国は、法人等に国庫補助金等(注1)を交付して基金を設置造成させ、単年度では完結しない特定の目的を持つ公益性の高い事業を継続して行わせている。国庫補助金等の交付を受けた法人等は、国の補助金交付要綱等に基づき、設置造成した基金を他の事業の財源と区分して経理し、それぞれ、補助、利子助成、債務保証、貸付け等の財源として事業を実施している。
基金については、基金の運営形態及び使途ごとに複数の態様に分類できる。なお、一つの基金の中に、複数の運営形態又は使途が併存しているものもある。
設置造成された基金の運営形態は、取崩型、回転型、保有型、運用型の4種類に分類できる。また、設置造成された基金を財源として実施する事業(以下「基金事業」という。)の種類は、補助事業、利子助成事業、調査等事業、債務保証事業、貸付事業、その他事業の6種類に分類できる。
本院は、従来、国庫補助金等により設置造成された基金について検査を行っているところである。
会計検査院法第30条の3の規定に基づき、平成17年10月に、「国が公益法人等に補助金等を交付して設置造成させている資金等に関する会計検査の結果について」(以下「17年報告」という。)、21年10月に、「各府省所管の公益法人に関する会計検査の結果について」(以下「21年報告」という。)を参議院に報告している。また、同法第30条の2の規定に基づき、23年10月に、「国庫補助金等により都道府県等に設置造成された基金について」を国会及び内閣に報告している。
これらのほか、本院は、個別の基金について、同法第34条及び第36条の規定に基づき意見を表示し又は処置を要求するなどして、基金の一部を国庫へ返納させるなどしている。
政府は、17年報告の後、18年8月に「補助金等の交付により造成した基金等に関する基準」(以下「基金基準」という。)を閣議決定し、国庫補助金等の交付を受けて設置造成した基金を保有する法人(独立行政法人、特殊法人、認可法人及び共済組合を除く。以下、この基金基準の対象となる法人を「基金法人」という。)が当該基金により実施している事業に関して、当該国庫補助金等を交付した府省(以下「所管府省」という。)が国庫補助金等の交付要綱等に基づく指導監督を行う場合の基準を定めている。なお、内閣官房は、国庫補助金等により都道府県等に設置造成された基金については基金基準の対象ではないとしている。
そして、基金法人及び所管府省は、基金基準に基づき、18、20両年度に定期的な見直しを行っており、内閣官房の行政改革推進本部事務局がその取りまとめを行っている。これにより、基金法人及び所管府省は、基金規模の見直しをするなどして、不要となった国庫補助金等により設置造成された基金の全額又は一部を国庫へ返納したり、基金事業の内容等の変更を行ったりなどしている。
政府の行政刷新会議は、21年11月に、「事務事業の横断的見直しについて」の一環として「公益法人及び独立行政法人等の基金の見直し」を挙げており、また、同月以降に行われた事業仕分けにおいても、多数の基金について、全額又は一部を国庫返納するなどの評価結果を受けたものが見受けられた。
20年度の基金基準による見直し以降、政府は、20年9月の世界的な金融危機を受けて、同年10月以降、緊急経済対策等の一環として、20、21、22各年度の補正予算により、多額の国庫補助金等を交付して、2か年から3か年の短期間の事業実施を前提とした基金を新規に設置造成するなどした。また、政府は、23年3月の東日本大震災を受けて、復旧・復興に資する施策等を行っており、23年度の補正予算により、国庫補助金等を交付して、基金を新規に設置造成するなどした。
国が国庫補助金等を交付して法人等に設置造成された基金については、基金法人及び所管府省の基金基準による見直しや本院の検査等の結果として、不要となった基金が国庫へ返納されたり、基金事業の内容等が変更されたりなどしている一方、20年度以降、緊急経済対策等の一環として多数の基金が新規に設置造成されるなどしている。
また、基金を設置造成するための原資として国から交付される国庫補助金等は、法人等に交付されて基金が設置造成されることにより、その額が確定するものなどであるが、基金事業そのものは、その後、設置造成された基金により複数年度にわたって継続して実施されていくものである。
そこで、国庫補助金等を交付して設置造成された基金について、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から、次のような点に着眼して各府省横断的に検査を実施した。
基金基準を所掌する内閣官房、基金を設置造成するために国庫補助金等を交付した11府省(15府省庁)(注2)、11府省が交付した国庫補助金等により設置造成された基金のうち基金基準の対象となる基金で、20年4月1日から25年3月31日までの間に存在した313基金(注3)(25年3月31日時点で廃止済みの基金を含む。)を保有する又は保有していた120基金法人を対象として検査を実施した。
検査に当たっては、11府省及び120基金法人(313基金)から国庫補助金等により設置造成された基金の状況について調書を徴して、これらの調査、分析等を行うとともに、内閣官房、11府省及び44基金法人(169基金)に赴くなどして会計実地検査を行った。
19年度以前に国庫補助金等により設置造成された基金は、20年度の基金基準による見直し対象又は21年報告の検査対象となるなどしているもので、20年4月1日時点において基金保有額があったものは、9省所管の152基金(81基金法人、基金保有額1兆0592億円)であった(以下、19年度以前に設置造成された152基金を「既存152基金」という。)。また、20年度から24年度までに、7府省(合同事業(注4)を含む。)が国庫補助金等を交付するなどして、161基金(54基金法人)が新規に設置造成された(以下、20年度から24年度までに新規に設置造成された161基金を「新規161基金」という。)。
既存152基金と新規161基金を合わせた313基金のうち、25年3月31日時点において基金保有額があるものは、10府省(合同事業を含む。)所管の188基金(75基金法人、基金保有額2兆6155億円)となっており、20年度から24年度までに161基金が新規に設置造成される一方、125基金が廃止されている。20年4月1日時点と25年3月31日時点における所管府省別の基金の状況は、表1のとおりである。
表1 平成20年4月1日時点と25年3月31日時点における所管府省別の基金の状況
時点
\
所管府省等名
|
平成20年4月1日時点 | 25年3月31日時点 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
法人数 | 基金数 | 基金保有額 | (うち国庫補助 金等相当額) |
法人数 | 基金数 | 基金保有額 | (うち国庫補助 金等相当額) |
|
内閣府 | 0 | 0 | — | (—) | 1 | 1 | 178 | (178) |
外務省 | 2 | 2 | 10,958 | (10,958) | 2 | 2 | 1,134 | (1,134) |
財務省 | 1 | 2 | 33,667 | (19,099) | 1 | 2 | 5,303 | (3,421) |
文部科学省 | 1 | 1 | 823 | (823) | 0 | 0 | — | (—) |
厚生労働省 | 3 | 3 | 133,289 | (133,289) | 4 | 14 | 295,063 | (295,063) |
農林水産省 | 37 | 94 | 609,338 | (573,036) | 31 | 65 | 544,444 | (513,591) |
経済産業省 | 15 | 19 | 135,180 | (118,719) | 15 | 63 | 1,497,528 | (1,486,292) |
国土交通省 | 19 | 25 | 123,112 | (89,030) | 17 | 28 | 123,625 | (97,472) |
環境省 | 2 | 5 | 12,636 | (10,213) | 2 | 8 | 11,290 | (8,323) |
防衛省 | 1 | 1 | 244 | (244) | 1 | 1 | 254 | (254) |
合同事業 | 0 | 0 | — | (—) | 3 | 4 | 136,692 | (136,692) |
計 | 81 | 152 | 1,059,251 | (955,415) | 75 | 188 | 2,615,515 | (2,542,423) |
25年3月31日時点における基金保有額は、経済産業省所管の基金が1兆4975億円と最も多額となっており、厚生労働、農林水産、国土交通各省所管の基金も1000億円を超えている。
20年度から24年度までに、基金の設置造成のために交付された国庫補助金等の額及び基金から国庫に返納された額の所管府省別の状況は、表2のとおりである。
表2 平成20年度から24年度までの基金への国庫補助金等の交付状況及び基金の国庫への返納状況
所管府省等名 | 国庫補助金等の交付額 (平成20年度〜24年度) |
国庫への返納額 (20年度〜24年度) |
||
---|---|---|---|---|
基金数 | 交付額 | 基金数 | 返納額 | |
内閣府 | 13 | 10,200 | 10 | 549 |
外務省 | 0 | — | 2 | 1,410 |
財務省 | 0 | — | 1 | 20,786 |
文部科学省 | 0 | — | 1 | 663 |
厚生労働省 | 16 | 1,208,988 | 11 | 509,558 |
農林水産省 | 84 | 660,034 | 100 | 442,088 |
経済産業省 | 63 | 2,364,456 | 20 | 36,241 |
国土交通省 | 13 | 106,359 | 14 | 39,803 |
環境省 | 6 | 19,278 | 1 | 487 |
防衛省 | 0 | — | 0 | — |
合同事業 | 4 | 1,132,288 | 0 | — |
計 | 199 | 5,501,605 | 160 | 1,051,588 |
各所管府省から基金の設置造成のために交付された国庫補助金等の額の合計は、5兆5016億円と多額となっている一方、事業仕分け等による見直しにより事業期間を短縮しているものなども含め、基金から国庫へ返納された額の合計も1兆0515億円と多額になっている。そして、基金から国庫へ返納された額の中には、10基金において、基金の見直しを適時適切に実施していれば、使用見込みのない額(計346億円)の返納時期を繰り上げて早期に国庫へ返納することができたものが見受けられた。また、運用型の基金の廃止の際に、運用益の残余分のうち、国庫補助金に係る運用益が国庫へ返納されていない事態が見受けられた(前掲不当事項参照)。
所管府省は、基金の設置造成に当たり、基金廃止時に多額の国庫返納が生ずることがないように、設置造成時に基金事業の実施に必要となる額を精査して国庫補助金等を交付することは当然であるが、それとともに、基金の執行途中であっても、執行状況等を勘案するなどして適時適切に見直しを行い、基金規模が適切となるよう留意する必要があると認められる。
20年12月に、20年度の基金基準による見直しの状況を内閣官房の行政改革推進本部事務局が公表した「補助金等の交付により造成した基金の見直し」において、所管府省は、「23年度に事業の実績を踏まえて改めて見直しを行うこと」とされていたが、本院が検査を開始した24年11月時点で、23年4月1日時点において基金保有額があった179基金を所管していた10府省(前記11府省のうち、文部科学省は該当なし。合同事業を含む。)のうち、23年度の基金基準による見直しを実施し公表している所管府省は、経済産業省のみであった。
基金の見直しについては、一度実施すれば足りるというものではなく、基金事業の進捗状況、基金の執行状況等により、その後においても新たに使用見込みが低い基金に該当すると判断されることがあり得るので、定期的に実施する必要があり、見直しが実施されていない状況は適切とは認められない。実際に、使用見込みの低い基金を保有していて、定期的な見直しが実施されていれば、使用見込みのない額が国庫へ返納されたと考えられる事態も見受けられた(前掲本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項参照)。
財務省は、平成21年度第1次補正予算による基金の設置造成に当たり、21年6月に、「平成21年度補正予算において設けられた基金等の執行状況等の公表について(連絡)」により、所管府省に対して、予算の適切かつ効率的な執行とその透明性の確保の観点から、各基金の設置造成のための国庫補助金等の交付額、運用収入、執行済額等について、公表に努めるよう求めている。しかし、本院が検査を開始した24年11月時点において、平成21年度第1次補正予算により設置造成された46基金のうち、都道府県等に設置造成された基金を除く18基金を所管している6省(合同事業を含む。)の公表の実施状況についてみると、24年度執行分まで継続して公表を行っていたのは厚生労働省のみであった。
また、同連絡は、同連絡以前に設置造成された基金についても、これに準じた取組を行うこととしているが、平成21年度第1次補正予算により設けられた基金以外についてみると、このような取組を実施している所管府省はなかった。
前記(ア)及び(イ)のとおり、23年度に実施する予定となっていた基金基準による見直しを実施していなかったり、基金の執行状況等を公表していなかったりしている基金が多く見受けられたが、これらについては、基金事業の進捗状況、基金の執行状況等に合わせて、定期的に実施して、公表する必要があると認められる。
基金法人及び所管府省が基金の見直し等を実施するに当たっては、基金基準に定める基準によることとなるが、基準が遵守されていない事態、基準等の検討が必要な事態が見受けられた。
基金基準は、①既存の基金については、補助金交付要綱等の所要の改正を行い、基金基準に定める基準を盛り込むよう努めること、②新たに基金を設置造成する場合については、所管府省は国庫補助金等を交付する際に補助金交付要綱等に基金基準に定める基準を明記することとしている。検査対象とした313基金のうち、既存152基金については、補助金交付要綱等に基金基準に基づき指導監督する旨の記載が明記されているものは108基金であり、約7割の基金について補助金交付要綱等の改正等により明記されていた。一方で、新規161基金のうち、23年度までに設置造成された121基金については、補助金交付要綱等にその旨の記載が明記されているものは約4割の50基金となっていた。
今後、新規に設置造成する基金については、国庫補助金等を交付する際に補助金交付要綱等に基金基準に定める基準を明記すること、今回の検査対象とした基金のうち、基金基準に定める基準が補助金交付要綱等に明記されていない基金については、基金法人と協議し、基金基準に定める基準を盛り込むよう努めるとともに、基金法人に対して基金基準の周知を図ることが必要であると認められる。
基金基準は、新たに基金を設置造成した場合、基金法人及び所管府省において、基金の基本的事項として、「基金の名称、基金額、基金のうち国庫補助金等相当額、基金事業の概要、基金事業を終了する時期、定期的な見直しの時期、基金事業の目標について、基金造成後速やかに公表すること」としている。しかし、20年度以降に設置造成された基金についてみると、本院が検査を開始した24年11月時点において、基金の設置造成後に基本的事項の公表を行っていた所管府省は、経済産業省のみであった。
新規に国庫補助金等の交付により基金を設置造成した場合に、設置造成した基金額、基金事業の概要等について公表することは、基金の透明性を確保するために必要であると認められる。
基金基準は、定期的な見直しの際に、基金事業の今後の見通し又はこれまでの実績からみて、基金の規模が過大となっていないかなどの状況を客観的に把握するため、基金事業に要する費用に対する基金保有額等の割合(以下「保有割合」という。)を算出し、使用見込みの低い基金についてはその取扱いを検討することとしている。そして、保有割合の算出に当たっては、運営形態及び使途の組合せにより例示された算出式を参考とし、「基金法人及び関係府省間で協議された合理的な事業見通し又は実績を用いて算出すること」としていて、当該算出に用いた算出式及び数値を公表することとしており、事業が完了するまでに必要となる補助額、事業費の見込額等を用いることなどとしている。
20年度の基金基準による見直しにおいて、保有割合を「1」以下としているものの中には、見込額の算出に過去の実績額等が反映されておらず、結果として、事業終了時に多額の基金を国庫へ返納しているものが見受けられた。
また、24年4月1日時点において基金保有額があった185基金を対象として、基金基準に準じて算出した24年4月1日時点の保有割合、その算出根拠等について調書を徴したところ、24年度中に基金を廃止したものなどを除く101基金のうち、保有割合の算出に当たり、単年度当たりの見込額に年数を乗ずるなどの算出式を用いているものが51基金、見込額の合計のみとなっているものが36基金、その他のものが14基金となっている。このうち、単年度当たりの見込額に年数を乗ずるなどの算出式を用いている51基金について、過去の単年度当たりの実績額と比較すると、9基金が過去の実績額の2倍以上を見込んでいる状況が見受けられた。また、見込額の合計のみを用いているものについては、見込額に関する説明を十分に行っているとはいえない状況となっていた。
前記のとおり、基金の保有割合の公表に併せて、保有割合の算出に用いた算出式及び数値は公表されているが、基金事業が完了するまでに必要となる見込額の数値については、単年度当たりの見込額をいくらとしているのか、何年度分の見込額であるのかなど、どのような積算によりその見込額が算出されたものかが示されておらず、合理的な事業見通し又は実績を用いて算出したものであるかどうかを判断することができない状況となっている。
基金基準による見直しの際の保有割合の算出において、合理的な事業見通し等を用いることは、基金の規模を適切に管理するために必要であると認められる。また、基金基準において、算出式及び数値を公表することは、次の見直し時期に事業見通しの的確性を検証することも目的となっており、見込額の算出方法についても公表する必要があると認められる。
基金基準は、後年度負担が発生する事業について、新規申請の受付が終了した時点で、基金法人は、直ちに国庫への返納等の検討に着手することとしており、受付を終了した年度以降も、毎年度、支払財源等として必要のない額を国庫へ返納するなど、基金の取扱いを検討して、当該検討結果を所管府省に報告し、基金法人及び所管府省はこれを公表することとしている。
24年4月1日時点において基金保有額があった185基金のうち、新規申請の受付が終了していて、後年度負担に係る事業のみを行っている基金は39基金である。これらの39基金はいずれも見直しの状況を公表していなかったが、毎年度見直しを実施して、使用見込みのない額を国庫へ返納している基金も見受けられる一方、見直しを実施していない基金もあった。
そこで、24年度中に新規申請の受付が終了して、後年度負担に係る事業のみを行っている基金も含めて、検査したところ、15基金において、基金法人が多額の使用見込みのない額(計500億円)を保有したままとなっている事態が見受けられた(このうち、13基金に係る事態については前掲本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項 4か所参照 1 2 3 4 )。
この使用見込みのない額は、後年度負担に係る事業を行うために必要となる額を超えるものであり、以後の基金事業において必要とされることはない額であることから、新規申請の受付が終了した時点及び受付が終了した年度以降の毎年度において、基金に使用見込みのない額がないかの見直しを実施する必要があり、その見直しの結果、支払財源等として必要のない額がある場合は、早急に国庫へ返納する必要があると認められる。
基金基準は、一つの基金において複数の基金事業を実施している場合、保有割合の算出に当たっては基金事業ごとの保有割合を算出することなどとしていて、基金事業ごとにその状況を公表することとしている。
しかし、20年度の基金基準に基づく公表資料をみると、一つの基金として保有割合が算出されていたものの中に、実際には、別々の国庫補助金等により設置造成されるなどしていて、一つの基金の中に区分経理された複数の基金事業がある基金が見受けられた。基金基準に定められているように、保有割合を算出するに当たっては、基金事業ごとに算出しなければ適切な保有割合を求めることはできないものであることから、基金事業ごとに算出して公表する必要があると認められる。
また、25年3月31日時点において基金保有額がある債務保証事業又は貸付事業を行っている25基金のうち、5基金は、債務保証事業等を実施していると同時に、基金を運用元本とする運用収入等により、調査等事業等を実施している。調査等事業等を実施できることは補助金交付要綱等に規定されているところであるが、基金法人の自己財源による事業と明確に区分して経理がなされていないものも見受けられた。しかし、これらの運用収入等による事業についても、基金により行っている事業として、基金法人の自己財源による事業とは明確に区分して管理される必要があると認められる。さらに、これらの基金の運用収入等による事業は、基金基準による見直しにおいて、公表の対象とされていなかったが、基金による事業として公表する必要があると認められる。
基金基準は、定期的な見直しについて、「少なくとも5年に1回」としているが、20年度以降に設置造成された基金の事業期間についてみると、緊急経済対策等を目的としていることなどから、3年以内(設置造成した年度を除く。)と短く設定している基金が多い。そして、基金の中には、事業終了時に多額の基金を国庫へ返納しているものも見受けられる。
現在の基準では5年に1回の見直しを実施すればよいこととなっているが、上記のことを考慮すると、事業期間中に一度も見直しが行われなかったり、使用見込みの低い基金があっても次回の見直しまで国庫返納の検討が行われなかったりなどすることが想定される。したがって、年度末時点における基金事業の進捗状況、基金の執行状況等を踏まえ、毎年度の見直しを実施し、公表することが必要であると考えられる。
基金基準に基づく見直しの状況を公表する資料には、基金の収入・支出や事業実績を公表する項目が設定されていない。そのため、所管府省が基金法人に国庫補助金等を交付して、基金を設置造成した以降、基金法人が実施する基金事業に係る収入・支出及び事業実績を公表する機会はほとんどなく、基金の透明性が確保されていない状況となっている。しかし、基金が適切に執行され、効率的な運営が行われるためにも、基金の収入・支出及び事業実績を公表して、透明性を確保することが必要であると考えられる。
また、事業実績を公表することは、基金基準による見直しにおける保有割合の算出に当たって用いられた基金事業が完了するまでに必要となる見込額等が適正な額となっているかを判断する材料の一つにもなるものであり、その観点からも事業実績の公表が必要であると考えられる。
基金基準は、定期的な見直しの際に、使用見込みの低い基金として、国庫へ返納するなど、その基金の取扱いを検討する基準の一つとして、算出した保有割合が「1」を大幅に上回っている基金としており、大幅に上回ると判断するための数値等の基準が定められておらず、曖昧な基準となっている。20年度の基金基準による見直しを実施した127基金のうち、保有割合を算出していないものなどの14基金を除く113基金の公表資料をみると、算出した保有割合が「1」を超えている30基金のうち、使用見込みの低い基金として、その基金の取扱いを検討したものは15基金であり、このうち、保有割合が「1」を大幅に上回っている基金に該当することから基金の取扱いを検討し、使用見込みのない額を国庫へ返納したものは5基金のみであった。
しかし、保有割合は、基金事業が完了するまでに必要となる補助額、事業費の見込額等を用いて算出しており、「1」を超える分に相当する額については、基金事業が見込みのとおりに執行されれば使用されることのない額であり、使用見込みの低い額に当たるものと考えられる。したがって、算出した保有割合が「1」を超えている全ての基金については、使用見込みの低い基金として、その基金の取扱いを検討することとすべきであると考えられる。
基金基準は、基金を廃止した際の状況の公表について、特に定めておらず、基金基準による見直しの際に、既に廃止した基金については公表の対象となっていない。しかし、基金廃止時において、基金を廃止した理由、廃止時における基金保有額の国庫等への返納の状況、基金事業の継続の有無、基金事業の目標達成度の評価等を公表することは、基金の透明性を確保する上で必要であると考えられる。
基金基準による見直しは23年度に行うこととなっていたが、見直しを実施したのは経済産業省のみとなっていて、見直しを実施していなかった所管府省の多くは、その理由として内閣官房の行政改革推進本部事務局から作業の依頼がなかったことを挙げている。
基金基準による見直しについては、各々の基金法人及び所管府省において行われるべきものであり、依頼がなくとも所管府省ごとに基金の見直しが行われるような体制を整備することが必要であると考えられる。
政府は、25年4月に、「行政事業レビューの実施等について」において、毎年、行政事業レビューを実施することにより、各府省自らが、事業に係る予算の執行状況等について見直しを行い、公表することなどを閣議決定しており、この中で、基金についても執行状況等を分かりやすい形で毎年公表することとしている。
内閣官房の行政改革推進本部事務局が作成した「平成25年基金シート」の様式は、事業概要、収入・事業費等の額、保有割合等を記載することとなっており、この様式に従い、各府省は7月末以降、ホームページで基金シートを公表している。また、内閣官房は、26年度以降の基金シートの様式について、公表内容等が十分なものとなっているかなどについて検討するとしている。
国は、単年度では完結しない特定の目的を持つ事業の財源となる基金を設置造成するため、毎年度、多額の国庫補助金等を交付しており、今後も、多額の国庫補助金等が交付されることが想定される。
所管府省、基金法人等において、基金保有額の状況、基金の設置造成の状況、国庫への返納の状況、基金の見直しの状況等について検査したところ、次のような事態が見受けられた。
20年4月1日時点の基金数は152基金であったが、20年度から24年度までに161基金が新規に設置造成される一方、同期間に125基金が廃止されており、25年3月31日時点の基金数は188基金となっている。そして、20年度から24年度までに、基金の設置造成のために交付された国庫補助金等の合計は5兆5016億円と多額に上っており、25年3月31日時点における基金保有額の合計2兆6155億円(うち国庫補助金等相当額2兆5424億円)は、20年4月1日時点における合計1兆0592億円を大きく上回っている。また、事業期間の終了等により、同期間に基金から国庫へ返納された額も1兆0515億円と多額に上っている。この基金から国庫へ返納された額の中には、基金の見直しを適時適切に実施していれば、返納時期を繰り上げて早期に国庫へ返納することができた事態等が見受けられた。
18、20両年度に行われた基金基準による見直し、さらに、21年11月の事業仕分け等により、国庫補助金等により設置造成された基金に対する見直しが実施され、使用見込みのない額が国庫へ返納されるなどしている。その後、23年度に実施する予定となっていた基金基準による見直し及び「平成21年度補正予算において設けられた基金等の執行状況等の公表について(連絡)」による基金の執行状況等の公表を、ほとんどの基金法人及び所管府省が実施していない事態が見受けられた。このことなどのため、一部の基金において、使用見込みのない額が基金法人に滞留している事態等が見受けられた。
基金基準は、基金事業を実施するに当たって、所管府省が基金法人に対する指導監督を行う場合の基準となるものであるが、一部の基金について、基金基準により基金に対する指導監督を行う旨が補助金交付要綱等に明記されていない事態が見受けられた。また、基金基準に定める基準に基づいて実施する基本的事項の公表、保有割合の算出における事業見通しの算出、新規申請の受付が終了した事業の見直し及び基金事業が複数ある場合の公表が適切に実施されていない事態が見受けられた。
基金基準による見直しの頻度、収入・支出及び事業実績の公表、使用見込みの低い基金の取扱いの検討、基金廃止時の状況の公表等について、基金基準の目的を達成するためには、基金基準に定める基準等の検討が必要と認められる事態等が見受けられた。
また、25年度以降は、内閣官房の行政改革推進本部事務局が作成する基金シートの様式に従って、所管府省が基金シートを作成し、基金の執行状況、保有割合等を毎年公表することとなっている。
基金基準による定期的な見直しや新規申請の受付が終了した基金の見直しを実施していないことなどから、使用見込みのない額が基金法人に滞留しているなどの国庫への返納等を検討すべき事態がある基金が見受けられた。
以上のような状況を踏まえて、内閣官房、所管府省及び基金法人においては、次の点について留意して、基金が適切かつ有効に執行されるよう努める必要がある。
本院としては、基金法人の基金保有額は依然として多額であり、今後も基金の設置造成のために多額の国庫補助金等が交付されることが想定されることから、基金の見直しの実施状況、基金事業の実施状況等について、引き続き多角的な観点から検査していくこととする。