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  • 平成25年10月 |
  • 公共土木施設等における地震・津波対策の実施状況等に関する会計検査の結果について |
  • 第2  検査の結果

2 地震・津波対策に係る整備、補強等の進捗状況


(1) 地震・津波対策に係る公共土木施設等の整備状況

防災には、災害に対する予防、応急、復旧等の各段階があり、それぞれの段階において最善の対策を執ることが被災の軽減につながることになる。

そして、主として災害予防対策に資する河川、海岸、砂防、下水道、治山、農業農村整備、集落排水各事業に係る公共土木施設等は、堤防の背後地等における人命、財産、ライフライン機能等の安全性を確保するために重要な施設である。また、主として災害に対する応急復旧活動に資する道路整備、港湾整備、公園、漁港整備各事業に係る公共土木施設等は、災害発生直後から必要となる救助、救急活動等、被災者への緊急物資の供給を行うための交通の確保、安全な避難場所等の確保等のために重要な施設である。

また、これらを踏まえた施設の整備に当たっては、施設の安全性及び機能の代替性の確保並びに施設間の連携の強化による地域としての耐震性の確保に努めるとともに、施設整備だけでは災害を防ぐことが困難な場合もあることから、ソフト対策と連携した対策を講ずることが重要である。そして、ソフト対策には、地震又は津波が発生した場合に、住民が安全な場所に避難できるように危険箇所を住民に周知するためのハザードマップの作成、避難場所の案内標示の設置、住民の意識啓発のための防災訓練の実施等がある。

11事業により整備した公共土木施設等は、前記のとおり、地震又は津波が発生した場合に、災害予防対策に資する施設として、あるいは災害に対する応急復旧活動に資する施設として、それぞれの施設が有効に機能することが重要であり、また、施設整備を実施するだけではなくソフト対策を実施することにより、その機能がより充実することになる。

そして、24年報告では、4地方整備局等、3農政局及び3森林管理局並びに、近年、切迫性が指摘されている東海地震又は東南海・南海地震による被災が大きいと想定されている都府県を含む15都道府県における24年3月末現在の各事業の公共土木施設等の地震・津波対策に係る整備、補強等の進捗状況について記述した。

そこで、25年次は、5地方整備局等(注18)、4農政局(注19)及び4森林管理局(注20)並びに28道府県(注21)が実施している各事業において、24年次と同様に前記の機能に留意して24年12月末現在の地震・津波対策に係る整備、補強等の進捗状況についてみたところ、主な検査の結果は、図表-整備1のとおりとなっており 、24年報告の検査の結果と同様に、ライフライン機能等の安全性を損なうような事態や、災害発生直後から必要な救助、救急活動等に支障が生ずるおそれのある事態が見受けられた。

(注18)
5地方整備局等  北陸、中部、中国、九州各地方整備局、沖縄総合事務局
(注19)
4農政局  関東、北陸、中国四国、九州各農政局
(注20)
4森林管理局  関東、中部、四国、九州各森林管理局
(注21)
28道府県  北海道(後志総合、渡島総合、檜山、上川総合、留萌、宗谷総合、オホーツク総合、根室各振興局管内)、京都府、秋田、山形、栃木、群馬、埼玉、新潟、富山、石川、福井、山梨、長野、岐阜、三重、滋賀、奈良、和歌山、鳥取、島根、山口、香川、福岡、佐賀、長崎、熊本、鹿児島、沖縄各県

なお、5地方整備局等、4農政局及び4森林管理局並びに28道府県が実施している11事業の整備事業費の18年度から23年度までの合計額は、直轄事業費5兆5750億余円、補助事業費11兆4190億余円(国庫補助金6兆0646億余円)、計16兆9940億余円となっており、そのうち地震・津波対策費は、直轄事業費1兆0874億余円、補助事業費1兆7842億余円(国庫補助金9351億余円)、計2兆8717億余円となっている(内訳は別表-事業参照))。

図表-整備1 地震・津波対策に係る整備、補強等の進捗状況の主な検査の結果

事業名 主な検査の結果
河川事業 ① 直轄事業においては、耐震性能照査により耐震対策工事が必要とされたランクAの河川堤防について、工事が完了している河川堤防はほとんどなかった。また、補助事業においては、河川堤防の照査等は、ほとんど実施されていないなどの状況となっていた(別表-河川1~4参照)。
②  河川津波遡上範囲に設置されている水門等の中に耐震性能照査等が実施されていない施設や自動化等されていない施設等があった(別表-河川5及び6参照)。
③ 直轄事業におけるランクAの水門等において、耐震性能照査等が完了していない水門等が見受けられた(別表-河川7参照)。
海岸事業 ① 海岸堤防の天端高等は東日本大震災以前の想定津波高と一概に比較できないが、想定津波高より低くなっている地区海岸が見受けられた(別表-海岸1参照)。
② 耐震点検や耐震対策工事が実施されていない海岸堤防が見受けられた(別表-海岸23及び5参照)。
③ 要求される耐震性能が確保されていない又は確保されているか不明な海岸堤防が見受けられた(別表-海岸4及び6参照)。
④ 耐震化が図られていない閉鎖施設が見受けられた(別表-海岸7参照)。
⑤ 津波到達時間内に閉鎖作業が完了できない又は津波到達時間内に閉鎖操作者が閉鎖作業を完了してから避難できない閉鎖施設が見受けられた(別表-海岸8参照)。
⑥ 海岸堤防の施設整備の内容や閉鎖施設の実態に合っていない施設条件等を用いて設定している津波浸水予測区域が見受けられた(別表-海岸9参照)。
⑦ 津波ハザードマップを作成していない市町村が見受けられた(別表-海岸10参照)。
⑧ 津波ハザードマップを作成しているものの必要な情報を記載していない市町村が見受けられた(別表-海岸11参照)。
砂防事業  避難場所が所在する土砂災害危険箇所における土砂災害防止施設の整備率は、約2割となっており、また、同土砂災害危険箇所における基礎調査は完了していないなどの状況となっていた(別表-砂防1~3参照)。
道路整備事業 ① 昭和55年の道路橋示方書より古い基準が適用されている橋りょうで耐震対策工事が実施されていない橋りょうのある緊急輸送道路及び避難路の路線等が見受けられた(別表-道路1~3、6及び7参照)。
② 地震発生時に被災のおそれのある道路盛土並びに切土法面及び斜面のある緊急輸送道路の路線が見受けられた(別表-道路4及び5参照)。
港湾整備事業 ① 防災拠点港湾として一体となって機能する耐震強化岸壁、広場及び臨港道路の所要の整備等が完了していないなどしていて受け持つべき緊急物資量に対して取扱能力が不足している港湾が見受けられた(別表-港湾1~3参照)。
② 想定される最大規模の地震直後から緊急物資輸送が可能な耐震強化岸壁が整備されていないなどの港湾が見受けられた(別表-港湾1参照)。
③ 津波による被害が想定される港湾について、津波ハザードマップ等が作成されていない港湾が見受けられるなどした(別表-港湾4及び5参照)。
下水道事業 ① 耐震化が図られていない重要な管路及び終末処理場の消毒施設等が見受けられた(別表-下水1~5参照)。
② 管路工事の液状化対策について、密度試験や所要の強度試験を行っておらず、施工管理が十分でない工事が見受けられた(別表-下水6参照)。
公園事業 ① 防災公園について、避難が可能な面積を算定し公表していなかった公園事業主体が見受けられた(別表-公園1参照)。
② 防災公園について、1人当たりの面積が基準の2㎡を下回っている公園事業主体が見受けられた(別表-公園2参照)。
③ 防災公園について、災害発生時における運営方法等を明確にしていない公園事業主体が見受けられるなどした(別表-公園3及び4参照)。

また、河川、海岸、道路整備、港湾整備、下水道、漁港整備、農業農村整備各事業により整備した施設のうち、主な施設については、耐震点検の要領等によりその方法が示されていたり、耐震点検を実施するよう通知が発せられていたりしている。

そこで、これら7事業で整備した施設等のうち、設計の際に適用した耐震基準が現行の耐震基準に比べて古いなどのため、耐震点検等を実施する必要がある施設等を対象に、耐震化の状況について、①耐震対策工事が必要であるが実施されていないもの、②耐震対策工事の必要性の有無が不明なもの、③耐震対策工事が実施済みのもの、④耐震対策工事が必要ないものなどに分類して整理したところ、図表-整備2のとおりとなっていた。

図表-整備2 7事業における主な施設の耐震化の状況

河川事業
海岸事業
道路整備事業1
道路整備事業2
道路整備事業3
下水道事業
漁港整備事業

 

(2) 国土交通省及び農林水産省における震災後の地震・津波対策の取組状況

ア 国土交通省における取組状況

国土交通省は、同省所管の河川、海岸、砂防、道路整備、港湾整備、下水道、公園各事業において、東日本大震災を踏まえて、①設計に用いる地震動の見直し、②設計津波の水位の設定の見直し、③津波の影響を考慮した設計方法の導入、④液状化対策の導入、⑤施設の管理体制の構築等を行い各種耐震基準等を改定するなどしているところである。

そして、24年報告の趣旨に沿い、河川事業においては耐震性能照査等における優先度の考え方、海岸事業においては津波発生時における閉鎖施設の管理体制の構築、道路整備事業においては緊急輸送道路ネットワークの適時適切な見直し、港湾整備事業においては耐震強化岸壁等の防災拠点港湾における施設の整備等の促進、下水道事業においては液状化対策工事の適切な施工管理等に関して地方公共団体等に通知を発し、また、各地方ブロック会議等において助言するなどして周知徹底を図っている。

イ 農林水産省における取組状況

農林水産省は、同省所管の治山、漁港整備、農業農村整備、集落排水各事業において、東日本大震災を踏まえて、防災上特に重要な施設等においては、 ①設計に用いる地震動の見直し、②施設の重要度を考慮した津波外力の見直し、③津波の影響を考慮した施設の耐水化対策等を行い各種耐震基準等を改定するなどしているところである。

そして、24年報告の趣旨に沿い、治山事業においては山地災害危険地区(注22)のデータの更新、被害想定区域内にある保全対象施設の再調査、山地災害危険地区の標識の設置等、漁港整備事業においては耐震強化岸壁等の防災拠点漁港における施設の整備等、農業農村整備、集落排水両事業においては施設の重要度の判定を行った上で特に重要度の高い農業用施設及び集落排水施設に対する耐震点検及び耐震整備の促進、ため池のハザードマップの作成、管路の液状化対策の徹底等に関して地方公共団体等に通知を発し、また、各地方ブロック会議等において助言するなどして周知徹底を図っている 。

なお、海岸事業については、農林水産省及び水産庁においても国土交通省と連携し同様な取組を行っている。

(注22)
山地災害危険地区  山腹の崩壊による災害が発生するおそれがある山腹崩壊危険地区、地すべりによる災害が発生するおそれがある地すべり危険地区及び山腹崩壊又は地すべりによって発生した土砂又は火山噴出物が土石流等となって流出し、災害が発生するおそれがある崩壊土砂流出危険地区を合わせた地区をいう。