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  • 国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)|
  • 会計検査院法第30条の3の規定に基づく報告書|
  • 平成24年10月

公共土木施設等における地震・津波対策の実施状況等に関する会計検査の結果について


第2 検査の結果

2 地震・津波対策に係る整備、補強等の進捗状況

(1) 公共土木施設等の整備事業費

ア 整備事業費

 公共土木施設等の耐震対策工事は、国が行う直轄事業と都道府県等が行う補助事業により修繕事業又は改築事業として推進されているが、公共事業費は、我が国の財政が厳しい状況から、全般的に抑制される傾向にあり、公共土木施設等の整備事業についても同様の傾向が見受けられる。一方、施設管理者が管理する公共土木施設等は、年々増加している。そして、阪神・淡路大震災を契機として、公共土木施設等の耐震基準が見直され、これに基づき施設の耐震化が推進されていることから、8年度以降の国土交通省及び農林水産省における公共土木施設等の整備事業費の推移についてみると、図表-事業1 のとおり、8年度には10兆4867億円であったものが22年度には5兆8355億円になり、その規模は半分程度にまで減少している。
 また、8年度から22年度までの公共土木施設等の整備事業費は、計134兆3200億円に上っている。

  図表-事業1 公共土木施設等の整備事業費の推移
 (単位:兆円)

図表-事業1公共土木施設等の整備事業費の推移(単位:兆円)
(注)
 各年度の一般会計歳入歳出決算及び特別会計歳入歳出決算から各事業に関連する科目の決算額を積み上げて作成している。

イ 地震・津波対策費

 国、地方公共団体等は、海岸事業において堤防の嵩(かさ)上げを行ったり、港湾整備事業において耐震強化岸壁を整備したり、道路整備事業において橋りょうの耐震対策工事を行ったりなどして各事業において地震・津波対策を実施している。そして、4地方整備局等、3農政局及び3森林管理局並びに15都道府県が実施した11事業の地震・津波対策費等の合計額の18年度から23年度までの推移は、図表-事業2 のとおりとなっている。そして、アのとおり、整備事業費が年々減少傾向にある中で、この6年間は、地震・津波対策の重要性、必要性等から、整備事業費に対する地震・津波対策費の割合は、13%から17%で推移している。

 図表-事業2  11事業の地震・津波対策費等の合計額の推移(内訳は別表-事業 参照)

図表-事業211事業の地震・津波対策費等の合計額の推移(内訳は別表-事業参照)
注(1)  整備事業費は各年度の決算額となっているが、平成23年度分については、24年3月末までの支払額を集計したものである。
注(2)  補助事業費については、国庫補助金の金額に都道府県等が負担した整備事業費分の金額を加えて集計したものとなっている。

 11事業の整備事業費の合計額は、18年度から23年度までで直轄事業費7兆1328億円、補助事業費10兆9063億円(国庫補助金5兆2416億円)、計18兆0392億円となっており、そのうち地震・津波対策費は、直轄事業費1兆0876億円、補助事業費1兆5258億円(国庫補助金7402億円)、計2兆6135億円となっている。

ウ 社会資本整備総合交付金による地震・津波対策

 22年度以降、国庫補助事業における地震・津波対策の多くは、社会資本整備総合交付金等の交付金事業に移行して実施されている。
 社会資本整備総合交付金は、社会資本総合整備計画で行うこととされた事業の範囲内で、地方公共団体が国費を自由に充当でき、また、基幹となる事業の効果を一層高められるソフト対策についても実施できるなど、従前の国庫補助金に比較して、より地方公共団体にとって創意工夫を生かせる総合的な交付金とされており、次のような仕組みで執行されることになっている。

〔1〕 地方公共団体が、おおむね3年から5年の計画期間、目標、目標実現のために行う事業等を記載した社会資本総合整備計画を作成し、国に提出する。
〔2〕 国は、毎年度、当該計画に基づき必要な交付額を算定して、地方公共団体に交付金を交付する。
〔3〕 地方公共団体は事業を実施し、必要に応じて中間評価を行い、交付期間終了後は、地方公共団体自らが設定した指標等に基づき事後評価を行い、その結果を公表するとともに国に報告する。そして、中間評価は、事業の進捗状況、評価指標の実現状況等について行うこととなっている。

 国は、上記の仕組みの中では、社会資本総合整備計画で行うこととされた事業による公共土木施設等の整備内容や実施箇所等の具体的な進捗状況等については、地方公共団体において実施されることとなっている事後評価、あるいは必要に応じて実施される中間評価によって、明確にされた場合に把握できることとなる。
 また、国は、東日本大震災からの復興の基本方針(平成23年7月東日本大震災復興対策本部決定)に基づき、23年度から27年度までの5年間の集中復興期間に、全国的な緊急防災事業(以下「全国防災事業」という。)を直轄事業及び補助事業によって推進することとしている。
 そして、全国防災事業は、全国的に緊急に実施する必要性が高い防災、減災等に係る事業を行うこととしており、地震・津波対策に係る事業についても緊急に実施する必要性等が高いものについては、全国防災事業として実施できることとなっている。このため、全国の472地方公共団体等は、今まで実施してきた事業を再編成するなどして、23年度に、社会資本整備総合交付金により全国防災事業を行うこととして社会資本総合整備計画211計画を作成し、これによる事業を実施することにより、地震・津波対策を推進することとしている。
 そこで、15都道府県等が作成した社会資本総合整備計画933計画について、中間評価の実施状況等をみたところ、図表-事業3 のとおりとなっていた。

図表-事業3  社会資本総合整備計画における中間評価の実施状況等

(単位:計画数)

中間評価実施状況等 計画 中間評価の実施状況
期間 実施 未実施  
中間年度に達しているもの   中間年度に達していないもの  
       
評価方法等を定めているもの 評価方法等を定めていないもの 評価方法等を定めているもの 評価方法等を定めていないもの
       
社会資本総合整備計画 1、2年 34 0 34 24 0 24 10 0 10
3、4年 184 1 183 51 0 51 132 5 127
5年〜 715 3 712 241 7 234 471 12 459
小計(注) 899 4 895 292 7 285 603 17 586
933 4 929 316 7 309 613 17 596
うち地震・津波対策に係るもの 1、2年 13 0 13 8 0 8 5 0 5
3、4年 49 0 49 15 0 15 34 4 30
5年〜 206 1 205 47 3 44 158 6 152
268 1 267 70 3 67 197 10 187
うち全国防災事業に係るもの 1、2年 8 0 8 3 0 3 5 0 5
3、4年 15 0 15 0 0 0 15 2 13
5年〜 40 0 40 0 0 0 40 3 37
63 0 63 3 0 3 60 5 55
 小計は期間が「3、4年」と「5年〜」の計画の合計である。

 上記のうち計画期間が3年以上の計画で、中間年度に達している計画において、中間評価を実施した計画は4計画であり、292計画については中間評価が未実施となっており、このうち285計画では中間評価の評価方法等についても定められていなかった。また、中間評価が実施された計画の中には、事業の進捗状況等を明確に把握できないものも見受けられた。
 上記のような取組状況において、全国的に緊急に実施する全国防災事業のような重要な施策を社会資本整備総合交付金事業で実施する場合、国において、社会資本総合整備計画で行うこととされた事業の進捗状況等について的確に把握できないおそれがあり、全国的、緊急的な整備の計画的推進に支障が生ずるおそれがある状況となっていた。

(2) 地震・津波対策に係る公共土木施設等の整備状況

 防災には、時間の経過とともに災害に対する予防、応急、復旧等の各段階があり、それぞれの段階において最善の対策を執ることが被害の軽減につながることになる。
 そして、主として災害予防対策に資する河川、海岸、砂防、下水道、治山、農業農村整備、集落排水各事業に係る公共土木施設等は、堤防の背後地等における人命、財産、ライフライン機能等の安全性を確保するために重要な施設である。また、主として災害に対する応急復旧活動に資する道路整備、港湾整備、公園、漁港整備各事業に係る公共土木施設等は、災害発生直後から必要となる救助、救急活動等、被災者への緊急物資の供給を行うための交通の確保、安全な避難場所等の確保等のために重要な施設である。
 また、これらを踏まえた施設の整備に当たっては、施設の安全性及び機能の代替性の確保並びに施設間の連携の強化による地域としての耐震性の確保に努めるとともに、施設整備だけでは災害を防ぐことが困難な場合もあることから、ソフト対策と連携した対策を講ずることが重要である。そして、ソフト対策には、地震や津波が発生した場合に、住民が安全な場所に避難できるように危険箇所を住民に周知するためのハザードマップの作成、避難場所の案内標示の設置、住民の意識啓発のための防災訓練の実施等がある。
 11事業により整備した公共土木施設等は、前記のとおり、地震又は津波が発生した場合に、災害予防対策に資する施設として、あるいは災害に対する応急復旧活動に資する施設として、有効に機能することが重要であり、また、施設整備を実施するだけではなくソフト対策を実施することにより、その機能がより充実することになる。
 そこで、各事業において、これらの機能に留意して地震・津波対策に係る施設整備又はソフト対策の実施状況についてみたところ、次のとおりとなっていた。

ア 河川事業

(ア) 事業の概要

 国土交通省、地方公共団体等は、1(3)ア のとおり、河川堤防、水門、揚排水機場等の河川管理施設の築造等を実施している。そして、河川のうち、国土保全上又は国民経済上特に重要な水系に係る河川で国土交通大臣が指定した河川は、一級河川とされ、河川法第9条の規定に基づき、国土交通大臣がその管理を行うこととなっている。なお、国土交通大臣が指定する区間内の一級河川に係る国土交通大臣の権限に属する事務の一部は、当該一級河川の部分の存する都道府県を統轄する都道府県知事又は政令指定都市(以下「政令市」という。)の長が行うことができることとなっている。そして、河川のうち、上記の特に重要な水系として指定された水系以外の水系で、公共の利害に重要な関係があるものに係る河川で都道府県知事が指定した河川は、二級河川とされ、河川法第10条の規定に基づき、当該河川の存する都道府県を統轄する都道府県知事又は政令市の長が管理を行うこととなっている。

(イ) 施設整備の実施状況

a H7河川耐震点検マニュアルによる耐震点検等の実施状況

 4地方整備局等及び15都道府県管内におけるH19河川耐震照査指針等が策定されるまでの間のH7河川耐震点検マニュアルによる耐震点検等の実施状況は、次のとおりとなっていた。

(a) 河川堤防

 河川堤防の耐震点検は、図表-河川1 のとおり、おおむね実施されていたものの、耐震対策工事が必要と診断された565.0kmのうち工事が実施されていたのは、151.7km(実施率26.9%)となっていた。

図表-河川1 H7河川耐震点検マニュアルによる河川堤防の耐震点検等の実施状況

内訳は別表-河川2 参照)

(単位:km)

直轄事業、補助事業の別



















概略点検 詳細検討 耐震対策工事
実施状況 実施結果 実施状況 実施結果









未了延長 済み延長 詳細検討不要延長 要詳細検討延長 未了延長 済み延長 耐震対策工事不要延長 要耐震対策工事延長
直轄事業計 224 4,054.5 44 573.6 - 573.6 118.3 455.2 - 455.2 327.6 127.6 49.3 78.2
補助事業計 7,333 37,751.6 355 1,193.0 - 1,193.0 381.3 811.7 113.7 697.9 276.5 437.4 102.3 335.0
合計 7,557 41,806.2 399 1,766.6 - 1,766.6 499.7 1,266.9 113.7 1,153.2 604.1 565.0 151.7 413.3
注(1)  管理河川延長以外の延長は、左右両岸の延べ延長である。
注(2)  一部の県において点検対象延長等を不明としているため、合計が一致しないものがある。

 また、東日本大震災において、耐震対策工事が実施されていたことなどから被災しなかった箇所がある一方で、耐震対策工事が必要と診断されていたのに工事が実施されていない河川堤防において沈下するなど大規模な被災が生じた箇所があった(詳細については参照 )。

(b) 水門、揚排水機場等

 水門、揚排水機場等の耐震点検は、図表-河川2 のとおり、おおむね実施されていたものの、耐震対策工事が必要と診断された9施設のうち工事が実施されていたのは、6施設(実施率66.7%)となっていた。

図表-河川2 H7河川耐震点検マニュアルによる水門、揚排水機場等の耐震点検等の実施状況

(内訳は別表-河川3 参照)

直轄事業、補助事業の別





概略点検 詳細検討 耐震対策工事
実施状況 実施結果 実施状況 実施結果









未了施設 済み施設 詳細検討不要施設 要詳細検討施設 未了施設 済み施設 耐震対策工事不要施設 要耐震対策工事施設
直轄事業計 111 20 91 69 22 - 22 20 2 2 -
補助事業計 368 17 367 190 177 18 159 152 7 4 3
合計 479 37 458 259 199 18 181 172 9 6 3
(注)
 一部の県において点検対象施設数等を不明としているため、合計が一致しないものがある。

 H19河川耐震照査指針等による耐震性能照査等の実施状況

 4地方整備局等及び15都道府県管内におけるH19河川耐震照査指針等による耐震性能照査等の実施状況は、次のとおりとなっていた。

(a) 河川堤防

a 耐震性能照査等の実施状況河川堤防については、1(3)ア のとおり、耐震性能照査範囲を対象として耐震性能照査等を実施することとなっており、それらの実施状況は、図表-河川3 のとおりとなっていた。

図表-河川3 H19河川耐震照査指針等による河川堤防の耐震性能照査等の実施状況

(内訳は別表-河川4 参照)

(単位:km)

直轄事業、補助事業の別








耐震性能照査範囲の把握状況










耐震性能照査 耐震対策工事
実施状況 実施結果









未了延長 済み延長 耐震対策工事不要延長 要耐震対策工事延長
直轄事業計 224 4,054.5 済み 77 552.1 59.9 492.1 437.0 55.1 - 55.1
補助事業計 7,333 37,751.6 一部 319 1,617.0 627.1 989.8 904.2 85.6 3.8 81.7
  2県 797 3,994.5 済み 200 525.1 394.2 130.8 130.8 - - -
2府県 465 2,813.8 一部 119 1,091.9 232.8 859.0 773.4 85.6 3.8 81.7
11都道県 6,071 30,936.1 未実施
合計 7,557 41,806.2 396 2,169.1 687.1 1,482.0 1,341.3 140.7 3.8 136.8
(注)
 耐震性能照査範囲の把握状況は、管内において、津波の河川遡上解析等を全ての河川で行い照査範囲を把握している場合は「済み」、一部の河川で行い照査範囲を把握している場合は「一部」、実施しておらず照査範囲を把握していない場合は「未」としている。

 耐震性能照査は、直轄事業ではおおむね実施されているものの、補助事業では耐震性能照査範囲を把握するための津波の河川遡上解析等が実施されておらず耐震性能照査範囲の把握が行われていない事態が多く見受けられた。また、耐震対策工事は、耐震性能照査の結果、工事が必要と診断された140.7kmのうち実施されていたのは3.8km(実施率2.7%)であり、ほとんど実施されていなかった。

b 耐震性能照査等の優先度

 国土交通省は、「耐震性能点検施設及び優先実施箇所の調査について(依頼)」(平成19年事務連絡。以下「優先実施箇所調査」という。)を地方整備局等に対して発出し、耐震性能照査等の優先実施箇所の考え方を示しており、地方整備局等は、これに基づいて同照査等を実施することとされている。これによると、河川の流水が溢水することにより想定される浸水家屋数等を基に、優先度が高い方から順にA、B及びCの優先度ランクをつけて同照査等を実施することとされており、ランクAの施設は、緊急的に耐震性能照査を実施し、耐震対策工事が必要と診断された場合は直ちに工事を実施する必要があるとされている。
 優先度ランク別の耐震性能照査等の実施状況は、図表-河川4 のとおり、ランクAの河川堤防243.4kmについては、耐震性能照査はおおむね実施されているものの、そのうち耐震対策工事が必要と診断された47.7kmについては工事が完了していなかった。

図表-河川4 優先度ランク別の河川堤防の耐震性能照査等の実施状況

(単位:km)











耐震性能照査 耐震対策工事
実施状況 実施結果 実施済み延長 実施未了延長
未了延長 済み延長 耐震対策工事不要延長 要耐震対策工事延長
A 243.4 5.4 238.0 190.2 47.7 - 47.7
B 284.0 31.5 252.5 245.1 7.3 - 7.3
C 24.6 23.0 1.6 1.6 - - -
552.1 59.9 492.1 437.0 55.1 - 55.1

 一方、補助事業においては、aのとおり、H19河川耐震照査指針等による耐震性能照査がほとんど実施されておらず、また、優先実施箇所調査の考え方も各都道府県に示されていない。そして、都道府県管理の河川は、延長が国土交通省管理の河川延長よりも長大であることなどから、河川堤防の耐震性能照査等を全て完了するには相当の期間と費用を要すると考えられる。
 そこで、会計検査院において、H19河川耐震照査指針等による耐震性能照査を実施していない11都道県で、河川の流水が溢水する可能性が高いと想定される河川堤防を把握するために、H7河川耐震点検マニュアルによる耐震点検結果から算出された地震後の天端高と中央防災会議等が既往の被害想定に基づいて算出した想定津波高とを比較したところ、想定津波高が地震後の天端高を上回るおそれがある河川が、地震後の天端高を把握していた7都道県のうち、6道県(注19) において90河川見受けられた。なお、4県(注20) については、現況の天端高を把握していなかったり、H7河川耐震点検マニュアルによる耐震点検結果の詳細な内容を破棄したりなどしていたため、比較できない状況となっていた。
 上記の結果については、H19河川耐震照査指針等による耐震性能照査の結果と一致するとは限らないが、H7河川耐震点検マニュアルによる耐震点検結果等を利用することで、浸水被害が生ずる危険性が高いと想定される河川を把握することができると思料される。

(b) 水門、揚排水機場等

a 耐震性能照査等の実施状況

 水門、揚排水機場等については、図表-河川5 のとおり、耐震性能照査が実施されていたのは、10,177施設のうち337施設(実施率3.3%)となっており、同照査は進捗していなかった。また、耐震対策工事が実施されていたのは、工事が必要と診断された209施設のうち31施設(実施率14.8%)となっていた。

図表-河川5 H19河川耐震照査指針等による水門、揚排水機場等の耐震性能照査等の実施状況

(内訳は別表-河川5 参照)

直轄事業、補助事業の別





耐震性能照査 耐震対策工事
実施状況 実施結果 実施済み施設 実施未了施設
未了施設 済み施設 耐震対策工事不要施設 要耐震対策工事施設
直轄事業計 2,908 2,637 271 113 158 14 144
補助事業計 7,269 7,203 66 15 51 17 34
合計 10,177 9,840 337 128 209 31 178

 河川津波遡上範囲に設置されている水門等

 河川全体の施設整備は、河川堤防、水門等の個々の河川管理施設等が機能することを前提に計画されていることから、水門等が設置されている場合は下流からの高潮等が水門等により止められるとしてその上流の河川堤防は、天端高が計画高潮位(注21) ではなく計画高潮位よりも低い上流からの計画高水位(注22) で決定されていたり、耐震性能照査範囲外とされていたりしている。
 これらのことから、河川への津波の遡上が予想される範囲(以下「河川津波遡上範囲」という。)に設置された水門等が、必要とされる耐震性能を有していない場合、地震時に倒壊したり、門柱にたわみが生ずることでゲートを降ろすことができなくなったりして、閉鎖機能を発揮できずに水門等の上流まで津波が遡上するなどすれば、これら水門等が機能することを前提として整備された河川堤防を越流するおそれもある。
 しかし、都道府県が中央防災会議の想定津波等を基に算出した津波浸水予測図等において、河川津波遡上範囲に設置されている水門等299施設のうち、耐震性能照査等が実施されていない施設が、図表-河川6 のとおり、259施設見受けられた。

図表-河川6 河川津波遡上範囲に設置されている水門等の耐震性能照査等の実施状況

(内訳は別表-河川6 参照)

直轄事業、補助事業の別 河川津波遡上範囲設置施設 左のうち耐震性能照査等未実施施設
直轄事業計 144 115
補助事業計 155 144
合計 299 259

 また、河川津波遡上範囲に設置されている水門等のうち、予想される津波到達時までに水門等の操作者が機側操作(注23) による閉鎖作業後に避難場所に安全に避難できないことから手動閉鎖ができないおそれがある水門等は、図表-河川7 のとおり、150施設あり、このうち、閉鎖作業が自動化又は遠隔操作化されていない水門等が、87施設見受けられた。

図表-河川7 河川津波遡上範囲に設置されている水門等の自動化等の状況

(内訳は別表-河川6 参照)

直轄事業、補助事業の別 手動閉鎖ができないおそれがある施設 左のうち自動化等されていない施設
直轄事業計 78 37
補助事業計 72 50
合計 150 87

c 耐震性能照査等の優先度

 直轄事業における水門、揚排水機場等の耐震性能照査等については、優先実施箇所調査において優先実施箇所の考え方が示されており、地震により開閉操作が不可能になった場合に周辺で想定される浸水家屋数等を基に、A、B及びCの優先度ランクをつけて実施することとされている。そして、優先度ランク別の耐震性能照査の実施状況は、図表-河川8 のとおり、ランクAの施設において85施設中61施設(実施率71.8%)となっており、ランクB及びランクCの施設より実施率が高いものの、耐震対策工事が必要と診断された51施設のうち工事が完了しているのは7施設(実施率13.7%)となっていた。

図表-河川8 優先度ランク別の水門、揚排水機場等の耐震性能照査等の実施状況











耐震性能照査 耐震対策工事
実施状況 実施結果 実施済み施設 実施未了施設
未了施設 済み施設 耐震対策工事不要施設 要耐震対策工事施設
A 85 24 61 10 51 7 44
B 143 109 34 17 17 7 10
C 2,680 2,504 176 86 90 - 90
2,908 2,637 271 113 158 14 144

(注19)  6道県  北海道、青森、静岡、岡山、広島、徳島各県
(注20)  4県  兵庫、愛媛、大分、宮崎各県
(注21)  計画高潮位  過去の主要な高潮及びこれらによる災害の発生状況等を勘案して定められた潮位
(注22)  計画高水位  計画上の最大流量が河道を流下するときの水位
(注23)  機側操作  施設内において河川の状況等を目視で確認しながら行う操作

イ 海岸事業

(ア) 事業の概要

a 海岸保全施設の整備

 海岸保全施設のうち、堤防については、現地盤を盛土又はコンクリート打設によって嵩上げし、高潮又は津波による海水の侵入を防止し波浪による越波を減少させるとともに、陸域が侵食されるのを防止する施設である。護岸及び胸壁については、目的と機能は堤防と同じであるが、形状等が異なり、堤防が現地盤を嵩上げして建設されるのに対して、護岸は現地盤を嵩上げせずに現地盤を被覆する構造物で、胸壁は海岸線に漁港や港湾等の施設が存在し、利用の面から海岸線付近に堤防や護岸を設置することが困難な場合にその背後に設置される構造物である。
 また、海水等の侵入を抑えるための水門や、海岸堤防の前面の漁港、港湾、海浜等を利用する車両及び人の通行のために設けられた陸閘等の閉鎖施設も海岸保全施設とされている。

b 海岸保全区域等の管理

 都道府県知事は、海岸法により、海岸保全区域の指定に当たって、当該海岸保全区域を公示するとともに、主務大臣に報告しなければならないとされ、また、海岸保全区域として指定すると、他の施設の設置に制限が加えられることなどから、必要最小限度の区域とすることとされている。 このため、海岸保全区域としての管理が不要になった場合は、適宜指定区域を廃止し、一般公共海岸区域として管理することとされている。
 そして、海岸事業における主務大臣は、海岸の存する地域及びその背後地の利用状況等に応じてそれぞれ定められており、土地改良事業として管理している施設で海岸保全施設に該当するものの存する地域等に係る海岸保全区域(以下「農地海岸」という。)及び漁港区域に係る海岸保全区域(以下「漁港海岸」という。)については農林水産大臣とされており、港湾区域又は港湾隣接地域に係る海岸保全区域(以下「港湾海岸」という。)及びこれら以外の海岸保全区域(以下「河川海岸」という。)等については国土交通大臣とされている。
 また、海岸保全区域の管理は、原則として都道府県知事が行うこととされているが、港湾区域若しくは港湾隣接地域又は漁港区域と重複する海岸保全区域については、港湾管理者の長又は漁港管理者である地方公共団体の長が管理することとされている。

c 海岸保全基本計画

 主務大臣は、海岸法に基づき、津波等による災害の発生の防止等を総合的に考慮して、海岸保全区域等に係る海岸の保全に関する基本的な方針(以下「海岸保全基本方針」という。)を定めており、海岸保全基本方針によれば、津波対策については、施設の整備によるハード面の対策だけでなく、適切な避難のためのソフト面の対策も併せて講ずることとされている。また、人家等が連たんする同一の背後地を防護する必要があることから、海岸保全施設だけでなく沿岸部における港湾施設等の関連する施設等と防護水準を整合させるなど、関係機関との連携の下に、一体的、計画的な施設整備を推進することとされている。
 そして、都道府県知事は、海岸保全基本方針に基づき海岸保全区域等に係る海岸の保全に関する基本計画を策定し、これに基づき、海岸保全施設の整備等を計画的に行うこととされている。同計画には、海岸の保全に関する事項及び海岸保全施設の整備に関する事項を定めることとされ、地域の状況変化や社会経済状況の変化等に応じた見直しを行うこととされている。

d 海岸線の概況

 我が国の海岸線延長は、約35,000kmに及んでおり、海岸保全区域に指定されている海岸保全区域延長、都道府県知事が今後海岸保全区域に指定し海岸の保全をしたいとしている海岸線延長(以下「要指定延長」という。また、海岸保全区域延長と合わせた延長を「要保全海岸延長」という。)、一般公共海岸区域延長並びに道路護岸、保安林等の他の目的から管理されている海岸及び天然海岸等からなるその他の海岸線の延長からなっている。
 そして、海岸関係省庁は、海岸事業の効果的運営に資することを目的として、毎年度、上記各海岸の延長を含めた海岸の概況、海岸の改良等の実態を調査して、「海岸統計」として公表しており、23年度版海岸統計による海岸線延長の概況は、図表-海岸1 のとおりとなっている。

図表-海岸1 海岸線の延長の概況

(単位:km)
(単位:km)
(注)
 二線堤とは、埋立等により陸域に存する海岸保全区域の区域延長である。海岸保全区域延長には含まれているが、海岸線延長には含まれていない。なお、( )書きは内数である。

e 津波避難のためのソフト対策

 津波対策については、海岸保全基本方針によれば、施設の整備によるハード面の対策だけでなく、適切な避難のための迅速な情報伝達等ソフト面の対策も併せて講ずることとされている。
 そして、災害予防として、国土交通省は、国土交通省防災業務計画に基づき、津波の危険箇所、避難地、避難路等の防災に関する総合的な資料を図面表示等を含む形で分かりやすく取りまとめたハザードマップ(以下「津波ハザードマップ」という。)等の作成、住民への配布等を推進するために、市町村に対して必要な情報を提供するなど積極的な支援を行うこととし、農林水産省は、農林水産省防災業務計画に基づき、津波による浸水想定区域(以下「津波浸水予測区域」という。)等を表示した津波ハザードマップ等の作成、配布等を推進することとしている。
 また、内閣府及び海岸関係省庁は、16年に、津波ハザードマップの作成担当者を支援するために、浸水予測計算、ハザードマップの記載事項、表現方法及び利活用方法等の津波ハザードマップの作成に関する標準的な事項を取りまとめた「津波・高潮ハザードマップマニュアル」(平成16年3月内閣府、農林水産省、国土交通省監修。以下「津波ハザードマップマニュアル」という。)を地方公共団体等に通知している。

(a) 津波浸水予測区域の設定

 津波ハザードマップマニュアルによれば、津波浸水予測区域を設定する際は、次のとおり、地震発生時の外力条件や海岸堤防等の施設条件を適切に反映した想定を行って津波浸水予測を実施することが望ましいとされている。

〔1〕 津波浸水予測区域の設定に際しての外力条件は、最悪の条件設定を基本とする。外力レベルは、施設整備では対応できない最悪の浸水状況をもたらす外力(想定最大津波)とする。
〔2〕 外力条件の一般的な設定項目である地盤変動は、地震発生時に地盤が隆起すると予測される場合は隆起を無視した地盤高を用いて津波浸水深を算定することなどを基本とする。
〔3〕 施設条件の一般的な設定項目である施設の破壊形態は、地震動による施設の転倒、滑動、液状化等による構造物被害を算定して、その被害状況を考慮する。
〔4〕 施設の機能設定状況は、水門、陸閘等の閉鎖施設について、一般的に津波到達時間が短いために閉鎖が困難である場合や、地震動に起因する変形等により十分機能しないおそれがある場合は、開放状態として取り扱う。

(b) 津波ハザードマップの記載内容

 津波ハザードマップには、住民の円滑な避難に必要な情報として、津波浸水予測区域、津波浸水深、津波到達時間等の浸水予測、津波発生時に適した避難地、避難路等の避難に不可欠な情報、大規模地震発生時に通行できなくなるおそれのある木造密集地や、土砂災害の危険がある急傾斜地等の地震に関する関連情報を記載する必要があるとされている。

(イ) 施設整備の実施状況

a 海岸保全施設等の整備、耐震化及び施設管理の状況

 15都道府県の3,825地区海岸の海岸線延長計10,291.0kmの内訳は、海岸保全域延長が計5,342.2km(うち二線堤の延長計233.8km)、要指定延長が計455.7km、一般公共海岸区域延長が計2,058.3km、その他の海岸線の延長が計2,668.5kmとなっている。
 そして、23年度末現在における15都道府県の3,825地区海岸の海岸保全施設等の整備、耐震化及び施設管理の状況についてみたところ、次のとおりとなっていた。

(a)  海岸堤防の整備

 海岸保全区域延長計5,342.2kmについては、海岸堤防が整備されている延長が計3,898.9km、海岸堤防が整備されていない延長が計483.5km、海岸堤防を整備する必要のない延長が計959.6kmとなっていた。
 15都道府県は、東日本大震災以前において、将来発生が想定される地震及びこれによる津波に施設整備とソフト対策との連携により対応するために、発生する地震の規模、津波到達時間及び津波高を想定(以下、想定した津波高を「想定津波高」という。)しており、海岸管理者は、当該想定津波高を踏まえて設計津波高を定め、海岸堤防を順次整備するなどしている。
 そして、海岸堤防の設計に用いる設計津波高については、東日本大震災を踏まえ、今後は、比較的頻度の高い(数十年から百数十年に一度程度)一定程度の津波を用いて設計津波を設定することとされ、海岸管理者は設計津波の水位の見直しに係る検討を進めている。
 このため、要保全海岸延長における海岸堤防の天端高等と従前の想定津波高とを一概に比較できないが、15都道府県の想定津波高を設定している要保全海岸延長計5,544.5kmについてみたところ、図表-海岸2 のとおり、要保全海岸延長計812.0kmについては、海岸堤防の天端高等が想定津波高より低くなっており、施設整備とソフト対策との連携による津波対策を推進する必要がある状況となっていた。

図表-海岸2 海岸堤防の天端高等の状況

(内訳は別表-海岸2 参照)

 
要保全海岸延長 海岸堤防の天端高等が想定津波高より高くなっている海岸延長   海岸堤防の天端高等が想定津波高より低くなっている海岸延長   海岸堤防の天端高等が不明となっている海岸延長  
割合 割合 割合
A B B/A C C/A D D/A
km km km km
5,544.5 3,761.9 67.8 812.0 14.6 970.5 17.5

(b)  海岸堤防の耐震化

 15都道府県の海岸堤防の施設延長計3,490.0kmのうち計81.6kmは、阪神・淡路大震災を契機として見直された16年の海岸技術基準等を適用して新規に整備するなどした海岸堤防である一方、それ以前の海岸技術基準(以下「海岸旧基準」という。)等を適用して整備した海岸堤防は計3,408.3kmとなっており、全海岸堤防の施設延長に対する割合は97.7%となっていた。
 そして、海岸管理者は、海岸保全施設の耐震性能を合理的に評価するために、海岸点検マニュアルに基づくなどして耐震点検を実施しているが、海岸旧基準を適用した海岸堤防の施設延長計3,408.3kmの耐震点検の実施状況をみたところ、図表-海岸3 のとおり、計1,628.0kmは概略点検が実施されていなかった。また、計394.2kmは、概略点検の結果、詳細点検が必要となっているのに詳細点検が実施されておらず、概略点検が未実施の海岸堤防の施設延長と合わせた計2,022.2kmは、どの程度の耐震性能が確保されているのか不明となっていた。

図表-海岸3 海岸堤防の耐震点検の実施状況

(内訳は別表-海岸3 参照)

 
海岸旧基準を適用した海岸堤防の施設延長        
概略点検が不要な海岸堤防の施設延長 概略点検が未実施の海岸堤防の施設延長 概略点検が実施済みの海岸堤防の施設延長 詳細点検が不要な海岸堤防の施設延長 概詳細点検が未実施の海岸堤防の施設延長 詳細点検が実施済の海岸堤防の施設延長
km km km km km km km
3,408.3 474.3 1,628.0 1,306.0 385.5 394.2 526.1

 また、海岸堤防の耐震化の機能向上を目的とする耐震対策工事の実施状況をみたところ、図表-海岸4 のとおり、耐震対策工事が実施されていたのは、詳細点検の結果、耐震対策工事が必要とされた施設延長計135.8kmのうち計51.3km(実施率37.8%)となっていた。

図表-海岸4 海岸堤防の耐震対策工事の実施状況

(内訳は別表-海岸4 参照)

   
詳細点検が実施済の海岸堤防の施設延長 耐震対策工事が不要な海岸堤防の施設延長 耐震対策工事が必要な海岸堤防の施設延長  
耐震対策工事が実施済の海岸堤防の施設延長   耐震対策工事が未実施の海岸堤防の施設延長  
割合 割合
A B B/A C C/A
km km km km km
526.1 390.3 135.8 51.3 37.8 84.4 62.2

 そして、上記の耐震対策工事が実施されていない海岸堤防の施設延長計84.4kmのうち、計26.0kmは、耐震点検を実施して10年以上経過しているのに、耐震対策工事が実施されておらず、耐震点検の結果が反映されていない状況となっていた。
 また、海岸旧基準を適用した海岸堤防の耐震点検及び耐震対策工事の実施状況は、上記のとおりであるが、これらを含めた全ての海岸堤防の施設延長計3,490.0kmの耐震化の状況についてみたところ、図表-海岸5 のとおり、レベル2地震動に対して要求される耐震性能を確保すべき海岸堤防の施設延長計255.6kmのうち、要求される耐震性能が確保されていないものが計45.7km、確保されているか不明なものが計159.0kmなどとなっていた。また、中には、背後地の状況等を把握していないなどのため、要求される耐震性能について不明となっている海岸堤防も計402.6km見受けられた。

図表-海岸5 海岸堤防の耐震化の状況

(内訳は別表-海岸5 参照)

レベル2地震動に対して要求される耐震性能を確保すべき海岸堤防の施設延長   レベル1地震動に対して要求される耐震性能を確保すべき海岸堤防の施設延長   要求される耐震性能が不明となっている海岸堤防の施設延長
確保されている海岸堤防の施設延長   確保されていない海岸堤防の施設延長   確保されているか不明となっている海岸堤防の施設延長   確保されている海岸堤防の施設延長   確保されていない海岸堤防の施設延長   確保されているか不明となっている海岸堤防の施設延長  
割合 割合 割合 割合 割合 割合
A B B/A C C/A D D/A E F F/E G G/E H H/E  
km km km km km km km km km
255.6 50.8 19.9 45.7 17.9 159.0 62.2 2,831.7 1,307.7 46.2 37.7 1.3 1,486.3 52.5 402.6

 このように、耐震点検が実施されていなかったり、必要な耐震対策工事が実施されていなかったりなどしている海岸堤防は、要求される耐震性能が確保されておらず、想定する地震動に対して十分に機能しないおそれがある状況となっていた。

(c)  管理者が異なる施設の耐震化及び耐震設計

a 所管部局ごとの海岸堤防の耐震化及び耐震設計

 河川海岸、港湾海岸、農地海岸及び漁港海岸のそれぞれの海岸堤防の耐震点検の実施状況及び耐震化の状況については、図表-海岸6 及び のとおり、それぞれの実施状況において開差が生じていた。

図表-海岸6 所管部局ごとの耐震点検の実施状況

(内訳は別表-海岸6 参照)

河川海岸 港湾海岸 農地海岸 漁港海岸 河川農地海岸
                   
耐震点検対象の海岸堤防の施設延長 左のうち概略点検を行っている海岸堤防の施設延長 割合 耐震点検対象の海岸堤防の施設延長 左のうち概略点検を行っている海岸堤防の施設延長 割合 耐震点検対象の海岸堤防の施設延長 左のうち概略点検を行っている海岸堤防の施設延長 割合 耐震点検対象の海岸堤防の施設延長 左のうち概略点検を行っている海岸堤防の施設延長 割合 耐震点検対象の海岸堤防の施設延長 左のうち概略点検を行っている海岸堤防の施設延長 割合
A B B/A C D D/C E F F/E G H H/G I J J/I
km km km km km km km km km km
960.7 567.7 59.1 1,001.1 592.5 59.2 333.5 42.7 12.8 598.4 101.2 16.9 40.0 1.6 4.0
(注)
 河川農地海岸とは、海岸保全区域の指定の際、現に農地の保全のため必要な事業として管理している施設で海岸保全施設に該当するものの存する地域に係る海岸保全区域をいう。


図表-海岸7 所管部局ごとの耐震化の状況

(内訳は別表-海岸7 参照)

河川海岸 港湾海岸 農地海岸 漁港海岸 河川農地海岸
                   
要求される耐震性能を確保すべき海岸堤防の施設延長 左のうち要求される耐震性能が確保されている海岸堤防の施設延長 割合 要求される耐震性能を確保すべき海岸堤防の施設延長 左のうち要求される耐震性能が確保されている海岸堤防の施設延長 割合 要求される耐震性能を確保すべき海岸堤防の施設延長 左のうち要求される耐震性能が確保されている海岸堤防の施設延長 割合 要求される耐震性能を確保すべき海岸堤防の施設延長 左のうち要求される耐震性能が確保されている海岸堤防の施設延長 割合 要求される耐震性能を確保すべき海岸堤防の施設延長 左のうち要求される耐震性能が確保されている海岸堤防の施設延長 割合
A B B/A C D D/C E F F/E G H H/G I J J/I
km km km km km km km km km km
939.0 350.5 37.3 1,214.5 814.8 67.1 336.1 61.2 18.2 558.3 130.8 23.4 39.2 1.1 2.8

 また、レベル2地震動の設定に当たって、港湾海岸が、対象地点に最大級の強さの地震動をもたらし得る地震として、港湾区域の特性を考慮した地震や全国的に使用されている地震を選定し、どの地震が施設に最も大きな影響を及ぼすかを評価し設定している一方で、他の海岸は、単に全国的に使用されている地震を基に設定しているなど、地震動の設定方法が区々となっていた。
 しかし、海岸技術基準等によれば、地震動は振幅、周波数特性、継続時間等が異なり、地震動の設定に当たっては、地区海岸ごとの特性を踏まえることとされていることから、港湾海岸以外の海岸の所管部局においては港湾事業担当部局と連携を行い、情報の共有化を図る必要があると思料される。

b 関連施設の耐震化

 海岸保全区域内には、道路事業により沿岸部の交通を確保するための道路護岸等の海岸管理者以外の者が管理している施設(以下「関連施設」という。)が設置され、関連施設が津波等から背後地を防護できるとして海岸保全施設を整備する必要がない箇所がある。
 そこで、同一の背後地を持つ海岸保全施設と関連施設について、それぞれの耐震対策の取組状況をみたところ、海岸保全施設においては、耐震点検を行うなどして耐震性能を確認している一方で、関連施設においては、整備時に地震動が全く考慮されていなかったり、耐震点検が実施されていなかったりなどしていて、海岸保全施設と耐震対策の取組が区々となっていた。
 このように、管理者が異なる施設の耐震化及び耐震設計については、所管部局ごとの海岸堤防の耐震化の実施状況において開差が生じていたり、港湾海岸とそれ以外の海岸の地震動の設定方法が区々となっていたりしていた。また、同一の背後地を持つ海岸保全施設と関連施設の耐震対策の取組が区々となっている地区海岸においては、地震・津波に対して、一体的な防護効果が発現しないおそれがある状況となっていた。

(d)  開口部における閉鎖施設の整備、耐震化及び施設の管理状況

 開口部には、一般に鋼製の扉を備えた海水の侵入を防ぐ水門、陸閘等の閉鎖施設が設置されている。これらの閉鎖施設は、津波等の非常時に閉鎖しない場合、津波等の高さに対し海岸堤防の天端高等の高さが対応していても、開口部から海水が侵入してしまうため、海岸堤防の防護効果が十分に発現しないことになる。このため、水門、陸閘等は、通常時に開放していても災害が発生した場合には確実に閉鎖できることが重要である。

a 閉鎖施設の整備

 15都道府県の開口部を有する1,754地区海岸の海岸管理者は、計483か所を河川用、計1,378か所を排水路、用水路等の水路用、計12,475か所を通路用として、計14,336か所を管理していた。
 しかし、このうち岸壁等と背後地との間の通路用等の開口部計701か所については、閉鎖施設が設置されていなかった。

b 水門等の耐震化

 15都道府県の鉄筋コンクリート構造の大規模な水門等計1,013か所のうち、海岸旧基準等を適用して整備した水門等は計952か所となっており、全水門等に対する割合は94.0%となっていた。そして、これらの水門等は、地震発生時においても門扉が確実に閉鎖できるよう、施設の耐震化が必要とされているが、図表-海岸8 のとおり、水門等の計727か所については耐震点検が実施されていないことから、当該施設がどの程度の耐震性能が確保されているのか不明となっていた。また、計16か所は、耐震点検の結果、耐震対策工事が必要となっているのに、耐震対策工事が実施されていなかった。

図表-海岸8 水門等の耐震化の状況

(内訳は別表-海岸8 参照)

   
         
海岸旧基準を適用した水門等数 耐震点検が不要な水門等数 耐震点検が未実施の水門等数 耐震点検が実施済の水門等数      
耐震対策工事が不要な水門等数 耐震対策工事が必要な水門等数 耐震対策工事が実施済の水門等数   耐震対策工事が未実施の水門等数  
割合 割合
A B B/A C C/A
箇所 箇所 箇所 箇所 箇所 箇所 箇所 箇所
952 83 727 142 75 67 51 76.1 16 23.9

c 閉鎖施設の管理状況

 閉鎖施設の管理状況は、図表-海岸9 のとおりであり、閉鎖施設計13,635か所のうち、通常時に開放していて、市町村等に開閉操作を委託している閉鎖施設は計9,983か所となっていた。このうち、計5,796か所は操作手順等の委託委託内容が協議文書等に基づいて明確となっている一方で、口頭で委託している閉鎖施設が計4,187か所見受けられた。

図表-海岸9 閉鎖施設の管理状況
   
閉鎖施設数      
通常時に閉鎖している閉鎖施設数 通常時に開放している閉鎖施設数 操作方法 委託状況
      自ら操作する閉鎖施設数 委託における閉鎖施設数
人力等の閉鎖施設数 動力化の閉鎖施設数 うち自動化又は遠隔化施設数
箇所 箇所 箇所 箇所 箇所 箇所 箇所 箇所
13,635 2,687 10,948 10,221 727 139 965 9,983

 そして、通常時に開放している閉鎖施設計10,948か所の閉鎖体制等をみたところ、図表-海岸10 のとおり、計3,184か所は陸閘等を閉鎖する操作者が津波警報等を受けてから津波到達時間内に閉鎖作業が完了できず、また、計7,764か所は津波到達時間内に閉鎖作業を行えるものの、このうち計344か所については、閉鎖操作者が閉鎖作業を完了してから想定津波高より高台にある避難場所又は津波浸水予測区域外にある避難場所まで避難できないおそれがあった。
 さらに、津波到達時間内に閉鎖作業が完了できない閉鎖施設計3,184か所のうち、計1,898か所は、閉鎖するための資材等を紛失するなどしていて想定している閉鎖作業が行えない状況となっていた。

<事例-海岸> 
想定される津波到達時間内に閉鎖施設を閉鎖してから津波避難場所まで安全に避難できないおそれがある事例

 A県は、B地区海岸において、普通河川用の水門等を計2か所、通路用の陸閘を計12か所設置しており、計14か所の閉鎖施設のうち1か所は通常時に閉鎖しているものの、残りの計13か所は通常時に開放している閉鎖施設であり、津波発生時には閉鎖操作者による閉鎖作業を行う必要があることから、閉鎖施設の閉鎖作業を地元自治体に委託して行っていた。そして、地震発生後に、津波警報が発表され、閉鎖操作者が閉鎖する余裕がないと判断した場合は、閉鎖せずに避難することとしている。
 また、閉鎖できる体制を確保するために防災訓練を実施しており、津波到達時間(第1波は5分で到達し、6分で水位が50cm以上に上昇するとして計算している。)内に閉鎖作業を完了できるとしていた。
 しかし、閉鎖してから津波避難場所までの距離を考慮すると、閉鎖操作者が津波到達時間内に閉鎖してから津波避難場所まで安全に避難できないおそれがあった。

図表-海岸10 閉鎖施設の閉鎖体制等の状況

(内訳は別表-海岸9 参照)

通常時に開放している閉鎖施設数  
津波到達時間内に閉鎖できる閉鎖施設数   津波到達時間内に閉鎖できない閉鎖施設数  
左のうち津波到達時間内に閉鎖はできるが、閉鎖操作者が避難できないおそれがある閉鎖施設数 左のうち閉鎖作業が行えない閉鎖施設数
箇所 箇所 箇所 箇所 箇所
10,948 7,764 344 3,184 1,898

 このように、閉鎖施設が設置されていなかったり、水門等の耐震化が図られていなかったり、津波到達時間内に閉鎖作業が完了できなかったりしている開口部においては、整備した海岸堤防の防護効果が津波に対して十分に発現しないおそれがある状況となっていた。
 また、閉鎖操作者が閉鎖作業を完了してから避難場所まで避難できない閉鎖施設においては、津波発生時の閉鎖操作者の安全性が十分に確保されていない状況となっていた。

b 海岸の背後地の状況

 海岸管理者は、海岸堤防の必要性、延長、天端高、要求される耐震性能等について、海岸堤防の背後地の利用状況等を踏まえて設定することとなっている。
 そこで、23年度末現在において、15都道府県の3,825地区海岸のうち、地震・津波に対して海岸堤防や閉鎖施設が破壊等で機能しないおそれがあると仮定した1,510地区海岸の津波浸水予測区域における土地の利用状況についてみたところ、図表-海岸11 のとおり、人口集中地区となっている地区海岸が157地区、緊急輸送道路が存在している地区海岸が354地区、防災拠点等災害発生時に危機管理を担う市役所又は役場が存在している地区海岸が49地区等となっていた。

図表-海岸11 海岸堤防の背後地の利用状況
閉鎖施設が機能しないものと仮定して津波浸水予測区域を想定した地区海岸数  
人口集中地区 緊急輸送道路 市役所、役場 指定緊急病院 鉄道 福祉施設 学校
地区 地区 地区 地区 地区 地区 地区 地区
1,510 157 354 49 22 139 88 135

 そして、海岸管理者が施設の機能、海岸堤防の背後地の利用状況等に基づいてレベル1地震動に対しての耐震化が図られれば足りるとしてレベル1地震動に対して要求される耐震性能を確保している256地区海岸の海岸堤防の背後地の利用状況をみたところ、121地区海岸については、重要度が高い人口集中地区となっていたり、緊急輸送道路、防災拠点等災害発生時の緊急活動に必要となる施設が存在していたりしていた。
 また、627地区海岸については、津波浸水予測区域を想定しているものの、当該区域の土地の利用状況を把握しておらず、津波に対して海岸の背後地の状況等を考慮した海岸堤防の整備が行えない状況となっていた。
 このほか、1,175地区海岸については、海岸堤防や閉鎖施設が機能しないものと仮定した津波浸水予測区域の想定を行っていないことから、海岸の背後地から1km圏内の土地の利用状況をみたところ、緊急輸送道路や防災拠点等災害発生時の緊急活動に必要となる施設が存在している地区海岸も見受けられた。

 海岸保全区域延長等の管理状況

 4県(注24) の89地区海岸については、港湾事業又は漁港漁場整備事業により、海岸線の沖合に向けて埋め立てを行い、海岸保全施設が撤去されるなどしているのに、海岸法等に基づく海岸保全施設の廃止手続や海岸保全区域の指定の見直しを行っていなかった。
 また、8道県(注25) の要指定延長計87.2kmについては、将来背後地において、開発行為が行われるなどとして要指定延長として位置付けていたが、その後、見直しなどを適切に行わなかったため、海岸管理者において、要指定延長として位置付けた箇所が把握できない状況となっていた。

(注24)
 4県  青森、神奈川、兵庫、愛媛各県
(注25)
 8道県  北海道、神奈川、兵庫、岡山、徳島、愛媛、高知、宮崎各県

(ウ) 津波避難のためのソフト対策

 津波避難のためのソフト対策としての津波浸水予測区域の設定並びに津波ハザードマップの作成及び公表の状況は、図表-海岸12 のとおりとなっていた。
 15都道府県の3,825地区海岸のうち、3,272地区海岸を有する216市町村は、津波浸水予測区域が設定されており、このうち2,829地区海岸を有する174市町村は、津波浸水予測区域に基づき、津波ハザードマップを作成し住民へ配布するなどの方法で公表していた。
 一方、380地区海岸を有する40市町村は、地域の人口や家屋が少なかったり、津波ハザードマップ作成のための技術力や知識が不足していたりなどするとして、津波ハザードマップを作成しておらず、また、63地区海岸を有する2町は、津波ハザードマップを作成しているものの、公表していなかった。

図表-海岸12 津波ハザードマップの作成及び公表の状況

(内訳は別表-海岸10 参照)

   
津波浸水予測区域を有する市町村数 津波ハザードマップ未作成の市町村数   津波ハザードマップ作成済の市町村数  
割合 割合 津波ハザードマップ未公表の市町村数 津波ハザードマップ公表済の市町村数
A B B/A C C/A    
         
216 40 18.5 176 81.5 2 174

 津波浸水予測区域の設定

 15都道府県及び17市町村が設定している52件の津波浸水予測区域について、設定した際に用いた外力条件や施設条件をみたところ、図表-海岸13 のとおり、25件は、津波ハザードマップマニュアルによれば、地震発生時に地盤が隆起すると予測される場合は隆起を無視した地盤高を用いて津波浸水深を算定することなどを基本とするとされているが、隆起後の地盤高等を基に津波浸水深を算定していた。
 また、16件は、要求される耐震性能が確保されていない箇所や津波到達時間内に閉鎖作業が行えない箇所があるのに、これらの状況を考慮することなく海岸堤防や閉鎖施設が有効に機能するとした津波浸水予測を基に区域を設定していた。

図表-海岸13 津波浸水予測区域の設定
津波浸水予測区域設定数   地盤変位 施設条件
調査主体 隆起後の地盤高等を基に設定 施設が有効に機能するものとして設定  
都道府県 市町村 海岸堤防が機能するものとして設定 閉鎖施設が機能するものとして設定
52 32 20 25 16 14 7

<参考事例-海岸> 
津波浸水予測区域の見直しを適切に行っている事例

 高知県は、平成11年度及び1定3年度に、マグニチュード8.4相当の地震による津波を想定して津波浸水予測区域を設定している。
 11年度の津波浸水予測区域は、沿岸部での想定津波高を算出し、その高さと陸域部の地盤高を比較して設定しており、13年度の津波浸水予測区域は、海岸堤防が機能するとして、津波が海岸堤防の天端高等を超える場合の越流量を算出し、越流量から陸域部の地形を基にして設定している。そして、いずれも地震発生時による隆起後の地盤高を基に津波浸水深を算定していた。
 一方、中央防災会議は、15年4月に東南海・南海地震が同時発生した場合の被害想定を公表しており、内閣府及び海岸関係省庁は津波ハザードマップマニュアルを地方公共団体等に通知している。
 そして、同県は、上記を踏まえて、17年度に津波浸水予測区域の見直しを行っており、見直しに当たっては、地盤変動に対して、地盤が隆起すると予測される場合には隆起を無視した地盤高によることとしたり、陸域等への遡上を考慮したり、海岸堤防及び閉鎖施設が機能する場合と機能しない場合の両方の場合を想定したりして津波浸水予測区域を設定していた。

b 津波ハザードマップの記載内容等

 15都道府県の174市町村の津波ハザードマップの記載内容についてみたところ、図表-海岸14 のとおり、津波到達時間を表示していないものが104市町村、津波浸水深を表示していないものが54市町村、大規模地震発生時に通行できなくなるおそれのある危険箇所を表示していないものが103市町村、津波発生時に適していない避難場所を表示しているものが71市町村となっているなど、津波災害に対する地域住民の避難に必要な情報の記載が不足していた。

図表-海岸14 津波ハザードマップの記載内容等

(内訳は別表-海岸11 参照)

津波ハザードマップ公表済の市町村数 施設条件    
避難に必要な情報の記載が不足している市町村数 記載内容
海岸堤防が機能する 閉鎖施設が機能する 設定条件を表示していない 津波到達時間を表示していない 津波浸水深を表示していない 危険箇所を表示していない 津波発生時に適していない避難場所を表示している
174 44 13 170 79 104 54 103 71

ウ 砂防事業

(ア) 事業の概要

a 土砂災害防止施設の整備

 都道府県は、「土石流危険渓流および土石流危険区域調査の実施について」(平成11年建設省河砂発第20号建設省河川局長通知)等に基づき調査を行い、土石流の発生のおそれのある渓流及び地形条件等によって土石流の堆積や氾濫が予想される区域(以下、これらを合わせて「土石流危険渓流」という。)を把握している。また、「地すべり危険箇所の再点検について」(平成8年建設省河傾発第40号建設省河川局砂防部傾斜地保全課長通知)等に基づき調査を行い、地すべりの発生のおそれのある箇所及び地すべりによって移動した土塊による被害想定区域(以下、これらを合わせて「地すべり危険箇所」という。)を把握し、「急傾斜地崩壊危険箇所等の再点検について(依頼)」(平成11年建設省河傾発第112号建設省河川局砂防部傾斜地保全課長通知)等に基づき調査を行い、急傾斜地の崩壊等のおそれがある箇所及び急傾斜地が崩壊した場合等の被害想定区域(以下、これらを合わせて「急傾斜地崩壊危険箇所」という。また、土石流危険渓流及び地すべり危険箇所と合わせて「土砂災害危険箇所」という。)を把握している。
 土砂災害危険箇所は、15都道府県において、土石流危険渓流61,310か所、地すべり危険箇所3,059か所、急傾斜地崩壊危険箇所137,215か所、計201,584か所ある。
 そして、都道府県は、土砂災害危険箇所等において、豪雨、地震等により土砂災害が発生した場合の住民等への危害のおそれなどを勘案して、土砂災害防止施設を整備している。

b 土砂災害防止法

 住宅等の新規立地により土砂災害危険箇所が増加傾向にあることなどのため、その全てについて土砂災害防止施設を整備することによって安全性を確保していくこととした場合、膨大な時間と費用が必要になると見込まれることなどから、土砂災害防止施設の整備と併せて土砂災害の危険性のある区域を明らかにし、その中で警戒避難体制の整備等のソフト対策を充実させていく必要があるなどとして、12年に、「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律」(平成12年法律第57号。以下「土砂災害防止法」という。)が制定された。
 そして、都道府県は土砂災害防止法等に基づき、土砂災害から国民の生命及び身体を保護するために、急傾斜地の崩壊、土石流又は地すべりのおそれのある土地に関する地形、地質、降水等の状況及び土砂災害の発生のおそれがある土地の利用の状況等についての基礎調査を補助事業で行っている。
 都道府県は、基礎調査の実施に当たって、土砂災害防止法第3条に基づき国土交通大臣が定めた「土砂災害の防止のための対策の推進に関する基本的な指針」(平成13年国土交通省告示第1119号。以下「土砂災害防止対策基本指針」という。)に基づき、過去に土砂災害が発生した土地及びその周辺の土地、地域開発が活発で住宅、社会福祉施設等の立地が予想される土地等について優先的に行うなど、総合的かつ計画的に実施することとされている。
 都道府県知事は、この基礎調査の結果に基づき、土砂災害の被害を防止するために、土砂災害警戒区域及び土砂災害特別警戒区域(以下、それぞれ「警戒区域」及び「特別警戒区域」といい、これらを合わせたものを「警戒区域等」という。)の指定を行うことができるとされている。そして、警戒区域は、基礎調査の結果により、地形が一定の条件に当てはまり、住民等の生命又は身体に危害が生ずるおそれがあると認められる区域について指定することとなっている。また、特別警戒区域は、警戒区域のうち、建築物に損壊が生じ住民等の生命又は身体に著しい危害が生ずるおそれがあると認められる区域について指定することとなっている。
 都道府県は、基礎調査の結果に基づく警戒区域等の指定に当たり、市町村とともに地元住民に対して説明会を開催することにより当該箇所の危険性を周知するなどして、市町村長に意見照会をした上で行っている。
 そして、市町村防災会議は、警戒区域の指定があったときは、土砂災害防止法第7条第1項により、市町村地域防災計画において、警戒区域ごとに、土砂災害に関する情報の収集及び伝達、予報又は警報の発令及び伝達、避難等の当該警戒区域における土砂災害を防止するために必要な警戒避難体制に関する事項を定めることとなっている。さらに、市町村長は、土砂災害防止法第7条第3項により、市町村地域防災計画に基づき、土砂災害に関する情報の伝達方法、土砂災害の発生のおそれがある場合の避難場所に関する事項等を住民に周知させるために、これらの事項を記載した印刷物(以下「土砂災害ハザードマップ」という。)を配布するなど必要な措置を講ずることとなっている。

c 避難場所が所在する土砂災害危険箇所

(a) 避難場所の安全性の確保

 防災基本計画において、地方公共団体は、土砂災害のおそれのない場所に避難場所をあらかじめ指定し、住民への周知徹底に努めることとされている。
 また、土砂災害対策推進要綱(昭和63年中央防災会議決定)において、国は、地方公共団体等に対して、避難場所の安全性の確保について指導するとともに必要な支援を行うこととされている。
 さらに、「総合的な土砂災害対策について(提言)」(平成17年土砂災害対策検討会。以下「土砂対策提言」という。)においても、16年の台風15号に伴う集中豪雨によって発生した土石流により避難場所が被災し、避難していた住民4名が死傷した事態を受けて、避難場所の早急な安全性の確認やその周知、避難場所の安全確保対策が課題であり、土砂災害に対して安全な避難場所を設定するよう市町村を指導する必要があること、土砂災害に対して安全な避難場所が設定できない場合は、他地域への早期避難を行うための警戒避難体制を整備するか、あるいは、避難場所を守るための土砂災害防止施設の整備を重点的に実施する必要があることなどが提言されている。

(b) 国土交通省の取組

 国土交通省は、避難場所が所在する急傾斜地崩壊危険箇所について重点的かつ優先的に土砂災害防止施設を整備するために、元年度に避難関連急傾斜地崩壊対策事業を創設し、市町村地域防災計画に位置付けられている避難場所を有する急傾斜地における土砂災害防止施設の整備については、事業採択基準である保全対象の人家戸数の要件を緩和し、さらに、土砂対策提言等を受けて、18年度に保全対象の人家戸数の要件を撤廃している。
 また、同省は、通常砂防事業及び地すべり対策事業においても、18年度に採択基準を変更し、採択基準で定める保全対象の施設等の一つに避難場所を位置付けている。

(イ)  施設整備の実施状況

 15都道府県において、砂防事業で一般的に土砂災害防止施設の整備率の算出に用いられる5戸以上の人家に被害が生ずるなどと想定される土砂災害危険箇所(以下「被害想定土砂災害危険箇所」という。)における土砂災害防止施設の整備率をみると、図表-砂防1 のとおり、2割台となっていた。

図表-砂防1 被害想定土砂災害危険箇所における土砂災害防止施設の整備率

(内訳は別表-砂防1 参照)

被害想定土砂災害危険箇所 左のうち土砂災害防止施設の整備箇所 整備率(%)
80,039 19,501 24.4

 (ア)c(a) のとおり、土砂対策提言により土砂災害のおそれのない場所に避難場所を設定すること、また、土砂災害に対して安全な避難場所を設定できない場合は、避難場所を守るための土砂災害防止施設の整備を重点的に実施することなどが求められているが、図表-砂防2 のとおり、避難場所が所在する土砂災害危険箇所が7,590か所あり、また、当該箇所における土砂災害防止施設の整備率は、被害想定土砂災害危険箇所と同様、2割台となっていた。

図表-砂防2 避難場所が所在する土砂災害危険箇所における土砂災害防止施設の整備率

(内訳は別表-砂防2 参照)

避難場所が所在する土砂災害危険箇所 左のうち土砂災害防止施設の整備箇所 整備率(%)
7,590 1,962 25.8

(ウ) ソフト対策の実施状況

a 土砂災害危険箇所等における基礎調査等の実施状況

 (ア)b のとおり、都道府県は土砂災害防止法等に基づき、基礎調査を行い、この結果に基づき都道府県知事は警戒区域等の指定を行っているが、15都道府県における土砂災害危険箇所201,584か所等に対して、基礎調査の実施は84,889か所、警戒区域の指定は75,255か所、特別警戒区域の指定は30,551か所となっていた。

b 避難場所が所在する土砂災害危険箇所における基礎調査等の実施状況

 土砂対策提言において、基礎調査を実施する際には、土砂災害危険箇所は抽出漏れのないよう点検する必要があるとされている。また、(ア)c(a) のとおり、避難場所の安全性の早急な確認等が求められているが、土砂災害防止対策基本指針においては、避難場所が所在する土砂災害危険箇所における基礎調査を優先的に実施することとされていない。
 そこで、15都道府県において、避難場所が所在する土砂災害危険箇所における、基礎調査の実施状況、警戒区域の指定状況等についてみると、図表-砂防3 のとおり、避難場所が所在する土砂災害危険箇所7,590か所に対する基礎調査の実施済み箇所は3,741か所(実施率49.3%)となっており、未実施箇所が3,849か所残されていた。また、基礎調査を実施した3,741か所のうち3,060か所については、警戒区域に指定され、そのうち土砂災害ハザードマップが配布されていたのは1,058か所となっていた。

図表-砂防3 避難場所が所在する土砂災害危険箇所における基礎調査等の実施状況

(内訳は別表-砂防3 参照)

避難場所が所在する土砂災害危険箇所 基礎調査未実施箇所 基礎調査実施済み箇所  
要警戒区域指定箇所  
住民説明会が実施された箇所 警戒区域指定箇所  
市町村地域防災計画に警戒避難体制が記載されている箇所 土砂災害ハザードマップが配布された箇所
7,590 3,849 3,741 3,504 2,289 3,060 1,956 1,058

 基礎調査を実施した箇所の中には、避難場所が警戒区域等内に所在することが明らかになったことから、住民説明会において住民から土砂災害防止施設の整備の要望が出されたことなどを受けて土砂災害防止施設の整備に着手したり、避難場所を土砂災害のおそれのない場所に変更したり、土砂災害ハザードマップにおいて避難場所の利用についての条件を明示したりしている事例も見受けられた。

<参考事例-砂防1> 
住民説明会において住民から要望が出されたことなどを受けて土砂災害防止施設の整備を行っている事例

 東京都西多摩郡檜原村は、市町村地域防災計画において、郷土資料館を避難場所として指定している。
 しかし、基礎調査の結果、郷土資料館は警戒区域等内に所在していることが判明し、警戒区域等の指定等についての住民説明会において、住民から土砂災害防止施設の整備の要望が出されたことなどを受けて、東京都は当該箇所において斜面崩壊対策として鉄筋挿入工等により土砂災害防止施設の整備を行っている。

<参考事例-砂防2> 
避難場所を土砂災害のおそれのない場所に変更している事例

 大分県玖珠郡玖珠町は、市町村地域防災計画において、杉河内小学校を避難場所として指定していた。
 しかし、基礎調査の結果、杉河内小学校は、警戒区域内に所在していることが判明したことから、玖珠町は市町村地域防災計画において、避難場所を杉河内小学校から土砂災害のおそれのない近隣の小学校に変更していた。

<参考事例-砂防3> 
土砂災害ハザードマップに避難場所の利用についての条件を明示している事例

 青森県つがる市は、市町村地域防災計画において、富萢(とみやち)地区コミュニティセンターを避難場所として指定している。
 しかし、基礎調査の結果、富萢地区コミュニティセンターは警戒区域内に所在していることが判明したことから、つがる市は、土砂災害ハザードマップに土砂災害の発生のおそれのある場合には富萢地区コミュニティセンターを避難場所として利用しないことを明示している。

エ 道路整備事業

(ア) 事業の概要

a 道路概況

 道路の種類及びその道路管理者は、道路法等に規定されており、政令で指定する区間(以下「指定区間」という。)内の一般国道(以下「直轄国道」という。)については国土交通大臣が、指定区間外の一般国道及び都道府県道(以下、これらを合わせて「都道府県道等」という。)については都道府県又は政令市が、市町村道については市町村がそれぞれ道路管理者とされている。道路種別ごとに全国の道路延長をみると、図表-道路1 のとおりとなっている。

図表-道路1 道路種別ごとの道路延長
道路種別 道路管理者 道路延長
km
一般国道(指定区間内) 国土交通大臣 22,870.3
一般国道(指定区間外) 都道府県、政令市 27,303.7
都道府県道 都道府県、政令市 87,860.6
市町村道 市町村 572,783.7
710,818.3
出典:国土交通省「平成22年道路施設現況調査」

 そして、道路整備に伴い橋りょう数も増加し、「平成22年道路施設現況調査」の集計による橋長15m以上の橋りょう数は全国で約15万橋で、このうち昭和55年以前に架設された橋りょう数は約7万橋となっている。これを道路種別ごとに示すと図表-道路2 のとおりとなっている。

図表-道路2 道路種別ごとの橋長15m以上の橋りょう数
道路種別 道路管理者 橋りょう数 昭和55年以前架設の橋りょう数 全国の橋りょう数に対する昭和55年以前架設の橋りょう数の割合
  A   B   B/A
一般国道(指定区間内) 国土交通大臣 11,902 5,915 49.7
一般国道(指定区間外) 都道府県、政令市 13,227 6,425 48.6
都道府県道 都道府県、政令市 33,730 16,754 49.7
市町村道 市町村 89,487 44,839 50.1
148,346 73,933 49.8
出典:橋りょう数は、国土交通省「平成22年道路施設現況調査」

b 道路の耐震化

 道路が被災した場合、被災地域における応急復旧活動及び住民生活に大きな影響を及ぼすことになる。平成7年の阪神・淡路大震災においては、道路橋等の被災により、応急復旧活動に大きな支障が生じたり、16年の新潟県中越地震においては、道路盛土、切土法面、斜面等の被災により、長期にわたる通行規制が行われたりしたことから、〔1〕 ネットワークとしての道路の耐震性の確保及びその計画的実施、〔2〕 中山間地における道路の土工構造物の補強等の重要性等が改めて認識された。国土交通省は、これらを踏まえて、国土交通省防災業務計画、重点計画等に基づき、緊急輸送道路等の橋りょうの耐震化、道路盛土並びに切土法面及び斜面の防災対策、避難路の整備等を推進している。

(a) 緊急輸送道路

 緊急輸送道路は、地震直後に必要となる緊急輸送を確保するために必要な道路であり、道路施設そのものの耐震性が確保されているとともに、地震発生時にネットワークとして機能することが重要とされている。
 国土交通省は、8年5月に地域防災計画における緊急輸送計画等の基礎となる緊急輸送道路ネットワーク計画を策定するための「緊急輸送道路ネットワーク計画等策定要領」(平成8年建設省道防発第4号建設省道路局企画課道路防災対策室長通知。以下「ネットワーク要領」という。)を定め、道路管理者に通知している。
 そして、ネットワーク要領によれば、緊急輸送道路ネットワーク計画は、緊急輸送道路が相互に、また、連絡する防災上の拠点と連携を図る必要があることから、都道府県ごとの管内の道路管理者及び防災担当部局等からなる協議会(以下「都道府県ネットワーク協議会」という。)を設けて管内全域を対象地域として策定することとされている。また、隣接する都道府県の境界における相互の計画が整合するよう、協議会間で十分調整を図ることとされている。
 また、都道府県ネットワーク協議会は、ネットワーク要領に基づき、対象路線を緊急輸送道路ネットワーク計画上の利用方法に応じて、〔1〕 都道府県庁所在地、重要港湾等を連絡する道路である高速自動車国道、一般国道等の第1次緊急輸送道路、〔2〕第1次緊急輸送道路と市区町村役場や救援物資等の備蓄及び集積地点、避難地等(以下、これらを合わせて「指定拠点」という。)を連絡する道路である第2次緊急輸送道路、〔3〕 その他の道路である第3次緊急輸送道路の区分(以下「利用区分」という。)に分類している(図表-道路3 参照)。
 そして、都道府県及び市町村は、緊急輸送道路ネットワーク計画をそれぞれの地域防災計画上の緊急輸送計画に位置付けて、これに基づくなどして道路整備及び道路啓開(注26) の方法、優先度等を定め、道路管理者はこれによるなどして緊急輸送道路の耐震化等の整備等を行っている。

  道路啓開 道路上の障害物を除去し、緊急車両等の走行に支障のない程度に道路陥没、亀裂等の舗装破損箇所の応急復旧を行うこと

図表-道路3 緊急輸送道路ネットワークの概念図

図表-道路3緊急輸送道路ネットワークの概念図

(b) 避難路

 避難路は、避難圏内の住民を広域避難地等に迅速かつ安全に避難させるための道路であり、国土交通省防災業務計画によると、十分な幅員を有する道路等の整備を推進することなどとされている。また、防災基本計画において、都道府県又は市町村は、あらかじめ避難路を選定することとされている。
 そして、選定された路線については、それぞれの道路管理者が、橋りょうの耐震化、道路拡幅等の必要な整備を実施している。

(イ)  応急復旧活動に資するための緊急輸送道路における施設整備の実施状況

a 橋りょうの耐震化

 国土交通省、都道府県及び市町村が実施している緊急輸送道路における橋りょうの耐震対策工事等の実施状況は、次のとおりである。

(a) 直轄国道

 4地方整備局等管内の橋りょうは6,243橋となっており、これら全てについて耐震点検等を実施していた。この結果、橋りょう新基準に適合しておらず耐震対策工事が必要とされた橋りょうは3,227橋となっており、このうち1,345橋は橋りょう新基準に適合した耐震対策工事を実施し、1,513橋は一定補強工事を実施していた。これらの耐震対策工事を実施している橋りょう2,858橋に、橋りょう新基準に適合している3,016橋を合わせた5,874橋(94.1%)については、必要な耐震性能を有していた。
 しかし、上記3,227橋のうち369橋は耐震対策工事が未実施であり、このうち橋りょう55旧基準が適用されている橋りょうは4路線で9橋(9橋のうち、5橋は耐震対策工事を実施中、4橋は設計業務を実施中)となっていた(図表-道路4 参照)。

図表-道路4 直轄国道における橋りょうの耐震対策工事等の実施状況

(内訳は別表-道路4 参照)

地方整備局等数 管理橋りょう数  
耐震点検等を実施した橋りょう数   耐震点検等を実施していない橋りょう数
耐震対策工事を必要としない橋りょう数 耐震対策工事が必要とされた橋りょう数  
耐震対策工事実施橋りょう数   耐震対策工事未実施橋りょう数  
耐震対策工事完了橋りょう数 一定補強工事実施橋りょう数 必要な耐震性能を有する橋りょう うち橋りょう55旧基準適用橋りょう
橋りょう数 H/A     うち橋長100m以上橋りょう数 左の橋りょうのある路線数
橋りょう数 左の橋りょうのある路線数
  A=B+J B=C+D C D=E+I E=F+G F G H=C+E   I         J
  路線 路線
4 6,243 6,243 3,016 3,227 2,858 1,345 1,513 5,874 94.1 369 9 4 0 0 0

(b) 都道府県道等及び政令市の市道

 15都道府県及び12政令市が管理する橋りょうは8,564橋となっており、これらの中で耐震点検等を実施した橋りょうが6,564橋、耐震点検等を実施しておらず耐震性能を確認していない橋りょうが10府県及び6政令市で2,000橋となっていた。
 耐震点検等の結果、橋りょう新基準に適合しておらず耐震対策工事が必要とされた橋りょうは上記6,564橋のうち4,513橋となっており、このうち1,944橋は橋りょう新基準に適合した耐震対策工事を実施し、999橋は一定補強工事を実施していた。これらの耐震対策工事を実施している橋りょう2,943橋に、橋りょう新基準に適合している2,051橋を合わせた4,994橋(58.3%)については、必要な耐震性能を有していた。
 しかし、上記4,513橋のうち1,570橋は耐震対策工事が未実施であり、このうち橋りょう55旧基準が適用されている橋りょうは12都道府県及び11政令市の310路線で726橋となっていた。
 また、上記726橋の中には、被災した場合、復旧に多大な時間を要し交通機能に与える影響が大きいと考えられる橋長100m以上の橋りょうが、12都道府県及び9政令市の100路線で161橋となっていた。地震発生時にこれらの橋りょうが被災した場合、緊急輸送が困難となり、当該100路線に接続している指定拠点524か所で実施される応急復旧活動に支障が生ずるおそれがある状況となっていた(図表-道路5 参照)。

図表-道路5 都道府県道等及び政令市の市道における橋りょうの耐震対策工事等の実施状況

(内訳は別表-道路5 参照)

都道府県及び政令市数 管理橋りょう数  
耐震点検等を実施した橋りょう数   耐震点検等を実施していない橋りょう数
耐震対策工事を必要としない橋りょう数 耐震対策工事が必要とされた橋りょう数  
耐震対策工事実施橋りょう数   耐震対策工事未実施橋りょう数  
耐震対策工事完了橋りょう数 一定補強工事実施橋りょう数 必要な耐震性能を有する橋りょう うち橋りょう55旧基準適用橋りょう
    うち橋長100m以上橋りょう数  
橋りょう数 H/A 橋りょう数 左の橋りょうのある路線数 左の橋りょうのある路線数 左の路線に接続する指定拠点数
  A=B+J B=C+D C D=E+I E=F+G F G H=C+E   I           J
  路線 路線 箇所
15都道府県
12政令市
8,564 6,564 2,051 4,513 2,943 1,944 999 4,994 58.3 1,570 726 310 161 100 524 2,000

<事例-道路1> 
緊急輸送道路において橋りょう55旧基準が適用されている橋りょうの耐震対策工事が実施されていない事例

 A県は、A県管理の一般国道Bを第1次緊急輸送道路に選定している。一般国道Bは、A県の県庁が所在している中央部と隣接しているC県内の高速自動車国道等とを結ぶ路線であり、大規模地震が発生し巨大津波等によりA県内の海岸地域の緊急輸送道路の分断が懸念されることから、C県側からの緊急輸送を確保する重要な路線となっている。
 しかし、一般国道Bにおける耐震対策工事が必要とされた橋りょう27橋のうち、最も緊急度が高いとしていた13橋については耐震対策工事が実施されているものの、残る14橋については、現状では耐震対策工事が実施されておらず、このうち3橋は、橋りょう55旧基準が適用されている橋りょうであった。
 このため、現状のまま大規模地震等が発生してこれらの橋りょうが被災した場合、緊急輸送が困難となり、当該路線に接続している市町村役場等における応急復旧活動に支障が生ずるおそれがある状況となっていた。

(c) 市町村道

 15都道府県管内の政令市以外の59市町が管理する橋りょうは157橋となっており、これらの中で耐震点検等を実施していた橋りょうが97橋、耐震点検等を実施しておらず耐震性能を確認していない橋りょうが60橋となっていた。
 耐震点検等の結果、橋りょう新基準に適合しておらず耐震対策工事が必要とされた橋りょうは上記97橋のうち63橋となっており、このうち21橋は橋りょう新基準に適合した耐震対策工事を実施し、17橋は一定補強工事を実施していた。これらの耐震対策工事を実施している橋りょう38橋に、橋りょう新基準に適合している34橋を合わせた72橋(45.9%)については、必要な耐震性能を有していた。
 しかし、上記63橋のうち25橋は耐震対策工事が未実施であり、このうち橋りょう55旧基準が適用されている橋りょうは11市町の14路線で15橋となっていた。
 また、上記15橋の中には、被災した場合、復旧に多大な時間を要し交通機能に与える影響が大きいと考えられる橋長100m以上の橋りょうが、3市町3路線で3橋となっていた。地震発生時にこれらの橋りょうが被災した場合、緊急輸送が困難となり、当該3路線に接続している指定拠点1か所で実施される応急復旧活動に支障が生ずるおそれがある状況となっていた(図表-道路6 参照)。

図表-道路6 市町村道における橋りょうの耐震対策工事等の実施状況

(内訳は別表-道路6 参照)

市町村数 管理橋りょう数  
耐震点検等を実施した橋りょう数   耐震点検等を実施していない橋りょう数
耐震対策工事を必要としない橋りょう数 耐震対策工事が必要とされた橋りょう数  
耐震対策工事実施橋りょう数   耐震対策工事未実施橋りょう数  
耐震対策工事完了橋りょう数 一定補強工事実施橋りょう数 必要な耐震性能を有する橋りょう うち橋りょう55旧基準適用橋りょう
  うち橋長100m以上橋りょう数  
橋りょう数 H/A 該当市町村数 橋りょう数 左の橋りょうのある路線数橋 該当市町村数 左の橋りょうのある路線数 左の路線に接続する指定拠点数
  A=B+J B=C+D C D=E+I E=F+G F G H=C+E   I               J
市町村 市町村 路線 市町村 路線 箇所
59 157 97 34 63 38 21 17 72 45.9 25 11 15 14 3 3 3 1 60

b 道路盛土並びに切土法面及び斜面対策

 道路盛土について、直轄国道においては、盛土点検要領に基づいた緊急点検を実施し、対策工事を実施していた。
 一方、都道府県道等及び市町村道の道路盛土の中にも、緊急点検対象箇所に該当する場合があり、特に、当該箇所が緊急輸送道路の場合、その存在を把握し必要に応じた対策を行うことが重要となるが、14道府県管内の259路線で緊急点検対象箇所に該当する箇所が1,218か所見受けられた。
 切土法面及び斜面対策について、直轄国道においては143路線の2,443か所、15都道府県管内の都道府県道等及び市町村道においては509路線の5,617か所、計8,060か所の要対策箇所のうち、3,680か所は対策工事を実施していた。そして、残りの493路線の4,380か所は未完了であり、箇所ごとの地盤の性状を調査するなどし、対策工事について、中長期的な対応を含めて検討していくこととしていた。
 地震発生時にこれらの道路盛土や切土法面及び斜面が被災した場合、緊急輸送が困難となり、都道府県道等及び市町村道については、緊急点検対象箇所に該当する箇所がある259路線又は対策工事未完了の要対策箇所がある384路線に接続している指定拠点1,509か所で実施される応急復旧活動に支障が生ずるおそれがある状況となっていた(図表-道路7 及び 参照)。

図表-道路7 直轄国道における切土法面及び斜面対策の実施状況
地方整備局等数      
要対策箇所のある路線数 要対策箇所数 対策工事実施箇所数 対策工事未完了箇所数 左の箇所のある路線数
  路線 箇所 箇所 箇所 路線
4 143 2,443 1,404 1,039 109

図表-道路8 都道府県道等及び市町村道における道路盛土並びに切土法面及び斜面対策の実施状況

(内訳は別表-道路7 参照)

都道府県数 道路盛土 切土法面及び斜面 〔1〕 又は〔2〕 に接続する指定拠点数
緊急点検対象箇所に該当する道路盛土のある路線数〔1〕 緊急点検対象箇所に該当する道路盛土の箇所数 要対策箇所のある路線数    
要対策箇所数 対策工事実施箇所数 対策工事未完了箇所数 左の箇所のある路線数〔2〕
路線 箇所 路線 箇所 箇所 箇所 路線 箇所
15 259 1,218 509 5,617 2,276 3,341 384 1,509

(ウ)  緊急輸送道路ネットワーク計画の策定並びに都道府県及び市町村の連携等のソフト対策の実施状況

a 緊急輸送道路ネットワーク計画の策定及び公表

 緊急輸送道路ネットワーク計画は、被災地域以外からの人員、物資等の迅速な緊急輸送に対応できるよう、適切に公表され広く関係機関で情報が共有され、また、常に社会情勢の変化に対応すること及び都道府県間の計画に連続性と補完性があることなどが重要とされている。このため、ネットワーク要領では、緊急輸送道路ネットワーク計画は、必要に応じて対象路線の見直しを行うこととされている。
 しかし、都道府県ネットワーク協議会を長期間開催しておらず、緊急輸送道路ネットワーク計画の見直しを行っていないことから、新たに整備されたものの、供用開始後5年以上の長期間にわたり緊急輸送道路ネットワーク計画に選定されていない高速自動車国道、直轄国道等の高規格道路が9県(注27) で33路線見受けられた。このうち、8年度に緊急輸送道路ネットワーク計画を策定して以降一度も見直しを行っていない県は4県(注28) となっていた。
 このように、9県において緊急輸送道路ネットワーク計画の的確な見直しが行われておらず、利用できる耐震性の高い高規格道路が同計画に反映されていないなど、緊急輸送道路ネットワーク計画が適切に改定されていなかった。

<事例-道路2> 
緊急輸送道路ネットワーク計画が適切に改定されていない事例

 D県は、平成8年6月にD県ネットワーク協議会が策定した緊急輸送道路ネットワーク計画に基づき、地域防災計画において緊急輸送計画を策定している。
 そして、同県は、策定以降24年3月までの間、ネットワーク協議会を開催しておらず、この間に新たに整備され供用が開始されたE自動車道等計4路線(総延長36.8km)については、いずれも耐震性が高く、地震発生時の緊急輸送に有効な路線であるにもかかわらず、緊急輸送道路ネットワーク計画上の緊急輸送道路に選定していなかった。このため、同県の緊急輸送計画に位置付けておらず、同県の緊急輸送計画は地震発生時において、緊急輸送に有効な路線について的確に情報を提供できるものとなっていなかった。

 また、都道府県は、地震発生時に継続して緊急輸送道路について情報提供できるよう緊急輸送道路ネットワーク計画をホームページ等で公表しているが、そのデータベースの保管場所等の耐震化が図られていなかったり、紙媒体のみで公表しているのに配布先が管内関係機関に限定されていたりしていて、5県(注29) においては、地震発生時の応急復旧活動に必要となる緊急輸送道路の継続的、広域的な情報提供が確保されていなかった。
 このように、適切に緊急輸送道路ネットワーク計画の改定が行われていなかったり、緊急輸送道路の継続的、広域的な情報提供が確保されていなかったりしていて、広域的な応急復旧活動に必要な緊急輸送に支障が生ずるおそれがある状況となっていた。

(注27)
 9県  青森、愛知、兵庫、岡山、広島、徳島、高知、大分、宮崎各県
(注28)
 4県  青森、兵庫、岡山、宮崎各県
(注29)
 5県  青森、静岡、兵庫、徳島、愛媛各県

 緊急輸送道路ネットワークの広域的連続性

 14都府県の緊急輸送道路ネットワーク計画において選定された緊急輸送道路のうち、都府県境を越えて、隣接都府県内にある一般国道又は主要都市等に接続する路線は209路線となっていた。
 しかし、隣接都府県と路線の選定等について十分に協議、調整等を行っていないなどのため、上記209路の線うち24路線については、隣接都府県が当該路線に連続する路線を緊急輸送道路に選定していなかったり、都府県境で利用区分が異なっていたりしていた。このため、都府県境において、道路の耐震性、道路啓開等の連続性が確保されず広域的な応急復旧活動に必要な緊急輸送に支障が生ずるおそれがある状況となっていた。

 市町村地域防災計画上の緊急輸送道路

 市町村は、応急復旧活動に資する緊急物資の輸送を円滑に行うための緊急輸送計画を緊急輸送道路ネットワーク計画に基づくなどして定め、市町村地域防災計画に掲記するなどして公表している。
 しかし、市町村地域防災計画上の緊急輸送道路についてみたところ、緊急輸送道路ネットワーク計画に含まれていない、市町村が独自に選定した路線(以下「市町村選定路線」という。)が、15都道府県管内の178市町村において4,161路線見受けられた。
 そして、市町村選定路線の中には、都道府県道等のうち、政令市が管理する指定区間外の一般国道及び都道府県道を除く都道府県が管理する路線(以下「都道府県管理路線」という。)が117市町村において726路線含まれているが、選定に当たり、当該市町村が都道府県と十分に協議、調整等を行っていないことなどから、計画的な耐震化が十分図られておらず、当該路線の557橋のうち、必要な耐震性能を有している橋りょうは174橋(31.2%)にとどまっていた(図表-道路9 参照。)

図表-道路9 市町村選定路線における橋りょうの耐震化の状況
市町村選定路線 左のうち都道府県管理路線
選定している市町村数 選定路線数 橋りょう数 左のうち必要な耐震性能を有している橋りょう 選定している市町村数 選定路線数 橋りょう数 左のうち必要な耐震性能を有している橋りょう
橋りょう数
B
B/A 橋りょう数
D
D/C
A C
市町村 路線 市町村 路線
178 4,161 1,372 517 37.7 117 726 557 174 31.2

 また、前記の市町村選定路線4,161路線のうち、82市町村が選定した283路線は、隣接市町村内にある病院等の指定拠点等に接続するための路線として選定されているものの、隣接市町村と十分に協議、調整等を行っていないことなどから、隣接市町村は、当該市町村選定路線に連続する路線を緊急輸送道路に選定していなかった。
 このように、市町村選定路線の橋りょうの耐震化が計画的に図られていなかったり、市町村境で緊急輸送道路の連続性が確保されていなかったりしていて、広域的な応急復旧活動に必要な緊急輸送に支障が生ずるおそれがある状況となっていた。

(エ)  避難路における施設整備の実施状況並びに都道府県及び市町村の連携等のソフト対策の実施状況

 避難路の整備に当たっては、住民の避難行動に資するため、あらかじめ避難路を選定することにより計画的な整備を推進することが重要である。15都道府県管内の556市町村のうち、95市町村は避難路を選定していたが、461市町村は避難路を選定していなかった。避難路を選定していた95市町村における都道府県又は市町村が管理する避難路計4,039路線の2,718橋のうち、必要な耐震性能を有している橋りょうは733橋(27.0%)となっていた。
 また、上記4,039路線のうち、緊急輸送道路として耐震化が推進されていない3,617路線の2,301橋については、必要な耐震性能を有している橋りょうは358橋(15.6%)にとどまっていた(図表-道路10 参照)。

図表-道路10 避難路における橋りょうの耐震化の状況

(内訳は別表-道路8 参照)

都道府県数 管内市町村数 避難路
選定している市町村数 選定路線数 橋りょう数 Aのうち必要な耐震性能を有している橋りょう Aのうち緊急輸送道路となっていない避難路
橋りょう数
B/A 路線数 橋りょう数 必要な耐震性能を有している橋りょう数 D/C
A B C D
市町村 市町村 路線 路線
15 556 95 4,039 2,718 733 27.0 3,617 2,301 358 15.6

 そして、上記4,039路線の中には、都道府県管理路線が61市町村において403路線含まれていた。しかし、当該市町村は、計画的に耐震化を図るため、都道府県と当該路線について十分に協議、調整等を行っておらず、都道府県管理路線には緊急輸送道路として耐震化が推進されている路線があるものの、必要な耐震性能を有している橋りょうは、上記403路線の666橋のうち341橋(51.2%)となっていた(図表-道路11 参照。)また、市町村は、地震発生時に想定している必要な道路啓開についても都道府県と十分に協議、調整等を行っていなかった。
 このように、地震発生時の避難行動に資する避難路の計画的な耐震化が図られておらず、また、地震発生時に市町村が想定している道路啓開が的確に行われず、住民の避難行動に支障が生ずるおそれがある状況となっていた。

図表-道路11 避難路に選定されている都道府県管理路線における橋りょうの耐震化の状況

(内訳は別表-道路8 参照)

選定路線数 避難路に選定されている都道府県管理路線
選定している市町村数 選定路線数 橋りょう数 左のうち必要な耐震性能を有している橋りょう
橋りょう数 B/A
A B
路線 市町村 路線
4,039 61 403 666 341 51.2

<事例-道路3> 
市町村が避難路に選定した都道府県管理路線の計画的な耐震化が十分に図られていない事例

 F市は、地域防災計画において、G県管理の12路線及び市道29路線の計41路線を避難路として選定している。しかし、同市は、これらの県管理路線の選定に当たり、同県と当該路線の橋りょう等について、計画的に耐震化を図るため、整備方法、整備時期等の具体的な協議、調整等を十分に行っておらず、避難路に選定している同県管理の12路線のうち、緊急輸送道路以外の8路線では耐震対策工事を必要とする27橋について耐震対策工事が実施されていなかった。

(オ) 直轄国道、都道府県道等及び市町村道における全体の橋りょうの耐震化の状況

 緊急輸送道路に選定されている路線の多くは直轄国道又は都道府県道等となっており、市町村道は一部の路線に限られている。市町村道は、我が国の道路延長の約8割を占め、地震発生時に緊急輸送道路等として活用されない路線であっても、住民生活に最も身近な道路であり、地震直後から利用される道路である。また、市町村道の中には、広域避難地と接続する唯一の路線になっているものなどがあり、当該路線の橋りょうが被災して交通機能に支障が生じた場合に、住民の避難行動に多大な影響を与えるものがある。
 緊急輸送道路及び避難路における橋りょうの耐震化の状況はエ(イ) 及び(エ) のとおりであるが、これらに緊急輸送道路等に選定されていない直轄国道、都道府県道等及び市町村道を合わせた直轄国道、都道府県道等及び市町村道全体の橋りょうの耐震化の状況は、図表-道路12 のとおりとなっており、56,431橋のうち、必要な耐震性能を有している橋りょうは24,254橋(43.0%)となっていた。

図表-道路12 直轄国道、都道府県道等及び市町村道全体の橋りょうの耐震化の状況

(内訳は別表-道路9 参照)

道路種別 管理橋りょう数 必要な耐震性能を有する橋りょう
橋りょう数 B/A
  A   B    
直轄国道計 6,642 6,244 94.0
都道府県道等及び政令市の市道計 21,100 9,447 44.8
市町村道計 28,689 8,563 29.8
合計 56,431 24,254 43.0

 橋りょうの耐震化については、緊急輸送道路において重点的に行われている一方で、全体としては、未対策の橋りょうが多数見受けられる状況となっていた。緊急輸送道路に選定されていない直轄国道、都道府県道等及び市町村道は、地域において、避難路に選定されることもあることから、路線の耐震化について、緊急度、優先度等を勘案して、計画的に取り組むことが重要である。

オ 港湾整備事業

(ア) 事業の概要

 港湾整備事業は、港湾施設の建設、改良等を実施するもので、整備された港湾施設は、国土交通省が直轄事業で整備した港湾施設も含めて、地方公共団体等の港湾管理者が管理することとなっている。
 国土交通省は、港湾行政の指針として、港湾法に基づいて「港湾の開発、利用及び保全並びに開発保全航路の開発に関する基本方針」(昭和49年運輸省告示第278号。平成23年国土交通省告示第941号最終改正。以下「港湾の基本方針」という。)を定めている。そして、港湾の基本方針は、大規模地震が発生した場合に、その直後の緊急物資、避難者等を輸送するための機能を確保するために、大規模地震に対する耐震性を備えた岸壁等の港湾施設(以下「大規模地震対策施設」という。)を適切に配置することとしている。また、国土交通省は、昭和53年に制定された大規模地震対策特別措置法等を受けて、東海地方で大規模地震が発生した場合に緊急物資等の輸送を確保するための耐震強化岸壁等の整備を位置付け、その後、58年に発生した日本海中部地震を契機として、59年に港湾における大規模地震対策施設の整備構想を公表して全国の港湾において耐震強化岸壁等の整備を行っている。
 さらに、国土交通省は、阪神・淡路大震災による港湾施設の被害状況等を踏まえて、平成8年に「港湾における大規模地震対策施設整備の基本方針」(以下「港湾の地震対策基本方針」という。)を策定し、大規模地震対策施設の整備を最重要課題の一つとして位置付けている。
 そして、港湾の地震対策基本方針によると、港湾背後地域が一定規模の人口を有している港湾、地形的要因により緊急物資等の輸送を海上輸送に依存せざるを得ない背後地域を有する港湾、離島航路が就航しており震災時にも離島航路の維持が必要な港湾等(以下、これらを合わせて「防災拠点港湾」という。)に、十分な広さの荷さばき地を持った耐震強化岸壁、緊急物資の一時保管場所等として利用可能な広場及び耐震強化岸壁又は広場と背後幹線道路とを結ぶ臨港道路等の大規模地震対策施設を整備することとされている(図表-港湾1 参照)。
 また、港湾の基本方針においても、大規模地震対策施設は、耐震強化岸壁と広場、臨港道路等を一体的に備えることとされている。さらに、国土交通省は、港湾の地震対策基本方針の防災拠点について、その整備の基本的な考え方等について取りまとめた臨海部防災拠点マニュアルを9年3月に策定し、臨海部における防災拠点の整備の促進及び有効活用を図るために、参考資料として各港湾管理者等に配布している。

図表-港湾1 大規模地震直後の防災拠点港湾における災害に対する応急復旧活動の概念図

図表-港湾1大規模地震直後の防災拠点港湾における災害に対する応急復旧活動の概念図

(イ) 防災拠点港湾の状況

 大規模地震が発生した場合に、防災拠点港湾は震災時の緊急物資等の海上輸送を確保するなど災害に対する応急復旧活動に資することになるが、これら防災拠点港湾は、24年3月末現在で全国で170港あり、15都道府県では71港となっている。

 施設整備の実施状況

(a) 防災拠点港湾における緊急物資の取扱能力

 防災拠点港湾は、(ア)のとおり、港湾の基本方針により、大規模地震対策施設として耐震強化岸壁、広場及び臨港道路を一体的に整備することとされており、これら施設の整備に当たっては、国土交通省及び港湾管理者は、臨海部防災拠点マニュアルを参考にするなどしている。
 そして、臨海部防災拠点マニュアルによれば、背後圏の被災人口等を考慮して必要とされる緊急物資量のうち港湾で受け持つべき緊急物資量を算出し、施設ごとに設定された取扱能力で除するなどして、防災拠点港湾として必要となる耐震強化岸壁の施設量(以下「必要施設量」という。)や広場の面積等を算定することとされている。

a 耐震強化岸壁の整備状況

 港湾管理者等は、図表-港湾2 のとおり、防災拠点港湾71港において耐震強化岸壁を整備するとしている。そして、このうち42港については、耐震強化岸壁66バース(注30) の整備を完了し、それぞれの港湾において必要施設量を満たしていたが、15港については、必要施設量に対して一部の耐震強化岸壁の整備となっており、また、14港については、耐震強化岸壁が整備されておらず、合わせて29港において、必要施設量を満たしていない状況となっていた。

 バース  岸壁等の係留施設において、一隻の船舶が占める施設の単位

図表-港湾2 耐震強化岸壁の整備状況

(内訳は別表-港湾2 参照)

(内訳は別表-港湾2参照)

b 広場の整備状況

 広場については、耐震強化岸壁が少なくとも1バース整備されている防災拠点港湾(以下「耐震強化岸壁整備港湾」という。)57港を対象として、輸送されてきた緊急物資の仕分及び一時保管のための広場として必要となる面積が確保されているかみたところ、図表-港湾3 のとおり、防災拠点港湾55港については確保されていたが、2港については確保されていなかった。
 また、広場の必要面積は、仕分及び一時保管のための面積に加えて、緊急物資を空輸するために利用されるヘリコプターの離着陸のための面積等も必要となるが、これらを加えた必要面積が確保されている港湾は44港となっており、13港については確保されていなかった。

図表-港湾3 広場の必要面積の確保の状況

(内訳は別表-港湾3 参照)

(内訳は別表-港湾3参照)

c 耐震強化岸壁等に接続する臨港道路における橋りょうの耐震対策等の実施状況

 緊急物資等の円滑な輸送の確保のためには、耐震強化岸壁等に接続する臨港道路上の橋りょう等について耐震点検を実施し、必要に応じ耐震対策を実施する必要がある。
 そこで、整備済みの耐震強化岸壁等に接続する臨港道路に橋りょうがある17港の20橋についてみたところ、耐震対策等が実施済みの橋りょうは19橋で、残りの1橋は耐震対策等を実施していなかった(別表-港湾3 参照)。
 以上により、防災拠点港湾ごとに、耐震強化岸壁、広場及び臨港道路の橋りょうを一体としてその緊急物資の取扱能力について、臨海部防災拠点マニュアルに基づくなどして算定し、防災拠点港湾として受け持つべき緊急物資量と比較したところ、図表-港湾4 のとおり、緊急物資の取扱能力が確保されている港湾が41港ある一方で、受け持つべき緊急物資量に対する取扱能力の割合が50%未満となっている港湾が25港あり、震災時に緊急物資量が十分確保されないおそれがある状況となっていた。

図表-港湾4 緊急物資の取扱能力の確保の状況

(内訳は別表-港湾4 参照)

(内訳は別表-港湾4参照)

 このとおり、耐震強化岸壁が未整備になっていることなどから、十分な緊急物資量が確保されないおそれがある港湾がある一方で、港湾管理者が策定する「港湾の開発、利用及び保全並びに港湾に隣接する地域の保全に関する政令で定める事項に関する計画」(以下「港湾計画」という。)において、近接する防災拠点と連携するよう計画し、背後圏の緊急物資量を確保することとしている港湾や、代替施設を使用して緊急物資を受け入れる計画をしている港湾等、施設の整備とともに、緊急物資量の確保のための方策を検討している港湾も見受けられた。

<参考事例-港湾1> 
防災拠点港湾における耐震強化岸壁の計画の策定に当たり、近接する防災拠点と連携することにより、これら背後圏の緊急物資を確保することとしていた事例

 静岡県大井川港の港湾管理者である焼津市(平成20年10月31日以前は大井川町)は、地震直後の旧大井川町の緊急物資を受け入れる目的で耐震強化岸壁1バース(水深5.5m、延長90m)を昭和56年度に整備していた。
 その後、同市は、平成17年度に新たに耐震強化岸壁を配置することなどを記載した港湾計画を策定した。そして、耐震強化岸壁の整備に当たり、近接する防災拠点である同県管理の焼津漁港において、既に水深7.0mの耐震強化岸壁1バース(延長112m)が整備されていたことから、大井川港と焼津漁港とが連携して、焼津市に加えて、島田市及び藤枝市の3市を背後圏として緊急物資を合わせて確保することとし、これを基に大井川港において新たに耐震強化岸壁1バース(水深6.5m、延長110m)を配置することとし、23年度にその整備を完了していた。

<参考事例-港湾2> 
耐震強化岸壁等が未整備のため、代替施設を利用することにより緊急物資の受入れなどができるよう対策を講じていた事例

 高知県宿毛湾港の港湾管理者である高知県は、臨海部防災拠点マニュアルに基づいて、震災時に同港の背後圏(6市町村)の想定被災人口3万1千人が必要とする緊急物資の20.0%に当たる248t/日の受入れを港湾で担うとして、耐震強化岸壁等を整備するとしているが、現時点で未着工となっているため、緊急物資量が確保されない状況となっていた。
 このため、耐震強化岸壁等の整備が完了するまでの間、常時は宿毛湾港に隣接するあしずり港に係留して浮き桟橋として利用している移動式耐震係留施設(洋上フロート)を震災時には宿毛湾港等にえい航し、被災した岸壁の代わりに緊急物資の受入れ(約70t/日)や避難者の輸送に使用することとする対策を講じていた。

(b) 防災拠点港湾における特定耐震強化岸壁の整備等の状況

 国土交通省は、大規模地震が発生した場合に、地震直後の緊急物資、建設機械等の海上輸送機能を担う必要性の高い岸壁の耐震強化を図ることを目的として、18年3月に耐震強化岸壁緊急整備プログラムを策定した。
 耐震強化緊急整備プログラムによると、国土交通省は、今後、耐震強化岸壁が必要とされる各港において、必要施設量、果たすべき機能等を勘案し、更にコスト縮減の観点等から、大規模地震等による震災時にあっても、利用が困難となるような変形及び変位を生じさせず、想定される最大規模の地震直後から緊急物資輸送が可能な耐震強化施設(特定(緊急物資輸送対応))である耐震強化岸壁(以下「特定耐震強化岸壁」という。)を最低1バースは確保することとしている。そして、19年の港湾技術基準において1(3)オ(ア) のとおり所要の改正が行われている。
 防災拠点港湾71港における耐震強化岸壁の整備状況は、57港の122バースが整備済みとなっているが、このうち特定耐震強化岸壁として整備された岸壁は、19年度から新たに整備が始まったこともあり、6港の6バースとなっていた。
 なお、19年の港湾技術基準は、19年度以降に設置等が行われれる施設が対象となるが、既設の耐震強化岸壁について大規模地震時の変形及び変位を照査し、震災時にあっても直後から利用が可能であることを再点検し確認している岸壁は16港の35バースとなっていた。
 特定耐震強化岸壁を整備していない、又は既設の耐震強化岸壁において震災時にあっても直後から利用できることを確認していない50港については、想定される最大規模の地震直後からの緊急物資等の輸送として災対法で想定している1段階目の救助及び救急活動の従事者等人命救助に要する人員及び物資の輸送、輸送拠点の応急復旧、交通規制等に必要な人員及び物資の輸送等に十分対応できないおそれがある状況となっていた(別表-港湾2 参照)。

 防災拠点港湾の周知等のソフト対策の実施状況

 防災拠点港湾については、施設整備とともに、震災時において緊急物資等の輸送や救援活動等に有効に活用できるよう、港湾の事業担当部局と地方公共団体の防災担当部局とが連携を緊密にして、その役割、機能等を明確にして地域住民及び関係者に周知を図り、また、臨港道路等における倒壊家屋や樹木等の障害物の除去作業を迅速かつ円滑に行うことが必要である。

(a) 防災拠点港湾の地域防災計画における位置付けの状況

 港湾の地震対策基本方針において、防災拠点港湾に整備される大規模地震対策施設については、地域防災計画に位置付け、効率的な活用を図るとされている。また、臨海部防災拠点マニュアルによれば、地域防災計画に耐震強化岸壁等の施設を位置付け、地方公共団体の防災担当部局へ周知すること、背後の地域の防災関係施設の整備等との整合性を図ることなどが必要とされている。
 そこで、耐震強化岸壁整備港湾57港における耐震強化岸壁等の地域防災計画への記載状況についてみたところ、図表-港湾5 のとおり、地方公共団体(港管理組合を除く。)が港湾管理者となっている24地域防災計画全てにおいて、港湾名等が記載されていた。しかし、港内の耐震強化岸壁名が記載されていたのは、24計画のうち15計画となっていた。
 また、耐震強化岸壁整備港湾57港が所在する市町村の80地域防災計画において、防災拠点港湾名や耐震強化岸壁等の施設名が記載されていたのは、51計画となっていた。

図表-港湾5 地域防災計画の記載の状況

(内訳は別表-港湾5 参照)

耐震強化岸壁整備港湾 港湾管理者における地域防災計画の記載の状況 港湾の所在市町村における地域防災計画の記載の状況
港湾管理者の地域防災計画   港湾所在市町村の地域防災計画  
うち港湾名等が記載されているもの   うち防災拠点港湾名や耐震強化岸壁等の施設名が記載されているもの
うち耐震強化岸壁名が記載されているもの
港湾 計画 計画 計画 計画 計画
57 24 24 15 80 51

(b) 耐震強化岸壁の表示の状況

 緊急物資はもとより、港湾施設の応急復旧に係る資機材等は、海上輸送、陸上輸送等の各方面から行われることから、どの岸壁が耐震強化岸壁なのかを周知し、震災時に効率的な活用を図ることが必要である。
 このため、港湾の地震対策基本方針によれば、耐震強化岸壁等については、表示等により地域へ周知を図ることとされている。そして、臨海部防災拠点マニュアルによれば、施設名、場所等を記載した標識等の表示を活用するなどの方法により行うことが望ましいとされており、さらに、船舶、ヘリコプター等からも耐震強化岸壁の位置が確認しやすいように、耐震強化岸壁に表示するなどの方法も有効とされている。
 そこで、耐震強化岸壁整備港湾57港において耐震強化岸壁が整備済みとなっている122バースの耐震強化岸壁の表示の状況についてみると、標識が設置されていたのは30港の52バースで、岸壁自体に耐震強化岸壁であることが分かるように表示がされていたのは3港の5バースとなっていた。

(c) 耐震強化岸壁等に接続する臨港道路の緊急輸送道路への選定状況

 防災拠点港湾の耐震強化岸壁等に接続する臨港道路は、地方公共団体の防災担当部局と調整をした上で、地震直後に必要となる緊急輸送を確保するために緊急輸送道路として選定することにより、背後への緊急輸送のための幹線道路と連続性を確保することが必要である。
 そこで、耐震強化岸壁整備港湾57港の122バースのうち、臨港道路が接続する51港の耐震強化岸壁106バースについてみると、臨港道路が緊急輸送道路として選定されている耐震強化岸壁は27港の72バースであったが、臨港道路が緊急輸送道路として選定されていない耐震強化岸壁は28港の34バースであった。

<事例-港湾> 
耐震強化岸壁等に接続する臨港道路が緊急輸送道路に選定されていない事例

 A港の港湾管理者であるB市は、地震直後に同市の緊急物資を受け入れる目的で耐震強化岸壁を同港4地区内に6バースを整備するとともに、耐震強化岸壁と地震直後の被災地や背後等への陸上交通を確保するなどのために、臨港道路を整備している。
 これらの耐震強化岸壁6バースに接続する臨港道路等の緊急輸送道路の選定状況は、同市地域防災計画において、C地区3バースに接続する臨港道路については緊急輸送道路に選定されていたものの、残りの3バースに接続する臨港道路については、緊急輸送道路に選定されていなかった。

(d) 応急復旧体制の状況

 震災時においては、倒壊した建物等の障害物により防災拠点港湾としての緊急物資輸送等の機能に支障が生ずることなどが考えられるため、臨港道路等の港湾施設における障害物の除去作業等について、港湾関係の建設団体等と事前に具体的な取決めなどを行っておく必要がある。
 そこで、耐震強化岸壁整備港湾57港において、事前の取決めの状況についてみたところ、国土交通省が整備し港湾管理者が管理している港湾施設については、各地方整備局等において、地震等の災害により港湾施設等が被害を受けた場合に航路、泊地等の障害物の除去作業等を速やかに実施できるよう、港湾関係の建設団体等と応急復旧に関する協定を締結していた。一方、港湾管理者自らが整備し管理している港湾施設についてみたところ、耐震強化岸壁整備港湾57港のうち49港については、港湾関係の建設団体等との応急復旧に関する協定が締結されていたものの、残りの8港については、協定等が締結されていなかった。

 このように、耐震強化岸壁等が地域防災計画に位置付けられていなかったり、耐震強化岸壁であることが分かるように標識等の表示がされていなかったり、耐震強化岸壁等に接続する臨港道路が緊急輸送道路として選定されていなかったり、港湾管理者自らが整備し管理している港湾施設の応急復旧に関する協定等を締結していなかったりしている事態が見受けられ、トイレ耐震強化岸壁等が震災時において緊急物資等の輸送や救援活動等に十分に活用できないおそれがある状況となっていた。

(ウ) 津波対策の実施状況

 防災拠点港湾71港については、主として災害に対する応急復旧活動に資する施設であるが、これらの港湾は規模が大きく、多くの港湾施設利用者等を抱えていることから、災害予防対策に資する施設として津波防波堤の施設整備や津波避難等のソフト対策の実施状況についてみたところ、次のとおりとなっていた。

a 施設整備の実施状況

 港湾において、港内の静穏度の確保に加えて、津波対策も目的としている津波防波堤は、図表-港湾6 のとおり、2港において整備されているが、これらの津波防波堤は、湾口部に整備することで津波の高さを低減するものであり、海岸の堤防整備と合わせた津波対策となっている。

図表-港湾6 津波防波堤の整備状況
県名 所在港湾 事業主体 施設名 着工年度
(平成)
完了又は完了予定年度 整備済み延長
(m)
天端高(m)
(潮位観測基準面からの高さ)
(注)
徳島県 浅川港 徳島県 湾口北防波堤 12年度 18年度 340 6.2
湾口南防波堤 3年度 17年度 400 7.1
高知県 須崎港 国土交通省 湾口地区東防波堤 4年度 26年度 844
(計画延長940)
6.0
湾口地区西防波堤 4年度 21年度 480 6.5
 潮位観測基準面  海面の高さを観測するための基準面

 東日本大震災の際に、岩手県釜石港の津波防波堤がケーソンの倒壊等により大きな被害を受けたが、国土交通省は、この津波防波堤が津波高さの低減等一定の津波低減効果を発揮したと報告している。
 上記2港湾の津波防波堤については、設計に当たり、防波堤を築造した場合と築造しなかった場合の津波の模擬実験を実施して津波高さなどの比較をしているが、その低減効果は図表-港湾7 のとおりとなっている。

図表-港湾7 津波防波堤による津波の影響の低減効果
県名 所在港湾 施設名 想定した過去の津波 津波低減効果
津波高さ(m) 低減率
(%)
浸水面積(ha) 低減率
(%)
防波堤を築造しなかった場合 防波堤を築造した場合 防波堤を築造しなかった場合 防波堤を築造した場合
徳島県 浅川港 湾口北防波堤
湾口南防波堤
昭和南海地震による津波
(昭和21年)
5.9 2.3 61.0 176.6 49.2 72.1
高知県 須崎港 湾口地区東防波堤
湾口地区西防波堤
同上 3.6 2.8 22.2 402.0 261.0 35.1

b 港湾における津波避難等のソフト対策の実施状況

 港湾背後の市街地は、堤防等の海岸保全施設により防護されている堤内地である一方、港内は、その大部分が堤防等の外側に位置している堤外地であることから、津波による浸水被害の可能性が高い区域である。このため、津波発生時に、港内の港湾労働者や緑地等の親水施設に来訪していた観光客等の港湾施設利用者の安全を確保する必要があることから、港湾における避難体制の整備が重要となる。
 また、避難体制の整備は、一般的に、住民等の避難に責任を有する市町村が主体となって行うものであるが、港内等の人命等に与える被害を防止又は軽減するために、港内についても津波ハザードマップ等を作成して、避難体制を整備することが求められる。
 そして、港湾の基本方針においても、港湾管理者は、津波ハザードマップ等の作成支援、避難場所や避難路の確保への協力等を行うこととされている。

(a)  市町村等による津波ハザードマップ等の作成状況

 津波による被害が想定される港湾においては、津波浸水予測区域、避難場所、避難路等が記載された津波ハザードマップや避難時間等について具体的な検討を加えた津波避難計画等を作成することにより、避難の判断に資する情報を港湾施設利用者に対して提供することが必要である。
 都道府県が実施した津波浸水予測調査において、津波浸水予測区域にあるとされた防災拠点港湾68港が所在する91市町村による港内の津波ハザードマップ等の作成状況についてみたところ、図表-港湾8 のとおり、港内を対象として作成していたのは59港が所在する68市町であり、14港が所在する23市町村については、通常、港内には居住者がいないなどの理由により作成していなかった。また、港湾管理者が自ら津波ハザードマップ等を作成していた港湾が4港あったが、それらを含めても、14港については、市町村と港湾管理者のどちらも港内の津波ハザードマップ等を作成していない区域が存在していた。
 また、津波ハザードマップ等を作成していた上記の68市町における、避難場所及び避難路の選定状況についてみたところ、図表-港湾8 のとおり、避難場所については55港が所在する63市町が選定していたものの、避難路については9港が所在する9市町しか選定していなかった。

図表-港湾8 港内の津波ハザードマップ等の作成状況

(内訳は別表-港湾6 参照)

津波浸水予測区域内に所在する防災拠点港湾数 左の防災拠点港湾が所在する市町村数   港湾管理者が津波ハザードマップ等を作成している防災拠点港湾数 津波ハザードマップ等未作成の区域を含む防災拠点港湾数 津波ハザードマップ等を作成している市町村のうち
津波ハザードマップ等を作成している市町村数 左に対応する防災拠点港湾数 津波ハザードマップ等を作成していない市町村数 左に対応する防災拠点港湾数 避難場所を選定している市町村数 左に対応する防災拠点港湾数 避難路を選定している市町村数 左に対応する防災拠点港湾数
68 91 68 59 23 14 4 14 63 55 9 9

(b) 避難路となる臨港道路における橋りょうの耐震対策等及び情報提供

 (イ)a(a)c のとおり、防災拠点港湾における緊急物資等の円滑な輸送の確保に必要な耐震強化岸壁等に接続する臨港道路の橋りょうの耐震対策等については、おおむね実施されていた。
 しかし、堤内地等にある避難場所への避難路として選定された臨港道路における橋りょう及び避難路となる可能性のある臨港道路における橋りょうについて耐震対策等の状況をみたところ、それらの橋りょうが所在する48港の227橋のうち31港の89橋は、落橋防止構造等による耐震対策が実施されておらず、避難路として利用された場合、その安全性が確保されていない状況となっていた。
 また、上記89橋が所在する31港のうち27港は、港湾管理者から市町村に対して橋りょうの耐震対策等に関する情報が提供されていないなど、港湾における避難体制を整備するための港湾管理者と市町村とによる相互の連携が十分に図られていない状況となっていた。

カ 下水道事業

(ア) 事業の概要

 下水道事業は、雨水や家庭等から排出される汚水等の下水を排除させる管路の敷設、下水を処理するための終末処理場の整備等を実施するものである。
 終末処理場は、管路で集められた下水を処理施設に送水するために揚水する機能(揚排水機能)を有した施設、下水中の固形物を沈殿させるなどして分離する機能(沈殿処理機能)を有した施設、下水中の有機物等を生物学的に処理する機能(高級処理機能)を有した施設及び放流水の衛生的な安全性を高めるために消毒する機能(消毒処理機能)を有した施設から構成されている。そして、これら終末処理場の施設は、コンクリート造りのく体等を建設する土木及び建築工事と汚泥かき寄せ機、散気装置等の機械設備を設置したり、電力供給設備、制御システム等の電気設備を設置したりする設備工事により整備されている(図表-下水1 参照)。

図表-下水1 下水道の仕組み

図表-下水1下水道の仕組み

 下水道事業主体は、下水道施設の整備に当たり、地域の特性に応じて1日当たりの最大汚水量等を算定し、規模等を決定している。終末処理場の施設は、管路の敷設の進捗等に応じて流入下水量が増加することから、下水道事業主体は、段階的に増設工事を行いながら整備を実施している。そして、下水道施設の劣化、老朽化等により、必要に応じて全部又は一部の再建設あるいは取替えを行う改築更新工事を実施しており、このうち機械設備は土木構造物又は建築構造物と比較して耐用年数が短く、その耐用年数に応じて改築更新工事を実施している。
 また、下水道事業主体は、大規模地震発生時に、終末処理場の処理機能が停止して未処理下水が流出することなどを防止するために、下水道の機能を引き続き維持できるように、下水道施設の耐震化を図っている。
 耐震化に当たっては、下水道耐震指針によれば、下水道施設について、地震発生時における下水道の機能の必要度や緊急度に応じて段階的に実施する必要があるとされており、管路については、重要な管路や敷設年度の古い管路等を総合的に勘案して優先順位を定め、その他の管路は改築更新計画等を考慮しつつ耐震化を図ることとし、終末処理場の施設等については、緊急の目標として、必要最小限の揚排水機能、沈殿処理機能及び消毒処理機能が確保できるよう所要の施設の耐震対策工事を行って耐震性の向上を図り、長期の目標として、改築更新と併せて新設と同様に要求される耐震性能を確保するなどして耐震化を図ることとされている。

(イ) 施設整備の実施状況

 下水道施設の耐震化の状況

 下水道施設の耐震設計の考え方は、阪神・淡路大震災を契機として9年に下水道耐震指針が大幅に改定(以下、改定された下水道耐震指針を「9年版下水道耐震指針」、改定前の下水道耐震指針を「旧下水道指針」という。)されており、レベル1地震動とレベル2地震動の2段階の地震動に対して設計することや、管路の耐震設計法が示されている。このため、9年以前の工事発注の管路、終末処理場の施設等については、耐震点検を実施しない限り要求される耐震性能が確保されているか不明である。
 そして、国土交通省は、9年度以前に整備した下水道施設については、できる限り速やかに耐震点検を実施すること、10年度以降に整備するものについては9年版下水道耐震指針に基づくなどして、所要の耐震化を図ることなどの技術的助言を下水道事業主体に行い、9年版下水道耐震指針の適用方法等について周知している。

(a) 管路

 15都道府県管内の重要な管路延長計21,994.4kmを対象として、当初整備における耐震基準の適用状況についてみたところ、旧下水道指針を適用して設計した管路(以下「旧指針耐震化管路」という。)の管路延長は計16,300.9kmとなっており、全管路延長に対する割合は74.1%となっていた。また、このうち、10年度以降に整備された旧指針耐震化管路延長計523.2kmは、近隣に断層等がないため地震発生を想定していなかったこと、緊急輸送道路等に埋設されている管路を重要な管路に位置付けていなかったことなどから、9年版下水道耐震指針に基づいたレベル2地震動の耐震設計を行っていなかった。
 旧指針耐震化管路延長計16,300.9kmの耐震点検の実施状況については、図表-下水2 のとおり、管路延長計6,861.6kmは耐震設計を省略できる適用条件に該当するかどうかの簡易点検が実施されている一方で、管路延長計9,439.2kmは簡易点検が実施されていなかった。また、管路延長計3,119.8kmは簡易点検の結果、詳細点検が必要であるのに詳細点検が実施されておらず、簡易点検が未実施の管路延長と合わせた管路延長計12,559.1kmは、どの程度の耐震性能が確保されているのか不明となっていた。

図表-下水2 旧指針耐震化管路の耐震点検の実施状況

内訳は別表-下水2 参照)

 
旧指針耐震化管路延長      
簡易点検が未実施の管路延長 簡易点検が実施済の管路延長 詳細点検が不要な管路延長 詳細点検が未実施の管路延長 詳細点検が実施済の管路延長
km km km km km km
16,300.9 9,439.2 6,861.6 1,682.2 3,119.8 2,059.5

 また、耐震対策工事の実施状況についてみたところ、図表-下水3 のとおり、耐震対策工事が実施されていたのは、詳細点検の結果、耐震対策工事が必要とされた管路延長計533.0kmのうち、計210.7km(実施率39.5%)となっていた。

図表-下水3 旧指針耐震化管路の耐震対策工事の実施状況

内訳は別表-下水3 参照)

   
詳細点検が実施済の管路延長 耐震対策工事が不要な管路延長 耐震対策工事が必要な管路延長  
耐震対策工事が未実施の管路延長   耐震対策工事が実施済の管路延長  
割合 割合
A B B/A C C/A
km km km km km
2,059.5 1,526.4 533.0 322.3 60.5 210.7 39.5

 そして、簡易点検や詳細点検の結果、耐震対策工事が必要とされて10年以上が経過した管路延長計76.4kmのうち、耐震対策工事が実施されていたのは計4.8kmとなっていた。
 また、耐震点検が実施されていない管路や、耐震対策工事が実施されていない管路のうち緊急輸送道路等に埋設されている管路延長が計3,956.5km、地域防災計画等により必要と定められた施設からの排水を受ける管路延長が計6,187.4km見受けられた。
 緊急輸送道路が災害発生時に有効に機能するためには、橋りょうの耐震化や斜面等の防災対策等の道路施設そのものの耐震性が確保されるとともに、道路下に埋設されている占用物件等の耐震化が図られていることが重要である。
 そして、「エ(イ)a橋りょうの耐震化 」における緊急輸送道路の橋りょうの耐震化の状況は、直轄国道94.1%、都道府県道等及び政令市の市道58.3%、市町村道45.9%となっており、これに対して、緊急輸送道路等に埋設されている管路の耐震化の割合についてみたところ、緊急輸送道路等に埋設されている全ての管路延長計7,025.2kmのうち要求される耐震性能が確保されている管路延長は計3,068.7km(43.7%)となっていた。
 なお、国土交通省は、会計実地検査の過程において、下水道担当部局と道路担当部局との間で協議、調整等を行い、24年7月に緊急輸送道路である直轄国道等に埋設されている管路の耐震化の状況の調査を開始しており、その調査結果に基づくなどして今後の耐震化の推進を図ることとしている。

<事例-下水> 
緊急輸送道路等に埋設されている管路において、要求される耐震性能が確保されていない事例

 A県は、下水道事業の一環として、管路の整備を行っており、平成23年度末現在の重要な管路の管路延長は計2,615.3km、このうち緊急輸送道路等に埋設されている管路延長は計795.3kmとなっている。
 そして、緊急輸送道路等に埋設されている管路については、普及率を上げるため新設工事を優先していることなどから、要求される耐震性能が確保されているのは計260.7km(32.8%)となっていた。
 一方、同一管内の緊急輸送道路の橋りょう計798橋については、橋りょう新基準に適合した耐震対策工事や一定補強工事を実施するなどして、耐震化が図られているのは計614橋で全体の76.9%となっていた。

 旧指針耐震化管路の耐震化の状況は、上記のとおりであるが、これらの管路を含めた全ての重要な管路の耐震化の状況についてみたところ、図表-下水4 のとおり、要求される耐震性能が確保されているか不明となっている管路が57.1%を占めていた。

図表-下水4 重要な管路の耐震化の状況

内訳は別表-下水4 参照)

重要な管路延長  
要求される耐震性能が確保されている管路延長   要求される耐震性能が確保されていない管路延長   要求される耐震性能が確保されているか不明となっている管路延長   緊急輸送道路等に埋設されている管路延長  
割合 割合 割合 左のうち要求される耐震性能が確保されている管路延長  
割合
A B B/A C C/A D D/A E F F/E
km km km km km km
21,994.4 9,112.9 41.4 322.3 1.5 12,559.1 57.1 7,025.2 3,068.7 43.7

(b) 終末処理場の施設

 15都道府県管内の消毒処理機能、沈殿処理機能及び揚排水機能を有する施設(以下「消毒施設等」という。)計2,383施設を対象として、当初整備における耐震基準の適用についてみたところ、旧下水道指針を適用して設計した施設(以下「旧指針耐震化施設」という。)が計1,657施設となっており、全消毒施設等に対する割合は69.5%となっていた。
 旧指針耐震化施設計1,657施設のく体の耐震点検の実施状況については、図表-下水5 のとおり、計901施設は、耐震点検が実施されておらず、どの程度の耐震性能が確保されているのか不明となっていた。
 そして、上記のうち計99施設のく体は、機械設備の改築更新時に耐震点検が行われておらず、耐震対策工事の必要性の検討が行われていなかった。
 また、旧指針耐震化施設のく体の耐震対策工事の実施状況についてみたところ、耐震対策工事が実施されていたのは、耐震点検の結果、耐震対策工事が必要とされた計675施設のく体のうち計68施設(10.1%)となっていた。
 そして、耐震対策工事が必要とされて10年以上が経過した旧指針耐震化施設のく体計211施設のうち耐震対策工事が実施されていたのは計28施設となっていた。

図表-下水5 旧指針耐震化施設のく体の耐震点検等の実施状況

(内訳は別表-下水5 参照)

   
       
旧指針耐震化施設の施設数 耐震点検が未実施の施設数 耐震点検が実施済の施設数      
耐震対策工事が不要な施設数 耐震対策工事が必要な施設数 耐震対策工事が未実施の施設数   耐震対策工事が実施済の施設数  
割合 割合
A B B/A C C/A
施設 施設 施設 施設 施設 施設 施設
1,657 901 756 81 675 607 89.9 68 10.1

<参考事例-下水> 
機械設備の改築更新工事に伴って、施設のく体の耐震対策工事を実施するとしている事例

 東京都は、平成21年度に、落合水再生センターの沈殿処理機能を有する施設のく体の耐震点検を実施し、その結果、コンクリートの増し打ち工事等の耐震対策工事が必要となっていた。
 上記に対して、都は、沈殿処理機能を有する施設の機械設備が20年以上経過していることから、当該機械設備の改築更新工事に伴い、24年度に一部のく体の耐震対策工事を実施することにしていた。

 旧指針耐震化施設のく体の耐震化の状況は、上記のとおりであるが、これらのく体を含めた全ての消毒施設等のく体の耐震化の状況についてみたところ、図表-下水6 のとおり、要求される耐震性能が確保されているか不明となっている施設が37.8%を占めていた。

図表-下水6 消毒施設等のく体の耐震化の状況

(内訳は別表-下水6 参照)

消毒施設等の施設数  
要求される耐震性能が確保されている消毒施設等の施設数   要求される耐震性能が確保されていない消毒施設等の施設数   要求される耐震性能が確保されているか不明となっている消毒施設等の施設数  
割合 割合 割合
A B B/A C C/A D D/A
施設 施設 施設 施設
2,383 861 36.1 621 26.1 901 37.8

(c) 避難場所となっている終末処理場の施設

 終末処理場の施設の耐震化の状況は上記のとおりであるが、施設の上部、管理棟又はこれらの施設を含む終末処理場の敷地全体が避難場所として位置付けられている計27終末処理場のうち、23年度末現在において、施設の耐震点検が実施されていないものが計7終末処理場、耐震点検の結果、施設のく体の耐震対策工事が必要とされているのに実施されていないものが計3終末処理場及び地震発生時に直ちに施設全体に影響を及ぼすことはないものの、施設の基礎部分等に破損のおそれのあるものが計13終末処理場見受けられた。
 そして、これらについては、施設の情報に基づく地震災害の危険度、施設が被災した場合の影響度等の検討を行うための当該施設の詳細情報について、防災担当部局と情報共有が十分に行われていなかった。

 このように、既存の下水道施設は、阪神・淡路大震災を契機として耐震化が推進されてきているものの、耐震化の状況は上記のとおりであり、耐震点検が実施されていない場合、耐震化の計画的推進のための具体的な下水道地震対策計画を策定できず、計画的、かつ効率的な耐震化が図られないおそれがある状況となっていた。また、耐震対策工事が必要とされて長期間が経過しているものについては、今後も現状のまま推移すると、耐震点検を実施した効果が発現されないおそれがある状況となっていた。そして、緊急輸送道路等に埋設されている管路や終末処理場の消毒施設等について、耐震点検が実施されていなかったり、要求される耐震性能が確保されていなかったりしているものや、避難場所に位置付けられている終末処理場の施設の耐震化の状況について、防災担当部局との情報共有が十分に行われていないものについては、地震発生時の緊急車両等の円滑な交通、公衆衛生の保全等に支障が生ずるおそれがある状況となっていた。

 管路の液状化対策

 15都道府県管内において、22、23両年度に、開削工法により管路敷設工事を実施した計5,638工事のうち計3,047工事については、地盤の調査等により管路の周辺の地盤又は埋戻し土に液状化が生ずるおそれがないと判明したものの、計1,637工事については、液状化が生ずるおそれがあるとしていた。そして、残りの計954工事については、地盤の調査等が実施されていないため、液状化が生ずるおそれがあるのか不明となっていた。
 そこで、液状化が生ずるおそれがあるとしていた計1,637工事の施工管理についてみたところ、図表-下水7 のとおり、〔1〕 埋戻し土の十分な締固めによる対策を行ったとした計1,576工事のうち、密度試験を行っていない工事が計288工事、〔2〕 固化剤による埋戻し土の固化を行っていた計212工事のうち、所要の強度試験を行っていない工事が計79工事見受けられ、液状化対策として施工品質が確保されていないおそれがある状況となっていた。
 上記の工事の中には、緊急輸送道路等に管路を埋設した工事が計12工事、地域防災計画等により必要と定められた施設からの排水を受ける管路を埋設した工事が計9工事見受けられた。
 このように密度試験又は所要の強度試験を行っておらず、施工管理が十分でない工事が見受けられ、これらの工事において施工された管路については、大規模地震発生時において、周辺の地盤又は埋戻し土が液状化することにより浮き上がることになるなど、液状化対策の効果が十分に発現されないおそれがある状況となっていた。

図表-下水7 液状化対策の施工管理状況
工事件数  
埋戻し土の十分な締固めによる対策を行ったとした工事件数   埋戻し土の固化による対策の工事件数   A及びBの純計
密度試験を行っていない工事件数 所要の強度試験を行っていない工事件数
A B
1,637 1,576 288 212 79 331

 また、下水道地震対策技術検討委員会の報告書に留意したものとなっているか施工管理の状況についてみたところ、埋戻し土の十分な締固めに関して、密度試験を行っている計1,288工事のうち、同報告書に留意して施工品質が確保できる深さ方向の頻度を明確に設定し行っている工事は計156工事、道路管理者等の埋戻し基準によっている工事は計1,132工事となっていた。そして、密度試験を深さ方向に路盤、路床及び路体のうち2層以上で実施している工事が計946工事、路盤の1層でしか行っていない工事が計342工事となっていた。また、セメント系固化剤による埋戻し土の固化に関して、所要の強度試験を行っている計29工事のうち全施工期間において、所要の強度試験を行い当日又は翌日に埋戻しが行われていた工事は計11工事となっていた。
 上記の密度試験を路盤の1層でしか行っていない工事等については、同報告書に留意した施工管理を実施することについての下水道事業主体の認識が十分でなかった。
 このほか、密度試験を行っている計1,288工事のうち地下水位以下で密度試験を行っている工事は計410工事となっているが、地盤の液状化は、地下水位以下の緩い飽和砂質地盤において起こる現象である。技術的助言等では、埋戻し土の十分な締固めに関して、地下水位以下での密度試験を必ずしも行うこととなっていないが、地下水位以下での締固めが十分に実施されていることは液状化対策を行う上で重要となっている。

キ 公園事業

(ア) 事業の概要

 都市公園は、都市の骨格の形成、景観の形成、レクリエーション需要の充足、防災に資する効果等多様な役割を有している。このうち防災公園は、都市の防災機能の向上により安全で安心できる都市づくりを図るために、〔1〕 災害発生時に復旧のための生活物資の中継基地等となる防災拠点、〔2〕 周辺地区からの避難者や帰宅困難者を収容する避難地等として地域防災計画等に位置付けられる都市公園であり、国土交通省は、昭和53年度以降、重点的に整備を推進することとしている。
 そして、国土交通省防災業務計画によれば、広域避難地、一時避難地等としての役割を持つ都市公園については、体系的かつ計画的な配置及び整備を推進するとともに、関係機関との十分な連携を図り、地域防災計画への位置付けを推進することとされている。
 また、地方公共団体は、多数の都市公園を広域避難地、一時避難地等として地域防災計画に位置付けているが、当初から防災の役割を担う広域避難地等として計画し整備している場合と、都市公園として整備した公園を広域避難地等の機能を有するとして地域防災計画に位置付ける場合とがある。

(イ) 防災公園の規模、管理等

a 防災公園事業の補助要件

 国土交通省は、53年度から防災公園の整備、住民の避難や市町村の救護活動等に必要となる災害応急対策施設である耐震性貯水槽、備蓄倉庫、情報通信施設等の設置等を対象とした都市公園事業により重点的な支援を実施している。そして、公園ガイドライン等によれば、防災公園の機能区分ごとの面積に関する事業要件は、図表-公園1 のとおりとされている。
 また、防災公園の機能区分のうち広域避難地は、災害が発生した場合において、周辺地区からの避難者を収容して市街地火災から避難者の生命を保護する場所とされており、一時避難地は、災害発生時において、主として近隣の住民の緊急避難の場、広域避難地へ至る避難中継地等となる場所とされている。

図表-公園1 防災公園の機能区分ごとの面積要件
機能区分 公園種別 面積要件
広域防災拠点 広域公園等 面積がおおむね50ha以上
広域避難地 都市基幹公園、広域公園等 面積が10ha以上
(周辺の公共施設その他の用に供する土地と一体となって、避難地としての面積が10ha以上となるものを含む。)
一時避難地 近隣公園、地区公園等 面積が1ha以上
(周辺の市街地等と一体となって、1ha以上となるものを含む。)

b 防災公園の必要面積等

 防災公園に必要な面積は、公園ガイドライン等によれば、避難に当たって、当該公園が対象とする地域の範囲(以下「対象避難圏域」という。)を設定し、対象避難圏域内の人口に、避難地において1人当たりに必要となる面積(以下「1人当たり必要面積」という。)の基準である2m を乗じて算定した面積以上とされている。また、避難が可能な面積は、避難スペースとしての安全性が確保されている区域とし、池や人が立ち入ることのできない植栽地等避難者の収容に適さない部分を除いた面積(以下「有効避難面積」という。)とされている。
 そして、地方公共団体は、防災公園の有効避難面積を1人当たり必要面積で除するなどして、当該防災公園の収容可能となる避難者の人数(以下「収容可能人数」という。)を算定し、有効避難面積等の諸元と併せて、住民の適切な避難行動に資するために、地域防災計画等により公表している。

c 防災公園の管理及び配置計画

 防災公園は、公園ガイドライン等によれば、災害発生時において避難者や地域住民、消防、救急機関等の様々な利用主体が考えられ、これらの利用主体が計画的な利用を図るためには、公園事業主体は、設置場所のほか、耐震性貯水槽等の災害応急対策施設の有無や有効避難面積を正確に把握し、災害応急対策施設の利用目的、利用方法等の運営方法に関わる方針をあらかじめ関係機関と十分調整しておくことが重要であるとされている。
 また、防災公園の配置に当たっては、災害発生時における広域避難地等としての役割を十分に発揮させるために、防災公園そのものの安全性が確保されていなければならないことから、液状化等の地盤災害や津波等の水災害を受けやすい土地条件の区域を避けて配置するなど、想定される被害に対して効果的に役割を果たす位置に配置することとされている。

(ウ) 応急復旧活動に資するソフト対策の実施状況

 防災公園の施設整備、連携等の状況

(a) 防災公園としての位置付け

 4地方整備局等及び15都道府県管内の348公園事業主体が整備した供用面積1ha以上の都市公園計2,714か所のうち、防災公園として位置付けられている275公園事業主体の計1,489か所の周知状況についてみると、図表-公園2 のとおり、有効避難面積を算定し公表しているのは71公園事業主体の計344か所にとどまっており、226公園事業主体の計1,145か所については、有効避難面積を算定し公表していなかった。
 また、避難誘導のための案内標示等の設置状況をみたところ、165公園事業主体の計688か所については、防災公園を示す案内標示等を設置していなかった。

図表-公園2 防災公園としての位置付けの周知状況

内訳は別表-公園1 参照)

供用面積1ha以上の都市公園  
防災公園  
有効避難面積を算定等している防災公園 有効避難面積を算定等していない防災公園 案内標示等を設置している防災公園 案内標示等を設置していない防災公園
公園事業主体数 公園数 公園事業主体数 公園数   公園事業主体数 公園数 公園事業主体数 公園数 公園事業主体数 公園数 公園事業主体数 公園数
割合
  A   B B/A                
  箇所   箇所   箇所   箇所   箇所   箇所
348 2,714 275 1,489 54.9 71 344 226 1,145 161 801 165 688

(b) 公表されている有効避難面積の算定内容

 地方公共団体が算定し公表している防災公園の有効避難面積の算定内容についてみたところ、18公園事業主体の計119か所の面積は、事業担当部局において防災担当部局との連携が十分でなかったことなどから、池や人が立ち入ることのできない植栽地等の面積を含んでいるなど、適切な有効避難面積となっていなかった。そこで、公表されている防災公園の有効避難面積(以下「公表面積」という。)から上記の収容に適さない部分の面積を差し引いた適切な有効避難面積を算定し、公表面積に対する割合をみると、図表-公園3 のとおり、適切な有効避難面積が公表面積の50%に満たないものが計37か所見受けられた。

図表-公園3 公表面積に対する適切な有効避難面積の割合
有効避難面積を算定等している防災公園  
有効避難面積に適さない面積が含まれていた防災公園  
公表面積に対する適切な有効避難面積の割合別の防災公園数
公園事業主体数 公園数 公園事業主体数 公園数   50%未満 50%以上
80%未満
80%以上
割合
  A   B B/A      
  箇所   箇所 箇所 箇所 箇所
71 344 18 119 34.6 37 52 30

 これらの中には、現状において、不法占拠対策のため、フェンスを公園の外周に設置するなどして部外者の立入りを制限しており、適切な有効避難面積が確保できていないのに、通常の避難地として地域防災計画に位置付けられたままとなっている防災公園が見受けられた。

<事例-公園> 
収容が困難な状態であるのに、避難地として地域防災計画に位置付けられたままとなっている事例

 A市は、B都市公園の整備を行い、昭和62年3月に供用開始している。
 そして、同市は、同年度に、災害発生時に安全な空間を確保する必要があるとして、B都市公園を広域避難地として地域防災計画に位置付け、公園名、収容可能人数、有効避難面積等を公表し、公園入り口付近に広域避難地を示す標識を設置していた。
 一方、同市は、平成9年度から、不法占拠対策のために、高さ2m程度の堅固な有刺鉄線付きのフェンスをB都市公園の外周に設置するなどして部外者の立入りを制限していた。このため、災害発生時において、住民等のB都市公園への避難が困難な状況となっていた。
 しかし、上記のような状況について、防災担当部局に情報提供等を行っていなかったことなどから、B都市公園は、広域避難地として地域防災計画に位置付けられているのに、同市は災害発生時における利用方法等について定めておらず、現地には、利用方法等に関する注意事項を示す案内標示もなかった。

(c) 1人当たり必要面積の確保状況

 防災公園の収容可能人数を算定し公表している127公園事業主体の計680か所を対象に、前記の適切な有効避難面積を収容可能人数で除して1人当たりの面積を算出したところ、図表-公園4 のとおり、82公園事業主体の計444か所において、公園ガイドライン等による1人当たり必要面積の2m2 を満たしていなかった。また、中には、立っている人々の間を通り抜けることさえ難しいことから限界値とされている1m2 /人を下回っている防災公園も見受けられた。

図表-公園4 1人当たりの面積別の防災公園数

(内訳は別表-公園2 参照)

収容可能人数を算定し公表している防災公園  
1人当たりの面積別の防災公園
1m2 未満
A
1m2 以上2m2 未満
B
2m2 未満
C=A+B
2m2 以上
公園事業主体数 公園数 公園事業主体数 公園数   公園事業主体数 公園数   公園事業主体数 公園数   公園事業主体数 公園数  
割合 割合 割合 割合
  a   b b/a   c c/a   d d/a   e e/a
  箇所   箇所   箇所   箇所   箇所
127 680 34 161 23.7 48 283 41.6 82 444 65.3 93 236 34.7

 以上のように、防災公園の施設整備、連携等の状況について、防災公園の有効避難面積を算定し公表していなかったり、公表面積に植栽地等の面積を含んでいたり、案内標示等を設置していなかったり、1人当たりの面積が基準の2m2 を下回っていたりしていて、災害発生時に避難者を適切に収容できないおそれがある状況となっていた。

 防災公園の運営方法

 国営公園又は都道府県営公園を避難地として市町村地域防災計画に位置付ける場合は、災害発生時に混乱が生じないよう、国又は都道府県の公園事業主体は、当該市町村との間で十分に連携を図り、避難地としての出入口の位置及び箇所数、有効避難面積等を把握し、災害応急対策施設の利用方法等について、市町村と役割分担を明確にするなど運営方法等に関してあらかじめ取り決めておく必要がある。
 そこで、これらの運営方法等の状況についてみたところ、市町村地域防災計画上、避難地に位置付けられている国営公園計12か所及び都道府県営公園計101か所のうち、国営公園計2か所及び県営公園計3か所は、当該公園の避難地としての運営方法等について当該市町の関連部局と協定を締結するなど、それぞれの役割等を明確にしていたが、協定等を締結しておらず、災害応急対策施設の利用方法等について明確にしていない防災公園が、国営公園で計10か所、都道府県営公園で計98か所見受けられた(別表-公園3 参照)。
 このため、災害発生時における救護活動等の市町村が行う応急復旧活動に支障が生ずるおそれがある状況となっていた。

<参考事例-公園> 
防災公園の運営方法等について、公園事業主体が市町村の関連部局と協定等を締結し、それぞれの役割を明確にしていた事例

 関東地方整備局は、昭和53年度から国営昭和記念公園の整備を行い、58年度に一部供用開始し、順次整備している。
 一方、同公園が位置する昭島市は平成9年度に、立川市は11年度に、それぞれ同公園を広域避難地として地域防災計画に位置付けている。
 昭島、立川両市と関東地方整備局は、9年度に、災害発生時における受入体制、備蓄品の確保や通信施設の設置に関する役割分担等を定めた確認書を取り交わしていた。
 そして、関東地方整備局は、同公園が地域防災計画に位置付けられていることから、公園の運営維持管理業務を委託する際に、あらかじめ避難者の誘導に関する両市との役割分担、救護活動の役割等を定めた危機管理マニュアルを作成し、これに基づき運営、維持管理を行うこととし、防災公園としての機能を確保する体制を整備していた。

 防災公園の立地条件等

 275公園事業主体の防災公園計1,489か所のうち43公園事業主体の計99か所については、津波浸水予測区域内に立地していた。そして、このうち26公園事業主体の計65か所は、公園内に津波から避難できる高台等の施設が整備されておらず、また、これらの公園の立地条件等の情報について、津波発生時に住民等が安全に避難できるように、住民等に周知するための海抜表示等の立地条件等を示す案内標示を公園内に設置するなどの措置が講じられていなかった(別表‐公園4 参照)。
 このため、住民等が防災公園の立地条件等の情報を正確に把握できず、津波発生時の住民の避難行動に混乱が生ずるおそれがある状況となっていた。

ク 治山事業

(ア) 事業の概要

 治山事業は、土砂の崩壊の流出、落石等を防止する保安施設や保安林等の存する地域で地すべりを防止する施設等の治山施設を整備する事業である。
 林野庁は、農林水産省防災業務計画により、治山事業に係る災害予防対策としては、山地災害の発生を防止するために、山地災害危険地区(注31) 等における治山施設等の整備の促進を図るとともに、山地災害危険地区の住民への周知を図ることなどとしている。
 また、林野庁は、「山地災害危険地対策の推進について」(昭和57年57林野治第3314号、昭和58年58林野治第256号。以下「山地災害通知」という。)により、都道府県に対して、山地災害危険地区の治山工事を推進するとともに、山地災害危険地区に関する資料(以下「山地災害資料」という。)を関係市町村に提供し、都道府県及び市町村の地域防災計画に山地災害資料に基づいた山地災害危険地対策を組み入れるよう指導したり、関係市町村に対して、山地災害危険地区についてその旨を現地に表示するなどその周知徹底を図るよう指導したりしている。
 しかし、林野庁は、山地災害危険地対策を地域防災計画に掲載していない市町村が見受けられたことなどから、平成9年に、人的及び物的被害を未然に防止するために、森林管理局に対して、山地災害資料の関係市町村への提供等の徹底を図るとともに、山地災害危険地区の地域住民への周知等に当たり、関係都道府県と一層の連携及び協力に努めることなどの留意事項を事務連絡により周知した。また、林野庁は、都道府県に対して、〔1〕 市町村地域防災計画に山地災害危険地区の位置、被害想定区域等が明らかになるよう指導すること、〔2〕 山地災害危険地区や他所管の危険箇所とともに図示した防災マップの作成及び当該防災マップの住民への提供に努めるよう関係市町村の指導に努めること、〔3〕 山地災害の危険度や保全対象等を十分勘案した上で、逐次現地表示が行われるよう、更に積極的な指導に努めることなどの留意事項を事務連絡により周知している。

 山地災害危険地区  山腹の崩壊による災害が発生するおそれがある山腹崩壊危険地区、地すべりによる災害が発生するおそれがある地すべり危険地区及び山腹崩壊又は地すべりによって発生した土砂又は火山噴出物が土石流等となって流出し、災害が発生するおそれがある崩壊土砂流出危険地区を合わせた地区をいう。

(イ) 山地災害危険地区の選定

 昭和40年頃に局地的な集中豪雨等による土砂災害が頻発して、貴重な人命及び財産に直接被害を与える事例が多くなり、これらの災害の予防に資するために、あらかじめ山地災害の発生の可能性の高い箇所を把握しておく必要が生じたことから、41年に、林野庁は国有林について、都道府県は民有林について、崩壊又は土石流の発生のおそれがある荒廃危険地の調査をそれぞれ実施した。その後、林野庁及び都道府県は、47年に山地災害危険地区の実態を把握するための総点検を実施し、53、54両年度、60、61両年度、平成7、8両年度及び18、19両年度に再点検を実施している。
 そして、林野庁及び都道府県は、再点検の実施に当たり、山地災害通知に基づき、地質、地況、地震、落石調査等による自然条件調査、土砂災害等により直接被害を与えるおそれのある人家や官公署、学校、病院等の公共施設等(以下、これらの施設を合わせて「保全対象施設」という。)の実態調査等(以下、これらの調査等を合わせて「山地災害危険地区調査」という。)により、山地災害危険地区を選定し、これらの危険地区における災害を防止するために、治山施設の整備等を実施している。また、山地災害危険地区調査により把握した地質や地況、保全対象施設の有無等により、山地災害危険地区ごとの危険度の判定を行い、危険度が高い方から順に危険度ランクA、B及びCと区分しているが、危険度ランクAと判定した地区については、重点的に治山施設の整備を実施するよう努めることとしている。

(ウ) 治山施設の整備状況等

a 全国の山地災害危険地区における整備状況

 18、19両年度に、林野庁及び都道府県において実施された全国の再点検の結果についてみると、図表-治山1 のとおり、山地災害危険地区数に対する治山施設の整備が概成している地区数の割合(以下「概成割合」という。)は7.5%となっていた。

図表-治山1 全国の山地災害危険地区の整備状況

(単位:地区)

進捗状況
危険度ランク
山地災害危険地区
既成 一部既成 未成 未着手
ランクA 3,825
(7.2%)
19,764
(37.3%)
4,420
(8.3%)
24,929
(47.1%)
52,938
(100.0%)
ランクB 4,752
(8.0%)
18,360
(30.8%)
4,663
(7.8%)
31,833
(53.4%)
59,608
(100.0%)
ランクC 5,181
(7.4%)
18,169
(25.9%)
4,844
(6.9%)
42,040
(59.9%)
70,234
(100.0%)
13,758
(7.5%)
56,293
(30.8%)
13,927
(7.6%)
98,802
(54.1%)
182,780
(100.0%)
注(1)  概成とは、計画した一連の工事が完了した場合をいう(以下同じ。)。
注(2)  一部概成とは、計画した一連の工事のうち一部の箇所に対する工事のみが完了した場合をいう(以下同じ。)。
注(3)  未成とは、計画した工事の全部又一部が完了していない場合をいう(以下同じ。)。

b 山地災害危険地区に係る治山施設の整備の実施方法

 山地災害危険地区に係る整備には、土砂災害等を未然に防止するため予防治山事業として実施する場合と土砂災害等が発生した際にその復旧整備を行う復旧治山事業として実施する場合とがある。そこで、両事業における19年度から23年度までの山地災害事業の予算額をみると、図表-治山2 のとおり、復旧治山事業の事業費に比べて予防治山事業の事業費の割合が低い状況となっていた。特に、国有林については、その傾向が顕著に表れている。これは、近年の局地的な集中豪雨等により各地で山腹の崩壊等による災害が多発したことなどによるものである。

図表-治山2 予防治山事業と復旧治山事業の事業費の割合

(単位:百万円)

年度
山地災害危険地区
19年度 20年度 21年度 22年度 23年度
事業費 割合 事業費 割合 事業費 割合 事業費 割合 事業費 割合
国有林 予防治山 320 1.3% 297 1.6% 571 2.6% 291 2.5% 218 1.8%
復旧治山 23,482 98.7% 17,930 98.4% 21,339 97.4% 11,577 97.5% 12,226 98.2%
23,802 100.0% 18,227 100.0% 21,910 100.0% 11,869 100.0% 12,444 100.0%
民有林 予防治山 18,538 32.8% 17,945 31.0% 14,409 30.5% 17,701 37.6% 19,776 40.9%
復旧治山 38,058 67.2% 39,902 69.0% 32,875 69.5% 29,390 62.4% 28,554 59.1%
56,597 100.0% 57,848 100.0% 47,285 100.0% 47,091 100.0% 48,330 100.0%

c 危険度ランク別の治山施設の整備状況

 3森林管理局及び15都道府県における23年度末の山地災害危険地区の治山施設の整備状況についてみたところ、図表-治山3 のとおり、山地災害危険地区99,173地区の概成割合は10.1%となっており、(ウ)aの18、19両年度に実施された全国の再点検の結果の概成割合(7.5%)と比較しても大差ない状況であった。

図表-治山3 治山施設の整備状況

(内訳は別表-治山1 参照)

(単位:地区)

進捗状況
危険度ランク
山地災害危険地区
既成 一部既成 未成 未着手
ランクA 3,031
(11.2%)
7,816
(28.9%)
1,862
(6.9%)
14,315
(53.0%)
27,024
(100.0%)
ランクB 3,260
(10.5%)
7,507
(24.3%)
1,885
(6.1%)
18,263
(59.1%)
30,915
(100.0%)
ランクC 3,681
(8.9%)
8,280
(20.1%)
2,426
(5.9%)
26,847
(65.1%)
41,234
(100.0%)
9,972
(10.1%)
23,603
(23.8%)
6,173
(6.2%)
59,425
(59.9%)
99,173
(100.0%)

 また、危険度ランクAと判定された27,024地区のうち、治山施設の整備が未着手となっている地区は53.0%と半数以上を占めていた。

d 山地災害危険地区における保全対象施設

 山地災害危険地区99,173地区の地区内には、図表-治山4 のとおり、被害想定区域に人家、公共施設等の保全対象施設が多数存在している。このうち、危険度ランクがAで治山施設の整備が未着手となっている地区についてみると、保全対象施設ごとの地区数は、人家が存在している地区が13,748地区、公共施設が存在している地区が4,452地区、道路が存在している地区が12,247地区となっていた。また、道路が存在している12,247地区のうち3,051地区には、地域防災計画において防災拠点間を相互に連絡する道路である緊急輸送道路が含まれているが、これらの地区については、土砂災害により道路が閉鎖された場合、緊急物資等の輸送に支障を生ずるおそれがある状況となっていた。

図表-治山4 山地災害危険地区の被害想定区域における人家、公共施設等

(内訳は別表-治山2 参照)

(単位:地区)

危険度ランク
保全対象施設
危険度ランクA,B,Cの地区数の合計 うち危険度ランクAの地区数
既成 一部既成 未成 未着手 既成 一部既成 未成 未着手

50戸以上 829 1,812 330 2,878 5,849 494 1,206 228 1,782 3,710
49〜10戸 3,129 7,516 1,787 15,634 28,066 1,878 4,649 1,131 8,677 16,335
9〜5戸 1,583 3,852 1,032 10,144 16,611 442 1,247 349 2,624 4,662
4〜1戸 2,074 4,899 1,179 18,915 27,067 105 318 74 665 1,162
7,615 18,079 4,328 47,571 77,593 2,919 7,420 1,782 13,748 25,869
公共施設
(道路を除く。)
1,724 4,780 1,017 8,687 16,208 936 2,724 598 4,452 8,710
道路 9,326 20,309 5,310 48,209 83,154 2,831 6,618 1,521 12,247 23,217
  うち緊急輸送道路 2,674 4,954 1,791 10,246 19,665 922 1,798 576 3,051 6,347

e 山地災害危険地区調査における避難場所及び災害弱者関連施設の把握状況

 土砂災害対策推進要綱によれば、治山事業においては、山地に起因する災害の未然防止のために、山地災害危険地区対策等事業の計画的かつ一層の推進を図り、山地災害危険地区において土砂災害が発生する危険があると判断される場合には、身体障害者等の自力避難が困難な者の安全な避難の確保や避難路及び避難場所の安全性の確保に留意することとされている。
 山地災害危険地区の被害想定区域には、土砂災害が発生した場合、地元住民が避難するための避難場所として地域防災計画において指定されている学校、公民館、集会場、広場等や高齢者、身体障害者等の自力避難が困難な者等が収容されている災害弱者関連施設が存在している場合がある。
 また、山地災害危険地区調査を実施するに当たり、地区内の被害想定区域にこれらの避難場所や災害弱者関連施設等が存在する場合、危険度を判定する際のランクが上がることもある。
 そこで、3森林管理局及び15都道府県が実施した山地災害危険地区調査の被害想定区域において、保全対象施設である避難場所及び災害弱者関連施設の把握状況についてみたところ、図表-治山5 のような状況となっていた。

図表-治山5 避難場所及び災害弱者関連施設の把握状況

(単位:地区)

危険度ランク 危険度ランクA 危険度ランクB 危険度ランクC
進捗状況
施設種別
既成 一部既成 未成 未着手 既成 一部既成 未成 未着手 既成 一部既成 未成 未着手
山地災害危険地区の被害想定区域内において把握された公共施設 避難場所 218 704 115 1,061 216 527 73 1,115 92 157 13 371 4,662
災害弱者関連施設 33 111 33 282 29 92 26 282 10 6 2 45 951
251 815 148 1,343 245 619 99 1,397 102 163 15 416 5,613
山地災害危険地区の被害想定区域内において把握されていなかった公共施設 避難場所 72 81 16 187 59 51 14 110 13 23 0 50 676
災害弱者関連施設 9 22 5 33 7 20 1 35 0 7 0 12 151
81 103 21 220 66 71 15 145 13 30 0 62 827
合計 332 918 169 1,563 311 690 114 1,542 115 193 15 478 6,440

 避難場所の把握状況については、避難場所として指定されている公共施設等が676地区において保全対象施設として把握されておらず、山地災害危険地区の危険度の判定に反映されていない事態が見受けられた。また、避難場所が把握されている地区のうち、危険度ランクがAで治山施設の整備が未着手となっている地区は1,061地区あった。
 また、災害弱者関連施設の把握状況については、災害弱者関連施設が151地区において保全対象施設として把握されておらず、山地災害危険地区の危険度の判定に反映されていない事態が見受けられた。また、災害弱者関連施設が把握されている地区のうち、危険度ランクがAで治山施設の整備が未着手となっている地区は282地区あった。

<事例-治山> 
山地災害危険地区調査において、被害想定区域にある避難場所が保全対象施設として把握されていなかったため、危険度のランクが低くなっている事例

 A県B市は、土砂災害等による地域住民の避難場所としてC地区内におけるDコミュニティーセンター(収容人数576人)を指定し、市町村地域防災計画に位置付けている。
 しかし、A県が実施した山地災害危険地区調査では、C地区は地質、地況、落石調査等から山腹崩壊危険度が高い地区とされていたが、同地区の被害想定区域における避難場所となるDコミュニティーセンターが保全対象施設として把握されていなかった。そのため、危険度の判定では、C地区は危険度ランクBとされていたが、Dコミュニティーセンターを保全対象施設として危険度を判定すると危険度ランクはAに上がることになる。
 なお、C地区の治山施設の整備は現在も未着手のままとなっている。

 このように、山地災害危険地区調査の被害想定区域において、災害発生時に重要な施設となる避難場所及び災害弱者関連施設が必ずしも保全対象施設として把握されていない事態が見受けられた。また、治山施設の整備が未着手となっている山地災害危険地区の被害想定区域には、多数の保全対象施設が存在している状況となっていた。

(エ)  山地災害危険地区の住民への周知等のソフト対策

 (ア) のとおり、林野庁は、山地災害通知により、関係市町村に対して、市町村の地域防災計画に山地災害危険地対策を組み入れたり、山地災害危険地区についてその旨を現地に表示したりするよう指導している。
 また、(ウ) のとおり、人家、避難場所、災害弱者関連施設等が存在している山地災害危険地区において治山施設の整備が未着手となっている地区が多数見受けられることから、山地災害危険地区の地域住民に対して、土砂災害に関する情報、被害想定区域、避難場所等を示したハザードマップを周知するなどのソフト対策を実施することが重要となる。そして、国有林の山地災害資料は林野庁から都道府県を通じて関係市町村に、また、民有林の山地災害資料は都道府県から関係市町村に、それぞれ提供されることとなっている。
 そこで、3森林管理局及び15都道府県において山地災害危険地区の住民への必要な情報の周知状況等についてみたところ、次のような状況となっていた。

a 山地災害危険地区に関する情報の記載状況

 市町村の地域防災計画における山地災害危険地区に関する情報の記載状況は、図表-治山6 のとおりとなっていた。
 3森林管理局管内の国有林において山地災害危険地区が存在する19道府県管内の378市町村のうち、245市町村は、山地災害危険地区の情報提供を受けていたが、市町村地域防災計画にこの情報が記載されていたのは74市町村(全体の19.6%)となっていた。また、15都道府県管内の民有林において山地災害危険地区が存在する435市町村のうち、332市町村は、山地災害危険地区の情報提供を受けていたが、市町村地域防災計画にこの情報が記載されていたのは218市町村(全体の50.1%)となっていた。
 そして、山地災害危険地区の情報を記載していない理由について、多くの市町村は、都道府県から国有林又は民有林の山地災害危険地区の情報が提供されていなかったことや情報を提供されてもその取扱いが分からなかったことを挙げている。また、これらの理由のほかに、財政状況が厳しく地域防災計画の更新が遅れていることを挙げている市町村も見受けられた。

図表-治山6 地域防災計画への山地災害危険地区の情報の記載状況

(内訳は別表-治山3 参照)

事業主体 山地災害危険地区の所在する市町村 都道府県から情報提供を受けている市町村 地域防災計画に情報が記載されている市町村 地域防災計画記載率
A   B B/A
3森林管理局計 378 245 74 19.6%
15都道府県計 435 332 218 50.1%

b ハザードマップによる山地災害危険地区の公表等

 市町村におけるハザードマップの作成やハザードマップによる山地災害危険地区の公表状況は、図表-治山7 のとおりとなっていた。
 3森林管理局管内の国有林の山地災害危険地区の被害想定区域の情報提供を受けていた市町村は245市町村であり、このうちハザードマップを作成してこれにより山地災害危険地区を公表していた市町村は38市町村(全体の10.1%)となっていた。また、15都道府県管内の民有林の山地災害危険地区の被害想定区域の情報提供を受けていた市町村は332市町村であり、このうち、ハザードマップを作成していた市町村は131市町村であり、作成されたハザードマップにより山地災害危険地区を公表していた市町村は都道府県が作成しているハザードマップを利用している市町村を含めて129市町村(全体の29.7%)となっていた。
 そして、ハザードマップを作成等していない理由について、多くの市町村は、都道府県から国有林又は民有林の山地災害危険地区の被害想定区域の情報が提供されていなかったことや情報が提供されていてもその取扱いが分からなかったことを挙げている。また、これらの理由のほかに、山地災害危険地区の公表による地価への影響を懸念したことを挙げている市町村も見受けられた。

図表-治山7 ハザードマップによる山地災害危険地区の公表状況等

(内訳は別表-治山4 参照)

事業主体 山地災害危険地区の所在する市町村 都道府県から情報提供を受けている市町村 ハザードマップを作成している市町村等 ハザードマップを公表している市町村 ハザードマップ作成率 ハザードマップ公表率
A   B C B/A C/A
3森林管理局計 378 245 38 38 10.1% 10.1%
15都道府県計 435 332 131 129 30.1% 29.7%

c 標識の設置

 (ア)のとおり、山地災害通知等によれば、都道府県は、関係市町村に対して山地災害危険地区についてその旨を現地に表示するなどその周知徹底を図るよう指導することとされている。そして、表示の実施に当たっては、当該山地災害危険地区の危険度や人家、公共施設等の保全対象施設等を十分勘案した上で、現地表示することとされており、山地災害危険地区の標識には、人家、公共施設等と山地災害危険地区との位置関係や避難場所を明示した略図を表示することを標準とし、標識の設置位置を渓流の出口等で人目につきやすい場所とすることとされている。
 山地災害危険地区に関する標識の設置については、国有林に係るものも含め、都道府県が関係市町村に対して指導を行い、関係市町村が設置することとなっている。
 そこで、山地災害危険地区調査において危険度ランクAと判定された地区における標識の設置状況をみると、図表-治山8 のとおりとなっていた。

図表-治山8 危険度ランクAの地区における標識の設置状況

(単位:地区)

危険地区
進捗状況
危険度ランクAの山地災害危険地区
  標識設置地区  
うち略図
記載標識
うち略図
未記載標識
3森林管理局
標識設置地区数
概成 129 0 0 0
一部概成 530 0 0 0
未成 122 0 0 0
未着手 293 0 0 0
1,074 0 0 0
15都道府県
標識設置地区数
概成 2,902 414 12 402
一部概成 7,286 491 19 472
未成 1,740 245 2 243
未着手 14,022 5 3 2
25,950 1,155 36 1,119

 3森林管理局管内の国有林における山地災害危険地区で危険度ランクAと判定されている地区は1,074地区であるが、全ての地区において標識が設置されていなかった。また、15都道府県管内の民有林における山地災害危険地区で危険度ランクAと判定されている地区は25,950地区であるが、そのうち標識を設置している地区は1,155地区にすぎなかった。さらに、標識に人家、公共施設等と山地災害危険地区との位置関係や避難場所を明示した略図まで記載している地区は、36地区と標識を設置している全地区の3.1%にすぎなかった。

 以上のことから、山地災害による人的及び物的被害を未然に防止するために、山地災害危険地区については、土砂災害に関する情報、被害想定区域、避難場所等を示したハザードマップを住民へ周知するとともに、当該山地災害危険地区の危険度や人家、公共施設等の保全対象施設等を十分勘案した上で、標識の設置を進めていくことを検討する必要がある。

ケ 漁港整備事業

(ア) 事業の概要

 漁港整備事業により整備する漁港施設等には、防波堤、護岸、防潮堤等の外郭施設、岸壁、物揚場等の係留施設、道路、駐車場、橋等の輸送施設、漁業集落道、広場施設等の漁業集落環境施設等がある。そして、防波堤、護岸等の外郭施設は、漁業区域内への津波、高潮等による海水の進入の防止等のための施設であり、岸壁、物揚場等の係留施設は漁船の係留、漁獲物の陸揚げ、資材の積卸し等の作業を円滑かつ安全に行ったり、地震災害時の避難、資材運搬等に使用したりするための施設である。
 そして、防災拠点漁港としての漁港整備は、地方公共団体が地域防災計画に位置付けた上で、特定漁港漁場整備事業計画又は事業基本計画に基づき進めることとしている。
 水産庁は、阪神・淡路大震災等を契機として、8年5月に、防災拠点漁港整備指針を作成し、都道府県に対して通知している。この指針によれば、大規模地震等が発生した場合に、防災拠点漁港については、被災直後の緊急物資、避難者の海上輸送等を行い、各公共施設が復旧する間、物資の輸送等を行い得る漁港を整備することを目的として、耐震強化岸壁、緊急物資等の搬入搬出が可能な道路、緊急物資の保管場所等に利用できる漁港施設用地等の災害対策施設を整備することに配慮するよう地方公共団体に要請し、おおむね今後10か年以内でその整備を完了することを目的とすることとされている。
 また、水産庁は、農林水産省防災業務計画において、漁港整備事業に係る災害予防対策として、〔1〕 農林水産関係施設について、耐震性の強化、液状化対策の充実等によりその安全性の確保に努めること、〔2〕 災害時に避難場所として活用し得る広場、公園等の確保と整備を図ることなどとしている。
 そして、これらの具体的な取組として、水産庁は、耐震対策通知により、漁業地域の防災力の向上に資する漁港施設の耐震対策を推進しており、必要に応じて岸壁の耐震強化や液状化対策等を実施することとしている。また、緊急に地震防災対策の強化を図る必要性が特に高い地域に立地する漁港背後の漁業集落を対象に避難路、避難場所等を整備することとしている。

(イ) 防災拠点漁港における各施設の整備等

 防災拠点漁港は、(ア)のとおり、地方公共団体が大規模地震等により被害が発生した際に救援活動等に重要な役割を果たす漁港として整備する場合に、地域防災計画に位置付けられるものである。そして、防災拠点漁港整備指針の作成直後の9年度には防災拠点漁港は全国で31漁港であったが、24年3月時点では151漁港となっており、15都道府県では45漁港となっている。
 防災拠点漁港45漁港における各施設の整備状況等についてみたところ、次のとおりとなっていた。

 耐震強化岸壁の整備状況等

(a) 耐震強化岸壁の整備状況

 防災拠点漁港45漁港のうち、耐震強化岸壁の整備が計画された30漁港における同岸壁の整備状況等についてみると、30漁港において計画されていた39バースのうち21漁港の30バース(全体の76.9%)は、整備が完了していた(別表-漁港2 参照)。
 一方、地域防災計画に位置付けられてから10年以上が経過しても依然として整備に着手していない耐震強化岸壁が4漁港において4バース見受けられた。
 このように、耐震強化岸壁の整備に着手していない防災拠点漁港では、大規模地震直後に防災拠点として担うべき緊急物資の輸送等に支障が生ずるおそれがある状況となっていた。

(b) 耐震強化岸壁の耐震点検

 耐震強化岸壁の設計については、漁港手引により、レベル2地震動に対して要求される耐震性能を確保することとされている。また、耐震対策通知により、大規模地震動に対する安全性が確保されていない耐震強化岸壁がある可能性があり、早急に耐震対策を行う必要があるとされている。
 そこで、耐震強化岸壁の整備が完了していた21漁港の30バースの耐震点検の実施状況をみると、耐震強化岸壁の整備が完了していた30バースのうち18バースは、漁港手引等に基づき、レベル2地震動に対応したものとなっていることが判明していたが、残りの12バースは漁港管理者による耐震点検が行われていなかった。このため、これらの耐震強化岸壁は、大規模地震直後にその機能を十分発揮できないおそれがある状況となっていた。

(c) 耐震強化岸壁の背後の用地及びアクセス道路の液状化対策

 漁港手引等によれば、地震により地盤が液状化して、漁港施設に被害を及ぼすおそれがある場合には、耐震強化岸壁及び防災拠点漁港の諸施設は、地盤の液状化に対する検討を必ず行うこととされている。
 そこで、耐震強化岸壁の整備が完了していた21漁港の30バースにおける液状化対策と、耐震強化岸壁の背後にある緊急物資の保管場所等に利用できる漁港施設用地及び緊急物資等の搬入搬出が可能となる臨港道路(以下「アクセス道路」という。)における液状化対策の実施状況についてみると、図表-漁港1 のとおりとなっていた。

図表-漁港1 耐震強化岸壁の背後の用地及びアクセス道路の液状化対策等の実施状況

(内訳は別表-漁港3 参照)

防災拠点漁港数 耐震強化岸壁の整備が完了したバース数 漁港施設用地 アクセス道路
液状化しないことを確認 液状化対策を実施 液状化対策の検討が未実施 液状化しないことを確認 液状化対策を実施 一部の路線のみ液状化対策を実施 液状化対策の検討が未実施
漁港 バース バース バース バース バース バース バース バース
21 30 4 7 19 3 4 6 17

 耐震強化岸壁の液状化対策については、整備が完了していた30バース全てについて実施されていた。
 また、耐震強化岸壁30バースの背後にある漁港施設用地やアクセス道路については、11バースの漁港施設用地及び7バースのアクセス道路は、地盤調査等により地盤が液状化しないことを確認したり、基礎地盤の置換え等により地盤の液状化対策を実施したりしていたが、19バースの漁港施設用地及び17バースのアクセス道路は、液状化対策の検討が行われていなかった。
 このため、耐震強化岸壁の背後における地盤の液状化対策の検討が行われていない施設においては、大規模地震直後に緊急物資等の円滑な輸送に支障を生ずるおそれがある状況となっていた。

 緊急物資の保管場所等の確保

 緊急物資の保管場所等に利用できる漁港施設用地は、地震発生時において、耐震強化岸壁を活用して、海上輸送により送られてくる緊急物資及び被災地の復旧のための資材等の受入れを行い、仕分けした後、背後の市街地の避難場所及び復旧活動拠点に配送するために必要な機能を有するものであり、耐震強化岸壁等と一体的に整備することが効果的である。
 そして、水産庁は、防災拠点漁港整備指針により、防災拠点漁港においては、大規模地震等が発生した場合に、緊急物資の保管場所等に利用できる漁港施設用地等の災害対策施設を整備することに配慮するよう地方公共団体に要請している。
 そこで、防災拠点漁港として耐震強化岸壁が整備されている21漁港における緊急物資の取扱能力について、背後圏への緊急物資の仕分や一時保管場所として必要とされる面積(注32) に対する漁港施設用地等の面積の割合をみると、図表-漁港2 のとおりとなっていた。

 緊急物資の仕分や一時保管場所として必要とされる面積については、水産庁が算定基準等を示したマニュアル等を作成していないため、会計検査院が「臨海部防災拠点マニュアル(運輸省港湾局平成9年3月)」により算出している。


図表-漁港2 漁港施設用地における緊急物資の取扱能力

(内訳は別表-漁港4 参照)

防災拠点漁港 必要とされる面積が不足している漁港  
必要とされる面積に対する漁港施設用地等の面積の割合
100%未満〜50% 50%未満
漁港 漁港 漁港 漁港
21 13 4 9

 このとおり、必要とされる面積が不足している防災拠点漁港が21漁港のうち13漁港あり、これらの漁港では、大規模地震等が発生した場合の被災直後に各公共施設が復旧する間、物資の輸送等を行う必要のある防災拠点漁港としての機能が確保されないおそれがある状況となっていた。

(ウ)  津波避難のためのソフト対策

 東日本大震災では、津波により岩手県、宮城県及び福島県の漁港背後集落(注33) 及び漁業集落(注34) において人的被害が多く発生したが、被害を受けた集落の多くは入り組んだ海岸線に点在する地形に形成されている。
 全国の漁港背後集落は、図表-漁港3 のとおり、背後地形については、崖や山が迫る狭あいな地形に立地している集落の割合が全体の54.1%となっている。また、立地地形については、急傾斜地に立地している集落の割合が全体の26.5%となっている。

(注33)
 漁港背後集落  当該漁港を日常的に利用する漁家が2戸以上、人口5,000人以下の集落
(注34)
 漁業集落  漁港及び港湾背後の漁家が4戸以上の集落

図表-漁港3 漁港背後集落の立地特性

図表-漁港3漁港背後集落の立地特性
(注)
 漁港背後集落数は、水産庁が22年に調査した総数4,648集落の内訳である。

 また、市町村は、津波等に備え、地域住民の協力の下、それぞれの地域の実情及び災害特性に応じた安全な避難路、避難場所等の選定等に努めている。一方、水産庁は、漁港背後集落は厳しい地形条件に立地し、津波等が発生した場合に避難等が困難な地区が多いことなどから、漁業集落も含めた避難路、避難場所等の整備を進めている。
 そこで、15都道府県において、集落の立地特性のうち、背後に崖や山が迫る狭あいな地形又は急傾斜地に立地している漁港背後集落等における911地区の避難場所の状況についてみたところ、図表-漁港4 のとおり、100地区は、避難場所が津波等の浸水予測区域内に立地していた。また、120地区は、陸域における最大津波遡上高さなどが把握されていないことから、避難場所が津波等の浸水予測区域内に立地しているのか確認できない状況となっていた。

図表-漁港4 津波等の浸水予測区域内に立地している避難場所の状況

(内訳は別表-漁港5 参照)

漁港背後集落等の地区数 避難場所が津波等の浸水予測区域内に立地している地区数 避難場所が津波等の浸水予測区域内に立地しているのか確認できない地区数
A B A+B
地区 地区 地区 地区
911 100 120 220

 したがって、水産庁及び市町村は、厳しい地形条件に立地している漁港背後集落等における各地区の避難場所が津波等に対応できる場所に位置しているのかについて調査するとともに、避難場所が津波等により浸水するおそれがあるものについては、高台に避難するための方策を検討し、避難路及び避難場所の整備等を一層促進していく必要がある。

<事例-漁港> 
厳しい地形条件に立地している漁港背後集落等の避難場所が津波浸水予測区域内に立地していることから、その安全性が確保されていない事例

 A県管内の各市町は、平成8年度から23年度までの間に、避難路、避難場所等の整備をB市C集落等の12漁港背後集落等で実施している。しかし、背後に崖や山が迫る狭あいな地形となっている厳しい地形条件に立地しているD漁港背後集落は、その避難場所が津波等による浸水予測区域内に立地していることから、津波の来襲に備える避難場所としては、その安全性が確保されていない状況となっていた。

コ 農業農村整備事業

(ア) 事業の概要

 農林水産省、地方公共団体等は、土地改良法に基づき、農業農村整備事業を実施しているが、原則、土地改良事業に参加する資格を有する者(以下「受益者」という。)からの申請に基づき事業を実施している。そして、事業の申請には、受益者の3分の2以上の同意を得なければならないなどとされており、また、事業に係る費用の一部については受益者が負担することが原則とされている。
 農林水産省は、農林水産省防災業務計画において、農業農村整備事業に係る災害予防対策として、〔1〕 農林水産関係施設について、耐震性の強化、液状化対策の充実等によりその安全性の確保に努め、〔2〕 ため池の決壊等による浸水想定区域、避難場所等を図示したハザードマップの作成、一般住民への配布等を推進するとともに、市町村に対して、地域防災計画にこれらの取組を位置付けるよう働きかけることとするなどとしている。
 また、土地改良事業の計画的な実施に資するために作成された土地改良長期計画(平成20年12月閣議決定)によれば、ため池等の整備を進めるとともに、ため池に関する防災情報の的確な伝達及び共有化を推進することにより、農村地域における農業災害の防止と被害の軽減を図り、併せて地域住民の生命、財産及び生活環境の安全の確保等に資することとされている。具体的には、老朽化等に伴い災害リスクが高く緊急に対策を要するため池の整備を実施するとともに、ため池の防災情報伝達体制やハザードマップの整備を推進することとされている。

(イ) 農業用施設の整備状況

 農林水産省は、地方農政局等において、農業耐震手引等により、農業用施設の重要度に応じて、耐震点検や耐震整備を実施している。また、地方公共団体等に対して、農業用施設の耐震点検や耐震整備を支援するために、従来、様々な地震対策に係る補助事業を実施している。
 農業用施設は、頭首工、ポンプ場、ため池等とその種類は多種多様であり、また、その数は膨大である。
 そして、4農政局等(注35) 及び15都道府県管内における主な農業用施設の造成後の経過年数をみると、図表-農業1 のとおり、造成後長期間経過している施設が多数存在している。

 4農政局等  東北、東海、近畿各農政局、北海道開発局


図表-農業1 農業用施設の造成後の経過年数

(単位:箇所)

国営事業、都道府県営事業等の別 施設の種類 全施設  
造成後50年以上の施設 造成後30年以上50年未満の施設 造成後30年未満の施設 不明
国営事業 頭首工 214 14 90 108 2
ポンプ場 326 17 68 238 3
ファームポンド 165 - 5 159 1
都道府県営事業等 頭首工 433 47 101 261 24
ポンプ場 1,014 13 359 604 38
ファームポンド 746 - 166 560 20
ため池 23,127 9,296 283 295 13,253
頭首工 647 61 191 369 26
ポンプ場 1,340 30 427 842 41
ファームポンド 911 - 171 719 21
ため池 23,127 9,296 283 295 13,253
(注) 
 「不明」としている施設には昭和以前に造成されたが、正確な造成年が把握できていない施設も含まれている。

 これらの施設は、基本的には、施設の造成当時の設計基準等は満たされているとしているが、農業耐震手引等で示す耐震性能は確保されていない可能性があるため、農業耐震手引等では農業用施設の重要度に応じて耐震点検の実施を検討することとされている。

a 農業用施設の耐震点検の実施状況

 4農政局等及び15都道府県管内において、施設の新設や老朽化等に伴う改修等により要求される耐震性能を確保している施設を除いた農業用施設の耐震点検の実施状況についてみると、図表-農業2 のとおり、頭首工、ポンプ場、ファームポンド、ため池等の施設において実施されていた。
 また、農業用施設の液状化対策については、農業耐震手引等により、施設周辺の重要度に応じて行うこととされているが、一部の施設において、液状化の判定が行われていたものの、既存の農業用施設のほとんどは液状化対策の検討にまで至っていなかった。

図表-農業2 農業用施設の耐震点検の実施状況

(内訳は別表-農業2 参照)

(単位:箇所、km)

国営事業、都道府県営事業等の別 施設種類 全施設 施設の新設、改修等により耐震性能を確保している施設を除いた施設  
耐震点検を実施している施設   耐震点検を実施していない施設
耐震対策が必要な施設   耐震対策を必要としない施設
うち液状化対策が必要な施設
国営事業


頭首工 214 212 5 3 1 2 207
ポンプ場 326 318 5 3 - 2 313
ファームポンド 165 127 1 - - 1 126
都道府県営事業等 頭首工 433 384 - - - - 384
ポンプ場 1,014 991 10 6 - 4 981
ファームポンド 746 600 - - - - 600
ため池 23,127 22,211 103 51 14 52 22,108
頭首工 647 596 5 3 1 2 591
ポンプ場 1,340 1,309 15 9 - 6 1,294
ファームポンド 911 727 1 - - 1 726
ため池 23,127 22,211 103 51 14 52 22,108
国営事業
パイプライン 4,875.9 4,727.2 0.4 - - 0.4 4,726.8
開水路 4,129.7 3,945.4 - - - - 3,945.4
都道府県営事業等 パイプライン 11,345.9 11,102.1 11.7 11.7 - - 11,090.4
開水路 24,729.3 24,528.0 - - - - 24,528.0
パイプライン 16,221.8 15,829.3 12.1 11.7 - 0.4 15,817.2
開水路 28,859.0 28,473.4 - - - - 28,473.4

 そして、農業用施設の耐震点検を実施していない理由は、図表-農業3 のとおりであり、施設の耐震点検は、施設の重要度に応じて検討されることになっていることから、過去の震災に伴う施設の被害の実態等を踏まえて、農業用施設の耐震対策の優先度が低いとしている施設が大半を占めていた。また、農業農村整備事業を実施するに当たり、受益者の同意及び費用負担の原則があることから、施設の耐震整備のみではインセンティブが働きにくいためであるなどとしているものも、ため池等の施設において多数見受けられた。

図表-農業3 農業用施設の耐震点検を実施していない理由

(単位:箇所、km、主体、%)

国営事業、都道府県営事業等の別 施設種類 耐震点検を実施していない施設 耐震点検を実施していない理由
耐震対策の優先度が低いなどのため 耐震点検を行ったとしても、耐震整備を実施するに当たって受益者の同意が得られないため 財政状況が厳しいため その他
国営事業


頭首工 207 175
(77.1)
50
(22.0)
-
(0.0)
2
(0.9)
ポンプ場 313 310
(79.1)
80
(20.4)
-
(0.0)
2
(0.5)
ファームポンド 126 126
(97.7)
3
(2.3)
-
(0.0)
-
(0.0)
都道府県営事業等 頭首工 384 256
(59.7)
127
(29.6)
10
(2.3)
36
(8.4)
ポンプ場 981 528
(49.2)
256
(23.9)
40
(3.7)
249
(23.2)
ファームポンド 600 586
(95.6)
27
(4.4)
-
(0.0)
-
(0.0)
ため池 22,108 15,237
(67.7)
4,678
(20.8)
652
(2.9)
1,941
(8.6)
頭首工 591 431
(65.7)
177
(27.0)
10
(1.5)
38
(5.8)
ポンプ場 1,294 838
(57.2)
336
(22.9)
40
(2.7)
251
(17.1)
ファームポンド 726 712
(96.0)
30
(4.0)
-
(0.0)
-
(0.0)
ため池 22,108 15,237
(67.7)
4,678
(20.8)
652
(2.9)
1,941
(8.6)
国営事業
パイプライン 4,726.8 4
(100.0)
-
(0.0)
-
(0.0)
-
(0.0)
開水路 3,945.4 4
(100.0)
-
(0.0)
-
(0.0)
-
(0.0)
都道府県営事業等 パイプライン 11,090.4 12
(70.6)
5
(29.4)
-
(0.0)
-
(0.0)
開水路 24,528.0 12
(70.6)
5
(29.4)
-
(0.0)
-
(0.0)
パイプライン 15,817.2 16
(76.2)
5
(23.8)
-
(0.0)
-
(0.0)
開水路 28,473.4 16
(76.2
5
(23.8)
-
(0.0)
-
(0.0)
注(1)  水路の「耐震点検を実施していない理由」においては、4農政局等及び15都道府県の主体ごとに主な理由を整理した。
注(2)  1施設又は1主体に複数の理由がある場合があるため、施設数等とは一致しない。

b 農業用施設の耐震整備の実施状況

 4農政局等及び15都道府県管内における農業用施設の耐震整備の実施状況についてみると、既設の施設は、aのとおり、耐震点検を実施し、耐震整備を実施する必要がある施設は把握されていても、財政状況が厳しいなどの理由により耐震整備が実施されていた施設は一部となっていて、老朽化や機能保全に対する改修等により耐震整備が実施されていた施設が大半を占めていた(図表-農業4 参照)。

図表-農業4 農業用施設の耐震整備の実施状況

(単位:箇所、km、%)

国営事業、都道府県営事業等の別 施設種類 全施設 耐震整備が実施されている施設  
新設時に耐震整備が実施された施設 既設の施設を改修等することにより耐震整備が実施された施設  
耐震点検を行い耐震整備を実施した施設 老朽改修等に伴い耐震性能が確保された施設
国営事業


頭首工 214
(100.0)
2
(0.9)
2 - - -
ポンプ場 326
(100.0)
8
(2.5)
8 - - -
ファームポンド 165
(100.0)
38
(23.0)
38 - - -
都道府県営事業等 頭首工 433
(100.0)
49
(11.3)
43 6 - 6
ポンプ場 1,014
(100.0)
23
(2.3)
21 2 1 1
ファームポンド 746
(100.0)
146
(19.6)
146 - - -
ため池 23,127
(100.0)
916
(4.0)
6 910 1 909
頭首工 647
(100.0
51
(7.9)
45 6 - 6
ポンプ場 1,340
(100.0)
31
(2.3)
29 2 1 1
ファームポンド 911
(100.0)
184
(20.2)
184 - - -
ため池 23,127
(100.0)
916
(4.0)
6 910 1 909
国営事業
パイプライン 4,875.9
(100.0)
148.7
(3.0)
142.8 5.9 0.3 5.6
開水路 4,129.7
(100.0)
184.3
(4.5)
62.0 122.3 1.0 121.3
都道府県営事業等 パイプライン 11,345.9
(100.0)
243.8
(2.1)
242.3 1.5 - 1.5
開水路 24,729.3
(100.0)
201.3
(0.8)
127.8 73.5 - 73.5
パイプライン 16,221.8
(100.0)
392.5
(2.4)
385.1 7.4 0.3 7.1
開水路 28,859.0
(100.0)
385.6
(1.3)
189.8 195.8 1.0 194.8
(注)
 23年度末において改修中の施設も含む。

 ため池の耐震整備の優先度等

(a) ため池の緊急点検の実施結果

 農業用施設のうちため池については、16年に発生した台風や地震等により多数のため池が決壊又は被災し下流域の住民や農地、家屋等に甚大な被害がもたらされて、依然として危険又は災害に脆弱なため池が存在していることが明らかになった。そこで、農林水産省は、17年4月に、都道府県に対して受益面積が2ha以上のため池を対象として緊急点検を実施するよう依頼し、その報告を求めた。この報告によれば、ため池の堤体諸元、堤体老朽度等の構造的危険度、ため池流域比(ため池の流域面積に対するため池の満水面積の割合)等の周辺環境危険度、堤体下流の被害想定区域における人家、公共施設、国道等の下流状況への影響度、ため池の受益面積等の依存度等の指標に基づき、緊急整備の優先度が高いと判定されたため池が存在しているとされていた。

(b) ため池の緊急点検における堤体老朽度の点検結果等

 ため池の緊急点検において、ため池の堤体老朽度について点検する項目は、余裕高、断面不足、クラック及び漏水状況とされている。
 そこで、15都道府県管内において現行の農業設計基準等が適用されていないため池の堤体老朽度の点検結果を整理すると、図表-農業5 のとおり、余裕高が30cm未満のため池が計1,510か所、断面不足が20%以上のため池が計647か所、クラックが10cm以上のため池が計130か所、漏水状況で法全体にわたる漏水がみられたため池が計236か所となっていた。

図表-農業5 ため池の緊急点検における堤体老朽度の点検結果

(単位:箇所、%)

緊急点検を実施したため池 余裕高 断面不足 クラック 漏水状況
30cm未満 30cm以上1m未満 1m以上2m未満 2m以上 不明 20%以上 10%以上20%未満 5%以上10%未満 5%未満 不明 10cm以上 5cm以上10cm未満 5cm未満 なし 不明 法全体にわたる漏水 パイピングによる顕著な漏水 法全体及びパイピング以外の漏水 なし 不明
18,997
(100.0)
1,510
(7.9)
6,372
(33.5)
7,485
(39.4)
3,626
(19.1)
4
(0.0)
647
(3.4)
1,095
(5.8)
3,156
(16.6)
14,095
(74.2)
4
(0.0)
130
(0.7)
108
(0.6)
728
(3.8)
18,027
(94.9)
4
(0.0)
236
(1.2)
457
(2.4)
3366
(17.7)
14,934
(78.6)
4
(0.0)
(注) 
 パイピングとは、ため池の堤体内に漏水による水みちが発生する現象のことである。

 そして、上記のため池のうち緊急点検の堤体老朽度の点検結果において、危険度が高いとされたため池の下流への影響度を整理すると、図表-農業6 のとおり、人家、避難場所、公共施設等に被害を及ぼすため池が存在している状況となっており、これらのため池については、優先的に耐震点検等を実施する必要があると思料される。

図表-農業6 堤体老朽度の点検結果において危険度が高いとされたため池の下流への影響度

(内訳は別表-農業3 参照)

(単位:箇所)

緊急点検を実施したため池  
余裕高が30cm未満のため池  
被害想定を行っているため池  
うち被害想定区域内に人家があるため池 うち被害想定区域内に避難場所、公共施設等があるため池
30戸以上 10戸から29戸まで 1戸から9戸まで
18,997 1,510 1,419 83 185 587 211

緊急点検を実施したため池  
断面不足が20%以上のため池  
被害想定を行っているため池  
うち被害想定区域内に人家があるため池 うち被害想定区域内に避難場所、公共施設等があるため池
30戸以上 10戸から29戸まで 1戸から9戸まで
18,997 647 631 40 100 273 86

緊急点検を実施したため池  
クラックが10cm以上のため池  
被害想定を行っているため池  
うち被害想定区域内に人家があるため池 うち被害想定区域内に避難場所、公共施設等があるため池
30戸以上 10戸から29戸まで 1戸から9戸まで
18,997 130 123 11 24 53 24

緊急点検を実施したため池  
法全体に漏水があるため池  
被害想定を行っているため池  
うち被害想定区域内に人家があるため池 うち被害想定区域内に避難場所、公共施設等があるため池
30戸以上 10戸から29戸まで 1戸から9戸まで
18,997 236 186 19 36 92 35

<事例-農業> 
 ため池の緊急点検により法全体にわたる漏水が見受けられているのにため池の改修等が進んでいない事例

 A県B市に所在するCため池は、ため池の緊急点検の結果、法全体にわたる漏水が見受けられ、決壊するなどした場合の被害想定区域内に75戸の人家が存在していた。また、A県は、決壊等した場合の下流への影響を考慮してCため池を防災上重要なため池として地域防災計画に位置付け、B市と連携して定期的なため池調査を行い、その結果に基づきため池改修計画を作成していた。
 しかし、Cため池の改修は、地方財政が脆弱化していること、ため池改修に対する受益者の同意が得られないことなどから実施されていなかった。
 なお、B市は、緊急時に水位低下等の迅速な対応が執れるようCため池の管理者と情報連絡体制を整えているとしている。

(ウ) ため池のハザードマップの作成等のソフト対策

 (イ)c(b)のとおり、現行の農業設計基準等が適用されていないため池において、下流に人家、公共施設等が存在し、決壊による下流への影響度が大きいため池が見受けられたが、これらのため池の地震対策が遅れている現状を鑑みると、ソフト対策としてため池のハザードマップの作成等が重要と考えられる。
 農林水産省は、ため池について、耐震強化を含めた堤体の改修、補強等のハード対策を推進するとともに、ハザードマップ等の地域に応じたソフト対策を推進している。そして、農林水産省は、ハザードマップの作成手順、記載事項、作成事例等をまとめた「農村地域防災ハザードマップ作成の手引き(平成16年3月)」を地方公共団体に配布しており、ハザードマップ作成の際にはこれを参考とするよう周知している。
 そして、農林水産省は、地方公共団体等に対して、ハザードマップ等の作成等を支援するために、従来、様々な地震対策に係る補助事業を実施している。
 そこで、15都道府県管内におけるため池のハザードマップの作成状況についてみたところ、図表-農業7 のとおりとなっていた。

図表-農業7 ハザードマップの作成状況

(内訳は別表-農業4 参照)

(単位:箇所、%)

ため池  
ハザードマップを作成しているため池   ハザードマップを作成していないため池  
ハザードマップを住民へ公表しているため池 ハザードマップを住民へ公表していないため池 被害想定を行っているため池   被害想定を行っていないため池
被害想定区域内に30戸以上の人家があるため池 被害想定区域内に10戸以上29戸以下の人家があるため池 被害想定区域内に1戸以上9戸以下の人家があるため池 被害想定区域内に避難場所、公共施設等があるため池
23,127
(100.0)
766
(3.3)
457 309 22,361
(96.7)
19,949 2,215 3,183 8,780 3,548 2,412

 ハザードマップを作成しているため池は766か所とため池数全体の3.3%となっていた。また、災害発生時の被害を最小限とするためにハザードマップを作成していても、関係する住民に公表していないため池も309か所見受けられた。
 そこで、これらのため池が所在している市町村がため池のハザードマップを作成していない理由についてみると、図表-農業8 のとおり、ため池の決壊等による精度が高い被害想定を図示するためのマニュアル等がないためとしている市町村が大半となっていた。

図表-農業8 ハザードマップを作成していない理由

(単位:箇所、%)

ため池  
ハザードマップを作成していないため池 ハザードマップを作成していない理由
被害想定を行っていないため ため池の決壊等による精度が高い被害想定を図示するためのマニュアル等がないため 財政状況が厳しいため 他の施策に比べ優先度が低いため 関係する住民の不安をむやみにあおることとなるため その他
23,127 22,361 1,088
(4.1)
17,339
(65.8)
1,494
(5.7)
3,581
(13.6)
2,398
(9.1)
451
(1.7)
(注) 
 1施設に複数の理由がある場合があるため、ハザードマップを作成していない理由の合計は、ハザードマップを作成していないため池数とは一致しない。

サ 集落排水事業

(ア) 事業の概要

 集落排水事業は、農業集落、漁業集落又は林業集落において、生活雑排水等の汚水を処理する汚水処理施設、管路等の集落排水施設の整備を実施するものである。
 そして、集落排水施設は、地域住民の生活に密着した基本的なライフラインであることから、大規模地震により施設が相当な被災を受けてその機能が停止した場合には、地域住民の生活に深刻な影響を及ぼすことになる。また、道路下の管路被害に起因する交通障害や汚水の流出による公共水域の汚染等の二次災害を起こす危険性もある。

(イ) 汚水処理施設の整備状況

 15都道府県管内の257地方公共団体が整備した既存の汚水処理施設計1,284か所のうち、耐震設計が必要となる水槽と建屋が上下一体構造となっている汚水処理施設及び水槽の地表面からの突出部分が5mを超えている汚水処理施設の計1,043か所(汚水処理能力計338,284m /日)について、農業集落排水設計指針の適用状況についてみたところ、図表-集排1 のとおりとなっていた。

図表-集排1 汚水処理施設の農業集落排水設計指針の適用状況

(内訳は別表-集排2 参照)

事業主体数 全処理施設  
水槽と建屋が上下一体構造又は水槽の地表面突出部分が5m超の処理施設  
現行の農業集落排水設計指針が適用されている処理施設 現行の農業集落排水設計指針が適用されていない処理施設
施設数
箇所
処理能力
m3 /日
施設数
箇所
処理能力
m3 /日
施設数
箇所
処理能力
m3 /日
施設数
箇所
処理能力
m3 /日
257 1,284 384,792 1,043 338,284 17 8,534 1,026 329,750

 現行の農業集落排水設計指針が適用されている汚水処理施設は計17か所(汚水処理能力計8,534m3 /日)となっており、残りの同指針が適用されていない計1,026か所(汚水処理能力計329,750m3 /日)の汚水処理施設については、基本的には施設の造成当時の設計基準は満たされているとしているが、現行の農業集落排水設計指針が示す耐震性能は確保されていないおそれがある。そして、これらの施設の耐震対策については、一部の地方公共団体において施設の重要度等について検討を行った結果、耐震対策をする必要がないと判断しており、また、ほとんどの地方公共団体は、財政状況が厳しいほか、学校、下水道等の改修等他の施策に比べて優先度が低いなどの理由により耐震点検を実施しておらず、要求される耐震性能が確保されているのか把握していなかった。

(ウ) 管路施設の整備状況

 15都道府県管内の地方公共団体における管路施設の整備状況についてみたところ、次のとおりとなっていた。

a 管路の敷設状況

 261地方公共団体が整備した管路施設の敷設状況についてみると、図表-集排2 のとおり、敷設された管路延長計11,508.7kmのうち、緊急輸送道路に埋設されている管路が計823.9km、地域防災対策上必要と定めた防災拠点、避難場所等からの排水を受ける管路が計1,533.0km、地震による二次災害を誘発するおそれのある河川、軌道等を横断する管路が計63.1kmとなっており、これらの重要な管路の実延長は計2,173.3kmとなっていた。
 また、上記の重要な管路について、敷設された箇所の土質状況についてみると、液状化のおそれのある地盤や軟弱地盤等に敷設されている管路が計439.7km、液状化の判定等を行っていないなどのため不明となっている地盤に敷設されている管路が計1,202.2kmとなっていた。

図表-集排2 管路の敷設状況

(内訳は別表-集排3 参照)

事業主体数 全管路延長 重要な管路の延長 左のうち敷設された箇所の土質状況別の管路延長
緊急輸送道路に埋設されている管路延長 地域防災対策上必要と定めた防災拠点、避難場所等からの排水を受ける管路延長 河川、軌道等を横断する管路延長 左の管路の実延長 液状化のおそれがある地盤や軟弱地盤等に敷設されている管路延長 土質状況が不明となっている地盤等に敷設されている管路延長
  km km km km km km km
261 11,508.7 823.9 1,533.0 63.1 2,173.3 439.7 1,202.2

 このため、大規模地震により管路施設が浮上した場合、地域住民の人命及び財産やライフラインに重大な影響を及ぼすばかりでなく、震災時における緊急輸送活動としての円滑な物資の流通、避難者の安全な通行、救援活動やその後の災害応急復旧に支障が生ずるおそれがある状況となっていた。
 なお、東日本大震災に伴い被害のあった農業集落排水施設において、管路及びマンホールが浮き上がったり、汚水管路が埋設された道路の路面が沈下したりした箇所が多く見受けられたが、これらの被災は埋設部分の埋戻し土の液状化が原因とされている。

b 管路の液状化対策

 65市町村において、集落排水震災対策マニュアルが作成された19年度以降に実施された開削工法により管路の敷設工事を実施した計1,015工事についてみると、管路の周辺の地盤等の調査結果から液状化対策を必要としないと判明した工事は計391工事、液状化が生ずるおそれがあるとしていた工事は計271工事であった。そして、残りの計353工事は、地盤の調査等を行っていないため、液状化が生ずるおそれがあるのか不明となっていた。
 そして、液状化が生ずるおそれがあるとしていた工事計271工事の施工管理についてみたところ、良質な砂や発生土等を埋戻し材料として用いている工事計256工事のうち計113工事は、農業集落排水設計指針に管路の液状化対策の規定がないことなどから現場での密度試験を全く行っていなかった。

(3) 総括

 公共土木施設等の整備事業費は年々減少傾向にあることから、地震・津波対策においても厳しい財政状況の下、適切かつ計画的、効率的に実施することが求められている。
 そして、公共土木施設等の整備に当たっては、これまで多額の事業費が投入されてきたが、公共土木施設等の地震・津波対策の実施状況は、(1) 及び(2) で記述したとおりである。
 これら実施状況について記述した内容を、事業ごとに地震、津波対策別あるいは施設整備(ハード対策)、ソフト対策別に分類すると、図表-総括1 のとおりとなる。

図表-総括1 11事業の記述内容の分類
事業名 機能区分 分類項目
地震対策/津波対策 施設整備/ソフト対策
 河川事業 災害予防施設 地震対策・津波対策 施設整備
 海岸事業 災害予防施設 地震対策・津波対策 施設整備・ソフト対策
 砂防事業 災害予防施設 地震対策 施設整備・ソフト対策
 道路整備事業 災害応急復旧施設 地震対策 施設整備・ソフト対策
 港湾整備事業 災害応急復旧施設 地震対策・津波対策 施設整備・ソフト対策
 下水道事業 災害予防施設 地震対策 施設整備
 公園事業 災害応急復旧施設 地震対策・津波対策 ソフト対策
 治山事業 災害予防施設 地震対策 施設整備・ソフト対策
 漁港整備事業 災害応急復旧施設 地震対策・津波対策 施設整備・ソフト対策
 農業農村整備事業 災害予防施設 地震対策 施設整備・ソフト対策
 集落排水事業 災害予防施設 地震対策 施設整備

 また、河川、海岸、道路整備、港湾整備、下水道、漁港整備、農業農村整備各事業により整備した施設のうち、主な施設については、耐震点検の要領等によりその方法が示されていたり、耐震点検するよう通知が発せられたりしている。
 そこで、4地方整備局等、3農政局及び15都道府県において、これら7事業で整備した施設等のうち、設計の際に適用した耐震基準が現行の耐震基準に比べて古いなどのため、耐震点検等を実施する必要がある施設等を対象に、耐震化の状況について、〔1〕 耐震対策工事が必要であるが実施されていないもの、〔2〕 耐震対策工事の必要性の有無が不明なもの、〔3〕 耐震対策工事が実施済みのもの、〔4〕 耐震対策工事が必要ないものなどに分類して整理した。その結果は、次のとおりである。

 図表-総括2 7事業における主な施設の耐震化の状況

図表-総括27事業における主な施設の耐震化の状況

公共土木施設等における地震・津波対策の実施状況等に関する会計検査の結果についての図1

公共土木施設等における地震・津波対策の実施状況等に関する会計検査の結果についての図2

公共土木施設等における地震・津波対策の実施状況等に関する会計検査の結果についての図3

公共土木施設等における地震・津波対策の実施状況等に関する会計検査の結果についての図4

公共土木施設等における地震・津波対策の実施状況等に関する会計検査の結果についての図5

公共土木施設等における地震・津波対策の実施状況等に関する会計検査の結果についての図6