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  • 令和3年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
  • 第1節 省庁別の検査結果|
  • 第8 厚生労働省|
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

キャリアアップ助成金等の不正受給に関与した代理人等に関する情報に基づき、既に支給済みのキャリアアップ助成金等についても、労働局による不正受給の有無についての確認が適切に行われるよう改善させたもの


会計名及び科目
労働保険特別会計(雇用勘定) (項)地域雇用機会創出等対策費
(項)高齢者等雇用安定・促進費
部局等
厚生労働本省
キャリアアップ助成金等の概要
雇用保険で行う雇用安定事業及び能力開発事業の一環として、雇用保険法(昭和49年法律第116号)等に基づき、キャリアアップに向けた取組を実施したり、労働者の職業能力開発に係る職業訓練を実施したりなどした事業主に対して、国が助成するもの
検査の対象としたキャリアアップ助成金等の支給件数及び支給額
491,046件 3746億3956万余円(平成29年度~令和3年度)
代理人等が関与した不正受給の有無に関する調査の対象としたキャリアアップ助成金等の支給件数及び支給額
50件 6234万余円(平成29年度~令和3年度)
上記のうち不正受給であることが判明したキャリアアップ助成金等の支給件数及び支給額
22件 4300万円(平成29年度~令和3年度)

1 キャリアアップ助成金等の概要等

(1) キャリアアップ助成金等の概要

キャリアアップ助成金は、雇用保険で行う事業である雇用安定事業及び能力開発事業の一環として、雇用保険法(昭和49年法律第116号)等に基づき、期間の定めがある労働契約を締結する者等の企業内でのキャリアアップを支援するために、キャリアアップに向けた取組を実施した事業主に対して国が経費等を助成するものである。

また、人材開発支援助成金(平成29年3月以前に訓練実施計画届の提出があった場合はキャリア形成促進助成金)は、雇用保険で行う事業である能力開発事業の一環として、雇用保険法等に基づき、労働者の職業能力開発に係る職業訓練又は教育訓練(以下「訓練等」という。)等を実施した事業主に対して、国が経費等を助成するものである(以下、キャリアアップ助成金と人材開発支援助成金を合わせて「キャリアアップ助成金等」という。)。

キャリアアップ助成金等の支給を受けようとする事業主は、訓練終了日等の翌日から起算して2か月以内に、支給申請書に訓練等の実施内容等を記載した実施状況報告書(以下「訓練実施状況報告書」という。)、雇用契約書等の関係書類を添えて、管轄の都道府県労働局(以下「労働局」という。)に提出することなどとなっている。

(2) 労働局における審査等

キャリアアップ助成金等に係る支給申請書等の提出を受けた労働局は、関係書類等に基づいて、事業主やその申請内容がキャリアアップ助成金等の支給要件を満たしているかなどについて審査をした上で支給決定を行い、これに基づいて厚生労働本省は、キャリアアップ助成金等の支給を行うこととなっている。また、労働局は、偽りその他不正の行為により本来受けることのできない支給を受けようとした事業主に対して不支給とすること、偽りその他不正の行為により本来受けることのできない支給を受けた事業主に対して、支給したキャリアアップ助成金等の全部又は一部の支給決定を取り消して返還の手続を行うことなどとなっている。

(3) 事業主以外の者が事業主に代わって支給申請等手続を行うことができる場合

雇用関係助成金支給要領(平成29年3月31日職発0331第7号・能発0331第2号・雇児発0331第18号等。以下「要領」という。)において、キャリアアップ助成金等の支給申請等手続を事業主以外の者が事業主に代わって行うことができる場合が定められている。具体的には、事業主の会社の従業員、支店長等の事業所の長、事業主の事業所の従業員以外の第三者及び弁護士が行う場合は「代理人」として、社会保険労務士が行う場合は「提出代行者」又は「事務代理者」として、それぞれ支給申請等手続を事業主に代わって行うことができることとなっている(以下、事業主に代わってキャリアアップ助成金等の支給申請等手続を行う者を「代理人等」という。)。この場合、支給申請書に、代理人等の所在地、名称等を記載することなどとなっている。

(4) 不正受給が確定した場合の労働局における対応

労働局は、キャリアアップ助成金等について、不正受給(注1)であることが確定して、支給決定の取消し等を行った場合には、「雇用保険二事業助成金等不正受給・不適正支給防止マニュアル(第六版)」(令和元年5月職業安定局長、雇用環境・均等局長及び人材開発統括官)に基づいて、雇用保険二事業助成金等不正受給報告(以下「不正受給報告」という。)を作成して、不正受給を行った事業所名、代理人等の名称、不正受給の内容等について厚生労働本省に報告することとなっている。

また、労働局は、不正受給を防止する対策として、31年4月以降、キャリアアップ助成金等について不正受給であることが確定して、支給決定の取消し等を行った場合には、不正受給報告とは別に、要領に基づいて、不正受給に関する情報を労働局間で共有することとなっている。その方法は、労働局間等で不正受給に関する情報を共有するシステム(以下「共働支援システム」という。)に、不正受給を行った事業所名、不正受給の内容等を入力するほか、代理人等が不正受給に関与した事実が確定している場合には、不正受給に関与した代理人等の所在地、名称等の情報を不正受給に関する情報の一部として入力することによることとなっている(以下、共働支援システムにより労働局間で共有される情報を「不正受給情報」という。)。

そして、不正受給に関与した代理人等が行うキャリアアップ助成金等の支給申請については、支給決定が取り消された日等から5年間は受理しないこととなっている。このため、労働局は、キャリアアップ助成金等の新たな支給申請があった場合には、不正受給情報に基づいて、不正受給に関与した代理人等が関与するものではないかなどの確認を行うこととなっている。

(注1)
不正受給  偽りその他不正の行為により本来受けることのできないキャリアアップ助成金等の支給を受けること

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

上記のとおり、労働局は、キャリアアップ助成金等の新たな支給申請があった場合には、不正受給情報に基づいて、不正受給に関与した代理人等が関与するものではないかなどの確認を行うこととなっている一方で、不正受給情報が共有された時点で既に支給済みのキャリアアップ助成金等については同様の確認を行うこととはなっていない。

そこで、本院は、合規性等の観点から、各労働局が不正受給情報を共有した時点で既に支給済みのキャリアアップ助成金等について、不正受給情報に情報が記載されている代理人等が関与した不正受給が行われていないかなどに着眼して検査した。

検査に当たっては、24労働局(注2)が29年度から令和3年度までの間に支給決定したキャリアアップ助成金等491,046件(支給額計3746億3956万余円)を対象として、厚生労働本省及び5労働局(注3)において、キャリアアップ助成金等の不正受給情報の共有や活用の状況を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、厚生労働本省を通じて24労働局に係るキャリアアップ助成金等に関する支給データの提出を受けるなどして検査した。

(注2)
24労働局  北海道、岩手、山形、茨城、栃木、千葉、東京、神奈川、石川、愛知、三重、京都、大阪、兵庫、奈良、岡山、山口、徳島、香川、愛媛、福岡、長崎、大分、宮崎各労働局
(注3)
5労働局  千葉、石川、愛知、京都、福岡各労働局

(検査の結果)

本院は、厚生労働本省を通じて、上記の24労働局に係る支給済みのキャリアアップ助成金等に関する支給データ(平成29年7月から令和4年3月までの間に支給されたもの)の提出を受けて、不正受給に関与したことが確定したため不正受給情報に情報が記載されている代理人等が支給申請に関与していないかについて、支給データと代理人等の情報とを照合することなどにより確認した。

その結果、11労働局(注4)が支給決定したキャリアアップ助成金等65件について、不正受給情報に情報が記載されている代理人等が支給申請に関与していたことが明らかになったことから、これらのうち過去の不正受給との類似点が多いなどの特徴を有する50件(対象事業主数25事業主、支給申請に関与した代理人等6法人、支給額計6234万余円)を選定して、上記の11労働局に対して不正受給の有無に関する調査を行うように求めた。そして、4年7月末現在で、このうち28件(支給額計4548万余円)について労働局における調査結果が確定したことから、その内容を確認したところ、のとおり、このうち22件(支給額計4300万余円)について不正受給であることが判明した。これらの不正受給に関与した代理人等は1法人であり、当該代理人等による関与の下で8事業主が支給申請を行っていた。

(注4)
11労働局  北海道、東京、石川、愛知、京都、大阪、兵庫、奈良、岡山、徳島、福岡各労働局

表 不正受給の有無に関する調査の状況

労働局名
不正受給の有無に関する調査を行うように求めたキャリアアップ助成金等
うち調査結果が確定したもの うち不正受給であることが判明したもの
A B
事業主数
(事業主)
支給件数
(件)
支給額
(円)
事業主数
(事業主)
支給件数
(件)
支給額
(円)
事業主数
(事業主)
支給件数
(件)
支給額
(円)
北海道 1 8 9,204,920 1 8 9,204,920 1 8 9,204,920
東京
1 2 19,950,000 1 2 19,950,000 1 2 19,950,000
石川
2 4 2,240,000 2 4 2,240,000 1 1 600,000
愛知
1 2 268,600 1 2 268,600 0 0 0
京都
4 7 5,520,000 1 1 1,200,000 1 1 1,200,000
大阪
1 1 570,000 1 1 570,000 0 0 0
兵庫
5 5 4,699,600 1 1 2,674,600 1 1 2,674,600
奈良
3 9 7,525,800 1 4 2,965,800 1 4 2,965,800
岡山
4 6 3,675,360 0 0 0 0 0 0
徳島
1 1 2,280,000 0 0 0 0 0 0
福岡
2 5 6,410,720 2 5 6,410,720 2 5 6,410,720
25 50 62,345,000 11 28 45,484,640 8 22 43,006,040
調査結果が確定したものに対する不正受給が判明したものの割合(B/A) 78% 94%

(注) 割合については小数点以下を切り捨てている。

上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。

事例

福岡労働局は、事業主Aに代わって支給申請手続を行った代理人等Bから、平成30年9月に、人材開発支援助成金に係る訓練計画の内容等を記載した訓練計画届等の提出を受けていた。そして、代理人等Bから、当該訓練計画に基づき30年10月から31年3月までの間に訓練受講者3人に対して職業訓練を実施したとして、令和元年5月に支給申請書及び訓練実施状況報告書等の添付書類の提出を受けて、同労働局は、これらの書類に基づき、同年9月に人材開発支援助成金計2,803,040円の支給決定を行い、この支給決定に基づき、厚生労働本省は同月に同額を事業主Aに支給した。

その後、事業主Aとは別の事業主Cが、同労働局とは別の労働局管内において、虚偽の書類を支給申請書に添付するなどして支給申請を行うことにより、キャリアアップ助成金等を不正に受給したとして、2年1月に支給決定が取り消されていた。そして、当該不正受給に代理人等Bが関与したとして、事業主Cと共に代理人等Bについても、その所在地、名称等が共働支援システムに入力されて、不正受給情報として福岡労働局においても共有されていた。しかし、情報が共有された時点で既に支給済みのキャリアアップ助成金等については確認を行うこととはなっていないことから、同労働局は、不正受給情報が共有された時点で既に支給済みの上記の人材開発支援助成金2,803,040円について、代理人等Bが支給申請に関与した事実があるかどうかの確認を行っていなかった。

そこで、本院は、共働支援システムのデータと同労働局が電子情報として管理していた支給データとを照合することにより、事業主Aによる前記の支給申請に代理人等Bが関与していることを把握して、同労働局に対して、前記の人材開発支援助成金2,803,040円の支給について不正受給の有無に関する調査を行うように求めた。その結果、前記の訓練計画で実施することとしていた職業訓練の大部分を事業主Aが実施していなかったにもかかわらず、代理人等Bは、訓練計画どおりに職業訓練を実施したこととして、事実と異なる訓練実施状況報告書を作成したり、訓練実施状況報告書の内容と相違しないように出勤簿を偽造したりなどして支給申請手続を行っていたことが判明した。このため、前記の人材開発支援助成金2,803,040円が不正に受給されていた。

このように、代理人等が関与した不正受給情報を各労働局が共有した場合に、その時点で既に支給済みのキャリアアップ助成金等についても、当該代理人等が関与した不正受給が行われていないかの確認を行うことが重要であるにもかかわらず、その確認が行われていなかった事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。

(発生原因)

このような事態が生じていたのは、厚生労働本省において、代理人等が関与した不正受給が判明した場合に、不正受給情報について、新たな支給申請が行われた場合の確認だけに用いるのではなく、不正受給情報が共有された時点で支給済みのキャリアアップ助成金等の確認にも用いることについての検討が十分でなかったことなどによると認められた。

3 当局が講じた改善の処置

上記についての本院の指摘に基づき、厚生労働本省において、不正受給の有無の確認が適切に行われるよう、4年8月に、代理人等が関与した不正受給情報を各労働局が共有した場合に、その時点で既に支給済みのキャリアアップ助成金等を対象として、当該代理人等が関与した不正受給が行われていないかの確認を適切に行うこととして、その具体的な方法を定めるとともに、労働局に対して通知を発して、上記の確認を適切に行うよう周知徹底を図る処置を講じた。