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  • 平成8年度|
  • 第1章 検査結果の概要|
  • 第2節 検査結果の大要|
  • 第1 事項等別の検査結果

特定検査対象に関する検査状況の概要


C 特定検査対象に関する検査状況の概要

「特定検査対象に関する検査状況」として計6件掲記した。

(ア) 政府開発援助について

 我が国は、開発途上国の健全な経済発展を実現することを目的として、その自助努力を支援するため、政府開発援助を実施している。その額は無償資金協力やプロジェクト方式技術協力、直接借款などいずれも毎年度多額に上っている。

 この政府開発援助について、外務省等の援助実施機関に対して検査を行うとともに、平成9年中に、7箇国の73事業について現地調査を実施した。これらの援助に対する検査は、相手国に対して本院の検査権限が及ばないことや事業現場が海外にあることなどの制約の下で実施したものであるが、現地調査を行った事業の大部分については、おおむね順調に推移していると認められた。しかし、相手国の予算不足や受入体制及び管理が適切でなかったことのため、援助の対象となった施設が完成していなかったり、機械や施設、移転された技術が十分活用されていなかったりしていて、援助の効果が十分発現していない事態が、4事業において見受けられた。このような事態が生じているのは、主として相手国の事情によるものであるが、我が国としては、今後も相手国の自助努力を絶えず促すとともに、相手国が実施する事業に対する支援のための措置をより一層充実させることが重要である。

 また、海外経済協力基金が実施している開発金融借款10事業について、同基金の監理が十分行われているかを検査したところ、3箇国で実施されている4事業について、相手国の開発金融機関の借受者からの貸付金の償還が遅延しているなどの状況の把握が不十分である事態が見受けられた。このような事態が生じているのは、主として同基金において、開発金融借款に関する各種報告書類の提出の必要性に対する認識が不十分なことによるものであり、報告書類の提出について借款契約に規定するなどして、開発金融借款が当初の目的どおり有効に利用されるよう、十分な監理を行うことが重要である。

(イ) 老人福祉施設等の施設整備事業について

 平成8年に、同一人が理事長である8社会福祉法人(彩福祉グループ)のうち7法人が実施した施設の整備事業に係る建築工事等の実施について疑惑が生じ、これを契機に、社会福祉施設整備事業の実施について社会的な関心が著しく高まった。このような状況を踏まえて検査を実施した結果、彩福祉グループの7法人では、老人福祉施設等の整備事業において、法人理事長が経営する会社と工事請負契約を締結し、その会社は契約額より低額な金額で他の建設会社と一括下請負契約をしていて工事の施行に何ら関与していないのに、法人理事長が経営する会社との契約額に基づいて国庫補助金及び事業団貸付金を受けるなどしていた。

 また、彩福祉グループ以外の5法人では、同じく老人福祉施設等の整備事業において、実際の契約額より高額な契約額に基づいて国庫補助金及び事業団貸付金を受けたり、補助対象となる建 築工事費を過大に算定したりなどしていた。

 このことから、厚生省では社会福祉法人等が実施する老人福祉施設等の整備事業に係る建築工事については、一般競争入札に付するなど都道府県等が行う契約手続に準拠することとするなどの措置を講ずるとともに、今後の社会福祉事業の在り方について抜本的な見直しのための検討に着手するとしている。

 本院としては、今後、社会福祉施設の整備事業の検査において、制度改正の実効性や国庫補助金及び事業団貸付金に関する審査体制の見直しの状況を多角的に検証することとする。

(ウ) 国庫補助事業に係る事務費の執行について

 本院が、平成7年、農林水産省、運輸省及び建設省所管の公共事業に係る国庫補助事業の事務費のうちの食糧費について検査した結果、これら3省では、本院の指摘に基づき改善の処置を講じるとともに、非公共事業についてもこれに準じて改善の処置を講じた。そして、上記の3省以外の省庁においても、3省と同様に改善の処置が講じられているものと認められた。また、事務費のうちの旅費等の執行に関し、一部の都道府県において、不適正な経理処理が行われていた問題が提起されるなど、社会的関心が高いものとなっている。このような状況を踏まえ、国庫補助事業に係る事務費の執行について検査を実施した。

 検査したところ、食糧費については、特に不適切な事態は見受けられなかった。また、旅費等の執行については、都道府県からの報告によれば、18道府県において不適正な経理処理が行われていた。そして、都道府県の内部調査が継続して行われている状況である。

 本院では、今後とも、国庫補助事業に係る事務費の執行について、十分留意して検査に努めることとする。

(エ) 廃棄物屋外貯蔵ピットに関する予算とその執行について

 動力炉・核燃料開発事業団東海事業所において、長期にわたり貯蔵ピットにおけるウラン廃棄物の保管が適切でなかったこと、及び貯蔵ピットを抜本的に改修するために認可された予算の大部分が別の経費に充てられていたことなどの事態が明らかになった。

 本院は、本件に対する社会的関心が極めて高いことを踏まえ、貯蔵ピットの改修に係る予算の執行内容などについて調査を行った。その結果、ウラン廃棄物の保管が適切でなかったのに、貯蔵ピットを抜本的に改修するための予算が応急的処置のためだけに執行されていて、予算の大部分は貯蔵ピットの改修とは別の経費に充てられていたり、長期にわたり実態を反映しない予算要求を繰り返していたりしていた。

 同事業団は、法令により弾力的な予算の執行が認められており、今回の予算の執行はこの法令で認められた範囲内で行われたものであるが、事業団の支出予算は国から投じられた多額の資金などをもとに、必要な事業に配分すべく計画されたものである。したがって、同事業団においては、今後これら事業の実施に当たっては、予算の趣旨に沿った適切な予算執行と的確な予算要求を行うとともに、科学技術庁においては、これらに対し一層適切に対処することが求められている。

(オ) 日本国有鉄道清算事業団の長期債務等について

 日本国有鉄道清算事業団では、昭和62年4月の日本国有鉄道の改革以来、同事業団に帰属した土地、株式等の資産の処分等により長期債務の償還を進めてきた。しかし、将来発生が見込まれる年金負担等を含む長期債務等の残高は、62年度首に25兆52百億円であったものが、資産の売却収入が早い段階で確保されなかったこと、年金負担に係る新たな債務が加わったことなどから、長期債務の償還等が円滑に進まず、毎年多額の金利負担が生じるなどして、平成9年度首には28兆06百億円と増加している。そして、最終的に残る長期債務等についてはいずれ国民に負担を求めざるを得ないことから、国民の関心が極めて高い。

 この長期債務について、9年度以降に償還期限が到来する都度、借換えを行わずその償還のための財源がすべて手当てされるなどとし、また、将来費用についても9年度首に想定される今後の発生見込額が変動しないと仮定した場合、長期債務等の処理に伴う支払見込額は35兆11百億円と見込まれる。そして、長期債務の借換えを行いながらその償還を進めることとなれば、上記の支払見込額以上の財源が必要になると見込まれる。

 したがって、長期債務の償還等について、その本格的処理を行うため、早急に国民の理解と合意を得られるような抜本的な措置が執られることが緊要である。

(カ) 住宅金融専門会社の債権債務の処理に係る公的資金の投入等について

 国は、住宅金融専門会社の債権債務の処理に要する経費6850億円を、平成8年度一般会計予算に計上した。また、特定住宅金融専門会社(特定住専)の債権債務の処理の枠組みを定めた「特定住宅金融専門会社の債権債務の処理の促進等に関する特別措置法」が8年6月に施行された。

 この処理の枠組みについては国民の関心も高いことから、本院では、上記の財政資金6850億円の使途及び特定住専からの譲受債権等の回収状況等について検査を実施した。

 その結果、上記の法律の枠組みに基づいて、財政資金は特定住専に係る債務処理等に充てられ、譲受債権等の回収等も行われていた。また、回収等により損失を生じたものはなく、8年度の譲受債権等の回収等に関しては新たな財政資金の投入は必要とはなっていなかった。

 しかし、法律の枠組みによれば、個別の譲受債権等ごとの回収金額が取得価額を下回ったことなどによる損失に伴う新たな財政資金が投入されることもあり、また、今後の譲受債権等の回収状況等の見通しには不確定な要素もある。

 したがって、本院においては、今後も譲受債権等の回収等について、その事態の推移を注視することとする。