けたアドバイザリー業務の委託 過年度に行った検討成果や民間事業者からのヒアリングを踏まえて、民間事業化の導入可能性の評価をしたり、コンセッション事業を行う場合の実施方針素案等を作成したりする。 30年6月 74,844 運営費交付金
3 新国立競技場の整備計画を踏まえた大会後の整備に係る技術的検証等業務 大会終了後、球技専用スタジアムへの改修、ホスピタリティ機能が充実したスタジアムへの改修を行うとする方針が示されており、これらの改修に向けて、改修整備に関する技術面、法令面での検証やコスト試算を行いながら、どのような設計ができるかを検証する。 30年9月 97,200 運営費交付金

新国立競技場の完成後は、施設の規模に相応の維持管理費(点検・清掃費用等の保全コスト、修繕コスト及び電気・ガス・上下水道に要するコスト)が毎年度必要となる。JSCによると、元年10月末現在において、基本的考え方に基づき民間事業化が行われた場合、維持管理費については新国立競技場完成から民間事業化までの間はJSCが負担することが決まっており、その財源には新国立競技場の運営による収入(利用料金の徴収等)や運営費交付金等を充てるとしている。しかし、同月末現在では、大会終了後の改修について、その内容や財源等は決まっていない。また、新国立競技場の完成後のJSCが負担する維持管理費については、新国立競技場の運営収入で負担しきれない場合、新たな国の負担が生ずる可能性がある。これらのことから、JSCは引き続き文部科学省、関係機関等と協議するなどして速やかに大会終了後の新国立競技場の改修に関する内容の検討を行ったり、民間の投資意向等と国及びJSCの財政負担等を総合的に勘案しつつ財務シミュレーション等を行ったりする必要がある。そして、文部科学省は、その内容を基に民間事業化に向けた事業スキームの検討を基本的考え方に沿って遅滞なく進める必要がある。

2 各府省等が実施する大会の関連施策等の状況

(1) 大会の関連施策の全体状況等

ア 政府の取組状況報告

政府の取組状況報告については、オリパラ特措法によれば、大会が終了するまでの間、おおむね1年に1回、国会へ報告するとともに公表することとされており、オリパラ推進本部は、平成29年5月、30年5月及び令和元年6月に国会へ報告し、公表している。政府の取組状況報告には、各府省等が実施する大会の関連施策の取組状況について、前年度までの主な内容、当該年度の主な内容、今後の主な内容等が記載されている。記載に当たっては、大会の関連施策の具体的な定義を策定することが困難であることから、各府省等が自ら実施する施策の内容について大会に関連すると判断したものについて記載することとなっている。

令和元年取組状況報告によれば、図表6-1のとおり、大会の関連施策は、その取組内容により15分野の71施策に整理されており、「大会の円滑な準備及び運営」に資する8分野の45施策と「大会を通じた新しい日本の創造」に資する7分野の26施策とされている。

図表6-1 各府省等が実施する大会の関連施策の概要

「大会の円滑な準備及び運営」に資する大会の関連施策 「大会を通じた新しい日本の創造」に資する大会の関連施策
分野 施策の名称 分野 施策の名称
①セキュリティの万全と安全安心の確保
1.セキュリティ対策検討・推進体制の整備
大会を通じた日本の再生
⑨被災地の復興・地域活性化
46.被災地と連携した取組の検討
2.未然防止のための水際対策及び情報収集・分析機能の強化
47.ホストタウンの推進
3.大会運営に係るセキュリティの確保
48.対日直接投資の拡大に向けた我が国ビジネス環境の発信
4.警戒監視、被害拡大防止対策等
5.NBC(核・生物・化学物質)テロ対策の強化
49.東京都と連携した大会開催を契機とした全国の中小企業のビジネス機会拡大
6.サイバーセキュリティ確保のための取組の推進
7.首都直下地震対策の強化
⑩日本の技術力の発信
50.社会全体のICT化の推進
8.避難誘導対策の強化
51.大会における最新の科学技術活用の具体化
9.感染症対策の推進
52.自動走行技術を活用した次世代都市交通システム
10.食中毒予防策の推進
53.先端ロボット技術によるユニバーサル未来社会の実現
②アスリート、観客等の円滑な輸送及び外国人受入れのための対策
11.出入国審査の円滑化
54.高精度衛星測位技術を活用した新サービス
12.CIQ体制の強化等
55.義肢装具等の先端技術の発信
13.首都圏空港の機能強化
56.都市鉱山からつくる!みんなのメダルプロジェクトの推進
14.空港アクセス等の改善
⑪外国人旅行者の訪日促進
57.「2020年オリンピック・パラリンピック」後も見据えた観光振興
15.道路輸送インフラの整備
16.大会開催時の輸送
58.水辺環境の改善
17.多言語対応の強化
⑫日本文化の魅力の発信
59.文化を通じた機運醸成
18.無料公衆無線LAN
60.文化プログラムの推進
19.宿泊施設の供給確保に向けた対策
61.クールジャパンの効果的なPRの実施
20.医療機関における外国人患者受入れ環境整備
62.和食・和の文化の発信強化
21.外国人来訪者等への救急・防災対応
⑬スポーツ基本法が目指すスポーツ立国の実現
63.スポーツ基本計画の策定
22.国際都市にふさわしい景観創出等のための無電柱化の推進
64.スポーツを「する」「みる」「ささえる」スポーツ参画人口の拡大と、そのための人材育成・場の充実、スポーツを通じた活力があり絆の強い社会の実現、障害者スポーツの普及促進
23.外国人を含む全ての大会来訪者がストレス無く楽しめる環境整備
③暑さ対策・環境問題への配慮
24.環境配慮の推進
25.分散型エネルギー資源の活用によるエネルギー・環境課題の解決
健康長寿・ユニバーサルデザインによる共生社会の実現
⑭大会を弾みとした健康増進・受動喫煙防止
65.健康面等でのレガシーの創出
26.アスリート・観客の暑さ対策の推進
66.受動喫煙対策の推進
④メダル獲得へ向けた競技力の強化
27.競技力の向上
⑮ユニバーサルデザイン・心のバリアフリー
67.大会に向けたアクセシビリティの実現
28.強化・研究拠点の在り方
68.大会を契機としたユニバーサルデザイン・心のバリアフリーの推進
29.自衛官アスリートの育成及び競技力向上
30.射撃競技における競技技術の向上
69.バリアフリー対策の強化
⑤アンチ・ドーピング対策の体制整備
31.国内アンチ・ドーピング活動体制の整備
70.ICT化を活用した行動支援の普及・活用
⑥新国立競技場の整備
32.新国立競技場の整備等
71.大会を弾みとした働き方改革等ワーク・ライフ・バランスの推進
⑦教育・国際貢献等によるオリンピック・パラリンピックムーブメントの普及、ボランティア等の機運醸成
33.Sport for Tomorrowプログラムの実施
34.国内のオリンピック・パラリンピックムーブメントの普及
 
35.スポーツ・文化・ワールド・フォーラムの開催
36.Specialプロジェクト2020の実施
⑧その他
37.記念貨幣の発行検討
38.大会協賛宝くじ・記念切手の発行検討等
39.記念自動車ナンバープレートの発行
40.知的財産保護の在り方検討
41.式典等大会運営への協力検討
42.建設分野における外国人材の活用に係る緊急措置
43.大会に向けた各種建設工事における安全確保
44.大会期間中に使用される無線局の円滑な運用の実現
45.東京パラリンピック競技大会開催準備

(注) 令和元年取組状況報告の記載内容を基に会計検査院が整理したものである。

30年報告において、29年度に公表された政府の取組状況報告に記載された取組内容に該当する事業の25年度から29年度までの間の支出額について各府省等に調書の提出を求めて集計したところ計8011億余円となっていることを報告した。これに対して、令和元年取組状況報告に記載された取組内容に該当する事業と当該事業の平成25年度から30年度までの支出額について、会計検査院が各府省等に調書の提出を求めて、15分野の71施策の別に区分して集計したところ、図表6-2のとおり、14府省等(14府省等が大会の関連施策として整理した事業を運営費交付金、政府出資金及び自己収入を財源として実施する10独立行政法人(注22)を含む。)において「大会の円滑な準備及び運営」に資する8分野の45施策に係る179事業、「大会を通じた新しい日本の創造」に資する7分野の26施策に係る159事業及び両方にまたがる取組内容であり、区分が困難な2事業の計340事業が実施されている。そして、それらに係る支出額は計1兆0600億余円(事業ごとの支出額を算出することが困難な事業又は公表できないとされている事業に係る支出額を除く。以下同じ。)となっている(施策及び事業ごとの概要並びに支出額については別図表1参照)。

(注22)
10独立行政法人  国立研究開発法人情報通信研究機構、独立行政法人国際協力機構、同国際交流基金、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、同科学技術振興機構、JSC、独立行政法人日本芸術文化振興会、同高齢・障害・求職者雇用支援機構、同日本貿易振興機構、同国際観光振興機構

図表6-2 各府省等が実施する大会の関連施策の支出額(平成25年度~30年度)

(単位:百万円)
府省等名 「大会の円滑な準備及び運営」に資する大会の関連施策(8分野45施策) 「大会を通じた新しい日本の創造」に資する大会の関連施策(7分野26施策) 事業数 支出額
事業数 支出額 事業数 支出額     (合計に占める割合)
内閣 9 3,295 7 1,154 16 4,450 (0.4%)
内閣府 24 5,623 9 13,799 33 19,422 (1.8%)
復興庁 0 - 2 0 2 0 (0.0%)
総務省 15 6,055 17 30,331 32 36,387 (3.4%)
法務省 10 9,260 1 40 11 9,300 (0.8%)
外務省 9 3,434 9 61,189 18 64,623 (6.0%)
財務省 3 (※)- 0 - 3 (※)- -
文部科学省 27 255,964 25 16,392 52 272,356 (25.6%)
厚生労働省 11 8,692 14 40,344 25 49,037 (4.6%)
農林水産省 2 17 26 10,604 28 10,621 (1.0%)
経済産業省 14 223,138 18 18,714 32 241,853 (22.8%)
国土交通省 30 249,457 28 76,956 58 326,414 (30.7%)
環境省 19 20,993 3 10 22 21,003 (1.9%)
防衛省 6 4,097 0 - 6 4,097 (0.3%)
179 790,031 159 269,538 338 1,059,570 (99.9%)
両方にまたがる取組(内閣) 2 437 2 437 (0.0%)
合計   340 1,060,008 (100.0%)
  • 注(1) 「事業数」及び「支出額」の計数は、各府省等から提出された大会の関連施策に係る調書を基に会計検査院が集計したものである。
  • 注(2) 「事業数」は、平成30年度までに支出額がある事業のみを計上しており、事業ごとの支出額を算出することが困難であるなどの事業を含む。
  • 注(3) 「支出額」には、事業ごとの支出額を算出することが困難であるなどの事業に係る額は含んでいない。当該事業しかない場合、支出額の欄には(※)を付している。
  • 注(4) 「支出額」には、各府省等が大会の関連施策として整理している事業を独立行政法人が運営費交付金等を財源として実施する場合における支出額を含む。なお、文部科学省が東京都へ交付したパラリンピック交付金(300億円)については、全額を計上している。
  • 注(5) 施策の区分は主な取組内容等により区分したものであり、事業によってはその取組内容に他の施策に該当する内容を含むものもある。
イ オリパラ関係予算の執行状況

オリパラ関係予算の25年度から30年度までの執行状況について、会計検査院が各府省等に対して調書の提出を求めて、その内容を集計した結果を示すと、図表6-3のとおり、25年度から30年度までにオリパラ関係予算として整理された48事業に係るオリパラ事務局への登録額1875億円に対して、支出額は1756億余円となっている(事業ごとの登録額及び支出額については別図表2参照)。

図表6-3 オリパラ関係予算の執行状況(平成25年度~30年度)

(単位:百万円)  
区分
府省等名
平成25年度 26年度 27年度
事業 登録額 前年度繰越額 支出額 翌年度繰越額 差額 事業 登録額 前年度繰越額 支出額 翌年度繰越額 差額 事業 登録額 前年度繰越額 支出額 翌年度繰越額 差額
内閣 0 - - - - 0 - - - - - 0 - - - - -
内閣府(警察庁) 0 - - - - 0 - - - - - 1 8 - 2 - 6
総務省 0 - - - - 0 - - - - - 0 - - - - -
文部科学省 7 28,270 27,553 - 719 10 26,307 - 24,897 - 1,415 11 13,409 - 12,728 61 623
厚生労働省 0 - - - - 1 88 - 88 - - 0 - - - - -
農林水産省 0 - - - - 0 - - - - - 0 - - - - -
国土交通省 0 - - - - 0 - - - - - 0 - - - - -
環境省 0 - - - - 0 - - - - - 4 385 - 318 - 67
7 28,270 27,553 - 719 11 26,395 - 24,985 - 1,415 16 13,802 - 13,049 61 696
 
区分
府省等名
28年度 29年度 30年度
事業 登録額 前年度繰越額 支出額 翌年度繰越額 差額 事業 登録額 前年度繰越額 支出額 翌年度繰越額 差額 事業 登録額 前年度繰越額 支出額 翌年度繰越額 差額 事業 登録額 支出額 差額
内閣 1 875 - 533 - 341 1 576 - 495 - 80 1 825 - 563 249 13 1 2,276 1,592 434
内閣府(警察庁) 3 13 - 25 - 11 0 - - - - - 6 8,346 - 5,450 831 2,064 10 8,367 5,477 2,058
総務省 0 - - - - - 2 439 - 193 199 46 3 374 199 559 - 13 3 813 753 60
文部科学省 13 31,708 61 29,865 1,044 860 14 49,757 1,044 46,108 4,330 364 12 24,512 4,330 24,873 3,673 297 22 173,963 166,026 4,280
厚生労働省 2 75 - 49 - 24 2 85 - 55 - 29 3 235 - 206 - 28 4 483 399 82
農林水産省 1 17 - 8 - 8 1 15 - 5 - 10 1 11 - 4 - 6 1 43 17 25
国土交通省 1 162 - 160 - 1 1 809 - 725 - 83 0 - - - - - 1 971 886 84
環境省 4 87 - 63 - 23 4 70 - 55 - 14 3 42 - 48 - 6 6 584 486 98
25 32,937 61 30,705 1,044 1,248 25 51,751 1,044 47,639 4,529 628 29 34,345 4,529 31,706 4,754 2,416 48 187,500 175,640 7,125
  • 注(1) 「支出額」「翌年度繰越額」「前年度繰越額」及び「差額」の計数は、各府省等から提出された大会の関連施策に係る調書を基に会計検査院が円単位で集計したものである。また、「登録額」は、内閣官房が公表している「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会関係予算」から転記(同一年度で当初、補正予算共に計上がある場合は百万円単位の計)したものである。
  • 注(2) 「事業数」はオリパラ関係予算として登録された数であるが、翌年度へ繰り越して執行された事業も一部含まれている。そのため、大会の関連施策としての事業数とは一致しないものがある。
  • 注(3) 「登録額」は予算決定時点のものであるため、執行段階で追加の支出の必要が生じ流用等によって対応したことなどにより、「登録額」を「支出額」が上回っているものがある。
  • 注(4) 「差額」には、平成25年度は「登録額」から「支出額」及び「翌年度繰越額」を差し引いた額、26年度から30年度は「登録額」と「前年度繰越額」を合算した額から「支出額」及び「翌年度繰越額」を差し引いた額を計上しており、決算上の不用額とは異なる。
  • 注(5) 「事業数」の計は純計である。
ウ 政府の取組状況報告に記載された取組以外の国等による支援状況

国及びJSC等の独立行政法人は、政府の取組状況報告に記載された事業以外にも、大会組織委員会が行う大会の準備及び運営や、地方公共団体が自ら取り組むべき事業を設定して実施している大会の関連施策等に対して支援を行っている。各地方公共団体が実施する大会の関連施策は、地方公共団体により、設定した事業の内容や、各府省等の国庫補助金等、独立行政法人の助成金等の活用状況が異なっている。

オリパラ事務局は、これらの支援については、政府が行う大会の関連施策とは異なる行政経費であるなどとして政府の取組状況報告においては記載していない。そこで、会計検査院は、政府の取組状況報告に記載された取組以外の国等による支援の状況を把握するために、会計実地検査等で確認した内容について分析を行ったほか、各地方公共団体に調書の提出を求めるなどしてその内容を分析した。東京都を除く各地方公共団体において実施される大会の関連施策については、多くの地方公共団体で実施することが想定される主な分野を「競技会場の整備」「競技会場周辺施設の整備」「競技会場周辺の道路整備」「大会に向けた機運醸成」「広報・観光振興」「心のバリアフリー」及び「地域スポーツ・障害者スポーツ振興」の七つに分類して、各地方公共団体が28年度から30年度までに実施した大会の関連施策について集計した。また、東京都については、東京都が公表している大会関連経費(1(2)イ(ウ)参照)の区分に分類して集計した。

これらの集計を行った結果については、次の(ア)及び(イ)のとおりである。

(ア) 国による東京都、その他の地方公共団体に対する支援状況

a 国による東京都に対する支援状況

東京都が大会関連経費(29年度から令和2年度まで)として整理した8100億円のうち、平成29、30両年度に実施した大会の関連施策について、各府省等が実施した政府の取組状況報告に記載された取組以外の国庫補助金等による財政支援の状況をみると、その支援額は計93億7083万余円となっている(図表6-4参照)。

図表6-4 東京都が実施する大会の関連施策に対する支援状況(平成29、30両年度)

(単位:千円)
府省等名 大会に密接に関わる事業 大会の成功を支える関連事業 その他の事業
既存体育施設の改修、晴海地区基盤整備等 円滑な都市運営に資する輸送インフラ、セキュリティ対策 都市のバリアフリー対策、多言語対応等 教育・文化プログラム、都市ボランティアの育成・活用等 競技力向上施策の推進、障害者スポーツの振興 都市インフラの整備 安全・安心の確保等 観光振興、東京・日本の魅力発信 スポーツの振興
内閣府(警察庁) - 228,618 - - - 23,399 5,331 - - - 257,350
国土交通省 - 5,199,307 - - - 3,914,174 - - - - 9,113,481
- 5,427,925 - - - 3,937,574 5,331 - - - 9,370,831

(注) 表中の計数は国庫補助金等相当額である。

b 国による大会施設が所在する8道県及び9都道県の26市区町に対する支援状況

(a) 国による東京都内の大会施設が所在する市及び特別区に対する支援状況

東京都内の大会施設が所在する11市区の中には、東京都とは別に自ら取り組むべき大会の関連施策を設定している市区もある。これらの市区が28年度から30年度までに実施した大会の関連施策について、各府省等が実施した政府の取組状況報告に記載された取組以外の国庫補助金等による財政支援の状況をみると、財政支援を受けているのは8市区で(注23)あり、その支援額は計14億8411万余円となっている(図表6-5参照)。

(注23)
8市区  調布市、中央、港、墨田、江東、品川、世田谷、江戸川各区

図表6-5 市及び特別区が実施する大会の関連施策に対する支援状況(平成28年度~30年度)

(単位:千円)
府省等名 競技会場周辺施設の整備 大会に向けた機運醸成( イベント開催、文化プログラム、教育等) 地域スポーツ・障害者スポーツ振興
地方公共団体数 交付金額 地方公共団体数 交付金額 地方公共団体数 交付金額 地方公共団体数 交付金額
文部科学省 0 - 1 274 1 192,744 1 193,018
国土交通省 8 1,291,100 0 - 0 - 8 1,291,100
8 1,291,100 1 274 1 192,744 8 1,484,118

(注) 「地方公共団体数」の計は純計である。

(b) 国による都外自治体に対する支援状況

都外自治体である8道県及び15市町の中には、自ら取り組むべき大会の関連施策を設定している都外自治体もある。これらの都外自治体が28年度から30年度までに実施した大会の関連施策について、各府省等が実施した政府の取組状況報告に記載された取組以外の国庫補助金等による財政支援の状況をみると、財政支援を受けているのは8道県7市(注24)であり、その支援額は計107億0587万余円となっている(図表6-6参照)。競技会場の整備については、横浜国際総合競技場及び福島あづま球場の整備の財源に国庫補助金が充てられている(1(4)カ参照)。

(注24)
8道県7市  北海道、宮城、福島、茨城、埼玉、千葉、神奈川、静岡各県、福島、さいたま、川越、朝霞、千葉、横浜、伊豆各市

図表6-6 都外自治体が実施する大会の関連施策に対する支援状況(平成28年度~30年度)

(単位:千円)
府省等名 競技会場の整備 競技会場周辺施設の整備
競技会場周辺の道路整備
大会に向けた機運醸成(イベント開催、文化プログラム、教育等) 広報・観光振興 心のバリアフリー 地域スポーツ・障害者スポーツ振興
地方公共団体数 交付金額 地方公共団体数 交付金額 地方公共団体数 交付金額 地方公共団体数 交付金額 地方公共団体数 交付金額 地方公共団体数 交付金額 地方公共団体数 交付金額 地方公共団体数 交付金額
内閣府 0 - 1 25,611 0 - 2 38,665 4 409,461 1 21,600 1 5,113 7 500,451
文部科学省 1 1,994,000 0 - 0 - 6 855,771 0 - 1 4,319 1 15,232 6 2,869,324
厚生労働省 0 - 0 - 0 - 2 3,883 0 - 1 7,511 6 531,799 6 543,194
経済産業省 1 21,546 0 - 0 - 0 - 2 362,162 0 - 1 468,759 2 852,467
農林水産省 0 - 0 - 0 - 0 - 1 587,753 0 - 0 - 1 587,753
国土交通省 1 2,596,689 0 - 4 1,297,509 0 - 3 1,456,572 0 - 0 - 8 5,350,770
環境省 0 - 0 - 0 - 1 1,911 0 - 0 - 0 - 1 1,911
2 4,612,235 1 25,611 4 1,297,509 8 900,232 6 2,815,949 3 33,431 7 1,020,905 15 10,705,874
  • 注(1) 「地方公共団体数」の計は純計である。
  • 注(2) 競技会場の整備事業の大会施設ごとの交付金額の内訳は、福島あづま球場2154万余円、横浜国際総合競技場45億9068万余円となっている。

c 国による自転車競技(ロードレース)コース上に所在する1県及び4都県の15市町村に対する支援状況

大会の競技が実施される地方公共団体には、前記の大会施設が所在する都道県及び市区町のほか、オリンピック競技大会の自転車競技(ロードレース)において、コースとなる公道が所在する地方公共団体もある(以下「通過地方公共団体」という。)。ロードレースのコースは、東京都に所在する武蔵野の森公園をスタートし、4都県の(注25)15市町村(注26)内の公道を通り、静岡県に所在する富士スピードウェイをゴールとしており、通過地方公共団体の中には、自ら取り組むべき大会の関連施策を設定している地方公共団体もある。これらの通過地方公共団体が28年度から30年度までに実施した大会の関連施策について、各府省等が実施した政府の取組状況報告に記載された取組以外の国庫補助金等による財政支援の状況をみると、財政支援を受けているのは1県2市(注27)大会施設も所在する調布市は除く。)であり、その支援額は計3364万余円となっている(図表6-7参照)。

(注25)
4都県  東京都、神奈川、山梨、静岡各県
(注26)
15市町村  八王子、三鷹、府中、調布、町田、小金井、多摩、稲城、相模原、御殿場、裾野各市、足柄上郡山北、駿東郡小山両町、南都留郡道志、同郡山中湖両村
(注27)
1県2市  山梨県、府中、相模原両市

図表6-7 通過地方公共団体が実施する大会の関連施策に対する支援状況(平成28年度~30年度)

(単位:千円)
府省等名 大会に向けた機運醸成(イベント開催、文化プログラム、教育等) 広報・観光振興 地域スポーツ・障害者スポーツ振興
地方公共団体数 交付金額 地方公共団体数 交付金額 地方公共団体数 交付金額 地方公共団体数 交付金額
内閣府 1 3,643 2 9,860 0 - 2 13,504
文部科学省 1 10,355 0 - 0 - 1 10,355
厚生労働省 1 1,719 0 - 2 4,993 2 6,712
農林水産省 0 - 1 3,076 0 - 1 3,076
1 15,718 2 12,936 2 4,993 3 33,648

(注) 「地方公共団体数」の計は純計である。

(イ) JSC等の独立行政法人による大会組織委員会、東京都、その他の地方公共団体又は民間団体に対する支援状況

JSCは、1(2)ウ(イ)a及び同bのとおり、スポーツ振興くじ助成の一つの事業として、オリパラ開催助成を行っている。そして、図表6-8のとおり、オリパラ開催助成の事業として、「ガバナンス・コンプライアンス強化」「ドーピング防止活動推進強化」「競技会場整備」等の各事業により、それぞれ助成金を交付している。さらに、30年度からは、オリパラ開催助成の事業細目に大会に向けて日本武道館を整備する事業に要する経費を対象とした「日本武道館整備事業」を追加している。また、大会の開催に係る事業以外にも、地方公共団体又はスポーツ団体が行うスポーツ振興に係る事業に対して、毎年度、スポーツ振興くじ助成金を交付している。

図表6-8 スポーツ振興くじ助成金による助成事業

  助成事業名 目的 事業細目 事業の名称 対象事業
大会の開催に係る事業(オリパラ開催助成) 東京オリンピック・パラリンピック競技大会開催助成 大会の円滑な開催を図るなど 組織体制強化事業 ガバナンス・コンプライアンス強化 大会の開催準備のため、外部から専門的な知識や実際的な経験などを有する者を配置することにより、組織体制の強化を図る事業
国際広報活動事業 国際広報活動等 国内外で行われる国際競技大会等において、大会のプロモーション活動を行う事業
ドーピング防止活動推進強化事業 ドーピング防止活動推進強化 大会に向けたドーピング防止活動の推進強化(ドーピング検査に用いる分析機器等の整備を含む。)を図る事業
東京2020大会ラボラトリー分析機器等整備
大規模競技場機能補完施設整備助成 大会等の円滑な開催及びレガシーを継承するなど 大規模競技場機能補完施設整備事業 大会の主会場となることが決定している大規模競技場の機能を補完するスポーツ施設を新設する事業
東京オリンピック・パラリンピック競技大会等施設整備助成 大会の円滑な開催及びそのレガシーを継承するなど 競技会場整備事業 大会の競技会場に係る新設事業、改修又は改造事業
キャンプ地施設整備事業 大会のキャンプ地において利用されるスポーツ競技施設の改修又は改造事業
日本武道館整備助成 大会の円滑な開催、レガシーの継承及び持続可能性の実現に資するなど 日本武道館整備事業 大会に向けて日本武道館を整備する事業
大会の開催に係る事業以外 総合型地域スポーツクラブ活動助成等8助成 地域におけるスポーツ活動の拠点であり地域住民の交流の場となる総合型地域スポーツクラブの創設及び育成の促進を図るなど 総合型地域スポーツクラブ活動基盤強化等 総合型地域スポーツクラブが行うスポーツ教室の開催等の事業等

そして、大会組織委員会、東京都以外の地方公共団体又は民間団体は、それぞれが行う大会の準備、運営等の取組に当たって、JSCが交付する大会の開催に係る事業に交付するオリパラ開催助成を活用している。また、大会施設が所在する9都道県26市区町が自ら取り組むべきとして実施した大会の関連施策には、JSCによるオリパラ開催助成のような大会の開催に係る事業に交付する助成金以外の独立行政法人が交付する助成金等を活用しているものもある。

大会組織委員会、東京都、その他の地方公共団体又は民間団体が30年度までに実施した大会の準備、運営等の取組に対してJSC等の独立行政法人が行った主な支援の状況をみると、1(2)ウ(イ)aに記述した大会組織委員会に対する財政支援(26年度~30年度計23億5863万余円)及び1(2)ウ(イ)bに記述した大会組織委員会以外に対する財政支援(27年度~30年度計49億1627万余円)のほか、財政支援を受けているのは、3道県2市区(注28)であり、その助成金等の額は28年度から30年度までで計15億7077万円となっている(図表6-9参照)。

(注28)
3道県2市区  北海道、福島、神奈川両県、調布市、中央区

図表6-9 独立行政法人による大会施設が所在する地方公共団体に対する支援状況(JSCによるオリパラ開催助成を除く。)(平成28年度~30年度)

(単位:千円)
独立行政法人名 大会に向けた機運醸成(イベント開催、文化プログラム、教育等) 地域スポーツ・障害者スポーツ振興
地方公共団体数 交付金額 地方公共団体数 交付金額 地方公共団体数 交付金額
JSC 1 1,500,000 3 68,375 4 1,568,375
独立行政法人日本芸術文化振興会 1 2,395 0 - 1 2,395
2 1,502,395 3 68,375 5 1,570,770
エ その他の大会に関する主な支援

大会に関しては、以上のアからウまでのように国等による関連施策の実施や財政支援が行われているもの以外にも、大会の準備及び運営の主体である大会組織委員会に対して国による職員の派遣等が行われている。また、オリンピック聖火リレー、パラリンピック聖火リレー(以下、これらを合わせて「聖火リレー」という。)等の大会の主な行事の中には、国等からの財政的な支援以外の方法により捻出した資金の活用や地方公共団体による協力等の様々な形の支援が行われているものがある。これらの支援状況について例示すると、次のとおりである。

(ア) 国による大会組織委員会に対する職員の派遣等の支援状況

オリパラ特措法に基づき、大会組織委員会による大会の準備及び運営に関する業務のうち、大会の会場その他の施設の警備計画の作成等の国の事務又は事業との密接な連携の下で実施する必要がある業務の円滑かつ効果的な遂行のために、各府省等から大会組織委員会に対して国の職員が派遣されている。また、派遣する職員には国から給与を支給しないこととされているが、特に必要があると認められるときは、俸給、扶養手当、地域手当、広域異動手当、研究員調整手当、住居手当及び期末手当のそれぞれの100分の100以内を支給することができることとなっている。

上記職員の派遣等の実績は図表6-10のとおりであり、オリパラ特措法が施行された27年6月以前の大会組織委員会への出向等も含めて、25年度から30年度までに11府省等から計86人が大会組織委員会へ派遣等されている。大会組織委員会が実施する業務量の増加や組織規模の拡大に伴い、派遣等される職員の人数は増加傾向にある。

派遣等された職員に係る給与の国の負担状況をみると、27年度のオリパラ特措法成立後、86人のうち44人に係る前記俸給等の大部分を各府省等が負担しており、27年度から30年度までの負担額は計4億2301万余円となっている。

図表6-10 大会組織委員会への国の職員の派遣等の状況(平成25年度~30年度)

(単位:人、千円)
府省等名 平成25~29年度の計 30年度
人数 うち国費負担 人数 うち国費負担 人数 うち国費負担
人数 負担額 人数 負担額 人数 負担額
内閣府
(警察庁)
8 6 51,589 8 6 33,588 11 8 85,178
総務省 6 4 46,062 6 5 26,167 10 7 72,230
法務省 2 1 2,840 3 2 4,889 4 2 7,730
外務省 4 2 18,066 4 3 15,624 5 3 33,690
財務省 5 4 53,242 8 7 30,337 8 7 83,580
文部科学省 17 0 - 13 0 - 21 0 -
厚生労働省 1 0 - 1 0 - 1 0 -
農林水産省 2 0 - 2 0 - 2 0 -
国土交通省 10 7 73,806 10 8 42,616 16 12 116,423
環境省 1 0 - 1 0 - 2 0 -
防衛省 0 0 - 6 5 24,180 6 5 24,180
56 24 245,608 62 36 177,404 86 44 423,013
  • 注(1) 各年度の人数は、派遣等の期間にかかわらず同年度内に派遣等した人数を計上している。
  • 注(2) 計欄の人数は純計である。
  • 注(3) オリパラ特措法が施行された平成27年6月以前は、国の職員は大会組織委員会への出向等により大会組織委員会の業務に従事しており、国は給与を支給していない。

また、オリパラ特措法に基づきオリパラ推進本部が設置された27年以降、オリパラ事務局に所属して内閣官房から給与等の支給を受けている職員の人数は27年から30年までの間で延べ142人となっており、給与等支給総額は計8億0420万余円となっている。そのほか、他省庁に所属したまま併任等によりオリパラ事務局の職務に従事している職員の人数は27年度から30年度までの間で延べ76人となっており、当該職員に対する所属省庁からの給与等支給総額は計6億0166万余円となっている(図表6-11参照)。

図表6-11 オリパラ事務局における職員数等

(単位:人、千円)
給与等
支給区分
平成27年 28年 29年 30年
人数 給与等
支給総額
人数 給与等
支給総額
人数 給与等
支給総額
人数 給与等
支給総額
人数 給与等
支給総額
内閣官房 25
(3)
143,627 31
(3)
215,645 40
(5)
207,244 46
(8)
237,688 142
(19)
804,205
  平成27年度 28年度 29年度 30年度
各省庁 10 73,931 21 157,319 22 186,226 23 184,184 76 601,661
  • 注(1) 各年、各年度の人数は、従事期間にかかわらず、同年、同年度内にオリパラ事務局において事務に従事した人数を計上している。
  • 注(2) 内閣官房の平成27年の給与等支給総額には、オリパラ事務局発足前の「2020年オリンピック・パラリンピック東京大会推進室」に在籍中に支払われた給与等を含む。
  • 注(3) 内閣官房の各年の人数の括弧書きの数字は、オリパラ事務局において事務に従事した職員のうち、国が給与等を負担していない者の人数で、外数である。
  • 注(4) 計欄の人数は延べ人数である。
(イ) 聖火リレーに対する支援状況

オリンピック聖火リレーは、福島県からスタートし、移動日を含めて121日間にわたって全国47都道府県で実施することとなっており、パラリンピック聖火リレーは、東京都及びパラリンピック競技開催県である埼玉、千葉、静岡各県において実施することとなっている。また、復興オリンピック・パラリンピックの観点から、オリンピック聖火リレーの開催に先立ち、ギリシャで採火した火を東日本大震災被災3県(岩手、宮城、福島各県)で順次展示する「復興の火」を実施することとなっている。

聖火リレー及び「復興の火」の実施に向けて、大会組織委員会は各都道府県を始めとする関係者と連携しながら準備を進めることとしている。また、各都道府県は、聖火リレー実施に向けた実行委員会を設立して、聖火リレーのルートの選定、聖火ランナーの選考、聖火リレー実施時の警備や交通整理、セレブレーション等の各種プログラムの提供や運営及びこれらの準備等を行うこととされており、これらに要する費用は、各都道府県も負担することとされている。そして、この負担部分を支援するために、大会協賛宝くじの収益金40億円が配分される予定となっている。

各都道府県の聖火リレー及び「復興の火」に係る予算額及び決算額についてみると、図表6-12のとおり、30年度及び令和元年度の47都道府県の予算額は計29億7819万余円(平成30年度は39都道府県に係る2億3195万余円、令和元年度は47都道府県に係る27億4623万余円)となっている。また、平成30年度に予算額を計上している39都道府県のうち、同年度中に支出がなされた37都道府県における決算額は計8717万余円となっている。

図表6-12 各都道府県の聖火リレー及び「復興の火」に係る予算額及び決算額

(単位:千円)
  予算額 決算額
平成30年度 令和元年度 平成30年度
地方公共団体数 左の地方公共団体に係る予算額 地方公共団体数 左の地方公共団体に係る予算額 地方公共団体数 左の地方公共団体に係る予算額 地方公共団体数  
左の地方公共団体に係る決算額 うち、国庫補助金等が含まれている地方公共団体数 左の地方公共団体に係る国庫補助金等交付額
47都道府県の計 39 231,952 47 2,746,238 47 2,978,190 37 87,175 1 0
  うちオリンピック聖火リレーのみを実施する40道府県 32 88,873 40 1,420,913 40 1,509,786 31 63,443 1 0
うちオリンピック聖火リレー及びパラリンピック聖火リレーを実施する4都県 4 119,818 4 661,318 4 781,136 4 14,008 0
うちオリンピック聖火リレー及び「復興の火」を実施する3県 3 23,261 3 664,007 3 687,268 2 9,723 0

(注) 平成30年度の決算額に係る地方公共団体数は、予算額に係る地方公共団体数のうち同年度中に支出がなされたものである。

(ウ) 東京2020大会選手村ビレッジプラザに対する支援状況

東京2020大会選手村ビレッジプラザ(以下「ビレッジプラザ」という。)は、選手村地区内に配置される大会期間中の選手の生活を支える施設であるとともに、チーム歓迎式典、花屋・雑貨店等の店舗、カフェ、メディアセンター等が配置され、関係者等が訪れる施設であり、メディアを通して多くの人の目に触れる選手村の代表的な施設である。そして、東京都及び招致委員会が25年1月にIOCに提出した立候補ファイルによれば、日本の文化を感じてもらうために、ビレッジプラザの設計は日本の伝統的な建築様式を取り入れ、木材を使用することとされている。

大会組織委員会は、東京都と協同して、日本全体で大会を盛り上げ、大会後に各地にレガシーを残すことを目的に、全国の木材を活用し、レガシーとして後利用を図る「日本の木材活用リレー~みんなで作る選手村ビレッジプラザ~」(以下「木材活用リレー」という。)を実施している。そして、ビレッジプラザの建築に必要な木材を提供する地方公共団体(以下「事業協力者」という。)を全国から公募するために、29年7月に事業協力者公募要項(以下「公募要項」という。)を定めるなどして、木材活用リレーを推進している。

公募要項によれば、事業協力者は木材の調達、加工及び運搬を行い、事業協力者の負担で大会組織委員会に木材を提供することとされており、大会組織委員会は事業協力者から提供された木材(以下「提供木材」という。)を活用して施設の建築を行い、大会後は施設を解体した上で提供木材を事業協力者に返却することとされている。

大会組織委員会は、29年9月から事業協力者の公募を開始し、同年11月までに63地方公共団体(23都県、25市、9町及び6村)から成る42者を事業協力者として決定している。

この63地方公共団体の木材活用リレーに係る予算額及び決算額についてみると、図表6-13のとおり、61地方公共団体(23都県、25市、8町及び5村)が30年度又は令和元年度に予算額を計上しており、その額は、計4億7539万余円となっている。また、平成30年度に予算額を計上している51地方公共団体(20都県、21市、6町及び4村)のうち、同年度中に支出がなされた37地方公共団体(15都県、14市、4町及び4村)における決算額は、計1億2588万余円となっており、そのうち11地方公共団体(3県、6市、1町及び1村)においては、地方創生推進交付金、森林環境保全整備事業費補助金等の国庫補助金等相当額計699万余円の支援を受けていた。

図表6-13 各地方公共団体の木材活用リレーに係る予算額及び決算額

(単位:千円)
  予算額 決算額
平成30年度 令和元年度 平成30年度
地方公共団体数 左の地方公共団体に係る予算額 地方公共団体数 左の地方公共団体に係る予算額 地方公共団体数 左の地方公共団体に係る予算額 地方公共団体数 左の地方公共団体に係る決算額  
うち国庫補助金等相当額
平成30年度又は令和元年度に予算額を計上している地方公共団体の計 51 277,721 48 197,670 61 475,392 37 125,888 6,993
  うち国庫補助金等の支援あり 12 53,645 10 29,116 13 82,762 11 18,885 6,993
  補助金等の交付元 (内閣府) 7 27,517 8 23,000 8 50,517 7 15,274 5,706
(農林水産省) 5 26,127 2 6,116 5 32,244 4 3,611 1,286
うち国庫補助金等の支援なし 39 224,076 38 168,554 50 392,630 26 107,002  
  • 注(1) 平成30年度及び令和元年度に予算額を計上していない地方公共団体があるため、予算額に係る計欄の地方公共団体数は、42事業協力者に決定している63地方公共団体数と一致しない。
  • 注(2) 予算額の計欄について、単年度のみ国庫補助金等の支援がある地方公共団体があるため、「うち国庫補助金等の支援あり」の地方公共団体数と「うち国庫補助金等の支援なし」の地方公共団体数の計は、「平成30年度又は令和元年度に予算額を計上している地方公共団体の計」の地方公共団体数と一致しない。
  • 注(3) 平成30年度の決算額に係る地方公共団体数は、予算額に係る地方公共団体数のうち同年度中に支出がなされたものである。
オ 大会の関連施策の全体状況

以上の各府省等が実施する大会の関連施策等の状況等のうち、国等による関連施策の実施や財政支援として実施されたアからウについて、本報告における報告事項との関係等について整理すると、図表6-14のとおりであり、既に公表されている事業である令和元年取組状況報告に記載された取組内容に該当する事業のほかに、ウで示した政府の取組状況報告に記載された取組以外の国等による支援があり、これらの支援状況については、30年報告を踏まえたオリパラ事務局の調査結果(1(2)ア(イ)参照)において、オリパラ事務局は、これらの行政経費のうち大会施設の整備、改修等に対する国庫補助等(図表6-14の表(1)政府の公表値の「大会施設」に相当)について、大会の準備、運営等に特に資する事業と認められるとして、その金額を公表しているところである。一方、大会の準備、運営等に特に資すると認められる業務を公表しているかについてみたところ、1(2)ウ(ア)、同(イ)等において、「オリパラ関係予算において、国庫債務負担行為により後年度に執行が予定されている経費を公表していないもの」や「令和元年取組状況報告に記載されていないもの」(図表6-14の表(2)本報告の対象の「国庫債務負担行為により後年度に執行が予定されている経費を公表していないもの」における①オリパラ関係予算において、国庫債務負担行為により後年度に執行が予定されている経費を公表していないもの並びに「令和元年取組状況報告に記載されていないもののうち、大会組織委員会と協議して実施している業務及び大会の開催に係る事業に対する助成」における②令和元年取組状況報告に記載されていないもの、⑪JSCによる大会組織委員会に対する支援状況及び⑫JSCによる大会組織委員会以外に対する支援状況に相当)が見受けられたことを報告している。

図表6-14 各府省等が実施する大会の関連施策等の状況と本報告における報告事項との関係に係る概念図

図表6-14 各府省等が実施する大会の関連施策等の状況と本報告における報告事項との関係に係る概念図 画像

(2) 大会の関連施策等に係る省庁間等の連携による取組の状況

(1)アのとおり、令和元年取組状況報告に記載された取組内容に該当する事業及び平成25年度から30年度までの支出額については、「大会の円滑な準備及び運営」に資する8分野の45施策に係る179事業、「大会を通じた新しい日本の創造」に資する7分野の26施策に係る159事業及び両方にまたがる取組内容であり区分が困難な2事業の計340事業が実施されており、これらに係る支出額は計1兆0600億余円となっている。

それぞれの大会の関連施策の実施に当たっては、1(1)イのとおり、必要に応じて分野別の連絡会議等を設置して取組の内容についての連絡調整等を行っている。連絡会議等の取組状況等について分野別にみると、次のとおりである。

ア 「セキュリティの万全と安全安心の確保」に係る連絡会議等の取組状況

セキュリティ幹事会は、26年10月に設置され、内閣官房を事務局として関係府省等で構成され、関係府省等が所管する事務の調整を行っており、さらに、同幹事会の下に「テロ等警備対策ワーキングチーム」(28年11月まではテロ対策ワーキングチーム)及び「サイバーセキュリティワーキングチーム」を設置し、この体制に基づいてセキュリティ対策を推進している。

また、セキュリティ幹事会は、大会のセキュリティに関わる高度な大綱方針・戦略として、29年3月に「2020年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会に向けたセキュリティ基本戦略(Ver.1)」(以下「セキュリティ基本戦略」という。)を策定(令和元年7月一部改定)して、国として担うセキュリティ対策の方向性を定めている。また、セキュリティ基本戦略では、大会組織委員会、東京都及び都外自治体とも緊密に連携を図りつつ、①大会の安全・円滑な準備及び運営並びに継続性を確保するとともに、アスリート、観客等の安全を確保する、②我が国におけるテロ等の未然防止対策を徹底するとともに、サイバー攻撃によるものを含めて緊急事態が発生した際の備えにも遺漏なきを期す、との考え方にのっとった対策を推進するとしている。各府省等は、セキュリティ基本戦略に基づき、セキュリティ分野の様々な大会の関連施策を実施することとしている。また、図表7-1のとおり、大会期間中における関係機関との24時間の連絡・調整態勢を確保するために「セキュリティ調整センター(仮称)」を内閣官房に設置することとしているほか、同年7月には、大会の安全に関する情報を集約して、大会の安全に対する脅威及びリスクの分析・評価等を行う「セキュリティ情報センター」を警察庁に設置している。

さらに、サイバーセキュリティ対策については、国全体としてのサイバーセキュリティ戦略(平成27年9月閣議決定)を着実に実施するほか、28年度に、関係府省庁が情報共有・対処体制に関する基本的な方針を大会組織委員会、東京都等と協議した上で、決定し、これを踏まえてサイバーセキュリティ対処調整センターを構築して、31年4月から運用を開始している。サイバーセキュリティ対処調整センターにおいては、大会のサイバーセキュリティに係る脅威・インシデント情報を収集し、これらの情報を大会組織委員会を始めとした関係機関等に提供して、必要があるときには関係機関等のインシデント対処に対する対処支援調整を実施することとしている。

図表7-1 大会開催時のセキュリティ分野の連携体制

図表7-1 大会開催時のセキュリティ分野の連携体制 画像

イ 「アスリート、観客等の円滑な輸送及び外国人受入れのための対策」に係る連絡会議等の取組状況

大会の競技会場等の多くは通勤、物流等に係る交通需要が集中している地域に立地しており、大会期間中においては関係者や観客の輸送と一般交通が交錯して、市民生活や経済活動が大きな影響を受けるおそれがある。このため、大会輸送による影響が最小限になるよう対応を行いつつ、大会輸送と一般交通が適切に共存できるよう、大会期間中の国民や企業等の行動計画を見直す取組を経済界と一体となって全国的な視野で検討する体制を立ち上げることが必要であるとして、政府、大会組織委員会、東京都、関係自治体及び経済界が一体となって検討して調整するために、「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に係る交通輸送円滑化推進会議」(以下「輸送会議」という。)が設置されている。また、大会期間中の円滑な出入国に関しては、平成28年12月に設置された「出入国に関する関係省庁等連絡会議」において、大会の一時的な需要の精査や処理能力の検証及びその結果を踏まえた体制強化の必要性について検討が行われている。さらに、開会式や閉会式の前後には、要人を含む特別対応が必要な多くの関係者やパラリンピック選手団等が短期間に出入国するなど、大会特有の事情を考慮しつつ、空港における関係者の動線を分離するなどの対応を行う必要があり、出入国審査、税関及び検疫の関係職員を増員するなど体制強化に向けた取組も進められている。29年10月には、羽田空港の上陸審査場に顔認証技術を活用した自動化ゲートである「顔認証ゲート」を先行導入して、日本人の帰国手続において運用を開始し、30年度には成田、羽田、中部、関西、福岡各空港の上陸・出国審査場に本格導入して、日本人の出帰国手続における運用が開始された((3)イ参照)。

ウ 「被災地の復興・地域活性化」に係る連絡会議等の取組状況

大会の開催に向けて、スポーツ立国、グローバル化の推進、地域の活性化、観光振興等に資する観点から、参加国・地域との人的・経済的・文化的な相互交流を図る地方公共団体を「ホストタウン」として全国各地に広げるために、「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会におけるホストタウン関係府省庁連絡会議」(第1回及び第2回は「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会におけるホストシティ・タウン構想に関する関係府省庁連絡会議」)が設置され、令和元年7月末現在、平成26年7月の第1回から令和元年6月の第9回まで会議が開催されている。平成29年9月に、オリパラ事務局は被災3県(岩手、宮城、福島各県)の地方公共団体に対して、震災時に支援を行った海外の国・地域に復興した姿を見せつつ、その国や地域の人々と住民との交流を行うホストタウンを「復興『ありがとう』ホストタウン」として新設して、令和2年の大会の開催に向けた交流を全面的に支援することとしている。

エ 「日本文化の魅力の発信」に係る連絡会議等の取組状況

大会に向けて関係府省庁、政府関係機関、地方公共団体等において進められる文化を通じた機運醸成策に関する情報共有、連携等を目的として「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた文化を通じた機運醸成策に関する関係府省庁等連絡・連携会議」(以下「機運醸成会議」という。)が設置され、元年7月末現在、平成27年11月の第1回から30年12月の第8回まで会議が開催されている。機運醸成会議においては、文化を通じた機運醸成策に関する意見交換、関係府省庁、東京都、大会組織委員会等の取組状況の報告等が行われている。そして、28年3月には、令和2年は文化プログラムを通じて日本の魅力を発信する絶好の機会であることから、この機会に、同年以降を見据えて、日本の強みである地域性豊かで多様性に富んだ文化をいかして、成熟社会にふさわしい次世代に誇れるレガシー創出に資する文化プログラムを「beyond2020プログラム」(以下「beyond2020」という。)として認証して、日本全国に展開することが提案され、政府全体で推進していくこととされている((4)ウ(ア)参照)。

(3) 「大会の円滑な準備及び運営」に資する大会の関連施策の状況

30年報告では、大会の関連施策の実施状況についての所見として「大会の関連施策を実施する各府省等は、大会組織委員会、東京都等と緊密に連携するなどして、その実施内容が大会の円滑な準備及び運営並びに大会終了後のレガシーの創出に資するよう努めること。また、オリパラ事務局は、引き続き大会の関連施策の実施状況について政府の取組状況報告等の取りまとめにより把握するとともに、各府省等と情報共有を図るなどしてオリパラ基本方針の実施を推進すること」と報告している。

今回の検査においては、図表8-1のとおり大会の関連施策の実施状況についてのフォローアップ検査を実施するとともに、令和2年の大会の開催を控えて、特に「大会の円滑な準備及び運営」に資する大会の関連施策に重点を置いて、大会の関連施策の実施状況を検査した。

図表8-1 大会の関連施策の実施状況についてのフォローアップ検査の状況

分野 施策 府省等名 事業 30年報告における検査結果の概要及び掲載箇所 フォローアップの状況
暑さ対策・環境問題への配慮 分散型エネルギー資源の活用によるエネルギー・環境課題の解決 経済産業省 燃料電池自動車の普及促進に向けた水素ステーション整備事業費補助金 補助金を活用して運用されている商用の水素ステーションの設備のうち、事業主体が策定する事業計画において年間水素充塡量を計画値として設定している設備(平成28年度は67設備、29年度は70設備)について、当該計画充塡量と充塡量の実績を比較すると、計画充塡量を達成しているのは28年度において2設備、29年度において3設備のみであり、両年度共に6割を超える設備において計画充塡量に対する充塡量の実績の割合が25%未満となっている(30年報告(2)ウ(ア)a)。 ウ(イ)a
暑さ対策・環境問題への配慮 分散型エネルギー資源の活用によるエネルギー・環境課題の解決 環境省 再エネ水素を活用した社会インフラの低炭素化促進事業(一部経済産業省、一部国土交通省連携事業)のうち地域再エネ水素ステーション導入事業及び水素ステーション保守点検支援事業 補助金を活用するなどして稼働している再生可能エネルギー由来の水素ステーションは22か所であり、平成32年度までの目標設置箇所数100か所に対する達成率は22.0%となっている。本補助事業で導入された水素ステーションによる二酸化炭素排出量の削減状況をみると、28、29両年度において二酸化炭素排出削減量の目標値を達成しているのは、それぞれ1設備、2 設備となっており、目標値に対する実績の割合が50%未満にとどまっている設備が大半を占めていた(30年報告(2)ウ(ア)b)。 ウ(イ)b
メダル獲得へ向けた競技力の強化 競技力の向上 文部科学省 ハイパフォーマンスセンターの基盤整備 文部科学省が委託契約により実施する25年度から29年度までの競技用具の機能を向上させる技術等の研究開発の実施状況についてみると、開発途中で中止となっていたものは、25年度2件(中止までの累積開発費計2602万余円)、26年度2件(同計1632万余円)、27年度4件(同計4422万余円)、28年度4件(同計6124万余円)、29年度1件(同1379万余円)であり、同省等は、中止の理由について、研究開発対象競技等の見直しにより開発途中で研究開発の対象外となったこと、市販品が販売されて開発の必要がなくなったことなどによるとしている。
リオデジャネイロで開催された第31回オリンピック競技大会及び第15回パラリンピック競技大会(以下「リオ大会」という。)に向けた夏季競技用の研究開発課題81件のうち、リオ大会前に活用されなかったものは、オリンピック競技で計15件(累積開発費計6億2288万余円)、パラリンピック競技で計2件(同計2037万余円)となっていた。
同省及び受託者における評価の状況をみると、25年度から28年度までに終了した研究開発課題の終了時の外部評価等については、リオ大会等に向けた各種のアスリートサポートの効果等を総括した報告書の中で、研究開発についての概括的な評価が行われているものの、個々の研究開発課題についての評価は行われていなかった(30年報告(2)エ(ア))。
エ(ア)b
メダル獲得へ向けた競技力の強化 強化・研究拠点の在り方 文部科学省 ナショナルトレーニングセンター競技別強化拠点施設活用事業 文部科学省が委託して実施している同事業の受託者が所要の手続を行った場合には、同事業の実施により設備備品費で取得した機器等は、事業完了後の年度においても国から無償で借り受けて、競技団体が行う強化活動に活用することができることとなっている。そこで、10施設の事業完了後の年度における活用状況についてみたところ、1施設において、委託事業完了後に国から無償貸付を受けた機器が活用されていない事態が見受けられた(30年報告(2)エ(イ))。 エ(イ)
アンチ・ドーピング対策の体制整備 国内アンチ・ドーピング活動体制の整備 文部科学省 ドーピング防止活動推進事業 文部科学省が毎年度公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構等と委託契約を締結して実施している競技者等への研修、ドーピング検査員の人材育成、ドーピング検査技術の研究開発等のうち、ドーピング検査員の人材育成について、25年度から29年度までのドーピング検査員の認定を受けている者の人数の推移をみると、29年度は269名となっており、毎年度減少している。大会に向けて、29年度末時点では大幅に不足している状況である(30年報告(2)オ)。
教育・国際貢献等によるオリンピック・パラリンピックムーブメントの普及、ボランティア等の機運醸成 国内のオリンピック・パラリンピックムーブメントの普及 文部科学省 オリンピック・パラリンピック・ムーブメント全国展開事業(オリンピック・パラリンピック・ムーブメント調査研究事業) 各自治体が独自に推進するオリンピック・パラリンピックに関する歴史、競技種目、精神、意義等の知識等を学ぶオリンピック・パラリンピック教育(以下「オリパラ教育」という。)について、東京都を除く46道府県及び20政令指定都市(計66自治体)の公立学校における29年度の実施状況をみると、47自治体(66自治体の71.2%。うち都外自治体は12自治体)が実施しており、このうち22自治体は文部科学省の事業によりオリパラ教育を実施している。一方、19自治体(同28.7%。都外自治体はなし)はオリパラ教育を全く実施していない。このように、都外自治体では29年度までにオリパラ教育が実施されているものの、全国でみると実施していない地方自治体が一定程度ある状況となっている(30年報告(2)キ)。

 「大会の円滑な準備及び運営」に資する大会の関連施策は、図表8-2のとおり、復興庁を除く13府省等において、平成25年度から30年度までに8分野の45施策に係る計179事業が実施されており、その支出額は計7900億余円となっている。オリパラ基本方針における8分野ごとにその支出額をみると、「暑さ対策・環境問題への配慮」に係る大会の関連施策の2779億余円が最も多く、次に多いのが「アスリート、観客等の円滑な輸送及び外国人受入れのための対策」に係る大会の関連施策の2081億余円となっている(施策及び事業ごとの概要並びに年度別の支出額については別図表1参照)。

図表8-2 「大会の円滑な準備及び運営」に資する大会の関連施策の支出額(平成25年度~30年度)

(単位:百万円)
府省等名 分野(施策数)
セキュリティの万全と安全安心の確保(10施策) アスリート、観客等の円滑な輸送及び外国人受入れのための対策(13施策) 暑さ対策・環境問題への配慮(3施策) メダル獲得へ向けた競技力の強化(4施策) アンチ・ドーピング対策の体制整備(1施策) 新国立競技場の整備(1施策) 教育・国際貢献等によるオリンピック・パラリンピックムーブメントの普及、ボランティア等の機運醸成(4施策) その他(9施策) 事業数 支出額
事業数 支出額 事業数 支出額 事業数 支出額 事業数 支出額 事業数 支出額 事業数 支出額 事業数 支出額 事業数 支出額   (計に占める割合)
内閣 9 3,295 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 9 3,295 (0.4%)
内閣府 23 5,619 1 3 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 24 5,623 (0.7%)
復興庁 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - -
総務省 7 894 6 3,110 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 2 2,050 15 6,055 (0.7%)
法務省 3 1,062 7 8,198 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 10 9,260 (1.1%)
外務省 1 968 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 8 2,466 0 - 9 3,434 (0.4%)
財務省 1 (※) - 1 (※) - 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 1 (※) - 3 (※) - -
文部科学省 0 - 0 - 0 - 15 82,149 2 1,336 1 136,413 8 6,064 1 30,000 27 255,964 (32.3%)
厚生労働省 7 7,938 3 609 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 1 144 11 8,692 (1.1%)
農林水産省 0 - 2 17 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 2 17 (0.0%)
経済産業省 1 6,063 2 1,427 11 215,646 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 14 223,138 (28.2%)
国土交通省 13 13,053 13 194,771 3 41,327 0 - 0 - 0 - 0 - 1 305 30 249,457 (31.5%)
環境省 3 19 0 - 16 20,974 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 19 20,993 (2.6%)
防衛省 0 - 0 - 0 - 3 3,758 0 - 0 - 0 - 3 339 6 4,097 (0.5%)
68 38,916 35 208,139 30 277,948 18 85,907 2 1,336 1 136,413 16 8,530 9 32,839 179 790,031 (100.0%)
  • 注(1) 「事業数」は、平成30年度までに支出額がある事業のみを計上しており、事業ごとの支出額を算出することが困難であるなどの事業を含む。
  • 注(2) 「支出額」には、事業ごとの支出額を算出することが困難であるなどの事業に係る額は含んでいない。当該事業しかない場合、支出額の欄には(※)を付している。また、各府省等が大会の関連施策として整理している事業を独立行政法人が運営費交付金等を財源として実施する場合における支出額を含む。なお、文部科学省が東京都へ交付したパラリンピック交付金(300億円)については、全額を計上している。
  • 注(3) 「大会の円滑な準備及び運営」に資する大会の関連施策は主な取組内容等により区分したものであり、事業によってはその取組内容に他の分野に該当する内容を含むものもある。

そして、8分野ごとに大会の関連施策の実施状況等をみると、次のとおりである。

ア 「セキュリティの万全と安全安心の確保」に係る大会の関連施策の実施状況

30年度までに実施された「セキュリティの万全と安全安心の確保」に係る大会の関連施策は、内閣等の10府省等が実施した「サイバーセキュリティ確保のための取組の推進」「感染症対策の推進」等の10施策に係る計68事業であり、図表8-2のとおり、25年度から30年度までの支出額は計389億余円となっている。このうち、国土交通省が130億余円(389億余円の33.5%)、厚生労働省が79億余円(同20.4%)となっていて、その多くを占めている(施策及び事業ごとの概要並びに年度別の支出額については別図表1参照)。

上記の10府省等が実施した大会の関連施策について検査した結果、大会の円滑な準備及び運営に資するための課題等が新たに見受けられたものは、次の2事業(別図表1の事業No.(以下、本報告書本文においては「番号」という。)43及び67)であり、特に大会の開催に向けて更なる取組が必要であると認められた。

(ア) サイバーセキュリティ確保のための取組の推進
府省等名 番号 事業名 オリパラ関係予算への計上 ABC分類
内閣 43 リスク評価に基づく対策の促進及び対処体制(オリンピック・パラリンピックCSIRT)の整備 (注) B

(注) 「オリパラ関係予算への計上」の「-」は、オリパラ関係予算としての計上がない事業であることを示す(以下同じ。)。

内閣サイバーセキュリティセンター(以下「NISC」という。)は、大会のサイバーセキュリティに係る脅威・インシデント情報の共有等を担う中核的組織としてサイバーセキュリティ対処調整センターを構築して31年4月から運用している。また、サイバーセキュリティ対処調整センターにおける関係する組織間の情報共有の手段として情報共有システムを構築して、サイバーセキュリティ対処調整センターの運用と合わせて同月から運用を開始している。NISCは、サイバーセキュリティ対処調整センターについて大会の開催2週間前から大会の終了まで24時間体制で運用する予定としており、大会の終了後も活用する方向で検討を進めている。

サイバーセキュリティ対処調整センターに係るシステム整備及び人員等の組織の構築は30年度に実施され、その支出額は計9228万余円となっており、情報共有システムの構築も同年度に実施され、その支出額は計1億1544万余円となっている。

サイバーセキュリティ対処調整センターは、図表8-3のとおり、情報共有システムを通じて、平常時は、政府機関、情報セキュリティ関係機関等との間で大会の運営に支障を来す可能性がある情報等を共有して、この情報に基づき大会組織委員会、大会の円滑な準備、運営及び継続性の確保に不可欠なサービスを提供する各府省等、地方公共団体、民間事業者等(以下「重要サービス事業者等」という。)へ予防的措置等を促すこととするとともに、情報共有システムにおいて、同システムに登録した重要サービス事業者等を対象にした訓練を行うこととしている。そして、サイバー攻撃等の事案発生時には、インシデント等が発生した重要サービス事業者等からの連絡及び支援要請を受けて、対処方針の決定、支援可能な機関への支援要請等を行い、共有可能な範囲のインシデント情報や対処内容について、他の重要サービス事業者等との共有等を行うことを想定している。

図表8-3 サイバーセキュリティ対処調整センターを中心としたサイバーセキュリティ体制

図表8-3 サイバーセキュリティ対処調整センターを中心としたサイバーセキュリティ体制 画像

また、NISCは、サイバーセキュリティ戦略等に基づき、平常時の予防的措置として、重要サービス事業者等を対象としてリスク評価の取組を実施している。

リスク評価の取組に当たって、NISCは、空港、道路・海上・航空交通管制、出入国管理、金融、電力、物流、行政サービス等の分野ごとに所管府省等の協力を得て選定した重要サービス事業者等に対して、リスク評価手順書を提供して自主的な実施を依頼している。NISCは、依頼先の各重要サービス事業者等に対して、大会の準備等に不可欠なサービスを確実に提供する上で想定されるサイバーセキュリティに係るリスクの特定、分析及び評価を自ら行うことを求めている。リスク評価の取組は、28年度から実施されており、令和2年度までの間に実施対象とする事業者の範囲を拡大の上、6回実施される予定である(リスク評価の取組に係る平成30年度までの支出額計5313万余円)。

30年度までのリスク評価の実施状況についてみると、図表8-4のとおり、第1回から第3回までの各回における実施依頼事業者数に対する回答事業者数の割合である回答率は、72.6%から86.7%までとなっている。そして、リスク対応には時間を要するものがあるものの、第2回のリスク評価結果の取りまとめ時点(29年11月)において、第1回で対応が必要なリスクを特定した19事業者のうち、リスク対応を完了したのは2事業者にとどまり、第3回のリスク評価結果の取りまとめ時点(30年11月)において、第2回で対応が必要なリスクを特定した25事業者のうち、リスク対応を完了したのは2事業者にとどまっていた。また、NISCは、同年度に重要サービス事業者等のうち大会への影響度等の観点から特に選定した25事業者に対して、5事業者には実地で、20事業者には書面でそれぞれリスク評価を行い、その結果の検証を行って、検証の結果不備が発見された14事業者に対して改善提案を行い、その改善状況についてフォローアップを行うこととしている。

また、NISCは、重要サービス事業者等が行うリスク評価結果の報告を受けて、それにより明確となる各種リスクへの対応を促進していくこととしている。

図表8-4 リスク評価の実施状況

年度 平成28年度 29年度 30年度
実施主体 重要サービス事業者等 重要サービス事業者等 重要サービス事業者等 NISC
回数 第1回 第2回 第3回 第1回
実施依頼事業者数 97事業者 151事業者 263事業者 25事業者
回答事業者数 75事業者 131事業者 191事業者
回答率 77.3% 86.7% 72.6%
回答事業者のうち対応が必要なリスクを特定した事業者数 19事業者 25事業者 (注) 14事業者
前年度にリスクを特定した事業者のうち、当該年度の結果取りまとめ時点において、リスク対応を完了した事業者数   2事業者 2事業者  

(注) 重要サービス事業者等が実施主体となった第3回のリスク評価の結果は、平成30年度末現在取りまとめ中のため、「-」と記載している。

NISCは、サイバーセキュリティに係る脅威等に対する予防的措置として実施したリスク評価の結果を踏まえて、各重要サービス事業者等においてリスク対応が実施されるようより一層促していく必要がある。

(イ) 感染症対策の推進
府省等名 番号 事業名 オリパラ関係予算への計上 ABC分類
厚生労働省 67 感染症発生動向調査事業 B

厚生労働省は、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年法律第114号)に基づき、感染症の発生情報の正確な把握と分析及びその結果の国民や医療関係者への迅速な提供・公開により、感染症に対する有効かつ的確な予防・診断・治療に係る対策を図り、多様な感染症の発生及びまん延を防止することなどを目的として、感染症発生動向調査事業を実施(30年度までの支出額は計35億4524万余円)しており、その実施主体は国、都道府県及び保健所を設置する市(特別区を含む。)としている。

一方、厚生労働省は、令和2年に開催される大会に合わせて様々な国からの訪日客の増加が見込まれ、感染症発生リスクが増加することが懸念されることから、地域の実情に合わせて、地方公共団体ごとに適切に感染症のリスク評価を実施し、その結果に基づき、事前にサーベイランス(注29)体制の整備等の必要な準備を行うよう「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けての感染症のリスク評価~自治体向けの手順書~」(以下「手順書」という。)を策定している。

(注29)
サーベイランス  継続的、統計的なデータの収集・分析・評価と対策部門・国民への情報提供を行う活動

手順書においては、外国選手団の事前キャンプ地等が所在するなどの関係する地方公共団体において、感染症担当部局が、地域住民、訪日客等における感染症のリスクを事前に評価するための手法として、①基本的な情報の収集と整理(ステップ1)、②リスク評価(ステップ2)、③強化サーベイランスのプランニングを含む対策の策定(ステップ3)の三つのステップが示されている。

平成30年5月末現在におけるホストタウンの事前キャンプ地としての外国選手団の受入れが決定している59地方公共団体について、30年度末現在における感染症のリスク評価の実施状況を確認したところ、感染症のリスク評価を実施していない地方公共団体が24地方公共団体(59地方公共団体の40.6%)見受けられた。また、感染症のリスク評価を実施した35地方公共団体のうち21地方公共団体がステップ2のリスク評価を実施した結果、リスクが増加すると判断していたものの、このうち7地方公共団体(同11.8%)が当該増加するリスクに対する対策の策定であるステップ3の強化サーベイランスのプランニングを含む対策の策定を実施していなかった。

このように、感染症のリスク評価を実施していない24地方公共団体及びリスク評価を実施したものの、増加するリスクに対する対策の策定を実施していない7地方公共団体の計31地方公共団体において、必ずしも適切に感染症のリスク評価の実施又はその結果に基づく事前サーベイランス体制の整備が実施されていない状況となっていた(図表8-5参照)。

図表8-5 リスク評価の実施状況(平成30年度末現在)

(単位:地方公共団体)
地方公共団体 事前キャンプ地としての外国選手団の受入決定地方公共団体数 リスク評価未実施地方公共団体数 リスク評価実施地方公共団体数 対応が必要な地方公共団体数  
  割合   割合 リスク評価の結果、リスクが増加するとした地方公共団体数 割合 ステップ3を実施していない地方公共団体数 割合 割合
(a) (b) (b)/(a) (c) (c)/(a) (d) (d)/(a) (e) (e)/(a) (f)=(b)+(e) (f)/(a)
  地方公共団体数 59 24 (40.6%) 35 (59.3%) 21 (35.5%) 7 (11.8%) 31 (52.5%)
うち都道府県数 36 16 (44.4%) 20 (55.5%) 11 (30.5%) 4 (11.1%) 20 (55.5%)
うち保健所設置市数 23 8 (34.7%) 15 (65.2%) 10 (43.4%) 3 (13.0%) 11 (47.8%)

厚生労働省は、感染症の予防等に係る対策を図るなどのために実施している感染症発生動向調査事業の目的をより確実に達成するために、感染症のリスクを適切に評価して、事前にサーベイランス体制の整備等を行うなど必要な準備に一層努めるよう関係する地方公共団体に促す必要がある。

イ 「アスリート、観客等の円滑な輸送及び外国人受入れのための対策」に係る大会の関連施策の実施状況

30年度までに実施された「アスリート、観客等の円滑な輸送及び外国人受入れのための対策」に係る大会の関連施策は、内閣府等の8府省が実施した「道路輸送インフラの整備」等の13施策に係る計35事業であり、図表8-2のとおり、25年度から30年度までの支出額は計2081億余円となっている。このうち、国土交通省が1947億余円(2081億余円の93.5%)となっていて、その大部分を占めている(施策及び事業ごとの概要並びに年度別の支出額については別図表1参照)。

上記の8府省が実施した大会の関連施策について検査した結果、大会の円滑な準備及び運営に資するための課題等が新たに見受けられたものは、次の2事業(番号69及び70)であり、特に大会の開催に向けて更なる取組が必要であると認められた。

府省等名 番号 事業名 オリパラ関係予算への計上 ABC分類
法務省 69 自動化ゲートの更新・増配備 B
法務省 70 顔認証技術を活用した自動化ゲートの導入 B

法務省は、 19年度に、日本人及び日本に在留している外国人(以下「在留外国人」という。)で再入国許可を受けた者等(以下、これらを合わせて「日本人等」という。)の出入(帰)国手続について、あらかじめ入国管理局(31年4月1日以降は、出入国在留管理庁)に個人識別情報(指紋及び顔写真)を提供し、登録して、登録されている情報と出入(帰)国の際に機械的に読み取らせた情報とを照合することで入国審査官による対面審査を行わずに本人確認を行う自動化ゲート(以下「指紋認証ゲート」という。)を40台導入している。

その後、25年5月に第6次出入国管理懇談会により取りまとめられた「訪日外国人2500万人時代の出入国管理行政の在り方に関する検討結果(報告)」によれば、今後の自動化ゲートの在り方として、日本人等の出入(帰)国手続に自動化ゲートの導入を図ることで、増加が予想される訪日外国人の出入国審査により多くの入国審査官を充てることが可能となり、審査の円滑化に繋がることが期待できるなどとされている。また、導入する自動化ゲートについては、実証実験の結果から、指紋の認証が必要なく、旅券を取得する際の顔写真を活用することで事前登録手続を不要とすることができる顔認証ゲートを直ちに導入することは困難であるとし、顔認証ゲートの導入が可能となるまでの間、指紋認証ゲートを複数台設置して利便性の向上を図ることとされている。法務省は、この報告を踏まえて、円滑な出入国管理を実現するなどのために、26年度に、指紋認証ゲートをそれまでの40台に加えて30台増設しており、図表8-6のとおり、令和元年7月末現在で、成田、羽田、中部、関西各空港において計70台を設置・運用している。また、法務省は、指紋認証ゲートの設置・運用のために、毎年度、当該機器等を賃借するなどしており、平成26年度から30年度までの賃借料等の経費は計11億4332万余円となっている。

図表8-6 指紋認証ゲートの設置・運用状況(令和元年7月末現在)

(単位:台)
空港名 成田空港 羽田空港 中部空港 関西空港 合計
ターミナル 第1ターミナル 第2ターミナル 第3ターミナル 国際線ターミナル 国際線ターミナル 第1ターミナル 第2ターミナル
審査場等 北ウィング 南ウィング B
(北側)
A
(南側)
中央審査場 北審査場
  上陸 4 4 4 4 0 32 4 10 4 8 4 4 2 20 70
出国 4 4 4 4 0 4 2 4 4 4 2

その後、法務省は、顔認証技術の確立に伴い、29年度から順次、顔認証ゲートを設置・運用している。事前登録手続が必要となる指紋認証ゲートよりも利便性が高い顔認証ゲートは、同年10月に羽田空港で3台が導入されて以降増設しており、図表8-7のとおり、令和元年7月末現在で、成田、羽田、中部、関西、福岡各空港において計137台が設置され、日本人の出帰国審査に利用されている。なお、法務省は、同年7月24日から、羽田空港において、顔認証ゲートの外国人出国手続における運用を開始しており、成田空港等6空港においても、順次、運用を開始することとしている。

図表8-7 顔認証ゲートの設置・運用状況(令和元年7月末現在)

(単位:台)
空港名 成田空港 羽田空港 中部空港 関西空港 福岡空港 合計
ターミナル 第1ターミナル 第2ターミナル 第3ターミナル 国際線ターミナル 国際線ターミナル 第1ターミナル 第2ターミナル 国際線ターミナル
審査場等 北ウィング 南ウィング B
(北側)
A
(南側)
中央審査場 北審査場
  上陸 6 10 6 6 3 61 10 23 6 15 6 6 0 27 5 11 137
出国 6 10 6 6 2 10 3 9 8 7 0 6

そして、顔認証ゲートの設置が開始された平成29年から令和元年5月までの顔認証ゲートと指紋認証ゲートそれぞれの日本人出帰国者数に対する利用者数の割合について確認したところ、図表8-8のとおり、顔認証ゲートについては、増設に伴い18.5%から76.0%に増加している一方、指紋認証ゲートについては、8.6%から3.7%に低下している。また、会計検査院において、平成31年及び令和元年中における両ゲートの日本人出帰国者数及び利用者数に基づき1台当たりの月間利用人数を算出したところ、顔認証ゲートが16,890人/台となるのに対して、指紋認証ゲートは1,521人/台となっていた。

図表8-8 日本人の出帰国審査における指紋認証ゲートと顔認証ゲートの利用状況(令和元年5月末現在)

(単位:人)
区分 指紋認証ゲート(4空港設置) 顔認証ゲート(5空港設置)
日本人出帰国者数 A 利用者数
B
割合
C=B/A
日本人出帰国者数 D 利用者数
E
割合
F=E/D
平成25年 31,333,715 1,224,301 3.9%  
26年 30,499,260 1,570,323 5.1%
27年 29,508,511 2,048,942 6.9%
28年 30,934,774 2,500,413 8.0%
29年 32,290,140 2,804,354 8.6% 1,138,584 211,327 18.5%
30年 33,847,662 2,657,751 7.8% 16,292,270 9,615,602 59.0%
31年、令和元年 14,333,913 532,420 3.7% 15,206,076 11,570,189 76.0%
(参考)
1台当たりの月間利用人数
532,420人÷70台÷5か月=1,521人/台
11,570,189人÷137台÷5か月=16,890人/台
  • 注(1) 令和元年の日本人出帰国者数並びに指紋認証ゲート及び顔認証ゲート利用者数は7月末時点の速報値である。また、両ゲートの設置空港数の内訳については、図表8-6及び図表8-7参照
  • 注(2) 顔認証ゲートに係る日本人出帰国者数及び利用者数は、ゲートが導入された月からの計数を集計しており、羽田空港上陸審査場が平成29年10月、出国審査場が30年10月、成田空港上陸審査場が同年6月、出国審査場が同年10月、中部空港上陸審査場が同年7月、出国審査場が同年11月、関西空港上陸審査場が同年7月、出国審査場が同年11月、福岡空港上陸審査場が同年8月、出国審査場が同年11月からの計数を集計したものとなっている。ただし、羽田空港上陸審査場については、同年7月から顔認証ゲートが本格運用されており、29年10月から30年6月までの間は、開発プロセスの一環として設置された3台のみの利用者数を集計している。
  • 注(3) 「(参考)1台当たりの月間利用人数」は、平成31年及び令和元年の利用人数を設置台数と月数で除した参考値である。

大会の開催に伴う出入国管理については、開会式や閉会式の前後に、要人を含む特別対応が必要な多くの関係者やパラリンピック選手団等が短期間に出入国するなどの大会特有の事情が生ずることが見込まれるため、審査における厳格さを維持しつつ円滑に行う必要がある。

指紋認証ゲートについては、利用が低調となっている一方で、在留外国人に係る唯一の自動化ゲートとして運用されている側面もある。法務省は、顔認証技術の確立に伴い利便性が高く利用者数の割合が増加している顔認証ゲートの導入が進んでいることから、より効率的な出入国審査を追求するために、指紋認証ゲートの需要等に見合った設置台数の見直しを行うなど、限られた審査場のスペースを最大限活用する方策を検討する必要がある。

ウ 「暑さ対策・環境問題への配慮」に係る大会の関連施策の実施状況

平成30年度までに実施された「暑さ対策・環境問題への配慮」に係る大会の関連施策は、環境省等の3省が実施した「環境配慮の推進」「分散型エネルギー資源の活用によるエネルギー・環境課題の解決」等の3施策に係る計30事業であり、図表8-2のとおり、25年度から30年度までの支出額は計2779億余円となっている(施策及び事業ごとの概要並びに年度別の支出額については別図表1参照)。

上記の3省が実施した大会の関連施策について検査した結果、大会の円滑な準備及び運営に資するための課題等が新たに見受けられたものは1事業(番号112)であり、30年報告において課題等を報告したものについてのフォローアップ検査を実施したものは2事業(番号123及び128)である。これら3事業の検査結果を施策ごとに整理して示すと次のとおりであり、このうち1事業(番号128)については特に大会の開催に向けて更なる取組が必要であると認められた。

(ア) 環境配慮の推進
府省等名 番号 事業名 オリパラ関係予算への計上 ABC分類
環境省 112 容器包装における環境負荷低減効果等モデル実証事業の実施等業務のうち2020年東京オリンピック・パラリンピックにおける3R推進の調査・検討 (注) B

(注) 「オリパラ関係予算への計上」の「△」は、オリパラ関係予算として一部計上されているなどの事業であることを示す(以下同じ。)。

環境省は、26年8月に「2020年オリンピック・パラリンピック東京大会を契機とした環境配慮の推進について」を取りまとめて、リデュース・リユース・リサイクル(以下「3R」という。)の推進等の各種の取組を当面の取組として整理しており、容器包装廃棄物の3Rを推進する国民の意識向上等により、循環型社会の構築を一層推進することを目的として、容器包装廃棄物に係る3Rを促進する業務を実施している(以下「3R促進業務」という。)。

また、環境省は、容器包装廃棄物の排出抑制についての消費者の意識啓発等を図るために、19年から環境大臣により3R推進マイスターと呼ばれる推進員の委嘱を行ってきている。

環境省は、3R促進業務の一環として、若手の3R推進マイスターを育成するために、大会にボランティアとして参加する中高生に、体験も含めた研修を行うための課題整理等を行う「2020年東京オリンピック・パラリンピックにおける3R推進の調査検討等業務」(以下「3R推進業務」という。)を28年度387万余円、29年度267万余円、30年度89万余円、計744万余円で実施している。

東京都及び大会組織委員会は、28年12月に「東京2020大会に向けたボランティア戦略」を策定しており、大会ボランティア・都市ボランティアには、全員に必要な基礎知識を共通の研修を通じて習得してもらうこととしている。共通研修の内容としては、「持続可能性」等が例示されており、具体的な研修内容等については、国や関係機関と連携を取りながら検討していくこととしている。

また、大会組織委員会が30年6月に公表した「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会持続可能性に配慮した運営計画(第二版)」によれば、大会組織委員会は、大会を契機として若手の3R推進マイスターの育成等を行う環境省と連携し、環境教育の一環として持続可能性についての研修を行い、当該研修を通じて、持続可能性への理解を深めた青少年の大会参加を促進することなどとされている。

環境省は、30年7月に3R推進業務により調査・検討等を行って、中高生を対象とした「持続可能性活動サポートボランティア」を若手の3R推進マイスターとして育成するために取りまとめた「2020年大会を契機とした3R人材育成プログラム(研修プログラム)案」を大会組織委員会に提出している。しかし、大会組織委員会から、同年12月に、「持続可能性活動サポートボランティア」を大会へ参加させることについて、夏の暑さを理由に困難になったとの連絡があった。そのため、上記のプログラム案は、当初予定していた「持続可能性活動サポートボランティア」の若手の3R推進マイスターとしての育成には使用されないことなどから、環境省は、同年度にオリパラ関係予算500万円を計上して3R促進業務の中で発注する予定であった3R人材育成プログラムの運用状況を評価する業務等の実施を取りやめている。

上記のプログラム案等については、今後の他の機会等で活用が図られるようにすることが望まれる。

(イ) 分散型エネルギー資源の活用によるエネルギー・環境課題の解決

前記の「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会持続可能性に配慮した運営計画(第二版)」によれば、大会車両に燃料電池自動車(以下「FCV」という。)等を導入するほか、大会に水素エネルギーを積極的に活用していくこととされている。

国は、29年12月に、将来の水素社会実現に向けて官民が共有すべき方向性・ビジョン及び行動計画である「水素基本戦略」を策定しており、その中で、大会を、水素社会実現に向けた我が国の先進的な取組を多くの国民や訪日する外国人に発信する絶好の機会と位置付けている。また、30年7月に策定された「第五次エネルギー基本計画」においても、大会の開催時に、水素・燃料電池技術を世界にアピールすることなどとされている。

a 商用の水素ステーションの整備・運用

府省等名 番号 事業名 オリパラ関係予算への計上 ABC分類
経済産業省 123 燃料電池自動車の普及促進に向けた水素ステーション整備事業費補助金 B

水素基本戦略によれば、商用の水素ステーション(以下「商用ステーション」という。)を令和2年度までに160か所整備するとされている。経済産業省は、平成25年度から、FCVの普及により早期に自立的な市場を確立して、内外の経済的社会的環境に応じた安定的かつ適切なエネルギー需給構造の構築に資するとともに、関連産業の振興や雇用創出を図ることを目的として、「燃料電池自動車の普及促進に向けた水素ステーション整備事業費補助金」により、事業主体に対して商用ステーション等の導入に要する経費等の一部を補助している。本補助事業に係る25年度から30年度までの支出額は計256億5529万余円となっており、このうち、上記の6か年度における商用ステーションの設置事業に係る同補助金の交付件数及び交付額は、計93件、計196億3011万余円となっている。

30年報告においては、29年度末までに上記の補助金を活用するなどして運用されている商用ステーションは98か所であることを報告した。そして、①補助金を活用して運用されている商用ステーションの設備のうち、事業主体が策定する事業計画において年間水素充塡量を計画値として設定している設備(28年度は67設備、29年度は70設備)について、当該計画充塡量と充塡量の実績を比較すると、計画充塡量を達成しているのは28年度において2設備、29年度において3設備のみであり、両年度共に6割を超える設備において計画充塡量に対する充塡量の実績の割合が25%未満となっていること、②このように設備の稼働が低調なのは、各地域におけるFCVの普及台数が計画時に想定した普及台数に満たないことなどによること及び③利用者から土日祝日が休業日となっているなどの利便性の面での課題が指摘されている商用ステーションもあり、利便性を向上させるためには商用ステーションにおける運営方法等に係る課題を改善する必要があることを報告した。

そして、30年報告後の商用ステーションの整備状況について確認したところ、30年度末現在、図表8-9のとおり、商用ステーションは103か所で運用されており、令和2年度までの目標設置箇所数160か所に対する達成率は64.3%となっていた。

図表8-9 商用ステーションの整備状況

年度 平成
26年度
27年度 28年度 29年度 30年度 令和2年度までの目標(160か所)に対する達成率
運用開始箇所数 16 58 16 8 5 103 64.3%

(注) 商用ステーションの設備が移動式の場合は複数の箇所で運用されることがあるため、本図表における箇所数は、補助金により整備された設備数とは一致しない。

また、平成30年度末現在で運用されている商用ステーションの設備のうち、年間水素充塡量を計画値として設定している75設備について、同年度の充塡量の実績をみると、図表8-10のとおり、計画充塡量を達成しているのは1設備のみであり、30年報告における状況を上回る8割を超える設備において、計画充塡量に対する充塡量の実績の割合が25%未満となっていた。一方、商用ステーションにおける運営方法等に係る課題については、経済産業省は、商用ステーションの利便性の向上を図るために、令和元年度から商用ステーションの運営に係る補助金について、平日よりも土日の営業に係る金額を割り増すように変更を行うことにより、利用者からの要望の多かった土日営業を事業主体に促すなどしている。

図表8-10 計画充塡量を設定している商用ステーションの設備の稼働状況

計画充塡量に対する充塡量の実績の割合 0%以上
25%未満
25%以上
50%未満
50%以上
75%未満
75%以上
100%未満
100%以上
設備数
(計に対する割合)
平成
28年度
44 16 2 3 2 67
(65.6%) (23.8%) (2.9%) (4.4%) (2.9%) (100.0%)
29年度 51 11 1 4 3 70
(72.8%) (15.7%) (1.4%) (5.7%) (4.2%) (100.0%)
30年度 63 7 1 3 1 75
(84.0%) (9.3%) (1.3%) (4.0%) (1.3%) (100.0%)

(注) 設置初年度の設備については、年度途中から稼働することになるため、計画充塡量に対する充塡量の実績の割合を算出する際に、充塡量の実績を商用ステーションの稼働月数で割り戻した値に12を乗じたものを1年間の充塡量として計算している。

上記のほか、商用ステーションの整備に関連して、東京都交通局の経営計画では、大会までに最大70台の燃料電池バス(以下「FCバス」という。)を都営バスとして導入する予定としている。

平成30年度末現在における東京都によるFCバスの導入台数は計15台となっている。このうち、29年度に導入された3台については、国土交通省の低公害車普及促進対策費補助金(地域交通のグリーン化に向けた次世代環境対応車普及促進事業)計1億円が活用されており、30年度に導入された12台については、環境省の二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金(再エネ水素を活用した社会インフラの低炭素化促進事業)計4億2000万円が活用されている。

同年度末現在、FCバスに対して安定的に水素を供給することができる商用ステーションは都内に2か所であることから、東京都は、大会までに導入を予定している残りの車両(最大55台)については、FCバスに対応した商用ステーションの今後の整備状況を踏まえて段階的に導入するとしている。

b 再生可能エネルギー由来の水素ステーションの整備・運用

府省等名 番号 事業名 オリパラ関係予算への計上 ABC分類
環境省 128 再エネ水素を活用した社会インフラの低炭素化促進事業(一部経済産業省、一部国土交通省連携事業)のうち地域再エネ水素ステーション導入事業及び水素ステーション保守点検支援事業 B

水素基本戦略によれば、再生可能エネルギー由来の水素ステーション(以下「再エネ水素ステーション」という。)を令和2年度までに100か所程度設置することを目指して、水素需要の喚起や普及啓発及び社会受容性の向上を図るとされている。

環境省は、平成27年度から、FCVの普及を促進し、もってエネルギー起源二酸化炭素(注30)の排出抑制に資することを目的として、地方公共団体や民間団体等が再エネ水素ステーションを設置する事業に要する経費に充てるために、二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金(地域再エネ水素ステーション導入事業。29年度は再エネ等を活用した水素社会推進事業、30年度は再エネ水素を活用した社会インフラの低炭素化促進事業)を交付しており、27年度から30年度までの4か年度における交付件数及び交付額は、計28件、計30億1019万余円となっている。

(注30)
エネルギー起源二酸化炭素  燃料の燃焼、他者から供給された電気又は熱の使用に伴い排出される二酸化炭素

30年報告においては、29年度末時点で環境省の補助金を活用するなどして稼働している再エネ水素ステーションは22か所であること、また、事業主体等が別途調達するFCVが本補助事業で導入された再エネ水素ステーションから水素の充塡を受けて走行した距離等に基づいて算出される二酸化炭素排出量の削減状況をみると、二酸化炭素排出削減量の目標値を達成しているのは、28年度において1か所、29年度において2か所となっており、両年度共に目標値に対する実績の割合が50%未満にとどまっている設備が大半を占めていることを報告した。そして、環境省において、今後、再エネ水素ステーションが十分に利用されることにより本補助事業の目的である二酸化炭素排出抑制が達成されるよう、事業主体等に対して指導等を行う必要があることを報告した。

30年報告後の再エネ水素ステーションの設置状況について確認したところ、運用開始箇所数は、 30年度末現在、図表8-11のとおり27か所であり、令和2年度までの目標設置箇所数100か所に対する達成率は27.0%にとどまっていた。

図表8-11 再エネ水素ステーションの目標設置箇所数と実績の対比

年度 平成27年度 28年度 29年度 30年度 令和2年度までの目標(100 か所)に対する達成率
運用開始箇所数 3 7 12 5 27 27.0%

(注) 運用開始箇所数には、本補助事業の補助金の交付を受けないで設置された再エネ水素ステーション4か所(平成27年度1か所、28年度1か所、29年度1か所及び30年度1か所)が含まれている。本補助事業で設置されて、30年度末時点で稼働している再エネ水素ステーションは計23か所である。

また、二酸化炭素削減量の実績については、平成30年度において二酸化炭素削減量の目標値を達成しているのは図表8-12のとおり10か所であり、半数以上の再エネ水素ステーションにおいて目標値を達成していない状況となっていた。

図表8-12 本補助事業で導入された再エネ水素ステーションによる二酸化炭素排出量の削減状況

二酸化炭素排出削減量の目標値に対する実績の割合 0%以上
25%未満
25%以上
50%未満
50%以上
75%未満
75%以上
100%未満
100%以上
箇所数
(計に対する割合)
平成
28年度
3 3 1 0 1 8
(37.5%) (37.5%) (12.5%) - (12.5%) (100.0%)
29年度 6 8 1 2 2 19
(31.5%) (42.1%) (5.2%) (10.5%) (10.5%) (100.0%)
30年度 4 4 3 2 10 23
(17.3%) (17.3%) (13.0%) (8.6%) (43.4%) (100.0%)

(注) 設置初年度の設備については、年度途中から稼働することになるため、二酸化炭素排出削減量の目標値に対する実績の割合を算出する際に、削減量の実績を再エネ水素ステーションの稼働月数で割り戻した値に12を乗じたものを1年間の削減量として計算している。

30年報告を踏まえて、環境省は、30年12月に、毎月の事業実施状況の報告を行うよう各事業主体に対して指示している。そして、各事業主体が行っている目標の設定及び目標達成状況の評価の方法について再確認した上で、再エネ水素ステーションの利用実績が著しく低い事業主体に対しては、当該事業主体による利用率向上に向けた取組内容を提出するよう指示している。

環境省は、上記の各事業主体から提出された報告等を基に、各事業主体の事業実施状況を的確に把握して、再エネ水素ステーションの更なる利用を促進することにより、水素需要の喚起や普及啓発及び社会受容性の向上に資するよう、事業主体等に対して指導等を行う必要がある。

エ 「メダル獲得へ向けた競技力の強化」に係る大会の関連施策の実施状況

30年度までに実施された「メダル獲得へ向けた競技力の強化」に係る大会の関連施策は、文部科学省及び防衛省が実施した「競技力の向上」「強化・研究拠点の在り方」「自衛官アスリートの育成及び競技力向上」等の4施策に係る計18事業であり、図表8-2のとおり、25年度から30年度までの支出額は計859億余円となっている。このうち、文部科学省が821億余円(859億余円の95.6%)となっていて、その大部分を占めている(施策及び事業ごとの概要並びに年度別の支出額については別図表1参照)。

上記の2省が実施した大会の関連施策について検査した結果、大会の円滑な準備及び運営に資するための課題等が新たに見受けられたものは1事業(番号134)であり、30年報告において課題等を報告したものについてのフォローアップ検査を実施したものは3事業(番号139及び145並びに142)である。これらの4事業の検査結果を施策ごとに整理して示すと次のとおりである。

(ア) 競技力の向上

文部科学省は、スポーツ基本法(平成23年法律第78号)に基づき、24年度から10年間程度を見通した上でのおおむね5年間の期間に係る計画としてスポーツ基本計画(平成24年3月30日文部科学省策定。以下「第1期スポーツ基本計画」という。)を策定している。そして、第1期スポーツ基本計画に続き、大会開催期間前後を含む29年度から令和3年度までの5年間におけるスポーツ立国を目指す上での指針として、第2期スポーツ基本計画(平成29年3月24日文部科学省策定。以下、第1期スポーツ基本計画と合わせて「スポーツ基本計画」という。)を策定している。

スポーツ基本計画においては、国際競技力の向上に向けた人材育成や環境整備について、国際競技大会において優れた成績を上げる競技数が増加するよう、各競技団体が行う競技力の強化を支援することとなっていることから、文部科学省は、競技力向上事業、ハイパフォーマンスセンターの基盤整備等の事業を実施している。

a 競技力向上事業

府省等名 番号 事業名 オリパラ関係予算への計上 ABC分類
文部科学省
【JSC】
134 競技力向上事業 A

競技力向上事業は、文部科学省がJSCに交付した運営費交付金を原資としてJSCが一元的に実施しており、①競技団体が行う国際競技力の向上を目指して計画的かつ継続的に実施する選手強化活動に対する支援として競技力向上事業助成金(以下「競技力助成金」という。)を交付する「基盤的強化」(平成30年度交付額計76億2568万余円)と、②オリンピック・パラリンピック競技大会等で活躍が期待される次世代アスリートの発掘・育成などの戦略的な強化に関する取組への支援を行う「戦略的強化」(30年度契約金額等計11億6335万余円)に区分されて実施されている。

このうち基盤的強化は、図表8-13のとおり、JSCが、JOC又はJPCに加盟している競技団体に対して、JOC又は公益財団法人日本障がい者スポーツ協会を経由して競技力助成金を交付している。

図表8-13 競技力向上事業(基盤的強化)における競技力助成金の交付の流れ

図表8-13 競技力向上事業(基盤的強化)における競技力助成金の交付の流れ 画像

27年度から30年度までの競技力助成金の交付額は、図表8-14のとおりである。

図表8-14 競技力助成金の交付額(平成27年度~30年度)

(単位:千円)
年度 助成区分 選手強化事業 コーチ設置事業 選手発掘事業 加盟競技団体選手強化体制整備事業 統括団体選手強化体制整備事業 オリンピック・パラリンピック合計
選手強化活動事業 コーチ力強化事業 次世代アスリート育成強化事業(注) ナショナルコーチ等設置事業 専任コーチ等設置事業 その他
金額 団体数 金額 団体数 金額 団体数 金額 団体数 金額 団体数 金額 団体数 金額 団体数 金額 団体数 金額 団体数
平成
27
オリンピック 2,123,844 49 42,466 19 1,117,115 27 416,202 22 921,034 32 6,595 1             4,627,256 5,656,891
パラリンピック 798,527 47 1,578 2         66,720 11 - 0 8,486 1 96,394 40 57,930 1 1,029,635
28 オリンピック 2,342,567 53 45,450 22 1,232,104 29 429,312 23 1,089,813 34 5,834 1             5,145,080 6,425,384
パラリンピック 848,371 47 2,533 4         195,970 14 276 1 10,021 1 171,899 47 51,234 1 1,280,304
29 オリンピック 3,307,558 53 121,231 22 1,479,884 40 523,100 25 1,228,419 36 12,963 1             6,673,155 8,344,604
パラリンピック 1,105,653 47 4,738 3 28,623 13 9,600 1 274,500 20 2,063 1     171,988 46 74,284 1 1,671,449
30 オリンピック 2,796,286 54 112,343 18 1,291,355 39 504,624 25 1,310,873 38 7,485 1             6,022,966 7,625,681
パラリンピック 1,023,697 48 3,296 1 36,937 13 16,800 2 327,220 24 2,000 1     133,899 43 58,866 1 1,602,715
オリンピック 10,570,255   321,490   5,120,458   1,873,238   4,550,139   32,877               22,468,457 28,052,560
パラリンピック 3,776,248   12,145   65,560   26,400   864,410   4,339   18,507   574,180   242,314   5,584,103

(注) 次世代アスリート育成強化事業は平成29年度以降の事業名称であり、27、28両年度の事業名はターゲットエイジ育成強化事業である。

JOCを経由する各競技団体への競技力助成金の配分については、スポーツ庁が示す競技力向上事業の実施に関する基本方針を踏まえて、JSCが競技力向上事業に関する実施基準を定めている。実施基準では、JOCから提出される計画を基に、各競技団体の主要国際競技大会の成績、強化活動の事業計画やコーチ等の資質向上等の取組及び組織体制(ガバナンス等)、強化戦略プランの達成度等の観点から評価して競技力助成金の配分を決定することとしている。このうち、組織体制の評価については、JSCが実施する各競技団体に対するガバナンス調査を実施しており、調査項目は、会議体の権限分配、公正な会計原則の実施、財務計画、アンチドーピング活動の取組、コンプライアンスの徹底に向けた対策等となっている。また、強化戦略プランの達成度の評価については、JSC内に設置されたJOC及びJPCとの協働チームによる強化戦略プランの計画性・実効性の検証等を経て、JSCが設置した第三者で構成する評価委員会において評価した結果によることとしている。

このように、JSCから各競技団体への競技力助成金の配分に当たっては、各競技団体の強化活動の取組についての評価を反映するなどして行ってきている。一方、近年、競技団体における不適切な経理処理や反社会的勢力との関わり、アスリートによる違法賭博、選手・指導者間又は選手間における暴力行為やハラスメント等のコンプライアンス違反事案が相次いでおり、競技団体自らの積極的な組織改善を図る取組、個人のコンプライアンス意識の醸成、モラル啓発等の取組及び計画的な選手育成を行うことが必要となっている。これに対して、スポーツ庁は、30年12月にスポーツ・インテグリティ(注31)の確保に向けたアクションプランを策定して、スポーツ団体が遵守すべき原則・規範を定めて各団体の適合性審査を行うなどの取組を行うこととしている。また、JOCは、大会に向けた選手強化本部のテーマとして、「人間力なくして競技力向上なし」を掲げ、選手強化、強化スタッフの育成及びこれらの支援に加えて、人間力を高める教育プログラムに力を入れていて、暴力、ハラスメント、薬物、危険ドラッグ、反社会的勢力、違法賭博、ギャンブル、八百長、差別表現、飲酒トラブル、ソーシャルメディア・SNS等をテーマとするコンプライアンス教育を含むインテグリティ教育事業を拡充している。このようにコンプライアンス違反事案の防止や競技団体のガバナンス強化のための取組を行うことは、各競技団体が選手を育成し強化する組織体制を構築する上で重要であり、JSCが行う競技力助成金の配分を決定する際の評価に取り入れられるべき要素に該当すると考えられる。

(注31)
インテグリティ  誠実性・健全性・高潔性

そこで、会計検査院が各競技団体のオリンピック強化指定選手に対するインテグリティ教育の実施状況や、各競技団体が明確な責任者を設置して計画的な選手・指導者等の育成の取組を実施しているかなどのガバナンス体制について、JOCが各競技団体を調査等している内容を分析するなどして、各競技団体の取組状況についてみたところ、図表8-15のとおり、オリンピック強化指定選手の中でインテグリティ教育プログラムを受講した選手の割合が50%未満となっている団体が見受けられたり、選手の教育・育成が計画的に行われていなかったり、選手の教育・育成の責任者が明確になっていなかったりしているなどのガバナンスに課題がある団体が見受けられた。

図表8-15 インテグリティ教育、選手・指導者等の計画的な育成の状況等

(単位:団体)
調査項目
競技団体区分
競技
団体数
JOCインテグリティ教育プログラムの競技団体ごとの活用状況
強化指定選手の中でインテグリティ教育プログラムを受講した選手の割合が以下の範囲の競技団体 講師派遣プログラムを一度も活用していない競技種別がある競技団体 ナショナルコーチ、専任コーチ等の中でインテグリティ教育プログラムを受講したコーチの割合が以下の範囲の競技団体 代表者会議・合宿への団体としての出席率が75%未満の競技団体
50%未満 50%以上
80%未満
50%未満 50%以上
80%未満
  (割合)   (割合)   (割合)   (割合)   (割合)   (割合)
オリンピック競技
夏季
35 6 11.1% 7 12.9% 20 37.0% 1 1.8% 6 11.1% 12 22.2%
冬季
6 4 7.4% 0 - 4 7.4% 2 3.7% 0 - 4 7.4%
その他競技 13 0 - 13 24.0% 13 24.0% 0 - 13 24.0% 13 24.0%
54 10 18.5% 20 37.0% 37 68.5% 3 5.5% 19 35.1% 29 53.7%
 
調査項目
競技団体区分
競技
団体数
競技団体における取組状況
選手の教育・育成の責任者が明確になっていない競技団体 指導者の教育・育成の責任者が明確になっていない競技団体 選手の教育・育成が計画的に行われていない競技団体 指導者の教育・育成が計画的に行われていない競技団体
  (割合)   (割合)   (割合)   (割合)
オリンピック競技
夏季
35 2 3.7% 5 9.2% 7 12.9% 10 18.5%
冬季
6 1 1.8% 2 3.7% 3 5.5% 3 5.5%
その他競技 13 2 3.7% 1 1.8% 9 16.6% 6 11.1%
54 5 9.2% 8 14.8% 19 35.1% 19 35.1%

(注) 表中の「(割合)」は、全競技団体数(54団体)に対する割合である。

なお、JSCは、令和元年度から、競技力向上事業の実施に当たり、新たなインテグリティ教育プログラムの活用状況、競技団体における選手・指導者の教育・育成計画の策定・実行状況及び責任者の明確化についての評価を新たに行うなどの見直しを実施している。

b ハイパフォーマンスサポート事業等

府省等名 番号 事業名 オリパラ関係予算への計上 ABC分類
文部科学省 139 ハイパフォーマンス・サポート事業 (注) A
文部科学省 145 ハイパフォーマンスセンターの基盤整備 A

(注) 「オリパラ関係予算への計上」の「○」は、オリパラ関係予算として全額計上されている事業であることを示す(以下同じ。)。

文部科学省は、スポーツ基本計画等に基づき、我が国の国際競技力を強化していくために、競技用具の機能を向上させる技術等の研究開発等を「ハイパフォーマンスセンターの基盤整備」(平成28年度までは「ハイパフォーマンスサポート事業」等)によりJSC等に委託して実施している。

30年報告においては、同省及び受託者が、25年度から28年度までに終了した研究開発課題の終了時の外部評価等については、28年にリオデジャネイロで開催された第31回オリンピック競技大会及び第15回パラリンピック競技大会等に向けた各種のアスリートサポートの効果等を総括した報告書の中で、研究開発についての概括的な評価が行われているものの、個々の研究開発課題についての評価は行われていなかったことを報告した。そして、同省は、研究開発の評価結果を研究開発の計画等に適切に反映するという循環過程を構築するために、本委託事業の評価において、終了時の外部評価等の導入を検討する必要があることを報告した。

30年報告後の研究開発の状況について確認したところ、受託者であるJSCにおいて、外部の専門家から構成される評価委員会による事後評価を行うこととして、30年に平昌で開催された第23回オリンピック冬季競技大会及び第12回パラリンピック冬季競技大会に向けた研究開発については、同年12月に開催した評価委員会において事後評価を実施していた。

(イ) 強化・研究拠点の在り方
府省等名 番号 事業名 オリパラ関係予算への計上 ABC分類
文部科学省 142 ナショナルトレーニングセンター競技別強化拠点施設活用事業 A

文部科学省は、NTC(中核拠点)のみでは対応できない冬季競技や、屋外系競技等について、既存のトレーニング施設をナショナルトレーニングセンター競技別強化拠点施設(以下「競技別NTC」という。)に指定して、ナショナルトレーニングセンター競技別強化拠点施設活用事業を競技別NTCの設置者や、指定管理者等に委託して実施している。

30年報告においては、同事業の受託者が所要の手続を行った場合には、同事業の実施により設備備品費で取得した機器等を事業完了後の年度においても国から無償で借り受けて、競技団体が行う強化活動に活用することができることとなっているが、1施設において、委託事業完了後に国から無償貸付を受けた機器が活用されていない事態が見受けられたことを報告した。

30年報告後の機器の活用状況について確認したところ、同機器が同施設に保有されている事実が競技団体に対して周知され、同機器は30年度中に行われた競技団体の強化合宿において活用されていた。

オ 「アンチ・ドーピング対策の体制整備」に係る大会の関連施策の実施状況

30年度までに実施された「アンチ・ドーピング対策の体制整備」に係る大会の関連施策は、図表8-2のとおり、文部科学省が実施する2事業であり、25年度から30年度までの支出額は計13億余円となっている(施策及び事業ごとの概要並びに年度別の支出額については別図表1参照)。

上記の文部科学省が実施した大会の関連施策について検査した結果、30年報告において課題等を報告したものについてのフォローアップ検査を実施したものは次の1事業(番号152)である。

府省等名 番号 事業名 オリパラ関係予算への計上 ABC分類
文部科学省 152 ドーピング防止活動推進事業 A

文部科学省は、国内のアンチ・ドーピング活動を行う機関として公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構(以下「JADA」という。)を指定して、JADAが行うアンチ・ドーピング活動に対して必要な支援を行うこととしている。また、ドーピングの検査、ドーピングの防止に関する教育及び啓発その他のドーピングの防止活動の実施に係る体制の整備、国際的なドーピングの防止に関する機関等への支援その他の必要な施策を講じている。そして、文部科学省は、ドーピング防止活動推進事業として、毎年度、JADA等と委託契約を締結して、競技者等への研修、ドーピング検査員(以下「DCO」という。)の人材育成、ドーピング検査技術の研究開発等を実施している(30年度までの委託契約に係る支払額計11億7953万余円)。

大会におけるドーピングコントロールに当たっては、大会組織委員会が検査対象となったアスリートから尿等の検体を採取するドーピング検査を行い、世界ドーピング防止機構により認定された分析機関が採取した検体中の禁止物質等の含有を検証する検体分析を行い、IOC及びIPCが分析の結果に基づき措置を講ずる結果管理を行うこととなっている。そして、大会開催時は短期間に多数の検体を検査するなどの必要があり、通常JADAが行っているドーピングコントロールの人員、分析機器等の体制では対応できないことが想定されるため、DCO等の必要な人材の確保や分析機関の追加整備等について、大会組織委員会とJADAが相互に連携して運営準備を進めていくこととしている。

文部科学省が設置した「アンチ・ドーピング体制の構築・強化に向けたタスクフォース」の試算によれば、大会期間中の大会における検査及び抜き打ち検査等の大会外の検査にはドーピング検査室責任者を含むDCOが約500名程度必要であるとされている。

30年報告においては、DCOについては、本業の合間にDCOとして検査活動を行っている者が本業等の都合でDCOの認定の更新を行わないことなどにより既認定者が年々減少しており、一方で、JADAによると年間を通じて安定的に検査活動に従事できるDCOが確保できるようになってきているとはしているものの、29年度末においてDCOの既認定者数は269人であることから、大会に必要なDCOの人数を確保して、大会の円滑な準備及び運営に資するよう、引き続きDCOの養成に取り組んでいく必要があることを報告した。

そして、30年報告後のDCOの状況について確認したところ、DCOの認定を受けている者の人数について、25年度から30年度までの推移をみると図表8-16のとおりであり、30年度においては、大会での活動を想定した一定の語学力を有することなどを要件としたDCOを養成することとして募集したところ、約360名が応募し、104名が新規に認定を受けており、DCOの認定者数は361名に増加している。そして、JADAによると、大会に必要なDCOの人数については、これまで養成した国内のDCOに加えて、海外から受け入れるDCO等により確保することとしており、令和元年度は、DCOの新規の養成は行わず、DCOの質の向上を図る研修の継続やDCOの業務範囲の一部を補完する人材の育成等により、ドーピング検査体制の強化を図ることとしている。

図表8-16 DCOの認定を受けている人数の推移(平成25年度~30年度)

(単位:人)
項目 平成25年度 26年度 27年度 28年度 29年度 30年度
DCOの既認定者数 328 322 299 276 269 361
うち新規認定者数 9 11 9 11 16 104

(注) DCOの既認定者数には、DCOへ指導監督を行うシニアDCOを含む。

カ 「新国立競技場の整備」に係る大会の関連施策の実施状況

(新国立競技場の整備については、 1(4)イ1(5)及び別図表1参照

府省等名 番号 事業名 オリパラ関係予算への計上 ABC分類
文部科学省
【JSC】
154 新国立競技場の整備 A
キ 「教育・国際貢献等によるオリンピック・パラリンピックムーブメントの普及、ボランティア等の機運醸成」に係る大会の関連施策の実施状況

平成30年度までに実施された「教育・国際貢献等によるオリンピック・パラリンピックムーブメントの普及、ボランティア等の機運醸成」に係る大会の関連施策は、外務省及び文部科学省が実施した「国内のオリンピック・パラリンピックムーブメントの普及」等の4施策に係る計16事業であり、図表8-2のとおり、25年度から30年度までの支出額は計85億余円となっている(施策及び事業ごとの概要並びに年度別の支出額については別図表1参照)。

上記の2省が実施した大会の関連施策について検査した結果、30年報告において課題等を報告したものについてのフォローアップ検査を実施したものは次の1事業(番号166)である。

府省等名 番号 事業名 オリパラ関係予算への計上 ABC分類
文部科学省 166 オリンピック・パラリンピック・ムーブメント全国 展開事業(オリンピック・パラリンピック・ムーブメント調査研究事業) A

全国へのオリンピック・パラリンピック教育(以下「オリパラ教育」という。)の推進については、文部科学省と大会組織委員会が取り組んでいる。文部科学省は、各道府県や政令指定都市等と委託契約を締結してオリパラ教育を実施する推進校を選定して、全国の学校でオリパラ教育を実施することにより、全国的な大会の機運醸成を図るオリンピック・パラリンピック・ムーブメント全国展開事業(27年度はオリンピック・パラリンピック・ムーブメント調査研究事業。以下「オリパラ全国展開事業」という。27年度から30年度までの支出額計8億5947万余円)を27年度から実施している。

30年報告においては、東京都を除く46道府県及び20政令指定都市(計66地方公共団体)の公立学校におけるオリパラ全国展開事業及び各地方公共団体が独自にオリパラ教育を推進する事業の実施状況について、都外自治体ではオリパラ教育が実施されているものの、都外自治体以外の19地方公共団体ではオリパラ教育を全く実施しておらず、全国でみると実施していない地方公共団体が一定程度ある状況となっていることを報告した。

30年報告後の19地方公共団体におけるオリパラ教育の実施状況について確認したところ、19地方公共団体全てが30年度中にオリパラ教育を実施しており、このうちオリパラ全国展開事業によりオリパラ教育を実施しているのは9地方公共団体となっていた。

ク その他の大会の円滑な準備及び運営に資する大会の関連施策の実施状況

アからキまでのほか、30年度までに実施されたその他の大会の円滑な準備及び運営に資する大会の関連施策は、文部科学省等の6省が実施した「大会に向けた各種建設工事における安全確保」「東京パラリンピック競技大会開催準備」等の9施策に係る計9事業であり、図表8-2のとおり、25年度から30年度までの支出額は計328億余円となっている。このうち、平成29年度一般会計補正予算により文部科学省が東京都へ交付したパラリンピック交付金300億円が全体の91.3%となっていて、その大部分を占めている(施策及び事業ごとの概要並びに年度別の支出額については別図表1参照。パラリンピック交付金については、1(3)参照)。

上記の6省が実施した大会の関連施策について検査した結果、大会の円滑な準備及び運営に資するための課題等が新たに見受けられたのは次の1事業(番号176)であり、特に大会の開催に向けて更なる取組が必要であると認められた。

府省等名 番号 事業名 オリパラ関係予算への計上 ABC分類
厚生労働省 176 2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に係る建設需要に対応した労働災害防止対策 A

大会の関連施設整備等による当面の一時的な建設需要の増大に対応するために、26年4月4日の関係閣僚会議において「建設分野における外国人材の活用に係る緊急措置」が取りまとめられ、国内での人材確保に最大限努めることを基本とした上で、即戦力となり得る外国人材の活用促進を図ることとされた。そして、27年4月から同措置の対象となる外国人材の受入れが開始されている。

厚生労働省は、大会の開催に向けて、競技施設の建設やインフラの整備、再開発等が集中して行われ、人手不足により現場の作業に習熟した労働者等の不足も懸念される状況にあるとして、新規入職者等の経験が浅い工事従事者等の安全衛生教育や施工業者への技術指導等を行うことなどを目的として、28年度から30年度までの間、「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に係る建設需要に対応した労働災害防止対策事業」(以下「労働災害防止対策事業」という。)を建設業労働災害防止協会(以下「建災防」という。)に委託して実施している(28年度から30年度までの契約金額計1億4444万余円)。

労働災害防止対策事業の委託要綱及び仕様書によれば、受託者である建災防は、新規入職者等に対する安全衛生教育、外国人建設就労者に対する安全衛生教育、外国人建設就労者を雇用する事業者(以下「外国人雇用事業者」という。)に対する安全衛生教育等及び工事現場に対する助言指導等の業務を行うこととされている。このうち新規入職者等に対する安全衛生教育及び工事現場に対する助言指導等については、首都圏で実施することとされている。一方、外国人建設就労者に対する安全衛生教育及び外国人雇用事業者に対する安全衛生教育(以下、これらを合わせて「外国人安全衛生教育」という。)については、大会を契機として受入れが開始された外国人建設就労者の労働災害が増加することは、大会の開催機運醸成を損なうおそれがあるなどとして、全国で実施することとされている。労働災害防止対策事業のうち、外国人安全衛生教育については、28年度に東京都、大阪府、愛知、広島両県の4か所、29年度に東京都、京都府、富山、岐阜、岡山、広島各県の6か所、30年度に東京都、大阪府、茨城、埼玉、千葉、神奈川、富山、石川、長野、愛知、岡山、香川各県の12か所で研修会が実施されている。また、28年度から30年度までに外国人安全衛生教育に要した経費は計2302万余円となっている。

外国人安全衛生教育の実施状況は図表8-17のとおりであり、仕様書に示された回数及び外国人安全衛生教育の対象者数(以下「対象者数」という。)に対する委託契約の実績の回数及び人数の状況をみると、29年度における外国人建設就労者に対する安全衛生教育については、仕様書の18回に対して6回(33.3%)、同720人に対して97人(13.4%)、外国人雇用事業者に対する安全衛生教育については、同6回に対して5回(83.3%)、同240人に対して47人(19.5%)となっており、対象者数に対する実績の人数は低調となっている。

図表8-17 外国人安全衛生教育の実施状況(平成28年度~30年度)

  平成28年度 29年度 30年度
仕様 実績 仕様 実績 仕様 実績
回数 回数 人数 回数 対象者数 回数 人数 回数 対象者数 回数 人数
外国人建設就労者に対する安全衛生教育 14回 9回 48人 18回 720人 6回 97人 12回 120人 14回 147人
外国人雇用事業者に対する安全衛生教育 5回 4回 44人 6回 240人 5回 47人 6回 60人 12回 126人
外国人建設就労者受入人数 1,480人 2,983人 4,796人
  • 注(1) 平成28年度の対象者数は、仕様書に示されていない。
  • 注(2) 外国人建設就労者受入人数は、平成31年4月に国土交通省が公表した「建設分野における外国人材の受入れ」を基に各年度の年度末時点の人数を記載している。

厚生労働省は、28、29両年度の外国人安全衛生教育の実績等を踏まえて、30年度の委託契約における回数及び対象者数を見直し、外国人建設就労者に対する安全衛生教育については回数12回、対象者数120人、外国人雇用事業者に対する安全衛生教育については回数6回、対象者数60人としており、実績についてはそれぞれ仕様書に示された回数及び対象者数を上回る14回、147人及び12回、126人となっている。実績の人数については、外国人建設就労者に対する安全衛生教育及び外国人雇用事業者に対する安全衛生教育共に28年度と比較してそれぞれ3倍程度に増加しており、また、外国人建設就労者受入人数についても28年度から30年度にかけて1,480人から4,796人と2年間で3倍程度に増加している。

そして、厚生労働省は、外国人建設就労者等に対する研修会の実施による外国人安全衛生教育を30年度に終了して、各外国人雇用事業者が外国人建設就労者に対して安全衛生教育を実施する際に活用できるよう、新たに外国人建設就労者に対する安全衛生教育用視聴覚教材(以下「視聴覚教材」という。)を同年度に建災防に855万余円で委託して作成している。

厚生労働省は、新たに作成した視聴覚教材による外国人建設就労者に対する安全衛生教育が効果的に行われるよう、関係機関と連携を図るなどして、外国人雇用事業者に対して十分に周知を行うとともに、その活用状況等の把握に努めていく必要がある。

(4) 「大会を通じた新しい日本の創造」に資する大会の関連施策の状況

(3)のとおり、今回の検査においては、令和2年の大会の開催を控えて、特に「大会の円滑な準備及び運営」に資する大会の関連施策に重点を置くこととし、「大会を通じた新しい日本の創造」に資する大会の関連施策の状況については、フォローアップ検査を実施した(図表9-1参照)。

図表9-1 大会の関連施策の実施状況についてのフォローアップ検査の状況

分野 施策 府省等名 事業 30年報告における検査結果の概要及び掲載箇所 フォローアップの状況
被災地の復興・地域活性化 ホストタウンの推進 内閣 東京オリンピック・パラリンピック推進本部経費のうち③ホストタウン
東京オリンピック・パラリンピック推進本部経費のうち⑨オリパラ基本方針推進調査(ホストタウン)
事前合宿の誘致等を通じて大会参加国・地域との人的・経済的・文化的な相互交流を図る地方自治体であるホストタウン等として、オリパラ事務局によって第1次から第5次までに登録されている団体のうち、平成28年度分の年度事業調に記載されている111団体の386事業、29年度分の年度事業調に記載されている220団体の692事業について、事業の実施状況をみると、28年度については43団体の80事業(事業費4503万余円)、29年度については56団体の88事業(事業費8289万余円)が全く実施されていない状況となっていた(30年報告(3)ア)。
外国人旅行者の訪日促進 「2020年オリンピック・パラリンピック」後も見据えた観光振興 国土交通省 訪日外国人旅行者受入環境整備緊急対策事業等 事業の交付要綱等において、事業実施後に事業評価を実施することとなっている。しかし、28年度の3補助金による補助事業に係る事業評価についてみたところ、29年度末時点で、東北運輸局において、二次評価案の作成以降の事業評価プロセスが実施されていなかったり、6地方運輸局において、事業評価の結果が期限までに本省等に提出されていなかったりしていて、事業評価の結果を踏まえた事業内容等の改善策の検討や、交付翌年度の事業実施計画の見直しなどを行うことができず、PDCAサイクルを適切に機能させることができていない状況となっていた(30年報告(3)ウ(ア))。 イ(ア)
外国人旅行者の訪日促進 「2020年オリンピック・パラリンピック」後も見据えた観光振興 独立行政法人国際観光振興機構 訪日プロモーション事業 事業の成果の管理に当たり、観光庁の「Visit Japan成果確認システム」に接続して評価を実施することとしているが、事業の評価を実施していなかったり、事業実施前に目標値を設定したのか確認できなかったりしたものが見受けられた(30年報告(3)ウ(イ))。 イ(イ)
日本文化の魅力の発信 「文化を通じた機運醸成」及び「文化プログラムの推進」 内閣 東京オリンピック・パラリンピック推進本部経費のうち⑦オリパラ基本方針推進調査(文化を通じた機運醸成)
東京オリンピック・パラリンピック推進本部経費のうち
⑥文化プログラム経費
東京都を除く46道府県及び20政令指定都市における29年度までのレガシーの創出に資する文化プログラムへの取組状況をみると、各地方自治体が実施する事業について文化オリンピアード又はbeyond2020の認証を受けた実績があるのは58自治体(66自治体の87.8%)に上り、実績がないのは8自治体(同12.1%)となっている。特に都外自治体は12自治体の全てで認証を受けた実績があり、レガシーの創出に資する文化プログラムの実施に積極的に取り組んでいる状況となっている。また、認証を受けた実績の有無にかかわらず、大会の開催を契機として独自にレガシーの創出に資する文化プログラムを実施しているのは36自治体(同54.5%)、beyond2020の認証組織となって民間事業者等への周知及び認証を行っているのは37自治体(同56.0%)となっている。29年度までに大会の開催を契機として、文化オリンピアード又はbeyond2020の認証を受けるなどのレガシーの創出に資する文化プログラムへの取組実績がないのは都外自治体以外の4自治体であり、特に都外自治体以外の地方自治体間で取組内容に差がある状況となっている(30年報告(3)エ(ア))。 ウ(ア)
日本文化の魅力の発信 和食・和の文化の発信強化 農林水産省 農山漁村振興推進交付金
農山漁村振興整備交付金
農林水産省は、大会を契機として日本ならではの伝統的な生活体験と農山漁村地域の人々との交流を楽しむ農山漁村滞在型旅行(以下「農泊」という。)をビジネスとして実施できる体制を持った地域(以下「農泊地域」という。)を32年までに500地域創出する政策目標を達成するために、29年度から農山漁村振興交付金の交付対象事業として「農泊推進対策」及び「農泊推進関連対策」を創設している。同省によると、農泊地域の創出に当たっては、地域ぐるみで農泊をビジネスとして実施できる体制を整備する必要があるとしており、両事業において、これに資するよう、それぞれの事業目標を設定させているが、各取組の事業目標値の達成が農泊地域の創出に結び付くものなのか明らかでないため、この確認だけでは政策目標の達成見込みを把握できるようなものにはなっていないと認められる。また、同省によると、両事業は、29年度末時点では、目標年度が到来していないため、事業目標の達成状況を踏まえるなどした上で農泊地域の創出見込みを把握することができないとしている。しかし、農泊の推進に当たっては、地域ぐるみの取組が必要であるとされているのに、農泊推進関連対策については、農泊を地域ぐるみで推進することを事業採択の要件としていなかったため、地域ぐるみの推進組織である地域協議会等が存在していない事態も見受けられた(30年報告(3)エ(イ))。 ウ(イ)

 「大会を通じた新しい日本の創造」に資する大会の関連施策は、大会開催を契機に、大会終了後に残すべきレガシーの創出を意識して国として取り組む施策であり、図表9-2のとおり、12府省等において平成25年度から30年度までに7分野の26施策に係る計159事業が実施されており、この支出額は計2695億余円となっている。オリパラ基本方針における7分野ごとにその支出額をみると、「日本文化の魅力の発信」に係る大会の関連施策の829億余円が最も多く、次いで「ユニバーサルデザイン・心のバリアフリー」に係る大会の関連施策の780億余円となっている(施策及び事業ごとの概要並びに年度別の支出額については別図表1参照)。

図表9-2 「大会を通じた新しい日本の創造」に資する大会の関連施策の支出額(平成25年度~30年度)

(単位:百万円)
府省等名 分野(施策数)
被災地の復興・地域活性化(4施策) 日本の技術力の発信(7施策) 外国人旅行者の訪日促進(2施策) 日本文化の魅力の発信(4施策) スポーツ基本法が目指すスポーツ立国の実現(2施策) 大会を弾みとした健康増進・受動喫煙防止(2施策) ユニバーサルデザイン・心のバリアフリー(5施策) 事業数 支出額
事業数 支出額 事業数 支出額 事業数 支出額 事業数 支出額 事業数 支出額 事業数 支出額 事業数 支出額   (計に占める割合)
内閣 2 188 0 - 0 - 2 899 0 - 0 - 3 66 7 1,154 (0.4%)
内閣府 0 - 4 12,733 1 9 1 118 0 - 0 - 3 938 9 13,799 (5.1%)
復興庁 2 0 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 2 0 (0.0%)
総務省 0 - 16 30,318 0 - 0 - 0 - 0 - 1 12 17 30,331 (11.2%)
法務省 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 1 40 1 40 (0.0%)
外務省 0 - 0 - 0 - 9 61,189 0 - 0 - 0 - 9 61,189 (22.7%)
財務省 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - -
文部科学省 0 - 0 - 0 - 4 9,632 20 6,602 0 - 1 158 25 16,392 (6.0%)
厚生労働省 0 - 2 671 0 - 2 571 0 - 0 - 10 39,101 14 40,344 (14.9%)
農林水産省 0 - 1 (※)- 0 - 21 9,081 0 - 0 - 4 1,522 26 10,604 (3.9%)
経済産業省 4 799 4 16,751 0 - 10 1,164 0 - 0 - 0 - 18 18,714 (6.9%)
国土交通省 0 - 0 - 5 40,451 1 324 0 - 0 - 22 36,180 28 76,956 (28.5%)
環境省 0 - 2 10 0 - 1 (※)- 0 - 0 - 0 - 3 10 (0.0%)
防衛省 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - 0 - -
8 988 29 60,484 6 40,460 51 82,981 20 6,602 0 - 45 78,021 159 269,538 (100.0%)
  • 注(1) 「事業数」は、平成30年度までに支出額がある事業のみを計上しており、事業ごとの支出額を算出することが困難であるなどの事業を含む。
  • 注(2) 「支出額」には、事業ごとの支出額を算出することが困難であるなどの事業に係る額は含んでいない。当該事業しかない場合、支出額の欄には(※)を付している。また、各府省等が大会の関連施策として整理している事業を独立行政法人が運営費交付金等を財源として実施する場合における支出額を含む。
  • 注(3) 「大会を通じた新しい日本の創造」に資する大会の関連施策は主な取組内容等により区分したものであり、事業によってはその取組内容に他の分野に該当する内容を含むものもある。

そして、7分野に対するフォローアップ検査を実施した結果は、次のとおりである。

ア 「被災地の復興・地域活性化」に係る大会の関連施策の実施状況

30年度までに実施された「被災地の復興・地域活性化」に係る大会の関連施策は内閣等の3省等が実施した「ホストタウンの推進」等の4施策に係る計8事業であり、図表9-2のとおり、25年度から30年度までの支出額は計9億余円となっている。このうち、経済産業省が7億余円(9億余円の80.8%)となっていて、その大部分を占めている(施策及び事業ごとの概要並びに年度別の支出額については別図表1参照)。

上記の3省等が実施した大会の関連施策について検査した結果、30年報告において課題等を報告したものについてのフォローアップ検査を実施したものは次の2事業(番号182及び183)であり、同事業については引き続き事業を実施していく上での課題等が見受けられた。

府省等名 番号 事業名 オリパラ関係予算への計上 ABC分類
内閣 182 東京オリンピック・パラリンピック推進本部経費のうち③ホストタウン A
内閣 183 東京オリンピック・パラリンピック推進本部経費のうち⑨オリパラ基本方針推進調査(ホストタウン) A

オリパラ基本方針によれば、大会の開催により多くの選手や観客が来訪することを契機として、地域の活性化等を推進するために、事前合宿の誘致等を通じて大会参加国・地域との人的・経済的・文化的な相互交流を図る地方公共団体をホストタウンとして、被災地を含む全国各地に広げることとされている。

上記を踏まえて、オリパラ事務局は、ホストタウン推進要綱(平成27年9月30日策定)に基づき、住民等と大会等に参加するために来日する選手等、大会参加国・地域の関係者及び日本人オリンピアン・パラリンピアンとの交流を行うものであって、スポーツの振興、教育文化の向上及び共生社会の実現を図る取組を行う地方公共団体をホストタウンとして登録する事業を28年1月から行っている。ホストタウンの推進に係る前記2事業の30年度までの支出額は計1億8813万余円となっている。

ホストタウンとしての登録に当たっては、地方公共団体から提出された交流計画に基づきオリパラ事務局が審査を行うこととなっている。そして、審査の結果、ホストタウンとして登録された地方公共団体(以下「登録団体」という。)は、毎年度、交流計画の実施に要する経費のうち登録団体が負担する額の2分の1について、特別交付税の地方財政措置を受けることができることとなっている。また、登録団体は、交流計画提出後の相手国との折衝状況、交流計画及びその後新規に実施することとした施策のうち当該年度に実施予定の事業とその所要経費等を記載した「年度事業調」を作成してオリパラ事務局に報告することとなっており、所要経費の内訳には、特別交付税の対象とする事業(以下「交流事業」という。)と特別交付税の対象としない事業とを分けて記載することとなっている。

30年度末までに、ホストタウンの登録は計12回、前記の復興「ありがとう」ホストタウン((2)ウ参照)の登録は計8回行われていて、計381団体が登録されている。

今回、これらの登録団体における交流事業の実施状況等をみたところ、次のような状況となっていた。

(ア) 交流事業の実施状況

30年報告においては、29年度末までに登録されている第1次から第5次までの登録団体のうち、28年度分の年度事業調に記載されている111団体の386事業、29年度分の年度事業調に記載されている220団体の692事業の実施状況をみたところ、28年度については43団体の80事業(事業費計4503万余円)、29年度については56団体の88事業(事業費計8289万余円)が全く実施されていない状況となっていることを報告した。

そこで、30年報告後の交流事業の実施状況について確認したところ、 30年度の年度事業調を提出している300団体の1,111事業に係る30年度末現在の事業の実施状況については、図表9-3のとおり、91団体の135事業(事業費計1億2996万余円)が全く実施されていない状況となっていた(以下、全く実施されていない交流事業を「未実施事業」という。)。

図表9-3 交流事業の実施状況(平成30年度)

登録団体 交流事業 事業費(千円)
団体数 300 事業数 1,111 事業費 1,952,678
うち未実施事業がある団体数 91 うち未実施事業の事業数 135 うち未実施事業に係る事業費 129,964
(30.3%) (12.1%) (6.6%)

(注) 団体数、事業数、事業費については、特別交付税が交付されていない登録団体に係る計数も含めて集計している。

交流事業を実施できなかった理由についてみると、図表9-4のとおり、相手方との日程調整ができなかったとするものが、およそ5割を占めている。

図表9-4 交流事業を実施できなかった理由(平成30年度末現在)

交流事業を実施できなかった理由 事業数 割合
相手方との日程調整ができなかったこと 74 54.8%
相手国側の突発的事情 18 13.3%
登録団体内部で日程が検討できなかったこと 17 12.5%
その他 26 19.2%
135 100.0%

なお、前記の各年度における未実施事業については、翌年度以降に再度年度事業調に記載するなどして実施している場合もあり、各地方公共団体がホストタウンとして登録するなどの際に計画した交流計画に沿った大会関係者等との交流等が行われたか否かについての最終的な評価が可能となるのは大会の終了後となる。

(イ) 未実施事業等に係る特別交付税に関する省令に基づく控除措置

特別交付税に関する省令(昭和51年自治省令第35号)第2条第2項の規定によれば、前年度以前の特別交付税の各事項の算定額について、必要な経費の見込額等により算定した額が実際に要した経費を著しく上回り、又は算定の基礎に用いた数について誤りがあることなどにより特別交付税の額が過大に算定されたと認められるときは、総務大臣が定めるところにより、特別交付税の算定の基礎とすべきものとして総務大臣が調査した額を控除することとされている(以下、同規定に基づく控除を「控除措置」という。)。しかし、総務省は、必要な経費の見込額等により算定した額が実際に要した経費を著しく上回った場合に控除措置を行うことができるよう、特別交付税の交付を受けた登録団体に対して実際に要した経費について報告を求めていない。

30年報告においては、未実施事業がある28年度の43団体及び29年度の56団体のうち、翌年度以降に控除措置を受けた、又は控除措置に必要な資料を総務省に提出する予定としているのは、28、29両年度共に17団体(43団体の39.5%、56団体の30.3%)となっていることを報告した。

上記の未実施事業がある28年度の43団体及び29年度の56団体のうち、実際に未実施事業に係る特別交付税の交付を受けた28年度39団体、29年度47団体について、30年度末現在における控除措置の状況について確認したところ、28年度は32団体(39団体の82.0%)、29年度は42団体(47団体の89.3%)について、控除措置が行われていない状況となっていた。

また、30年度については、前記の未実施事業135事業(当該135事業に係る特別交付税算定額計5825万余円)のほかに、特別交付税の算定に用いる資料の提出後に他の団体が経費を負担したなどのため登録団体において交流事業に要する経費の負担がなくなった事業47事業(当該47事業に係る特別交付税算定額計1191万余円)があり、これらの未実施事業等がある計116団体のうち、当該未実施事業等に係る特別交付税相当額について次年度以降に控除措置に係る資料を提出する予定としていたのは54団体(116団体の46.5%)となっていた。

したがって、適切に控除措置を行うことができるよう、総務省は、特別交付税の交付を受けた団体に対して実際に要した経費の報告を求める必要があると認められた。

上記会計検査院の検査の結果を踏まえて、総務省は、令和元年10月に地方公共団体に対して、ホストタウン交流事業に係る経費について、見込額等に基づく報告額と決算額との差額等について報告を求める事務連絡を発出して、同報告の内容を基に、元年度の特別交付税の算定において控除措置を行うこととしている。

イ 「外国人旅行者の訪日促進」に係る大会の関連施策の実施状況

平成30年度までに実施された「外国人旅行者の訪日促進」に係る大会の関連施策は内閣府及び国土交通省が実施した「「2020年オリンピック・パラリンピック」後も見据えた観光振興」等の2施策に係る計6事業であり、図表9-2のとおり、25年度から30年度までの支出額は計404億余円となっている。このうち、国土交通省が404億余円(404億余円の99.9%)となっていて、その大部分を占めている(施策及び事業ごとの概要並びに年度別の支出額については別図表1参照)。

上記の2府省が実施した大会の関連施策について検査した結果、30年報告において課題等を報告したものについてのフォローアップ検査を実施したものは8事業(番号85、88、93、96、328、329、338及び218)であり、そのうち引き続き大会終了後のレガシーの創出に資するための課題等が見受けられたものは7事業(番号85、88、93、96、328、329及び338)である。

これらを事業の内容により整理して示すと、次のとおりである。

(ア) 訪日外国人旅行者受入環境整備緊急対策事業等
府省等名 番号 事業名 オリパラ関係予算への計上 ABC分類
国土交通省 85、93、328、329 訪日外国人旅行者受入環境整備緊急対策事業 B
国土交通省 86、94、330、331、332 訪日外国人旅行者受入基盤整備事業 B
国土交通省 87、95、330、331、332 訪日外国人旅行者受入加速化事業 B
国土交通省 88、96 旅行環境整備事業
国土交通省 338 訪日外国人旅行者受入環境整備緊急対策事業
  • 注(1) ABC分類の「-」は平成30年度からの新規事業であるため、分類されていないことを示す。
  • 注(2) 訪日外国人旅行者受入基盤整備事業及び訪日外国人旅行者受入加速化事業については、いずれも平成29年度に事業が終了していたことから、両事業に係る7事業(番号86、87、94、95、330~332)については、フォローアップ検査を実施していない。

国土交通省は、28年度から、訪日外国人旅行者数を2020年までに4000万人、2030年までに6000万人とする目標の実現に向けて、滞在時の快適性及び観光地の魅力向上並びに観光地までの移動円滑化等を図るために、「訪日外国人旅行者受入環境整備緊急対策事業費補助金」(28年度から30年度までの支出額計218億9163万余円)、「訪日外国人旅行者受入基盤整備事業費補助金」(28、29両年度の支出額計58億0087万余円)及び「訪日外国人旅行者受入加速化事業費補助金」(28、29両年度の支出額計34億4936万余円)(以下、これらを合わせて「3補助金」という。)を交付している。

そして、3補助金により実施する補助事業メニューについては、1事業メニューを除き、交付要綱等において、事業実施後に事業評価を実施することとなっている。交付要綱等においては、事業評価の手順は、補助対象事業者が自ら一次評価を実施し、地方運輸局等が一次評価結果を基に二次評価を実施して、二次評価結果を3補助金の交付の翌年度の4月末までに国土交通本省等に提出することとなっている。同省によると、本省等の担当部局が、各地方運輸局等から提出を受けた事業評価の結果(二次評価結果)を分析することにより、事業の具体的な効果を把握して、3補助金の対象とする事業内容等のより効果的な改善策の検討が可能になるとともに、交付翌年度の事業実施計画の見直しを行ったり、翌々年度の概算要求に反映させたりすることができるPDCAサイクルの仕組みが構築されているとしている。

30年報告においては、28年度に実施した3補助金による補助事業に係る事業評価について、29年度末現在、東北運輸局において、二次評価案の作成以降の事業評価プロセスが実施されていなかったり、6地方運輸局において、事業評価の結果が交付翌年度の4月末までに国土交通本省等に提出されておらず、2か月から10か月程度提出が遅れていたりしていたこと、このため、事業評価の結果を踏まえた事業内容等の改善策の検討や、交付翌年度の事業実施計画の見直しなどを行うことができず、PDCAサイクルを適切に機能させることができていない状況となっていたことを報告した。

そこで、30年報告後の3補助金の状況について確認したところ、30年度に実施した訪日外国人旅行者受入環境整備緊急対策事業費補助金及び30年度から事業を開始し同補助金と同一の事業評価プロセスによることとされている旅行環境整備事業費補助金による補助事業に係る事業評価結果の国土交通本省等への提出について、交付要綱の期限である31年4月末までに完了していたのは、10地方運輸局等のうち3地方運輸局にとどまっていて、7地方運輸局等において、2か月から3か月程度提出が遅れていた。

国土交通省は、交付要綱を改正して、令和元年度の補助事業から、事業評価結果の提出期限を1か月延長した交付翌年度の5月末としているが、PDCAサイクルを適切に機能させることができるよう、適時適切に事業評価を実施する必要がある。

(イ) 訪日プロモーション事業
府省等名 番号 事業名 オリパラ関係予算への計上 ABC分類
国土交通省
【JNTO】
218 訪日プロモーション事業 B

独立行政法人国際観光振興機構(以下「JNTO」という。)は、平成26年度一般会計補正予算から、運営費交付金を財源として、海外メディアの訪日取材・番組制作を支援して日本の魅力を紹介する記事の掲載等により現地における訪日意欲増進等を行う訪日プロモーション事業(28年度から30年度までの支出額計353億9090万余円(27年度は海外観光宣伝事業費72億9264万余円の内数))を実施している。

30年報告において、JNTOは、本事業の成果の管理に当たり、観光庁の「Visit Japan成果確認システム」に接続して評価を実施することとしているが、事業の評価を実施していなかったり、事業実施前に目標値を設定したのか確認できなかったりしたものが見受けられたことを報告した。

そこで、30年報告後の訪日プロモーション事業の状況について確認したところ、JNTOは、31年3月に事業担当者を対象とした部内研修会を実施して、事業実施前に目標値を設定した上で事業の評価を実施する旨を周知しており、令和元年度に契約した事業においては、仕様書において目標値を設定していた。

ウ 「日本文化の魅力の発信」に係る大会の関連施策の実施状況

平成30年度までに実施された「日本文化の魅力の発信」に係る大会の関連施策は内閣等の9府省等が実施した「文化を通じた機運醸成」「文化プログラムの推進」等の4施策に係る計51事業であり、図表9-2のとおり、25年度から30年度までの支出額は計829億余円となっている。このうち、外務省が611億余円(829億余円の73.7%)となっていて、その大部分を占めている(施策及び事業ごとの概要並びに年度別の支出額については別図表1参照)。

上記の9府省等が実施した大会の関連施策について検査した結果、30年報告において課題等を報告したものについてのフォローアップ検査を実施したものは4事業(番号223、225、256及び257)であり、その全ての事業で引き続き大会終了後のレガシーの創出に資するための課題等が見受けられた。

これらを施策ごとに整理して示すと、次のとおりである。

(ア) 「文化を通じた機運醸成」及び「文化プログラムの推進」
府省等名 番号 事業名 オリパラ関係予算への計上 ABC分類
内閣 223 東京オリンピック・パラリンピック推進本部経費のうち⑦オリパラ基本方針推進調査(文化を通じた機運醸成) A
内閣 225 東京オリンピック・パラリンピック推進本部経費のうち⑥文化プログラム経費 A

オリパラ基本方針では、文化プログラムの推進も含めて、多様な文化を通じて日本全国で大会の開催に向けた機運を醸成して、日本文化の魅力を世界に発信するなどとされている。28年度から30年度までにオリパラ事務局が実施した上記の2事業における支出額は計8億9974万余円となっている。

大会組織委員会は、日本文化の再認識と継承・発展等のレガシーに係るコンセプトに合致する事業を「東京2020文化オリンピアード」(以下「文化オリンピアード」という。)として認証する取組を28年10月から行っている。

一方、オリパラ事務局は、我が国の文化の向上に取り組む中で、全ての人が参画できる社会に向けたレガシーの創出に寄与することを目的として、①日本文化の魅力を発信する事業・活動であること、②成熟社会にふさわしい次世代に誇れるレガシーの創出のため、障害者にとってのバリア又は外国人にとっての言語の壁を取り除く取組を含むこと、という二つの要件を満たす事業をbeyond2020として認証する取組を29年1月から行っている。認証された事業は、beyond2020のロゴマーク(図表9-5参照)を使用することができることとされており、認証に係る事務については、オリパラ事務局だけでなく、beyond2020の趣旨に賛同した関係府省、独立行政法人、都道府県等も実施しており、自らが実施する事業又は所管している分野の関連事業等を認証するなどしている。

図表9-5 beyond2020 ロゴマーク

図表9-5 beyond2020 ロゴマーク 画像

30年報告においては、東京都を除く46道府県及び20政令指定都市における29年度までのレガシーの創出に資する文化プログラムへの取組状況を調査して、各地方公共団体の事業について文化オリンピアード又はbeyond2020の認証を受けた実績があるのは58地方公共団体(66地方公共団体の87.8%)であること、認証を受けた実績の有無にかかわらず、大会の開催を契機として独自の文化プログラムを実施しているのは36地方公共団体(同54.5%)であること、beyond2020の認証組織となっているのは37地方公共団体(同56.0%)であることを報告した。

そこで、30年報告後の東京都を除く46道府県及び20政令指定都市におけるレガシーの創出に資する文化プログラムへの取組状況について確認したところ、図表9-6のとおり、30年度末現在において、各地方公共団体が実施する事業のうち文化オリンピアード又はbeyond2020の認証を受けた実績があるのは、62地方公共団体(66地方公共団体の93.9%)となっており、29年度末時点から4団体(6.1ポイント)増加している。また、認証を受けた実績の有無にかかわらず、独自の文化プログラムを実施している地方公共団体は41団体(66地方公共団体の62.1%)、beyond2020の認証組織となっているのは60団体(文化プログラムのための実行委員会が認証組織となっていて、自身は構成員となっている2団体を含む。同90.9%)となっていて、29年度末時点と比較して、それぞれ5団体、23団体増加している。

図表9-6 46道府県及び20政令指定都市における文化オリンピアード又はbeyond2020の認証を受けた文化プログラムへの取組状況(平成30年度末現在)

(単位:地方公共団体)
  文化オリンピアード又はbeyond2020の認証を受けた実績がある 認証を受けた実績はない
  その他取り組んでいる内容   その他取り組んでいる内容   その他取り組んでいる内容
独自の文化プログラムを実施 beyond2020の認証組織となっている 特になし 独自の文化プログラムを実施 beyond2020の認証組織となっている 特になし 独自の文化プログラムを実施 beyond2020の認証組織となっている 特になし
  (計に対する割合)   (計に対する割合)   (計に対する割合)   (計に対する割合)   (計に対する割合)
46道府県及び20政令指定都市 62 (93.9%) 39 56 2 4 (6.0%) 2 4 0 66 41 (62.1%) 60 (90.9%) 2 (3.0%)
    (58) (87.8%) (34) (35) (11) (8) (12.1%) (2) (2) (4) (66) (36) (54.5%) (37) (56.0%) (15) (22.7%)
(うち都外自治体) 12 (100.0%) 9 10 1 0 (-) 0 0 0 12 9 (75.0%) 10 (83.3%) 1 (8.3%)
(12) (100.0%) (8) (5) (3) (0) (-) (0) (0) (0) (12) (8) (66.6%) (5) (41.6%) (3) (25.0%)
(うち都外自治体以外) 50 (92.5%) 30 46 1 4 (7.4%) 2 4 0 54 32 (59.2%) 50 (92.5%) 1 (1.8%)
(46) (85.1%) (26) (30) (8) (8) (14.8%) (2) (2) (4) (54) (28) (51.8%) (32) (59.2%) (12) (22.2%)

(注) 各項目の下段にある括弧書きは、平成29年度末時点の計数を示している。

上記のとおり、文化プログラムに取り組んでいる団体数が増加している一方で、beyond2020及びロゴマークの認知度についてみると、オリパラ事務局が一般国民を対象に実施した認知度調査において、「beyond2020という文化プログラムを知っている」及び「beyond2020のロゴマークを見たことがある」と回答した回答者の割合は、図表9-7のとおり、28、29、30各年度のいずれの調査結果においても10%前後にとどまっており、beyond2020及びロゴマークの認知度が向上しているとは言い難い状況となっている。

図表9-7 beyond2020及びロゴマークの認知度

  平成
28年度
29年度 30年度
サンプル数(人) 300 1,000 350
beyond2020の認知度(%) 10.3 8.4
ロゴマークの認知度(%)
注(2)
9.7 14.3 11.4
  • 注(1) 平成30年度の調査には、beyond2020の認知度に係る設問が含まれていない。
  • 注(2) 平成29、30両年度の調査における認知度は、ロゴマークについて、「見たことがある」とする回答及び「見たことがあるような気がする」とする回答の合計数の割合となっている。

beyond2020及びロゴマークの認知度向上に関して、オリパラ事務局は、30年度から、beyond2020の認証イベントにおけるロゴマークの掲示の促進、beyond2020に係る認証事例集や紹介動画の作成、シンポジウムの開催等の取組を行っている。

オリパラ事務局及び関係機関は、引き続き、beyond2020の推進等により、大会のレガシーの創出に資する文化プログラムを全国に浸透させる取組を進める必要がある。

(イ) 和食・和の文化の発信強化
府省等名 番号 事業名 オリパラ関係予算への計上 ABC分類
農林水産省 256 農山漁村振興推進交付金 B
農林水産省 257 農山漁村振興整備交付金 B

農林水産省は、地方の特性をいかした魅力ある観光地域の形成に係る取組として、大会を契機として日本ならではの伝統的な生活体験と農山漁村地域の人々との交流を楽しむ農泊をビジネスとして実施できる体制を持った農泊地域を令和2年までに500地域創出することを政策目標としている。この政策目標を達成するために、平成29年度に農山漁村振興交付金の対象事業として農泊推進対策及び農泊推進関連対策を創設している。農泊推進対策では、地域ぐるみの農泊推進組織である地域協議会等を事業主体として、自立的に活動できる体制の構築、地域の観光資源を魅力ある観光コンテンツとして磨き上げる取組等を支援しており、農泊推進関連対策では、市町村等を事業主体として、農山漁村における地域間交流の促進等を図るために必要な農産物販売施設等の整備を推進して、農泊に取り組む地域への集客力等を高める取組等を支援している。30年度末までの農泊推進対策及び農泊推進関連対策の交付件数はそれぞれ694件、53件となっており、交付額はそれぞれ計56億7445万余円、計20億0706万余円となっている。

同省によると、農泊地域の創出に当たっては、地域ぐるみで農泊をビジネスとして実施できる体制を整備する必要があるとしており、これに資するよう、農泊推進対策においては「体験プログラムの販売や宿泊料等の売上げ」等を事業目標として、農泊推進関連対策においては「定住人口の増加、交流人口の増加、滞在者数及び宿泊者数の増加」等を事業目標として事業主体に設定させている。そして、政策目標の達成見込みを把握するためには、事業目標の達成状況を確認する必要があるとしている。

30年報告においては、各取組で設定した事業目標の達成が農泊地域の創出に結び付くものなのか明らかでないため、この確認だけでは政策目標の達成見込みを把握できるようなものにはなっていないと認められること、同省によると、29年度末時点では、目標年度が到来していないため、農泊地域の創出見込みを把握することができないとしていること、及び農泊の推進に当たっては、地域ぐるみの取組が必要とされているのに、農泊推進関連対策については、農泊を地域ぐるみで推進することを事業採択の要件としていなかったため、地域協議会等が存在していない事態も見受けられたことを報告した。そして、農林水産省において、各事業主体の取組の進捗状況を把握するとともに、目標年度等の到来に先立ち、異なる地域で行われている各取組を横断的に検証するなどして、農泊地域の創出の見込みを適切に把握して、目標年度等の到来を待つことなく必要な指導等を行う必要があることを報告した。

そこで、30年度における農林水産省による指導等の状況を確認したところ、同省は、農泊推進対策で採択した地域の実態を把握して、地域と連携して各地域に応じた今後の農泊をビジネスとして実施できる体制の確立に向けて、地域協議会等の体制整備や宿泊、食事、体験メニューの充実等について指導を行っているとしている。また、農泊推進関連対策で採択した地区についても、地域協議会を設立するなどして農泊推進対策を実施するように指導を行っている。しかし、30年報告において対象とした29年度に農泊推進関連対策を実施した28団体について農泊推進対策を実施できたか確認したところ、30年度末現在において、地域協議会を設立するなどして農泊推進対策が採択されたのは15団体(28団体の53.5%)となっていて、残り13団体(28団体の46.4%)は農泊推進対策が採択されていなかった。採択されなかった13団体のうち、農泊推進関連対策の計画を取り下げた1団体を除く12団体について、農泊推進対策を実施できなかった理由をみると、地域の合意形成に時間を要したことなどから、地域協議会が設立できなかったためとしている。なお、上記12団体のうち5団体については、令和元年8月末現在、元年度の農泊推進対策に採択されている。

農林水産省は、政策目標の達成に向けて、更に各地域における農泊地域の創出の見込みの適切な把握に努めて必要な指導等を行う必要がある。