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  • 平成22年度|
  • 第4章 国会及び内閣に対する報告並びに国会からの検査要請事項に関する報告等|
  • 第1節 国会及び内閣に対する報告

<参考:報告書はこちら>

国庫補助金等により都道府県等に設置造成された基金について


第3 国庫補助金等により都道府県等に設置造成された基金について

検査対象 内閣府、総務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省
43都道府県、43都道府県管内の市区町村、43都道府県が所管する公益法人その他団体
検査の対象とした基金の概要 都道府県、市区町村、都道府県所管公益法人その他団体が、国庫補助金等の交付を受けて単年度では完結しない特定の目的を持つ事業を行う場合に設置造成するもの
検査の対象とした基金数及び基金保有額 3,859基金 3兆4397億円(平成22年度末)
上記のうち国庫補助金等相当額   2兆8459億円

1 検査の背景

(1) 基金の概要

 国は、都道府県、市区町村、都道府県所管公益法人(注1) その他団体が、基金を設けて単年度では完結しない特定の目的を持つ事業を実施する場合、その基金の設置、積み増し又は充当(以下「設置造成」という。)に必要な資金の全部又は一部について、当該都道府県等に国庫補助金又は国庫交付金(以下「国庫補助金等」という。)を直接又は間接に交付している(以下、国庫補助金等の交付を受けて基金を設置造成する都道府県等を総称して「基金事業団体」という。)。

 公益法人  平成18年改正前の民法(明治29年法律第89号)第34条の規定に基づいて設立された社団法人及び財団法人を指す。

 基金事業団体は、国庫補助金等を受け入れて、基金を設置造成し、運用管理しており、設置造成した基金を他の事業の財源と区分して経理し、事業を実施している。そして、基金事業団体のうち、普通地方公共団体は、地方自治法(昭和22年法律第67号)の規定により、特定の目的のため財産を維持し資金を積み立て、又は定額の資金を運用するための基金を設けることができるとされ、また、特定の目的のために財産を取得し、又は資金を積み立てるための基金を設けた場合においては、当該目的のためでなければこれを処分することはできないこととなっている。

(2) 過去の会計検査の状況

 本院は、従来、国庫補助金等により設置造成された基金について検査を行っているところである。
 そして、会計検査院法第30条の3の規定に基づき、平成17年10月に参議院に報告した「国が公益法人等に補助金等を交付して設置造成させている資金等に関する会計検査の結果について 」において、国庫補助金等により国所管の公益法人等に設置造成された基金について、必要に応じて基金事業の終了も含めた所要の措置を積極的に講ずるほか、基金事業に係る見直し時期の設定や目標達成度を測るための基準の策定等見直し体制を整備することが重要と考えられるとの所見を記述している。また、同条の規定に基づき、21年10月に参議院に報告した「各府省所管の公益法人に関する会計検査の結果について 」において、国庫補助金等により国所管の公益法人等に設置造成された基金について、基金の事業実績及び保有倍率を考慮に入れて利用条件や基金規模の検討を常に行うとともに、定量的な目標の策定とこれに基づく適切な目標達成度の評価及び基金事業の見直しに努める必要があるとの所見を記述している。
 これらのほか、本院は、国所管の公益法人等以外の都道府県、都道府県所管の公益法人等に設置造成された基金について、会計検査院法第36条の規定に基づき意見を表示し又は処置を要求するなどしており、平成21年度決算検査報告を例にとると「経済産業省が都道府県等に補助金を交付して都道府県所管の公益法人に造成させている基金について、事業継続の必要性等を検討するための基準等を都道府県等に提示し、これにより不要となる基金のうち国庫補助金相当額を国庫に返納させるなどして、適切かつ有効な活用を図るよう改善の処置を要求したもの 」などを掲記している。

(3) 補助金等の交付により造成された基金等に関する基準

 政府は、前記17年10月の本院の報告後、18年8月に、国庫補助金等の交付を受けて設置造成した基金を保有する国所管の公益法人等(以下「基金法人」という。)が当該基金により実施している事業に関して、当該国庫補助金等を交付した府省が国庫補助金等の交付要綱等に基づく指導監督を行う場合の基準として、「補助金等の交付により造成した基金等に関する基準」(以下「基金基準」という。)を閣議決定している。
 基金基準によると、基金法人に既に設置造成されている基金については、原則として27年度末を超えない範囲で事業を終了する時期を設定することとされ、また、基金法人は定期的に(少なくとも5年に1回)基金の見直しを行うことなどとされている。
 一方、基金基準が国所管の公益法人等の保有している基金を対象としていることから、基金事業団体が保有している基金は基金基準が適用されず、27年度末を超えない範囲で事業を終了する時期を設定すること、定期的に見直しを行うことなどは求められていない。

(4) 20、21 両年度の補正予算により設置造成された基金の概要

 政府は、20年9月の世界的な金融危機を受けて、同年10月以降、緊急の経済対策等を行っており、その一環として、20、21両年度の補正予算により、単年度では完結しないが、2か年から3か年の短期間の事業実施を前提とした基金が新規に多数設置造成された(以下、これらの基金を「20・21補正基金」という。)。
 そして、21年度補正予算により設置造成された基金について、財務省は「平成21年度補正予算において設けられた基金等の執行状況等の公表について(連絡)」(平成21年6月19日財務省主計局)により、所管府省に対し、基金の執行状況を把握・公表し、適切かつ効率的な予算執行に努めるよう求めている。

2 検査の観点、着眼点、対象及び方法

(1) 検査の観点及び着眼点

 本院は、基金事業団体の基金について、これまでも所管府省ごとに基金の検査を実施してきているところである。そして、20、21両年度には、多数の20・21補正基金が設置造成された。
 そこで、基金事業団体の基金について、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、次のような点に着眼して各府省横断的に検査を実施した。

ア 基金の使途別や運営形態別にみた状況はどのようになっているか。

イ 基金事業は計画どおり実施されているかなど、適切かつ有効に運営されているか。

ウ 基金は、設置目的に沿って適切に使用されているか。また、基金の管理及び運用は適切か。

エ 基金事業の評価に係る基準等は適切に策定され、見直しは適切に行われているか。

(2) 検査の対象及び方法

 基金事業団体(23年3月に発生した東日本大震災により甚大な被害を受けるなどした岩手、宮城、福島、茨城各県、4県管内の市町村、4県所管の公益法人その他4県に所在する団体を除く。)の国庫補助金等を含む基金で、22年度末に存在する基金(設置から1年未満の基金を除く。)を対象として検査した。
 検査に当たっては、各府省及び基金事業団体から国庫補助金等により設置された基金の状況について資料を基に説明を受けるなどして上記に該当する3,859基金を特定し、これらの基金について各府省及び基金事業団体から調書を徴して調査分析するとともに、17都道府県(注2) 、17都道府県管内の市区町村、17都道府県が所管する公益法人その他17都道府県に所在する団体に設置造成された基金のうち、477基金を抽出して会計実地検査を行った。

 17都道府県  東京都、北海道、京都、大阪両府、埼玉、千葉、神奈川、静岡、愛知、兵庫、鳥取、広島、徳島、愛媛、福岡、熊本、沖縄各県

3 検査の状況

(1) 基金の設置及び保有の状況

ア 基金の概況

 22年度末の基金の状況は、3,859基金(都道府県1,091基金、市区町村2,082基金、公益法人その他団体686基金)における基金保有額は3兆4397億余円となっている。このうち国庫補助金等相当額は2兆8459億余円(都道府県2兆3257億余円、市区町村1046億余円、公益法人その他団体4155億余円)で全体の82%(小数点以下切捨て)を占めている。
 18年度から22年度までの各年度末における基金保有額のうち国庫補助金等相当額について、交付元府省別にみると、18年度に障害者自立支援対策臨時特例基金(22年度末1371億余円)及び20年度に緊急雇用創出事業臨時特例基金(同4490億余円)が設置造成されたことに加えて、21年度に介護職員処遇改善臨時特例基金(同2429億余円)等の基金が設置造成されたことから、厚生労働省を交付元とする基金が最も多くなっている。また、各年度の推移をみると、一部の省を除いて、20、21両年度に国庫補助金等相当額が大きく増加している。これは、前記のとおり、政府の経済対策等による20・21補正基金が多数設置造成されたことによるものである。これらの基金の中には、22年度補正予算においても多額の交付金が交付され、積み増しされているものもある。

イ 国庫補助金等の配分方法

 基金を設置造成するために交付された国庫補助金等の総額は、基金ごとに各府省において決定されている。そして、18年度以降の国庫補助金等の配分方法についてみると、各基金事業団体への配分額は、各基金事業団体に対して基金事業に関する要望調査を行い全国の計画額総額に対する各基金事業団体の計画額の割合によって案分したり、実質的な要望調査を行わずに予算額を基金事業の全国の対象者数等に対する各基金事業団体の対象者数等の割合で案分したりするなどの方法により、各府省において決定されている。

ウ 20・21補正基金の設置等の状況

 20・21補正基金は、19基金事業、計2,518基金、国庫補助金額等相当額計2兆0140億余円に上っており、調査分析の対象とした基金総数に占める割合は65%、基金保有総額に占める割合は58%となっている。
 府省別にみると、厚生労働省所管の国庫補助金等による基金が最も多く、特に、20年度に設置造成された介護従事者処遇改善臨時特例基金は、前記のとおり、各市区町村等が事業主体となることから、その数は1,415基金となっており、20・21補正基金の56%と過半数を占めている。
 また、20・21補正基金は、経済対策等の一環で設置造成され、短期間に集中して事業を実施するためのものであることから、当初、19基金事業のうち6基金事業が22年度を、12基金事業が23年度をそれぞれ終了年度とするなど、あらかじめ全ての基金で事業期間が定められている。各基金事業の22年度末時点の執行率(取崩額の合計額を国庫補助金等交付額で除したもの。以下同じ。)についてみると、20年度設置造成分は2基金事業を除き50%前後となっていて、平均で47%となっている。21年度設置造成分は50%を超えるものがある一方、10%に満たないものもある状況で、平均で32%となっている。

エ 基金の分類

 検査の対象とした3,859基金について、基金の使途及び運営形態に着眼すると、次のような態様に分類できる。

(ア) 使途別分類

a 貸付事業基金(251基金、うち20・21補正基金数0基金)

b 債務保証事業基金(16基金、同0基金)

c 利子助成事業基金(1基金、同0基金)

d 補助・補填事業基金(981基金、同417基金)

e 施設整備等事業基金(358基金、同253基金)

f 広報等事業基金(225基金、同0基金)

g 補助・補填及び広報等事業基金(1,900基金、同1,848基金)

h 貸付及び補助・補填事業基金(127基金、同0基金)

(イ) 運営形態別分類

a 取崩型(3,176基金、うち20・21補正基金数2,518基金)

b 回転型(251基金、同0基金)

c 保有型(16基金、同0基金)

d 運用型(289基金、同0基金)

e 回転・取崩型(127基金、同0基金)

 使途別分類で基金数が最も多いのは、補助・補填及び広報等事業基金の1,900基金であり、このうち、20・21補正基金は1,848基金となっている。また、運営形態別分類で基金数が最も多いのは、補助等を行うために基金を取り崩す取崩型の3,176基金であり、このうち20・21補正基金は2,518基金となっている。
 20・21補正基金は、使途別分類ではいずれも設置した基金から補助等を行う補助・補填事業基金、施設整備等事業基金又は補助・補填及び広報等事業基金に分類され、運営形態別分類では全て取崩型に分類される。これは、緊急経済対策等の一環として、後年度に具体的事業箇所の割り付けを行うため当該年度において財源を手当てする基金を設置したという20、21両年度の補正予算の成り立ちによるものである。

(2) 基金の運営状況等

ア 使途別及び運営形態別の基金数、事業実績額及び基金保有額の推移

 18年度から22年度までの各年度末の基金数及び基金保有額は、前記のとおり、20・21補正基金が多数設置造成されたことから、この両年度に急増している。そして、この間の事業実績額(注3) は、18年度308億余円から22年度1兆4472億余円に大幅に増加している。

 事業実績額  基金事業の内容には種々のものがあり、例えば貸付事業基金については、基金の貸付け、貸付金の回収等が、債務保証事業基金については、債務保証の引受け、代位弁済等がある。本報告の分析において、各年度の事業実績額としているのは、保有基金の使用と直接又は間接に結び付くものとして、貸付事業基金については新規貸付額、債務保証事業基金については新規債務保証額、利子助成事業基金については利子助成支払額、補助・補事業基金については補助金等の支払額、施設整備等事業基金については事業費用の支払額、広報等事業基金については広報等に係る費用の支払額としている。

(ア) 使途別にみた状況

 使途別に基金数、事業実績額及び基金保有額の推移についてみると、次のとおりとなっている。

a 貸付事業基金は、18年度以降、基金数は251と変化がなく、近年新規に設置造成された基金はない。また、事業実績額は減少傾向にあり、22年度は29億余円と18年度の55億余円の半分程度にまで減少している。基金保有額は686億余円から645億余円に減少しているものの、ほぼ横ばいで推移している。

b 債務保証事業基金は、18年度以降、基金数は16と変化はなく、基金保有額は24億円前後で推移している。この基金の大部分は、経済産業省所管の産業再配置促進環境整備費補助金を基に設置造成された基金であり、近年では事業実績はほとんどない。

c 利子助成事業基金は、国土交通省所管の被災住宅再建対策事業費補助金による住宅復興助成基金のみが該当する。本基金については、17年度以降事業実績がないにもかかわらず基金保有額が200億円を超えており、基金保有額が過大と認められたので、23年10月に、会計検査院法第36条の規定により、使用する見込みのない資金を早期に国庫に返還するなど基金規模の見直しを図るよう改善の処置を要求 した。

d 補助・補填事業基金は、22年度末の基金保有額が1兆0674億余円であり、21年度末の1兆1698億余円より減少しているものの、18年度末の1229億余円と比べて9444億余円の増加となっている。また、22年度の事業実績額4909億余円は18年度の135億余円と比べて4773億余円の増加となっていて、18年度以降で最も多くなっている。これは、20・21補正基金が、基金設置から1年以上経過し事業が本格化したため事業実績額が増加したことによるものである。

e 施設整備等事業基金は、基金保有額が20年度以降に大きく増加し、22年度末の基金保有額は3767億余円となっている。また、事業実績額も20年度以降年々増加しており、22年度には1754億余円となっている。これは、補助・補填事業基金と同様に、20・21補正基金の基金保有額及び事業実績額が増加したことによるものである。

f 広報等事業基金は、事業実績額及び基金保有額がほぼ横ばいとなっている。これは、広報等事業基金は運用型の基金が多く、低金利の状態が継続しているため、運用益が低調となっていることによるものである。

g 補助・補填及び広報等事業基金は、事業実績額が18年度63億余円から22年度7481億余円、基金数及び基金保有額が19年度末52基金、852億余円から22年度末1,900基金、1兆4120億余円とそれぞれ急増している。これは、18年度に設置造成された障害者自立支援対策臨時特例基金の事業実績が基金設置から1年を経過して増加してきたこと、また、20年度補正予算により、各市区町村に介護従事者処遇改善臨時特例基金が設置造成されたことなどによるものである。

h 貸付及び補助・補填事業基金は、事業実績額が21年度の30億余円から、22年度には260億余円と大きく増加した。これは、20年度に設置造成された後期高齢者医療財政安定化基金の事業実績額が222億余円と大きく伸びたことなどによるものである。

(イ) 運営形態別にみた状況

 運営形態別に基金数、事業実績額及び基金保有額の推移についてみると、次のとおりとなっている。

a 取崩型は、18年度以降、基金数、事業実績額及び基金保有額のいずれも増加傾向にあり、特に20年度以降は補正予算により集中的に設置造成されている。20・21補正基金の全てが取崩型となっているのは、基金を設置造成することにより速やかに財源を確保し事業を実施することにより、緊急経済対策等としての事業効果の早期発現を目的としているためである。22年度末基金保有額(2兆7803億余円)は21年度末(3兆4188億余円)を下回っているが、これは21年度までに設置造成された基金を取り崩して事業を実施していることによるものである。

b 回転型は、貸付事業基金が該当するが、前記のとおり、近年事業実績は低調となっている。

c 保有型は、債務保証事業基金が該当するが、前記のとおり、近年事業実績は低調となっている。

d 運用型は、近年事業実績が低調となっている。これは、低金利の状態が継続しているため、運用益が低調となっていることによるものである。

e 回転・取崩型は、貸付及び補助・補填事業基金が該当するが、前記のとおり、22年度において、後期高齢者医療財政安定化基金の事業の増加等により事業実績額が増加している。

 回転型基金及び保有型基金は、使途別ではそれぞれ、貸付事業基金及び債務保証事業基金であるが、事業実績が低調であることから、今後の各事業の需要を踏まえて、基金の必要性、基金規模等について検討する必要がある。
 運用型基金は、近年の低金利の状況の下、基金保有額に比べ運用益は少なく、事業実績額は低位のまま推移している。国所管の公益法人等が保有する運用型基金については、資産の効率性の観点から資金の国庫返還を含む見直しが行われているなどしており、基金事業団体に設置造成された基金についても、基金の必要性、基金規模等について更に検討する必要がある。

イ 20・21 補正基金の執行状況

(ア) 使途別及び運営形態別にみた状況

 使途別に20・21補正基金についてみると、d補助・補填事業基金、e施設整備等事業基金並びにg補助・補填及び広報等事業基金に分類される。そして、いずれの使途別分類においても、基金保有額は21年度の国庫補助金等の交付状況を反映して急増している。しかし、事業実績額は毎年度増加しているものの、基金保有額ほどには増加していない。
 また、運営形態別に20・21補正基金についてみると、全ての基金が取崩型基金に分類される。これについてみると、事業実績額は、20年度344億余円、21年度4459億余円、22年度1兆0638億余円と毎年度増加しているものの、基金保有額は、22年度末には2兆2169億余円と多額となっている。

(イ) 基金の事業終了予定年度別にみた状況

 20・21補正基金は、緊急経済対策等の一環として、早期に事業を執行し、効果を発現させることを目的としているものであるが、全19基金事業のうち23年度に事業終了予定である11基金事業の執行率は、事業終了を1年後に控えた22年度末時点においても45%にすぎず、定められた事業期間内で22年度末の基金保有額1兆0000億余円全てを執行することは困難であり、基金事業終了後に多額の執行残が生ずると思料される。
 また、24年度以降に事業終了予定とされている基金事業の22年度末時点の執行率は、36%にとどまっていて、22年度末の基金保有額は1兆0107億余円に上っている。これらの基金事業は、当初から25年度に事業終了予定としていた1基金事業を除いて、当初設定された23年度までの期間では事業を十分に実施できないなどとして、事業終了年度の延長が行われているものの、基金事業終了後に相当程度の執行残が生ずると思料される。

ウ 基金の運用状況

 基金の運用について、全ての基金事業団体に適用される規定や基準はないが、地方自治法の規定により、都道府県及び市町村は、基金について、条例で定める特定の目的に応じ、及び確実かつ効率的に運用しなければならないとされている。また、条例において、基金に属する現金は、金融機関への預金その他確実かつ有利な方法で保管し、必要に応じて最も確実かつ有利な有価証券に代えることができるとされているのが一般的となっている。
 22年度末の基金の運用方法について運営形態別に分類してみると、次のとおりとなっている。
 取崩型及び回転型の基金では、定期預金等の預金での保有の割合がそれぞれ84%及び92%となっている。これは、これらの基金の多くが、毎年度、年度末等のほぼ同時期に取り崩されているため、1年未満の定期預金等での運用が多くなっていることによる。
 保有型の基金では、1年以上の長期運用となる地方債及び国債での保有の割合がそれぞれ30%及び27%で計58%となっており、運用型の基金では、地方債及び国債での保有割合がそれぞれ31%及び24%で計56%となっている。これは、保有型及び運用型の基金は基金自体を取り崩さず、基金の運用益を事業等の財源に充てている場合が多いため、預金に比べて、より多くの運用収入を得られる債券で保有しているものと思料される。
 基金全体の運用についてみると、定期預金等の預金での運用が80%、地方債及び国債の債券での運用が6%となっている。このほか、都道府県、市区町村等の一般会計等における一時的な資金不足を補うなどのために一定期間基金の現金を貸し出す繰替運用の割合が8%となっている。また、公益法人が保有する基金の中には、その一部を外国債等で運用しているものも見受けられ、外国債等の22年度末の時価評価額(約95億円)は帳簿価額(約114億円)の82%となっている。これらの基金は保有型又は運用型であり、基金事業の終了時期が定められておらず、償還期限まで長期に保有し続けることを前提として外国債等で運用している。しかし、保有型又は運用型基金については、前記ア(イ) のとおり事業実績が低調であることから、基金の必要性、基金規模等について検討する必要があり、検討の結果、外国債等の償還期限まで保有し続けることができないことも考えられる。このようなことから、外国債等の運用については、現時点で損失が確定しているものではないが、今後の基金事業の動向を注視しながら運用管理していくことが必要である。
 なお、基金の運用益については、運用型の基金を除いて、一旦当該基金に繰り入れるなどした後、基金事業の財源として使用することとされている。

エ 基金の監査状況

 都道府県及び市区町村に設置造成された基金は、地方自治法の規定により、監査委員による監査の対象となっており、毎会計年度少なくとも一回以上期日を定めて行う定期監査の一環として監査を受けているものが多い。
 また、公益法人その他団体に設置造成された基金についても、監査委員が行う財政援助団体等に対する監査の一環として複数年度に一回の頻度で監査を受けている。そして、22年度に公益法人その他団体の686基金のうち監査委員の監査を受けた割合は、42%となっている。

(3) 個別基金の状況

 都道府県等に設置造成された基金について個別に検査したところ、基金事業終了後に国庫補助金の大半が国庫に返還されることとなっていたり、基金の執行率が低くなっていたりなどしているものが見受けられた。これらについて示すと次のとおりである。

ア 執行率が低くなった結果、22年度の基金事業終了後に、交付された国庫補助金の大半が国庫に返還されることとなったもの
 (学校給食地場農畜産物利用拡大基金(交付元 農林水産省)検査の対象とした36基金に係る国庫補助金交付額計 28億4999万余円)

イ 23年度が事業終了予定とされているものの、計画どおりに事業が実施されていないため、22年度末時点における執行率が全般的に低くなっているもの
 (社会福祉施設等耐震化臨時特例基金(交付元 厚生労働省)検査の対象とした43基金に係る交付金交付額計 1136億8400万余円)

ウ 22年度末時点における執行率が、一部の基金では90%以上となっている一方で、全体としては低くなっているもの
 (高校生修学支援基金(交付元 文部科学省)検査の対象とした43基金に係る交付金交付額計 471億0513万余円)

エ 受託者が実績報告書に虚偽の記載を行うなどしたため、委託費が補助の目的外に使用されていて、結果として基金が設置目的に反して取り崩されていたもの
 (ふるさと雇用再生特別基金(交付元 厚生労働省)検査の対象とした43基金に係る交付金交付額計 2267億7000万円 前掲不当事項参照

オ 交付金交付時における実績見込みと基金の執行実績にかい離が生じているため、多額の余剰額が基金に滞留しているもの
 (後期高齢者医療制度臨時特例基金(交付元 厚生労働省)検査の対象とした43基金に係る交付金交付額計 2553億5974万余円)

カ 基金事業の終了年度まで、使用見込みのない国庫補助金等が基金に滞留することが見込まれるもの

 検査の結果、基金事業の終了年度まで、使用見込みのない国庫補助金等が基金に滞留することが見込まれるものが見受けられたことから、23年10月に、会計検査院法第36条の規定により、「医療施設耐震化臨時特例交付金により造成された基金の有効活用について」及び「被災住宅再建対策事業費補助金により造成された基金規模の見直しについて」として、厚生労働大臣及び国土交通大臣に対して、それぞれ改善の処置を要求した(前掲意見を表示し又は処置を要求した事項 2か所参照    )。

(4) 基金事業に係る基準の策定等の状況

 基金基準は、前記のとおり、地方自治の尊重という観点から、基金事業団体を対象としていない。そこで、基金事業に係る基準の策定等の状況を検査したところ、国庫補助金等の交付要綱等又は基金条例等(基金事業団体が各基金について定めた条例等)において終了時期が定められている基金の割合は、全体で82.5%と高くなっている。また、基金事業の目標達成度について評価等が行われていない基金の割合は89.0%と高くなっており、基金事業団体による保有割合の検証が行われた基金の割合は、全体で9.0%と低くなっている。
 そして、基金事業の期間中に使用見込みのない余剰額がある場合に、当該余剰額のうち国庫補助金等相当額を国に返還する旨の規定が定められている基金の割合は、1.6%と低率にとどまっている。

4 所見

 基金事業団体の基金は、多額の貴重な財政資金を投じて設置造成されている。我が国の財政は引き続き厳しい状況にあることから、各府省は、次の点に留意して、基金事業団体と十分連携し、基金事業が適切かつ有効に実施されるよう努める必要がある。

(1) 国庫補助金等の配分方法について

 基金の設置造成のために国庫補助金等を交付するに当たっては、事前の検討が重要であり、準備期間中に行う要望調査等を十分に行う必要がある。単に全国一律の配分方法により国庫補助金等を配分することなく、また、事前の要望調査等を行ったものについても、各基金事業団体における当該事業の実施状況に見合った配分等を行う必要がある。このようにして、適切な基金規模となるように国庫補助金等を配分する必要がある。

(2) 20・21補正基金の執行状況について

 20・21補正基金は、緊急経済対策等の一環として、基金を取り崩して執行することで、早期に事業効果を発現させることを目的としており、基金の取崩しが進まないと効果が限定的になってしまうおそれがあることから、事業期間内での執行に留意する必要がある。また、執行残が多額に生ずると見込まれる場合は、基金保有額が過大とならないよう基金規模の見直しを行う必要がある。このようにして、資金を有効に活用する必要がある。

(3) 使途別及び運営形態別の基金の状況について

 回転型及び保有型の基金は、事業実績が低調であることから、今後の各事業の需要を踏まえて基金の必要性、基金規模等について検討する必要がある。また、運用型基金は、近年の低金利の状況の下、基金保有額に比べ運用益は少なく、事業実績額は低位のまま推移しており、基金の必要性、基金規模等について更に検討する必要がある。このような検討を行い、資金の効率を高めるよう努める必要がある。

(4) 基金の運用状況について

 基金の運用については、確実かつ効率的な運用に努める必要がある。そして、外国債等で運用しているものは、今後の基金事業の動向を注視しながら運用管理していくことが必要である。

(5) 個別基金の状況について

ア 執行率の低い基金は、基金規模が過大とならないよう国庫補助金等の配分について十分に留意して適切な基金規模とする必要があり、また、基金事業の執行方法についても十分に検討し、資金の有効活用を図る必要がある。

イ 基金の取崩しについては、受託者から提出される実績報告書の内容を十分調査確認するなどして、基金の設置目的に沿って適切に行う必要がある。

ウ 基金事業の期間中に使用見込みのない余剰額が生ずると認められる場合に、当該余剰額のうち国庫補助金等相当額を速やかに国庫に返還させたり、多額の余剰額が滞留している基金は、余剰額の解消に向けた具体的な方法等を示したりするなどして、適切な基金規模となるよう努める必要がある。

(6) 基金事業に係る基準の策定等の状況について

 基金事業団体において、基金基準を参考として、基金事業継続の要否の判断等に資する基準等を作成するなどして主体的に基金事業の見直しに努める必要がある。
 基金事業の目標達成度について評価等が行われていない基金については、目標達成度に関する基準等を作成するなどして、適切に基金事業が行われているかなどの評価等の実施に努める必要がある。また、基金の保有割合について検証が行われていない基金については、適切な基金規模となっているか検証に努める必要がある。
 また、国庫補助金等の交付元府省においても、国庫補助金等の交付要綱等において基金事業の見直しの基準等を明記したり、使用見込みのない余剰額がある場合に国庫補助金等相当額を国に返還する旨の規定を定めたりなどして、国庫補助金等によって設置造成された基金が適切な基金規模となるよう努める必要がある。

 本院としては、基金事業団体の基金保有額は依然として多額であることから、基金事業の必要性、基金規模等に留意しつつ、今後も基金事業の実施状況等について引き続き注視していくこととする。