各府省所管の公益法人の財務、特に内部留保について、正確性、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、財務、特に内部留保の状況はどのようになっているか、国等の補助金等により設置造成された基金が適切かつ有効に運営されているかなどの点に着眼して検査を行った。
検査の結果の概要は、次のとおりである。
ア 各府省所管の公益法人に対する国等からの支出
(ア) 20年4月1日現在における各府省所管の公益法人6,661法人のうち、国等(国又は独立行政法人)から補助金等の交付を受けているものなどは2,018法人となっており、19年度においては、これら国費等交付先法人のうち1,848法人に対して、総額8263億円に上る多額の支出が国等からなされている(参照
)。
(イ) このうち、19年度に国から交付された補助金等についてみると、自府省所管公益法人に対する交付額が98.4%となっており、同様に、国からの契約に基づく支払についてみると、自府省所管公益法人に対する支払金額が93.8%となっていて、国の支出の状況からは公益法人と所管府省との関係が深いことがうかがえる(参照
)。
イ 各府省所管の公益法人の財務の状況
(ア) 国費等交付先法人における19年度の収入の状況をみると、年間収入額に占める国等からの支出額の割合は平均で13.8%となっており、また、国費等交付先法人のうち、年間収入額の3分の2以上を国等からの支出が占めているものは206法人あり、国費等交付先法人の11.1%に上っている。
また、国からの支出額が年間収入額の3分の2以上となっている73法人に係る国からの支出額の公表状況をみると、国からの支出に大きく依存しているのにその状況が十分には明らかになっていない法人がある(参照
)。
(イ) 国費等交付先法人における支出の状況をみると、総支出額に占める管理費の割合が2分の1を超えているものが34法人ある。また、国から補助金等の交付を受けた公益法人における再補助等の状況をみると、再補助等を行った額の割合が50%以上となっているものが24法人ある(参照
)。
(ウ) 国費等交付先法人における資産、負債及び正味財産の状況をみると、国等から支出を受けていない法人に比べて、1法人当たりの平均の資産の規模は小さいが、正味財産の規模は大きくなっている(参照
)。
(エ) 個別の法人を抽出して検査したところ、国から交付された補助金等の人件費への充当について検討の必要があったと認められるものが見受けられた(参照
)。
ウ 各府省所管の公益法人の内部留保の状況
(ア) 国費等交付先法人における19年度末の内部留保額は2432億円(内部留保額がプラスとなっている額5898億円、マイナスとなっている額3466億円)となっており、1法人当たりの平均でみると120百万円と国等からの支出を受けていない法人の約3倍となっている。
国費等交付先法人における19年度末の総資産額は、18年度末より増加している一方、内部留保額は減少している。これは、内部留保額を算出する際に総資産額から差し引く項目のうち、基本財産、公益事業基金、運営固定資産及び引当資産等の金額が増加しているためである。しかし、公益事業基金についてみると、その事業目的や取崩し手続に係る規定が整備されていないものが相当ある(参照
)。
(イ) 国費等交付先法人における内部留保率についてみると、30%を超えている法人は全体の3分の1程度となっている。
そして、内部留保と国等からの支出との関係をみると、国等からの支出規模の大きい法人では、内部留保額の規模の大きい法人の割合が高くなっている(参照
)。
(ウ) 個別の法人を抽出して検査したところ、内部留保額の算出上減算項目としている公益事業基金及び引当資産等の妥当性に疑義のあるもの、国の補助金により設置造成された基金の運用益が内部留保の増加に影響していると考えられるものなどが見受けられたほか、国への補助金の返納が遅延しているものも見受けられた(参照
)。
エ 所管府省の指導監督の状況及び所管府省退職者の再就職者の状況
(ア) 立入検査の実施状況についてみると、財務・会計面で改善すべき事項があるとされた国費等交付先法人に対して、文書により改善の指示を行ったものが49.4%となっている(参照
)。
(イ) 所管府省国費交付先法人における所管府省退職者の再就職者は、20年4月1日現在で1,163法人に9,900人が在籍している。そして、所管府省退職者の再就職者が在籍している法人は、在籍していない法人に比べて、1法人当たりの所管府省からの補助金等の交付額や随意契約に基づく支払金額が多くなっている(参照
)。
オ 国等の補助金等により各府省所管の公益法人に設置造成された基金の状況
(ア) 20年度末現在で、国所管基金が110基金、独法所管基金は35基金あり、これらの20年度末の基金保有額は、計1兆0872億円(うち国等の補助金等相当額計1兆0191億円)と多額に上っている(参照
)。
(イ) 国所管基金110基金のうち、算定になじまない33基金を除いた77基金の事業実績率をみると、30%未満となっているものが27基金あり、また、会計検査院の17年10月の報告における事業実績率から低下している基金も見受けられる。同様に、算定になじまない40基金を除いた70基金の基金保有倍率をみると、50倍以上となっているものが19基金あり、また、会計検査院の17年10月の報告における基金保有倍率から上昇している基金も見受けられる(参照
)。
(ウ) 基金の保有形態をみると、保有額の半分以上を債券で保有している基金も見受けられ、中には、国債や地方債と比較して元本割れのリスクの大きい債券を保有しているものもあるほか、基金によっては、事業終了時の補助金の国庫返納のため満期償還前の売却を行う結果、損失が発生するおそれもある(参照
)。
(エ) 国所管基金については政府の見直しがなされており、目標の策定は多くの基金についてなされているが、定量的な目標を設定した上で目標達成度を評価したとしている基金は少ない。
また、政府における見直しで算出した保有割合をみると、多くの基金が2倍未満と算出しているが、中には、保有割合の算出に当たって使用した必要見込額の算出方法について、より合理的な指標を用いて算出すべきものなどが見受けられる(参照
)。
(オ) 個々の基金を抽出して検査したところ、事業実績が継続的に少ない状況となっているもの、計画的かつ速やかに国庫返納がなされるべきもの、基金規模の見直しによる基金の取崩額と国庫補助金の返納額に差額が生じたものなどが見受けられた(参照
)。
(2) 所見
各府省所管の公益法人の中には、国等からの支出を受けているものや、国等の補助金等を原資とした基金を保有しているものが多数あり、これに対して国等からは多額の支出がなされているが、前記第3-1-(1)
のとおり、補助事業の実施、財務の透明性、内部留保額等の算出、基金事業の運営等の面で課題が見受けられる。
したがって、各府省は、今後、新たな公益法人制度の趣旨を踏まえつつ、以下の点に留意して、公益法人に対する国等の支出が経済的、効率的に行われて、その効果が十分上がるよう努める必要がある。
ア 公益法人における補助事業の実施及び経理について
公益法人における補助事業の実施に当たっては、補助対象事業費に含める人件費を適正に算定させるなど公益法人に対する指導を強化するとともに、額の確定に当たって厳正な審査を行う。
また、公益法人から補助金等を国に返納させる必要がある場合には、公益法人に補助金等が滞留しないよう、額の確定等の手続を速やかに行う。
イ 公益法人に対する国の支出の透明性について
収入に占める国からの支出の割合が高いなどの公益法人の国からの支出額に係る公表については、公益法人に対する国の支出の状況がより明らかになるよう努める。
ウ 公益法人の内部留保について
各府省は、所管する公益法人に対して、内部留保額等が公益法人の財務において重要な指標の一つであることを認識させて、その算出が適正に行われるよう指導する。このことは、新たな公益法人制度における遊休財産額の算定の際にも、十分留意する必要がある。
また、内部留保の規模が過大になっている公益法人に対しては、内部留保の規模が適正になるよう指導する。
エ 所管府省による指導監督及び所管府省退職者の再就職者の状況について
所管する公益法人への財務状況についての指導監督を実効あるものにするために、立入検査をより徹底するとともに、その的確な把握に努めて、指導が必要な事項は適時適切に文書によって行い、当該法人が講じた措置の履行状況の把握にも努める。
また、所管府省退職者の再就職者が在籍している公益法人への支出に当たっては、特にその透明性の確保に留意して、当該法人に対する支出の必要性等について十分説明責任を果たせるようにする。
オ 基金事業の運営について
今回の検査において検討すべき事態が見受けられた基金については、早急に実効性のある見直しを行って所要の処置を講じる。
また、これらを含めて、今後の基金事業の運営に当たっては、事業実績及び保有倍率を考慮に入れて利用条件や基金規模の検討を常に行うとともに、基金設置の趣旨に沿った管理や基金の国庫返納の際の損失発生を回避する手段の検討について公益法人を指導する。さらに、定量的な目標の策定とこれに基づく適切な目標達成度の評価及び基金事業の見直しに努める。
2 国が発注している調査研究事業の状況について
(1) 検査の結果の概要
国が各府省所管の公益法人に発注している調査研究事業の状況について、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、調査研究事業に係る契約事務が適切に行われており、公正性、競争性及び透明性が確保されているか、調査研究事業の成果物の活用、管理等は適切に行われているかなどの点に着眼して検査を行った。
検査の結果の概要は、次のとおりである。
ア 契約の競争性
(ア) 19年度の対象契約全体でみると、随意契約の割合(件数72.6%、支払金額82.2%)は、前年度より件数で11.8ポイント、支払金額で11.1ポイント低下しているものの、依然として大部分を占めており、平均落札率が、競争契約の87.7%よりも10.8ポイント高く98.5%となっていて、競争性及び経済性の面でまだ十分ではない状況となっている(2か所参照 1
2
)。
(イ) 競争契約の割合(件数27.4%、支払金額17.8%)は、前年度より上昇しているものの、1者応札の件数割合が58.3%と半数以上を占めており、1者応札の平均落札率(92.6%)が2者応札よりも8ポイント以上、3者以上応札よりも14ポイント以上上回っていて、落札率からみた場合、1者応札の場合には実質的な競争性を確保しにくい状況となっている。
また、企画競争においても、1者応募の件数割合が55.8%と半数以上を占めており、企画競争において複数の業者の中から優れた企画を提案した者を選定する手続の実効性を確保しにくい状況となっている(2か所参照 1
2
)。
(ウ) 価格と技術等の両方を評価する総合評価方式や企画内容等を審査する企画競争において、統一的な要領等を作成していない省庁があったり、評価や審査を調査研究事業の担当課職員のみで行っているものが見受けられたりするなど、その実施方法において公平性及び透明性の確保が必ずしも十分でない状況となっている(参照
)。
(エ) 抽出した対象契約について検査したところ、競争契約や企画競争において、募集期間や履行期間が短期間であったり、入札の資格要件に制限的な条件を付したりなどしていて競争性の確保に関して検討の必要があったもの、総合評価方式の実施方法において透明性が十分でないものなどが見受けられた(参照
)。
イ 予定価格の算定
(ア) 19年度の対象契約について、予定価格の算定方法別に、人件費単価及び諸経費率の分布状況をみると、契約により内容や履行の難易度に違いがあるため一律に比較できないものの、相当のばらつきがある。このうち、諸経費については、今回会計実地検査を実施した29省庁の内部部局における積算基準等をみると、各省庁間で諸経費の算定が区々となっている(参照
)。
(イ) 公益法人の財務データに基づいて、その諸経費率を試算すると、各府省等の契約に係る予定価格における諸経費率は、公益法人の諸経費率より高くなっている(参照
)。
(ウ) 抽出した対象契約について検査したところ、複数の省庁から同一公益法人に発注された調査研究事業に係る契約の予定価格における諸経費率が区々となっているものが見受けられた(参照
)。
ウ 契約の履行及びその確認
(ア) 19年度の対象契約のうち、元契約のうち再委託率が50%以上のものの件数割合は9.0%となっている。また、概算契約の額の確定方法については、統一的な要領等を作成していない省庁や、提出書類だけで確認している割合の高い省庁がある(参照
)。
(イ) 抽出した対象契約について検査したところ、再委託の承認手続をとっていなかったり、再委託の成果物を確認できなかったり、概算契約において区分経理が行われていなかったり、履行期間外に業務を実施していたり、成果物の納品が遅延していたり、成果物の記載内容が不十分となっていたり、当初の目標を達成していなかったりしているものなどが見受けられた(参照
)。
エ 成果物の公表及び管理
(ア) 19年度の対象契約に係る成果物のうち公表しているものの件数割合は39.9%、うちインターネットによる公表は14.3%にとどまっており、国立国会図書館への納本率も低い状況となっている。また、成果物のうち24.2%については、契約条項において著作権の帰属に関する規定がない状況となっている(参照
)。
(イ) 抽出した対象契約について検査したところ、成果物についてより有効な公表方法を検討すべきもの、発注者に著作権を帰属させる旨を契約書等に明確に定めるべきものなどが見受けられた(参照
)。
(2) 所見
各府省所管の公益法人に発注している国の調査研究事業については、各府省等では公共調達の適正化を推進する中で、競争性の高い契約方式への移行が図られているが、前記第3-2-(1)
のとおり、契約の競争性のほか、予定価格の算定、契約の履行及びその確認、成果物の公表及び管理の面で課題が見受けられる。
したがって、公益法人に調査研究事業を発注している各府省等は、次の点に留意することにより、契約の経済性、公正性、競争性及び透明性の更なる向上に努めるとともに、調査研究事業の成果が広く国民に活用されるよう努める必要がある。
ア 契約の競争性について
(ア) 随意契約を実施しているものについては、企画競争等によらざるを得ない場合を除いて、発注する業務の内容を仕様書等において具体的に定めるなどして早急に総合評価方式を含む競争契約への移行を図る。また、企画競争等を経ない随意契約による場合には、なるべく複数者から見積書を徴して、競争の原理の応用に努める。
(イ) 契約相手方の選定に当たって技術等の評価を必要とする場合には総合評価方式を実施することを原則とし、仕様書等の内容を具体的に提示することが困難であったり、複数の者を契約相手方として選定する必要があったりするなどの同方式の導入になじまない場合に限って企画競争の実施を検討する。また、総合評価方式及び企画競争については、審査員の構成、審査方法等に関して統一的な要領等を作成して、これに基づいて実施するなど公平性及び透明性の一層の向上を図る。
(ウ) 競争契約や企画競争を行うに当たっては、契約の適正な履行の確保に配慮しつつ、より多くの者の参加が可能となるよう、入札や応募の資格要件や審査基準を必要最小限にとどめ、履行期間や提案書の応募期間を十分確保することにより制限的なものとならないよう留意するほか、仕様書や要領等の内容を明確にするなどして、実質的な競争性の確保に努める。また、公募を実施する場合には、公正性を確保するため契約予定相手方名の表示は行わないようにする。
イ 予定価格の算定について
調査研究事業では、多様な業務内容等に応じて予定価格の算定を行う必要があり、積算基準、実例価格、公益法人の財務データなど、利用可能な資料のうちから実態に適合したものを選択して、これに基づいて人件費、諸経費等を積算することにより、算定の合理性の向上に努める。
ウ 契約の履行及びその確認について
公益法人による再委託について管理を厳格にしたり、業務内容等の変更に応じて契約変更を適時適切に行ったりなどして、契約の履行管理の徹底を図る。
また、概算契約について、公益法人における区分経理の実施状況を十分に把握するとともに、額の確定方法に関する統一的な要領等を作成して、これに基づいて契約金額の精算を行い、概算契約の適切な履行を確保する。
さらに、成果物の納品等、契約の履行確認の徹底を図る。
エ 成果物の公表及び管理について
調査研究事業の成果物については、国民に有用な情報を提供するとともに、個人情報の保護等に十分留意しつつ、公表に係る要領等を整備して一層積極的に公表を進める。特に、インターネットが急速に普及していることから、基本的にインターネットによる公表を推進するとともに、各府省等全体の取組として国立国会図書館への納本を励行する。
また、成果物の著作権については、契約書等において各府省等への帰属を明確に定めておく。
以上のとおり報告する。
会計検査院としては、公益法人制度の改革に伴う各府省所管の公益法人の今後の状況を注視するとともに、公益法人に対しては、引き続き、国等から多額の支出がなされることも見込まれることから、今後とも、これらの支出及びこれにより設置造成された基金について、多角的な観点から検査していくこととする。