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  • 国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)
  • 会計検査院法第30条の3の規定に基づく報告書
  • 平成27年3月

東日本大震災からの復興等に対する事業の実施状況等に関する会計検査の結果について

第2 検査の結果

2 復興等の各種施策及び支援事業の実施状況

(1) 東北3県における復旧・復興事業の実施状況

ウ 市街地・居住地復興のための各種制度の活用、事業の実施状況等

国は、前記のとおり、復旧・復興に向けて東日本大震災関係経費を措置するとともに、各事業を円滑に実施するための各種制度を整備している。復興基本方針等においては、復興期間を10年とし、そのうち当初の5年間を「集中復興期間」と位置付けるとともに、被災者及び被災した地方公共団体の意向等を踏まえつつ、各府省一体となって、被災地域の復旧・復興及び被災者の暮らしの再生のための施策等を実施し、集中復興期間に実施する復興支援として、復興特別区域制度や使い勝手のよい交付金を創設して、地方公共団体主体の復興を支援するとされている。

そこで、これらの制度はどのように活用されているか、特に津波により壊滅的な被害を受けた東北3県の沿岸部の市町村においては、26年9月末現在で約8万人がいまだ応急仮設住宅に入居しており、長期間の不自由な避難生活を余儀なくされていることから、復興交付金による防災集団移転促進事業等の面的整備の進捗状況はどのようになっているかなどに着眼して検査するとともに、住宅再建支援の状況、生活再建支援の状況等について分析した。

(ア) 復興特別区域制度の活用状況

東日本大震災は、未曽有の被害を各地域にもたらしており、被災の状況や復興の方向性は各地域により様々である。そして、これらの地域において復興を加速させるために、規制・手続の特例等の措置や経済的支援等に関する被災地からの提案を一元的かつ迅速に実現する復興特別区域制度が創設された。

この制度は、特定被災自治体が、復興の円滑かつ迅速な推進のために活用できる特例を選び取れる仕組みとなっていて、各特例に応じて復興推進計画、復興整備計画、復興交付金事業計画をそれぞれ作成できるようになっている(復興特別区域制度の概要は、24年報告リンク25年報告リンク参照)。

そこで、東日本大震災の発生以降、この制度により作成された各計画は、特定被災自治体のうち東北3県及び管内の市町村によって復興にどのように活用されたかをみると、次のとおりである。

a 復興推進計画の認定及び実施の状況等

復興推進計画は、県、市町村が単独で又は共同して作成し、内閣総理大臣の認定を受けることにより、住宅、産業、まちづくり、医療・福祉等の各分野にわたる「規制・手続に関する特例」や、雇用の創出等を支援する「税制上及び金融上の特例」等、特区法等において規定されている20の特例(25年12月19日以前は21の特例)の適用を受けることができることとされているものである(復興推進計画制度の概要は、24年報告リンク25年報告リンク参照)。

また、復興庁は、特定被災自治体の要望を踏まえて復興推進計画の特例の内容を適宜見直しており、26年4月には税制上の特例のうち、事業者が取得した事業用設備等に係る即時償却の適用期限を2年間延長するなどしている。

東北3県及び管内の市町村が単独で又は共同して作成した復興推進計画をみると、表34のとおり、26年9月末までに、東北3県及び101市町村において作成された計96計画が認定を受けている。そして、これらの計画の認定により、前記21の特例のうち14の特例の適用を受けることができるようになり、その延べ件数は103件、対象区域は延べ826市町村に達している(認定された復興推進計画の概要及び認定区域とされた市町村の詳細は、別表8参照)。

表34 復興推進計画の認定状況(平成26年9月末現在)

県名 復興推進計画を作
成している県及び
市町村数
認定された復興
推進計画数
左に記載された特例数
(件数は延べ数)
左の特例の対象区域と
された延べ市町村数
岩手県 県及び 7市町 16 9特例に係る 18件 177
宮城県 県及び 35市町村 36 14特例に係る 41件 290
福島県 県及び 59市町村 44 7特例に係る 44件 359
3県及び 101市町村 96 14特例に係る 103件 826

上記の14の特例についてみると、表35のとおり、(12)「確定拠出年金に係る脱退一時金の特例」、(15)「医療機器製造販売業等の許可基準の緩和」及び(16)「医療機関・介護施設等に係る基準等の特例」は、東北3県全域の市町村が対象区域とされたこと、さらに、(6)「公営住宅等の整備に係る入居者資格要件等の特例」及び(18)「復興産業集積関係の課税の特例等」(以下「課税の特例」という。)は、複数の復興推進計画で適用を認定されたことから、対象区域とされた延べ市町村数が多くなっている。

一方、(5)「バス路線の新設・変更等に係る手続の特例」、(11)「鉄道ルートの変更に係る手続の特例」等、7の特例については適用がなく、(10)「他の水利利用に従属する小水力発電に関する河川法等の手続の簡素化」については、河川法(昭和39年法律第167号)が改正されたことにより25年12月に廃止された。

表35 東北3県の特例別・年度別の復興推進計画の認定件数及び対象区域とされた市町村 数(平成26年9月末現在)

(上段:適用された特例の件数(延べ数)下段:特例の対象区域とされた市町村数(延べ数))

  特例 平成23年度 24年度 25年度 26年度
番号 特例内容 分類










(1) 漁業権の免許に関する特別の措置(法14条関係) 産業の活性化 - - 1 - 1
- - 1 - 1
(2) 建築基準法における用途制限に係る特例(法15条関係) まちづくり - 3 1 1 5
- 3 1 1 5
(3) 特別用途地区における建築物整備に係る手続の簡素化(法16条関係) まちづくり - - - - -
- - - - -
(4) 応急仮設店舗・工場等の存続可能期間の延長の特例(法17条関係) 産業の活性化 - 1 6 - 7
- 1 47 2 50
(5) バス路線の新設・変更等に係る手続の特例(法18条関係) まちづくり - - - - -
- - - - -
(6) 公営住宅等の整備に係る入居者資格要件等の特例(法19~21条関係) 住宅の確保 - - 3 - 3
- - 106 - 106
(7) 公営住宅の処分等の手続に係る特例(法22条関係) 住宅の確保 - - - - -
- - - - -
(8) 食料供給等施設の整備に係る特例(法23~27条関係) 産業の活性化 1 - - - 1
1 - - - 1
(9) 工場立地法及び企業立地促進法における緑地規制の特例(法28条関係) 産業の活性化 1 - - - 1
30 - - - 30
(10) 他の水利利用に従属する小水力発電に関する河川法等の手続の簡素化(法29~32条関係) - - - 25年12月に廃止 -
- - - -
(11) 鉄道ルートの変更に係る手続の特例(法33条関係) まちづくり - - - - -
- - - - -
(12) 確定拠出年金に係る脱退一時金の特例(法34条関係) 医療・福祉等 - 2 1 - 3
- 94 33 - 127
(13) 財産の処分の制限に係る承認の手続の特例(法45条関係) その他 - - - - -
- - - - -
(14) 都市公園の占用に関する制限緩和(法35条関係) 産業の活性化 - - - - -
- - - - -
(15) 医療機器製造販売業等の許可基準の緩和(法35条関係) 医療・福祉等 2 1 - - 3
92 35 - - 127
(16) 医療機関・介護施設等に係る基準等の特例(法35条関係) 医療・福祉等 1 2 - - 3
33 94 - - 127
(17) 仮設薬局等の構造設備基準の特例(法35条関係) 医療・福祉等 1 1 - - 2
12 17 - - 29
計(A) 6 10 12 1 29
168 244 188 3 603










(18) 復興産業集積関係の課税の特例等(法37~40条、法43条) 5 9 3 - 17
70 93 3 - 166
(19) 復興居住区域における被災者向け優良賃貸住宅の特別償却・税額控除(法41条関係) - 1 - - 1
- 1 - - 1
(20) 復興特別区域において地域の課題の解決のための事業を行う株式会社に対する出資に係る所得控除(法42条関係) 1 - - - 1
1 - - - 1
(21) 復興特区支援貸付事業を行う金融機関に対する復興特区支援利子補給金の支給(法44条関係) 1 16 29 9 55
1 16 29 9 55
計(B) 7 26 32 9 74
72 110 32 9 223
合計(A+B) 13 36 44 10 103
240 354 220 12 826
注(1)
「法」はいずれも特区法を指す。
注(2)
分類は、東日本大震災復興特別区域法資料(2014年5月 復興庁作成)に基づくものである。
注(3)
「他の水利利用に従属する小水力発電に関する河川法等の手続の簡素化」の特例は、河川法が改正されたことにより平成25年12月に廃止された。

東北3県及び管内の市町村では時間の経過に伴って適用を必要とする特例の内容が変化してきていることから、前記の「規制・手続に関する特例」及び「税制上及び金融上の特例」に分類して集計及び分析を行った。

規制・手続に関する特例は、その内容に応じて「住宅の確保」、「まちづくり」、「産業の活性化」及び「医療・福祉等」に係る17の特例の適用を受けることができることとなっており、表35及び図21のとおり、復興特別区域制度が創設された直後の時期は、震災により多くの医療機関が被害を受けたことから「医療・福祉等」に係る特例が多く適用され、「産業の活性化」に係る特例として、(9)「工場立地法及び企業立地促進法における緑地規制の特例」等が適用されている。

その後、25年度には、東日本大震災発生後に応急仮設建築物として建設された店舗等の建築基準法(昭和25年法律第201号)に定める存続期間(最長2年3か月)を延長する(4)「応急仮設店舗・工場等の存続可能期間の延長の特例」の適用件数が増加し、25年度第2四半期からは災害公営住宅の完成と入居に向けて(6)「公営住宅等の整備に係る入居者資格要件等の特例」の「住宅の確保」に係る特例の適用が増加している。

図21 規制・手続に関する特例に係る分類別適用累計件数の推移(平成26年9月末まで)

図21 規制・手続に関する特例に係る分類別適用累計件数の推移(平成26年9月末まで) 画像

次に、税制上及び金融上の特例に係る4の特例についても、時間の経過に伴い適用された特例の累計件数がどのように推移したかをみたところ、図22のとおり、23、24両年度は、(18)「課税の特例」が多く適用されており、24年度以降は、復興に伴い、特定被災自治体に立地する中核的な企業の設備投資等を支援することなどを目的とする(21)「復興特区支援貸付事業を行う金融機関に対する復興特区支援利子補給金の支給」(以下「支援利子補給金の支給の特例」という。)に係る特例が増加している。

図22 税制上及び金融上の特例に係る特例別累計件数の推移(平成26年9月末まで)

図22 税制上及び金融上の特例に係る特例別累計件数の推移(平成26年9月末まで) 画像

前記のとおり、税制上及び金融上の特例は雇用の創出等を支援するとされていることから、(18)「課税の特例」の適用による雇用の創出等について、県別に、復興推進計画を作成した市町村が指定した事業者数及び当該事業者が指定を希望する際に提出した事業計画書に記載された雇用予定者数を、24年度末及び25年度末でそれぞれ比較すると、図23のとおり、東北3県ともにそれぞれ増加していて、計約56,000人の雇用が創出される見込みとなっていた。

図23 課税の特例の指定を受けた事業者累計数及び雇用予定者累計数の比較

図23 課税の特例の指定を受けた事業者累計数及び雇用予定者累計数の比較 画像

同様に、(21)「支援利子補給金の支給の特例」についても、県別に、支援利子補給金を支給するために市町村が推薦する事業者数と当該事業者が市町村に提出した雇用予定者数を、24年度末及び25年度末でそれぞれ比較すると、図24のとおり、東北3県ともにそれぞれ増加していて、支援利子補給金の支給の特例が活用されていることがうかがえる。特に、福島県において推薦事業者数、雇用予定者数ともに突出しているのは、東日本大震災による被害のほか、福島第一原発の事故や風評被害による地域経済への影響が大きいことから、市町村が積極的に地域の中核的な企業を支援して雇用機会の確保・創出を図り地域経済を活性化させるために、本制度を活用したことなどによると考えられる。

図24 支援利子補給金の支給の特例の推薦を受けた事業者累計数及び雇用予定者累計数の比較

図24 支援利子補給金の支給の特例の推薦を受けた事業者累計数及び雇用予定者累計数の比較 画像

b 復興整備計画の適用状況

復興整備計画は、市町村が一つの計画の下で、復興に向けたまちづくり・地域づくりを円滑かつ迅速に進めていくために、市街地の整備や農業生産基盤の整備等の各種事業を対象に、都市計画法(昭和43年法律第100号)、農地法(昭和27年法律第229号)等の個別法による許認可等の各種手続を一括して処理するとともに、集落単位での住居の集団移転等、必要な各種の特例を適用するものとして創設された。

そして、復興整備計画は、市町村が単独で又は県と共同して作成し、復興整備協議会での協議を経るなどして、事業に必要な特例が適用される(復興整備計画の概要は、24年報告21ページ25年報告106、107ページ参照)。

 復興整備計画に記載する復興整備事業としては、特区法において14事業(25年4月30日以前は13事業)が定められている。

東北3県における復興整備計画の作成状況をみると、表36のとおり、管内の32市町村が県と共同して復興整備計画を作成していて、14事業のうち6事業が復興整備計画に記載されている(市町村別の状況は、別表9参照)。

表36 東北3県における復興整備計画の作成及び復興整備事業の活用状況(平成26年9月末 現在)

県名 復興整備
計画を作
成してい
る市町村
復興整備事業( 14事業)に係る地区等数(延べ数) 地区等数計(延べ数)
市街地
開発事
土地改
良事業
復興一
体事業
集団移
転促進
事業
住宅地
区改良
事業
都市施
設の整
備に関
する事
小規模
団地住
宅施設
整備事
津波防
護施設
の整備
に関す
る事業
漁港漁
場整備
事業
保安施
設事業
液状化
対策事
造成宅
地滑動
崩落対
策事業
地籍調
査事業
その他
施設の
整備に
関する
事業
岩手県 10市町村 21 2 - 43 - 71 - - - - - - - 62 199
宮城県 14市町 27 2 - 192 - 47 - - - - - - - 111 379
福島県 8市町村 7 11 - 51 - 70 - - - - - 1 - 50 190
32市町村 55 15 - 286 - 188 - - - - - 1 - 223 768
(注)
上記の復興整備事業のうち「小規模団地住宅施設整備事業」は、特区法改正により平成26年5月から追加された。

上記6事業の内訳をみると、土地区画整理事業等を行う「市街地開発事業」、被災した地区から別の地区に住宅を移転する「集団移転促進事業」、道路整備等を含む「都市施設の整備に関する事業」及び災害公営住宅の整備等を含む「その他施設の整備に関する事業」の4事業に係る地区等数の合計が大部分を占めていて、住宅整備を含む事業とこれに関連する事業が中心となっている。

そこで、上記の4事業について、復興整備計画に記載された時期を四半期別にみると、図25のとおり、集団移転促進事業は24年度第2四半期に集中しており、ほとんどの地区が24年度中に記載されていた。また、市街地開発事業、都市施設の整備に関する事業及びその他施設の整備に関する事業についても、多くが24年度中に復興整備計画に記載されていた。

これは、津波の被害等により土地の利用状況が相当程度変化した地域等を含む市町村が、生活の基盤となる住宅の再建を最優先としていることから早期に復興整備計画に記載することで各種の特例を受けることができるようにしたことによると考えられる。

図25 住宅整備に関連する事業に係る復興整備事業の四半期別活用状況(平成26年9月末現在)

図25 住宅整備に関連する事業に係る復興整備事業の四半期別活用状況(平成26年9月末現在) 画像

住宅整備等の事業の実施に当たっては、復興整備計画を使うことにより、必要となる様々な許認可等の各種手続を法令等で定められた権限者ごとに申請することなく、さらに、復興整備協議会の協議・同意を経て復興整備計画を公表することにより、ワンストップ処理することが可能となる。

これらの許認可等には、農地法の農地転用の許可、都市計画法の開発許可、集団移転促進事業計画の大臣同意みなしなどがあるが、東北3県におけるそれぞれの許認可等は、次のとおりとなっている。

① 農地法によれば、農地を農地以外に利用する者は、農林水産大臣又は都道府県知事の許可を受けなければならないとされているが、復興整備協議会において農林水産大臣等が農地の転用について同意するなどした復興整備計画が公表されると、転用の許可があったものとみなされる。

そこで、26年7月までの東北3県における農林水産大臣による農地転用許可みなしの状況をみると、20市町(注7)の246地区において復興整備計画による許可みなしを受けていた。

(注7)
20市町 大船渡、陸前高田、釜石、仙台、石巻、気仙沼、名取、岩沼、東松島、いわき、相馬、南相馬各市、大槌、岩泉、亘理、山元、七ヶ浜、南三陸、広野、新地各町

② 都市計画法によれば、都市計画区域内又は都市計画区域外でそれぞれ一定規模以上の住宅整備等の開発行為をしようとする者は、あらかじめ都道府県知事の許可を受けなければならないとされているが、復興整備協議会の協議を経た復興整備計画が公表されると都道府県知事がこれらの開発行為の許可をしたものとみなされたことになる。

そこで、26年8月までの東北3県における開発許可みなしの状況をみると、16市町(注8)の152地区において復興整備計画に基づく許可みなしを受けていた。

(注8)
16市町 仙台、石巻、塩竈、気仙沼、名取、岩沼、東松島、いわき、相馬各市、亘理、七ヶ浜、利府、女川、南三陸、楢葉、新地各町

このように、農地法による農地転用の許可や都市計画法による開発許可等を受けるには、それぞれの法律に基づく手続を経る必要があることから、相当程度の時間が必要になるが、復興整備計画を作成することにより、これらの土地利用に関する許可等を復興整備協議会において一括して協議し、同意を受けることができることから、特に津波による大きな被害を受けた市町村では、生活の基盤となる住宅の再建が早期に求められる中、防災集団移転促進事業等の面的整備の準備段階で必要な土地利用に係る許可等を受けるために、復興整備計画を積極的に活用している状況が見受けられた。

c 復興交付金事業計画に基づく復興交付金の交付状況等

復興交付金事業計画は、相当数の住宅、公共施設その他の施設の滅失又は損壊等の著しい被害を受けた地域の市町村が単独で又は市町村と県が共同して作成する計画であり、市町村において実施される事業を記載した復興交付金事業計画を市町村ごとに作成して、復興庁に提出することにより、予算の範囲内で事業の実施に要する経費に充てるための復興交付金の交付を受けることができるものである(復興交付金事業計画の概要は、24年報告21、22ページ25年報告109、110ページ参照)。

そして、復興交付金を受けた市町村又は県は、基金を造成し、復興交付金事業計画の計画期間内にこれを取り崩して復興交付金事業を実施するなどしている。

東北3県の全127市町村は、特区法に基づき、市町村が単独で又は県と共同して復興交付金事業計画を作成できることとなっていることから、同計画の作成状況はどのようになっているか、特に津波により被害が大きかった沿岸部の市町村の作成状況はどのようになっているかなどをみると、図26-1のとおり、沿岸部の全37市町村(127市町村の29.1%)及び内陸部の42市町村、計79市町村(同62.2%)が復興交付金事業計画を作成し、復興庁に提出していた。

福島県では、一部の市町村が福島第一原発の事故に伴い避難指示区域の指定を受けていることから、岩手県及び宮城県における復興交付金事業計画の作成状況をみると、図26-2のとおり、沿岸部の全27市町村(両県の全68市町村の39.7%)及び内陸部の11市町村、計38市町村(同55.8%)が同計画を作成し、復興庁に提出していた。

図26 復興交付金事業計画を作成し復興庁に提出している市町村の割合(第1回~第9回)

また、前記のとおり、復興庁は、26年9月末現在、9回にわたり復興交付金の交付可能額を市町村に通知しているが、復興交付金事業計画の提出が交付可能額通知の前提となることから、通知回別に復興交付金事業計画を提出している市町村数をみると、表37のとおり、福島県は内陸部の市町村で事業完了となるところが増えてきたことから、25、26両年度は減少している。

さらに、継続して復興交付金事業計画を提出している市町村数をみると、第1回から継続して復興交付金事業計画を提出している市町村は東北3県で23市町となっており、このうち22市町が沿岸部の市町村であった(別図2参照)。

このように復興交付金事業計画は、内陸部、沿岸部の市町村を問わず東日本大震災による被害を受けた市町村において作成されており、特に、沿岸部の市町村が継続して同計画を作成している。これは、津波により沿岸部が壊滅的な被害を受けたことから、復旧・復興に時間を要するとともに切れ目なく事業を実施する必要があるためと考えられる。

表37 復興交付金事業計画を復興庁に提出している県別・通知回別市町村数

県名 平成23年度 24年度 25年度 26年度
第1回 第2回 第3回 第4回 第5回 第6回 第7回 第8回 第9回
岩手 13 12 12 14 11 9 13 12 9
  うち管内の沿岸部12市町村 12 11 11 12 11 9 12 10 8
宮城県 22 20 17 19 20 17 19 17 13
  うち管内の沿岸部15市町 15 15 13 15 15 14 15 15 13
福島県 18 27 19 19 26 16 13 17 8
  うち管内の沿岸部10市町 6 6 8 7 10 7 7 10 5
東北3県計 53 59 48 52 57 42 45 46 30
  うち管内の沿岸部37市町村 33 32 32 34 36 30 34 35 26

次に、東北3県及び管内の市町村における基金の造成及び取崩しの状況をみると、表38のとおり、東北3県及び62市町村が復興交付金の交付を受けて基金を造成していて、基金造成額計1兆9657億余円のうち、23年度から25年度までの各年度実施分の復興交付金は1兆3235億余円、25年度末までの取崩額は5075億余円となっていて、取崩額の割合(以下「復興交付金基金事業執行率」という。)は38.3%となっていた(各県管内市町村別の状況は、別表10参照)。

表38 復興交付金による県別の基金造成額及び取崩額(平成25年度末現在)

県名 県及び市町村数 基金造成額計
(第1回~第8
回)
左のうち平成 23
年度から 25年度
までの各年度実
施分の復興交付
金 (A)
25年度末までの
取崩額 (B)
復興交付金基金
事業執行率 (B/A)
岩手県 県及び 13市町村 536,070 376,158 125,438 33.3
宮城県 県及び 22市町 1,175,592 760,632 308,444 40.5
福島県 県及び 27市町村 254,108 186,739 73,661 39.4
3県及び 62市町村 1,965,771 1,323,530 507,544 38.3

東北3県における復興交付金の基幹事業別の交付可能額をみると、前記のとおり、災害公営住宅整備事業等(事業番号D-4)、都市再生区画整理事業(同D-17)、防災集団移転促進事業(同D-23)等の住宅整備に係る事業が各県ともに過半を占めていて、これら各事業の事業主体は市町村等となっている(各県の交付可能額の詳細については、リンク参照)。そして、東北3県の各市町村等は、地域の被災の状況に応じて各事業を実施するために、交付可能額通知に基づいて復興交付金の交付を受けて、基金を造成している。

そこで、62市町村が事業主体となる事業について、沿岸部の市町村と内陸部の市町村における復興交付金の執行はどのようになっているかをみると、表39のとおり、62市町村の復興交付金に係る基金造成額は、計1兆6350億余円で、その内訳は、沿岸部で1兆6147億余円、内陸部で203億余円となっている。

表39 市町村事業に係る復興交付金の地域別・県別の基金造成額及び取崩額(平成25年度末現在)

地域別 県名 基金造成額計(第 1回
~第 8回)
左のうち平成 23年度
から 25年度までの各
年度実施分の復興交
付金 (A)
25年度末までの取
崩額 (B)
復興交付金基金
事業執行率
(B/A)
沿岸部 岩手県 425,708 302,868 98,304 32.4
宮城県 1,007,605 651,496 257,520 39.5
福島県 181,391 141,060 54,982 38.9
沿岸部計 (98.7)
1,614,705
(98.7)
1,095,424
(98.6)
410,808
37.5
内陸部 岩手県 9 7 4 59.4
宮城県 9,002 7,420 2,105 28.3
福島県 11,354 6,096 3,344 54.8
内陸部計 (1.2)
20,365
(1.2)
13,524
(1.3)
5,454
40.3
62市町村合計 1,635,071 1,108,949 416,262 37.5
(注)
表中の( )書きは、62市町村合計に対する割合である。

さらに、各県を沿岸部及び内陸部の地域別にみると、図27のとおり、基金造成額は岩手県内陸部の902万余円から宮城県沿岸部の1兆0076億余円と県や地域により大きな差が見受けられたが、基金造成額の内訳をみると、沿岸部と内陸部とを問わず、ほとんどの地域で23年度から25年度までの各年度実施分の復興交付金が、おおむね3分の2以上を占めている。このうち、宮城県沿岸部の15市町の基金造成額が他と比べて多額となっているのは、津波により甚大な被害を受けたこと、特に、市街地が壊滅的な被害を受けた市町が多く、浸水面積が広範囲にわたっていることなどから、災害公営住宅整備事業等(同D-4)、都市再生区画整理事業(同D-17)、防災集団移転促進事業(同D-23)等の住宅整備に係る事業を数多く実施していることによる。

また、62市町村の25年度末までの基金の取崩額は、表39のとおり、計4162億余円で、その内訳は、沿岸部で4108億余円、内陸部で54億余円となっており、取崩額についても沿岸部が98.6%と、そのほとんどを占めている。県別・地域別にみると、図28のとおり、岩手県内陸部の448万円から宮城県沿岸部の2575億余円と各県や地域により大きな差が見受けられる。

そして、復興交付金基金事業執行率は、表39のとおり、東北3県の沿岸部で37.5%、内陸部で40.3%となっていて、これを県別・地域別にみると、図28のとおり、沿岸部では、岩手県の32.4%から宮城県の39.5%であったのに対して、内陸部では、宮城県の28.3%から岩手県の59.4%となっていて、沿岸部の市町村に比べて大きな差が見受けられた。このうち、宮城県内陸部が28.3%となっているのは、市町村が、民間事業者が整備した災害公営住宅を買い取る方式を採用していて、基金の取崩しが災害公営住宅の完成後に行われることなどによるものである。

図27 市町村事業に係る復興交付金の県別・地域別の基金造成額(平成25年度末現在)

図27 市町村事業に係る復興交付金の県別・地域別の基金造成額(平成25年度末現在) 画像

図28 市町村事業に係る復興交付金の県別・地域別の基金取崩額(平成25年度末現在)

図28 市町村事業に係る復興交付金の県別・地域別の基金取崩額(平成25年度末現在) 画像

d まとめ

東北3県における復興特別区域制度による各計画の活用状況をみたところ、復興推進計画による特例は時間の経過に伴って必要とする特例の内容が変化していたり、また、沿岸部の市町村では復興交付金事業計画を提出することにより、復興に向けて多額の復興交付金事業を実施していたりなどしていた。

このように、被災した地方公共団体においては、住宅整備等をはじめとする復興に向けたまちづくり・地域づくりを推進するために、今後も復興特別区域制度を活用していくことが見込まれることから、国は、同制度がより一層活用されるよう、地方公共団体と十分な意見交換を行いつつ、情報提供、助言、その他必要な協力を行い、迅速かつ着実な復興の支援に努める必要がある。